【実施例】
【0077】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載の実験に供したマウスは、ICRマウス、4〜6週齢、雌、体重は20〜25gであり、マウスを用いた実験は特に断りのない限り、全てn=3〜4にて施行した。また、本実施例で用いたBNAは前記式(1)で表わされるLNAである。また、比較例1及び実施例1〜15に記載の配列を表1〜3に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
(比較例1)
アンチセンス法におけるアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)の安定性、生体内における標的遺伝子の発現に対する抑制活性(アンチセンス効果)及び送達性を向上させるべく、コレステロールを直接結合させた、LNAヌクレオチド及びDNAヌクレオチドを含むASO(LNA/DNAギャップマー)の生体内における送達性及びアンチセンス効果を評価した。
【0082】
概要を
図6に示した、LNA/DNAギャップマー構造を有する2つのASOを調製した。すなわち、蛍光色素であるCy3をLNA/DNAギャップマーASOの5’末端に共有結合したASO(Cy3−ASO)(
図6A)と、Cy3−ASOの3’末端にコレステロールを共有結合したASO(Cy3−Chol−ASO)(
図6B)とを用意した。なお、このASOの標的遺伝子はアポリポ蛋白B(ApoB)遺伝子であり、その配列は以下に示す通りである。また、これらASOは株式会社ジーンデザインに合成を依頼して調製した。
GCattggtatTC(大文字:LNA、小文字:DNA、核酸間:ホスホロチオエート結合)(配列番号:1)。
【0083】
なお、公知の手法に沿って、Cy3とASOとは、ホスホロチオエート結合にて結合させ、またコレステロールとASOとは、テトラエチレングリコールを介して結合させた。
【0084】
そして、これらASOをそれぞれマウス尾静脈から10mg/kgで静脈注射し、その1時間後に解剖して肝臓を取り出した。得られた肝臓を4% ホルマリン溶液で固定した後、30%スクロース溶液で置換し、OCTコンパウンドで包埋した後、10μmの厚さで切片を作製した。次いで、DAPIを用いて核染色した後、共焦点顕微鏡で切片におけるCy3の信号強度を比較した。得られた結果を
図7に示す。
【0085】
また、Cy3−ASO及びCy3−Chol−ASOを、それぞれマウス3匹ずつに尾静脈から静脈注射し、その三日後にも二回目のASOの投与を行った。投与量はいずれも10mg/kgとした。また、陰性対照群としてASOの代わりにPBSのみを投与したマウスも用意した。そして、二回目の投与の翌日にマウスをPBSにて灌流した後、解剖して肝臓を摘出した。摘出した肝臓80mgに核酸抽出試薬(ISOGEN、ニッポンジーン社製)1mlを加え、添付のプロトコールに従ってmRNAを抽出した。次いで、これらのmRNAの濃度を測定し、一定量のmRNAからSuperScript III(インビトロジェン株式会社製)を用い、添付のプロトコールに従ってcDNAを合成した。そして、このように調製したcDNAを鋳型とし、TaqMan system(ロシュアプライドバイオサイエンス社製)を用いて定量的RT−PCRを行った。なお、定量的RT−PCRに用いたプライマーは、各遺伝子番号を元にライフテクノロジー社が設計、調製したものを使用した。また、温度、時間の条件は次の通りである。:95℃にて15秒、60℃にて30秒及び72℃にて1秒を1サイクルとし、それを40サイクル行った。そして、このようにして得られた定量的RT−PCRの結果に基づき、mApoBの発現量/mGAPDH(内部標準遺伝子)の発現量を各々算出して、陰性対照群の算出結果とASO投与群の算出結果とをt検定にて比較して評価した。得られた結果を
図8に示す。
【0086】
図7に示した結果から明らかなように、コレステロールを直接結合させたLNA/DNAギャップマーの方が、コレステロールを結合させていないそれよりもはるかに多く肝臓に集積していた。
【0087】
しかし、
図8に示す通り、LNA/DNAギャップマーにコレステロールを直接結合させて用いると、そのアンチセンス効果は喪失してしまうことが明らかになった。
【0088】
(実施例1)
コレステロール等の機能性部分をLNA/DNAギャップマー(アンチセンス鎖)に直接結合すると、そのアンチセンス効果が損なわれてしまうことが明らかになった。そこで、ASOの相補鎖が、ASOを直接送達するための機能性部分のキャリアーとして機能する、二重鎖核酸複合体を利用することを本発明者らは着想した。
図9に、かかる複合体の1の実施態様の概略を示す。
【0089】
例えば、LNA/DNAギャップマー(LNA及びDNAを含むASO)の相補鎖としてRNAを用い、さらに当該RNAに機能性部分を結合させた場合には、当該ASOとRNAからなる相補鎖(cRNA)との複合体は、cRNAに結合させた機能性分子により標的部位に特異的に効率良く送達されることになる。そして、標的部位の細胞の核内に運ばれると、元々RNA−DNAヘテロオリゴヌクレオチドであるため核内に存在するRNaseHによってcRNAが切断され、前記ASOは単独で存在することになる。次いで、このASOが標的遺伝子のmRNAに結合し、新たなRNA−DNAヘテロ二重鎖が形成されることにより、アンチセンス効果を奏するため、RNaseHにより当該mRNAを分解されることになる。
【0090】
すなわち、機能性部分が結合しているcRNAの切断と、標的遺伝子のmRNAの分解とをRNaseHを利用して行うことにより、LNA/DNAギャップマー(LNA及びDNAを含むASO)を特異性高く効率的に標的部位に送達し、かつ、当該ASOのアンチセンス効果は機能性部分によって阻害されることなく、標的遺伝子の発現を非常に効果的に抑制することが可能となることを、本発明者らは着想した。
【0091】
そして、このような着想を実証すべく、先ずは、以下に示す方法にて、LNA/DNAギャップマーとcRNAとの二重鎖DNAを調製し、その物性について評価した。
【0092】
LNA/DNAギャップマーとして、比較例1と同様に調製したCy3−ASOを使用した。また、cRNAとして、異なる3つの相補鎖を調製した。それら構造の概要を
図10に示す。1の構造は、通常のRNA(天然型RNA)のみからなる相補鎖(cRNA−O)である。第2の構造においては、cRNA鎖の両末端の2塩基ずつを化学修飾(2’−O−メチル化及びホスホロチオエート化)してRNase耐性を持たせている(cRNA(G))。第3の構造においては、全て化学修飾(2’−O−メチル化及びホスホロチオエート化)してRNaseで切断されないようにしている(cRNA(m/S))。これらプローブは、北海道システム・サイエンス株式会社に委託して製造した。cRNA鎖の配列は以下の通りである。
cRNA(o):5’−GAAUACCAAUGC−3’(配列番号:2)
cRNA(G):5’−g
sa
sAUACCAAU
sg
sc−3’(配列番号:3)
cRNA(m/s):5’−g
sa
sa
su
sa
sc
sc
sa
sa
su
sg
sc−3’(配列番号:4)
(大文字:RNA,小文字:2’−OMe−RNA,s:核酸間の結合がホスホロチエート結合)。
【0093】
LNA/DNAギャップマーとcRNAとをそれぞれ等モル量にて混合し、95℃で5分間加熱した後、37℃で1時間保温することにより、これら核酸鎖をアニーリングさせ、二重鎖核酸複合体を形成させた。アニーリングさせた核酸は4℃又は氷上で保存した。
【0094】
次いで、各cRNAとアニーリングさせたCy3−ASO、及びCy3−ASOを、それぞれLNA量で100pmolずつ15%アクリルアミドゲルにアプライし、100Vで1時間電気泳動した。泳動後、ゲルを直接写真撮影し、次いでUV下で写真撮影した。得られた結果を
図11A、Bに示す。
【0095】
また、各cRNAとアニーリングさせたCy3−ASO、及びCy3−ASOをRNaseHに処理したものを前記同様に電気泳動し、ゲルをUV照射下にて写真撮影した。得られた結果を
図12に示す。
【0096】
図11に示した結果から明らかなように、一本鎖ASOであるCy3−LNA(レーン1)と比較して、Cy3−ASOとcRNA(o)とをアニーリングさせたもの、Cy3−ASOとcRNA(G)とをアニーリングさせたもの、Cy3−ASOとcRNA(m/S)とをアニーリングさせたものは、移動速度が遅く、各々二重鎖核酸を形成していることが確認された。
【0097】
また、図には示さないが、DNAを含む相補鎖(cDNA)とCy3−ASOとを混合して、前記同様にアニーリング処理したものを電気泳動にて分析したが、Cy3−ASOとバンドの高さが等しく、cDNAとCy3−ASOとでは二重鎖核酸が形成できないことも確認した。なお、評価したcDNAの配列及び修飾は、ウラシルをチミンに変更した以外、前記cRNA(o)、cRNA(G)及びcRNA(m/S)と同じである(以下、同様)。
【0098】
また、
図12に示した結果から明らかなように、RNaseH処理を施しても、Cy3−ASO及びcRNA(m/s)からなる二本鎖は二重鎖核酸構造を維持したままであった。一方、cRNA(o)及びcRNA(G)は、Cy3−ASOと同程度の移動度であったため、二本鎖のうちの相補的RNA鎖がRNaseHにより分解され、1本鎖核酸Cy3−ASOが二本鎖から放出され、一本鎖と同程度の移動を示し得ることが確認された。
【0099】
次に、前記電気泳動の他、LNA/DNAギャップマー及びcRNAを含む二重鎖核酸の融点(Tm)について下記に示す方法にて評価した。
【0100】
終濃度をそれぞれ塩化ナトリウム100mM、リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)10mM、各オリゴヌクレオチド鎖2μMとしたサンプル溶液(100μL)を沸騰水中に浴し、12時間かけて室温まで冷却した後、4℃で2時間放置した。窒素気流下、サンプル溶液を5℃まで冷却し、さらに15分間5℃に保った後、測定を開始した。0.5℃/minの割合で90℃まで昇温し、0.5℃間隔で260nmにおける吸光度をプロットした。また、T
m値は微分法により算出した。なお、上記測定はSHIMADZU UV−1650PCを用いて行った。得られた結果を表4に示す。
【0101】
【表4】
【0102】
表4に示した結果から明らかなように、LNA/DNAギャップマーとcDNAとが乖離する温度(Tm)は、全て体温よりも低かった。それに対し、LNA/DNAギャップマーとcRNAとが乖離する温度(Tm)は、いずれも40℃台を保っており、当該二重鎖核酸は室温や体温では乖離しないことが明らかになった。
【0103】
(実施例2)
実施例1と同様に、通常のRNAのみからなる相補鎖(cRNA(o))(配列番号:2)、全てのRNAにおいて2’−OMe(2’−O−メチル化)修飾及び核酸間がホスホロチオエート結合(S化)してある相補鎖(cRNA(m/S))(配列番号:4)、末端の2塩基のRNAのみに2’−OMe修飾及び核酸間がS化してあり、中央の8塩基を通常のRNAとしている相補鎖(cRNA(G))(配列番号:3)を用意し、いずれもLNA/DNAギャップマーとアニーリングさせ、二重鎖核酸を調製した。LNA/DNAギャップマーの標的遺伝子はラット由来のアポリポ蛋白B(rApoB)遺伝子である。ASOは、株式会社ジーンデザインにおいて合成にて製造された。
【0104】
ラット肝細胞の培養系(McA−RH7777)に、LNA/DNAギャップマー単独又は前記二重鎖核酸を、Lipofectamine2000(インビトロジェン社製)を用いて、添付の使用プロトコールに従い、トランスフェクションした。トランスフェクションの際の培地への添加濃度は0.4nM又は10nMとした。また、コントロールとして、核酸未添加の細胞も用意した。次いで、トランスフェクションしてから24時間後にISOGENを用いて細胞を回収して、添付の使用プロトコールに従い、mRNAを採取した。
【0105】
これらmRNAの濃度を測定し、一定量のmRNAからSuperScript IIIを用いて、添付のプロトコールに従ってcDNAを合成した。次いで、このように調製したcDNAを鋳型とし、TaqMan systemを用いて、定量的RT−PCRを行った。なお、定量的RT−PCRに用いたプライマーは、各遺伝子番号を元にライフテクノロジー社が設計、調製したものを使用した。また、温度、時間の条件は次の通りである。95℃にて15秒、60℃にて30秒及び72℃にて1秒を1サイクルとし、それを40サイクル行った。そして、このようにして得られた定量的RT−PCRの結果に基づき、rApoBの発現量/rGAPDH(内部標準遺伝子)の発現量を各々算出して、コントロールの算出結果と核酸投与群の算出結果とをt検定にて比較して評価した。得られた結果を
図13に示す。また、前記二重鎖核酸複合体における算出結果とLNA/DNAギャップマー単独における算出結果とをt検定にて比較して評価した。得られた結果を
図14に示す。
【0106】
図13に示す通り、0.4nMという低濃度で投与した場合には、LNA/DNAギャップマー(ss−ASO)と比較して、LNA/DNAギャップマー及びcRNA(o)を含む二重鎖核酸(LNA/RNA(o))、並びにLNA/DNAギャップマー及びcRNA(G)を含む二重鎖核酸(LNA/RNA(G))のアンチセンス効果はほぼ変わらないものであった。しかしながら、
図14に示す通り、10nMという高濃度で投与した場合には、その結果から、相補鎖は切断の影響を受けやすく(LNA/RNA(o)及びLNA/RNA(G))、一本鎖としてギャップマーASOを投与した場合と比較して、約20%までアンチセンス効果が改善されることが示された。
【0107】
従って、LNA/DNAギャップマーにRNAを含む相補鎖をハイブリダイズさせて2重鎖核酸複合体としても、細胞内の標的遺伝子の発現抑制効果(アンチセンス効果)は保たれていることが明らかになった。また、RNaseHに影響を受けやすい相補的RNA鎖を用いた場合、さらに細胞内のアンチセンス効果が上昇した。かかるアンチセンス効果の上昇は、核内で相補的RNA鎖が切断されことによるものだと推測される。
【0108】
(実施例3)
次に、
図15に示す通り、前記cRNA(G)の5’末端にトコフェロール(Toc)を結合させた相補的RNA鎖(Toc−cRNA(G))を作製した。さらにLNA/DNAギャップマー(アンチセンス鎖)をアニーリングさせることにより、間接的にトコフェロールをアンチセンス鎖に結合することに成功した。なお、実施例において用いたLNA/DNAギャップマー及び相補鎖(cRNA)の配列、構成及び鎖長は下記の通りである。
【0109】
アンチセンスLNA/DNAギャップマー鎖
1.ASO 12mer:5’−GCattggtatTC−3’(配列番号:1)
2.ASO 13mer:5’−GCattggtatTCA−3’(配列番号:5) 3.ASO 14mer:5’−AGCattggtatTCA−3’(配列番号:6)
(大文字:LNA、小文字:DNA、核酸間は全てホスホロチオエート結合である)
相補鎖
1.cRNA 12mer:5’−g
sa
sAUACCAAU
sg
sc−3’(配列番号:2)
2.cRNA 13mer:5’−u
sg
sa
sAUACCAAU
sg
sc−3’(配列番号:7)
3.cRNA 14mer:5’−u
sg
sa
sAUACCAAU
sg
sc
su−3’(配列番号:6)
(大文字:RNA、小文字:2’−OMe−RNA、下線付:PNA、s:核酸間がホスホロチオエート結合である)。
【0110】
トコフェロールとcRNAとの結合は、公知の手法に沿って行った。トコフェロールのクロマン環の6位の水酸基をホスホルアミダイト化したトコフェロールアミダイトを用意した。そして、標準的なカップリング法を用い、RNAの5‘末端とトコフェロールアミダイトとを連結させた。
【0111】
そして、このように調製した、12塩基、13塩基又は14塩基の鎖長を有する、LNA/DNAギャップマー(ss−ASO)、LNA/DNAギャップマー及びcRNA(G)を含む二重鎖核酸複合体(LNA/cRNA(G))、並びにLNA/DNAギャップマー及びToc−cRNA(G)からなる二重鎖核酸複合体(LNA/Toc−cRNA(G))を0.75mg/kgずつ、それぞれマウスに尾静脈から静脈注射した。また、陰性対照群として一本鎖ASO又は二重鎖核酸複合体の代わりにPBSのみを注射したマウスも用意した。そして、注射してから72時間後に、マウスをPBSにて灌流した後、解剖して肝臓を摘出した。次いで、比較例1に記載の方法と同様の方法にて、mRNAの抽出、cDNAの合成、及び定量的RT−PCRを行い、mApoBの発現量/mGAPDH(内部標準遺伝子)の発現量を算出して、PBSのみ投与した群(PBS only)と核酸投与群とを比較した。得られた結果を
図16に示す。
【0112】
図16に示す通り、相補鎖にトコフェロールを結合させることにより、ASO/Toc−cRNA(G)は特異的に効率良く肝臓に送達、集積され、ASO/cRNA(G)と比較しても、顕著なアンチセンス効果を有していることが明らかになった。特に13塩基の鎖長を有するASO/Toc−cRNAにおけるその効果は格別のものであった。
【0113】
(実施例4)
実施例3に記載の方法と同様の方法にて、ASO/Toc−cRNAの標的遺伝子に対する特異性を評価した。すなわち、13塩基の鎖長を有するLNA/DNAギャップマー及びToc−cRNA(G)を含む二重鎖核酸(ASO/Toc−cRNA(G))を調製した。そして、それをマウスに静脈注射し、当該マウスから得られた肝臓由来のcDNAを用いて、肝臓内の標的遺伝子(mApoB遺伝子)及び内在性コントロール遺伝子(mTTR遺伝子、mSOD1遺伝子及びmGAPDH遺伝子)の発現を定量的PCRにて評価した。なお、定量的RT−PCRに用いたプライマーは、各遺伝子番号を元にライフテクノロジー社が設計、調製したものを使用した。得られた結果を
図17に示す。
【0114】
図17に示した結果から明らかなように、ASO/Toc−cRNA 13merを投与したマウスの肝臓においては、LNA/DNAギャップマー(ASO)の標的となる遺伝子転写産物である、mApoB遺伝子のみについて、その発現の顕著な低下が示された。従って、LNA/DNAギャップマー及びToc−cRNA(G)を含む二重鎖核酸複合体においても、標的遺伝子に対する高い特異性が維持されていることが明らかになった。
【0115】
(実施例5)
実施例3に記載の方法と同様の方法にて、13塩基の核酸鎖を用い、ASO/Toc−cRNA(G)によるアンチセンス効果の用量依存性を評価した。すなわち、ASO/Toc−cRNA(G) 13mer二重鎖核酸複合体を0、0.02mg/kg、0.05mg/kg、0.09mg/kg又は0.75mg/kgずつマウスに静脈注射し、当該マウスから得られた肝臓由来のcDNAを用いて、mApoB遺伝子の発現を定量的PCRにて評価した。得られた結果を
図18に示す。
【0116】
図18に示した結果から明らかなように、ASO/Toc−cRNA(G)のアンチセンス効果は用量依存的に発揮されることが示された。また、この結果から、ASO/Toc−cRNA(G)の標的遺伝子の発現を半分まで抑制するのに必要な量(ED50)は、約0.036mg/kgであり、極めて低い濃度にて50%抑制を達成することが明らかになった。
【0117】
(実施例6)
実施例3に記載の方法と同様の方法にて、ASO/cRNA及びASO/Toc−cRNAによるアンチセンス効果の持続性を評価した。すなわち、LNA/DNAギャップマー(ss−ASO)、LNA/DNAギャップマー及びcRNA−Gを含む二重鎖核酸(ASO/cRNA(G))又はLNA/DNAギャップマー及びToc−cRNAを含む二重鎖核酸(ASO/Toc−cRNA(G))をマウスに静脈注射した。静脈注射した全ての核酸の鎖長は13塩基である。コントロールとして、核酸を含まないPBS溶液のみを注射したマウスも用意した。第1の実験においては、静脈注射してから1日後、3日後、7日後、14日後、28日後に肝臓を摘出し、当該肝臓由来のcDNAを用いて、mApoB遺伝子の発現を定量的PCRにて評価した。得られた結果を
図19Aに示す。PBS溶液コントロール、一本鎖LNAのみ、及び二重鎖複合体ASO/Toc−cRNA(G)を用いて実験を繰り返し、同様の方法にて、静脈注射してから1日後、3日後、7日後、14日後、28日後及び42日後のmApoB遺伝子の発現レベルを評価した。得られた結果を
図19Bに示す。
【0118】
図19Aに示す通り、供試したいずれの核酸においても、投与してから3日目に最大のアンチセンス効果が示された。また、投与7日後でも投与1日目と同様のアンチセンス効果が示された。さらに、投与14日後でも標的遺伝子の発現を60%程度、投与28日後でも20%程度、一本鎖ASOと比較して、それぞれ有意差を持って抑制することが示された。第2の実験においても、
図19Bに示す通り、同様の傾向が示された。投与してから3日目に最大のアンチセンス効果が示された。また、投与7日後でも投与1日目と同様のアンチセンス効果が示された。投与14日後及び28日後において、各々80%及び50%抑制することが示された。また、投与42日後でも測定可能な効果が検出された。従って、いくつかの実施形態において、二重鎖核酸はアンチセンス効果に関して高い持続性を有していることも明らかになった。
【0119】
(実施例7)
他の実施形態における二重鎖核酸複合体のアンチセンス効果を評価した。その比較する核酸鎖の構成の概要を
図20Aに示す。先の実験においては、天然型のRNA塩基からなる中央領域と、2’−OMe修飾及びホスホロチオエート化してある5’及び3’ウィング領域とを有する、cRNA(G)(配列番号:3)を用いた。ここで用いる相補鎖は、同じ5’及び3’ウィング領域(末端の2塩基のRNA塩基に2’−OMe修飾及びホスホロチオエート結合)を有する。しかし、中央の8塩基のRNAに2’−OMe修飾が施されており、核酸間は天然型のリン酸ジエステル結合である(cRNA(G)−OM)(配列番号:9)。
【0120】
すなわち、マウスアポリポ蛋白B(mApoB)に対する12−mer LNA/DNAギャップマー、異なる修飾が施されたRNA塩基が組み込まれている12塩基の相補鎖を設計し、調製した。
【0121】
アンチセンスLNA/DNAギャップマー鎖
ASO 12mer:5’−GCattggtatTC−3’(配列番号:1)
(大文字:LNA、小文字:DNA、核酸間は全てホスホロチオエート結合である)
相補鎖
1.cRNA(G):5’−g
sa
sAUACCAAU
sg
sc−3’(配列番号:3)
2.cRNA(G)−OM:5’−g
sa
sauaccaau
sg
sc−3’(配列番号:9)
(大文字:RNA、小文字:2’−OMe−RNA、s:核酸間がホスホロチオエート結合である)。
【0122】
前記LNA/DNAギャップマーは、株式会社ジーンデザインに委託して調製したものを用いた。前記相補鎖は、北海道システム・サイエンス株式会社に委託して調製したものを用いた。
【0123】
そして、前記LNA/DNAギャップマーと前記相補鎖とを等モル量にて加え、95℃にて5分間加熱した後、37℃にて1時間、定温にて放置し、アニーリングさせた。また、すぐに使用しない場合はその後4℃にて保存した。
【0124】
次いで、LNA 12mer及びcRNA 12merを含む二重鎖核酸(ASO/cRNA(G))又はLNA 12mer及びcRNA(G)−OM 12merを含む二重鎖核酸(ASO/cRNA(G)−OM)を、マウスの尾静脈から0.75mg/kgずつ静脈注射した。また、コントロールとしてPBSのみ投与したマウスも用意した。そして、静脈注射してから3日後に、当該マウスをPBSにて灌流した後、肝臓を摘出した。次いで、比較例1に記載の方法と同様の方法にて、mRNAの抽出、cDNAの合成、及び定量的RT−PCRを行い、mApoBの発現量/mGAPDH(内部標準遺伝子)の発現量を算出して、PBSのみ投与した群(PBS only)と核酸投与群とを比較した。得られた結果を
図20Bに示す。
【0125】
図20Bに示した結果から明らかなように、cRNA(G)の代わりにcRNA(G)−OMを本発明の二重鎖核酸に用いても、そのアンチセンス効果は減弱することはなかった。
【0126】
一般的に、医薬品を経腸投与(経口投与等)した場合には、その医薬品は腸管内のRNaseAに曝露されることになるため、RNAを含有する核酸医薬は、当該RNAの部分を全て2’−OMe等にて修飾しておくことが極めて好ましい。
【0127】
従って、いくつかの実施形態において、二重鎖核酸における相補鎖として、全て2’−OMe修飾したRNA鎖も利用することができるため、いくつかの実施形態における二重鎖核酸は経腸投与の態様にも適用できることが明らかになった。
【0128】
(実施例8)
LNA/DNAギャップマー及びToc−cRNAを含む二重鎖核酸複合体については前述の通り、高いアンチセンス効果を有しつつ、肝臓等へ特異的に効率良く送達できることが明らかになった。
【0129】
このように、トコフェロール等の脂質を結合させることにより肝臓等への送達性は飛躍的に増大するが、他の臓器への送達は逆に困難となることが知られている。現在、他臓器への送達方法として最もよく用いられているのは、各臓器の細胞表面にある各種タンパク質に結合するような、一種の標的ペプチドを利用する方法である。いくつかの実施形態においては、上述のようなRNAを含む相補鎖を有する二重鎖複合体にて、核酸と送達性部分としてのペプチドとを直接結合させることが検討され得る。
【0130】
他の実施形態においては、後述の実施例にて示されるような、ペプチド又は抗体を基礎とする機能性部分への結合が容易であるペプチド核酸(PNA)を、いくつかの実施形態における二重鎖核酸複合体の相補鎖として用いた。下記式に示す通り、PNAは、通常の核酸のようにリン酸結合を持たず、ペプチド結合となっているところが大きな特徴であり、そのためペプチドとの結合が容易になる。その他、LNAと同様に高いTm値を有し、二重鎖が離れにくいことやRNaseに対する耐性が強いこと等の特徴も有している。
【0131】
【化2】
【0132】
前記検証において、LNA/DNAギャップマーに標的ペプチド等の機能性分子を直接結合させない二重鎖核酸複合体の一部であって、標的ペプチド等を結合させるための核酸鎖(ペプチド結合鎖)について、多くの実施形態を検討した。そのような実施形態の例を
図21A〜Cに示す。
図21Aにおいて、機能性部分は相補的RNA鎖に結合している。
図21Bにおいて、二重鎖核酸複合体を形成するために、3本の核酸鎖が用いられる。ここで、相補的RNA鎖は、LNA/DNAアンチセンス鎖及びPNA鎖にアニーリングする。ペプチドを基礎とする機能性部分をPNA鎖に結合することによって、送達機能性部分を複合体に担持させる。しかし、該部分はアンチセンスオリゴヌクレオチドに直接結合していない。第3の核酸鎖はPNAでなくともよく、DNA、RNA及び/又はヌクレオチドアナログを含み得る。通常、この態様において、アンチセンス鎖よりも長い相補鎖を用い、その相補鎖における突出部分に第3の核酸鎖を備えさせ、アンチセンス鎖と機能性部分とを間接的に結合させることができる。また、
図21Cに示す通り、相補鎖自体に機能性部分を備えさせることもできる。
図21Cに示す機能性部分は独立して選択される。
【0133】
次に、このコンセプトに基づき、以下に示す通り、マウスアポリポ蛋白B(mApoB)に対するLNA/DNAギャップマー、RNAを含む相補鎖及びペプチド結合鎖を、本発明者らは設計して調製した。
【0134】
アンチセンスLNA/DNAギャップマー鎖
ASO 12mer:5’−GCattggtatTC−3’(配列番号:1)
(大文字:LNA、小文字:DNA、核酸間は全てホスホロチオエート結合である)
相補鎖
cRNA 21mer:5’−u
su
scGCACCAGAAUACCAAu
sg
sc−3’(配列番号:10)
(大文字:RNA、小文字:2’−OMe−RNA、s:核酸間がホスホロチオエート結合である)
第3の核酸(ペプチド)鎖
PNA 9mer:N‘−
TGGTGCGAA−C’(配列番号:11)
(下線付:PNA)。
【0135】
前記LNA/DNAギャップマーは、株式会社ジーンデザインに委託して調製したものを用いた。前記相補鎖は、北海道システム・サイエンス株式会社が調製したものを用いた。また、前記ペプチド結合鎖は、株式会社ファスマックが調製したものを用いた。
【0136】
そして、前記LNA/DNAギャップマー、前記相補鎖及び前記ペプチドを基礎とする鎖を等モル量にて加え、95℃にて5分間加熱した後、37℃にて1時間、定温にて放置し、アニーリングさせた。また、すぐに使用しない場合はその後4℃にて保存した。
【0137】
次いで、ASO 12mer(ss−ASO)又は(1)ASO 12mer、(2)cRNA(G)21mer及び(3)PNA 9merを含む二重鎖核酸複合体(ASO,PNA/crNA(G))を、マウスの尾静脈から0.75mg/kgずつ静脈注射した。また、コントロールとしてPBSのみ投与したマウスも用意した。そして、静脈注射してから3日後に、当該マウスをPBSにて灌流した後、肝臓を摘出した。次いで、比較例1に記載の方法と同様の方法にて、mRNAの抽出、cDNAの合成、及び定量的RT−PCRを行い、mApoBの発現量/mGAPDH(内部標準遺伝子)の発現量を算出して、PBSのみ投与した群(PBS only)と核酸投与群とを比較した。得られた結果を
図22に示す。
【0138】
図22に示した結果から明らかなように、ASO,PNA/crNA(G)複合体のアンチセンス効果は、LNA 12merのそれと比較して減弱していなかった。
【0139】
(実施例9)
PNA鎖が二重鎖核酸の相補鎖として利用できることを以下に示す実施例にて実証した。
【0140】
すなわち、
図3Bに示すように、相補鎖としてRNAの代わりにPNA鎖を利用し得ることを検討した。この配置においては、アンチセンス鎖(例えば、LNA/DNAギャップマー)に標的ペプチド等の機能性部分を直接結合させないが、間接的に結合させる、二重鎖核酸複合体の態様を可能とする。
【0141】
このコンセプトに基づき、以下に示す通り、マウスアポリポ蛋白B(mApoB)に対するLNA/DNAギャップマー及びPNAを含む相補鎖を設計して調製した。
【0142】
アンチセンスLNA/DNAギャップマー鎖
ASO 12mer:5’−GCattggtatTC−3’(配列番号:1)
(大文字:LNA、小文字:DNA、核酸間は全てホスホロチオエート結合である)
相補鎖
1.cPNA 12mer:N‘−
GAAUACCAAUGC−C’(配列番号:12)
2.cPNA 10mer:N‘−
GAAUACCAAU−C’(配列番号:13)
3.cPNA 8mer:N‘−
GAAUACCA−C’(配列番号:14)
(下線付:PNA)。
【0143】
前記LNA/DNAギャップマーは、株式会社ジーンデザインが調製したものを用いた。前記相補鎖は、株式会社ファスマックが調製したものを用いた。
【0144】
前記LNA/DNAギャップマー及び各相補鎖を等モル量にて加え、95℃にて5分間加熱した後、37℃にて1時間、定温にて放置し、アニーリングさせた。また、すぐに使用しない場合はその後4℃にて保存した。
【0145】
次いで、ASO 12mer(ss−ASO)、ASO 12mer及びcPNA 12merを含む二重鎖核酸(ASO/cPNA 12mer)、ASO 12mer及びcPNA 10merを含む二重鎖核酸(ASO/cPNA 10mer)又はASO 12mer及びcPNA 8mer含む二重鎖核酸(ASO/cPNA 8mer)を、マウスの尾静脈から0.75mg/kgずつ静脈注射した。また、コントロールとしてPBSのみ投与したマウスも用意した。そして、静脈注射してから3日後に、当該マウスをPBSにて灌流した後、肝臓を摘出した。次いで、比較例1に記載の方法と同様の方法にて、mRNAの抽出、cDNAの合成、及び定量的RT−PCRを行い、mApoBの発現量/mGAPDH(内部標準遺伝子)の発現量を算出して、PBSのみ投与した群(PBS only)と核酸投与群とを比較した。得られた結果を
図23に示す。
【0146】
図23に示した結果から明らかなように、ASO/cPNA複合体のアンチセンス効果は、いずれにおいても、ssーASO 12merのそれと比較して減弱していなかった。
【0147】
(実施例10)
この実施例においては、「RNAヌクレオチド及び任意にヌクレオチドアナログ」を含む、様々な構造の相補鎖を用いても、二重鎖核酸複合体がアンチセンス効果を発揮できることを実証する。4種類の相補鎖構造を設計し、調製した。それら構造の概要を
図24に示す。
図24に示す通り、2種類の中央の領域と、2種類の5‘及び3‘ウィング領域とを結合させた。ウィング領域は、ホスホロチエート結合を伴う2‘−Oメチル化修飾されたRNAと、ホスホロチエート結合を伴うヌクレオチドアナログとの、いずれかを含むものである。中央領域は、天然型リン酸ジエステル結合のRNAと、ホスホロチエート結合のRNAとのいずれかを含むものである。
【0148】
以下に示す13塩基のヌクレオチド鎖を作製して試験した。
【0149】
アンチセンスLNA/DNAギャップマー鎖
ASO13−mer:5’−GCattggtatTCA−3’(配列番号:5)
(大文字:LNA、小文字:DNA、核酸間の全ての結合はホスホロチエート結合である)
相補鎖
1.Toc−cRNA(G):5’−u
sg
sa
sAUACCAAUsgsc−3’(配列番号:7)
2.Toc−cLNA(G):5’−u
sg
sa
sAUACCAAUsgsc−3’(配列番号:15)
3.Toc−cLNA(s):5’−u
sg
sa
sAsUsAsCsCsAsAsU
sg
sc−3’(配列番号:16)
4.Toc−cRNA(s):5’−u
sg
sa
sA
sUsAsCsCsAsAsU
sg
sc−3’(配列番号:17)
(大文字:RNA、小文字:2’−OMe−RNA、下線付小文字:LNA、s:核酸間の結合がホスホロチエート結合である)
LNA/DNAギャップマーと各相補鎖とを等モル量混合し、実施例7に記載の通り、アニーリングした。次に、二重鎖核酸複合体をマウスの尾静脈から0.75mg/kgずつ静脈注射した。また、コントロールマウスとしてPBS溶液を尾静脈から投与したマウスも用意した。そして、注射してから3日後に、当該マウスをPBSにて灌流した後、肝臓を摘出した。次いで、比較例1に記載の通り、mRNAの抽出、cDNAの合成、及び定量的RT−PCRを行った。mApoBの相対的発現レベルを、mGAPDH(内部標準遺伝子)と比較して算出した。得られた結果を
図25A〜Bに示す。
図25Aに示す通り、Toc−cRNA(G)とToc−cLNA(G)との結果を比較したところ、RNA同様に、相補鎖の5‘及び3’ウィング領域を架橋化核酸にて調製しても、同等の高いアンチセンス効果を得ることができた。
さらに、このデータから、ウィング領域のいずれかの種類に対しても、核酸鎖の中央のRNA部分をホスホロチエート化することができ、核酸鎖の中央部分が天然型のRNAとした場合に得られたアンチセンス効果と同程度のそれが維持されていることが示された。Toc−cLNA(s)及びToc−cRNA(s)において、得られた効果に関し、Toc−cRNA(G)と比較した結果を、
図25A及び
図25Bに各々示す。
【0150】
実施例7と併せて論じるに、アンチセンス効果を損なうことなく、相補鎖のヌクレアーゼ耐性を向上させることができる他の態様が、この実施例において示された。
【0151】
特に、相補鎖において、その全長をホスホロチエート化することができ、なおかつ、ホスホロチエート修飾されたRNAを含む中央領域を有していても、アンチセンス鎖を放出することができ、さらにmRNA転写産物レベルを抑制することもできることが示された。
【0152】
(実施例11)
この実施例においては、たとえ第1の核酸鎖と第2の核酸鎖(アンチセンスと相補鎖)との鎖長が異なっていたとしても、アンチセンス効果は発揮されるということを実証する。ここで、13塩基のLNA/DNAギャップマーと、31塩基の相補的RNAを基礎とする核酸鎖とをアニーリングさせ、マウスにおけるApoB遺伝子の発現抑制試験に供した。また、該31塩基の核酸鎖は、3つの2’−Oメチル修飾及びホスホロチエート化されたRNAヌクレオチドを含む5’ウィング領域と、20個の2’−Oメチル修飾及びホスホロチエート化されたRNAヌクレオチドと、ホスホロチオエート結合している8個のRNAヌクレオチドを含む中央領域とを結合させることにより、調製した。13−mer/31−mer複合体の活性と、13−mer/13−mer複合体の活性とを比較した。
【0153】
アンチセンスLNA/DNAギャップマー鎖
LNA 13−mer:5’−GCattggtatTCA−3’(配列番号:5)
(大文字:LNA,小文字:DNA,核酸間の全ての結合は、ホスホロチエート結合)
相補鎖
1.13−mer Toc−cRNA(G):5’−u
sg
sa
sAUACCAAU
sg
sc−3’(配列番号:7)
2.31−mer Toc−cRNA(s):5’−u
sg
sa
sAUACCAAUgcuacgcauacgcacca
sc
sc
sa−3’(配列番号:18)
(大文字:RNA,小文字:2’−OMe−RNA,s:核酸間の結合がホスホロチエート結合)。
【0154】
LNA/DNAギャップマーと各相補鎖とを等モル量混合し、実施例7に記載の通り、アニーリングした。次に、アニーリングした二重鎖核酸複合体をマウスの尾静脈から0.75mg/kgずつ静脈注射した。また、コントロールマウスとしてPBS溶液を尾静脈から投与したマウスも用意した。そして、注射してから3日後に、当該マウスをPBSにて灌流した後、肝臓を摘出した。次いで、比較例1に記載の通り、mRNAの抽出、cDNAの合成、及び定量的RT−PCRを行った。mApoBの相対的発現レベルを、mGAPDH(内部標準遺伝子)と比較して算出した。結果を
図26に示す。
【0155】
図26に示す通り、31−mer Toc−cRNA(s)相補鎖を有する二重鎖複合体によって達成される抑制と、13−mer Toc−cLNA(G)相補鎖を有する二重鎖複合体によって達成されるそれとを比較したところ、共に同程度に高いアンチセンス効果が得られていた。
【0156】
このデータから、相補鎖において中央のRNA部分をホスホロチオエートすることができ、たとえ該相補鎖の鎖長がアンチセンス鎖と異なっていたとしても、相補鎖の中央領域を天然型のRNAとした場合と比較して、同程度のアンチセンス効果が維持されていることが、更に示された。
【0157】
(実施例12)
ここで開示した二重鎖核酸複合体は、配列特異性及び普遍的な適用性を有していることを実証するため、異なる遺伝子、ヒトのトランスチレチン(hTTR)の転写産物を標的とするアンチセンスプローブを調製した。実験は、hTTRを有するよう改変されたトランスジェニックマウスを用いて行った(該マウスは、hTTR及びmTTRを有する)。アンチセンスと相補鎖とは、2つの鎖長のもの、13塩基の核酸鎖及び20塩基の核酸鎖を用意した。そして、13−mer/13−mer二重鎖複合体と20−mer/20−mer二重鎖複合体とを試験に供した。また、該複合体が肝臓に送達されるよう、5’−トコフェロール機能性部分を備えた相補鎖を調製した。また、hTTRは、最終的には血中で検出されるタンパク質として産生されるので、その発現タンパク質の血清濃度を分析した。そして、二重鎖複合体注入後に生じる発現の減少を検出した。以下に示す様々な核酸鎖の配列及び複合体を設計して作製し、試験に供した。
【0158】
アンチセンスLNA/DNAギャップマー核酸鎖
1.ASO 13−mer:5’−TGtctctgccTGG−3’(配列番号:19)
2.ASO 20−mer:5’−TTATTgtctctgcctGGACT−3’(配列番号:21)
(大文字:LNA,小文字:DNA,核酸間の全ての結合は、ホスホロチエート結合である)
相補鎖
1.13−mer Toc−cRNA(G):5’−c
sc
sa
sGGCAGAGA
sc
sa−3’(配列番号:20)
2.20−mer Toc−cRNA(G):5’−a
sg
su
sc
sc
sAGGCAGAGAC
sa
sa
su
sa
sa−3’(配列番号:22)
(大文字:RNA,小文字:2’−OMe−RNA,s:核酸間の結合がホスホロチエート結合である)
13塩基のアンチセンス及び相補鎖を、20塩基のアンチセンス及び相補鎖を、各々等モル量にて混合し、実施例7に記載の通り、アニーリングさせた。次に、13塩基のアンチセンス単一鎖と、アニーリングした13塩基の二重鎖複合体とを、各々トランスジェニックマウスの尾静脈から0.75mg/kgずつ静脈注射した。同様に、20塩基のアンチセンス単一鎖と、アニーリングした20塩基の二重鎖複合体とを、6mg/kgずつ注射した。また、コントロールマウスとしてPBS溶液を尾静脈から投与したマウスも用意した。そして、注射してから3日後に、当該マウスをPBSにて灌流した後、肝臓を摘出した。次いで、比較例1に記載の通り、mRNAの抽出、cDNAの合成、及び定量的RT−PCRを行った。hTTRの相対的発現レベルを、mGAPDH(内部標準遺伝子)と比較して算出した。13塩基の核酸鎖に関する結果を
図27Aに、20塩基の核酸鎖に関する結果を
図27Bに示す。
【0159】
hTTRは肝臓で合成され、血中へと分泌される。従って、もしアンチセンスプローブが肝臓に送達され、hTTRの発現を効率的に抑制できるのなら、この抑制の結果、該タンパク質の血清中の濃度は低減されるはずである。血清中の濃度レベルは、13塩基の核酸鎖を注射する前、該注射の3日後に、民間試験所にて測定した。得られた血清濃度を
図28に示す。
【0160】
図27Aに示す通り、13塩基の二重鎖核酸複合体は効果的にmRNA転写を95%以上抑制した。それと比較して、ASO単一鎖のみによる抑制は約50%であった。また、
図27Bに示す通り、20塩基の複合体による抑制レベルも同程度の約50%であったが、20塩基の単一鎖を用いた場合には、実質的な抑制は認められなかった。オリゴヌクレオチドの鎖長が長くなるほど、通常、発現抑制能は低減されることが認められる。しかしながら、オリゴヌクレオチドが長いほど、選択性がより高まり、それゆえに安全性も高まることになる。例えば、アンチセンス鎖の、投与量、投与計画、鎖長、配列及び組成物を調節することによって、治療の効能を適合させることができる。しかしながら、これら実施例において示す通り、本発明の様々な実施形態における二重鎖核酸複合体として、アンチセンス鎖を送達させることによって単一鎖としてアンチセンス鎖を送達した場合よりも、顕著に高い抑制を達成することができる。
【0161】
処置前後の血清濃度レベルを
図28に示す。その結果から、13塩基の二重鎖複合体により、〜40mg/dl〜<5mg/dlという、13塩基の単一鎖の場合(〜44mg/dl〜〜28mg/dl)及びPBSコントロール(ほぼ変化なし)と比較して、顕著な低減が認められた。
【0162】
(実施例13)
この実施例においては、送達機能性部分としてペプチドを用い、神経系の細胞に二重鎖核酸複合体が送達されることを実証した。
図28に一般的な構造を示した、アンチセンス鎖、相補鎖及びPNA鎖の3つの核酸鎖を含む二重鎖複合体を用いた。後神経節(DRG)細胞に該複合体を局在させるための薬剤として機能させるため、ドデカペプチド DRG1を、9塩基のPNA鎖のN末端に結合させた。この9塩基のPNAを、以下に示す、13塩基のアンチセンス鎖及び22塩基の相補鎖にアニーリングさせることにより、二重鎖複合体を形成させ、本実験に用いた。該アンチセンス鎖が標的とする遺伝子は、TRPV1である。
【0163】
アンチセンスLNA/DNAギャップマー鎖
ASO 13−mer:5’−TAgtccagttCAC−3’(配列番号:23)(大文字:LNA;小文字:DNA;核酸間の全ての結合は、ホスホロチエート結合である)
相補鎖
cRNA(G) 22−mer:5’−g
su
sg
sAACUGGACuauacgcac
sc
sa−3’(配列番号:24)
(大文字:RNA;小文字:2’−OMe−RNA;s:核酸間の結合がホスホロチエート結合)
第3の核酸(ペプチド)鎖
pep−PNA 9−mer:N’−SPGARAFGGGGS−tggtgcgta−C’(配列番号:25及び31)
(大文字:アミノ酸;下線付,小文字:PNA)
LNA/DNAギャップマー、相補鎖及びペプチド−PNA鎖を、等モル量にて混合し、この混合物を95℃で5分間加熱した。その後、3本の核酸鎖をアニーリングさせるべく、該混合物を37℃にて1時間、定温にて放置した(「ts−TRPV1」)。また、すぐに使用しない場合は4℃にて保存した。また、同様に、アンチセンス鎖及び相補鎖のみを含有する二重鎖複合体を調製した(「ds−TRPV1」)。マウスは、三協ラボサービス株式会社(東京、日本)より入手し、病原体フリ―の施設内にて維持し、自由に餌及び水を摂取させた。8週齢、平均体重27gの雌ICRマウスに、髄腔内注射にて、PBS、ds−TRPV1又はts−TRPV1を2.66μgずつ投与した。動物の処置は、東京医科歯科大学の動物実験委員会の承認を得た倫理性及び安全性に関わる実験計画書に従って、動物実験の許可を得た処置者によって行われた。抱水クロラ―ル(0.5mg/g体重)及び塩酸ケタミン(0.05mg/g体重)の腹腔内注射により、麻酔導入した後に髄腔内注射を行った。全てのマウスをうつ伏せにし、第2腰椎及び第3腰椎(L2−L3)において部分椎弓切除を施した。一旦露出させたこれら脊椎骨をs 27ゲージ針にて穿刺し、次いで、10μLハミルトンシリンジが接続されているPE−10カテーテルを、くも膜下腔内の後方、大体L5付近に挿入した。そして、1分間にわたって10μL量を着実に投与した。カテーテルを除去した後に、筋膜及び皮膚を4-0-ナイロンにて縫合し、抗生物質溶液にて処理した。そして、当該動物の頭部を挙上させ、加温パッド上で回復させた。
【0164】
組織学的分析は以下の通りにして行った。注射してから2日後に、3mgの抱水クロラ―ルを腹腔内注射することによってマウスを安楽死させた。PFA(4%パラホルムアルデヒドPBS溶液)にて灌流固定した後、PBSにて灌流した。DRG(L6の片側)を回収し、4%ホルマリン溶液に固定した。次いで、30%スクロース溶液で置換し、肝臓をOCTコンパウンドで包埋した後、10μmの厚さで切片を作製した。次いで、DAPIを用いて核染色した後、共焦点顕微鏡で切片におけるCy3の信号強度を検出した。共焦点顕微鏡による画像分析を
図29に示す。
【0165】
TRPV1の相対的発現レベルの分析を以下の通りにして行った。麻酔導入及び経心臓的PBS灌流にて、注射してから7日後のマウスを犠牲死させた。各マウスから3つの片側DRG、すなわちL4、L5及びL6の腰椎DRG(LSD)を回収した。その後、mRNA抽出、cDNA合成及び定量的RT−PCRを、比較例1に記載の通りに行った。mTRPV1の相対的発現レベルは、mGAPDH(内部標準遺伝子)と比較して算出した。得られた結果を
図30に示す。
【0166】
図29に示した組織学的分析から、Cy3標識アンチセンス鎖はDRG細胞の核に局在していることが明らかになった。これは、アンチセンス鎖上の蛍光標識の蛍光シグナルと、核染色のそれとが一致したことから明らかである。また、この実験により、二重鎖複合体に含まれている3本の核酸鎖は損傷を受けることなく、第3の核酸鎖上の送達性部分によって、アンチセンス鎖は所望の細胞まで送達されていることが示された。
図30に示す通り、mTRPV1発現抑制により、アンチセンス効果は検出された。DRG細胞に誘導可能なペプチド−PNA鎖を含むts−PRPV1複合体は、約40%の抑制を示した。対して、ペプチド−PNA鎖を欠くds−TRPV1複合体は、遺伝子発現を抑制したが、せいぜい20%程度であった。この実施例において、再度、3本の核酸鎖を含む複合体を用いることによって、アンチセンス鎖を細胞の種類特異的に送達できることが示された。また、この実施例において、送達を誘導するペプチドを用いることにより、他の実施例に示したものと異なる細胞の種類(DRG)及び組織にも(肝臓の代わりに神経系にも)、アンチセンス鎖を送達できることも示された。
【0167】
(実施例14)
この実施例においては、非タンパク質コーディングRNA転写産物、すなわちmiRNAに対する、二重鎖核酸複合体によるアンチセンス効果について実証する。マウスの肝臓においては、miR−122というmiRNAが発現していることが知られている。15塩基のアンチmiR鎖を設計し、3つのヌクレオチドアナログ(架橋化核酸、LNA)を含む5’ウィング及び3’ウィングと、DNAを含む9塩基の中央領域とを調製した。なお、これら核酸間の全ての結合は、ホスホロチエート結合である。2’−OMe及びホスホロチエート化されたRNAを含む5’及び3’ウィングと、天然型のRNAを含む中央領域とを備えた相補鎖を調製した。
【0168】
アンチ−miR LNA/DNAギャップマー鎖
ASO 15−mer:5’−CCAttgtcacacTCC−3’(配列番号:26)
(大文字:LNA;小文字:DNA;核酸間の全ての結合は、ホスホロチエート結合である)
相補鎖
Toc−cRNA(G) 15−mer:5’−Toc−gsgsasGUGUGACCAsusgsg−3’(配列番号:27)
(大文字:RNA;小文字:2’−OMe−RNA;s:核酸間の結合が、ホスホロチエート結合である)
【0169】
アンチ−miR LNA/DNAギャップマー及び相補鎖を、等モル量にて混合し、実施例7に記載の通りアニーリングさせた。次に、アンチmiR単一鎖と、アニーリングした二重鎖核酸複合体とを、各々トランスジェニックマウスの尾静脈から0.75mg/kgずつ静脈注射した。コントロールマウスとしてPBS溶液を尾静脈から投与したマウスも用意した。そして、注射してから3日後に、当該マウスをPBSにて灌流した後、肝臓を摘出した。次いで、比較例1に記載の通り、mRNAの抽出、cDNAの合成、及び定量的RT−PCRを行った。mApoBの相対的発現レベルを、mGAPDH(内部標準遺伝子)と比較して算出した。結果を
図31に示す。
【0170】
図31に示す通り、二重鎖複合体により、miR−122レベルは、ほぼ50%に減少した。一方、アンチ−miRオリゴヌクレオチドによっては〜20%だけ減少した。特筆すべきは、miRNAレベルを低減させるための典型的な方法では、ミックスマー(mixmer)型プローブ構造が用いられ、そのプローブにより50%の減少を達成するためには、〜10mg/kgの投与量(ED50)にて送達する必要がある。前述の通り、この実施例において示した、いくつかの実施形態における二重鎖複合体によれば、相当に低い投与量をED50とすることができる。
【0171】
(実施例15)
この実施例においては、アンチセンス効果を奏するために、アミド架橋化核酸である「アミドBNA」を含むアンチセンス鎖を用いた。アミド架橋化核酸(「AmNAs」とも称する)は、LNAアナログであり、糖環における2’位の炭素と4’位の炭素とが結合している、環状アミド架橋構造(4’−C(O)−N(R)−2’;R=H,Me)を有する。
AmNAsの合成、それらオリゴヌクレオチドへの導入や、結合強度及びヌクレアーゼ耐性等の物性については、A.Yaharaら、ChemBioChem 2012年、13巻、2513〜2516ページにて最近報告されている。この文献に開示されている内容は、この参照により、本願明細書において援用される。Yaharaらが開示している通り、AmNAsは相補鎖に対して優れた結合活性を示し、また高いヌクレアーゼ耐性を示す。このように、AmNAsは、アンチセンスオリゴヌクレオチドの利用に適している。13塩基のアンチセンス鎖を設計し、ヌクレオチドアナログ(アミドBNA、AmNA)を2個及び3個各々含む、5’ウィング及び3’ウィングと、8塩基のDNAを含む中央領域とを調製した。なお、これら核酸間の全ての結合は、ホスホロチエート結合である。2’−OMe及びホスホロチエート化されたRNAを含む5’及び3’ウィングと、天然型のRNAを含む中央領域とを備えた相補鎖を調製した。
【0172】
アンチセンスアミドRNA(AmNA)/DNAギャップマー鎖
ASO 13−mer:5’−GCattggtatTCA−3’(配列番号:28) (大文字:N−メチルアミドBNA(AmNA),小文字:DNA,核酸間の全ての結合はホスホロチエート結合である)
相補鎖
1.13−mer Toc−cRNA(G):5’−u
sg
sa
sAUACCAAU
sg
sc−3’(配列番号:7)
(大文字:RNA,小文字:2’−OMe−RNA,s:核酸間の結合は、ホスホロチエート結合である)
【0173】
アンチセンスアミドBNA/DNAギャップマー(ASO)と相補鎖とを、等モル量混合し、実施例7に記載の通り、アニーリングさせた。次に、ASO単一鎖と、アニーリングした二重鎖核酸複合体とを、各々トランスジェニックマウスの尾静脈から各々様々な投与量にて静脈注射した(ss−ASO:0.75mg/kg;2.25mg/kg;Toc−ASO/cRNA(G):0.33mg/kg;1.0mg/kg)。コントロールマウスとしてPBS溶液を尾静脈から投与したマウスも用意した。注射してから7日後又は14日後に、当該マウスをPBSにて灌流した後、肝臓を摘出した。次いで、比較例1に記載の通り、mRNAの抽出、cDNAの合成、及び定量的RT−PCRを行った。mApoBの相対的発現レベルを、mGAPDH(内部標準遺伝子)と比較して算出した。結果を
図32に示す。
【0174】
図32に示す通り、アミドBNA(AmNA)を第1の核酸鎖(アンチセンスオリゴブクレオチド)の5’ウィング及び3’ウィング領域に組み込んだ、二重鎖複合体は、生体内でアンチセンス効果を発揮した。二重鎖複合体をマウスに低量にて注射した時でさえ、ASO単一鎖を注射した場合よりも、二重鎖複合体はきわめて高い抑制を達成した。例えば、注射してから7日後に測定した際に、ASO/Toc−cRNA(G)複合体を1.0mg/kgにて注射した際には、mApoBの相対的発現レベルは約55%まで抑制されていた。これは、ssーASOを2.25mg/kg投与した場合において、ようやく20%抑制されたのに対し、顕著に低かった。この実施態様にて示す通り、ここで開示している二重鎖複合体を用いた方法を実践することによって、より少ない試薬量で、より大きな発現抑制が達成される。