【文献】
ZHANG Yizhong et al.,Simultaneous and high-throughput quantitation of urinary tetranor PGDM and tetranor PGEM by online SPE-LC-MS/MS as inflammatory biomarkers,J. mass. spectrom.,2011年07月,Vol.46,No.7,PP.705-711
【文献】
本村知華子ほか,食物依存性運動誘発アナフィラキシー誘発試験における尿中ロイコトリエンE4測定,日本小児アレルギー学会誌,2015年10月20日,Vol.29,No.4,P.552
【文献】
M.T.OLSON et al.,Effect of assay specificity on the association of urine 11-dehydro thromboxane B2 determination with cardiovascular risk,Journal of Thrombosis and Haemostasis,Vol.10,PP2462-2469
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
減感作療法では、アレルゲンを徐々に投与量を増やす際に、閾値を超える量のアレルゲンを投与することで重篤な症状を引き起こすことのないよう、医師の目視による診断が行われるが、恣意的な判断であり、定量的な診断ができない。そのため、患者におけるアレルギー症状の重篤度を適切に評価する手法が必要とされる。
また、血中IgEを測定する診断方法では、アレルギー反応の有無は推測できても、発症リスクや症状の程度を知ることはできない。つまり、血中のIgE抗体の存在量と食物アレルギー症状の発症リスクや重篤度とは一致しないことが多い。また、この方法は採血が必要とされるため、医療機関にて行わなければならず、採血自体、乳幼児には負担も大きい。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、食物アレルギーの発症リスクやその症状の重篤度、予後を簡易かつ適切に評価できる検査方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、食物アレルギーの発症及び進行はは、肥満細胞への依存性が非常に高いことから、肥満細胞が産生する生理活性物質の代謝物が、尿に排出されて安定的に検出できることに着目し、尿検体中の脂質の網羅的濃度解析を行った。その結果、食物アレルギーの症状発現に伴って尿検体中での含有量が変化する脂質を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1] 食物アレルギーを検査するためのバイオマーカーであって、11−dehydro Thromboxane B
2(11−dehydro TXB
2)からなることを特徴とするバイオマーカー。
[2] 被検者の尿検体中のバイオマーカーの含有量を測定する工程を備えた食物アレルギーの検査方法であって、前記バイオマーカーが11−dehydro TXB
2であることを特徴とする方法。
[3] 前記測定工程において、さらに、Leukotriene E
4(LTE
4)、14,15−LTE
4、11−trans LTE
4、2,3−dinor−8−iso Prostaglandin F
2α、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1β、6,15−diketo−13,14−dihydro PGF
1α、tetranor−Prostaglandin F Metabolite(tetranor−PGFM)、20−hydroxy Prostaglandin E
2(20−OH PGE
2)、PGE
3、Prostaglandin D
3(PGD
3)、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2、及び13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2からなる群から選ばれる少なくとも一つの含有量を測定する、[2]に記載の方法。
[4] 前記測定工程において、さらに、tetranor−PGDM又はtetranor−PGEMの含有量を測定する、[2]又は[3]に記載の方法。
[5]
前記測定工程において、尿検体中の前記バイオマーカーの含有量が多い又は少ないほど、食物アレルギーの症状が重篤である若しくは重篤になった、又は、食物アレルギーを発症するリスクが高い若しくは高くなった
ことを示す、[2]〜[4]のいずれか一つに記載の方法。
[6] 食物アレルギーの治療法又は治療薬の評価に用いられる、[2]〜[5]のいずれか一つに記載の方法。
[7] 減感作療法に用いられる、[6]に記載の方法。
[8] 前記測定工程を、イムノアッセイ又は質量分析法で行う、[2]〜[7]のいずれか一つに記載の方法。
[9] さらに、前記尿検体中に、重水素化LTC
4、重水素化6−keto−PGF
1α、重水素化tetranor−PGDM、重水素化tetranor−PGEM、及び重水素化PGE
2からなる群から選ばれる少なくとも一つを内部標準として加える前処理工程を備え、前記測定工程を、質量分析法で行う、[2]〜[7]のいずれか一つに記載の方法。
[10] 前記評価工程において、食物アレルギーにおける肥満細胞の活性化を評価する、[5]に記載の方法。
[11] 抗11−dehydro TXB
2抗体を含むことを特徴とする食物アレルギーの尿検体検査用キット。
[12] さらに、抗LTE
4抗体、抗14,15−LTE
4抗体、抗11−trans LTE
4抗体、抗2,3−dinor−8−iso PGF
2α抗体、抗13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1β抗体、抗6,15−diketo−13,14−dihydro PGF
1α抗体、抗tetranor−PGFM抗体、抗20−OH PGE
2抗体、抗PGE
3抗体、抗PGD
3抗体、抗13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2抗体、及び抗13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2抗体からなる群から選ばれる少なくとも一つを含む、[11]に記載の食物アレルギーの尿検体検査用キット。
[13] さらに、抗tetranor−PGDM抗体又は抗tetranor−PGEM抗体を含む、[11]又は[12]に記載の食物アレルギーの尿検体検査用キット。
[14] さらに、重水素化LTC
4、重水素化6−keto−PGF
1α、重水素化tetranor−PGEM、及び重水素化PGE
2からなる群から選ばれる少なくとも一つを含む、[11]〜[13]のいずれか一つに記載の食物アレルギーの尿検体検査用キット。
[15] さらに、重水素化tetranor−PGDMを含む、[11]〜[14]のいずれか一つに記載の食物アレルギーの尿検体検査用キット。
[16] 抗11−dehydro TXB
2抗体を含むことを特徴とする食物アレルギーの尿検体検査用スティック。
[17] さらに、抗LTE
4抗体、抗14,15−LTE
4抗体、抗11−trans LTE
4抗体、抗2,3−dinor−8−iso PGF
2α抗体、抗13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1β抗体、抗6,15−diketo−13,14−dihydro PGF
1α抗体、抗tetranor−PGFM抗体、抗20−OH PGE
2抗体、抗PGE
3抗体、抗PGD
3抗体、抗13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2抗体、及び抗13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2抗体からなる群から選ばれる少なくとも一つを含む、[16]に記載の食物アレルギーの尿検体検査用スティック。
[18] さらに、抗tetranor−PGDM抗体又は抗tetranor−PGEM抗体を含む、[16]又は[17]に記載の食物アレルギーの尿検体検査用スティック。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、食物アレルギーの有無のみならず、発症リスクや重篤度を適切に評価することができる。さらに、アレルギー症状が出る前にリスクを評価して予防的治療を行うことができる。また、減感作療法に対する反応性を評価して、安全な範囲でなるべく多くアレルゲンを投与することにより、効率よく治療を進めることができる。
また、本発明の検査方法は、採血等の医療技術を必要とせず、本発明の尿検体検査用キット又は尿検体検査用スティックを用いて、小児から高齢者まで簡便に家庭で検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】実施例1における無処置のマウスの尿検体中でのtetranor PGDMの含有量を1としたときの、食物アレルギーモデルマウスの尿検体中でのtetranor PGDMの含有量の相対値を示すグラフである。
【
図1B】実施例1における無処置のマウスの尿検体中でのtetranor PGEMの含有量を1としたときの、食物アレルギーモデルマウスの尿検体中でのtetranor PGEMの含有量の相対値を示すグラフである。
【
図1C】実施例1における無処置のマウスの尿検体中での13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1βの含有量を1としたときの、食物アレルギーモデルマウスの尿検体中での13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1βの含有量の相対値を示すグラフである。
【
図1D】実施例1における無処置のマウスの尿検体中での13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2の含有量を1としたときの、食物アレルギーモデルマウスの尿検体中での13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2の含有量の相対値を示すグラフである。
【
図1E】実施例1における無処置のマウスの尿検体中での13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2の含有量を1としたときの、食物アレルギーモデルマウスの尿検体中での13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2の含有量の相対値を示すグラフである。
【
図1F】実施例1における無処置のマウスの尿検体中での6,15−diketo−13,14−dihydro PGF
1αの含有量を1としたときの、食物アレルギーモデルマウスの尿検体中での6,15−diketo−13,14−dihydro PGF
1αの含有量の相対値を示すグラフである。
【
図1G】実施例1における無処置のマウスの尿検体中での20−OH PGE
2の含有量を1としたときの、食物アレルギーモデルマウスの尿検体中での20−OH PGE
2の含有量の相対値を示すグラフである。
【
図1H】実施例1における無処置のマウスの尿検体中でのPGD
3の含有量を1としたときの、食物アレルギーモデルマウスの尿検体中でのPGD
3の含有量の相対値を示すグラフである。
【
図1I】実施例1における無処置のマウスの尿検体中でのPGE
3の含有量を1としたときの、食物アレルギーモデルマウスの尿検体中でのPGE
3の含有量の相対値を示すグラフである。
【
図2A】実施例2における食物アレルギー負荷試験前のスコア0患者(ヒト)の尿検体中でのtetranor PGDMの含有量を1としたときの、食物アレルギー負荷試験後のスコア0患者、及び食物アレルギー負荷試験前後のスコア2患者(ヒト)の尿検体中でのtetranor PGDMの含有量の相対値を示すグラフである。
【
図2B】実施例2における食物アレルギー負荷試験前のスコア0患者(ヒト)の尿検体中でのtetranor PGEMの含有量を1としたときの、食物アレルギー負荷試験後のスコア0患者、及び食物アレルギー負荷試験前後のスコア2患者(ヒト)の尿検体中でのtetranor PGEMの含有量の相対値を示すグラフである。
【
図2C】実施例2における食物アレルギー負荷試験前のスコア0患者(ヒト)の尿検体中でのtetranor PGFMの含有量を1としたときの、食物アレルギー負荷試験後のスコア0患者、及び食物アレルギー負荷試験前後のスコア2患者(ヒト)の尿検体中でのtetranor PGFMの含有量の相対値を示すグラフである。
【
図2D】実施例2における食物アレルギー負荷試験前のスコア0患者(ヒト)の尿検体中での13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1βの含有量を1としたときの、食物アレルギー負荷試験後のスコア0患者、及び食物アレルギー負荷試験前後のスコア2患者(ヒト)の尿検体中での13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1βの含有量の相対値を示すグラフである。
【
図2E】実施例2における食物アレルギー負荷試験前のスコア0患者(ヒト)の尿検体中での11−dehydro TXB
2の含有量を1としたときの、食物アレルギー負荷試験後のスコア0患者、及び食物アレルギー負荷試験前後のスコア2患者(ヒト)の尿検体中での11−dehydro TXB
2の含有量の相対値を示すグラフである。
【
図2F】実施例2における食物アレルギー負荷試験前のスコア0患者(ヒト)の尿検体中での2,3−dinor−8−iso PGF
2αの含有量を1としたときの、食物アレルギー負荷試験後のスコア0患者、及び食物アレルギー負荷試験前後のスコア2患者(ヒト)の尿検体中での2,3−dinor−8−iso PGF
2αの含有量の相対値を示すグラフである。
【
図2G】実施例2における食物アレルギー負荷試験前のスコア0患者(ヒト)の尿検体中での14,15−LTE
4の含有量を1としたときの、食物アレルギー負荷試験後のスコア0患者、及び食物アレルギー負荷試験前後のスコア2患者(ヒト)の尿検体中での14,15−LTE
4の含有量の相対値を示すグラフである。
【
図2H】実施例2における食物アレルギー負荷試験前のスコア0患者(ヒト)の尿検体中での11−trans LTE
4の含有量を1としたときの、食物アレルギー負荷試験後のスコア0患者、及び食物アレルギー負荷試験前後のスコア2患者(ヒト)の尿検体中での11−trans LTE
4の含有量の相対値を示すグラフである。
【
図2I】実施例2における食物アレルギー負荷試験前のスコア0患者(ヒト)の尿検体中での13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2の含有量を1としたときの、食物アレルギー負荷試験後のスコア0患者、及び食物アレルギー負荷試験前後のスコア2患者(ヒト)の尿検体中での13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2の含有量の相対値を示すグラフである。
【
図2J】実施例2における食物アレルギー負荷試験前のスコア0患者(ヒト)の尿検体中での13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2の含有量を1としたときの、食物アレルギー負荷試験後のスコア0患者、及び食物アレルギー負荷試験前後のスコア2患者(ヒト)の尿検体中での13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2の含有量の相対値を示すグラフである。
【
図3A】実施例3における食物アレルギー負荷試験前後のスコア0及びスコア4患者(ヒト)の尿検体中でのtetranor PGDMの含有量(絶対値)を示すグラフである。
【
図3B】実施例3における食物アレルギー負荷試験前後のスコア0及びスコア4患者(ヒト)の尿検体中でのtetranor PGEMの含有量(絶対値)を示すグラフである。
【
図3C】実施例3における食物アレルギー負荷試験前後のスコア0及びスコア4患者(ヒト)の尿検体中での11−dehydro TXB
2の含有量(絶対値)を示すグラフである。
【
図3D】実施例3における食物アレルギー負荷試験前後のスコア0及びスコア4患者(ヒト)の尿検体中でのLTE
4の含有量(絶対値)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<食物アレルギーのバイオマーカー>
一実施形態として、本発明は、食物アレルギーを検査するためのバイオマーカーであって、Leukotriene E
4(LTE
4)、14,15−LTE
4、11−trans LTE
4、11−dehydro Thromboxane B
2(11−dehydro TXB
2)、2,3−dinor−8−iso Prostaglandin F
2α、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1β、6,15−diketo−13,14−dihydro PGF
1α、tetranor−Prostaglandin F Metabolite(tetranor−PGFM)、20−hydroxy Prostaglandin E
2(20−OH PGE
2)、PGE
3、Prostaglandin D
3(PGD
3)、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2、及び13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2からなる群から選ばれる少なくとも一つからなる、バイオマーカーを提供する。
【0015】
本実施形態のバイオマーカーによれば、食物アレルギーの有無のみならず、発症リスクや重篤度を適切に評価することができる。
【0016】
本明細書において、「食物アレルギー」とは、食品中に含まれるアレルゲンが体内に取り込まれることで起こる様々なアレルギー反応を意味する。食物アレルギーとしては、例えば、鶏卵、牛乳、甲殻類、小麦、果物、ナッツ類、魚介類、蕎麦等であってよく、これら以外のアレルゲンによるアレルギーも含まれる。アレルギー症状としては、皮膚、粘膜、消化器、呼吸器などに生じ、下痢、嘔吐、皮膚炎などが代表的である。
【0017】
本明細書において、「食物アレルギーのバイオマーカー」とは、その量が、アレルギーの発症リスクやその症状の重篤度、予後の指標となる物質を意味する。
【0018】
本実施形態のバイオマーカーについて、具体的な脂質の名称、構造式、該脂質についての簡単な説明及び食物アレルギー症状発現に伴う尿検体中の含有量の増減を以下に示す。
【0021】
実施例に示す通り、食物アレルギー患者において、上述の13種の脂質の尿検体中の含有量は一定期間増加又は減少が維持されるため、食物であると判断することができる。さらに、尿検体中の含有量の増加した値又は減少した値から、症状の重篤性を評価することができる。
【0022】
本明細書において、一定期間とは、例えば、食物アレルギーの原因となる物質を摂取してから3日以上、5日以上、7日以上、10日以上、又は20日以上を意味する。
【0023】
また、上述の13種の脂質のうち、中でも、LTE
4、11−dehydro TXB
2、tetranor−PGFM、又は13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2が好ましく、11−dehydro TXB
2、又はtetranor−PGFMがより好ましい。
これらの脂質の量は、肥満細胞依存的に上昇又は減少すると考えられており、肥満細胞は、食物アレルギーが起こる消化管の粘膜に非常に多く存在することが知られている。よって、食物を摂取し、消化される際に、上述の脂質の量が変化を、被検者から血液、尿、又は便を採取することによって、食物アレルギーの有無、及び発症リスクや重篤度を適切に評価することができる。中でも、非侵襲的に採取することができ、含有量が多いことから、上述のバイオマーカーを測定する場合には、尿を試料として用いることが好ましい。
【0024】
<食物アレルギーの検査方法>
一実施形態において、本発明は、被検者の尿検体中のバイオマーカーの含有量を測定する工程を備えた食物アレルギーの検査方法であって、前記バイオマーカーがLTE
4、14,15−LTE
4、11−trans LTE
4、11−dehydro TXB
2、2,3−dinor−8−iso Prostaglandin F
2α、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1β、6,15−diketo−13,14−dihydro PGF
1α、tetranor−PGFM、20−OH PGE
2、PGE
3、PGD
3、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2、及び13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2からなる群から選ばれる少なくとも一つである、方法を提供する。
【0025】
本実施形態の検査方法によれば、食物アレルギーの有無のみならず、発症リスクや重篤度を適切に評価することができる。さらに、アレルギー症状が出る前にリスクを評価して予防的治療を行うことができる。
本実施形態の検査方法は、採血等の医療技術を必要とせず、後述の尿検体検査用キット又は尿検体検査用スティックを用いて、小児から高齢者まで簡便に家庭で検査を行うことができる。
【0026】
本明細書において、「被検者」とは、食物アレルギーの可能性がある者、食物アレルギーを現に発症した者、食物アレルギーの治療を受けている者、食物アレルギーの治療薬を服用している者、食物アレルギーを有するかどうか不明な者等を意味する。また、「被検者」としては、例えば、ヒトに限らず、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ等の哺乳動物であってもよい。
【0027】
[測定工程]
測定工程において、被検者より採取した尿を試料として用いる。本実施形態の検査方法に用いられる尿は、常法に従って採取したものを用いることができる。一回の尿であってもよく、二回以上の蓄尿であってもよい。採取した尿は、測定まで室温で保存してもよく、−40℃以下、例えば−80℃で保存してもよい。凍結した尿は、急速に融解させて測定に用いることができる。
なお、上述の<食物アレルギーのバイオマーカー>に記載したとおり、前記バイオマーカーは、被検者の血液、尿、又は便に含まれるが、非侵襲的に採取することができ、含有量が多いことから、尿を試料として用いることが好ましい。
【0028】
上述のバイオマーカーの尿検体中の含有量の測定方法は、溶液中の特定の物質を検出、測定するためのあらゆる方法を用いて行うことができる。本明細書において、「バイオマーカーの尿検体中の含有量の測定方法」という場合、その量を正確に測定するだけでなく、有無を検出すること、又は一定量より多いか少ないかだけを判定することも含む。上述のバイオマーカーの尿検体中の含有量は、クレアチニン等の基準物質の量により補正してもよい。
【0029】
また、さらに、上述の13種の脂質のうち少なくともいずれか一つに加えて、tetranor PGDM又はtetranor PGEMの含有量を測定することが好ましく、tetranor PGDM及びtetranor PGEMの含有量を測定することがより好ましい。
tetranor PGDM又はtetranor PGEMは、国際公開第2016/021704号に記載の食物アレルギーのバイオマーカーであって、本発明者らによって見出されたものである。
脂質の産生及び代謝機構については、脂質の種類が多く、詳細は明らかにされていないが、PGD
2及びTXB
2、並びにこれらの代謝産物(例えば、tetranor PGDM、11−dehydro TXB
2)は、肥満細胞由来のものであると考えられ、また、上述の13種の脂質のうち、PGD
2及びTXB
2の代謝産物以外の脂質は、肥満細胞由来のもの又はその活性によって起こる二次的な炎症反応産物であると考えられる。
よって、上述の13種の脂質に加えて、tetranor PGDM又はtetranor PGEMの含有量を測定することにより、複数の脂質を指標とすることができ、食物アレルギーの有無、及び発症リスクや重篤度をより高い精度で判定することができる。
【0030】
上述のバイオマーカーの尿検体中の含有量の測定方法としては、例えば、イムノアッセイ、凝集法、比濁法、ウエスタンブロッティグ法、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance;SPR)法、各種クロマトグラフィー技術を用いた方法(例えば、ガスクロマトグラフィー法、液体クロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法等)、質量分析法等が挙げられ、これらに限定されない。この中でも、上述のバイオマーカーに特異的に結合する抗体と、尿検体中の上述のバイオマーカーとの抗原抗体反応を利用して、尿検体中の上述のバイオマーカーの含有量を測定するイムノアッセイ又は質量分析法が好ましい。
【0031】
(イムノアッセイ)
イムノアッセイは、検出可能に標識された上述のバイオマーカーに特異的に結合する抗体、又は、検出可能に標識された上述のバイオマーカーのうちいずれか一つに特異的に結合する抗体に対する抗体(二次抗体)を用いればよい。抗体の標識方法としては、例えば、エンザイムイムノアッセイ(EIA(Enzyme immunoassay)又はELISA(Enzyme−linked immunosorbent assay))、ラジオイムノアッセイ(Radioimmunoassay;RIA)、蛍光イムノアッセイ(Fluoroimmunoassay;FIA)、蛍光偏光イムノアッセイ(Fluorescence polarization immunoassay;FPIA)、化学発光イムノアッセイ(Chemiluminescent Immunoassay;CLIA)等が挙げられる。
【0032】
ELISA法では、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、RIA法では、
125I、
131I、
35S、
3H等の放射性物質、FPIA法では、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等の蛍光物質、CLIA法では、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等の発光物質で標識された抗体が用いられる。その他、金コロイド、量子ドット等のナノ粒子で標識された抗体を用いてもよい。
【0033】
また、イムノアッセイでは、ビオチンで標識された上述のバイオマーカーに特異的に結合する抗体を用いて、酵素等で標識されたアビジン又はストレプトアビジンを結合させることで検出することもできる。
【0034】
イムノアッセイの中でも、酵素標識を用いるELISA法は、簡便且つ迅速に抗原を測定することができる。ELISA法には競合法とサンドイッチ法とがある。
競合法では、マイクロプレート等の固相担体に、上述のバイオマーカーのうち、例えば、LTE
4に特異的に結合する抗体(以下、「抗LTE
4抗体」と呼ぶ。)を固定し、尿検体と、酵素標識された抗原として、前記抗体と反応する酵素標識されたLTE
4とを添加して、抗原抗体反応を生じさせる。いったん洗浄した後、酵素基質と反応、発色させ、吸光度を測定する。尿検体中のLTE
4の含有量が多ければ発色は弱くなり、尿検体中のLTE
4の含有量が少なければ発色は強くなるので、検量線を用いて、LTE
4の尿検体中の含有量を求めることができる。LTE
4以外のバイオマーカーを用いた場合においても、同様の方法により、含有量を求めることができる。
【0035】
サンドイッチ法では、固相担体に、例えば抗LTE
4抗体を固定し、尿検体を添加し、反応させた後、さらに酵素で標識された同じ抗原(LTE
4)の別のエピトープを認識する抗LTE
4抗体を添加して反応させる。洗浄後、酵素基質と反応、発色させ、吸光度を測定することにより、LTE
4の尿検体中の含有量を求めることができる。LTE
4以外のバイオマーカーを用いた場合においても、同様の方法により、含有量を求めることができる。
また、サンドイッチ法では、前記固相担体に固定した抗LTE
4抗体と、尿検体中の抗原(LTE
4)を反応させた後、まず非標識の同じ抗原(LTE
4)の別のエピトープを認識する抗LTE
4抗体を添加し、この非標識の抗LTE
4抗体に対する抗体(二次抗体)を酵素標識してさらに添加してもよい。
【0036】
酵素基質は、酵素がペルオキシダーゼの場合、3,3’−diaminobenzidine(DAB)、3,3’,5,5’−tetramethylbenzidine(TMB)、o−phenylenediamine(OPD)等を用いることができ、アルカリホスファターゼの場合、p−nitropheny phosphase(NPP)等を用いることができる。
【0037】
本明細書において、「固相担体」は、抗体を固定できる担体であれば特別な限定はなく、固相担体の形状としては、例えば、マイクロタイタープレート、基板、ビーズ、メンブレン等が挙げられる。固相担体の材質としては、シリカ、アルミナ、ガラス、金属等の無機物質、熱可塑性樹脂(例えば、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PolyVinylidene DiFluoride;PVDF)等)、ニトロセルロース等の有機高分子物質が挙げられる。標識物質又は抗体は、上述の固相担体に公知の方法に従って固定することができる。
【0038】
上述のバイオマーカーのうちいずれか一つに特異的に結合する抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよく、いずれの抗体も公知の方法に従って、作製することができる。モノクローナル抗体は、例えば、上述のバイオマーカーのうちいずれか一つで免疫した非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を単離し、これを骨髄種細胞等と融合させてハイブリドーマを作製し、このハイブリドーマが産生した抗体を精製することによって得ることができる。また、ポリクローナル抗体は、例えば、上述のバイオマーカーのうちいずれか一つで免疫した非ヒト哺乳動物の血清から得ることができる。
【0039】
(質量分析法)
測定工程において、質量分析法を用いる場合、測定工程の前に尿検体中に含まれる代謝物質を分離するための分離工程を備えていてもよい。分離工程では、尿検体中に含まれる代謝物質の時間分解分離が得られる。分離方法としては、すべてのクロマトグラフィー分離技術を用いることができ、より具体的には、例えば、液体クロマトグラフィー(Liquid chromatography;LC)、高速液体クロマトグラフィー(High performance liquid chromatography;HPLC)、ガスクロマトグラフィー(Gas chromatography;GC)、薄層クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等が挙げられる。
また、分離工程において、上述のバイオマーカーのうち、11−dehydro TXB
2、tetranor−PGFMtetranor PGDM、及びtetranor PGEMは尿検体中からの分離条件が近しいため、質量分析法を用いた測定においては、好ましくは11−dehydro TXB
2、tetranor−PGFMtetranor PGDM、又はtetranor PGEM、より好ましくは11−dehydro TXB
2、tetranor−PGFMtetranor PGDM、及びtetranor PGEMを標的のバイオマーカーとすればよい。
【0040】
測定工程において用いられる質量分析(mass spectrometry)法としては、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)法、液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)法、直接注入質量分析法若しくはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(Fourier transform ion cyclotron resonance mass spectrometry;FT−ICR−MS)法、キャピラリー電気泳動質量分析(Capillary Electrophoresis mass spectrometry;CE−MS)法、高速液体クロマトグラフィー結合質量分析(HPLC−MS)法、四重極質量分析法、上述の分離方法と結合したタンデム質量分析法(例えば、LC−MS/MS法、HPLC−MS/MS法等)、誘導結合プラズマ質量分析(Inductively Coupled Plasma mass spectrometry;ICP−MS)法、熱分解質量分析(Pyrolysis Mass Spectroscopy;Py−MS)法、イオン移動度質量分析法、飛行時間質量分析(Time−of−Flight mass spectromete;TOF MS)法等が挙げられる。中でも、質量分析法としては、LC−MS法又は上述の分離方法と結合したタンデム質量分析法が好ましい。
【0041】
測定工程において、質量分析法を用いる場合、尿検体中の上述のバイオマーカーの含有量を定量するために、内部標準を尿検体に加える前処理工程を備えていてもよい。内部標準としては、例えば、重水素化LTC4、重水素化6−keto−PGF1α、重水素化tetranor−PGDM、重水素化tetranor−PGEM、重水素化PGE2等が挙げられ、これらを単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0042】
[評価工程]
本実施形態の検査方法において、上述の[測定工程]の後に、尿検体中の上述のバイオマーカーの含有量に基づき、食物アレルギーの発症リスクや重篤度を評価する評価工程を備えていてもよい。
【0043】
評価工程において、上述のバイオマーカーのうち、LTE
4、14,15−LTE
4、11−trans LTE
4、11−dehydro TXB
2、2,3−dinor−8−iso PGF
2α、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1β、6,15−diketo−13,14−dihydro PGF
1α、tetranor−PGFM、20−OH PGE
2、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2及び13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2からなる群から選ばれる少なくとも一つの尿検体中の含有量がより多いときに、食物アレルギーの症状が重篤である若しくは重篤になった、又は、食物アレルギーを発症するリスクが高い若しくは高くなったと判断することができる。
また、上述のバイオマーカーのうち、PGE
3又はPGD
3の尿検体中の含有量がより少ないときに、食物アレルギーの症状が重篤である若しくは重篤になった、又は、食物アレルギーを発症するリスクが高い若しくは高くなったと判断することができる。
【0044】
尿検体中の上述のバイオマーカーの含有量は、同一個体から複数回採取した尿検体中の上述のバイオマーカーの含有量を測定して結果を比較して判断してもよい。この場合、同一個体における重篤度や発症リスクの変化を評価することができる。また、尿検体中の上述のバイオマーカーの含有量がより多いか否かは、複数人から採取した尿検体中の上述のバイオマーカーの含有量を測定して結果を比較してもよい。この場合、他の人と比較して、重篤度や発症リスクが高いかどうかを評価することができる。
【0045】
また、評価工程において、上述のバイオマーカーのうち、LTE
4、14,15−LTE
4、11−trans LTE
4、11−dehydro TXB
2、2,3−dinor−8−iso PGF
2α、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1β、6,15−diketo−13,14−dihydro PGF
1α、tetranor−PGFM、20−OH PGE
2、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2及び13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2からなる群から選ばれる少なくとも一つの尿検体中の含有量が所定の値より多いときに、食物アレルギーの症状が重篤である若しくは重篤になった、又は、食物アレルギーを発症するリスクが高い若しくは高くなったと判断することができる。一方、所定の値より低いときに、食物アレルギーの症状が軽い若しくは軽くなった、又は、食物アレルギーを発症するリスクが低い若しくは低くなったと判断することができる。
また、上述のバイオマーカーのうち、PGE
3又はPGD
3の尿検体中の含有量が所定の値より少ないときに、食物アレルギーの症状が重篤である若しくは重篤になった、又は、食物アレルギーを発症するリスクが高い若しくは高くなったと判断することができる。一方、所定の値より高いときに、食物アレルギーの症状が軽い若しくは軽くなった、又は、食物アレルギーを発症するリスクが低い若しくは低くなったと判断することができる。
【0046】
所定値(カットオフ値)は、複数の健常者又は非食物アレルギー患者の尿検体における上述のバイオマーカーの含有量と、複数の食物アレルギー患者の尿検体における上述のバイオマーカーの含有量とを比較して、常法により決定することができる。
【0047】
また、上述の13種のバイオマーカーに加えて、さらに、tetranor−PGDM又はtetranor−PGEMの尿検体中の含有量による判断を行うことで、より高い精度で食物アレルギーの症状及び発症リスクを判定することができる。より具体的には、尿中のtetranor−PGDM量が所定の値より高い場合に、症状が重篤である、又は発症リスクが高いと判断され、所定の値より低い場合に、症状が軽い、又は発症リスクが低いと判断される。また、尿中tetranor−PGDM量は一定期間上昇が維持され、尿中tetranor−PGEM量は一過性に上昇してすぐに低下する場合、食物アレルギーであると判断することができる。一方で、尿中tetranor−PGDM量に変化がなく、尿中tetranor−PGEM量が持続的に高値である場合、食物アレルギー以外の炎症関連性疾患の罹患を示唆することができる。
【0048】
評価工程において、食物アレルギーにおける肥満細胞の活性化も評価することができる。
【0049】
本明細書において、「肥満細胞の活性化」とは、肥満細胞の数の増大、脱顆粒の増加及び活性物質産生量の増加を意味する。尿検体中の上述のバイオマーカーの含有量は、肥満細胞の増加に伴い増加又は減少し、脱顆粒抑制下では、減少または増加する。よって、尿検体中の上述のバイオマーカーの含有量を指標として、肥満細胞の活性化を評価することができる。
【0050】
[用途]
本実施形態の検査方法は、食物アレルギー患者に投与する治療薬、又は患者に対して行う治療方法の評価に用いることができる。例えば、治療開始前から治療開始後の任意の時点で採取した尿検体における上述のバイオマーカーの含有量を測定し、上述のバイオマーカーの含有量が減少又は増加する場合には、その治療薬又は治療方法は有効であると判断することができる。一方、上述のバイオマーカーの含有量が減少しない若しくは増加する又は増加しない又は減少する場合には、その治療薬又は治療方法は有効ではないと判断することができる。このとき、上述のバイオマーカーの含有量の減少または増加は、有意な減少又は増加でなくてもよく、減少または増加の傾向があると当業者が判断できる程度であってもよい。
【0051】
患者に対して行う治療方法としては、例えば減感作療法等が挙げられる。減感作療法の投与経路、投与量及び投与頻度については、特別な限定はなく、患者の年齢、体重、症状などの様々な条件に応じて、適宜選択することができる。投与経路としては、例えば、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、経皮、経粘膜、経口、吸入等により個体に投与する経路が挙げられる。
【0052】
本実施形態の検査方法は、食物アレルギーの治療薬の開発のための動物実験において、その薬の効果を評価するために用いてもよい。
【0053】
本実施形態の検査方法は、診断に必要な情報を得るために、被検者から採取した試料を調べる際に用いてもよい。かかる検査方法は、例えば検査会社等で実施することができる。
【0054】
<尿検体検査用キット>
一実施形態において、本発明は、抗LTE
4抗体、抗14,15−LTE
4抗体、抗11−trans LTE
4抗体、抗11−dehydro TXB
2抗体、抗2,3−dinor−8−iso PGF
2α抗体、抗13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1β抗体、抗6,15−diketo−13,14−dihydro PGF
1α抗体、抗tetranor−PGFM抗体、抗20−OH PGE
2抗体、抗PGE
3抗体、抗PGD
3抗体、抗13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2抗体及び抗13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2抗体からなる群(前記13種の抗体をまとめて、以下、「上述のバイオマーカーに特異的に結合する抗体」と呼ぶ。)から選ばれる少なくとも一つを含む、食物アレルギーの尿検体検査用キットを提供する。
【0055】
本実施形態の尿検体検査用キットは、上述の検査方法を使用して食物アレルギーの検査を行うために使用するものであり、小児から高齢者まで簡便に家庭で検査を行うことができる。
【0056】
本実施形態の尿検体検査用キットは、さらに、抗tetranor−PGDM抗体又は抗tetranor−PGEM抗体を含んでいてもよい。本実施形態の尿検体検査用キットを用いて、上述の13種の脂質のうち少なくともいずれか一つに加えて、tetranor PGDM又はtetranor PGEMの含有量を測定することにより、複数の脂質を指標とすることができ、食物アレルギーの有無、及び発症リスクや重篤度をより高い精度で判定することができる。
【0057】
本実施形態の尿検体検査用キットは、上述のバイオマーカーに特異的に結合する抗体を利用するイムノアッセイに用いることができ、上述のバイオマーカーの含有量を測定するために必要な試薬及び装置を含んでいてもよい。
【0058】
[サンドイッチ法による測定(1)]
本実施形態の尿検体検査用キットは、サンドイッチ法によって、例えば、上述のバイオマーカーのうちLTE
4の含有量を測定する場合には、マイクロタイタープレート;抗原(LTE
4)捕捉用の抗LTE
4抗体(以下、「捕捉用抗体1」と呼ぶ。);ペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼで標識された抗LTE
4抗体(以下、「標識抗体1」と呼ぶ。);及び、ペルオキシダーゼ基質(例えば、DAB、TMB、OPD等)又はアルカリホスファターゼ基質(例えば、NPP等)を含んでいてもよい。
捕捉用抗体1と標識抗体1は、抗原(LTE
4)の異なるエピトープを認識するものであることが好ましい。
【0059】
このような尿検体検査用キットの使用例を以下に説明する。まず、マイクロタイタープレートに捕捉用抗体1を固定する。続いて、ここに尿検体を適宜希釈して添加し、インキュベートする。続いて、尿検体を除去して洗浄する。続いて、標識抗体1を添加し、インキュベートする。続いて、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて、発色を測定することにより、LTE
4の含有量を求めることができる。
LTE
4以外のバイオマーカーに特異的に結合する抗体を用いた場合においても、同様の方法により、含有量を求めることができる。
【0060】
[サンドイッチ法による測定(2)]
本実施形態の尿検体検査用キットは、二次抗体を使用したサンドイッチ法によって、例えば、上述のバイオマーカーのうちLTE
4の含有量を測定する場合には、マイクロタイタープレート;抗原(LTE
4)捕捉用の抗LTE
4抗体(以下、「捕捉用抗体2」と呼ぶ。);一次抗体としての抗LTE
4抗体(以下、「一次抗体1」と呼ぶ。);二次抗体としての、ペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼで標識された抗LTE
4抗体に対する抗体(以下、「二次抗体1」と呼ぶ。);及び、ペルオキシダーゼ基質(例えば、DAB、TMB、OPD等)又はアルカリホスファターゼ基質(例えば、NPP等)を含んでいてもよい。
捕捉用抗体2と一次抗体1は、抗原(LTE
4)の異なるエピトープを認識するものであることが好ましい。
【0061】
このような尿検体検査用キットの使用例を以下に説明する。まず、マイクロタイタープレートに捕捉用抗体2を固定する。続いて、ここに尿検体を適宜希釈して添加し、インキュベートする。続いて、尿検体を除去して洗浄する。続いて、一次抗体1を添加してインキュベートし、洗浄する。続いて、二次抗体を添加してインキュベートし、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて、発色を測定することにより、LTE
4の含有量を求めることができる。また、二次抗体1を用いることにより、反応が増幅されて、検出感度を高めることができる。
LTE
4以外のバイオマーカーに特異的に結合する抗体を用いた場合においても、同様の方法により、含有量を求めることができる。
【0062】
上述の標識抗体1及び上述の二次抗体1は、酵素標識された抗体に限定されず、
125I、
131I、
35S、
3H等の放射性物質、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等の蛍光物質、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等の発光物質、金コロイド、量子ドット等のナノ粒子等で標識された抗体であってもよい。
また、上述の標識抗体1及び上述の二次抗体1は、ビオチン化抗体であってもよく、この場合、本実施形態の尿検体検査用キットは、標識されたアビジン又はストレプトアビジンを含んでいてもよい。
【0063】
[質量分析法による測定]
本実施形態の尿検体検査用キットは、質量分析法により上述のバイオマーカーを測定する場合には、さらに、内部標準として、重水素化LTC
4、重水素化6−keto−PGF
1α、重水素化tetranor−PGEM、及び重水素化PGE
2からなる群から選ばれる少なくとも一つを含んでいてもよい。これらを内部標準とすることにより、尿検体中の上述のバイオマーカーの含有量を測定する際に、分析毎の抽出効率及びイオン化効率を補正することができる。
【0064】
重水素化LTC
4としては、例えばLTC
4−d5等が挙げられる。重水素化6−keto−PGF
1αとしては、例えば、6−keto−PGF
1α−d4等が挙げられる。重水素化tetranor−PGEMとしては、例えばtetranor−PGEM−d6等が挙げられる。重水素化PGE
2としては、例えばPGE
2−d4等が挙げられる。
【0065】
本実施形態の尿検体検査用キットは、さらに、重水素化tetranor−PGDMを含んでいてもよい。本実施形態の尿検体検査用キットを用いて、上述の13種の脂質のうち少なくともいずれか一つに加えて、tetranor PGDM又はtetranor PGEMの含有量を測定することにより、複数の脂質を指標とすることができ、食物アレルギーの有無、及び発症リスクや重篤度をより高い精度で判定することができる。
重水素化tetranor−PGDMとしては、例えば、tetranor−PGDM−d6等が挙げられる。
【0066】
本実施形態の尿検体検査用キットは、さらに、必要な緩衝液、酵素反応停止液、マクロプレートリーダー等を含んでいてもよい。
【0067】
本実施形態の尿検体検査用キットは、食物アレルギーにおける肥満細胞の活性化の評価に用いることができる。
【0068】
<尿検体検査用スティック>
一実施形態として、本発明は、抗LTE
4抗体、抗14,15−LTE
4抗体、抗11−trans LTE
4抗体、抗11−dehydro TXB
2抗体、抗2,3−dinor−8−iso PGF
2α抗体、抗13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1β抗体、抗6,15−diketo−13,14−dihydro PGF
1α抗体、抗tetranor−PGFM抗体、抗20−OH PGE
2抗体、抗PGE
3抗体、抗PGD
3抗体、抗13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2抗体及び抗13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2抗体からなる群から選ばれる少なくとも一つを含む、食物アレルギーの尿検体検査用スティックを提供する。
【0069】
本実施形態の尿検体検査用スティックは、上述の検査方法を使用して食物アレルギーの検査を行うために使用するものであり、小児から高齢者まで簡便に家庭で検査を行うことができる。
【0070】
本実施形態の尿検体検査用スティックは、スティック状の検査薬であって、例えば、尿検体の上述のバイオマーカーの含有量が色のついたライン等で可視化されるものであればよい。
【0071】
本実施形態の尿検体検査用スティックは、さらに、抗tetranor−PGDM抗体又は抗tetranor−PGEM抗体を含んでいてもよい。本実施形態の尿検体検査用スティックを用いて、上述の13種の脂質のうち少なくともいずれか一つに加えて、tetranor PGDM又はtetranor PGEMを検出することにより、複数の脂質を指標とすることができ、食物アレルギーの有無、及び発症リスクや重篤度をより高い精度で判定することができる。
【0072】
尿検体検査用スティックとしては、公知のものを用いることができ、例えば、イムノクロマト法等を利用した構成とすることができる。
本実施形態の尿検体検査用スティックは、イムノクロマト法により、例えば、上述のバイオマーカーのうちLTE
4の含有量を測定する場合には、金コロイドなどで標識された第1の抗LTE
4抗体が格納された抗体格納部と、LTE
4の別のエピトープを認識する第2の抗LTE
4抗体とが、セルロース膜などにライン状に固定化された判定部が細い溝でつながれた構成とすることができる。
【0073】
このような尿検体検査用スティックの使用例を以下に説明する。尿検体検査用スティックに尿検体を添加し、抗体格納部で第1の抗LTE
4抗体と、LTE
4とを抗原抗体反応させ、LTE
4−第1の抗LTE
4抗体複合体を形成させる。続いて、前記複合体が毛細管現象により溝を通って、判定部に移動する。続いて、前記複合体が、判定部に固定された第2の抗LTE
4抗体に捕捉される。続いて、金コロイドのプラズモン効果により、赤色のラインが判定部に出現することで、LTE
4を検出することができる。
LTE
4以外のバイオマーカーに特異的に結合する抗体を用いた場合においても、同様の方法により、検出することができる。
【0074】
本実施形態の尿検体検査用スティックは、食物アレルギーにおける肥満細胞の活性化の評価に用いることができる。
【0075】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0076】
[実施例1]食物アレルギーモデルマウスにおける尿検体中脂質メディエーターの動態
(1)オボアルブミン(Ovalbumin;OVA)誘導性食物アレルギーモデルマウスの作製
(1−1)感作条件
野生型のBALB/cマウス(6〜12週齢、雌)にオボアルブミン(Ovalbumin;OVA)50μg及びミョウバン1mgを腹腔内投与し、2週間後にOVA50μgを腹腔内投与することにより、感作した。
【0077】
(1−2)刺激条件
続いて、2回目の投与から2週間後に、マウスにOVA10mgを2日おきに計10回経口投与した。
【0078】
(1−3)尿採取
続いて、10回目の刺激後、観察中に、マウス(n=5)の尿を採取した。コントロールとして、無処置のマウス(n=3)について観察中に、尿を採取した。
【0079】
(2)尿検体の前処理
尿上清に内部標準として、LTC
4−d5、6−keto−PGF
1α−d4、tetranor−PGDM−d6、tetranor−PGEM−d6、PGE
2−d4を加えた。続いて、塩酸及びエタノールを用いて、尿検体をpH3〜4の50%エタノール含有溶液となるように調製した。続いて、エタノール及び精製水で平衡化したSep−pak C18カートリッジ(Waters社製)に、調製した尿検体を注入した。続いて、3mLの水と3mL×2のヘキサンとで夾雑物を洗浄した。続いて、0.05%ギ酸メタノールで目的の成分を溶出させた。続いて、5時間の減圧乾燥後、100%メタノールに再溶解し、濾過した。
【0080】
(3)脂質メディエーターの測定
(2)の前処理済の尿検体について、エレクトロスプレーイオン化をイオン源とする3連四重極型質量分析装置(LC−MS8030、島津製作所製)に注入し、ソフトウエア「LC/MS/MSメソッドパッケージ」(島津製作所製)を用いて脂質網羅解析を行った。結果として、無処置のマウスの尿検体中での各脂質の含有量を1としたときの、食物アレルギーモデルマウスの尿検体中での各脂質の含有量の相対値を示すグラフを
図1A〜
図1Iに示す。
図1A〜
図1Iにおいて、「naive」とは無処置のマウスを意味し、「OVA×10」とは食物アレルギーモデルマウスを意味する。
【0081】
(4)結果
図1A〜
図1Iから、OVA誘導性食物アレルギーモデルマウスの尿検体中において、コントロール群と比較して、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1β、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2、6,15−diketo−13,14−dihydro PGF
1α、及び20−OH PGE
2の5成分が有意に増加することが明らかとなった。また、PGD
3及びPGE
3の2成分が有意に減少することが明らかとなった。
【0082】
[実施例2]食物アレルギー負荷試験患者(ヒト)における尿検体中脂質メディエーターの動態
(1)尿検体の入手
3〜22歳の食物アレルギー患者(男女)に医師の監督のもと適切な負荷量及び摂取間隔で食物負荷試験を行い、症状の程度により0〜2のスコアを付けた。なお、数値が高いほど、症状が重篤な患者である。スコア0及びスコア2の患者それぞれについて、負荷試験前の尿(以下、「score 0 pre」、「score 2 pre」と表す。)及び負荷試験後の尿(以下、「score 0 post」、「score 2 post」と表す。)を採取した。なお、「score 0 pre」はn=9、「score 2 pre」はn=10、「score 0 post」はn=10、「score 2 post」」はn=10である。
【0083】
(2)尿検体の前処理
内部標準として、さらにTXM−d4を用いた以外は、実施例1の(2)と同様の方法を用いて、尿検体を前処理した。
【0084】
(3)脂質メディエーターの測定
実施例1の(3)と同様の方法を用いて、(2)の前処理済み尿検体について、脂質網羅解析を行った。結果として、負荷試験前のスコア0患者の尿検体中での各脂質の含有量を1としたときの、負荷試験後のスコア0患者、及び負荷試験前後のスコア2患者の尿検体中での各脂質の含有量の相対値を示すグラフを
図2A〜
図2Jに示す。
【0085】
(4)結果
図2A〜
図2Jから、score 2 postにおいて、score 0 postと比較して、tetranor−PGFM、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1β、11−dehydro TXB
2、2,3−dinor−8−iso PGF
2α、14,15−LTE
4及び11−trans LTE
4の6成分が有意に増加することが明らかとなった。また、score 2 postにおいて、score 2 preと比較して、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1β、11−dehydro TXB
2、2,3−dinor−8−iso PGF
2α、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2及び13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2の5成分が有意に増加することが明らかとなった。
【0086】
また、
図2Cから、tetranor−PGFMは、score 2 preにおいて、score 0 pre及びscore 0 postと比較して、増加していることから、食物アレルギーの体質を反映するマーカーとして使用できる可能性が示唆された。
【0087】
実施例1及び2から、マウス及びヒトにおいて、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGF
1β、13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGD
2及び13,14−dihydro−15−keto−tetranor PGE
2は、共通して有意に増加することが明らかとなった。
【0088】
一方、6,15−diketo−13,14−dihydro PGF
1α及び20−OH PGE
2は、マウスにおいてのみ有意に増加しており、PGD
3及びPGE
3は、マウスにおいてのみ有意に減少していた。
よって、上記4成分については、マウスを用いた食品のアレルギー原性を評価する実験系におけるバイオマーカーとして有用であることが示唆された。
【0089】
また、tetranor−PGFM、2,3−dinor−8−iso PGF
2α、11−dehydro TXB
2、14,15−LTE
4、及び11−trans LTE
4は、ヒトにおいてのみ有意に増加していた。
よって、上記5成分については、ヒトにおける食物アレルギーの発症リスクや重篤度を適切に評価、又は、減感作療法に対する反応性を評価するためのバイオマーカーとして有用であることが示唆された。
【0090】
[実施例3]食物アレルギー負荷試験患者(ヒト)における尿検体中脂質メディエーターの動態2
(1)尿検体の入手
3〜22歳の食物アレルギー患者(男女)に医師の監督のもと適切な負荷量及び摂取間隔で食物負荷試験を行い、症状の程度により0〜4のスコアを付けた。なお、数値が高いほど、症状が重篤な患者である。スコア0及びスコア4の患者それぞれについて、負荷試験前の尿(以下、「score 0 pre」、「score 4 pre」と表す。)及び負荷試験後の尿(以下、「score 0 post」、「score 4 post」と表す。)を採取した。なお、「score 0 pre」はn=8、「score 4 pre」はn=10、「score 0 post」はn=8、「score 4 post」」はn=10である。
【0091】
(2)尿検体の前処理
尿上清に内部標準として、tetranor−PGDM−d6、tetranor−PGEM−d6、TMX−d4、LTC
4−d5を加えた。続いて、塩酸を用いて、尿検体をpH3〜4となるように調製した。続いて、メタノール及び精製水で平衡化したSep−pak C18カートリッジ(Waters社製)に、調製した尿検体を注入した。続いて、3mLの水と3mL×2のヘキサンとで夾雑物を洗浄した。続いて、メタノールで目的の成分を溶出させた。続いて、4時間の減圧乾燥後、80%メタノールに再溶解し、濾過した。
【0092】
(3)脂質メディエーターの測定
(2)の前処理済の尿検体について、エレクトロスプレーイオン化をイオン源とする3連四重極型質量分析装置(LC−MS8030、島津製作所製)に注入し、ソフトウエア「LabSolutions」(島津製作所製)を用いて脂質網羅解析を行った。結果として、負荷試験前後のスコア0及びスコア4患者の尿検体中での各脂質の含有量(絶対値)を示すグラフを
図3A〜
図3Dに示す。なお、
図3A〜
図3Dにおいて、縦軸の単位「ng/mg Cre」は、尿検体中のクレアチン1mgに対する各脂質の含有量(ng)を示している。
【0093】
(4)結果
図3A〜
図3Dから、score 4 postにおいて、score 0 postと比較して、tetranor−PGDM、tetranor−PGEM、11−dehydro TXB
2、LTE
4は有意に増加することが明らかとなった。また、score 4 postにおいて、score 4 preと比較して、tetranor−PGDM、tetranor−PGEM、11−dehydro TXB
2、LTE
4は有意に増加することが明らかとなった。
以上のことから、本発明で初めて明らかとなった11−dehydro TXB
2及びLTE
4の2成分、並びに公知のtetranor−PGDM及びtetranor−PGEMの2成分、合計4成分については、ヒトにおける食物アレルギーの発症リスクや重篤度を適切に評価、又は、減感作療法に対する反応性を評価するためのバイオマーカーとして有用であり、これら4成分を指標とすることで、食物アレルギーの有無、及び発症リスクや重篤度をより高い精度で判定できることが示唆された。