特許第6959537号(P6959537)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6959537
(24)【登録日】2021年10月12日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】周波数選択板
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/14 20060101AFI20211021BHJP
【FI】
   H01Q15/14 B
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-240590(P2018-240590)
(22)【出願日】2018年12月25日
(65)【公開番号】特開2020-102801(P2020-102801A)
(43)【公開日】2020年7月2日
【審査請求日】2021年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 豪
(72)【発明者】
【氏名】鳥海 陽平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 潤
【審査官】 福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−252046(JP,A)
【文献】 特開2018−191247(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0159395(US,A1)
【文献】 HOSSEINIPANAH et al.,Novel Frequency Selective Surfaces Designing by Modification of Jerusalem Cross Slot,ICMMT 2008,2008年,pp.1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一形状の導電パターンで形成される共振器を、誘電体基板の上に周期的に配列した構造の周波数選択板において、
前記共振器は、
前記誘電体基板の上に十字を形成する横パターンと縦パターンの導線部と、
前記横パターンと前記縦パターンが所定の長さ延伸されたそれぞれの両端部は、直交する方向にそれぞれ延長され、延長された先端部分は他方向から延長された先端部分と対角線上に間隔を空けて対向する形状の極板部と
を備え、
極板部は、隣接する他の共振器の極板部と対向する中心部分が前記横パターンの幅で切り欠かれ、該切り欠かれた部分の中心から前記横パターンの幅よりも細い幅で且つ前記所定の長さより短い長さ延伸されて隣接する他の共振器の極板部と接合し、前記先端部分の間隔は、隣接する他の共振器の極板部との間隔よりも広い形状である
ことを特徴とする周波数選択板。
【請求項2】
前記導電パターンの上に誘電体膜を挟んで配置される第2導電パターンを備え、
第2導電パターンの平面形状は、隣接する共振器同士の同一部分を覆う形状、及び同一の共振器の前記極板部の間を覆う形状である
ことを特徴とする請求項1に記載の周波数選択板。
【請求項3】
第2導電パターンの上に誘電体膜を挟んで配置される第3導電パターンを備え、
第3導電パターンの平面形状は、第2導電パターンと同形状である、又は第2導電パタ−ンと異なる形状である
ことを特徴とする請求項2に記載の周波数選択板。
【請求項4】
前記誘電体膜の厚さは、第2導電パターン又は第3導電パターンによって付加される容量成分が集中定数で扱える範囲の厚さである
ことを特徴とする請求項3に記載の周波数選択板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一形状の共振器を、誘電体基板の上に周期的に配列した構造の周波数選択板に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信機器の小型化、高機能化が進み、無線LANやLTE等の回線を使った無線通信サービスが急速に普及している。これに伴い、無線通信端末からの電波の送受信が広域かつ頻繁に行われるようになり、周囲の他の電子機器への影響が懸念されている。
【0003】
懸念される影響としては、無線環境の劣化、通信障害、及びセキュリティへの脅威などが考えられる。これらの影響を抑制する技術が求められている。
【0004】
電波環境及び電磁環境を制御する目的で周波数選択板(FSS:Frequency Selective Surfaces)を用いることができる。周波数選択板は、波長と同程度以下の寸法の導体パターンで形成された共振器(単位セル)を周期的に配列することで、入射する電磁波の透過特性/反射特性に周波数依存性を持たせたものである。
【0005】
周波数選択板には、様々な周波数特性を持つ共振構造が存在する。例えば、特定の周波数のみを反射するバンドストップフィルタ特性を持つものは、導体部を共振構造としたものが主であり、リング型、ダイポールアレイ型、トライホール型、パッチ型、及びエルサレムクロス型などがある(非特許文献1)。
【0006】
周波数選択板は、考慮すべき構造パラメータの数が多く、パラメータがインダクタンス成分とキャパシタンス成分の増減に相反して関係する場合もある。また、単位セルの配列の仕方によってもその特性は変化し、理論として複雑である(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】牧野 滋、「[チュートリアル講演]周波数選択板の基礎と応用」、信学技法、A・P 2015-5, Apl. 2015.
【非特許文献2】BEN A. MUNK,”Frequency Selective Surfaces Theory and Design”,2000.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
理論として複雑で有るが故に、一度の試作で所望の周波数特性を得ることが難しい。したがって、周波数選択板の設計は、コスト、労力を要するという課題がある。
【0009】
本発明は、この課題に鑑みてなされたものであり、動作周波数及び帯域幅の調整が容易な周波数選択板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る周波数選択板は、同一形状の導電パターンで形成される共振器を、誘電体基板の上に周期的に配列した構造の周波数選択板において、前記共振器は、前記誘電体基板の上に十字を形成する横パターンと縦パターンの導線部と、前記横パターンと前記縦パターンが所定の長さ延伸されたそれぞれの両端部は、直交する方向にそれぞれ延長され、延長された先端部分は他方向から延長された先端部分と対角線上に間隔を空けて対向する形状の極板部とを備え、極板部は、隣接する他の共振器の極板部と対向する中心部分が前記横パターンの幅で切り欠かれ、該切り欠かれた部分の中心から前記横パターンの幅よりも細い幅で且つ前記所定の長さより短い長さ延伸されて隣接する他の共振器の極板部と接合し、前記先端部分の間隔は、隣接する他の共振器の極板部との間隔よりも広い形状であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、動作周波数及びその帯域幅の調整が容易な周波数選択板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る周波数選択板の一部の平面を示す図である。
図2図1に示す周波数選択板が備える複数の共振周波数に対応する電流が流れる経路を模式的に示す図である。
図3図1に示す周波数選択板の誘導成分と容量成分の大凡の位置と等価回路を示す図である。
図4図1に示す周波数選択板の形状のパラメータの例を示す図である。
図5図1に示す周波数選択板の周波数特性の例を示す図である。
図6】容量成分によって遮断周波数が変化する例を示す図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る周波数選択板の一部の平面を示す図である。
図8図7に示す周波数選択板の副共振器を形成する容量成分を示す図である。
図9図7に示す周波数選択板の等価回路を示す図である。
図10図7に示す副共振器の導電パターンの形状を変化させた場合の遮断周波数の変化を示す図である。
図11】本発明の第3実施形態に係る周波数選択板の一部の平面を示す図である。
図12】容量成分が、低周波側バンドパス共振器の等価回路に並列に接続された等価回路を示す。
図13】低周波側バンドパス共振器に対応する副共振器と高周波側バンドパス共振器に対応する副共振器をそれぞれ構成する第2導電パターンの形状を変えた場合の反射特性の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。複数の図面中同一のものに
は同じ参照符号を付し、説明は繰り返さない。
【0014】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る周波数選択板の一部の平面を模式的に示す図である。図1に示す周波数選択板100は、誘電体基板101の上に、漢字の「田」に似た形状の導電パターンで形成された共振器kxyが周期的に配列されて構成される。図1においてx方向を横、y方向を縦と定義する。
【0015】
誘電体基板101は、例えば、ガラスエポキシ基板、ポリミイドフィルム基板等で構成される。誘電体基板101の材質は、誘電体材料であれば何でも構わない。
【0016】
誘電体基板101の上に導電膜102が形成される。所定の形状である共振器kxy(導電パターン)は、誘電体基板101の上に蒸着して形成しても良いし、誘電体基板101の表面全体に導電膜102を形成してからエッチングして形成しても良い。
【0017】
共振器kxyは、例えば、x方向とy方向にそれぞれ10個並べられて周波数選択板100を構成する。1つの共振器kxyの大きさは、共振周波数の波長に対して1/3程度の大きさである。
【0018】
信号は、周波数選択板100に対して−z方向(裏側)から入力され、z方向(表側)に出力(透過)される。周波数選択板100に電磁波が入力されると、共振器kxyが配列されたxy平面に電界が生じ共振現象による電流が流れる。
【0019】
共振器kxyの構成を、+x方向で隣接する共振器k(x+1)yとの関係で説明する。
【0020】
共振器kxyは、誘電体基板101の上に十字を形成する横パターン10と縦パターン20の導線部と、横パターン10と縦パターン20が所定の長さ延伸されたそれぞれの両端部は、直交する方向にそれぞれ延長(12a,12b)され、当該先端部分は他方向から延長された先端部分と対角線上に間隔Dを空けて対向する形状の極板部12とを備える。
【0021】
そして、極板部12は、隣接する他の共振器k(x+1)yの極板部11と対向する中心部分が横パターン10の幅で切り欠かれ(切り欠き部13)、切り欠き部13の中心から横パターン10の幅よりも細い幅で且つ横パターン10の長さより短い長さ延伸されて隣接する他の共振器k(x+1)yの極板部11と接合する(導体パターン14)。横パターン10と直交する方向にそれぞれ延長された導体パターン12a,12bの先端部分の間隔Dは、隣接する他の共振器k(x+1)yの極板部11との間隔dよりも広い形状である。つまり、極板部12の平面形状は、外側を下底、内側を上底とする台形であり、下底の中心部分が切り欠かれ、その切り欠かれた切り欠き部13のy方向の中心から横パターン10よりも細い幅の導体パターン14が延伸され隣接する他の共振器k(x+1)yの極板部11と接合される形状である。切り欠き部13は、導体パターン14によって切り欠き部13a,13bの2つに分割される。
【0022】
以上、共振器kxyの構成を+x方向で隣接する共振器k(x+1)yとの関係で説明したが、この構成は上下方向(y)及び左右方向(x)で同じである。つまり、各共振器kxyは、横パターン10の中心線で上下対称である。また、縦パターン20の中心線で左右対称である。
【0023】
この特徴的な共振器kxyの構成により、本実施形態に係る周波数選択板100は、3つの共振電流が流れる共振パスを備える。
【0024】
図2は、周波数選択板100に流れる3つの共振電流が流れる共振パスを模式的に示す図である。3つの共振電流は、直列共振周波数である遮断周波数(動作周波数)fSbの共振電流が流れるストップバンド経路Sb、低周波側の並列共振周波数(低周波側バンドパス周波数fLb)の共振電流が流れる低周波側バンドパス経路Lb、高周波側の並列共振周波数(高周波側バンドパス周波数fHb)の共振電流が流れる高周波側バンドパス経路Hbの3つである。
【0025】
低周波側バンドパス経路Lbは、低周波側バンドパス共振器kLbを構成する。高周波側バンドパス経路Hbは、高周波側バンドパス共振器kHbを構成する。
【0026】
ストップバンド経路Sbは、隣接する共振器kxyの横パターン10及び縦パターン20を通る経路である。図2では、図面が煩雑になることを理由に、x方向の+y側の経路のみを示している。実際のストップバンド経路Sbは、横パターン10を中心に−y方向に対称に存在する。また、縦パターン20を中心に±x方向にも存在する。
【0027】
低周波側バンドパス経路Lbは、隣接する共振器kxyの切り欠き部13a同士の周りを周回する経路である。図2では、ストップバンド経路Sbと同様にx方向の+y側の経路のみを示している。実際の低周波側バンドパス経路Lbは、横パターン10を中心に−y方向に対称に存在する。また、縦パターン20を中心に±x方向にも存在する。
【0028】
高周波側バンドパス経路Hbは、1つの共振器kxyの先端部分を対向させる極板部12aと21bを周回する経路である。高周波側バンドパス経路Hbは、上下及び左右対称の構成から、1つの共振器kxy内に4つ存在する。図2では、極板部12aと21bを周回する経路のみを示している。
【0029】
図3は、各共振パスを構成する誘導成分と容量成分の共振器kxy上の部位を模式的に示す図である。誘導成分をL、容量成分をCで表記する。
【0030】
図3(a)は、各成分を構成する部位の大凡の形状を破線で囲って示す図である。図3(b)は、各共振パスを等価回路で示す図である。
【0031】
ストップバンド経路Sbは、横パターン10及び縦パターン20で形成される誘導成分L1、横パターン10と直交する方向の極板部12aで形成される誘導成分L2、及び極板部12aが隣接する共振器k(x+1)yの極板部11との間で形成される容量成分Cの直列接続で表せる(図3(b)に示す矢印の経路)。
【0032】
低周波側バンドパス経路Lbは、切り欠き部13のx方向の間をつなぐ導体パターン14で形成される誘導成分L3が、誘導成分L2と容量成分Cの直列接続に並列に接続される経路で表せる(図3(b)に破線の円環で示す経路)。
【0033】
高周波側バンドパス経路Hbは、導体パターン12a,21bの先端部分で形成される容量成分Cphと誘導成分L2の直列接続が、容量成分L1に並列に接続される経路で表せる(図3(b)に一点鎖線の円環で示す経路)。
【0034】
図3(b)に示すZは、空間インピーダンスを表す。空間インピーダンスZは、真空の誘電率と透磁率から決まるインピーダンスである。
【0035】
各経路で生じる共振周波数は、共振器kxyの形状を表すパラメータによって決定することができる。パラメータは主に、共振器kxyの形状を決定する各部の寸法である。
【0036】
図4は、共振器kxyの形状を決定するパラメータの例を示す図である。導電パターンの厚さは1.3μmである。共振器kxyが周期的に配列されるピッチは10mmとした。
【0037】
横パターン10及び縦パターン20の長さをl、横パターン10及び縦パターン20の幅をw、極板部12のx方向の長さをh(台形形状の高さ)、切り欠き部の幅をc、切り欠き部の奥行きをc、切り欠き部13内を橋渡す導電パターン14の幅をw、及び極板部の先端部分の間隔Dの幅をgで表記している。
【0038】
これらの寸法を決定すれば、導電パターン14の長さを含めて共振器kxyの形状が決定される。また、共振器kxyの形状を決定することで上記の誘導成分L1,L2、及び容量成分C,Cphの値が決定される。
【0039】
図5は、図4に示す周波数選択板の共振周波数の解析結果を示す。図5の横軸は周波数[GHz]、縦軸は反射特性を表す反射係数S11[dB]である。解析した共振器kxyのパラメータは、l=6.8mm,d=0.2mm,g=0.8mm,w=1.5mm,w2=0.2mm,cx=1.5mm,cy=1.0mm,h=1.5mmとした。
【0040】
図5に示すように遮断周波数fSbを中心に、低周波側透過周波数fLb、及び高周波側透過周波数fHbの3つの共振周波数が得られる。各共振周波数は、それぞれに対応するパラメータによって決定される。
【0041】
遮断周波数fSbは、横パターン10及び縦パターン20で形成される誘導成分L1、横パターン10と直交する方向の極板部12aで形成される誘導成分L2、及び極板部12aが隣接する共振器k(x+1)yの極板部11aとの間で形成される容量成分Cによって決まる。よって、遮断周波数fSbは、パラメータの横パターン10及び縦パターン20の長さl、横パターン10及び縦パターン20の幅w、ピッチp、及び隣接する他の共振器の極板部との間隔dによって決定される。
【0042】
図6は、容量成分Cによって遮断周波数fSbが変化する例を示す図である。図6の横軸は周波数[GHz]、縦軸は透過特性を表す透過係数S21[dB]である。破線は容量成分Cを大きくした場合であり、一点鎖線は容量成分Cを小さくした場合である。このように、例えば容量成分Cによって遮断周波数fSbを変化させることができる。
【0043】
低周波側透過周波数fLbは、切り欠き部13内を橋渡しする導電パターン14の幅wとピッチpによる誘導成分L3と、誘導成分L2と容量成分Cとによって決まる。誘導成分L2と容量成分Cは、遮断周波数fSbを決定するパラメータでもある。したがって、低周波側透過周波数fLbは、主に導電パターン14の幅wで制御することができる。
【0044】
高周波側透過周波数fHbは、導体パターン12a,21bの先端部分で形成される容量成分Cphと誘導成分L2によって決まる。誘導成分L2は、遮断周波数fSbを決定するパラメータでもある。したがって、高周波側透過周波数fHbは、主に導体パターン12a,21bの先端部分で形成される容量成分Cphで制御することができる。
【0045】
このように3つの共振器の共振周波数は、それぞれ独立させて制御することが可能である。つまり、動作周波数及びその帯域幅の調整が容易である。
【0046】
以上説明したように本実施形態に係る周波数選択板100は、同一形状の導電パターンで形成される共振器kxyを、誘電体基板101の上に周期的に配列した構造の周波数選択板100において、共振器kxyは、誘電体基板101の上に十字を形成する横パターン10と縦パターン20の導線部と、横パターン10と縦パターン20が所定の長さ延伸されたそれぞれの両端部は、直交する方向にそれぞれ延長され、当該先端部分は他方向から延長された先端部分と対角線上に間隔を空けて対向する形状の極板部12とを備え、極板部12は、隣接する他の共振器の極板部11と対向する中心部分が横パターン10の幅で切り欠かれ、該切り欠かれた部分13の中心から横パターン10の幅よりも細い幅で且つ所定の長さより短い長さ延伸されて隣接する他の共振器の極板部11と接合し、極板部の先端部分の間隔Dは、隣接する他の共振器の極板部との間隔dよりも広い形状である。これにより動作周波数及びその帯域幅の調整を容易にすることができる。
【0047】
本実施形態に係る周波数選択板100は、遮断周波数fSbを中心に、低周波側透過周波数fLb、及び高周波側透過周波数fHbを備えるので、低周波側透過周波数fLbと高周波側透過周波数fHbを遮断周波数fSbに近づけることで遮断特性(バンドストップ特性)を狭帯域化することもできる。
【0048】
〔第2実施形態〕
図7は、本発明の第2実施形態に係る周波数選択板の平面図を模式的に示す図である。図6に示す周波数選択板200は、副共振器を備える点で周波数選択板100(図1)と異なる。
【0049】
図7に示す周波数選択板200の副共振器は、隣接する極板部12aと11aの先端部分を覆う例えばホームベース形状の第2導電パターンFkpで構成される。y方向の極板部21,22の先端部分にも第2導電パターンFkpが形成される。
【0050】
第2導電パターンFkpは、極板部12a等の導電膜102と誘電体層を挟んで重ね合わせて形成される。導電パターンFkpを、層状に重ね合わせる方法としては、例えば共振器kxyと導電パターンFkpが形成されたフレキシブル基板又はリジッド基板を2つ重ねて実装する方法や、PET基板に印刷された2枚の導電パターンをラミネート加工によって重ね合わせた状態で固定する方法などが考えられる。又は、蒸着膜及び拡散膜を形成する半導体プロセスを用いて作製してもよい。
【0051】
図8は、副共振器の構造を模式的に示す図である。図7(a)はその斜視図である。図8(b)は図8(a)に示すA−A線で切った断面図である。
【0052】
図8(a)に示すように、隣接する極板部12aと11aに、誘電体層を挟んで重ねられた導電パターンFkpによって、2つの容量成分C′の直列接続が、隣接する極板部12a,11aで形成される容量成分Cに並列に接続される。
【0053】
図8(b)に示すように、容量成分C′は、誘電体基板101、導電膜102、誘電体膜103、及び第2導電パターン104の4層で構成される。なお、更に誘電体膜と導電膜を増やしても良い。詳しくは後述する。
【0054】
図9は、副共振器を備える周波数選択板200の等価回路を模式的に示す図である。導電膜102で形成される共振器kxy(以降、主共振器と称する場合がある)の等価回路は、誘導成分Lと容量成分Cの直列接続で表現している。
【0055】
よって、周波数選択板200は、主共振器kxyの容量成分Cに、2つの容量成分C′の直列接続が並列に接続された等価回路で表せる。第2導電パターンFkpと極板部12a,11aの間に形成される容量は、極板部12a,11a同士の間で形成されう容量成分Cよりも大きい(C′≫C)。
【0056】
図9に示す等価回路から明らかなように、本実施形態に係る周波数選択板200の遮断周波数は、容量成分C′が付加された周波数である。したがって、主共振器kxyの形状はそのままにし、副共振器を形成する第2導電パターンの形状を変えることで、遮断周波数を制御することができる。
【0057】
図10は、第2導電パターンFkpの形状を変えた場合の遮断周波数の変化を示す図である。
【0058】
図10(a)はx方向の長さを変えた場合の変化を示す図であり、図10(b)はy方向の長さを変えた場合の変化を示す図である。図10の横軸は周波数[GHz]、縦軸は透過特性を表す透過係数S21[dB]である。
【0059】
図10(a)のパラメータ0mmは、図6に示す第2導電パターンFkpの形状の場合である。パラメータ0.2mmは、第2導電パターンFkpの幅を−0.2mmしたことを表す。つまり、一方の極板部12aの外側から−0.1mm、他方の極板部11aの外側から−0.1mmした場合の特性である。
【0060】
図10(a)に示すように、第2導電パターンFkpの幅を0〜1mmの範囲で変えることで遮断周波数を約1GHzの範囲で可変することができる。つまり、主共振器kxyの形状を変えずに第2導電パターンFkpの形状を変えることで遮断周波数を調整することができる。
【0061】
図10(b)のパラメータ0mm〜0.5mmは、第2導電パターンFkpのy方向の長さを変化させた寸法を表す。パラメータ0mmは、図6に示す第2導電パターンFkpの形状の場合である。
【0062】
図10(b)に示すように、第2導電パターンFkpのy方向の長さを0〜0.5mmの範囲で変えることで遮断周波数を約0.5GHzの範囲で可変することができる。このように第2導電パターンFkpのy方向の長さを変えても遮断周波数を調整することができる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る周波数選択板200は、導線部の上に誘電体膜を挟んで配置される第2導電パターンを備え、第2導電パターンの平面形状は、隣接する共振器同士で同一部分を覆う形状、及び同一の共振器の極板部の間を覆う形状である。これにより、主共振器kxyの形状を変えずにその遮断周波数を調整することができる。
【0064】
〔第3実施形態〕
図11は、本発明の第3実施形態に係る周波数選択板の平面図を模式的に示す図である。図11に示す周波数選択板300は、周波数選択板100(図1)に対して低周波側バンドパス共振器kLbと高周波側バンドパス共振器kHbのそれぞれに対応する副共振器を備えたものである。
【0065】
低周波側バンドパス共振器kLbに対応する副共振器は、この例では2つの第2導電パターンFkLb1とFkLb2で構成される。第2導電パターンFkLb1,FkLb2は、第2導電パターンFkpと同様に、極板部12a等の導電膜102と誘電体層を挟んで重ね合わせて形成される。
【0066】
第2導電パターンFkLb1,FkLb2のそれぞれは、容量成分Cs1′とCs2′を形成させる。第2導電パターンFkLb1,FkLb2は、隣接する共振器を跨いで同じ形状である。つまり、極板板12aの上の形状と、極板板11aの上のそれぞれの第2導電パターンFkLb1形状は同じであり、隣接する共振器の間で繋がっている。容量成分Cs1′とCs2′は、低周波側バンドパス共振器kLbの並列共振周波数に並列に接続されて作用する。
【0067】
図12は、容量成分Cs1′とCs2′が、低周波側バンドパス共振器kLbの等価回路に並列に接続された等価回路を示す。この等価回路から明らかなように、本実施形態に係る周波数選択板300の低周波側透過周波数fLbは、容量成分Cs1′とCs2′が付加された周波数である。したがって、低周波側バンドパス共振器kLbの形状はそのままにし、副共振器を形成する第2導電パターンの形状を変えることで、低周波側透過周波数fLbを制御することができる。
【0068】
第2導電パターンFkHb1は、高周波側バンドパス共振器kHbの等価回路に並列に接続される容量成分Cs1′を形成する。第2導電パターンFkHb1によって高周波側透過周波数fHbを制御することができる。その作用は、低周波側透過周波数fLbの場合と同じである。
【0069】
低周波側バンドパス共振器kLbと高周波側バンドパス共振器kHbは、それぞれ独立させて制御することができる。よって、低周波側バンドパス共振器kLbに対応する第2導電パターンFkLb1,FkLb2、及び高周波側バンドパス共振器kHbに対応する第2導電パターンFkHb1の形状を変化させることで、遮断周波数の帯域幅を制御することができる。
【0070】
図13は、主共振器kxyの形状を固定し、低周波側バンドパス共振器kLbに対応する副共振器と高周波側バンドパス共振器kHbに対応する副共振器をそれぞれ構成する第2導電パターンFkLb1,FkLb2,FkHb1の形状を変えた場合の反射特性の例を示す図である。
【0071】
図13の横軸は周波数[GHz]、縦軸は反射特性を表す反射係数S11[dB]である。
【0072】
図13において、破線は、低周波側透過周波数fLbを下げ、高周波側透過周波数fHbを上げた特性例を示す。一点鎖線は、低周波側透過周波数fLbを上げ、高周波側透過周波数fHbを下げた特性例を示す。このように低周波側バンドパス共振器kLbと高周波側バンドパス共振器kHbにそれぞれ対応する副共振器を構成する第2導電パターンFkLb1,FkLb2,FkHb1の形状を変えることで周波数選択板300の帯域幅を制御することができる。
【0073】
ここで注目すべきは、遮断周波数が大きく変化していない点である。図13に示す例では、遮断周波数は3%以下の変化であった。このように遮断周波数を変化させずに帯域幅を可変することができる。
【0074】
第2導電パターンFkLb1,FkLb2と第2導電パターンFkHb1は、何れも第2導電パターンに設ける例で説明したが、両者は異なる層の導電パターンに設けるようにしても良い。例えば、第2導電パターンFkHb1を、第2導電パターンFkLb1等の上に誘電体膜を挟んで配置される第3導電パターン(図示せず)で形成するようにしても良い。
【0075】
また、第2導電パターンFkLb1,FkLb2と重なるように同じ形状の第3導電パターン(図示せず)を形成するようにしても良い。同じ形状の第3導電パターンによって、並列共振回路に更に並列に容量成分を付加することができる。
【0076】
また、図11において鈎形状の第2導電パターンFkHb1を、第3導電パターン(図示せず)を形成するようにしても良い。そうすることで、高周波側バンドパス共振器kHbに作用する副共振器を付加することができる。
【0077】
このように本発明の第3実施形態に係る周波数選択板300は、第2導電パターンの上に誘電体膜を挟んで配置される第3導電パターンを備え、第3導電パターンの平面形状は、第2導電パターンと同形状である、又は第2導電パターンと異なる形状である。これにより、周波数選択板300の設計の自由度を向上させることができる。また、同じ平面形状でより大きな容量成分を付加することができるので、周波数選択板を小型化することができる。
【0078】
なお、誘電体膜103(図8(b))の厚さは、第2導電パターン又は第3導電パターンによって付加される容量成分が集中常数で扱える範囲の厚さである。例えば、共振器kxyを、誘電体基板101の上に周期的に配列するピッチを10mmとした場合は、導電パターンの間の間隔を0.125mm程度にすると良い。これによれば、厚さ方向における電磁波の伝送線路的な伝搬を無視することができ、周波数選択板200,300の設計を容易にすることができる。
【0079】
以上説明したように本実施形態に係る周波数選択板100によれば、遮断周波数fSbを中心に、低周波側透過周波数fLb、及び高周波側透過周波数fHbの3つの共振周波数が得られる。各共振周波数は、それぞれに対応するパラメータによって決定される。したがって、動作周波数及びその帯域幅の調整が容易な周波数選択板を提供することができる。
【0080】
また、周波数選択板200によれば、主共振器kxyに対応する副共振器を備える。副共振器を構成する導電パターンによって、動作周波数及びその帯域幅の調整が行える。主共振器kxyを変更せずに副共振器を調整することで遮断周波数の帯域幅を容易に調整できる。
【0081】
また、周波数選択板300によれば、低周波側バンドパス共振器kLbと高周波側バンドパス共振器kHbのそれぞれに対応する副共振器を備える。それぞれに対応する副共振器を構成する導電パターンによって、動作周波数及びその帯域幅の調整が行える。副共振器の共振周波数は独立して調整できるので動作周波数及びその帯域幅の調整が容易である。
【0082】
なお、主共振器kxyに対応する副共振器と低周波側バンドパス共振器kLbと高周波側バンドパス共振器kHbのそれぞれに対応する副共振器を、同じ周波数選択板に実装することも可能である。また、図1図7、及び図11にそれぞれ示した周波数選択板の平面形状は、一例であり導電パターンの形状はこれらに限定されない。例えば、隣接する他の共振器の極板部と接合する導電パターンの幅は、図に示す幅よりも細くても良いし、太くても良い。このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0083】
100,200,300:周波数選択板
103:誘電体膜
10:横パターン(導線部)
20:縦パターン(導線部)
12,12a,12b;極板部
13,13a,13b:切り欠き部
14:導電パターン(隣接する他の共振器の極板部と接合する導電パターン)
xy:共振器(主共振器)
d:隣接する他の共振器の極板部との間隔
D:極板部の先端部分の対角線を挟んだ間隔
l:横パターン及び縦パターンの長さ
w:横パターン及び縦パターンの幅
h:極板部12のx方向の長さ(台形の高さ)
:切り欠き部の幅
:切り欠き部の奥行き
:切り欠き部内を橋渡す導電パターンの幅
g:極板部の先端部分の間隔の幅
kLb1,FkLb2,FkHb1:第2導電パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13