特許第6957449号(P6957449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6957449触媒担体用ビニルピリジン樹脂、その製造方法およびメタノールのカルボニル化反応用触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6957449
(24)【登録日】2021年10月8日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】触媒担体用ビニルピリジン樹脂、その製造方法およびメタノールのカルボニル化反応用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/28 20060101AFI20211021BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20211021BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20211021BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20211021BHJP
   C08F 26/06 20060101ALI20211021BHJP
   C08F 226/06 20060101ALI20211021BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20211021BHJP
   C07C 51/12 20060101ALN20211021BHJP
   C07C 53/08 20060101ALN20211021BHJP
【FI】
   B01J31/28 Z
   B01J32/00
   B01J37/02 101Z
   B01J37/04 102
   C08F26/06
   C08F226/06
   !C07B61/00 300
   !C07C51/12
   !C07C53/08
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-505840(P2018-505840)
(86)(22)【出願日】2017年3月7日
(86)【国際出願番号】JP2017009057
(87)【国際公開番号】WO2017159466
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2020年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2016-54644(P2016-54644)
(32)【優先日】2016年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 智佳子
(72)【発明者】
【氏名】金井 隆一
(72)【発明者】
【氏名】游 志雄
(72)【発明者】
【氏名】松村 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】梅原 洋一
【審査官】 佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−035805(JP,A)
【文献】 特表2010−502571(JP,A)
【文献】 特開平07−309800(JP,A)
【文献】 特開2012−081440(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02631010(EP,A1)
【文献】 特開平08−092322(JP,A)
【文献】 HAMID, M. A. et al,Polymer Journal,1996年,Vol.28, No.12,p.1052-1059,DOI:10.1295/polymj.28.1052
【文献】 MAILLARD-TERRIER, M.C. et al.,European Polymer Journal,1984年,Vo.20, No.2,p.113-118,DOI:10.1016/0014-3057(84)90195-2
【文献】 DE SANTA MARIA, L. C. et al.,Materials Letters,2004年02月,Vol.58, No.5,p.563-568,DOI:10.1016/S0167-577X(03)00562-7
【文献】 MALIK, M. A.,e-Polymers,2006年07月19日,Vol.6, No.1,p.1-8,ISSN:1618-7229, DOI:10.1515/epoly.2006.6.1.524
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C08F 26/06
C08F 226/06
C07B 61/00
C07C 53/08
C07C 51/12
C07D 213/16
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/WPIX(STN)
Science Direct
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルピリジンとジビニルベンゼンの共重合体であって、ピリジン基に由来する窒素含有量が3.00質量%以上8.00質量%以下、架橋度が35モル%以上70モル%以下、炭素原子と窒素原子とのモル比C/Nが12.00以上36.00以下、全細孔容積が0.20cc/g以上0.45cc/g以下、比表面積が70.0m/g以上280m/g以下、平均細孔径が5.0nm以上25.0nm以下、且つ10nm以上の細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合が4.0%以上90.0%以下であることを特徴とする、メタノールのカルボニル化反応用触媒の触媒担体用ビニルピリジン樹脂。
【請求項2】
ビニルピリジン、架橋剤、細孔形成剤及び重合開始剤を含む油性媒体と水性媒体とを混合して懸濁重合することによる、メタノールのカルボニル化反応用触媒の触媒担体用ビニルピリジン樹脂の製造方法であって、
前記重合開始剤は、主重合開始剤と主重合開始剤よりも半減期温度が低い補助重合開始剤とを含み、前記補助重合開始剤がモノマー全量に対して0.25質量%以下であり、
前記細孔形成剤は2種類以上の有機溶媒を含み、該細孔形成剤はベンゼン環を有する有機溶媒を含み、前記触媒担体用ビニルピリジン樹脂のSP値と前記細孔形成剤のSP値との差の絶対値が、1.80以上2.80以下であり、前記架橋剤は不純物モノマーの含有量がモノマー全量に対して3.0モル%以下であることを特徴とする触媒担体用ビニルピリジン樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記主重合開始剤が前記モノマー全量に対して1.50質量%以下であることを特徴とする請求項に記載する触媒担体用ビニルピリジン樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記補助重合開始剤は、半減期温度が前記懸濁重合の温度よりも低く、
前記主重合開始剤は、半減期温度が前記懸濁重合の温度よりも高いことを特徴とする請求項2または3に記載する触媒担体用ビニルピリジン樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載する触媒担体用ビニルピリジン樹脂に、ロジウムを担持してなることを特徴とするメタノールのカルボニル化反応用触媒。
【請求項6】
酢酸86.5質量%、ヨウ化メチル8.0質量%、水5.5質量%の混合液中における、220℃、窒素雰囲気の条件での熱分解速度が、1時間当たり0.25モル%以下であることを特徴とする請求項に記載するメタノールのカルボニル化反応用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールのカルボニル化反応による酢酸の製造用の触媒の担体として用いることができる触媒担体用ビニルピリジン樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸は、ポリ酢酸ビニル、アセチルセルロース及び酢酸エステル類の原料、並びにテレフタル酸製造プラントの溶媒等、幅広い用途を持つ基礎化学品である。
【0003】
化学工業上利用される酢酸の製造方法としては、メタノールのカルボニル化、アセトアルデヒドの部分酸化、並びにブタン及びプロパン等の酸化などによる方法が公知であるが、現在、その大部分はメタノールのカルボニル化によってなされている。
【0004】
メタノールのカルボニル化による酢酸の製造方法としては、ロジウム化合物とヨウ化メチルとを均一に溶解した水含有酢酸溶媒中でメタノールと一酸化炭素とを反応させる「モンサント法」(特許文献1)がよく知られている。また、近年ではモンサント法を改良した方法として、多孔質のビニルピリジン樹脂担体にロジウムを担持させた触媒を用いる不均一系で反応を進行させるという技術(特許文献2〜5)が提案され、実用化も図られている。
【0005】
これらの改良した方法では、メタノールから酢酸を高収率で製造し得るというモンサント法の利点に加えて、反応生成液の水分濃度を低くしてヨウ化メチルの加水分解によるヨウ化水素酸の生成量を減少することにより装置系の腐食や製品酢酸の分離精製工程の負荷を抑えることができ、ロジウム錯体を固定化して触媒の高濃度化を達成することにより反応速度が高まり、触媒を反応器内に封じ込めて触媒の析出を減少することにより分離回収に必要なコストと負荷を抑えることができる、といった利点をさらに有する。
【0006】
これらの技術に用いることのできる多孔質のビニルピリジン樹脂として、特許文献6には、ビニルピリジンモノマーに架橋剤としてのジビニルベンゼン、細孔形成剤としてのイソオクタン、及び重合開始剤としての過酸化ベンゾイルを加えた油相と、比重調整及びビニルピリジンの水相への溶解防止のために加えられる塩化ナトリウム、水相に溶解したビニルピリジンモノマーの重合を防止するために加えられる亜硝酸ナトリウム、及び油相を水相中に均一に分散させるためのセルロース系懸濁安定剤を含有する水相と、を重合反応器内で混合し、油相を分散させて80℃で2時間重合させた後、95℃で5時間熱処理することにより製造したビニルピリジン樹脂が開示されている。
【0007】
また、不均一系触媒を用いた酢酸製造においては、主に接触効率の観点から、反応溶媒中で固体触媒を流動させて一酸化炭素と接触させる撹拌槽型反応器や気泡塔型反応器などが使われている。流動や反応器の撹拌機、壁面等に接触することにより生じる固体触媒の摩耗(例えば粉化)は、触媒寿命や装置トラブルへの影響が予想されるため、これをできるだけ小さくする必要がある。特許文献7には3〜5nmの細孔容積比等をコントロールすることにより、耐摩耗性を向上させて粉化を抑制した触媒担体用ビニルピリジン樹脂及びその製造方法が開示してある。特許文献7で開示されているビニルピリジン樹脂はメタノールカルボニル化反応の触媒担体として使用できる十分な比表面積、細孔容積、平均細孔径、耐熱性および耐摩耗性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭47−3334号公報
【特許文献2】特開昭63−253047号公報
【特許文献3】特開平5−306253号公報
【特許文献4】特開平5−306254号公報
【特許文献5】特開平6−315637号公報
【特許文献6】特公昭61−25731号公報
【特許文献7】特開2012-81440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、大容量生産設備においてはより経済的なプロセスが絶えず要求されており、不均一系触媒を用いたメタノールのカルボニル化反応においても反応速度の向上や、触媒の更なる長寿命化が期待されている。
【0010】
ビニルピリジン樹脂の耐熱性や耐摩耗性を向上させるには架橋度を上げていくことが考えられる。しかし、架橋度を上げると重合速度が大きくなる、あるいは樹脂構造の自由度が小さくなる等の原因により、一般的に細孔径が全体的に小さくなる、すなわち細孔径の分布が小さいサイズ側にシフトする傾向があるため、触媒の活性が低下するという問題が生じる。また、架橋度を上げるとビニルピリジン樹脂中のピリジン基の含有割合が減少し、これも触媒活性の低下を招くという問題が生じる。
【0011】
例えば、ビニルピリジン樹脂の架橋度と触媒活性の関係について特許文献5の実施例の中で詳細に検討されており、架橋度を17モル%から28モル%にするとビニルピリジン樹脂の耐熱性が向上し分解速度(脱窒素速度)は大幅に低下するが、触媒活性は約40%まで落ち込むことが示されている。
【0012】
上記の課題に鑑み、本発明は、耐熱性、耐摩耗性及びロジウムを担持させた触媒の触媒活性に優れた触媒担体用ビニルピリジン樹脂、その製造方法およびメタノールのカルボニル化反応用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ビニルピリジン基に由来する窒素含有量が3.00質量%以上8.00質量%以下、架橋度が35モル%以上70モル%以下、炭素原子と窒素原子とのモル比C/Nが12.00以上36.00以下、全細孔容積が0.20cc/g以上0.45cc/g以下、比表面積が70.0m/g以上280.0m/g以下、平均細孔径が5.0nm以上25.0nm以下、且つ10nm以上の細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合が4.0%以上90.0%以下を満たすビニルピリジン樹脂により、上記目的を達成できることを見出し、もって本発明を完成させた。
【0014】
かかる本発明の触媒担体用ビニルピリジン樹脂は、ピリジン基に由来する窒素含有量が3.00質量%以上8.00質量%以下、架橋度が35モル%以上70モル%以下、炭素原子と窒素原子とのモル比C/Nが12.00以上36.00以下、全細孔容積が0.20cc/g以上0.45cc/g以下、比表面積が70.0m/g以上280.0m/g以下、平均細孔径が5.0nm以上25.0nm以下、且つ10nm以上の細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合が4.0%以上90.0%以下であることを特徴とする。
【0015】
上記触媒担体用ビニルピリジン樹脂は、ビニルピリジンとジビニルベンゼンの共重合体であることが好ましい。
【0016】
本発明の触媒担体用ビニルピリジン樹脂の製造方法は、ビニルピリジン、架橋剤、細孔形成剤及び重合開始剤を含む油性媒体と水性媒体とを混合して懸濁重合することによる触媒担体用ビニルピリジン樹脂の製造方法であって、前記重合開始剤は、主重合開始剤と主重合開始剤よりも半減期温度が低い補助重合開始剤とを含み、前記補助重合開始剤がモノマー全量に対して0.25質量%以下であり、前記細孔形成剤は2種類以上の有機溶媒を含み、前記触媒担体用ビニルピリジン樹脂のSP値と前記細孔形成剤のSP値との差の絶対値が、1.80以上2.80以下であることを特徴とする。
【0017】
前記主重合開始剤は前記モノマー全量に対して1.50質量%以下であることが好ましい。
【0018】
また、前記細孔形成剤が、ベンゼン環を有する有機溶媒を含むことが好ましい。
【0019】
また、前記補助重合開始剤は、半減期温度が前記懸濁重合の温度よりも低く、前記主重合開始剤は、半減期温度が前記懸濁重合の温度よりも高いことが好ましい。
【0020】
本発明のメタノールのカルボニル化反応用触媒は、上記触媒担体用ビニルピリジン樹脂に、ロジウムを担持してなることを特徴とする。
【0021】
上記メタノールのカルボニル化反応用触媒は、酢酸86.5質量%、ヨウ化メチル8.0質量%、水5.5質量%の混合液中における、220℃、窒素雰囲気の条件での熱分解速度が、1時間当たり0.25モル%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
かかる本発明によれば、耐熱性、耐摩耗性及び触媒活性に優れた触媒担体用ビニルピリジン樹脂を提供することができる。そして、この触媒担体用のビニルピリジン樹脂にロジウムを担持させた触媒は、耐熱性、耐摩耗性及び触媒活性に優れるため、好適に酢酸の製造に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】酢酸の製造装置の一例を示す模式図である。
図2】実施例および比較例の熱分解速度と架橋度との関係を示す図である。
図3】実施例1および比較例1の触媒分解率と粉化速度の関係を示す図である。
図4】実施例1および比較例1の触媒分解率と触媒活性の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の触媒担体用ビニルピリジン樹脂は、ビニルピリジン基に由来する窒素含有量が3.00質量%以上8.00質量%以下、架橋度が35モル%以上70モル%以下、炭素原子と窒素原子とのモル比C/Nが12.00以上36.00以下、全細孔容積が0.20cc/g以上0.45cc/g以下、比表面積が70.0m/g以上280.0m/g以下、平均細孔径が5.0nm以上25.0nm以下、且つ10nm以上の細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合が4.0%以上90.0%以下のビニルピリジン樹脂である。
【0025】
このような本発明の触媒担体用ビニルピリジン樹脂(以下単に「ビニルピリジン樹脂」とも記載する)は、後述する実施例に示すように、耐熱性および耐摩耗性に優れ、且つ、ロジウムを担持した触媒はメタノールのカルボニル化反応において触媒活性に優れる。例えば、本発明のビニルピリジン樹脂を担体とした触媒は、耐摩耗性が高く分解率(窒素減少率)約25%まで耐摩耗性がほとんど低下しないため、分解率約25%においても触媒を流動させて触媒を一酸化炭素と接触させる撹拌槽型反応器や気泡塔型反応器でも使用可能である。触媒を流動させるために反応器内に設けられた攪拌機で反応液を撹拌する撹拌槽型反応器や気泡を反応器内に供給することにより反応液を撹拌する気泡塔型反応器では、攪拌機、気泡及び反応器の壁面との衝突や反応液の流動により、触媒が摩耗しやすいが、本発明のビニルピリジン樹脂は耐摩耗性に優れているため、好適に撹拌槽型反応器や気泡塔型反応器で使用することができる。また、本発明のビニルピリジン樹脂を担体とした触媒は、耐熱性に優れているため、高温下で使用することができる。そして、メタノールのカルボニル化反応の触媒活性にも優れているため、効率良く反応させて酢酸を得ることができる。なお、分解率約25%まで触媒活性はほとんど低下しない。一方、上記本発明の要件を一つでも満たさない場合は、上記の耐熱性、耐摩耗性および触媒活性の全てに優れるという本発明の効果を得ることはできない。
【0026】
ここで、上述したようにビニルピリジン樹脂の耐熱性や耐摩耗性を向上させるには架橋度を上げていくことが考えられる。しかし、架橋度を上げると重合速度が大きくなる、あるいは樹脂構造の自由度が小さくなる等の原因により、一般的に細孔径が全体的に小さくなる傾向があるため、触媒の活性が低下するという問題が生じる。また、架橋度を上げるために架橋剤の使用割合を増やすと、例えばピリジン基を有さない架橋剤を用いた場合は、ビニルピリジン樹脂中のピリジン基の含有割合が減少し、ヨウ素(4級化ピリジン基)/ロジウムのモル比が小さくなるためロジウム錯体が不安定になり、これも触媒活性の低下を招くという問題が生じる。
【0027】
本発明においては、上記特定の要件を全て満たすビニルピリジン樹脂とすることにより、耐熱性及び耐摩耗性を向上し且つ触媒活性も向上したビニルピリジン樹脂を提供することができる。
【0028】
詳しくは後述するが、細孔形成剤の存在下で原料モノマー(すなわちビニルピリジン及び架橋剤等)を懸濁重合反応させてビニルピリジン樹脂を製造する際に、補助重合開始剤の量をモノマー全量に対して0.25質量%以下という少量にすることにより、重合速度が大きくならないようにモノマーを重合させると共に、共存する不純物を低減した純度の高い架橋剤を用いることにより、架橋度を35モル%以上70モル%以下と高くしつつピリジン基に由来する窒素含有量を3.00質量%以上8.00質量%以下、炭素原子と窒素原子とのモル比C/Nが12.00以上36.00以下、全細孔容積が0.20cc/g以上0.45cc/g以下、比表面積が70.0m/g以上280.0m/g以下及び平均細孔径が5.0nm以上25.0nm以下、且つ10nm以上の細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合が4.0%以上90.0%以下とし、耐熱性及び耐摩耗性を向上し且つ触媒活性も向上したビニルピリジン樹脂とすることができる。
【0029】
本明細書において、「比表面積」は、窒素ガスの吸着量からBET(Brunauer−Emmett−Teller)吸着等温式を利用して算出した比表面積であり、ユアサアイオニクス(株)社製の「AUTOSORB−1」を使用し、液体窒素を用いて3点法によって測定される。
【0030】
「平均細孔径」は、ユアサアイオニクス(株)社の「AUTOSORB−1」を使用し、液体窒素を用いて3点法によって測定される。本発明において、「平均細孔径(D)」とは、全ての細孔を1つの円筒形細孔で代表させたときの代表径を意味する。具体的には、比表面積(A)と全細孔容積(V)の2つの物性値のみから、下記の式により計算できる。
D=4V/A
【0031】
「全細孔容積」は、全ての細孔容積の合計量であり、ユアサアイオニクス(株)社の「AUTOSORB−1」を使用し、液体窒素を用いて3点法によって測定される。
【0032】
「10nm以上の細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合」は、「10nm以上の細孔径を有する細孔の容積の合計量」を「全細孔容積」で除した値である。「10nm以上の細孔径を有する細孔の容積の合計量」も、ユアサアイオニクス(株)社の「AUTOSORB−1」を使用し、液体窒素を用いて3点法によって測定される。
【0033】
「ビニルピリジン基に由来する窒素含有量」は、本発明のビニルピリジン樹脂中のビニルピリジン基に由来する窒素原子の合計量の割合であり、元素分析によってビニルピリジン樹脂中のビニルピリジン基に由来する窒素の合計質量を求め、該窒素の合計質量をビニルピリジン樹脂の質量で除した値である。ビニルピリジン基に由来する窒素含有量は、CHNコーダーによって測定される。
【0034】
「炭素原子および窒素原子のモル比C/N」は、元素分析によってビニルピリジン樹脂中の炭素原子の合計モル数Cおよび窒素原子の合計モル数Nを求め、CをNで除した値であり、CHNコーダーによって測定される。
【0035】
「架橋度」は、下記式から求められる値である。
架橋度(モル%)=A/B×100
A:ビニルピリジン樹脂の合成に用いた架橋剤(ビニル基等の反応性部位を2個以上有する化合物)のモル数
B:ビニルピリジン樹脂の合成に用いたモノマーの合計モル数
【0036】
本発明のビニルピリジン樹脂は、ビニルピリジン基に由来する窒素含有量が3.00質量%以上8.00質量%以下であることが好ましい。架橋度は、40モル%以上70モル%以下であることが好ましい。また、炭素原子および窒素原子のモル比C/Nが14.00以上30.00以下であることが好ましい。そして、全細孔容積は0.20cc/g以上0.40cc/g以下であることが好ましい。
【0037】
また、本発明のビニルピリジン樹脂は、細孔径に関して、平均細孔径が5.0nm以上25.0nm以下で且つ10nm以上の細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合が4.0%以上90.0%以下という要件を満たすとともに、細孔径が2.0nm以下の細孔を所定量存在している樹脂であることが好ましい。例えば、ビニルピリジン樹脂の比表面積(すなわちビニルピリジン樹脂全体の比表面積)に対する、2.0nm以下の細孔径を有する細孔のみの比表面積の割合が10%以上70%以下、好ましくは12%以上60%以下である。
【0038】
高い活性のためには、物質の細孔内での拡散(すなわち、細孔内でカルボニル化反応を生じさせ且つ生成した酢酸を細孔外に排出すること)が容易である必要がある。そのためには、ある程度大きい細孔を有する、具体的には平均細孔径が5.0nm以上25.0nm以下で且つ10nm以上の細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合が4.0%以上、90.0%以下である必要がある。一方、カルボニル化反応の活性種であるロジウムカルボニル化錯体は2量体(Φ1nm×高さ1nm程度)として観察されている。そして、反応に有効な細孔径は分子の2〜3倍以下、つまり大体2.0nm以下と考えられる。さらに、分子の2〜3倍の細孔径の時、壁面効果によりそのポテンシャルが最安定となることから、細孔径が2.0nm以下の細孔は活性に対する寄与が大きいと考えられる。したがって、本発明のビニルピリジン樹脂は、平均細孔径5.0nm以上25.0nm以下、10nm以上の細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合が4.0%以上、90.0%以下、且つ、上記2.0nm以下の細孔径を有する細孔のみの比表面積の割合が10%以上70%以下であることが好ましい。
【0039】
また、本発明の触媒担体用ビニルピリジン樹脂は、球状であることが好ましく、その粒子径が好ましくは50〜1000μm、好ましくは150〜750μmである。粒子径はレーザー回折法で求めることができる。
【0040】
本発明のビニルピリジン樹脂は、上記要件を満たすものであればよく、その要件の範囲内で要求される特性に応じて各数値を所望の値にすればよい。例えば、触媒の長寿命が特に要求される場合には、ピリジン基に由来する窒素含有量を3.00質量%程度と低くし、C/Nをなるべく大きくする。また、触媒寿命を比較的短くしてもより高い触媒活性が要求される場合にはC/Nを12.00程度とし、ピリジン基に由来する窒素含有量を8.00質量%程度とする。
【0041】
本発明の触媒担体用ビニルピリジン樹脂は、例えば、ビニルピリジン、架橋剤、細孔形成剤及び重合開始剤を含む油性媒体と水性媒体とを混合し、油性媒体の小滴を水性媒体に分散させて懸濁重合することによる触媒担体用ビニルピリジン樹脂の製造方法であって、重合開始剤は、主重合開始剤と主重合開始剤よりも半減期温度が低い補助重合開始剤とを含み、補助重合開始剤がモノマー全量に対して0.25質量%以下であり、細孔形成剤は2種類以上の有機溶媒を含み、得られる触媒担体用ビニルピリジン樹脂のSP値と細孔形成剤のSP値との差の絶対値が、1.80以上2.80以下、とすることにより、製造することができる。
【0042】
懸濁重合させるモノマーは、ビニルピリジン及び架橋剤(架橋性モノマー)である。上記の物性を満たせば、ビニルピリジン及び架橋剤に加えて、その他のモノマーを共重合させてもよい。
【0043】
ビニルピリジンとしては、限定されないが、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、ピリジン環にメチル基やエチル基等の低級アルキル基を有する4−ビニルピリジン誘導体又は2−ビニルピリジン誘導体等、2−メチル−5−ビニルピリジン、2−エチル−5−ビニルピリジン、3−メチル−5−ビニルピリジン、2、3−ジメチル−5−ビニルピリジン、2−メチル−3−エチル−5−ビニルピリジン等を使用することができる。これらのモノマーは単独で使用してもよく、また2種類以上のモノマーを用いてもよい。ビニルピリジンはモノマー全量に対して20モル%以上65モル%以下が好ましい。20モル%未満では触媒内のヨウ素(ピリジン基の4級化による)/ロジウムのモル比が小さくなり、ロジウム錯体が不安定になり、触媒活性が低下し、65モル%より高いと耐熱等の物理的安定性を得るために必要な架橋構造が不足する傾向があるからである。
【0044】
架橋剤は、ビニル基等の反応性部位を2個以上有する化合物であり、2個以上のビニル基を有する化合物が好ましい。2個以上のビニル基を有する化合物としては、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、若しくはトリビニルベンゼン等の芳香族ポリビニル化合物、ブタジエン、フタル酸ジアリル、ジアクリル酸エチレングリコール、若しくはジメタアクリル酸エチレングリコール等の脂肪族ポリビニル化合物等の窒素を含有しない化合物や、ジビニルピリジン、トリビニルピリジン等が挙げられる。また、架橋剤はモノマー全量に対して35モル%以上70モル%以下、好ましくは40モル%以上70モル%以下使用する。
【0045】
その他のモノマーとしては、エチルビニルベンゼン、スチレン等のビニル基を1個有するモノマーが挙げられる。但し、本発明においては、ジビニルベンゼン等の架橋剤が多いことが好ましく、その他のモノマーは少ないまたは用いないことが好ましい。ここで、架橋剤(例えばジビニルベンゼン)はビニル基等の反応性部位を2個以上有する化合物であるが、該架橋剤と共に合成の際に不純物として生じる架橋性部位を1個のみ有する化合物(例えばエチルビニルベンゼン等のその他のモノマー)も一般的に共存する。このように不純物が共存する架橋剤を用いた場合に、架橋剤の使用割合を増やすと、架橋度を高くすることはできるが、不純物の共存量が低減された純度の高い架橋剤を用いて架橋度を高くした場合と比較してビニルピリジン基の含有割合が低くなる。したがって、本発明においては、耐摩耗性や耐熱性を高くするために、共存する不純物を低減した純度の高い架橋剤を用いる、すなわちその他のモノマーの量を例えばモノマー全量に対して3.0モル%以下になるようにすることにより、架橋度を35モル%以下70モル%以上と高くしつつピリジン基に由来する窒素含有量を3.00質量%以上8.00質量%以下とし、触媒活性も高くする。
【0046】
これらモノマーを、生成するビニルピリジン樹脂が、ビニルピリジン基に由来する窒素含有量が3.00質量%以上8.00質量%以下、架橋度が35モル%以上70モル%以下、且つ炭素原子および窒素原子のモル比C/Nが12.00以上36.00以下になる比率で混合する。そして、得られた混合物に、細孔形成剤(ポーラス剤)及び重合開始剤を加えて油性媒体を得る。
【0047】
本発明における細孔形成剤とは、モノマーを溶解するがモノマーが重合してできるポリマーを溶解しにくい溶媒をいう。
【0048】
ビニルピリジン樹脂が懸濁重合法で合成される際には、モノマーと一緒に仕込んだ細孔形成剤と生成したポリマーとが油性媒体の小滴中で相分離することによって、数多くのネットワーク状に架橋しているマイクロジェルが生成される。このマイクロジェル同士の間隙に存在する細孔形成剤を懸濁重合後に除去することにより、得られるビニルピリジン樹脂が細孔を有するものとなる。得られるビニルピリジン樹脂が有する細孔の大きさ等に影響を与えるマイクロジェルのサイズ、マイクロジェル同士の融合、又はマイクロジェルの隙間における有機溶媒の分布は、マイクロジェルと細孔形成剤との相溶性により顕著に影響される。ポリマー(ビニルピリジン樹脂)と細孔形成剤との相溶性は両者の極性に左右され、極性が近いほど相溶性が高い。
【0049】
このような細孔形成剤として、本発明においては、2種類以上の有機溶媒を用いる。そして、下記式で示される、触媒担体用ビニルピリジン樹脂(ポリマー)のSP値と細孔形成剤のSP値との差の絶対値(以下「SP絶対差」とも記載する。)が、1.80以上2.80以下のものを、細孔形成剤として用いる。SP値とは、分子間結合力を表す凝集エネルギー密度の平方根で示される溶解パラメータであり、Fedors法によって求められる。細孔形成剤のSP値は、細孔形成剤を構成する各有機溶媒のSP値に、細孔形成剤に対する該有機溶媒の体積基準の含有割合を乗じ、各有機溶媒について得られた値を合計した値である。具体的には、例えば細孔形成剤が3種類の有機溶媒(第1有機溶媒、第2有機溶媒、第3有機溶媒)からなる場合は、一般には下記式で求めることができる。
SP絶対差=|触媒担体用ビニルピリジン樹脂のSP値−細孔形成剤のSP値|
細孔形成剤のSP値=(第1有機溶媒のSP値×(第1有機溶媒の体積/細孔形成剤の体積))+(第2有機溶媒のSP値×(第2有機溶媒の体積/細孔形成剤の体積))+(第3有機溶媒のSP値×(第3有機溶媒の体積/細孔形成剤の体積))
【0050】
細孔形成剤を構成する有機溶媒としては、例えば架橋共重合体(すなわち本発明のビニルピリジン樹脂)を膨潤する性質を有する有機溶媒や、非膨潤性の有機溶媒などを用いることができる。具体的には、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン、2−エチルヘキサノール、ジオクチルフタレート、オクタン、ノナン、n−ドデカン等が挙げられる。細孔形成剤は、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン等のベンゼン環を持つ有機溶媒を含むことが好ましい。細孔形成剤が含む有機溶媒のベンゼン環と、ビニルピリジン、架橋剤及び必要に応じて重合させるその他のモノマーからなる共重合体の芳香族環との間の相溶性により、該ベンゼン環を持つ有機溶媒がマイクロジェル内の骨格やマイクロジェル同士の隙間に均一に分布するため、得られるビニルピリジン樹脂の構造のむらをなくして、粉化や熱分解をより生じにくくすることができる。
【0051】
細孔形成剤は、トリメチルベンゼンおよびトルエンの少なくとも一方と、オクタン、ジオクチルフタレート及びn−ドデカンから選択される少なくとも一種とを用い、質量比が、トリメチルベンゼンおよびトルエンの合計質量:オクタン、ジオクチルフタレート及びn−ドデカンの合計質量=1:0.1〜9.0であることが好ましい。
【0052】
細孔形成剤の総量は、好ましくは油性媒体の5質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上30質量%以下である。
【0053】
なお、細孔形成剤は、懸濁重合反応後に加熱、蒸留、溶剤による抽出等することにより、除去される。
【0054】
重合開始剤は、主重合開始剤と、主重合開始剤よりも半減期温度が低い補助重合開始剤との両者を用いる必要がある。本発明で用いる補助重合開始剤は、例えば、10時間半減期温度が主重合開始剤よりも10〜35℃程度低く、10時間半減期温度は40〜65℃である。そして、補助重合開始剤の量は、モノマー全量に対して0.25質量%以下用いる必要がある。このように補助重合開始剤の量をモノマー全量に対して0.25質量%以下と少なくすることにより、細孔形成剤の存在下に行う懸濁重合反応が比較的穏やかに開始および進行する。すなわち、重合速度が大きくならないようにモノマーを重合させることができる。このため、架橋度が高いにも関わらず細孔径の減少が抑制されて、細孔内拡散に寄与するある程度大きい細孔を有するビニルピリジン樹脂、具体的には10nm以上の細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合が4.0%以上90.0%以下のビニルピリジン樹脂を生成することができる。したがって、細孔径の減少による触媒活性の低下という問題が生じず、耐熱性及び耐摩耗性が高く、且つ、触媒活性に優れたビニルピリジン樹脂となる。例えば、メタノールカルボニル化反応条件での耐熱性、耐摩耗性が大幅に向上すると共に、流動層に用いる触媒としての物理的強度の限界まで分解が進行しても十分な触媒活性を有する。
【0055】
本発明で用いる主重合開始剤は特に限定されることはなく、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の、ビニル化合物の反応を開始させるために従来使用されているいかなるものをも使用することができる。これらを単独で用いても、また2種類以上を用いてもよい。
【0056】
主重合開始剤の使用量に特に限定はないが、残存すると触媒活性や触媒寿命に悪影響を与える可能性があるため、重合が完結する最小限とすることが好ましい。また、重合速度が大きくなるため、細孔径が小さくなる傾向がある。したがって、主重合開始剤の使用量は、モノマー全量に対して、0.10質量%以上1.50質量%以下が好適である。
【0057】
本発明で用いる補助重合開始剤は、主重合開始剤よりも低い半減期温度を有する重合開始剤である。補助重合開始剤としては、アゾ系重合開始剤、例えば2,2’−Azobis(4−methoxy−2,4−dimethylvaleronitrile)、2,2’−Azobis(2,4−dimethylvaleronitrile)、2,2’−Azobis(isobutyronitrile)、2,2’−Azobis(2−methylbutyronitrile)などのアゾニトリル化合物、有機過酸化物、例えばジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシカーボネートなどのパーオキシジカボネート類、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカオエートなどのパーオキシエステル類を用いることができる。これらを単独で使用しても、2種類以上を使用してもよい。補助重合開始剤の使用量は、モノマー全量に対して0.25質量%以下であり、好ましくは0.05質量%以上0.15質量%以下である。
【0058】
また、補助重合開始剤として半減期温度が懸濁重合の温度よりも低いものを用い、且つ、主重合開始剤として半減期温度が懸濁重合の温度よりも高いものを用いることが好ましい。補助重合開始剤として半減期温度が懸濁重合温度よりも低いものを用いることにより全体で重合が始まる前に核となるオリゴマーを生成させることができる。主重合開始剤はポリマーを成長させる役目を持っているため、主重合開始剤として半減期温度が重合温度よりも高いものを用いることにより、重合が完了するまで少しずつラジカルを発生させ続けることができる。
【0059】
なお、2種類以上の細孔形成剤又は重合開始剤は、あらかじめ混合して調製したものを用いてもよいし、反応器内で撹拌等により混合してもよい。
【0060】
このような油性媒体を用いてモノマーを水性媒体中で懸濁重合させることにより、得られるビニルピリジン樹脂を、ビニルピリジン基に由来する窒素含有量が3.00質量%以上8.00質量%以下、架橋度が35モル%以上70モル%以下、炭素原子と窒素原子とのモル比C/Nが12.00以上36.00以下で、且つ、全細孔容積が0.20cc/g以上0.45cc/g以下、比表面積が70.0m/g以上280.0m/g以下、平均細孔径が5.0nm以上25.0nm以下、且つ10nm以上の細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合が4.0%以上90.0%以下にすることができる。各モノマー、細孔形成剤や、補助重合開始剤の割合等、個々の製造条件のバランスを調整することにより、所望のビニルピリジン基に由来する窒素含有量、架橋度、炭素原子と窒素原子とのモル比C/N、全細孔容積、10nm以上の細孔の割合、比表面積や、平均細孔径を有するビニルピリジン樹脂を製造することができる。例えば、補助重合開始剤の量、細孔形成剤の組み合わせ、量及び比を変化させることにより、平均細孔径を調整でき、また、炭素原子と窒素原子とモル比C/Nを変化させること、及び補助重合開始剤の量で耐熱性を調整できる。
【0061】
本発明で用いる水性媒体は、油性媒体と混合して油性媒体中のモノマーを懸濁重合することができるものであれば特に限定はされず、例えば、分散安定剤(懸濁安定剤)、界面活性剤、消ラジカル剤、比重調整剤、pH調整剤等を、水に溶解または分散した液である。
【0062】
本発明で用いることができる分散安定剤も特に限定されることはなく、従来使用されているポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、澱粉、ゼラチン、スチレン/無水マレイン酸共重合体のアンモニウム塩等の水溶性高分子、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ベントナイト、ケイ酸マグネシウム等の無機塩を使用することができる。
【0063】
本発明で用いることができる界面活性剤、消ラジカル剤、比重調整剤、pH調整剤も特に限定されることはなく、従来使用されているいかなるものをも使用することができる。例えば、界面活性剤としてはドデシルベンゼンスルホン酸等を、消ラジカル剤としては亜硝酸ナトリウム等を、比重調整剤としては塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム等を、pH調整剤としては水酸化ナトリウム等を使用することができる。
【0064】
懸濁重合させる温度は重合が進行する温度であれば良いが、あまり低いと水性媒体に添加される比重調整剤や分散安定剤の溶解が不十分となる。また、80℃を超えると重合熱により部分的に温度が上昇し沸騰して油性媒体の分散が不安定になることが考えられる。例えばアゾ系重合開始剤(10時間半減期温度30〜67℃)を用いた場合には25〜80℃が好適に用いられる。具体的には例えば、緩やかに昇温して50〜80℃でポリマーを重合させ、その後さらに昇温して85℃〜95℃で熱処理を加えることにより、本発明のビニルピリジン樹脂を製造することができる。また、懸濁重合させる反応時間は、例えば、2〜6時間、熱処理時間は3〜20時間である。
【0065】
また、発生する重合熱はなるべく除去して反応温度を一定とすることが好ましい。これは重合の反応熱で液温が上昇して油性媒体の分散が不安定になる恐れがあると共に、温度上昇によりラジカルの発生が増加する結果、核となるオリゴマーの生成数が多くなり、樹脂を形成するポリマーの分子量が小さくなるためである。
【0066】
以上述べた本発明の触媒担体用ビニルピリジン樹脂は、従来品に比べて耐熱性、耐摩耗性に優れ、更には、物質の拡散が容易で且つ活性種が安定する細孔をあわせもつので触媒活性に優れているためロジウム等を担持した触媒の活性が高い。よってメタノールカルボニル化反応速度を向上できると共に、触媒の長寿命化が行えるため、プロセスの経済性向上が行える。
【0067】
本発明の触媒担体用ビニルピリジン樹脂にロジウムを担持させることにより、本発明のメタノールのカルボニル化反応用触媒とすることができる。本発明の触媒担体用ビニルピリジン樹脂は耐熱性、耐摩耗性に優れるとともに、触媒活性に優れている。したがって、これにロジウムを担持させた触媒も耐熱性、耐摩耗性および触媒活性に優れる。例えば、酢酸86.5質量%、ヨウ化メチル8.0質量%、水5.5質量%の混合液中における、220℃、窒素雰囲気の条件での熱分解速度が、1時間当たり0.25モル%以下とすることができる。
【0068】
ビニルピリジン樹脂にロジウムを担持させる方法は特に限定されないが、例えばビニルピリジン樹脂と、ロジウムのハロゲン化物、または酢酸ロジウムなどのロジウム塩とを、ヨウ化メチルを含む溶液中において、一酸化炭素加圧下(0.7〜3MPa)で接触させることにより、ビニルピリジン樹脂にロジウムを担持させることができる。このとき、ビニルピリジン樹脂中のビニルピリジン基の窒素原子は四級化され、これにハロゲン化ロジウムとヨウ化メチルと一酸化炭素との反応によって生成したロジウム錯イオン、すなわちロジウムカルボニル錯体[Rh(CO)がイオン交換的に吸着し、本発明のメタノールのカルボニル化反応用触媒である固体触媒が得られる。ロジウムの担持量は特に限定されないが、ビニルピリジン樹脂に対して0.2〜5.0質量%程度とすることができる。
【0069】
このようなメタノールのカルボニル化反応用触媒を用いて、反応液中でメタノールと一酸化炭素とを反応させることにより酢酸を製造することができる。このような酢酸の製造方法は、例えば、本発明のメタノールのカルボニル化反応用触媒を含む反応液中で、メタノール(カルボニル化原料)を一酸化炭素と反応させて酢酸(カルボニル化合物)を生成させる反応工程と、反応工程からの反応生成液を蒸留して酢酸(カルボニル化合物)を含む気相留分を回収する蒸留工程とを有する。
【0070】
図1は、メタノールのカルボニル化による酢酸の製造を行うことができる酢酸製造装置の模式図である。図1に示すように、酢酸製造装置は、主に、反応工程としてのカルボニル化反応器1、蒸留工程としてのフラッシュ蒸発工程を行うフラッシャー2とライトエンド分離工程を行うライトエンド蒸留塔4、静置工程としてのデカンタ5を備える。
【0071】
カルボニル化反応器1にはカルボニル化原料であるメタノールと一酸化炭素が導入される。カルボニル化反応器1とフラッシャー2との間には、反応溶媒としての酢酸が循環している。主に酢酸からなるフラッシャー2の缶出液はカルボニル化反応器1に戻るようになっている。ライトエンド蒸留塔4にはフラッシャー2からの気相画分が流入し、ライトエンド蒸留塔4の内部で分離が行なわれる。ライトエンド蒸留塔4の下部からは酢酸が分離回収され、その頂部からは酢酸以外の成分と酢酸のうち回収されなかった部分とが留出する。
【0072】
カルボニル化反応器1内には、本発明のメタノールのカルボニル化反応用触媒が反応溶媒中に分散して存在する。
【0073】
メタノールは一酸化炭素と反応して酢酸を生成する。この際、好適には、ヨウ化アルキル(例えばヨウ化メチル)などの反応促進剤が加えられる。この反応は、通常、酢酸を反応溶媒として行なわれるが、この場合、酢酸は反応生成物であるとともに反応溶媒としても働くことになる。例えば、本発明のメタノールのカルボニル化反応用触媒が分散したカルボニル化反応器1内の反応液中に一酸化炭素ガスが吹き込まれ、本発明のメタノールのカルボニル化反応用触媒の存在下、反応温度100〜200℃、反応圧力1〜5MPa程度の条件において、メタノールは一酸化炭素と反応して、酢酸が生成される。この反応では、反応副生成物として酢酸メチル、ジメチルエーテル、水などが生成し、これらは溶媒、反応促進剤および未反応原料とともに、酢酸を製品として分離回収した残液として反応工程に戻されるので、反応工程における液相はこれら成分すべての混合物からなる。
【0074】
反応工程で生成された反応生成液は、次の蒸留工程において分離操作を受け、生成した酢酸は製品として分離回収され、それ以外の残液は、一部が反応工程に戻され、残りは静置工程に移る。例えば反応工程としてのカルボニル化反応器1からスクリーンなどを通して反応液が取り出され、フラッシャー2に流入する。蒸留工程では、まずフラッシャー2で反応液の一部を気化させて気相と液相とに分離(フラッシュ蒸発工程)した後、その気相画分をフラッシャー2上部からライトエンド蒸留塔4に導いてその下部から酢酸を分離回収(ライトエンド分離工程)するという手法をとる。このような手法を採用するのは、反応生成液が上記に述べたように各種成分の混合物であり、酢酸はそれらの中で揮発度が小さい成分であるが、実際にはさらに揮発度の小さい(あるいは不揮発性の)不純物が混入するため、缶出液から酢酸を製品として回収するわけにはいかないからである。フラッシャー2とライトエンド蒸留塔4とは、図1のように分けて別塔として構成することもできるし、単一の塔の底部とその上部に一体的に設けることも可能である。なお、カルボニル化反応は一般に発熱反応なので、フラッシャー2で一部を気化させることにより、反応工程に戻される液相画分を冷却するという効果が得られるとともに、加熱された反応生成液をフラッシャー2に導入することにより、これをライトエンド蒸留塔4のための蒸発缶として機能させることができる。
【0075】
ライトエンド蒸留塔4では気相画分の分離が行なわれる。気相画分を構成する成分のうち最も揮発度が小さい酢酸の一部がライトエンド蒸留塔4の下部に溜まるようにすることで、他の気相成分がすべて塔頂留分に含まれるようにすることができる。酢酸は、ライトエンド蒸留塔4の下部より取り出され、必要な精製処理を受けた後、製品として分離回収される。他方、塔頂からの流出液はデカンタ5に導入される。
【0076】
蒸留工程で酢酸を分離した後に、デカンタ5へ導入されるライトエンド蒸留塔4の塔頂流出液は、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水が主成分である。デカンタ5で流出液を静置することにより、流出液に含まれるヨウ化メチルが重い油相として分離され、水相が得られる。分離されたヨウ化メチルはカルボニル化反応器1に戻るようになっている。
【0077】
また、フラッシャー2で気化しなかった部分は液相画分としてフラッシャー2の底部に溜まり、蒸留工程からの缶出液(すなわちフラッシャー2からの液相画分)として、反応工程を行うカルボニル化反応器1に戻される。
【0078】
本発明のメタノールのカルボニル化反応用触媒は活性が高いため、上記酢酸の製造方法において、効率良く酢酸を製造することができる。
【0079】
また、本発明のメタノールのカルボニル化反応用触媒は、耐摩耗性に優れているため、反応工程を行うカルボニル化反応器1として、触媒を流動させる撹拌槽型反応器や気泡塔型反応器を使用することができる。すなわち、酢酸を製造する際に、反応器内で本発明のメタノールのカルボニル化反応用触媒を反応液と共に流動させながら一酸化炭素と接触させて反応させることができ、この反応器として撹拌型反応器または気泡型反応器を用いることができる。
【0080】
そして、本発明のメタノールのカルボニル化反応用触媒は耐熱性にも優れているため、カルボニル化反応の反応温度を高くすることができる。したがって、反応の状態に合わせて反応温度を変化させることにより、安定した量の酢酸を製造することができ、また、触媒寿命を長くすることができる。
【0081】
例えば、蒸留工程等の精製系の装置トラブルや、カルボニル化反応の反応条件の変更に伴う条件追従の遅れ等により、反応液の水濃度が増加する場合がある。水濃度が増加すると、触媒中のロジウムの固液平衡に変化が生じてロジウムが反応液中へ溶出しやすくなり触媒活性が低下して、酢酸の製造量が減少すると共に、副生成物である酢酸メチルが増加し触媒の分解速度が増加して触媒寿命が短くなってしまう。なお、酢酸メチルは、CHCOOH+CHOH→CHCOOCH+HOという副反応で生成する。
【0082】
しかしながら、本発明のメタノールのカルボニル化反応用触媒は耐熱性に優れているため、反応温度を上昇させることができる。具体的には、反応液の水濃度が増加した時に、反応器内または反応器外に設置された熱交換器等により、反応液の温度を一時的に上昇させる。このように反応液の水濃度が上昇した時に反応温度を上昇させると、触媒活性が上昇する。したがって、酢酸の製造量の減少が抑制されて安定した量の酢酸を製造することができる。また、反応液の温度を上昇させることによりロジウムが反応液に溶出し難くなり、また、触媒活性の上昇に伴いメタノールが消費されるため酢酸メチルの加水分解が進行して水濃度及び酢酸メチルが低下する。したがって、ロジウムが触媒に吸着されて触媒活性が復元し、また、酢酸メチルが低減することにより触媒の分解速度も低下させることができる。このように触媒活性が復元し、また、触媒の分解速度が低下した後は、反応温度を低下させて通常の条件により反応させればよい。すなわち、本発明のメタノールのカルボニル化反応用触媒を用いて酢酸を製造する際に、反応液の水濃度が上昇した時に該反応液の温度を高くする工程を有してもよく、また、この反応液の水濃度が上昇した時に該反応液の温度を高くする工程の後に、該水濃度が下降した時に該反応液の温度を低くする工程を有してもよい。
【実施例】
【0083】
以下に、本発明の更なる理解のために実施例を用いて説明するが、実施例はなんら本発明を限定するものではない。
【0084】
1.ビニルピリジン樹脂の調製
[実施例1]
10質量%のNaCl(比重調整剤)、0.3質量%のNaNO(消ラジカル剤)、0.064質量%のゼラチン(分散安定剤)及び0.009質量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(界面活性剤)をイオン交換水に溶解させて、625gの水性媒体を調製した。
【0085】
また、42.5質量%の4−ビニルピリジン(ビニルピリジンモノマー)、37.5質量%のジビニルベンゼン(純度:96質量%、残りエチルビニルベンゼン)(架橋剤)、10質量%のトルエン(細孔形成剤)、5質量%のジオクチルフタレート(細孔形成剤)、5質量%のn−ドデカン(細孔形成剤)を混合した液を375g調製した。得られた液に、得られた液に含まれるモノマー全量(4−ビニルピリジン、ジビニルベンゼンおよびエチルビニルベンゼンの合計量)100質量%に対して、0.18質量%の過酸化ベンゾイル(主重合開始剤)及び、0.07質量%の2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(2,2’−Azobis(2,4−dimethylvaleronitrile))(補助重合開始剤)を溶解して、油性媒体を調製した。油性媒体を、ジャケット付き1000ml懸濁重合反応器に入れた。そこに反応器下部から調製した水性媒体を供給し、緩やかに撹拌を行った。なお、このジャケット付き1000ml懸濁重合反応器は、内部に撹拌部材を有する撹拌型反応器である。
【0086】
油滴が均一に分散するまで25℃で撹拌した後に、反応器のジャケットに65℃の温水を流して反応器内液を昇温して重合を行った。この重合は発熱反応のため反応熱が生じるが、反応器のジャケットに流す温水の温度を調整することにより、反応器内液温度の上昇を抑制し、反応器内液温度を64℃〜66℃の範囲に調整した。この状態を3時間保持した後、反応器のジャケットに流す温水の温度を90℃にして反応器内液を85℃以上まで昇温し、そのまま4時間保持した。その後、反応器のジャケットに流す温水の温度を25℃にして反応器内液を常温まで冷却した後、ろ過により固液分離を行い生成した樹脂を回収した。回収した樹脂は温水による洗浄を行い、さらにメタノールを加えて65℃で抽出洗浄を行うことにより、細孔形成剤であるトルエン、ジオクチルフタレート及びn−ドデカンを除去した後、篩により分級を行い、最終的な触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂を得た。得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂は球状であった。
【0087】
[実施例2〜14および比較例1〜7]
ジビニルベンゼン(架橋剤)、細孔形成剤種及び比率、重合温度、重合開始剤添加量を表1に示すようにした以外は実施例1と同様にして、触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂を得た。表1に、架橋度、および、触媒担体用ビニルピリジン樹脂のSP値と細孔形成剤のSP値との差の絶対値(SP絶対差)も記載する。比較例1の触媒担体用ビニルピリジン樹脂が、特許文献7に記載のビニルピリジン樹脂に相当する。各実施例2〜14および比較例1〜7で得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂は、それぞれ球状であった。
【0088】
2.物性の測定
得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂の物性を以下の方法により測定した。
(1)比表面積、全細孔容積、10nm以上の細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合、平均細孔径の測定
得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂の比表面積、全細孔容積、10nm以上の細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合、平均細孔径を、上記の方法で、ユアサアイオニクス(株)製、AUTOSORB−1を用いて測定した。比表面積に関して、ビニルピリジン樹脂全体の比表面積(Total)、および、2.0nm以下の細孔径を有する細孔のみの比表面積(≦2nm)を求め、さらに、全体の比表面積に対する該2.0nm以下の細孔径を有する細孔のみの比表面積の割合(比率(%))を求めた。結果を表2に記載する。
【0089】
(2)樹脂組成の分析
CHNコーダーにより、樹脂に含まれる炭素、水素、窒素量を分析し、その値から、窒素含有量(N含有量)、炭素原子と窒素原子とのモル比(C/N比)を求めた。結果を表1に示す。
【0090】
(3)粉化率の測定
得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂を17g(dry)分取し、ヨウ化メチル17質量%メタノール溶液を100g加え、18時間振とうを行い、ピリジン基の4級化を行った。
【0091】
4級化した触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂を300ml筒型セパラブルフラスコ(バッフル4枚付)に入れ、40mmデスクタービン攪拌翼、撹拌速度1000rpmで18、72、144時間攪拌を行った。
【0092】
攪拌終了後、目開き90μmの篩で固液分離を行い、通過液を質量既知300mlビーカーに受け、90℃で蒸発乾固して質量を測定し粉化物とした。粉化率は得られた粉化物質量と仕込み触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂質量との比で求めた。また、72時間と144時間後の粉化率(%)と攪拌時間とから粉化速度を求め、その平均値をそれぞれの粉化速度とした。
【0093】
(4)触媒活性測定
(i)触媒化
得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂8.5g(dry基準)と反応液79.7g(メタノール31.3質量%、ヨウ化メチル21.6質量%、酢酸47.1質量%)及び所定量の酢酸ロジウムを200mlジルコニウム製オートクレーブに仕込み、反応温度180℃、CO圧力5.0MPaGで1時間反応させ、触媒化した。反応終了後の液をICP発光分光法で分析した結果、反応液へのロジウムの残存率は0.2モル%以下(担持率99.8モル%以上)であった。
(ii)反応試験
【0094】
上記触媒全量と反応液80g(メタノール25質量%、酢酸62.5質量%、ヨウ化メチル12.5質量%)を200mlジルコニウム製オートクレーブに仕込み、反応温度180℃、CO圧力5.0MPaGで1時間反応させ、仕込メタノールの60mol%が反応した時点でのCO消費速度をカルボニル化反応速度(STY;mol/L/h)とした。そして、比較例1のSTYを1.00として、比較例1のSTYに対する値としてカルボニル化反応速度比を求めた。
【0095】
(5)熱分解速度測定
得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂を前記方法で触媒化し、ヨウ化メチル8.0質量%、水5.5質量%、酢酸86.5質量%の溶液100mlと共に200mlジルコニウム製オートクレーブに仕込み、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した後、攪拌しながら220℃に加熱した。その後、オートクレーブ内で撹拌しながら220℃の状態を維持し、24時間後に液を採取して窒素濃度を測定し、離脱したピリジン基量を求めた。また、得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂中の窒素濃度を別途測定し、上記24時間後に液を採取して求めた離脱ピリジン基との比(離脱ピリジン基量(モル)/得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂中の窒素量(モル))を求め、該比を分解時間(24時間)で除することで1時間当たりの熱分解速度を求めた。
【0096】
得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂の物性を表1及び表2に示す。なお、表1及び表2において、ジビニルベンゼンの純度を「DVB純度」、ピリジン基に由来する窒素含有量を「N含有量」、炭素原子と窒素原子とのモル比C/Nを「C/N比」、トリメチルベンゼンをTMB、ジオクチルフタレートをDOP、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)をV65、過酸化ベンゾイルをBPOと表記する。また、得られた結果から、熱分解速度と架橋度との関係を図2に示す。
【0097】
なお、比較例4および比較例6は、触媒活性が低いためかカルボニル化反応が生じず、また、比較例5は耐摩耗性が低くカルボニル化反応中に分解し粉化し、いずれもSTY比、熱分解速度および粉化速度を求めることができなかった。
【0098】
実施例1及び比較例1で得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂について、以下の操作及び評価を行った。得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂25.5g(dry基準)と反応液1000g(メタノール31.3質量%、ヨウ化メチル21.6質量%、酢酸47.1質量%)及び所定量の酢酸ロジウムを2000mlジルコニウム製オートクレーブに仕込み、反応温度180℃、CO圧力5.0MPaGで1時間反応させ、触媒化した。次いで、得られた触媒を、ヨウ化メチル8.0質量%、水5.5質量%、酢酸86.5質量%の溶液1000mlと共に2000mlジルコニウム製オートクレーブに仕込み、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した後、攪拌しながら220℃に加熱した。その後、オートクレーブ内で撹拌しながら220℃の状態を目標の分解率(10〜30%)となる時間(表中「Time(hr)」欄に記載する)維持することにより、目標の分解率の触媒を得た。液の窒素濃度を測定し、離脱したピリジン基量を求めて分解率の確認を行った。
【0099】
上記の方法により得られた分解率の異なる触媒を4−ビニルピリジン樹脂17g(dry基準)相当分取し、300ml筒型セパラブルフラスコ(バッフル4枚付)に入れ、40mmデスクタービン攪拌翼、撹拌速度250rpmで18、72、144時間攪拌を行った。攪拌終了後、目開き90μmの篩で固液分離を行い、通過液を質量既知300mlビーカーに受け、90℃で蒸発乾固して質量を測定し粉化物とした。粉化率は得られた粉化物質量と仕込み触媒質量との比で求めた。また、72時間と144時間後の粉化率(%)と攪拌時間とから粉化速度を求め、その平均値をそれぞれの粉化速度とし、触媒分解率との関係を求めた。結果を表3(実施例1)及び表4(比較例1)、並びに図3に示す。
【0100】
上記の方法で得られた分解率の異なる触媒を4−ビニルピリジン樹脂8.5g(dry基準)相当分取し、上記に記載した反応試験により活性を求めて触媒分解率と触媒活性の関係を求めた。結果を表5(実施例1)及び表6(比較例1)、並びに図4に示す。
【0101】
表1及び表2に示すように、ビニルピリジン基に由来する窒素含有量が3.00質量%以上8.00質量%以下、架橋度が35モル%以上70モル%以下、炭素原子と窒素原子とのモル比C/Nが12.00以上36.00以下、全細孔容積が0.20cc/g以上0.45cc/g以下、比表面積が70m/g以上280m/g以下、平均細孔径が5.0nm以上25.0nm以下、且つ10nm以上の細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合が4.0%以上90.0%以下を全て満たす実施例1〜14のビニルピリジン樹脂は、耐熱性、耐摩耗性及び触媒活性に優れたものであった。一方、上記条件を一部満たしていても一つでも満たさない条件がある場合は、比較例1〜7に示すように、耐熱性、耐摩耗性及び触媒活性に優れたビニルピリジン樹脂を得られなかった。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
【表6】
【0108】
この出願は2016年3月18日に出願された日本国特許出願第2016−54644からの優先権を主張するものであり、その内容を引用してこの出願の一部とするものである。
【符号の説明】
【0109】
1 カルボニル化反応器
2 フラッシャー
4 ライトエンド蒸留塔
5 デカンタ
図1
図2
図3
図4