【実施例】
【0203】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0204】
以下の実施例で使用される化合物等の略称は以下のとおりである。
ec:Escherichia coli
DHFR:Dihydrofolate reductase
TMP:Trimethoprim
H-Phe-OtBu・HCl:L-Phenylalanine t-butyl ester hydrochloride
DMF:N,N-Dimethylformamide
DMT−MM:4-(4,6-Dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methylmorpholinium chloride n-hydrate
TFA:Trifluoroacetic acid
H-Leu-OtBu・HCl:L-Leucine t-butyl ester hydrochloride
DIEA:N,N-Diisopropylethylamine
D−MEM:Dulbecco's modified eagle's medium
FBS:Fetal bovine serum
EDTA:Ethylenediamine tetraacetic acid
HA:Hemagglutinin
GFP:Green fluorescent protein
DsRed:Discosoma sp. red fluorescent protein
DMSO:Dimethyl sulfoxide
PBS:Phosphate buffered saline
TBS:Tris buffered saline
SDS:Sodium dodecyl sulfate
PAGE:Polyacrylamide gel ectrophoresis
BPB:Bromophenol blue
PVDF:Polyvinylidene difluoride
AMC:7-Amino-4-methylcoumarin
H-Gly-OtBu・HCl:L-Glycine t-butyl ester hydrochloride
PyBOP:1H-Benzotriazol-1-yloxy-tri(pyrrolidino)phosphonium hexafluorophosphate
MTX:Methotrexate
DMA:N,N-Dimethylacetamide
BOP:1H-Benzotriazol-1-yloxy-tris(dimethylamino)phosphonium hexafluorophosphate
TEA:Triethylamine
HATU:O-(7-Azabenzotriazol-1-yl)-N,N,N',N'-tetramethyluronium hexafluorophosphate
GAPDH:Glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase
【0205】
<実施例1:タンパク質分解誘導タグとしてCiKD_Bortezomibを用い、タンパク質結合分子としてTMP誘導体を用いたタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)の合成>
実施例1では、下記の合成スキームに従って、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_Bortezomibを合成した。
タンパク質分解誘導タグとしては、ボルテゾミブ(Bortezomib)の活性部位であるボロニル基をカルボキシ基に置き換えたBortezomib-COOH(CiKD_Bortezomib)を用いた。また、タンパク質結合分子としては、大腸菌DHFRと結合するジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害剤であるTMPにアミノ基を含む官能基を導入したTMP誘導体(TMP−NH
2)を用いた。そして、Bortezomib-COOHとTMP−NH
2とを連結することにより、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_Bortezomibを合成した。
【0206】
【化5】
【0207】
TMP-CiKD_Bortezomibの合成方法の詳細は以下のとおりである。
【0208】
(化合物1の合成)
ナスフラスコにピラジンカルボン酸(152.8 mg, 1.23 mmol, 1 eq, Code No. 357-00042, 和光純薬工業(株))及びH-Phe-OtBu・HCl(253.8 mg, 0.98 mmol, 0.8 eq, Code No. 10Y830617, 渡辺化学工業(株))を仕込み、脱水DMFを10mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、DMT−MM(1.02 g, 3.69 mmol, 3 eq, Code No. 329-53751, 和光純薬工業(株))を反応溶液に直接加え、室温にて18時間撹拌した。反応溶液を水で希釈し、酢酸エチルで3回抽出した。食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(ヘキサン/クロロホルム=1/1〜0/1, gradient)を用いた分離精製処理により、化合物1(482.3 mg, 1.47 mmol, quant.)を得た。
【0209】
(化合物2の合成)
ナスフラスコに化合物1(398.4 mg, 1.22 mmol)を仕込み、ジクロロメタンを5mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、TFAを7mL加え、室温にて2時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、真空乾燥し、化合物2(318.8 mg, 96 %)を得た。
【0210】
(化合物3の合成)
ナスフラスコに化合物2(271.3 mg, 1.00 mmol, 1 eq)及びH-Leu-OtBu・HCl(223.8 mg, 1.00 mmol, 1 eq, Code No. 14G110356, 渡辺化学工業(株))を仕込み、脱水DMFを10mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、DIEAを2mL加え、溶液を中性にした。室温にて5分間撹拌した後、DMT−MM(553.4 mg, 2.00 mmol, 2 eq, Code No. 329-53751, 和光純薬工業(株))を反応溶液に直接加え、室温にて3時間撹拌した。冷却下で20mLの10質量%食塩水/0.1N 塩酸水溶液を加え、酢酸エチルで3回抽出した。0.5N 塩酸水溶液、次いで食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(ヘキサン/クロロホルム=1/1〜0/1, gradient)を用いた分離精製処理により、化合物3(168.1 mg, 0.38 mmol, 38%)を得た。
【0211】
(化合物4(Bortezomib-COOH)の合成)
ナスフラスコに化合物3(157.3 mg, 0.36 mmol)を仕込み、ジクロロメタンを5mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、TFAを6mL加え、室温にて2時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、真空乾燥し、化合物4(Bortezomib-COOH)(179.6 mg, 0.48 mmol, quant.)を得た。
【0212】
(化合物5(TMP-CiKD_Bortezomib)の合成)
ナスフラスコに化合物4(Bortezomib-COOH)(55.7 mg, 0.15 mmol, 1 eq)及び別途合成したTMP−NH
2(Long, M.J. et al., Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)(62.7 mg, 0.15 mmol, 1 eq)を仕込み、脱水DMFを7mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、DIEAを2mL加え、溶液を中性にした。室温にて5分間撹拌した後、DMT−MM(207.5 mg, 0.75 mmol, 5 eq, Code No. 329-53751, 和光純薬工業(株))を反応溶液に直接加え、室温にて3時間撹拌した。冷却下で20mLの10質量%食塩水/0.1N 塩酸水溶液を加え、酢酸エチルで3回抽出した。0.5N 塩酸水溶液、次いで食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(クロロホルム/メタノール=10/1)により分離精製処理を行った。次いで、TLC silica gel 60(Code No. HX264817, Merck)(クロロホルム/メタノール=10/1)を用いた分離精製処理により、化合物5(TMP-CiKD_Bortezomib)(2.3 mg, 0.0029 mmol, 2%, isolated yield)を得た。
【0213】
<実施例2:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)の評価(FACS解析)>
実施例2では、TMP-CiKD_Bortezomibを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)について、FACS解析により評価した。
【0214】
(培養細胞の準備)
前培養培地としては、D−MEM(Low D-Glucose, L-Glutamine, Phenol Red)(Code No. 041-29775, 和光純薬工業(株))に10質量% FBS(Code No. SH30910.03, Lot No. AYG161516, HyClone)及び1質量% PenStrep(100 U/mL Sodium Penicillin G and 100 μg/mL Streptomycin Sulfate)(Code No. 168-23191, 和光純薬工業(株))を添加した培地を準備した。そして、この前培養培地中、HeLa細胞(Lot No. 60143948, ATCC)を37℃、5体積% CO
2の条件下で培養した。継代培養時の培養皿としては、直径100mmのCell Culture Dish-Treated(Sterile, Non pyrogenic)(Code No. TR4002, TrueLine)を用いた。継代培養は70%〜80%コンフルエント時に行い、トリプシン(0.25 w/v% Trypsin-1 mmol/L EDTA・4Na Solution with Phenol Red)(Code No. 201-16945, 和光純薬工業(株))処理により細胞を剥離した後、4分の1量の細胞を10mLの前培養培地で培養した。
【0215】
(HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
HeLa細胞にプラスミドを導入することにより、細胞内に標的タンパク質である大腸菌DHFR(詳細には、HAタグを介した大腸菌DHFRとGFPとの融合タンパク質)又は比較用のDsRedを一過的に過剰発現させ、TMP-CiKD_Bortezomibの標的タンパク質への作用を評価した。
【0216】
プラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)は、ブランダイス大学(米国)のLizbeth Hedstrom教授より提供を受けた(Long, M.J. et al., "Inhibitor mediated protein degradation.", Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)。pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFPのプラスミドマップを
図1に示す。このプラスミドを大腸菌で増幅した後、Miniprep Kit(Code No. 27106, QIAGEN)で精製した。
【0217】
HeLa細胞へのプラスミド導入には、トランスフェクション試薬であるScreenFectA(Code No. 297-73201, 和光純薬工業(株))を用いた。ScreenFectAのDilution Bufferを2本の1.5mLチューブに600μLずつ加えた。そして、一方のチューブにはScreenFectAのTransfection Reagentを30μL添加し(溶液A)、他方のチューブにはプラスミドを12μg添加し(溶液B)、それぞれを軽くピペッティングした後、室温にて2分間静置した。溶液Aと溶液Bとを軽く混ぜ合わせ、室温にて30分間静置した(溶液C)。トリプシン処理により回収した1.2×10
5細胞/24mLの細胞溶液に溶液Cを混合し、24ウェルプレート(Code No. TR5002, TrueLine, 日本ジェネティクス(株))に4×10
4細胞/800μL/ウェルの細胞密度で播種した後、37℃、5体積% CO
2の条件下で40時間培養した。
【0218】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)の添加)
以下のようにして、HeLa細胞にTMP-CiKD_Bortezomibを添加した。プラスミドを導入してから40時間培養後、前培養培地を除去し、D−MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyrvate)(Code No. 045-32245, 和光純薬工業(株))に1質量% L−グルタミン溶液(Code No. G7513, Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を各ウェル当たり300μL添加した。なお、L−グルタミン溶液は使用直前に添加した。所定濃度のTMP-CiKD_Bortezomibを含有するDMSO溶液を各ウェル当たり3μL添加し、37℃、5体積% CO
2の条件下で培養した。
なお、コントロールとしては、TMP-CiKD_Bortezomibを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0219】
(FACS解析によるTMP-CiKD_Bortezomibの標的分解(ノックダウン)の評価)
TMP-CiKD_Bortezomib(80μM)又はTMP(80μM)の添加24時間後、培地を除去し、37℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり2mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、37℃のトリプシン(0.25 w/v% Trypsin-1 mmol/L EDTA・4Na Solution with Phenol Red)(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり200μL添加し、37℃、5体積% CO
2の条件下で1分間培養した。培養後、D−MEM(Low D-Glucose, L-Glutamine, Phenol Red)(Code No. 041-29775, 和光純薬工業(株))に10質量% FBS(Code No. SH30910.03, Lot No. AYG161516, HyClone)及び1質量% PenStrep(100 U/mL Sodium Penicillin G and 100 μg/mL Streptomycin Sulfate)(Code No. 168-23191, 和光純薬工業(株))を添加した培地を各ウェル当たり300μL添加して懸濁し、15mLチューブに細胞溶液を回収した。
【0220】
回収した細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、2mLのPBS(37℃)により懸濁した。懸濁後の細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、4℃のFACSバッファー(1質量% FBS/PBS)を500μL添加し、氷上に静置した。
【0221】
フローサイトメトリーにはBD FACSCanto II(BD Biosciences)を用い、細胞中におけるGFR及びDsRedの発現を定量した。FACS解析の直前に、細胞溶液を孔径32μmのメッシュに通し、FACSチューブへと移した。解析ソフトFLOWJO(トミーデジタルバイオロジー(株))により細胞1個当たりのGFR/DsRed比を算出し、標的分解によるグラフのシフトから、TMP-CiKD_Bortezomibによる標的分解(ノックダウン)の効率を確認した。
【0222】
TMP-CiKD_Bortezomibを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を
図2Aに示す。また、TMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を
図2Bに示す。
図2Aに示すとおり、TMP-CiKD_Bortezomib(80μM)を添加した場合には、コントロール(DMSO)と比較してグラフが大きく左にシフトしており、標的タンパク質(大腸菌DHFR)が分解されていることが確認できた。シフト量から推測される分解効率は50%〜60%程度であった。一方、
図2Bに示すとおり、TMP(80μM)を添加した場合には、コントロール(DMSO)とグラフが重なっており、標的タンパク質が分解されていないことが確認できた。
【0223】
<実施例3:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)を添加したHeLa細胞における、タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)と強制発現標的タンパク質(ecDHFR)との親和性の評価(熱シフトアッセイ)>
実施例3では、TMP-CiKD_Bortezomibを添加したHeLa細胞における、TMP-CiKD_Bortezomibと強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)との親和性について、熱シフトアッセイにより評価した。
【0224】
(培養細胞の準備、HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。また、実施例2と同様にHeLa細胞にプラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)を導入した後、24ウェルプレートに播種した。
【0225】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)の添加)
実施例2と同様にして、HeLa細胞にTMP-CiKD_Bortezomibを添加した。コントロールとしては、TMP-CiKD_Bortezomibを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0226】
(熱シフトアッセイによるTMP-CiKD_Bortezomibの標的親和性の評価)
TMP-CiKD_Bortezomib(40μM)又はTMP(40μM)の添加3時間後、培地を除去し、37℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり2mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、37℃のトリプシン(0.25 w/v% Trypsin-1 mmol/L EDTA・4Na Solution with Phenol Red)(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり200μL添加し、37℃、5体積% CO
2の条件下で1分間培養した。培養後、D−MEM(Low D-Glucose, L-Glutamine, Phenol Red)(Code No. 041-29775, 和光純薬工業(株))に10質量% FBS(Code No. SH30910.03, Lot No. AYG161516, HyClone)及び1質量% PenStrep(100 U/mL Sodium Penicillin G and 100 μg/mL Streptomycin Sulfate)(Code No. 168-23191, 和光純薬工業(株))を添加した培地を各ウェル当たり300μL添加して懸濁し、15mLチューブに細胞溶液を回収した。
【0227】
回収した細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、2mLのPBS(37℃)により懸濁した。懸濁後の細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、CETSAバッファー(TBSにプロテアーゼ阻害剤であるcOmplete, Mini, EDTA-free(Roche)を使用直前に添加)を180μL添加して懸濁した。懸濁後の細胞溶液を9本の1.5mLチューブに20μLずつ分注し、室温にて30分間静置した。静置後、9本のチューブをそれぞれ38℃、42℃、46℃、50℃、54℃、58℃、62℃、66℃、又は70℃で3分間熱処理し、室温にて3分間静置した。静置後、細胞溶液を液体窒素で瞬間凍結し、氷上で融解させた。この凍結融解を3回繰り返した後、遠心分離(13500rpm×20分間、4℃)し、上清(細胞抽出物)を回収した。
【0228】
回収した細胞抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS−PAGEゲル(14ウェル)は、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2−メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で4分間ヒートブロックした。調製した泳動サンプルは、各ウェル当たり17μLずつアプライした。泳動マーカーとしては、Precision Plus Protein Dual Color Standards(Bio-Rad)を用いた。電気泳動は150Vで40分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0229】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、40分間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/High-salt TBS-T(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, 0.2% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tでリンスし、1%スキムミルク/High-salt TBS-T中で抗体反応を行った。抗体としては、Anti-HA-Peroxidase, High-Affinity(3F10)Rat monoclonal antibody(25 U/mL)(Roche)を1500倍希釈して用いた。室温にて90分間振盪させた後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをHigh-salt TBS(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。
【0230】
TMP-CiKD_Bortezomib又はTMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の熱シフトアッセイ結果を
図3に示す。
図3に示すとおり、コントロール(DMSO)では約50℃までしか大腸菌DHFRを検出することができなかったが、TMP(40μM)を添加した場合には、大腸菌DHFRとTMPとが相互作用することにより、約54℃まで大腸菌DHFRを検出することができた。同様に、TMP-CiKD_Bortezomib(40μM)を添加した場合には、大腸菌DHFRとTMP-CiKD_Bortezomibとが相互作用することにより、約54℃まで大腸菌DHFRを検出することができた。なお、プロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブ単独では、大腸菌DHFRと相互作用することはなかった。
この結果から、TMP-CiKD_Bortezomibは、TMP−NH
2とCiKD_Bortezomibとが連結されたものであるが、TMPと同程度に大腸菌DHFRとの親和性を有することが確認できた。
【0231】
<実施例4:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)のプロテアソーム阻害活性及びプロテアソームとの親和性の評価>
実施例4では、TMP-CiKD_Bortezomibのプロテアソーム阻害活性及びプロテアソームとの親和性を評価した。
【0232】
評価には、20S Proteasome StressXpress Assay Kit Gold(Bioscience)を用い、20Sプロテアソームのβ5(キモトリプシン様活性)、β2(トリプシン様活性)、及びβ1(カスパーゼ様活性)の各βサブユニットに特異的なAMC結合プロテアソーム蛍光基質のC末端が切断されることにより生成するAMCをMulti-Detection Microplate Reader(Synergy HT, BIO-TEK)により測定した。測定波長は、励起光(Ex.)を360nm、蛍光(Em.)を460nmとした。
【0233】
β1(カスパーゼ様活性)、β2(トリプシン様活性)、及びβ5(キモトリプシン様活性)の各プロテアソーム活性を
図4A〜
図4Cに示す。
図4A〜
図4Cに示すとおり、β1及びβ5に対して、TMP-CiKD_Bortezomibでは、ボルテゾミブ単独と比較して阻害活性がほぼ弱まり、ボルテゾミブの阻害活性が失活していることが確認できた。β2については、ボルテゾミブではあまり阻害されないことが報告されており(Kisselev, A.F. et al. Chemistry & Biology, 2012, 19, 99-115)、この報告と矛盾しない結果であった。
また、β2及びβ5に対して、TMP-CiKD_Bortezomibの濃度依存的に阻害活性が高まることから、TMP-CiKD_Bortezomibとプロテアソームとの親和性が確認された。
【0234】
<実施例5:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_Bortezomib)の50%阻害濃度(IC
50)の測定>
実施例5では、TMP-CiKD_Bortezomib及びボルテゾミブ(Code No. sc-217785, Santa Cruz Biotechnology)について、20Sプロテアソームのβ1、β2、及びβ5の各プロテアソーム活性に対する50%阻害濃度(IC
50)を測定した。
【0235】
50%阻害濃度(IC
50)の測定には、20S Proteasome StressXpress Assay Kit Gold(Bioscience)を用い、20Sプロテアソームのβ5(キモトリプシン様活性)、β2(トリプシン様活性)、及びβ1(カスパーゼ様活性)の各βサブユニットに特異的なAMC結合プロテアソーム蛍光基質のC末端が切断されることにより生成するAMCをMulti-Detection Microplate Reader(Synergy HT, BIO-TEK)により測定した。測定波長は、励起光(Ex.)を360nm、蛍光(Em.)を460nmとした。
【0236】
試験化合物(TMP-CiKD_Bortezomib及びボルテゾミブ)は、それぞれ以下の表83に示す6点の濃度に調整した。
【0237】
【表83】
【0238】
試験化合物と20Sプロテアソーム(0.1μg)とを室温で30分間インキュベーションした。そこへ発光基質であるSuc-LLVY-AMC(β5により分解される)、Bz-VGR-AMC(β2により分解される)、及びZ-LLE-AMC(β1により分解される)をそれぞれ100μMとなるように加え、室温でインキュベーションした。1時間後にプロテアソーム活性により生成したAMCを測定した。試験化合物の各々の濃度におけるプロテアソーム分解阻害値を、コントロール(DMSO)との相対値として求めた。6点の濃度の阻害値を用い、解析ソフトウェアImageJ(NIH)により回帰曲線を作成し、4係数(a:マルサス係数、b:混雑定数、c:傾き、d:切片)を得た。そして、得られた4係数及びy=0.5(50%阻害)を以下の4係数ロジスティック曲線の回帰式に導入し、xの値(IC
50)を算出した。
4係数ロジスティック曲線の回帰式:y=d+(a−d)/(1+(x/c)
b)
TMP-CiKD_Bortezomib及びボルテゾミブの50%阻害濃度(IC
50)を以下の表84に示す。
【0239】
【表84】
【0240】
表84に示すとおり、TMP-CiKD_Bortezomibは、ボルテゾミブと比較して、β1、β2、及びβ5の全てについて50%阻害濃度(IC
50)が大きく増加しており、ボルテゾミブの阻害活性が失活していることが確認できた。
【0241】
<実施例6:タンパク質分解誘導タグとしてCiKD_ALLNを用い、タンパク質結合分子としてTMP誘導体を用いたタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)の合成>
実施例6では、下記の合成スキームに従って、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_ALLNを合成した。
タンパク質分解誘導タグとしては、ALLNの活性部位であるホルミル基をカルボキシ基に置き換えたALLN-COOH(CiKD_ALLN)を用いた。また、タンパク質結合分子としては、実施例1と同様にTMP−NH
2を用いた。そして、ALLN-COOHとTMP−NH
2とを連結することにより、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_ALLNを合成した。
【0242】
【化6】
【0243】
TMP-CiKD_ALLNの合成方法の詳細は以下のとおりである。
【0244】
(化合物6(ALLN-COOH)の合成)
ナスフラスコにALLN(87.2 mg, 0.23 mmol, 1 eq, Code No. 07036-24, ナカライテスク(株))を仕込み、脱水DMFを2mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、Oxone(212.1 mg, 0.69 mmol, 3 eq, Code No. 228036, Sigma-Aldrich)を反応溶液に直接加え、室温にて5時間撹拌した。反応溶液を水で希釈した後、クロロホルムで3回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(クロロホルム/メタノール=20/1〜10/1, gradient)を用いた分離精製処理により、化合物6(ALLN-COOH)(27.0 mg, 0.068 mmol, 30%)を得た。
【0245】
(化合物7(TMP-CiKD_ALLN)の合成)
ナスフラスコに化合物6(ALLN-COOH)(26.8 mg, 0.067 mmol, 1 eq)及び別途合成したTMP−NH
2(Long, M.J. et al., Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)(26.0 mg, 0.060 mmol, 0.9 eq)を仕込み、脱水DMFを2mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、DIEAを0.1mL加え、溶液を中性にした。室温にて5分間撹拌した後、DMT−MM(30.0 mg, 0.11 mmol, 1.6 eq, Code No. 329-53751, 和光純薬工業(株))を反応溶液に直接加え、室温にて2時間撹拌した。冷却下で10mLの10質量%食塩水/0.1N 塩酸水溶液を加え、酢酸エチルで3回抽出した。0.5N 塩酸水溶液、次いで食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(クロロホルム/メタノール=10/1)を用いた分離精製処理により、化合物7(TMP-CiKD_ALLN)(8.2 mg, 0.010 mmol, 15%, isolated yield)を得た。
【0246】
<実施例7:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)の評価(FACS解析)>
実施例7では、TMP-CiKD_ALLNを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)について、FACS解析により評価した。
【0247】
(培養細胞の準備、HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。また、実施例2と同様にHeLa細胞にプラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)を導入した後、24ウェルプレートに播種した。
【0248】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)の添加)
TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_ALLNを用いること以外は実施例2と同様にして、HeLa細胞にTMP-CiKD_ALLNを添加した。コントロールとしては、TMP-CiKD_ALLNを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0249】
(FACS解析によるTMP-CiKD_ALLNの標的分解(ノックダウン)の評価)
TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_ALLNを用いること以外は実施例2と同様にして、TMP-CiKD_ALLNによる標的分解(ノックダウン)の効率を確認した。
【0250】
TMP-CiKD_ALLNを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を
図5Aに示す。また、TMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を
図5Bに示す。
図5Aに示すとおり、TMP-CiKD_ALLN(80μM)を添加した場合には、コントロール(DMSO)と比較してグラフが大きく左にシフトしており、標的タンパク質(大腸菌DHFR)が分解されていることが確認できた。シフト量から推測される分解効率は60%〜70%程度であった。一方、
図5Bに示すとおり、TMP(80μM)を添加した場合には、コントロール(DMSO)とグラフが重なっており、標的タンパク質が分解されていないことが確認できた。
【0251】
<実施例8:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)を添加したHeLa細胞における、タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)と強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)との親和性の評価(熱シフトアッセイ)>
実施例8では、TMP-CiKD_ALLNを添加したHeLa細胞における、TMP-CiKD_ALLNと強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)との親和性について、熱シフトアッセイにより評価した。
【0252】
(培養細胞の準備、HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。また、実施例2と同様にHeLa細胞にプラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)を導入した後、24ウェルプレートに播種した。
【0253】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)の添加)
TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_ALLNを用いること以外は実施例2と同様にして、HeLa細胞にTMP-CiKD_ALLNを添加した。コントロールとしては、TMP-CiKD_ALLNを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0254】
(熱シフトアッセイによるTMP-CiKD_ALLNの標的親和性の評価)
TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_ALLNを用いること以外は実施例3と同様にして、熱シフトアッセイによるTMP-CiKD_ALLNの標的親和性の評価を行った。
【0255】
TMP-CiKD_ALLN又はTMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の熱シフトアッセイ結果を
図6に示す。
図6に示すとおり、コントロール(DMSO)では約50℃までしか大腸菌DHFRを検出することができなかったが、TMP(40μM)を添加した場合には、大腸菌DHFRとTMPとが相互作用することにより、約54℃まで大腸菌DHFRを検出することができた。同様に、TMP-CiKD_ALLN(40μM)を添加した場合には、大腸菌DHFRとTMP-CiKD_ALLNとが相互作用することにより、約58℃まで大腸菌DHFRを検出することができた。
この結果から、TMP-CiKD_ALLNは、TMP−NH
2とCiKD_ALLNとが連結されたものであるが、大腸菌DHFRとの親和性がTMPよりも高いことが確認できた。
【0256】
<実施例9:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)のプロテアソーム阻害活性及びプロテアソームとの親和性の評価>
実施例9では、TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_ALLNを用いること以外は実施例4と同様にして、TMP-CiKD_ALLNのプロテアソーム阻害活性及びプロテアソームとの親和性を評価した。
【0257】
β1(カスパーゼ様活性)、β2(トリプシン様活性)、及びβ5(キモトリプシン様活性)の各プロテアソーム活性を
図7A〜
図7Cに示す。
図7A〜
図7Cに示すとおり、β2及びβ5の活性に対して、TMP-CiKD_ALLNでは、ALLN単独と比較して阻害活性が弱まり、ALLNの阻害活性が失活していることが確認できた。β1については、ALLNではあまり阻害されないことが報告されており(Kaiser, M. et al., Chem. Bio. Chem., 2004, 5, 1256-1266)、この報告と矛盾しない結果であった。
また、β1、β2、及びβ5のいずれに対しても、TMP-CiKD_ALLNの濃度依存的に阻害活性が高まることから、TMP-CiKD_ALLNとプロテアソームとの親和性が確認された。
【0258】
<実施例10:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_ALLN)の50%阻害濃度(IC
50)の測定>
実施例10では、TMP-CiKD_Bortezomib及びボルテゾミブの代わりにTMP-CiKD_ALLN及びALLN(Code No. 07036-82, ナカライテスク(株))を用いること以外は実施例5と同様にして、20Sプロテアソームのβ1、β2、及びβ5の各プロテアソーム活性に対するTMP-CiKD_ALLN及びALLNの50%阻害濃度(IC
50)を測定した。なお、試験化合物(TMP-CiKD_ALLN及びALLN)は、それぞれ以下の表85に示す6点の濃度に調整した。
【0259】
【表85】
【0260】
TMP-CiKD_ALLN及びALLNの50%阻害濃度(IC
50)を以下の表86に示す。
【0261】
【表86】
【0262】
表86に示すとおり、TMP-CiKD_ALLNは、ALLNと比較して、β1、β2、及びβ5の全てについて50%阻害濃度(IC
50)が大きく増加しており、ALLNの阻害活性が失活していることが確認できた。
【0263】
<実施例11:タンパク質分解誘導タグとしてCiKD_MLNを用い、タンパク質結合分子としてTMP誘導体を用いたタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_MLN)の合成>
実施例11では、下記の合成スキームに従って、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_MLNを合成した。
タンパク質分解誘導タグとしては、MLN9708及びMLN2238の活性部位であるボロン酸エステル部位又はボロニル基をカルボキシ基に置き換えたMLN-COOH(CiKD_MLN)を用いた。また、タンパク質結合分子としては、実施例1と同様にTMP−NH
2を用いた。そして、MLN-COOHとTMP−NH
2とを連結することにより、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_MLNを合成した。
【0264】
【化7】
【0265】
TMP-CiKD_MLNの合成方法の詳細は以下のとおりである。
【0266】
(化合物8の合成)
枝付きナスフラスコにH-Gly-OtBu・HCl(286.8 mg, 1.69 mmol, 1 eq, Code No. AK-46074, Ark Pharm)を仕込み、窒素置換した。窒素気流下で脱水DMF10mLとDIEA5mLとを加え、室温にて撹拌した。2,5−ジクロロ安息香酸(309.3 mg, 1.62 mmol, 1 eq, Code No. AK-47665, Ark Pharm)を1mLの脱水DMF及び1mLのDIEAに溶解した後、反応溶液に加え、室温にて20分間撹拌した。PyBOP(1.02 g, 1.96 mmol, 1.2 eq, Code No. 8.51009.0005, Novabiochem, Merck)を1mLの脱水DMFに溶解した後、反応溶液に加え、室温にて3時間撹拌した。反応溶液を水及び炭酸水素ナトリウム水溶液で希釈し、酢酸エチル/ヘキサン(=4/1)で2回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(ヘキサン/クロロホルム=1/1〜0/1, gradient)を用いた分離精製処理により、化合物8(531.0 mg, 1.75 mmol, 103%)を得た。
【0267】
(化合物9の合成)
ナスフラスコに化合物8(212.4 mg, 0.70 mmol)を仕込み、ジクロロメタンを5mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、TFAを5mL加え、室温にて1時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、真空乾燥し、化合物9(190.7 mg, quant.)を得た。
【0268】
(化合物10の合成)
枝付きナスフラスコに化合物9(190.7 mg, 0.77 mmol, 1 eq)及びH-Leu-OtBu・HCl(175.8 mg, 0.79 mmol, 1 eq, Code No. 14G110356, 渡辺化学工業(株))を仕込み、窒素置換した。窒素気流下で脱水DMF5mLとDIEA5mLとを加え、室温にて20分間撹拌した。PyBOP(886.7 mg, 1.70 mmol, 2.2 eq, Code No. 8.51009.0005, Novabiochem, Merck)を1.5mLの脱水DMFに溶解した後、反応溶液に加え、室温にて3時間撹拌した。反応溶液を水及び炭酸水素ナトリウム水溶液で希釈し、酢酸エチル/ヘキサン(=4/1)で2回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(ヘキサン/クロロホルム=1/1〜0/1, gradient)を用いた分離精製処理により、化合物10(244.2 mg, 0.58 mmol, 76%)を得た。
【0269】
(化合物11(MLN-COOH)の合成)
ナスフラスコに化合物10(240.8 mg, 0.58 mmol)を仕込み、ジクロロメタンを5mL加えた。室温にて5分間撹拌した後、TFAを5mL加え、室温にて1時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、真空乾燥し、化合物11(MLN-COOH)(214.7 mg, 0.59 mmol, 100%)を得た。
【0270】
(化合物12(TMP-CiKD_MLN)の合成)
枝付きナスフラスコに化合物11(MLN-COOH)(210.3 mg, 0.58 mmol, 1 eq)を仕込み、窒素置換した。別途合成したTMP−NH
2(Long, M.J. et al., Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)(207.6 mg, 0.48 mmol, 0.8 eq)を5mLの脱水DMFに溶解した後、反応溶液に加えた。DIEAを5mL加え、室温にて20分間撹拌した。PyBOP(765.2 mg, 1.47 mmol, 2.5 eq, Code No. 8.51009.0005, Novabiochem, Merck)を1.5mLの脱水DMFに溶解した後、反応溶液に加え、室温にて18時間撹拌した。反応溶液を水及び炭酸水素ナトリウム水溶液で希釈し、酢酸エチルで2回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(クロロホルム/メタノール=20/1〜4/1, gradient)により分離精製処理を行った。次いで、TLC silica gel 60(Code No. HX264817, Merck)(クロロホルム/メタノール=10/1)を用いた分離精製処理により、化合物12(TMP-CiKD_MLN)(20.2 mg, 0.026 mmol, 5%, isolated yield)を得た。
【0271】
<実施例12:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_MLN)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)の評価(FACS解析)>
実施例12では、TMP-CiKD_MLNを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)について、FACS解析により評価した。
【0272】
(培養細胞の準備、HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。また、実施例2と同様にHeLa細胞にプラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)を導入した後、24ウェルプレートに播種した。
【0273】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_MLN)の添加)
TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_MLNを用いること以外は実施例2と同様にして、HeLa細胞にTMP-CiKD_MLNを添加した。また、TMP-CiKD_MLNを含有するDMSO溶液を添加する実験群のほかに、TMP-CiKD_MLN及びボルテゾミブを含有するDMSO溶液を添加する実験群も準備した。コントロールとしては、TMP-CiKD_MLNを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0274】
(FACS解析によるTMP-CiKD_MLNの標的分解(ノックダウン)の評価)
TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_MLN、又はTMP-CiKD_MLN及びボルテゾミブを用いること以外は実施例2と同様にして、TMP-CiKD_MLNによる標的分解(ノックダウン)の効率を確認した。
【0275】
TMP-CiKD_MLNを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を
図8Aに示す。また、TMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を
図8Bに示す。また、TMP-CiKD_MLN及びボルテゾミブを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を
図8Cに示す。
図8Aに示すとおり、TMP-CiKD_MLN(80μM)を添加した場合には、コントロール(DMSO)と比較してグラフが大きく左にシフトしており、標的タンパク質(大腸菌DHFR)が分解されていることが確認できた。シフト量から推測される分解効率は60%〜70%程度であった。一方、
図8Bに示すとおり、TMP(80μM)を添加した場合には、コントロール(DMSO)とグラフが重なっており、標的タンパク質が分解されていないことが確認できた。
また、
図8Cに示すとおり、TMP-CiKD_MLN(80μM)及びボルテゾミブ(1.5μM)を添加した場合には、TMP-CiKD_MLN(80μM)を添加した場合よりも標的タンパク質の分解が阻害された。この結果は、TMP-CiKD_MLNによって、標的タンパク質がプロテアソームによる分解へと導かれていたことを示唆している。
【0276】
<実施例13:タンパク質分解誘導タグとしてCiKD_MLNを用い、タンパク質結合分子としてMTX誘導体を用いたタンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)の合成>
実施例13では、下記の合成スキームに従って、タンパク質分解誘導分子であるMTX-CiKD_MLNを合成した。
タンパク質分解誘導タグとしては、MLN9708及びMLN2238の活性部位であるボロン酸エステル部位又はボロニル基をカルボキシ基に置き換えたMLN-COOH(CiKD_MLN)を用いた。また、タンパク質結合分子としては、DHFRと結合するジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害剤であるMTXにアミノ基を含む官能基を導入したMTX誘導体(MTX−NH
2)を用いた。そして、MLN-COOHとMTX−NH
2とを連結することにより、タンパク質分解誘導分子であるMTX-CiKD_MLNを合成した。
【0277】
【化8】
【0278】
MTX-CiKD_MLNの合成方法の詳細は以下のとおりである。
【0279】
(化合物21(MTX-NH
2)の合成)
化合物13をDMA中でトリフェニルホスフィンジブロミドと反応させ、化合物14を得た。化合物14を窒素気流下でDMAに溶解した後、化合物15とDIEAとを加えて反応させ、化合物16を得た(収率:69%)。次いで、化合物16と化合物17とを窒素気流下でDMSOに溶解し、BOP試薬により縮合反応を行い、化合物18を得た(収率:46%)。次いで、化合物18と化合物19とを窒素気流下でDMAに溶解し、HATUにより縮合反応を行い、化合物20を得た(収率:69%)。次いで、化合物20をジクロロメタンに溶解し、TFAにより脱保護を行うことで、化合物21(MTX-NH
2)を得た。
【0280】
(化合物22(MTX-CiKD_MLN)の合成)
化合物21(MTX-NH
2)と、化合物12(TMP-CiKD_MLN)の合成に用いた化合物11とを窒素気流下でDMFに溶解し、PyBOPにより縮合反応を行った(室温、3時間)。反応溶液を水及び炭酸水素ナトリウム水溶液で希釈し、酢酸エチルで3回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=20/1〜4/1, gradient)により分離精製処理を行った。次いで、TLC silica gel 60(クロロホルム/メタノール=85/15)を用いた分離精製処理により、化合物22(MTX-CiKD_MLN)を得た(単離収率:8%)。
【0281】
<実施例14:タンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)を添加したHeLa細胞における、タンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)と内在発現標的タンパク質(ヒトDHFR)との親和性の評価(熱シフトアッセイ)>
実施例14では、MTX-CiKD_MLNを添加したHeLa細胞における、MTX-CiKD_MLNと内在発現標的タンパク質(ヒトDHFR)との親和性について、熱シフトアッセイにより評価した。
【0282】
(培養細胞の準備及び細胞播種)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。トリプシン処理により回収した細胞溶液を、24ウェルプレート(Code No. TR5002, TrueLine, 日本ジェネティクス(株))に4×10
4細胞/800μL/ウェルの細胞密度で播種した後、37℃、5体積% CO
2の条件下で16時間培養した。
【0283】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)の添加)
細胞播種から16時間後に、以下のようにして、HeLa細胞にMTX-CiKD_MLNを添加した。培地としては、D−MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyrvate)(Code No. 045-32245, 和光純薬工業(株))に1質量% L−グルタミン溶液(Code No. G7513, Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を用いた。なお、L−グルタミン溶液は使用直前に添加した。MTX-CiKD_MLNを含有するDMSO溶液をDMSO濃度が1体積%となるように培地と混合し、前培養培地を除去したウェルに各ウェル当たり500μL添加し、37℃、5体積% CO
2の条件下で培養した。
なお、コントロールとしては、MTX-CiKD_MLNを含有するDMSO溶液の代わりに、MTXを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0284】
(熱シフトアッセイによるMTX-CiKD_MLNの標的親和性の評価)
MTX-CiKD_MLN(40μM)又はMTX(40μM)の添加3時間後、培地を除去し、37℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり1mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、37℃のトリプシン(0.25 w/v% Trypsin-1 mmol/L EDTA・4Na Solution with Phenol Red)(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり200μL添加し、37℃、5体積% CO
2の条件下で1分間培養した。培養後、D−MEM(Low D-Glucose, L-Glutamine, Phenol Red)(Code No. 041-29775, 和光純薬工業(株))に10質量% FBS(Code No. SH30910.03, Lot No. AYG161516, HyClone)及び1質量% PenStrep(100 U/mL Sodium Penicillin G and 100 μg/mL Streptomycin Sulfate)(Code No. 168-23191, 和光純薬工業(株))を添加した培地を各ウェル当たり0.8mL添加して懸濁し、15mLチューブに細胞溶液を回収した。
【0285】
回収した細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、2mLのPBS(37℃)により懸濁した。懸濁後の細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、CETSAバッファー(TBSにプロテアーゼ阻害剤であるcOmplete, Mini, EDTA-free(Roche)を使用直前に添加)を170μL添加して懸濁した。懸濁後の細胞溶液を9本の1.5mLチューブに20μLずつ分注し、室温にて30分間静置した。静置後、9本のチューブをそれぞれ38℃、42℃、46℃、50℃、54℃、58℃、62℃、66℃、又は70℃で3分間熱処理し、室温にて3分間静置した。静置後、細胞溶液を液体窒素で瞬間凍結し、氷上で融解させた。この凍結融解を3回繰り返した後、遠心分離(13500rpm×20分間、4℃)し、上清(細胞抽出物)を回収した。
【0286】
回収した細胞抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS−PAGEゲル(14ウェル)は、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2−メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で4分間ヒートブロックした。調製した泳動サンプルは、各ウェル当たり17μLずつアプライした。泳動マーカーとしては、Precision Plus Protein Dual Color Standards(Bio-Rad)を用いた。電気泳動は160Vで60分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0287】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、2時間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/TBS−T(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.1% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、5%スキムミルク/TBS−T中で一次抗体反応を行った。一次抗体としては、抗DHFR抗体(sc-377091, SantaCruz)を500倍希釈して用いた。4℃にて一晩振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。一次抗体反応後、2%スキムミルク/TBS−T中で二次抗体反応を行った。二次抗体としては、抗マウスIgG(H+L)抗体(A90-116P-33, BETHYL)を10000倍希釈して用いた。室温にて30分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをTBS(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。
【0288】
MTX-CiKD_MLN又はMTXを添加したHeLa細胞における内在発現標的タンパク質(ヒトDHFR)の熱シフトアッセイ結果を
図9に示す。
図9に示すとおり、コントロール(DMSO)では約42℃までしかヒトDHFRを検出することができなかったが、MTX-CiKD_MLN(40μM)を添加した場合には、ヒトDHFRとMTX-CiKD_MLNとが相互作用することにより、約50℃までヒトDHFRを検出することができた。
この結果から、MTX-CiKD_MLNは、MTX−NH
2とCiKD_MLNとが連結されたものであるが、ヒトDHFRとの親和性を有することが確認できた。
【0289】
<実施例15:タンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)を添加したHeLa細胞における内在発現標的タンパク質(ヒトDHFR)の分解(ノックダウン)の評価(ウェスタンブロット解析)>
実施例15では、MTX-CiKD_MLNを添加したHeLa細胞における内在発現標的タンパク質(ヒトDHFR)の分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した。
【0290】
(培養細胞の準備及び細胞播種)
実施例14と同様にして、HeLa細胞を準備し、24ウェルプレートに播種した。
【0291】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)の添加)
実施例14と同様にして、HeLa細胞にMTX-CiKD_MLNを添加した。コントロールとしては、MTX-CiKD_MLNを含有するDMSO溶液の代わりに、MTXを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0292】
(ウェスタンブロット解析によるMTX-CiKD_MLNの標的分解(ノックダウン)の評価)
MTX-CiKD_MLN(50μM、100μM、若しくは200μM)又はMTX(50μM、100μM、若しくは200μM)の添加16時間後、培地を除去し、4℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり1mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、細胞溶解バッファー(CelLytic M, Sigma)とプロテアーゼ阻害剤(cOmplete Mini, EDTA-free (REF 11 836 170 001), Roche)との混合溶液を各ウェル当たり27μL添加した。4℃にて15分間静置した後、ピペットチップ(P1000)を用いて氷上で細胞を剥がした。細胞溶液を1.5mLチューブに回収し、液体窒素で瞬間凍結した後、氷上で融解させた。融解後、遠心分離(12000rpm×15分間、4℃)し、上清(細胞抽出物)を回収した。
【0293】
回収した細胞抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS−PAGEゲル(14ウェル)は、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2−メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で4分間ヒートブロックした。調製した泳動サンプルは、各ウェル当たり20μLずつアプライした。泳動マーカーとしては、Precision Plus Protein Dual Color Standards(Bio-Rad)を用いた。電気泳動は160Vで65分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0294】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、2時間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。メンブレンは、25kDaマーカーの位置で2つに分割した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/TBS−T(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.1% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、5%スキムミルク/TBS−T中で一次抗体反応を行った。一次抗体としては、抗DHFR抗体(sc-14780, SantaCruz、500倍希釈)及び抗GAPDH抗体(sc-32233, SantaCruz、20000倍希釈)を用いた。室温にて90分間(抗DHFR抗体)又は45分間(抗GAPDH抗体)振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。一次抗体反応後、2%スキムミルク/TBS−T中で二次抗体反応を行った。室温にて30分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをTBS(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。検出されたバンドの定量には、画像処理ソフトウェアImageJ(NIH)を用いた。
【0295】
MTX-CiKD_MLN又はMTXを添加したHeLa細胞において、内在発現標的タンパク質(ヒトDHFR)のウェスタンブロット解析により検出されたバンドの定量結果を
図10Aに示し、検出されたバンドを
図10Bに示す。
図10A及び
図10Bに示すとおり、MTX-CiKD_MLNを添加した場合には、濃度依存的に標的タンパク質(ヒトDHFR)の量が減少した。一方、MTXを添加した場合には、濃度が200μMの場合であっても、標的タンパク質(ヒトDHFR)の量の減少は観察されなかった。
【0296】
<実施例16:タンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)を投与したマウス個体における内在発現標的タンパク質(マウスDHFR)の分解(ノックダウン)の評価>
実施例16では、MTX-CiKD_MLNを投与したマウス個体における内在発現標的タンパク質(マウスDHFR)の分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した。
【0297】
(マウスへのタンパク質分解誘導分子(MTX-CiKD_MLN)の投与)
C57BL/6J野生型マウス(7週齢、雄)(日本クレア(株))に、DMSO、10mg/kg MTX、50mg/kg MTX-CiKD_MLN、又は100mg/kg MTX-CiKD_MLNを24時間投与した(n=3)。MTX-CiKD_MLN及びMTXは、DMSOに溶解した後、DMSOの濃度が10体積%となるようにトウモロコシ油(Code No. 25606-55,ナカライテスク(株))に溶解させ、腹腔内投与した。マウスは、餌及び水が自由摂取できる環境下で飼育した。投与24時間後に、ソムノペンチル(製造番号:3214101、共立製薬(株))による深麻酔下で、マウスを解剖した。肝臓、腎臓、脾臓、心臓、及び肺を摘出し、液体窒素で瞬間凍結させた。
【0298】
(マウス組織のウェスタンブロット解析)
凍結した肝臓(40mg)を粉砕した後、980μLの1×TKM組織溶解バッファー(50 mM トリエタノールアミン(pH 7.8), 50 mM KCl, 5 mM MgCl
2, 0.25 M sucrose, 1 mM PMSF, protein inhibitors cocktail-EDTA free(Code No.03969-21, ナカライテスク(株)), 1 mM DTT,Ricombinant RNase inhibitor 5μL/mL(40 U/μL, Cat No. 2313A, Lot No. K8402DA, TAKARA))を加え、15分間回転(1rpm、25℃)させた。遠心分離(3000rpm×15分間、4℃)し、上清(肝臓組織抽出物)を回収した。抽出したタンパク質は、分光光度計で濃度を定量した。
【0299】
回収した肝臓組織抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS−PAGEゲル(14ウェル)は、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2−メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で5分間ヒートブロックした。調製した泳動サンプルは、100μg/20μL/ウェル(DHFR検出用)又は50μg/10μL/ウェル(GAPDH検出用)となるようにアプライした。泳動マーカーとしては、Precision Plus Protein Dual Color Standards(Bio-Rad)を用いた。電気泳動は160Vで60分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0300】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、90分間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/TBS−T(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.1% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、5%スキムミルク/TBS−T中で一次抗体反応を行った。一次抗体としては、抗DHFR抗体(sc-14780, SantaCruz、500倍希釈)及び抗GAPDH抗体(sc-32233, SantaCruz、20000倍希釈)を用いた。室温にて60分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。一次抗体反応後、1%スキムミルク/TBS−T中で二次抗体反応を行った。室温にて30分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをTBS(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.6)で10分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。
【0301】
MTX-CiKD_MLN又はMTXを投与したマウス個体の肝臓組織抽出物における内在発現標的タンパク質(マウスDHFR)のウェスタンブロット解析結果を
図11に示す。
図11に示すとおり、50mg/kg又は100mg/kgのMTX-CiKD_MLNをマウスに24時間投与した場合には、濃度依存的に、肝臓組織内の標的タンパク質(マウスDHFR)の量が減少した。この結果は、マウス個体において、僅か1日で約70%〜80%の標的タンパク質(マウスDHFR)が分解されたことを示している。一方、10mg/kgのMTXをマウスに24時間投与した場合には、コントロール(DMSO)よりも、肝臓組織内の標的タンパク質(マウスDHFR)の量が増加した。
【0302】
<実施例17:タンパク質分解誘導タグとしてCiKD_DMTを用い、タンパク質結合分子としてTMP誘導体を用いたタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)の合成>
実施例17では、下記の合成スキームに従って、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_DMTを合成した。
タンパク質分解誘導タグとしては、前述した式(I)においてR
1及びR
2をいずれもメトキシ基とした化合物(DMT)を用いた。DMTは、プロテアソーム阻害剤に由来しないものの、プロテアソームに対して親和性を有する化合物である。また、タンパク質結合分子としては、実施例1と同様にTMP−NH
2を用いた。そして、DMTとTMP−NH
2とを連結することにより、タンパク質分解誘導分子であるTMP-CiKD_DMTを合成した。
【0303】
【化9】
【0304】
TMP-CiKD_DMTの合成方法の詳細は以下のとおりである。
【0305】
ナスフラスコにTMP−NH
2(Long, M.J. et al., Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)(31.7 mg, 0.073 mmol)を仕込み、脱水DMFを0.3mL加えた。室温で10分間撹拌した後、DIEAを0.1mL加え、室温で10分間撹拌した。DMT−MM(33.6 mg, 0.12 mmol, 1.6 eq, Code No. 329-53751, 和光純薬工業(株))を反応溶液に直接加え、室温にて18時間撹拌した。反応溶液を水及び炭酸水素ナトリウム水溶液で希釈し、クロロホルムで5回抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(Code No. 30511-35, ナカライテスク(株))(クロロホルム/メタノール=92/8)を用いた分離精製処理により、TMP-CiKD_DMT(25.8 mg, 0.045 mmol, 62%, isolated yield)を得た。
【0306】
<実施例18:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)のプロテアソーム阻害活性及びプロテアソームとの親和性の評価>
実施例18では、TMP-CiKD_Bortezomibの代わりに10μM又は100μMのTMP-CiKD_DMTを用いること以外は実施例4と同様にして、TMP-CiKD_DMTのプロテアソーム阻害活性及びプロテアソームとの親和性を評価した。ポジティブコントロールとしては、プロテアソーム阻害剤であるMG−132を用いた。
【0307】
β1(カスパーゼ様活性)、β2(トリプシン様活性)、及びβ5(キモトリプシン様活性)の各プロテアソーム活性を
図12A〜
図12Cに示す。
図12A〜
図12Cに示すとおり、TMP-CiKD_DMTは、MG−132と比較して、プロテアソーム阻害活性が著しく低いことが確認できた。また、β1、β2、及びβ5のいずれに対しても、TMP-CiKD_DMTの濃度依存的に阻害活性が高まることから、TMP-CiKD_DMTがプロテアソームと穏やかな親和性を有していることが示唆された。すなわち、DMTは、プロテアソームと親和性を有するものの、分解を阻害しないと評価された。
【0308】
<実施例19:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)の50%阻害濃度(IC
50)の測定>
実施例19では、TMP-CiKD_Bortezomibの代わりにTMP-CiKD_DMTを用いること以外は実施例5と同様にして、20Sプロテアソームのβ1、β2、及びβ5の各プロテアソーム活性に対するTMP-CiKD_DMTの50%阻害濃度(IC
50)を測定した。ポジティブコントロールとしては、プロテアソーム阻害剤であるMLN2238を用いた。
【0309】
TMP-CiKD_DMT及びMLN2238の50%阻害濃度(IC
50)を以下の表87に示す。
【0310】
【表87】
【0311】
表87に示すとおり、TMP-CiKD_DMTは、MLN2238と比較して、プロテアソーム阻害活性が著しく低いことが確認できた。
【0312】
<実施例20:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)を添加したHeLa細胞における、タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)と強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)との親和性の評価(熱シフトアッセイ)>
実施例20では、TMP-CiKD_DMTを添加したHeLa細胞における、TMP-CiKD_DMTと強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)との親和性について、熱シフトアッセイにより評価した。
【0313】
(培養細胞の準備)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。
【0314】
(HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
HeLa細胞にプラスミドを導入することにより、細胞内に標的タンパク質であるecDHFR(詳細には、HAタグを介したecDHFRとGFPとの融合タンパク質)又は比較用のDsRedを一過的に過剰発現させ、TMP-CiKD_DMTの標的タンパク質への作用を評価した。
【0315】
プラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)は、ブランダイス大学(米国)のLizbeth Hedstrom教授より提供を受けた(Long, M.J. et al., "Inhibitor mediated protein degradation.", Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)。このプラスミドを大腸菌で増幅した後、Miniprep Kit(Code No. 27106, QIAGEN)で精製した。
【0316】
HeLa細胞へのプラスミド導入には、トランスフェクション試薬であるScreenFectA(Code No. 297-73201, 和光純薬工業(株))を用いた。ScreenFectAのDilution Bufferを2本の1.5mLチューブに250μLずつ加えた。そして、一方のチューブにはScreenFectAのTransfection Reagentを12μL添加し(溶液A)、他方のチューブにはプラスミドを6μg添加し(溶液B)、それぞれを軽くピペッティングした後、室温にて2分間静置した。溶液Aと溶液Bとを軽く混ぜ合わせ、室温にて30分間静置した(溶液C)。トリプシン処理により回収した6×10
5細胞/12mLの細胞溶液に溶液Cを混合し、24ウェルプレート(Code No. TR5002, TrueLine, 日本ジェネティクス(株))に4×10
4細胞/800μL/ウェルの細胞密度で播種した後、37℃、5体積% CO
2の条件下で40時間培養した。
【0317】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)の添加)
プラスミドを導入してから40時間培養した後、以下のようにして、HeLa細胞にTMP-CiKD_DMTを添加した。培地としては、D−MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyrvate)(Code No. 045-32245, 和光純薬工業(株))に1質量% L−グルタミン溶液(Code No. G7513, Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を用いた。なお、L−グルタミン溶液は使用直前に添加した。TMP-CiKD_DMTを含有するDMSO溶液をDMSO濃度が1体積%となるように培地と混合し、前培養培地を除去したウェルに各ウェル当たり300μL添加し、37℃、5体積% CO
2の条件下で培養した。
なお、コントロールとしては、TMP-CiKD_DMTを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0318】
(熱シフトアッセイによるTMP-CiKD_DMTの標的親和性の評価)
TMP-CiKD_DMT(28μM)又はTMP(40μM)の添加3時間後、培地を除去し、37℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり1mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、37℃のトリプシン(0.25 w/v% Trypsin-1 mmol/L EDTA・4Na Solution with Phenol Red)(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり300μL添加し、37℃、5体積% CO
2の条件下で1分間培養した。培養後、D−MEM(Low D-Glucose, L-Glutamine, Phenol Red)(Code No. 041-29775, 和光純薬工業(株))に10質量% FBS(Code No. SH30910.03, Lot No. AYG161516, HyClone)及び1質量% PenStrep(100 U/mL Sodium Penicillin G and 100 μg/mL Streptomycin Sulfate)(Code No. 168-23191, 和光純薬工業(株))を添加した培地を各ウェル当たり1mL添加して懸濁し、15mLチューブに細胞溶液を回収した。
【0319】
回収した細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、2mLのPBS(37℃)により懸濁した。懸濁後の細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、CETSAバッファー(TBSにプロテアーゼ阻害剤であるcOmplete, Mini, EDTA-free(Roche)を使用直前に添加)を180μL添加して懸濁した。懸濁後の細胞溶液を9本の1.5mLチューブに20μLずつ分注し、室温にて30分間静置した。静置後、9本のチューブをそれぞれ38℃、42℃、46℃、50℃、54℃、58℃、62℃、66℃、又は70℃で3分間熱処理し、室温にて3分間静置した。静置後、細胞溶液を液体窒素で瞬間凍結し、氷上で融解させた。この凍結融解を3回繰り返した後、遠心分離(13500rpm×20分間、4℃)し、上清(細胞抽出物)を回収した。
【0320】
回収した細胞抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS−PAGEゲル(14ウェル)は、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2−メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で4分間ヒートブロックした。調製した泳動サンプルは、各ウェル当たり17μLずつアプライした。泳動マーカーとしては、Precision Plus Protein Dual Color Standards(Bio-Rad)を用いた。電気泳動は150Vで40分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0321】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、40分間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/High-salt TBS-T(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, 0.2% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tでリンスし、1%スキムミルク/High-salt TBS-T中で抗体反応を行った。抗体としては、Anti-HA-Peroxidase, High-Affinity(3F10)Rat monoclonal antibody(25 U/mL)(Roche)を1000倍希釈して用いた。室温にて90分間振盪させた後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをHigh-salt TBS(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。
【0322】
TMP-CiKD_DMT又はTMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の熱シフトアッセイ結果を
図13に示す。
コントロール(DMSO)では約50℃までしか大腸菌DHFRを検出することができなかったが、TMP(40μM)では約54℃まで、TMP-CiKD_DMT(28μM)では約62℃まで大腸菌DHFRを検出することができた。
この結果から、TMP-CiKD_DMTは、TMP−NH
2とDMTとが連結されたものであるが、大腸菌DHFRとの親和性がTMPよりも高いことが確認できた。
【0323】
<実施例21:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)の評価(FACS解析)>
実施例21では、TMP-CiKD_DMTを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)について、FACS解析により評価した。
【0324】
(培養細胞の準備)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。
【0325】
(HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
HeLa細胞にプラスミドを導入することにより、細胞内に標的タンパク質である大腸菌DHFR(詳細には、HAタグを介した大腸菌DHFRとGFPとの融合タンパク質)又は比較用のDsRedを一過的に過剰発現させ、TMP-CiKD_DMTの標的タンパク質への作用を評価した。
【0326】
プラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)は、ブランダイス大学(米国)のLizbeth Hedstrom教授より提供を受けた(Long, M.J. et al., "Inhibitor mediated protein degradation.", Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)。このプラスミドを大腸菌で増幅した後、Miniprep Kit(Code No. 27106, QIAGEN)で精製した。
【0327】
HeLa細胞へのプラスミド導入には、トランスフェクション試薬であるScreenFectA(Code No. 297-73201, 和光純薬工業(株))を用いた。ScreenFectAのDilution Bufferを2本の1.5mLチューブに960μLずつ加えた。そして、一方のチューブにはScreenFectAのTransfection Reagentを40μL添加し(溶液A)、他方のチューブにはプラスミドを16μg添加し(溶液B)、それぞれを軽くピペッティングした後、室温にて2分間静置した。溶液Aと溶液Bとを軽く混ぜ合わせ、室温にて30分間静置した(溶液C)。トリプシン処理により回収した2.7×10
5細胞/18mLの細胞溶液に溶液Cを混合し、24ウェルプレート(Code No. TR5002, TrueLine, 日本ジェネティクス(株))に6×10
4細胞/400μL/ウェルの細胞密度で播種した後、37℃、5体積% CO
2の条件下で40時間培養した。
【0328】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)の添加)
以下のようにして、HeLa細胞にTMP-CiKD_DMTを添加した。プラスミドを導入してから40時間培養した後、前培養培地を除去し、D−MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyrvate)(Code No. 045-32245, 和光純薬工業(株))に1質量% L−グルタミン溶液(Code No. G7513, Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を各ウェル当たり297μL添加した。なお、L−グルタミン溶液は使用直前に添加した。所定濃度のTMP-CiKD_DMTを含有するDMSO溶液を各ウェル当たり3μL添加し、37℃、5体積% CO
2の条件下で培養した。
なお、コントロールとしては、TMP-CiKD_DMTを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0329】
TMP-CiKD_DMT(56μM若しくは112μM)又はTMP(80μM)の添加24時間後、培地を除去し、37℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり1mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、37℃のトリプシン(0.25 w/v% Trypsin-1 mmol/L EDTA・4Na Solution with Phenol Red)(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり300μL添加し、37℃、5体積% CO
2の条件下で1分間培養した。培養後、D−MEM(Low D-Glucose, L-Glutamine, Phenol Red)(Code No. 041-29775, 和光純薬工業(株))に10質量% FBS(Code No. SH30910.03, Lot No. AYG161516, HyClone)及び1質量% PenStrep(100 U/mL Sodium Penicillin G and 100 μg/mL Streptomycin Sulfate)(Code No. 168-23191, 和光純薬工業(株))を添加した培地を各ウェル当たり500μL添加して懸濁し、15mLチューブに細胞溶液を回収した。
【0330】
回収した細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、2mLのPBS(37℃)により懸濁した。懸濁後の細胞溶液を遠心分離(1000rpm×5分間、4℃)し、上清を除去した後、4℃のFACSバッファー(1質量% FBS/PBS)を500μL添加し、氷上に静置した。
【0331】
フローサイトメトリーにはBD FACSCanto II(BD Biosciences)を用い、細胞中におけるGFR及びDsRedの発現を定量した。FACS解析の直前に、細胞溶液を孔径32μmのメッシュに通し、FACSチューブへと移した。解析ソフトFLOWJO(トミーデジタルバイオロジー(株))により細胞1個当たりのGFR/DsRed比を算出し、標的分解によるグラフのシフトから、TMP-CiKD_DMTによる標的分解(ノックダウン)の効率を確認した。
【0332】
TMP-CiKD_DMT(56μM)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を
図14Aに示す。また、TMP-CiKD_DMT(112μM)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を
図14Bに示す。また、TMPを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のFACS解析結果を
図14Cに示す。
図14A及び
図14Bに示すとおり、TMP-CiKD_DMTを添加した場合には、コントロール(DMSO)と比較して、濃度依存的にグラフの左へのシフト量が大きくなっており、標的タンパク質(大腸菌DHFR)が分解されていることが確認できた。シフト量から推測される分解効率は60%〜70%程度であった。一方、
図14Cに示すとおり、TMPを添加した場合には、コントロール(DMSO)とグラフが重なっており、標的タンパク質が分解されていないことが確認できた。
【0333】
<実施例22:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)の評価(ウェスタンブロット解析)>
実施例22では、TMP-CiKD_DMTを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した。
【0334】
(培養細胞の準備)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。
【0335】
(HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
HeLa細胞にプラスミドを導入することにより、細胞内に標的タンパク質である大腸菌DHFR(詳細には、HAタグを介した大腸菌DHFRとGFPとの融合タンパク質)又は比較用のDsRedを一過的に過剰発現させ、TMP-CiKD_DMTの標的タンパク質への作用を評価した。
【0336】
プラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)は、ブランダイス大学(米国)のLizbeth Hedstrom教授より提供を受けた(Long, M.J. et al., "Inhibitor mediated protein degradation.", Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)。このプラスミドを大腸菌で増幅した後、Miniprep Kit(Code No. 27106, QIAGEN)で精製した。
【0337】
HeLa細胞へのプラスミド導入には、トランスフェクション試薬であるScreenFectA(Code No. 297-73201, 和光純薬工業(株))を用いた。ScreenFectAのDilution Bufferを2本の1.5mLチューブに250μLずつ加えた。そして、一方のチューブにはScreenFectAのTransfection Reagentを12μL添加し(溶液A)、他方のチューブにはプラスミドを4.8μg添加し(溶液B)、それぞれを軽くピペッティングした後、室温にて2分間静置した。溶液Aと溶液Bとを軽く混ぜ合わせ、室温にて30分間静置した(溶液C)。トリプシン処理により回収した7.7×10
4細胞/7.7mLの細胞溶液に溶液Cを混合し、24ウェルプレート(Code No. TR5002, TrueLine, 日本ジェネティクス(株))に4×10
4細胞/400μL/ウェルの細胞密度で播種した後、37℃、5体積% CO
2の条件下で40時間培養した。
【0338】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT)の添加)
プラスミドを導入してから40時間培養した後、以下のようにして、HeLa細胞にTMP-CiKD_DMTを添加した。培地としては、D−MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyrvate)(Code No. 045-32245, 和光純薬工業(株))に1質量% L−グルタミン溶液(Code No. G7513, Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を用いた。なお、L−グルタミン溶液は使用直前に添加した。TMP-CiKD_DMTを含有するDMSO溶液をDMSO濃度が1体積%となるように培地と混合し、前培養培地を除去したウェルに各ウェル当たり300μL添加し、37℃、5体積% CO
2の条件下で培養した。また、TMP-CiKD_DMTを含有するDMSO溶液を添加する実験群のほかに、TMP-CiKD_DMT及びボルテゾミブを含有するDMSO溶液を添加する実験群も準備した。TMP-CiKD_DMT、又はTMP-CiKD_DMT及びボルテゾミブの添加12時間後に、タンパク質合成阻害剤であるシクロへキシミドを50μg/mLの濃度となるように培地中に添加した。
なお、コントロールとしては、TMP-CiKD_DMTを含有するDMSO溶液の代わりに、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0339】
(ウェスタンブロット解析によるTMP-CiKD_DMTの標的分解(ノックダウン)の評価)
TMP-CiKD_DMT、又はTMP-CiKD_DMT及びボルテゾミブの添加24時間後、培地を除去し、4℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり1mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、細胞溶解バッファー(CelLytic M, Sigma)とプロテアーゼ阻害剤(cOmplete Mini, EDTA-free (REF 11 836 170 001), Roche)との混合溶液を各ウェル当たり55μL添加した。4℃にて15分間静置した後、ピペットチップ(P1000)を用いて氷上で細胞を剥がした。細胞溶液を1.5mLチューブに回収し、液体窒素で瞬間凍結した後、氷上で融解させた。凍結融解を3回繰り返した後、遠心分離(13000rpm×20分間、4℃)し、上清(細胞抽出物)を回収した。
【0340】
回収した細胞抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS−PAGEゲル(8ウェル)は、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2−メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で4分間ヒートブロックした。調製した泳動サンプルは、各ウェル当たり40μLずつアプライした。泳動マーカーとしては、Precision Plus Protein Dual Color Standards(Bio-Rad)を用いた。電気泳動は150Vで50分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0341】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、40分間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/High-salt TBS-T(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, 0.2% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tでリンスし、1%スキムミルク/High-salt TBS-T中で抗体反応を行った。抗体としては、Anti-HA-Peroxidase, High-Affinity(3F10)Rat monoclonal antibody(25 U/mL)(Roche)を1000倍希釈して用いた。室温にて1時間振盪させた後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをHigh-salt TBS(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。
【0342】
次に、同一のメンブレンを用いて、コントロールであるGAPDHの検出反応を行った。メンブレンをTBS−T(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.1% Tween-20, pH 7.6)で洗浄し、5%スキムミルク/TBS−T中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、5%スキムミルク/TBS−T中で一次抗体反応を行った。一次抗体としては、抗GAPDH抗体(sc-32233, SantaCruz、20000倍希釈)を用いた。室温にて60分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。一次抗体反応後、2%スキムミルク/TBS−T中で二次抗体反応を行った。二次抗体としては、抗マウスIgG(H+L)抗体(A90-116P-33, BETHYL)を20000倍希釈して用いた。室温にて30分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをTBS(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。検出されたバンドの定量には、画像処理ソフトウェアImageJ(NIH)を用いた。
【0343】
TMP-CiKD_DMT、又はTMP-CiKD_DMT及びボルテゾミブを添加したHeLa細胞において、強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のウェスタンブロット解析により検出されたバンドの定量結果を
図15Aに示し、検出されたバンドを
図15Bに示す。
図15A及び
図15Bに示すとおり、TMP-CiKD_DMT(112μM)を添加した場合には、コントロール(DMSO)を基準とした分解効率が約60%であった。一方、TMP-CiKD_DMT(112μM)及びボルテゾミブ(1μM)を添加した場合には、標的タンパク質の分解が阻害された。この結果は、TMP-CiKD_DMTによって、標的タンパク質がプロテアソームによる分解へと導かれていたことを示唆している。
【0344】
<実施例23:タンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、及びTMP-CiKD_Bortezomib)を添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)の評価(ウェスタンブロット解析)>
実施例23では、TMP-CiKD_DMT、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、又はTMP-CiKD_Bortezomibを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)の分解(ノックダウン)について、ウェスタンブロット解析により評価した。
【0345】
(培養細胞の準備)
実施例2と同様にして、HeLa細胞を準備した。
【0346】
(HeLa細胞へのプラスミドの導入及び細胞播種)
HeLa細胞にプラスミドを導入することにより、細胞内に標的タンパク質である大腸菌DHFR(詳細には、HAタグを介した大腸菌DHFRとGFPとの融合タンパク質)又は比較用のDsRedを一過的に過剰発現させ、TMP-CiKD_DMTの標的タンパク質への作用を評価した。
【0347】
プラスミド(pMIR DsRed-IRES-ecDHFR-HA-GFP)は、ブランダイス大学(米国)のLizbeth Hedstrom教授より提供を受けた(Long, M.J. et al., "Inhibitor mediated protein degradation.", Chem. Biol., 2012, 19(5), 629-637)。このプラスミドを大腸菌で増幅した後、Miniprep Kit(Code No. 27106, QIAGEN)で精製した。
【0348】
HeLa細胞へのプラスミド導入には、トランスフェクション試薬であるScreenFectA(Code No. 297-73201, 和光純薬工業(株))を用いた。ScreenFectAのDilution Bufferを2本の1.5mLチューブに400μLずつ加えた。そして、一方のチューブにはScreenFectAのTransfection Reagentを20μL添加し(溶液A)、他方のチューブにはプラスミドを10.3μg添加し(溶液B)、それぞれを軽くピペッティングした後、室温にて2分間静置した。溶液Aと溶液Bとを軽く混ぜ合わせ、室温にて30分間静置した(溶液C)。トリプシン処理により回収した8×10
5細胞/16mLの細胞溶液に溶液Cを混合し、24ウェルプレート(Code No. TR5002, TrueLine, 日本ジェネティクス(株))に4×10
4細胞/800μL/ウェルの細胞密度で播種した後、37℃、5体積% CO
2の条件下で40時間培養した。
【0349】
(HeLa細胞へのタンパク質分解誘導分子(TMP-CiKD_DMT、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、又はTMP-CiKD_Bortezomib)の添加)
プラスミドを導入してから40時間培養した後、以下のようにして、HeLa細胞にTMP-CiKD_DMT、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、又はTMP-CiKD_Bortezomibを添加した。培地としては、D−MEM(High D-Glucose, Phenol Red, Sodium Pyrvate)(Code No. 045-32245, 和光純薬工業(株))に1質量% L−グルタミン溶液(Code No. G7513, Sigma-Aldrich)を添加した無血清培地(37℃)を用いた。なお、L−グルタミン溶液は使用直前に添加した。TMP-CiKD_DMT、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、又はTMP-CiKD_Bortezomibを含有するDMSO溶液をDMSO濃度が1体積%となるように培地と混合し、前培養培地を除去したウェルに各ウェル当たり300μL添加し、37℃、5体積% CO
2の条件下で培養した。
なお、コントロールとしては、TMPを含有するDMSO溶液又はDMSOを用いた。
【0350】
(ウェスタンブロット解析による標的分解(ノックダウン)の評価)
TMP-CiKD_DMT、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、又はTMP-CiKD_Bortezomibの添加24時間後、培地を除去し、4℃のPBS(和光純薬工業(株))を各ウェル当たり1mL添加して細胞を洗浄した。PBSの除去後、細胞溶解バッファー(CelLytic M, Sigma)とプロテアーゼ阻害剤(cOmplete Mini, EDTA-free (REF 11 836 170 001), Roche)との混合溶液を各ウェル当たり30μL添加した。4℃にて10分間静置した後、ピペットチップ(P1000)を用いて氷上で細胞を剥がした。細胞溶液を1.5mLチューブに回収し、液体窒素で瞬間凍結した後、氷上で融解させた。凍結融解を3回繰り返した後、遠心分離(13500rpm×20分間、4℃)し、上清(細胞抽出物)を回収した。
【0351】
回収した細胞抽出物について、ウェスタンブロット解析を行った。SDS−PAGEゲル(12ウェル)は、TGX FastCast Acrylamide Kit, 12%(Bio-Rad)を用いて作製した。泳動サンプルは、6×SDS-PAGE sample buffer(62.5 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 5% 2−メルカプトエタノール, 10% グリセロール, 0.25% BPB)により調製し、95℃で4分間ヒートブロックした。調製した泳動サンプルは、各ウェル当たり20μLずつアプライした。泳動マーカーとしては、Precision Plus Protein Dual Color Standards(Bio-Rad)を用いた。電気泳動は160Vで45分間行った(泳動バッファー;195 mM グリシン, 25 mM Tris)。
【0352】
電気泳動後、タンク式ブロット装置及び転写バッファー(25 mM Tris-HCl, 195 mM グリシン, 0.01% SDS, 15% メタノール)を用いて、100V、35分間の条件でPVDFメンブレン(Immobion-P, Millipore)にタンパク質を転写した。転写後のメンブレンは、5%スキムミルク/High-salt TBS-T(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, 0.2% Tween-20, pH 7.6)中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tでリンスし、1%スキムミルク/High-salt TBS-T中で抗体反応を行った。抗体としては、Anti-HA-Peroxidase, High-Affinity(3F10)Rat monoclonal antibody(25 U/mL)(Roche)を500倍希釈して用いた。室温にて2時間振盪させた後、メンブレンをHigh-salt TBS-Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをHigh-salt TBS(100 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。
【0353】
次に、同一のメンブレンを用いて、コントロールであるGAPDHの検出反応を行った。メンブレンをTBS−T(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.1% Tween-20, pH 7.6)で洗浄し、5%スキムミルク/TBS−T中、室温にて30分間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、5%スキムミルク/TBS−T中で一次抗体反応を行った。一次抗体としては、抗GAPDH抗体(sc-32233, SantaCruz、10000倍希釈)を用いた。室温にて60分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。一次抗体反応後、2%スキムミルク/TBS−T中で二次抗体反応を行った。二次抗体としては、抗マウスIgG(H+L)抗体(A90-116P-33, BETHYL)を20000倍希釈して用いた。室温にて30分間振盪させた後、メンブレンをTBS−Tで5分間洗浄した。なお、洗浄は3回行った。更に、メンブレンをTBS(100 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.6)で5分間洗浄した。そして、メンブレンを化学発光試薬Immobilon Western(Millipore)で処理した後、化学発光をルミノイメージアナライザLAS-3000(富士フイルム(株))を用いて検出した。検出されたバンドの定量には、画像処理ソフトウェアImageJ(NIH)を用いた。
【0354】
TMP-CiKD_DMT、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、又はTMP-CiKD_Bortezomibを添加したHeLa細胞における強制発現標的タンパク質(大腸菌DHFR)のウェスタンブロット解析結果を
図16に示す。
図16に示すとおり、80μM又は160μMのTMP-CiKD_DMTを添加した場合には、コントロール(DMSO)を基準とした分解効率が、それぞれ72%、91%であった。また、TMP-CiKD_MLN、TMP-CiKD_ALLN、及びTMP-CiKD_Bortezomibの160μMでの分解効率は、それぞれ82%、45%、28%であった。
【0355】
2015年6月19日に出願された日本出願2015−123740及び2016年4月8日に出願された日本出願2016−078324の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的且つ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。