【文献】
Lebensm.-Wiss. u.-Technol.,1995年,Vol.28,p.319-322
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液状又は糊状の発酵乳を製造する場合には,一般的に,先ず原料乳に乳酸菌を添加して静置発酵させて乳酸菌発酵生成物であるカードを形成させる。次いでこのカードを細かく砕いて液状又は糊状の発酵乳を得ている。しかしながら,このような従来技術では,原料乳の濃度を高めると静置発酵後の発酵乳の粘度が高くなり過ぎてしまい,発酵タンクの撹拌能力によっては撹拌することができないという課題がある。また,その解決方法として発酵の途中から継続的又は断続的に撹拌を行うことでカードの粘度向上を抑制することも考えられるが,カード形成が始まるpH5.5からカゼインの等電点であるpH4.6までの間では撹拌によるせん断力がカゼインの凝集に影響するため,その粒子径が大きいと製品において乳成分の沈殿やホエイ分離が発生するという問題がある。このように,従来の撹拌発酵技術には,原料乳の濃度を高くすることが困難であることや,撹拌工程によって凝集物や沈殿物が発生するといった大きな課題がある。
【0007】
また,発酵前の原料乳の殺菌温度が発酵時のカードの凝集並びに物性に影響を及ぼすことも知られている。この点,本発明者らは,95℃達温という通常の殺菌条件で原料乳を加熱処理して,発酵開始直後から連続的に撹拌発酵を行ったところ,得られた発酵乳内での凝集物の粒径が粗大化し,肉眼で明らかに認められる凝集物が発生するという問題が判明した。このため,発酵前の原料乳を一般的な方法で加熱殺菌しただけでは,凝集物の肥大化を抑制することが困難であった。
【0008】
そこで,本発明は,撹拌発酵終了後に肉眼で確認できる凝集物が少なく,飲み口が良好な液状又は糊状の発酵乳を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは,上記した従来技術の問題を解決する手段について鋭意検討した結果,原料乳を撹拌発酵させる前に超高温域殺菌(120〜150℃,1〜30秒間)又は低温域殺菌(60〜90℃,15秒〜60分間)を行うことにより,発酵中に撹拌しても発酵終了後に肉眼で観察される粗大粒子が生成されるのを抑制し,外観並びに飲み口が改善された液状若しくは糊状の発酵乳を得ることができるという知見を得た。そして,本発明者らは,上記知見に基づけば従来技術の課題を解決できることに想到し,本発明を完成させた。
【0010】
本発明は,液状又は糊状の発酵乳の製造方法に関する。「糊状の発酵乳」とは,粘度が1000〜2500cpの発酵乳を意味する。また,「液状の発酵乳」とは,粘度が1000cp未満の発酵乳を意味する。本発明は,特に液状の発酵乳の製造に適したものであるが,糊状の発酵乳の製造に応用することもできる。
【0011】
本発明に係る製造方法の第1の実施形態は,超高温域殺菌工程と撹拌発酵工程とを含む。超高温域殺菌工程は,原料乳を120〜150℃で1〜30秒間加熱殺菌する工程である。撹拌発酵工程は,殺菌後の原料乳に乳酸菌スターターを接種し,当該原料乳を連続的又は間欠的に撹拌しながら発酵させる工程である。このように,撹拌発酵工程の前に原料乳を超高温域殺菌することで,撹拌発酵終了後に肉眼で確認できる凝集物が少なくなり,サラサラとした飲み口の液状又は糊状の発酵乳を得ることができる。なお,本発明において,撹拌発酵には,原料乳を連続的又は間欠的にせん断しながら発酵させること(せん断発酵)も含まれる。
【0012】
本発明において,原料乳のたんぱく質含有量(濃度)は,4〜10重量%であることが好ましい。通常,原料乳のタンパク質含有量が高くなると撹拌発酵終了後において凝集物が発生しやすくなるが,本発明のように,撹拌発酵の前に超高温域殺菌を実施することで,タンパク質含有量が高い原料乳を用いた場合でも,凝集物の発生を抑制することができる。なお,生乳のたんぱく質含有量は通常3〜3.5重量%であるが,本発明によれば,生乳よりもたんぱく質含有量の高い原料乳を用いることができる。また,たんぱく質含有量が10重量%以下であれば,撹拌発酵後の発酵乳に凝集物が発生するのを効果的に抑制できる。
【0013】
本発明では,均質化工程後であるか否かを問わず,撹拌後の発酵乳中の固形分を構成する粒子の粒度分布において,20μm以上の粒子の存在比率が5%(数量%)以下であることが好ましい。特に,当該粒度分布において,15μm以上の粒子の存在比率が20%(数量%)以下である好ましい。なお,一般的に,発酵乳中に20μm以上の大径の粒子が存在すると人間はザラついた食感を感じるとされているが,本発明によれば,そのような大径の粒子を全体の5%以下に留めることができる。このため,本発明よれば飲み口が良好な液状又は糊状の発酵乳を提供できる。
【0014】
本発明に係る製造方法は,さらに,撹拌発酵工程により得られた発酵乳を均質化する均質化工程をさらに含むことが好ましい。撹拌発酵後の発酵乳に均質化処理を実施することで,粒径の大きな粒子の存在比率をさらに低減させることができる。
【0015】
本発明に係る製造方法では,均質化後の発酵乳において固形分を構成する粒子の粒度分布のメインピークが10μm以下であることが好ましい。このようにすることで,舌触りが滑らかでサラサラとした食感の液状又は糊状の発酵乳を得ることができる。
【0016】
本発明に係る製造方法の第2の実施形態は,低温域殺菌工程と撹拌発酵工程とを含む。低温域殺菌工程は,原料乳を60〜90℃で15秒〜60分間加熱殺菌する工程である。撹拌発酵工程は,殺菌後の原料乳に乳酸菌スターターを接種し,当該原料乳を連続的又は間欠的に撹拌しながら発酵させる工程である。このように,撹拌発酵工程の前に原料乳を低温域殺菌することによっても,撹拌発酵工程の前に超高温域殺菌した場合とほぼ同様に,撹拌発酵終了後に肉眼で確認できる凝集物を低減させることができる。つまり,本発明では,撹拌発酵工程の前に,低温域殺菌処理(60〜90℃,15秒〜60分)又は超高温域殺菌処理(120〜150℃,1〜30秒間)を行うことが好ましく,例えば通常の高温域殺菌処理(95℃達温等)は除かれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば,撹拌発酵終了後に肉眼で確認できる凝集物が少なく,飲み口が良好な液状又は糊状の発酵乳を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
【0020】
本発明は,原料乳を撹拌発酵することにより,液状の発酵乳(粘度1000cp未満)や糊状の発酵乳(粘度1000〜2500cp)を製造する方法に関する。本発明によって製造される発酵乳の例は,ヨーグルトである。ヨーグルトは,いわゆるソフトタイプやドリンクタイプであってもよい。また,発酵乳の例として,フローズンヨーグルトやチーズの材料を挙げることができる。本発明において,「発酵乳」とは,日本の乳等省令で定義される「発酵乳」,「乳製品乳酸菌飲料」,「乳酸菌飲料」などのいずれであってもよい。
【0021】
図1に示されるように,本発明の好ましい実施形態に係る発酵乳の製造方法は,原料乳調製工程(S1),一次均質化工程(S2),加熱殺菌工程(S3),乳酸菌スターター接種工程(S4),撹拌発酵工程(S5),二次均質化工程(S6)を含む。
【0022】
原料乳調製工程(S1)は,発酵乳の元となる原料乳を調製する工程である。原料乳は,ヨーグルトベースやヨーグルトミックスとも呼ばれる。原料乳は,乳,濃縮乳,全脂粉乳,脱脂乳,脱脂濃縮乳,脱脂粉乳,部分脱脂乳,部分脱脂濃縮乳,部分脱脂粉乳,及び乳たんぱく質濃縮物からなる群より選択される1種または2種以上を含む。本発明において,原料乳には公知のものを用いることができる。例えば,原料乳は,生乳のみからなるもの(生乳が100%のもの)であってもよい。また,原料乳は,生乳に,脱脂粉乳,クリーム,水などを混合して調製したものであってもよい。また,原料乳は,これらの他に,殺菌乳,全脂乳,脱脂乳,全脂濃縮乳,脱脂濃縮乳,全脂粉乳,バターミルク,有塩バター,無塩バター,ホエー,ホエー粉,ホエータンパク質濃縮物(WPC),ホエータンパク質単離物(WPI),α−La(アルファ−ラクトアルブミン),β−Lg(ベータ−ラクトグロブリン),乳糖などを混合(添加)して調製したものであってもよい。また,原料乳は,予め温めたゼラチン,寒天,増粘剤,ゲル化剤,安定剤,乳化剤,ショ糖,甘味料,香料,ビタミン,ミネラルなどを適宜添加して調製したものであってもよい。
【0023】
本発明によれば,原料乳のたんぱく質含有量(濃度)を高く調製した場合であっても,最終的に得られる液状発酵乳において大径の凝集物が生成されるのを抑制できる。例えば,原料乳のたんぱく質含有量の上限は,10重量%又は8重量%とすることが好ましく,7.5重量%又は7重量%であってもよい。また,原料乳のたんぱく質含有量の下限は特に制限されないが,例えば2重量%,3重量%,3.5重量%,4重量%,4.5重量%,又は5重量%とすることができる。本発明の特徴を活かせば,たんぱく質含有量の高くても凝集物の少ない発酵乳を得ることができる。高濃度の発酵乳を得るためには,例えば原料乳のたんぱく質含有量を,4〜8重量%,4.5〜8重量%,又は5〜8重量%とすることが好ましい。
【0024】
一次均質化工程(S2)は,調製された原料乳を加熱殺菌する前に均質化する工程である。一次均質化工程では,原料乳に含まれている脂肪球などの固形成分の粒子径を小さくして,それらを液状乳に一様に分散させる。原料乳の固形成分の粒子径を小さくするためには,例えば原料乳を加圧しながら狭い間隙を通過させるなどの公知の手段と条件を採用できる。このようにして,原料乳に含まれる脂肪球などが微粒化(粉砕)される。均質化処理は,公知の均質機(ホモゲナイザー)を用いた処理に限られず,その他に攪拌やホモミキサー,エクストルーダーなどによる公知の剪断処理も含まれる。均質化処理として,例えば均質機を用いる場合,2段階で発酵乳に圧力を付加することが好ましい。1段目の均質化処理の圧力(1次圧)は,例えば5〜15MPa又は7〜10MPaであることが好ましく,2段目の均質化処理の圧力(2次圧)は,例えば2〜10MPa又は3〜5MPaであって1次圧よりも低くすることが好ましい。なお,一次均質化工程は任意の工程である。
【0025】
加熱殺菌工程(S3)は,原料乳を撹拌発酵する前に加熱殺菌する工程である。本発明に係る加熱殺菌工程では,超高温域殺菌処理又は低温域殺菌処理のいずれかが実施される。
【0026】
超高温域殺菌処理は,原料乳を120〜150℃で1〜30秒間加熱殺菌する処理である。より具体的には,加熱温度の下限は,120℃,123℃,125℃,128℃,又は130℃である好ましく,加熱温度の上限は,150℃,145℃,140℃,又は135℃であることが好ましい。また,加熱時間の下限は,1秒,2秒,又は5秒であることが好ましく,加熱時間の上限は,30秒,20秒,又は15秒であることが好ましい。
【0027】
低温域殺菌処理は,原料乳を60〜90℃で15秒〜60分間加熱殺菌する処理である。加熱温度の下限は,60℃,63℃,65℃,又は70℃であることが好ましく,加熱温度の上限は,90℃,88℃,85℃,又は75℃であることが好ましい。また,加熱時間の下限は,15秒,30秒,1分,5分,10分,15分,20分,又は30分であることが好ましく,加熱時間の上限は,60分,50分,55分,又は40分であることが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法では,加熱殺菌工程において,超高温域殺菌処理と低温域殺菌処理のいずれかが選択される。これらの加熱殺菌には,公知の方法や装置を用いることができる。例えば,加熱殺菌では,プレート式熱交換器,チューブ式熱交換器,スチームインジェクション式加熱装置,スチームインフュージョン式加熱装置,通電式加熱装置などによって加熱処理を行えばよく,ジャケット付のタンクによって加熱処理を行ってもよい。
【0029】
また,加熱によって原料乳を殺菌した場合,乳酸菌スターター添加工程の前に,高温になっている原料乳を発酵に適した温度域(発酵温度域)にまで冷却することが好ましい。発酵温度とは,微生物(乳酸菌など)が活性化して,当該微生物の増殖促進される温度を意味する。例えば原料乳の発酵温度域は,30〜60℃が一般的である。本発明においては,加熱殺菌後に高温になっている培地を,例えば30〜60℃の培養温度域にまで冷却することが好ましく,40〜50℃まで冷却することがより好ましい。
【0030】
乳酸菌スターター接種工程(S4)は,加熱殺菌後に発酵温度域にまで冷却された原料乳に,乳酸菌スターターを接種(添加)する工程である。なお,乳酸菌スターター接種工程では,加熱殺菌後に原料乳が所定温度まで低下した後に乳酸菌スターターを接種してもよいし,加熱殺菌工程後に原料乳が所定温度まで低下している最中に乳酸菌スターターを接種してもよい。乳酸菌スターターは,原料乳に対して,0.1重量%以上で添加することが好ましい。具体的には,乳酸菌スターターは,原料乳に対して,0.1〜15重量%,0.5〜10重量%,又は1〜5重量%で添加すればよい。
【0031】
乳酸菌スターターは,ブルガリア菌を含むことが好ましい。「ブルガリア菌」とは,ラクトバチルス・ブルガリクス(L. bulgaricus)である。また,乳酸菌スターターは,ブルガリア菌に加えて,サーモフィルス菌を含むことが好ましい。「サーモフィルス菌」とは,ストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)である。また,本発明において,乳酸菌には,ブルガリア菌とサーモフィルス菌の他に,公知の乳酸菌が含まれていてもよい。公知の乳酸菌の例は,ガセリ菌(ラクトバチルス・ガッセリ(L. gasseri)),ラクティス菌(ラクトコッカス・ラクティス(L. lactis)),クレモリス菌(ラクトコッカス・クレモリス(L. cremoris)),ビフィズス菌(ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium))などある。
【0032】
撹拌発酵工程(S5)は,乳酸菌スターターが接種された原料乳を撹拌しながら発酵させる工程である。撹拌発酵工程は,乳酸菌スターターが接種された原料乳が固形化することを防止しながら原料乳を発酵させ,粘度の低い液状又は糊状の発酵乳を得るために実施される。撹拌の速度は特に制限されないが,発酵乳に凝集物が発生することを回避するために,比較的高速で撹拌することが好ましい。例えば,撹拌速度の下限値は,30rpm,50rpm,100rpm,150rpm,160rpm,200rpmであることが好ましく,撹拌速度の上限値は,500rpm,400rpm,350rpm,又は250rpmであることが好ましい。撹拌処理は,連続的に行ってもよいし間欠的におこなってもよい。ただし,炭酸ガスの除去及び固形物の浮上の抑制の観点から,撹拌処理は連続的に行うことが好ましい。なお,撹拌発酵工程では,公知のパドル型撹拌翼や,ミキサー,フードカッターを利用することができる。
【0033】
本発明の範囲には,上記した撹拌発酵に限定されず,せん断発酵を行うことが含まれる。本発明に用いられる機械的なせん断処理は,発酵と同時にせん断処理できる方法であれば特に限定されず,食品加工で用いられる一般的な機械的なせん断処理装置を用いることができ。このようなせん断処理装置として,例えばミキサー及びフードカッターなどが挙げられる。
【0034】
また,撹拌発酵工程時に原料乳をせん断するせん断力(N/m
2)は,撹拌機(せん断機)によって適宜調整することができる。機械的なせん断処理のせん断力は,当業者は,その機種や操作条件などを適宜変更することで本発明の効果を得てもよい。
【0035】
撹拌発酵工程は,原料乳を撹拌発酵することにより得られた発酵乳の酸度を目安にして終了させることが好ましい。発酵乳の培養の時間の上限は特に限定されないが,例えば,発酵乳の酸度が所定値となった段階で培養を終了させればよい。発酵終了の酸度は,例えば0.7〜2.5%の範囲に設定すればよく,例えば0.7%,0.75%,0.8%,又は0.85%に達した時点で発酵を終了させればよい。なお,発酵乳の酸度(乳酸酸度)は,乳等省令の「乳等の成分規格の試験法」に従って測定する。具体的には,試料の10gに,炭酸ガスを含まないイオン交換水を10mLで添加してから,指示薬として,フェノールフタレイン溶液を0.5mLで添加する。そして,水酸化ナトリウム溶液(0.1mol/L)を添加しながら,微紅色が消失しないところを限度として滴定し,その水酸化ナトリウム溶液の滴定量から試料の100g当たりの乳酸の含量を求めて,酸度(乳酸酸度)とする。なお,フェノールフタレイン溶液は,フェノールフタレインの1gをエタノール溶液(50%)に溶かして100mLにフィルアップして調整される
【0036】
なお,上記のとおり撹拌発酵の時間は,発酵乳の酸度を目安に調整すればよいが,例えば1〜50時間,2〜40時間,又は3〜30時間であることが好ましい。また,撹拌発酵の温度は,原料乳の発酵温度域(30〜60℃)とすることが好ましく,特に35〜55℃又は40〜50℃とすることが好ましい。
【0037】
また,本発明において,発酵乳の粘度上昇を抑制するために,原料乳に乳酸菌スターターを接種した後に原料乳を静置することなく,当該原料乳をすぐに撹拌することが好ましい。すなわち,原料乳を静置発酵させると発酵乳の粘度が高くなり過ぎてしまい,発酵タンクの撹拌能力によっては撹拌することができないという問題がある。このような問題を解消するために,本発明では,原料乳に乳酸菌スターターを接種した直後から原料乳の撹拌を開始することが好ましい。具体的には,原料乳に乳酸菌スターターを接種した後60分以内,より好ましくは30分以内に,原料乳を撹拌し始めるとよい。
【0038】
二次均質化工程(S6)は,撹拌発酵により得られた液状又は糊状の発酵乳に対して均質化処理を行なう工程である。具体的には,二次均質化工程では,発酵乳に含まれている脂肪球などの固形成分の粒子径を小さくして,それらを液状乳に一様に分散させる。液状乳の固形成分の粒子径を小さくするためには,たとえば液状乳を加圧しながら狭い間隙を通過させればよい。均質化処理は,公知の均質機(ホモゲナイザー)を用いた処理に限られず,その他に攪拌やホモミキサー,エクストルーダーなどによる公知の剪断処理も含まれる。均質化処理として,例えば均質機を用いる場合,2段階で発酵乳に圧力を付加することが好ましい。1段目の均質化処理の圧力(1次圧)は,例えば5〜15MPa又は7〜10MPaであることが好ましく,2段目の均質化処理の圧力(2次圧)は,例えば2〜10MPa又は3〜5MPaであって1次圧よりも低くすることが好ましい。なお,二次均質化工程は任意の工程である。
【0039】
上記の各工程(ステップS1〜S6)を経て製造された原料乳は,所定の温度まで冷却されて保存される。原料乳は,例えば0〜15℃又は5〜10℃まで冷却すればよい。このようにして得られた液状又は糊状の発酵乳は,単独で飲用にしてもよいし,他の成分と混合してもよい。発酵乳に混合される他の成分としては,甘みを与えるための砂糖等の甘味料や,乳酸等の酸度調整剤,食塩,香料,果汁等が挙げられる。
【0040】
上記の各工程を経て製造された原料乳は,撹拌発酵終了後に肉眼で確認できる凝集物が少なくなり,サラサラとした良好な飲み口を呈するものとなる。すなわち,本発明により得られた発酵乳は,粒径の大きい凝集物の存在比率が低くなる。
【0041】
具体的に説明すると,発酵乳の中に粒径20μmを超える凝集物が存在すると,凝集物が肉眼で確認されやすくなるとともに,ザラついた食感となり滑らかさが低下する。このため,二次均質化工程前の発酵乳中の固形分を構成する粒子の粒度分布において,20μm以上の粒子の存在比率は,5.0%(数量%)以下であることが好ましく,3.0%以下又は2.5%以下であることがより好ましく,2.0%以下又は1.6%以下であることがさらに好ましく,0.1%以下又は0.0%以下(小数点第2位以下切り捨て)であることが特に好ましい。その中でも,20μm以上の粒子の存在比率は,3.0%以下に厳密に制限することが好ましい。なお,二次均質化工程を行うことにより,発酵乳中における20μm以上の粒子の存在比率はさらに低くなるといえる。このように,本発明によれば,撹拌発酵を行った場合であっても,外観や食感に影響を与える20μmを超える固形分の存在を限りなくゼロに近づけることができる。
【0042】
また,二次均質化工程前の発酵乳中の固形分を構成する粒子の粒度分布において,15μm以上の粒子の存在比率は,20.0%(数量%)以下又は10.0%以下であることが好ましく,5.0%(数量%)以下であることが好ましく,4.5%以下又は4.0%以下であることがより好ましく,2.0%以下又は1.0%以下であることがさらに好ましく,0.7%以下又は0.0%以下(小数点第2位以下切り捨て)であることが特に好ましい。その中でも,15μm以上の粒子の存在比率は,10%以下に厳密に制限することが好ましい。なお,二次均質化工程を行うことにより,発酵乳中における15μm以上の粒子の存在比率はさらに低くなるといえる。このように,発酵乳中において15μmを超える固形分の存在を限りなくゼロに近づけることで,さらに発酵乳の食感を滑らかなものとすることができる。
【0043】
また,二次均質化工程前の発酵乳中の固形分を構成する粒子の粒度分布において,10μm以上の粒子の存在比率は,15.0%(数量%)以下であることが好ましく,12.0%以下又は10.0%以下であることがより好ましく,9.0%以下又は6.0%以下であることがさらに好ましい。なお,二次均質化工程を行うことにより,発酵乳中における10μm以上の粒子の存在比率はさらに低くなるといえる。このように,本発明によれば,発酵乳中において10μmを超える固形分の存在を少なくすることができるため,外見的及び食感的に発酵乳を滑らかなものとすることができる。
【0044】
また,二次均質化工程後の発酵乳において,固形分を構成する粒子の粒度分布のメインピークは10μm以下であることが好ましい。特に,当該メインピークは,9μm以下,8μm以下,又は7μm以下であることが好ましい。メインピークの下限は特に制限されないが,例えば3μm以上,3.5μm以上,又は4μm以上であることが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下,実施例を用いて,本発明を具体的に説明する。ただし,本発明は,以下の実施例に限定されることなく,公知の手法に基づく様々な改良を加えることができるものである。
【0046】
<評価方法>
本願明細書において,発酵乳の物性値の評価は以下の方法により行った。
【0047】
〔粘度の測定方法〕
発酵乳の粘度は,B型粘度計TVB−10(東機産業)を用いて測定した。具体的には,発酵乳の試料を4号(M23)ローターを用いて,60rpm,30秒間撹拌し,その後の発酵乳の粘度の値を計測した。
【0048】
〔粒径の測定方法〕
発酵乳の粒径は,レーザー回折式の粒度分布測定装置SALD−2200(島津製作所製)を用いて測定した。具体的には,発酵乳をイオン交換水で希釈し,この回折・散乱の光強度の分布の最大値が35〜75%(絶対値:700〜1500)になるように調整した。そして,粒度分布測定装置用のソフトウェアWingSALD IIを用いて,この光強度の分布を解析し,発酵乳中の固形分を構成する粒子の粒度分布を求めた。なお,所定の粒度以上の粒子の存在比率は,上記ソフトウェアを利用して測定することができる。また,粒子の存在比率を計測する際には,粒径0.7μm以下の微小粒子は切り捨てることとして数量を数えない。
【0049】
<撹拌発酵乳の調製>
本発明の比較例及び実施例においては,以下の共通する条件にて撹拌発酵乳を調製した。ただし,比較例及び実施例では,後述するように加熱殺菌の条件を区別した。
【0050】
乳脂肪分6.0重量%,無脂乳固形分14.0重量%,たんぱく質8.0重量%となるように,クリーム,生乳,濃縮脱脂乳,乳たんぱく質濃縮物,及び水を混合して原料乳を調製した。原料乳は均質機にて1次圧10MPa,2次圧5MPaにて均質化を行った。その後,後述する比較例及び実施例ごとに異なった温度及び時間で原料乳を殺菌し,次いで43℃まで冷却した。冷却後,乳酸菌スターターを3.0重量%で添加し,43℃にて3時間から7時間で撹拌発酵を行った。乳酸菌スターターとしては,明治ブルガリアヨーグルトLB81から分離したブルガリア菌(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)及びサーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)を用いた。乳酸菌スターターが接種された原料乳を,その発酵開始から終了時までパドル型撹拌翼にて200rpmにて撹拌発酵を行った。発酵終了後,均質機にて1次圧10MPa,2次圧5MPaにて均質化を行った後,10℃以下まで冷却した。なお,発酵乳の酸度が1.5%に達した時点で発酵を終了させた。
【0051】
撹拌発酵工程において,撹拌容器(タンク等)の容量は5.0Lとし,撹拌容器に入れる原料乳(ヨーグルト)の量は3.5Lとした。また,撹拌発酵工程では,T字型パドル翼を使用した。T字型パドル翼は,直径方向の長さが100mmであり,高さ方向の長さが20mmであった。
【0052】
<比較例1>
原料乳を95℃達温の殺菌処理した後に43℃まで冷却し,乳酸菌スターターを接種した。その後,従来法による発酵乳の製造方法では,乳酸菌スターターが接種された原料乳を静置発酵した後に,均質機にて1次圧10MPa,2次圧5MPaにて均質化を行った。また,比較例1に係る発酵乳の製造方法では,乳酸菌スターターが接種された原料乳を発酵開始から終了時までの間パドル型撹拌翼にて200rpmにて撹拌発酵を行った後に,均質機にて1次圧10MPa,2次圧5MPaにて均質化を行った。その他の条件は,上記「撹拌発酵乳の調製」の段落に記載したとおりである。そして,これらの従来法と比較例1とを比較評価した。
【0053】
その結果,
図2に示されるように,静置発酵した発酵乳(従来法)では,発酵直後の発酵乳の粘度が測定限界値の20,000cp以上となり,均質化処理を施すことで2,500cpまで粘度低下することが示された。一方,95℃達温殺菌後に撹拌発酵を行った発酵乳(比較例1)では,発酵直後の発酵乳の粘度は20cpであり,均質化後も同等の粘度を示した。
図3に示されるように,均質化処理を施す前の撹拌発酵乳の(比較例1)粒度分布では,30μmを超える粗大な粒子の存在が確認された。
【0054】
官能評価では,静置発酵した発酵乳(従来法)は,均質化処理を施しても半液状であったが,ザラつきはなく滑らかな食感であった。一方,撹拌発酵した発酵乳(比較例1)は,均質化前に既に液状を呈したが,ザラつきが多く,均質化を行っても大きな改善は認められなかった。外観評価では,静置発酵した発酵乳(従来法)では,大きな凝集物は認められなかった。一方,撹拌発酵した発酵乳(比較例1)では,
図4に示した写真のように,均質化前後の両サンプルにおいて肉眼で視認できる凝集物が多数認められた。
【0055】
以上の結果から,静置発酵した発酵乳(従来法)と比較し,撹拌発酵した発酵乳(比較例1)では,発酵乳の粘度を低下させることができるものの,ザラつきの多い食感となり,実際に肉眼にて凝集物が多数確認されることが判明した。このように,95℃達温の殺菌処理後に撹拌発酵した発酵乳(比較例1)では,発酵乳の粘度を低下させることは可能であっても,食感を滑らかにすることが困難であることが確認された。
【0056】
<比較例2>
比較例2では,原料乳を110℃で15秒間殺菌処理した後に43℃まで冷却し,乳酸菌スターターを接種して撹拌発酵を行った。その他の各種条件については,上述した比較例1と同じである。比較例2の発酵乳について,粒度分布を測定した。その結果を後段の表1に示す。
【0057】
<実施例1>
本発明の実施例1では,撹拌発酵の前に低温域殺菌処理を行った。具体的には,実施例1−1では,原料乳を63℃で30分間殺菌処理した後に43℃まで冷却し,乳酸菌スターターを接種して撹拌発酵を行った。実施例1−2では,原料乳を72℃で15秒間殺菌処理した後に43℃まで冷却し,乳酸菌スターターを接種して撹拌発酵を行った。実施例1−3では,原料乳を85℃で15秒間殺菌処理した後に43℃まで冷却し,乳酸菌スターターを接種して撹拌発酵を行った。その他の条件は,上記「撹拌発酵乳の調製」の段落に記載したとおりである。各実施例1−1,1−2,1−3について,発酵開始から終了時までパドル型撹拌翼にて200rpmにて撹拌発酵を行った後に,均質機にて1次圧10MPa,2次圧5MPaにて均質化を行った発酵乳を評価した。その結果を後段の表1に示す。
【0058】
<実施例2>
本発明の実施例2では,撹拌発酵の前に超高温域殺菌処理を行った。具体的には,実施例2−1では,原料乳を130℃で2秒間殺菌処理した後に43℃まで冷却し,乳酸菌スターターを接種して撹拌発酵を行った。実施例2−2では,原料乳を130℃で15秒間殺菌処理した後に43℃まで冷却し,乳酸菌スターターを接種して撹拌発酵を行った。その他の条件は,上記「撹拌発酵乳の調製」の段落に記載したとおりである。各実施例2−1,2−2について,発酵開始から終了時までパドル型撹拌翼にて200rpmにて撹拌発酵を行った後に,均質機にて1次圧10MPa,2次圧5MPaにて均質化を行った発酵乳を評価した。その結果を後段の表1に示す。
【0059】
<評価結果>
比較例(高温域殺菌処理)の代表例として比較例1,実施例1(低温域殺菌処理)の代表例として実施例1−1,実施例2(超高温域殺菌処理)の代表例として実施例2−1を選択し,それぞれの代表例について発酵乳の粘度及び粒度分布を測定し,液状状態の外観及び食感を評価した。その結果を
図5,
図6,及び
図7に示す。
【0060】
図5に示されるように,静置発酵を行う従来法では発酵直後の粘度が測定限界値の20,000cp以上となり,均質化処理を施すことで2,500cpまで粘度低下することが示された。一方,撹拌発酵を行った実施例1−1,比較例1,実施例2−1では,それぞれ発酵直後の粘度が20cp,17cp,14cpであり,また均質化後の粘度も64cp,15cp,22cpであり,各例はおよそ同等の粘度を示した。このように,実施例及び比較例のいずれにおいても,殺菌処理した後に撹拌発酵して得られた発酵乳の粘度は,発酵直後でも50cp以下となり液状を呈するものであった。
【0061】
他方で,
図6に示されるように,比較例1,実施例1−1,及び実施例2−1の発酵乳について粒子径を測定したところ,比較例1の発酵乳では,粒径が20μmを超える大径の凝集物が多く存在しているのに対して,実施例1−1及び実施例2−1の発酵乳では,20μmを超える大径の凝集物が殆ど存在していなかった。特に,均質化処理を行うと,比較例1と実施例1−1,2−1との差が顕著になることが判る。すなわち,均質化処理後において,実施例1−1,2−1は,20μmを超える大径の凝集物の存在比率がほぼゼロであるのに対して,比較例1では,このような凝集物が比較的多く含まれていることが確認された。
【0062】
さらに,
図7の写真に示されるように,外観評価では,比較例1の発酵乳には比較的大径の凝集物が認められるのに対して,実施例1−1及び実施例2−1の発酵乳では,見た目上は大きな凝集物は認められず,サラサラとした外観を呈していた。さらに,食感による官能評価では,実施例1−1及び実施例2−1の発酵乳については,共にザラつきはなく滑らかな食感であった。他方で,比較例1の発酵乳は,凝集物が舌の上に残る感触があった。
【0063】
また,上述した比較例1,比較例2,実施例1(実施例1−1,1−2,1−3),及び実施例2(実施例2−1,2−2)について,粒度分布の測定結果の数値を以下の表1に示す
【0064】
【表1】
【0065】
上記の表1に示されるように,実施例1(低温域殺菌)及び実施例2(超高温域殺菌)の発酵乳は,粒子径20μm以上の粒子,15μm以上の粒子,及び10m以上の粒子のいずれについても,比較例1及び比較例2(高温域殺菌)の発酵乳と比較して,その存在比率が低いことが確認された。特に,均質化後の発酵乳において,実施例1及び実施例2では,20μm以上の粒子が殆ど存在していないのに対して,比較例1及び比較例2の発酵乳では20μm以上の粒子が多分に含まれていることが判った。また,均質化の前後において,15μm以上の粒子の存在比率をみると,実施例1,2と,比較例1,2の差は顕著に表れている。このため,撹拌発酵を行う前に,低温域殺菌又は超高温域殺菌を実施することで,撹拌発酵終了後に肉眼で確認できる凝集物が少なく,飲み口が良好な液の発酵乳を得ることができることが確認された。
【0066】
以上,本願明細書では,本発明の内容を表現するために,図面を参照しながら本発明の実施形態及び実施例の説明を行った。ただし,本発明は,上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく,本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。