特許第6959191号(P6959191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6959191学習処理装置、学習処理方法、化合物半導体の製造方法、および、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959191
(24)【登録日】2021年10月11日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】学習処理装置、学習処理方法、化合物半導体の製造方法、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/54 20060101AFI20211021BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20211021BHJP
   C23C 14/22 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   C23C14/54 F
   H01L21/203 M
   C23C14/22 Z
【請求項の数】19
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-139848(P2018-139848)
(22)【出願日】2018年7月25日
(65)【公開番号】特開2020-15954(P2020-15954A)
(43)【公開日】2020年1月30日
【審査請求日】2020年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】古屋 貴明
(72)【発明者】
【氏名】上之 康一郎
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−171301(JP,A)
【文献】 特開2017−183311(JP,A)
【文献】 特開平06−037021(JP,A)
【文献】 特開平10−237645(JP,A)
【文献】 特開平10−245674(JP,A)
【文献】 特開平08−339961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C30B 1/00−35/00
H01L 21/205
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/469
H01L 21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜装置によって膜を成膜する下地となる下地層の特性を示す下地特性データを取得する下地特性取得部と、
前記成膜装置によって前記下地層の上に成膜された膜の特性を示す膜特性データを取得する膜特性取得部と、
前記下地特性データおよび前記膜特性データを含む学習データを用いて、膜を形成する対象となる下地層の特性を示す対象下地特性データに基づいて、前記成膜装置によって成膜される膜の成膜前に、当該成膜される膜の特性を予測した予測膜特性データを出力する第1モデルの学習処理を実行する第1学習処理部と
を備える学習処理装置。
【請求項2】
前記第1モデルを用いて、第1下地層の特性を示す第1下地特性データに基づいて、前記第1下地層の上に成膜される第1膜の特性を予測した第1予測膜特性データを出力する膜特性予測部を更に備える請求項1に記載の学習処理装置。
【請求項3】
前記膜特性予測部は、前記第1モデルを用いて、前記第1予測膜特性データに基づいて、前記第1膜の上に成膜される第2膜の特性を予測した第2予測膜特性データを更に出力する請求項2に記載の学習処理装置。
【請求項4】
前記成膜装置が前記下地層の上に膜を成膜したときの成膜条件を示す成膜条件データを取得する成膜条件取得部を更に備え、
前記第1学習処理部は、前記成膜条件データを更に含む前記学習データを用いて、前記対象下地特性データおよび前記成膜条件データに基づいて前記予測膜特性データを出力する前記第1モデルの学習処理を実行する
請求項1から3のいずれか一項に記載の学習処理装置。
【請求項5】
前記成膜条件データは、前記下地層の上に膜を成膜したときに前記成膜装置を制御した制御条件を示す制御条件データと、前記成膜装置の状態を示す状態データとの少なくとも1つを含む請求項4に記載の学習処理装置。
【請求項6】
前記成膜装置は、分子線エピタキシー装置であり、
前記成膜条件データは、
基板に照射される原料のフラックス量、前記分子線エピタキシー装置のセルの温度、前記セルのヒータに対する供給電力、前記セルのシャッターの開閉条件、基板の温度、基板ヒータに対する供給電力、チャンバの真空度、前記チャンバ内に存在するガスの種類、前記ガスの量、前記チャンバ内のクライオパネルの温度、前記クライオパネルに供給する液体窒素の量、成膜にかける時間、前記セルの温度のフィードバック制御におけるゲイン、装置部品の使用回数、装置部品の使用履歴、およびRHEED像の少なくとも1つに関するデータを含む請求項5に記載の学習処理装置。
【請求項7】
前記成膜条件データは、成膜した膜に含まれる原子の原子番号、前記原子の質量、前記原子の電子数、前記原子の中性子数、前記原子の電気陰性度、前記原子の電子親和力、前記原子のイオン半径、前記原子の共有結合半径、前記原子のファンデルワールス半径、前記原子のイオン化傾向、前記原子のイオン性、前記原子の自己拡散係数、前記原子の相互拡散係数、
前記膜、前記原子により構成される純物質および化合物の、格子定数、原子間距離、沸点、沸点の圧力依存性、融点、融点の圧力依存性、凝集エネルギー、体積弾性率、熱膨張係数、電子有効質量、正孔有効質量、比熱、誘電率、非線形誘電率、バンドダイアグラム、バンドギャップ、バンドギャップの温度圧力依存性、スピン軌道相互作用、密度、デバイ温度、熱伝導率、熱拡散係数、ヤング率、せん断弾性定数、ポアソン比、体積弾性率、硬度、ヌープ硬度、音速、フォノン分散、状態密度、光学フォノン周波数、音響フォノン周波数、電子散乱断面積、フォノン散乱断面積、グリュナイゼン定数、デフォメーションポテンシャル係数、圧電定数、電気機械結合定数、フレーリヒカップリング定数、仕事関数、光学吸収特性、ゼーベック係数、励起子のエネルギー、励起子の半径、屈折率、屈折率の温度圧力依存性、真正キャリア密度、標準生成エンタルピー、標準生成ギッブスエネルギー、ラジカルのエネルギー準位、表面再構成の状態、ホール係数、ホール散乱因子、二光子吸収係数、キャリアドリフトの終端速度、キャリアの平均自由工程、少数キャリアの拡散長、少数キャリアの寿命、および、インパクトイオン化パラメータ、ならびに、
前記膜および前記化合物のマーデルング定数、前記純物質の金属結合半径、および、膜厚の少なくとも1つに関するデータを含む請求項4から6のいずれか一項に記載の学習処理装置。
【請求項8】
前記膜特性データおよび前記予測膜特性データは、それぞれ膜の、組成、キャリア密度、伝導率、伝導率の温度依存性、抵抗率、抵抗率の温度依存性、結晶性、表面凹凸状態、表面凹凸の異方性、透過スペクトル、電子移動度、正孔移動度、欠陥密度、表面の状態密度、フォトルミネッセンス測定スペクトル、エレクトロルミネッセンス測定スペクトル、光学吸収スペクトル、電気特性異方性、結晶組織異方性、表面の不純物の情報、表面の汚染の情報、結晶面角度、RHEED像、ピット情報、ヒロック情報、ウィスカ情報、画像、および、これらの特性の何れかについての面内でのバラつきの少なくとも1つに関するデータを含む請求項1から7のいずれか一項に記載の学習処理装置。
【請求項9】
前記下地特性データは、前記下地層についての、組成、キャリア密度、伝導率、伝導率の温度依存性、抵抗率、抵抗率の温度依存性、結晶性、表面凹凸状態、表面凹凸の異方性、透過スペクトル、電子移動度、正孔移動度、欠陥密度、表面の状態密度、フォトルミネッセンス測定スペクトル、エレクトロルミネッセンス測定スペクトル、光学吸収スペクトル、電気特性異方性、結晶組織異方性、表面の不純物の情報、表面の汚染の情報、結晶面角度、RHEED像、ピット情報、ヒロック情報、ウィスカ情報、画像、これらの特性の何れかについての面内でのバラつき
前記下地層に含まれる原子の原子番号、前記原子の質量、前記原子の電子数、前記原子の中性子数、前記原子の電気陰性度、前記原子の電子親和力、前記原子のイオン半径、前記原子の共有結合半径、前記原子のファンデルワールス半径、前記原子のイオン化傾向、前記原子のイオン性、前記原子の自己拡散係数、前記原子の相互拡散係数、
前記下地層、前記原子により構成される純物質および化合物の、格子定数、原子間距離、沸点、沸点の圧力依存性、融点、融点の圧力依存性、凝集エネルギー、体積弾性率、熱膨張係数、電子有効質量、正孔有効質量、比熱、誘電率、非線形誘電率、バンドダイアグラム、バンドギャップ、バンドギャップの温度圧力依存性、スピン軌道相互作用、密度、デバイ温度、熱伝導率、熱拡散係数、ヤング率、せん断弾性定数、ポアソン比、体積弾性率、硬度、ヌープ硬度、音速、フォノン分散、状態密度、光学フォノン周波数、音響フォノン周波数、電子散乱断面積、フォノン散乱断面積、グリュナイゼン定数、デフォメーションポテンシャル係数、圧電定数、電気機械結合定数、フレーリヒカップリング定数、仕事関数、光学吸収特性、ゼーベック係数、励起子のエネルギー、励起子の半径、屈折率、屈折率の温度圧力依存性、真正キャリア密度、標準生成エンタルピー、標準生成ギッブスエネルギー、ラジカルのエネルギー準位、表面再構成の状態、ホール係数、ホール散乱因子、二光子吸収係数、キャリアドリフトの終端速度、キャリアの平均自由工程、少数キャリアの拡散長、少数キャリアの寿命、および、インパクトイオン化パラメータ、ならびに、
前記下地層および前記化合物のマーデルング定数、前記純物質の金属結合半径、および、前記下地層の膜厚の少なくとも1つに関するデータを含む請求項1から8のいずれか一項に記載の学習処理装置。
【請求項10】
前記下地層および前記下地層の上に成膜された膜は、ダイヤモンド型構造、閃亜鉛鉱型構造、および、ウルツ鉱型構造のいずれかに属する結晶構造を有する請求項1から9のいずれか一項に記載の学習処理装置。
【請求項11】
前記下地特性データ、前記膜特性データ、および前記成膜条件データを含む学習データを用いて、前記対象下地特性データおよび目標とする膜の特性を示す目標膜特性データに基づいて、または、前記目標膜特性データに基づいて、前記目標とする膜を成膜するための推奨される前記制御条件を示す推奨制御条件データを出力する第2モデルの学習処理を実行する第2学習処理部を更に備える請求項5に記載の学習処理装置。
【請求項12】
前記第1モデルを用いて、第1下地層の特性を示す第1下地特性データに基づいて、前記第1下地層の上に成膜される第1膜の特性を予測した第1予測膜特性データを出力する膜特性予測部と、
前記第2モデルを用いて、前記第1予測膜特性データおよび前記第1膜の上に成膜される第2膜の目標とする特性を示す第1目標膜特性データに基づいて、前記第2膜を成膜するための推奨される前記制御条件を示す第1推奨制御条件データを出力する推奨制御条件出力部と
を更に備える請求項11に記載の学習処理装置。
【請求項13】
前記第1モデルを生成するための初期モデルとして、ランダムフォレスト、リカレントニューラルネットワークまたはタイムディレイニューラルネットワークを用いる請求項1から12のいずれか一項に記載の学習処理装置。
【請求項14】
前記下地層および前記成膜される膜は、赤外線センサまたは磁気センサの少なくとも一部である請求項1〜13の何れか一項に記載の学習処理装置。
【請求項15】
前記成膜される膜は、Al、Ga、In、As、Sb、Si、Te、Sn、Zn、および、Beの少なくとも一つを含む請求項1〜14の何れか一項に記載の学習処理装置。
【請求項16】
成膜装置によって膜を成膜する下地となる下地層の特性を示す下地特性データを取得する下地特性取得段階と、
前記成膜装置によって前記下地層の上に成膜された膜の特性を示す膜特性データを取得する膜特性取得段階と、
前記下地特性データおよび前記膜特性データを含む学習データを用いて、膜を形成する対象となる下地層の特性を示す対象下地特性データに基づいて、前記成膜装置によって成膜される膜の成膜前に、当該成膜される膜の特性を予測した予測膜特性データを出力する第1モデルの学習処理を実行する第1学習処理段階と
を備える学習処理方法。
【請求項17】
前記成膜装置が前記下地層の上に膜を成膜したときの成膜条件を示す成膜条件データであって、前記下地層の上に膜を成膜したときに前記成膜装置を制御した制御条件を示す制御条件データと、前記成膜装置の状態を示す状態データとの少なくとも1つを含む成膜条件データを取得する成膜条件取得段階と、
前記下地特性データ、前記膜特性データ、および前記成膜条件データを含む学習データを用いて、前記対象下地特性データおよび目標とする膜の特性を示す目標膜特性データに基づいて、前記目標とする膜を成膜するための推奨される前記制御条件を示す推奨制御条件データを出力する第2モデルの学習処理を実行する第2学習処理段階とを更に備え、
前記第1学習処理段階では、前記成膜条件データを更に含む前記学習データを用いて、前記対象下地特性データおよび前記成膜条件データに基づいて前記予測膜特性データを出力する前記第1モデルの学習処理を実行する、請求項16に記載の学習処理方法。
【請求項18】
基板を準備する準備段階と、
化合物半導体に含まれるべき複数の膜を前記基板上に積層する積層段階と、
を備え、
前記積層段階において、請求項17に記載の学習処理方法によって得られる推奨制御条件データを用いて前記成膜装置を動作させて、前記複数の膜のうち少なくとも1つの膜を成膜する
化合物半導体の製造方法。
【請求項19】
コンピュータを、
成膜装置によって膜を成膜する下地となる下地層の特性を示す下地特性データを取得する下地特性取得部と、
前記成膜装置によって前記下地層の上に成膜された膜の特性を示す膜特性データを取得する膜特性取得部と、
前記下地特性データおよび前記膜特性データを含む学習データを用いて、膜を形成する対象となる下地層の特性を示す対象下地特性データに基づいて、前記成膜装置によって成膜される膜の成膜前に、当該成膜される膜の特性を予測した予測膜特性データを出力する第1モデルの学習処理を実行する第1学習処理部
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習処理装置、学習処理方法、化合物半導体の製造方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分子線エピタキシー装置などの成膜装置により所望の特性の膜を得るためには、熟練したオペレータが試行錯誤を行う必要がある(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1 特開2013−56803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、成膜される膜の特性を効率的に取得できるようにすることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、学習処理装置が提供される。学習処理装置は、成膜装置によって膜を成膜する下地となる下地層の特性を示す下地特性データを取得する下地特性取得部を備えてよい。学習処理装置は、成膜装置によって下地層の上に成膜された膜の特性を示す膜特性データを取得する膜特性取得部を備えてよい。学習処理装置は、下地特性データおよび膜特性データを含む学習データを用いて、膜を形成する対象となる下地層の特性を示す対象下地特性データに基づいて、成膜装置によって成膜される膜の特性を予測した予測膜特性データを出力する第1モデルの学習処理を実行する第1学習処理部を備えてよい。
【0005】
本発明の第2の態様においては、学習処理方法が提供される。学習処理方法は、成膜装置によって膜を成膜する下地となる下地層の特性を示す下地特性データを取得する下地特性取得段階を備えてよい。学習処理方法は、成膜装置によって下地層の上に成膜された膜の特性を示す膜特性データを取得する膜特性取得段階を備えてよい。学習処理方法は、下地特性データおよび膜特性データを含む学習データを用いて、膜を形成する対象となる下地層の特性を示す対象下地特性データに基づいて、成膜装置によって成膜される膜の特性を予測した予測膜特性データを出力する第1モデルの学習処理を実行する第1学習処理段階を備えてよい。
【0006】
学習処理方法は、成膜装置が下地層の上に膜を成膜したときの成膜条件を示す成膜条件データであって、下地層の上に膜を成膜したときに成膜装置を制御した制御条件を示す制御条件データと、成膜装置の状態を示す状態データとの少なくとも1つを含む成膜条件データを取得する成膜条件取得段階を更に備えてよい。学習処理方法は、下地特性データ、膜特性データ、および成膜条件データを含む学習データを用いて、対象下地特性データおよび目標とする膜の特性を示す目標膜特性データに基づいて、目標とする膜を成膜するための推奨される制御条件を示す推奨制御条件データを出力する第2モデルの学習処理を実行する第2学習処理段階とを更に備えてよい。第1学習処理段階では、成膜条件データを更に含む学習データを用いて、対象下地特性データおよび成膜条件データに基づいて予測膜特性データを出力する第1モデルの学習処理を実行してよい。
【0007】
本発明の第3の態様においては、化合物半導体の製造方法が提供される。化合物半導体の製造方法は、基板を準備する準備段階を備えてよい。化合物半導体の製造方法は、化合物半導体に含まれるべき複数の膜を基板上に積層する積層段階を備えてよい。積層段階においては、第2の態様の学習処理方法によって得られる推奨制御条件データを用いて成膜装置を動作させて、複数の膜のうち少なくとも1つの膜を成膜してよい。
【0008】
本発明の第4の態様においては、プログラムが提供される。プログラムは、コンピュータを成膜装置によって膜を成膜する下地となる下地層の特性を示す下地特性データを取得する下地特性取得部として機能させてよい。プログラムは、コンピュータを成膜装置によって下地層の上に成膜された膜の特性を示す膜特性データを取得する膜特性取得部として機能させてよい。プログラムは、コンピュータを下地特性データおよび膜特性データを含む学習データを用いて、膜を形成する対象となる下地層の特性を示す対象下地特性データに基づいて、成膜装置によって成膜される膜の特性を予測した予測膜特性データを出力する第1モデルの学習処理を実行する第1学習処理部として機能させてよい。
【0009】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るシステム1を示す。
図2】成膜装置2の平面図を示す。
図3】成膜チャンバ20の縦断面図を示す。
図4】第1モデル305および/または第2モデル309の学習方法を示す。
図5】化合物半導体の製造方法を示す。
図6】第1モデル305および第2モデル309を用いた成膜方法を示す。
図7】赤外線センサ5の層構成を示す。
図8】本発明の複数の態様が全体的または部分的に具現化されてよいコンピュータ2200の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
図1は、本実施形態に係るシステム1を示す。システム1は、成膜装置2および学習処理装置3を備える。
【0013】
[1−1.成膜装置]
成膜装置2は、基板の表面に成膜を行う。成膜装置2は、蒸着法によって成膜を行ってもよいし、他の手法によって成膜を行ってもよい。
【0014】
[1−2.学習処理装置]
学習処理装置3は、機械学習による学習処理を行うものであり、下地特性取得部301と、膜特性取得部302と、成膜条件取得部303と、第1学習処理部304と、第1モデル305と、膜特性予測部306とを有する。また、本実施形態では一例として学習処理装置3は、成膜装置2を制御可能となっており、目標膜特性取得部307と、第2学習処理部308と、第2モデル309と、推奨制御条件出力部310と、制御部311とを更に有する。
【0015】
[1−2−1.下地特性取得部]
下地特性取得部301は、成膜装置2によって膜を成膜する下地となる下地層の特性を示す下地特性データを取得する。成膜装置2が複数の膜を積層して成膜する場合には、最表面の膜より下層の各膜は、1つ上側の膜に対する下地層であってよい。成膜装置2が基板の表面に成膜する場合には、基板自体が下地層であってよい。下地特性取得部301は、下地特性データを、オペレータ、および、特性を計測するための計測装置(図示せず)の少なくとも1つから取得してよい。下地特性取得部301は、取得した下地特性データを第1学習処理部304、第2学習処理部308および膜特性予測部306に供給してよい。
【0016】
[1−2−2.膜特性取得部]
膜特性取得部302は、成膜装置2によって下地層の上に成膜された膜の特性を示す膜特性データを取得する。膜特性取得部302は膜特性データを、オペレータ、および、膜特性を計測するための計測装置(図示せず)の少なくとも1つから取得してよい。計測装置は成膜装置2の内部に配置されてもよいし、外部に配置されてもよい。膜特性取得部302は、取得した膜特性データを第1学習処理部304および第2学習処理部308に供給してよい。
【0017】
[1−2−3.成膜条件取得部]
成膜条件取得部303は、成膜装置2が下地層の上に膜を成膜したときの成膜条件を示す成膜条件データを取得する。成膜条件データは、下地層の上に膜を成膜したときに成膜装置2を制御した制御条件を示す制御条件データと、成膜装置2の状態を示す状態データとの少なくとも1つを含んでよい。成膜条件取得部303は成膜条件データを、オペレータ、成膜装置2および後述の制御部311の少なくとも1つから取得してよい。成膜条件取得部303は、取得した成膜条件データを第1学習処理部304、第2学習処理部308および膜特性予測部306に供給してよい。
【0018】
[1−2−4.第1学習処理部]
第1学習処理部304は、入力される学習データを用いて第1モデル305の学習処理を実行する。第1学習処理部304により用いられる学習データは、下地特性取得部301からの下地特性データと、膜特性取得部302からの膜特性データと、成膜条件取得部303からの成膜条件データとを含んでよい。なお、第1学習処理部304は、複数の膜が積層される場合には、各膜の下地層の下地特性データと、各膜の膜特性データと、各膜の成膜条件データとを含む学習データを用いて学習処理を実行してよい。第1学習処理部304は、実際の製品に含まれる膜および下地層についての膜特性データおよび下地特性データと、当該膜の成膜条件データとを含む学習データを用いて学習処理を実行してよい。また、第1学習処理部304は、実際の製品に含まれる膜の膜特性データ,下地特性データに代えて、実際の製品に含まれる膜,下地層に対して結晶構造が同じで材料が異なる膜,下地層についての膜特性データ,下地特性データを含む学習データを用いて学習処理を実行してもよい。これにより例えば、InAs/GaAsの積層膜を成膜するための学習処理にInSb/GaAsやInP/GaAs、InAs/AlAsなどの積層膜を成膜する場合の学習データが用いられてもよい。
【0019】
[1−2−5.第1モデル]
第1モデル305は、膜を形成する対象となる下地層の特性を示す下地特性データ(対象下地特性データとも称する)および成膜条件データに基づいて、成膜装置2によって成膜される膜の特性を予測した予測膜特性データを出力する。本実施形態では一例として、第1モデル305は、膜特性予測部306から対象下地特性データを取得して、膜特性予測部306に予測膜特性データを出力する。
【0020】
[1−2−6.膜特性予測部]
膜特性予測部306は、第1モデル305を用いて、成膜される膜の特性を予測した予測膜特性データを出力する。例えば、膜特性予測部306は、第1下地層の特性を示す第1下地特性データに基づいて、第1下地層の上に成膜される第1膜の特性を予測した第1予測膜特性データを出力する。また、膜特性予測部306は、第1予測膜特性データに基づいて、第1膜の上に成膜される第2膜の特性を予測した第2予測膜特性データを更に出力する。本実施形態では一例として、膜特性予測部306は、第1モデル305を用い、第1膜を成膜したときの成膜条件を示す成膜条件データと、第1下地特性データとに基づいて第1予測膜特性データを出力し、さらに、第2膜を成膜したときの成膜条件を示す成膜条件データと、第1予測膜特性データとに基づいて第2予測膜特性データを出力してよい。以降、同様にして膜特性予測部306は、成膜される膜の予測膜特性データを下地特性データとして用いることにより、積層される各膜の予測膜特性データを出力してよい。膜特性予測部306は、予測膜特性データを学習処理装置3の外部に出力してよい。
【0021】
[1−2−7.目標膜特性取得部]
目標膜特性取得部307は、目標とする膜の特性を示す目標膜特性データを取得する。本実施形態では一例として、目標膜特性取得部307は目標膜特性データをオペレータから取得する。目標膜特性取得部307は、取得した目標膜特性データを推奨制御条件出力部310に供給してよい。
【0022】
[1−2−8.第2学習処理部]
第2学習処理部308は、入力される学習データを用いて第2モデル309の学習処理を実行する。第2学習処理部308により用いられる学習データは、下地特性データ、膜特性データ、および成膜条件データを含んでよい。なお、第2学習処理部308は、複数の膜が積層される場合には、各膜の膜特性データと、各膜の成膜条件データと、各膜の下地層の下地特性データとを含む学習データを用いて学習処理を実行してよい。下地特性データおよび膜特性データの少なくとも一方は、第1モデル305を用いて膜特性予測部306から出力される予測膜特性データであってもよい。第2学習処理部308は、第1学習処理部304と同様に、実際の製品に含まれる膜および下地層についての膜特性データおよび下地特性データと、当該膜の成膜条件データとを含む学習データを用いて学習処理を実行してもよいし、実際の製品に含まれる膜の膜特性データ,下地特性データに代えて、実際の製品に含まれる膜,下地層に対して結晶構造が同じで材料が異なる膜,下地層についての膜特性データ,下地特性データを含む学習データを用いて学習処理を実行してもよい。
【0023】
[1−2−9.第2モデル]
第2モデル309は、膜を形成する対象となる下地層の特性を示す対象下地特性データと、目標とする膜の特性を示す目標膜特性データとに基づいて、目標とする膜を成膜するための推奨される制御条件を示す推奨制御条件データを出力する。本実施形態では一例として、第2モデル309は、推奨制御条件出力部310から目標膜特性データを取得して、推奨制御条件出力部310に推奨制御条件データを出力する。
【0024】
[1−2−10.推奨制御条件出力部]
推奨制御条件出力部310は、第2モデル309を用いて、対象下地特性データおよび目標膜特性データに基づいて、目標とする膜を成膜するための推奨される制御条件を示す推奨制御条件データを出力する。本実施形態では一例として、推奨制御条件出力部310は、下地層としての第1膜について膜特性予測部306により予測された、対象下地特性データとしての第1予測膜特性データと、第1膜の上に成膜される第2膜について目標とする特性を示す第1目標膜特性データとに基づいて、第2膜を成膜するための第1推奨制御条件データを出力する。同様にして、推奨制御条件出力部310は、膜特性予測部306からの予測膜特性データと、目標膜特性取得部307からの目標膜特性データとに基づいて、積層される各膜を成膜するための推奨制御条件データを出力してよい。なお、推奨制御条件出力部310は、対象下地特性データを下地特性取得部301から取得してもよい。推奨制御条件出力部310は、推奨制御条件データを制御部311に供給してよい。
【0025】
[1−2−11.制御部]
制御部311は、成膜装置2に制御条件データを供給することで、当該制御条件データが示す制御条件で成膜装置2を動作させる。制御部311は、成膜装置2に推奨制御条件データを供給することで、推奨制御条件データが示す制御条件で成膜装置2を動作させてよい。制御部311は、成膜装置2に供給する制御条件データを成膜条件取得部303にも供給してよい。
【0026】
以上のシステム1によれば、成膜される膜の特性を対象下地特性データに基づき予測して予測膜特性データを出力する第1モデル305の学習処理が実行されるので、対象下地特性データの入力により予測膜特性データを出力する第1モデル305を取得することができる。従って、第1モデル305を用いることにより、予測される膜特性を効率的に取得することができる。また、下地特性データおよび膜特性データに加え、膜条件データを更に含む学習データを用いて第1モデル305の学習処理を実行するので、第1モデル305の学習精度を高めることができる。
【0027】
また、第1モデル305によって第1下地層の第1下地特性データに基づいて、成膜される第1膜の特性を予測した第1予測膜特性データが出力されるので、下地層の特性データの入力により、その上に成膜される膜の予測膜特性データを取得することができる。また、第1予測膜特性データに基づいて、第1膜の上に成膜される第2膜の特性を予測した第2予測膜特性データが更に出力されるので、順次成膜される各膜の予測膜特性データをそれぞれ取得することができる。
【0028】
また、対象下地特性データおよび目標膜特性データに基づき推奨制御条件データを出力する第2モデル309の学習処理が実行されるので、対象下地特性データおよび目標膜特性データの入力により推奨膜特性データを出力する第2モデル309を取得することができる。
【0029】
また、第1モデル305により第1下地特性データに基づいて第1膜の第1予測膜特性データが出力され、第2モデル309により第1予測膜特性データおよび第2膜の目標膜特性データに基づいて第2膜を成膜するための推奨制御条件データが出力されるので、下地特性データと、第2膜の目標膜特性データとに基づいて第2膜の推奨制御条件データを取得することができる。さらに、第2膜の目標膜特性データを第2膜の予測膜特性データとして用いることにより、当該第2膜の予測膜特性データと、第3膜の目標膜特性データとに基づいて、第3膜を成膜するための推奨制御条件データを出力することができる。同様にして、順次、各膜を成膜するための推奨制御条件データを取得することができる。
【0030】
[2.成膜装置]
図2は、成膜装置2の平面図を示す。例えば成膜装置2は分子線エピタキシー装置であり、基板10(図3参照)上にAl、Ga、In、As、Sb、Si、Te、Sn、Zn、および、Beの少なくとも1つを含む1または複数の膜を成膜する。一例として、基板はガリウムヒ素などの化合物半導体であってよく、成膜される膜はn型半導体層、アンドープ半導体層、p型活性層のいずれでもよい。あるいは、成膜される層は、例えばδドープのように不均一なドープ層(変調ドープ層)であってもよいし、それらの積層体であってもよい。成膜装置2により成膜される膜、および、その下地層は、ダイヤモンド型構造、閃亜鉛鉱型構造、および、ウルツ鉱型構造のいずれかに属する結晶構造を有してよい。ダイヤモンド型構造は半導体としてシリコンを有してよく、閃亜鉛鉱型構造は半導体そしてガリウムヒ素を有してよく、ウルツ鉱型構造は半導体としてガリウムナイトライドまたはアルミナイトライドを有してよい。基板10と基板10上に成膜される膜との間、および、上下に隣接する膜同士の間では、それぞれ格子定数が違っていてよい。成膜装置2は、成膜チャンバ20、1または複数のセル21、真空ポンプ22、サブチャンバ23およびロードチャンバ24を有する。
【0031】
成膜チャンバ20は、内部に保持する基板10に成膜を行うための密閉された反応容器である。成膜チャンバ20は、セル21と接続するための1または複数のポート(図示せず)を外周部に有している。ポートの数は一例として12個であってよい。セル21は、成膜チャンバ20のポートに接続され、原料の固体を蒸発させて分子線として基板10の表面に供給する。セル21内の原料は、Al、Ga、In、As、Sb、Si、Te、Sn、Zn、および、Beの少なくとも1つであってよく、単体でもよいし、化合物でもよい。真空ポンプ22は、成膜チャンバ20に接続されて成膜チャンバ20内の空気を排出する。真空ポンプ22は、成膜チャンバ20内を10−11Torr(≒10−9Pa)程度の真空度に減圧してよい。サブチャンバ23は、成膜チャンバ20に接続され、成膜チャンバ20に供給される成膜前の基板10、または、成膜チャンバ20から排出される成膜後の基板10を一時的に保持する。サブチャンバ23の内部は成膜チャンバ20と同様の真空度に維持されてよい。また、サブチャンバ23は、後述のロードチャンバ24から導入される基板10を加熱し、基板10の表面の吸着水、吸着ガスを脱離させるための加熱機構を備えてもよい。ロードチャンバ24は、サブチャンバ23に接続され、成膜装置2の外部から供給される基板10、またはサブチャンバ23から排出される基板10を一時的に保持する。
【0032】
[2−1.成膜チャンバ]
図3は、成膜チャンバ20の縦断面図を示す。成膜チャンバ20は、1または複数の基板10を保持する基板マニピュレータ200、基板マニピュレータ200に保持された基板10を加熱する基板ヒータ201、内部に液体窒素を流すことで成膜チャンバ20内のガスを吸着するクライオパネル202などを有する。なお、基板マニピュレータ200はシャフト2000を中心として回転可能に設けられてよい。また、成膜チャンバ20は、成膜チャンバ20内にガス(一例として酸素、オゾン、窒素、アンモニア)などを供給するガス供給ポートを有してもよい。また、成膜チャンバ20は、ガスを分解して基板に照射するためのプラズマ発生機構を備えても良い。
【0033】
成膜チャンバ20の外周部には、1または複数のセル21が設けられている。本実施形態では一例として、各セル21はクヌーセンセルであり、原料を保持する坩堝210、坩堝210内の原料を加熱するヒータ211(セルヒータ211とも称する)、および、坩堝210の開口部を開閉して原料のフラックス量(分子線量,蒸気量)を調整するシャッター212などを有する。なお、セルヒータ211はセル21の上部および下部に分けて配置されてもよい。
【0034】
以上の成膜チャンバ20においては、基板10を基板マニピュレータ200に取り付け、真空ポンプ22により成膜チャンバ20内の気圧を減圧し、基板ヒータ201によって基板10を加熱し、基板10を回転させながらセル21を加熱して原料を分子線として基板10の表面に照射することで、成膜が行われる。
【0035】
[2−2.成膜装置2のメンテナンス]
成膜装置2には、種々のメンテナンスが行われる。例えば、メンテナンスは、成膜チャンバ20、サブチャンバ23およびロードチャンバ24を大気開放して行われてもよいし、これらのチャンバを密閉したままで行われてもよい。メンテナンスは窒素でベント、あるいはパージされた状態で行うこともできる。メンテナンスは定期的(一例として1年ごと)に行われてもよいし、成膜された膜の特性に応じて行われてもよいし、使用部品の寿命,故障などに応じて行われてもよい。
【0036】
[2−3.成膜装置2の制御条件]
成膜装置2は、制御条件データに従って成膜を行う。制御条件データは、成膜装置2に入力されるインプット条件であってよく、例えばオペレータにより入力される。制御条件は、成膜装置2において直接的に制御可能な条件に限らず、間接的に制御可能な条件であってもよい。一例として制御条件データは、各セル21の温度、セルヒータ211に対する供給電力、シャッター212の開閉条件、基板10の温度、基板ヒータ201に対する供給電力、成膜チャンバ20の真空度、成膜チャンバ20内に存在するガスの種類、ガスの量、クライオパネル202の温度、クライオパネル202に供給する液体窒素の量、成膜にかける時間、および、セル21等の温度のフィードバック制御におけるゲインのうち少なくとも1つに関するデータでよい。このうち、シャッター212の開閉条件とは、例えば、開状態および閉状態の何れにするか、開閉のタイミング、および、開閉の速度の少なくとも1つでよい。フィードバック制御におけるゲインとは、一例としてPID制御におけるPゲイン、IゲインおよびDゲインの少なくとも1つでよい。基板マニピュレータ200が回転可能である場合には、その回転速度が制御条件に含まれてもよい。クライオパネル202に供給する液体窒素の量とは、液体窒素の液面(残量)、液体窒素の供給流量を含んでもよい。基板10の温度としては、例えば基板ヒータ201への供給電力を制御するべく基板ヒータ201と基板10との間に設置された熱電対の温度を用いることができる。以上で述べたような制御条件は、経時的に設定されていてもよいし、時間の経過とは無関係に一律に設定されていてもよい。制御条件は、例えば積層構造(1)、積層構造(2)等の膜構造の種類、あるいはレシピ番号のような識別符号を含んでよく、このような識別符号に対応付けて、制御条件に含まれる各要素の設定値が一セットに纏められてよい。なお、成膜チャンバ20の真空度は、クライオパネル202の温度(液体窒素の残量など)、真空ポンプ22の動作状況、各セル21の温度などにより影響を受けるため、成膜装置2の状態を示す状態データであるが、真空度が或る閾値よりも良い場合に成膜動作を実施する場合には、制御条件として用いることが可能である。同様に、成膜装置2の状態を示す後述の状態データの少なくとも一部は、制御条件としても用いられてもよい。
【0037】
なお、上述の制御条件の各要素のうち、セル21の温度、セルヒータ211に対する供給電力、および、シャッター212の開閉条件は、原料のフラックス量を間接的に制御してよい。フラックス量が変化すると基板10に到達する原料の量が変化する結果、成膜される膜の組成,膜の特性(一例として膜厚、組成(混晶比、積層構造)など)が変化する。この場合の原料のフラックス量は、例えばセル21の温度を制御条件とした制御の結果、測定される状態データである。ただし成膜装置2の構成上、セル21の温度と原料のフラックス量の間の相関関係が設定されており、成膜装置2にフラックス量を入力してフラックス量を制御可能な場合には、原料のフラックス量は制御条件となりえる。セル21の温度は、例えばセルヒータ211への供給電力を制御するべく、セル21に装着される坩堝の近傍に設置される熱電対の温度を用いることができる。
【0038】
また、基板ヒータ201に対する供給電力は、基板温度を間接的に制御してよい。基板温度が変化すると基板10に到達した原料の移動し易さが変化する結果、成膜される膜内での結晶化の度合いや表面形状、膜の特性(一例として表面凹凸状態、結晶性など)が変化する。
【0039】
また、成膜チャンバ20の真空度、成膜チャンバ20内に存在するガスの種類、ガスの量、クライオパネル202の温度、および、クライオパネル202に供給する液体窒素の量は、成膜チャンバ20内の真空度および真空の質を直接的または間接的に制御してよい。真空度および真空の質が変化すると、成膜される膜内への不純物の混入度合が変化する。また、基板10に照射される原料の直進性が変化する結果、成膜される膜の特性が変化する。真空度および真空の質が変化すると、成膜される膜内への不純物の混入度合が変化し、成長表面の状態が変化する結果、成膜される膜の特性が変化する。
【0040】
[2−4.成膜装置2の状態]
第1モデル305および/または第2モデル309の学習処理などには、成膜装置2の状態を示す状態データが用いられる。状態データは、例えば成膜装置2の設置された環境の温度や湿度に関するデータ、RHEED像に関するデータ、成膜装置2の少なくとも1つの部品の使用回数、使用履歴(一例として、これまでにどのような膜を成膜したか)に関するデータを含んでよい。また、状態データは、制御条件データが示す制御条件で成膜装置2が動作した場合の制御対象の実測値(例えば複数の時点で測定された時系列順の実測値、または、或る時点で測定された実測値)を含んでよい。例えば、状態データは、基板10に照射される原料のフラックス量、セル21の温度、セルヒータ211の温度、セルヒータ211に対する供給電力、シャッター212の開閉のタイミング、開閉の速度、基板10の温度、基板ヒータ201の温度、基板ヒータ201に対する供給電力、成膜チャンバ20の真空度、成膜チャンバ20内に存在するガスの種類、ガスの量、クライオパネル202の温度、クライオパネル202に供給する液体窒素の量、セル21の温度のフィードバック制御におけるゲイン、および、基板マニピュレータ200の回転速度のうち少なくとも1つに関するデータを含んでよい。このうち、セル21の温度、セルヒータ211の温度および基板ヒータ201の温度は、熱電対により測定されてよい。基板10の温度は、成膜チャンバ20内または外に配置される放射温度計により測定されてよい。あるいは基板10の温度は、基板10のバンド端吸収や透過スペクトルをもとに測定、算出されてよい。成膜チャンバ20の真空度は、成膜チャンバ20内に配置されるイオンゲージにより測定されてよい。成膜チャンバ20内に存在するガスの種類および量は、成膜チャンバ20内に配置される四重極質量分析計により測定されてよい。状態データは、成膜装置2に対するメンテナンス後の総成膜時間(いわゆるキャンペーンの開始からの経過時間)、下地面の特性(一例として基板10の特性)を含んでもよい。なお、成膜条件取得部303は、原料のフラックス量に関する状態データを、各セル21について取得してもよいし、一部のセル21について取得してもよい。また、成膜条件取得部303は、基板温度に関する状態データを各基板10について取得してもよいし、一部の基板10について取得してもよい。また、成膜条件取得部303は、成膜チャンバ20内の真空度,真空の質に関する状態データを時系列データとして取得してよい。
【0041】
また、状態データは、成膜装置2の運転履歴を示す運転履歴データを含んでもよい。運転履歴データは、成膜装置2に行われたメンテナンスの回数および内容(一例として或る部品を交換,洗浄したなど)の少なくとも1つに関するデータ、メンテナンス時にセル21の坩堝にチャージした原材料の重量、成膜装置2の成膜回数に関するデータ、および過去に形成した膜に関するデータの少なくとも1つを含んでよい。メンテナンスの回数および内容の少なくとも1つに関するデータはメンテナンスの履歴を示すデータでよい。成膜回数に関するデータは、メンテナンス後の成膜回数でもよいし、メンテナンスとは無関係に通算した成膜回数でもよい。過去に形成した膜に関するデータは、過去に成膜した膜の種類,特性などを示す履歴データでよい。これらの運転履歴データは、成膜チャンバ20の内部における原料の付着状態、ひいては各部材の熱容量、熱伝導の状態に関連し得る。
【0042】
[3.動作]
[3−1.モデルの学習処理]
図4は、第1モデル305および/または第2モデル309の学習方法を示す。システム1は、ステップS1〜S7の処理により第1モデル305および/または第2モデル309の学習を行う。なお、システム1はステップS1〜S7の処理を、成膜装置2における各回の成膜動作について行ってもよいし、ある期間の成膜動作のみを抽出するなど、一部の成膜動作について行ってもよい。成膜される膜構造は、単層膜であってもよいし、積層膜であってもよい。
【0043】
ステップS1において下地特性取得部301は、膜を成膜する下地となる下地層の特性を示す下地特性データを取得する。下地特性データは、下地層についての、組成、キャリア密度、伝導率、伝導率の温度依存性、抵抗率、抵抗率の温度依存性、結晶性、表面凹凸状態、表面凹凸の異方性、透過スペクトル、電子移動度、正孔移動度、欠陥密度、表面の状態密度、フォトルミネッセンス測定スペクトル、エレクトロルミネッセンス測定スペクトル、光学吸収スペクトル、電気特性異方性、結晶組織異方性、表面の不純物の情報、表面の汚染の情報、結晶面角度、RHEED像、ピット情報、ヒロック情報、ウィスカ情報、画像、および、これらの特性の何れかについての面内でのバラつきの少なくとも1つに関するデータを含んでよい。これに加えて/代えて、下地特性データは、下地層に含まれる原子の原子番号、原子の質量、原子の電子数、原子の中性子数、原子の電気陰性度、原子の電子親和力、原子のイオン半径、原子の共有結合半径、原子のファンデルワールス半径、原子のイオン化傾向、原子のイオン性、原子の自己拡散係数、および、原子の相互拡散係数の少なくとも1つに関するデータを含んでよい。これに加えて/代えて、下地特性データは、下地層、原子により構成される純物質および化合物の、格子定数、原子間距離、沸点、沸点の圧力依存性、融点、融点の圧力依存性、凝集エネルギー、体積弾性率、熱膨張係数、電子有効質量、正孔有効質量、比熱、誘電率、非線形誘電率、バンドダイアグラム、バンドギャップ、バンドギャップの温度圧力依存性、スピン軌道相互作用、密度、デバイ温度、熱伝導率、熱拡散係数、ヤング率、せん断弾性定数、ポアソン比、体積弾性率、硬度、ヌープ硬度、音速、フォノン分散、状態密度、光学フォノン周波数、音響フォノン周波数、電子散乱断面積、フォノン散乱断面積、グリュナイゼン定数、デフォメーションポテンシャル係数、圧電定数、電気機械結合定数、フレーリヒカップリング定数、仕事関数、光学吸収特性、ゼーベック係数、励起子のエネルギー、励起子の半径、屈折率、屈折率の温度圧力依存性、真正キャリア密度、標準生成エンタルピー、標準生成ギッブスエネルギー、ラジカルのエネルギー準位、表面再構成の状態、ホール係数、ホール散乱因子、二光子吸収係数、キャリアドリフトの終端速度、キャリアの平均自由工程、少数キャリアの拡散長、少数キャリアの寿命、および、インパクトイオン化パラメータの少なくとも1つに関するデータを含んでよい。これに加えて/代えて、下地特性データは、下地層および下地層に含まれる原子により構成される化合物のマーデルング定数、下地層に含まれる原子により構成される純物質の金属結合半径、および、下地層の膜厚の少なくとも1つに関するデータを含んでよい。
【0044】
組成とは、構成元素の組成比でもよいし、格子定数でもよい。結晶性とはXRD半値幅であってよく、一例としてカーブ法により得られる情報であってよい。表面凹凸状態は、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型トンネル顕微鏡(STM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、光学顕微鏡、および透過電子顕微鏡(TEM)のいずれにより測定されてもよい。欠陥密度とは、点欠陥密度、線欠陥密度および面欠陥密度のいずれであってもよい。フォトルミネッセンス測定スペクトルおよびエレクトロルミネッセンス測定スペクトルに関するデータは、例えば強度および波長ピークの少なくとも一方に関するデータでよく、一例として極大値強度および極大値波長を示すデータである。表面の不純物の情報,表面の汚染の情報とは、蛍光X線分析法(XRF)、オージェ電子分光法(AES)、エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)、波長分散型X線分析法(WDX)、X線光電子分光法(XPS)、二次イオン質量分析法(SIMS)、電子プローブ微小分析法(EPMA)、フーリエ変換赤外分光分析法(FTIR)、および、ラマン解析法のいずれにより検出される情報であってもよい。結晶面角度とは、X線回折(XRD)および電子エネルギー損失分光(EELS)のいずれによる角度であってもよい。下地層についての画像に関する情報は、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、および透過電子顕微鏡(TEM)のいずれかによる画像そのものであってもよいし、画像を解析して抽出される凹凸データなどでもよい。下地層に含まれる原子とは、半導体およびドーパントの原子を含んでよい。電気陰性度とは、(1)Linus Pauling、(2)Robert Mulliken、(3)A.L.Allred & E.G. Rochow、(4)P. Villars、(5)J.C.Phillips、および(6)J.A.Van Vechtenのいずれの値でもよい。イオン性(Ionicity)はフィリップス、ポーリングおよびハリソンのいずれの値でもよい。共有結合半径とは、[0](1)Linus Pauling、および(2)J.A.Van Vechten & J.C.Phillipsのいずれの値でもよい。電子有効質量および正孔有効質量とはキャリアの有効質量であってよく、間接的に物質の硬さに影響を与えてよい。非線形誘電率は、結晶の中心対称性からの電気双極子的な破れ量を規定する値であってよい。デフォメーションポテンシャル係数は、(1)W.H.Kleiner & L.Roth、(2)G.L.Bir & G.e.Pikus、および(3)E.O.Kaneのいずれにより定義された係数でもよい。光学吸収特性とは、一例として光吸収スペクトルでよい。標準生成エンタルピーおよび標準生成ギッブスエネルギーは、それぞれ水素化物、酸化物、窒化物、硫化物、フッ化物、ハロゲン化物の生成に関する値であってよい。表面再構成の状態とは、温度や雰囲気、成長履歴により結晶表面原子の配列が変化した状態であってよく、例えばウッド(wood)記法によればGaAs結晶の001面のβ2(2×4)構造やγ(2×4)構造、c(4×4)構造などであってよい。下地特性データは、解析ソフトによって得られてもよい。下地層の各特性は、下地層の複数の位置の値の最大値、最小値、平均値、および、値の分布のいずれでもよいし、一の位置(例えば中央)の値でもよい。
【0045】
ステップS3において制御部311は、制御条件データを成膜装置2に供給して成膜装置2を動作させ、下地層の上に成膜を行う。制御条件データはオペレータから入力されてよい。
【0046】
ステップS5において膜特性取得部302および成膜条件取得部303は、成膜された膜の膜特性データ、および、成膜装置2の成膜条件データを取得する。
【0047】
膜特性データは、生成した膜の、組成、キャリア密度、伝導率、伝導率の温度依存性、抵抗率、抵抗率の温度依存性、結晶性、表面凹凸状態、表面凹凸の異方性、透過スペクトル、反射スペクトル、電子移動度、正孔移動度、欠陥密度、表面の状態密度、フォトルミネッセンス測定スペクトル、エレクトロルミネッセンス測定スペクトル、光学吸収スペクトル、電気特性異方性、結晶組織異方性、表面の不純物の情報、表面の汚染の情報、結晶面角度、RHEED像、ピット情報、ヒロック情報、ウィスカ情報、画像、および、これらの特性の何れかについての面内でのバラつきの少なくとも1つに関するデータを含んでよい。膜特性データで示される特性の少なくとも一部は、下地特性データで示される特性と同じであってよい。膜特性データは実測値を示すデータでよい。成膜した膜の各特性は、膜の複数の位置の値の最大値、最小値、平均値、および、値の分布のいずれでもよいし、一の位置(例えば中央)の値でもよい。成膜装置2において1回の成膜動作で複数の基板10(同一バッチの複数の基板10とも称する)に纏めて成膜が行われる場合、つまり基板マニピュレータ200に複数の基板10が保持される場合には、膜特性取得部302は、当該同一バッチの複数の基板10のうち、全ての基板10の膜の特性を全数検査により取得してもよいし、一部の基板10の膜の特性を抜き取り検査により取得してもよい。一例として、膜特性取得部302は、膜の電気特性および表面状態などを全数検査により取得し、膜厚および結晶性などを抜き取り検査により取得してよい。
【0048】
成膜条件データは、上述した制御条件データおよび状態データの少なくとも1つを含んでよい。これに加えて/代えて、成膜条件データは、成膜した膜に関する理論値、文献値および/または推定値などを含んでよい。例えば、成膜条件データは、膜に含まれる原子の原子番号、原子の質量、原子の電子数、原子の中性子数、原子の電気陰性度、原子の電子親和力、原子のイオン半径、原子の共有結合半径、原子のファンデルワールス半径、原子のイオン化傾向、原子のイオン性、原子の自己拡散係数、および、原子の相互拡散係数の少なくとも1つに関するデータを含んでよい。これに加えて/代えて、成膜条件データは、膜、膜に含まれる原子により構成される純物質および化合物の、格子定数、原子間距離(一例として最接近原子間距離)、沸点、沸点の圧力依存性、融点、融点の圧力依存性、凝集エネルギー、体積弾性率、熱膨張係数、電子有効質量、正孔有効質量、比熱、誘電率、非線形誘電率、バンドダイアグラム、バンドギャップ、バンドギャップの温度圧力依存性、スピン軌道相互作用、密度、デバイ温度、熱伝導率、熱拡散係数、ヤング率、せん断弾性定数、ポアソン比、体積弾性率、硬度、ヌープ硬度、音速、フォノン分散、状態密度、光学フォノン周波数、音響フォノン周波数、電子散乱断面積、フォノン散乱断面積、グリュナイゼン定数、デフォメーションポテンシャル係数、圧電定数、電気機械結合定数、フレーリヒカップリング(Froehlich coupling)定数(但し「oe」はドイツ語のオー・ウムラウト表記を示す)、仕事関数、光学吸収特性、ゼーベック係数、励起子のエネルギー、励起子の半径、屈折率、屈折率の温度圧力依存性、真正キャリア密度、標準生成エンタルピー、標準生成ギッブスエネルギー、ラジカルのエネルギー準位、表面再構成の状態、ホール係数、ホール散乱因子、二光子吸収係数、キャリアドリフトの終端速度、キャリアの平均自由工程、少数キャリアの拡散長、少数キャリアの寿命、および、膜のインパクトイオン化パラメータ、の少なくとも1つに関するデータを含んでよい。これに加えて/代えて、成膜条件データは、膜、および、膜に含まれる原子により構成される化合物のマーデルング定数、膜に含まれる原子により構成される純物質の金属結合半径、ならびに、膜厚の少なくとも1つに関するデータを含んでよい。ここで、成膜する膜に含まれる原子とは、半導体およびドーパントの原子を含んでよい。各値は、膜の複数の位置の値の最大値、最小値、平均値、および、値の分布のいずれでもよいし、一の位置(例えば中央)の値でもよい。
【0049】
なお、ステップS1,S3,S5の処理は、この順番で行われなくてもよい。例えば、ステップS1の処理はステップS3の処理の後に行われてもよい。
【0050】
ステップS7において第1学習処理部304および第2学習処理部308は、取得された成膜条件データ、膜特性データおよび下地特性データを含む学習データを用いて第1モデル305および第2モデル309の学習処理を実行する。第1モデル305および第2モデル309のそれぞれの初期モデルは、例えばランダムフォレスト、リカレントニューラルネットワークまたはタイムディレイニューラルネットワークであるが、勾配ブースティング、ロジスティック回帰、および、サポートベクタマシン(SVM)などを含む他の機械学習アルゴリズムであってもよい。第1モデル305および第2モデル309は、学習データの各要素に対応するノードを入力層に含み、推奨する制御条件の各要素に対応するノードを出力層に含んでよい。学習データの1つの要素に対する入力層のノードは1つでもよいし複数でもよい。入力層および出力層の間には、1または複数のノードを含む中間層(隠れ層)が介在してよい。第1学習処理部304および第2学習処理部308は、ノード間をつなぐエッジの重み、および、出力ノードのバイアス値を調整することで学習処理を実行してよい。
【0051】
[3−2.化合物半導体の製造]
図5は、化合物半導体の製造方法を示す。まず、ステップS11においてオペレータが基板10を準備する。例えばオペレータは基板10を成膜装置2の成膜チャンバ20内にセットする。ステップS13においてオペレータは、化合物半導体に含まれるべき複数の膜を基板10上に積層する。これにより、基板10上に複数の膜が積層された化合物半導体が製造される。
【0052】
[3−2−1.モデルを用いた成膜]
図6は、第1モデル305および第2モデル309を用いた成膜方法を示す。システム1は、上述のステップS13の処理においては、積層する複数の膜のうち、少なくとも1つの膜(第n+1膜とも称する。但し、nは自然数であり、基板10上に成膜された順番を示す)をステップS21〜S29の処理により成膜してよい。
【0053】
ステップS21において下地特性取得部301および成膜条件取得部303は、第n膜の下地層(第n−1膜とも称する)の特性を示す下地特性データと、第n膜を成膜したときの成膜条件データとを取得する。ステップS23において膜特性予測部306は、第1モデル305を用いて、第n−1膜の下地特性データおよび第n膜の成膜条件データに応じた第n膜の予測膜特性データを取得する。
【0054】
予測膜特性データは、生成される膜の、組成、キャリア密度、伝導率、伝導率の温度依存性、抵抗率、抵抗率の温度依存性、結晶性、表面凹凸状態、表面凹凸の異方性、透過スペクトル、電子移動度、正孔移動度、欠陥密度、表面の状態密度、フォトルミネッセンス測定スペクトル、エレクトロルミネッセンス測定スペクトル、光学吸収スペクトル、電気特性異方性、結晶組織異方性、表面の不純物の情報、表面の汚染の情報、結晶面角度、RHEED像、ピット情報、ヒロック情報、ウィスカ情報、画像、および、これらの特性の何れかについての面内でのバラつきの少なくとも1つに関するデータを含んでよい。予測膜特性データで示される特性の少なくとも一部は、膜特性データで示される特性と同じであってよい。予測膜特性データで示される特性の少なくとも一部は、下地特性データで示される特性と同じであってよい。
【0055】
ステップS25において目標膜特性取得部307は、第n+1膜の目標膜特性データを取得する。目標膜特性データは、生成される膜の、組成、キャリア密度、伝導率、伝導率の温度依存性、抵抗率、抵抗率の温度依存性、結晶性、表面凹凸状態、表面凹凸の異方性、透過スペクトル、電子移動度、正孔移動度、欠陥密度、表面の状態密度、フォトルミネッセンス測定スペクトル、エレクトロルミネッセンス測定スペクトル、光学吸収スペクトル、電気特性異方性、結晶組織異方性、表面の不純物の情報、表面の汚染の情報、結晶面角度、RHEED像、ピット情報、ヒロック情報、ウィスカ情報、画像、および、これらの特性の何れかについての面内でのバラつきの少なくとも1つに関するデータを含んでよい。目標膜特性データで示される特性の少なくとも一部は、膜特性データおよび/または予測膜特性データで示される特性と同じであってよい。目標膜特性データで示される特性の少なくとも一部は、下地特性データで示される特性と同じであってよい。目標膜特性データは、少なくとも一部の特性に関する数値範囲データを含んでよい。
【0056】
ステップS27において推奨制御条件出力部310は、第2モデル309を用いて、対象下地特性データとしての第n膜の予測膜特性データと、第n+1膜の目標膜特性データとに応じた、第n+1膜を成膜するための推奨制御条件データを取得する。目標膜特性データが一部の特性に関する数値範囲データを含む場合には、推奨制御条件データは、各特性の数値範囲を満たす膜を成膜するための制御条件を示してよい。推奨制御条件データは、少なくとも一部の制御条件に関して数値範囲データを含んでよい。なお、推奨制御条件出力部310は、対象下地特性データとして、ステップS21〜S23の処理により取得された第n膜の予測膜特性データを用いる代わりに、下地特性取得部301が第n+1膜の下地層としての第n膜について取得した下地特性データを用いてもよい。
ステップS29において制御部311は、推奨制御条件データが示す制御条件で成膜装置2を動作させて第n+1膜を成膜させる。
【0057】
なお、同様にして第n+2膜を成膜するべく改めてステップS21〜S29の処理を行う場合には、ステップS21において下地特性取得部301が第n+1膜の下地層としての第n膜の特性を示す下地特性データを取得するのに代えて、膜特性予測部306が、前回のステップS23において取得済みの第n膜の予測膜特性データを下地特性データとして取得してよい。これにより、成膜を行うたびに、生成された膜の特性をオペレータや計測装置から取得する手間をなくすことができる。また、ステップS23においては、膜特性予測部306が第1モデル305を用いて第n+1膜の予測膜特性データを取得してもよいし、推奨制御条件出力部310が前回のステップS25において取得済みの第n+1膜の目標膜特性データを、第n+1膜の予測膜特性データとして取得してもよい。
【0058】
また、上述のようにして成膜を行う場合には、各成膜時の成膜条件データ、膜特性データ、および下地特性データを学習データとして第1モデル305および/または第2モデル309に入力して上述の図4の学習処理を更に行ってもよい。この場合には、化合物半導体を製造しつつ第1モデル305および/または第2モデル309の学習処理を進めることができる。
【0059】
[4.化合物半導体の具体例]
製造される化合物半導体は、例えば赤外線センサ(一例として赤外線式ガスセンサ)または磁気センサ等のセンサに用いられてよい。この場合、下地層および成膜される膜は、赤外線センサまたは磁気センサの少なくとも一部であってよい。なお、化合物半導体は、LEDの発光素子など、他の用途に用いられてもよい。
【0060】
図7は、赤外線センサ5の層構成を示す。赤外線センサ5は、一例としてガリウムヒ素基板10上にアンチモン化インジウム(InSb)のn+層51、アンチモン化アルミニウムインジウム(AlInSb)のn+層52、アンチモン化アルミニウムインジウム(AlInSb)のn+層(バリア層)53、アンチモン化アルミニウムインジウム(AlInSb)の活性層54、アンチモン化アルミニウムインジウム(AlInSb)のp+層(バリア層)55、および、アンチモン化インジウム(InSb)のp+層56を有する。図6の成膜方法によって成膜される膜は、層51〜56の何れの層でもよい。赤外線センサ5は、二酸化ケイ素(SiO)の層、窒化ケイ素(Si)の層および/または電極層を更に有してよい。
【0061】
[5.変形例]
なお、上記の実施形態では、学習処理装置3は成膜条件取得部303、第1モデル305、膜特性予測部306、目標膜特性取得部307、第2モデル309および制御部311を有することとして説明したが、これらの少なくとも1つを有しないこととしてもよい。学習処理装置3は、成膜条件取得部303を有しない場合には、膜特性データおよび下地特性データを用いて学習処理を行い、下地特性データを第1モデル305への入力として予測膜特性データを取得してよい。これにより、例えば成膜される膜の特性が成膜条件によらない場合に、第1モデル305および/または第2モデル309の学習処理を行うことができ、第1モデル305から予測膜特性データを取得することができる。学習処理装置3が第1モデル305および/または第2モデル309を有しない場合には、第1モデル305および/または第2モデル309は学習処理装置3の外部のサーバに格納されてもよい。
【0062】
また、第2モデル309は対象下地特性データおよび目標膜特性データに基づいて推奨制御条件データを出力することとして説明したが、目標膜特性データに基づいて推奨制御条件データと、目標とする膜を成膜するための推奨される状態データ(一例として下地層の膜特性)とを含む推奨成膜条件データを出力してもよい。これにより、第N膜目(但し、Nは自然数であり、基板10上に成膜された順番を示す)の目標膜特性データから第N膜を成膜するための推奨制御条件データと、下地層としての第N−1膜について推奨される膜特性データとが出力される。さらに当該第N−1膜について推奨される膜特性データを目標膜特性データとして用いることで、第N−1膜を成膜するための推奨制御条件データと、その下地層としての第N−2膜について推奨される膜特性データとが出力される。以降、同様の処理を繰り返すことで、基板10上の第1膜から第N膜までの各膜についての推奨制御条件データと、基板10の表面から第N−1層までの各下地層について推奨される膜特性データとを得ることができる。なお、目標膜特性データから得られる推奨制御条件データは少なくとも一部の制御条件に関して数値範囲データを含んでよい。
【0063】
また、成膜条件データは成膜装置2の制御条件データおよび状態データを含むこととして説明したが、これに加えて/代えて、他のデータを含んでもよい。例えば、成膜条件データは、成膜装置2のオペレータの識別データを含んでよい。この場合には、オペレータによって成膜される膜の特性に差異がある場合に、その差異を第1モデル305および/または第2モデル309に学習させることができる。
【0064】
また、本発明の様々な実施形態は、フローチャートおよびブロック図を参照して記載されてよく、ここにおいてブロックは、(1)操作が実行されるプロセスの段階または(2)操作を実行する役割を持つ装置のセクションを表わしてよい。特定の段階およびセクションが、専用回路、コンピュータ可読媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプログラマブル回路、および/またはコンピュータ可読媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプロセッサによって実装されてよい。専用回路は、デジタルおよび/またはアナログハードウェア回路を含んでよく、集積回路(IC)および/またはディスクリート回路を含んでよい。プログラマブル回路は、論理AND、論理OR、論理XOR、論理NAND、論理NOR、および他の論理操作、フリップフロップ、レジスタ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラマブルロジックアレイ(PLA)等のようなメモリ要素等を含む、再構成可能なハードウェア回路を含んでよい。
【0065】
コンピュータ可読媒体は、適切なデバイスによって実行される命令を格納可能な任意の有形なデバイスを含んでよく、その結果、そこに格納される命令を有するコンピュータ可読媒体は、フローチャートまたはブロック図で指定された操作を実行するための手段を作成すべく実行され得る命令を含む、製品を備えることになる。コンピュータ可読媒体の例としては、電子記憶媒体、磁気記憶媒体、光記憶媒体、電磁記憶媒体、半導体記憶媒体等が含まれてよい。コンピュータ可読媒体のより具体的な例としては、フロッピー(登録商標)ディスク、ディスケット、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EPROMまたはフラッシュメモリ)、電気的消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EEPROM)、静的ランダムアクセスメモリ(SRAM)、コンパクトディスクリードオンリメモリ(CD-ROM)、デジタル多用途ディスク(DVD)、ブルーレイ(RTM)ディスク、メモリスティック、集積回路カード等が含まれてよい。
【0066】
コンピュータ可読命令は、アセンブラ命令、命令セットアーキテクチャ(ISA)命令、マシン命令、マシン依存命令、マイクロコード、ファームウェア命令、状態設定データ、またはSmalltalk、JAVA(登録商標)、C++等のようなオブジェクト指向プログラミング言語、および「C」プログラミング言語または同様のプログラミング言語のような従来の手続型プログラミング言語を含む、1または複数のプログラミング言語の任意の組み合わせで記述されたソースコードまたはオブジェクトコードのいずれかを含んでよい。
【0067】
コンピュータ可読命令は、汎用コンピュータ、特殊目的のコンピュータ、若しくは他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサまたはプログラマブル回路に対し、ローカルにまたはローカルエリアネットワーク(LAN)、インターネット等のようなワイドエリアネットワーク(WAN)を介して提供され、フローチャートまたはブロック図で指定された操作を実行するための手段を作成すべく、コンピュータ可読命令を実行してよい。プロセッサの例としては、コンピュータプロセッサ、処理ユニット、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ等を含む。
【0068】
図8、本発明の複数の態様が全体的または部分的に具現化されてよいコンピュータ2200の例を示す。コンピュータ2200にインストールされたプログラムは、コンピュータ2200に、本発明の実施形態に係る装置に関連付けられる操作または当該装置の1または複数のセクションとして機能させることができ、または当該操作または当該1または複数のセクションを実行させることができ、および/またはコンピュータ2200に、本発明の実施形態に係るプロセスまたは当該プロセスの段階を実行させることができる。そのようなプログラムは、コンピュータ2200に、本明細書に記載のフローチャートおよびブロック図のブロックのうちのいくつかまたはすべてに関連付けられた特定の操作を実行させるべく、CPU2212によって実行されてよい。
【0069】
本実施形態によるコンピュータ2200は、CPU2212、RAM2214、グラフィックコントローラ2216、およびディスプレイデバイス2218を含み、それらはホストコントローラ2210によって相互に接続されている。コンピュータ2200はまた、通信インタフェース2222、ハードディスクドライブ2224、DVD−ROMドライブ2226、およびICカードドライブのような入/出力ユニットを含み、それらは入/出力コントローラ2220を介してホストコントローラ2210に接続されている。コンピュータはまた、ROM2230およびキーボード2242のようなレガシの入/出力ユニットを含み、それらは入/出力チップ2240を介して入/出力コントローラ2220に接続されている。
【0070】
CPU2212は、ROM2230およびRAM2214内に格納されたプログラムに従い動作し、それにより各ユニットを制御する。グラフィックコントローラ2216は、RAM2214内に提供されるフレームバッファ等またはそれ自体の中にCPU2212によって生成されたイメージデータを取得し、イメージデータがディスプレイデバイス2218上に表示されるようにする。
【0071】
通信インタフェース2222は、ネットワークを介して他の電子デバイスと通信する。ハードディスクドライブ2224は、コンピュータ2200内のCPU2212によって使用されるプログラムおよびデータを格納する。DVD−ROMドライブ2226は、プログラムまたはデータをDVD−ROM2201から読み取り、ハードディスクドライブ2224にRAM2214を介してプログラムまたはデータを提供する。ICカードドライブは、プログラムおよびデータをICカードから読み取り、および/またはプログラムおよびデータをICカードに書き込む。
【0072】
ROM2230はその中に、アクティブ化時にコンピュータ2200によって実行されるブートプログラム等、および/またはコンピュータ2200のハードウェアに依存するプログラムを格納する。入/出力チップ2240はまた、様々な入/出力ユニットをパラレルポート、シリアルポート、キーボードポート、マウスポート等を介して、入/出力コントローラ2220に接続してよい。
【0073】
プログラムが、DVD−ROM2201またはICカードのようなコンピュータ可読媒体によって提供される。プログラムは、コンピュータ可読媒体から読み取られ、コンピュータ可読媒体の例でもあるハードディスクドライブ2224、RAM2214、またはROM2230にインストールされ、CPU2212によって実行される。これらのプログラム内に記述される情報処理は、コンピュータ2200に読み取られ、プログラムと、上記様々なタイプのハードウェアリソースとの間の連携をもたらす。装置または方法が、コンピュータ2200の使用に従い情報の操作または処理を実現することによって構成されてよい。
【0074】
例えば、通信がコンピュータ2200および外部デバイス間で実行される場合、CPU2212は、RAM2214にロードされた通信プログラムを実行し、通信プログラムに記述された処理に基づいて、通信インタフェース2222に対し、通信処理を命令してよい。通信インタフェース2222は、CPU2212の制御下、RAM2214、ハードディスクドライブ2224、DVD−ROM2201、またはICカードのような記録媒体内に提供される送信バッファ処理領域に格納された送信データを読み取り、読み取られた送信データをネットワークに送信し、またはネットワークから受信された受信データを記録媒体上に提供される受信バッファ処理領域等に書き込む。
【0075】
また、CPU2212は、ハードディスクドライブ2224、DVD−ROMドライブ2226(DVD−ROM2201)、ICカード等のような外部記録媒体に格納されたファイルまたはデータベースの全部または必要な部分がRAM2214に読み取られるようにし、RAM2214上のデータに対し様々なタイプの処理を実行してよい。CPU2212は次に、処理されたデータを外部記録媒体にライトバックする。
【0076】
様々なタイプのプログラム、データ、テーブル、およびデータベースのような様々なタイプの情報が記録媒体に格納され、情報処理を受けてよい。CPU2212は、RAM2214から読み取られたデータに対し、本開示の随所に記載され、プログラムの命令シーケンスによって指定される様々なタイプの操作、情報処理、条件判断、条件分岐、無条件分岐、情報の検索/置換等を含む、様々なタイプの処理を実行してよく、結果をRAM2214に対しライトバックする。また、CPU2212は、記録媒体内のファイル、データベース等における情報を検索してよい。例えば、各々が第2の属性の属性値に関連付けられた第1の属性の属性値を有する複数のエントリが記録媒体内に格納される場合、CPU2212は、第1の属性の属性値が指定される、条件に一致するエントリを当該複数のエントリの中から検索し、当該エントリ内に格納された第2の属性の属性値を読み取り、それにより予め定められた条件を満たす第1の属性に関連付けられた第2の属性の属性値を取得してよい。
【0077】
上で説明したプログラムまたはソフトウェアモジュールは、コンピュータ2200上またはコンピュータ2200近傍のコンピュータ可読媒体に格納されてよい。また、専用通信ネットワークまたはインターネットに接続されたサーバーシステム内に提供されるハードディスクまたはRAMのような記録媒体が、コンピュータ可読媒体として使用可能であり、それによりプログラムを、ネットワークを介してコンピュータ2200に提供する。
【0078】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0079】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0080】
1 システム、2 成膜装置、3 学習処理装置、5 赤外線センサ、10 基板、20 成膜チャンバ、21 セル、22 真空ポンプ、23 サブチャンバ、24 ロードチャンバ、200 基板マニピュレータ、201 基板ヒータ、202 クライオパネル、210 坩堝、211 ヒータ、212 シャッター、301 下地特性取得部、302 膜特性取得部、303 成膜条件取得部、304 第1学習処理部、305 第1モデル、306 膜特性予測部、307 目標膜特性取得部、308 第2学習処理部、309 第2モデル、310 推奨制御条件出力部、311 制御部、2000 シャフト、2200 コンピュータ、2201 DVD−ROM、2210 ホストコントローラ、2212 CPU、2214 RAM、2216 グラフィックコントローラ、2218 ディスプレイデバイス、2220 入/出力コントローラ、2222 通信インタフェース、2224 ハードディスクドライブ、2226 DVD−ROMドライブ、2230 ROM、2240 入/出力チップ、2242 キーボード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8