(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
例えば、開示する半導体装置は、1つの実施形態において、第1の電極と、第1の半導体と、第1の絶縁膜と、中間膜とを備える。第1の電極は、金属から構成される。第1の絶縁膜は、第1の電極と第1の半導体との間に設けられ、絶縁性の遷移金属酸化物から構成される。中間膜は、第1の電極と第1の絶縁膜との間に設けられる。また、中間膜の伝導帯の下端は、第1の電極を構成する金属のフェルミレベルよりも低い。
【0012】
また、開示する半導体装置の1つの実施形態において、中間膜の厚さは1nm以下であってもよい。
【0013】
また、開示する半導体装置の1つの実施形態において、第1の絶縁膜を構成する遷移金属酸化物は、酸化ハフニウム(HfO2)、ジルコニア(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化セシウム(CeO2)、酸化ランタン(La2O3)、酸化ガドリウム(Gd2O3)、五酸化タンタル(Ta2O5)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、または、これら複合酸化物、Silicate、もしくは積層膜であってもよい。また、中間膜は、五酸化バナジウム(V2O5)または酸化モリブデン(MoO3)の少なくともいずれかを含んでもよい。
【0014】
また、開示するCMOSトランジスタは、1つの実施形態において、ゲートスタック構造として、第2の電極、第2の絶縁膜、および第2の半導体を有するn型MOSトランジスタと、ゲートスタック構造として、上記した半導体装置を含むp型MOSトランジスタとを備えてもよい。
【0015】
以下に、開示する半導体装置およびCMOSトランジスタの実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態により、開示される半導体装置およびCMOSトランジスタが限定されるものではない。
【0016】
[量子井戸構造]
図5は、量子井戸による擬似的な金属電極形成の一例を示す概念図である。量子井戸構造の中には、量子井戸の寸法に依存する量子化されたサブバンド構造が形成される。また、量子井戸構造のフェルミエネルギーは、電子占有されたサブバンドの上端のエネルギーにより決定される。
【0017】
通常、量子井戸は、例えば
図5に示されるように、井戸部の金属を絶縁体で囲んだIMI(Insulator Metal Insulator)構造として形成される。しかし、金属の仕事関数よりも大きな電子親和力を持つ絶縁体であれば、例えば
図6に示されるように、MIM(Metal Insulator Metal)構造により、自発的に電子が井戸に蓄積される擬似金属構造を形成することができる。
図6は、MIM構造およびIMI構造の量子井戸の一例を示す模式図である。
図6(a)は、MIM構造の量子井戸の一例を示す模式図であり、
図6(b)は、IMI構造の量子井戸の一例を示す模式図である。
【0018】
半導体素子の電極材料として多用される金属材料は、例えば4.5eV前後の仕事関数を持つものが多い。しかし、MoO3およびV2O5などは、例えば
図7に示されるように、6.5eV前後の極めて大きな電子親和力を示す絶縁体である。
図7は、MIM構造における量子井戸材料の候補の一例を示す図である。
【0019】
MoO3またはV2O5の薄膜と、TiNなどの金属電極とを組み合わせることにより、隣接する金属電極が電子供給源となり、絶縁膜の量子井戸中のサブバンドは熱平衡状態において自然に電子占有される。そして、MIM構造の量子井戸を有する擬似金属電極が形成される。また、擬似金属電極として機能する量子井戸構造は、電子供給源となる金属電極が片側のみにあるMII(Metal Insulator Insulator)構造によっても実現できる。MII構造の擬似金属電極は、MoO3やV2O5などの材料よりも電子親和力が小さな絶縁材料と金属電極とでMoO3、V2O5などを挟んだ積層構造とすることにより形成できる。
【0020】
[半導体装置10の構造]
図8は、本実施形態における半導体装置10の一例を示す図である。
図8(a)は、本実施形態における半導体装置10の構造の一例を示す。また、
図8(b)は、本実施形態における半導体装置10の電極11、中間膜12、および絶縁膜13における仕事関数の関係の一例を示す。本実施形態における半導体装置10は、例えば
図8に示されるように、電極11、中間膜12、絶縁膜13、および半導体14を備える。本実施形態における半導体装置10は、MIS(Metal Insulator Semiconductor)構造である。
【0021】
電極11は、例えばTiNや窒化タンタル(TaN)などの金属から構成される。半導体14は、例えばSiなどから構成される。絶縁膜13は、電極11と半導体14との間に設けられ、絶縁性の遷移金属酸化物から構成される。中間膜12は、電極11と絶縁膜13との間に設けられる。また、例えば
図8(b)に示されるように、中間膜12の伝導帯の下端は、真空電位Vacから6.5eVの位置にあり、電極11を構成する金属(例えばTiNやTaN)のフェルミレベル(
図8(b)の例では真空電位Vacから4.5eVの位置)よりも低い。
【0022】
本実施形態において、絶縁膜13は、HfO2、ZrO2、Al2O3、Y2O3、CeO2、La2O3、Gd2O3、Ta2O5、Nb2O5、または、これら複合酸化物、Silicate、もしくは積層膜である。また、中間膜12は、V2O5またはMoO3の少なくともいずれかを含む。
【0023】
量子井戸構造は、
図8(a)に示された薄膜の積層構造によるもののほか、例えば
図9に示されるように、粒状のMoO3やV2O5などの中間膜12が電極11に埋め込まれた2次元量子井戸構造であってもよい。
図9は、半導体装置の他の例を示す図である。
【0024】
また、擬似金属電極の仕事関数は中間膜12に隣接する電極11の仕事関数、および、中間膜12の膜厚または量子井戸の径により変調することができる。
図10は、絶縁体の量子井戸径による仕事関数の調整の一例を示す図である。
図11は、絶縁体の量子井戸径とフェルミレベルとの関係の一例を示す図である。
【0025】
例えば
図10(a)〜(c)に示されるように、絶縁体の量子井戸を小径化すると、サブバンドのエネルギーが上がり、フェルミ準位も上がる(仕事関数は小さくなる)。また、絶縁体の量子井戸を小径化する過程で、擬フェルミ準位を決めている上位のサブバンドは、順々に下位のバンドに遷移してゆき、最終的には基底状態まで落ちる。即ち、量子井戸の深さは、隣接する金属電極とMoO3やV2O5等の絶縁体との電子親和力の差により決まり、金属電極の量子井戸の上端にあるサブバンドまでが、隣接する金属電極からの電子注入により電子に占有される。そして、そのエネルギーは、MoO3やV2O5等の絶縁体の膜厚もしくは量子井戸径により変えることができる。
【0026】
また、バンドの遷移に伴う不連続なフェルミエネルギーE
fの変化に起因して、量子井戸の擬フェルミ準位は、例えば
図11に示されるように、量子井戸の径に対して振動的に変化する。これは、膜厚もしくは量子井戸径に依存して電子に占有されるサブバンド状態が遷移するためである。サブバンド状態の遷移により仕事関数の値も不連続に変化する。
【0027】
量子井戸構造により変調可能な仕事関数の範囲は、組み合わせる金属電極の材料と量子井戸の寸法および密度に依存する。
図12は、金属電極の材料と量子井戸径による仕事関数の変調の一例を示す図である。
図12(a)は、絶縁体(V2O5)の量子井戸径が4±0.2nmの場合の仕事関数の変調を示しており、
図12(b)は、絶縁体(V2O5)の量子井戸径が2±0.2nmの場合の仕事関数の変調を示しており、
図12(c)は、絶縁体(V2O5)の量子井戸径が1±0.2nmの場合の仕事関数の変調を示している。例えば
図12から明らかなように、仕事関数値が小さいn型金属(例えばイットリウム(Y))と組み合わせることで広い範囲の仕事関数を得ることができる。
【0028】
また、例えば
図13に示されるように、中間膜12の膜厚に依存して中間膜12の仕事関数は振動的に変化する。
図13は、電極11としてTiN、中間膜12としてV2O5、絶縁膜13としてHfO2を用いた場合の中間膜12の膜厚に対する量子井戸構造の仕事関数の変化の一例を示す図である。仕事関数の変調範囲は、量子井戸/qDotによるメタマテリアル構造と比較して狭い。
【0029】
また、中間膜12の膜厚が1nm以下の範囲では、サブバンド中の電子が全て基底状態に落ちるため、電極の材料による違いはなく、中間膜12の膜厚のみで仕事関数を制御することができる。即ち、量子井戸の寸法を1nm以下で形成することにより、量子井戸中のサブバンドは、基底状態のみとなるため、仕事関数のばらつきの原因となる量子井戸の寸法の変動により生じるサブバンド状態の遷移を避けることができる。
【0030】
また、例えば
図13に示されるように、中間膜12の膜厚が1nm以下の範囲では、膜厚の変化に対して、仕事関数が5〜6eVの広範囲で単調に変化する。そのため、中間膜12の膜厚が1nmより厚い範囲に比べて、中間膜12の膜厚の制御による仕事関数の制御範囲(ダイナミックレンジ)を大きくすることができる。また、中間膜12の膜厚が1nm以下の範囲では、膜厚の変化に対して、仕事関数の振動的な変化が見られない。従って、中間膜12の膜厚の制御により、半導体装置10の仕事関数を精度よく制御することが可能となる。
【0031】
また、例えば
図14に示されるように、中間膜12の膜厚を1nm以下とすることにより、半導体装置10の閾電圧Vthのばらつきも抑えることができる。
図14は、電極11としてTiN、中間膜12としてV2O5、絶縁膜13としてHfO2を用いた場合の中間膜12の膜厚に対する半導体装置10の閾電圧Vthの変化の一例を示す図である。
【0032】
また、例えばALD(Atomic Layer Deposition)法により、V2O5等の中間膜12を成膜することにより、中間膜12の膜厚を精度よく制御することができる。これにより、成膜された実際の中間膜12の膜厚と、中間膜12の膜厚の設計目標値との差を小さくすることができる。
【0033】
このように、本実施形態では、V2O5等の中間膜12の膜厚のみを制御することにより半導体装置10の仕事関数を制御することができる。そして、ALD法等により中間膜12の膜厚を設計目標値に近い値となるように精度よく制御することができるため、仕事関数を設計目標値に近い値になるように制御することができる。その結果、半導体装置10の閾電圧Vthを設計目標値に近い値になるように制御することができる。
【0034】
ここで、MIS型トランジスタの閾電圧Vthが低いと、トランジスタのON電流が増加し、トランジスタの動作速度が向上する。しかし、一方で、トランジスタがOFFしたときのソース/ドレイン間のリーク電流が増加する。
【0035】
また、MIS型のトランジスタの閾電圧Vthが高いと、トランジスタがOFFしたときのソース/ドレイン間のリーク電流が減少するが、トランジスタのON電流も減少し、トランジスタの動作速度が低下する。
【0036】
このように、トランジスタの用途は、代表的には、「高速・高消費電力」と「低速・低消費電力」の2タイプがある。そのため、トランジスタの用途に応じて、閾電圧Vthを最適化する必要がある。
【0037】
本実施形態では、例えば
図8に示されたゲートスタック構造(電極11、中間膜12、絶縁膜13、および半導体14)を採用し、中間膜12の膜厚を調整することにより、半導体装置10の閾電圧Vthを最適化することができる。
【0038】
[リーク電流]
次に、中間膜12の膜厚とリーク電流について実験を行った。
図15は、リーク電流の実験結果の一例を示す図である。
図15に示された実験では、
図8に示された半導体装置10において、半導体14に代えて、電極11が設けられたサンプルを用いた。また、実験では、電極11の材料としてTiNを用い、中間膜12の材料としてV2O5またはWO3を用い、絶縁膜13の材料としてZrO2を用いた。また、実験では、中間膜12が1〜1.5nmの膜厚のV2O5で形成されたサンプル1と、中間膜12が1nm以下の膜厚のV2O5で形成されたサンプル2と、中間膜12が1〜1.5nmの膜厚のWO3で形成されたサンプル3と、中間膜12が1nm以下の膜厚のWO3で形成されたサンプル4と、中間膜12が設けられていないサンプル5とを用いた。いずれのサンプルにおいても、絶縁膜13の膜厚は6nmである。
【0039】
例えば
図15に示されるように、サンプル2および4は、他のサンプルよりもリーク電流が50%以上低い。サンプル2および4は、いずれも1nm以下の膜厚の中間膜12を有するサンプルである。従って、中間膜12の膜厚を1nm以下にすることにより、半導体装置10のリーク電流を低減することができる。
【0040】
ここで、例えば
図8(a)に示された構造の半導体装置10において、電極11と絶縁膜13の間に、伝導帯の下端が、電極11を構成する金属のフェルミレベルより低い中間膜12を介在させることにより、電極11と絶縁膜13の間に量子井戸が形成され、中間膜12を含む電極11の見かけ上の仕事関数が増加する。そして、仕事関数が増加すると、例えば
図2に示されたように、OFF時の半導体装置10のリーク電流が減少する。従って、中間膜12の膜厚を1nm以下にすることにより、半導体装置10のリーク電流が低減される。
【0041】
なお、
図8に示された構造の半導体装置10において、電極11がTiNにより形成される場合、TiNの成膜には、TiCl4ガスおよびNH3ガスが原料ガスとして用いられることが多い。例えば、中間膜12が設けられていない場合、遷移金属酸化物により形成された絶縁膜13は、腐食性および還元性の雰囲気に晒されることになる。そのため、絶縁膜13にダメージが生じ、絶縁性能が劣化する場合がある。これに対し、本実施形態では、絶縁膜13上に中間膜12が積層された後に、中間膜12の上に電極11が積層される。絶縁膜13は、中間膜12により腐食性および還元性の雰囲気から保護される。これにより、絶縁膜13の特性劣化を抑制することもできる。
【0042】
[その他]
例えば、上記した実施形態における半導体装置10の構造が、CMOSトランジスタにおけるp型MOSトランジスタのゲートスタック構造に適用されてもよい。具体的には、p型の半導体により構成された半導体14を含む半導体装置10をゲートスタック構造として有するp型MOSトランジスタと、通常の金属電極、絶縁膜、およびn型半導体をゲート構造として有するn型MOSトランジスタとにより、CMOSトランジスタが構成されてもよい。
【0043】
また、上記した実施形態では、MIS構造の半導体装置10において、電極11と絶縁膜13との間に中間膜12が設けられたが、開示の技術はこれに限られない。例えば、
図6に例示されたMIM構造において、金属電極と絶縁体との間に中間膜12が設けられてもよい。