【文献】
杉浦誠ほか,スケールアウト型の細胞分離方法の開発−1オリジナルデバイスの開発−,第17回日本再生医療学会総会,2018年02月23日,O-58-2
【文献】
畑田靖世ほか,スケールアウト型の細胞分離方法の開発−2自家培養軟骨ジャックの製造工程への展開−,第17回日本再生医療学会総会,2081年02月23日,O-58-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
生体組織は、細胞と、細胞の周囲に存在する細胞外マトリックスを含んで構成されている。生体組織から細胞を分離(または単離)する分離処理は、生体組織を酵素剤等の処理液を用いて細胞外マトリックスを分解し、細胞を抽出する処理である。分離処理においては、細胞の生存率を高めるために、生体組織及び生体組織から分離した細胞の周囲環境を無菌状態に保つことが重要である。
【0004】
上記の特許文献1(特許第6164612号公報)には、分離処理に適した細胞分離容器が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の細胞分離容器において、処理液を組織保持室に保持するためには、組織保持室内の気圧の上昇を抑制する第2気圧調節部を大気開放状態にする必要がある。第2気圧調節部を大気開放状態にすると、生体組織及び生体細胞から分離した細胞が、細菌及びウィルス等の汚染源に暴露されるリスクが高まる。すなわち、通常、大気開放状態の部分から雑菌が侵入することを防止するために市販されている無菌フィルタが広く利用されている。しかし、その無菌フィルタの目の大きさから細菌の侵入を防ぐのが限界であり、それよりも小さなウィルス等の侵入を止めることができない。
【0005】
開示の技術は、生体組織及び生体組織から分離した細胞が汚染源に暴露されるリスクを抑制しつつ、生体組織を収容するための容器への処理液の移送に伴う容器内部の気圧の上昇を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の技術に係る処理装置は、処理対象の生体組織を収容するための第1の容器と、生体組織の処理に用いる処理液を封入するための少なくとも1つの第2の容器と、第1の容器と第2の容器とを接続する送液流路と、第2の容器から第1の容器への処理液の移送を行う処理液移送手段と、第1の容器に閉鎖系を形成して接続された、容積が可変である第3の容器と、を含む。第1の容器は、処理液が透過可能な区画フィルタによって互いに隔てられた第1の気室及び第2の気室を有する。第2の容器から第1の容器への処理液の移送が行われている間、第1の気室内の気体が前記第3の容器に移送され、第1の気室の気圧が第2の気室の気圧よりも低い状態が維持され、第1の容器に移送された処理液が第1の気室に保持される。
【0007】
開示の技術に係る処理装置によれば、容積が可変である第3の容器が、第1の容器に閉鎖系を形成して接続されているので、生体組織及び生体組織から分離した細胞が汚染源に暴露されるリスクを抑制しつつ、第1の容器への処理液の移送に伴う第1の容器内部の気圧の上昇を抑制することができる。
【0008】
第3の容器は、可撓性を有する材料からなるバッグを含んで構成されていてもよい。これにより、第3の容器の容積の拡大に伴う抵抗を小さくすることができ、第1の容器の内部の気圧の上昇を抑制する効果を高めることができる。可撓性を有するバッグの材料は、例えば、樹脂フィルムであってもよい。バッグの材料として樹脂フィルムを用いることで、バッグの製造コストを抑えることができ、使い捨てが可能となる。また、第3の容器は、シリンジを含んで構成されていてもよい。
【0009】
第1の容器は、区画フィルタによって互いに隔てられた第1の気室及び第2の気室と、第1の気室にそれぞれ連通する第1の流通口及び第2の流通口と、第2の気室に連通する第3の流通口と、を含み得る。第1の流通口が送液流路に接続され、第2の流通口が第3の容器に接続され、第3の流通口が排液流路に接続されていてもよい。第1の容器が上記の構成を有することで、第1の気室及び第2の気室の気圧調整により、第1の気室に生体組織とともに処理液を滞留させたり、使用済みの処理液を第2の気室を経由して排液流路に排出したりすることが可能となる。
【0010】
処理装置は、第2の容器から第1の容器への処理液の送液が行われている間、閉状態とされる排液流路に設けられた排液バルブを更に含み得る。この態様によれば、排液バルブの開閉制御により第1の容器の気圧調整を行うことが可能となる。
【0011】
開示の技術に係る処理装置によれば、第2の容器から第1の容器への処理液の送液が行われている間、第3の容器への気体の流入に伴って第3の容器の容積が拡大する。
【発明の効果】
【0012】
開示の技術によれば、生体組織及び生体組織から分離した細胞が汚染源に暴露されるリスクを抑制しつつ、生体組織を収容するための容器への処理液の移送に伴う容器内部の気圧の上昇を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。尚、各図面において、実質的に同一又は等価な構成要素又は部分には同一の参照符号を付している。
【0015】
[第1の実施形態]
図1は、開示の技術の第1の実施形態に係る処理装置1の構成の一例を示す正面図である。処理装置1は、処理対象の生体組織を収容するための処理容器20と、生体組織の分離処理に用いる処理液を封入するための複数の処理液封入容器10と、を有する。また、処理装置1は、処理容器20と複数の処理液封入容器10の各々とを接続する流路として、個別流路31及び共通流路32を有する。また、処理装置1は、処理液封入容器10から処理容器20への処理液の移送を行う処理液移送手段として送液ポンプ51を有する。処理装置1は、処理液封入容器10に封入された処理液を、処理容器20に収容された生体組織に添加することで、生体組織を構成する細胞外マトリックスを分解し、生体組織から細胞を分離する分離処理を自動で行う。
【0016】
分離処理においては、例えば、生体組織を消毒する消毒液、消毒液を洗い流す洗浄液、生体組織を分解する少なくとも1種類の酵素液、及び酵素液を洗い流す培養液が、処理液として使用される。消毒液、洗浄液、酵素液、培養液は、互いに異なる処理液封入容器10に封入される。換言すれば、複数の処理液封入容器10には、互いに異なる種類の処理液が封入される。複数の処理液封入容器10に封入された、互いに異なる種類の処理液は、所定の順序で処理容器20に移送される。互いに異なる種類の処理液は、処理液封入容器10、処理容器20及び流路内において、混合されないことが好ましい。
【0017】
処理液封入容器10の各々は、外部からの細菌及びウィルス等の汚染源による汚染のリスクを抑制するために、使い捨ての密閉容器であることが好ましく、例えば遠沈管として市販されている容器を処理液封入容器10として用いることが可能である。また、容積が可変であるシリンジまたはバッグを処理液封入容器10として好適に用いることができる。
図1には、処理液封入容器10としてシリンジを使用する場合が例示されている。
【0018】
複数の個別流路31の各々は、複数の処理液封入容器10の各々に対応して設けられている。個別流路31の各々は、一端が対応する処理液封入容器10に接続され、他端が共通流路32に接続されている。
【0019】
個別流路31の各々と共通流路32との各接続部には、それぞれ、継手35が設けられている。なお、本明細書において、個別流路31とは、処理液封入容器10から継手35までの流路区間を意味する。また、本明細書において、共通流路32とは、各継手35から処理容器20までの流路区間を意味する。従って、互いに隣接する継手35と継手35との間の流路区間は、共通流路32に属する。処理容器20は、共通流路32の一端に接続されている。
【0020】
個別流路31の各々の途中には、送液バルブ41が設けられている。すなわち、複数の送液バルブ41の各々は、複数の処理液封入容器10の各々に対応して設けられている。送液バルブ41の各々は、処理液封入容器10から処理容器20への処理液の移送を選択的に行うために使用される。すなわち、選択された送液バルブ41が開状態となり、且つ送液ポンプ51が動作することで、当該送液バルブ41に対応する処理液封入容器10に封入された処理液が、対応する個別流路31及び共通流路32を経由して処理容器20に移送される。送液バルブ41としてピンチバルブを好適に用いることができる。送液バルブ41としてピンチバルブを用いることで、個別流路31を通過する流体に接触することなく流路の開閉を行うことが可能となる。
【0021】
個別流路31及び共通流路32は、管状部材によって構成されている。個別流路31及び共通流路32を構成する管状部材は、滅菌処理が可能であり、溶出物が少なく、且つ処理液に対する耐食性を有していることが好ましい。また、個別流路31及び共通流路32を構成する管状部材は、熱可塑性を有していることが好ましい。管状部材が熱可塑性を有することで、使用後に管状部材を熱溶着により密閉することができ、これにより、例えば生体組織または細胞が細胞及びウィルス等の汚染源に感染している場合に、汚染源が外部に流出するリスクを抑制することができる。個別流路31及び共通流路32を構成する管状部材として、例えば、シリコン製のチューブを用いることが可能である。
【0022】
継手35は、処理液に対する耐食性を有することが好ましい。継手35の材料として、例えば、テフロン(登録商標)、ポリプロピレン、またはポリフッ化ビニリデンを用いることが可能である。また、継手35は、加熱滅菌処理及びガンマ線滅菌処理が可能であることが好ましく、継手35の材料としてポリフッ化ビニリデンが好適である。
【0023】
送液ポンプ51は、共通流路32の途中に設けられている。送液ポンプ51としてチューブポンプを好適に用いることができる。送液ポンプ51としてチューブポンプを用いることで、共通流路32を通過する流体に接触することなく流体の移送を行うことが可能となる。
【0024】
図2は、処理容器20の構成の一例を示す図である。処理容器20は、区画フィルタ23によって互いに隔てられた第1の気室21及び第2の気室22を有する。また、処理容器20は、第1の気室21にそれぞれ連通する第1の流通口24及び第2の流通口25と、第2の気室22に管路27を介して連通する第3の流通口26とを有する。管路27は、一端が第3の流通口26に接続され、第1の気室21及び区画フィルタ23を貫通し、他端が第2の気室22に達している。
【0025】
第1の流通口24は、共通流路32の一端に接続されている。すなわち、処理液封入容器10の各々に封入された処理液は、第1の流通口24から処理容器20の第1の気室21内に流入する。第1の気室21は、処理対象の生体組織及び分離処理によって生体組織から分離された細胞が収容される空間である。第2の気室22は、使用済みの処理液が収容される空間である。
【0026】
区画フィルタ23は、例えば、生体組織から分離される細胞のサイズよりも小さいサイズのフィルタ孔を有する。第1の気室21の気圧が、第2の気室22の気圧よりも低い状態を維持すること等により、処理容器20に流入した処理液を、第1の気室21に留めることが可能である。一方、第2の気室22の気圧を、第1の気室21の気圧よりも低くすること等により、第1の気室21から第2の気室22に処理液を移送することが可能である。なお、処理容器20に流入した処理液を、第1の気室21に留めるために、処理液に作用する表面張力や、区画フィルタ23が処理液を支持する力を利用してもよい。
【0027】
第2の流通口25には、排気流路33の一端が接続されている。排気流路33の他端には、密閉容器90が接続されている。密閉容器90は、処理容器20に対して閉鎖系を形成して接続されている。「閉鎖系を形成して接続されている」とは、細菌及びウィルス等の汚染源の系内への侵入が防止されている状態を意味する。密閉容器90は、容積が可変とされている。密閉容器90として、
図1に示すように、シリンジ91を用いることが可能である。シリンジ91は、バレル92とプランジャ93とを含んで構成され、プランジャ93が、バレル92の内壁に沿って摺動することで、バレル92内の容積が拡大または収縮する。
【0028】
排気流路33の途中には排気バルブ42が設けられている。排気バルブ42は、処理容器20に処理液を移送する場合に開状態とされる。これにより、処理容器20に処理液を移送している間、処理容器20内の気体が排気流路33を経由して密閉容器90に移送され、第1の気室21の気圧が大気圧に維持される。一方、フィルタ23を介して第1の気室21から第2の気室22へとわずかに漏出する処理液により、第2の気室22の気圧は大気圧よりも高い状態となる。そのため、第1の気室21の気圧は第2の気室22の気圧よりも低い状態が維持される。
【0029】
第3の流通口26には、排液流路34の一端が接続されている。排液流路34の他端には、廃液タンク60が接続されている。排液流路34の途中には、排液ポンプ52及び排液バルブ43が設けられている。排液バルブ43が開状態となり、且つ排液ポンプ52が動作することで、第1の気室21に滞留している処理液が、第2の気室22、第3の流通口26及び排液流路34を経由して廃液タンク60に移送される。
【0030】
共通流路32の、送液ポンプ51と処理容器20との間の部位には、気液判別センサ50Aが設けられている。また、排液流路34の、処理容器20と排液ポンプ52との間の部位には、気液判別センサ50Bが設けられている。気液判別センサ50A及び50Bは、それぞれ、流路を流れる流体が、液体であるか気体であるかを判別し、判別結果を示す判別信号を、後述する制御部80(
図3参照)に供給する。気液判別センサ50A及び50Bは、流路を流れる流体が、液体であるか気体であるかの判別を、例えば、流路内に照射されたレーザ光の屈折角に基づいて行うものであってもよい。
【0031】
図3は、処理装置1の構成の一例を示す側面図である。処理装置1は、処理容器20に振動を加える加振機構70を有する。加振機構70は、モータ71と、モータ71の回転軸72に接続されたカム73と、カム73に接触するように配置されたカムフォロア74と、カムフォロア74に接続され、カム73の回転動作に伴って、直線往復動作を行う振動ステージ75とを含んで構成されている。モータ71の駆動制御は、制御部80によって行われる。振動ステージ75には、処理容器20を保持する保持部76が搭載されている。振動ステージ75が、直線往復動作を行うことで、保持部76に保持された処理容器20に振動が加えられる。制御部80、モータ71、カム73及びカムフォロア74は、筐体81の内部に収容されている。
【0032】
保持部76には、ヒータ77及び温度センサ78が埋設されている。保持部76は、金属等の熱伝導率の比較的高い材料で構成されており、ヒータ77から発せられた熱を処理容器20に伝えるヒートブロックとしても機能する。温度センサ78は、例えば、熱電対を含んで構成され、保持部76の温度を検出し、検出した温度を示す温度検出信号を制御部80に供給する。制御部80は、温度センサ78からの温度検出信号に基づいてヒータ77を制御する。制御部80は、保持部76の温度が所定の温度(例えば37℃)を維持するようにヒータ77を制御する。処理容器20が、温度制御された保持部76に保持されることで、処理容器20の周囲温度が、一定(例えば37℃)に保たれる。
【0033】
制御部80は、モータ71及びヒータ77の制御に加え、送液バルブ41、排気バルブ42及び排液バルブ43の開閉制御、並びに送液ポンプ51及び排液ポンプ52の駆動制御を行う。
【0034】
図4Aは、複数の処理液封入容器10、処理容器20、密閉容器90及び廃液タンク60を、流路(個別流路31、共通流路32、排気流路33及び排液流路34)を介して接続して構成される、処理装置1の流通系統2の構成の一例を示す図である。
図4Bは、処理装置1の本体3の構成の一例を示す斜視図である。流通系統2は、
図4Aに示すように、複数の処理液封入容器10、処理容器20、密閉容器90、及び廃液タンク60を、流路を介して接続した状態のまま、本体3に着脱可能である。これにより、流路を構成する管状部材と継手35を外すことなく、流通系統2の各構成要素に対して加熱滅菌処理及びγ線照射滅菌処理を行うことが可能となる。また、滅菌処理後に、流通系統2を本体3にそのまま取り付けることができる。このように、処理装置1の使用時及びメンテナンス時を通して、流通系統2の各構成要素の接続を維持することで、流通系統2の各構成要素が汚染源に暴露されるリスクを抑制することができる。
【0035】
図5は、生体組織から細胞を分離する分離処理を処理装置1において実施する場合に、制御部80が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、複数の処理液封入容器10の各々には、互いに異なる種類の処理液が封入されているものとする。処理容器20の第1の気室21には、処理対象の生体細胞が収容されているものとする。密閉容器90は、その容積が最小となるように、プランジャ93が押し込まれた状態とされているものとする。複数の送液バルブ41の各々は、制御部80において、識別番号N(Nは自然数)により識別されるものとする。初期状態において、送液バルブ41、排気バルブ42、排液バルブ43がそれぞれ閉状態であり、送液ポンプ51及び排液ポンプ52がそれぞれ停止状態であるものとする。
【0036】
ステップS1において、制御部80は送液バルブ41の識別番号Nの設定値を1にセットする。これにより、識別番号1に対応する送液バルブ41が選択される。ステップS2において、制御部80は排気バルブ42を開状態に制御する。ステップS3において、制御部80は識別番号1に対応する送液バルブ41を開状態に制御する。ステップS4において、制御部80は送液ポンプ51の動作を開始させる。これにより、識別番号1に対応する処理液封入容器10に封入されている処理液が、対応する個別流路31及び共通流路32を経由して処理容器20に移送される。
【0037】
処理液を処理容器20に移送する際に、排気バルブ42を開状態とし且つ排液バルブ43を閉状態としておくことで、処理容器20への処理液の流入に伴って第1の気室21内の気体が、排気流路33を経由して、密閉容器90(シリンジ91)の容積を押し広げながら密閉容器90(シリンジ91)に移送される。これにより、処理容器20への処理液の移送に伴う第1の気室21の気圧の上昇が抑制され、第1の気室21の気圧が第2の気室22の気圧よりも低い状態を形成することができる。その結果、処理容器20に流入した処理液を、第1の気室21に滞留させることができる。これにより、第1の気室21において、生体組織を処理液に浸漬することができる。
【0038】
ステップS4Aにおいて、制御部80は気液判別センサ50Aから供給される判別信号をモニタすることにより処理液の送液状態を検出する。ステップS5において、制御部80は、処理液の送液が完了したか否かを判定する。制御部80は、気液判別センサ50Aから供給される判別信号により、共通流路32を流れる流体が液体から気体に変化したものと判定した場合に、処理液の送液が完了したものと判定する。制御部80は、処理液の送液が完了したと判定すると処理をステップS6に移行する。
【0039】
ステップS6において、制御部80は識別番号1に対応する送液バルブ41を閉状態に制御する。ステップS7において、制御部80は送液ポンプ51の動作を停止させる。ステップS8において、制御部80は排気バルブ42を閉状態に制御する。この時、生体組織及び処理液が第1の気室21に収容されている状態が維持されている。
【0040】
ステップS9において、制御部80はモータ71の駆動を開始させることで、加振機構70の動作を開始させる。これにより、処理容器20に収容されている処理液が撹拌され、当該処理液による生体組織に対する処理が促進される。
【0041】
ステップS10において、制御部80は加振機構70の動作を開始してから所定時間が経過したか否かを判定し、所定時間が経過したと判定すると、処理をステップS11に移行する。ステップS11において、制御部80はモータ71の駆動を停止させることで、加振機構70の動作を停止させる。これにより、処理容器20に収容された処理液の撹拌処理が終了する。
【0042】
ステップS12において、制御部80は排気バルブ42を開状態に制御する。ステップS13において、制御部80は排液バルブ43を開状態に制御する。ステップS14において、制御部80は排液ポンプ52の動作を開始させる。ステップS12からステップS14までの処理により、第2の気室22の気圧が第1の気室21の気圧よりも低くなり、第1の気室21に滞留していた処理液は、区画フィルタを透過して第2の気室22に移送される。その後、処理液は、排液流路34を経由して廃液タンク60に移送される。
【0043】
ステップS14Aにおいて、制御部80は気液判別センサ50Bから供給される判別信号をモニタすることにより処理液の送液状態を検出する。ステップS15において、制御部80は、処理容器20から廃液タンク60への処理液の送液が完了したか否かを判定する。制御部80は、気液判別センサ50Bから供給される判別信号により、排液流路34を流れる流体が、液体から気体に変化したものと判定した場合に、処理液の送液が完了したものと判定する。制御部80は、処理液の送液が完了したと判定すると処理をステップS16に移行する。ステップS16において、制御部80は排液バルブ43を閉状態に制御する。ステップS17において、制御部80は排液ポンプ52の動作を停止させる。
【0044】
ステップS18において、制御部80は、処理液封入容器10の各々に封入されている全ての処理液について、上記のステップS2からステップS17までの処理が完了したか否かを判定する。
【0045】
制御部80は、例えば、送液バルブ41の現在の識別番号Nの設定値が、処理液封入容器10の数に相当する最大値であるか否かを判定することにより上記の判定を行ってもよい。制御部80は、全ての処理液について、上記のステップS2からステップS17までの処理が完了したと判定した場合には、本ルーチンを終了させる。一方、制御部80は、全ての処理液について、上記のステップS2からステップS17までの処理が完了していないと判定した場合には、処理をステップS19に移行させる。
【0046】
ステップS19において、制御部80は、送液バルブ41の識別番号Nの設定値を、1つ増加させ、処理をステップS2に戻す。これにより、識別番号2に対応する送液バルブ41が選択され、識別番号2に対応する処理液封入容器10に封入された処理液について上記のステップS2からステップS17までの処理が実施される。上記のステップS2からステップS17までの処理は、処理液封入容器10の各々に封入されている全ての処理液について処理が完了するまで繰り返し実施される。
【0047】
以上の説明から明らかなように、開示の技術の実施形態に係る処理装置1によれば、互いに異なる種類の処理液を、処理液封入容器10から処理容器20に順次移送する処理、及び使用済みの処理液を処理容器20から廃液タンク60に移送する処理を自動で行うことができる。
【0048】
また、処理容器20の第1の気室21は、容積が可変である密閉容器90に接続されているので、処理容器20に処理液を移送すると、第1の気室21内の気体が密閉容器90の容積を押し広げながら密閉容器90に移送される。これにより、処理容器20への処理液の移送に伴う第1の気室21の気圧の上昇を抑制することができ、第1の気室21の気圧が第2の気室22の気圧よりも低い状態を維持することがきる。その結果、処理容器20に流入した処理液を、第1の気室21に滞留させることができる。密閉容器90は、処理容器20に閉鎖系を形成して接続されているので、生体組織及び生体組織から分離した細胞が汚染源に暴露されるリスクを抑制することができる。
【0049】
例えば、排気流路33の端部に、密閉容器90に代えて無菌フィルタを接続する態様も考えられる。ここで、ザルトリウス社製及びミリポア社製の無菌フィルタの最小の孔径は、それぞれ、0.2μm及び0.1μm(いずれもカタログ値)とされている。一方、大幸薬品のウェブサイト「健康情報局」(https://www.seirogan.co.jp/fun/infection-control/infection/dengerous_pathogen.html)によれば、ウィルスの大きさは0.1μm以下であることが示されている。更に、「無菌医薬品 WHO-GMP」(WHO Technical Report Series, No. 961, Annex 6, 2011) によれば、公称0.22μmあるいはそれ以下の孔径をもった無菌フィルタによれば、細菌や真菌を取り除くことはできるが、ウィルスやマイコプラズマを全て取り除くことはできない旨が記載されている。
【0050】
上記のように、無菌フィルタのフィルタ孔のサイズよりも小さいウィルス及びマイコプラズマ等の汚染源は、無菌フィルタを透過することが可能である。従って、排気流路33の端部に、密閉容器90に代えて無菌フィルタを接続する態様によれば、生体組織及び生体組織から分離した細胞が汚染されるリスクがある。
【0051】
一方、開示の技術の実施形態に係る処理装置1によれば、第1の気室21の気圧調整手段として、処理容器20に閉鎖系を形成して接続された密閉容器90を用いているので、無菌フィルタによっても防御しきれないウィルス及びマイコプラズマ等の汚染源の侵入をも抑制することができる。
【0052】
[第2の実施形態]
図6は、開示の技術の第2の実施形態に係る処理装置1Aの構成の一例を示す正面図である。処理装置1Aは、排気流路33の一端に接続された、容積が可変である密閉容器90としてバッグ94を有する。すなわち、バッグ94は、第1の実施形態に係る処理装置1におけるシリンジ91(
図1参照)の代替として用いられる。バッグ94は、処理容器20に閉鎖系を形成して接続されている。バッグ94は、例えば可撓性を有する樹脂フィルムを含んで構成されている。
【0053】
開示の技術の第2の実施形態に係る処理装置1Aによれば、第1の実施形態に係る処理装置1(
図1参照)と同様、排気バルブ42を開状態とし且つ排液バルブ43を閉状態として処理液を処理容器20に流入させると、第1の気室21内の気体が、密閉容器90(バッグ94)の容積を押し広げながら密閉容器90(バッグ94)に移送される。これにより、処理容器20への処理液の移送に伴う第1の気室21の気圧の上昇が抑制され、第1の気室21の気圧は大気圧に維持される。一方、フィルタ23を介して第1の気室21から第2の気室22へとわずかに漏出する処理液により、第2の気室22の気圧は大気圧よりも高い状態となる。そのため、第1の気室21の気圧は第2の気室22の気圧よりも低い状態を維持することができる。その結果、処理容器20に流入した処理液を、第1の気室21に滞留させることができる。これにより、第1の気室21において、生体組織を処理液に浸漬することができる。
【0054】
ここで、密閉容器90としてシリンジ91を用いた場合には、バレル92の内壁に沿って摺動するプランジャ93の摺動抵抗に起因して、処理容器20への処理液の移送に伴って、第1の気室21の気圧が僅かに上昇し、その結果、処理液が第2の気室22に漏洩するおそれがある。一方、密閉容器90としてバッグ94を用いることで、容積の拡大に抗う摺動抵抗のような抗力が殆ど生じないので、処理容器20への処理液の移送に伴う第1の気室21の気圧の上昇を十分に抑制することができ、処理液が第2の気室22に漏洩するリスクを低減することができる。
【0055】
上記の第1及び第2の実施形態において、処理液封入容器10の各々から処理容器20への処理液の移送を、共通流路32の途中に設けられた送液ポンプ51により行う態様を例示したが、この態様に限定されるものではない。例えば、複数の処理液封入容器10の各々が、シリンジによって構成されている場合、処理液封入容器10の各々から処理容器20への処理液の移送を、複数の処理液封入容器10の各々に付随して設けられたシリンジポンプによって行ってもよい。
【0056】
なお、処理容器20は、開示の技術における第1の容器の一例である。処理液封入容器10は、開示の技術における第2の容器の一例である。密閉容器90は、開示の技術における第3の容器の一例である。送液ポンプ51は、開示の技術における処理液移送手段の一例である。
【0057】
なお、2018年2月23日に出願された日本国特許出願2018−030807の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。また、本明細書に記載された全ての文献、特許出願および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。