(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(1)において、前記ベースゴムが前記フッ素ゴムを50〜85質量%かつ前記エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を13〜35質量%含有し、前記無機フィラーの配合量が30〜280質量部である請求項1に記載の耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の製造方法。
前記ベースゴムに、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂、若しくはアクリルゴム又はこれらの組み合わせを含有する請求項1〜4に記載の耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の製造方法。
前記シランカップリング剤が、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランである請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の製造方法。
前記無機フィラーが、シリカ、炭酸カルシウム、酸化亜鉛若しくは焼成クレー又はこれらの組み合わせである請求項1〜6のいずれか1項に記載の耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明において用いる各成分について説明する。
【0013】
<ベースゴム>
本発明に用いられるベースゴムは、フッ素ゴムとエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂とを必須成分として含有する。フッ素含有ゴムとエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂とを含有すると、本発明の製造方法において、シランマスターバッチ及び触媒マスターバッチのいずれも、発泡(気泡の残存)が抑えられ、かつ融着しにくいペレットとして調製することができる。また、耐熱性架橋フッ素ゴム成形体に、優れた機械強度を、外観を維持して、付与することができる。
【0014】
− フッ素ゴム −
フッ素ゴムとしては、特に限定されるものではなく、従来、耐熱性ゴム成形体に使用されている通常のものを使用することができる。
フッ素ゴムは、有機過酸化物から発生したラジカルの存在下において、シランカップリング剤のグラフト化反応部位とグラフト化反応可能な部位、例えば炭素鎖の不飽和結合部位や、水素原子を有する炭素原子を主鎖中又はその末端に有しているものが好ましい。
【0015】
また、フッ素ゴムとしては、主鎖又は側鎖にフッ素原子を含有する、単独重合体若しくは共重合体のゴムが挙げられる。フッ素ゴムは、通常、フッ素原子を含有する単量体(モノマー)を(共)重合することにより、得られる。
【0016】
このようなフッ素ゴムとしては、特に限定されるものではないが、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレン等のパーフルオロ炭化水素、及び、部分フッ素炭化水素(例えばフッ化ビニリデン)等の含フッ素モノマー同士の共重合体ゴム、さらにはこれらのパーフルオロ炭化水素及び/又は含フッ素モノマーとエチレン及び/又はプロピレンなどの炭化水素の共重合体ゴムが挙げられる。
具体的には、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体ゴム(FEPM)、テトラフルオロエチレン−フッ化(例えばヘキサフルオロ)プロピレン共重合体ゴム、テトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体ゴム(FFKM)、フッ化ビニリデンゴム(FKM、例えば、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体ゴム)等が挙げられる。
さらには、上述の、パーフルオロ炭化水素及び/又は含フッ素モノマーとクロロプレン及び/又はクロロスルホン化ポリエチレンとの共重合体ゴムも挙げられる。
これらのフッ素ゴムの中でも、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体ゴム、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体ゴムが好ましく、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体ゴムがより好ましい。
フッ素ゴム中のフッ素原子含有量(フッ素ゴム全量に対するフッ素原子の質量割合)は、特に限定されないが、25質量%以上が好ましく、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。フッ素含有量の上限は、フッ素化する前の重合体の分子量、フッ素原子で置換可能な水素原子の数等により変動するため、一義的に決定できないが、例えば、75質量%とすることができる。
本発明において、フッ素含有量は合成時の計算値、又は、炭酸カリウム加熱分解法によって求められる。炭酸カリウム加熱分解法としては、能代誠ら、日化、6、1236(1973)に記載の方法が挙げられる。
【0017】
フッ素ゴムは、適宜に合成してもよく、市販品を使用してもよい。
例えば、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体ゴムとしては、アフラス(商品名、旭硝子社製)が挙げられる。テトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体ゴムとしては、カルレッツ(商品名、デュポン社製)が挙げられる。フッ化ビニリデンゴムとしては、バイトン(商品名、デュポン社製)、ダイエル(商品名、ダイキン工業社製)、ダイニオン(商品名、3M社製)、テクノフロン(商品名、ソルベー社製)等が挙げられる。
ベースゴム100質量%中、フッ素ゴムの含有率は、40〜98質量%であり、好ましくは50〜85質量%であり、より好ましくは60〜80質量%である。フッ素ゴムの含有率が40〜98質量%であると、マスターバッチを、発泡を抑えて融着しにくいペレットとして調製でき、また得られる耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の機械強度を、外観を維持しつつ、向上させることができる。
【0018】
− エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂−
ベースゴムは、フッ素ゴムに加えてエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を含有する。エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を含有することにより、耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の機械強度や外観を向上させることができる。また、発泡を抑えて融着しにくいペレットとしてシランマスターバッチ及び触媒マスターバッチを調製できる。また、エチレン−テトラフルオロエチレンをシランマスターバッチと触媒マスターバッチの両方に導入すると、成形時に両マスターバッチが均一に相溶しやすくなり長尺成形性を更に向上させることができる。
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂は、エチレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体の樹脂であれば、特に限定されない。
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂は、グラフト化反応可能な部位(水素原子を有する炭素原子)を主鎖中又はその末端に有している。
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂の融点は、230℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。融点を230℃以下とすると、混練り時あるいは押出時のマスターバッチや成形体の発泡をより抑制することができる。融点はASTM D3159に基づき測定することができる。
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂のメルトフローレート(MFR:測定温度297℃、荷重47N)は、好ましくは1〜50g/10分、より好ましくは3〜40g/10分、さらに好ましくは5〜38g/10分である。メルトフローレートは、JIS K 7210に準拠して測定される。
ベースゴム100質量%中、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂の含有率は、2〜40質量%であり、好ましくは3〜30質量%であり、より好ましくは3〜25質量%である。エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂の含有率が2〜40質量%であると、製造方法において発泡を抑えて融着しにくいペレットとしてマスターバッチを調製でき、得られる耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の機械強度を、外観を維持しつつ、向上することができる。
【0019】
本発明において、ベースゴムは、フッ素ゴム及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂の他に、他の樹脂又はゴム、オイル成分(例えば、パラフィンオイル等の鉱物油)等を含有していてもよい。
この場合、ベースゴムは、各成分の総計が100質量%となるように、各成分の含有率が適宜に決定される。
【0020】
他の樹脂又はゴムとして、グラフト化反応可能な部位を主鎖中又はその末端に有しているものが好ましく、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂、若しくはアクリルゴム又はこれらの組み合わせ等がより好ましい。これらは1種又は2種以上を併用できる。
これらの樹脂又はゴムを混合することで、強度、耐摩耗性や成形性が向上する。これらの樹脂又はゴムとしては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体の各樹脂、又は、アクリルゴムがより好ましく、エチレン−酢酸ビニル共重合体の樹脂がさらに好ましい。
上記の各樹脂又はゴムは、特に限定されず、適宜に合成したもの又は市販品を用いることができる。
これらの樹脂又はゴムの含有率は、ベースゴム成分中の、好ましくは0〜45質量%、より好ましくは0〜35質量%、さらに好ましくは10〜30質量%である。上記含有量が上記範囲内にあると、優れた耐摩耗性や長尺成形性を付与できる。
【0021】
<有機過酸化物>
有機過酸化物は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、シランカップリング剤のベースゴムへのラジカル反応によるグラフト化反応(シランカップリング剤のグラフト化反応部位とベースゴムのグラフト化反応可能な部位との共有結合形成反応であって、(ラジカル)付加反応ともいう。)を生起させる働きをする。
有機過酸化物としては、上記機能を有し、ラジカル重合又は従来のシラン架橋法に用いられるものを特に制限されずに用いることができる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド(DCP)、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン又は2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3が好ましい。
有機過酸化物の分解温度は、80〜195℃が好ましく、125〜180℃が特に好ましい。本発明において、有機過酸化物の分解温度とは、単一組成の有機過酸化物を加熱したとき、ある一定の温度又は温度域でそれ自身が2種類以上の化合物に分解反応を起こす温度を意味する。具体的には、DSC法等の熱分析により、窒素ガス雰囲気下で5℃/分の昇温速度で、室温から加熱したとき、吸熱又は発熱を開始する温度をいう。
有機過酸化物は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
【0022】
<無機フィラー>
本発明において、無機フィラーは、特に制限されないが、その表面に、シランカップリング剤のシラノール基等の反応部位と水素結合若しくは共有結合等、又は分子間結合により、化学結合しうる部位を有するものが好ましい。シランカップリング剤の反応部位と化学結合しうる部位としては、OH基(水酸基、含水若しくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)、アミノ基、SH基等が挙げられる。
【0023】
無機フィラーとしては、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、タルクなどの水酸基あるいは結晶水を有する金属化合物のような金属水和物が挙げられる。また、窒化ほう素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)、カーボン、クレー(焼成クレー)、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛等が挙げられる。
【0024】
無機フィラーは、シランカップリング剤等で表面処理した表面処理無機フィラーを使用することができる。例えば、シランカップリング剤表面処理無機フィラーとして、キスマ5L、キスマ5P(いずれも商品名、水酸化マグネシウム、協和化学工業社製等)が挙げられる。シランカップリング剤による無機フィラーの表面処理量は、特に限定されないが、例えば、3質量%以下である。
【0025】
これらの無機フィラーのうち、シリカ、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、焼成クレー若しくはタルク又はこれらの組み合わせが好ましく、シリカ、炭酸カルシウム、酸化亜鉛若しくは焼成クレー又はこれらの組み合わせがより好ましい。
無機フィラーは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0026】
無機フィラーが粉体である場合、無機フィラーの平均粒径は、0.2〜10μmが好ましく、0.3〜8μmがより好ましく、0.4〜5μmがさらに好ましく、0.4〜3μmが特に好ましい。平均粒径が上記範囲内にあると、シランカップリング剤の保持効果が高く、耐熱性に優れたものとなる。また、シランカップリング剤との混合時に無機フィラーが2次凝集しにくく、外観に優れたものとなる。平均粒径は、無機フィラーをアルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
【0027】
<シランカップリング剤>
シランカップリング剤としては、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下で、ベースゴムのグラフト化反応可能な部位にグラフト化反応しうる部位(基又は原子)と、シラノール縮合可能な加水分解性シリル基とを有するものであれば、特に限定されない。このようなシランカップリング剤としては、従来のシラン架橋法に使用されているシランカップリング剤が挙げられる。
このようなシランカップリング剤としては、不飽和基を有するシランカップリング剤が挙げられ、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルシラン、(メタ)アクリロキシシラン等が挙げられる。中でも、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
シランカップリング剤は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
シランカップリング剤は、そのままの形態で用いてもよいし、溶剤で希釈した形態で用いてもよい。
【0028】
<シラノール縮合触媒>
シラノール縮合触媒は、ベースゴムにグラフトされたシランカップリング剤の加水分解性シリル基を水分の存在下で縮合反応(促進)させる働きがある。このシラノール縮合触媒の働きに基づき、シランカップリング剤を介して、ベースゴム同士が架橋される。その結果、優れた耐熱性を有する耐熱性架橋フッ素ゴム成形体が得られる。
このようなシラノール縮合触媒としては、特に制限されず、例えば、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。有機スズ化合物としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物が挙げられる。
シラノール縮合触媒は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
【0029】
<キャリアゴム>
シラノール縮合触媒は、ベースゴムの残部(キャリアゴムともいう)に混合されて、用いられる。キャリアゴムとしては、フッ素ゴムとエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体とを組み合わせて用いる。フッ素ゴムとエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体とを組み合わせて用いることにより、触媒MBを、発泡を抑えて融着しにくいペレットとして調製でき、また得られる触媒MBとシランMBの混和性が向上して、外観及び引張強度に優れた成形体を得ることができる。
キャリアゴムは上記2種以外のベースゴム成分を用いてもよい。その他のベースゴム成分を含有していてもよい。
【0030】
<添加剤>
耐熱性架橋フッ素ゴム成形体等は、電線、電気ケーブル、電気コード、シート、発泡体、チューブ、パイプにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で含有してもよい。このような添加剤として、例えば、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤、金属不活性剤、又は、充填剤(難燃(助)剤を含む。)等が挙げられる。
【0031】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン酸化防止剤、フェノール酸化防止剤又は硫黄酸化防止剤等が挙げられる。アミン酸化防止剤としては、例えば、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物等が挙げられる。フェノール酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が挙げられる。硫黄酸化防止剤としては、例えば、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンズイミダゾール及びその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)等が挙げられる。酸化防止剤は、ベースゴム100質量部に対して、好ましくは0.1〜15.0質量部、さらに好ましくは0.1〜10質量部で加えることができる。
【0032】
<耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の製造方法>
次に、本発明の製造方法を具体的に説明する。
本発明の耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の製造方法は、下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有する。
【0033】
工程(1):フッ素ゴム40〜98質量%及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂2〜40質量%を含有するベースゴム100質量部に対して、有機過酸化物0.003〜0.5質量部と、無機フィラー0.5〜400質量部と、前記有機過酸化物から発生したラジカルの存在下で前記ベースゴムとグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤2〜15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、反応組成物を得る工程
工程(2):前記反応組成物を成形して成形体を得る工程
工程(3):前記成形体を水と接触させて耐熱性架橋フッ素ゴム成形体を得る工程
【0034】
上記工程(1)は、下記工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有する。
工程(a):ベースゴムの一部と有機過酸化物と無機フィラーとシランカップリング剤とを有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、有機過酸化物から発生したラジカルによってグラフト化反応部位とベースゴムとをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性ゴムを含むシランマスターバッチを調製する工程
工程(b):ベースゴムの残部及びシラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):シランマスターバッチと、触媒マスターバッチとを溶融混合して、反応組成物を得る工程。
【0035】
本発明の耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の製造方法においては、工程(a)及び工程(b)の両工程に、フッ素ゴムとエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂とを併用する(溶融混合される)。すなわち、フッ素ゴム及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を、シランマスターバッチの成分及び触媒マスターバッチのベースゴム成分として配合する。このようにすると、シランマスターバッチ及び触媒マスターバッチを、調製(溶融混練)中に発泡、さらには発生した気泡の残存を抑えて、融着しにくいペレットとして、調製することができる。また、シランマスターバッチと触媒マスターバッチとの混和性が高まって、高度に混和した反応組成物を工程(c)で得ることができる。その結果、機械強度に優れる成形体を、高速成形においても、外観を維持して製造することができる。
【0036】
本発明の製造方法において、「ベースゴム」とは、耐熱性架橋フッ素ゴム成形体を形成するためのゴムである。したがって、本発明の製造方法においては、工程(1)で得られる反応組成物に100質量部のベースゴムが含有される。工程(1)におけるベースゴムの配合量100質量部は、工程(a)及び工程(b)で溶融混合されるベースゴムの合計量である。
【0037】
工程(1)において、有機過酸化物の配合量は、ベースゴム100質量部に対して、0.003〜0.5質量部であり、0.005〜0.5質量部が好ましく、0.005〜0.2質量部がより好ましい。有機過酸化物の配合量をこの範囲内にすることにより、マスターバッチを、発泡を抑えて融着しにくいペレットとして調製することができる。また、適切な範囲でグラフト反応を行うことができ、機械強度に優れた耐熱性架橋フッ素ゴムを得ることができる。
【0038】
工程(1)において、無機フィラーの配合量は、ベースゴム100質量部に対して、0.5〜400質量部であり、1〜400質量部が好ましく、30〜280質量部がより好ましい。無機フィラーの配合量が0.5質量部未満では、シランカップリング剤のグラフト反応が不均一となり、耐熱性架橋フッ素ゴム成形体に優れた機械強度を付与できないことがある。また、場合により優れた耐熱性を付与できないことがある。また、シランカップリング剤のグラフト反応が不均一となり、耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の外観が低下することがある。一方、400質量部を超えると、成形時や混練時の負荷が非常に大きくなり、長尺成形による成形が難しくなることがある。また、機械強度や外観が低下することがある。場合により耐熱性が低下することがある。
【0039】
工程(1)において、シランカップリング剤の配合量は、ベースゴム100質量部に対して、2〜15質量部である。シランカップリング剤の配合量が2質量部未満では、架橋反応が十分に進行せず、優れた機械強度及び耐熱性を発揮しないことがある。一方、15質量部を超えると、それ以上の無機フィラー表面にシランカップリング剤が吸着しきれず、シランカップリング剤は混練中に揮発してしまい、経済的でない。また、吸着しないシランカップリング剤が縮合してしまい、成形体に架橋ゲルブツや焼けが生じて外観が悪化するおそれがある。特に、外観が悪化しやすい高速での成形において外観が悪化する。
上記観点により、このシランカップリング剤の配合量は、ベースゴム100質量部に対して3〜12質量部が好ましく、4〜12質量部がより好ましい。
【0040】
工程(1)において、シラノール縮合触媒の配合量は、特に限定されず、好ましくは、ベースゴム100質量部に対して、0.0001〜0.5質量部、より好ましくは0.001〜0.2質量部である。シラノール縮合触媒の配合量が上述の範囲内にあると、シランカップリング剤の縮合反応による架橋反応がほぼ均一に進みやすく、耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の耐熱性を維持しつつ、外観及び物性が優れ、生産性も向上する。
【0041】
前記工程(1)において、外観と柔軟性を両立する観点からは、ベースゴムは、フッ素ゴムを40〜98質量%、かつエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を2〜40質量%含有する。ベースゴムが、フッ素ゴムを50〜85質量%かつエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を13〜35質量%含有することが好ましく、さらに無機フィラーの配合量が1〜400質量部であることがより好ましく、3〜280質量部であることが更に好ましい。
前記工程(1)において、外観と機械強度を両立する観点からは、ベースゴムが、フッ素ゴムを50〜85質量%かつエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を13〜35質量%含有することが好ましく、ベースゴムが、フッ素ゴムを50〜85質量%かつエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を13〜35質量%含有し、さらに無機フィラーの配合量が30〜280質量部であることがより好ましい。
上記配合量の組み合わせにおいて、フッ素ゴム、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂及び無機フィラーの各含有量は、それぞれ独立に、上述の、又は後述する、好ましい範囲等に設定することができる。
【0042】
工程(1)において、ベースゴムの一部を工程(a)において配合し、ベースゴムの残部を工程(b)において配合する。
ベースゴムは、工程(a)において、工程(1)での配合量の内、好ましくは70〜99質量部、より好ましくは80〜95質量部が配合される。工程(b)において、ベースゴム(キャリアゴム)は工程(1)での配合量の内、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは5〜20質量部が配合される。
【0043】
工程(1)におけるベースゴム成分は、工程(a)及び(b)において以下のように配合されることが好ましい。
ここで、工程(1)におけるベースゴム100質量%中の、フッ素ゴムの含有率をX、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂の含有率をYとする。X+Y≦100質量%である。また、工程(1)におけるフッ素ゴム含有率Xの内、工程(a)におけるフッ素ゴムの含有率をXa、工程(b)におけるフッ素ゴムの含有率をXb、X=Xa+Xbとする。また、工程(1)におけるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂の含有率Yの内、工程(a)におけるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂の含有率をYa、工程(b)における含有率をYb、Y=Ya+Ybとする。
工程(a)におけるフッ素ゴムの含有率Xaは、30〜80質量%が好ましく、35〜60質量%がより好ましい。また、工程(a)におけるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂の含有率Yaは、1〜30質量%が好ましく、3〜25質量%がより好ましい。
工程(a)において、ベースゴム中の、フッ素ゴムの含有率とエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂との含有率の比(Xa/Ya)は、1〜80が好ましく、1.4〜20がより好ましい。
また、工程(a)において、ベースゴムは、上記他の樹脂又はゴムとして、グラフト化反応可能な部位を主鎖中又はその末端に有している樹脂又はゴムを含有することが好ましく、耐熱性と機械強度を両立する観点から、その含有率Zは、ベースゴム100質量%中の1〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。この場合、X+Y+Z≦100質量%となるように各成分の量を調整する。
工程(b)におけるフッ素ゴムの含有率Xbは、1〜29質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。また、工程(b)におけるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂の含有率Ybは、1〜29質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。
また、工程(b)において、キャリアゴム中の、フッ素ゴムの含有率とエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂との含有率の比(Xb/Yb)は、0.03〜29が好ましく、0.2〜2がより好ましい。
【0044】
シランマスターバッチは、フッ素ゴム及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を含むベースゴムの一部と、有機過酸化物と、無機フィラーと、シランカップリング剤とを、上記配合量で、混合機に投入し、有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱しながら溶融混練する工程(a)により、上記グラフト化反応を生起させて、調製することができる。
【0045】
工程(a)での混合順は特に制限されず、上記成分をどのような順で混合してもよい。
【0046】
本発明においては、無機フィラーをシランカップリング剤と予め混合することが好ましい。すなわち、本発明においては、上記各成分を、下記工程(a−1)及び(a−2)により、(溶融)混合することが好ましい。
工程(a−1):少なくとも無機フィラー及びシランカップリング剤を混合して混合物を調製する工程
工程(a−2):混合物と、フッ素ゴム及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を含むベースゴムの一部とを、有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合して、有機過酸化物から発生したラジカルによってグラフト化反応部位とベースゴムとをグラフト化反応させることにより、シラン架橋性ゴムを含むシランマスターバッチを調製する工程
【0047】
工程(a−2)において、ベースゴムの一部が配合され、ベースゴムの残部は工程(b)で配合される。
工程(a−2)でベースゴムの一部を配合する場合、工程(a)及び工程(b)におけるベースゴムの配合量100質量部は、工程(a−2)及び工程(b)で混合されるベースゴムの合計量である。
【0048】
本発明においては、シランカップリング剤は、上記のように、無機フィラーと前混合等されることが好ましい(工程(a−1))。
無機フィラーとシランカップリング剤を混合する方法としては、特に限定されないが、湿式処理、乾式処理等の混合方法が挙げられる。混合方法は、公知の方法及び条件を適宜に設定できるが、本発明においては、無機フィラー、好ましくは乾燥させた無機フィラー中にシランカップリング剤を、加熱又は非加熱で加え混合する乾式処理が好ましい。
このようにして前混合されたシランカップリング剤は、無機フィラーの表面を取り囲むように存在し、その一部又は全部が無機フィラーに吸着又は結合する。これにより、後の溶融混合の際にシランカップリング剤の揮発を低減できる。また、無機フィラーに吸着又は結合しないシランカップリング剤が縮合して溶融混練が困難になることも防止できる。さらに、押出成形の際に所望の形状を得ることもできる。
【0049】
このような混合方法として、好ましくは、有機過酸化物の分解温度未満の温度、好ましくは室温(25℃)で無機フィラーとシランカップリング剤を、数分〜数時間程度、乾式又は湿式で混合(分散)する方法が挙げられる。
有機過酸化物の分解温度未満の温度での混合においては、上記分解温度未満の温度が保持されている限り、ベースゴムが存在していてもよい。この場合、ベースゴムとともに金属酸化物及びシランカップリング剤を上記温度で混合(工程(a−1))した後に溶融混合することが好ましい。すなわち、ベースゴムとシランカップリング剤とのラジカルグラフト化反応を抑えて、これらの混合物(例えば、ドライブレンド物)を調製し、次いで、得られた混合物をさらに溶融混合して、上記グラフト化反応を生起させることが好ましい。
【0050】
有機過酸化物を混合する方法としては、特に限定されず、上記混合物とベースゴムとを溶融混合する際に、存在していればよい。有機過酸化物は、例えば、無機フィラー等と同時に混合されても、また無機フィラーとシランカップリング剤との混合段階のいずれにおいて混合されてもよく、無機フィラーとシランカップリング剤との混合物に混合されてもよい。例えば、有機過酸化物は、シランカップリング剤と混合した後に無機フィラーと混合されてもよいし、シランカップリング剤と分けて別々に無機フィラーに混合されてもよい。生産条件によっては、シランカップリング剤のみを無機フィラーに混合し、次いで有機過酸化物を混合してもよい。
また、有機過酸化物は、他の成分と混合させたものでもよいし、単体でもよい。
【0051】
本発明の製造方法においては、次いで、得られた混合物とベースゴムの一部と、工程(a−1)で混合されていない残余の成分とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱しながら、溶融混練する(工程(a−2))。これにより、シランカップリング剤のベースゴムへの上記グラフト化反応を生起させて、上記シラン架橋性ゴムを含むシランマスターバッチが調製される。
【0052】
工程(a−2)において、上記成分を溶融混合(溶融混練、混練りともいう)する温度は、有機過酸化物の分解温度以上、好ましくは有機過酸化物の分解温度+(25〜110)℃の温度である。この分解温度はベースゴム成分が溶融してから設定することが好ましい。上記混合温度であれば、上記成分が溶融し、有機過酸化物が分解、作用して必要なシラングラフト反応が工程(a−2)において十分に進行する。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
混合方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば、特に限定されない。混合装置は、例えば無機フィラーの配合量に応じて適宜に選択される。混練装置として、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられる。ベースゴム成分の分散性、及び架橋反応の安定性の面で、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の密閉型ミキサーが好ましい。
また、通常、このような無機フィラーがベースゴム100質量部に対して100質量部を超え混合される場合、連続混練機、加圧式ニーダー、バンバリーミキサー等の密閉型ミキサーで混練りするのがよい。
フッ素ゴム及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を含有するベースゴムの混合方法は、特に限定されない。例えば、予め混合調製されたベースゴムを用いてもよく、各成分、例えばフッ素ゴム、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂、その他の樹脂又はゴム成分等、オイル成分、可塑剤それぞれを別々に混合してもよい。
【0053】
工程(a−1)及び工程(a―2)を有する混合方法としては、好ましくは、上述のように、有機過酸化物の分解温度未満の温度で無機フィラーとシランカップリング剤を乾式又は湿式で混合(分散)した後(工程(a−1))に、得られた混合物とベースゴムとを有機過酸化物の存在下で溶融混合させる方法(工程(a―2))が挙げられる。
【0054】
工程(a)(好ましくは、工程(a−2))における溶融混合により、有機過酸化物から発生したラジカルによって、シランカップリング剤のグラフト化反応部位とベースゴムのグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させる。その結果、シランカップリング剤がゴム成分又は樹脂成分に共有結合で結合したシラン架橋性ゴム又はシラン架橋性樹脂(これらを纏めてシラン架橋性ゴム又はシラングラフトポリマーという。)が合成され、このシラン架橋性ゴムを含むシランマスターバッチが調製される。このグラフト化反応においては、通常、1分子のシランカップリング剤が1つのグラフト化反応可能な部位に付加するが、本発明はこれに限定されない。
上記溶融混合は、好ましくは、バンバリーミキサーやニーダー等のミキサー型混練機で行われる。このようにすると、ベースゴム成分同士の過剰な架橋反応を防止することができ、外観が優れたものとなる。
【0055】
本発明において、上記各成分を一度に溶融混合する場合(工程(1))、溶融混合の条件は、特に限定されないが、工程(a−2)の条件を採用できる。
この場合、溶融混合時にシランカップリング剤の一部又は全部が無機フィラーに吸着又は結合する。
【0056】
工程(a)、特に工程(a−2)においては、シラノール縮合触媒を実質的に混合せずに上述の各成分を混練することが好ましい。これにより、シランカップリング剤の縮合反応を抑えることができ、溶融混合しやすく、また押出成形の際に所望の形状を得ることができる。ここで、「実質的に混合せず」とは、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、シランカップリング剤のシラノール縮合による上述の問題が生じない程度に存在していてもよいことを意味する。例えば、工程(a−2)において、シラノール縮合触媒は、ベースゴム100質量部に対して0.01質量部以下であれば、存在していてもよい。
【0057】
工程(1)においては、上記成分の他に、ベースゴム成分として、グラフト化反応可能な部位を主鎖中又はその末端に有する、上述の、他の樹脂又はゴムを有することも好ましい。本工程において、用いることができる他の樹脂又はゴムや上記添加物の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で、適宜に設定される。
工程(1)において、上記添加剤、特に酸化防止剤や金属不活性剤は、いずれの工程で又は成分に混合されてもよいが、無機フィラーに混合されたシランカップリング剤のベースゴムへのグラフト反応を阻害しない点で、キャリアゴムに混合されるのがよい。
【0058】
このようにして、工程(a)(好ましくは、工程(a−1)及び工程(a−2)からなる工程(a))を行い、シランカップリング剤とベースゴムとをグラフト化反応させて、シランマスターバッチ(シランMBともいう)を調製する。こうして得られるシランMBは、マスターバッチ混合物の製造に用いられる。また、後述するように、工程(1)で調製される反応組成物(シラン架橋性ゴム組成物)の製造に、好ましくは、後述する触媒マスターバッチとともに、用いられる。このシランMBは、後述の工程(b)により成形可能な程度にシランカップリング剤がベースゴムにグラフトしたシラン架橋性ゴムを含有している。
【0059】
本発明の製造方法において、次いで、ベースゴムの残部(キャリアゴムともいう)とシラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチ(触媒MBともいう)を調製する工程(b)を行う。工程(b)において、ベースゴムの残部として、少なくとも、フッ素ゴムとエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂とを用いる。
【0060】
キャリアゴムとシラノール縮合触媒との混合割合は、特に限定されないが、好ましくは、工程(1)における上記配合量を満たすように、設定される。
混合は、均一に混合できる方法であればよく、ベースゴムの溶融下で行う混合(溶融混合)が挙げられる。溶融混合は上記工程(a−2)の溶融混合と同様に行うことができる。例えば、混合温度は、80〜250℃、より好ましくは100〜240℃で行うことができる。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
このようにして調製される触媒MBは、シラノール縮合触媒及びキャリアゴムの混合物である。
【0061】
本発明の製造方法において、次いで、シランMBと触媒MBとを溶融混合して、反応組成物を得る工程(c)を行う。この反応組成物は、上記工程(a−2)で合成したシラン架橋性ゴムを含む組成物である。
混合方法は、上述のように均一な反応組成物を得ることができれば、どのような混合方法でもよい。例えば、混合は、工程(a−2)の溶融混合と基本的に同様である。DSC等で融点が測定できない樹脂成分、例えばエラストマーもあるが、少なくともベースゴムが溶融する温度で混練する。溶融温度は、ベースゴム又はキャリアゴムの溶融温度に応じて適宜に選択され、例えば、好ましくは80〜250℃、より好ましくは100〜240℃である。その他の条件、例えば混合(混練)時間は適宜設定することができる。
工程(c)においては、シラノール縮合反応を避けるため、シランMBとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。
【0062】
本発明においては、シランMBと触媒MBとを溶融混合する前に、ドライブレンドすることができる。ドライブレンドの方法及び条件は、特に限定されず、例えば、工程(a−1)での乾式混合及びその条件が挙げられる。このドライブレンドにより、シランMBと触媒MBとを含有するマスターバッチ混合物が得られる。
【0063】
このようにして、工程(a)〜(c)(工程(1))を行い、反応組成物として、シラン架橋性ゴム組成物が製造される。
工程(1)において、工程(a)〜(c)は、同時又は連続して行うことができる。
【0064】
本発明のシラン架橋性ゴム成形体の製造方法は、次いで、得られた反応組成物を成形して成形体を得る工程(2)を行う。この工程(2)は、反応組成物を成形できればよく、成形体の形態に応じて、適宜に成形方法及び成形条件が選択される。成形方法は、押出機を用いた押出成形、射出成形機を用いた射出成形、その他の成形機を用いた成形が挙げられる。押出成形は、成形体が電線又は光ファイバーケーブルである場合に、好ましい。
工程(2)を押出成形により行う場合、成形速度(押出速度)は、特に限定されず、通常、線速で1〜10m/分、好ましくは3〜8m/分に設定できる。
本発明は、上述の通り、シランMBと触媒MBとの溶融混合物(成形材料)を高速で成形しても、成形体の優れた外観を維持できる。したがって、本発明の製造方法において、押出成形する場合、線速を、通常設定される範囲を超えて設定できる。例えば、10m/分以上、必要であれば30m/分以上に設定できる。
【0065】
工程(2)は、工程(c)と同時に又は連続して、行うことができる。すなわち、工程(c)の溶融混合の一実施態様として、溶融成形の際、例えば押出成形の際に、又は、その直前に、成形原料を溶融混合する態様が挙げられる。例えば、ドライブレンド等のペレット同士を常温又は高温で混ぜ合わせて成形機に導入(溶融混合)してもよいし、混ぜ合わせた後に溶融混合し、再度ペレット化をして成形機に導入してもよい。より具体的には、シランMBとシラノール縮合触媒との混合物(成形材料)を被覆装置内で溶融混練し、次いで、導体等の外周面に押出被覆して、所望の形状に成形する一連の工程を採用できる。
このようにして、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒とをドライブレンドしてマスターバッチ混合物を調製し、マスターバッチ混合物を成形機に導入して成形した、耐熱性架橋性フッ素ゴム組成物の成形体が得られる。
【0066】
ここで、マスターバッチ混合物の溶融混合物(反応組成物)は、架橋方法の異なるシラン架橋性ゴムを含有する。このシラン架橋性ゴムにおいて、シランカップリング剤の反応部位は、無機フィラーと結合又は吸着していてもよいが、後述するようにシラノール縮合していない。したがって、シラン架橋性ゴムは、無機フィラーと結合又は吸着したシランカップリング剤がベースゴム(フッ素ゴム、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂等)にグラフトした架橋性ゴムと、無機フィラーと結合又は吸着していないシランカップリング剤がベースゴムにグラフトした架橋性ゴムとを少なくとも含む。また、シラン架橋性ゴムは、無機フィラーが結合又は吸着したシランカップリング剤と、無機フィラーが結合又は吸着していないシランカップリング剤とを有していてもよい。さらに、シランカップリング剤と未反応のベースゴム成分を含んでいてもよい。
シラン架橋性ゴムは、ベースゴムとして、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂、若しくはアクリルゴム又はこれらの組み合わせを含有する場合、動的架橋している。ここで、「動的架橋」とは、上記の少なくとも1種の樹脂又はゴムを、有機過酸化物の存在下、マスターバッチ混合物の溶融混合状態で(混合若しくは混練中に)、部分的に架橋させること、又は、架橋した状態をいう。この動的架橋により、流動性が低下する(例えば、ムーニー粘度が向上し、又は、メルトフローレート(MFR)が低下する)。この動的架橋は、上記工程(a)及び/又は工程(c)での混合時に、形成される。
上記のように、シラン架橋性ゴムは、シランカップリング剤がシラノール縮合していない未架橋体である。実際的には、工程(c)で溶融混合されると、一部架橋(部分架橋)は避けられないが、得られる耐熱性架橋性フッ素ゴム組成物について、少なくとも成形時の成形性が保持されたものとする。
工程(2)により得られる成形体は、上記混合物と同様に、一部架橋は避けられないが、工程(2)で成形可能な成形性を保持する部分架橋状態にある。したがって、この発明の耐熱性架橋フッ素ゴム成形体は、工程(3)を実施することによって、架橋又は最終架橋された成形体とされる。
【0067】
本発明の耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の製造方法においては、工程(2)で得られた成形体を水と接触させる工程(3)を行う。これにより、シランカップリング剤の、シラノール縮合可能な反応部位が加水分解されてシラノールとなり、成形体中に存在するシラノール縮合触媒によりシラノールの水酸基同士が縮合して架橋反応が起こる。こうして、シランカップリング剤がシラノール縮合して架橋した耐熱性架橋フッ素ゴム成形体を得ることができる。
この工程(3)の処理自体は、通常の方法によって行うことができる。シランカップリング剤同士の縮合は、常温で保管するだけで進行する。したがって、工程(3)において、成形体を水に積極的に接触させる必要はない。この架橋反応を促進させるために、成形体を水分と接触させることもできる。例えば、温水への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等の積極的に水に接触させる方法を採用できる。また、その際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
【0068】
このようにして、本発明の耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の製造方法が実施され、耐熱性架橋フッ素ゴム成形体が製造される。この耐熱性架橋フッ素ゴム成形体は、ベースゴムのシラン架橋物、すなわち、(シラン架橋性)ゴム又は樹脂がシラノール結合(シロキサン結合)を介して縮合した架橋ゴム又は架橋樹脂(これらを纏めて、架橋フッ素ゴムという。)を含んでいる。このシラン架橋フッ素ゴム成形体の一形態は、シラン架橋フッ素ゴムと無機フィラーとを含有する。ここで、無機フィラーはシラン架橋フッ素ゴムのシランカップリング剤に結合していてもよい。したがって、ベースゴムが、シラノール結合を介して無機フィラーと架橋してなる態様を含む。具体的には、このシラン架橋フッ素ゴムは、複数のベースゴムがシランカップリング剤により無機フィラーに結合又は吸着して、無機フィラー及びシランカップリング剤を介して結合(架橋)した架橋フッ素ゴムと、上記架橋性ゴムのシランカップリング剤の反応部位が加水分解して互いにシラノール縮合反応することにより、シランカップリング剤を介して架橋した架橋フッ素ゴムとを少なくとも含む。また、シラン架橋フッ素ゴムは、無機フィラー及びシランカップリング剤を介した結合(架橋)と、シランカップリング剤を介した架橋とが混在していてもよい。さらに、シランカップリング剤と未反応のゴム成分及び/又は架橋していないシラン架橋性ゴムを含んでいてもよい。
この架橋フッ素ゴムは、シラン架橋性ゴムについて上述したように、さらに動的架橋される場合もある。
【0069】
本発明の製造方法における反応機構の詳細についてはまだ定かではないが、以下のように考えられる。
一般に、ベースゴム、特にフッ素ゴムに対して有機過酸化物を加えると急激にラジカルが発生し、ベースゴム同士の架橋反応や分解反応が生じやすくなる。これにより、得られる耐熱性架橋フッ素ゴム成形体には、ブツが発生し、物性が低下する。
しかし、本発明においては、工程(1)において、シランカップリング剤を無機フィラーとシラノール結合や水素結合、分子間結合によって結合させる。特に工程(1)の好ましい形態においては、この結合を生じる処理と、溶融混合処理とは、別に行う。これらにより、シランカップリング剤のグラフト化反応部位とベースゴムとがグラフト反応する機会が増やされているものと考えられる。この保持されたシランカップリング剤とベースゴムに生じるラジカルの結合反応は、上記ベースゴム同士の架橋反応や分解反応よりも、優勢になると考えられる。したがって、シランカップリング剤のベースゴムに対するグラフト反応が可能となり、本反応中(工程(1))においてベースゴム、特にフッ素ゴムの分解反応等による劣化や、ベースゴム同士の架橋反応が生じない。そのため、ブツの発生や物性の低下が生じにくくなると考えられる。
【0070】
工程(a)が工程(a−1)及び(a−2)を含む場合には、耐熱性架橋フッ素ゴム成形体にさらに優れた耐熱性を付与できる。
工程(a−2)において、上記成分を混練り(溶融混合)する際に、無機フィラーと弱い結合(水素結合による相互作用、イオン、部分電荷若しくは双極子間での相互作用、吸着による作用等)で結合又は吸着したシランカップリング剤は、無機フィラーから脱離し、結果的にベースゴムにグラフト反応する。このようにしてグラフト反応したシランカップリング剤は、その後、シラノール縮合可能な反応部位が縮合反応(架橋反応)して、シラノール縮合を介して架橋したベースゴム、特にフッ素ゴムを形成する。この架橋反応により得られた耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の耐熱性は高くなる。
一方、無機フィラーと強い結合(無機フィラー表面の水酸基等との化学結合等)で結合したシランカップリング剤は、このシラノール縮合触媒による水存在下での縮合反応が生じにくく、無機フィラーとの結合が保持される。そのため、シランカップリング剤を介したフッ素ゴムと無機フィラーの結合(架橋)が生じる。これによりフッ素ゴムと無機フィラーの密着性が強固になり、機械強さ、耐摩耗性が良好で、傷つきにくい成形体が得られる。特に、1つの無機フィラー粒子表面に複数のシランカップリング剤を複数結合でき、高い機械強さを得ることができる。
これらのシラン架橋性ゴム又はシラングラフトポリマーを、シラノール縮合触媒とともに成形し、次いで水分と接触させることで、高い耐熱性を有する架橋フッ素ゴム成形体を得ることが可能となると推定される。
【0071】
本発明においては、ベースゴム100質量部に対して、有機過酸化物を0.003質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、また0.5質量部以下、好ましくは0.2質量部以下の割合で混合し、さらに、シランカップリング剤を、2〜15質量部の割合で無機フィラーの存在下に混合することにより、耐熱性の高い耐熱性架橋フッ素ゴム成形体を得ることができる。
【0072】
本発明において、ベースゴムにフッ素ゴムとエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を含有させると、上記特性に加えて、シランマスターバッチ及び触媒マスターバッチを、発泡(気泡の残存)を抑えて融着しにくいペレットとして調製でき、また得られる成形体の機械強度(例えば、引張強度)及び外観が向上する。その理由については、以下のように考えられる。
ベースゴムに、フッ素ゴム及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を含有させると、工程(a)及び工程(b)のマスターバッチ調製(溶融混練)時に過度に高温に設定する必要が無く、シランカップリング剤の揮発を抑えることができるため発泡を抑えることができる。特に、230℃以下の融点を有するエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を含有させる好ましい態様においては、より発泡を抑えることができる。また、フッ素ゴムを含有するマスターバッチはペレットとした際にペレット同士が融着しやすい傾向にあるが、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を混合することにより、表面硬度が向上し融着の抑制されたペレットが得られる。ベースゴムに、フッ素ゴム及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を含有させると、フッ素ゴムとエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂とが混和して、工程(c)においてより均一な反応組成物が得られる。このため、工程(3)において水と接触させた際に、シラン架橋構造が成形体にばらつきなく形成され機械強度が高まると考えられる。さらに、高速成形においても優れた外観を維持して成形体を製造できると考えられる。
【0073】
本発明において、ベースゴムに、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、若しくはエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の各樹脂若しくはアクリルゴム又はこれらの組み合わせを含有させると、耐熱性架橋フッ素ゴム成形体の機械強度がさらに向上する。
機械強度がさらに向上する理由は、フッ素ゴム、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体の樹脂等が、溶融混練中(シラングラフト反応進行中)及び/又は成形中に、互いに動的架橋され、シラン架橋構造を補強するためと、考えられる。
本発明において、シラン架橋構造と動的架橋構造の比率は、特に限定されず、用途等に応じて、適宜に選択される。この比率は、例えば、シランカップリング剤の配合量、有機過酸化物の配合量、成形温度等によって、所定の値に設定できる。
【0074】
本発明の製造方法は、耐熱性が要求される製品(半製品、部品、部材も含む。)、さらには、強度が求められる製品、難燃性が要求される製品、ゴム材料等の製品の構成部品又はその部材の製造に適用することができる。したがって、本発明の耐熱性製品は、このような製品とされる。このとき、耐熱性製品は、耐熱性架橋フッ素ゴム成形体を含む製品でもよく、耐熱性架橋フッ素ゴム成形体のみからなる製品でもよい。
本発明の耐熱性製品として、例えば、耐熱性難燃絶縁電線等の電線、耐熱難燃ケーブル又は光ファイバーケーブルの被覆材料、ゴム代替電線・ケーブルの材料、その他、電子レンジ又はガスレンジ用耐熱部品、耐熱難燃電線部品、難燃耐熱シート、難燃耐熱フィルム等が挙げられる。また、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート、パッキン、クッション材、防震材、電気・電子機器の内部配線及び外部配線に使用される配線材、特に電線や光ファイバーケーブルが挙げられる。
【0075】
本発明の製造方法は、上記製品の中でも、特に電線及び光ファイバーケーブルの製造に好適に適用され、これらの被覆材料(絶縁体、シース)を形成することができる。
本発明の耐熱性製品が電線又は光ファイバーケーブル等の押出成形品である場合、好ましくは、成形材料を押出機(押出被覆装置)内で溶融混練して耐熱性架橋性フッ素ゴム組成物を調製しながら、この耐熱性架橋性フッ素ゴム組成物を導体等の外周に押し出して、導体等を被覆する等により、製造できる。このような耐熱性製品は、無機フィラーを大量に加えても耐熱性架橋性フッ素ゴム組成物を電子線架橋機等の特殊な機械を使用することなく汎用の押出被覆装置を用いて、導体の周囲に、又は抗張力繊維を縦添え若しくは撚り合わせた導体の周囲に押出被覆することにより、成形することができる。例えば、導体としては軟銅の単線又は撚り線等を用いることができる。また、導体としては裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いることもできる。導体の周りに形成される絶縁層(本発明の耐熱性架橋フッ素ゴム成形体からなる被覆層)の肉厚は特に限定しないが、通常、0.15〜10mm程度である。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
表1において、各例の配合量に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。
【0077】
実施例及び比較例は、下記成分を用いて、それぞれの諸元を表1に示す条件に設定して実施し、表1に後述する評価結果を併せて示した。
【0078】
表1中に示す各化合物の詳細を以下に示す。
フッ素ゴムのフッ素含有量は、上記の「炭酸カリウム加熱分解法」による値である。
<ベースゴム>
(フッ素ゴム)
「アフラス400E」(商品名、AGC旭硝子社製、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体ゴム、フッ素含有量57質量%)
(フッ素樹脂)
「LH−8000」(商品名、旭硝子社製、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)共重合体の樹脂、融点:180℃)
「EP620」(商品名、ダイキン工業社製、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)共重合体の樹脂、融点:210℃)
「RP−4020」(商品名、ダイキン工業社製、エチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン(EFEP)共重合体の樹脂、融点:160℃)
「KAYNER740」(商品名、アルケマ社製、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂、融点:170℃)
「NP−101」(商品名、ダイキン工業社製、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン(FEP)共重合体の樹脂、融点270℃)
「AP−210」(商品名、ダイキン工業社製、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)共重合体の樹脂、融点310℃)
(その他の成分)
「VF120T」(商品名、宇部興産社製、エチレン−酢酸ビニル共重合体の樹脂、酢酸ビニル含有量:20質量%)
【0079】
<有機過酸化物>
「パーヘキサ25B」(商品名、日本油脂社製、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、分解温度149℃)
【0080】
<無機フィラー>
「亜鉛華1号」(商品名、三井金属社製、酸化亜鉛)
「ソフトン1200」(商品名、備北粉化工業社製、炭酸カルシウム)
「アエロジル200」(商品名、日本アエロジル社製、親水性フュームドシリカ、非結晶性シリカ)
「クリスタライト5X」(商品名、龍森社製、結晶性シリカ)
「サティトンSP−33」(商品名、エンゲルハード社製、焼成クレー)
「MVタルク」(商品名、日本ミストロン株式会社製、タルク)
【0081】
<シランカップリング剤>
「KBM−1003」(商品名、信越化学工業社製、ビニルトリメトキシシラン)
「KBE−1003」(商品名、信越化学工業社製、ビニルトリエトキシシラン)
【0082】
<シラノール縮合触媒>
「アデカスタブOT−1」(商品名、ADEKA社製、ジオクチルスズジラウレート)
【0083】
<酸化防止剤>
「イルガノックス1010」(商品名、BASF社製、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
【0084】
(実施例1〜23及び比較例1〜14)
実施例1〜23において、ベースゴムの一部(いずれも、フッ素ゴムとエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂とを含有する)を触媒MBのキャリアゴムとして用いた。
また、比較例1〜14において、ベースゴムの一部を触媒MBのキャリアゴムとして用いた。
【0085】
実施例1〜5、8〜21、23、比較例1〜6、9〜14においては、以下のようにしてシランMBを得た。まず、無機フィラーとシランカップリング剤とを、表1に示す質量比で、東洋精機製10Lヘンシェルミキサーに投入し、室温(25℃)で1時間混合して、粉体混合物を得た(工程(a−1))。次に、このようにして得られた粉体混合物と、表1のベースゴム欄に示す各成分及び有機過酸化物とを、表1に示す質量比で、日本ロール製2Lバンバリーミキサー内に投入し、有機過酸化物の分解温度以上の温度、具体的には190℃において10分混練り後、材料排出温度200℃で排出して、シランMBを得た(工程(a−2))。
また、実施例6、7、22は、ベースゴムの一部に融点が210℃のエチレン−テトラフルオロエチレンを用いているため、200〜225℃でバンバリーミキサーで溶融混合し、材料排出温度225℃で排出した以外は、実施例1のシランMBと同様にしてシランMBを得た。
比較例7、8は、320〜325℃でバンバリーミキサーで溶融混合し、材料排出温度325℃で排出した以外は、実施例1のシランMBと同様にしてシランMBの調製工程を行った。
得られたシランMBは、ベースゴムにシランカップリング剤がグラフト反応したシラン架橋性ゴムを含有している。
【0086】
一方、実施例1〜20、23、比較例1〜14において以下の通りに触媒MBを準備した。キャリアゴムとシラノール縮合触媒と酸化防止剤とを、表1に示す質量比で、180〜190℃でバンバリーミキサーで溶融混合し、材料排出温度180〜190℃で排出して、触媒MBを得た(工程(b))。
実施例21、22においては、220〜225℃でバンバリーミキサーにて溶融混合し、材料排出温度225℃で排出した以外は、実施例1と同様にして、触媒MBを得た。
【0087】
次いで、調製した、シランMBと触媒MBを密閉型のリボンブレンダーに投入し、室温(25℃)で5分間ドライブレンドしてドライブレンド物(マスターバッチ混合物)を得た。
【0088】
次いで、得られたドライブレンド物を、L/D(スクリュー有効長Lと直径Dとの比)=24、スクリュー直径30mmのスクリューを備えた押出機(圧縮部スクリュー温度170℃、ヘッド温度220℃)に導入した。また、比較例7、8においてはヘッド温度330℃に設定した。この押出機内でドライブレンド物を溶融混合(工程(c))しながら、裸軟銅線からなる1/0.8TA導体の外側に肉厚1mmで被覆し、外径2.8mmとなるように、線速10m/分で押出・被覆して、被覆導体を得た(工程(2))。この被覆導体を温度40℃、湿度95%の雰囲気に1週間放置した(工程(3))。
このようにして、上記導体の外周面に、耐熱性架橋フッ素ゴム成形体からなる被覆層を有する電線を製造した。被覆層としての耐熱性架橋フッ素ゴム成形体は上述のシラン架橋フッ素ゴムを有している。
なお、比較例12は、架橋が進み過ぎて押出成形ができず、被覆導体を製造できなかった。
【0089】
上記ドライブレンド物を押出機内で押出成形前に溶融混合することにより、耐熱性架橋性フッ素ゴム組成物が調製される。この耐熱性架橋性フッ素ゴム組成物は、シランMBと触媒MBとの溶融混合物であって、上述のシラン架橋性ゴムを含有している。
【0090】
製造した各ペレット、各電線について、下記試験をし、その結果を表1に示した。
【0091】
<シランMBペレット調製適性>
本試験では、シランMBを、発泡を抑えて融着しにくいペレットとできるか否か(ペレット調製適性)について、評価を行った。
上記で得られたシランMBを、ペレット化して、得られたペレットについて以下の評価を行った。
前記シランMBのペレットからランダムに選択した10粒について、形状及び中央部での断面を光学顕微鏡を用いて観察した。その結果、ペレット断面に発泡痕(気泡)のないものを「A(優れたもの)」、良好な形状のペレットであるものの、断面にわずかな発泡痕が見られたものを「B(良好なもの)」、ペレット形状が悪いもの、ペレット同士が融着(ブロッキング)したもの、又はペレットの断面に著しい発泡痕が見られたものを「D(不良)」とした。評価「B」以上が本試験の合格レベルである。
また、「わずかな発泡痕」とは、直径100μm以下の気泡が10個未満ある程度であることを、「著しい発泡痕」とは、直径100μm以上の気泡が10個以上であることをいう。
【0092】
<触媒MBペレット調製適性>
本試験では、触媒MBを、発泡を抑えて融着しにくいペレットとできるか否かについて、評価を行った。
上記で得られた触媒MBを、ペレット化して、得られたペレットについて以下の評価を行った。
前記触媒MBのペレットからランダムに選択した10粒について、形状及び中央部での断面を光学顕微鏡を用いて観察した。その結果、良好な形状のペレットかつペレット断面に発泡痕のないものを「A(優れたもの)」、ペレット形状が悪い又はペレット同士が融着(ブロッキング)したものを「D(不良)」とした。評価「A」が本試験の合格レベルである。
【0093】
<長尺成形性>
上記電線の製造において、押出被覆時の線速を変えたこと以外は上記電線の製造と同様にして耐熱性架橋フッ素ゴム成形体からなる被覆層を有する電線を製造し、得られた電線の被覆層の外観を観察して長尺成形性を評価した。線速50m/分以上でもゲルブツや発泡等が見られず平滑で良好な外観の被覆層を得られた場合を「A(極めて優れたもの)」、線速40m/分以上50mm/分未満であれば、平滑で良好な外観の被覆層を得られた場合を「B(優れたもの)」、線速30m/分以上40m/分未満であれば平滑で良好な外観の被覆層を得られた場合を「C(良好なもの)」、線速15m/分以上30m/分未満であれば平滑で良好な外観の被覆層を得られた場合を「D(可能なもの)」、線速15m/分未満でもペレットが著しくブロッキングしてしまい押出成形できなかったものを「E(不良)」とした。評価「D」以上が本試験の合格レベルである。
表中の「−」は、本評価を行わなかったことを示す。
【0094】
<機械特性(引張強度)>
本試験では、機械特性の一指標として引張強度について、評価を行った。
上記の線速10m/分の条件で得られた各電線から導体を抜き取って作成した管状片をJIS C 3005に基づき、標線間20mm、及び引張速度200mm/分の条件で、引張強さ(MPa)を測定した。
引張強さが14MPa以上であるものを「A(極めて優れているもの)」、11MPa以上14MPa未満であるものを「B(優れているもの)」、8.5MPa以上11MPa未満であるものを「C(良好なもの)」、5.0MPa以上8.5MPa未満であるものを「D」、5.0MPa未満であるものを「E」とした。評価「C」以上が本試験の合格レベルである。
表中の「−」は、本評価を行わなかったことを示す。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
表1の結果から、以下のことが分かる。
比較例1〜14はいずれもペレット調製適性(発泡を抑えて融着しにくいペレットとできるか否か)、長尺成形性(高速成形時の外観特性)、及び引張強度の少なくともいずれかに劣っていた。
ベースゴムに、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を含有せず、フッ素ゴムのみを含有する、シランMB及び触媒MBを用いた比較例1は、シランMBと触媒MBのペレット調製適性、長尺成形性、及び引張強度のいずれにも劣っていた。
キャリアゴムにフッ素ゴムを含有するが、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を含有しない触媒MBを用いた比較例2は、触媒MBのペレット調製適性、長尺成形性、及び引張強度に劣っていた。
ベースゴムにフッ素ゴムを含有するが、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂を含有しないシランMBを用いた比較例3は、シランMBのペレット調製適性、長尺成形性、及び引張強度に劣っていた。
ベースゴム中のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂の含有率が高すぎるシランMBを用いた比較例4は、シランMBのペレット調製適性、及び長尺成形性に劣っていた。
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂に代えて、ETEP樹脂をシランMBに用いた比較例5は、引張強度が十分ではなかった。シランMBと触媒MBとの相溶性が低いためと考えられる。
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂に代えて、PVDF樹脂をシランMBに用いた比較例6は、長尺成形性及び引張強度に劣っていた。
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂に代えて、別のフッ素樹脂(FEP樹脂、及びPFA樹脂)をシランMBに用いた比較例7、8は、シランMBのペレット調製適性に劣っていた。また、電線を製造できるものの長尺押出性が劣り、著しく低線速でなければ成形できず、しかも被覆層の外観に劣り、さらには引張強度にも劣った。上記別のフッ素樹脂の融点が230℃以上であったこともシランMBの発泡が著しくなった要因と考えられる。
無機フィラーの配合量が少なすぎるシランMBを用いた比較例9は、引張強度に劣っていた。
無機フィラーの配合量が多すぎるシランMBを用いた比較例10は、シランMBのペレット調製適性、長尺成形性、及び引張強度に劣っていた。
有機過酸化物の配合量が少なすぎるシランMBを用いた比較例11は、引張強度に劣っていた。
有機過酸化物の配合量が多すぎるシランMBを用いた比較例12は、シランMBのペレット調製適性に劣っていた。また、電線を製造することができなかった。有機過酸化物が多すぎることで、架橋が進み過ぎたためと考えられる。
シランカップリング剤の配合量が少なすぎるシランMBを用いた比較例13は、引張強度に劣った。
シランカップリング剤の配合量が多すぎるシランMBを用いた比較例14は、長尺成形性に劣っていた。
これに対し、フッ素ゴム及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂をそれぞれ含有するシランMB及び触媒MBを用い、さらに有機過酸化物、無機フィラー、及びシランカップリング剤を特定量用いて、本発明の製造方法で調製した実施例1〜23は、シランMB及び触媒MBを、発泡を抑えて融着しにくいペレットとできペレット調製適性に優れていた。さらに、長尺成形試験に合格しており、高速で成形しても優れた外観を維持しつつ、しかも、引張強度試験で十分な値を示しており、フッ素ゴムを用いた成形体であっても機械強度に優れた被覆層を有する電線を製造できた。
また、実施例1〜23は、シラン架橋していることから耐熱性にも優れることが分かる。
表1に示されるように、本発明の作用効果は、本発明で規定する、シランMBと触媒MBとを用いる特定のシラン架橋法において、シランMB及び触媒MBの双方に樹脂成分としてフッ素ゴムとエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂とを特定量で併用することにより、得られることが分かる。
例えば、別のフッ素樹脂を用いた比較例6〜8では、線速15m/分未満でもペレットがブロッキングするのに対して、実施例3では、線速40m/分以上の高速で押出成形しても、ゲルブツや発泡等のない平滑で優れた外観を有する成形体(電線)を製造でき、2.5倍以上速い速度での押出が可能である。また、別のフッ素樹脂を用いた比較例5の引張強度5.0MPa以上8.5MPa未満に対して、実施例3においては引張強度が14MPa以上であり、ゴム成形体において5.5MPa以上も高い強度を実現できる。