(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ドレッシングは、サラダ等の食材にふりかけられ、あるいは食材と混ぜられて、ドレッシングの呈味と食材との組み合わせを楽しむためにある。ドレッシングの日本農林規格に基づく定義は、
1. 食用植物油脂(香味食用油を除く)及び食酢若しくはかんきつ類の果汁(必須原材料)に食塩、砂糖類、香辛料等を加えて調製し、水中油滴型に乳化した半固体状若しくは乳化液状の調味料、又は分離液状の調味料であって、主としてサラダに使用するもの、及び
2. 1にピクルスの細片等を加えたもの
である。ドレッシングの具体例として、マヨネーズ、サラダクリーミードレッシング、タルタルソース、フレンチドレッシング、イタリアンドレッシング、サウザンアイランドドレッシング、シーザーサラダドレッシング、コールスロードレッシング等がある。
【0003】
食用油脂は、ドレッシングに使用されるものを含み一般に、光や熱によって劣化し、風味上問題となる臭いが発生する。近年、ペットボトル、プラスチックチューブ、ガラス瓶等の無色透明容器が軽量で取り扱いやすいため、油脂及び油脂関連製品の容器として普通に用いられる。そのため、スーパーマーケット等の陳列棚において蛍光灯等の光で、油脂製品等に含まれる食用油脂が光酸化して、劣化臭を発生することがある。
【0004】
家庭用途及び業務用途に製造販売されているドレッシングもまた、通常、透明又は半透明容器に詰められて市場に流通される。上記容器が蛍光灯等の光に晒されると、ドレッシング中の食用油脂が光酸化を受け、青臭さ、不快な味、酸味の低下といった風味の劣化を生じることがある。
【0005】
良好かつ安定な風味を有する食用油を提供するために、特許文献1は、アルカリによる脱酸処理が施され、且つ脱臭処理が施されていない植物油、及び/又は蒸留による脱酸処理が施され、且つアルカリによる脱酸処理が施されていない植物油から選ばれる2種以上の植物油を混合して得た調合油に、脱臭処理を施すことを特徴とする食用油の製造方法を提案する。この方法によって製造された食用油は、生風味が良好であるので、生食に供することができ、例えばマヨネーズやドレッシングに好適に使用できるとされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の製造方法で得られた食用油を使用した場合、後述の比較例に示すように、明所保存したドレッシングの風味の劣化を十分に抑制できない。
【0008】
そこで、本発明は、ドレッシングの明所保存時の風味の劣化を抑制する油脂組成物、及びドレッシングの風味劣化の抑制方法を新規に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を鋭意検討した結果、油糧原料から食用油脂を得る精製工程において特定の工程を省いて精製された粗精製油を、大豆油を含む食用油脂に添加することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、大豆油を含む食用油脂と粗精製油とを含むドレッシング用油脂組成物であって、前記大豆油の含有量が、前記油脂組成物に対して15質量%以上であり、そして、前記粗精製油が、油糧原料から得られる原油の精製工程において、脱ガム工程及び脱臭工程を経ており、かつ、脱酸工程及び脱色工程の少なくとも一工程を経ていないことを特徴とする、前記ドレッシング用油脂組成物を提供する。
【0010】
前記食用油脂の融点は、10℃以下であることが好ましい。
【0011】
前記食用油脂として、例えば菜種油、コーン油及び亜麻仁油からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む。
【0012】
前記大豆油の前記食用油脂に対する含有量は、16質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0013】
前記粗精製油の油糧原料は、例えば大豆、菜種、コーンジャーム、パーム果肉及びパーム核からなる群から選ばれる少なくとも一種である。
【0014】
前記粗精製油の含有量は、前記油脂組成物に対して0.005質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明は、また、ドレッシング用油脂組成物の製造方法であって、
大豆油を含む食用油脂に粗精製油を添加する工程を含み、
前記大豆油の添加量が、前記油脂組成物に対して15質量%以上であり、
そして、前記粗精製油が、油糧原料から得られる原油の精製工程において、脱ガム工程及び脱臭工程を経たものであり、かつ、脱酸工程及び脱色工程の少なくとも一工程を経ていないことを特徴とする、前記ドレッシング用油脂組成物の製造方法を提供する。
【0016】
本発明は、また、上記ドレッシング用油脂組成物を含むドレッシングを提供する。
【0017】
上記ドレッシングは、例えば、水中油滴型に乳化した半固体状ドレッシング、又は分離液状ドレッシングである。
【0018】
本発明は、また、上記ドレッシング用油脂組成物をドレッシング食材に添加することを含む、ドレッシングの風味劣化の抑制方法もまた提供する。
【0019】
本発明は、また、ドレッシングの製造方法であって、
ドレッシング食材に、大豆油を含む食用油脂と粗精製油とを添加する工程を含み、
前記大豆油の含有量が、前記ドレッシングの油相の量に対して15質量%以上であり、そして、
前記粗精製油が、油糧原料から得られる原油の精製工程において、脱ガム工程及び脱臭工程を経たものであり、かつ、脱酸工程及び脱色工程の少なくとも一工程を経ていないことを特徴とする、前記ドレッシングの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のドレッシング用油脂組成物を用いたドレッシングは、明所保存時の風味の劣化が有意に抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。本発明のドレッシング用油脂組成物(以下、本発明の組成物ともいう)は、大豆油を含む食用油脂と粗精製油とを含む。
【0023】
大豆油を含む食用油脂は、本発明の組成物のベース油となるものである。この食用油脂は、大豆油以外の食用油脂を含んでもよく、又は大豆油単独(大豆油100質量%)でもよい。前記大豆油は、大豆を原料として、通常の精製工程を経た食用油脂である。具体的には、大豆を圧搾抽出及び/又は溶剤抽出することで原油(粗油)を得た後、この原油を脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程、及び脱臭工程にかけることにより得られた精製油である。前記大豆油は、明所保存時の風味劣化の発現が強いため、大豆油を含む本発明の油脂組成物は、ドレッシングの明所保存下における風味劣化の抑制効果を大いに発揮する。
【0024】
前記大豆油の含有量は、前記油脂組成物に対して、15質量%以上であり、好ましくは18質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上であり、さらに好ましくは28質量%以上、さらにより好ましくは35質量%以上であり、特に好ましくは38質量%以上である。前記大豆油の含有量の上限は特にないが、大豆油と粗精製油の合計が100質量%以下である。
【0025】
大豆油以外の前記食用油脂は、ドレッシング用に適したものであれば特に制限なく使用可能であるが、通常、精製油である。このような食用油脂の例には、菜種油、コーン油、亜麻仁油、パーム油、オリーブ油、ゴマ油、紅花油、ひまわり油、綿実油、米油、落花生油、パーム核油、ヤシ油等の植物油脂、並びに、これらを分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂が挙げられる。これらの油脂は、単独又は二種以上混合して用いることができる。大豆油以外の食用油脂は、好ましくは菜種油、コーン油及び亜麻仁油からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む。
【0026】
前記食用油脂は、好ましくは融点が10℃以下、より好ましくは0℃以下である。なお、本明細書で、融点は、上昇融点を意味する。上昇融点は、基準油脂分析試験法2.2.4.2−1996に準じて測定することができる。
【0027】
前記大豆油の前記食用油脂に対する含有量は、好ましくは16質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは18質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上100質量%以下であり、さらにより好ましくは26質量%以上100質量%以下であり、特に好ましくは30質量%以上100質量%以下であり、さらに特に好ましくは36質量%以上100質量%以下であり、最も好ましくは40質量%以上100質量%以下である。
【0028】
前記食用油脂の前記油脂組成物に対する含有量は、通常、70質量%以上でよく、好ましくは85質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上である。食用油脂の含有量の上限は特にないが、食用油脂と粗精製油の合計が100質量%以下である。
【0029】
粗精製油の原料は、油糧原料であれば、特に制限されない。油糧原料の例には、菜種、大豆、パーム果肉、コーンジャーム、オリーブ、ゴマ、紅花、ひまわり、綿実、米ぬか、落花生、パーム核、ヤシ、亜麻仁等が挙げられる。好ましくは、大豆、菜種、コーンジャーム、パーム果肉及びパーム核からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、より好ましくは、菜種及び大豆から選ばれる少なくとも一種である。
【0030】
上記油糧原料を、圧搾抽出及び/又は溶剤抽出にかけて、原油(粗油)を得る。圧搾抽出は、油糧原料に高圧を加えて細胞中の油分を搾り取ることにより行うものである。圧搾抽出は、ゴマのような比較的油分の高い油糧原料に向いている。溶剤抽出は、油糧原料を圧扁もしくは圧搾抽出後の残渣に溶剤を接触させ、油分を溶剤溶液として抽出し、得られる溶液から溶剤を留去して油分を得ることにより行う。溶剤抽出は、大豆のような含油量の少ない油糧原料に向いている。溶剤にはヘキサン等を使用する。
【0031】
上記原油は、
図1の精製工程に示すように、通常、原油(粗油)→脱ガム油→脱酸油→脱色油→脱臭油(精製油)の順に精製されて、不純物が除かれる。各工程油間の操作である「脱ガム処理」、「脱酸処理」、「脱色処理」、及び「脱臭処理」は、公知であり、本発明はこれらの処理を特に制限なく使用可能である。以下に、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理、及び脱臭処理を概説する。
【0032】
脱ガム処理とは、油分中に含まれるリン脂質を主成分とするガム質を水和除去する工程である。脱ガム工程の処理条件は、特に制限されず、汎用の条件を使用可能である。例えば、水の使用量は、原料油脂に対して、通常、1〜5質量%、好ましくは1.5〜3質量%である。適宜、シュウ酸、クエン酸、リン酸等の有機酸の水溶液からなる脱ガム剤を添加してもよい。脱ガム温度は、通常、40〜95℃でよく、好ましくは60〜95℃である。原油に水蒸気又は水を加えて攪拌することにより、ガム質が水和して水溶性となり、水層へ移る。撹拌時間は、通常、1〜60分である。この水層は遠心分離機等で分離される。
【0033】
脱酸処理とは、炭酸ナトリウムや苛性ソーダといったアルカリの水溶液で処理することにより油分中に含まれる遊離脂肪酸をセッケン分として除去する工程である。脱酸工程の処理条件は、特に制限されず、汎用の条件を使用可能である。例えば、濃度が3〜40質量%のアルカリ水溶液を、原料油脂に対して、通常、0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜3質量%となるように添加する。脱酸温度は、通常、20〜120℃でよく、好ましくは35〜95℃である。油脂に不溶の上記セッケンは、遠心分離機等で分離される。
【0034】
脱酸処理は、アルカリを用いない物理的精製法でもよい。物理的精製法には、水蒸気蒸留法や分子蒸留法がある。分子蒸留法では、一部の脱臭処理も同時に行われる。
【0035】
脱色処理とは、油分中に含まれる色素を活性白土、活性炭等へ吸着させて除去する工程である。脱色工程の処理条件は、特に制限されず、汎用の条件を使用可能である。例えば、活性白土の使用量は、原料油脂に対して、通常、0.05〜5質量%でよく、好ましくは0.1〜3質量%である。脱色温度は、通常、70〜120℃でよく、好ましくは80〜120℃である。脱色工程は、通常、無水下で行われるが、水の存在下で行ってもよい。脱色時間は、通常、5〜120分間、好ましくは10〜80分間である。色素の付着した活性白土等は、減圧濾過等により除去される。
【0036】
脱臭処理とは、減圧下で水蒸気蒸留することによって油分中に含まれる有臭成分を除去する工程である。脱臭工程の処理条件は、特に制限されず、汎用の条件を使用可能である。例えば、水蒸気の使用量は、原料油脂に対して、通常、0.1〜10質量%、好ましくは0.3〜8質量%である。水蒸気蒸留の温度は、通常、200〜260℃、好ましくは220〜250℃である。減圧度は、温度に依存するが、通常、150〜1000Pa、好ましくは200〜800Paである。また、蒸留時間は、温度及び減圧度に依存するが、通常、10〜180分間、好ましくは20〜120分間である。
【0037】
本発明の組成物に用いる粗精製油は、上記油糧原料から精製油を得る精製工程において、脱ガム工程及び脱臭工程を経ており、かつ、脱酸工程及び脱色工程の少なくとも一工程を経ないことが必須である。
【0038】
より具体的には、原油を以下の工程:
(1)脱ガム工程→脱臭工程、
(2)脱ガム工程→脱酸工程→脱臭工程、又は
(3)脱ガム工程→脱色工程→脱臭工程、
にかけることで、本発明の粗精製油を得ることができる。
【0039】
前記粗精製油は、好ましくは、上記油糧原料から精製油を得る精製工程において、脱ガム工程及び脱臭工程を経ており、かつ、脱酸工程及び脱色工程のいずれか一工程を省略したものである。より具体的には、原油を以下の工程:
(2)脱ガム工程→脱酸工程→脱臭工程、又は
(3)脱ガム工程→脱色工程→脱臭工程、
にかけることで得た粗精製油である。
【0040】
前記粗精製油の前記油脂組成物に対する含有量は、通常、0.005質量%以上10質量%以下でよく、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上7質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以上5質量%以下であり、さらにより好ましくは0.06質量%以上4質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以上3質量%以下であり、最も好ましくは0.2質量%以上2質量%以下である。本発明の組成物において、粗精製油の含有量を所定量とすることで、粗精製油由来の異風味が少なく、風味劣化の抑制効果を得ることができる。
【0041】
本発明の組成物には、本発明の効果を阻害しない限り、油脂組成物に使用されている汎用の助剤を添加可能である。そのような助剤の例は、トコフェロール等の抗酸化剤;香料;着色剤;シリコーン;乳化剤等が挙げられる。
【0042】
本発明は、また、ドレッシング用油脂組成物の製造方法であって、大豆油を含む食用油脂に粗精製油を添加する工程を含み、前記大豆油の添加量が、前記油脂組成物に対して15質量%以上であり、そして、前記粗精製油が、油糧原料から得られる原油の精製工程において、脱ガム工程及び脱臭工程を経たものであり、かつ、脱酸工程及び脱色工程の少なくとも一工程を経ていないことを特徴とする、前記ドレッシング用油脂組成物の製造方法を提供する。前記食用油脂は、通常、精製油である。
【0043】
本発明は、また、ドレッシング用油脂組成物をドレッシング食材に添加することを含む、ドレッシングの風味劣化の抑制方法を提供する。前記風味劣化は、例えば、明所保存時の風味劣化である。
【0044】
本発明は、また、ドレッシングの製造方法であって、ドレッシング食材に、大豆油を含む食用油脂と粗精製油とを添加する工程を含み、前記大豆油の含有量が、前記ドレッシングの油相の量に対して15質量%以上であり、そして、前記粗精製油が、油糧原料から得られる原油の精製工程において、脱ガム工程及び脱臭工程を経たものであり、かつ、脱酸工程及び脱色工程の少なくとも一工程を経ていないことを特徴とする、前記ドレッシングの製造方法を提供する。
【0045】
本発明は、また、上記ドレッシング用油脂組成物を含むドレッシングを提供する。ドレッシングは、水中油滴型に乳化した半固体状若しくは乳化液状、又は分離液状である。半固体状ドレッシングの粘度は、通常、30Pa・s以上(室温)である。乳化液状ドレッシングの粘度は、通常、30Pa・s未満(室温)である。本発明のドレッシングは、好ましくは水中油滴型に乳化した半固体状ドレッシング、又は分離液状ドレッシングからなる一種であり、より好ましくは水中油滴型に乳化した半固体状ドレッシングであり、さらに好ましくはマヨネーズである。
【0046】
ドレッシングに含まれる本発明の油脂組成物の含有量は、特に限定されないが、ドレッシングの合計量に対して、好ましくは10質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上95質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以上95質量%以下であり、さらにより好ましくは50質量%以上90質量%以下であり、特に好ましくは60質量%以上90質量%以下である。
【0047】
前記ドレッシングの製造方法及び前記ドレッシングに使用するドレッシング食材は、ドレッシングの食用油脂以外の原材料となるもののことであり、例えば食酢若しくは柑橘類の果汁を必須に含み、食塩、砂糖類、香辛料等の調味料、及び副原料を適宜含む。
【0048】
上記食酢を、製造方法による分類によって例示すると、醸造酢、合成酢、及び黒酢がある。上記食酢を、原料による分類によって例示すると、穀物酢(小麦等)、きび酢、米酢、玄米酢、りんご酢、柿酢、梅酢、ワインビネガー等がある。
【0049】
上記柑橘類の果汁の例には、レモン、ライム、シトロン、ゆず、かぼす、すだち、シークワーサー等の果汁が含まれる。
【0050】
上記副原料は、ドレッシング製品に応じて、ピクルス、ニンジン、たまねぎ、にんにく、ハーブ(バジル等)、しょうが、らっきょう、トマト、パプリカ、マッシュルーム、ゴマ、チーズ、味噌等の副原料を添加してもよい。
【0051】
ドレッシングの製造は、具体的には、上記ドレッシング食材、並びに大豆油を含む食用油脂及び粗精製油を混合、攪拌することを含む。ドレッシングは、通常、室温以下の温度で製造されるものである。したがって、本発明の組成物もまた、通常、室温以下、好ましくは1〜10℃で使用される。
【0052】
水中油滴型に乳化した半固体状ドレッシングの一種であるマヨネーズは、卵黄、食酢(例えば醸造酢)、食用油脂(本発明の油脂組成物)、及び調味料(食塩、砂糖類、はちみつ、香辛料、アミノ酸等)を含む原材料を攪拌し、乳化することで得られる。油脂組成物以外の原料を混合した後、油脂組成物を添加・攪拌することにより乳化させてもよい。
【0053】
本発明のドレッシングは、明所保存時の風味劣化を抑制することができる。したがって、本発明のドレッシングは、透明又は半透明のガラス製やプラスチック製のボトル、チューブ等の容器に充填及び保存される際に、その効果をより明確に発揮する。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の実施例を示すことにより、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〜3〕
1.ドレッシング用油脂組成物の調製
まず、油糧原料として菜種(キャノーラ種)を使用し、菜種を圧搾抽出及び溶剤抽出することで得られた原油を表1に示す工程の組み合わせで粗精製することにより、製造例1〜5に示す菜種由来の粗精製油を準備した。
【0055】
【表1】
【0056】
次に、本発明のベース油としての食用油脂(精製油)として、大豆油(製品名:大豆白絞油NS、株式会社J−オイルミルズ製)を用意した。この大豆油98質量部と、表1に示す粗精製油2質量部とを混合することにより、ドレッシング用油脂組成物を調製した。本発明の対照として、粗精製油を添加しない大豆油も用意した。
【0057】
2.ドレッシングの調製
以下の手順で、ドレッシングとしてマヨネーズを調製した。全卵20g、穀物酢10g、及び食塩2gを混合し、この混合物に上記油脂組成物168gを徐々に加えながら攪拌することにより、200gのマヨネーズを調製した。
【0058】
3.ドレッシングの明所保存下における風味劣化の抑制試験(風味試験)
調製したマヨネーズ25gを、透明ガラスバイアル瓶(容量50mL)に入れ、蓋を閉めた後、24℃の温度で1000Luxの蛍光灯照射下に7日間放置した。放置後のマヨネーズを4名のパネラーが食して、その風味劣化を以下の基準で評価した。評価結果は、パネラーの合意に基づく。結果を表2に示す。
≪評価基準≫
×: 風味劣化が対照と同等若しくは強い
△: 風味劣化が対照よりやや改善されている
○: 風味劣化が対照より改善されている
◎: 風味劣化が対照よりかなり改善されている
【0059】
【表2】
【0060】
表2から以下のことがわかる。比較例1のように大豆油のみからなる油脂を使用した場合、光照射により風味劣化を生じる。比較例2のように脱ガム工程を経た粗精製油を使用した場合、ドレッシングの明所保存下における風味劣化を抑制できない。また、異風味があるという問題も生じる。比較例3のように脱ガム工程にさらに脱色工程を経た粗精製油を使用した場合、風味劣化は比較例1と同等であり、また異風味もあった。
【0061】
一方、本発明に従う実施例1のように、脱ガム工程及び脱臭工程を経た粗精製油を使用した場合、ドレッシングの明所保存下における風味劣化は、比較例1〜3よりも有意に抑制された。ただし、ドレッシングにわずかな異風味があった。
【0062】
さらに、実施例2や実施例3のように、脱ガム工程及び脱臭工程と脱酸工程又は脱色工程を経た粗精製油を使用すると、ドレッシングの明所保存下における風味劣化が比較例1〜3よりも顕著に抑制された。しかも、ドレッシングに異風味もなかった。
【0063】
上記の結果から、本発明に従って、脱ガム工程及び脱臭工程を必須とし、脱酸工程及び/又は脱色工程を省略した粗精製油を含有するドレッシング用油脂組成物は、ドレッシングの明所保存下における風味劣化を抑制できることがわかる。さらに、脱ガム工程及び脱臭工程を必須とし、脱酸工程及び脱色工程のいずれか一工程を省略した粗精製油が、風味劣化を顕著に抑制できる点で好ましい。
【0064】
〔実施例4〜7〕粗精製油の配合量の変更試験
実施例3において、製造例5の粗精製油の配合量を表3に示す量に変えた以外は実施例3と同一の操作で、ドレッシング用油脂組成物を調製した。得られたドレッシング用油脂組成物を用いて、実施例3と同一の手順でマヨネーズを調製し、その明所保存下における風味劣化の抑制試験を行った。結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
表3から、ベース油としての大豆油に本発明に従う粗精製油を0.05質量%〜10質量%添加したドレッシング用油脂組成物は、マヨネーズの明所保存下における風味劣化を抑制できることがわかる。なお、実施例7で粗精製油を10質量%添加した場合、マヨネーズの乳化安定性が実施例3〜6に比べて若干劣っていた。さらに、ドレッシング用油脂組成物のベース油が大豆油の場合、ドレッシングの明所保存下における風味劣化を抑制するために、粗精製油の含有量は、0.05質量%超5質量%未満が好ましく、さらに0.2質量%以上2質量%以下が好ましい。
【0067】
〔実施例8〜13〕ベース油の変更試験
実施例5において、ベース油を大豆油から表4に示す配合油に変更した以外は実施例5と同一の手順で、ドレッシング用油脂組成物を調製し、その明所保存下における風味劣化の抑制試験を行った。結果を表4に示す。油脂組成物の対照として、粗精製油を添加しない配合油も用意した。上記配合油に用いた食用油脂(精製油)として、菜種油(製品名:AJINOMOTOさらさらキャノーラ油、株式会社J−オイルミルズ製)、及びコーン油(製品名:AJINOMOTO胚芽の恵みコーン油、株式会社J−オイルミルズ製)、及び亜麻仁油(太田油脂株式会社製)を用いた。また、表4に記載のベース油の融点は、いずれも0℃以下であった。
【0068】
【表4】
【0069】
表4から、実施例5及び8〜13のようにベース油として食用油脂に大豆油を20質量%以上配合した場合、本発明に従う粗精製油を0.2質量%含むドレッシング用油脂組成物は、粗精製油を含まない対照に比べマヨネーズの明所保存下における風味劣化が改善された。特に、食用油脂に含まれる大豆油の含有量が40質量%以上であるとその改善効果が顕著であった。
【0070】
また、実施例12や実施例13のようにベース油として、食用油脂に大豆油を40質量%配合し、菜種油と、コーン油または亜麻仁油のいずれかを配合した場合においても、本発明に従う粗精製油を含むドレッシング用油脂組成物は、粗精製油を含まない対照に比べマヨネーズの明所保存下における風味劣化が改善されることがわかる。
【0071】
上記の結果から、本発明に従う粗精製油を添加したドレッシング用油脂組成物は、ドレッシングの明所保存下における風味劣化を抑制するために、食用油脂の大豆油の含有量が、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上である。
【0072】
〔実施例14〜16〕粗精製油の油糧原料の変更試験
油糧原料として大豆を使用し、大豆を圧搾抽出及び溶剤抽出することで得られた原油を脱ガム工程、脱色工程、脱臭工程により粗精製することで大豆由来の粗精製油を準備した。
【0073】
実施例3において、製造例5の粗精製油に代えて、大豆由来の上記粗精製油を用いたこと及び表5に示した配合量としたこと以外は実施例3と同一の操作で、ドレッシング用油脂組成物を調製した。得られたドレッシング用油脂組成物を用いて、実施例3と同一の手順でマヨネーズを調製し、その明所保存下における風味劣化の抑制試験を行った。結果を表5に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
表5に示すように粗精製油の油糧原料が大豆であっても、菜種と同等の風味劣化の抑制効果があることが確認できた。
【0076】
〔実施例17〜18〕分離液状ドレッシングでの評価
以下の手順で、分離液状ドレッシングを調製した。具体的には、表6に示した油脂組成物のいずれかを32.5g、穀物酢15g、食塩0.5g、及び砂糖2.0gを混合することにより、50gの分離液状ドレッシングを調製した。
【0077】
次に、分離液状ドレッシングの明所保存下における風味劣化の抑制試験(風味試験)を以下の手順で実施した。調製した分離液状ドレッシング25gを透明ガラスバイアル瓶(容量 50mL)に入れ、蓋を閉めた後、1000Luxの蛍光灯照射下に7日間放置した。放置後の分離液状ドレッシングを4名のパネラーが食して、その風味を以下の基準で評価した。評価結果は、パネラーの合意に基づく。結果を表6に示す。
≪風味評価基準≫
×: 風味劣化が対照と同等若しくは強い
△: 風味劣化が対照よりやや改善されている
○: 風味劣化が対照より改善されている
◎: 風味劣化が対照よりかなり改善されている
【0078】
【表6】
【0079】
表6に示すように、本発明のドレッシング用油脂組成物は、マヨネーズのみならず分離液状ドレッシングにおいても、風味劣化の抑制効果があることが確認できた。また、上記風味試験で蛍光灯照射後に得られた分離液状ドレッシングをサラダに付けて食したところ、実施例17及び18では風味劣化がかなり弱く、実際に食する形態でも、本発明の効果を確認することができた。
【0080】
〔比較例11〜12〕
大豆油と菜種油を含む食用油脂(いずれも精製油、大豆油:菜種油=6:4)を調製した(比較例11)。次に、特開2010−202774の実施例4の記載に従って、大豆油(脱色油)と菜種油(脱色油)とを6:4の割合で混合した後、脱臭処理を行うことにより、参考製造例Aの食用油脂を調製した(比較例12)。
【0081】
比較例11(対照)では、比較例1の大豆油に代えて、上記食用油脂(大豆油:菜種油=6:4)を用い、そして比較例12では、比較例1の大豆油に代えて、参考製造例Aの食用油脂を用いたこと以外は、比較例1と同一の手順で、ドレッシング(マヨネーズ)を調製し、その明所保存下における風味劣化の抑制試験を行った。その結果を表7に示す。
【0082】
【表7】
【0083】
比較例11(対照)及び比較例12のいずれも、風味試験の評価は「×」であった。特開2010−202774に記載の製造方法で得られる食用油脂では、光照射による風味劣化を抑制できないことがわかった。