特許第6957984号(P6957984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6957984-銅の除去方法、電気ニッケルの製造方法 図000002
  • 特許6957984-銅の除去方法、電気ニッケルの製造方法 図000003
  • 特許6957984-銅の除去方法、電気ニッケルの製造方法 図000004
  • 特許6957984-銅の除去方法、電気ニッケルの製造方法 図000005
  • 特許6957984-銅の除去方法、電気ニッケルの製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6957984
(24)【登録日】2021年10月11日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】銅の除去方法、電気ニッケルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20211021BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   C22B23/00 102
   C22B3/44 101B
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-105799(P2017-105799)
(22)【出願日】2017年5月29日
(65)【公開番号】特開2018-199858(P2018-199858A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2020年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝輝
(72)【発明者】
【氏名】大石 貴雄
【審査官】 河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/162254(WO,A3)
【文献】 特開2012−026027(JP,A)
【文献】 特開2015−214737(JP,A)
【文献】 特開2016−044355(JP,A)
【文献】 特開2001−262389(JP,A)
【文献】 特開平11−080986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
C25C 1/00−1/24,7/00−7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を含有するニッケル硫化物に対し塩素浸出処理を施して得られる含銅塩化ニッケル溶液から電解採取法により電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造プロセスにおける銅の除去方法であって、
前記電気ニッケルの製造プロセスは、
含銅塩化ニッケル溶液にニッケル硫化物を添加し、少なくとも、該含銅塩化ニッケル溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1の工程と、
前記第1の工程を経て得られたスラリーに、ニッケルマット及び前記塩素浸出処理により得られた塩素浸出残渣を添加し、該スラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2の工程と、を有するセメンテーション工程を含み、
前記セメンテーション工程における前記第1の工程を経て得られた反応終液の一部を脱銅電解処理の始液として用いるとともに、前記反応終液を、前記脱銅電解処理に供するに先立って、脱銅給液調整タンクに前記反応終液を装入して貯留し、前記脱銅給液調整タンク内の前記反応終液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が300mV以上350mV以下の範囲となるように電気ニッケルの製造プロセスにおける電解工程から排出されるニッケル電解廃液を用いて調液して、銅を電解採取する
銅の除去方法。
【請求項2】
銅を含有するニッケル硫化物を塩素浸出して得られる含銅塩化ニッケル溶液から電解採取法により電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造方法であって、
前記含銅塩化ニッケル溶液に含まれる銅を電解して除去する脱銅電解工程を含み、
前記脱銅電解工程における脱銅電解処理の始液として、
前記含銅塩化ニッケル溶液にニッケル硫化物を添加し、少なくとも、該含銅塩化ニッケル溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1の工程と、
前記第1の工程を経て得られたスラリーに、ニッケルマット及び前記塩素浸出処理により得られた塩素浸出残渣を添加し、該スラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2の工程と、を有するセメンテーション工程における前記第1の工程を経て得られる反応終液の一部を用いるとともに、
前記反応終液を、前記脱銅電解処理に供するに先立って、脱銅給液調整タンクに前記反応終液を装入して貯留し、前記脱銅給液調整タンク内の前記反応終液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が300mV以上350mV以下の範囲となるように電気ニッケルの製造プロセスにおける電解工程から排出されるニッケル電解廃液を用いて調液する、
電気ニッケルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気ニッケルの製造プロセスにおける銅の除去方法、及びその電気ニッケルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化物から目的金属を回収する湿式製錬プロセスとして、原料であるニッケルマットやニッケルコバルト混合硫化物(MS:ミックスサルファイド)を塩素浸出(塩素浸出工程)し、得られた浸出液から不純物を除去する浄液工程等を経て、電解工程にて電気ニッケルや電気コバルトを回収する方法がある。
【0003】
例えば図5に示すように、塩素浸出工程にて得られた浸出液(含銅塩化ニッケル溶液)は、セメンテーション工程との間に備えられた脱銅電解工程において余剰の銅が除去(例えば特許文献1〜3を参照)され、さらに、脱鉄工程において鉄や砒素等の不純物が除去された後、コバルト溶媒抽出工程に送られる。
【0004】
コバルト溶媒抽出工程では、溶媒抽出によりニッケルとコバルトとを分離し、塩化ニッケル溶液(NiCl)と塩化コバルト溶液(CoCl)とを得る。塩化ニッケル溶液は、浄液工程にてさらに不純物が除去され高純度となってニッケル電解工程へと送られ、電解採取により電気ニッケルが製造される。また、塩化コバルト溶液も、浄液工程にてさらに不純物が除去され高純度となってコバルト電解工程に送られ、電解採取により電気コバルトが製造される。
【0005】
さて、脱銅電解工程では、従来、塩素浸出液の一部を脱銅電解設備に導入して、下記化学式(1)、(2)の反応により、カソード側に銅を析出させて除去している。
Cu+e=Cu ・・・(1)
Cu2++2e=Cu ・・・(2)
【0006】
しかしながら、塩素浸出液中に含まれる銅は主として2価銅イオン(Cu2+)であり、2価銅イオンが多く存在すると、電解反応によりカソードに電着した銅(Cu)が下記反応式(3)に示す反応により再溶解することが知られており、脱銅電解処理を実行するにあたり、下記式(I)で表される電流効率の低下を引き起こすという問題がある。
Cu+Cu2+=Cu ・・・(3)
電流効率(%)=Cu除去量(kg/日)÷理論電着量(kg/日)
(なお、2価銅イオン基準とする。)
【0007】
このことから、塩素浸出液中の2価銅イオンの量を減少させるために、例えば特許文献1には、塩素浸出液中に還元剤を添加して2価銅イオン(Cu2+)を1価銅イオン(Cu)に還元する方法が開示されている。また、特許文献2には、酸化還元電位(ORP)を規定して還元剤を添加する方法が開示されている。さらに、特許文献3には、比色計を利用して塩素浸出液とアノライトとを混合する際の銅濃度のばらつきを抑制し、2価銅イオンが過剰にならないようにする方法が開示されている。
【0008】
ところが、上述した従来の技術は、それぞれに電流効率の向上効果が期待できる方法ではあるものの、実操業の現場では脱銅電解工程における電解処理の電流効率は60%程度であり、さらなる電流効率の向上が求められている。
【0009】
一方、特許文献4には、上述のセメンテーション工程を改良した技術として、2段階のセメンテーション処理を実行するようにして、含銅塩化ニッケル水溶液から銅を除去する技術が開示されている。しかしながら、セメンテーション処理により硫化物として固定され除去された銅は、セメンテーション残渣に含まれて再び塩素浸出工程に戻し入れられ、系内を循環するようになるため、この特許文献4に開示の技術を、脱銅電解工程における処理のように、系外に銅を抜き出すための技術として直接適用することは難しい。
【0010】
さらに、上述した電流効率の問題に加えて、原料面での問題もある。すなわち、従来の操業において使用しているニッケルマットの銅含有率は、2質量%〜4質量%程度であったが、原料事情により、銅含有率が15質量%〜18質量%と大幅に上昇したニッケルマットを使用するケースも増えており、これまでの脱銅電解工程における処理能力では、十分な対応が困難になるという問題もある。
【0011】
このことから、脱銅電解工程における処理に使用する設備増強といったコストのかかる方法ではなく、原料面での問題点にも対応可能な、原料対応力の高い脱銅電解工程における処理技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−80986号公報
【特許文献2】特開2001−262389号公報
【特許文献3】特開2016−89259号公報
【特許文献4】特開2012−26027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、設備コスト等を増加させることなく、脱銅電解工程における処理能力を向上させることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、2段階のセメンテーション処理を実行する電気ニッケルの製造プロセスにおける第1のセメンテーション工程を経て得られる反応終液の一部を、脱銅電解工程における銅電解処理の始液として用いることにより、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
(1)本発明の第1の発明は、銅を含有するニッケル硫化物に対し塩素浸出処理を施して得られる含銅塩化ニッケル溶液から電解採取法により電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造プロセスにおける銅の除去方法であって、前記電気ニッケルの製造プロセスは、含銅塩化ニッケル溶液にニッケル硫化物を添加し、少なくとも、該含銅塩化ニッケル溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1の工程と、前記第1の工程を経て得られたスラリーに、ニッケルマット及び前記塩素浸出処理により得られた塩素浸出残渣を添加し、該スラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2の工程と、を有するセメンテーション工程を含み、前記セメンテーション工程における前記第1の工程を経て得られた反応終液の一部を脱銅電解処理の始液として用いて銅を電解採取する、銅の除去方法である。
【0016】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記第1の工程を経て得られた反応終液のうち、酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が300mV以上350mV以下の範囲のものを脱銅電解処理の始液として用いる、銅の除去方法である。
【0017】
(3)本発明の第3の発明は、銅を含有するニッケル硫化物を塩素浸出して得られる含銅塩化ニッケル溶液から電解採取法により電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造方法であって、前記含銅塩化ニッケル溶液に含まれる銅を電解して除去する脱銅電解工程を含み、前記脱銅電解工程における脱銅電解処理の始液として、前記含銅塩化ニッケル溶液にニッケル硫化物を添加し、少なくとも、該含銅塩化ニッケル溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1の工程と、前記第1の工程を経て得られたスラリーに、ニッケルマット及び前記塩素浸出処理により得られた塩素浸出残渣を添加し、該スラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2の工程と、を有するセメンテーション工程における前記第1の工程を経て得られる反応終液の一部を用いる、電気ニッケルの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、設備コスト等を増加させることなく、脱銅電解工程における処理能力を向上させることができ、効率的に脱銅量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】電気ニッケルの製造プロセスの流れを示す工程図である。
図2】電気ニッケルの製造プロセスにおける、従来の脱銅電解処理の流れを示す概略工程図である。
図3】電気ニッケルの製造プロセスにおける、本発明の脱銅電解処理の流れを示す概略工程図である。
図4】脱銅電解工程における処理の流れを示す工程図を示す。
図5】湿式製錬プロセスの全体工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0021】
≪1.含銅塩化ニッケル溶液からの銅の除去方法≫
本発明に係る銅の除去方法は、銅を含有する塩化ニッケル溶液(含銅塩化ニッケル溶液)から銅を電解採取して除去する方法である。より具体的には、この方法は、銅を含有するニッケル硫化物を塩素浸出して得られる含銅塩化ニッケル溶液から電解採取法により電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造プロセスにおける銅の除去方法である。
【0022】
例えば図1は、含銅塩化ニッケル溶液から電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造プロセスの流れを示す工程図である。電気ニッケルの製造プロセスにおいては、ニッケル硫化物やニッケルマット等の原料に由来する銅やニッケルが塩素浸出処理(塩素浸出工程S1)にて浸出された後、含銅塩化ニッケル溶液として電解採取(電解工程S5)して電気ニッケルを製造するための電解液となる。そして、この製造プロセスの過程においては、含銅塩化ニッケルに含まれる銅が硫化物として固定され(セメンテーション工程S2,S3)、含銅塩化ニッケル溶液中のニッケルを濃縮する処理が行われる。セメンテーション工程(S2,S3)を経て得られた銅の硫化物を含むセメンテーション残渣は、再び塩素浸出処理(塩素浸出工程S1)に供されて浸出処理が行われる。
【0023】
このように、含銅塩化ニッケル溶液から電気ニッケルを製造するプロセスにおいては、原料に由来する銅が、ある所定の濃度を保った状態でプロセス系内を循環する。銅は、塩素浸出処理に際して、原料中のニッケルを効率的に浸出するために作用する。すなわち、塩素浸出処理においては、吹き込んだ塩素ガスにより原料中の銅が酸化され2価銅イオンとなり、その2価銅イオンによる酸化浸出によって原料中のニッケルが浸出されることになる。したがって、銅は、原料中のニッケルを有効にかつ安定的に浸出させるために重要な役割を果たしている。
【0024】
ところが、例えば電気ニッケルの増産を目的としてニッケル硫化物やニッケルマットの処理量を増加させたような場合や、原料事情により銅の含有率が高い原料を用いた場合等には、必然的に、電気ニッケルの製造プロセス系内を循環する銅量も増加する。
【0025】
そのため、このような電気ニッケルの製造プロセスにおいては、系内を循環する所定量の銅を電解採取して除去する処理(脱銅電解処理)が行われる。
【0026】
図2は、電気ニッケルの製造プロセス系内における、従来の脱銅電解処理の流れを示す概略工程図である。従来の方法では、塩素浸出工程にて得られた塩素浸出液(含銅塩化ニッケル溶液)の一部を脱銅電解工程に移送し、電解処理により銅を電解採取した後、処理後の脱銅後液を他の部分の含銅塩化ニッケル溶液と合わせてセメンテーション工程にて処理していた。しかしながら、塩素浸出液に含まれる銅は主として2価銅イオンであり、その含有量は多いため、脱銅電解工程における処理で電解析出した銅(Cu)が再溶解する現象が生じ、脱銅電解処理における電流効率の低下を引き起こす。
【0027】
ここで、脱銅電解処理における電流効率は、「2価銅イオンを基準」として、理論電着量(kg/日)に対するCu除去量(kg/日)の割合で表される。
電流効率(%)=Cu除去量(kg/日)÷理論電着量(kg/日)×100
【0028】
これに対して、本発明では、図3に示すように、電気ニッケルの製造プロセスにおいて、含銅塩化ニッケル溶液中の銅を硫化物として固定化するセメンテーション処理を2段階で行うようにし(図1の工程図参照)、1段階目のセメンテーション処理(第1のセメンテーション工程S2)での反応を経て得られた反応終液の一部を、銅を電解採取して除去する脱銅電解処理の始液として用いる。このような方法によれば、設備コスト等をかけることなく、脱銅電解処理の能力を向上させ、脱銅量を有効に増やすことができる。
【0029】
具体的に、電気ニッケルの製造プロセスにおける2段階のセメンテーション処理は、図1に示すように、含銅塩化ニッケル溶液にニッケル硫化物を添加し、少なくとも、その含銅塩化ニッケル溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1の工程(第1のセメンテーション工程S2)と、第1の工程を経て得られたスラリーに、ニッケルマット及び塩素浸出処理(塩素浸出工程S1)により得られた塩素浸出残渣を添加し、そのスラリーに含まれる1価銅イオンを硫化物として固定化する第2の工程(第2のセメンテーション工程S3)と、から構成される。
【0030】
2段階のセメンテーション処理における第1のセメンテーション工程S2では、下記の(4)及び(5)式に示すように、含銅塩化ニッケル溶液に対してニッケル硫化物を添加することで、得られる反応終液(含銅塩化ニッケル溶液)中のほとんどの銅イオンが1価銅イオンに還元される反応が生じる。このことは、ニッケル硫化物中の主形態であるNiSは、還元力が弱く、1価銅イオンを硫化銅として固定する効果は表れにくいため、主として、溶液中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する反応が進行することによる。
4NiS+2Cu2+→Ni2++Ni+2Cu ・・・(4)
NiS+2Cu2+→Ni2++2Cu+S ・・・(5)
【0031】
そして、このような第1のセメンテーション工程S2を経て得られた反応終液の一部を、脱銅電解工程に移送して脱銅電解処理を施すようにすることで、反応終液中の銅イオンのほとんどが1価銅イオンの状態であることから、2価銅イオン基準で表される上記の電流効率を2倍に向上させることができ、脱銅電解処理に使用される装置設備及び消費電力を同じ条件としたままで、プロセス系内から除去することができる銅量を2倍に増加させることができる。
【0032】
例えば、第1のセメンテーション工程S2を経て得られた反応終液は、スラリー状(主として、含銅塩化ニッケル溶液とニッケル硫化物の溶け残りによりなっている)であるため、そのスラリーを移送するためのポンプや、固液分離装置、固形分のタンク、溶液のタンク、さらに溶液を脱銅電解工程に送液する配管等が必要となり、脱銅電解処理においては一定のコストを要する。このとき、従来の方法により、プロセス系内から除去する銅量を2倍にしようとした場合には、同一の処理時間で処理するための装置設備(例えば、電解槽や整流装置等)を2倍に増強する必要があり、消費電力も2倍とすることを要する。あるいは、処理時間をおよそ2倍とし、その処理時間における消費電力も2倍とすることを要し、これらの態様では大きなコストが必要になることは容易に理解される。
【0033】
しかも、装置設備を新設するスペースがない場合、あるいは、処理時間を2倍にできない場合等の状況であれば、実質的に従来の方法では、脱銅電解処理の能力を向上させることは不可能となる。
【0034】
このような点においても、本発明によれば、脱銅電解処理の対象とする処理始液を、2段階のセメンテーション処理における第1の工程(S2)を経て得られた反応終液としているため、その反応終液の一部に対して脱銅電解処理を施すことで、脱銅電解処理の装置設備や消費電力、処理時間を高めることなく、従来に比べておよそ2倍の量の銅を効率的に除去することができる。
【0035】
なお、銅電解処理に際しては、第1のセメンテーション工程S2を経て得られた反応終液に対して固液分離処理を施し、溶液中に含まれるニッケル硫化物等の固形分を除去することが好ましい。
【0036】
ところで、一般的に、セメンテーション工程(S2,S3)では、複数の反応槽を使用して処理される。第1のセメンテーション工程S2を経て得られる反応終液、つまりセメンテーション処理の途中の工程液は、その酸化還元電位(ORP:銀/塩化銀電極基準)が350mV以下の範囲であり、ほぼ100%の銅イオンは価数が1価の1価銅イオンであることが知られている。一方で、工程液のORPが300mV未満となると、硫黄と反応しやすくなり硫化銅の沈殿が生じることが知られている。
【0037】
そこで、複数の反応槽を使用して処理されるセメンテーション工程(S2,S3)では、ORPが、好ましくは300mV以上350mV以下の範囲、より好ましくは320mV以上350mV以下の範囲である工程液を所定の反応槽から抜き出すことにより、第1のセメンテーション工程S2を経て得られる反応終液に相当する液を抜き出すことができる。そして、このような範囲に属するORPの工程液を脱銅電解処理の始液とすることで、上述したように効率的に銅を電解採取して除去することができる。
【0038】
また、第1のセメンテーション工程S2から抜き出した一部の反応終液を、脱銅電解処理に供する直前に、所定のタンクに貯留して溶液の状態を調整するようにしてもよい。具体的には、反応終液を脱銅電解処理に供するに先立って、所定のタンク(脱銅給液調整タンク)にその反応終液を装入して貯留し、適宜還元剤を添加する等して、溶液のORPが300mV以上350mV以下の範囲となるように調液してもよい。
【0039】
第1のセメンテーション工程S2にて含銅塩化ニッケル溶液中の銅イオンのほとんどが1価銅イオンの形態に還元されていても、また、その第1のセメンテーション工程S2の反応終液の一部を適切に反応槽から抜き出すことができたとしても、固液分離処理の過程や、脱銅電解工程に移送する過程において、溶液中の銅イオンが2価銅イオンの状態に変化する場合もある。このような状況であったとしても、上述したような脱銅給液調整タンクを設けるようにして、反応終液を脱銅電解処理に供するに先立ち、還元剤を添加して適切なORPの範囲に調液することで、1価銅イオンの状態に容易に回復させることができ、高い電流効率による脱銅電解処理を確実に実行させることができる。
【0040】
なお、このような態様において、調液に用いる還元剤としては、特に限定されないが、電気ニッケルの製造プロセスにおける電解工程S5から排出されるニッケル電解廃液(アノライト)を用いることが、コスト等の観点及び効率的な操業の観点から好ましい。
【0041】
また、脱銅電解処理に供する溶液は、60℃〜70℃程度とすることが好ましい。第1のセメンテーション工程S2を経て得られる反応終液は、回収後の温度としておよそ80℃程度である.そのため、この反応終液の温度を60℃〜70℃程度にまで低下させることにより、フィルタープレス等の固液分離装置を用いて固形分を分離することができ、操業効率を向上させることができる。
【0042】
反応終液の温度を下げる方法は、特に限定されず、例えば抜き出した反応終液(工程液)を、冷却手段を備えた槽に一時的に貯留する等の簡易な方法を選択すればよい。
【0043】
ここで、図4に、脱銅電解工程における処理の流れを示す工程図を示す。図4に示すように、脱銅電解工程においては、脱銅処理対象である含銅塩化ニッケル溶液(第1のセメンテーション工程S2を経て得られる反応終液の一部)と、例えばニッケル電解廃液(アノライト)等の還元剤とを混合槽にて混合する(混合工程S11)。このように、脱銅電解処理に先立ち、反応終液とアノライトとを混合することで、反応終液中の銅濃度を所定濃度となるように希釈するとともに、銅イオンを確実に1価銅イオンの形態とする。
【0044】
次に、混合工程S11にて得られた混合液(脱銅電解給液)を脱銅電解槽に装入し、脱銅電解処理を行う(脱銅電解処理工程S12)。この脱銅電解処理により、電解反応(Cu+e⇒Cu)が生じてカソード上に銅(銅粉)が電着する。なお、電解反応後に得られた電解後液は回収され、第2のセメンテーション工程S3へと移送される。
【0045】
次に、電解採取した銅粉を洗浄する(レパルプ工程S13)。得られた銅粉は、含銅塩化ニッケル溶液により湿潤した状態であり、このような銅粉を洗浄水等でレパルプすることによって、ニッケルを含有する溶液を回収することができる。
【0046】
次に、レパルプ工程S13にて洗浄して得られた銅粉スラリーに対して固液分離処理を施す(固液分離工程S14)。固液分離処理は、濾過処理等の公知の方法により行うことができ、この処理により銅粉と脱銅濾液とに分離する。なお、回収した銅粉は、系外に除去し、銅粉を分離した後の脱銅濾液は、脱銅電解槽に戻すことができる。
【0047】
≪2.電気ニッケルの製造プロセス≫
次に、電気ニッケル製造プロセスについて概要を説明する。
【0048】
上述したように、図1は、電気ニッケルの製造プロセスの流れを示す工程図である。図1に示すように、電気ニッケル製造プロセスは、銅を含有するニッケル硫化物(含銅ニッケル硫化物)を原料としてニッケルや銅の金属成分を塩素浸出し、塩素浸出液である含銅塩化ニッケル溶液を生成する塩素浸出工程S1と、得られた含銅塩化ニッケル溶液にニッケル硫化物を原料として添加し、少なくとも2価銅イオンを1価銅イオンに還元する第1のセメンテーション工程S2と、第1のセメンテーション工程S2後のスラリーに、ニッケルマット及び塩素浸出残渣を添加して1価銅イオンを固定化する第2のセメンテーション工程S3と、セメンテーション終液からニッケル以外の不純物を除去する浄液工程S4と、不純物を除去した塩化ニッケル溶液から電解採取法により電気ニッケルを得る電解工程S5とを有する。
【0049】
[1]塩素浸出工程
塩素浸出工程S1では、銅を含有するニッケル硫化物を原料に対して塩素を用いた浸出処理を施し、その含銅ニッケル硫化物に含まれるニッケルや銅の金属成分を浸出する。
【0050】
浸出処理対象である含銅ニッケル硫化物としては、例えば、ニッケル酸化鉱から湿式製錬により製造されたニッケル硫化物(ニッケルコバルト混合硫化物)を用いることができる。また、後述するセメンテーション工程(第2のセメンテーション工程S3)を経て得られるセメンテーション残渣16を併せて用いることができる。
【0051】
塩素浸出工程S1では、ニッケル硫化物やセメンテーション残渣16からなる含銅ニッケル硫化物のスラリーに対して、電解工程S5で回収された塩素ガス18等の塩素ガスを吹き込むことによって塩素浸出処理を行う。この塩素浸出処理により、含銅ニッケル硫化物中のニッケルや銅を浸出し、塩素浸出液11としての含銅塩化ニッケル溶液11’と、浸出残渣とを生成する。
【0052】
なお、含銅ニッケル硫化物により構成されるセメンテーション残渣16は、レパルプされてスラリー化したものが用いられる。レパルプ液としては、特に限定されず、例えば電解工程S5にて得られる塩化ニッケル溶液17を好適に用いることができる。
【0053】
より具体的に、塩素浸出工程S1における塩素浸出処理では、例えば下記の反応式(6)〜(8)に示す反応が生じる。
Cl+2Cu→2Cl+2Cu2+ ・・・(6)
NiS+2Cu2+→Ni2++S+2Cu ・・・(7)
CuS+2Cu2+→4Cu+S ・・・(8)
【0054】
この塩素浸出処理では、含銅ニッケル硫化物中に含まれる硫化ニッケル及び硫化銅等の金属成分が、塩素ガス18により酸化された2価銅イオンによって酸化浸出され、塩素浸出液11としての含銅塩化ニッケル溶液11’を生成する。一方で、硫黄を主成分とした塩素浸出残渣13は固相に残存する。塩素浸出工程S1にて生成された塩素浸出液11は、後述する第1のセメンテーション工程S2及び続く第2のセメンテーション工程S3に送液されて銅が固定除去された後、電気ニッケルを製造するための電解液となる。一方で、塩素浸出残渣13は、硫黄を回収するための原料、あるいは後述するセメンテーション工程(第2のセメンテーション工程S3)にて銅イオンを固定するための硫黄源となる。
【0055】
[2]第1のセメンテーション工程
第1のセメンテーション工程S2では、塩素浸出工程S1にて得られた塩素浸出液11である含銅塩化ニッケル溶液11’が送液され、この含銅塩化ニッケル溶液11’にニッケル硫化物10を添加する。これにより、主として、含銅塩化ニッケル溶液11’中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する。
【0056】
第1のセメンテーション工程S2において添加するニッケル硫化物10は、例えば、電気ニッケル製造プロセスにおける後工程で得られる塩化ニッケル溶液17と共にレパルプされて生成したスラリーとして添加される。このニッケル硫化物10は、例えば、ニッケル酸化鉱から湿式製錬により製造されたニッケル硫化物等が用いられる。
【0057】
具体的に、第1のセメンテーション工程S2では、例えば下記の(9)式に示す反応が主として生じ、また一部において(10)式に示す反応が生じる。
4NiS+2Cu2+→Ni2++Ni+2Cu ・・・(9)
NiS+2Cu→Ni2++CuS ・・・(10)
【0058】
すなわち、塩素浸出工程S1から送液された含銅塩化ニッケル溶液11’に対してニッケル硫化物10を添加することにより、ニッケル硫化物10中の主形態である硫化ニッケル(NiS)が、含銅塩化ニッケル溶液11’中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する(上記式(9))。また、その一部において、主形態であるNiSが、1価銅イオンを硫化銅(CuS)として固定化する(上記式(10))。
【0059】
ただし、ニッケル硫化物10中の主形態であるNiSの還元力は弱く、1価銅イオンを硫化銅として固定する効果は弱い。したがって、第1のセメンテーション工程S2では、主として、含銅塩化ニッケル溶液11’中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元する反応(上記式(9))が進行する。そして、還元された1価銅イオンは、後述するように第2のセメンテーション工程S3において硫黄源により硫化銅として固定化される。
【0060】
第1のセメンテーション工程S2で用いる含銅塩化ニッケル溶液11’と塩素浸出工程S1から送液される塩素浸出液11としては、特に限定されず、如何なる組成状態のものであっても適用可能である。例えば、ニッケル濃度が150g/L〜270g/L、銅濃度が20g/L〜40g/L、pH0.5〜2.0であるものを用いることができる。また、含銅塩化ニッケル溶液11’中における銅イオンの形態としては、特に限定されず、例えば2価銅イオン比率が60%〜90%であり、1価銅イオン比率が10%〜40%であるものを用いることができる。
【0061】
第1のセメンテーション工程S2において用いるニッケル硫化物10は、上述のように、例えば低品位ニッケル酸化鉱石を湿式製錬することによって得られ、ニッケル及びコバルトを含有する。このように、ニッケル酸化鉱石を湿式製錬により得られたニッケル硫化物10を含銅塩化ニッケル溶液11’に添加することにより、そのニッケル硫化物に含有される硫化ニッケル及び硫化コバルトの還元力によって2価銅イオンを効率的に1価銅イオンに還元することができる。
【0062】
ニッケル硫化物10の添加量としては、含銅塩化ニッケル溶液11’中の濃度が60g/L〜110g/Lとなるように添加することが好ましい。添加量が60g/L未満であると、十分に2価銅イオンを1価銅イオンに還元することができず、効率的に脱銅することができない可能性がある。一方、添加量が110g/Lを超えると、それ以上還元処理する効果が得られず操業上非効率となる。
【0063】
また、ニッケル硫化物10としては、例えばタワーミルやビーズミル等により湿式粉砕されたものを用いることが好ましい。具体的には、湿式粉砕することによって、平均粒径(D50)を80μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下としたものを用いることが好ましい。これにより、含銅塩化ニッケル溶液11’に含まれる1価銅イオンを効率的に還元することができ、銅イオンの除去効率を向上させることができる。特に、ニッケル硫化物10の粒径を、平均粒径(D50)で20μm以下、より好ましくは10μm以下とすることにより、効果的に含銅塩化ニッケル溶液11’中の銅濃度(1価銅換算)を30g/L以下とすることができ、第2のセメンテーション工程S3を経て、含銅塩化ニッケル溶液11’中の銅を0.1g/L以下まで効率的に除去することができる。なお、平均粒径(D50)とは、レーザー粒度分布測定により累積体積が50%となる粒子径である。
【0064】
第1のセメンテーション工程S2における反応温度条件としては、80℃〜110℃とすることが好ましく、特に90℃〜95℃とすることがより好ましい。温度条件を80℃以上とすることにより、効率的に含銅塩化ニッケル溶液11’中の銅イオンの還元処理を進行させることができ、後述する第2のセメンテーション工程S3において銅イオンの除去効率を向上させることができる。なお、温度条件を110℃より高くした場合、含銅塩化ニッケル溶液11’からの脱銅効率は向上するものの、耐熱仕様による設備コストや蒸気量増加による操業コストがかかり、効率的な操業ができなくなる。
【0065】
以上のように、この電気ニッケルの製造プロセスにおいては、2段階のセメンテーション処理が行われ、第1のセメンテーション工程S2では、主として、含銅塩化ニッケル溶液11’中の2価銅イオンを効率的に1価銅イオンに還元する。そこで、図3に示したように、このような第1のセメンテーション工程S2を経て得られる反応終液の一部を、脱銅電解処理を行う脱銅電解工程へ移送する。これにより、電解処理により電流効率を高めることができ、従来に比べて2倍程度の量の銅を系外に除去することができる。
【0066】
なお、第1のセメンテーション工程S2を経て得られた反応終液の一部を脱銅電解工程へ移送して脱銅処理した場合には、その脱銅した後の電解後液(脱銅後液)を、第1のセメンテーション工程S2に再び戻すようにすることができる(図3参照)。
【0067】
[3]第2のセメンテーション工程
第2のセメンテーション工程S3では、第1のセメンテーション工程S2を経て得られた含銅塩化ニッケル溶液11’を含むスラリーに、ニッケルマット12及び塩素浸出残渣13を添加し、2価銅イオンを1価銅イオンに還元するとともに、1価銅イオンを硫化銅等の硫化物として固定化する。
【0068】
具体的に、第2のセメンテーション工程S3では、例えば下記の(11)〜(14)に示す反応が生じる。
Ni+Cu2+→Ni2++Cu ・・・(11)
Ni+2Cu2+→Ni2++2NiS+2Cu ・・・(12)
Ni+2Cu+S→Ni2++CuS ・・・(13)
Ni+2Cu+S→Ni2++2NiS+CuS ・・・(14)
【0069】
第2のセメンテーション工程S3では、上記(11)及び(12)式に示すように、添加したニッケルマット12に含まれるニッケルメタル(Ni)や亜硫化ニッケル(Ni)により、含銅塩化ニッケル溶液11’に残っている2価銅イオンが1価銅イオンに還元される。このように、第1のセメンテーション工程S2では還元されずに残った2価銅イオンが、第2のセメンテーション工程S3にてニッケルマットにより還元される。
【0070】
また、第2のセメンテーション工程S3では、第1のセメンテーション工程S2及びこの第2のセメンテーション工程S3で還元された1価銅イオンを、ニッケルマット12中に含まれるNiやNiにより、硫黄源として添加した塩素浸出残渣13を用いて硫化物として固定化する反応が生じる((13)及び(14)式)。これにより、含銅塩化ニッケル溶液11’に含まれる銅を固定化して除去する。
【0071】
第2のセメンテーション工程S3において添加するニッケルマット12は、例えば乾式製錬によって得られたニッケルマットを用い、主形態であるニッケルメタル及び亜硫化ニッケルの還元力を利用して、2価銅イオンを1価銅イオンに還元する。一方で、ニッケルマット12におけるニッケルメタル等は、2価銅イオンの酸化力によってニッケルイオンに浸出される。なお、ニッケルマット12としては、粉砕処理されて、例えば後工程の電解工程S5から生成した塩化ニッケル溶液17によってレパルプしてスラリー化されたものを用いることができる。
【0072】
また、第2のセメンテーション工程S3において添加する塩素浸出残渣13は、塩素浸出工程S1において副産物として固相に残存した残渣であり、銅イオンを固定化するための硫黄源として添加する。塩素浸出残渣13は、ニッケルマット12と共に、主形態である硫黄によって1価銅イオンを硫化銅等の硫化物として固定化する。
【0073】
第2のセメンテーション工程S3における反応温度条件としては、70℃〜100℃とすることが好ましく、80℃〜90℃とすることがより好ましい。温度条件を70℃以上とすることにより、残存する2価銅イオンを1価銅イオンに還元し、1価銅イオンを硫黄によって効率的に固定化する反応を進行させることができる。なお、温度条件を100℃より高くした場合、それ以上に含銅塩化ニッケル溶液11’からの脱銅効率は向上せず、操業効率の観点から100℃以下とすることが好ましい。
【0074】
以上のように、先ず、第1のセメンテーション工程S2において含銅塩化ニッケル溶液11’に対してニッケル硫化物10を添加し、ニッケル硫化物10によって2価銅イオンを1価銅イオンに還元する。そして、生成したスラリーに対して第2のセメンテーション工程S3において、ニッケルマット12及び塩素浸出残渣13を添加し、ニッケルマット12によって2価銅イオンを1価銅イオンに還元するとともに、硫黄源としての塩素浸出残渣13を用いて1価銅イオンを硫化銅等の硫化物として固定化し、含銅塩化ニッケル溶液11’中の銅を除去する。
【0075】
このように、ニッケルマット12及び塩素浸出残渣13に含まれるニッケルメタル及び亜硫化ニッケルのみによって2価銅イオンを還元して固定化するのではなく、先ずニッケル硫化物10の還元力を最大限生かして含銅塩化ニッケル溶液11’中の2価銅イオンを1価銅イオンに還元し、その後にニッケルマット12及び塩素浸出残渣13により1価銅イオンを硫化物として固定化する。これにより、系内に循環する銅に対して、従来と同様のニッケルマット量で効率的に脱銅処理を行うことができ、含銅塩化ニッケル溶液11’から確実に銅を除去することができる。
【0076】
なお、第2のセメンテーション工程S3を経て得られたスラリーに対しては、固液分離処理を施すことによって、セメンテーション終液14とセメンテーション残渣16とに分離することができる。固液分離処理としては、特に限定されず、例えば遠心分離機やフィルタープレス等の周知の方法によって行うことができ、セメンテーション残渣である硫化銅等の沈殿物を効率的に分離除去することができる。
【0077】
[4]浄液工程
浄液工程S4では、第2のセメンテーション工程S3を経て得られたセメンテーション終液(ニッケル浸出液)14からニッケル以外の不純物を除去し、電解採取するための塩化ニッケル溶液を得る。
【0078】
浄液工程S4は、主な工程として、脱鉄工程と、脱コバルト工程と、脱鉛工程と、脱亜鉛工程とがある。これらの工程では、セメンテーション終液14であるニッケル浸出液から不純物を除去する方法として、例えば酸化剤としての塩素ガスとアルカリ剤としての炭酸塩を用いる酸化中和法を用いることができる。酸化中和法は、コバルトや鉄等の重金属が高次の酸化イオンになると、低いpH領域で水酸化物になりやすい性質を利用したものであり、湿式製錬における浄液工程をはじめ、重金属を含む排水処理等に汎用されている方法である。
【0079】
例えば、浄液工程S4では、下記(15)式に示す反応により不純物を除去する。
2M2++Cl+3NiCO+3HO→
2M(OH)+3Ni2++2Cl+3CO ・・・(15)
(ただし、Mは、コバルト又は鉄である。)
【0080】
上記(15)式に示すように、浄液工程S4では、塩素ガスを用いてニッケル浸出液から、対象とする不純物の水酸化物沈殿を形成させ、不純物を除去した塩化ニッケル溶液を生成させる。
【0081】
一般に、酸化中和法に用いられる薬剤は、酸化剤としては、塩素ガスの他に次亜塩素酸、酸素、空気等を用いることができる。また、アルカリ剤としては、炭酸塩の他に苛性ソーダ等の水酸化物、アンモニア等を用いることができる。これらの薬剤はプロセス条件に適合した組み合わせで使用されるが、ニッケルの湿式製錬プロセスにおいては、酸化剤として塩素ガス、アルカリ剤として炭酸塩を用いることが好ましい。酸化剤として塩素ガスを用いる理由は、塩素ガスは工程内で発生する強酸化剤であって利用し易いためである。また、アルカリ剤として炭酸塩を用いる理由は、プロセス全体のニッケル、ナトリウム、硫酸等のイオン濃度を制御できるとともに、酸化中和の際の反応性に優れるためである。
【0082】
[5]電解工程
電解工程S5では、上述の浄液工程S4を経て浄液された塩化ニッケル溶液から電解採取法により電気ニッケル15を得る。
【0083】
具体的に、電解工程S5では、カソード及びアノードにおいて、それぞれ下記(16)及び(17)に示す反応が生じる。
(カソード側)Ni2++2e→Ni ・・・(16)
(アノード側)2Cl→Cl+2e ・・・(17)
【0084】
すなわち、カソード側では、上記(11)式に示すように、塩化ニッケル溶液中のニッケルイオンがメタル(電気ニッケル15)として析出する。また、アノード側では、上記(12)式に示すように、塩化ニッケル溶液中の塩素イオンが塩素ガス18として発生する。発生した塩素ガス18は、回収塩素ガスとして塩素浸出工程S1等で用いられる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
電気ニッケルの製造プロセス(図1参照)のプロセス系内における余剰の銅を除去するための脱銅電解処理を行った。脱銅電解処理においては、脱銅電解槽を6槽(各槽:縦0.95m、横3.92m、平均深さ1.2m)連結させて実行し、処理対象の給液流量を1槽あたり20L/分とした。
【0087】
実施例1では、脱銅電解処理に供する工程液として、第1のセメンテーション工程S2を経て得られた反応終液の一部を使用した。なお、この反応終液のORP(銀/塩化銀電極基準)は300mVであった。また、脱銅電解処理に供する反応終液中に、硫化銅の沈殿物が一部に確認された。
【0088】
脱銅電解槽への反応終液の全流量を1200L/分として電解処理を行った結果、電流効率は150%であり、1日の脱銅量は4.8tにも及び、効率的に銅を除去することができた。
【0089】
なお、電流効率は、2価銅イオンを基準として下記式で表される。
電流効率(%)=Cu除去量(kg/日)÷理論電着量(kg/日)×100
【0090】
[実施例2]
実施例2では、実施例1と同様に、脱銅電解処理に供する工程液として、第1のセメンテーション工程S2を経て得られた反応終液の一部を使用した。なお、この反応終液のORP(銀/塩化銀電極基準)が350mVであるものをセメンテーション処理の反応槽から抜き出して使用した。また、脱銅電解処理に供する反応終液中に、硫化銅の沈殿物は確認されなかった。
【0091】
脱銅電解槽への反応終液の全流量を1200L/分として電解処理を行った結果、電流効率は160%であり、1日の脱銅量は5.1tにも及び、効率的に銅を除去することができた。
【0092】
[実施例3]
実施例3では、実施例1と同様に、脱銅電解処理に供する工程液として、第1のセメンテーション工程S2を経て得られた反応終液の一部を使用した。なお、この反応終液のORP(銀/塩化銀電極基準)は380mVであり、すべての銅イオンのうちの95%が1価銅イオンであった。
【0093】
脱銅電解槽への反応終液の全流量を1200L/分として電解処理を行った結果、電流効率は152%であり、1日の脱銅量は4.8tにも及び、効率的に銅を除去することができた。
【0094】
[比較例1]
比較例1では、脱銅電解処理に供する工程液として、塩素浸出工程S1を経て得られた塩素浸出液の一部を使用した。なお、この塩素浸出液のORP(銀/塩化銀電極基準)は545mVであった。
【0095】
脱銅電解槽への塩素浸出液の全流量を780L/分として電解処理を行った結果、電流効率は80%であり、1日の脱銅量は2.5tとなり、効率的に銅を除去することができなかった。
図1
図2
図3
図4
図5