(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959160
(24)【登録日】2021年10月11日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】Snの浸出方法およびSnの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 25/00 20060101AFI20211021BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20211021BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20211021BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20211021BHJP
C25C 1/14 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
C22B25/00 101
C22B3/04
C22B7/00 Z
C22B3/22
C25C1/14
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-17246(P2018-17246)
(22)【出願日】2018年2月2日
(65)【公開番号】特開2019-131877(P2019-131877A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2020年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】横田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小野 瑛基
(72)【発明者】
【氏名】武井 琢真
【審査官】
池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−322031(JP,A)
【文献】
特開2011−214021(JP,A)
【文献】
特開2009−035778(JP,A)
【文献】
特開2014−065941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pbを含むSnスカムに対し、浸出液を用いてSnを浸出するSn浸出工程と、
前記Sn浸出工程における前記浸出液中のSn濃度が最大となった時点から1.5時間以内に前記浸出液に対して固液分離を行う固液分離工程と、を含むことを特徴とするSnの浸出方法。
【請求項2】
前記Sn濃度が最大となった時点の前記浸出液中のSnイオン濃度が45g/L〜75g/Lで、Pbイオン濃度が3g/L〜15g/Lであることを特徴とする請求項1に記載のSnの浸出方法。
【請求項3】
前記Sn浸出工程において、前記浸出液を撹拌することを特徴とする請求項1または2に記載のSnの浸出方法。
【請求項4】
前記Sn浸出工程で生じる浸出残渣を鉛電気炉または炭酸化工程に供給することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のSnの浸出方法。
【請求項5】
前記Snスカムは、前記鉛電気炉で得られた粗鉛にソーダ処理を行うことで得られるものであることを特徴とする請求項4記載のSnの浸出方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のSn浸出方法によって得られた浸出後液に対して電解採取することで、Snを析出させることを特徴とするSnの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Snの浸出方法およびSnの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、銅製錬などで発生する鉛(Pb)滓などの鉛原料から製品Pbを製造する鉛製錬において、Pbを含有する錫(Sn)スカムが発生する。Snスカムを浸出工程に供すると、浸出液にSnが溶出する。得られた浸出後液に対して電解採取を行うことで、製品Snを製造することができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−234356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、Snの浸出工程において、一旦溶出したSnがPbとともに複合酸化物を形成し、沈殿するおそれがある。この場合、Snの浸出率が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑み、Snの浸出率低下を抑制することができるSnの浸出方法およびSnの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るSnの浸出方法は、Pbを含むSnスカムに対し、浸出液を用いてSnを浸出するSn浸出工程と、前記Sn浸出工程における
前記浸出液中のSn濃度が最大となった時点から1.5時間以内に前記浸出液に対して固液分離を行う固液分離工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
前記Sn濃度が最大となった時点の前記浸出液中のSnイオン濃度が45g/L〜75g/Lで、Pbイオン濃度が3g/L〜15g/Lであってもよい。
【0008】
前記Sn浸出工程において、前記浸出液を撹拌してもよい。前記Sn浸出工程で生じる浸出残渣を鉛電気炉または炭酸化工程に供給してもよい。前記Snスカムは、前記鉛電気炉で得られた粗鉛にソーダ処理を行うことで得られるものであってもよい。
【0009】
本発明に係るSnの製造方法は、上記のSnの浸出方法によって得られた浸出後液に対して電解採取することで、Snを析出させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、Snの浸出率低下を抑制することができるSnの浸出方法およびSnの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】SnおよびPbを製造する工程の一例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0013】
図1は、製品Snおよび製品Pbを製造する製造工程の一例について説明する図である。
図1で例示するように、銅製錬工程、銅電解工程などで発生する鉛滓、キレート中和滓、排バッテリー等の鉛原料に対して脱銅および炭酸化が行われる。脱銅および炭酸化によって得られた炭酸鉛は、Pb原料としてPb電気炉に投入される。炭酸鉛は、Pb電気炉で800℃〜900℃で溶融することによって、粗Pbメタルとスラグとに分離する。
【0014】
粗Pbメタルには、不純物としてSnが含まれている。そこで、冷却した粗Pbメタルは、ハリス炉に投入される。ハリス炉では、粗Pbメタルがソーダ処理される。ソーダ処理とは、500℃程度に加熱して溶融した粗Pbメタルに、例えば苛性ソーダを添加し、さらに場合により追加の苛性ソーダおよび硝酸ソーダを添加して、Snをソーダ塩(Na
2SnCO
3)化して、溶湯表面において固形化させる処理のことである。固形化したSnのソーダ塩は、一般にSnスカムと呼ばれる。Snスカムは、一例として、乾燥した状態で、Snを10mass%〜30mass%含み、Pbを5.0mass%〜20mass%含み、Sbを2mass%〜15mass%含み、Cuを0.5mass%〜5.0mass%含み、Asを1.0mass%〜10mass%含み、Biを0.5mass%〜7.0mass%含む。
【0015】
Snスカムは、Sn製造用のSn原料として利用される。具体的には、Snスカムは、Snを浸出するSn浸出工程に供される。得られた浸出後液は、電解採取工程に供され、製品Snが製造される。Sn浸出工程の浸出残渣は、鉛電気炉または炭酸化工程に繰り返される。一方、ハリス炉で粗Pbメタルをソーダ処理することによって、Pbメタルが得られる。このPbメタルは、電解精製工程に供され、製品Pbが製造される。
【0016】
Sn浸出工程においては、Snスカムが純水などの浸出液に投入され、当該浸出液に対して加温および攪拌が行われる。Snスカムは、ハリス炉でソーダ処理を行った際に発生するものであるため、純水で浸出した溶液は、アルカリ性を示す。Snは、アルカリ性を示す浸出液中にSnイオンとして溶出する。浸出液のNaOH濃度は、70g/L〜80g/であることが好ましい。浸出液のNaOH濃度が70g/L未満であれば、NaOHなどのアルカリを追加してもよい。また、浸出液のNaOH濃度が低くなることが予想される場合には、浸出液として、純水ではなくNaOH溶液などを用いてもよい。
【0017】
また、Snスカムには、Pbも含まれるため、浸出液中にPbイオンが溶出する。このまま加温および攪拌が継続されると、浸出液中において、SnイオンとPbイオンとが共存することになる。SnイオンとPbイオンとが共存する浸出液において、固形分が存在すると、当該固形分を核としてSnおよびPbの複合酸化物が形成されて沈殿する。すなわち、一旦溶出したSnが沈殿することになるため、浸出率が低下してしまう。Sn浸出工程の残渣は、鉛電気炉または炭酸化工程に繰り返されるため、鉛電気炉に対するSnの繰り返し量が増え、処理コストおよびSnのスラグロスが大きくなるおそれがある。
【0018】
そこで、本実施形態においては、浸出工程開始後、ある程度の浸出が進行した後に、固液分離を行う。それにより、SnおよびPbの複合酸化物形成のための核となる固形分が浸出液から除去されるため、SnおよびPbの複合酸化物の形成が抑制される。なお、浸出工程開始後の短時間後に固液分離を行うと、Snの浸出が十分でない場合がある。
【0019】
そこで、Snの浸出が終了してからの時間に上限を設ける。Snの浸出が終了する時点は、浸出液中のSn濃度が最大となった時点とする。具体的には、事前に浸出対象のSnスカムのSn浸出のビーカー試験を行い、Snを溶かしきった時点の濃度を確認しておく。実操業のSn浸出工程において、Sn濃度を確認し、Sn濃度が当該確認された濃度の95%以上になれば、その時点が最大濃度の時点と判断してもよい。本実施形態においては、Snの浸出が終了してから1.5時間以内に固液分離を行う。この場合、SnおよびPbの複合酸化物の形成が抑制される。Snの浸出が終了してから1.0時間以内に固液分離を行うことが好ましく、Snの浸出が終了した直後に固液分離を行うことがより好ましい。
【0020】
または、浸出工程開始後の時間に下限を設けて固液分離を行ってもよい。一方、浸出工程開始後の長時間後に固液分離を行うと、SnおよびPbの複合酸化物の形成が進行してしまう場合がある。そこで、浸出工程開始後の時間に上限を設ける。本実施形態においては、浸出工程開始後の1時間以上、3時間以内に固液分離を行う。それにより、Snを十分に浸出したうえでSnおよびPbの複合酸化物の形成を抑制することができる。なお、浸出工程開始時点は、Snスカムを浸出液に投入した時点である。この手法では、Sn濃度を都度確認しなくてもよく、時間管理だけでよいため、労力がかからない。
【0021】
なお、核となる固形分は、浸出工程においてSnスカムから溶出しない固形分であって、例えばSnおよびPbの複合酸化物(例えば、PbSnO
3、Pb
2Sn
2O
6)などである。この固形分が存在することで、SnおよびPbが結晶成長することで、SnおよびPbの複合酸化物が大きくなり、沈殿することになる。核となる固形分の大きさは、特に限定されるものではないが、本実施形態においては、粉から砂程度である。
【0022】
また、一例として、浸出液中のSnイオン濃度が45g/L〜75g/L、Pbイオン濃度が3g/L〜15g/L、NaOH濃度が50g/L〜90g/L、液温が40℃〜70℃の場合に固液分離を行うことで、浸出液中にSnイオンを多く存在させたうえでSnおよびPbの複合酸化物の形成を抑制することができる。
【実施例】
【0023】
(実施例)
実施形態に従って、Snスカムに対してSn浸出工程を行った。用いたSnスカムの組成を表1に示す。なお、各成分濃度は、Snスカムを乾燥させた場合の濃度である。
【表1】
【0024】
このSnスカム60gに対して純水を200ml加え、65℃で攪拌し、1.5時間後に固液分離を行った。固液分離後のろ液に対して、65℃で攪拌を継続した。その後、金属イオン濃度をICPで分析した。その結果を
図2Aおよび
図2Bに示す。
【0025】
(比較例)
比較例においては、固液分離を行わなかった他は、実施例と同様の条件とした。ICP分析の結果を
図3Aおよび
図3Bに示す。
【0026】
(分析)
図3Aおよび
図3Bに示すように、比較例では、浸出工程開始後3時間を超えたあたりから、Snイオン濃度が低下し、浸出工程開始後24時間でのSn浸出率は79%となった。これに対して、
図2Aおよび
図2Bに示すように、実施例では、攪拌を継続してもSnイオン濃度の低下は見られなかった。浸出工程開始後24時間でのSn浸出率は、92%となり、比較例よりも大幅に大きくなった。これは、浸出工程開始後、1時間以上3時間以内に固液分離を行ったことで、固形分を核とするSnイオンおよびPbイオンの複合酸化物の形成が抑制されたからであると考えられる。
【0027】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。