特許第6957998号(P6957998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6957998マルチ荷電粒子ビーム描画装置及びマルチ荷電粒子ビーム調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6957998
(24)【登録日】2021年10月11日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】マルチ荷電粒子ビーム描画装置及びマルチ荷電粒子ビーム調整方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20211021BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20211021BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   H01L21/30 541W
   G03F7/20 504
   H01L21/30 541D
   G03F7/20 506
   H01L21/30 541E
   H01J37/305 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-112753(P2017-112753)
(22)【出願日】2017年6月7日
(65)【公開番号】特開2018-207014(P2018-207014A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】森田 博文
【審査官】 山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−080155(JP,A)
【文献】 特開2008−053002(JP,A)
【文献】 特開平08−329870(JP,A)
【文献】 特開2012−243803(JP,A)
【文献】 特開2014−127569(JP,A)
【文献】 特開2009−200565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
H01J 37/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
複数の第1開口が形成され、前記複数の第1開口が含まれる領域に前記荷電粒子ビームの照射を受け、前記複数の第1開口を前記荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することによりマルチビームを形成する成形アパーチャアレイと、
前記複数の第1開口を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームが通過する複数の第2開口が形成され、前記複数の第2開口に、それぞれ通過する前記ビームのブランキング偏向を行うブランカが設けられたブランキングアパーチャアレイと、
第3開口が形成され、前記マルチビームのうち、前記複数のブランカによってビームOFFの状態になるように偏向されたビームを前記第3開口から外れた位置にて遮蔽し、ビームONの状態になるビーム全体を前記第3開口から通過させるストッピングアパーチャと、
前記ブランキングアパーチャアレイと前記ストッピングアパーチャとの間に配置され、ビーム軌道の調整を行う第1アライメントコイルと、
前記ストッピングアパーチャと前記ビームにより描画される基板を載置するステージとの間に配置された対物レンズと、
前記ストッピングアパーチャの面内方向に前記第3開口の位置の移動を制御する移動制御部と、
を備え、
前記第1アライメントコイルは、移動した前記ストッピングアパーチャの前記第3開口の中心をビームが通るようにビーム軌道を調整することを特徴とするマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記対物レンズは、第1対物レンズ及び第2対物レンズを含み、
前記第1対物レンズと前記第2対物レンズとの間に配置され、前記第2対物レンズを通過するビームの軌道の調整を行う第2アライメントコイルをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記移動制御部は、前記第1アライメントコイルのビーム軌道調整により前記第3開口を通過したビームが前記第1対物レンズの中心を通るように、前記第3開口の位置を調整することを特徴とする請求項2に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
荷電粒子ビームを放出する工程と、
複数の第1開口が形成された成形アパーチャアレイを用いて、前記複数の第1開口が含まれる領域に前記荷電粒子ビームの照射を受け、前記複数の第1開口を前記荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することによりマルチビームを形成する工程と、
ブランキングアパーチャアレイの複数の第2開口と、初期位置に配置されたストッピングアパーチャに形成された第3開口を通過した前記マルチビームについて、軌道を調整する対物レンズの励磁を搖動させ、ビーム位置の面内移動量を測定する工程と、
前記ビーム位置の面内移動量が最少となる面内位置に前記第3開口の位置を移動する工程と、
移動した前記ストッピングアパーチャの前記第3開口の中心をビームが通るようにビーム軌道を調整する工程と、
を備え
前記ストッピングアパーチャは、前記ブランキングアパーチャアレイに設けられたブランカによってビームONの状態とされたビーム全体を前記第3開口から通過させることを特徴とするマルチ荷電粒子ビーム調整方法。
【請求項5】
前記対物レンズは、第1対物レンズ及び第2対物レンズを含み、
前記第3開口を通過したビームが前記第1対物レンズの中心を通過可能となる位置に前記ストッピングアパーチャを移動し、
前記第1対物レンズを通過したビームが前記第2対物レンズの中心を通るようにビーム軌道を調整することを特徴とする請求項4に記載のマルチ荷電粒子ビーム調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置及びマルチ荷電粒子ビーム調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターン(マスク、或いは特にステッパやスキャナで用いられるものはレチクルともいう。)をウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンは、電子ビーム描画装置によって描画され、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
マルチビームを使った描画装置は、1本の電子ビームで描画する場合に比べて、一度に多くのビームを照射できるので、スループットを大幅に向上させることができる。マルチビーム描画装置の一形態であるブランキングアパーチャアレイを使ったマルチビーム描画装置では、例えば、1つの電子銃から放出された電子ビームを複数の穴を持った成形アパーチャアレイに通してマルチビーム(複数の電子ビーム)を形成する。マルチビームは、ブランキングアパーチャアレイのそれぞれ対応するブランカ内を通過する。ブランキングアパーチャアレイの下方にはストッピングアパーチャが設けられており、ブランキングアパーチャアレイを通過したマルチビームは、ストッピングアパーチャの開口の位置でクロスオーバを形成する。
【0004】
ブランキングアパーチャアレイは、ビームを個別に偏向するための電極対(ブランカ)を有し、電極間にビーム通過用の開口が設けられている。ブランカの一方の電極をグラウンド電位で固定し、他方の電極をグラウンド電位とそれ以外の電位とに切り替えることにより、それぞれ個別に、通過する電子ビームのブランキング偏向を行う。ブランカによって偏向された電子ビームはストッピングアパーチャで遮蔽され、偏向されなかった電子ビームはストッピングアパーチャの開口を通過して基板に照射される。
【0005】
一般にアパーチャの分類としては、成形アパーチャ(「成形アパーチャアレイ」も含む)、制限絞り(「レンズ絞り」、単に「絞り」などと呼ばれる場合もある)、ストッピングアパーチャがある。成形アパーチャは、ビームを所望の形状にするもので、レンズ系でビームが大きく拡げられた所に配置され、ビームが照射され、所望の形状に対応する一部のビームのみを通し、それ以外をカットする。レンズ絞りは、ビーム電流や収束状態を調整するものであり、レンズの前後またはほぼ同じ位置に配置され、拡がったビームの中心部を通し周辺部の不要なビームをカットする。これらに対し、ストッピングアパーチャは、通常はビームを全て通過させ、ブランキング偏向されたビームのみをカットするもので、マルチビーム描画装置用光学系では、ビームの拡がりの小さくなるクロスオーバ(光源像)の結像面付近に配置される。
【0006】
マルチビーム描画装置のブランキングは、描画ドーズ量の制御性を高めるという面から高速動作が要求される。回路技術上、出力電圧(すなわち、ブランカ駆動電圧)が高くなると高速動作は困難となるので、現状利用可能な技術においては、例えば3〜5V程度が上限となる。一方、ブランカ面内での個別ビームのピッチは30〜50μm程度である。ブランカは微細加工技術により製造するが、現状の微細加工技術で形成しうるブランカの電極長は20〜40μmが上限となる。つまり、ブランカに印加する電圧をあまり高くできず、電極長にも制限があるため、ブランカによる偏向量を大きくすることは困難であった。偏向量が小さいと、ビームのカット率が落ちるので、これを補い描画ドーズ量の制御性を高めるためは、ストッピングアパーチャの開口径をより小さくする事が好ましい。
【0007】
マルチビーム描画装置では、複数のビームを一度に照射し、成形アパーチャアレイの同じ穴又は異なる穴を通過して形成されたビーム同士をつなげていき、所望の図形形状のパターンを描画する。基板上に照射されるマルチビーム全体像の形状が描画図形のつなぎ精度となって現れるため、成形アパーチャアレイ像を精度良基板上に形成することが求められる。
【0008】
マルチビーム描画装置では、成形アパーチャアレイの形状誤差の影響を低減するために、ストッピングアパーチャと基板との間に2段の対物レンズを配置し、高い縮小率でビームを縮小することが行われている。
【0009】
マルチビーム描画装置では、基板面に結像される像が大きいため、ビーム軌道がレンズ中心から僅かにずれただけでもマルチビーム全体像に大きな歪みが生じる。歪みを低減するには、ストッピングアパーチャの開口を通過したビームが、2段の対物レンズの中心を通過する必要がある。しかし、機械的誤差により、対物レンズ間や、対物レンズとストッピングアパーチャとの間で軸ずれが生じ、ストッピングアパーチャの開口を通過したビームが、2段の対物レンズの中心を通るようにすることは困難であった。
【0010】
上述したように、ストッピングアパーチャの開口径は小さい方が好ましい。ストッピングアパーチャの開口径を小さくした場合、ストッピングアパーチャの開口を通過したビームが、2段の対物レンズの中心を通るようにすることはより困難となる。
【0011】
ストッピングアパーチャと1段目の対物レンズとの間にアライメントコイルを配置して、ビームの軌道を曲げることが考えられるが、光学設計上、ストッピングアパーチャと1段目の対物レンズとは近接して配置されるため、アライメントコイルの配置は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−329870号公報
【特許文献2】特開平10−302689号公報
【特許文献3】特開2002−117795号公報
【特許文献4】特開平2−18844号公報
【特許文献5】特開2008−53002号公報
【特許文献6】特開平7−302564号公報
【特許文献7】特開2005−310699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、ストッピングアパーチャを通過したビームが、対物レンズの中心を通るようにすることができるマルチ荷電粒子ビーム描画装置及びマルチ荷電粒子ビーム調整方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム描画装置は、荷電粒子ビームを放出する放出部と、複数の第1開口が形成され、前記複数の第1開口が含まれる領域に前記荷電粒子ビームの照射を受け、前記複数の第1開口を前記荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することによりマルチビームを形成する成形アパーチャアレイと、前記複数の第1開口を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームが通過する複数の第2開口が形成され、前記複数の第2開口に、それぞれ通過する前記ビームのブランキング偏向を行うブランカが設けられたブランキングアパーチャアレイと、第3開口が形成され、前記マルチビームのうち、前記複数のブランカによってビームOFFの状態になるように偏向されたビームを前記第3開口から外れた位置にて遮蔽し、ビームONの状態になるビームを前記第3開口から通過させるストッピングアパーチャと、前記ブランキングアパーチャアレイと前記ストッピングアパーチャとの間に配置され、ビーム軌道の調整を行う第1アライメントコイルと、前記ストッピングアパーチャと前記ビームにより描画される基板を載置するステージとの間に配置された対物レンズと、前記ストッピングアパーチャの面内方向に前記第3開口の位置を移動する移動部と、を備えるものである。
【0015】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム描画装置において、前記対物レンズは、第1対物レンズ及び第2対物レンズを含み、前記第1対物レンズと前記第2対物レンズとの間に配置され、前記第2対物レンズを通過するビームの軌道の調整を行う第2アライメントコイルをさらに備える。
【0016】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム描画装置において、前記移動部は、前記第1アライメントコイルのビーム軌道調整により前記第3開口を通過したビームが前記第1対物レンズの中心を通るように、前記第3開口の位置を調整する。
【0017】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム調整方法は、荷電粒子ビームを放出する工程と、複数の第1開口が形成された成形アパーチャアレイを用いて、前記複数の第1開口が含まれる領域に前記荷電粒子ビームの照射を受け、前記複数の第1開口を前記荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することによりマルチビームを形成する工程と、ブランキングアパーチャアレイの複数の第2開口と、初期位置に配置されたストッピングアパーチャに形成された第3開口を通過した前記マルチビームについて、軌道を調整する対物レンズの励磁を搖動させ、ビーム位置の面内移動量を測定する工程と、前記ビーム位置の面内移動量が最少となる面内位置に前記第3開口の位置を移動し、前記第3開口を通過したビームが、前記ストッピングアパーチャと前記対物レンズの中心を通るように、ビーム軌道を調整する工程と、を備えるものである。
【0018】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム調整方法において、前記対物レンズは、第1対物レンズ及び第2対物レンズを含み、前記第3開口を通過したビームが前記第1対物レンズの中心を通過可能となる位置に前記ストッピングアパーチャを移動し、前記第1対物レンズを通過したビームが前記第2対物レンズの中心を通るようにビーム軌道を調整する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ストッピングアパーチャを通過したビームが、対物レンズの中心を通るようにすることができる。その結果、歪のないマルチビームを形成可能とするとともに、ビームカット率向上とビームカット時間短縮による描画ドーズ量制御性向上がなされ、描画精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態によるマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。
図2】成形アパーチャアレイの模式図である。
図3】(a)はストッピングアパーチャの位置調整前のビーム軌道を示す模式図であり、(b)はストッピングアパーチャの位置調整後のビーム軌道を示す模式図である。
図4】ストッピングアパーチャの位置決定方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限るものでなく、イオンビーム等でもよい。
【0022】
図1に示す描画装置は、マスクやウェーハ等の対象物に電子ビームを照射して所望のパターンを描画する描画部10と、描画部10の動作を制御する制御部60とを備える。描画部10は、電子ビーム鏡筒12及び描画室40を有した、マルチビーム描画装置の一例である。
【0023】
電子ビーム鏡筒12内には、電子銃14、照明レンズ16、成形アパーチャアレイ18、ブランキングアパーチャアレイ20、投影レンズ22、第1アライメントコイル24、ストッピングアパーチャ(制限アパーチャ部材)26、第1対物レンズ28、第2対物レンズ30、及び第2アライメントコイル32が配置されている。描画室40内には、XYステージ42が配置される。XYステージ42上には、描画対象となる基板44であるマスクブランクが載置されている。
【0024】
基板44には、例えば、ウェーハや、ウェーハにエキシマレーザを光源としたステッパやスキャナ等の縮小投影型露光装置や極端紫外線露光装置を用いてパターンを転写する露光用のマスクが含まれる。また、基板44には、既にパターンが形成されているマスクも含まれる。例えば、レベンソン型マスクは2回の描画を必要とするため、1度描画されマスクに加工された物に2度目のパターンを描画することもある。
【0025】
図2に示すように、成形アパーチャアレイ18には、縦m列×横n列(m,n≧2)の開口(第1開口)18Aが所定の配列ピッチで形成されている。各開口18Aは、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。開口18Aの形状は、円形であっても構わない。これらの複数の開口18Aを電子ビームBの一部がそれぞれ通過することで、マルチビームMBが形成される。
【0026】
ブランキングアパーチャアレイ20は、成形アパーチャアレイ18の下方に設けられ、成形アパーチャアレイ18の各開口18Aに対応する通過孔20A(第2開口)が形成されている。各通過孔20Aには、対となる2つの電極の組からなるブランカ(図示略)が配置される。ブランカの一方はグラウンド電位で固定されており、他方をグラウンド電位と別の電位に切り替える。各通過孔20Aを通過する電子ビームは、ブランカに印加される電圧によってそれぞれ独立に偏向される。このように、複数のブランカが、成形アパーチャアレイ18の複数の開口18Aを通過したマルチビームMBのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0027】
ストッピングアパーチャ26は、ブランカにより偏向されたビームを遮蔽する。ブランカにより偏向されなかったビームは、ストッピングアパーチャ26の中心部に形成された開口26A(第3開口)を通過する。ストッピングアパーチャ26は、ブランキングアパーチャアレイ20による個別ブランキング時のビームの漏れを少なくするために、ビームの拡がりの小さくなるクロスオーバ(光源像)の結像面に配置される。
【0028】
ストッピングアパーチャ26は、ビームの進行方向(ビーム軸方向)に直交する面内で移動可能な移動部50に搭載されており、移動部50によりアパーチャ面内(水平面内)方向に移動させることにより、開口26A(第3開口)の位置を調整することができるようになっている。移動部50は、例えば公知のピエゾ素子で駆動するものを用いることができる。
【0029】
制御部60は、制御計算機62、制御回路64、及び移動制御回路66を有している。移動制御回路66は、移動部50に接続されている。
【0030】
電子銃14(放出部)から放出された電子ビームBは、照明レンズ16によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ18全体を照明する。電子ビームBが成形アパーチャアレイ18の複数の開口18Aを通過することによって、複数の電子ビーム(マルチビーム)MBが形成される。マルチビームMBは、ブランキングアパーチャアレイ20のそれぞれ対応するブランカ内を通過する。
【0031】
ブランキングアパーチャアレイ20を通過したマルチビームMBは、投影レンズ22によって縮小され、ストッピングアパーチャ26の中心の開口26Aに向かって進む。ここで、ブランキングアパーチャアレイ20のブランカによって偏向された電子ビームは、ストッピングアパーチャ26の開口26Aから位置がはずれ、ストッピングアパーチャ26によって遮蔽される。一方、ブランカによって偏向されなかった電子ビームは、ストッピングアパーチャ26の開口26Aを通過する。ブランカのオン/オフによって、ブランキング制御が行われ、ビームのオン/オフが制御される。
【0032】
このように、ストッピングアパーチャ26は、ブランキングアパーチャアレイ20のブランカによってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでにストッピングアパーチャ26を通過したビームが、1回分のショットのビームとなる。
【0033】
投影レンズ22とストッピングアパーチャ26との間には、ビームの軌道調整を行う第1アライメントコイル24が配置されている。
【0034】
ストッピングアパーチャ26を通過したマルチビームMBは、第1対物レンズ28及び第2対物レンズ30により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、基板44上に照射される。第1対物レンズ28及び第2対物レンズ30の2段の対物レンズを用いることで、高い縮小率を実現することが可能となる。レンズの結像収差や結像歪を小さくするために、ストッピングアパーチャ26は、1段目(上段)の第1対物レンズ28の直上に近接して配置される。
【0035】
第1対物レンズ28と第2対物レンズ30との間に配置された第2アライメントコイル32は、ビームが第2対物レンズ30の中心を通るように、ビームの軌道を調整する。
【0036】
制御計算機62は、記憶装置から描画データを読み出し、複数段のデータ変換処理を行って装置固有のショットデータを生成する。ショットデータには、各ショットの照射量及び照射位置座標等が定義される。
【0037】
制御計算機62は、ショットデータに基づき各ショットの照射量を制御回路64に出力する。制御回路64は、入力された照射量を電流密度で割って照射時間tを求める。そして、制御回路64は、対応するショットを行う際、照射時間tだけブランカがビームONするように、ブランキングアパーチャアレイ20の対応するブランカに偏向電圧を印加する。
【0038】
描画部10では、部材の製造誤差や、装置への取り付け誤差等により、ストッピングアパーチャ26の開口26Aの位置と、第1対物レンズ28の中心位置にずれが生じ得る。このような位置ずれが生じた場合、ストッピングアパーチャ26の開口26Aを通過させ、かつ第1対物レンズ28の中心を通すように第1アライメントコイル24でビーム軌道を調整することは困難であり、図3(a)に示すように、ビーム軌道が第1対物レンズ28の中心からずれ、基板44に照射されるマルチビーム全体像に歪みが生じる。
【0039】
本実施形態では、ストッピングアパーチャ26が移動部50に搭載され、ストッピングアパーチャ26の面内方向における開口26Aの位置を調整することができる。図3(b)に示すようにストッピングアパーチャ26を移動させることで、開口26Aを通過させ、かつ第1対物レンズ28の中心を通すように第1アライメントコイル24でビーム軌道を調整することが可能となる。なお、図3(a)(b)では移動部50の図示を省略している。
【0040】
図4に示すフローチャートを用いて、ストッピングアパーチャ26の位置決定方法について説明する。
【0041】
ストッピングアパーチャ26を移動領域内の初期位置へ移動する(ステップS1)。移動領域は、想定される機械的誤差の数倍、例えば500μm四方の領域である。
【0042】
ビームがストッピングアパーチャ26の開口26Aの中心を通るように、第1アライメントコイル24の電流を調整する(ステップS2)。
【0043】
第1対物レンズ28の励磁を揺動し、単位揺動量に対する基板面でのビーム位置の面内移動量を測定する(ステップS3、S4)。
【0044】
移動領域内に未測定の場所が残っている場合は(ステップS5_No)、所定のピッチでストッピングアパーチャ26を移動させ(ステップS6)、再度ステップS2〜S4を実行し、ビーム位置移動量を測定する。所定のピッチは、例えば、移動領域を5〜20程度に分割する長さであり、25〜100μm程度である。
【0045】
移動領域内の全ての場所でビーム位置移動量を測定した後(ステップS5_Yes)、ビーム位置移動量が最小となるストッピングアパーチャ26の空き孔26Aの位置を検出する(ステップS7)。この検出した位置にストッピングアパーチャ26の開口26Aを配置することで、第1アライメントコイル24は、開口26Aを通過したビームが、第1対物レンズ28の中心を通るようにビーム軌道を調整できる。
【0046】
ストッピングアパーチャ26の開口26Aの位置を決定した後、ビームが第2対物レンズ30の中心を通るように、第2アライメントコイル32を調整する。例えば、第2対物レンズ30の励磁を揺動させ、その揺動に対する基板面でのビーム位置の面内移動が無くなるように(面内移動を最小化するように)、第2アライメントコイル32の電流量を調整する。
【0047】
制御計算機62は、ステップS7で検出された位置の位置情報を移動制御回路66へ出力する。移動制御回路66は、移動部50を制御し、ストッピングアパーチャ26を、検出された位置に移動させる。また、制御回路64は、制御計算機62からの制御信号に基づいて、第1アライメントコイル24及び第2アライメントコイル32の電流量を制御する。
【0048】
このように、ストッピングアパーチャ26の開口26Aの位置を調整することで、ストッピングアパーチャ26の開口26Aを通過したビームが、2段の対物レンズ28,30の中心を通るようにすることができる。
【0049】
本実施形態によれば、ストッピングアパーチャ26の開口26Aの径を小さくしても、ビームが2段の対物レンズ28,30の中心を通るようにすることができる。これにより、歪みのないマルチビームが形成可能となる。さらに、ブランキングアパーチャアレイ20による個別ブランキングのビームカット率を向上させると共に、ビームカット時間を短縮することができるので、描画ドーズ量の制御性が向上する。これらにより、描画精度が向上する。
【0050】
上記実施形態において、図4のフローのステップS7で検出した位置におけるビーム位置移動量が、所定の閾値よりも大きい場合は、検出した位置を中心とした狭い移動領域を設定し、移動ピッチを狭めて、再度ステップS2〜S4を繰り返してもよい。ビーム位置移動量が所定の閾値よりも小さい場合は、第2アライメントコイル32の調整へ進む。
【0051】
上記実施形態では、移動部50によりストッピングアパーチャ26を面内方向に移動し、開口26Aの面内位置を調整する例について説明したが、ストッピングアパーチャ26の位置は固定し、第1対物レンズ28を移動するようにしてもよい。但し、磁界型対物レンズはサイズや重量が大きく、静電型対物レンズは高電圧が印加されるものであるため、ストッピングアパーチャ26を移動させる方が容易である。
【0052】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 描画部
12 電子ビーム鏡筒
14 電子銃
16 照明レンズ
18 成形アパーチャアレイ
20 ブランキングアパーチャアレイ
22 投影レンズ
24 第1アライメントコイル
26 ストッピングアパーチャ
28 第1対物レンズ
30 第2対物レンズ
32 第2アライメントコイル
40 描画室
42 XYステージ
44 基板
50 移動部
60 制御部
図1
図2
図3
図4