【実施例1】
【0011】
以下、図面に従って本発明に係るステージ装置および荷電粒子線装置の実施例について説明する。なお、以下の説明および図面において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付すことにより重複説明を省略する。
【0012】
図1は荷電粒子線装置100の全体構成図である。荷電粒子線装置100は、電子光学系鏡筒101と試料室102を備える。電子光学系鏡筒101は、試料室102に配置される試料103、例えばウェハに対して電子線を照射し、試料103から放出される二次電子または反射電子を検出し、検出信号を出力する。出力された検出信号を変換して得られる画像は、試料103上のパターンの線幅の計測や形状精度の評価に用いられる。なお、
図1では電子線の照射方向をZ方向とする。
【0013】
試料室102は除振マウント104により支持される。試料室102内には、Z方向と直交する方向であるX方向及びY方向並びにZ方向に移動可能であって試料103を搭載するステージ装置105が配置される。試料室102に設けられるレーザ干渉計106からレーザ光107を、ステージ装置105に設けられるミラー108に照射することによりステージ装置105の位置が計測され、計測結果に基づいてコントローラ109によりステージ装置105の位置が制御される。
【0014】
図2を用いて本実施例のステージ装置105について説明する。
図2は斜視図であり、構造の理解を助けるために一部透視図となっている。ステージ装置105は、Y方向に移動可能なYステージ201と、X方向に移動可能なXステージ202と、Z方向に移動可能なZステージ203と、試料103を搭載するチャック204がZ方向に重ねられて構成される。なお、Yステージ201とXステージ202を合わせてXYステージ205と呼ぶ。以下、各部について説明する。
【0015】
Yステージ201はY方向ガイド206とYテーブル207を有する。Y方向ガイド206は試料室102に固定され、Yテーブル207をY方向に案内する。Yテーブル207はY方向ガイド206の上に配置され、図示しないアクチュエータ等によりY方向に移動させられる。
【0016】
Xステージ202はX方向ガイド208とXテーブル209を有する。X方向ガイド208はYテーブル207に固定され、Xテーブル209をX方向に案内する。Xテーブル209はX方向ガイド208の上に配置され、図示しないアクチュエータ等によりX方向に移動させられる。
【0017】
Zステージ203はスロープ機構210とトップテーブル211を有する。スロープ機構210はXテーブル209に固定され、トップテーブル211をZY方向に案内する。トップテーブル211はスロープ機構210の上に配置され、スロープ機構210が有する駆動部212の推力によってZY方向に移動させられる。トップテーブル211の上面はXY面と平行である。トップテーブル211の上面には、XYステージ205の位置の制御に係るXミラー108xとYミラー108yとともに、チャック204が設けられる。
【0018】
なお、スロープ機構210が複数配置されることにより、トップテーブル211のZ軸回りの回転方向の剛性を高められる。また
図2ではZステージ203をXYステージ205の上に配置したが、XYステージ205の下に配置しても良い。
【0019】
図3を用いて本実施例のスロープ機構210について説明する。
図3は、
図2とは異なる方向からの斜視図である。スロープ機構210は、傾斜部301とガイド302と移動部303とプレート304と駆動部212を備える。以下、各部について説明する。
【0020】
傾斜部301はXYステージ205に固定され、XY面に対して傾いた傾斜面を有する。傾斜面の傾斜方向は、ZX面またはZY面と平行であることが好ましい。
図3の傾斜部301の傾斜方向は、ZY面と平行である。
【0021】
ガイド302は傾斜部301の傾斜面に設けられ、移動部303を傾斜方向に案内する。ガイド302のストロークは短くて良いので、一般的に使用される無限循環式のリニアガイド、または有限ストロークであるクロスローラーガイドを用いることができる。クロスローラーガイドを用いた場合、軽量化が可能となる。
【0022】
移動部303は傾斜部301の傾斜面の上を移動する。また移動部303には、トップテーブル211が固定される。
【0023】
プレート304は移動部303に固定され、駆動部212の推力を受ける。プレート304が推力を受けることにより、移動部303は傾斜面の上を移動する。
【0024】
駆動部212はXYステージ205に固定され、移動部303を移動させるための推力を発する。駆動部212には、電磁モータや超音波モータを用いることができる。トップテーブル211の熱変形を抑制するために、熱源となる駆動部212をXYステージ205に設け、トップテーブル211への伝熱を低減することが好ましい。なお、一般的な電磁モータに比べて発熱量が少ない超音波モータを駆動部212に用いると、トップテーブル211への伝熱をさらに低減できる。
【0025】
以上説明した構成により、試料103を搭載するチャック204が上面に設けられたトップテーブル211をZY方向に移動させることができるので、試料103をZ方向に移動させることができる。なお、Z方向への移動にともなって試料103がY方向へも移動するので、Y方向への移動距離を打ち消すようにコントローラ109はYステージ201を移動させる。Y方向への移動距離は、Z方向への移動距離と傾斜部301の傾斜角度に基づいて算出される。
【0026】
図4に、スロープ機構210の概念図をばねモデルとともに示す。
図4Aが概念図であり、
図4Bがばねモデルである。
図4Aに示すように、XYステージ205とトップテーブル211との間に配置されるスロープ機構210では、剛体とみなせる傾斜部301と移動部303との間にのみ弾性体とみなせるガイド302が存在する。
図4Bに示すようにガイド302は、ばね400で置き換えられる。例えば4個のスロープ機構210が備えられる場合、ばね400の剛性をkとすると、XYステージ205とトップテーブル211との間の剛性は4つのばね400の並列合成により4kとなる。
【0027】
図5に比較例である従来構造のZステージ500の概念図とばねモデルを示す。
図5Aが概念図であり、
図5Bがばねモデルである。従来構造のZステージ500では、トップテーブル211とXYステージ205との間にクサビ510を挿入する機構と、鉛直方向のガイド501との組み合わせにより、トップテーブル211をZ方向へ移動させる。すなわち、トップテーブル211とXYステージ205との間には、弾性体とみなせるガイド501、502、503が存在する。
図5Bに示すようにガイド501、502、503は、ばね511、512、513で置き換えられる。ガイド501がガイド502、503に比べて短いので、ばね511の剛性はばね512、513に比べて低く、XYステージ205とトップテーブル211との間の剛性は主にばね512、513によって決まる。ガイド502、503の長さをガイド302の2倍とみなし、ばね512、513の剛性をそれぞれ2kとすると、XYステージ205とトップテーブル211との間の剛性はばね512とばね513との直列合成によりkとなる。よって、本実施例の剛性は従来構造の4倍と見積もれる。
【0028】
以上説明したように、本実施例のスロープ機構210が設けられたZステージ203は従来構造よりも十分に高い剛性を有することができる。また従来構造よりも少ない部品点数ですむため、軽量化を図ることができる。すなわち本実施例によれば、Z方向に移動可能であって軽量かつ高剛性なZステージ203を実現でき、これをXYステージ205と組み合わせて荷電粒子線装置100に搭載することにより、観察のスループットを向上させることができる。
【0029】
ここで
図6を用いて、駆動部212の一例である超音波モータの動作を説明する。超音波モータはモータ本体601と接触部602を備える。モータ本体601は接触部602を振動させ、接触部602に押し付けられるプレート304に対して推力を与える。接触部602の周波数は超音波領域で一定であり、振動振幅を変えることにより駆動速度を制御できる。
【0030】
また、一定以上の負荷に対しては、プレート304と接触部602の間に滑りが生じる。プレート304と接触部602の間に滑りは、駆動部212の推力に個体差がある場合でも、個々の駆動部212の推力を平均化させ、トップテーブル211の変形やZ軸周りの回転を抑制する。
図7に、駆動部212aの推力が他の駆動部212b、212c、212dの推力よりも小さい場合の例を示す。駆動部212b、212c、212dの推力が、トップテーブル211を介して、他に比べ推力が小さい駆動部212aに伝達されると、駆動部212aのプレート304と接触部602の間で滑りが生じ、駆動部212a〜212dの推力が平均化される。その結果、推力に個体差があっても、トップテーブル211を変形させずにすみ、トップテーブル211の変形による位置誤差を抑制できる。
【実施例2】
【0031】
実施例1では、4つのスロープ機構210を備えるZステージ203について説明した。スロープ機構210の数は4つには限られないので、本実施例ではスロープ機構210が1つまたは3つである場合について説明する。
【0032】
図8を用いてスロープ機構210が1つの場合を、4つの場合と対比させながら説明する。
図8Aはスロープ機構210が1つの場合の概念図であり、
図8Bはスロープ機構210が4つの場合の概念図である。スロープ機構210が1つの場合、
図8Aに示されるように傾斜部301の傾斜面を大きくでき、移動部303が移動できる距離が長くなるので、作動距離を長くでき、荷電粒子線の加速電圧に対応しやすくなる。
【0033】
なお、スロープ機構210が4つの場合、
図8Bに示されるようにZステージ203の高さ800を低くすることができる。また、傾斜部301と移動部303の合計の体積を小さくでき、軽量化を図れる。
【0034】
図9を用いてスロープ機構210が3つの場合について説明する。この場合、スロープ機構210が4つの場合に比べて、各傾斜部301の傾斜角度に誤差があっても、トップテーブル211の変形を抑制することが可能となる。
【実施例3】
【0035】
実施例1では、主にZステージ203の構造について説明した。本実施例ではZステージ203の移動方向と、Yステージ201及びXステージ202との関係性について説明する。
【0036】
図10は試料103の側からZステージ203、Xステージ202、Yステージ201の順に重ねられたステージ装置105である。なお、Zステージ203の移動方向がZX面と平行な場合を
図10Aに、ZY面と平行な場合を
図10Bに示す。
【0037】
図10Aでは、移動中の移動部303の振動のX方向成分がXステージ202のX方向の振動特性に影響を与え、Xステージ202の駆動特性を劣化させることがある。これに対して
図10Bでは、移動部303の振動のY方向成分が影響を与えるのはXステージ202とYステージ201の2つのY方向の振動特性であり、影響を及ぼす対象の質量が
図10Aの場合に比べて大きいので、2つのステージの駆動特性の劣化は抑制される。
【0038】
さらに
図10Aでは、移動部303の移動にともなって試料103がX方向に移動した分を打ち消すのに十分なXステージ202の移動距離を確保するために、Yステージ201は大型化される。これに対して
図10Bでは、移動部303の移動にともなって試料103がY方向に移動した分を打ち消すために、最下段に配置されるYステージ201を移動させれば良いので、Xステージ202とYステージ201を大型化する必要がない。よって、
図10Bではステージ装置105の小型化が可能となる。
【0039】
すなわち、Zステージ203の移動方向は、最下段に配置されるXステージ202またはYステージ201の移動方向とともに同一面内に含まれることが望ましい。言い換えると、移動部303の移動方向は、試料103の側にXステージ202が配置された場合はZY面と平行であることが望ましく、試料103の側にYステージ201が配置された場合はZY面と平行であることが望ましい。
【0040】
なお、本発明のステージ装置105および荷電粒子線装置100は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。