(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1のカップリング剤の一端と結合した熱伝導性の第1の無機フィラーであって、前記第1のカップリング剤の他端に2官能以上の重合性化合物の一端が結合した、前記第1の無機フィラーと;
第2のカップリング剤の一端と結合した熱伝導性の第2の無機フィラーと;を含み、
前記第1の無機フィラーと前記第2の無機フィラーは、それぞれ金属酸化物、ケイ酸塩鉱物、窒化珪素、および炭化珪素からなる群から選ばれる少なくとも一つであり、
前記重合性化合物と前記第2のカップリング剤は、前記重合性化合物と前記第2のカップリング剤同士を結合させる官能基をそれぞれ有し、
前記2官能以上の重合性化合物は、下記式(1−1)で表される少なくとも1種の重合性液晶化合物であり、
硬化処理により、前記重合性化合物の有する前記官能基が、前記第2のカップリング剤の有する前記官能基と結合することを特徴とする、
低熱膨張部材用組成物。
Ra−Z−(A−Z)m−Ra ・・・(1−1)
[式(1−1)中、
Raは、それぞれ独立して、第1のカップリング剤と第2のカップリング剤の有する官能基と結合可能な官能基であり;
Aは、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン、ナフタレン−2,6−ジイル、テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル、フルオレン−2,7−ジイル、ビシクロ[2.2.2]オクト−1,4−ジイル、またはビシクロ[3.1.0]ヘキス−3,6−ジイルであり、
これらの環において、任意の−CH2−は、−O−で置き換えられてもよく、任意の−CH=は、−N=で置き換えられてもよく、任意の水素は、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル、または炭素数1〜10のハロゲン化アルキルで置き換えられてもよく、
該アルキルにおいて、任意の−CH2−は、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、または−C≡C−で置き換えられてもよく;
Zは、それぞれ独立して単結合、または炭素数1〜20のアルキレンであり、
該アルキレンにおいて、任意の−CH2−は、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CF=CF−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、または−C≡C−で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
mは、1〜6の整数である。]
前記第1の無機フィラーと前記第2の無機フィラーが、それぞれアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、シリカ、コーディエライト、窒化珪素、および炭化珪素からなる群から選ばれる少なくとも一つである、
請求項1に記載の低熱膨張部材用組成物。
前記式(1−1)中、Aが、1,4−シクロヘキシレン、任意の水素がハロゲンで置き換えられた1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、任意の水素がハロゲンもしくはメチルで置き換えられた1,4−フェニレン、フルオレン−2,7−ジイル、または任意の水素がハロゲンもしくはメチルで置き換えられたフルオレン−2,7−ジイルである、
請求項1に記載の低熱膨張部材用組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、高温で使用される半導体デバイスの基板には、耐熱性と熱伝導率の高い材料が望まれている。さらに、基板には、半導体に大電力を流すために厚い銅電極が
貼り合わされるが、基板と銅の熱膨張率の差により接着面に大きな応力がかかり、電極が剥がれてしまうことが問題になっている。しかし、基板と銅電極の熱膨張率がほぼ同じであれば、剥離のトラブルも防ぐことができる。
そこで本発明は、熱膨張率が銅やSiCなど半導体素子内部の部材に近く、高い耐熱性を有し、さらに熱伝導率も高い低熱膨張部材を形成可能な低熱膨張部材用組成物、および半導体デバイス用基板等に有用な低熱膨張部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、有機材料と無機材料の複合化において、樹脂に無機材料を添加するのではなく、無機材料同士をつなげるような態様、すなわち、無機材料表面に結合しているシランカップリング剤と2官能以上の重合性化合物で無機材料を直接結合させることにより(
図2参照)、または、カップリング剤で無機材料同士を直接結合させることにより(
図3、4参照)、耐熱性(ガラス転移温度および分解温度)が250℃以上と極めて高く、熱伝導率が高く、熱膨張率が銅とほぼ同じ複合材を実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の第1の態様に係る低熱膨張部材用組成物は、例えば
図2に示すように、第1のカップリング剤11の一端と結合した熱伝導性の第1の無機フィラー1と;第2のカップリング剤12の一端と結合した熱伝導性の第2の無機フィラー2と;を含み、硬化処理により、前記第1の無機フィラー1と前記第2の無機フィラー2が、前記第1のカップリング剤11と前記第2のカップリング剤12を介して結合することを特徴とする。
「一端」および後述の「他端」とは、分子の形状の縁または端であればよく、分子の長辺の両端であってもなくてもよい。「介して」とは、無機フィラー間の結合に含まれることをいう。無機フィラー間の結合は、カップリング剤同士を直接結合させて形成してもよく、他の化合物を用いてカップリング剤同士を結合させて形成してもよい。「硬化処理」は、典型的には加熱または光照射である。本発明の組成物は、加熱または光照射すると、無機フィラー間に結合が形成されるという特性を有する。
このように構成すると、無機フィラー同士をカップリング剤を介して結合させて低熱膨張部材を形成することができる。無機フィラーは直接的に結合されるので、高分子のようにガラス転移が発現せず、熱分解もし難く、また熱もカップリング剤を伝って直接フォノン振動により伝達できる複合部材が形成できる。
【0010】
本発明の第2の態様に係る低熱膨張部材用組成物は、上記本発明の第1の態様に係る低熱膨張部材用組成物において、前記第1の無機フィラーと前記第2の無機フィラーが、アルミナ、ジルコニア、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、シリカ、コーディエライト、窒化珪素、および炭化珪素からなる群から選ばれる少なくとも一つである。
このように構成すると、無機フィラーの熱伝導率が高く、それらと複合化することにより目的とする低熱膨張部材用組成物が得られる。
【0011】
本発明の第3の態様に係る低熱膨張部材用組成物は、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係る低熱膨張部材用組成物において、前記第1のカップリング剤と前記第2のカップリング剤が同一である。
このように構成すると、2種のフィラーを別々に作成し、均一に混合する過程が不要になるので、生産性が向上する。
【0012】
本発明の第4の態様に係る低熱膨張部材用組成物は、上記本発明の第1の態様〜第3の態様のいずれか1の態様に係る低熱膨張部材用組成物において、前記第1の無機フィラーおよび前記第2の無機フィラーと異なる熱膨張率を持つ、熱伝導性の第3の無機フィラー;をさらに含む。
このように構成すると、前記第1の無機フィラーと前記第2の無機フィラーが異なる熱膨張率を持つ場合、それらを複合化させると、複合化した低熱膨張部材用組成物の熱膨張率は、各々のフィラーのみで複合化した場合の中間的な値になる。しかしながら、そのままではフィラーの隙間が多く、熱伝導率が高くならないばかりか、隙間への水分の侵入による電気絶縁性が低下する。そこで、熱伝導率が高く、第1、第2の無機フィラーに比べ粒子径の小さな第3の無機フィラーを加えることにより、第1、第2の無機フィラーの隙間を埋め、材料の安定性が高くなる利点がある。さらに、第1、第2の無機フィラーのみを使用した場合に比べ、熱伝導率がより高い第3の無機フィラーを加えることにより、硬化物の熱伝導率を高くすることが可能になる。第3の無機フィラーに使用する無機フィラーに制約はないが、高絶縁性が必要な場合には、窒化ホウ素や窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素が好ましく利用でき、高絶縁性が必要でない場合には、熱伝導率が高いダイヤモンド、カーボンナノチューブ、グラフェン、金属粉などが好ましく利用できる。第3の無機フィラーはシランカップリング剤や2官能以上の重合性化合物で処理してあってもしていなくてもよい。
【0013】
本発明の第5の態様に係る低熱膨張部材用組成物は、上記本発明の第1の態様〜第4の態様のいずれか1の態様に係る低熱膨張部材用組成物において、前記第1の無機フィラーおよび前記第2の無機フィラーに結合していない、有機化合物、高分子化合物、またはガラス繊維;をさらに含む。
このように構成すると、低熱膨張部材用組成物では、熱伝導率を向上させるためにフィラーの粒径を大きくするにつれて、それにあいまって空隙率が高くなる。その空隙を前記第1の無機フィラーおよび前記第2の無機フィラーに結合していない、有機化合物、高分子化合物、またはガラス繊維で満たすことができ、熱伝導率や水蒸気遮断性能などを向上させることができる。
【0014】
本発明の第6の態様に係る低熱膨張部材用組成物は、例えば
図2に示すように、上記本発明の第1の態様〜第5の態様のいずれか1の態様に係る低熱膨張部材用組成物において、前記第1のカップリング剤11の他端に2官能以上の重合性化合物21の一端が結合した、低熱膨張部材用組成物であって、硬化処理により、前記重合性化合物21の他端が、前記第2のカップリング剤12の他端に結合することを特徴とする。
このように構成すると、無機フィラー同士をカップリング剤と2官能以上の重合性化合物で直接結合させて低熱膨張部材を形成することができる。
【0015】
本発明の第7の態様に係る低熱膨張部材用組成物は、上記本発明の第6の態様に係る低熱膨張部材用組成物において、前記2官能以上の重合性化合物が、下記式(1−1)で表される少なくとも1種の重合性液晶化合物である。
R
a−Z−(A−Z)
m−R
a ・・・(1−1)
[上記式(1−1)中、
R
aは、それぞれ独立して、第1のカップリング剤と第2のカップリング剤の他端の官能基と結合可能な官能基であり;
Aは、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン、ナフタレン−2,6−ジイル、テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル、フルオレン−2,7−ジイル、ビシクロ[2.2.2]オクト−1,4−ジイル、またはビシクロ[3.1.0]ヘキス−3,6−ジイルであり、
これらの環において、任意の−CH
2−は、−O−で置き換えられてもよく、任意の−CH=は、−N=で置き換えられてもよく、任意の水素は、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル、または炭素数1〜10のハロゲン化アルキルで置き換えられてもよく、
該アルキルにおいて、任意の−CH
2−は、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、または−C≡C−で置き換えられてもよく;
Zは、それぞれ独立して単結合、または炭素数1〜20のアルキレンであり、
該アルキレンにおいて、任意の−CH
2−は、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CF=CF−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−N(O)=N−、または−C≡C−で置き換えられてもよく、任意の水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
mは、1〜6の整数である。]
このように構成すると、無機フィラー同士がカップリング剤と耐熱性の高い液晶化合物の分子で直接的に結合されるので、高分子のようにガラス転移が発現せず、熱分解もし難く、熱をカップリング剤と液晶化合物の分子を伝って直接フォノン振動により伝達できる複合部材が形成できる。
【0016】
本発明の第8の態様に係る低熱膨張部材用組成物は、上記本発明の第7の態様に係る低熱膨張部材用組成物において、前記式(1−1)中、Aが、1,4−シクロヘキシレン、任意の水素がハロゲンで置き換えられた1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、任意の水素がハロゲンもしくはメチルで置き換えられた1,4−フェニレン、フルオレン−2,7−ジイル、または任意の水素がハロゲンもしくはメチルで置き換えられたフルオレン−2,7−ジイルである。
このように構成すると、低熱膨張部材用組成物は、重合性液晶化合物としてより好ましい化合物を含有することができる。これらの化合物は、分子の直線性がより高くなり、フォノンの伝導により有利であると考えられる。
【0017】
本発明の第9の態様に係る低熱膨張部材用組成物は、上記本発明の第7の態様または第8の態様に係る低熱膨張部材用組成物において、前記式(1−1)中、Zが単結合、−(CH
2)
a−、−O(CH
2)
a−、−(CH
2)
aO−、−O(CH
2)
aO−、−CH=CH−、−C≡C−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、−CH
2CH
2−COO−、−OCO−CH
2CH
2−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−OCF
2−または−CF
2O−であり、該aが1〜20の整数である。
このように構成すると、低熱膨張部材用組成物は、重合性液晶化合物として特に好ましい化合物を含有することができる。これらの化合物は、物性、作り易さ、または扱い易さに優れるため好ましい。
【0018】
本発明の第10の態様に係る低熱膨張部材用組成物は、上記本発明の第7の態様〜第9の態様のいずれか1の態様に係る低熱膨張部材用組成物において、前記式(1−1)中、R
aが、それぞれ下記式(2−1)〜(2−2)で表される重合性基、シクロヘキセンオキシド、無水フタル酸、または無水コハク酸である。
【化1】
[式(2−1)〜(2−2)中、R
bが、水素、ハロゲン、−CF
3、または炭素数1〜5のアルキルであり、qは0または1である。]
このように構成すると、重合性液晶化合物が熱硬化性であり、フィラーの量に影響を受けずに硬化させることができ、さらに耐熱性に優れる。また分子構造は、対称性、直線性を有するため、フォノンの伝導に有利であると考えられる。
【0019】
本発明の第11の態様に係る低熱膨張部材用組成物は、例えば
図3に示すように、上記本発明の第1の態様〜第5の態様のいずれか1の態様に係る低熱膨張部材用組成物において、前記第1のカップリング剤11と前記第2のカップリング剤12が、それぞれ他端に互いに結合可能な官能基を有し、硬化処理により、前記第1のカップリング剤11の他端が、前記第2のカップリング剤12の他端に結合することを特徴とする。
このように構成すると、無機フィラー同士をカップリング剤で直接結合させて低熱膨張部材を形成することができる。
【0020】
本発明の第12の態様に係る低熱膨張部材用組成物は、上記本発明の第1の態様〜第11の態様のいずれか1の態様に係る低熱膨張部材用組成物において、前記第1の無機フィラーと前記第2の無機フィラーが、球状である。
「球状」とは、真球に限られずラグビーボール状であってもよく、フィラーの最大粒子径(最大径)に直交する方向の粒子径をその最大径で除した値が0.5以上であるものをいう。
このように構成すると、低熱膨張部材の熱伝導率の3次元的な均質性を向上させることができる。
【0021】
本発明の第13の態様に係る低熱膨張部材は、上記本発明の第1の態様〜第12の態様のいずれか1の態様に係る低熱膨張部材用組成物が硬化した低熱膨張部材である。
このように構成すると、低熱膨張部材は、無機フィラー間に結合を有し、この結合が通常の樹脂のように分子振動や相変化を起こさないため熱膨張の直線性が高く、さらに高い熱伝導性を有することができる。
【0022】
本発明の第14の態様に係る電子機器は、上記本発明の第13の態様に係る低熱膨張部材と;発熱部を有する電子デバイスと;を備え、前記低熱膨張部材が、前記発熱部に接触するように前記電子デバイスに配置された、電子機器である。
このように構成すると、低熱膨張部材が、耐熱性がよく熱膨張率を高温まで制御できるため、電子機器に生じ得る熱歪を抑制することができる。
【0023】
本発明の第15の態様に係る低熱膨張部材の製造方法は、熱伝導性の球状の第1の無機フィラーを、第1のカップリング剤の一端と結合させる工程と;熱伝導性の球状の第2の無機フィラーを、第2のカップリング剤の一端と結合させる工程と;前記第1のカップリング剤の他端を、2官能以上の重合性化合物の一端と結合させ、前記重合性化合物の他端を、前記第2のカップリング剤の他端と結合させる工程、または、前記第1のカップリング剤の他端を、前記第2のカップリング剤の他端と結合させる工程と;を備える。
このように構成すると、無機フィラー同士がカップリング剤と2官能以上の重合性化合物で直接結合した低熱膨張部材、または、無機フィラー同士がカップリング剤で直接結合した低熱膨張部材の製造方法となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の低熱膨張部材用組成物から形成された低熱膨張部材は、有機無機複合材としては、極めて高い耐熱性と、安定した熱膨張性、高い熱伝導性を有する。さらに、化学的安定性、耐熱性、硬度および機械的強度などの優れた特性をも有する。低熱膨張部材用組成物は、例えば、シート化し硬化して電子基板に使用できるほか、接着剤、充填剤、封止剤、耐熱絶縁被覆用組成物などに適している。または、金型などを使用して3次元構造に成型し、精密機械の熱膨張が問題となる部品に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この出願は、日本国で2016年3月2日に出願された特願2016−040523号に基づいており、その内容は本出願の内容として、その一部を形成する。本発明は以下の詳細な説明によりさらに完全に理解できるであろう。本発明のさらなる応用範囲は、以下の詳細な説明により明らかとなろう。しかしながら、詳細な説明および特定の実例は、本発明の望ましい実施の形態であり、説明の目的のためにのみ記載されているものである。この詳細な説明から、種々の変更、改変が、本発明の精神と範囲内で、当業者にとって明らかであるからである。出願人は、記載された実施の形態のいずれをも公衆に献上する意図はなく、改変、代替案のうち、特許請求の範囲内に文言上含まれないかもしれないものも、均等論下での発明の一部とする。
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一または相当する部分には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。また、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0028】
本明細書における用語の使い方は以下のとおりである。
「液晶化合物」「液晶性化合物」は、ネマチック相やスメクチック相などの液晶相を発現する化合物である。
【0029】
「アルキルにおける任意の−CH
2−は、−O−などで置き換えられてもよい」あるいは「任意の−CH
2CH
2−は−CH=CH−などで置き換えられてもよい」等の句の意味を下記の一例で示す。例えば、C
4H
9−における任意の−CH
2−が、−O−または−CH=CH−で置き換えられた基としては、C
3H
7O−、CH
3−O−(CH
2)
2−、CH
3−O−CH
2−O−などである。同様にC
5H
11−における任意の−CH
2CH
2−が、−CH=CH−で置き換えられた基としては、H
2C=CH−(CH
2)
3−、CH
3−CH=CH−(CH
2)
2−など、さらに任意の−CH
2−が−O−で置き換えられた基としては、CH
3−CH=CH−CH
2−O−などである。このように「任意の」という語は、「区別なく選択された少なくとも1つの」を意味する。なお、化合物の安定性を考慮して、酸素と酸素とが隣接したCH
3−O−O−CH
2−よりも、酸素と酸素とが隣接しないCH
3−O−CH
2−O−の方が好ましい。
【0030】
また、環Aに関して「任意の水素は、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル、または炭素数1〜10のハロゲン化アルキルで置き換えられてもよい」の句は、例えば1,4−フェニレンの2,3,5,6位の水素の少なくとも1つがフッ素やメチル等の置換基で置き換えられた場合の態様を意味し、また置換基が「炭素数1〜10のハロゲン化アルキル」である場合の態様としては、2−フルオロエチルや3−フルオロ−5−クロロヘキシルのような例を包含する。
【0031】
「化合物(1−1)」は、後述する下記式(1−1)で表される2官能以上の重合性液晶化合物を意味し、また、下記式(1−1)で表される化合物の少なくとも1種を意味することもある。1つの化合物(1−1)が複数のAを有するとき、任意の2つのAは同一でも異なっていてもよい。複数の化合物(1−1)がAを有するとき、任意の2つのAは同一でも異なっていてもよい。この規則は、R
aやZなど他の記号、基などにも適用される。
【0032】
[低熱膨張部材用組成物]
低熱膨張部材用組成物は、硬化処理により、無機フィラー同士をカップリング剤および2官能以上の重合性化合物で直接結合させて低熱膨張部材を形成できる組成物である。
図1は無機フィラーとして球状のアルミナを用いた場合の例である。アルミナをカップリング剤で処理すると、その表面全体にカップリング剤が結合する。カップリング剤で処理されたアルミナは、2官能以上の重合性化合物との結合を形成できる。したがって、アルミナに結合したカップリング剤同士を2官能以上の重合性化合物でつなぐことにより(
図2参照)、アルミナ同士を
図1のように互いに結合させる。
このように、無機フィラー同士をカップリング剤および2官能以上の重合性化合物で結合させることにより、直接的にフォノンを伝播することができるので、硬化後の低熱膨張部材は極めて高い熱伝導性を有し、無機成分の熱膨張率を直接反映させた複合部材の作製が可能になる。なお、本明細書において、低熱膨張とは30×10
−6/℃以下のものをいう。
【0033】
本発明の第1の実施の形態に係る低熱膨張部材用組成物は、例えば
図2に示すように、第1のカップリング剤11の一端と結合した熱膨張率が小さく熱伝導性の高い第1の無機フィラー1と;第2のカップリング剤12の一端と結合した熱膨張率が小さく熱伝導性の高い第2の無機フィラー2とを含む。さらに、第1のカップリング剤11の他端には、重合性化合物21の一端が結合している。しかし、第2のカップリング剤12の他端には、重合性化合物21の他端が結合していない。
図2に示すように、低熱膨張部材用組成物を硬化させると、第2のカップリング剤12の他端が、重合性化合物21の他端と結合する。このようにして、無機フィラー間の結合が形成される。なお、このような無機フィラー間の結合を実現することが本発明では重要であり、シランカップリング剤を無機フィラーに結合させる前に、あらかじめシランカップリング剤と2官能以上の重合性化合物を有機合成技術を用いて反応させておいてもよい。
【0034】
<2官能以上の重合性化合物>
第1のカップリング剤に結合させる2官能以上の重合性化合物としては、2官能以上の重合性液晶化合物(以下、単に「重合性液晶化合物」ということがある)を用いることが好ましい。
重合性液晶化合物としては、下記式(1−1)で表される液晶化合物が好ましく、液晶骨格と重合性基を有し、高い重合反応性、広い液晶相温度範囲、良好な混和性などを有する。この化合物(1−1)は他の液晶性の化合物や重合性の化合物などと混合するとき、均一になりやすい。
R
a−Z−(A−Z)
m−R
a (1−1)
【0035】
上記化合物(1−1)の末端基R
a、環構造Aおよび結合基Zを適宜選択することによって、液晶相発現領域などの物性を任意に調整することができる。末端基R
a、環構造Aおよび結合基Zの種類が、化合物(1−1)の物性に与える効果、ならびに、これらの好ましい例を以下に説明する。
【0036】
・末端基R
a
末端基R
aは、それぞれ独立して、第1のカップリング剤と第2のカップリング剤の他端の官能基と結合可能な官能基であればよい。
例えば、下記式(2−1)〜(2−2)で表される重合性基、シクロヘキセンオキシド、無水フタル酸、無水コハク酸を挙げることができるが、これらに限られない。
【化2】
[式(2−1)〜(2−2)中、R
bが、水素、ハロゲン、−CF
3、または炭素数1〜5のアルキルであり、qは0または1である。]
【0037】
さらに、末端基R
aとカップリング剤との結合を形成する官能基の組合せとしては、例えば、オキシラニルとアミノ、ビニル同士、メタクリロキシ同士、カルボキシまたはカルボン酸無水物残基とアミン、イミダゾールとオキシラニル等の組合せを挙げることができるが、これらに限られない。耐熱性の高い組合せがより好ましい。
【0038】
・環構造A
上記化合物(1−1)の環構造Aにおける少なくとも1つの環が1,4−フェニレンの場合、配向秩序パラメーター(orientational order parameter)および磁化異方性が大きい。また、少なくとも2つの環が1,4−フェニレンの場合、液晶相の温度範囲が広く、さらに透明点が高い。1,4−フェニレン環上の少なくとも1つの水素がシアノ、ハロゲン、−CF
3または−OCF
3に置換された場合、誘電率異方性が高い。また、少なくとも2つの環が1,4−シクロヘキシレンである場合、透明点が高く、かつ粘度が小さい。
【0039】
好ましいAとしては、1,4−シクロへキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、2,2−ジフルオロ−1,4−シクロへキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,3,5−トリフルオロ−1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、3−フルオロピリジン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリダジン−3,6−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル、フルオレン−2,7−ジイル、9−メチルフルオレン−2,7−ジイル、9,9−ジメチルフルオレン−2,7−ジイル、9−エチルフルオレン−2,7−ジイル、9−フルオロフルオレン−2,7−ジイル、9,9−ジフルオロフルオレン−2,7−ジイルなどが挙げられる。
【0040】
1,4−シクロヘキシレンおよび1,3−ジオキサン−2,5−ジイルの立体配置は、シスよりもトランスが好ましい。2−フルオロ−1,4−フェニレンおよび3−フルオロ−1,4−フェニレンは構造的に同一であるので、後者は例示していない。この規則は、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレンと3,6−ジフルオロ−1,4−フェニレンとの関係などにも適用される。
【0041】
さらに好ましいAとしては、1,4−シクロへキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレンなどである。特に好ましいAは、1,4−シクロへキシレンおよび1,4−フェニレンである。
【0042】
・結合基Z
上記化合物(1−1)の結合基Zが、単結合、−(CH
2)
2−、−CH
2O−、−OCH
2−、−CF
2O−、−OCF
2−、−CH=CH−、−CF=CF−または−(CH
2)
4−である場合、特に、単結合、−(CH
2)
2−、−CF
2O−、−OCF
2−、−CH=CH−または−(CH
2)
4−である場合、粘度が小さくなる。また、結合基Zが、−CH=CH−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−または−CF=CF−である場合、液晶相の温度範囲が広い。また、結合基Zが、炭素数4〜10程度のアルキルの場合、融点が低下する。
【0043】
好ましいZとしては、単結合、−(CH
2)
2−、−(CF
2)
2−、−COO−、−OCO−、−CH
2O−、−OCH
2−、−CF
2O−、−OCF
2−、−CH=CH−、−CF=CF−、−C≡C−、−(CH
2)
4−、−(CH
2)
3O−、−O(CH
2)
3−、−(CH
2)
2COO−、−OCO(CH
2)
2−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−などが挙げられる。
【0044】
さらに好ましいZとしては、単結合、−(CH
2)
2−、−COO−、−OCO−、−CH
2O−、−OCH
2−、−CF
2O−、−OCF
2−、−CH=CH−、−C≡C−などが挙げられる。特に好ましいZとしては、単結合、−(CH
2)
2−、−COO−または−OCO−である。
【0045】
上記化合物(1−1)が3つ以下の環を有するときは粘度が低く、3つ以上の環を有するときは透明点が高い。なお、本明細書においては、基本的に6員環および6員環を含む縮合環等を環とみなし、例えば3員環や4員環、5員環単独のものは環とみなさない。また、ナフタレン環やフルオレン環などの縮合環は1つの環とみなす。
【0046】
上記化合物(1−1)は、光学活性であってもよいし、光学的に不活性でもよい。化合物(1−1)が光学活性である場合、該化合物(1−1)は不斉炭素を有する場合と軸不斉を有する場合がある。不斉炭素の立体配置はRでもSでもよい。不斉炭素はR
aまたはAのいずれに位置していてもよく、不斉炭素を有すると、化合物(1−1)の相溶性がよい。化合物(1−1)が軸不斉を有する場合、ねじれ誘起力が大きい。また、施光性はいずれでも構わない。
以上のように、末端基R
a、環構造Aおよび結合基Zの種類、環の数を適宜選択することにより、目的の物性を有する化合物を得ることができる。
【0047】
・化合物(1−1)
化合物(1−1)は、下記式(1−a)または(1−b)のように表すこともできる。 P−Y−(A−Z)
m−R
a (1−a)
P−Y−(A−Z)
m−Y−P (1−b)
【0048】
上記式(1−a)および(1−b)中、A、Z、R
aは上記式(1−1)で定義したA、Z、R
aと同義であり、Pは下記式(2−1)〜(2−2)で表される重合性基、シクロヘキセンオキシド、無水フタル酸、または無水コハク酸を示し、Yは単結合または炭素数1〜20のアルキレン、好ましくは炭素数1〜10のアルキレンを示し、該アルキレンにおいて、任意の−CH
2−は、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−または−CH=CH−で置き換えられてもよい。特に好ましいYとしては、炭素数1〜10のアルキレンの片末端もしくは両末端の−CH
2−が−O−で置き換えられたアルキレンである。mは1〜6の整数、好ましくは2〜6の整数、さらに好ましくは2〜4の整数である。
【化3】
[式(2−1)〜(2−2)中、R
bが、水素、ハロゲン、−CF
3、または炭素数1〜5のアルキルであり、qは0または1である。]
【0049】
好ましい化合物(1−1)の例としては、以下に示す化合物(a−1)〜(a−10)、(b−1)〜(b−16)、(c−1)〜(c−16)、(d−1)〜(d−15)、(e−1)〜(e−15)、(f−1)〜(f−14)、(g−1)〜(g−20)が挙げられる。なお、式中の*は不斉炭素を示す。
【0064】
Z
1は、それぞれ独立して単結合、−(CH
2)
2−、−(CF
2)
2−、−(CH
2)
4−、−CH
2O−、−OCH
2−、−(CH
2)
3O−、−O(CH
2)
3−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CF=CF−、−CH=CHCOO−、−OCOCH=CH−、−(CH
2)
2COO−、−OCO(CH
2)
2−、−C≡C−、−C≡C−COO−、−OCO−C≡C−、−C≡C−CH=CH−、−CH=CH−C≡C−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−OCF
2−または−CF
2O−である。なお、複数のZ
1は同一でも異なっていてもよい。
【0065】
Z
2は、それぞれ独立して−(CH
2)
2−、−(CF
2)
2−、−(CH
2)
4−、−CH
2O−、−OCH
2−、−(CH
2)
3O−、−O(CH
2)
3−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CF=CF−、−CH=CHCOO−、−OCOCH=CH−、−(CH
2)
2COO−、−OCO(CH
2)
2−、−C≡C−、−C≡C−COO−、−OCO−C≡C−、−C≡C−CH=CH−、−CH=CH−C≡C−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−OCF
2−または−CF
2O−である。
【0066】
Z
3は、それぞれ独立して単結合、炭素数1〜10のアルキル、−(CH
2)
a−、−O(CH
2)
aO−、−CH
2O−、−OCH
2−、−O(CH
2)
3−、−(CH
2)
3O−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CH=CHCOO−、−OCOCH=CH−、−(CH
2)
2COO−、−OCO(CH
2)
2−、−CF=CF−、−C≡C−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−OCF
2−または−CF
2O−であり、複数のZ
3は同一でも異なっていてもよい。aは1〜20の整数である。
【0067】
Xは、任意の水素がハロゲン、アルキル、フッ化アルキルで置き換えられてもよい1,4−フェニレンおよびフルオレン−2,7−ジイルの置換基であり、ハロゲン、アルキルまたはフッ化アルキルを示す。
【0068】
上記化合物(1−1)のより好ましい態様について説明する。より好ましい化合物(1−1)は、下記式(1−c)または(1−d)で表すことができる。
P
1−Y−(A−Z)
m−R
a (1−c)
P
1−Y−(A−Z)
m−Y−P
1 (1−d)
上記式(1−c)および(1−d)中、A、Z、R
aは上記式(1−1)で定義したA、Z、R
aと同義であり、P
1は下記式(2−1)〜(2−2)で表される重合性基、シクロヘキセンオキシド、無水フタル酸、または無水コハク酸を示し、Yは単結合または炭素数1〜20のアルキレン、好ましくは炭素数1〜10のアルキレンを示し、該アルキレンにおいて、任意の−CH
2−は、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−または−CH=CH−で置き換えられてもよい。特に好ましいYとしては、炭素数1〜10のアルキレンの片末端もしくは両末端の−CH
2−が−O−で置き換えられたアルキレンである。mは1〜6の整数、好ましくは2〜6の整数、さらに好ましくは2〜4の整数である。上記式(1−d)の場合、2つのP
1は同一の重合性基を示し、2つのYは同一の基を示し、2つのYは対称となるように結合する。
【化18】
【0069】
上記化合物(1−1)のより好ましい具体例を以下に示す。
【0073】
・化合物(1−1)の合成方法
上記化合物(1−1)は、有機合成化学における公知の手法を組合せることにより合成できる。出発物質に目的の末端基、環構造および結合基を導入する方法は、例えば、ホーベン−ワイル(Houben-Wyle, Methods of Organic Chemistry, Georg Thieme Verlag, Stuttgart)、オーガニック・シンセシーズ(Organic Syntheses, John Wily & Sons, Inc.)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wily & Sons Inc.)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などの成書に記載されている。また、特開2006−265527号公報を参照してもよい。
【0074】
2官能以上の重合性化合物(以下、単に「重合性化合物」ということがある)は、上記式(1−1)で示す重合性液晶化合物以外に液晶性を示さない重合性化合物であってもよい。例えば、ポリエーテルのジグリシジルエーテル、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、ビフェノールのジグリシジルエーテル、または式(1−1)の化合物の中でも直線性が足りず液晶性を発現しなかった化合物などが挙げられる。直線性が高いほうが、分子鎖を伝わる熱のフォノン伝導を妨げないので、熱伝導率が高くなる効果が期待できるが、直線性が低いほうが融点が低いなど取扱いが容易になる利点も持つ。
上記重合性化合物は、有機合成化学における公知の手法を組合せることにより合成できる。
【0075】
本発明に用いる重合性化合物は、カップリング剤との結合を形成するため2官能以上の官能基を有することが好ましく、3官能以上、また4官能以上である場合を含む。さらに、重合性化合物の長辺の両端に官能基を有する化合物が直線的な結合を形成できるため好ましい。
【0076】
<無機フィラー>
第1の無機フィラー、および第2の無機フィラーとしては、金属酸化物、ケイ酸塩鉱物、炭化珪素、または窒化珪素等を挙げることができる。第1の無機フィラーおよび第2の無機フィラーは、同一であってもよく異なったものでもよい。
具体的には、第1の無機フィラー、第2の無機フィラーには、アルミナ、ジルコニア、シリカ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、フェライト、ムライト、コーディエライト、炭化珪素、窒化珪素を挙げることができる。
第3の無機フィラーとしては、熱伝導率が高く第1の無機フィラー、第2の無機フィラーよりもサイズが小さい、アルミナ、ジルコニア、シリカ、窒化ホウ素、炭化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、ダイヤモンド、カーボンナノチューブ、黒鉛、グラフェン、金、銀、銅、白金、鉄、錫、鉛、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、モリブデン、ステンレスなどの無機充填材および金属充填材を挙げることができる。
重合性化合物の構造はこれら無機フィラーの間を効率よく直接結合できる形状及び長さを持っていることが望ましい。第3の無機フィラーの種類、形状、大きさ、添加量などは、目的に応じて適宜選択できる。得られる低熱膨張部材が絶縁性を必要とする場合、所望の絶縁性が保たれれば導電性を有する無機フィラーであっても構わない。第3の無機フィラーの形状としては、板状、球状、無定形、繊維状、棒状、筒状などが挙げられる。
【0077】
第1の無機フィラー、第2の無機フィラーとしては、好ましくは、アルミナ、ジルコニア、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、フェライト、ムライト、コーディエライト、炭化珪素、窒化珪素である。アルミナや酸化亜鉛、コーディエライト、窒化珪素、炭化珪素がより好ましい。アルミナ、酸化亜鉛、窒化珪素は熱伝導率が高く、絶縁性も高いため好ましい。コーディエライトは熱伝導率がそれほど高くはないが、熱膨張率が小さいので好ましい。中でも球状のアルミナは、異方性が少なく、銅やSiCなど半導体素子内部の部材の熱膨張率に近い複合材が形成でき、機械的強度が高く、化学的安定性が高く、さらに低コストであり特に好ましい。異方性が必要な用途で使用する場合には、前記アルミナの特長に加え、板状アルミナや針状アルミナを配向させて使用することにより、配向方向の強度や熱伝導性に優れた部材を形成することができる。
第3の無機フィラーとしては、好ましくは、酸化亜鉛、窒化珪素といった第1、第2の無機フィラーと同種の無機フィラーの粒子径が小さいものの他、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの熱伝導率が高い異種のフィラーがあげられる。特に窒化ホウ素、窒化アルミニウムの粒子
径の小さいものが好ましい。窒化ホウ素、窒化アルミニウム、カーボンナノチューブ、黒鉛、グラフェンは熱伝導率が非常に高く、窒化ホウ素や窒化アルミニウムは絶縁性が高いため好ましい。例えば、繊維長がフィラー間を結合させられる長さのカーボンナノチューブやグラフェンを用いると、フィラー同士をシランカップリング剤および重合性液晶化合物で結合させるだけでなく、熱伝導率の非常に高いカーボンナノチューブでも熱結合できるので、全体の熱伝導率を高めることができるので好ましい。
【0078】
無機フィラーの平均粒径は、0.1〜200μmであることが好ましい。より好ましくは、1〜100μmである。0.1μm以上であると熱伝導率がよく、200μm以下であると充填率を上げることができる。
なお、本明細書において平均粒径とは、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定に基づく。すなわち、フランホーファー回折理論およびミーの散乱理論による解析を利用して、湿式法により、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量(体積基準)となる径をメジアン径とした。
無機フィラーとカップリング剤および重合性化合物の割合は、使用する無機フィラーと結合させるカップリング剤の量に依存する。第1、第2の無機フィラーとして用いられる化合物(例えばアルミナ)は、その表面をシランカップリング剤で修飾するが、修飾量が少なすぎるとフィラー間の結合が少なすぎるため機械強度が低い。また、修飾量が多すぎるとフィラーを多くの重合性化合物が取り囲みすぎて、フィラーの特性が表面に出難くなり通常の樹脂のような物性を示すようになる。熱膨張率を小さく、熱伝導率を高くするためには、硬化物中のシランカップリング剤と重合性化合物と、無機成分との体積比率が、5:95〜30:70の範囲になることが望ましく、更に望ましくは10:90〜25:75になることが望ましい。無機成分とは、シランカップリング剤処理などを行う前の無機原料のことである。
【0079】
<カップリング剤>
無機フィラーに結合させるカップリング剤は、2官能以上の重合性化合物が有する官能基がオキシラニルや酸無水物等である場合は、それらの官能基と反応することが好ましいので、アミン系反応基を末端にもつものが好ましい。例えば、JNC(株)製では、サイラエース(登録商標)S310、S320、S330、S360、信越化学工業(株)製では、KBM903、KBE903などが挙げられる。
なお、2官能以上の重合性化合物の末端がアミンであった場合には、オキシラニル等を末端に持つカップリング剤が好ましい。例えば、JNC(株)製では、サイラエース(登録商標)S510、S530などが挙げられる。
第1のカップリング剤と第2のカップリング剤は、同一であってもよく異なったものでもよい。
【0080】
第1の無機フィラーは、カップリング剤で処理した後さらに2官能以上の重合性化合物で表面修飾したものを用いる。例えば、シランカップリング剤で処理された無機フィラー(カップリング剤と結合した無機フィラー)の、当該カップリング剤にさらに2官能以上の重合性化合物を結合させることにより、無機フィラーを重合性化合物で表面修飾する。重合性化合物で表面修飾された第1の無機フィラーは、
図2に示すように、重合性化合物およびカップリング剤で第2の無機フィラーとの結合を形成でき、この結合が熱伝導に著しく寄与する。
2官能以上の重合性化合物は、上記式(1−1)で示す2官能以上の重合性液晶化合物が好ましい。しかし、それ以外の重合性液晶化合物であってもよく、液晶性のない重合性化合物であってもよい。重合性化合物が多環であると耐熱性が高くなり、直線性が高いと無機フィラー間の熱による伸びや揺らぎが少なく、さらに熱のフォノン伝導を効率よく伝えることができるため望ましい。多環で直線性が高いと結果として液晶性を発現することが多いので、液晶性であれば熱伝導性がよくなるといえる。
【0081】
<その他の構成要素>
低熱膨張部材用組成物は、さらに第1の無機フィラーおよび第2の無機フィラーに結合していない、すなわち結合に寄与していない有機化合物(例えば重合性化合物または高分子化合物)を含んでいてもよく、重合開始剤や溶媒等を含んでいてもよい。
【0082】
<結合していない重合性化合物>
低熱膨張部材用組成物は、無機フィラーに結合していない重合性化合物(この場合、必ずしも2官能以上でなくてもよい)を構成要素としてもよい。このような重合性化合物としては、無機フィラーの熱硬化を妨げず、加熱により蒸発やブリードアウトがない化合物が好ましい。この重合性化合物は、液晶性を有しない化合物と液晶性を有する化合物とに分類される。液晶性を有しない重合性化合物としては、ビニル誘導体、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、ソルビン酸誘導体、フマル酸誘導体、イタコン酸誘導体、などが挙げられる。含有量は、まず結合していない重合性化合物を含まない、低熱膨張部材用組成物を作製し、その空隙率を測定して、その空隙を埋められる量の重合性化合物を添加することが望ましい。
【0083】
<結合していない高分子化合物>
低熱膨張部材用組成物は、無機フィラーに結合していない高分子化合物を構成要素としてもよい。このような高分子化合物としては、膜形成性および機械的強度を低下させない化合物が好ましい。この高分子化合物は、無機フィラー、カップリング剤、および重合性化合物と反応しない高分子化合物であればよく、例えば重合性化合物がオキシラニルでシランカップリング剤がアミノを持つ場合は、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、シリコーン樹脂、ワックスなどが挙げられる。含有量は、まず結合していない高分子化合物を含まない、低熱膨張部材用組成物を作成し、その空隙率を測定して、その空隙を埋められる量の高分子化合物を添加することが望ましい。
【0084】
<非重合性の液晶性化合物>
低熱膨張部材用組成物は、重合性基を有しない液晶性化合物を構成要素としてもよい。このような非重合性の液晶性化合物の例は、液晶性化合物のデータベースであるリクリスト(LiqCryst, LCI Publisher GmbH, Hamburg, Germany)などに記載されている。非重合性の液晶性化合物を含有する該組成物を重合させることによって、例えば、化合物(1−1)の重合体と液晶性化合物との複合材(composite materials)を得ることができる。このような複合材では、高分子分散型液晶のような高分子網目中に非重合性の液晶性化合物が存在している。よって、使用する温度領域で流動性がないような特性を持つ液晶性化合物が望ましい。無機フィラーを硬化させた後で、等方相を示す温度領域でその空隙に注入するような手法で複合化させてもよく、無機フィラーに予め空隙を埋めるように計算した分量の液晶性化合物を混合しておき、無機フィラー同士を重合させてもよい。
【0085】
<重合開始剤>
低熱膨張部材用組成物は重合開始剤を構成要素としてもよい。重合開始剤は、該組成物の構成要素および重合方法に応じて、例えば光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤などを用いればよい。特に無機フィラーが紫外線を吸収してしまうので、熱ラジカル重合開始剤が好ましい。
熱ラジカル重合用の好ましい開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ−t−ブチルパーオキシド(DTBPO)、t−ブチルパーオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル(MAIB)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル(ACN)などが挙げられる。
【0086】
<溶媒>
低熱膨張部材用組成物は溶媒を含有してもよい。重合させる必要がある構成要素を該組成物中に含む場合、重合は溶媒中で行っても、無溶媒で行ってもよい。溶媒を含有する該組成物を基板上に、例えばスピンコート法などにより塗布した後、溶媒を除去してから光重合させてもよい。または、光硬化後適当な温度に加温して熱硬化により後処理を行ってもよい。
好ましい溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、テトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、PGMEAなどが挙げられる。上記溶媒は1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、重合時の溶媒の使用割合を限定することにはあまり意味がなく、重合効率、溶媒コスト、エネルギーコストなどを考慮して、個々のケースごとに決定すればよい。
【0087】
<その他>
低熱膨張部材用組成物には、取扱いを容易にするために、安定剤を添加してもよい。このような安定剤としては、公知のものを制限なく使用でき、例えば、ハイドロキノン、4−エトキシフェノールおよび3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)などが挙げられる。
さらに、低熱膨張部材用組成物の粘度や色を調整するために添加剤(酸化物等)を添加してもよい。例えば、白色にするための酸化チタン、黒色にするためのカーボンブラック、粘度を調整するためのシリカの微粉末を挙げることができる。または、機械的強度をさらに増すために添加剤を添加してもよい。例えば、ガラスファイバー、カーボンファイバー、カーボンナノチューブなどの無機繊維やクロス、または高分子添加剤として、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミドなどの繊維または長分子を挙げることができる。
【0088】
[製造方法]
以下、低熱膨張部材用組成物を製造する方法、および該組成物から低熱膨張部材を製造する方法について具体的に説明する。
(1)カップリング処理を施す
無機フィラーにカップリング処理を施し、カップリング剤の一端と無機フィラーを結合させたものを第2の無機フィラーとする。カップリング処理は、公知の方法を用いることができる。
一例として、まず無機フィラーとカップリング剤を溶媒に加える。スターラー等を用いて撹拌したのち、乾燥する。溶媒乾燥後に、真空乾燥機等を用いて、真空条件下で加熱処理をする。この無機フィラーに溶媒を加えて、超音波処理により粉砕する。遠心分離機を用いてこの溶液を分離精製する。上澄みを捨てたのち、溶媒を加えて同様の操作を数回行う。オーブンを用いて精製後のカップリング処理を施した無機フィラーを乾燥させる。
(2)重合性化合物で修飾する
カップリング処理を施した無機フィラー(上記第2の無機フィラーと同じであってもよく、異なる無機フィラーでもよい)の、カップリング剤の他端に2官能以上の重合性化合物を結合させる。このように重合性化合物で修飾した無機フィラーを第1の無機フィラーとする。
一例として、カップリング処理された無機フィラーと2官能以上の重合性化合物を、メノウ乳鉢等を用いて混合したのち、2本ロール等を用いて混練する。その後、超音波処理および遠心分離によって分離精製する。
(3)混合する
第1の無機フィラーと第2の無機フィラーを、例えば無機フィラーのみの重量が1:1になるように量り取り、メノウ乳鉢等で混合する。その後2本ロール等を用いて混合し、低熱膨張部材用組成物を得る。
第1の無機フィラーと第2の無機フィラーの混合割合は、第1の無機フィラーと第2の無機フィラー間の結合を形成する結合基がそれぞれアミン:エポキシの場合、無機フィラーのみの重量は例えば、重量比1:1〜1:30であることが好ましく、より好ましくは1:3〜1:20である。混合割合は、第1の無機フィラーと第2の無機フィラー間の結合を形成する末端の結合基の数により決定し、例えば2級アミンで有れば2個のオキシラニルと反応できるため、オキシラニル側に比べて少量でよく、オキシラニル側は開環してしまっている可能性もありエポキシ当量から計算される量を多めに使用することが好ましい。
(4)低熱膨張部材を製造する
一例として、低熱膨張部材用組成物を用いて、低熱膨張部材としてのフィルムを製造する方法を説明する。低熱膨張部材用組成物を、圧縮成形機を用いて加熱板中にはさみ、圧縮成形により配向・硬化成形する。さらに、オーブン等を用いて後硬化を行い、本発明の低熱膨張部材を得る。なお、圧縮成形時の圧力は、50〜200kgf/cm
2が好ましく、より好ましくは70〜180kgf/cm
2である。硬化時の圧力は基本的には高い方が好ましい。しかし、金型の流動性や、目的とする物性(どちら向きの熱伝導率を重視するかなど)によって適宜変更し、適切な圧力を加えることが好ましい。
【0089】
以下、溶媒を含有する低熱膨張部材用組成物を用いて、低熱膨張部材としてのフィルムを製造する方法について具体的に説明する。
まず、基板上に該組成物を塗布し、溶媒を乾燥除去して膜厚の均一な塗膜層を形成する。塗布方法としては、例えば、スピンコート、ロールコート、カテンコート、フローコート、プリント、マイクログラビアコート、グラビアコート、ワイヤーバーコート、ディップコート、スプレーコート、メニスカスコート法などが挙げられる。
溶媒の乾燥除去は、例えば、室温での風乾、ホットプレートでの乾燥、乾燥炉での乾燥、温風や熱風の吹き付けなどにより行うことができる。溶媒除去の条件は特に限定されず、溶媒がおおむね除去され、塗膜層の流動性がなくなるまで乾燥すればよい。
【0090】
上記基板としては、例えば、銅、アルミニウム、鉄、などの金属基板;シリコン、窒化ケイ素、窒化ガリウム、酸化亜鉛などの無機半導体基板;アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、フリントガラスなどのガラス基板、アルミナ、窒化アルミニウムなどの無機絶縁基板;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、セルロース、トリアセチルセルロースもしくはその部分鹸化物、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノルボルネン樹脂などのプラスティックフィルム基板などが挙げられる。
【0091】
上記フィルム基板は、一軸延伸フィルムでも、二軸延伸フィルムであってもよい。上記フィルム基板は、事前に鹸化処理、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を施してもよい。なお、これらのフィルム基板上には、上記低熱膨張部材用組成物に含まれる溶媒に侵されないような保護層を形成してもよい。保護層として用いられる材料としては、例えばポリビニルアルコールが挙げられる。さらに、保護層と基板の密着性を高めるためにアンカーコート層を形成させてもよい。このようなアンカーコート層は保護層と基板の密着性を高めるものであれば、無機系および有機系のいずれの材料であってもよい。
【0092】
以上、無機フィラー同士の結合を、カップリング処理された無機フィラーと、カップリング処理されさらに重合性化合物で修飾された無機フィラーで構成する場合を説明した。具体的には、例えば、第2の無機フィラーをアミノを有するシランカップリング剤でカップリング処理する。第1の無機フィラーをアミノを有するシランカップリング剤でカップリング処理した後、アミノと、両末端にエポキシを有する2官能以上の重合性化合物の一端と結合させる。最後に第2の無機フィラー側のアミノと、第1の無機フィラー側の重合性化合物が有するエポキシの他方とを結合させる(
図2参照)。なお、無機フィラー側がエポキシを有し、重合性化合物側がエポキシを有する組合せであってもよい。
【0093】
他の方法として、あらかじめ2官能以上の重合性化合物で修飾したカップリング剤を用いることもできる。例えば、第2の無機フィラーをアミノを有するシランカップリング剤でカップリング処理する。次に、ビニルを有するシランカップリング剤を、末端にビニルとエポキシをそれぞれ有する重合性化合物で修飾した後、修飾したシランカップリング剤で第1の無機フィラーをカップリング処理する。最後に第2の無機フィラー側のアミノと、第1の無機フィラー側の重合性化合物が有するエポキシとを結合させる。
【0094】
または、他の方法として、カップリング剤で処理した第1、第2の無機フィラーと、カップリング剤の修飾量から計算した2官能以上の重合性液晶化合物(液晶エポキシ化合物等)を混合しプレスしてもよい。加圧したまま加温することにより、まず重合性液晶化合物が液晶状態になり無機フィラーの隙間にしみこむ。さらに加温することにより、第1の無機フィラーと第2の無機フィラー間の結合を形成できる(すなわち硬化する)。
【0095】
低熱膨張部材用組成物は、例えば
図3に示すように、第1のカップリング剤11の一端と結合した第1の無機フィラー1と;第2のカップリング剤12の一端と結合した第2の無機フィラー2とを含む組成物であってもよい。第1のカップリング剤11の他端と、第2のカップリング剤12の他端は、結合していない。
図3に示すように、低熱膨張部材用組成物を硬化させると、第1のカップリング剤11の他端が、第2のカップリング剤12の他端と結合する。
このように、重合性化合物を用いずに、カップリング剤同士の結合により、無機フィラー間の結合を形成してもよい。例えば、第1の無機フィラーをアミノを有するシランカップリング剤でカップリング処理する。第2の無機フィラーをエポキシを有するシランカップリング剤でカップリング処理する。最後に第1の無機フィラー側のアミノと第2の無機フィラー側のエポキシとを結合させる。このように、第1の無機フィラーに結合したカップリング剤と第2の無機フィラーに結合したカップリング剤は、カップリング剤同士を結合させる官能基をそれぞれ有する。第1の無機フィラー側の官能基と第2の無機フィラー側の官能基は、カップリング剤同士の結合が可能になる限り、異なるものの組合せでもよく、同一のものの組合せでもよい。
カップリング剤同士の結合を形成する官能基の組合せとしては、例えば、オキシラニルとアミノ、ビニル同士、メタクリロキシ同士、カルボキシまたはカルボン酸無水物残基とアミノ、イミダゾールとオキシラニル等の組合せを挙げることができるが、これらに限られない。耐熱性の高い組合せがより好ましい。
【0096】
カップリング剤同士の結合により無機フィラー間に結合を形成する態様では、カップリング剤の少なくともどちらか一方に液晶シランカップリング剤を用いてもよい。「液晶シランカップリング剤」とは、シランカップリング剤骨格中にメソゲン部位を有する、下記式(1)で示すシランカップリング剤をいう。該メソゲン部位は液晶性を持つ。さらに、液晶シランカップリング剤は、その構造中に重合性化合物とアルコキシを有するケイ素化合物とを含む。
(R
1−O−)
jR
5(3−j)Si−R
c−Z
4−(A
1−Z
4)
m−R
a1 (1)
この化合物(1)は他の液晶性化合物や重合性化合物などと混合するとき、容易に均一になりやすい。
【0097】
・末端基R
a1
末端基R
a1は、−C=C−もしくは−C≡C−部位を含まない重合性基であることが好ましい。例えば、下記式(2−1)〜(2−2)で表される重合性基、シクロヘキセンオキシド、無水フタル酸、または無水コハク酸を挙げることができるが、これらに限られない。
【化22】
[式(2−1)〜(2−2)中、R
bは、水素、ハロゲン、−CF
3、または炭素数1〜5のアルキルであり、qは0または1である。]
末端基R
a1は、結合相手となる有機化合物の有する官能基と結合可能な官能基を含む基であればよい。結合可能な官能基の組合せとしては、例えば、オキシラニルとアミノ、メタクリロキシ同士、カルボキシまたはカルボン酸無水物残基とアミン、イミダゾールとオキシラニル等の組合せを挙げることができるが、これらに限られない。耐熱性の高い組合せがより好ましい。
【0098】
・環構造A
1
好ましいA
1としては、1,4−シクロへキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、2,2−ジフルオロ−1,4−シクロへキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,3,5−トリフルオロ−1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、3−フルオロピリジン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリダジン−3,6−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル、フルオレン−2,7−ジイル、9−メチルフルオレン−2,7−ジイル、9,9−ジメチルフルオレン−2,7−ジイル、9−エチルフルオレン−2,7−ジイル、9−フルオロフルオレン−2,7−ジイル、9,9−ジフルオロフルオレン−2,7−ジイル、下記式(3−1)〜(3−7)で表される2価の基などが挙げられる。なお、式(3−1)〜(3−7)中の*は不斉炭素を示す。
【0100】
1,4−シクロヘキシレンおよび1,3−ジオキサン−2,5−ジイルの立体配置は、シスよりもトランスが好ましい。2−フルオロ−1,4−フェニレンおよび3−フルオロ−1,4−フェニレンは構造的に同一であるので、後者は例示していない。この規則は、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレンと3,6−ジフルオロ−1,4−フェニレンとの関係などにも適用される。
【0101】
さらに好ましいA
1としては、1,4−シクロへキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレンなどである。特に好ましいA
1は、1,4−シクロへキシレンおよび1,4−フェニレンである。
【0102】
・結合基Z
4
上記化合物(1)の結合基Z
4が、単結合、−(CH
2)
2−、−CH
2O−、−OCH
2−、−CF
2O−、−OCF
2−、または−(CH
2)
4−である場合、特に、単結合、−(CH
2)
2−、−CF
2O−、−OCF
2−、または−(CH
2)
4−である場合、粘度が小さくなる。また、結合基Z
4が、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−である場合、液晶相の温度範囲が広い。また、結合基Z
4が、炭素数4〜10程度のアルキルの場合、融点が低下する。
【0103】
好ましいZ
4としては、単結合、−(CH
2)
2−、−(CF
2)
2−、−COO−、−OCO−、−CH
2O−、−OCH
2−、−CF
2O−、−OCF
2−、−(CH
2)
4−、−(CH
2)
3O−、−O(CH
2)
3−、−(CH
2)
2COO−、−OCO(CH
2)
2−、−CONR
6−、−NR
6CO−(R
6は水素または炭素数1〜6のアルキルである)などが挙げられる。
【0104】
さらに好ましいZ
4としては、単結合、−(CH
2)
2−、−COO−、−OCO−、−CH
2O−、−OCH
2−、−CF
2O−、−OCF
2−などが挙げられる。特に好ましいZ
4としては、単結合、−(CH
2)
2−、−COO−または−OCO−である。
【0105】
上記化合物(1)は、光学活性であってもよいし、光学的に不活性でもよい。化合物(1)が光学活性である場合、該化合物(1)は不斉炭素を有する場合と軸不斉を有する場合がある。不斉炭素の立体配置はRでもSでもよい。不斉炭素はR
a1またはA
1のいずれに位置していてもよく、不斉炭素を有すると、化合物(1)の相溶性がよい。化合物(1)が軸不斉を有する場合、ねじれ誘起力が大きい。また、施光性はいずれでも構わない。
以上のように、末端基R
a1、環構造A
1および結合基Z
4の種類、環の数を適宜選択することにより、目的の物性を有する化合物を得ることができる。
なお、上記化合物(1)のmは、1〜6の整数である。
【0106】
・結合基R
c
上記化合物(1)の結合基R
cは、炭素数2〜3のアルキレンであり、該アルキレンにおいてSiに隣接する−C−C−を除く任意の−CH
2−は−CO−もしくは−COO−で置き換えられてもよく、Siに隣接する−C−C−は−C−CR
d−で置き換えられてもよく、R
dは、ハロゲン(Ha)もしくはCHa
3である。
好ましいR
cとしては、−C−C−、−C−C−C−、−C−C−CO−、−C−C−CO−O−、−C−CF−CO−O−、−C−CCF
3−CO−O−などが挙げられる。特に好ましくは、−C−C−である。
【0107】
・(R
1−O−)
jR
5(3−j)Si−
上記化合物(1)の(R
1−O−)
jR
5(3−j)Si−において、R
1は、水素、または炭素数1〜5のアルキルである。好ましいR
1としては、メチルまたはエチルが挙げられる。R
5は水素、または炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐のアルキルである。好ましいR
5としては、メチルが挙げられる。jは1〜3の整数である。好ましいjは3である。
【0108】
・液晶シランカップリング剤の製造方法
(1)重合性化合物を得る
重合性化合物を得る。重合性化合物は、両末端に官能基を有するものが好ましい。上記式(1−1)で示す2官能以上の重合性化合物であってもよい。重合性化合物の長辺の両端に官能基を有すると、カップリング剤による直線的な結合(架橋)を形成できるため好ましい。
重合性化合物は、2官能以上の重合性液晶化合物であってもよい。例えば、両末端にビニルを有する下記式(4−1)を挙げることができる。
【化24】
重合性化合物は、合成してもよく市販品を購入してもよい。
重合性化合物は、有機合成化学における公知の手法を組合せることにより合成できる。出発物質に目的の末端基、環構造および結合基を導入する方法は、例えば、ホーベン−ワイル(Houben-
Weyl, Methods of Organic Chemistry, Georg Thieme Verlag, Stuttgart)、オーガニック・シンセシーズ(Organic Syntheses, John
Wiley & Sons, Inc.)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John
Wiley & Sons
,Inc.)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などの成書に記載されている。また、特許第5084148号公報を参照してもよい。
【0109】
(2)重合性化合物のどちらか1の末端に重合性基を導入する
例えば、重合性基としてエポキシを導入する場合を説明する。上記式(4−1)の両末端にエポキシを導入(エポキシ化)し下記式(4−4)を生成する反応において、当該反応を途中で止めることにより、中間生成物として、どちらか1の末端にエポキシを有する下記式(4−2)、(4−3)を得ることができる。生成した下記式(4−2)、(4−3)は、溶媒に溶解し、分離機を用いて分離した後、溶媒を除去することにより得ることができる。
このように、中間生成物を取り出すことにより、どちらか1の末端に所望の重合性基を導入させる。
【化25】
【0110】
中間生成物を取り出す溶媒は、生成した
中間生成物を溶解できる溶媒であればよい。例えば、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、テトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、PGMEAなどが挙げられる。上記溶媒は1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、溶媒の使用割合を限定することにはあまり意味がなく、溶解度、溶媒コスト、エネルギーコストなどを考慮して、個々のケースごとに決定すればよい。
【0111】
(3)重合性化合物の未反応の末端にSiを導入する
重合性化合物の未反応の末端にアルコキシを有するケイ素化合物を結合させる。
例えば、上記式(4−2)、(4−3)の未反応の官能基(ビニル)側にトリメトキシシリルを導入する。下記式(5−1)、(5−2)を参照。なお、Siの導入はトリエトキシシリルの導入であってもよい。しかし、メトキシシランとエトキシシランでは、反応性の高いメトキシシランの方が好ましい。
また、一部のメトキシもしくはエトキシは炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐したアルキルで置換されてもよい。例えばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−オクチルなどが挙げられる。
Siを導入した後は液晶性を示さなくてもかまわない。重合性の有機部位が液晶構造を持つことにより、Si部分が無機フィラーに結合した後に、無機フィラーの表面に液晶性化合物が持つ高い熱伝導率や、他の重合性化合物との親和性が向上する効果を付与することができる。
【化26】
【0112】
上記の液晶シランカップリング剤の製造方法では、一例として、両末端にビニルを有する重合性化合物に対し、まず一方の末端のビニルをエポキシ化し、次に他方の未反応のビニルにSiを導入することにより製造したが、製造方法はこれに限られない。重合性化合物の両末端は、重合性基とSiを導入できるものであればビニルに限られない。
また、上記のような長鎖の化合物にヒドロシリル化反応を用いてSiを導入してもよいが、長鎖の化合物を、まず左半分と右半分で別々に合成し、左半分にはヒドロシリル化反応を用いてSiを導入し、右半分には重合性基を導入した後に、左半分と右半分をつなぐことにより、液晶シランカップリング剤を合成してもよい。
【0113】
以上、カップリング剤および重合性化合物を適宜選択することにより、第1の無機フィラーと第2の無機フィラーを繋ぐことができ、本発明の低熱膨張部材用組成物から極めて高い熱伝導性と熱膨張率の制御性を有する低熱膨張部材を得ることができる。なお、上記の官能基は例示であり、本発明の効果を得られる限り上記の官能基に限られない。
【0114】
[低熱膨張部材]
本発明の第2の実施の形態に係る低熱膨張部材は、上記第1の実施の形態に係る低熱膨張部材用組成物を硬化させた硬化物を用途に応じて成形したものである。この硬化物は、高い熱伝導性を有するとともに、熱膨張率が負かまたは非常に小さい正であり、化学的安定性、耐熱性、硬度および機械的強度などに優れている。なお、前記機械的強度とは、ヤング率、引っ張り強度、引き裂き強度、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度などである。
本発明の低熱膨張部材は、半導体モジュール内部用基板、露光機などの精密光学機器の部品、精密加工機器などに有用である。
【0115】
熱重合により低熱膨張部材用組成物を硬化させる条件としては、熱硬化温度が、室温〜350℃、好ましくは50℃〜250℃、より好ましくは50℃〜200℃の範囲であり、硬化時間は、5秒〜10時間、好ましくは1分〜5時間、より好ましくは5分〜1時間の範囲である。重合後は、応力ひずみなど抑制するために徐冷することが好ましい。または、再加熱処理を行い、ひずみやムラなどを緩和させてもよい。
【0116】
低熱膨張部材は、上記低熱膨張部材用組成物から形成され、シート、フィルム、薄膜、繊維、成形体などの形状で使用する。好ましい形状は、板、シート、フィルムおよび薄膜である。なお、本明細書におけるシートの膜厚は1mm以上であり、フィルムの膜厚は5μm以上、好ましくは10〜500μm、より好ましくは20〜300μmであり、薄膜の膜厚は5μm未満である。膜厚は、用途に応じて適宜変更すればよい。低熱膨張部材用組成物は、そのまま低熱膨張接着剤や低熱膨張充填剤として使用することもできる。
【0117】
[電子機器]
本発明の第3の実施の形態に係る電子機器は、上記第2の実施の形態に係る低熱膨張部材と、発熱部または冷却部を有する電子デバイスとを備える。低熱膨張部材は、前記発熱部に接触するように電子デバイスに配置される。低熱膨張部材の形状は、低熱膨張電子基板、低熱膨張板、低熱膨張シート、低熱膨張フィルム、低熱膨張接着剤、低熱膨張成形品などのいずれであってもよい。
例えば、電子デバイスとして、半導体モジュールを挙げることができる。低熱膨張部材は、低熱膨張性に加え、高熱伝導性、高耐熱性、高絶縁性を有する。そのため、半導体素子の中でも高電力のためより効率的な放熱機構を必要とする絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor、IGBT)に特に有効である。IGBTは半導体素子のひとつで、MOSFETをゲート部に組み込んだバイポーラトランジスタであり、電力制御の用途で使用される。IGBTを備えた電子機器には、大電力インバータの主変換素子、無停電電源装置、交流電動機の可変電圧可変周波数制御装置、鉄道車両の制御装置、ハイブリッドカー、エレクトリックカーなどの電動輸送機器、IH調理器などを挙げることができる。
【0118】
以上、本発明をカップリング処理した第2の無機フィラーと、カップリング処理後さらに重合性化合物で修飾した第1の無機フィラーとを結合させて、無機フィラー間に結合を形成し、低い熱膨張性と、高い熱伝導性を有する低熱膨張部材を得るとして説明したが、本発明はこれに限られない。当然に、カップリング処理後さらに重合性化合物で修飾した第2の無機フィラーと、カップリング処理した第1の無機フィラーとを結合させて、無機フィラー間に結合を形成させてもよい。
さらには、カップリング処理後さらに重合性化合物で修飾した無機フィラーのみを用いて、適切な重合開始剤等により重合性化合物同士を結合させて、無機フィラー間に結合を形成してもよい。
すなわち、本発明は、無機材料と有機化合物の複合化において、無機材料間に有機化合物で結合を形成し、熱伝導性を著しく向上させ、さらに熱膨張率を制御したものである。
【実施例】
【0119】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。しかし本発明は、以下の実施例に記載された内容に限定されるものではない。
【0120】
本発明の実施例に用いた、低熱膨張部材を構成する成分材料は次のとおりである。
<重合性液晶化合物>
・液晶性エポキシ化合物:下記式(6−1)で示される化合物(JNC(株)製)
特許第5084148号公報に記載の方法で合成することができる。
【化27】
<重合性化合物>
・エポキシ化合物:下記式(7−1)で示される化合物(三菱化学(株)製、jER828(商品名))
【化28】
・1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(東京化成工業(株)製)
<無機フィラー>
・球状アルミナ:(株)龍森製TS−6(LV)
・板状アルミナ:キンセイマテック(株)製セラフYFA02025
<シランカップリング剤>
・下記式(8−1)で示されるN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(JNC(株)製、S320(商品名))
【化29】
・下記式(8−2)で示される3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学(株)製、KBM−903(商品名))
【化30】
【0121】
[実施例1]
<低熱膨張部材の調製>
以下に、低熱膨張部材の調製例を示す。
・カップリング剤処理
球状アルミナ粒子の準備
球状アルミナ5.00gとN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン0.75gをトルエン(無水)50mLに加え、スターラーを用いて750rpmで1時間攪拌し、得られた混合物を40℃で5時間、室温で19時間乾燥した。さらに、溶媒乾燥後に125℃に設定した真空乾燥機を用いて真空条件下で5時間加熱処理した。
このカップリング剤で修飾した球状アルミナをサンプル管に移してTHF(ナカライテスク(株)製)50mLを加えたのち、超音波処理(BRANSON(株)製MODEL450)により粉砕した。さらに、この溶液を遠心分離機(日立工機(株)製CT6E)を用いて6000rpmで10分間分離精製した。上澄み液を捨てたのち、アセトンを50mL加えて同様の操作を二回行った。精製後の修飾球状アルミナを60℃のオーブン中で24時間乾燥した。得られた粒子を、第2のカップリング剤で修飾した第2の無機フィラーBとする。
【0122】
上記Bと液晶性エポキシ化合物(6−1)を、それぞれ2.00gと4.00g(球状アルミナの配合比が13体積%)薬包紙上に量り取り、乳鉢を用いて混合したのち、2本ロール(日東反応機(株)製HR−3)を用いて120℃で10分混練した。その後、超音波処理および遠心分離によって分離精製し、未反応成分を取り除いた液晶性エポキシ修飾球状アルミナを得た。この粒子を、第1のカップリング剤と重合性液晶化合物で修飾した第1の無機フィラーAとする。
【0123】
上記Aおよび上記Bのシランカップリング剤または液晶性エポキシの
球状アルミナに対する被覆量は、TG−DTA装置(セイコーインスツル(株)(現・(株)日立ハイテク)製EXSTAR TG/DTA5200)を用いて、その600℃における加熱減量から算出した。
【0124】
・上記Aと上記Bとの混合
作製した第1の無機フィラーAを0.954gと、作製した第2の無機フィラーBを0.373g量り取り、メノウ乳鉢で混合したのち、2本ロールを用いて55℃で10分間混合し、目的とする本発明の低熱膨張部材用組成物とした。この重量比は、第1の無機フィラーAのNH(S320の反応基はNH
2が1個、NHが1個なので、NHが3個と換算)と第2の無機フィラーBのエポキシ環の個数が1:1として算出した。
【0125】
・重合および成形
得られた混合物をステンレス製板中にはさみ、150℃に設定した圧縮成形機((株)神藤金属工業所製F−37)を用いて9.8MPaまで加圧し、15分間加熱状態を続けることで、配向処理と前硬化を行った。すなわちステンレス板の間を混合物が広がる際に、粒子とステンレス板が平行になるように配向する。また、試料の厚みが約200μmになるように、試料の量を調整した。さらに、オーブンを用いて80℃で1時間、150℃で3時間の後硬化を行い、目的とする本発明の低熱膨張部材とした。なお、この状態でシランカップリング剤と重合性液晶化合物を合算した成分は約15体積%であった。
【0126】
・熱伝導率および熱拡散率の評価
熱伝導率は、予め低熱膨張部材の比熱(セイコーインスツル(株)(現・(株)日立ハイテク)製DSC型入力補償型示差走査熱量測定装置EXSTAR6000で測定した。)と比重(メトラー・トレド製比重計AG204密度測定キットにより測定した。)を求めておき、その値をアルバック理工(株)製TC7000熱拡散率測定装置により求めた熱拡散率を掛け合わせることにより熱伝導率を求めた。なお、厚み方向の熱拡散率は、カーボンスプレーを用いて試料を黒化処理し、標準のサンプルホルダーを用いて測定した。また、平面方向の熱拡散率は、レーザーを照射するスポットと、赤外線を検出するスポットの間を5mm離すアダプターを作製し、試料にレーザーが照射されて赤外線が出るまでの時間と、その距離から算出した。
【0127】
・熱膨張率の評価
得られた試料から、5×20mmの試験片を切り出し、熱膨張率(現・(株)日立ハイテク製TMA7000型熱機械的分析装置で測定した。)を、室温〜250℃の範囲で求めた。温度の範囲は、測定する試料の耐熱性により適宜調整した。
【0128】
[実施例2]
実施例1における球状アルミナの代わりに板状アルミナを用いて、それ以外の条件は実施例1と同様に試料を作成し評価した。その結果を実施例2とする。
【0129】
[比較例1]
実施例1で用いた物と同じ球状アルミナ、エポキシ化合物と、硬化剤にアミン系硬化剤(4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタン(JNC(株)製))を、樹脂成分(液晶性エポキシ成分+ジアミン成分)が15体積%になるように薬包紙上に量り取り、乳鉢を用いて混合したのち、2本ロール(日東反応機(株)製HR−3)を用いて120℃で10分混練した。すなわち、実施例1〜
2ではアルミナ粒子間をシランカップリング剤とエポキシ樹脂で直接結合させていた。しかしながら、比較例1は、広く使用されているアルミナ/エポキシ複合樹脂と同じく、アミン系硬化剤によってエポキシ同士が結合しており、その結合したエポキシ樹脂の海の中にアルミナフィラーが分散している構造である。得られた試料を実施例1と同様に熱伝導率と熱膨張率を測定した。その結果を比較例1とする。
【0130】
実施例1〜2および比較例1の熱伝導率を測定した結果を表1に示す。
【表1】
【0131】
実施例1〜2および比較例1の熱膨張率を測定した結果を表2に示す。
【表2】
【0132】
実施例1〜2の結果より、本発明の低熱膨張部材は、従来の樹脂中に無機フィラーを分散させて作製した部材に比べ、耐熱性がよく、熱膨張率が高温まで制御できている。また、実施例1の熱膨張率は、半導体素子内部で使用される銅配線と熱膨張率が非常に近く、熱膨張率の差による基板と銅配線の剥がれの問題が起きにくい。さらに、実施例1と実施例2において熱膨張率を測定する際に、熱膨張率はほぼ一定で、ガラス転移点による熱膨張率の変化は認められなかった。一方、比較例1では120℃から150℃において、熱膨張率の傾きが大きく変化していた。これは、この温度でガラス転移を起こしてしまったからである。一般に耐熱樹脂はガラス転移温度以下で使用することが好ましい。したがって、本発明の低熱膨張部材用組成物が、熱歪が問題となっている半導体素子や精密機械に好適な部材を形成することができる組成物であることがわかる。
【0133】
本明細書中で引用する刊行物、特許出願および特許を含むすべての文献を、各文献を個々に具体的に示し、参照して組み込むのと、また、その内容のすべてをここで述べるのと同じ程度で、参照してここに組み込む。
【0134】
本発明の説明に関連して(特に以下の請求項に関連して)用いられる名詞および同様な指示語の使用は、本明細書中で特に指摘したり、明らかに文脈と矛盾したりしない限り、単数および複数の両方に及ぶものと解釈される。語句「備える」、「有する」、「含む」および「包含する」は、特に断りのない限り、オープンエンドターム(すなわち「〜を含むが限定しない」という意味)として解釈される。本明細書中の数値範囲の具陳は、本明細書中で特に指摘しない限り、単にその範囲内に該当する各値を個々に言及するための略記法としての役割を果たすことだけを意図しており、各値は、本明細書中で個々に列挙されたかのように、明細書に組み込まれる。本明細書中で説明されるすべての方法は、本明細書中で特に指摘したり、明らかに文脈と矛盾したりしない限り、あらゆる適切な順番で行うことができる。本明細書中で使用するあらゆる例または例示的な言い回し(例えば「など」)は、特に主張しない限り、単に本発明をよりよく説明することだけを意図し、本発明の範囲に対する制限を設けるものではない。明細書中のいかなる言い回しも、本発明の実施に不可欠である、請求項に記載されていない要素を示すものとは解釈されないものとする。
【0135】
本明細書中では、本発明を実施するため本発明者が知っている最良の形態を含め、本発明の好ましい実施の形態について説明している。当業者にとっては、上記説明を読んだ上で、これらの好ましい実施の形態の変形が明らかとなろう。本発明者は、熟練者が適宜このような変形を適用することを予期しており、本明細書中で具体的に説明される以外の方法で本発明が実施されることを予定している。従って本発明は、準拠法で許されているように、本明細書に添付された請求項に記載の内容の変更および均等物をすべて含む。さらに、本明細書中で特に指摘したり、明らかに文脈と矛盾したりしない限り、すべての変形における上記要素のいずれの組合せも本発明に包含される。