【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げ、本発明についてさらに説明する。なお、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0057】
<1.プローブの合成(プローブ1〜12)>
以下に示す手順により、ポリエチレングリコールとポリ−L−リジンのブロック共重合体(PEG−b−PLL)に対してテトラフェニルエチレン(TPE)を導入したプローブ群を合成した。
【0058】
ポリエチレングリコール−block−ポリ−L−リジントリフルオロ酢酸塩(PEG−b−PLL、Mw:17200)[エチレングリコール繰り返しユニット数:104、L−リジントリフルオロ酢酸塩繰り返しユニット数:52]は、Alamanda Polymersから購入した。Fmoc−Pro−OPfp(sc−235199)、Fmoc−Nle−OPfp(sc−319878)、Fmoc−Phe−OPfp(sc−250014)、Fmoc−Leu−OPfp(sc−235192)は、Santa Cruz Biotechnologyから購入した。無水コハク酸(239690)、無水フタル酸(230064)、2,3−ピラジンジカルボン酸無水物(405019)はSigma−Aldrichから購入した。1−(4−ブロモフェニル)−1,2,2−トリフェニルエチレン(B3634)は東京化成工業株式会社から購入した。n−ブチルリチウム(1.6mol/Lヘキサン溶液)(020−19071)、テトラヒドロフラン(THF)(超脱水)(207−17905)、硫酸ナトリウム(197−03345)、トリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニル(326−32881)、1H−ピラゾール−1−カルボキサミジン塩酸塩(322−31881)、メタノール(131−01826)、ジメチルスルホキシド(DMSO)(049−07213)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(049−02914)、ピペリジン(166−02773)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(059−05352)、トリエチルアミン(208−02643)は、富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。Fmoc−(Gly)3−OH(R00132)、Fmoc−Ala(4−Pyri)−OH(M00669)、Fmoc−DAP(Fmoc)−OH(L00797)は、渡辺化学工業株式会社から購入した。
【0059】
(1−1)4−(1,2,2−トリフェニルエテニル)安息香酸ペンタフルオロフェニル(TPE−CO−OPfp)の合成
【化1】
【0060】
(i)4−(1,2,2−トリフェニルエテニル)安息香酸(TPE−COOH)(化合物2)の合成
アルゴン雰囲気下、1−(4−ブロモフェニル)−1,2,2−トリフェニルエチレン(化合物1)(2.06g、5.0mmol)を、テトラヒドロフラン(70mL)に溶解し、−78℃に冷却した。この溶液に、n−ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液)(4.38mL、7.0mmol)を5分かけてゆっくりと滴下し、−78℃で40分撹拌した。この反応液に、細かく砕いたドライアイス(15g)を加え、−78℃で1時間撹拌した。その後、反応液を室温に戻し、さらに1時間撹拌した後、塩酸(1.0N、50mL)を加えて室温で30分撹拌した。その後、反応液に酢酸エチル(100mL)を加えて水層を分離し、得られた有機層を水(50mL)で1回、飽和食塩水(50mL)で1回洗浄し、硫酸ナトリウムにより乾燥した。その後、硫酸ナトリウムを濾過により除き、溶液を減圧下で濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:酢酸エチル−クロロホルム)により精製して、化合物2(1.68g、収率89%)を白色固体状物質として得た。
1H NMR(500MHz,CDCl
3)δ:7.83(d,2 H,ArH,J=8.5Hz),7.14〜7.10(m,11 H,ArH),7.04〜7.00(m,6 H,ArH).
【0061】
(ii)4−(1,2,2−トリフェニルエテニル)安息香酸ペンタフルオロフェニル(TPE−CO−OPfp)(化合物3)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物2(750mg、2.0mmol)をDMF(30mL)に溶解し、DIEA(0.68mL、4.0mmol)およびトリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニル(0.51mL、3.0mmol)を加えて、室温で100分間撹拌した。反応液に酢酸エチル(150mL)を加えて、水(50mL)で4回、飽和食塩水(50mL)で1回洗浄し、得られた有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過により除き、溶液を減圧下で濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:酢酸エチル−ヘキサン)により精製して、化合物3(980mg、収率90%)を白色泡状物質として得た。
1H NMR(500MHz,CDCl
3)δ:7.92(d,2 H,ArH,J=8.4Hz),7.20(d,2 H,ArH,J=8.4Hz),7.16〜7.11(m,9 H,ArH),7.06〜7.01(m,6 H,ArH).
【0062】
(1−2)Fmoc−(Gly)3−OPfp(化合物5)の合成
【化2】
【0063】
アルゴン雰囲気下、Fmoc−(Gly)3−OH(化合物4)(905mg、2.2mmol)をDMF(20mL)に溶解し、DIEA(0.75mL、4.4mmol)およびトリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニル(0.56mL、3.3mmol)を加えて、室温で1時間撹拌した。反応液に酢酸エチル(150mL)を加えて、水(60ml)で4回、飽和食塩水(60mL)で1回洗浄し、得られた有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過により除き、溶液を減圧下で濃縮した。得られた白色固体を酢酸エチル(15mL)とヘキサン(45mL)の混合溶液に懸濁し、沈殿物を濾取することにより、化合物5(966mg、収率76%)を白色粉末状物質として得た。
1H NMR(500MHz,DMSO−d
6)δ:8.57(t,1H,NH,J=5.8Hz),8.21(t,1 H,NH,J=5.8Hz),7.89(d,2 H,ArH,J=7.5Hz),7.71(d,2 H,ArH,J=7.5Hz),7.57(t,1 H,NH,J=6.0Hz),7.42(t,2 H,ArH,J=7.4Hz),7.33(t,2 H,ArH,J=7.4Hz),4.33(d,2 H,CH
2,J=5.8Hz),4.29(d,2 H,CH
2,J=7.0Hz),4.23(t,1 H,CH,J=7.0Hz),3.80(d,2 H,CH
2,J=5.8Hz),3.68(d,2 H,CH
2,J=6.0Hz).
【0064】
(1−3)Fmoc−Ala(4−Pyri)−OPfp(化合物7)の合成
【化3】
【0065】
アルゴン雰囲気下、Fmoc−Ala(4−Pyri)−OH(化合物6)(1.55g、4.0mmol)をDMF(40mL)に溶解し、DIEA(1.36mL、8.0mmol)およびトリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニル(1.02mL、6.0mmol)を加えて、室温で1.5時間撹拌した。反応液に酢酸エチル(200mL)を加えて、水(80mL)で4回、飽和食塩水(80mL)で1回洗浄し、得られた有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過により除き、溶液を減圧下で濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:酢酸エチル−ヘキサン)により精製して、化合物7(1.86g、収率84%)を白色固体状物質として得た。
1H NMR(500MHz,DMSO−d
6)δ:8.49(d,2 H,ArH,J=5.9Hz),8.26(d,1 H,NH,J=7.8Hz),7.88(d,2 H,ArH,J=7.6Hz),7.62(dd,2 H,ArH,J=7.0,5.2Hz),7.40(m,2 H,ArH),7.34(d,2 H,ArH,J=5.9Hz),7.29(m,2 H,ArH),4.82(ddd,1 H,CH,J=10.5,7.8,5.0Hz),4.39(dd,1 H,CH
2a,J=10.7,6.9Hz),4.30(dd,1 H,CH
2b,J=10.7,6.8Hz).4.20(dd,1 H,CH,J=6.9,6.8Hz),3.27(dd,1 H,CH
2a,J=13.8,5.0Hz),3.13(dd,1 H,CH
2b,J=13.8,10.5Hz).
【0066】
(1−4)Fmoc−DAP(Fmoc)−OPfp(化合物9)の合成
【化4】
【0067】
アルゴン雰囲気下、Fmoc−DAP(Fmoc)−OH(化合物8)(1.10mg、2.0mmol)をDMF(20mL)に溶解し、DIEA(0.68mL、4.0mmol)およびトリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニル(0.51mL、3.0mmol)を加えて、室温で1時間撹拌した。反応液に酢酸エチル(150mL)を加えて、水(60mL)で4回、飽和食塩水(60mL)で1回洗浄し、得られた有機層を硫酸ナトリウムにより乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過により除き、溶液を減圧下で濃縮した。得られた白色固体を酢酸エチル(10mL)とヘキサン(50mL)の混合溶媒に懸濁し、沈殿物を濾取することで化合物9(1.32g、収率92%)を白色粉末状物質として得た。
1H NMR(500MHz,DMSO−d
6)δ:8.10(d,1 H,NH,J=7.7Hz),7.90〜7.87(m,4 H,ArH),7.70〜7.69(m,2 H,ArH),7.67〜7.64(m,2 H,ArH),7.56(t,1 H,NH,J=5.9Hz),7.42〜7.39(m,4 H,ArH),7.32〜7.27(m,4 H,ArH),4.64(m,1 H,CH),4.42〜4.36(m,2 H),4.34〜4.30(m,2 H),4.26〜4.20(m,2 H),3.57〜3.54(m,2 H,CH
2).
【0068】
(1−5)TPE基を導入したPEG−b−PLL(プローブ1)の合成
400mgのPEG−b−PLL(23.3μmol,アミノ基のモル数:1200μmol)を40mLのDMFに溶解し、撹拌しながら500μLのトリエチルアミンを加え、さらに、DMFに溶解させた40mMのTPE−CO−OPfpを1.51mL加えた。その後、アルゴン雰囲気下で密栓・遮光して24時間室温で撹拌した。透析膜(Spectra/Por6(MWCO:8kDa))を用いて、超純水で1回、メタノールで2回、超純水で1回、1mMのHClで2回、超純水で1回の順に透析した後、凍結乾燥により、TPE基を導入したPEG−b−PLL(プローブ1:−None(
図1))の粉末を得た。
【0069】
1H NMR(400MHz,MeOD)から、Lys側鎖のα−CHのプロトン(δ=3.97ppm)のピークに対する、アミド結合の隣のフェニル環の2つのプロトン(δ=7.64ppm)を除いたTPEの15つのプロトン(δ=6.1−7.1ppm)のピークの面積比より、2.6個のTPEが1分子のPEG−b−PLLに導入されていることを確認した(データは省略)。
【0070】
(1−6)TPE基および官能基を導入したPEG−b−PLL(プローブ2〜12)の合成
(i)アミノ酸の導入
30mgのプローブ1(−None)(2.14μmol,アミノ基:106μmol)を3mLのDMSOに溶解し、撹拌しながら54.4μLのDIEAを加え、さらにDMSOに溶解させた200mMのFmoc−各種アミノ酸−OPfpを2.65mL加えた。その後、アルゴン雰囲気下で密栓・遮光して72時間室温で撹拌した。透析膜(Spectra/Por6(MWCO:8kDa))を用いて、超純水で1回、メタノールで2回の順に透析した後、エバポレーターでメタノールを除去し、4mLのDMSOを加え、撹拌しながら1mLのピペリジンを加え、Fmoc基を脱保護した。その後、アルゴン雰囲気下で密栓・遮光して40時間室温で撹拌した。透析膜(Spectra/Por6(MWCO:8kDa))を用いて、超純水で1回、メタノールで3回、超純水で1回、1mMのHClで2回、超純水で1回の順に透析した後、凍結乾燥により、各種アミノ酸を導入したプローブ(プローブ3〜9:−Dap、−Pro、−Nle、−Leu、−Gly
3、−Phe、−Pyri(
図1))の粉末を得た。
【0071】
1H−NMRチャートにおける、反応後のLys側鎖のεCH
2のプロトン(δ=2.97ppm in MeOD,δ=3.04ppm in D
2O)のピークの消失から、残存するLys側鎖のほぼ全てが反応したことを確認した(−Pheに関しては、アミド結合の隣のフェニル環の2つのプロトン(δ=7.64ppm)を除いたTPEの15つのプロトン(δ=6.1−7.1ppm)のピークに対する、Phe側鎖のフェニル環の5つのプロトン(δ=7.28ppm)のピークの面積比より完全に反応が進行したことを別途確認した)(データは省略)。
【0072】
(ii)グアニジウム化
30mgのプローブ1(−None)(2.14μmol,アミノ基:106μmol)を3.8mLのメタノールに溶解し、撹拌しながら74.0μLのトリエチルアミンを加え、さらにメタノールに溶解させた200mMの1H−ピラゾール−1−カルボキサミジン塩酸塩(PCA−Cl)を1.59mL加えた。その後、アルゴン雰囲気下で密栓・遮光して24時間室温で撹拌した。透析膜(Spectra/Por6(MWCO:8kDa))を用いて、超純水で1回、メタノールで2回、超純水で1回、1mMのHClで2回、超純水で1回の順に透析した後、凍結乾燥により、アミノ基をグアニジウム化したプローブ(プローブ2:−hA(
図1))の粉末を得た。
【0073】
1H−NMRチャートにおける、反応後のLys側鎖のεCH
2のプロトン(δ=2.97ppm in MeOD)のピークの消失から、残存するLys側鎖のほぼ全てが反応したことを確認した(データは省略)。
【0074】
(iii)カルボキシル化
30mgのプローブ1(−None)(2.14μmol,アミノ基:106μmol)を3.8mLのDMSOに溶解し、撹拌しながら147.6 μLのトリエチルアミンを加え、さらにDMSOに溶解させた1Mの各種酸無水物を1.06mL加えた。その後、アルゴン雰囲気下で密栓・遮光して48時間室温で撹拌した。2.5mLの超純水を加え、1時間室温で撹拌した後、透析膜(Spectra/Por6(MWCO:8kDa))を用いて、20%メタノールで1回、超純水で1回、1mMのNaOHで2回、超純水で1回の順に透析し、凍結乾燥により、アミノ基をカルボキシル化したプローブ(プローブ10〜12:−Suc、−Pht、−Pyr(
図1))の粉末を得た。
【0075】
1H−NMRチャートにおける、反応後のLys側鎖のεCH
2のプロトン(δ=2.97ppm in MeOD,δ=2.77ppm in DMSO−d
6)のピークの消失から、残存するLys側鎖のほぼ全てが反応したことを確認した(データは省略)。
【0076】
<2.腸内細菌の培養>
本実施例において用いた腸内細菌を表1に示す。腸内細菌株はJapan Collection of Microorganisms(JCM)およびDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ)のカルチャーコレクションから入手した。大腸菌DH5α株は、GMbiolab社から購入した。大腸菌JM109株は、タカラバイオ社から購入した。
【0077】
表1.実施例において用いた腸内細菌
【表1】
【0078】
培地作製: N
2/CO
2嫌気性混合ガス(80:20,v/v)により置換した超純水に、41.7g/Lの変法GAMブイヨン培地(日水製薬株式会社)を添加し、完全に溶解させた。培地をガラス製の50mLバイアル瓶に分注し、再度N
2/CO
2ガスによりに液層および気層を十分置換した後、ブチルゴム栓とアルミキャップ(日電理化硝子)で密閉した。バイアル瓶は121℃、20分間の高圧蒸気滅菌した後、使用まで4℃で保存した。
【0079】
培養条件: 腸内細菌株は、それぞれの取扱説明書に従って復元培養した後、GAM培地に接種し、37℃で静置培養した。細菌の増殖は、培地の濁度(OD
600)測定または顕微鏡観察により直接確認した。次いで、各培養液のグリセロールストックを以下の手順により作製した。10mLバイアル瓶中に80%グリセロール溶液を調製し、N
2ガスで液層および気層を置換した。高圧蒸気滅菌後、このグリセロール液1mLに対して各培養液4mLを添加し(グリセロール終濃度20%)、使用するまで−80℃で保存した。大腸菌DH5α株およびJM109株は、LB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl)に植菌し、37℃で振とう培養した。その後、上記と同様の手順によりグリセロールストックを作製し、−80℃で保存した。
【0080】
<3.プローブのキャラクタリゼーション>
プローブ1(−None)および5(−Nle)(終濃度180nM)を、以下の3種類の溶媒:(1)24mMのMOPS(pH7.0)、(2)24mMのMOPS+180mMのNaCl(pH7.0)、または(3)24mMの酢酸+180mMのNaCl(pH5.0)(いずれも終濃度)に溶解させたプローブ溶液を調製した。MOPS(M1254)はSigma−Aldrichから購入した。酢酸(017−00256)は富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。各プローブ溶液(100μL)を96ウェルハーフエリア低吸着ブラックマイクロプレート(Corning、3993)に加え、さらに、超純水により溶媒置換された種々の濃度の細菌(P.E.1またはF.A)懸濁液を20μL加え、35℃で10分間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダー(Cytation 5、BioTek)により、励起波長330nm、蛍光波長372〜700nmで蛍光スペクトルを測定した。
【0081】
結果を
図2に示す。
図2(a)は、細菌(F.A)をOD
600=0〜0.10で添加した場合の、プローブ1(−None)/溶媒(1)の典型的な蛍光スペクトルである。縦軸(F.I.ratio)は、細菌(F.A)をOD
600=0.05で添加した場合の励起波長(nm)330nm、蛍光波長(nm)=460nmの蛍光強度を1とした場合の蛍光強度を示す。細菌の濃度が増加するにしたがって、蛍光強度が最大で約40倍まで増大した。
図2(b)は、プローブ1(−None)/溶媒(2)または(3)のプローブ溶液、
図2(c)は、プローブ5(−Nle)/溶媒(2)または(3)のプローブ溶液の、細菌濃度による蛍光強度変化を示す(蛍光波長460nm)。縦軸(ΔF.I.)は、細菌を添加していない試料の蛍光強度と細菌を添加した試料の蛍光強度との差を示す。プローブの種類、溶媒の種類および細菌の種類に依存して、それぞれに固有の蛍光強度変化がみられた。この結果から、カチオン性ポリマー−TPEプローブが、細菌の種類および/または濃度を識別できる可能性が示唆された。
【0082】
<4.腸内細菌の種類の識別>
自動分注装置(pipetmaX、Gilson)を用いて、12μLのプローブ1〜12溶液(1500nM/超純水)と、96μLの溶媒(4)25mMのMOPS+187.5mMのNaCl(pH7.0)または溶媒(5)25mMの酢酸+187.5mMのNaCl(pH5.0)とを96ウェルハーフエリア低吸着ブラックマイクロプレートに加え、35℃で10分間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーにより、以下の2セットの励起波長(nm)/蛍光波長(nm)にて蛍光強度(I
0)を測定した:(Ch1)330/480、(Ch2)360/530。続いて、マイクロプレートに、超純水により溶媒置換された細菌(表1、16種類)の懸濁液(OD
600=0.40)を12μL加え、35℃で10分間インキュベートした。終濃度は以下の通りである。プローブ:150nM、溶媒:20mMのMOPSまたは酢酸+150mMのNaCl、細菌:OD
600=0.04。その後、マイクロプレートリーダーにより、以下の2セットの励起波長(nm)/蛍光波長(nm)にて蛍光強度(I)を測定した:(Ch1)330/480、(Ch2)360/530。各混合溶液につき、11回の反復測定を行った。
【0083】
測定結果(16細菌×2溶媒条件×12プローブ×2波長セット×11測定)のヒートマップを
図3に示す。各種プローブの蛍光強度は、細菌の種類や溶媒条件に応じて異なり、異なる細菌ごとに固有の蛍光フィンガープリントが得られた。
【0084】
また、上記測定結果を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした結果を
図4に示す。各細菌についてのクラスターは、それぞれ重なることなく分布した。さらにこの結果をジャックナイフ法およびホールドアウト法(ランダムに選択した4測定結果を検定用データとして使用)により解析したところ、100%の精度で各細菌を識別することができた。以上の結果から、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて、細菌を種レベルで識別できることが示された。また、
図4は、細菌の門レベルに対応するメタクラスター(破線で示す)が存在することも示した。この結果から、カチオン性ポリマー−TPEプローブを用いて、細菌を種レベルで識別できるだけでなく、門レベルでも識別できることが示された。
【0085】
また、上記測定結果の線形判別分析において、細菌を添加した後の蛍光強度(I)ではなく、細菌を添加する前後の蛍光強度の変化量(I−I
0)を用いた場合の結果を
図5に示す。I−I
0を用いた場合には、いくつかの細菌についてのクラスターが重なっており、ジャックナイフ法により解析したところ、識別精度は99%であった。これは、カチオン性ポリマー−TPEプローブのバックグラウンド蛍光が極めて小さいために、I
0により測定値を正規化することによるメリットを、I
0の測定誤差によるデメリットが上回ったためであると推察された。以上の結果から、カチオン性ポリマー−TPEプローブを用いた場合には、細菌を添加した後の蛍光強度の測定のみにより、高精度の解析が可能であることが示された。
【0086】
さらに、上記測定結果について、各細菌のラベルを種から門に変更し(例えば、F.C.およびF.E.はいずれも単に、「Firmicutes」とラベルする)、線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした結果を
図6に示す。各門についてのクラスターは、それぞれ重なることなく分布した。さらにこの結果をジャックナイフ法により解析したところ、99%の識別精度であった。また、
図6は、グラム陽性菌とグラム陰性菌を分離できることも示した(破線より右上がグラム陽性菌、左下がグラム陰性菌)。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、この結果は、細菌の細胞壁構造(ペプチドグリカン層)の違いが認識された可能性を示す。
【0087】
<5.肥満モデル微生物叢試料の識別>
ヒトの腸内微生物叢におけるフィルミクテス門に属する細菌とバクテロイデス門に属する細菌との比(F/B比)が、肥満と相関するという知見(BMC Microbiol.,2017,17:120)に基づき、6種の細菌を異なる比率で含む4種類の肥満モデル微生物叢試料(OD
600=0.40)を調製した(
図7)。6種類のプローブ(プローブ1、3、6、7、8および11:−None、−Dap、Gly
3、−Leu、−Pheおよび−Pht)を用いて、上記4と同様の手順および条件により蛍光強度を測定した。各試料につき、22回の反復測定を行った。
【0088】
測定結果(4試料×2溶媒条件×6プローブ×2波長セット×22測定)のヒートマップを
図8に示す。試料ごとに固有の蛍光フィンガープリントが得られることが示された。
【0089】
また、この結果を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした結果を
図9に示す。各モデル微生物叢試料についてのクラスターは、それぞれ重なることなく分布した。さらにこの結果をジャックナイフ法およびホールドアウト法(ランダムに選択した8測定結果を検定用データとして使用)により解析したところ、それぞれ100%および97%(32測定結果中31正解)の精度で各試料を識別することができた。以上の結果から、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて、異なる肥満状態の個体由来の腸内微生物叢を識別できる可能性が示唆された。
【0090】
<6.睡眠障害モデルマウスの腸内微生物叢試料の識別>
(6−1)睡眠障害モデルマウスの作製
睡眠障害モデルマウスを、本発明者らの過去の報告に基づいて作製した(PLOS ONE,2013,8:e55452; Neurosci.Lett.,2017,653−362)。C3H−HeNマウス(オス8週齢、計8匹)を2群にわけ(4匹:睡眠障害ストレスなし(対照群)、4匹:睡眠障害ストレスあり(ストレス群))を回転輪ケージ(SW−15;メルクエスト社製)において飼育し、1〜2週間にわたり自由に通常の食物と水を与えた。22℃、湿度50%、明期:暗期=12時間:12時間の条件下で、10日間、馴化飼育した(−10〜0日)。その後、対照群は、そのままの条件で飼育を継続し、ストレス群は、睡眠障害モデルマウス作製用ケージ(SW−15−SD、メルクエスト社製)に移し替えた以外は同条件により飼育を継続した(0日〜28日)。行動リズムデータとして、Chronobiology Kit(Stanford Software Systems社製)により、1分毎に回転輪活動量を測定した。
【0091】
結果を
図10に示す。馴化飼育期間は、対照群およびストレス群ともに、明期(日中)に比べ暗期(夜間)の方が活動的であったが、睡眠障害ストレスにより、ストレス群は明期・暗期を問わずランダムに活動するように変化した(
図10(b))。
【0092】
(6−2)マウス糞便試料の解析
28日後、マウスを滅菌した新しいケージに移し、排泄された糞便を速やかにマイクロチューブに回収し、液体窒素にて凍結した。その後、解析まで−80℃で保管した。辨野らの報告(Sci.Rep.,2011,2:233)を基にした方法により、凍結糞便から腸内微生物叢試料を調製した。糞便試料を秤量し、リン酸生理食塩水(PBS)を加えて40mg/mLの懸濁液を得た。この懸濁液について、1分間混合し、4℃で5分間静置する処理を複数回繰り返した。その後、8000g、4℃で10分間遠心し、上清を除去した。得られたペレットをPBSにより懸濁し、再度8000g、4℃で10分間遠心し、上清を除去した。得られたペレットをPBSにより懸濁し、pluriStrainer(商標)(メッシュサイズ40μm、pluriSelect社製)により濾過したものを腸内微生物叢試料(200μg/mL feces in PBS)とした。得られた試料について、上記5と同様の手順および条件により蛍光強度を測定した。各試料につき、11回の反復測定を行った。
【0093】
測定結果(8試料×2溶媒条件×6プローブ×2波長セット×11測定)のヒートマップを
図11に示す。試料ごとに固有の蛍光フィンガープリントが得られることが示された。
【0094】
また、この結果を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした結果を
図12に示す。各試料についてのクラスターは、それぞれ重なることなく分布した(ジャックナイフ法による識別精度:90%)。
【0095】
さらに、上記測定結果について、各試料のラベルを睡眠障害ストレスの有無(Stressed/Unstressed)に変更し、再度線形判別分析により解析した結果を
図13に示す。対照群とストレス群との間には、わずかな重なりがあるものの、明確な差異があることが示された(スチューデントt検定、p<0.003)。また、この結果をジャックナイフ法およびホールドアウト法(ランダムに選択した16測定結果を検定用データとして使用)により解析したところ、それぞれ91%および94%(32測定結果中30正解)の精度で対照群とストレス群とを識別することができた。以上の結果から、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて腸内微生物叢試料を解析することにより、動物個体の状態を判定できることが示された。
【0096】
<7.運動不足モデルマウスの腸内微生物叢試料の識別>
睡眠障害による変化よりもさらに微小な腸内微生物叢の変化を検出できるかを調べるために、運動不足モデルマウスを作製した。C3H−HeNマウス(オス6週(約40日)齢、計4匹)を回転輪ケージ(SW−15、メルクエスト)において、22℃、湿度50%、明期:暗期=12時間:12時間の条件下で、自由に通常の食物と水を与え、2週間にわたり馴化飼育した。その後、各マウスの腹部に運動量計測装置(nano tag、KISSEI COMTEC)を埋め込み(−34日)、各マウスを個別の回転輪ケージに移し(−24日)、回転輪を開放した状態で飼育した(〜0日)。その後、回転輪を固定した状態で一週間飼育し(1〜8日)、再び回転輪を開放した状態で飼育し(9〜21日)、その後、回転輪を固定した状態で一週間飼育した(22〜29日)。運動量計測装置により測定された振動数の積算値をマウスの行動データとして得た。
【0097】
結果を
図14に示す。回転輪を固定した最初の期間では40,000〜60,000カウント/日であったのに対し、回転輪を開放した期間では徐々に運動量が増加し、20日時点では120,000〜140,000カウント/日であった。その後、再度回転輪を固定した期間では40,000〜60,000カウント/日に戻った。
【0098】
回転輪を開放してから12日後(20日時点)およびその後回転輪を固定してから5日後(27日時点)に、排泄された糞便を速やかにマイクロチューブに回収し、液体窒素にて凍結し、解析まで−30℃で保管した。上記(6−2)と同様の手順により、凍結糞便から腸内微生物叢試料を調製した。得られた試料について、上記5と同様の手順および条件により蛍光強度を測定した。各試料につき、6回の反復測定を行った。
【0099】
測定結果(8試料×2溶媒条件×6プローブ×2波長セット×6測定)のヒートマップを
図15に示す。試料ごとに固有の蛍光フィンガープリントが得られることが示された。
【0100】
また、この結果を線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした結果を
図16に示す。各試料についてのクラスターは、それぞれ重なることなく分布した。また、この結果をジャックナイフ法およびホールドアウト法(ランダムに選択した16測定結果を検定用データとして使用)により解析したところ、それぞれ96%および94%(16測定結果中15正解)の精度で、マウス個体ならびにそれらの回転輪固定時および解放時を識別することができた。
【0101】
さらに、上記測定結果について、各試料のラベルを運動制限(回転輪固定)の有無(Fixed/Unfixed)に変更し、再度線形判別分析により解析した結果を
図17に示す。運動制限されなかった群と運動制限された群との間には重なりがなく、明確な差異があることが示された。また、この結果をジャックナイフ法およびホールドアウト法(ランダムに選択した16測定結果を検定用データとして使用)により解析したところ、いずれも100%の精度で運動制限の有無を識別することができた。以上の結果から、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて腸内微生物叢試料を解析することにより、動物個体の運動習慣の有無を判定できることが示された。
【0102】
<8.腸内細菌の株の識別>
上記4で示したように、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて、種々の腸内細菌を「種」レベルで識別できるだけでなく、「門」レベルでも識別できる。しかし、細菌の場合、これらの階層よりもさらに下位の分類である「株」が存在する。同一菌種から分離された異なる菌株は、原則的に同じ遺伝形質を有しているため、16S rRNA解析などの現在一般的な遺伝子解析手法によってそれらを識別することは困難である。一方、近年、特許取得菌株の無断使用などによる特許侵害が問題となっており、微生物叢の構成を株レベルで判別できる方法が望まれている。そこで、本実施例では、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて、同一菌種から分離された異なる菌株を識別できるかどうかを試験した。本実施例において用いた大腸菌を表2に示す。
【0103】
表2.実施例において用いた腸内細菌
【表2】
【0104】
培養条件: 各大腸菌株をLB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl)に植菌し、37℃で振とう培養した。その後、高圧蒸気滅菌をした80%グリセロール溶液を1mLに対して、各培養液4mLを添加し(グリセロール終濃度20%)、使用するまで−80℃で保存した。
【0105】
6種類のプローブ溶液(プローブ1、3、6、7、8、11:−None、−Dap、−Gly
3、−Leu、−Phe、−Pht、1500nM/超純水)と、超純水により置換された大腸菌懸濁液(OD
600=0.40)とを用いて、上記4と同様の手順および条件により蛍光強度を測定した。
【0106】
大腸菌を添加する前後の蛍光強度の変化量(I−I
0)の測定結果(8大腸菌×2溶媒条件×6プローブ×2波長セット×11測定)のヒートマップを
図18に示す。各種プローブの蛍光強度は大腸菌の株や溶媒条件に応じて異なり、異なる株ごとに固有の蛍光フィンガープリントが得られた。
【0107】
また、上記測定結果を線形判別分析により解析し、得られた第一判別スコアおよび第二判別スコアをプロットした結果を
図19に、第二判別スコアおよび第三判別スコアをプロットした結果を
図20に示す。Rosetta−GamiB(DE3)株およびRosetta2(DE3)株を除いて、各株についてのクラスターは、第一判別スコアおよび第二判別スコアのプロット上でそれぞれ重なることなく分布した。Rosetta−GamiB(DE3)株およびRosetta2(DE3)株のクラスターは、第二判別スコアおよび第三判別スコアのプロット上で重なることなく分布した。さらにこの結果をジャックナイフ法により解析したところ、99%の精度で各細菌を識別することができた。以上の結果から、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて、細菌を株レベルでも識別できることが示された。
【0108】
<9.プローブの合成(プローブ13〜17)>
以下に示す手順により、ポリエチレングリコールとポリ−L−リジンのブロック共重合体(PEG−b−PLL)に対してフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を導入したプローブ群を合成した。
【0109】
(9−1)FITC基を導入したPEG−b−PLL(プローブ13)の合成
200mgのPEG−b−PLL(11.6μmol,アミノ基のモル数:600μmol)を10mLのメタノールに溶解し、撹拌しながら250μLのトリエチルアミンを加え、さらに、メタノールに溶解させた8mMのFITC(F007、同仁化学研究所)を7.6mL加えた。その後、アルゴン雰囲気下で密栓・遮光して24時間室温で撹拌した。透析膜(Spectra/Por6(MWCO:8kDa))を用いて、超純水で1回、メタノールで2回、超純水で1回、1mMのHClで2回、超純水で1回の順に透析した後、凍結乾燥により、FITC基を導入したPEG−b−PLL(プローブ13:−None/F(
図21))の粉末を得た。10mMのNaOH中での495nmの吸光度から、3.9個のFITCが1分子のPEG−b−PLLに導入されていることを確認した(データは省略)。
【0110】
(9−2)FITC基および官能基を導入したPEG−b−PLL(プローブ14〜17)の合成
プローブ1(−None)に代えてプローブ13(−None/F)を用いた以外は上記(1−6)と同様にして、FITC基および官能基を導入したPEG−b−PLL(プローブ14〜17:−Nle/F、−Phe/F、−Suc/F、Pht/F(
図21))の粉末を得た。
【0111】
<10.藍染細菌叢試料の調製>
藍染細菌叢を、本発明者らの過去の報告を改変した方法により調製した(World J.Microbiol.Biotechnol.,2017,33:70)。藍の葉の堆肥化物(スクモ)と木灰の抽出液(灰汁)とをバットで混合することにより、藍染細菌叢を含有する藍発酵液(pH11.2)を調製した。スクモは、藍熊染料より購入した(03250503)。灰汁は、木灰を水と混合し、10分間煮沸することにより調製した。藍発酵液を26℃で静置し、1日1回撹拌棒で撹拌した。水酸化カルシウムを加えることにより、藍発酵液のpHを10.3〜11.3の範囲に調節した。
【0112】
一定時間ごとに藍発酵液をマイクロチューブに採取し、グリセロールを25%になるように加えて藍染細菌叢懸濁液を調製し、解析まで−20℃で凍結保管した。4℃で融解した後、pluriStrainer(商標)(メッシュサイズ40μm、pluriSelect社製)により濾過し、さらにpluriStrainer(商標)(メッシュサイズ10μm、pluriSelect社製)により濾過した。得られた濾液を8000g、4℃で10分間遠心し、上澄みを除去した。得られたペレットを10mMのMOPS(pH7.0)+100mMのNaClにより懸濁し、8000g、4℃で10分間遠心し、上澄みを除去した。この工程をさらに2回繰り返した。得られたペレットを10mMのMOPS(pH7.0)+100mMのNaClにより懸濁したものを藍染細菌叢試料とした。
【0113】
<11.プローブのキャラクタリゼーション>
プローブ13(−None/F)および14(−Nle/F)(終濃度75nM)を、20mMのMOPS(pH7.0)+150mMのNaCl(終濃度)に溶解させたプローブ溶液を調製した。各プローブ溶液(100μL)を96ウェルハーフエリア低吸着ブラックマイクロプレート(Corning、3993)に加え、さらに、10mMのMOPS(pH7.0)+100mMのNaClにより溶媒置換された種々の濃度の藍染細菌叢試料(84日または280日時点の藍発酵液から調製)を20μL加え、35℃で10分間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダー(Cytation 5、BioTek)により、励起波長460nm、蛍光波長501〜700nmで蛍光スペクトルを測定した。
【0114】
結果を
図22に示す。
図22(a)は、藍染細菌叢試料(84日時点の藍発酵液から調製)をOD
850=0〜0.03で添加した場合の、プローブ13(−None/F)の典型的な蛍光スペクトルである。藍染細菌の濃度が増加するにしたがって、蛍光強度が最大で約19%まで減少した。
図22(b)は、プローブ13(−None/F)およびプローブ14(−Nle/F)のプローブ溶液の、藍染細菌濃度による蛍光強度変化を示す(蛍光波長521nm)。図中、「84d」は84日時点の藍発酵液から調製された藍染細菌叢試料を、「280d」は280日時点の藍発酵液から調製された藍染細菌叢試料を示す。プローブの種類および藍発酵液の状態に依存して、それぞれに固有の蛍光強度変化がみられた。この結果から、カチオン性ポリマー−FITCプローブが、状態の異なる藍発酵液を識別できる可能性が示唆された。
【0115】
<12.藍発酵液の識別>
藍染めでは、色の濃淡や鮮やかさなどの染色性は、藍発酵液中の藍染細菌叢の組成によって変化する。そのため、藍発酵液の状態を見極め、発酵を促進または停止する判断を迅速に下すことが要求される。しかし、現状そのような判断は発酵液の見た目や臭いに基づいて行われており、職人の経験と勘に頼っている。そこで、本実施例では、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて藍発酵液の染色性を判別できるかどうかを試験した。
【0116】
(12−1)藍発酵液の染色性の評価
綿織物の小片を発酵液に30秒間浸し、染色強度を目視により3段階(High/Mid/Low)に分類した。結果を
図23に示す。なお、0日、2日、4日、8日時点の藍発酵液ではほとんど染色されなかったため、これらは全てLowに分類した(データは省略)。
【0117】
(12−2)藍染細菌叢試料の解析
自動分注装置(pipetmaX、Gilson)を用いて、10μLのプローブ13〜17溶液(750nM/超純水)と、80μLの溶媒(4)25mMのMOPS+187.5mMのNaCl(pH7.0)または溶媒(5)25mMの酢酸+187.5mMのNaCl(pH5.0)とを96ウェルハーフエリア低吸着ブラックマイクロプレートに加え、35℃で10分間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーにより、以下の3セットの励起波長(nm)/蛍光波長(nm)にて蛍光強度(I
0)を測定した:(Ch1)350/520、(Ch2)470/520、(Ch3)515/560。続いて、マイクロプレートに、10mMのMOPS+100mMのNaClにより溶媒置換された藍染細菌叢試料(15種類)(OD
850=0.10)を10μL加え、35℃で10分間インキュベートした。終濃度は以下の通りである。プローブ:75nM、溶媒:20mMのMOPSまたは酢酸+150mMのNaCl、細菌:OD
850=0.01。その後、マイクロプレートリーダーにより、以下の3セットの励起波長(nm)/蛍光波長(nm)にて蛍光強度(I)を測定した:(Ch1)350/520、(Ch2)470/520、(Ch3)515/560。各混合溶液につき、9回の反復測定を行った。
【0118】
測定結果(15藍染細菌叢×2溶媒条件×5プローブ×3波長セット×9測定)のヒートマップを
図24に示す。藍染細菌叢試料ごとに固有の蛍光フィンガープリントが得られることが示された。
【0119】
上記測定結果の各試料のラベルを染色強度(High/Middle/Low)として、線形判別分析により解析し、得られた第二判別スコアまでをプロットした結果を
図25に示す。HighおよびLowのクラスター間にはわずかな重なりが見られたものの、Middleのクラスターは他のクラスターと重なることなく分布した。さらにこの結果をジャックナイフ法により解析したところ、76%の精度で各染色強度群を識別することができた。以上の結果から、カチオン性ポリマー−環境応答性蛍光団プローブを用いて、藍染細菌叢の染色強度を識別できることが示された。