(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、下記の(a)から(j)の条件を満たす。
(a)X3を1〜15質量%含有する。
(b)X2Uを45〜65質量%含有する。
(c)XUX/XXUの質量比が0.55〜1.70である。
(d)X2O/X2Uの質量比が0.60以上である。
(e)St2O/X2Oの質量比が0.10以下である。
(f)XU2を15〜50質量%含有する。
(g)U3を10質量%以下含有する。
(h)構成脂肪酸として、Stを10質量%以下含有する。
(i)St/Pの質量比が0.34以下である。
(j)構成脂肪酸として、Uを30〜60質量%含有する。
【0015】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、X3を1〜15質量%含有し、好ましくは3〜12質量%含有し、より好ましくは5〜10質量%含有する(条件(a))。
なお、本発明で、X3はXが3分子結合しているトリグリセリド(XXX)である。また、トリグリセリドとは、グリセロールに3分子の脂肪酸が結合したトリアシルグリセロールである。また、本発明で、Xは炭素数16〜18の飽和脂肪酸である。
【0016】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、X2Uを45〜65質量%含有し、好ましくは48〜62質量%含有し、より好ましくは50〜60質量%含有する(条件(b))。
なお、本発明で、X2UはXが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド(XXU+XUX+UXX)である。また、本発明で、Uは炭素数18の不飽和脂肪酸である。
【0017】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、XUX/XXUの質量比が0.55〜1.70であり、好ましくは0.60〜1.65であり、より好ましくは0.70〜1.50である(条件(c))。
なお、本発明で、XUX/XXUの質量比は、XXU含有量(質量%)に対するXUX含有量(質量%)の比のことである。また、本発明で、XUXは1位と3位にX、2位にUが結合しているトリグリセリドである。また、本発明で、XXUは1位及び2位にX、3位にUが結合しているトリグリセリド(XXU)又は2位及び3位にX、1位にUが結合しているトリグリセリド(UXX)である。
【0018】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、X2O/X2Uの質量比が0.60以上であり、好ましくは0.70以上であり、より好ましくは0.75〜0.90である(条件(d))。
なお、本発明で、X2O/X2Uの質量比は、X2U含有量(質量%)に対するX2O含有量(質量%)の比である。また、本発明で、X2OはXが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド(XXO+XOX+OXX)である。また、本発明で、Oはオレイン酸(炭素数18の1価の不飽和脂肪酸)である。
【0019】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、St2O/X2Oの質量比が0.10以下であり、好ましくは0.08以下であり、より好ましくは0〜0.05である(条件(e))。
なお、本発明で、St2O/X2Oの質量比は、X2O含有量(質量%)に対するSt2O含有量(質量%)の比である。また、本発明で、St2OはStが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド(StStO+StOSt+OStSt)である。また、本発明で、Stはステアリン酸(炭素数18の飽和脂肪酸)である。
【0020】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、XU2を15〜50質量%含有し、好ましくは17〜40質量%含有し、より好ましくは20〜33質量%含有する(条件(f))。
なお、本発明で、XU2はXが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド(XUU+UXU+UUX)である。
【0021】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、U3を10質量%以下含有し、好ましくは8質量%以下含有し、より好ましくは1〜5質量%含有する(条件(g))。
なお、本発明で、U3はUが3分子結合しているトリグリセリド(UUU)である。
【0022】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、構成脂肪酸としてStを10質量%以下含有し、好ましくは8質量%以下含有し、より好ましくは1〜6質量%含有する(条件(h))。
【0023】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、St/Pの質量比が0.34以下であり、好ましくは0.30以下であり、より好ましくは0.05〜0.20である(条件(i))。
なお、本発明で、St/Pの質量比は、構成脂肪酸中のP含有量(質量%)に対するSt含有量(質量%)の比である。また、本発明で、Pはパルミチン酸(炭素数16の飽和脂肪酸)である。
【0024】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、構成脂肪酸として、Uを30〜60質量%含有し、好ましくは33〜55質量%含有し、より好ましくは35〜50質量%含有する(条件(j))。
【0025】
本発明の実施の形態に係る被覆チョコレート用油脂組成物が、上記の(a)〜(j)の条件を満たすと、被覆チョコレートに、下記1)〜4)の効果を付与できる被覆チョコレート用油脂組成物が得られる。
1)ひび割れし難い。
2)固化速度が速い。
3)経時的にグレイニングが発生し難い。
4)良好な口どけを有する。
【0026】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、構成脂肪酸として、ラウリン酸を好ましくは5質量%以下含有し、より好ましくは2質量%以下含有し、さらに好ましくは0〜1質量%含有する。なお、本発明で、ラウリン酸(炭素数12の飽和脂肪酸)はLaと記載する場合もある。
【0027】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、構成脂肪酸として、トランス脂肪酸を好ましくは5質量%以下含有し、より好ましくは3質量%以下含有し、さらに好ましくは0〜1質量%含有する。なお、本発明において、トランス脂肪酸はTFAと記載する場合もある。
【0028】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、XXUを18〜55質量%含有し、好ましくは20〜45質量%含有し、より好ましくは22〜40質量%含有する。
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、構成脂肪酸として、Pを好ましくは30〜65質量%含有し、より好ましくは35〜60質量%含有し、さらに好ましくは40〜55質量%含有する。
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、構成脂肪酸として、Xを好ましくは40〜70質量%含有し、より好ましくは42〜65質量%含有し、さらに好ましくは45〜60質量%含有する。
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、炭素数16〜18の脂肪酸を好ましくは90質量%以上含有し、より好ましくは92質量%以上含有し、さらに好ましくは95〜99質量%含有する。なお、本発明で、炭素数16〜18の脂肪酸はC16〜18FAと記載する場合もある。
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、炭素数20以上の脂肪酸を好ましくは3質量%未満含有し、より好ましくは2質量%未満含有し、さらに好ましくは0〜1質量%含有する。なお、本発明で、炭素数20以上の脂肪酸はC20以上FAと記載する場合もある。
【0029】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、油脂以外の成分を添加することもできる。油脂以外の成分の具体例は、例えば、乳化剤、トコフェロール、茶抽出物(カテキン等)、ルチン等の酸化防止剤、香料等である。本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、油脂以外の成分を好ましくは5質量%以下含有し、より好ましくは3質量%以下含有し、さらに好ましくは1質量%以下含有する。
【0030】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、好ましくは乳化剤を含有する。本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、乳化剤を0.01〜5質量%含有し、より好ましくは0.05〜4質量%含有し、更に好ましくは0.1〜3質量%含有する。乳化剤は、レシチン、リゾレシチン、ソルビタン脂肪酸エステル(ソルビタントリステアリン酸エステル等)、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセライド)、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等を使用することができる。
【0031】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物の製造に使用される原料油脂は、トリグリセリドの組成、構成脂肪酸の組成等が前記範囲であれば、制限されない。本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物の製造に使用される原料油脂には、通常の食用油脂が使用される。本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物の製造に使用される食用油脂は、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ココアバター、シア脂、サル脂、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、乳脂等や、これらの加工油脂(水素添加油、分別油、エステル交換油)等である。前記食用油脂は2種以上が組み合わされて使用される場合もある。
【0032】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、例えば、下記の油脂A、パーム分別軟質油等を使用することで製造することができる。
【0033】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物の製造に使用される油脂Aは、下記のランダムエステル交換油Bと、下記の油脂Cとを、混合することで混合油を得る工程、該混合油を分別することで低融点部を得る工程を経て製造することができる。
【0034】
上記油脂Aの製造に使用されるランダムエステル交換油Bは、ランダムエステル交換することにより得られ、X3を20〜40質量%、X2Oを25〜50質量%含有し、XOX/XXOの質量比が0.40〜1.00、St/Pの質量比が0.30以下である。
【0035】
上記油脂Aの製造に使用されるランダムエステル交換油Bは、ランダムエステル交換後に、X3を20〜40質量%含有し、好ましくは23〜38質量%含有し、より好ましくは25〜35質量%含有する。
【0036】
上記油脂Aの製造に使用されるランダムエステル交換油Bは、ランダムエステル交換後に、X2Oを25〜50質量%含有し、好ましくは28〜48質量%含有し、より好ましくは30〜45質量%含有する。
【0037】
上記油脂Aの製造に使用されるランダムエステル交換油Bは、ランダムエステル交換後に、XOX/XXOの質量比が0.40〜1.00であり、好ましくは0.42〜0.80であり、より好ましくは0.45〜0.70である。
なお、本発明で、XOX/XXOの質量比は、XXO含有量(質量%)に対するXOX含有量(質量%)の比のことである。また、本発明で、XOXは1位と3位にX、2位にOが結合しているトリグリセリドである。また、本発明で、XXOは1位及び2位にX、3位にOが結合しているトリグリセリド(XXO)又は2位及び3位にX、1位にOが結合しているトリグリセリド(OXX)である。
【0038】
上記油脂Aの製造に使用されるランダムエステル交換油Bは、ランダムエステル交換後に、St/Pの質量比が0.30以下であり、好ましくは0.20以下であり、より好ましくは0〜0.15である。
【0039】
上記油脂Aの製造に使用されるランダムエステル交換油Bは、好ましくはパーム中融点部とパームステアリンとの混合油をランダムエステル交換して得られる油脂である。前記パーム中融点部は、沃素価が好ましくは30〜50であり、より好ましくは40〜50である。前記パームステアリンは、沃素価が好ましくは8〜35であり、より好ましくは8〜20である。前記パーム中融点部とパームステアリンとの混合油の配合比(パーム中融点部:パームステアリン)は、好ましくは質量比75:25〜55:45であり、より好ましくは質量比73:27〜58:42であり、さらに好ましくは質量比70:30〜60:40である。
【0040】
上記ランダムエステル交換油Bを製造するためのランダムエステル交換は、制限されない。前記ランダムエステル交換油Bを製造するためのランダムエステル交換は、通常のエステル交換法を用いることができる。つまり、ナトリウムメトキシド等の合成触媒を使用した化学的エステル交換、及び、リパーゼを触媒とした酵素的エステル交換のうちのどちらの方法を用いることができる。
【0041】
上記化学的エステル交換は、例えば、以下の手順でエステル交換反応を行うことができる。先ず、十分に乾燥させた原料油脂に、当該原料油脂に対して0.1〜1質量%のナトリウムメトキシドが添加される。その後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間攪拌しながらエステル交換反応が行われる。エステル交換反応終了後は、水洗等により、触媒が除去される。触媒除去後は、通常の食用油脂の精製工程で行われる脱色及び脱臭処理が適用される。
【0042】
上記酵素的エステル交換は、例えば、以下の手順でエステル交換反応を行うことができる。先ず、原料油脂に、当該原料油脂に対して0.02〜10質量%、好ましくは0.04〜5質量%のリパーゼ粉末又は固定化リパーゼが添加される。その後、40〜80℃、好ましくは40〜70℃で0.5〜48時間、好ましくは0.5〜24時間攪拌しながら反応が行われる。エステル交換反応終了後は、濾過等により、リパーゼが除去される。リパーゼ除去後は、通常の食用油脂の精製工程で行われる脱色及び脱臭処理が適用される。
【0043】
ランダムエステル交換を行うことのできるリパーゼは、例えば、アルカリゲネス属由来リパーゼ、キャンディダ属由来リパーゼ等である。アルカリゲネス属由来リパーゼは、例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼQLM、リパーゼPL等である。キャンディダ属由来リパーゼは、例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼOF等である。
【0044】
上記油脂Aの製造に使用される油脂Cは、XOXを40〜60質量%含有し、St/Pの質量比が0.30以下である。
【0045】
上記油脂Aの製造に使用される油脂Cは、XOXを40〜60質量%含有し、好ましくは42〜58質量%含有し、より好ましくは45〜55質量%含有する。
【0046】
上記油脂Aの製造に使用される油脂Cは、St/Pの質量比が0.30以下であり、好ましくは0.20以下であり、より好ましくは0.15以下である。
【0047】
上記油脂Aの製造に使用される油脂Cは、好ましくはパーム中融点部であり、より好ましくは沃素価30〜50のパーム中融点部であり、さらに好ましくは沃素価40〜50のパーム中融点部である。
【0048】
上記油脂Aを製造する時に、ランダムエステル交換油Bと、油脂Cとを、混合することで混合油を得る工程で、ランダムエステル交換油Bと油脂Cとの混合油の配合比(ランダムエステル交換油B:油脂C)は、好ましくは質量比80:20〜99:1であり、より好ましくは質量比82:18〜97:3であり、さらに好ましくは質量比85:15〜97:3である。
【0049】
上記油脂Aを製造する時に、ランダムエステル交換油Bと油脂Cとの混合油を分別することで低融点部を得る工程で、分別の方法は、制限されない。分別は、通常の分別法を用いることができる。前記低融点部を得るための分別は、好ましくはドライ分別(ドライ分別は、自然分別とも言う。)である。
【0050】
上記ドライ分別は、例えば、以下の手順で分別を行うことができる。先ず、槽内で攪拌された油脂を、冷却することで、結晶化させる。その後、結晶化した油脂を圧搾及び/又はろ過することで、高融点部(高融点部は、硬質部、結晶画分又はステアリン部とも言う。)と低融点部(低融点部は、軟質部、液状画分又はオレイン部とも言う。)に分ける。油脂を分別する時の温度は、対象となる油脂の性状によっても異なるため、制限されない。ドライ分別する時の温度は、好ましくは33〜45℃であり、より好ましくは35〜43℃、さらに好ましくは37〜43℃である。
【0051】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物の製造に使用されるパーム分別軟質油は、パーム油、パーム油の分別油等のパーム系油脂を分別して得られる低融点部のことである。上記パーム分別軟質油の具体例は、パームオレイン、パームスーパーオレイン等である。上記パーム分別軟質油は、沃素価が好ましくは50〜70であり、より好ましくは50〜60である。上記パーム分別軟質油を製造するための分別の方法は、上記油脂Aを製造する時の分別の方法と同じである。
【0052】
本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、好ましくは上記油脂Aを50〜100質量%、上記パーム分別軟質油を0〜50質量%含有し、より好ましくは上記油脂Aを55〜90質量%、上記パーム分別軟質油を10〜45質量%含有し、さらに好ましくは上記油脂Aを60〜80質量%、上記パーム分別軟質油を20〜40質量%含有する。
【0053】
油脂に含まれるX3含有量、X2U含有量、XUX含有量、XXU含有量、X2O含有量、XOX含有量、XXO含有量、St2O含有量、XU2含有量及びU3含有量は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)準拠)及び銀イオンカラム−HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105−107(1995)準拠)を用いて測定することができる。
油脂を構成する脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフィー法(AOCS Ce1f−96準拠)を用いて測定することができる。
油脂の沃素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1−2013 ヨウ素価(ウィイス−シクロヘキサン法)」に準じて測定することができる。
【0054】
本発明の実施の形態の被覆チョコレートは、チョコレートに含まれる油脂が、本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物を50質量%以上含有し、好ましくは70〜100質量含有し、更に好ましくは80〜90質量%含有する。
なお、本発明でチョコレートに含まれる油脂とは、チョコレートに含まれる全ての油脂を合わせた全油脂分である(例えば、チョコレートがカカオマス、油脂a、油脂bを含む場合、チョコレートに含まれる油脂は、カカオマスに含まれるココアバターと油脂aと油脂bの混合油である。)。すなわち、チョコレートに含まれる油脂は、配合される油脂の他に、含油原料(カカオマス、ココアパウダー、全脂粉乳等)に含まれる油脂(ココアバター、乳脂等)を含む。
【0055】
本発明でチョコレートは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会)乃至法規上で規定されたチョコレートに限定されない。本発明でチョコレートとは、食用油脂、糖類を主原料とし、必要によりカカオ成分(カカオマス、ココアパウダー等)、乳製品、香料、乳化剤等を加え、チョコレート製造の工程(混合工程、微粒化工程、精練工程、成形工程、冷却工程等の全部乃至一部)を経て製造され、油脂が連続相をなし、実質的に水を含有しない食品(好ましくは水分含有量が3質量%以下である。)である。また、本発明でチョコレートは、ダークチョコレート、ミルクチョコレートの他に、ホワイトチョコレート、カラーチョコレートも含む。
【0056】
本発明の実施の形態の被覆チョコレートには、本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物以外に、通常チョコレートの製造に使用される食用油脂(パーム油、パーム分別油(パーム中融点部、パーム分別軟質油(パームオレイン、パームスーパーオレイン等)、パーム分別硬質油(パームステアリン等)等)、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、ココアバター、乳脂等)を使用することもできる。
【0057】
本発明の実施の形態の被覆チョコレートは、油脂を好ましくは25〜65質量%含有し、より好ましくは30〜60質量%含有し、更に好ましくは35〜55質量%含有する。
【0058】
本発明の実施の形態の被覆チョコレートは、好ましくは糖類を含有する。糖類は、例えば、ショ糖(砂糖、粉糖)、乳糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、還元澱粉糖化物、液糖、酵素転化水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、還元糖ポリデキストロース、オリゴ糖、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトース、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラフィノース、デキストリン等である。本発明の実施の形態の被覆チョコレートの製造に使用される糖類は、好ましくはショ糖(砂糖、粉糖)である。
【0059】
本発明の実施の形態の被覆チョコレートは、糖類を好ましくは20〜65質量%含有し、より好ましくは25〜60質量%含有し、更に好ましくは30〜55質量%含有する。
【0060】
本発明の実施の形態の被覆チョコレートは、油脂、糖類以外に、チョコレートに一般的に配合される原料を使用することができる。具体的には、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳等の乳製品、カカオマス、ココアパウダー等のカカオ成分、大豆粉、大豆蛋白、果実加工品、野菜加工品、抹茶粉末、コーヒー粉末等の各種粉末、ガム類、澱粉類、レシチン、リゾレシチン、酵素分解レシチン、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、酸化防止剤、着色料、香料等を使用することができる。
【0061】
本発明の実施の形態の被覆チョコレートは、従来公知のチョコレートの製造方法で製造することができる。本発明の実施の形態の被覆チョコレートは、例えば、油脂、カカオ成分、糖類、乳化剤等を原料とし、混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)、冷却工程等を経て製造される。本発明の実施の形態の被覆チョコレートは、好ましくは微粒化工程を経て製造される。
【0062】
本発明の実施の形態の被覆チョコレートは、好ましくはノンテンパリング型チョコレートである。
【0063】
本発明の実施の形態の食品は、本発明の実施の形態の被覆チョコレートが被覆されている。本発明の実施の形態の食品は、例えば、ドーナツ、食パン、コッペパン、フルーツブレッド、バターロール、フランスパン、ロールパン、菓子パン、スイートドウ、乾パン、マフィン、ベーグル、クロワッサン、デニッシュペーストリー等のベーカリー製品、カステラ、ワッフル、ボーロ、八つ橋、せんべい、かりんとう、スポンジケーキ、ロールケーキ、パウンドケーキ、バウムクーヘン、フルーツケーキ、マドレーヌ、シュー、エクレア、ミルフィーユ、パイ、タルト、マカロン、ビスケット、クッキー、クラッカー、蒸しパン、プレッツェル、ウエハース、スナック菓子、クレープ、スフレ等の菓子、バナナ、りんご、イチゴ等の果物等である。本発明の実施の形態の食品は、好ましくはベーカリー製品又は菓子であり、より好ましくはベーカリー製品であり、更に好ましくはドーナツである。
【0064】
本発明の実施の形態の食品は、従来公知の製造方法で、ベーカリー製品、菓子等の食品に、本発明の実施の形態の被覆チョコレートを被覆することで製造される。
【0065】
本発明の実施の形態の被覆チョコレートが被覆された本発明の実施の形態の食品は、チョコレートが、下記1)〜4)の効果を有する。本発明の実施の形態の被覆チョコレートは、本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物を使用することを特徴としている。従って、本発明の実施の形態の被覆チョコレート用油脂組成物は、被覆チョコレートに、下記1)〜4)の効果を付与できる。
1)ひび割れし難い。
2)固化速度が速い。
3)経時的にグレイニングが発生し難い。
4)良好な口どけを有する。
【実施例】
【0066】
次に、実施例および比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。しかし、本発明はこれらに何ら制限されない。
【0067】
〔分析方法〕
油脂に含まれるX3含有量、X2U含有量、XUX含有量、XXU含有量、X2O含有量、XOX含有量、XXO含有量、St2O含有量、XU2含有量及びU3含有量は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)準拠)及び銀イオンカラム−HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105−107(1995)準拠)を用いて測定した。
油脂を構成する脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフィー法(AOCS Ce1f−96準拠)を用いて測定した。
油脂の沃素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1−2013 ヨウ素価(ウィイス−シクロヘキサン法)」に準じて測定した。
【0068】
〔ランダムエステル交換油B1の製造〕
パーム中融点部(沃素価:45)65質量部とパームステアリン(沃素価:11)35質量部を混合した。得られた混合油を、ランダムエステル交換することにより、ランダムエステル交換油B1(X3含有量:31.2質量%、X2O含量:36.3質量%、XOX/XXO質量比:0.53、St/P質量比:0.08)を得た。
エステル交換は、常法に従い、十分に乾燥させた原料油脂に、当該原料油脂に対して0.2質量%のナトリウムメトキシドを添加した後、減圧下、120℃で0.5時間攪拌しながら反応を行った。
【0069】
〔油脂A1の製造〕
95質量部の上記ランダムエステル交換油B1と5質量部のパーム中融点部(沃素価45、XOX含有量:51.1質量%、St/P質量比:0.11)を混合した。得られた混合油を42℃でドライ分別し、高融点部を除去することで低融点部を得た。該低融点部に脱臭処理を行うことで油脂A1を得た。
【0070】
〔油脂a1の製造〕
パーム系油脂を72.4質量%、液状油8.8質量%、植物油の極度硬化油を18.8質量%含む原料油脂を、ランダムエステル交換することにより、ランダムエステル交換油を得た。得られたランダムエステル交換油を分別し、高融点部及び低融点部を除去することで中融点部を得た。該中融点部に脱臭処理を行うことで油脂a1を得た。
【0071】
〔パーム分別軟質油1〕
沃素価56のパームオレインをパーム分別軟質油1とした。
〔ラウリン系油脂1〕
融点34℃のヤシ油の硬化油をラウリン系油脂1とした。
【0072】
〔油脂組成物の製造〕
表1に示す配合で融解させた油脂を混合することで、油脂組成物を製造した。
得られた油脂組成物の脂肪酸含有量、トリグリセリド含有量を前述の分析方法に従って測定した。測定結果を表1に示した。なお、配合の単位は質量部であり、含有量の単位は質量%である(質量比の単位はなし)。
【0073】
〔チョコレートの製造〕
得られた油脂組成物を使用し、表2に示された配合のチョコレートを、通常のチョコレートの製造方法(混合、微粒化、精練、冷却)を用いることにより製造した(チョコレートに含まれる油脂の含有量は、45.4質量%だった。チョコレートに含まれる水分の含有量は3質量%以下だった。チョコレートに含まれる油脂は、実施例の油脂組成物又は比較例の油脂組成物を86.7質量%含有していた。)なお、配合の単位は質量部である。
【0074】
〔食品の製造〕
チョコレートを完全に融解させて、50℃に調温した。50℃に調温されたチョコレートをドーナツに被覆した。チョコレートを室温にて完全に固化させることで、チョコレートが被覆されたドーナツを製造した。
【0075】
〔固化速度の評価〕
チョコレートが固化するまでの時間を測定することで、チョコレートの固化速度を評価した。完全に固化するまでの時間が18秒以内の場合、固化速度が速いと判断した。
【0076】
〔ひび割れの評価〕
チョコレートが被覆されたドーナツをナイフで切断し、生じたひび割れの程度を目視で下記評価基準に従って評価した。評価結果が◎又は○の場合、ひび割れし難いと判断した。
◎:ひび割れが全くない
○:若干ひび割れがある
×:ひび割れてドーナッツから剥がれしまう
【0077】
〔グレイニングの評価〕
チョコレートが被覆されたドーナツを20℃で12時間、30℃で12時間のサイクル恒温槽で90日間保管し、グレイニングの発生の程度を目視で下記評価基準に従って評価した。評価結果が○の場合、経時的にグレイニングが発生し難いと判断した。
○:グレイニングなし
△:極僅かにグレイニングあり
×:グレイニングあり
【0078】
〔口どけの評価〕
チョコレートが被覆されたドーナツを10名の専門パネルが食し、下記評価基準に従って点数を付けた。10名の専門パネルの平均点を算出し、下記評価基準に従って評価した。評価結果は、平均点の評価が◎又は○の場合、良好な口どけを有していると判断した。なお、チョコレートの口どけを評価した専門パネルは、チョコレートの口どけ等の官能評価の訓練を定期的に受けており、チョコレートの口どけ等の官能評価結果に個人差が少ない。
3点:非常に良い
2点:よい
1点:ふつう
0点:よくない
<平均点>
◎:2.5点以上
○:2.0点以上2.5点未満
△:1.5点以上2.0点未満
×:1.5点未満
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表1から分かるように、実施例の油脂組成物を使用したチョコレートは、本発明で所望する全ての効果を有していた。
一方、表1から分かるように、比較例1の油脂組成物を使用したチョコレートは、固化速度が遅く、グレイニングが発生しやすかった。また、比較例2の油脂組成物を使用したチョコレートは、ひび割れ及びグレイニングが発生しやすく、口どけが悪かった。