特許第6960063号(P6960063)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6960063研磨層用ポリウレタン、研磨層及び研磨パッド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960063
(24)【登録日】2021年10月12日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】研磨層用ポリウレタン、研磨層及び研磨パッド
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/24 20120101AFI20211025BHJP
   B24B 37/22 20120101ALI20211025BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20211025BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20211025BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20211025BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   B24B37/24 C
   B24B37/22
   C08G18/10
   C08G18/32 003
   C08G18/48 033
   H01L21/304 622F
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-559723(P2020-559723)
(86)(22)【出願日】2019年9月3日
(86)【国際出願番号】JP2019034512
(87)【国際公開番号】WO2020115968
(87)【国際公開日】20200611
【審査請求日】2021年6月18日
(31)【優先権主張番号】特願2018-226291(P2018-226291)
(32)【優先日】2018年12月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 充
(72)【発明者】
【氏名】岡本 知大
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晋哉
【審査官】 山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−63323(JP,A)
【文献】 特開2007−131672(JP,A)
【文献】 特開2013−66977(JP,A)
【文献】 特開2008−235508(JP,A)
【文献】 特開2013−141716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/24
B24B 37/22
C08G 18/10
C08G 18/32
C08G 18/48
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン分子鎖末端に、
記式(I):
R−(OX)n−・・・(I)
[式(I)中、Rはヘテロ原子で置換されていてもよく、ヘテロ原子が介在していてもよい炭素数1〜30の一価の炭化水素基を示し、Xは90〜100%がエチレン基である炭素数2〜4のアルキレン基を示し、nは8〜120の数を示す]
で表される末端基を有するポリウレタンである研磨層用ポリウレタン。
【請求項2】
前記Rが炭素数1〜22の脂肪族炭化水素基である請求項1に記載の研磨層用ポリウレタン。
【請求項3】
前記nが15〜100である請求項1または2に記載の研磨層用ポリウレタン。
【請求項4】
前記式(I)で表される末端基を0.005〜0.05mmol/g含有する請求項1〜3の何れか1項に記載の研磨層用ポリウレタン。
【請求項5】
前記式(I)で表される末端基を1〜10質量%含有する請求項1〜3の何れか1項に記載の研磨層用ポリウレタン。
【請求項6】
有機ポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、鎖伸長剤(C)及び下記式(II):
R−(OX)n−AH・・・(II)
[式(II)中、R,X及びnは式(I)と同様であり、AHは水酸基,アミノ基,またはそれらを含む炭素数1〜4の一価の炭化水素基]
で表される化合物(D)の反応生成物である請求項1〜5の何れか1項に記載の研磨層用ポリウレタン。
【請求項7】
前記有機ポリイソシアネート(A)のイソシアネート基に由来する窒素原子の割合が4.6〜6.8質量%である請求項6に記載の研磨層用ポリウレタン。
【請求項8】
前記高分子ポリオール(B)がポリテトラメチレングリコールを70質量%以上含有する請求項6または7に記載の研磨層用ポリウレタン。
【請求項9】
前記ポリウレタンが、50℃の温水に飽和膨潤させたときの吸水率が3%以下である請求項1〜8の何れか1項に記載の研磨層用ポリウレタン。
【請求項10】
熱可塑性を有する請求項1〜9の何れか1項に記載の研磨層用ポリウレタン。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の研磨層用ポリウレタンの成形体である研磨層。
【請求項12】
非多孔性である請求項11に記載の研磨層。
【請求項13】
50℃の温水に72時間浸漬させたときの23℃におけるJIS−D硬度が45〜75である請求項11または12に記載の研磨層。
【請求項14】
請求項1〜10の何れか1項に記載の研磨層用ポリウレタンを含む研磨層と、前記研磨層の硬度よりも低い硬度を有するクッション層とを含む研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドの研磨層の素材として好ましく用いられるポリウレタン、それを用いた研磨層及びそれらを用いた研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体やシリコンウェハなどの基板材料やハードディスク,液晶ディスプレイ,レンズの材料であるガラスを鏡面加工したり、半導体デバイスの製造工程における絶縁膜や金属膜による凹凸を平坦化したりするために、研磨スラリーを用いて被研磨面を研磨パッドで研磨する化学機械研磨法(CMP)が用いられている。CMPにおいては、高精度化や低コスト化が求められている。そのために、従来以上の平坦化性や平滑性を確保しながら、表面のスクラッチの低減や、研磨速度やその安定性の向上、さらには、長時間使用可能であることなどの一層の高性能化が求められている。とくに、半導体デバイスの製造においては、近年の高集積化及び多層配線化の進展に伴い、少ない研磨量や短い研磨時間で被研磨材の表面(以下、被研磨面とも称する)を平坦化する性能である平坦化性や、研磨時に被研磨面に傷をつけにくい性能である低スクラッチ性の向上が強く求められている。
【0003】
研磨パッドとしては、不織布にポリウレタン樹脂を含浸させた不織布タイプの研磨層を用いた研磨パッドや、2液硬化型ポリウレタンを注型発泡成形した後、適宜研削またはスライスすることにより製造される発泡ポリウレタンタイプの研磨層を用いた研磨パッドが知られている。一般に、不織布タイプの研磨層は低弾性で軟質であり、発泡ポリウレタンタイプの研磨層は高弾性で高剛性である。
【0004】
従来の不織布タイプの研磨層を用いた研磨パッドは、発泡ポリウレタンタイプの研磨層を用いた研磨パッドに比べて、被研磨面に接触する面(以下、研磨面とも称する)が柔軟であるために低スクラッチ性に優れる。その反面、低弾性であるために平坦化性が劣っていた。また、不織布に含浸されたポリウレタン樹脂が厚み方向に不均一に存在しやすいために、研磨層の磨耗に伴い研磨特性が経時的に変化することもあった。
【0005】
一方、発泡ポリウレタンタイプの研磨層を用いた研磨パッドは、高剛性であるために平坦化性は高い。その反面、研磨時に被研磨面の凸部に対して局所的に荷重が掛かりやすく、また、気孔の中に研磨屑が堆積しやすいために、低スクラッチ性に劣っていた。また、発泡ポリウレタンは製造時の反応及び発泡が不均一であるために発泡構造がばらつきやすかった。発泡構造のばらつきは、研磨速度や平坦化性等の研磨特性にばらつきを発生させる。
【0006】
不織布タイプの研磨層及び発泡ポリウレタンタイプの研磨層のそれぞれの問題を解決した、優れた平坦化性と低スクラッチ性とを兼ね備えた研磨層が求められている。しかしながら、従来の発泡ポリウレタンタイプの研磨層や不織布タイプの研磨層では、この要求を満たすことが難しかった。発泡ポリウレタンタイプの研磨層の平坦化性をさらに向上させるためには、より高い硬度が必要である。しかしながら、研磨パッドの硬度を高くすると、一般に低スクラッチ性が低下する。従って、発泡ポリウレタンタイプの研磨層においては、高い平坦化性と優れた低スクラッチ性とはトレードオフの関係になるために、優れた平坦化性と低スクラッチ性とを充分に兼ね備えた研磨層を得ることは困難であった。
【0007】
このような問題を解決する技術として、下記特許文献1及び下記特許文献2は、非水溶性の熱可塑性重合体中に水溶性物質を分散させたシートを用いた研磨層を開示する。また、下記特許文献3は、架橋重合体を含有する非水溶性マトリックス材中に水溶性粒子を分散させたシートを用いた研磨層を開示する。しかしながら、これらの研磨層は、高い平坦化性と優れた低スクラッチ性との両立について充分ではなかった。また、これらの研磨層は水溶性物質を含むために、研磨中にこれらが溶出して研磨特性に悪影響を与えるおそれもあった。さらに、マトリックスである非水溶性の重合体中に水溶性物質が不均一に分散しやすいために、研磨特性がばらつくおそれもあった。
【0008】
また下記特許文献4は、ポリエチレングリコール等の親水性基を有するポリオールが共重合されたウレタン樹脂を含有し、且つ、特定の親水剤を含有するポリウレタン組成物を発泡硬化させて得られた研磨パッドを開示する。さらに、下記特許文献5は、オキシエチレン単位を有する親水性高分子ポリオール成分を原料成分として含有し、微細気泡を有するポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有する研磨パッドを開示する。また、下記特許文献6は、微細気泡を有するポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有する研磨パッドであって、ポリウレタン樹脂発泡体は、水酸基以外の親水性基を有しない疎水性高分子量ポリオール成分とイソシアネート成分とを原料成分として含有してなる疎水性イソシアネート末端プレポリマー(A)、オキシエチレン単位(−CHCHO−)を有する親水性高分子量ポリオール成分とイソシアネート成分とを原料成分として含有してなる親水性イソシアネート末端プレポリマー(B)、及び鎖伸長剤を原料成分として含有してなる研磨パッドを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−34416号公報
【特許文献2】特開2001−47355号公報
【特許文献3】特開2001−334455号公報
【特許文献4】特開2003−128910号公報
【特許文献5】特開2004−42250号公報
【特許文献6】特開2005−68175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高い研磨速度と優れた低スクラッチ性とを兼ね備え、且つ、平坦化性にも優れた研磨層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一局面は、ポリウレタン分子鎖末端に、下記式(I):R−(OX)n−・・・(I)
[式(I)中、Rはヘテロ原子で置換されていてもよく、ヘテロ原子が介在していてもよい炭素数1〜30の一価の炭化水素基を示し、Xは90〜100%がエチレン基である炭素数2〜4のアルキレン基を示し、nは8〜120の数を示す]
で表される末端基を有する研磨層用ポリウレタンである。このようなポリウレタンを素材として用いた研磨層は、高い研磨速度と優れた低スクラッチ性とを兼ね備え、且つ、平坦化性にも優れる。
【0012】
研磨層用ポリウレタンは、オキシアルキレンの90〜100%がオキシエチレンであるポリオキシアルキレンを分子鎖末端に有する。このような分子鎖末端に結合されたポリオキシアルキレンは、両側にウレタン結合を有しポリウレタンのハードセグメントにより運動性が拘束された通常のポリエチレングリコール由来のポリオキシエチレンとは異なり、ポリウレタンが水や水性スラリーと接触したときにポリウレタンの表面に移動しやすい。そのために研磨層の表面を局所的に親水化及び軟化させやすいために、研磨面の水性スラリーとの親和性が向上することによりスラリー保持性が向上して高い研磨速度を示し、また、水性スラリーに接する研磨面のみを軟化させることによりスクラッチの発生を抑制できる。
【0013】
また、式(I)で表される末端基に含まれるRが炭素数1〜22の脂肪族炭化水素基であることが、末端基が親水性を充分に維持する点から好ましい。
【0014】
また、式(I)で表される末端基のオキシアルキレンの繰り返し数nが15〜100であることが、高い親水性と生産性とのバランスに優れる点から好ましい。
【0015】
また、式(I)で表される末端基を0.005〜0.05mmol/g含有すること、または、式(I)で表される末端基を1〜10質量%含有することが、親水性と耐水性とのバランスに優れる点から好ましい。
【0016】
また、ポリウレタンは、有機ポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、鎖伸長剤(C)及び下記式(II): R−(OX)n−AH・・・(II)
[式(II)中、R,X及びnは式(I)と同様であり、AHは水酸基,アミノ基,またはそれらを含む炭素数1〜4の一価の炭化水素基]で表される化合物(D)の反応生成物であることが好ましい。
【0017】
また、ポリウレタンは、有機ポリイソシアネート(A)のイソシアネート基に由来する窒素原子の割合が4.6〜6.8質量%であることが、平坦化性や低スクラッチ性にとくに優れる研磨層が得られる点から好ましい。
【0018】
また、高分子ポリオール(B)がポリテトラメチレングリコールを70質量%以上含有することが、平坦化性と低スクラッチ性がとくに優れるとともに、透明性にも優れるポリウレタンが得られやすい点から好ましい。
【0019】
また、ポリウレタンは、50℃の温水に飽和膨潤させたときの吸水率が3%以下であることが、研磨時に研磨層が軟化しにくく、平坦化性や経時安定性にとくに優れる点から好ましい。
【0020】
また、ポリウレタンは、熱可塑性を有することが、研磨層として用いられる成形体を押出成形等の熱成形により連続生産可能になる点から好ましい。
【0021】
また、本発明の他の一局面は、上記何れかのポリウレタンの成形体である研磨層である。さらには、好ましくは、研磨層は非多孔性である。このような研磨層によれば、高い研磨速度と優れた平坦化性と低スクラッチ性とを兼ね備えた研磨パッドを得ることができる。
【0022】
研磨パッドが高い平坦化性を保持するためには、研磨層全体として高硬度であることが好ましい。しかし研磨層全体を高硬度にした場合には、被研磨面の凸部に対して局所的に荷重が掛かりやすくなって低スクラッチ性が低下する。一方、研磨速度を向上させるためには親水性が高い研磨層が有利である。しかし、従来の親水性が高い研磨層の場合、研磨層が吸水することにより経時的に硬度が低下して平坦化性が低下したり、研磨速度が低下したりしていた。上記研磨層によれば、研磨層全体としては吸水しても硬度が低下しにくく、研磨面の近傍のみに高い運動性を有するポリウレタンの分子鎖末端に結合されたポリアルキレンオキサイドが移動することにより、研磨面を親水化及び軟化させやすくする。それにより、研磨層全体としては高い硬度を維持しながら、水性スラリーに接した研磨面のみの弾性率を低下させることにより、高い研磨速度や平坦化性を維持しながら高い低スクラッチ性を保持することができる。
【0023】
研磨層は、50℃の温水に72時間浸漬させたときの23℃におけるJIS−D硬度が55〜75であることが、高い平坦化性と低スクラッチ性にとくに優れる点から好ましい。
【0024】
また、本発明の他の一局面は、上記何れかの研磨層用ポリウレタンを含む研磨層と、研磨層の硬度よりも低い硬度を有するクッション層とを含む研磨パッドである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高い研磨速度と優れた低スクラッチ性とを兼ね備え、且つ、平坦化性に優れた研磨層が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る一実施形態の研磨層用ポリウレタン(以下、単にポリウレタンとも称する)、研磨層及び研磨パッドについて詳しく説明する。
【0027】
本実施形態のポリウレタンは、ポリウレタン分子鎖末端に、下記式(I):R−(OX)n−・・・(I)
[式(I)中、Rはヘテロ原子で置換されていてもよく、ヘテロ原子が介在していてもよい炭素数1〜30の一価の炭化水素基を示し、Xは90〜100%がエチレン基である炭素数2〜4のアルキレン基を示し、nは8〜120の数を示す]
で表される末端基を有する。
【0028】
上述のようなポリウレタンは、有機ポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、鎖伸長剤(C)及び下記化学式(II): R−(OX)n−AH・・・(II)
[式(II)中、R,X及びnは式(I)と同様であり、AHは水酸基,アミノ基,またはそれらを含む炭素数1〜4の一価の炭化水素基]で表される化合物(D)を反応させて得られるポリウレタンである。
【0029】
有機ポリイソシアネート(A)としては、従来からポリウレタンの製造に用いられている有機ポリイソシアネートが特に限定なく用いられる。その具体例としては、例えばテトラメチレンジイソシアネート,ペンタメチレンジイソシアネート,ヘキサメチレンジイソシアネート,ノナメチレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート,4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート,リジンジイソシアネート,シクロヘキシレンジイソシアネート,1,3-又は1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂肪族または脂環式ジイソシアネート;2,4'-又は4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート,2,4-または2,6-トリレンジイソシアネート,m-またはp-フェニレンジイソシアネート,m-またはp-キシリレンジイソシアネート,1,5-ナフチレンジイソシアネート,4,4'-ジイソシアナトビフェニル,3,3'-ジメチル-4,4'-ジイソシアナトビフェニル,3,3'-ジメチル-4,4'-ジイソシアナトジフェニルメタン,クロロフェニレン-2,4-ジイソシアネート,テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;リジントリイソシアネート,ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等の三官能以上のポリイソシアネートが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、芳香族または脂環式ジイソシアネートが高硬度で平坦化性に優れる研磨層が得られやすい点からとくに好ましい。また、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート,2,4-トリレンジイソシアネート,2,6-トリレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート,1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンから選ばれる少なくとも1種、とくには、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネートが耐摩耗性に優れる研磨層が得られやすい点から好ましい。
【0030】
高分子ポリオール(B)としては、従来からポリウレタンの製造に用いられている高分子ポリオールが特に限定なく用いられる。その具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリテトラメチレングリコール,ポリメチルテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール;ポリエチレンアジペートジオール,ポリブチレンアジペートジオール,ポリヘキサメチレンアジペートジオール,ポリカプロラクトンジオール等のポリエステルポリオール;ポリペンタメチレンカーボネートジオール,ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等のポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリエーテルジオールまたはポリエステルジオールであることが好ましく、ポリエーテルジオール、とくには、ポリエチレングリコール及びポリテトラメチレングリコールから選ばれる少なくとも1種であることが、とくに研磨速度や低スクラッチ性に優れる研磨層が得られやすい点から好ましい。
【0031】
高分子ポリオール(B)の数平均分子量は、400〜2000、さらには500〜1500、さらには600〜1200であることが、ポリウレタンの硬度や弾性率が適度であり、研磨層の平坦化性と低スクラッチ性とのバランスに優れる点から好ましい。なお、高分子ポリオールの数平均分子量が高すぎる場合には、得られるポリウレタン中のソフトセグメントとハードセグメントの相分離が大きくなり過ぎて研磨中に光学的に終点を検知するときに求められる光透過性が低下しやすくなる傾向がある。とくには、高分子ポリオール(B)の70質量%以上が数平均分子量600〜1500のポリテトラメチレングリコールであること、さらには、高分子ポリオール(B)の80質量%以上が数平均分子量700〜1200のポリテトラメチレングリコールであることが、平坦化性と低スクラッチ性とのバランスに優れるとともに、光透過性にも優れるポリウレタンが得られやすい点から好ましい。また、研磨層の耐摩耗性を維持しつつ親水性を一層高めるために、高分子ポリオール(B)の一部が、数平均分子量400〜2000、好ましくは600〜1500のポリエチレングリコールであってもよい。なお、高分子ジオールの数平均分子量は、JIS K 1557に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
【0032】
鎖伸長剤(C)としては、従来からポリウレタンの製造に用いられている、イソシアネート基と反応し得る活性水素を分子中に2個以上有する、好ましくは分子量250以下の低分子化合物が挙げられる。その具体例としては、例えば、エチレングリコール,ジエチレングリコール,プロピレングリコール,1,2-ブタンジオール,1,3-ブタンジオール,1,4-ブタンジオール,1,5-ペンタンジオール,ネオペンチルグリコール,1,6-ヘキサンジオール,3-メチル-1,5-ペンタンジオール,1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン,1,4-シクロヘキサンジオール,1,8-オクタンジオール,1,9-ノナンジオール,2-メチル-1,8-オクタンジオール,1,10-デカンジオール,m-キシリレングリコール,p-キシリレングリコール等のジオール類;エチレンジアミン,テトラメチレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン,ヘプタメチレンジアミン,オクタメチレンジアミン,ノナメチレンジアミン,デカメチレンジアミン,ドデカメチレンジアミン,2,2',4-または2,4,4'-トリメチルヘキサメチレンジアミン,3-メチルペンタメチレンジアミン,1,2-シクロヘキサンジアミン,1,3-または1,4-シクロヘキサンジアミン,キシリレンジアミン,イソホロンジアミン,ピペラジン,トリレンジアミン,キシレンジアミン,4,4'-ジアミノジフェニルメタン,4,4'-ジアミノジフェニルエーテル,4,4'-ジアミノジフェニルスルフォン等のジアミン類、トリメチロールプロパン、ジエチレントリアミン等の三官能化合物等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、分子量60〜250の有機ジオールであることが好ましく、1,4-ブタンジオール,1,5-ペンタンジオール,3-メチル-1,5-ペンタンジオール,1,6-ヘキサンジオール,1,8-オクタンジオール,1,9-ノナンジオール,2-メチル-1,8-オクタンジオール,1,10-デカンジオールから選ばれる少なくとも1種であることが、とくに研磨速度や平坦化性に優れる研磨層が得られやすい点から好ましい。
【0033】
化合物(D)は、化学式(II): R−(OX)n−AH・・・(II)
[式(II)中、R,X及びnは式(I)と同様であり、AHは水酸基,アミノ基,水酸基またはアミノ基で置換された炭素数1〜4の一価の炭化水素基]で表される化合物である。
【0034】
炭化水素基Rは、ヘテロ原子で置換されていてもよく、ヘテロ原子が介在していてもよい炭素数1〜30の一価の炭化水素基であり、直鎖状,分岐状,または環状の一価の飽和または不飽和の炭化水素基を含む。
【0035】
炭化水素基Rの炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜24である。炭化水素基の炭素数が30を超える場合には、炭化水素基Rの疎水性が高くなり、ポリウレタンを研磨層として用いた場合に水性スラリーとの親水性が不充分になって、式(I)で表される末端基がポリウレタンの表面に移動しにくくなる。このような炭化水素基Rの具体例としては、例えば、メチル基(炭素数1),エチル基(炭素数2),プロピル基(炭素数3),ブチル基(炭素数4),ペンチル基(炭素数5),ヘキシル基(炭素数6),ヘプチル基(炭素数7),オクチル基(炭素数8),2−エチルヘキシル基(炭素数8),ノニル基(炭素数9),2−メチルオクチル基(炭素数9),デシル基(炭素数10),イソデシル基(炭素数10),ドデシル基(炭素数12、別名:ラウリル基),トリデシル基(炭素数13),テトラデシル基(炭素数14、別名:ミリスチル基),ヘキサデシル基(炭素数16、別名:セチル基),オクタデシル基(炭素数18、別名:ステアリル基),2−オクチルドデシル基(炭素数20),ドコシル基(炭素数22、別名:ベヘニル基),テトラコシル基(炭素数24),オクタコシル基(炭素数28)等の飽和脂肪族炭化水素基;ビニル基(炭素数2),アリル基(炭素数3),1-ブテニル基(炭素数4),2-ブテニル基(炭素数4),オレイル基(炭素数18)等の不飽和脂肪族炭化水素基;シクロプロピル基(炭素数3),シクロブチル基(炭素数4),シクロペンチル基(炭素数5),シクロヘキシル基(炭素数6)等の環式飽和炭化水素;フェニル基(炭素数6),ベンジル基(炭素数7),ナフチル基(炭素数10),オクチルフェニル基(炭素数14),ノニルフェニル基(炭素数15),ドデシルフェニル基(炭素数16)等の芳香族炭化水素基、等が挙げられる。また、これらの基は、酸素原子や、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子で置換されていたり、ヘテロ原子が介在していたりしてもよい。これらの中では、炭化水素基Rが炭素数1〜22の脂肪族炭化水素基であることが、ポリウレタンの親水性と耐水性のバランスに優れ、研磨速度や平坦化性、低スクラッチ性にとくに優れる研磨層が得られやすい点から好ましい。
【0036】
また、Xは90〜100%がエチレン基である炭素数2〜4のアルキレン基を示し、具体的には、オキシアルキレン(OX)は90〜100%がオキシエチレン(O−CHCH)であり、0〜10%の範囲で、オキシプロピレン(O−CHCHCH)または(O−CHCH(CH))や、オキシブチレン(O−CHCHCHCH)または(O−CHCH(CHCH))等を含んでもよい。オキシエチレン(O−CHCH)が90%未満の場合には親水性の向上効果が低下する。なお、Xの割合はXの個数に基づく。
【0037】
(OX)の繰り返し数nは8〜120であり、15〜100であることが好ましい。繰り返し数nが120よりも大きい場合には、親水性基の分子量が大きすぎて有機ポリイソシアネート(A)との反応性が低下するおそれがある。また、オキシエチレンの繰り返し数nが8よりも小さい場合には、親水性が低くなり、研磨速度や低スクラッチ性の改善効果が小さくなる。
【0038】
また、AHはイソシアネート基と反応する活性水素を有する基であり、水酸基,アミノ基,水酸基またはアミノ基で置換された炭素数1〜4の一価の炭化水素基である。AHは、反応性の点から水酸基またはアミノ基であることが好ましい。
【0039】
化合物(D)としては、とくには、炭化水素基Rが炭素数1〜22の脂肪族炭化水素基であり、(OX)の繰り返し数nが15〜100であることが、化合物(D)が少ない量でもポリウレタンの表面を充分に親水化させ、研磨速度や平坦化性、低スクラッチ性に優れる研磨層が得られやすい点から好ましい。また、炭化水素基Rが炭素数1〜16の飽和脂肪族炭化水素基であり、(OX)の繰り返し数nが18〜60であることがより好ましい。また、炭化水素基Rが炭素数1〜13の飽和脂肪族炭化水素基であり、(OX)の繰り返し数nが20〜50であることがさらに好ましい。
【0040】
ポリウレタンは、式(I)で表される末端基を0.005〜0.05mmol/g、さらには0.006〜0.046mmol/g、とくには0.008〜0.042mmol/gの割合で含むことが、親水性と耐水性とのバランスに優れる点から好ましい。式(I)で表される末端基が少なすぎる場合には、親水性の向上効果が小さくなる傾向がある。また、式(I)で表される末端基が多すぎる場合には、耐水性が不充分になったり、分子量が低下して耐摩耗性が低くなったりするおそれがある。
【0041】
また、ポリウレタン中の、有機ポリイソシアネート(A)のイソシアネート基に由来する窒素原子の割合は、4.6〜6.8質量%、さらには4.8〜6.5質量%、とくには5.0〜6.2質量%であることが、平坦化性や低スクラッチ性にとくに優れる研磨層が得られる点から好ましい。窒素原子の割合が低すぎる場合には硬度が低くなる傾向がある。また、窒素原子の割合が高すぎる場合には、ポリウレタンの表面に式(I)で表される末端基が移動しにくくなる傾向がある。
【0042】
また、ポリウレタン中の、式(I)で表される末端基の割合は、1〜10質量%、さらには1.2〜9.5質量%、とくには1.4〜9質量%であることが、平坦化性や低スクラッチ性にとくに優れる研磨層が得られる点から好ましい。式(I)で表される末端基の割合が低すぎる場合には、親水性の改善効果が小さくなる傾向がある。また、式(I)で表される末端基の割合が高すぎる場合には、耐水性が低下しやすくなる傾向である。
【0043】
また、高分子ポリオール(B)としてポリエチレングリコールを用いた場合、ポリウレタン中の式(I)で表される末端基のポリオキシエチレン及びポリエチレングリコール由来のポリオキシエチレンの含有割合の合計が1.5〜20質量%、さらには2〜15質量%、とくには3〜10質量%であることが好ましい。
【0044】
ポリウレタンは、50℃の温水に飽和膨潤させたときの吸水率が3%以下、さらには2.7%以下、とくには2.4%以下であることが、研磨時に研磨層が軟化しにくく、平坦化性や経時安定性にとくに優れる点から好ましい。
【0045】
本実施形態のポリウレタンは、有機ポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、鎖伸長剤(C)及び化合物(D)を含む単量体を原料として公知のポリウレタンの製造方法により製造することができる。具体的には、例えば、プレポリマー法やワンショット法などの公知の溶融重合方法や溶液重合方法などにより製造される。溶融重合方法としては、例えば、実質的に溶媒の不存在下にこれらの単量体の混合物を、所定の比率で溶融混練して重合させることにより製造することができる。溶融混練としては、例えば、多軸スクリュー型押出機を使用して連続溶融重合する方法が挙げられる。また、溶液重合方法としては、例えば、有機溶媒中でこれらの単量体の混合物を、所定の比率で混合して重合させることにより製造することができる。
【0046】
このようにして得られる本実施形態のポリウレタンは熱可塑性ポリウレタンであっても熱硬化性ポリウレタンであってもよいが、低スクラッチ性により優れる点から熱可塑性であることが好ましい。なお、熱可塑性とは、押出成形,射出成形,カレンダー成形、3Dプリンタ等の加熱工程により溶融して成形可能な特性を意味する。本実施形態のポリウレタンはこれらの加熱工程を経る成形方法により、シート状の成形体等に成形することができる。とくには、Tダイを用いた押出成形によれば、均一な厚さのシート状の成形体を簡便に得られる点から好ましい。
【0047】
本実施形態の研磨層として用いられるポリウレタン成形体は、非多孔性(非発泡体)であることが、硬度が高くなるために特に優れた平坦化性を発揮する点、表面に気孔がなく研磨屑の堆積が起こらないために低スクラッチ性に優れる点、研磨層の摩耗速度が小さく長時間使用可能である点から好ましい。
【0048】
また、研磨層は、50℃の温水に72時間浸漬させたときの23℃におけるJIS−D硬度が45〜75、さらには48〜72、とくには51〜69であることが、平坦化性、研磨速度及び低スクラッチ性にとくに優れる点から好ましい。
【0049】
また、研磨層は、水と15分間接触した後の接触角が低いほど、高い研磨速度になり、低スクラッチ性にも優れる点から好ましい。具体的には、水と15分間接触した後の接触角が44°以下、さらには42°以下、とくには40°以下であることが好ましい。研磨層の水との接触角が44°以下である場合には、研磨スラリーは通常、水や砥粒の他に、水溶性の低分子化合物を含むために研磨面の濡れ性が水よりも高く、研磨スラリーとの接触角は非常に小さくなる傾向がある。
【0050】
本実施形態のポリウレタンは、各種用途に用いられうるが、とくには、半導体ウェハ,半導体デバイス,シリコンウェハ,ハードディスク,ガラス基板,光学製品,または,各種金属等を研磨するための研磨パッドの研磨層として好ましく用いられる。研磨層の厚さは特に限定されず、研磨パッドの層構成や用途に応じて適宜調整される。具体的には、例えば、0.8〜3.0mm、さらには1.0〜2.5mm、とくには1.2〜2.0mmであることが好ましい。また、研磨層を製造するためのシート状のポリウレタン成形体を押出成形,射出成形,カレンダー成形、3Dプリンタなどの成形方法により成形する場合、シート状のポリウレタン成形体は非多孔性であっても、多孔性であってもよいが、とくに非多孔性であることが好ましい。
【0051】
研磨層は、上記のようにして得られたシート状のポリウレタン成形体を切削,スライス,バフ,打ち抜き加工等により寸法、形状、厚さ等を調整して製造される。また、研磨層の研磨面には、研磨面にスラリーを均一かつ充分に供給させるために、溝や穴のような凹部が形成されることが好ましい。このような凹部は、スクラッチ発生の原因となる研磨屑の排出や、研磨パッドの吸着によるウェハ破損の防止にも役立つ。
【0052】
本実施形態の研磨パッドは、研磨層のみからなる単層型研磨パッドであっても、研磨層の裏面にクッション層をさらに積層した複層型研磨パッドであってもよい。クッション層としては、研磨層の硬度よりも低い硬度を有する層である場合には、平坦化性を維持しつつ研磨均一性を向上させることができる点から好ましい。
【0053】
クッション層として用いられる素材の具体例としては、不織布にポリウレタンを含浸させた複合体(例えば、「Suba400」(ニッタ・ハース(株)製));天然ゴム,ニトリルゴム,ポリブタジエンゴム,シリコーンゴム等のゴム;ポリエステル系熱可塑性エラストマー,ポリアミド系熱可塑性エラストマー,フッ素系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー;発泡プラスチック;ポリウレタン等が挙げられる。これらの中では、クッション層として好ましい柔軟性が得られやすい点から、発泡構造を有するポリウレタンがとくに好ましい。
【0054】
本実施形態で得られた研磨パッドは、半導体基板やガラス基板あるいは半導体基板上に形成された酸化ケイ素膜のような絶縁膜や銅膜のような金属膜の化学機械研磨等にとくに好ましく用いられる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0056】
はじめに、本実施例でポリウレタンの製造に用いた有機ポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、鎖伸長剤(C)、化合物(D)について、以下にまとめて示す。
【0057】
〈ポリイソシアネート(A)〉
・4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート (MDI)
【0058】
〈高分子ポリオール(B)〉
・数平均分子量850のポリテトラメチレングリコール (PTG850)
・数平均分子量1000のポリテトラメチレングリコール (PTG1000)
・数平均分子量600のポリエチレングリコール (PEG600)
・数平均分子量2000のポリエチレングリコール (PEG2000)
【0059】
〈鎖伸長剤(C)〉
・1,4−ブタンジオール (BD)
・1,9−ノナンジオール (ND)
【0060】
〈化合物(D)〉
・MePOE4:Rがメチル基、(OX)の100%が(O−CHCH)、n=4
・MePOE9:Rがメチル基、(OX)の100%が(O−CHCH)、n=9
・MePOE23:Rがメチル基、(OX)の100%が(O−CHCH)、n=23
・MePOE45:Rがメチル基、(OX)の100%が(O−CHCH)、n=45
・MePOE91:Rがメチル基、(OX)の100%が(O−CHCH)、n=91
・BuPOE3:Rがブチル基、(OX)の100%が(O−CHCH)、n=3
・EHPOE6:Rが2-エチルヘキシル基、(OX)の100%が(O−CHCH)n=6
・EHPOE30:Rが2-エチルヘキシル基、(OX)の100%が(O−CHCH)、n=30
・C10POE31:Rがイソデシル基、(OX)の100%が(O−CHCH)、n=31
・C12POE5:Rがドデシル基、(OX)の100%が(O−CHCH)、n=5
・C12POE19:Rがドデシル基、(OX)の100%が(O−CHCH)、n=19
・C12POE25:Rがドデシル基、(OX)の100%が(O−CHCH)、n=25
・C12POE41:Rがドデシル基、(OX)の100%が(O−CHCH)、n=41
・C13POE49:Rがトリデシル基、(OX)の100%が(O−CHCH)、n=49
・C22POE30:Rがドコシル基、(OX)の100%が(O−CHCH)、n=30
なお、上記化合物(D)は、何れも、AHが水酸基であった。
【0061】
[実施例1]
MDI:PTG1000:PEG600:BD:MePOE9=49.0:31.7:3.6:14.2:1.5(質量比)の割合で混合してウレタンプレポリマーを製造した。そして、得られたウレタンプレポリマーを小型ニーダーで、240℃、スクリュー回転数100rpmの条件で5分間混練することにより、熱可塑性ポリウレタンを得た。原料配合比から算出したイソシアネート基に由来する窒素原子含有量は5.5質量%であり、ポリオキシエチレンの含有割合は5.0質量%であった。また、ポリウレタン中の末端基R−(OX)n−の割合は、1.5質量%であり、0.038mmol/gであった。また、ポリウレタンの50℃における飽和吸水率を次の方法により評価した。
【0062】
〈50℃の水に浸漬した後の飽和吸水率〉
熱プレスによって厚みが約300μmのフィルムを作成した後、25℃、50%RHの条件下に3日間放置した。放置後の質量を測定し、乾燥時の質量とした。次いで、乾燥させたフィルムを50℃のイオン交換水に浸漬し、50℃の水から取り出した直後、フィルムの表面の余分な水滴を拭き取って吸水後の質量を測定した。質量が飽和するまで2日ごとにサンプルの質量を測定し、質量の変化がなくなったときの吸水後の質量を、飽和吸水後の質量とした。次式により、吸水率を算出したところ、1.7質量%であった。
吸水率(%)=[(飽和吸水後の質量−乾燥時の質量)/乾燥時の質量]×100
【0063】
そして、得られたポリウレタンを真空熱プレスによって厚みが約2mmの非多孔性のシートとした後、ポリウレタンシートの表面を研削することにより厚さ1.5mmのポリウレタン成形体を得た。ポリウレタン成形体を50℃の温水に72時間浸漬した後の23℃におけるJIS−D硬度及び接触角は、次の方法により評価した。
【0064】
〈50℃の水に72時間浸漬した後の23℃におけるJIS−D硬度〉
ポリウレタン成形体を50℃のイオン交換水に72時間浸漬した後、23℃の水に30分浸漬した。水から取り出した直後、表面の余分な水滴を拭き取ってから、JIS K6253に準じたデュロメータ硬さ試験(タイプD)により硬さを測定した。D硬度は54であった。
〈水との接触角〉
ポリウレタン成形体を20℃、65%RHの条件下に3日間放置した。そして協和界面科学(株)製のDropMaster500を用いて、ポリウレタン成形体の上に水滴を滴下し、滴下15分後の水との接触角を測定した。接触角は40度であった。
【0065】
次に、厚さ1.5mmのポリウレタン成形体の研磨面となる主面に、幅0.5mm,深さ1.0mmの溝を3.0mm間隔で螺旋状に形成した。そして、ポリウレタン成形体を直径38cmの円形に切り抜いて研磨層を製造した。そして、研磨層の裏面にクッション層を両面粘着シートで貼り合わせて複層型の研磨パッドを作成した。クッション層としては、厚み0.8mmの発泡ポリウレタン製シートである(株)イノアックコーポレーション製「ポロンH48」を用いた。そして、得られた研磨パッドの研磨特性を次の評価方法により評価した。
【0066】
〈研磨速度、スクラッチ〉
得られた研磨パッドを(株)エム・エー・ティ製の研磨装置「MAT−BC15」に装着した。そして、(株)アライドマテリアル製のダイヤモンドドレッサー(ダイヤモンド番手#60、台金直径19cm)を用い、ドレッサー回転数140rpm、研磨パッド回転数100rpm、ドレッサー荷重5Nの条件で、150mL/分の速度で純水を流しながらダイヤモンドドレッサーを用いて、研磨パッド表面を60分間コンディショニングした。次に、キャボットマイクロエレクトロニクス社製の研磨スラリー「SS−25」を2倍に希釈して調整したpH12の研磨スラリーを準備した。そして、プラテン回転数100rpm、ヘッド回転数99rpm、研磨圧力41.4kPaの条件において、80mL/分の速度で研磨スラリーを研磨パッドの研磨面に供給しながら膜厚1000nmの酸化ケイ素膜を表面に有する直径4インチのシリコンウェハを60秒間研磨した。そして、60秒間の研磨後、研磨パッドのコンディショニングを30秒間行った。そして、別のシリコンウェハを再度研磨し、さらに、30秒間コンディショニングを行った。このようにして10枚のシリコンウェハを研磨した。
【0067】
そして、10枚目に研磨したシリコンウェハの研磨前および研磨後の酸化ケイ素膜の膜厚を測定し研磨速度を求めた。研磨速度は299nm/minであった。また、10枚目に研磨したウェハについて(株)キーエンス製レーザー顕微鏡「VKX−200」を用いて対物レンズ倍率1000倍でランダムに100ヶ所観察して、スクラッチの有無を確認した。スクラッチは確認されなかった。
【0068】
〈平坦化性〉
凸部と凹部が交互に繰り返し並んだ凹凸パターンを有する、SKW社製STI研磨評価用パターンウェハ「SKW3−2」を上記と同様の条件で1枚研磨した。なお、このパターンウェハは様々な幅およびピッチの凹凸パターン領域を有する。パターン凸部はシリコンウェハ上に膜厚15nmの酸化ケイ素膜、その上に膜厚170nmの窒化ケイ素膜、さらにその上に膜厚700nmの酸化ケイ素膜(高密度プラズマ化学蒸着により形成されたHDP酸化ケイ素膜)を積層した構造である。パターン凹部はシリコンウェハを300nmエッチングして溝を形成した後に膜厚700nmのHDP酸化ケイ素膜を形成した構造である。評価対象として、凸部幅30μmおよび凹部幅70μmのパターンからなる領域を選択した。パターンウェハを、パターン凸部の窒化ケイ素膜上に積層された酸化ケイ素膜が消失するまでの時間研磨し、さらにこの時間の10%に相当する時間追加で研磨した。研磨後の上記パターンの段差を、表面粗さ測定機((株)ミツトヨ製「SJ−400」)を用いて、標準スタイラス、測定レンジ80μm、JIS2001、GAUSSフィルタ、カットオフ値λc2.5mm、およびカットオフ値λs8.0μmの設定で測定を行い、断面曲線から求めたところ、65nmであった。段差が小さいほど平坦化性に優れる。
【0069】
結果を下記表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
[実施例2〜7,比較例1〜4]
ポリウレタンの単量体混合物の組成を表1に示した組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタンを製造した。そして、実施例1と同様にしてポリウレタン成形体、研磨層及び研磨パッドを作成し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0072】
表1の結果から、次のことがわかる。オキシエチレン(O−CHCH)の繰り返し単位数nが8〜120の範囲にある末端基を有する実施例1〜7で得られたポリウレタンを用いた研磨層は、50℃の水に浸漬したときの飽和吸水率が低いにもかかわらず、水との接触角が低かった。そのために、吸水による研磨層の軟化を抑制しながら、表面の親水性は高く、高い研磨速度、低スクラッチ性、及び高い平坦化性を示した。一方、ポリオキシエチレンを有する末端基を有しない比較例1〜3で得られたポリウレタンを用いた研磨層や、オキシエチレンの繰り返し単位数nが8より小さい比較例4で得られたポリウレタンを用いた研磨層は、50℃の水に浸漬したときの飽和吸水率が高かったり、水との接触角が高かったりした。そのために、表面の親水性が低かったり、吸水により研磨層が軟化したりして、研磨速度が低くなり、また、平坦化性にも劣っていた。
【0073】
[実施例8〜14,比較例5〜8]
ポリウレタンの単量体混合物の組成を表2に示した組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタンを製造した。そして、実施例1と同様にしてポリウレタン成形体、研磨層及び研磨パッドを作成した。そして、ダイヤモンド番手が#100のダイヤモンドドレッサーを用い、評価対象の凹凸パターンとして、凸部幅100μmおよび凹部幅100μmのパターンからなる領域を選択したこと以外は実施例1と同様に評価した。結果を下記表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2の結果から、次のことがわかる。オキシエチレンの繰り返し単位数nが8〜120の範囲にある末端基を有する実施例8〜14で得られたポリウレタンを用いた研磨層は、50℃の水に浸漬したときの飽和吸水率が低いにもかかわらず、水との接触角が低かった。そのために、吸水による研磨層の軟化を抑制しながら、表面の親水性は高く、高い研磨速度、低スクラッチ性、及び高い平坦化性を示した。一方、ポリオキシエチレンを有する末端基を有しない比較例5〜8で得られたポリウレタンを用いた研磨層は研磨層表面の親水性が低く、研磨速度が低く、また平坦化性、低スクラッチ性に劣っていた。
【0076】
[実施例15〜21,比較例9〜12]
ポリウレタンの単量体混合物の組成を表3に示した組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタンを製造した。なお、実施例21においては、化合物(D)として、表3に示した2種類の化合物を用いた。そして、実施例1と同様にしてポリウレタン成形体、研磨層及び研磨パッドを作成した。そして、ダイヤモンド番手が#100のダイヤモンドドレッサーを用いること以外は実施例1と同様に評価した。結果を下記表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
表3の結果から、次のことがわかる。オキシエチレンの繰り返し単位数nが8〜120の範囲にある末端基を有する実施例15〜21で得られたポリウレタンを用いた研磨層は、50℃の水に浸漬したときの飽和吸水率が低いにもかかわらず、水との接触角が低かった。そのために、吸水による研磨層の軟化を抑制しながら、表面の親水性は高く、高い研磨速度や低スクラッチ性、高い平坦化性を示した。一方、ポリオキシエチレンを有する末端基を有しない比較例9〜11で得られたポリウレタンを用いた研磨層や、オキシエチレンの繰り返し単位数nが8より小さい比較例12で得られたポリウレタンを用いた研磨層は、水との接触角が高かった。そのために、表面の親水性が低く、研磨速度が低くなり、平坦化性や低スクラッチ性に劣っていた。
【0079】
[実施例22〜25,比較例13〜19]
ポリウレタンの単量体混合物の組成を表4に示した組成に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタンを製造した。そして、実施例1と同様にしてポリウレタン成形体を作成した。そして、ポリウレタン成形体の研磨面となる主面に、幅1.0mm,深さ1.0mmの溝を6.0mm間隔で螺旋状に形成した以外は、実施例1と同様にして研磨層及び研磨パッドを作成した。そして、ダイヤモンド番手が#200のダイヤモンドドレッサーを用い、評価対象の凹凸パターンとして、凸部幅250μmおよび凹部幅250μmのパターンからなる領域を選択したこと以外は実施例1と同様に評価した。結果を下記表4に示す。
【0080】
【表4】
【0081】
表4の結果から、次のことがわかる。オキシエチレンの繰り返し単位数nが8〜120の範囲にある末端基を有する実施例22〜25で得られたポリウレタンを用いた研磨層は、50℃の水に浸漬したときの飽和吸水率が低いにもかかわらず、水との接触角が低かった。そのために、吸水による研磨層の軟化を抑制しながら、表面の親水性が高く、高い研磨速度、低スクラッチ性、及び高い平坦化性を示した。一方、ポリオキシエチレンを有する末端基を有しない比較例13〜15で得られたポリウレタンを用いた研磨層や、オキシエチレンの繰り返し単位数nが8より小さい比較例16〜19で得られたポリウレタンを用いた研磨層は、水との接触角が高かった。そのために研磨層表面の親水性が低く、研磨速度が低く、また、平坦化性、低スクラッチ性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係るポリウレタン、研磨層用成形体及び研磨パッドは、半導体基板やガラス等の研磨用途に有用である。特に半導体やハードディスク、液晶ディスプレイなどの基板材料、あるいはレンズやミラーなどの光学部品などを化学機械研磨するときに好適である。