特許第6957064号(P6957064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6957064
(24)【登録日】2021年10月8日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】微生物叢の分析方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20211021BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20211021BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   C12Q1/04
   G01N21/64 F
   G01N33/48 M
【請求項の数】11
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2020-535661(P2020-535661)
(86)(22)【出願日】2020年6月24日
(86)【国際出願番号】JP2020024687
(87)【国際公開番号】WO2020262413
(87)【国際公開日】20201230
【審査請求日】2020年10月29日
(31)【優先権主張番号】特願2019-118640(P2019-118640)
(32)【優先日】2019年6月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】冨田 峻介
(72)【発明者】
【氏名】栗田 僚二
(72)【発明者】
【氏名】玉木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】草田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】小島 直
(72)【発明者】
【氏名】石原 紗綾夏
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 歴
(72)【発明者】
【氏名】湯本 勳
【審査官】 原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/088510(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/205981(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0177976(US,A1)
【文献】 特開2012−132753(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0349245(US,A1)
【文献】 Precision Medicine in Cancer Therapy,2019年06月18日,Vol.178,pp.253-264
【文献】 Nature Chemistry,2017年,Vol.9, No.7,pp.698-707
【文献】 Functional Proteomics: Methods and Protocols, Methods in Biology,2018年10月01日,Vol.1871,pp.123-132
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
G01N
C12N
C07K
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/CAplus(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)イオン強度および/またはpHの異なる複数の溶媒に、複数の微生物と非特異的に相互作用可能なプローブを溶解するステップと、ここで、前記プローブが、
(a)1分子中に少なくとも5個の1級アミノ基を有する、重量平均分子量が1,000〜500,000であるカチオン性ポリマーと、
(b)環境応答性蛍光団と
を含み、かつ、前記蛍光団が、前記カチオン性ポリマー中の前記1級アミノ基の一部に共有結合しているものであり、前記環境応答性蛍光団が、ナフタレンスルホン酸骨格を有する蛍光団、ベンゾフラザン骨格を有する蛍光団、キサンテン骨格を有する蛍光団、ピレン骨格を有する蛍光団および凝集誘起発光性蛍光団からなる群から選択され、
(2)前記ステップ(1)で調製された複数のプローブ溶液に、微生物叢を含有する分析試料を添加するステップと、その結果、前記分析試料中の微生物と前記プローブとが非特異的に相互作用し、
(3)前記ステップ(2)で分析試料を添加した複数のプローブ溶液の蛍光強度を測定するステップと、
(4)前記ステップ(3)により得られた蛍光強度パターンを、参照試料について得られた蛍光強度パターンと比較するステップと
を含む、微生物叢の分析方法。
【請求項2】
前記環境応答性蛍光団が、凝集誘起発光性蛍光団である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記凝集誘起発光性蛍光団が、テトラフェニルエチレンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記カチオン性ポリマーが、直鎖状または分岐状のポリアミノ酸、ポリアリルアミン、ポリアミドアミンもしくはポリアルキレンイミンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリアミノ酸が、ポリリジンまたはポリオルニチンである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記カチオン性ポリマー中の前記1級アミノ基の1〜50%に前記環境応答性蛍光団が共有結合している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記カチオン性ポリマーの前記環境応答性蛍光団が共有結合していない前記1級アミノ基の少なくとも一部に対して、グアニジウム基、カルボキシル基およびアミノ酸からなる群から選択される官能基が導入されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(3)における蛍光強度の測定が、複数の励起波長および蛍光波長について行われる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(4)により、前記微生物叢に含有される微生物株の種類および/または量が判定される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記微生物叢が動物個体由来であり、前記ステップ(4)により、前記動物個体の状態および/または特性が判定される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記動物個体がヒト個体である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物叢に含まれる微生物の種類ならびに/または量を判定する方法、ならびに、微生物叢が由来する動物個体の状態および特性を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの身体には、細菌、真菌、ウイルスなどの、100兆個以上もの微生物が常在する。それらは、皮膚、口腔、消化管などの部位それぞれに固有の構成を保って定着して棲息しており、このような微生物群は一括して常在微生物叢と呼ばれる。常在微生物叢は、宿主と密接に相互作用し、宿主に対して様々な影響を与えていることが知られる。近年、常在微生物叢、とりわけ、腸内微生物叢(腸内フローラ)が、宿主の健康状態/疾患状態に強く関連することが見出され、肥満症、2型糖尿病、アレルギー、自閉症スペクトラム障害などの種々の疾患の患者において、腸内微生物叢の構成の破綻や多様性の減少(dysbiosis)が見られることが指摘されている(非特許文献1、2)。そのため、健康管理や疾患の予防または治療の観点から、腸内微生物叢の理解および制御が重要視されつつある(非特許文献2)。
【0003】
現在、常在微生物叢の解析は、細菌の16SリボソームRNAの配列に基づく系統分類(16S rRNA解析)または全ゲノムショットガンメタゲノム解析によって行われており、これらはいずれも微生物叢を構成する微生物の種類を網羅的に同定するものである。しかし、16S rRNA解析の場合には、PCR増幅できない未知の微生物の存在を否定できないことや、微生物の種類を同定できても、それらを定量的に分析することが難しいという問題がある。また、全ゲノムショットガンメタゲノム解析は、16S rRNA解析よりは精度が高いものの、全ゲノムを解析するため、多大な労力、時間、コストを要し、日常的に行うことは現実的ではない。
【0004】
上記の諸問題を解決できる可能性がある方法としては、交差反応型センシング法に基づく微生物叢の解析方法が挙げられる。この場合には、微生物叢を構成する微生物を網羅的に同定するのではなく、分析対象とする微生物叢に含まれる種々の微生物に交差反応する分子を用いて、種々の微生物と交差反応分子との非特異的な相互作用反応の総和を統計的に解析することにより、微生物叢の構成を判別する。そのため、交差反応型センシング法に基づく解析方法では、特定の微生物に特異的に相互作用する分子を個々に開発する必要がないという利点がある。
【0005】
最近になって、交差反応型センシング法を利用して、2または3種類の細菌の混合サンプルを判別できることが報告された(非特許文献3、4)。しかし、微生物叢は数百種類以上の微生物から構成されており、そのような広範かつ膨大な種類の微生物の混合試料を交差反応型センシング法により判別することができるプローブおよび方法は、現時点では報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nat. Microbiol., 2018, Vol. 3, pp. 8-16
【非特許文献2】Nature, 2016, Vol. 535, pp. 94-103
【非特許文献3】Adv. Healthcare Mater., 2018, Vol. 7, Article No. 1701370
【非特許文献4】Anal. Chem., 2017, Vol. 89, pp. 3208-3216
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術の諸問題を解消し、動物個体由来の微生物叢を高精度かつ容易に判別する方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、広範な種類のタンパク質およびその翻訳後修飾の種類ならびに/または量を交差反応型センシング法により判別することに成功している(国際公開第2018/088510号)。本発明者らは、上記方法を基に、微生物叢ならびにそれが由来する動物個体の状態および/または特性を高精度で判別できる方法を確立した。
【0009】
すなわち、本発明は、一実施形態によれば、(1)イオン強度および/またはpHの異なる複数の溶媒に、複数の微生物と非特異的に相互作用可能なプローブを溶解するステップと、ここで、前記プローブが、(a)1分子中に少なくとも5個の1級アミノ基を有する、重量平均分子量が1,000〜500,000であるカチオン性ポリマーと、(b)環境応答性蛍光団とを含み、かつ、前記蛍光団が、前記カチオン性ポリマー中の前記1級アミノ基の一部に共有結合しているものであり、(2)前記ステップ(1)で調製された複数のプローブ溶液に、微生物叢を含有する分析試料を添加するステップと、その結果、前記分析試料中の微生物と前記プローブとが非特異的に相互作用し、(3)前記ステップ(2)で分析試料を添加した複数のプローブ溶液の蛍光強度を測定するステップと、(4)前記ステップ(3)により得られた蛍光強度パターンを、参照試料について得られた蛍光強度パターンと比較するステップであって、その結果、前記微生物叢を構成する微生物の種類および/または量が判定される、ステップとを含む、微生物叢の分析方法を提供するものである。
【0010】
前記環境応答性蛍光団は、凝集誘起発光性蛍光団であることが好ましく、例えば、テトラフェニルエチレンまたはその誘導体であることが好ましい。
【0011】
前記カチオン性ポリマーは、直鎖状または分岐状のポリアミノ酸、ポリアリルアミン、ポリアミドアミンもしくはポリアルキレンイミンであることが好ましい。
【0012】
前記ポリアミノ酸は、ポリリジンまたはポリオルニチンであることが好ましい。
【0013】
前記カチオン性ポリマー中の前記1級アミノ基の1〜50%に前記環境応答性蛍光団が共有結合していることが好ましい。
【0014】
前記カチオン性ポリマーの前記環境応答性蛍光団が共有結合していない前記1級アミノ基の少なくとも一部に対して、グアニジウム基、カルボキシル基およびアミノ酸からなる群から選択される官能基が導入されていることが好ましい。
【0015】
前記(3)における蛍光強度の測定は、複数の励起波長および蛍光波長について行われることが好ましい。
【0016】
前記ステップ(4)により、前記微生物叢に含有される微生物株の種類および/または量が判定されることが好ましい。
【0017】
前記微生物叢が動物個体由来であり、前記ステップ(4)により、前記動物個体の状態および/または特性が判定されることが好ましい。
【0018】
前記動物個体は、ヒト個体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る方法によれば、わずか1種類または数種類のプローブをイオン強度および/またはpHの異なる複数の溶媒に溶解して用いることにより、微生物叢を構成する広範かつ膨大な種類の微生物を網羅的に同定する必要なしに、微生物叢を構成する種々の微生物とプローブとの非特異的相互作用の総和を反映した蛍光強度パターンに基づいて、微生物叢を構成する微生物を、高精度かつ容易に、定性的かつ定量的に分析することができる。そのため、本発明に係る方法によれば、例えば健康状態や体質が異なる動物個体由来の微生物叢を参照試料とし、単に蛍光強度パターンを比較するのみにより、分析対象の微生物叢が由来する動物個体の状態および/または特性を容易に判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施例において合成したプローブ(プローブ1〜12)の構造式を示す図である。括弧内の数値は官能基を導入した部位のClogP値を示す。
図2図2は、プローブ1(−None)およびプローブ5(−Nle)のキャラクタリゼーションの結果を示す図である。
図3図3は、細菌16種×2溶媒条件×12プローブ×2波長セット×11測定により得られた蛍光強度(I)のヒートマップである。
図4図4は、図3の結果を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした図である。
図5図5は、細菌16種×2溶媒条件×12プローブ×2波長セット×11測定により得られた蛍光強度の変化(I−I)を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした図である。
図6図6は、図3の結果について、細菌のラベルを「門」に変更して線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした図である。
図7図7は、肥満モデル微生物叢試料の組成を示すグラフである。
図8図8は、4肥満モデル微生物叢試料×2溶媒条件×6プローブ×2波長セット×22測定により得られた蛍光強度(I)のヒートマップである。
図9図9は、図8の結果を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした図である。
図10図10は、(a)対照群および(b)睡眠障害モデル群のマウスの典型的なアクトグラムである。
図11図11は、8試料(4対照群および4ストレス群)×2溶媒条件×6プローブ×2波長セット×22測定により得られた蛍光強度(I)のヒートマップである。
図12図12は、図11の結果を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした図である。
図13図13は、図12の結果について、試料のラベルをストレスの有無に変更して線形判別分析により解析し、得られた第一判別スコアをプロットした図である。
図14図14は、マウスの運動量の変化を示すグラフである。
図15図15は、8マウス微生物叢試料×2溶媒条件×6プローブ×2波長セット×6測定により得られた蛍光強度(I)のヒートマップである。
図16図16は、図15の結果を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした図である。
図17図17は、図16の結果について、試料のラベルを回転輪固定の有無に変更して線形判別分析により解析し、得られた第一判別スコアをプロットした図である。
図18図18は、大腸菌8種×2溶媒条件×6プローブ×2波長セット×11測定により得られた蛍光強度(I−I)のヒートマップである。
図19図19は、図18の結果を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした図である。
図20図20は、図18の結果を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアおよび第三判別スコアをプロットした図である。
図21図21は、実施例において合成したプローブ(プローブ13〜17)の構造式を示す図である。括弧内の数値は官能基を導入した部位のClogP値を示す。
図22図22は、プローブ13(−None/F)およびプローブ14(−Nle/F)のキャラクタリゼーションの結果を示す図である。
図23図23は、異なる経過日数における発酵液による綿織物の染色結果を示す図である。
図24図24は、15藍染細菌叢試料×2溶媒条件×5プローブ×3波長セット×9測定により得られた蛍光強度(I−I)のヒートマップである。
図25図25は、図24の結果を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明は、第一の実施形態によれば、(1)イオン強度および/またはpHの異なる複数の溶媒に、複数の微生物と非特異的に相互作用可能なプローブを溶解するステップと、ここで、前記プローブが、(a)1分子中に少なくとも5個の1級アミノ基を有する、重量平均分子量が1,000〜500,000であるカチオン性ポリマーと、(b)環境応答性蛍光団とを含み、かつ、前記蛍光団が、前記カチオン性ポリマー中の前記1級アミノ基の一部に共有結合しているものであり、(2)前記ステップ(1)で調製された複数のプローブ溶液に、微生物叢を含有する分析試料を添加するステップと、その結果、前記分析試料中の微生物と前記プローブとが非特異的に相互作用し、(3)前記ステップ(2)で分析試料を添加した複数のプローブ溶液の蛍光強度を測定するステップと、(4)前記ステップ(3)により得られた蛍光強度パターンを、参照試料について得られた蛍光強度パターンと比較するステップとを含む、微生物叢の分析方法である。
【0023】
最初に、本実施形態の方法において使用するプローブについて説明する。本実施形態の方法において使用するプローブは、(a)1分子中に少なくとも5個の1級アミノ基を有する、重量平均分子量が1,000〜500,000であるカチオン性ポリマーと、(b)環境応答性蛍光団とを含み、かつ、前記蛍光団が、前記カチオン性ポリマー中の前記1級アミノ基の一部に共有結合しているものである。
【0024】
本実施形態におけるプローブのカチオン性ポリマー(a)は、重量平均分子量が1,000〜500,000であり、当該ポリマー1分子中に少なくとも5個の1級アミノ基を有するものであれば、任意のものであってよい。ここで、「ポリマー」とは、同一であっても異なってもよい2以上のモノマーが重合された化合物を意味し、したがって、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーであってもよい。また、ポリマーの重合度も特に限定されず、したがって、「ポリマー」にはオリゴマーも含まれる。
【0025】
本実施形態におけるプローブのカチオン性ポリマーの重量平均分子量は、1,000〜500,000であり、好ましくは1,500〜200,000であり、特に好ましくは2,000〜100,000である。
【0026】
本実施形態におけるプローブのカチオン性ポリマーは、当該ポリマー1分子中に少なくとも5個、好ましくは7個以上、特に好ましくは10個以上の1級アミノ基を有する。
【0027】
本実施形態において、プローブに用いることができるカチオン性ポリマーは、好ましくは、直鎖状または分岐状のポリアミノ酸、ポリアリルアミン、ポリアミドアミンもしくはポリアルキレンイミンである。さらに、これらのカチオン性ポリマーを、ポリエチレングリコールとのコポリマーとしてもよい。
【0028】
本実施形態において、プローブに用いることができるポリアミノ酸は、同種類のアミノ酸残基が重合されたものであってもよいし、異なる種類のアミノ酸残基が重合されたものであってもよい。また、ポリアミノ酸を構成するアミノ酸残基は、L体またはD体のいずれであってもよい。ポリアミノ酸の例としては、ポリリジン、ポリオルニチン、リジンとフェニルアラニンのランダムコポリマー、リジンとチロシンのランダムコポリマーなどが挙げられる。本実施形態における好ましいポリアミノ酸は、ポリリジンまたはポリオルニチンである。
【0029】
本実施形態において、プローブに用いることができるポリアルキレンイミンの例としては、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリブチレンイミンなどが挙げられる。本実施形態における好ましいポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミンである。
【0030】
本実施形態におけるプローブの環境応答性蛍光団(b)は、蛍光分子周辺の環境に応じて蛍光特性が変化する蛍光団であれば、任意のものであってよい。そのような蛍光団としては、例えば、蛍光分子周辺の極性に応じて蛍光特性が変化する蛍光団や、蛍光分子周辺のpHに応じて蛍光特性が変化する蛍光団や、蛍光分子周辺の混雑度に応じて蛍光特性が変化する蛍光団などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
蛍光分子周辺の極性に応じて蛍光特性が変化する蛍光団としては、例えば、5−ジメチルアミノナフタレン−1−スルホニル(ダンシル)、1−アニリノナフタレン−8−スルホン酸(ANS)、N−メチル−2−アニリノナフタレン−6−スルホン酸(MANS)、2−p−トルイジニルナフタレン−6−スルホン酸(TNS)のような、ナフタレンスルホン酸骨格を有する蛍光団;4−(N,N−ジメチルアミノスルホニル)−2,1,3−ベンゾキサジアゾール(DBD)、7−ニトロ−2,1,3−ベンゾキサジアゾール(NBD)、4−(アミノスルホニル)−2,1,3−ベンゾキサジアゾール(ABD)、2,1,3−ベンゾキサジアゾール−4−スルホン酸アンモニウム(SBD)のような、ベンゾフラザン骨格を有する蛍光団;またはそれらの蛍光性誘導体などが挙げられる。
【0032】
蛍光分子周辺のpHに応じて蛍光特性が変化する蛍光団としては、例えば、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、5(6)−カルボキシフルオレセイン(5(6)−FAM)、2’−7’−ビス(カルボキシエチル)−5(6)−カルボキシフルオレセイン(BCECF)、セミナフタロダフルオレセイン(SNARF)のような、キサンテン骨格を有する蛍光団;8−ヒドロキシピレン−1,3,6−トリスルホン酸三ナトリウム(HTPS)のような、ピレン骨格を有する蛍光団;またはそれらの蛍光性誘導体などが挙げられる。
【0033】
蛍光分子周辺の混雑度に応じて蛍光特性が変化する蛍光団としては、例えば、テトラフェニルエチレン(TPE)、10,10’ ,11,11’−テトラヒドロ−5,5’−ビジベンゾ[a,d][7]アヌレニリデン(THBA)、1,1,2,3,4,5−ヘキサフェニルシロール(HPS)などの凝集誘起発光性(AIE)蛍光団またはそれらの蛍光性誘導体などが挙げられる。本実施形態においてプローブに用いることができる環境応答性蛍光団は、好ましくはAIE蛍光団であり、特に好ましくはTPEである。
【0034】
本実施形態におけるプローブは、カチオン性ポリマー(a)中の1級アミノ基の一部に環境応答性蛍光団(b)が共有結合により導入されてなる。ここで、「一部」とは、カチオン性ポリマー分子中の1級アミノ基のうちの1〜50%であることが好ましく、特に好ましくは5〜20%である。
【0035】
本実施形態におけるプローブは、従来公知の化学合成方法や、以下の実施例において記載する化学合成方法およびそれに準ずる化学合成方法により合成することができる。
【0036】
本実施形態におけるプローブは、環境応答性蛍光団が導入されていない1級アミノ基の少なくとも一部に対して、官能基が導入されていてもよい。官能基は、負電荷または正電荷のいずれを有するものであってよく、好ましくは、グアニジウム基、カルボキシル基およびアミノ酸からなる群から選択される官能基を用いることができる。また、アミノ酸としては、例えば、ロイシン、バリン、イソロイシン、チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン、セリン、アスパラギン、グルタミン、またはそれらの誘導体などが挙げられる。本実施形態におけるプローブには、上記の官能基の1または複数を任意に選択して導入することができる。
【0037】
アミノ基への官能基の導入は、従来公知の化学合成方法により行うことができる。アミノ基へのグアニジウム基の導入は、例えば、1H−ピラゾール−1−カルボキサミジン塩酸塩を用いて行うことができる。アミノ基へのカルボキシル基の導入は、例えば、無水酢酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸無水物などのカルボン酸無水物を用いたアセチル化反応により行うことができる。アミノ基へのアミノ酸の導入は、例えば、アミノ酸のカルボキシル基を脱水縮合させることにより行うことができる。
【0038】
本実施形態におけるプローブは、複数の微生物と非特異的に相互作用することができる。本実施形態におけるプローブが対象とする「微生物」は、細菌、真菌、原虫、ウイルスなどの任意の分類の微生物であってよく、それらの複数の分類の微生物の混合物であってよい。また、本実施形態におけるプローブが対象とする微生物には、既知の微生物のみならず、未知の微生物が含まれ得る。
【0039】
本実施形態におけるプローブが対象とする微生物は、好ましくは、細菌である。本実施形態におけるプローブが対象とする細菌は、任意の分類のものであってよく、例えば、グラム陰性またはグラム陽性菌のいずれであってもよく、嫌気性または好気性菌のいずれであってもよく、または、それらの複数の種類の細菌の混合物であってもよい。また、本実施形態におけるプローブは、生菌または死菌のいずれにも相互作用し得る。
【0040】
本実施形態の方法では、イオン強度および/またはpHの異なる複数の溶媒に、上記プローブを溶解する。プローブを溶解するための溶媒は、任意のバッファーおよび/または塩を含む水性溶媒であってよい。バッファーとしては、例えば、MES、MOPS、EPPS、HEPES、Tris、リン酸、酢酸、クエン酸、ホウ酸、グリシンなどが挙げられる。塩としては、例えば、NaCl、KCl、MgCl、NaSO、KSO、MgSO、NaI、NaSCNなどが挙げられる。本実施形態において、溶媒のpHは、好ましくは4.0〜10.0であり、特に好ましくは5.0〜7.0である。また、本実施形態において、溶媒のイオン強度は、10〜500mMであることが好ましい。また、本実施形態におけるプローブの濃度は、0.1〜100μg/mLであることが好ましい。
【0041】
本実施形態の方法では、溶媒は、例えば2種類以上の異なるイオン強度および/またはpH条件のものを使用することができ、好ましくは3種類以上、特に好ましくは6種類以上の異なるイオン強度および/またはpH条件のものを使用することができる。また、本実施形態の方法では、1種類のプローブを用いてもよいが、多種類のプローブを用いることがより好ましく、例えば2種類以上、好ましくは3種類以上、特に好ましくは6種類以上のプローブを用いることができる。例えば、2種類の溶媒と3種類のプローブを用いれば、6種類のプローブ溶液を調製することができ、その結果、1つの分析試料について6次元のデータを得ることができる。例えば、5種類の溶媒と3種類のプローブを用いれば、15種類のプローブ溶液を調製することができ、その結果、1つの分析試料について15次元のデータを得ることができる。このように、溶媒の種類とプローブの種類を増やすことにより、より多次元のデータを得ることができる。
【0042】
次いで、複数のプローブ溶液に対して、微生物叢を含有する分析試料を添加する。ここで、「微生物叢」とは、ある特定の環境中に存在する複数の微生物の集まりを意味する。微生物叢は、例えば、少なくとも100種類、300種類、500種類、700種類、1,000種類、またはそれ以上の種類の微生物から構成され得る。微生物叢は、細菌、真菌、原虫、ウイルスなどの、種々の分類および/または種類の微生物から構成されることができ、本実施形態の方法は、任意の分類および/または種類の微生物から構成される微生物叢を対象とすることができる。微生物叢が存在する環境としては、例えば、動植物個体の表面または内部、土壌、海水、河川水などが挙げられる。
【0043】
本実施形態の方法は、任意の環境に由来する任意の微生物叢を対象とすることができるが、好ましくは、動物個体由来の微生物叢を対象とする。微生物叢が由来する動物個体は、任意の脊椎動物個体または無脊椎動物個体であってよいが、好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、非ヒト霊長類、ヒトなどの哺乳動物個体であり、特に好ましくはヒト個体である。動物個体における微生物叢は、組織(例えば、消化管、口腔、鼻腔、皮膚、呼吸器、生殖器など)の上皮に存在し、本実施形態の方法において分析される微生物叢は、いずれの組織上皮由来の微生物叢であってもよい。本実施形態の方法において分析される動物個体由来の微生物叢は、好ましくは、口腔内微生物叢(口内フローラ)または腸内微生物叢(腸内フローラ)であり、特に好ましくは、腸内微生物叢である。
【0044】
動物個体由来の微生物叢を含有する分析試料は、従来公知の方法により調製することができる。例えば、口腔内細菌叢を含有する分析試料であれば、歯垢や唾液などから調製することができ、腸内微生物叢を含有する分析試料であれば、糞便から調製することができる。プローブ溶液に添加される微生物の最終濃度は、例えばOD600=0.002〜0.500であってよく、好ましくはOD600=0.010〜0.100であってよい。分析試料中の微生物濃度が未知の場合には、試料を適宜段階希釈してプローブ溶液に添加してもよい。
【0045】
本ステップにおいて、プローブは、微生物叢に含まれるあらゆる微生物に対して、その分類や種類に関係なく、非特異的に相互作用する。例えば、ヒト腸内微生物叢であれば、バクテロイデス門(Bacteroidetes)、プロテオバクテリア門(Proteobacteria)、アクチノバクテリア門(Actinobacteria)、フィルミクテス門(Firmicutes)などの門に属する、1,000種類以上もの細菌が含まれており、それらのすべてに対してプローブが非特異的に相互作用し得る。
【0046】
次いで、分析試料を添加した複数のプローブ溶液の蛍光強度を測定する。本実施形態の方法では、励起波長300〜500nm、蛍光波長400〜700nmにおいて蛍光強度を測定することができる。また、本実施形態の方法では、各測定対象につき、複数の励起波長/蛍光波長のセット(例えば、励起波長(nm)/蛍光波長(nm):330/480、345/505、360/530など)における蛍光強度を測定することが好ましく、例えば2セット、3セット、または4セットの励起波長/蛍光波長により蛍光強度を測定することができる。
【0047】
プローブ溶液の蛍光強度は、添加された試料中に含まれる微生物の種類や量に応じて変化し、さらに、プローブを溶解する溶媒の条件によっても変化する。そのため、本ステップにより、試料に固有の蛍光強度のパターン(蛍光フィンガープリント)を得ることができる。
【0048】
次いで、分析試料について得られた蛍光強度パターンを、参照試料について得られた蛍光強度パターンと比較する。参照試料についての蛍光強度パターンは、分析試料と並行して蛍光強度の測定を行うことにより取得してもよいし、予め準備された所定の蛍光強度パターンであってもよい。蛍光強度パターンの比較は、好ましくは、主成分分析、線形判別分析、階層的クラスター分析などの多変量解析により次元数を圧縮し、蛍光フィンガープリント間の差異を2次元または3次元に圧縮変換して比較することができる。
【0049】
本実施形態の方法は、蛍光強度のパターンの違いのみに基づいて、微生物叢を分析する。従来方法では、16S rRNA解析や全ゲノムショットガンメタゲノム解析によって、微生物叢を構成する微生物の種類を網羅的に同定することにより、微生物叢プロファイルを取得する必要があった。また、その場合には、微生物叢を構成する微生物種を同定することはできても、それらを網羅的に定量することは困難であり、同一微生物種の異なる株を識別することも困難であった。これに対し、本実施形態の方法では、微生物叢を構成する種々の微生物とプローブとの非特異的相互作用の総和を反映した蛍光強度パターン(蛍光フィンガープリント)を取得し、参照試料についての蛍光強度パターンと比較することにより、微生物叢を構成する微生物の定性的および定量的な差異を検出する。
【0050】
したがって、本実施形態の方法では、例えば、異なる環境A、BまたはC由来の微生物叢を含有する参照試料について得られた蛍光フィンガープリントと、分析試料について得られた蛍光フィンガープリントとを比較する。その結果、分析試料について得られた蛍光フィンガープリントと、環境Aに由来する微生物叢を含有する参照試料について得られた蛍光フィンガープリントの分布との距離が確率的に最も近ければ、分析試料に含有される微生物叢が環境Aに由来するものであると推定または特定することができる。
【0051】
特定の実施形態によれば、微生物叢に含有される微生物株の種類および/または量を判定することができる。例えば、異なる菌株A、BまたはCを含有する発酵食品試料(参照試料)について得られた蛍光フィンガープリントと、不明の菌株を含有する発酵食品試料(分析試料)について得られた蛍光フィンガープリントを比較し、不明の菌株を含有する発酵食品試料について得られた蛍光フィンガープリントと、菌株Aを含有する発酵食品試料について得られた蛍光フィンガープリントの分布との距離が確率的に近いとき、分析対象の発酵食品が菌株Aを含有するものであると推定または特定することができる。
【0052】
特定の実施形態によれば、動物個体由来の微生物叢を含有する分析試料を用いることにより、動物個体の状態および/または特性を判定することができる。微生物叢を構成する微生物の種類および/または量は、それが由来する動物個体の健康状態や体質によって異なる。したがって、特定の実施形態では、異なる健康状態や体質の動物個体由来の微生物叢を含有する参照試料を用いることが好ましい。
【0053】
特定の実施形態において、参照試料は、例えば、肥満個体または非肥満個体由来の細菌叢を含有するものであってよい。参照試料および分析試料について得られた蛍光フィンガープリントを比較し、分析試料について得られた蛍光フィンガープリントと、肥満個体由来の細菌叢を含有する参照試料について得られた蛍光フィンガープリントの分布との距離が確率的に近いとき、その分析試料が由来する被験者を、肥満またはそのリスクが高い個体として推定または特定することができる。
【0054】
特定の実施形態において、参照試料は、例えば、健常個体または感染症に罹患した個体由来の細菌叢を含有するものであってよい。参照試料および分析試料について得られた蛍光フィンガープリントを比較し、分析試料について得られた蛍光フィンガープリントと、感染症に罹患した個体由来の細菌叢を含有する参照試料について得られた蛍光フィンガープリントの分布との距離が確率的に近いとき、その分析試料が由来する被験者を、感染症の原因菌株に感染しているまたはそのリスクが高い個体として推定または特定することができる。
【0055】
本実施形態の方法は、微生物叢を構成する菌種を同定および/または定量する必要なしに、かつ、未知の微生物の存在の可能性を考慮する必要なしに、わずか1種類または数種類のプローブを用いて、微生物叢を分析することを可能とする。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げ、本発明についてさらに説明する。なお、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0057】
<1.プローブの合成(プローブ1〜12)>
以下に示す手順により、ポリエチレングリコールとポリ−L−リジンのブロック共重合体(PEG−b−PLL)に対してテトラフェニルエチレン(TPE)を導入したプローブ群を合成した。
【0058】
ポリエチレングリコール−block−ポリ−L−リジントリフルオロ酢酸塩(PEG−b−PLL、Mw:17200)[エチレングリコール繰り返しユニット数:104、L−リジントリフルオロ酢酸塩繰り返しユニット数:52]は、Alamanda Polymersから購入した。Fmoc−Pro−OPfp(sc−235199)、Fmoc−Nle−OPfp(sc−319878)、Fmoc−Phe−OPfp(sc−250014)、Fmoc−Leu−OPfp(sc−235192)は、Santa Cruz Biotechnologyから購入した。無水コハク酸(239690)、無水フタル酸(230064)、2,3−ピラジンジカルボン酸無水物(405019)はSigma−Aldrichから購入した。1−(4−ブロモフェニル)−1,2,2−トリフェニルエチレン(B3634)は東京化成工業株式会社から購入した。n−ブチルリチウム(1.6mol/Lヘキサン溶液)(020−19071)、テトラヒドロフラン(THF)(超脱水)(207−17905)、硫酸ナトリウム(197−03345)、トリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニル(326−32881)、1H−ピラゾール−1−カルボキサミジン塩酸塩(322−31881)、メタノール(131−01826)、ジメチルスルホキシド(DMSO)(049−07213)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(049−02914)、ピペリジン(166−02773)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(059−05352)、トリエチルアミン(208−02643)は、富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。Fmoc−(Gly)3−OH(R00132)、Fmoc−Ala(4−Pyri)−OH(M00669)、Fmoc−DAP(Fmoc)−OH(L00797)は、渡辺化学工業株式会社から購入した。
【0059】
(1−1)4−(1,2,2−トリフェニルエテニル)安息香酸ペンタフルオロフェニル(TPE−CO−OPfp)の合成
【化1】
【0060】
(i)4−(1,2,2−トリフェニルエテニル)安息香酸(TPE−COOH)(化合物2)の合成
アルゴン雰囲気下、1−(4−ブロモフェニル)−1,2,2−トリフェニルエチレン(化合物1)(2.06g、5.0mmol)を、テトラヒドロフラン(70mL)に溶解し、−78℃に冷却した。この溶液に、n−ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液)(4.38mL、7.0mmol)を5分かけてゆっくりと滴下し、−78℃で40分撹拌した。この反応液に、細かく砕いたドライアイス(15g)を加え、−78℃で1時間撹拌した。その後、反応液を室温に戻し、さらに1時間撹拌した後、塩酸(1.0N、50mL)を加えて室温で30分撹拌した。その後、反応液に酢酸エチル(100mL)を加えて水層を分離し、得られた有機層を水(50mL)で1回、飽和食塩水(50mL)で1回洗浄し、硫酸ナトリウムにより乾燥した。その後、硫酸ナトリウムを濾過により除き、溶液を減圧下で濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:酢酸エチル−クロロホルム)により精製して、化合物2(1.68g、収率89%)を白色固体状物質として得た。
H NMR(500MHz,CDCl)δ:7.83(d,2 H,ArH,J=8.5Hz),7.14〜7.10(m,11 H,ArH),7.04〜7.00(m,6 H,ArH).
【0061】
(ii)4−(1,2,2−トリフェニルエテニル)安息香酸ペンタフルオロフェニル(TPE−CO−OPfp)(化合物3)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物2(750mg、2.0mmol)をDMF(30mL)に溶解し、DIEA(0.68mL、4.0mmol)およびトリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニル(0.51mL、3.0mmol)を加えて、室温で100分間撹拌した。反応液に酢酸エチル(150mL)を加えて、水(50mL)で4回、飽和食塩水(50mL)で1回洗浄し、得られた有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過により除き、溶液を減圧下で濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:酢酸エチル−ヘキサン)により精製して、化合物3(980mg、収率90%)を白色泡状物質として得た。
H NMR(500MHz,CDCl)δ:7.92(d,2 H,ArH,J=8.4Hz),7.20(d,2 H,ArH,J=8.4Hz),7.16〜7.11(m,9 H,ArH),7.06〜7.01(m,6 H,ArH).
【0062】
(1−2)Fmoc−(Gly)3−OPfp(化合物5)の合成
【化2】
【0063】
アルゴン雰囲気下、Fmoc−(Gly)3−OH(化合物4)(905mg、2.2mmol)をDMF(20mL)に溶解し、DIEA(0.75mL、4.4mmol)およびトリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニル(0.56mL、3.3mmol)を加えて、室温で1時間撹拌した。反応液に酢酸エチル(150mL)を加えて、水(60ml)で4回、飽和食塩水(60mL)で1回洗浄し、得られた有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過により除き、溶液を減圧下で濃縮した。得られた白色固体を酢酸エチル(15mL)とヘキサン(45mL)の混合溶液に懸濁し、沈殿物を濾取することにより、化合物5(966mg、収率76%)を白色粉末状物質として得た。
H NMR(500MHz,DMSO−d)δ:8.57(t,1H,NH,J=5.8Hz),8.21(t,1 H,NH,J=5.8Hz),7.89(d,2 H,ArH,J=7.5Hz),7.71(d,2 H,ArH,J=7.5Hz),7.57(t,1 H,NH,J=6.0Hz),7.42(t,2 H,ArH,J=7.4Hz),7.33(t,2 H,ArH,J=7.4Hz),4.33(d,2 H,CH,J=5.8Hz),4.29(d,2 H,CH,J=7.0Hz),4.23(t,1 H,CH,J=7.0Hz),3.80(d,2 H,CH,J=5.8Hz),3.68(d,2 H,CH,J=6.0Hz).
【0064】
(1−3)Fmoc−Ala(4−Pyri)−OPfp(化合物7)の合成
【化3】
【0065】
アルゴン雰囲気下、Fmoc−Ala(4−Pyri)−OH(化合物6)(1.55g、4.0mmol)をDMF(40mL)に溶解し、DIEA(1.36mL、8.0mmol)およびトリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニル(1.02mL、6.0mmol)を加えて、室温で1.5時間撹拌した。反応液に酢酸エチル(200mL)を加えて、水(80mL)で4回、飽和食塩水(80mL)で1回洗浄し、得られた有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過により除き、溶液を減圧下で濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:酢酸エチル−ヘキサン)により精製して、化合物7(1.86g、収率84%)を白色固体状物質として得た。
H NMR(500MHz,DMSO−d)δ:8.49(d,2 H,ArH,J=5.9Hz),8.26(d,1 H,NH,J=7.8Hz),7.88(d,2 H,ArH,J=7.6Hz),7.62(dd,2 H,ArH,J=7.0,5.2Hz),7.40(m,2 H,ArH),7.34(d,2 H,ArH,J=5.9Hz),7.29(m,2 H,ArH),4.82(ddd,1 H,CH,J=10.5,7.8,5.0Hz),4.39(dd,1 H,CHa,J=10.7,6.9Hz),4.30(dd,1 H,CHb,J=10.7,6.8Hz).4.20(dd,1 H,CH,J=6.9,6.8Hz),3.27(dd,1 H,CHa,J=13.8,5.0Hz),3.13(dd,1 H,CHb,J=13.8,10.5Hz).
【0066】
(1−4)Fmoc−DAP(Fmoc)−OPfp(化合物9)の合成
【化4】
【0067】
アルゴン雰囲気下、Fmoc−DAP(Fmoc)−OH(化合物8)(1.10mg、2.0mmol)をDMF(20mL)に溶解し、DIEA(0.68mL、4.0mmol)およびトリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニル(0.51mL、3.0mmol)を加えて、室温で1時間撹拌した。反応液に酢酸エチル(150mL)を加えて、水(60mL)で4回、飽和食塩水(60mL)で1回洗浄し、得られた有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過により除き、溶液を減圧下で濃縮した。得られた白色固体を酢酸エチル(10mL)とヘキサン(50mL)の混合溶媒に懸濁し、沈殿物を濾取することで化合物9(1.32g、収率92%)を白色粉末状物質として得た。
H NMR(500MHz,DMSO−d)δ:8.10(d,1 H,NH,J=7.7Hz),7.90〜7.87(m,4 H,ArH),7.70〜7.69(m,2 H,ArH),7.67〜7.64(m,2 H,ArH),7.56(t,1 H,NH,J=5.9Hz),7.42〜7.39(m,4 H,ArH),7.32〜7.27(m,4 H,ArH),4.64(m,1 H,CH),4.42〜4.36(m,2 H),4.34〜4.30(m,2 H),4.26〜4.20(m,2 H),3.57〜3.54(m,2 H,CH).
【0068】
(1−5)TPE基を導入したPEG−b−PLL(プローブ1)の合成
400mgのPEG−b−PLL(23.3μmol,アミノ基のモル数:1200μmol)を40mLのDMFに溶解し、撹拌しながら500μLのトリエチルアミンを加え、さらに、DMFに溶解させた40mMのTPE−CO−OPfpを1.51mL加えた。その後、アルゴン雰囲気下で密栓・遮光して24時間室温で撹拌した。透析膜(Spectra/Por6(MWCO:8kDa))を用いて、超純水で1回、メタノールで2回、超純水で1回、1mMのHClで2回、超純水で1回の順に透析した後、凍結乾燥により、TPE基を導入したPEG−b−PLL(プローブ1:−None(図1))の粉末を得た。
【0069】
H NMR(400MHz,MeOD)から、Lys側鎖のα−CHのプロトン(δ=3.97ppm)のピークに対する、アミド結合の隣のフェニル環の2つのプロトン(δ=7.64ppm)を除いたTPEの15つのプロトン(δ=6.1−7.1ppm)のピークの面積比より、2.6個のTPEが1分子のPEG−b−PLLに導入されていることを確認した(データは省略)。
【0070】
(1−6)TPE基および官能基を導入したPEG−b−PLL(プローブ2〜12)の合成
(i)アミノ酸の導入
30mgのプローブ1(−None)(2.14μmol,アミノ基:106μmol)を3mLのDMSOに溶解し、撹拌しながら54.4μLのDIEAを加え、さらにDMSOに溶解させた200mMのFmoc−各種アミノ酸−OPfpを2.65mL加えた。その後、アルゴン雰囲気下で密栓・遮光して72時間室温で撹拌した。透析膜(Spectra/Por6(MWCO:8kDa))を用いて、超純水で1回、メタノールで2回の順に透析した後、エバポレーターでメタノールを除去し、4mLのDMSOを加え、撹拌しながら1mLのピペリジンを加え、Fmoc基を脱保護した。その後、アルゴン雰囲気下で密栓・遮光して40時間室温で撹拌した。透析膜(Spectra/Por6(MWCO:8kDa))を用いて、超純水で1回、メタノールで3回、超純水で1回、1mMのHClで2回、超純水で1回の順に透析した後、凍結乾燥により、各種アミノ酸を導入したプローブ(プローブ3〜9:−Dap、−Pro、−Nle、−Leu、−Gly、−Phe、−Pyri(図1))の粉末を得た。
【0071】
H−NMRチャートにおける、反応後のLys側鎖のεCHのプロトン(δ=2.97ppm in MeOD,δ=3.04ppm in DO)のピークの消失から、残存するLys側鎖のほぼ全てが反応したことを確認した(−Pheに関しては、アミド結合の隣のフェニル環の2つのプロトン(δ=7.64ppm)を除いたTPEの15つのプロトン(δ=6.1−7.1ppm)のピークに対する、Phe側鎖のフェニル環の5つのプロトン(δ=7.28ppm)のピークの面積比より完全に反応が進行したことを別途確認した)(データは省略)。
【0072】
(ii)グアニジウム化
30mgのプローブ1(−None)(2.14μmol,アミノ基:106μmol)を3.8mLのメタノールに溶解し、撹拌しながら74.0μLのトリエチルアミンを加え、さらにメタノールに溶解させた200mMの1H−ピラゾール−1−カルボキサミジン塩酸塩(PCA−Cl)を1.59mL加えた。その後、アルゴン雰囲気下で密栓・遮光して24時間室温で撹拌した。透析膜(Spectra/Por6(MWCO:8kDa))を用いて、超純水で1回、メタノールで2回、超純水で1回、1mMのHClで2回、超純水で1回の順に透析した後、凍結乾燥により、アミノ基をグアニジウム化したプローブ(プローブ2:−hA(図1))の粉末を得た。
【0073】
H−NMRチャートにおける、反応後のLys側鎖のεCHのプロトン(δ=2.97ppm in MeOD)のピークの消失から、残存するLys側鎖のほぼ全てが反応したことを確認した(データは省略)。
【0074】
(iii)カルボキシル化
30mgのプローブ1(−None)(2.14μmol,アミノ基:106μmol)を3.8mLのDMSOに溶解し、撹拌しながら147.6 μLのトリエチルアミンを加え、さらにDMSOに溶解させた1Mの各種酸無水物を1.06mL加えた。その後、アルゴン雰囲気下で密栓・遮光して48時間室温で撹拌した。2.5mLの超純水を加え、1時間室温で撹拌した後、透析膜(Spectra/Por6(MWCO:8kDa))を用いて、20%メタノールで1回、超純水で1回、1mMのNaOHで2回、超純水で1回の順に透析し、凍結乾燥により、アミノ基をカルボキシル化したプローブ(プローブ10〜12:−Suc、−Pht、−Pyr(図1))の粉末を得た。
【0075】
H−NMRチャートにおける、反応後のLys側鎖のεCHのプロトン(δ=2.97ppm in MeOD,δ=2.77ppm in DMSO−d)のピークの消失から、残存するLys側鎖のほぼ全てが反応したことを確認した(データは省略)。
【0076】
<2.腸内細菌の培養>
本実施例において用いた腸内細菌を表1に示す。腸内細菌株はJapan Collection of Microorganisms(JCM)およびDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ)のカルチャーコレクションから入手した。大腸菌DH5α株は、GMbiolab社から購入した。大腸菌JM109株は、タカラバイオ社から購入した。
【0077】
表1.実施例において用いた腸内細菌
【表1】
【0078】
培地作製: N/CO嫌気性混合ガス(80:20,v/v)により置換した超純水に、41.7g/Lの変法GAMブイヨン培地(日水製薬株式会社)を添加し、完全に溶解させた。培地をガラス製の50mLバイアル瓶に分注し、再度N/COガスによりに液層および気層を十分置換した後、ブチルゴム栓とアルミキャップ(日電理化硝子)で密閉した。バイアル瓶は121℃、20分間の高圧蒸気滅菌した後、使用まで4℃で保存した。
【0079】
培養条件: 腸内細菌株は、それぞれの取扱説明書に従って復元培養した後、GAM培地に接種し、37℃で静置培養した。細菌の増殖は、培地の濁度(OD600)測定または顕微鏡観察により直接確認した。次いで、各培養液のグリセロールストックを以下の手順により作製した。10mLバイアル瓶中に80%グリセロール溶液を調製し、Nガスで液層および気層を置換した。高圧蒸気滅菌後、このグリセロール液1mLに対して各培養液4mLを添加し(グリセロール終濃度20%)、使用するまで−80℃で保存した。大腸菌DH5α株およびJM109株は、LB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl)に植菌し、37℃で振とう培養した。その後、上記と同様の手順によりグリセロールストックを作製し、−80℃で保存した。
【0080】
<3.プローブのキャラクタリゼーション>
プローブ1(−None)および5(−Nle)(終濃度180nM)を、以下の3種類の溶媒:(1)24mMのMOPS(pH7.0)、(2)24mMのMOPS+180mMのNaCl(pH7.0)、または(3)24mMの酢酸+180mMのNaCl(pH5.0)(いずれも終濃度)に溶解させたプローブ溶液を調製した。MOPS(M1254)はSigma−Aldrichから購入した。酢酸(017−00256)は富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。各プローブ溶液(100μL)を96ウェルハーフエリア低吸着ブラックマイクロプレート(Corning、3993)に加え、さらに、超純水により溶媒置換された種々の濃度の細菌(P.E.1またはF.A)懸濁液を20μL加え、35℃で10分間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダー(Cytation 5、BioTek)により、励起波長330nm、蛍光波長372〜700nmで蛍光スペクトルを測定した。
【0081】
結果を図2に示す。図2(a)は、細菌(F.A)をOD600=0〜0.10で添加した場合の、プローブ1(−None)/溶媒(1)の典型的な蛍光スペクトルである。縦軸(F.I.ratio)は、細菌(F.A)をOD600=0.05で添加した場合の励起波長(nm)330nm、蛍光波長(nm)=460nmの蛍光強度を1とした場合の蛍光強度を示す。細菌の濃度が増加するにしたがって、蛍光強度が最大で約40倍まで増大した。図2(b)は、プローブ1(−None)/溶媒(2)または(3)のプローブ溶液、図2(c)は、プローブ5(−Nle)/溶媒(2)または(3)のプローブ溶液の、細菌濃度による蛍光強度変化を示す(蛍光波長460nm)。縦軸(ΔF.I.)は、細菌を添加していない試料の蛍光強度と細菌を添加した試料の蛍光強度との差を示す。プローブの種類、溶媒の種類および細菌の種類に依存して、それぞれに固有の蛍光強度変化がみられた。この結果から、カチオン性ポリマー−TPEプローブが、細菌の種類および/または濃度を識別できる可能性が示唆された。
【0082】
<4.腸内細菌の種類の識別>
自動分注装置(pipetmaX、Gilson)を用いて、12μLのプローブ1〜12溶液(1500nM/超純水)と、96μLの溶媒(4)25mMのMOPS+187.5mMのNaCl(pH7.0)または溶媒(5)25mMの酢酸+187.5mMのNaCl(pH5.0)とを96ウェルハーフエリア低吸着ブラックマイクロプレートに加え、35℃で10分間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーにより、以下の2セットの励起波長(nm)/蛍光波長(nm)にて蛍光強度(I)を測定した:(Ch1)330/480、(Ch2)360/530。続いて、マイクロプレートに、超純水により溶媒置換された細菌(表1、16種類)の懸濁液(OD600=0.40)を12μL加え、35℃で10分間インキュベートした。終濃度は以下の通りである。プローブ:150nM、溶媒:20mMのMOPSまたは酢酸+150mMのNaCl、細菌:OD600=0.04。その後、マイクロプレートリーダーにより、以下の2セットの励起波長(nm)/蛍光波長(nm)にて蛍光強度(I)を測定した:(Ch1)330/480、(Ch2)360/530。各混合溶液につき、11回の反復測定を行った。
【0083】
測定結果(16細菌×2溶媒条件×12プローブ×2波長セット×11測定)のヒートマップを図3に示す。各種プローブの蛍光強度は、細菌の種類や溶媒条件に応じて異なり、異なる細菌ごとに固有の蛍光フィンガープリントが得られた。
【0084】
また、上記測定結果を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした結果を図4に示す。各細菌についてのクラスターは、それぞれ重なることなく分布した。さらにこの結果をジャックナイフ法およびホールドアウト法(ランダムに選択した4測定結果を検定用データとして使用)により解析したところ、100%の精度で各細菌を識別することができた。以上の結果から、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて、細菌を種レベルで識別できることが示された。また、図4は、細菌の門レベルに対応するメタクラスター(破線で示す)が存在することも示した。この結果から、カチオン性ポリマー−TPEプローブを用いて、細菌を種レベルで識別できるだけでなく、門レベルでも識別できることが示された。
【0085】
また、上記測定結果の線形判別分析において、細菌を添加した後の蛍光強度(I)ではなく、細菌を添加する前後の蛍光強度の変化量(I−I)を用いた場合の結果を図5に示す。I−Iを用いた場合には、いくつかの細菌についてのクラスターが重なっており、ジャックナイフ法により解析したところ、識別精度は99%であった。これは、カチオン性ポリマー−TPEプローブのバックグラウンド蛍光が極めて小さいために、Iにより測定値を正規化することによるメリットを、Iの測定誤差によるデメリットが上回ったためであると推察された。以上の結果から、カチオン性ポリマー−TPEプローブを用いた場合には、細菌を添加した後の蛍光強度の測定のみにより、高精度の解析が可能であることが示された。
【0086】
さらに、上記測定結果について、各細菌のラベルを種から門に変更し(例えば、F.C.およびF.E.はいずれも単に、「Firmicutes」とラベルする)、線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした結果を図6に示す。各門についてのクラスターは、それぞれ重なることなく分布した。さらにこの結果をジャックナイフ法により解析したところ、99%の識別精度であった。また、図6は、グラム陽性菌とグラム陰性菌を分離できることも示した(破線より右上がグラム陽性菌、左下がグラム陰性菌)。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、この結果は、細菌の細胞壁構造(ペプチドグリカン層)の違いが認識された可能性を示す。
【0087】
<5.肥満モデル微生物叢試料の識別>
ヒトの腸内微生物叢におけるフィルミクテス門に属する細菌とバクテロイデス門に属する細菌との比(F/B比)が、肥満と相関するという知見(BMC Microbiol.,2017,17:120)に基づき、6種の細菌を異なる比率で含む4種類の肥満モデル微生物叢試料(OD600=0.40)を調製した(図7)。6種類のプローブ(プローブ1、3、6、7、8および11:−None、−Dap、Gly、−Leu、−Pheおよび−Pht)を用いて、上記4と同様の手順および条件により蛍光強度を測定した。各試料につき、22回の反復測定を行った。
【0088】
測定結果(4試料×2溶媒条件×6プローブ×2波長セット×22測定)のヒートマップを図8に示す。試料ごとに固有の蛍光フィンガープリントが得られることが示された。
【0089】
また、この結果を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした結果を図9に示す。各モデル微生物叢試料についてのクラスターは、それぞれ重なることなく分布した。さらにこの結果をジャックナイフ法およびホールドアウト法(ランダムに選択した8測定結果を検定用データとして使用)により解析したところ、それぞれ100%および97%(32測定結果中31正解)の精度で各試料を識別することができた。以上の結果から、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて、異なる肥満状態の個体由来の腸内微生物叢を識別できる可能性が示唆された。
【0090】
<6.睡眠障害モデルマウスの腸内微生物叢試料の識別>
(6−1)睡眠障害モデルマウスの作製
睡眠障害モデルマウスを、本発明者らの過去の報告に基づいて作製した(PLOS ONE,2013,8:e55452; Neurosci.Lett.,2017,653−362)。C3H−HeNマウス(オス8週齢、計8匹)を2群にわけ(4匹:睡眠障害ストレスなし(対照群)、4匹:睡眠障害ストレスあり(ストレス群))を回転輪ケージ(SW−15;メルクエスト社製)において飼育し、1〜2週間にわたり自由に通常の食物と水を与えた。22℃、湿度50%、明期:暗期=12時間:12時間の条件下で、10日間、馴化飼育した(−10〜0日)。その後、対照群は、そのままの条件で飼育を継続し、ストレス群は、睡眠障害モデルマウス作製用ケージ(SW−15−SD、メルクエスト社製)に移し替えた以外は同条件により飼育を継続した(0日〜28日)。行動リズムデータとして、Chronobiology Kit(Stanford Software Systems社製)により、1分毎に回転輪活動量を測定した。
【0091】
結果を図10に示す。馴化飼育期間は、対照群およびストレス群ともに、明期(日中)に比べ暗期(夜間)の方が活動的であったが、睡眠障害ストレスにより、ストレス群は明期・暗期を問わずランダムに活動するように変化した(図10(b))。
【0092】
(6−2)マウス糞便試料の解析
28日後、マウスを滅菌した新しいケージに移し、排泄された糞便を速やかにマイクロチューブに回収し、液体窒素にて凍結した。その後、解析まで−80℃で保管した。辨野らの報告(Sci.Rep.,2011,2:233)を基にした方法により、凍結糞便から腸内微生物叢試料を調製した。糞便試料を秤量し、リン酸生理食塩水(PBS)を加えて40mg/mLの懸濁液を得た。この懸濁液について、1分間混合し、4℃で5分間静置する処理を複数回繰り返した。その後、8000g、4℃で10分間遠心し、上清を除去した。得られたペレットをPBSにより懸濁し、再度8000g、4℃で10分間遠心し、上清を除去した。得られたペレットをPBSにより懸濁し、pluriStrainer(商標)(メッシュサイズ40μm、pluriSelect社製)により濾過したものを腸内微生物叢試料(200μg/mL feces in PBS)とした。得られた試料について、上記5と同様の手順および条件により蛍光強度を測定した。各試料につき、11回の反復測定を行った。
【0093】
測定結果(8試料×2溶媒条件×6プローブ×2波長セット×11測定)のヒートマップを図11に示す。試料ごとに固有の蛍光フィンガープリントが得られることが示された。
【0094】
また、この結果を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした結果を図12に示す。各試料についてのクラスターは、それぞれ重なることなく分布した(ジャックナイフ法による識別精度:90%)。
【0095】
さらに、上記測定結果について、各試料のラベルを睡眠障害ストレスの有無(Stressed/Unstressed)に変更し、再度線形判別分析により解析した結果を図13に示す。対照群とストレス群との間には、わずかな重なりがあるものの、明確な差異があることが示された(スチューデントt検定、p<0.003)。また、この結果をジャックナイフ法およびホールドアウト法(ランダムに選択した16測定結果を検定用データとして使用)により解析したところ、それぞれ91%および94%(32測定結果中30正解)の精度で対照群とストレス群とを識別することができた。以上の結果から、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて腸内微生物叢試料を解析することにより、動物個体の状態を判定できることが示された。
【0096】
<7.運動不足モデルマウスの腸内微生物叢試料の識別>
睡眠障害による変化よりもさらに微小な腸内微生物叢の変化を検出できるかを調べるために、運動不足モデルマウスを作製した。C3H−HeNマウス(オス6週(約40日)齢、計4匹)を回転輪ケージ(SW−15、メルクエスト)において、22℃、湿度50%、明期:暗期=12時間:12時間の条件下で、自由に通常の食物と水を与え、2週間にわたり馴化飼育した。その後、各マウスの腹部に運動量計測装置(nano tag、KISSEI COMTEC)を埋め込み(−34日)、各マウスを個別の回転輪ケージに移し(−24日)、回転輪を開放した状態で飼育した(〜0日)。その後、回転輪を固定した状態で一週間飼育し(1〜8日)、再び回転輪を開放した状態で飼育し(9〜21日)、その後、回転輪を固定した状態で一週間飼育した(22〜29日)。運動量計測装置により測定された振動数の積算値をマウスの行動データとして得た。
【0097】
結果を図14に示す。回転輪を固定した最初の期間では40,000〜60,000カウント/日であったのに対し、回転輪を開放した期間では徐々に運動量が増加し、20日時点では120,000〜140,000カウント/日であった。その後、再度回転輪を固定した期間では40,000〜60,000カウント/日に戻った。
【0098】
回転輪を開放してから12日後(20日時点)およびその後回転輪を固定してから5日後(27日時点)に、排泄された糞便を速やかにマイクロチューブに回収し、液体窒素にて凍結し、解析まで−30℃で保管した。上記(6−2)と同様の手順により、凍結糞便から腸内微生物叢試料を調製した。得られた試料について、上記5と同様の手順および条件により蛍光強度を測定した。各試料につき、6回の反復測定を行った。
【0099】
測定結果(8試料×2溶媒条件×6プローブ×2波長セット×6測定)のヒートマップを図15に示す。試料ごとに固有の蛍光フィンガープリントが得られることが示された。
【0100】
また、この結果を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした結果を図16に示す。各試料についてのクラスターは、それぞれ重なることなく分布した。また、この結果をジャックナイフ法およびホールドアウト法(ランダムに選択した16測定結果を検定用データとして使用)により解析したところ、それぞれ96%および94%(16測定結果中15正解)の精度で、マウス個体ならびにそれらの回転輪固定時および解放時を識別することができた。
【0101】
さらに、上記測定結果について、各試料のラベルを運動制限(回転輪固定)の有無(Fixed/Unfixed)に変更し、再度線形判別分析により解析した結果を図17に示す。運動制限されなかった群と運動制限された群との間には重なりがなく、明確な差異があることが示された。また、この結果をジャックナイフ法およびホールドアウト法(ランダムに選択した16測定結果を検定用データとして使用)により解析したところ、いずれも100%の精度で運動制限の有無を識別することができた。以上の結果から、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて腸内微生物叢試料を解析することにより、動物個体の運動習慣の有無を判定できることが示された。
【0102】
<8.腸内細菌の株の識別>
上記4で示したように、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて、種々の腸内細菌を「種」レベルで識別できるだけでなく、「門」レベルでも識別できる。しかし、細菌の場合、これらの階層よりもさらに下位の分類である「株」が存在する。同一菌種から分離された異なる菌株は、原則的に同じ遺伝形質を有しているため、16S rRNA解析などの現在一般的な遺伝子解析手法によってそれらを識別することは困難である。一方、近年、特許取得菌株の無断使用などによる特許侵害が問題となっており、微生物叢の構成を株レベルで判別できる方法が望まれている。そこで、本実施例では、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて、同一菌種から分離された異なる菌株を識別できるかどうかを試験した。本実施例において用いた大腸菌を表2に示す。
【0103】
表2.実施例において用いた腸内細菌
【表2】
【0104】
培養条件: 各大腸菌株をLB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl)に植菌し、37℃で振とう培養した。その後、高圧蒸気滅菌をした80%グリセロール溶液を1mLに対して、各培養液4mLを添加し(グリセロール終濃度20%)、使用するまで−80℃で保存した。
【0105】
6種類のプローブ溶液(プローブ1、3、6、7、8、11:−None、−Dap、−Gly、−Leu、−Phe、−Pht、1500nM/超純水)と、超純水により置換された大腸菌懸濁液(OD600=0.40)とを用いて、上記4と同様の手順および条件により蛍光強度を測定した。
【0106】
大腸菌を添加する前後の蛍光強度の変化量(I−I)の測定結果(8大腸菌×2溶媒条件×6プローブ×2波長セット×11測定)のヒートマップを図18に示す。各種プローブの蛍光強度は大腸菌の株や溶媒条件に応じて異なり、異なる株ごとに固有の蛍光フィンガープリントが得られた。
【0107】
また、上記測定結果を線形判別分析により解析し、得られた第一判別スコアおよび第二判別スコアをプロットした結果を図19に、第二判別スコアおよび第三判別スコアをプロットした結果を図20に示す。Rosetta−GamiB(DE3)株およびRosetta2(DE3)株を除いて、各株についてのクラスターは、第一判別スコアおよび第二判別スコアのプロット上でそれぞれ重なることなく分布した。Rosetta−GamiB(DE3)株およびRosetta2(DE3)株のクラスターは、第二判別スコアおよび第三判別スコアのプロット上で重なることなく分布した。さらにこの結果をジャックナイフ法により解析したところ、99%の精度で各細菌を識別することができた。以上の結果から、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて、細菌を株レベルでも識別できることが示された。
【0108】
<9.プローブの合成(プローブ13〜17)>
以下に示す手順により、ポリエチレングリコールとポリ−L−リジンのブロック共重合体(PEG−b−PLL)に対してフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を導入したプローブ群を合成した。
【0109】
(9−1)FITC基を導入したPEG−b−PLL(プローブ13)の合成
200mgのPEG−b−PLL(11.6μmol,アミノ基のモル数:600μmol)を10mLのメタノールに溶解し、撹拌しながら250μLのトリエチルアミンを加え、さらに、メタノールに溶解させた8mMのFITC(F007、同仁化学研究所)を7.6mL加えた。その後、アルゴン雰囲気下で密栓・遮光して24時間室温で撹拌した。透析膜(Spectra/Por6(MWCO:8kDa))を用いて、超純水で1回、メタノールで2回、超純水で1回、1mMのHClで2回、超純水で1回の順に透析した後、凍結乾燥により、FITC基を導入したPEG−b−PLL(プローブ13:−None/F(図21))の粉末を得た。10mMのNaOH中での495nmの吸光度から、3.9個のFITCが1分子のPEG−b−PLLに導入されていることを確認した(データは省略)。
【0110】
(9−2)FITC基および官能基を導入したPEG−b−PLL(プローブ14〜17)の合成
プローブ1(−None)に代えてプローブ13(−None/F)を用いた以外は上記(1−6)と同様にして、FITC基および官能基を導入したPEG−b−PLL(プローブ14〜17:−Nle/F、−Phe/F、−Suc/F、Pht/F(図21))の粉末を得た。
【0111】
<10.藍染細菌叢試料の調製>
藍染細菌叢を、本発明者らの過去の報告を改変した方法により調製した(World J.Microbiol.Biotechnol.,2017,33:70)。藍の葉の堆肥化物(スクモ)と木灰の抽出液(灰汁)とをバットで混合することにより、藍染細菌叢を含有する藍発酵液(pH11.2)を調製した。スクモは、藍熊染料より購入した(03250503)。灰汁は、木灰を水と混合し、10分間煮沸することにより調製した。藍発酵液を26℃で静置し、1日1回撹拌棒で撹拌した。水酸化カルシウムを加えることにより、藍発酵液のpHを10.3〜11.3の範囲に調節した。
【0112】
一定時間ごとに藍発酵液をマイクロチューブに採取し、グリセロールを25%になるように加えて藍染細菌叢懸濁液を調製し、解析まで−20℃で凍結保管した。4℃で融解した後、pluriStrainer(商標)(メッシュサイズ40μm、pluriSelect社製)により濾過し、さらにpluriStrainer(商標)(メッシュサイズ10μm、pluriSelect社製)により濾過した。得られた濾液を8000g、4℃で10分間遠心し、上澄みを除去した。得られたペレットを10mMのMOPS(pH7.0)+100mMのNaClにより懸濁し、8000g、4℃で10分間遠心し、上澄みを除去した。この工程をさらに2回繰り返した。得られたペレットを10mMのMOPS(pH7.0)+100mMのNaClにより懸濁したものを藍染細菌叢試料とした。
【0113】
<11.プローブのキャラクタリゼーション>
プローブ13(−None/F)および14(−Nle/F)(終濃度75nM)を、20mMのMOPS(pH7.0)+150mMのNaCl(終濃度)に溶解させたプローブ溶液を調製した。各プローブ溶液(100μL)を96ウェルハーフエリア低吸着ブラックマイクロプレート(Corning、3993)に加え、さらに、10mMのMOPS(pH7.0)+100mMのNaClにより溶媒置換された種々の濃度の藍染細菌叢試料(84日または280日時点の藍発酵液から調製)を20μL加え、35℃で10分間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダー(Cytation 5、BioTek)により、励起波長460nm、蛍光波長501〜700nmで蛍光スペクトルを測定した。
【0114】
結果を図22に示す。図22(a)は、藍染細菌叢試料(84日時点の藍発酵液から調製)をOD850=0〜0.03で添加した場合の、プローブ13(−None/F)の典型的な蛍光スペクトルである。藍染細菌の濃度が増加するにしたがって、蛍光強度が最大で約19%まで減少した。図22(b)は、プローブ13(−None/F)およびプローブ14(−Nle/F)のプローブ溶液の、藍染細菌濃度による蛍光強度変化を示す(蛍光波長521nm)。図中、「84d」は84日時点の藍発酵液から調製された藍染細菌叢試料を、「280d」は280日時点の藍発酵液から調製された藍染細菌叢試料を示す。プローブの種類および藍発酵液の状態に依存して、それぞれに固有の蛍光強度変化がみられた。この結果から、カチオン性ポリマー−FITCプローブが、状態の異なる藍発酵液を識別できる可能性が示唆された。
【0115】
<12.藍発酵液の識別>
藍染めでは、色の濃淡や鮮やかさなどの染色性は、藍発酵液中の藍染細菌叢の組成によって変化する。そのため、藍発酵液の状態を見極め、発酵を促進または停止する判断を迅速に下すことが要求される。しかし、現状そのような判断は発酵液の見た目や臭いに基づいて行われており、職人の経験と勘に頼っている。そこで、本実施例では、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて藍発酵液の染色性を判別できるかどうかを試験した。
【0116】
(12−1)藍発酵液の染色性の評価
綿織物の小片を発酵液に30秒間浸し、染色強度を目視により3段階(High/Mid/Low)に分類した。結果を図23に示す。なお、0日、2日、4日、8日時点の藍発酵液ではほとんど染色されなかったため、これらは全てLowに分類した(データは省略)。
【0117】
(12−2)藍染細菌叢試料の解析
自動分注装置(pipetmaX、Gilson)を用いて、10μLのプローブ13〜17溶液(750nM/超純水)と、80μLの溶媒(4)25mMのMOPS+187.5mMのNaCl(pH7.0)または溶媒(5)25mMの酢酸+187.5mMのNaCl(pH5.0)とを96ウェルハーフエリア低吸着ブラックマイクロプレートに加え、35℃で10分間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーにより、以下の3セットの励起波長(nm)/蛍光波長(nm)にて蛍光強度(I)を測定した:(Ch1)350/520、(Ch2)470/520、(Ch3)515/560。続いて、マイクロプレートに、10mMのMOPS+100mMのNaClにより溶媒置換された藍染細菌叢試料(15種類)(OD850=0.10)を10μL加え、35℃で10分間インキュベートした。終濃度は以下の通りである。プローブ:75nM、溶媒:20mMのMOPSまたは酢酸+150mMのNaCl、細菌:OD850=0.01。その後、マイクロプレートリーダーにより、以下の3セットの励起波長(nm)/蛍光波長(nm)にて蛍光強度(I)を測定した:(Ch1)350/520、(Ch2)470/520、(Ch3)515/560。各混合溶液につき、9回の反復測定を行った。
【0118】
測定結果(15藍染細菌叢×2溶媒条件×5プローブ×3波長セット×9測定)のヒートマップを図24に示す。藍染細菌叢試料ごとに固有の蛍光フィンガープリントが得られることが示された。
【0119】
上記測定結果の各試料のラベルを染色強度(High/Middle/Low)として、線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした結果を図25に示す。HighおよびLowのクラスター間にはわずかな重なりが見られたものの、Middleのクラスターは他のクラスターと重なることなく分布した。さらにこの結果をジャックナイフ法により解析したところ、76%の精度で各染色強度群を識別することができた。以上の結果から、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて、藍染細菌叢の染色強度を識別できることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
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図16
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図19
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図22
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