特許第6954619号(P6954619)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人東京理科大学の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6954619
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】タンパク質分解誘導タグ及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/37 20060101AFI20211018BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20211018BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20211018BHJP
   C07D 403/12 20060101ALI20211018BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20211018BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20211018BHJP
   C12N 9/00 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   C12Q1/37
   A61K45/00
   A61P43/00 105
   A61P43/00 111
   C07D403/12
   G01N33/50 Z
   G01N33/15 Z
   C12N9/00
【請求項の数】23
【全頁数】108
(21)【出願番号】特願2017-525270(P2017-525270)
(86)(22)【出願日】2016年6月15日
(86)【国際出願番号】JP2016067852
(87)【国際公開番号】WO2016204197
(87)【国際公開日】20161222
【審査請求日】2019年4月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-123740(P2015-123740)
(32)【優先日】2015年6月19日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-78324(P2016-78324)
(32)【優先日】2016年4月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】宮本 悦子
(72)【発明者】
【氏名】小沢 正晃
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0115232(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/003281(WO,A2)
【文献】 国際公開第2013/106643(WO,A2)
【文献】 伊野部智由,プロテアソームによる蛋白質分解の分子機構,公益財団法人アステラス病態代謝研究会 平成24年度 第44回助成研究報告集,2012年,全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00
C12Q 1/37
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアソームに対して親和性を有し、且つ、プロテアソームによるタンパク質の分解を阻害しない分子であり、下記式(I)で表される構造を有するか、プロテアソーム阻害剤のプロテアソーム阻害活性を失活させた構造を有するか、又はプロテアソーム活性化剤の構造を有するタンパク質分解誘導タグ。
【化1】
(式(I)中、R及びRは、メトキシ基を示す。)
【請求項2】
ボロン酸型プロテアソーム阻害剤のボロニル基若しくはボロン酸エステル基を他の構造部分に置き換えた構造を有するか、アルデヒド型プロテアソーム阻害剤のホルミル基を他の構造部分に置き換えた構造を有するか、エポキシド型プロテアソーム阻害剤のエポキシ基を他の構造部分に置き換えた構造を有するか、共役スルホン型プロテアソーム阻害剤のアルキルスルホニルエテニル基若しくはアリールスルホニルエテニル基を他の構造部分に置き換えた構造を有するか、ハロアルキル型プロテアソーム阻害剤のハロゲノ基を他の構造部分に置き換えた構造を有するか、又はラクトン型プロテアソーム阻害剤の環状エステル基を他の構造部分に置き換えた構造を有する請求項に記載のタンパク質分解誘導タグ。
【請求項3】
下記のいずれかの式で表される構造を有する請求項に記載のタンパク質分解誘導タグ。
【表1】
【表2】
【請求項4】
分子量5000以下の候補分子の中から、プロテアソームに対して親和性を有し、且つ、プロテアソームによるタンパク質の分解を阻害しない分子を選抜する工程を含むタンパク質分解誘導タグのスクリーニング方法。
【請求項5】
タンパク質に結合する少なくとも1つのタンパク質結合分子とのコンジュゲートとして、又は単独で、細胞、組織、又は臓器を培養する培地に添加するか、プロテアソームを有する真核又は原核生物の生体に、経口的又は非経口的に投与して用いられるタンパク質分解誘導タグのスクリーニング方法であり、
候補分子の中から、プロテアソームに対して親和性を有し、且つ、プロテアソームによるタンパク質の分解を阻害しない分子を選抜する工程を含むタンパク質分解誘導タグのスクリーニング方法。
【請求項6】
候補分子(ただし、ポリユビキチン鎖及びユビキチン様ドメインを除く)の中から、プロテアソームに対して親和性を有し、且つ、プロテアソームによるタンパク質の分解を阻害しない分子を選抜する工程を含むタンパク質分解誘導タグのスクリーニング方法。
【請求項7】
プロテアソームに対して親和性を有し、且つ、プロテアソームによるタンパク質の分解を阻害しない分子量5000以下の分子であることを確認することを含むタンパク質分解誘導タグの設計方法。
【請求項8】
プロテアソームに対して親和性を有し、且つ、プロテアソームによるタンパク質の分解を阻害しない分子(ただし、ポリユビキチン鎖及びユビキチン様ドメインを除く)であることを確認することを含むタンパク質分解誘導タグの設計方法。
【請求項9】
プロテアソーム阻害活性が失活するようにプロテアソーム阻害剤の活性部位の構造を改変することを含むタンパク質分解誘導タグの設計方法。
【請求項10】
請求項〜請求項のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグを2種以上含むタンパク質分解誘導タグライブラリー。
【請求項11】
請求項〜請求項のいずれか1項に記載の少なくとも1つのタンパク質分解誘導タグと、タンパク質に結合する少なくとも1つのタンパク質結合分子とのコンジュゲートであるタンパク質分解誘導分子。
【請求項12】
プロテアソームに対して親和性を有し、且つ、プロテアソームによるタンパク質の分解を阻害しない分子である少なくとも1つのタンパク質分解誘導タグと、タンパク質に結合する少なくとも1つのタンパク質結合分子とをコンジュゲート化することを含むタンパク質分解誘導分子の設計方法。
【請求項13】
請求項11に記載のタンパク質分解誘導分子を2種以上含むタンパク質分解誘導分子ライブラリー。
【請求項14】
請求項〜請求項のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、又は請求項11に記載のタンパク質分解誘導分子を含む医薬組成物。
【請求項15】
請求項〜請求項のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、又は請求項11に記載のタンパク質分解誘導分子を用いて標的タンパク質の分解を誘導する工程を含む標的タンパク質の分解方法。
【請求項16】
請求項〜請求項のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、又は請求項11に記載のタンパク質分解誘導分子を用いて標的タンパク質の分解を誘導する工程を含む標的タンパク質の機能解析方法。
【請求項17】
請求項〜請求項のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、又は請求項11に記載のタンパク質分解誘導分子を用いてタンパク質の分解を誘導する工程と、
前記タンパク質分解誘導タグ又は前記タンパク質分解誘導分子によって分解が誘導されたタンパク質を同定する工程と、
を含む標的タンパク質の同定方法。
【請求項18】
請求項〜請求項のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、又は請求項11に記載のタンパク質分解誘導分子を用いて標的タンパク質の分解を誘導する工程と、
前記標的タンパク質以外の活性又は発現が変化したタンパク質を同定する工程と、
を含む標的タンパク質を介した経路分子の同定方法。
【請求項19】
請求項〜請求項のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、請求項10に記載のタンパク質分解誘導タグライブラリー、請求項11に記載のタンパク質分解誘導分子、又は請求項13に記載のタンパク質分解誘導分子ライブラリーを標的タンパク質が存在する系に供給し、前記標的タンパク質の分解を誘導するタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を選抜する工程を含むタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子のスクリーニング方法。
【請求項20】
前記標的タンパク質が疾患原因物質であり、前記標的タンパク質の分解を誘導するタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を疾患の予防又は治療成分候補として選抜する請求項19に記載のタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子のスクリーニング方法。
【請求項21】
請求項〜請求項のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、請求項10に記載のタンパク質分解誘導タグライブラリー、請求項11に記載のタンパク質分解誘導分子、又は請求項13に記載のタンパク質分解誘導分子ライブラリーを疾患モデル系に供給し、疾患の症状を改善させるタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を選抜する工程を含む疾患の予防又は治療成分候補のスクリーニング方法。
【請求項22】
請求項〜請求項のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、請求項10に記載のタンパク質分解誘導タグライブラリー、請求項11に記載のタンパク質分解誘導分子、又は請求項13に記載のタンパク質分解誘導分子ライブラリーを疾患モデル系に供給し、疾患の症状を悪化させるタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を抽出し、抽出されたタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子により分解が誘導されるタンパク質を選抜する工程を含む疾患の予防又は治療成分候補のスクリーニング方法。
【請求項23】
請求項〜請求項のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、請求項10に記載のタンパク質分解誘導タグライブラリー、請求項11に記載のタンパク質分解誘導分子、又は請求項13に記載のタンパク質分解誘導分子ライブラリーを疾患モデル系に供給し、疾患の症状を変化させるタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を抽出し、抽出されたタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子により分解が誘導されるタンパク質を選抜する工程を含む疾患関連タンパク質の特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タンパク質分解誘導タグ及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞、生体等における標的タンパク質の量(発現)をコントロールすることは、標的タンパク質の機能及び標的タンパク質が関与する生命現象を解析する上で非常に有用である。標的タンパク質が疾患の原因である場合には、標的タンパク質の量を減少させることで、疾患を予防又は治療することも可能になると考えられる。
【0003】
従来、標的タンパク質の量をDNAレベルで操作する技術として、標的タンパク質をコードする遺伝子を欠損させる遺伝子ノックアウト技術が知られている。また、標的タンパク質の量をRNAレベルで操作する技術として、siRNA(small interfering RNA)を用いて標的タンパク質のmRNAを分解するRNAi(RNA interference)技術が知られている。
しかし、遺伝子ノックアウト技術は、時間及びコストの問題に加え、生命倫理上の問題も生じ得る。また、遺伝子ノックアウト技術は、標的タンパク質の遺伝子自体を欠損させる技術であるため、医薬に応用することはできない。
一方、RNAi技術は、オフターゲット効果の問題があり、標的タンパク質の量を特異的にコントロールすることは困難である。また、RNAi技術は、siRNAのデリバリーが困難であり、医薬への応用には課題が多い。
【0004】
このような背景から、近年になり、標的タンパク質を細胞内で分解することにより、標的タンパク質の量をタンパク質レベルで操作する技術が注目されている。この技術は、標的タンパク質のユビキチン化を利用するユビキチン依存的な技術と、標的タンパク質のユビキチン化を利用しないユビキチン非依存的な技術とに大別される。
【0005】
ユビキチン依存的な技術としては、標的タンパク質に結合する分子とユビキチンリガーゼ(E3)に結合する分子とを連結した複合体を用いる技術が知られている(例えば、特開2013−056837号公報、米国特許第7208157号明細書、Itohらの論文(Itoh, Y. et al., "Development of target protein-selective degradation inducer for protein knockdown.", Bioorg. Med. Chem., 2011, 19, 3229-3241)、Demizuらの論文(Demizu, Y. et al., "Design and systhesis of estrogen receptor degradation inducer based on a protein knockdown strategy.", Bioorg. Med. Chem. Lett., 2012, 15, 1793-1796)、及びHinesらの論文(Hines, J. et al., "Posttranslational protein knockdown coupled to receptor tyrosine kinase activation with phosphoPROTACs.", Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 2013, 110(22), 8942-8947)を参照)。この技術は、上記複合体を介して標的タンパク質とユビキチンリガーゼとを結び付け、標的タンパク質を特異的にユビキチン化してプロテアソームによる分解へと導くものである。なお、上記複合体は、SNIPER(Specific and Nongenetic IAP-dependent Protein ERaser)、PROTAC(PROteolysis TArgeting Chimera)等と称されることもある。
【0006】
一方、ユビキチン非依存的な技術としては、標的タンパク質に結合する分子と疎水性のタグとを連結した複合体を用いる技術が知られている(例えば、国際公開第2012/003281号、Longらの論文(Long, M.J. et al., "Inhibitor mediated protein degradation.", Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)、及びNeklesaらの論文(Neklesa, T.K. et al., "Greasy tags for protein removal.", Nature, 2012, 487, 308-309)を参照)。この技術は、上記複合体と標的タンパク質とを結合させることにより、標的タンパク質が部分的にアンフォールディングした状態を模倣し、プロテアソームによる分解へと導くものと考えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、標的タンパク質に結合する分子とユビキチンリガーゼに結合する分子とを連結した複合体を用いる前述のユビキチン依存的な技術は、汎用性が低いという問題がある。すなわち、ユビキチンリガーゼは哺乳類では1000種類以上存在し、標的タンパク質の認識に重要な役割を果たしているため、標的タンパク質に合わせて複合体を設計する必要がある。
また、標的タンパク質に合わせて複合体を設計する必要があることから、標的タンパク質は既知でなければならず、例えば、分解されたタンパク質の中から標的タンパク質を同定するツールに応用することは困難である。
【0008】
一方、標的タンパク質に結合する分子と疎水性のタグとを連結した複合体を用いる前述のユビキチン非依存的な技術は、疎水性のタグに起因し、細胞膜透過性が低く、細胞毒性が高いという問題がある。
【0009】
本開示は、上記のような事情に鑑み、標的タンパク質の分解を誘導する新規なタンパク質分解誘導タグ及びその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しない分子であるタンパク質分解誘導タグ。
【0011】
<2> プロテアーゼ阻害剤のプロテアーゼ阻害活性を失活させた構造を有する<1>に記載のタンパク質分解誘導タグ。
【0012】
<3> 前記プロテアーゼがプロテアソームである<1>に記載のタンパク質分解誘導タグ。
【0013】
<4> プロテアソーム阻害剤のプロテアソーム阻害活性を失活させた構造を有する<3>に記載のタンパク質分解誘導タグ。
【0014】
<5> 前記プロテアソーム阻害活性が、カスパーゼ様活性、トリプシン様活性、及びキモトリプシン様活性から選ばれる少なくとも1種に対する阻害活性である<4>に記載のタンパク質分解誘導タグ。
【0015】
<6> 候補分子の中から、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しない分子を選抜する工程を含むタンパク質分解誘導タグのスクリーニング方法。
【0016】
<7> 前記プロテアーゼがプロテアソームである<6>に記載のタンパク質分解誘導タグのスクリーニング方法。
【0017】
<8> プロテアーゼ阻害剤の活性部位の構造を改変し、プロテアーゼ阻害活性を失活させる工程を含むタンパク質分解誘導タグの製造方法。
【0018】
<9> 候補分子の中から、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害する分子をプロテアーゼ阻害剤として選抜する工程を更に含む<8>に記載のタンパク質分解誘導タグの製造方法。
【0019】
<10> <1>〜<5>のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグを2種以上含むタンパク質分解誘導タグライブラリー。
【0020】
<11> <1>〜<5>のいずれか1項に記載の少なくとも1つのタンパク質分解誘導タグと、タンパク質に結合する少なくとも1つのタンパク質結合分子とのコンジュゲートであるタンパク質分解誘導分子。
【0021】
<12> <11>に記載のタンパク質分解誘導分子を2種以上含むタンパク質分解誘導分子ライブラリー。
【0022】
<13> <1>〜<5>のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、又は<11>に記載のタンパク質分解誘導分子を含む医薬組成物。
【0023】
<14> <1>〜<5>のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、又は<11>に記載のタンパク質分解誘導分子を用いて標的タンパク質の分解を誘導する工程を含む標的タンパク質の分解方法。
【0024】
<15> <1>〜<5>のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、又は<11>に記載のタンパク質分解誘導分子を用いて標的タンパク質の分解を誘導する工程を含む標的タンパク質の機能解析方法。
【0025】
<16> <1>〜<5>のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、又は<11>に記載のタンパク質分解誘導分子を用いてタンパク質の分解を誘導する工程と、
前記タンパク質分解誘導タグ又は前記タンパク質分解誘導分子によって分解が誘導されたタンパク質を同定する工程と、
を含む標的タンパク質の同定方法。
【0026】
<17> <1>〜<5>のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、又は<11>に記載のタンパク質分解誘導分子を用いて標的タンパク質の分解を誘導する工程と、
前記標的タンパク質以外の活性又は発現が変化したタンパク質を同定する工程と、
を含む標的タンパク質を介した経路分子の同定方法。
【0027】
<18> <1>〜<5>のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、<10>に記載のタンパク質分解誘導タグライブラリー、<11>に記載のタンパク質分解誘導分子、又は<12>に記載のタンパク質分解誘導分子ライブラリーを標的タンパク質が存在する系に供給し、前記標的タンパク質の分解を誘導するタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を選抜する工程を含むタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子のスクリーニング方法。
【0028】
<19> 前記標的タンパク質が疾患原因物質であり、前記標的タンパク質の分解を誘導するタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を疾患の予防又は治療成分候補として選抜する<18>に記載のタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子のスクリーニング方法。
【0029】
<20> <1>〜<5>のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、<10>に記載のタンパク質分解誘導タグライブラリー、<11>に記載のタンパク質分解誘導分子、又は<12>に記載のタンパク質分解誘導分子ライブラリーを疾患モデル系に供給し、疾患の症状を改善させるタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を選抜する工程を含む疾患の予防又は治療成分候補のスクリーニング方法。
【0030】
<21> <1>〜<5>のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、<10>に記載のタンパク質分解誘導タグライブラリー、<11>に記載のタンパク質分解誘導分子、又は<12>に記載のタンパク質分解誘導分子ライブラリーを疾患モデル系に供給し、疾患の症状を悪化させるタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を抽出し、抽出されたタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子により分解が誘導されるタンパク質を選抜する工程を含む疾患の予防又は治療成分候補のスクリーニング方法。
【0031】
<22> <1>〜<5>のいずれか1項に記載のタンパク質分解誘導タグ、<10>に記載のタンパク質分解誘導タグライブラリー、<11>に記載のタンパク質分解誘導分子、又は<12>に記載のタンパク質分解誘導分子ライブラリーを疾患モデル系に供給し、疾患の症状を変化させるタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を抽出し、抽出されたタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子により分解が誘導されるタンパク質を選抜する工程を含む疾患関連タンパク質の特定方法。
【発明の効果】
【0032】
本開示によれば、標的タンパク質の分解を誘導する新規なタンパク質分解誘導タグ及びその用途を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施例で使用したプラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)のプラスミドマップを示す図である。
図2A】TMP-CiKD_Bortezomibを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)解析結果を示す図である。
図2B】TMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を示す図である。
図3】TMP-CiKD_Bortezomib又はTMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の熱シフトアッセイ結果を示す図である。
図4A】プロテアソームの触媒サブユニットβ1に対する、TMP-CiKD_Bortezomib及びボルテゾミブの阻害活性を示す図である。
図4B】プロテアソームの触媒サブユニットβ2に対する、TMP-CiKD_Bortezomib及びボルテゾミブの阻害活性を示す図である。
図4C】プロテアソームの触媒サブユニットβ5に対する、TMP-CiKD_Bortezomib及びボルテゾミブの阻害活性を示す図である。
図5A】TMP-CiKD_ALLNを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を示す図である。
図5B】TMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を示す図である。
図6】TMP-CiKD_ALLN又はTMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の熱シフトアッセイ結果を示す図である。
図7A】プロテアソームの触媒サブユニットβ1に対する、TMP-CiKD_ALLN及びALLNの阻害活性を示す図である。
図7B】プロテアソームの触媒サブユニットβ2に対する、TMP-CiKD_ALLN及びALLNの阻害活性を示す図である。
図7C】プロテアソームの触媒サブユニットβ5に対する、TMP-CiKD_ALLN及びALLNの阻害活性を示す図である。
図8A】TMP-CiKD_MLNを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を示す図である。
図8B】TMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を示す図である。
図8C】TMP-CiKD_MLN及びボルテゾミブを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を示す図である。
図9】MTX-CiKD_MLN又はMTXを添加したHeLa細胞における内在発現標的タンパク質(ヒトDHFR)の熱シフトアッセイ結果を示す図である。
図10A】MTX-CiKD_MLN又はMTXを添加したHeLa細胞において、内在発現標的タンパク質(ヒトDHFR)のウェスタンブロット解析により検出されたバンドの定量結果を示す図である。
図10B】MTX-CiKD_MLN又はMTXを添加したHeLa細胞において、内在発現標的タンパク質(ヒトDHFR)のウェスタンブロット解析により検出されたバンドを示す図である。
図11】MTX-CiKD_MLN又はMTXを投与したマウス個体の肝臓組織抽出物における内在発現標的タンパク質(マウスDHFR)のウェスタンブロット解析結果を示す図である。
図12A】プロテアソームの触媒サブユニットβ1に対する、TMP-CiKD_DMT及びMG−132の阻害活性を示す図である。
図12B】プロテアソームの触媒サブユニットβ2に対する、TMP-CiKD_DMT及びMG−132の阻害活性を示す図である。
図12C】プロテアソームの触媒サブユニットβ5に対する、TMP-CiKD_DMT及びMG−132の阻害活性を示す図である。
図13】TMP-CiKD_DMT又はTMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の熱シフトアッセイ結果を示す図である。
図14A】TMP-CiKD_DMTを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を示す図である。
図14B】TMP-CiKD_DMTを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を示す図である。
図14C】TMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を示す図である。
図15A】TMP-CiKD_DMT、TMP、又はTMP-CiKD_DMT及びボルテゾミブを添加したHeLa細胞において、強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のウェスタンブロット解析により検出されたバンドの定量結果を示す図である。
図15B】TMP-CiKD_DMT、TMP、又はTMP-CiKD_DMT及びボルテゾミブを添加したHeLa細胞において、強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のウェスタンブロット解析により検出されたバンドを示す図である。
図16】TMP-CiKD_DMT、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、TMP-CiKD_Bortezomib、又はTMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のウェスタンブロット解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0035】
本明細書における「タンパク質」は、アミノ酸残基数が2以上であればよく、いわゆる「ペプチド」も含まれる。
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本明細書において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
【0036】
<タンパク質分解誘導タグ>
本開示のタンパク質分解誘導タグは、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しない分子である。タンパク質分解誘導タグは、直接的に結合、又はタンパク質結合分子を介して間接的に結合したタンパク質をプロテアーゼによる分解(ノックダウン)へと導くために用いられる。タンパク質分解誘導タグは、標的タンパク質と結合可能である場合には単独で、標的タンパク質と結合可能でない場合には標的タンパク質に結合するタンパク質結合分子とのコンジュゲート(後述するタンパク質分解誘導分子)とすることで、標的タンパク質のユビキチン化を介することなく(すなわち、ユビキチン非依存的に)、標的タンパク質をプロテアーゼによる分解(ノックダウン)へと導くことが可能である。
なお、タンパク質分解誘導タグが標的タンパク質と結合可能であるとは、タンパク質分解誘導タグが共有結合、水素結合、疎水結合、ファンデルワールス力等により標的タンパク質と結合可能であればよく、結合態様は制限されない。
【0037】
以下では、このタンパク質分解誘導タグをCiKD(Chemical interaction and KnockDown)タグとも称する。
【0038】
プロテアーゼとしては特に制限されず、プロテアーゼ活性を有するあらゆる分子が挙げられる。例えば、プロテアソームのような複合体型プロテアーゼであってもよく、プロテアソーム以外のプロテアーゼであってもよい。また、プロテアーゼ活性を有する限り、プロテアソームの一部分であってもよい。
【0039】
プロテアソームとしては、例えば、26Sプロテアソーム、免疫プロテアソーム、及び胸腺プロテアソームが挙げられる。
26Sプロテアソームは、20Sプロテアソームに19Sプロテアソームが2つ結合したものである。20Sプロテアソームは、α1〜α7の7つのサブユニットから構成されるαリングと、β1〜β7の7つのサブユニットから構成されるβリングとが、αββαの順に積み重なった筒状構造をしており、β1、β2、及びβ5がそれぞれカスパーゼ様活性、トリプシン様活性、及びキモトリプシン様活性という触媒活性を発揮する。
免疫プロテアソームは、触媒サブユニットβ1、β2、及びβ5がそれぞれβ1i、β2i、及びβ5iに置き換わったものである(Science, 1994, 265, 1234-1237)。
胸腺プロテアソームは、β1i及びβ2iとともに、胸腺皮質上皮細胞(cTEC)特異的に発現するβ5tが組み込まれたものである(Science, 2007, 316, 1349-1353)。
【0040】
また、プロテアソーム以外のプロテアーゼとしては、β−セクレターゼ、γ−セクレターゼ、アミノペプチダーゼ、アンジオテンシン変換酵素、ブロメライン、カルパインI、カルパインII、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼP、カルボキシペプチダーゼY、カスパーゼ1、カスパーゼ2、カスパーゼ3、カスパーゼ5、カスパーゼ6、カスパーゼ7、カスパーゼ8、カスパーゼ9、カスパーゼ13、カテプシンB、カテプシンC、カテプシンD、カテプシンG、カテプシンL、キモトリプシン、クロストリパイン、コラゲナーゼ、補体C1r、補体C1s、補体B因子、補体D因子、ジペプチジルペプチダーゼI、ジペプチジルペプチダーゼII、ジペプチジルペプチダーゼIV、ディスパーゼ、エラスターゼ、エンドプロテイナーゼArg−C、エンドプロテイナーゼGlu−C、エンドプロテイナーゼLys−C、フィシン、グランザイムB、カリクレイン、ロイシンアミノペプチダーゼ、マトリックスメタロプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、パパイン、ペプシン、プラスミン、プロカスパーゼ3、プロナーゼE、プロテイナーゼK、レニン、サーモリシン、トロンビン、トリプシン、細胞質アラニルアミノペプチダーゼ、エンケファリナーゼ、ネプリライシン等が挙げられる。
【0041】
本明細書において「プロテアーゼに対して親和性を有する」とは、例えば、プロテアーゼに対して共有結合、水素結合、疎水結合、ファンデルワールス力等により結合可能であることを意味する。タンパク質分解誘導タグの存在下においてプロテアーゼの熱安定性が変化する場合、タンパク質分解誘導タグはプロテアーゼと相互作用可能であると判断することができる。
【0042】
また、本明細書において「プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しない」とは、例えば、プロテアーゼの分解活性サイトに共有結合しないことを意味する。タンパク質分解誘導タグの存在下においてもプロテアーゼによってタンパク質が分解され、更にプロテアーゼ阻害剤を共存させるとタンパク質の分解が阻害される場合、タンパク質分解誘導タグはプロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しないと判断することができる。
【0043】
タンパク質分解誘導タグとしては、低分子化合物、天然物、ペプチド等が挙げられる。タンパク質分解誘導タグの分子量は、例えば、50〜5000の範囲内である。
【0044】
タンパク質分解誘導タグの構造は、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しないものである限り、特に制限されない。タンパク質分解誘導タグは、候補分子の中から後述するスクリーニング方法によって得ることもでき、また、後述する製造方法によって製造することもできる。
【0045】
ある態様では、タンパク質分解誘導タグは、例えば、下記式(I)で表される構造とすることができる。
【0046】
【化1】
【0047】
式(I)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、又はハロゲノ基を示す。
【0048】
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、これらの組み合わせ等が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基等の炭素数1〜20のアルキル基;ビニル基、アリル基等の炭素数2〜20のアルケニル基;フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜20のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7〜20のアリールアルキル基;トリル基、キシリル基等の炭素数7〜20のアルキルアリール基;等が挙げられる。
ハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基等が挙げられる。
【0049】
別の態様では、タンパク質分解誘導タグは、プロテアソーム阻害剤のプロテアソーム阻害活性を失活させた構造とすることができる。プロテアソーム阻害活性としては、より具体的には、カスパーゼ様活性、トリプシン様活性、及びキモトリプシン様活性から選ばれる少なくとも1種に対する阻害活性が挙げられる。
【0050】
ここで、「プロテアソーム阻害活性を失活させた構造」には、プロテアソーム阻害活性を完全に消失させた構造に加え、プロテアソーム阻害活性を減弱させた構造も含まれる。ある態様では、タンパク質分解誘導タグは、カスパーゼ様活性、トリプシン様活性、及びキモトリプシン様活性から選ばれる少なくとも1種に対する50%阻害濃度(IC50)が、元のプロテアソーム阻害剤の50%阻害濃度(IC50)の2倍以上である。
【0051】
プロテアソーム阻害剤としては、プロテアソーム阻害活性を有するあらゆる化合物を使用することができる。プロテアソーム阻害剤は、プロテアソーム(複合体型プロテアーゼ)に対して親和性を有し、且つ、プロテアソームによるタンパク質の分解を阻害する化合物である。したがって、プロテアソーム阻害剤の活性部位を他の構造部分に置き換えてプロテアソーム阻害活性を失活させることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。
プロテアソーム阻害剤は、抗癌剤等として研究が進んでおり、医薬品として認可済みの化合物及び臨床試験中の化合物が数多く存在する。また、プロテアソーム阻害剤は、分子量が比較的小さく、疎水性が低いものが多く、細胞膜透過性、細胞毒性等の問題も生じ難い。このため、プロテアソーム阻害剤を基にタンパク質分解誘導タグを合成することは、非常に合理的且つ効率的である。
【0052】
プロテアソーム阻害剤の一例を以下の表1及び表2に示す。表1及び表2に示すプロテアソーム阻害剤は、いずれも20Sプロテアソームに対して親和性を有する20Sプロテアソーム阻害剤である。ただし、本実施形態で使用可能なプロテアソーム阻害剤がこれらの例に限定されるものではない。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
例えば、ボロン酸型プロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブ(Bortezomib)は、下記式に示すように、活性部位であるボロニル基が20Sプロテアソームの分解活性サイトと共有結合することで、プロテアソーム活性を阻害することが知られている(Kisselev, A.F. et al. Chemistry & Biology, 2012, 19, 99-115)。
【0056】
【化2】
【0057】
また、ボロン酸型プロテアソーム阻害剤であるMLN9708及びMLN2238は、下記式に示すように、活性部位であるボロン酸エステル部位又はボロニル基が20Sプロテアソームの分解活性サイトと共有結合することで、プロテアソーム活性を阻害することが知られている(Kisselev, A.F. et al. Chemistry & Biology, 2012, 19, 99-115)。
【0058】
【化3】
【0059】
このため、ボルテゾミブ、MLN9708、及びMLN2238の活性部位であるボロニル基又はボロン酸エステル部位を他の構造部分(カルボキシ基、アルキル基、アリール基、アミノ基、ヒドロキシ基等)に置き換えてプロテアソーム阻害活性を失活させることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。
【0060】
なお、CEP−18770等の他のボロン酸型プロテアソーム阻害剤についても、活性部位を他の構造部分(カルボキシ基、アルキル基、アリール基、アミノ基、ヒドロキシ基等)に置き換えることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。
【0061】
また、アルデヒド型プロテアソーム阻害剤であるALLNは、下記式に示すように、活性部位であるホルミル基が20Sプロテアソームの分解活性サイトと共有結合することで、プロテアソーム活性を阻害することが知られている(Kisselev, A.F. et al. Chemistry & Biology, 2012, 19, 99-115)。
【0062】
【化4】
【0063】
このため、ALLNの活性部位であるホルミル基を他の構造部分(カルボキシ基、アルキル基、アリール基、アミノ基、ヒドロキシ基等)に置き換えてプロテアソーム阻害活性を失活させることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。
【0064】
なお、MG−132、BSc−2118、PSI等の他のアルデヒド型プロテアソーム阻害剤についても、活性部位であるホルミル基を他の構造部分(カルボキシ基、アルキル基、アリール基、アミノ基、ヒドロキシ基等)に置き換えることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。
【0065】
プロテアソーム阻害剤のプロテアソーム阻害活性を失活させた構造を有するタンパク質分解誘導タグの一例を以下の表3及び表4に示す。表中のRで表される1価の基としては、カルボキシ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
プロテアソーム阻害剤の他の例を以下の表5〜表10に示す。これらのプロテアソーム阻害剤についても、上記と同様にしてプロテアソーム阻害活性を失活させることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】
【0071】
【表7】
【0072】
【表8】
【0073】
【表9】
【0074】
【表10】
【0075】
別の態様では、タンパク質分解誘導タグは、プロテアーゼ阻害剤(前述したプロテアソーム阻害剤を除く)のプロテアーゼ阻害活性を失活させた構造とすることができる。
【0076】
ここで、「プロテアーゼ阻害活性を失活させた構造」には、プロテアーゼ阻害活性を完全に消失させた構造に加え、プロテアーゼ阻害活性を減弱させた構造も含まれる。ある態様では、タンパク質分解誘導タグは、プロテアーゼ阻害剤の阻害対象となるプロテアーゼに対する50%阻害濃度(IC50)が、元のプロテアーゼ阻害剤の50%阻害濃度(IC50)の2倍以上である。
【0077】
プロテアーゼ阻害剤としては、プロテアーゼ阻害活性を有するあらゆる化合物を使用することができる。プロテアーゼ阻害剤は、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害する化合物である。したがって、プロテアーゼ阻害剤の活性部位を他の構造部分に置き換えてプロテアーゼ阻害活性を失活させることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。
【0078】
プロテアーゼ阻害剤の一例を以下の表11〜表78に示す。これらのプロテアーゼ阻害剤の活性部位を他の構造部分に置き換えてプロテアーゼ阻害活性を失活させることで、タンパク質分解誘導タグを得ることができる。ただし、本実施形態で使用可能なプロテアーゼ阻害剤がこれらの例に限定されるものではない。プロテアーゼ及びプロテアーゼ阻害剤については、必要に応じて、既存のデータベース(例えば、"MEROPS-the peptidase database"(http://merops.sanger.ac.uk/index.shtml))の情報を参照することができる。
【0079】
【表11】
【0080】
【表12】
【0081】
【表13】
【0082】
【表14】
【0083】
【表15】
【0084】
【表16】
【0085】
【表17】
【0086】
【表18】
【0087】
【表19】
【0088】
【表20】
【0089】
【表21】
【0090】
【表22】
【0091】
【表23】
【0092】
【表24】
【0093】
【表25】
【0094】
【表26】
【0095】
【表27】
【0096】
【表28】
【0097】
【表29】
【0098】
【表30】
【0099】
【表31】
【0100】
【表32】
【0101】
【表33】
【0102】
【表34】
【0103】
【表35】
【0104】
【表36】
【0105】
【表37】
【0106】
【表38】
【0107】
【表39】
【0108】
【表40】
【0109】
【表41】
【0110】
【表42】
【0111】
【表43】
【0112】
【表44】
【0113】
【表45】
【0114】
【表46】
【0115】
【表47】
【0116】
【表48】
【0117】
【表49】
【0118】
【表50】
【0119】
【表51】
【0120】
【表52】
【0121】
【表53】
【0122】
【表54】
【0123】
【表55】
【0124】
【表56】
【0125】
【表57】
【0126】
【表58】
【0127】
【表59】
【0128】
【表60】
【0129】
【表61】
【0130】
【表62】
【0131】
【表63】
【0132】
【表64】
【0133】
【表65】
【0134】
【表66】
【0135】
【表67】
【0136】
【表68】
【0137】
【表69】
【0138】
【表70】
【0139】
【表71】
【0140】
【表72】
【0141】
【表73】
【0142】
【表74】
【0143】
【表75】
【0144】
【表76】
【0145】
【表77】
【0146】
【表78】
【0147】
なお、以上の説明では、便宜上、プロテアソーム阻害剤とプロテアソーム阻害剤以外のプロテアーゼ阻害剤とを区別したが、プロテアソームとプロテアソーム以外のプロテアーゼとの両者の活性を阻害可能な化合物も知られている。したがって、このような化合物を用いることで、プロテアソームとプロテアソーム以外のプロテアーゼとの両者に対して親和性を有するタンパク質分解誘導タグを得ることができる。
【0148】
プロテアソームとプロテアソーム以外のプロテアーゼとの両者の活性を阻害可能な化合物の一例を下記の表79に示す。後述する実施例10では、表79のNo.1に示すカルパイン阻害剤(ALLN)のプロテアーゼ(プロテアソーム)阻害活性を失活させたタンパク質分解誘導タグを用いている。ただし、プロテアソームとプロテアソーム以外のプロテアーゼとの両者の活性を阻害可能な化合物はこれらの例に限定されるものではない。
【0149】
【表79】
【0150】
別の態様では、タンパク質分解誘導タグとして、プロテアソーム活性化剤を使用することができる。プロテアソーム活性化剤は、プロテアソーム(複合体型プロテアーゼ)に対して親和性を有し、且つ、プロテアソームによるタンパク質の分解を阻害しない化合物であり、タンパク質分解誘導タグとして使用することができる。すなわち、本開示によれば、プロテアソーム活性化剤のタンパク質分解誘導タグとしての使用が提供される。
【0151】
プロテアソーム活性化剤の一例を以下の表80〜表82に示す。ただし、本実施形態で使用可能なプロテアソーム活性化剤がこれらの例に限定されるものではない。
【0152】
【表80】
【0153】
【表81】
【0154】
【表82】
【0155】
<タンパク質分解誘導タグのスクリーニング方法>
本開示のタンパク質分解誘導タグのスクリーニング方法は、候補分子の中から、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しない分子を選抜する工程を含むものである。ある態様では、プロテアーゼはプロテアソーム(複合体型プロテアーゼ)である。
【0156】
候補分子の中から、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しない分子を選抜する方法は特に制限されず、例えば、以下の方法を採用することができる。
【0157】
まず、候補分子を準備する。候補分子としては、化合物ライブラリー、薬剤ライブラリー、天然物ライブラリー等のライブラリーを利用することができる。候補分子は、ハイスループット・スクリーニング(HTS)用のプレート、マイクロアレイプレート、金属プレート等の各ウェルに固定化しておくことが好ましい。
【0158】
次いで、各ウェルに固定化された候補分子に対して、蛍光色素、核酸(mRNA又はDNA)等で標識されたプロテアーゼを作用させた後、各ウェルを洗浄する。プロテアーゼの蛍光色素による標識には、GFP(Green Fluorescent Protein)との融合タンパク質、C末端ラベル化による標識等を利用することができる。また、プロテアーゼの核酸による標識には、IVV(in vitro virus)法(mRNAディスプレイ法とも称される)、DNAディスプレイ法等のディスプレイ法などを利用することができる。
そして、プロテアーゼの標識に基づき、プロテアーゼに対して親和性を有する分子を特定する。プロテアーゼが蛍光色素で標識されている場合、蛍光を検出することで、プロテアーゼに対して親和性を有する分子を特定することができる。また、プロテアーゼがmRNAで標識されている場合、逆転写PCRにより核酸の配列を検出することで、プロテアーゼに対して親和性を有する分子を特定することができる。
【0159】
次いで、プロテアーゼに対して親和性を有する分子の中から、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しない分子を特定する。プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害するか否かの評価には、例えば、後述する実施例に記載した方法を採用することができる。
【0160】
<タンパク質分解誘導タグの製造方法>
本開示のタンパク質分解誘導タグの製造方法は、プロテアーゼ阻害剤の活性部位の構造を改変し、プロテアーゼ阻害活性を失活させる工程を含むものである。ある態様では、プロテアーゼ阻害剤はプロテアソーム阻害剤であり、プロテアソーム阻害剤のプロテアソーム阻害活性を失活させることによりタンパク質分解誘導タグを製造する。
【0161】
前述したとおり、プロテアーゼ阻害剤は、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害する化合物である。したがって、プロテアーゼ阻害剤の活性部位の構造を改変し、プロテアーゼ阻害活性を失活させることで、タンパク質分解誘導タグを製造することができる。
【0162】
タンパク質分解誘導タグの製造に用いるプロテアーゼ阻害剤は、既知のプロテアーゼ阻害剤であってもよく、候補分子の中からスクリーニングによって得たものであってもよい。すなわち、タンパク質分解誘導タグの製造方法は、候補分子の中から、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害する分子をプロテアーゼ阻害剤として選抜する工程を更に含んでいてもよい。
例えば、前述したタンパク質分解誘導タグのスクリーニング方法では、プロテアーゼに対して親和性を有する分子の中から、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害しない分子を特定するため、スクリーニング過程で、プロテアーゼに対して親和性を有し、且つ、プロテアーゼによるタンパク質の分解を阻害する分子(プロテアーゼ阻害剤)を特定することにもなる。そこで、このようにスクリーニングにより得られたプロテアーゼ阻害剤を用いて、タンパク質分解誘導タグを製造してもよい。
【0163】
<タンパク質分解誘導タグライブラリー>
本開示のタンパク質分解誘導タグライブラリーは、前述したタンパク質分解誘導タグを2種以上含むものである。タンパク質分解誘導タグライブラリーは、後述するスクリーニング方法等に利用することが可能である。
【0164】
<タンパク質分解誘導分子>
本開示のタンパク質分解誘導分子は、前述した少なくとも1つのタンパク質分解誘導タグと、タンパク質に結合する少なくとも1つのタンパク質結合分子とのコンジュゲートである。このタンパク質分解誘導分子によれば、タンパク質結合分子と標的タンパク質とを結合させることで、標的タンパク質のユビキチン化を介することなく、標的タンパク質をプロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)による分解(ノックダウン)へと導くことが可能となる(例えば、後述する実施例2、7、12、15、16、21〜23を参照)。
なお、タンパク質結合分子と標的タンパク質との結合態様としては、共有結合、水素結合、疎水結合、ファンデルワールス力等が挙げられ、特に制限されない。
【0165】
標的タンパク質としては、例えば、細胞内又は細胞膜に存在するタンパク質が挙げられる。標的タンパク質は、変異によって生成した変異タンパク質であってもよく、転座等によって生成した融合タンパク質であってもよい。また、標的タンパク質は、内因性のタンパク質であってもよく、ウイルス、細菌等に由来する外来性のタンパク質であってもよい。また、標的タンパク質は、何らかの要因により分解が滞って蓄積したタンパク質であってもよい。ある態様では、標的タンパク質は、細胞周期、シグナル伝達、細胞分化、細胞脱分化、細胞増殖、又はサイトカイン等の生理活性物質の産生に関与するタンパク質である。
なお、標的タンパク質は、予め特定されていなくてもよい。タンパク質分解誘導分子を用いることで、後述のように未知の標的タンパク質を同定することができる。
【0166】
タンパク質結合分子としては、低分子化合物、抗体、ペプチド等の医薬;サイトカイン、成長因子、ホルモン等の内因性の生理活性物質;天然物、代謝物、植物成分、食品成分などが挙げられる。
標的タンパク質の中には、結合する分子(阻害剤等)が知られているものも存在するため(例えば、国際公開第2008/123266号参照)、このような既知の分子をタンパク質結合分子として使用することができる。標的タンパク質に結合する分子が未知の場合には、ハイスループット・スクリーニング(HTS)により、結合する分子をスクリーニングしてもよい。また、標的タンパク質と結合する抗体を作製し、これをタンパク質結合分子として使用してもよい。
【0167】
タンパク質分解誘導タグとタンパク質結合分子とのコンジュゲートの様式は、タンパク質分解誘導タグのプロテアーゼとの親和性、及びタンパク質結合分子のタンパク質との結合性が維持される限り、特に制限されない。
【0168】
タンパク質分解誘導分子は、例えば、少なくとも1つのタンパク質分解誘導タグと少なくとも1つのタンパク質結合分子とが連結された構造とすることができる。タンパク質分解誘導分子は、1つのタンパク質分解誘導タグと1つのタンパク質結合分子とが連結された構造であってもよく、1つのタンパク質分解誘導タグと複数のタンパク質結合分子とが連結された構造であってもよく、複数のタンパク質分解誘導タグと1つのタンパク質結合分子とが連結された構造であってもよく、複数のタンパク質分解誘導タグと複数のタンパク質結合分子とが連結された構造であってもよい。ある態様では、タンパク質分解誘導分子は、1つのタンパク質分解誘導タグと1つのタンパク質結合分子とが連結された構造である。
【0169】
タンパク質分解誘導タグにおけるタンパク質結合分子との連結位置は、プロテアーゼとの親和性が維持される限り、特に制限されない。例えば、タンパク質分解誘導タグが、前述のように、プロテアーゼ阻害剤(例えば、プロテアソーム阻害剤)の活性部位を他の構造部分に置き換えた構造である場合、この置き換えた他の構造部分においてタンパク質結合分子と連結することができる。具体的に、プロテアーゼ阻害剤の活性部位をカルボキシ基に置き換えた場合、カルボキシ基を介してタンパク質結合分子と連結することができる。
一方、タンパク質結合分子におけるタンパク質分解誘導タグとの連結位置は、タンパク質との結合性が維持される限り、特に制限されない。
【0170】
なお、タンパク質分解誘導タグ及びタンパク質結合分子は、相互に連結可能な構造であってもよい。タンパク質分解誘導タグとタンパク質結合分子とを直接連結することが困難な場合には、相互に連結可能とする構造を、タンパク質分解誘導タグ及びタンパク質結合分子の少なくとも一方に導入することも考えられる。
例えば、タンパク質結合分子としては、標的タンパク質に結合する既知の分子を使用することができるが、この既知の分子とタンパク質分解誘導タグとを直接連結することが困難な場合も想定される。このような場合には、タンパク質分解誘導タグと連結可能な構造を当該既知の分子に導入し、タンパク質結合分子として使用してもよい。
【0171】
<タンパク質分解誘導分子ライブラリー>
本開示のタンパク質分解誘導分子ライブラリーは、前述したタンパク質分解誘導分子を2種以上含むものである。タンパク質分解誘導分子を2種以上含む態様としては、タンパク質分解誘導タグの種類は同じであるものの、タンパク質結合分子の種類が異なる2種以上のタンパク質分解誘導分子を含む態様、タンパク質結合分子の種類は同じであるものの、タンパク質分解誘導タグの種類が異なる2種以上のタンパク質分解誘導分子を含む態様、タンパク質分解誘導タグ及びタンパク質結合分子の種類が異なる2種以上のタンパク質分解誘導分子を含む態様等が挙げられる。
【0172】
タンパク質分解誘導分子ライブラリーの製造方法は特に制限されない。
タンパク質分解誘導分子ライブラリーの製造方法の一例としては、タンパク質結合分子のライブラリーに含まれる各タンパク質結合分子を、タンパク質分解誘導タグとのコンジュゲートとする方法が挙げられる。タンパク質結合分子のライブラリーとしては、化合物ライブラリー、薬剤ライブラリー、天然物ライブラリー等が挙げられる。例えば、化学反応、架橋反応等を利用して、タンパク質結合分子のライブラリーに含まれる各タンパク質結合分子とタンパク質分解誘導タグとを連結することにより、タンパク質分解誘導分子ライブラリーを製造することができる。
タンパク質分解誘導分子ライブラリーの製造方法の他の例としては、前述したタンパク質分解誘導タグライブラリーに含まれる各タンパク質分解誘導タグを、タンパク質結合分子とのコンジュゲートとする方法が挙げられる。
【0173】
タンパク質分解誘導分子ライブラリーは、後述するスクリーニング方法等に利用することが可能である。
【0174】
<医薬組成物>
本開示の医薬組成物は、前述したタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を含むものである。前述したとおり、タンパク質分解誘導タグは、標的タンパク質と結合可能である場合には単独で、標的タンパク質と結合可能でない場合には、標的タンパク質と結合可能なタンパク質結合分子とのコンジュゲート(タンパク質分解誘導分子)とすることで、標的タンパク質のユビキチン化を介することなく、標的タンパク質をプロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)による分解(ノックダウン)へと導くことが可能である。このため、標的タンパク質がある疾患の原因(疾患原因物質)となっている場合には、標的タンパク質を分解へと導くタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を用いることで、その疾患に対する医薬組成物を製造することができる。そして、この医薬組成物を患者に投与することで、患者の体内において標的タンパク質を分解へと導き、疾患の予防又は治療に繋げることが可能となる(例えば、マウス個体におけるノックダウン実験である後述する実施例16を参照)。
【0175】
標的タンパク質の形状に基づいて創薬を行う従来の創薬方法論では、プロテオームの約75%が医薬にならない標的(undruggable targets)であると言われている。この点、前述したタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子によれば、原理的にあらゆるタンパク質を標的とすることができる。
ここで、標的タンパク質は、真核又は原核生物(動物、植物、菌類、酵母、大腸菌等)のタンパク質である。標的タンパク質は、変異によって生成した変異タンパク質であってもよく、転座等によって生成した融合タンパク質であってもよい。また、標的タンパク質は、内因性のタンパク質であってもよく、ウイルス、細菌等に由来する外来性のタンパク質であってもよい。また、標的タンパク質は、何らかの要因により分解が滞って蓄積したタンパク質であってもよい。
【0176】
医薬組成物は、タンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子以外の成分を含有していてもよい。例えば、医薬組成物は、製剤素材として慣用の有機又は無機の担体を含有していてもよい。この担体は、固形製剤においては、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等として、液状製剤においては、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤等として配合される。また、医薬組成物は、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の製剤添加物を含有していてもよい。
【0177】
医薬組成物の剤形は特に制限されない。医薬組成物の剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、フィルム剤等の経口剤;注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤、ペレット、経鼻剤、経肺剤(吸入剤)、点眼剤等の非経口剤;などが挙げられる。
【0178】
医薬組成物の投与量は、投与対象、投与経路、対象疾患、症状等に応じて適宜決定される。
【0179】
<標的タンパク質の分解方法>
本開示の標的タンパク質の分解方法は、前述したタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を用いて標的タンパク質の分解を誘導する工程を含むものである。
【0180】
タンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を用いて標的タンパク質の分解を誘導する方法は特に制限されない。例えば、細胞、組織、又は臓器を培養する培地にタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を添加してもよい。細胞、組織、及び臓器は、プロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)を有する真核又は原核生物(動物、植物、菌類、酵母、大腸菌等)に由来するものであればよい。或いは、プロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)を有する真核又は原核生物の生体に、タンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を経口的又は非経口的に投与してもよい。投与対象としては、ヒト等の霊長類、マウス、ラット、豚、犬、猫などが挙げられる。或いは、試験管内(無細胞)のプロテアーゼ分解系(例えば、プロテアソーム分解系)にタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を添加してもよい。
【0181】
前述したとおり、タンパク質分解誘導タグは、標的タンパク質と結合可能である場合には単独で、標的タンパク質と結合可能でない場合には、標的タンパク質と結合可能なタンパク質結合分子とのコンジュゲート(タンパク質分解誘導分子)とすることで、標的タンパク質のユビキチン化を介することなく、標的タンパク質をプロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)による分解(ノックダウン)へと導くことが可能である。
【0182】
<標的タンパク質の機能解析方法>
本開示の標的タンパク質の機能解析方法は、前述したタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を用いて標的タンパク質の分解を誘導する工程を含むものである。ここで、標的タンパク質の機能解析とは、標的タンパク質が特定されている場合に、その機能を解析することを意味する。標的タンパク質は、その機能が全く解明されていないものに限らず、機能の一部が解明されているものであってもよい。
【0183】
タンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を用いて標的タンパク質の分解を誘導する方法は特に制限されない。例えば、細胞、組織、又は臓器を培養する培地にタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を添加してもよい。或いは、プロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)を有する真核又は原核生物の生体に、タンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を経口的又は非経口的に投与してもよい。或いは、試験管内(無細胞)の機能解析系に、プロテアーゼ分解系(例えば、プロテアソーム分解系)とともに、タンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を添加してもよい。
【0184】
前述したとおり、タンパク質分解誘導タグは、標的タンパク質と結合可能である場合には単独で、標的タンパク質と結合可能でない場合には、標的タンパク質と結合可能なタンパク質結合分子とのコンジュゲート(タンパク質分解誘導分子)とすることで、標的タンパク質のユビキチン化を介することなく、標的タンパク質をプロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)による分解(ノックダウン)へと導くことが可能である。そこで、例えば、真核若しくは原核生物又はその細胞を用いた場合には、タンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を用いて標的タンパク質の分解を誘導した後に、細胞又は生体の表現型の変化を解析することで、標的タンパク質の機能を解析することができる。また、試験管内(無細胞)の機能解析系を用いた場合には、タンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を用いて標的タンパク質の分解を誘導した後に、標的タンパク質の有無による分子ネットワークの違い(変化)を解析することで、標的タンパク質の機能を解析することができる。
【0185】
従来、動物の生体内における標的タンパク質の機能を解析する場合には、遺伝子ノックアウトマウスを作製することが一般的である。しかし、遺伝子ノックアウトマウスの作製には長期間(例えば、1年以上)を要するという問題がある。近年、ゲノム編集技術(CRISPR/CAS9)が開発されるに至ったが、このCRISPR/CAS9の技術を用いても、遺伝子ノックアウトマウスの作製には数ヶ月から半年の期間を要する。この点、前述したタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子によれば、標的タンパク質を短期間で分解(ノックダウン)へと導き、遺伝子ノックアウトマウスを作製した場合と同等の効果を奏することができる。また、前述したタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子によれば、標的タンパク質の機能を動的に解析することも可能である。
【0186】
<標的タンパク質の同定方法>
本開示の標的タンパク質の同定方法は、前述したタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を用いてタンパク質の分解を誘導する工程と、タンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子によって分解が誘導されたタンパク質を同定する工程と、を含むものである。ここで、標的タンパク質の同定とは、タンパク質分解誘導タグ又はタンパク質結合分子に結合する標的タンパク質を同定することを意味する。タンパク質分解誘導タグ又はタンパク質結合分子は、結合する標的タンパク質が全く知られていないものに限らず、標的タンパク質の一部が知られているものであってもよい。
【0187】
標的タンパク質の同定方法では、まず、前述したタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を用いてタンパク質の分解を誘導する。
タンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を用いてタンパク質の分解を誘導する方法は特に制限されない。例えば、前述した標的タンパク質の分解方法を採用することができる。
【0188】
次いで、タンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子によって分解が誘導されたタンパク質を同定する。前述したとおり、タンパク質分解誘導タグは、標的タンパク質と結合可能である場合には単独で、標的タンパク質と結合可能でない場合には、標的タンパク質と結合可能なタンパク質結合分子とのコンジュゲート(タンパク質分解誘導分子)とすることで、標的タンパク質のユビキチン化を介することなく、標的タンパク質をプロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)による分解(ノックダウン)へと導くことが可能である。そこで、例えば、細胞からタンパク質を抽出してプロテオーム解析を行い、量が減少しているタンパク質を特定することで、標的タンパク質を同定することができる。
【0189】
<標的タンパク質を介した経路分子の同定方法>
本開示の標的タンパク質を介した経路分子の同定方法は、前述したタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を用いて標的タンパク質の分解を誘導する工程と、標的タンパク質以外の活性又は発現が変化したタンパク質を同定する工程と、を含むものである。ここで、標的タンパク質を介した経路分子の同定とは、標的タンパク質が介在するタンパク質経路(シグナル伝達経路等)における、標的タンパク質以外の他のタンパク質を同定することを意味する。標的タンパク質を介した経路分子は、全く知られていないものに限らず、その一部が知られているものであってもよい。
【0190】
標的タンパク質を介した経路分子の同定方法では、まず、前述したタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を用いてタンパク質の分解を誘導する。
タンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を用いてタンパク質の分解を誘導する方法は特に制限されない。例えば、前述した標的タンパク質の分解方法を採用することができる。
【0191】
次いで、標的タンパク質以外の活性又は発現が変化したタンパク質を同定する。前述したとおり、タンパク質分解誘導タグは、標的タンパク質と結合可能である場合には単独で、標的タンパク質と結合可能でない場合には、標的タンパク質と結合可能なタンパク質結合分子とのコンジュゲート(タンパク質分解誘導分子)とすることで、標的タンパク質のユビキチン化を介することなく、標的タンパク質をプロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)による分解(ノックダウン)へと導くことが可能である。このとき、標的タンパク質の分解に伴い、標的タンパク質が介在するタンパク質経路上の他のタンパク質についても、活性又は発現が変化し得る。そこで、活性又は発現が変化している他のタンパク質を特定することで、標的タンパク質を介した経路分子を同定することができる。
【0192】
なお、標的タンパク質の増加又は減少がある疾患の原因となっている場合には、標的タンパク質を介した経路分子を同定することで、疾患のメカニズムの解明にも繋がると考えられる。
【0193】
<タンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子のスクリーニング方法>
本開示のタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子のスクリーニング方法は、前述したタンパク質分解誘導タグ、タンパク質分解誘導タグライブラリー、タンパク質分解誘導分子、又はタンパク質分解誘導分子ライブラリーを標的タンパク質が存在する系に供給し、標的タンパク質の分解を誘導するタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を選抜する工程を含むものである。
【0194】
標的タンパク質が存在する系としては特に制限されず、例えば、プロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)を有する真核又は原核生物の細胞を用いたプロテアーゼ分解系(例えば、プロテアソーム分解系)であってもよく、試験管内(無細胞)のプロテアーゼ分解系(例えば、プロテアソーム分解系)であってもよい。
【0195】
標的タンパク質が存在する系に供給した、タンパク質分解誘導タグ、タンパク質分解誘導タグライブラリー、タンパク質分解誘導分子、又はタンパク質分解誘導分子ライブラリーの中に、標的タンパク質と結合可能なタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子が含まれている場合、標的タンパク質がプロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)による分解(ノックダウン)へと導かれる。そこで、スクリーニングに際しては、そのような標的タンパク質の分解を誘導するタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を選抜すればよい。
【0196】
上記のスクリーニング方法によれば、原理的に、任意の標的タンパク質を分解へと導くタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を得ることができる。更に、標的タンパク質がある疾患の原因(疾患原因物質)となっている場合には、標的タンパク質を分解へと導くタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を、その疾患の予防又は治療成分候補として選抜することができる。
【0197】
<疾患の予防又は治療成分候補のスクリーニング方法>
本開示の疾患の予防又は治療成分候補のスクリーニング方法の一態様は、前述したタンパク質分解誘導タグ、タンパク質分解誘導タグライブラリー、タンパク質分解誘導分子、又はタンパク質分解誘導分子ライブラリーを疾患モデル系に供給し、疾患の症状を改善させるタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を選抜する工程を含むものである。
また、本開示の疾患の予防又は治療成分候補のスクリーニング方法の別の態様は、前述したタンパク質分解誘導タグ、タンパク質分解誘導タグライブラリー、タンパク質分解誘導分子、又はタンパク質分解誘導分子ライブラリーを疾患モデル系に供給し、疾患の症状を悪化させるタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を抽出し、抽出されたタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子により分解が誘導されるタンパク質を選抜する工程を含むものである。
【0198】
疾患モデル系としては特に制限されず、疾患モデル動物、疾患モデル細胞等が挙げられる。
【0199】
疾患モデル系に供給した、タンパク質分解誘導タグ、タンパク質分解誘導タグライブラリー、タンパク質分解誘導分子、又はタンパク質分解誘導分子ライブラリーの中に、疾患に関連するタンパク質(疾患関連タンパク質)と結合可能なタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子が含まれている場合、疾患関連タンパク質がプロテアーゼ(例えば、プロテアソーム)による分解(ノックダウン)へと導かれる。
疾患関連タンパク質が分解される結果、疾患の症状が改善された場合には、その疾患関連タンパク質の増加が、疾患の発症又は進行に関与している可能性がある。そこで、疾患の症状を改善させるタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を選抜することで、疾患の予防又は治療成分候補を得ることができる。
一方、疾患関連タンパク質が分解される結果、疾患の症状が悪化した場合には、その疾患関連タンパク質の減少が、疾患の発症又は進行に関与している可能性がある。そこで、疾患の症状を悪化させるタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を抽出し、抽出されたタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子により分解が誘導されるタンパク質を選抜することで、疾患の予防又は治療成分候補を得ることができる。
【0200】
<疾患関連タンパク質の特定方法>
本開示の疾患関連タンパク質の特定方法は、前述したタンパク質分解誘導タグ、タンパク質分解誘導タグライブラリー、タンパク質分解誘導分子、又はタンパク質分解誘導分子ライブラリーを疾患モデル系に供給し、疾患の症状を変化させるタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を抽出し、抽出されたタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子により分解が誘導されるタンパク質を選抜する工程を含むものである。
【0201】
疾患モデル系にタンパク質分解誘導タグ、タンパク質分解誘導タグライブラリー、タンパク質分解誘導分子、又はタンパク質分解誘導分子ライブラリーを供給すると、疾患モデル系内におけるタンパク質の分解(ノックダウン)に伴い、疾患の症状が変化し得る。そこで、疾患の症状を変化させるタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子を抽出し、抽出されたタンパク質分解誘導タグ又はタンパク質分解誘導分子により分解が誘導されるタンパク質を選抜することで、疾患関連タンパク質を特定することができる。
【0202】
特定された疾患関連タンパク質に関する情報は、例えば、疾患の予防又は治療成分の開発に利用することができる。
【実施例】
【0203】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0204】
以下の実施例で使用される化合物等の略称は以下のとおりである。
ec:Escherichia coli
DHFR:Dihydrofolate reductase
TMP:Trimethoprim
H-Phe-OtBu・HCl:L-Phenylalanine t-butyl ester hydrochloride
DMF:N,N-Dimethylformamide
DMT−MM:4-(4,6-Dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methylmorpholinium chloride n-hydrate
TFA:Trifluoroacetic acid
H-Leu-OtBu・HCl:L-Leucine t-butyl ester hydrochloride
DIEA:N,N-Diisopropylethylamine
D−MEM:Dulbecco's modified eagle's medium
FBS:Fetal bovine serum
EDTA:Ethylenediamine tetraacetic acid
HA:Hemagglutinin
GFP:Green fluorescent protein
DsRed:Discosoma sp. red fluorescent protein
DMSO:Dimethyl sulfoxide
PBS:Phosphate buffered saline
TBS:Tris buffered saline
SDS:Sodium dodecyl sulfate
PAGE:Polyacrylamide gel ectrophoresis
BPB:Bromophenol blue
PVDF:Polyvinylidene difluoride
AMC:7-Amino-4-methylcoumarin
H-Gly-OtBu・HCl:L-Glycine t-butyl ester hydrochloride
PyBOP:1H-Benzotriazol-1-yloxy-tri(pyrrolidino)phosphonium hexafluorophosphate
MTX:Methotrexate
DMA:N,N-Dimethylacetamide
BOP:1H-Benzotriazol-1-yloxy-tris(dimethylamino)phosphonium hexafluorophosphate
TEA:Triethylamine
HATU:O-(7-Azabenzotriazol-1-yl)-N,N,N',N'-tetramethyluronium hexafluorophosphate
GAPDH:Glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase
【0205】
<実施例1:タンパク質分解誘導タグとしてCiKD_Bortezomibを用い、タンパク質結合分子としてTMP誘導体を用いたタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)の合成>
実施例1では、下記の合成スキームに従って、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_Bortezomibを合成した。
タンパク質分解誘導タグとしては、ボルテゾミブ(Bortezomib)の活性部位であるボロニル基をカルボキシ基に置き換えたBortezomib-COOH(CiKD_Bortezomib)を用いた。また、タンパク質結合分子としては、大腸菌DHFRと結合するジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害剤であるTMPにアミノ基を含む官能基を導入したTMP誘導体(TMP−NH)を用いた。そして、Bortezomib-COOHとTMP−NHとを連結することにより、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_Bortezomibを合成した。
【0206】
【化5】
【0207】
TMP-CiKD_Bortezomibの合成方法の詳細は以下のとおりである。
【0208】
(化合物1の合成)
ナスフラスコにピラジンカルボン酸(152.8 mg, 1.23 mmol, 1 eq, Code No. 357-00042, 和光純薬工業(株))及びH-Phe-OtBu・HCl(253.8 mg, 0.98 mmol, 0.8 eq, Code No. 10Y830617, 渡辺化学工業(株))を仕込み、脱水DMFを10mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、DMT−MM(1.02 g, 3.69 mmol, 3 eq, Code No. 329-53751, 和光純薬工業(株))を反応溶液に直接加え、室温にて18時間撹拌した。反応溶液を水で希釈し、酢酸エチルで3回抽出した。食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(ヘキサン/クロロホルム=1/1〜0/1, gradient)を用いた分離精製処理により、化合物1(482.3 mg, 1.47 mmol, quant.)を得た。
【0209】
(化合物2の合成)
ナスフラスコに化合物1(398.4 mg, 1.22 mmol)を仕込み、ジクロロメタンを5mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、TFAを7mL加え、室温にて2時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、真空乾燥し、化合物2(318.8 mg, 96 %)を得た。
【0210】
(化合物3の合成)
ナスフラスコに化合物2(271.3 mg, 1.00 mmol, 1 eq)及びH-Leu-OtBu・HCl(223.8 mg, 1.00 mmol, 1 eq, Code No. 14G110356, 渡辺化学工業(株))を仕込み、脱水DMFを10mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、DIEAを2mL加え、溶液を中性にした。室温にて5分間撹拌した後、DMT−MM(553.4 mg, 2.00 mmol, 2 eq, Code No. 329-53751, 和光純薬工業(株))を反応溶液に直接加え、室温にて3時間撹拌した。冷却下で20mLの10質量%食塩水/0.1N 塩酸水溶液を加え、酢酸エチルで3回抽出した。0.5N 塩酸水溶液、次いで食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(ヘキサン/クロロホルム=1/1〜0/1, gradient)を用いた分離精製処理により、化合物3(168.1 mg, 0.38 mmol, 38%)を得た。
【0211】
(化合物4(Bortezomib-COOH)の合成)
ナスフラスコに化合物3(157.3 mg, 0.36 mmol)を仕込み、ジクロロメタンを5mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、TFAを6mL加え、室温にて2時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、真空乾燥し、化合物4(Bortezomib-COOH)(179.6 mg, 0.48 mmol, quant.)を得た。
【0212】
(化合物5(TMP-CiKD_Bortezomib)の合成)
ナスフラスコに化合物4(Bortezomib-COOH)(55.7 mg, 0.15 mmol, 1 eq)及び別途合成したTMP−NH(Long, M.J. et al., Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)(62.7 mg, 0.15 mmol, 1 eq)を仕込み、脱水DMFを7mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、DIEAを2mL加え、溶液を中性にした。室温にて5分間撹拌した後、DMT−MM(207.5 mg, 0.75 mmol, 5 eq, Code No. 329-53751, 和光純薬工業(株))を反応溶液に直接加え、室温にて3時間撹拌した。冷却下で20mLの10質量%食塩水/0.1N 塩酸水溶液を加え、酢酸エチルで3回抽出した。0.5N 塩酸水溶液、次いで食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(クロロホルム/メタノール=10/1)により分離精製処理を行った。次いで、TLC silica gel 60(Code No. HX264817, Merck)(クロロホルム/メタノール=10/1)を用いた分離精製処理により、化合物5(TMP-CiKD_Bortezomib)(2.3 mg, 0.0029 mmol, 2%, isolated yield)を得た。
【0213】
<実施例2:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)の評価(FACS解析)>
実施例2では、TMP-CiKD_Bortezomibを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)について、FACS解析により評価した。
【0214】
(培養細胞の準備)
前培養培地としては、D−MEM(Low D-Glucose, L-Glutamine, Phenol Red)(Code No. 041-29775, 和光純薬工業(株))に10質量% FBS(Code No. SH30910.03, Lot No. AYG161516, HyClone)及び1質量% PenStrep(100 U/mL Sodium Penicillin G and 100 μg/mL Streptomycin Sulfate)(Code No. 168-23191, 和光純薬工業(株))を添加した培地を準備した。そして、この前培養培地中、HeLa細胞(Lot No. 60143948, ATCC)を37℃、5体積% COの条件下で培養した。継代培養時の培養皿としては、直径100mmのCell Culture Dish-Treated(Sterile, Non pyrogenic)(Code No. TR4002, TrueLine)を用いた。継代培養は70%〜80%コンフルエント時に行い、トリプシン(0.25 w/v% Trypsin-1 mmol/L EDTA・4Na Solution with Phenol Red)(Code No. 201-16945, 和光純薬工業(株))処理により細胞を剥離した後、4分の1量の細胞を10mLの前培養培地で培養した。
【0215】
(HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
HeLa細胞にプラスミドを導入することにより、細胞内に標的タンパク質である大腸菌DHFR(詳細には、HAタグを介した大腸菌DHFRとGFPとの融合タンパク質)又は比較用のDsRedを一過的に過剰発現させ、TMP-CiKD_Bortezomibの標的タンパク質への作用を評価した。
【0216】
プラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)は、ブランダイス大学(米国)のLizbeth Hedstrom教授より提供を受けた(Long, M.J. et al., "Inhibitor mediated protein degradation.", Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)。pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFPのプラスミドマップを図1に示す。このプラスミドを大腸菌で増幅した後、Miniprep Kit(Code No. 27106, QIAGEN)で精製した。
【0217】
HeLa細胞へのプラスミド導入には、トランスフェクション試薬であるScreenFectA(Code No. 297-73201, 和光純薬工業(株))を用いた。ScreenFectAのDilution Bufferを2本の1.5mLチューブに600μLずつ加えた。そして、一方のチューブにはScreenFectAのTransfection Reagentを30μL添加し(溶液A)、他方のチューブにはプラスミドを12μg添加し(溶液B)、それぞれを軽くピペッティングした後、室温にて2分間静置した。溶液Aと溶液Bとを軽く混ぜ合わせ、室温にて30分間静置した(溶液C)。トリプシン処理により回収した1.2×10細胞/24mLの細胞溶液に溶液Cを混合し、24ウェルプレート(Code No. TR5002, TrueLine, 日本ジェネティクス(株))に4×10細胞/800μL/ウェルの細胞密度で播種した後、37℃、5体積% COの条件下で40時間培養した。
【0218】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)の添加)
以下のようにして、HeLa細胞にTMP-CiKD_Bortezomibを添加した。プラスミドを導入してから40時間培養後、前培養培地を除去し、D−MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyrvate)(Code No. 045-32245, 和光純薬工業(株))に1質量% L−グルタミン溶液(Code No. G7513, Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を各ウェル当たり300μL添加した。なお、L−グルタミン溶液は使用直前に添加した。所定濃度のTMP-CiKD_Bortezomibを含有するDMSO溶液を各ウェル当たり3μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で培養した。
なお、コントロールとしては、TMP-CiKD_Bortezomibを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0219】
(FACS解析によるTMP-CiKD_Bortezomibの標的分解(ノックダウン)の評価)
TMP-CiKD_Bortezomib(80μM)又はTMP(80μM)の添加24時間後、培地を除去し、37℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり2mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、37℃のトリプシン(0.25 w/v% Trypsin-1 mmol/L EDTA・4Na Solution with Phenol Red)(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり200μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で1分間培養した。培養後、D−MEM(Low D-Glucose, L-Glutamine, Phenol Red)(Code No. 041-29775, 和光純薬工業(株))に10質量% FBS(Code No. SH30910.03, Lot No. AYG161516, HyClone)及び1質量% PenStrep(100 U/mL Sodium Penicillin G and 100 μg/mL Streptomycin Sulfate)(Code No. 168-23191, 和光純薬工業(株))を添加した培地を各ウェル当たり300μL添加して懸濁し、15mLチューブに細胞溶液を回収した。
【0220】
回収した細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、2mLのPBS(37℃)により懸濁した。懸濁後の細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、4℃のFACSバッファー(1質量% FBS/PBS)を500μL添加し、氷上に静置した。
【0221】
フローサイトメトリーにはBD FACSCanto II(BD Biosciences)を用い、細胞中におけるGFR及びDsRedの発現を定量した。FACS解析の直前に、細胞溶液を孔径32μmのメッシュに通し、FACSチューブへと移した。解析ソフトFLOWJO(トミーデジタルバイオロジー(株))により細胞1個当たりのGFR/DsRed比を算出し、標的分解によるグラフのシフトから、TMP-CiKD_Bortezomibによる標的分解(ノックダウン)の効率を確認した。
【0222】
TMP-CiKD_Bortezomibを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を図2Aに示す。また、TMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を図2Bに示す。
図2Aに示すとおり、TMP-CiKD_Bortezomib(80μM)を添加した場合には、コントロール(DMSO)と比較してグラフが大きく左にシフトしており、標的タンパク質(大腸菌DHFR)が分解されていることが確認できた。シフト量から推測される分解効率は50%〜60%程度であった。一方、図2Bに示すとおり、TMP(80μM)を添加した場合には、コントロール(DMSO)とグラフが重なっており、標的タンパク質が分解されていないことが確認できた。
【0223】
<実施例3:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)を添加したHeLa細胞における、タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)と強制発現標的タンパク質(ecDHFR)との親和性の評価(熱シフトアッセイ)>
実施例3では、TMP-CiKD_Bortezomibを添加したHeLa細胞における、TMP-CiKD_Bortezomibと強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)との親和性について、熱シフトアッセイにより評価した。
【0224】
(培養細胞の準備、HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。また、実施例2と同様にHeLa細胞にプラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)を導入した後、24ウェルプレートに播種した。
【0225】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)の添加)
実施例2と同様にして、HeLa細胞にTMP-CiKD_Bortezomibを添加した。コントロールとしては、TMP-CiKD_Bortezomibを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0226】
(熱シフトアッセイによるTMP-CiKD_Bortezomibの標的親和性の評価)
TMP-CiKD_Bortezomib(40μM)又はTMP(40μM)の添加3時間後、培地を除去し、37℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり2mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、37℃のトリプシン(0.25 w/v% Trypsin-1 mmol/L EDTA・4Na Solution with Phenol Red)(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり200μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で1分間培養した。培養後、D−MEM(Low D-Glucose, L-Glutamine, Phenol Red)(Code No. 041-29775, 和光純薬工業(株))に10質量% FBS(Code No. SH30910.03, Lot No. AYG161516, HyClone)及び1質量% PenStrep(100 U/mL Sodium Penicillin G and 100 μg/mL Streptomycin Sulfate)(Code No. 168-23191, 和光純薬工業(株))を添加した培地を各ウェル当たり300μL添加して懸濁し、15mLチューブに細胞溶液を回収した。
【0227】
回収した細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、2mLのPBS(37℃)により懸濁した。懸濁後の細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、CETSAバッファー(TBSにプロテアーゼ阻害剤であるcOmplete, Mini, EDTA-free(Roche)を使用直前に添加)を180μL添加して懸濁した。懸濁後の細胞溶液を9本の1.5mLチューブに20μLずつ分注し、室温にて30分間静置した。静置後、9本のチューブをそれぞれ38℃、42℃、46℃、50℃、54℃、58℃、62℃、66℃、又は70℃で3分間熱処理し、室温にて3分間静置した。静置後、細胞溶液を液体窒素で瞬間凍結し、氷上で融解させた。この凍結融解を3回繰り返した後、遠心分離(13500rpm×20分間、4℃)し、上清(細胞抽出物)を回収した。
【0228】
回収した細胞抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS−PAGEゲル(14ウェル)は、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2−メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で4分間ヒートブロックした。調製した泳動サンプルは、各ウェル当たり17μLずつアプライした。泳動マーカーとしては、Precision Plus Protein Dual Color Standards(Bio-Rad)を用いた。電気泳動は150Vで40分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0229】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、40分間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/High-salt TBS-T(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, 0.2% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tでリンスし、1%スキムミルク/High-salt TBS-T中で抗体反応を行った。抗体としては、Anti-HA-Peroxidase, High-Affinity(3F10)Rat monoclonal antibody(25 U/mL)(Roche)を1500倍希釈して用いた。室温にて90分間振盪させた後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをHigh-salt TBS(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。
【0230】
TMP-CiKD_Bortezomib又はTMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の熱シフトアッセイ結果を図3に示す。
図3に示すとおり、コントロール(DMSO)では約50℃までしか大腸菌DHFRを検出することができなかったが、TMP(40μM)を添加した場合には、大腸菌DHFRとTMPとが相互作用することにより、約54℃まで大腸菌DHFRを検出することができた。同様に、TMP-CiKD_Bortezomib(40μM)を添加した場合には、大腸菌DHFRとTMP-CiKD_Bortezomibとが相互作用することにより、約54℃まで大腸菌DHFRを検出することができた。なお、プロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブ単独では、大腸菌DHFRと相互作用することはなかった。
この結果から、TMP-CiKD_Bortezomibは、TMP−NHとCiKD_Bortezomibとが連結されたものであるが、TMPと同程度に大腸菌DHFRとの親和性を有することが確認できた。
【0231】
<実施例4:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)のプロテアソーム阻害活性及びプロテアソームとの親和性の評価>
実施例4では、TMP-CiKD_Bortezomibのプロテアソーム阻害活性及びプロテアソームとの親和性を評価した。
【0232】
評価には、20S Proteasome StressXpress Assay Kit Gold(Bioscience)を用い、20Sプロテアソームのβ5(キモトリプシン様活性)、β2(トリプシン様活性)、及びβ1(カスパーゼ様活性)の各βサブユニットに特異的なAMC結合プロテアソーム蛍光基質のC末端が切断されることにより生成するAMCをMulti-Detection Microplate Reader(Synergy HT, BIO-TEK)により測定した。測定波長は、励起光(Ex.)を360nm、蛍光(Em.)を460nmとした。
【0233】
β1(カスパーゼ様活性)、β2(トリプシン様活性)、及びβ5(キモトリプシン様活性)の各プロテアソーム活性を図4A図4Cに示す。
図4A図4Cに示すとおり、β1及びβ5に対して、TMP-CiKD_Bortezomibでは、ボルテゾミブ単独と比較して阻害活性がほぼ弱まり、ボルテゾミブの阻害活性が失活していることが確認できた。β2については、ボルテゾミブではあまり阻害されないことが報告されており(Kisselev, A.F. et al. Chemistry & Biology, 2012, 19, 99-115)、この報告と矛盾しない結果であった。
また、β2及びβ5に対して、TMP-CiKD_Bortezomibの濃度依存的に阻害活性が高まることから、TMP-CiKD_Bortezomibとプロテアソームとの親和性が確認された。
【0234】
<実施例5:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)の50%阻害濃度(IC50)の測定>
実施例5では、TMP-CiKD_Bortezomib及びボルテゾミブ(Code No. sc-217785, Santa Cruz Biotechnology)について、20Sプロテアソームのβ1、β2、及びβ5の各プロテアソーム活性に対する50%阻害濃度(IC50)を測定した。
【0235】
50%阻害濃度(IC50)の測定には、20S Proteasome StressXpress Assay Kit Gold(Bioscience)を用い、20Sプロテアソームのβ5(キモトリプシン様活性)、β2(トリプシン様活性)、及びβ1(カスパーゼ様活性)の各βサブユニットに特異的なAMC結合プロテアソーム蛍光基質のC末端が切断されることにより生成するAMCをMulti-Detection Microplate Reader(Synergy HT, BIO-TEK)により測定した。測定波長は、励起光(Ex.)を360nm、蛍光(Em.)を460nmとした。
【0236】
試験化合物(TMP-CiKD_Bortezomib及びボルテゾミブ)は、それぞれ以下の表83に示す6点の濃度に調整した。
【0237】
【表83】
【0238】
試験化合物と20Sプロテアソーム(0.1μg)とを室温で30分間インキュベーションした。そこへ発光基質であるSuc-LLVY-AMC(β5により分解される)、Bz-VGR-AMC(β2により分解される)、及びZ-LLE-AMC(β1により分解される)をそれぞれ100μMとなるように加え、室温でインキュベーションした。1時間後にプロテアソーム活性により生成したAMCを測定した。試験化合物の各々の濃度におけるプロテアソーム分解阻害値を、コントロール(DMSO)との相対値として求めた。6点の濃度の阻害値を用い、解析ソフトウェアImageJ(NIH)により回帰曲線を作成し、4係数(a:マルサス係数、b:混雑定数、c:傾き、d:切片)を得た。そして、得られた4係数及びy=0.5(50%阻害)を以下の4係数ロジスティック曲線の回帰式に導入し、xの値(IC50)を算出した。
4係数ロジスティック曲線の回帰式:y=d+(a−d)/(1+(x/c))
TMP-CiKD_Bortezomib及びボルテゾミブの50%阻害濃度(IC50)を以下の表84に示す。
【0239】
【表84】
【0240】
表84に示すとおり、TMP-CiKD_Bortezomibは、ボルテゾミブと比較して、β1、β2、及びβ5の全てについて50%阻害濃度(IC50)が大きく増加しており、ボルテゾミブの阻害活性が失活していることが確認できた。
【0241】
<実施例6:タンパク質分解誘導タグとしてCiKD_ALLNを用い、タンパク質結合分子としてTMP誘導体を用いたタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)の合成>
実施例6では、下記の合成スキームに従って、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_ALLNを合成した。
タンパク質分解誘導タグとしては、ALLNの活性部位であるホルミル基をカルボキシ基に置き換えたALLN-COOH(CiKD_ALLN)を用いた。また、タンパク質結合分子としては、実施例1と同様にTMP−NHを用いた。そして、ALLN-COOHとTMP−NHとを連結することにより、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_ALLNを合成した。
【0242】
【化6】
【0243】
TMP-CiKD_ALLNの合成方法の詳細は以下のとおりである。
【0244】
(化合物6(ALLN-COOH)の合成)
ナスフラスコにALLN(87.2 mg, 0.23 mmol, 1 eq, Code No. 07036-24, ナカライテスク(株))を仕込み、脱水DMFを2mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、Oxone(212.1 mg, 0.69 mmol, 3 eq, Code No. 228036, Sigma-Aldrich)を反応溶液に直接加え、室温にて5時間撹拌した。反応溶液を水で希釈した後、クロロホルムで3回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(クロロホルム/メタノール=20/1〜10/1, gradient)を用いた分離精製処理により、化合物6(ALLN-COOH)(27.0 mg, 0.068 mmol, 30%)を得た。
【0245】
(化合物7(TMP-CiKD_ALLN)の合成)
ナスフラスコに化合物6(ALLN-COOH)(26.8 mg, 0.067 mmol, 1 eq)及び別途合成したTMP−NH(Long, M.J. et al., Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)(26.0 mg, 0.060 mmol, 0.9 eq)を仕込み、脱水DMFを2mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、DIEAを0.1mL加え、溶液を中性にした。室温にて5分間撹拌した後、DMT−MM(30.0 mg, 0.11 mmol, 1.6 eq, Code No. 329-53751, 和光純薬工業(株))を反応溶液に直接加え、室温にて2時間撹拌した。冷却下で10mLの10質量%食塩水/0.1N 塩酸水溶液を加え、酢酸エチルで3回抽出した。0.5N 塩酸水溶液、次いで食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(クロロホルム/メタノール=10/1)を用いた分離精製処理により、化合物7(TMP-CiKD_ALLN)(8.2 mg, 0.010 mmol, 15%, isolated yield)を得た。
【0246】
<実施例7:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)の評価(FACS解析)>
実施例7では、TMP-CiKD_ALLNを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)について、FACS解析により評価した。
【0247】
(培養細胞の準備、HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。また、実施例2と同様にHeLa細胞にプラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)を導入した後、24ウェルプレートに播種した。
【0248】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)の添加)
TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_ALLNを用いること以外は実施例2と同様にして、HeLa細胞にTMP-CiKD_ALLNを添加した。コントロールとしては、TMP-CiKD_ALLNを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0249】
(FACS解析によるTMP-CiKD_ALLNの標的分解(ノックダウン)の評価)
TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_ALLNを用いること以外は実施例2と同様にして、TMP-CiKD_ALLNによる標的分解(ノックダウン)の効率を確認した。
【0250】
TMP-CiKD_ALLNを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を図5Aに示す。また、TMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を図5Bに示す。
図5Aに示すとおり、TMP-CiKD_ALLN(80μM)を添加した場合には、コントロール(DMSO)と比較してグラフが大きく左にシフトしており、標的タンパク質(大腸菌DHFR)が分解されていることが確認できた。シフト量から推測される分解効率は60%〜70%程度であった。一方、図5Bに示すとおり、TMP(80μM)を添加した場合には、コントロール(DMSO)とグラフが重なっており、標的タンパク質が分解されていないことが確認できた。
【0251】
<実施例8:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)を添加したHeLa細胞における、タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)と強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)との親和性の評価(熱シフトアッセイ)>
実施例8では、TMP-CiKD_ALLNを添加したHeLa細胞における、TMP-CiKD_ALLNと強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)との親和性について、熱シフトアッセイにより評価した。
【0252】
(培養細胞の準備、HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。また、実施例2と同様にHeLa細胞にプラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)を導入した後、24ウェルプレートに播種した。
【0253】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)の添加)
TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_ALLNを用いること以外は実施例2と同様にして、HeLa細胞にTMP-CiKD_ALLNを添加した。コントロールとしては、TMP-CiKD_ALLNを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0254】
(熱シフトアッセイによるTMP-CiKD_ALLNの標的親和性の評価)
TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_ALLNを用いること以外は実施例3と同様にして、熱シフトアッセイによるTMP-CiKD_ALLNの標的親和性の評価を行った。
【0255】
TMP-CiKD_ALLN又はTMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の熱シフトアッセイ結果を図6に示す。
図6に示すとおり、コントロール(DMSO)では約50℃までしか大腸菌DHFRを検出することができなかったが、TMP(40μM)を添加した場合には、大腸菌DHFRとTMPとが相互作用することにより、約54℃まで大腸菌DHFRを検出することができた。同様に、TMP-CiKD_ALLN(40μM)を添加した場合には、大腸菌DHFRとTMP-CiKD_ALLNとが相互作用することにより、約58℃まで大腸菌DHFRを検出することができた。
この結果から、TMP-CiKD_ALLNは、TMP−NHとCiKD_ALLNとが連結されたものであるが、大腸菌DHFRとの親和性がTMPよりも高いことが確認できた。
【0256】
<実施例9:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)のプロテアソーム阻害活性及びプロテアソームとの親和性の評価>
実施例9では、TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_ALLNを用いること以外は実施例4と同様にして、TMP-CiKD_ALLNのプロテアソーム阻害活性及びプロテアソームとの親和性を評価した。
【0257】
β1(カスパーゼ様活性)、β2(トリプシン様活性)、及びβ5(キモトリプシン様活性)の各プロテアソーム活性を図7A図7Cに示す。
図7A図7Cに示すとおり、β2及びβ5の活性に対して、TMP-CiKD_ALLNでは、ALLN単独と比較して阻害活性が弱まり、ALLNの阻害活性が失活していることが確認できた。β1については、ALLNではあまり阻害されないことが報告されており(Kaiser, M. et al., Chem. Bio. Chem., 2004, 5, 1256-1266)、この報告と矛盾しない結果であった。
また、β1、β2、及びβ5のいずれに対しても、TMP-CiKD_ALLNの濃度依存的に阻害活性が高まることから、TMP-CiKD_ALLNとプロテアソームとの親和性が確認された。
【0258】
<実施例10:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)の50%阻害濃度(IC50)の測定>
実施例10では、TMP-CiKD_Bortezomib及びボルテゾミブの代わりにTMP-CiKD_ALLN及びALLN(Code No. 07036-82, ナカライテスク(株))を用いること以外は実施例5と同様にして、20Sプロテアソームのβ1、β2、及びβ5の各プロテアソーム活性に対するTMP-CiKD_ALLN及びALLNの50%阻害濃度(IC50)を測定した。なお、試験化合物(TMP-CiKD_ALLN及びALLN)は、それぞれ以下の表85に示す6点の濃度に調整した。
【0259】
【表85】
【0260】
TMP-CiKD_ALLN及びALLNの50%阻害濃度(IC50)を以下の表86に示す。
【0261】
【表86】
【0262】
表86に示すとおり、TMP-CiKD_ALLNは、ALLNと比較して、β1、β2、及びβ5の全てについて50%阻害濃度(IC50)が大きく増加しており、ALLNの阻害活性が失活していることが確認できた。
【0263】
<実施例11:タンパク質分解誘導タグとしてCiKD_MLNを用い、タンパク質結合分子としてTMP誘導体を用いたタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_MLN)の合成>
実施例11では、下記の合成スキームに従って、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_MLNを合成した。
タンパク質分解誘導タグとしては、MLN9708及びMLN2238の活性部位であるボロン酸エステル部位又はボロニル基をカルボキシ基に置き換えたMLN-COOH(CiKD_MLN)を用いた。また、タンパク質結合分子としては、実施例1と同様にTMP−NHを用いた。そして、MLN-COOHとTMP−NHとを連結することにより、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_MLNを合成した。
【0264】
【化7】
【0265】
TMP-CiKD_MLNの合成方法の詳細は以下のとおりである。
【0266】
(化合物8の合成)
枝付きナスフラスコにH-Gly-OtBu・HCl(286.8 mg, 1.69 mmol, 1 eq, Code No. AK-46074, Ark Pharm)を仕込み、窒素置換した。窒素気流下で脱水DMF10mLとDIEA5mLとを加え、室温にて撹拌した。2,5−ジクロロ安息香酸(309.3 mg, 1.62 mmol, 1 eq, Code No. AK-47665, Ark Pharm)を1mLの脱水DMF及び1mLのDIEAに溶解した後、反応溶液に加え、室温にて20分間撹拌した。PyBOP(1.02 g, 1.96 mmol, 1.2 eq, Code No. 8.51009.0005, Novabiochem, Merck)を1mLの脱水DMFに溶解した後、反応溶液に加え、室温にて3時間撹拌した。反応溶液を水及び炭酸水素ナトリウム水溶液で希釈し、酢酸エチル/ヘキサン(=4/1)で2回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(ヘキサン/クロロホルム=1/1〜0/1, gradient)を用いた分離精製処理により、化合物8(531.0 mg, 1.75 mmol, 103%)を得た。
【0267】
(化合物9の合成)
ナスフラスコに化合物8(212.4 mg, 0.70 mmol)を仕込み、ジクロロメタンを5mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、TFAを5mL加え、室温にて1時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、真空乾燥し、化合物9(190.7 mg, quant.)を得た。
【0268】
(化合物10の合成)
枝付きナスフラスコに化合物9(190.7 mg, 0.77 mmol, 1 eq)及びH-Leu-OtBu・HCl(175.8 mg, 0.79 mmol, 1 eq, Code No. 14G110356, 渡辺化学工業(株))を仕込み、窒素置換した。窒素気流下で脱水DMF5mLとDIEA5mLとを加え、室温にて20分間撹拌した。PyBOP(886.7 mg, 1.70 mmol, 2.2 eq, Code No. 8.51009.0005, Novabiochem, Merck)を1.5mLの脱水DMFに溶解した後、反応溶液に加え、室温にて3時間撹拌した。反応溶液を水及び炭酸水素ナトリウム水溶液で希釈し、酢酸エチル/ヘキサン(=4/1)で2回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(ヘキサン/クロロホルム=1/1〜0/1, gradient)を用いた分離精製処理により、化合物10(244.2 mg, 0.58 mmol, 76%)を得た。
【0269】
(化合物11(MLN-COOH)の合成)
ナスフラスコに化合物10(240.8 mg, 0.58 mmol)を仕込み、ジクロロメタンを5mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、TFAを5mL加え、室温にて1時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、真空乾燥し、化合物11(MLN-COOH)(214.7 mg, 0.59 mmol, 100%)を得た。
【0270】
(化合物12(TMP-CiKD_MLN)の合成)
枝付きナスフラスコに化合物11(MLN-COOH)(210.3 mg, 0.58 mmol, 1 eq)を仕込み、窒素置換した。別途合成したTMP−NH(Long, M.J. et al., Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)(207.6 mg, 0.48 mmol, 0.8 eq)を5mLの脱水DMFに溶解した後、反応溶液に加えた。DIEAを5mL加え、室温にて20分間撹拌した。PyBOP(765.2 mg, 1.47 mmol, 2.5 eq, Code No. 8.51009.0005, Novabiochem, Merck)を1.5mLの脱水DMFに溶解した後、反応溶液に加え、室温にて18時間撹拌した。反応溶液を水及び炭酸水素ナトリウム水溶液で希釈し、酢酸エチルで2回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(クロロホルム/メタノール=20/1〜4/1, gradient)により分離精製処理を行った。次いで、TLC silica gel 60(Code No. HX264817, Merck)(クロロホルム/メタノール=10/1)を用いた分離精製処理により、化合物12(TMP-CiKD_MLN)(20.2 mg, 0.026 mmol, 5%, isolated yield)を得た。
【0271】
<実施例12:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_MLN)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)の評価(FACS解析)>
実施例12では、TMP-CiKD_MLNを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)について、FACS解析により評価した。
【0272】
(培養細胞の準備、HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。また、実施例2と同様にHeLa細胞にプラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)を導入した後、24ウェルプレートに播種した。
【0273】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_MLN)の添加)
TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_MLNを用いること以外は実施例2と同様にして、HeLa細胞にTMP-CiKD_MLNを添加した。また、TMP-CiKD_MLNを含有するDMSO溶液を添加する実験群のほかに、TMP-CiKD_MLN及びボルテゾミブを含有するDMSO溶液を添加する実験群も準備した。コントロールとしては、TMP-CiKD_MLNを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0274】
(FACS解析によるTMP-CiKD_MLNの標的分解(ノックダウン)の評価)
TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_MLN、又はTMP-CiKD_MLN及びボルテゾミブを用いること以外は実施例2と同様にして、TMP-CiKD_MLNによる標的分解(ノックダウン)の効率を確認した。
【0275】
TMP-CiKD_MLNを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を図8Aに示す。また、TMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を図8Bに示す。また、TMP-CiKD_MLN及びボルテゾミブを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を図8Cに示す。
図8Aに示すとおり、TMP-CiKD_MLN(80μM)を添加した場合には、コントロール(DMSO)と比較してグラフが大きく左にシフトしており、標的タンパク質(大腸菌DHFR)が分解されていることが確認できた。シフト量から推測される分解効率は60%〜70%程度であった。一方、図8Bに示すとおり、TMP(80μM)を添加した場合には、コントロール(DMSO)とグラフが重なっており、標的タンパク質が分解されていないことが確認できた。
また、図8Cに示すとおり、TMP-CiKD_MLN(80μM)及びボルテゾミブ(1.5μM)を添加した場合には、TMP-CiKD_MLN(80μM)を添加した場合よりも標的タンパク質の分解が阻害された。この結果は、TMP-CiKD_MLNによって、標的タンパク質がプロテアソームによる分解へと導かれていたことを示唆している。
【0276】
<実施例13:タンパク質分解誘導タグとしてCiKD_MLNを用い、タンパク質結合分子としてMTX誘導体を用いたタンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)の合成>
実施例13では、下記の合成スキームに従って、タンパク質分解誘導分子であるMTX-CiKD_MLNを合成した。
タンパク質分解誘導タグとしては、MLN9708及びMLN2238の活性部位であるボロン酸エステル部位又はボロニル基をカルボキシ基に置き換えたMLN-COOH(CiKD_MLN)を用いた。また、タンパク質結合分子としては、DHFRと結合するジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害剤であるMTXにアミノ基を含む官能基を導入したMTX誘導体(MTX−NH)を用いた。そして、MLN-COOHとMTX−NHとを連結することにより、タンパク質分解誘導分子であるMTX-CiKD_MLNを合成した。
【0277】
【化8】
【0278】
MTX-CiKD_MLNの合成方法の詳細は以下のとおりである。
【0279】
(化合物21(MTX-NH2)の合成)
化合物13をDMA中でトリフェニルホスフィンジブロミドと反応させ、化合物14を得た。化合物14を窒素気流下でDMAに溶解した後、化合物15とDIEAとを加えて反応させ、化合物16を得た(収率:69%)。次いで、化合物16と化合物17とを窒素気流下でDMSOに溶解し、BOP試薬により縮合反応を行い、化合物18を得た(収率:46%)。次いで、化合物18と化合物19とを窒素気流下でDMAに溶解し、HATUにより縮合反応を行い、化合物20を得た(収率:69%)。次いで、化合物20をジクロロメタンに溶解し、TFAにより脱保護を行うことで、化合物21(MTX-NH2)を得た。
【0280】
(化合物22(MTX-CiKD_MLN)の合成)
化合物21(MTX-NH2)と、化合物12(TMP-CiKD_MLN)の合成に用いた化合物11とを窒素気流下でDMFに溶解し、PyBOPにより縮合反応を行った(室温、3時間)。反応溶液を水及び炭酸水素ナトリウム水溶液で希釈し、酢酸エチルで3回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=20/1〜4/1, gradient)により分離精製処理を行った。次いで、TLC silica gel 60(クロロホルム/メタノール=85/15)を用いた分離精製処理により、化合物22(MTX-CiKD_MLN)を得た(単離収率:8%)。
【0281】
<実施例14:タンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)を添加したHeLa細胞における、タンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)と内在発現標的タンパク質(ヒトDHFR)との親和性の評価(熱シフトアッセイ)>
実施例14では、MTX-CiKD_MLNを添加したHeLa細胞における、MTX-CiKD_MLNと内在発現標的タンパク質(ヒトDHFR)との親和性について、熱シフトアッセイにより評価した。
【0282】
(培養細胞の準備及び細胞播種)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。トリプシン処理により回収した細胞溶液を、24ウェルプレート(Code No. TR5002, TrueLine, 日本ジェネティクス(株))に4×10細胞/800μL/ウェルの細胞密度で播種した後、37℃、5体積% COの条件下で16時間培養した。
【0283】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)の添加)
細胞播種から16時間後に、以下のようにして、HeLa細胞にMTX-CiKD_MLNを添加した。培地としては、D−MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyrvate)(Code No. 045-32245, 和光純薬工業(株))に1質量% L−グルタミン溶液(Code No. G7513, Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を用いた。なお、L−グルタミン溶液は使用直前に添加した。MTX-CiKD_MLNを含有するDMSO溶液をDMSO濃度が1体積%となるように培地と混合し、前培養培地を除去したウェルに各ウェル当たり500μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で培養した。
なお、コントロールとしては、MTX-CiKD_MLNを含有するDMSO溶液の代わりに、MTXを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0284】
(熱シフトアッセイによるMTX-CiKD_MLNの標的親和性の評価)
MTX-CiKD_MLN(40μM)又はMTX(40μM)の添加3時間後、培地を除去し、37℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり1mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、37℃のトリプシン(0.25 w/v% Trypsin-1 mmol/L EDTA・4Na Solution with Phenol Red)(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり200μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で1分間培養した。培養後、D−MEM(Low D-Glucose, L-Glutamine, Phenol Red)(Code No. 041-29775, 和光純薬工業(株))に10質量% FBS(Code No. SH30910.03, Lot No. AYG161516, HyClone)及び1質量% PenStrep(100 U/mL Sodium Penicillin G and 100 μg/mL Streptomycin Sulfate)(Code No. 168-23191, 和光純薬工業(株))を添加した培地を各ウェル当たり0.8mL添加して懸濁し、15mLチューブに細胞溶液を回収した。
【0285】
回収した細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、2mLのPBS(37℃)により懸濁した。懸濁後の細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、CETSAバッファー(TBSにプロテアーゼ阻害剤であるcOmplete, Mini, EDTA-free(Roche)を使用直前に添加)を170μL添加して懸濁した。懸濁後の細胞溶液を9本の1.5mLチューブに20μLずつ分注し、室温にて30分間静置した。静置後、9本のチューブをそれぞれ38℃、42℃、46℃、50℃、54℃、58℃、62℃、66℃、又は70℃で3分間熱処理し、室温にて3分間静置した。静置後、細胞溶液を液体窒素で瞬間凍結し、氷上で融解させた。この凍結融解を3回繰り返した後、遠心分離(13500rpm×20分間、4℃)し、上清(細胞抽出物)を回収した。
【0286】
回収した細胞抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS−PAGEゲル(14ウェル)は、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2−メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で4分間ヒートブロックした。調製した泳動サンプルは、各ウェル当たり17μLずつアプライした。泳動マーカーとしては、Precision Plus Protein Dual Color Standards(Bio-Rad)を用いた。電気泳動は160Vで60分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0287】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、2時間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/TBS−T(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.1% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、5%スキムミルク/TBS−T中で一次抗体反応を行った。一次抗体としては、抗DHFR抗体(sc-377091, SantaCruz)を500倍希釈して用いた。4℃にて一晩振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。一次抗体反応後、2%スキムミルク/TBS−T中で二次抗体反応を行った。二次抗体としては、抗マウスIgG(H+L)抗体(A90-116P-33, BETHYL)を10000倍希釈して用いた。室温にて30分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをTBS(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。
【0288】
MTX-CiKD_MLN又はMTXを添加したHeLa細胞における内在発現標的タンパク質(ヒトDHFR)の熱シフトアッセイ結果を図9に示す。
図9に示すとおり、コントロール(DMSO)では約42℃までしかヒトDHFRを検出することができなかったが、MTX-CiKD_MLN(40μM)を添加した場合には、ヒトDHFRとMTX-CiKD_MLNとが相互作用することにより、約50℃までヒトDHFRを検出することができた。
この結果から、MTX-CiKD_MLNは、MTX−NHとCiKD_MLNとが連結されたものであるが、ヒトDHFRとの親和性を有することが確認できた。
【0289】
<実施例15:タンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)を添加したHeLa細胞における内在発現標的タンパク質(ヒトDHFR)の分解(ノックダウン)の評価(ウェスタンブロット解析)>
実施例15では、MTX-CiKD_MLNを添加したHeLa細胞における内在発現標的タンパク質(ヒトDHFR)の分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した。
【0290】
(培養細胞の準備及び細胞播種)
実施例14と同様にして、HeLa細胞を準備し、24ウェルプレートに播種した。
【0291】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)の添加)
実施例14と同様にして、HeLa細胞にMTX-CiKD_MLNを添加した。コントロールとしては、MTX-CiKD_MLNを含有するDMSO溶液の代わりに、MTXを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0292】
(ウェスタンブロット解析によるMTX-CiKD_MLNの標的分解(ノックダウン)の評価)
MTX-CiKD_MLN(50μM、100μM、若しくは200μM)又はMTX(50μM、100μM、若しくは200μM)の添加16時間後、培地を除去し、4℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり1mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、細胞溶解バッファー(CelLytic M, Sigma)とプロテアーゼ阻害剤(cOmplete Mini, EDTA-free (REF 11 836 170 001), Roche)との混合溶液を各ウェル当たり27μL添加した。4℃にて15分間静置した後、ピペットチップ(P1000)を用いて氷上で細胞を剥がした。細胞溶液を1.5mLチューブに回収し、液体窒素で瞬間凍結した後、氷上で融解させた。融解後、遠心分離(12000rpm×15分間、4℃)し、上清(細胞抽出物)を回収した。
【0293】
回収した細胞抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS−PAGEゲル(14ウェル)は、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2−メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で4分間ヒートブロックした。調製した泳動サンプルは、各ウェル当たり20μLずつアプライした。泳動マーカーとしては、Precision Plus Protein Dual Color Standards(Bio-Rad)を用いた。電気泳動は160Vで65分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0294】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、2時間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。メンブレンは、25kDaマーカーの位置で2つに分割した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/TBS−T(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.1% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、5%スキムミルク/TBS−T中で一次抗体反応を行った。一次抗体としては、抗DHFR抗体(sc-14780, SantaCruz、500倍希釈)及び抗GAPDH抗体(sc-32233, SantaCruz、20000倍希釈)を用いた。室温にて90分間(抗DHFR抗体)又は45分間(抗GAPDH抗体)振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。一次抗体反応後、2%スキムミルク/TBS−T中で二次抗体反応を行った。室温にて30分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをTBS(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。検出されたバンドの定量には、画像処理ソフトウェアImageJ(NIH)を用いた。
【0295】
MTX-CiKD_MLN又はMTXを添加したHeLa細胞において、内在発現標的タンパク質(ヒトDHFR)のウェスタンブロット解析により検出されたバンドの定量結果を図10Aに示し、検出されたバンドを図10Bに示す。
図10A及び図10Bに示すとおり、MTX-CiKD_MLNを添加した場合には、濃度依存的に標的タンパク質(ヒトDHFR)の量が減少した。一方、MTXを添加した場合には、濃度が200μMの場合であっても、標的タンパク質(ヒトDHFR)の量の減少は観察されなかった。
【0296】
<実施例16:タンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)を投与したマウス個体における内在発現標的タンパク質(マウスDHFR)の分解(ノックダウン)の評価>
実施例16では、MTX-CiKD_MLNを投与したマウス個体における内在発現標的タンパク質(マウスDHFR)の分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した。
【0297】
(マウスへのタンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)の投与)
C57BL/6J野生型マウス(7週齢、雄)(日本クレア(株))に、DMSO、10mg/kg MTX、50mg/kg MTX-CiKD_MLN、又は100mg/kg MTX-CiKD_MLNを24時間投与した(n=3)。MTX-CiKD_MLN及びMTXは、DMSOに溶解した後、DMSOの濃度が10体積%となるようにトウモロコシ油(Code No. 25606-55,ナカライテスク(株))に溶解させ、腹腔内投与した。マウスは、餌及び水が自由摂取できる環境下で飼育した。投与24時間後に、ソムノペンチル(製造番号:3214101、共立製薬(株))による深麻酔下で、マウスを解剖した。肝臓、腎臓、脾臓、心臓、及び肺を摘出し、液体窒素で瞬間凍結させた。
【0298】
(マウス組織のウェスタンブロット解析)
凍結した肝臓(40mg)を粉砕した後、980μLの1×TKM組織溶解バッファー(50 mM トリエタノールアミン(pH 7.8), 50 mM KCl, 5 mM MgCl2, 0.25 M sucrose, 1 mM PMSF, protein inhibitors cocktail-EDTA free(Code No.03969-21, ナカライテスク(株)), 1 mM DTT,Ricombinant RNase inhibitor 5μL/mL(40 U/μL, Cat No. 2313A, Lot No. K8402DA, TAKARA))を加え、15分間回転(1rpm、25℃)させた。遠心分離(3000rpm×15分間、4℃)し、上清(肝臓組織抽出物)を回収した。抽出したタンパク質は、分光光度計で濃度を定量した。
【0299】
回収した肝臓組織抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS−PAGEゲル(14ウェル)は、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2−メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で5分間ヒートブロックした。調製した泳動サンプルは、100μg/20μL/ウェル(DHFR検出用)又は50μg/10μL/ウェル(GAPDH検出用)となるようにアプライした。泳動マーカーとしては、Precision Plus Protein Dual Color Standards(Bio-Rad)を用いた。電気泳動は160Vで60分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0300】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、90分間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/TBS−T(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.1% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、5%スキムミルク/TBS−T中で一次抗体反応を行った。一次抗体としては、抗DHFR抗体(sc-14780, SantaCruz、500倍希釈)及び抗GAPDH抗体(sc-32233, SantaCruz、20000倍希釈)を用いた。室温にて60分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。一次抗体反応後、1%スキムミルク/TBS−T中で二次抗体反応を行った。室温にて30分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをTBS(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.6)で10分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。
【0301】
MTX-CiKD_MLN又はMTXを投与したマウス個体の肝臓組織抽出物における内在発現標的タンパク質(マウスDHFR)のウェスタンブロット解析結果を図11に示す。
図11に示すとおり、50mg/kg又は100mg/kgのMTX-CiKD_MLNをマウスに24時間投与した場合には、濃度依存的に、肝臓組織内の標的タンパク質(マウスDHFR)の量が減少した。この結果は、マウス個体において、僅か1日で約70%〜80%の標的タンパク質(マウスDHFR)が分解されたことを示している。一方、10mg/kgのMTXをマウスに24時間投与した場合には、コントロール(DMSO)よりも、肝臓組織内の標的タンパク質(マウスDHFR)の量が増加した。
【0302】
<実施例17:タンパク質分解誘導タグとしてCiKD_DMTを用い、タンパク質結合分子としてTMP誘導体を用いたタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)の合成>
実施例17では、下記の合成スキームに従って、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_DMTを合成した。
タンパク質分解誘導タグとしては、前述した式(I)においてR及びRをいずれもメトキシ基とした化合物(DMT)を用いた。DMTは、プロテアソーム阻害剤に由来しないものの、プロテアソームに対して親和性を有する化合物である。また、タンパク質結合分子としては、実施例1と同様にTMP−NHを用いた。そして、DMTとTMP−NHとを連結することにより、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_DMTを合成した。
【0303】
【化9】
【0304】
TMP-CiKD_DMTの合成方法の詳細は以下のとおりである。
【0305】
ナスフラスコにTMP−NH(Long, M.J. et al., Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)(31.7 mg, 0.073 mmol)を仕込み、脱水DMFを0.3mL加えた。室温で10分間撹拌した後、DIEAを0.1mL加え、室温で10分間撹拌した。DMT−MM(33.6 mg, 0.12 mmol, 1.6 eq, Code No. 329-53751, 和光純薬工業(株))を反応溶液に直接加え、室温にて18時間撹拌した。反応溶液を水及び炭酸水素ナトリウム水溶液で希釈し、クロロホルムで5回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(クロロホルム/メタノール=92/8)を用いた分離精製処理により、TMP-CiKD_DMT(25.8 mg, 0.045 mmol, 62%, isolated yield)を得た。
【0306】
<実施例18:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)のプロテアソーム阻害活性及びプロテアソームとの親和性の評価>
実施例18では、TMP-CiKD_Bortezomibの代わりに10μM又は100μMのTMP-CiKD_DMTを用いること以外は実施例4と同様にして、TMP-CiKD_DMTのプロテアソーム阻害活性及びプロテアソームとの親和性を評価した。ポジティブコントロールとしては、プロテアソーム阻害剤であるMG−132を用いた。
【0307】
β1(カスパーゼ様活性)、β2(トリプシン様活性)、及びβ5(キモトリプシン様活性)の各プロテアソーム活性を図12A図12Cに示す。
図12A図12Cに示すとおり、TMP-CiKD_DMTは、MG−132と比較して、プロテアソーム阻害活性が著しく低いことが確認できた。また、β1、β2、及びβ5のいずれに対しても、TMP-CiKD_DMTの濃度依存的に阻害活性が高まることから、TMP-CiKD_DMTがプロテアソームと穏やかな親和性を有していることが示唆された。すなわち、DMTは、プロテアソームと親和性を有するものの、分解を阻害しないと評価された。
【0308】
<実施例19:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)の50%阻害濃度(IC50)の測定>
実施例19では、TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_DMTを用いること以外は実施例5と同様にして、20Sプロテアソームのβ1、β2、及びβ5の各プロテアソーム活性に対するTMP-CiKD_DMTの50%阻害濃度(IC50)を測定した。ポジティブコントロールとしては、プロテアソーム阻害剤であるMLN2238を用いた。
【0309】
TMP-CiKD_DMT及びMLN2238の50%阻害濃度(IC50)を以下の表87に示す。
【0310】
【表87】
【0311】
表87に示すとおり、TMP-CiKD_DMTは、MLN2238と比較して、プロテアソーム阻害活性が著しく低いことが確認できた。
【0312】
<実施例20:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)を添加したHeLa細胞における、タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)と強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)との親和性の評価(熱シフトアッセイ)>
実施例20では、TMP-CiKD_DMTを添加したHeLa細胞における、TMP-CiKD_DMTと強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)との親和性について、熱シフトアッセイにより評価した。
【0313】
(培養細胞の準備)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。
【0314】
(HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
HeLa細胞にプラスミドを導入することにより、細胞内に標的タンパク質であるecDHFR(詳細には、HAタグを介したecDHFRとGFPとの融合タンパク質)又は比較用のDsRedを一過的に過剰発現させ、TMP-CiKD_DMTの標的タンパク質への作用を評価した。
【0315】
プラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)は、ブランダイス大学(米国)のLizbeth Hedstrom教授より提供を受けた(Long, M.J. et al., "Inhibitor mediated protein degradation.", Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)。このプラスミドを大腸菌で増幅した後、Miniprep Kit(Code No. 27106, QIAGEN)で精製した。
【0316】
HeLa細胞へのプラスミド導入には、トランスフェクション試薬であるScreenFectA(Code No. 297-73201, 和光純薬工業(株))を用いた。ScreenFectAのDilution Bufferを2本の1.5mLチューブに250μLずつ加えた。そして、一方のチューブにはScreenFectAのTransfection Reagentを12μL添加し(溶液A)、他方のチューブにはプラスミドを6μg添加し(溶液B)、それぞれを軽くピペッティングした後、室温にて2分間静置した。溶液Aと溶液Bとを軽く混ぜ合わせ、室温にて30分間静置した(溶液C)。トリプシン処理により回収した6×10細胞/12mLの細胞溶液に溶液Cを混合し、24ウェルプレート(Code No. TR5002, TrueLine, 日本ジェネティクス(株))に4×10細胞/800μL/ウェルの細胞密度で播種した後、37℃、5体積% COの条件下で40時間培養した。
【0317】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)の添加)
プラスミドを導入してから40時間培養した後、以下のようにして、HeLa細胞にTMP-CiKD_DMTを添加した。培地としては、D−MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyrvate)(Code No. 045-32245, 和光純薬工業(株))に1質量% L−グルタミン溶液(Code No. G7513, Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を用いた。なお、L−グルタミン溶液は使用直前に添加した。TMP-CiKD_DMTを含有するDMSO溶液をDMSO濃度が1体積%となるように培地と混合し、前培養培地を除去したウェルに各ウェル当たり300μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で培養した。
なお、コントロールとしては、TMP-CiKD_DMTを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0318】
(熱シフトアッセイによるTMP-CiKD_DMTの標的親和性の評価)
TMP-CiKD_DMT(28μM)又はTMP(40μM)の添加3時間後、培地を除去し、37℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり1mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、37℃のトリプシン(0.25 w/v% Trypsin-1 mmol/L EDTA・4Na Solution with Phenol Red)(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり300μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で1分間培養した。培養後、D−MEM(Low D-Glucose, L-Glutamine, Phenol Red)(Code No. 041-29775, 和光純薬工業(株))に10質量% FBS(Code No. SH30910.03, Lot No. AYG161516, HyClone)及び1質量% PenStrep(100 U/mL Sodium Penicillin G and 100 μg/mL Streptomycin Sulfate)(Code No. 168-23191, 和光純薬工業(株))を添加した培地を各ウェル当たり1mL添加して懸濁し、15mLチューブに細胞溶液を回収した。
【0319】
回収した細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、2mLのPBS(37℃)により懸濁した。懸濁後の細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、CETSAバッファー(TBSにプロテアーゼ阻害剤であるcOmplete, Mini, EDTA-free(Roche)を使用直前に添加)を180μL添加して懸濁した。懸濁後の細胞溶液を9本の1.5mLチューブに20μLずつ分注し、室温にて30分間静置した。静置後、9本のチューブをそれぞれ38℃、42℃、46℃、50℃、54℃、58℃、62℃、66℃、又は70℃で3分間熱処理し、室温にて3分間静置した。静置後、細胞溶液を液体窒素で瞬間凍結し、氷上で融解させた。この凍結融解を3回繰り返した後、遠心分離(13500rpm×20分間、4℃)し、上清(細胞抽出物)を回収した。
【0320】
回収した細胞抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS−PAGEゲル(14ウェル)は、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2−メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で4分間ヒートブロックした。調製した泳動サンプルは、各ウェル当たり17μLずつアプライした。泳動マーカーとしては、Precision Plus Protein Dual Color Standards(Bio-Rad)を用いた。電気泳動は150Vで40分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0321】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、40分間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/High-salt TBS-T(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, 0.2% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tでリンスし、1%スキムミルク/High-salt TBS-T中で抗体反応を行った。抗体としては、Anti-HA-Peroxidase, High-Affinity(3F10)Rat monoclonal antibody(25 U/mL)(Roche)を1000倍希釈して用いた。室温にて90分間振盪させた後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをHigh-salt TBS(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。
【0322】
TMP-CiKD_DMT又はTMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の熱シフトアッセイ結果を図13に示す。
コントロール(DMSO)では約50℃までしか大腸菌DHFRを検出することができなかったが、TMP(40μM)では約54℃まで、TMP-CiKD_DMT(28μM)では約62℃まで大腸菌DHFRを検出することができた。
この結果から、TMP-CiKD_DMTは、TMP−NHとDMTとが連結されたものであるが、大腸菌DHFRとの親和性がTMPよりも高いことが確認できた。
【0323】
<実施例21:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)の評価(FACS解析)>
実施例21では、TMP-CiKD_DMTを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)について、FACS解析により評価した。
【0324】
(培養細胞の準備)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。
【0325】
(HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
HeLa細胞にプラスミドを導入することにより、細胞内に標的タンパク質である大腸菌DHFR(詳細には、HAタグを介した大腸菌DHFRとGFPとの融合タンパク質)又は比較用のDsRedを一過的に過剰発現させ、TMP-CiKD_DMTの標的タンパク質への作用を評価した。
【0326】
プラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)は、ブランダイス大学(米国)のLizbeth Hedstrom教授より提供を受けた(Long, M.J. et al., "Inhibitor mediated protein degradation.", Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)。このプラスミドを大腸菌で増幅した後、Miniprep Kit(Code No. 27106, QIAGEN)で精製した。
【0327】
HeLa細胞へのプラスミド導入には、トランスフェクション試薬であるScreenFectA(Code No. 297-73201, 和光純薬工業(株))を用いた。ScreenFectAのDilution Bufferを2本の1.5mLチューブに960μLずつ加えた。そして、一方のチューブにはScreenFectAのTransfection Reagentを40μL添加し(溶液A)、他方のチューブにはプラスミドを16μg添加し(溶液B)、それぞれを軽くピペッティングした後、室温にて2分間静置した。溶液Aと溶液Bとを軽く混ぜ合わせ、室温にて30分間静置した(溶液C)。トリプシン処理により回収した2.7×10細胞/18mLの細胞溶液に溶液Cを混合し、24ウェルプレート(Code No. TR5002, TrueLine, 日本ジェネティクス(株))に6×10細胞/400μL/ウェルの細胞密度で播種した後、37℃、5体積% COの条件下で40時間培養した。
【0328】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)の添加)
以下のようにして、HeLa細胞にTMP-CiKD_DMTを添加した。プラスミドを導入してから40時間培養した後、前培養培地を除去し、D−MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyrvate)(Code No. 045-32245, 和光純薬工業(株))に1質量% L−グルタミン溶液(Code No. G7513, Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を各ウェル当たり297μL添加した。なお、L−グルタミン溶液は使用直前に添加した。所定濃度のTMP-CiKD_DMTを含有するDMSO溶液を各ウェル当たり3μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で培養した。
なお、コントロールとしては、TMP-CiKD_DMTを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0329】
TMP-CiKD_DMT(56μM若しくは112μM)又はTMP(80μM)の添加24時間後、培地を除去し、37℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり1mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、37℃のトリプシン(0.25 w/v% Trypsin-1 mmol/L EDTA・4Na Solution with Phenol Red)(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり300μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で1分間培養した。培養後、D−MEM(Low D-Glucose, L-Glutamine, Phenol Red)(Code No. 041-29775, 和光純薬工業(株))に10質量% FBS(Code No. SH30910.03, Lot No. AYG161516, HyClone)及び1質量% PenStrep(100 U/mL Sodium Penicillin G and 100 μg/mL Streptomycin Sulfate)(Code No. 168-23191, 和光純薬工業(株))を添加した培地を各ウェル当たり500μL添加して懸濁し、15mLチューブに細胞溶液を回収した。
【0330】
回収した細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、2mLのPBS(37℃)により懸濁した。懸濁後の細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、4℃のFACSバッファー(1質量% FBS/PBS)を500μL添加し、氷上に静置した。
【0331】
フローサイトメトリーにはBD FACSCanto II(BD Biosciences)を用い、細胞中におけるGFR及びDsRedの発現を定量した。FACS解析の直前に、細胞溶液を孔径32μmのメッシュに通し、FACSチューブへと移した。解析ソフトFLOWJO(トミーデジタルバイオロジー(株))により細胞1個当たりのGFR/DsRed比を算出し、標的分解によるグラフのシフトから、TMP-CiKD_DMTによる標的分解(ノックダウン)の効率を確認した。
【0332】
TMP-CiKD_DMT(56μM)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を図14Aに示す。また、TMP-CiKD_DMT(112μM)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を図14Bに示す。また、TMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を図14Cに示す。
図14A及び図14Bに示すとおり、TMP-CiKD_DMTを添加した場合には、コントロール(DMSO)と比較して、濃度依存的にグラフの左へのシフト量が大きくなっており、標的タンパク質(大腸菌DHFR)が分解されていることが確認できた。シフト量から推測される分解効率は60%〜70%程度であった。一方、図14Cに示すとおり、TMPを添加した場合には、コントロール(DMSO)とグラフが重なっており、標的タンパク質が分解されていないことが確認できた。
【0333】
<実施例22:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)の評価(ウェスタンブロット解析)>
実施例22では、TMP-CiKD_DMTを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した。
【0334】
(培養細胞の準備)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。
【0335】
(HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
HeLa細胞にプラスミドを導入することにより、細胞内に標的タンパク質である大腸菌DHFR(詳細には、HAタグを介した大腸菌DHFRとGFPとの融合タンパク質)又は比較用のDsRedを一過的に過剰発現させ、TMP-CiKD_DMTの標的タンパク質への作用を評価した。
【0336】
プラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)は、ブランダイス大学(米国)のLizbeth Hedstrom教授より提供を受けた(Long, M.J. et al., "Inhibitor mediated protein degradation.", Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)。このプラスミドを大腸菌で増幅した後、Miniprep Kit(Code No. 27106, QIAGEN)で精製した。
【0337】
HeLa細胞へのプラスミド導入には、トランスフェクション試薬であるScreenFectA(Code No. 297-73201, 和光純薬工業(株))を用いた。ScreenFectAのDilution Bufferを2本の1.5mLチューブに250μLずつ加えた。そして、一方のチューブにはScreenFectAのTransfection Reagentを12μL添加し(溶液A)、他方のチューブにはプラスミドを4.8μg添加し(溶液B)、それぞれを軽くピペッティングした後、室温にて2分間静置した。溶液Aと溶液Bとを軽く混ぜ合わせ、室温にて30分間静置した(溶液C)。トリプシン処理により回収した7.7×10細胞/7.7mLの細胞溶液に溶液Cを混合し、24ウェルプレート(Code No. TR5002, TrueLine, 日本ジェネティクス(株))に4×10細胞/400μL/ウェルの細胞密度で播種した後、37℃、5体積% COの条件下で40時間培養した。
【0338】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)の添加)
プラスミドを導入してから40時間培養した後、以下のようにして、HeLa細胞にTMP-CiKD_DMTを添加した。培地としては、D−MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyrvate)(Code No. 045-32245, 和光純薬工業(株))に1質量% L−グルタミン溶液(Code No. G7513, Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を用いた。なお、L−グルタミン溶液は使用直前に添加した。TMP-CiKD_DMTを含有するDMSO溶液をDMSO濃度が1体積%となるように培地と混合し、前培養培地を除去したウェルに各ウェル当たり300μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で培養した。また、TMP-CiKD_DMTを含有するDMSO溶液を添加する実験群のほかに、TMP-CiKD_DMT及びボルテゾミブを含有するDMSO溶液を添加する実験群も準備した。TMP-CiKD_DMT、又はTMP-CiKD_DMT及びボルテゾミブの添加12時間後に、タンパク質合成阻害剤であるシクロへキシミドを50μg/mLの濃度となるように培地中に添加した。
なお、コントロールとしては、TMP-CiKD_DMTを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0339】
(ウェスタンブロット解析によるTMP-CiKD_DMTの標的分解(ノックダウン)の評価)
TMP-CiKD_DMT、又はTMP-CiKD_DMT及びボルテゾミブの添加24時間後、培地を除去し、4℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり1mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、細胞溶解バッファー(CelLytic M, Sigma)とプロテアーゼ阻害剤(cOmplete Mini, EDTA-free (REF 11 836 170 001), Roche)との混合溶液を各ウェル当たり55μL添加した。4℃にて15分間静置した後、ピペットチップ(P1000)を用いて氷上で細胞を剥がした。細胞溶液を1.5mLチューブに回収し、液体窒素で瞬間凍結した後、氷上で融解させた。凍結融解を3回繰り返した後、遠心分離(13000rpm×20分間、4℃)し、上清(細胞抽出物)を回収した。
【0340】
回収した細胞抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS−PAGEゲル(8ウェル)は、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2−メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で4分間ヒートブロックした。調製した泳動サンプルは、各ウェル当たり40μLずつアプライした。泳動マーカーとしては、Precision Plus Protein Dual Color Standards(Bio-Rad)を用いた。電気泳動は150Vで50分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0341】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、40分間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/High-salt TBS-T(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, 0.2% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tでリンスし、1%スキムミルク/High-salt TBS-T中で抗体反応を行った。抗体としては、Anti-HA-Peroxidase, High-Affinity(3F10)Rat monoclonal antibody(25 U/mL)(Roche)を1000倍希釈して用いた。室温にて1時間振盪させた後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをHigh-salt TBS(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。
【0342】
次に、同一のメンブレンを用いて、コントロールであるGAPDHの検出反応を行った。メンブレンをTBS−T(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.1% Tween-20, pH 7.6)で洗浄し、5%スキムミルク/TBS−T中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、5%スキムミルク/TBS−T中で一次抗体反応を行った。一次抗体としては、抗GAPDH抗体(sc-32233, SantaCruz、20000倍希釈)を用いた。室温にて60分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。一次抗体反応後、2%スキムミルク/TBS−T中で二次抗体反応を行った。二次抗体としては、抗マウスIgG(H+L)抗体(A90-116P-33, BETHYL)を20000倍希釈して用いた。室温にて30分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをTBS(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。検出されたバンドの定量には、画像処理ソフトウェアImageJ(NIH)を用いた。
【0343】
TMP-CiKD_DMT、又はTMP-CiKD_DMT及びボルテゾミブを添加したHeLa細胞において、強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のウェスタンブロット解析により検出されたバンドの定量結果を図15Aに示し、検出されたバンドを図15Bに示す。
図15A及び図15Bに示すとおり、TMP-CiKD_DMT(112μM)を添加した場合には、コントロール(DMSO)を基準とした分解効率が約60%であった。一方、TMP-CiKD_DMT(112μM)及びボルテゾミブ(1μM)を添加した場合には、標的タンパク質の分解が阻害された。この結果は、TMP-CiKD_DMTによって、標的タンパク質がプロテアソームによる分解へと導かれていたことを示唆している。
【0344】
<実施例23:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、及びTMP-CiKD_Bortezomib)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)の評価(ウェスタンブロット解析)>
実施例23では、TMP-CiKD_DMT、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、又はTMP-CiKD_Bortezomibを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した。
【0345】
(培養細胞の準備)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。
【0346】
(HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
HeLa細胞にプラスミドを導入することにより、細胞内に標的タンパク質である大腸菌DHFR(詳細には、HAタグを介した大腸菌DHFRとGFPとの融合タンパク質)又は比較用のDsRedを一過的に過剰発現させ、TMP-CiKD_DMTの標的タンパク質への作用を評価した。
【0347】
プラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)は、ブランダイス大学(米国)のLizbeth Hedstrom教授より提供を受けた(Long, M.J. et al., "Inhibitor mediated protein degradation.", Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)。このプラスミドを大腸菌で増幅した後、Miniprep Kit(Code No. 27106, QIAGEN)で精製した。
【0348】
HeLa細胞へのプラスミド導入には、トランスフェクション試薬であるScreenFectA(Code No. 297-73201, 和光純薬工業(株))を用いた。ScreenFectAのDilution Bufferを2本の1.5mLチューブに400μLずつ加えた。そして、一方のチューブにはScreenFectAのTransfection Reagentを20μL添加し(溶液A)、他方のチューブにはプラスミドを10.3μg添加し(溶液B)、それぞれを軽くピペッティングした後、室温にて2分間静置した。溶液Aと溶液Bとを軽く混ぜ合わせ、室温にて30分間静置した(溶液C)。トリプシン処理により回収した8×10細胞/16mLの細胞溶液に溶液Cを混合し、24ウェルプレート(Code No. TR5002, TrueLine, 日本ジェネティクス(株))に4×10細胞/800μL/ウェルの細胞密度で播種した後、37℃、5体積% COの条件下で40時間培養した。
【0349】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、又はTMP-CiKD_Bortezomib)の添加)
プラスミドを導入してから40時間培養した後、以下のようにして、HeLa細胞にTMP-CiKD_DMT、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、又はTMP-CiKD_Bortezomibを添加した。培地としては、D−MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyrvate)(Code No. 045-32245, 和光純薬工業(株))に1質量% L−グルタミン溶液(Code No. G7513, Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を用いた。なお、L−グルタミン溶液は使用直前に添加した。TMP-CiKD_DMT、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、又はTMP-CiKD_Bortezomibを含有するDMSO溶液をDMSO濃度が1体積%となるように培地と混合し、前培養培地を除去したウェルに各ウェル当たり300μL添加し、37℃、5体積% COの条件下で培養した。
なお、コントロールとしては、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0350】
(ウェスタンブロット解析による標的分解(ノックダウン)の評価)
TMP-CiKD_DMT、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、又はTMP-CiKD_Bortezomibの添加24時間後、培地を除去し、4℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり1mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、細胞溶解バッファー(CelLytic M, Sigma)とプロテアーゼ阻害剤(cOmplete Mini, EDTA-free (REF 11 836 170 001), Roche)との混合溶液を各ウェル当たり30μL添加した。4℃にて10分間静置した後、ピペットチップ(P1000)を用いて氷上で細胞を剥がした。細胞溶液を1.5mLチューブに回収し、液体窒素で瞬間凍結した後、氷上で融解させた。凍結融解を3回繰り返した後、遠心分離(13500rpm×20分間、4℃)し、上清(細胞抽出物)を回収した。
【0351】
回収した細胞抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS−PAGEゲル(12ウェル)は、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2−メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で4分間ヒートブロックした。調製した泳動サンプルは、各ウェル当たり20μLずつアプライした。泳動マーカーとしては、Precision Plus Protein Dual Color Standards(Bio-Rad)を用いた。電気泳動は160Vで45分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0352】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、35分間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/High-salt TBS-T(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, 0.2% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tでリンスし、1%スキムミルク/High-salt TBS-T中で抗体反応を行った。抗体としては、Anti-HA-Peroxidase, High-Affinity(3F10)Rat monoclonal antibody(25 U/mL)(Roche)を500倍希釈して用いた。室温にて2時間振盪させた後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをHigh-salt TBS(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。
【0353】
次に、同一のメンブレンを用いて、コントロールであるGAPDHの検出反応を行った。メンブレンをTBS−T(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.1% Tween-20, pH 7.6)で洗浄し、5%スキムミルク/TBS−T中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、5%スキムミルク/TBS−T中で一次抗体反応を行った。一次抗体としては、抗GAPDH抗体(sc-32233, SantaCruz、10000倍希釈)を用いた。室温にて60分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。一次抗体反応後、2%スキムミルク/TBS−T中で二次抗体反応を行った。二次抗体としては、抗マウスIgG(H+L)抗体(A90-116P-33, BETHYL)を20000倍希釈して用いた。室温にて30分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをTBS(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。検出されたバンドの定量には、画像処理ソフトウェアImageJ(NIH)を用いた。
【0354】
TMP-CiKD_DMT、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、又はTMP-CiKD_Bortezomibを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のウェスタンブロット解析結果を図16に示す。
図16に示すとおり、80μM又は160μMのTMP-CiKD_DMTを添加した場合には、コントロール(DMSO)を基準とした分解効率が、それぞれ72%、91%であった。また、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、及びTMP-CiKD_Bortezomibの160μMでの分解効率は、それぞれ82%、45%、28%であった。
【0355】
2015年6月19日に出願された日本出願2015−123740及び2016年4月8日に出願された日本出願2016−078324の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的且つ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図12C
図13
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図16