(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
生体親和性高分子ブロックと細胞とを含み、複数個の前記細胞間の隙間に複数個の前記高分子ブロックが配置されている細胞構造体により構成され、前記細胞構造体が、細胞1個当り0.0000001μg以上1μg以下の生体親和性高分子ブロックを含み、内径が1mm以上である管状構造物。
前記管状構造物が、内径1mm以上6mm未満、外径3mm以上10mm以下、及び長さ5mm以上300mm以下を有する、請求項1から3の何れか一項に記載の管状構造物。
前記土台部の底面が、前記土台部を設置面に設置した際に前記設置面に接触する領域と、前記設置面に接触しない領域とを有するようになる形状を有し、かつ前記芯受け部の貫通領域の底面側入口が、前記設置面に接触しない領域に設けられる、請求項9に記載の装置。
複数の細胞の隙間に生体親和性高分子ブロックが配置された複数個の細胞構造体を、管状構造物を形成するための型を有する装置において培養することにより、細胞構造体を融合させる、請求項12に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[管状構造物]
本発明の管状構造物は、生体親和性高分子ブロックと細胞とを含み、複数個の上記細胞間の隙間に複数個の上記高分子ブロックが配置されている細胞構造体により構成されている。なお、本発明で用いる細胞構造体は、本明細書中において、モザイク細胞塊(モザイク状になっている細胞塊)と称する場合もある。
【0020】
本発明の管状構造物は、分子透過能力を有し、さらに管状構造物の形成後に形状が変化し難いという形状を維持する性能を有する構造物であり、例えば、人工血管として使用することができる。生体親和性高分子ブロックと細胞とを含み、複数個の上記細胞間の隙間に複数個の上記高分子ブロックが配置されている細胞構造体が、上記した性能、特に高い分子透過能力を有することは、全く予想外な顕著な効果である。なお、特許文献1においては、生体親和性を有する高分子ブロックと細胞とを含み、上記複数個の細胞間の隙間に複数個の上記高分子ブロックが配置されている細胞構造体が記載されているが、管状構造物を形成することについては記載がなく、管状構造物の内壁からの分子透過能力に関する記載もない。
【0021】
(1)生体親和性高分子ブロック
本発明で用いる細胞構造体は、生体親和性高分子ブロックを含む。生体親和性高分子ブロックについて以下に説明する。
(1−1)生体性親和性高分子
生体性親和性とは、生体に接触した際に、長期的かつ慢性的な炎症反応などのような顕著な有害反応を惹起しないことを意味する。本発明で用いる生体親和性高分子は、生体に親和性を有するものであれば、生体内で分解されるか否かは特に限定されないが、生分解性高分子であることが好ましい。非生分解性材料として具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエステル、塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリル、ステンレス、チタン、シリコーン及びMPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)などが挙げられる。生分解性材料としては、具体的にはリコンビナントペプチドなどのポリペプチド(例えば、以下に説明するゼラチン等)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸コポリマー(PLGA)、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、コンドロイチン、セルロース、アガロース、カルボキシメチルセルロース、キチン、及びキトサンなどが挙げられる。上記の中でも、リコンビナントペプチドが特に好ましい。これら生体親和性高分子には細胞接着性を高める工夫がなされていてもよい。具体的には、「基材表面に対する細胞接着基質(フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン)や細胞接着配列(アミノ酸一文字表記で現わされる、RGD配列、LDV配列、REDV配列、YIGSR配列、PDSGR配列、RYVVLPR配列、LGTIPG配列、RNIAEIIKDI配列、IKVAV配列、LRE配列、DGEA配列、及びHAV配列)ペプチドによるコーティング」、「基材表面のアミノ化、カチオン化」、又は「基材表面のプラズマ処理、コロナ放電による親水性処理」といった方法を使用できる。
【0022】
リコンビナントペプチドを含むポリペプチドの種類は生体親和性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ゼラチン、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、プロネクチン、ラミニン、テネイシン、フィブリン、フィブロイン、エンタクチン、トロンボスポンジン、レトロネクチンが好ましく、最も好ましくはゼラチン、コラーゲン、アテロコラーゲンである。本発明で用いるためのゼラチンとしては、好ましくは、天然ゼラチン又はリコンビナントゼラチンであり、さらに好ましくはリコンビナントゼラチンである。ここでいう天然ゼラチンとは天然由来のコラーゲンより作られたゼラチンを意味する。リコンビナントゼラチンについては、本明細書中後記する。
【0023】
本発明で用いる生体親和性高分子の親水性値「1/IOB」値は、0から1.0が好ましい。より好ましくは、0から0.6であり、さらに好ましくは0から0.4である。IOBとは、藤田穆により提案された有機化合物の極性/非極性を表す有機概念図に基く、親疎水性の指標であり、その詳細は、例えば、"Pharmaceutical Bulletin", vol.2, 2, pp.163-173(1954)、「化学の領域」vol.11, 10, pp.719-725(1957)、「フレグランスジャーナル」, vol.50, pp.79-82(1981)等で説明されている。簡潔に言えば、全ての有機化合物の根源をメタン(CH
4)とし、他の化合物はすべてメタンの誘導体とみなして、その炭素数、置換基、変態部、環等にそれぞれ一定の数値を設定し、そのスコアを加算して有機性値(OV)、無機性値(IV)を求め、この値を、有機性値をX軸、無機性値をY軸にとった図上にプロットしていくものである。有機概念図におけるIOBとは、有機概念図における有機性値(OV)に対する無機性値(IV)の比、すなわち「無機性値(IV)/有機性値(OV)」をいう。有機概念図の詳細については、「新版有機概念図−基礎と応用−」(甲田善生等著、三共出版、2008)を参照されたい。本明細書中では、IOBの逆数をとった「1/IOB」値で親疎水性を表している。「1/IOB」値が小さい(0に近づく)程、親水性であることを表す表記である。
【0024】
本発明で用いる高分子の「1/IOB」値を上記範囲とすることにより、親水性が高く、かつ、吸水性が高くなることから、栄養成分の保持に有効に作用し、結果として、本発明の細胞構造体(モザイク細胞塊)における細胞の安定化・生存しやすさに寄与するものと推定される。
【0025】
本発明で用いる生体親和性高分子がポリペプチドである場合は、Grand average of hydropathicity(GRAVY)値で表される親疎水性指標において、0.3以下、マイナス9.0以上であることが好ましく、0.0以下、マイナス7.0以上であることがさらに好ましい。Grand average of hydropathicity(GRAVY)値は、『Gasteiger E., Hoogland C., Gattiker A., Duvaud S., Wilkins M.R., Appel R.D., Bairoch A.;Protein Identification and Analysis Tools on the ExPASy Server;(In) John M. Walker (ed): The Proteomics Protocols Handbook, Humana Press (2005). pp. 571-607』及び『Gasteiger E., Gattiker A., Hoogland C., Ivanyi I., Appel R.D., Bairoch A.; ExPASy: the proteomics server for in-depth protein knowledge and analysis.; Nucleic Acids Res. 31:3784-3788(2003).』の方法により得ることができる。
【0026】
本発明で用いる高分子のGRAVY値を上記範囲とすることにより、親水性が高く、かつ、吸水性が高くなることから、栄養成分の保持に有効に作用し、結果として、本発明の細胞構造体(モザイク細胞塊)における細胞の安定化・生存しやすさに寄与するものと推定される。
【0027】
(1−2)架橋
本発明で用いる生体親和性高分子は、架橋されているものでもよいし、架橋されていないものでもよいが、架橋されているものが好ましい。架橋されている生体親和性高分子を使用することにより、培地中で培養する際及び生体に移植した際に瞬時に分解してしまうことを防ぐという効果が得られる。一般的な架橋方法としては、熱架橋、アルデヒド類(例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなど)による架橋、縮合剤(カルボジイミド、シアナミドなど)による架橋、酵素架橋、光架橋、紫外線架橋、疎水性相互作用、水素結合、イオン性相互作用などが知られている。本発明ではグルタルアルデヒドを使用しない架橋方法を使用することが好ましい。本発明では、アルデヒド類又は縮合剤を使用しない架橋方法を使用することがより好ましい。即ち、本発明における生体親和性高分子ブロックは、好ましくは、グルタルアルデヒドを含まない生体親和性高分子ブロックであり、より好ましくは、アルデヒド類又は縮合剤を含まない生体親和性高分子ブロックである。本発明で使用する架橋方法としては、さらに好ましくは熱架橋、紫外線架橋、又は酵素架橋であり、特に好ましくは熱架橋である。
【0028】
酵素による架橋を行う場合、酵素としては、高分子材料間の架橋作用を有するものであれば特に限定されないが、好ましくはトランスグルタミナーゼ及びラッカーゼ、最も好ましくはトランスグルタミナーゼを用いて架橋を行うことができる。トランスグルタミナーゼで酵素架橋するタンパク質の具体例としては、リジン残基及びグルタミン残基を有するタンパク質であれば特に制限されない。トランスグルタミナーゼは、哺乳類由来のものであっても、微生物由来のものであってもよく、具体的には、味の素(株)製アクティバシリーズ、試薬として発売されている哺乳類由来のトランスグルタミナーゼ、例えば、オリエンタル酵母工業(株)製、Upstate USA Inc.製、Biodesign International製などのモルモット肝臓由来トランスグルタミナーゼ、ヤギ由来トランスグルタミナーゼ、ウサギ由来トランスグルタミナーゼなど、ヒト由来の血液凝固因子(Factor XIIIa、Haematologic Technologies, Inc.社)などが挙げられる。
【0029】
架橋(例えば、熱架橋)を行う際の反応温度は、架橋ができる限り特に限定されないが、好ましくは、−100℃〜500℃であり、より好ましくは0℃〜300℃であり、更に好ましくは50℃〜300℃であり、更に好ましくは100℃〜250℃であり、更に好ましくは120℃〜200℃である。
【0030】
(1−3)リコンビナントゼラチン
本発明で言うリコンビナントゼラチンとは、遺伝子組み換え技術により作られたゼラチン類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドもしくは蛋白様物質を意味する。本発明で用いることができるリコンビナントゼラチンは、コラーゲンに特徴的なGly−X−Yで示される配列(X及びYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示す)の繰り返しを有するものが好ましい。ここで、複数個のGly−X−Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。好ましくは、細胞接着シグナルが一分子中に2配列以上含まれている。本発明で用いるリコンビナントゼラチンとしては、コラーゲンの部分アミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を有するリコンビナントゼラチンを用いることができる。例えばEP1014176、US特許6992172号、国際公開WO2004/85473、国際公開WO2008/103041等に記載のものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。本発明で用いるリコンビナントゼラチンとして好ましいものは、以下の態様のリコンビナントゼラチンである。
【0031】
リコンビナントゼラチンは、天然のゼラチン本来の性能から、生体親和性に優れ、且つ天然由来ではないことで牛海綿状脳症(BSE)などの懸念がなく、非感染性に優れている。また、リコンビナントゼラチンは天然セラチンと比べて均一であり、配列が決定されているので、強度及び分解性においても架橋等によってブレを少なく精密に設計することが可能である。
【0032】
リコンビナントゼラチンの分子量は、特に限定されないが、好ましくは2kDa以上100kDa以下であり、より好ましくは2.5kDa以上95kDa以下であり、さらに好ましくは5kDa以上90kDa以下であり、最も好ましくは10kDa以上90kDa以下である。
【0033】
リコンビナントゼラチンは、コラーゲンに特徴的なGly−X−Yで示される配列の繰り返しを有することが好ましい。ここで、複数個のGly−X−Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。Gly−X−Y において、Glyはグリシンを表し、X及びYは、任意のアミノ酸(好ましくは、グリシン以外の任意のアミノ酸)を表す。コラーゲンに特徴的なGly−X−Yで示される配列とは、ゼラチン・コラーゲンのアミノ酸組成及び配列における、他のタンパク質と比較して非常に特異的な部分構造である。この部分においてはグリシンが全体の約3分の1を占め、アミノ酸配列では3個に1個の繰り返しとなっている。グリシンは最も簡単なアミノ酸であり、分子鎖の配置への束縛も少なく、ゲル化に際してのヘリックス構造の再生に大きく寄与している。X及びYで表されるアミノ酸はイミノ酸(プロリン、オキシプロリン)が多く含まれ、全体の10%〜45%を占めることが好ましい。好ましくは、リコンビナントゼラチンの配列の80%以上、更に好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上のアミノ酸が、Gly−X−Yの繰り返し構造である。
【0034】
一般的なゼラチンは、極性アミノ酸のうち電荷を持つものと無電荷のものが1:1で存在する。ここで、極性アミノ酸とは具体的にシステイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン及びアルギニンを指し、このうち極性無電荷アミノ酸とはシステイン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン及びチロシンを指す。本発明で用いるリコンビナントゼラチンにおいては、構成する全アミノ酸のうち、極性アミノ酸の割合が10〜40%であり、好ましくは20〜30%である。且つ上記極性アミノ酸中の無電荷アミノ酸の割合が5%以上20%未満、好ましくは10%未満であることが好ましい。さらに、セリン、スレオニン、アスパラギン、チロシン及びシステインのうちいずれか1アミノ酸、好ましくは2以上のアミノ酸を配列上に含まないことが好ましい。
【0035】
一般にポリペプチドにおいて、細胞接着シグナルとして働く最小アミノ酸配列が知られている(例えば、株式会社永井出版発行「病態生理」Vol.9、No.7(1990年)527頁)。本発明で用いるリコンビナントゼラチンは、これらの細胞接着シグナルを一分子中に2以上有することが好ましい。具体的な配列としては、接着する細胞の種類が多いという点で、アミノ酸一文字表記で現わされる、RGD配列、LDV配列、REDV配列、YIGSR配列、PDSGR配列、RYVVLPR配列、LGTIPG配列、RNIAEIIKDI配列、IKVAV配列、LRE配列、DGEA配列、及びHAV配列の配列が好ましい。さらに好ましくはRGD配列、YIGSR配列、PDSGR配列、LGTIPG配列、IKVAV配列及びHAV配列、特に好ましくはRGD配列である。RGD配列のうち、好ましくはERGD配列である。細胞接着シグナルを有するリコンビナントゼラチンを用いることにより、細胞の基質産生量を向上させることができる。例えば、細胞として、間葉系幹細胞を用いた軟骨分化の場合には、グリコサミノグリカン(GAG)の産生を向上させることができる。
【0036】
本発明で用いるリコンビナントゼラチンにおけるRGD配列の配置としては、RGD間のアミノ酸数が0〜100の間、好ましくは25〜60の間で均一でないことが好ましい。
この最小アミノ酸配列の含有量は、細胞接着・増殖性の観点から、タンパク質1分子中3〜50個が好ましく、さらに好ましくは4〜30個、特に好ましくは5〜20個である。最も好ましくは12個である。
【0037】
本発明で用いるリコンビナントゼラチンにおいて、アミノ酸総数に対するRGDモチーフの割合は少なくとも0.4%であることが好ましい。リコンビナントゼラチンが350以上のアミノ酸を含む場合、350のアミノ酸の各ストレッチが少なくとも1つのRGDモチーフを含むことが好ましい。アミノ酸総数に対するRGDモチーフの割合は、更に好ましくは少なくとも0.6%であり、更に好ましくは少なくとも0.8%であり、更に好ましくは少なくとも1.0%であり、更に好ましくは少なくとも1.2%であり、最も好ましくは少なくとも1.5%である。リコンビナントペプチド内のRGDモチーフの数は、250のアミノ酸あたり、好ましくは少なくとも4、更に好ましくは6、更に好ましくは8、更に好ましくは12以上16以下である。RGDモチーフの0.4%という割合は、250のアミノ酸あたり、少なくとも1つのRGD配列に対応する。RGDモチーフの数は整数であるので、0.4%の特徴を満たすには、251のアミノ酸からなるゼラチンは、少なくとも2つのRGD配列を含まなければならない。好ましくは、本発明のリコンビナントゼラチンは、250のアミノ酸あたり、少なくとも2つのRGD配列を含み、より好ましくは250のアミノ酸あたり、少なくとも3つのRGD配列を含み、さらに好ましくは250のアミノ酸あたり、少なくとも4つのRGD配列を含む。本発明のリコンビナントゼラチンのさらなる態様としては、少なくとも4つのRGDモチーフ、好ましくは6つ、より好ましくは8つ、さらに好ましくは12以上16以下のRGDモチーフを含む。
【0038】
リコンビナントゼラチンは部分的に加水分解されていてもよい。
【0039】
好ましくは、本発明で用いるリコンビナントゼラチンは、式:A−[(Gly−X−Y)
n]
m−Bで示されるものである。n個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、n個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示す。mとして好ましくは2〜10、好ましくは3〜5である。nは3〜100が好ましく、15〜70がさらに好ましく、50〜65が最も好ましい。Aは任意のアミノ酸又はアミノ酸配列を示し、Bは任意のアミノ酸又はアミノ酸配列を示し、n個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、n個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示す。
【0040】
より好ましくは、本発明で用いるリコンビナントゼラチンは、 式:Gly−Ala−Pro−[(Gly−X−Y)
63]
3−Gly(式中、63個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、63個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示す。なお、63個のGly−X−Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)で示されるものである。
【0041】
繰り返し単位には天然に存在するコラーゲンの配列単位を複数結合することが好ましい。ここで言う天然に存在するコラーゲンとは天然に存在するものであればいずれでも構わないが、好ましくはI型、II型、III型、IV型、又はV型コラーゲンである。より好ましくは、I型、II型、又はIII型コラーゲンである。別の形態によると、上記コラーゲンの由来は好ましくは、ヒト、ウシ、ブタ、マウス又はラットであり、より好ましくはヒトである。
【0042】
本発明で用いるリコンビナントゼラチンの等電点は、好ましくは5〜10であり、より好ましくは6〜10であり、さらに好ましくは7〜9.5である。
【0043】
好ましくは、リコンビナントゼラチンは脱アミン化されていない。
好ましくは、リコンビナントゼラチンはテロペプタイドを有さない。
好ましくは、リコンビナントゼラチンは、アミノ酸配列をコードする核酸により調製された実質的に純粋なポリペプチドである。
【0044】
本発明で用いるリコンビナントゼラチンとして特に好ましくは、
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;又は
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と80%以上(さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;
である。
【0045】
「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」における「1若しくは数個」とは、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個を意味する。
【0046】
本発明で用いるリコンビナントゼラチンは、当業者に公知の遺伝子組み換え技術によって製造することができ、例えばEP1014176A2号公報、米国特許第6992172号公報、国際公開WO2004/85473号、国際公開WO2008/103041号等に記載の方法に準じて製造することができる。具体的には、所定のリコンビナントゼラチンのアミノ酸配列をコードする遺伝子を取得し、これを発現ベクターに組み込んで、組み換え発現ベクターを作製し、これを適当な宿主に導入して形質転換体を作製する。得られた形質転換体を適当な培地で培養することにより、リコンビナントゼラチンが産生されるので、培養物から産生されたリコンビナントゼラチンを回収することにより、本発明で用いるリコンビナントゼラチンを調製することができる。
【0047】
(1−4)生体親和性高分子ブロック
本発明では、上記した生体親和性高分子からなるブロック(塊)を使用する。
本発明における生体親和性高分子ブロックの形状は特に限定されるものではない。例えば、不定形、球状、粒子状(顆粒)、粉状、多孔質状、繊維状、紡錘状、扁平状及びシート状であり、好ましくは、不定形、球状、粒子状(顆粒)、粉状及び多孔質状である。不定形とは、表面形状が均一でないもののことを示し、例えば、岩のような凹凸を有する物を示す。
【0048】
本発明における生体親和性高分子ブロック一つの大きさは、特に限定されないが、好ましくは1μm以上1000μm以下であり、より好ましくは10μm以上1000μm以下であり、より好ましくは10μm以上700μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上300μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上200μm以下であり、さらに好ましくは20μm以上200μm以下であり、さらに好ましくは20μm以上150μm以下であり、さらに好ましくは50μm以上110μm以下である。生体親和性高分子ブロック一つの大きさを上記の範囲内にすることは、管状構造物がより高い分子透過能力を有するという観点から好ましい。なお、生体親和性高分子ブロック一つの大きさとは、複数個の生体親和性高分子ブロックの大きさの平均値が上記範囲にあることを意味するものではなく、複数個の生体親和性高分子ブロックを篩にかけて得られる、一つ一つの生体親和性高分子ブロックのサイズを意味するものである。
【0049】
ブロック一つの大きさは、ブロックを分ける際に用いたふるいの大きさで定義することができる。例えば、180μmのふるいにかけ、通過したブロックを106μmのふるいにかけた際にふるいの上に残るブロックを、106〜180μmの大きさのブロックとすることができる。次に、106μmのふるいにかけ、通過したブロックを53μmのふるいにかけた際にふるいの上に残るブロックを、53〜106μmの大きさのブロックとすることができる。次に、53μmのふるいにかけ、通過したブロックを25μmのふるいにかけた際にふるいの上に残るブロックを、25〜53μmの大きさのブロックとすることができる。
【0050】
(1−5)生体親和性高分子ブロックの製造方法
生体親和性高分子ブロックの製造方法は、特に限定されないが、例えば、生体親和性高分子の多孔質体を、粉砕機(ニューパワーミルなど)を用いて粉砕することにより、顆粒の形態の生体親和性高分子ブロックを得ることができる。
【0051】
生体親和性高分子の多孔質体を製造する際に、溶液内で最も液温の高い部分の液温(内部最高液温)が、未凍結状態で「溶媒融点−3℃」以下となる凍結工程を含めることによって、形成される氷は球状となる。この工程を経て、氷が乾燥されることで、球状の等方的な空孔(球孔)を持つ多孔質体が得られる。溶液内で最も液温の高い部分の液温(内部最高液温)が、未凍結状態で「溶媒融点−3℃」以上となる凍結工程を含まずに、凍結されることで、形成される氷は柱/平板状となる。この工程を経て、氷が乾燥されると、一軸あるいは二軸上に長い、柱状あるいは平板状の空孔(柱/平板孔)を持つ多孔質体が得られる。
【0052】
本発明においては好ましくは、
生体親和性高分子の溶液を、溶液内で最も液温の高い部分の液温である内部最高液温が、未凍結状態で、溶媒融点より3℃低い温度(“溶媒融点−3℃”)以下となる、凍結処理により凍結する工程a;及び
上記工程aで得られた凍結した生体親和性高分子を凍結乾燥する工程b:
を含む方法により、生体親和性高分子ブロックを製造することができる。
本発明ではさらに好ましくは、上記工程bで得られた多孔質体を粉砕することによって、顆粒の形態の生体親和性高分子ブロックを製造することができる。
【0053】
より好ましくは、上記工程aにおいて、生体親和性高分子の溶液を、溶液内で最も液温の高い部分の液温である内部最高液温が、未凍結状態で、溶媒融点より7℃低い温度(“溶媒融点−7℃”)以下となる凍結処理により凍結することができる。
【0054】
(2)細胞
本発明で用いる細胞は、細胞移植を行えるものであれば任意の細胞を使用することができ、その種類は特に限定されず、管状構造物の用途に応じて選択することができる。使用する細胞は1種でもよいし、複数種の細胞を組合せて用いてもよい。また、使用する細胞として、好ましくは、動物細胞であり、より好ましくは脊椎動物由来細胞、特に好ましくはヒト由来細胞である。脊椎動物由来細胞(特に、ヒト由来細胞)の種類は、万能細胞、体性幹細胞、前駆細胞、又は成熟細胞の何れでもよい。万能細胞としては、例えば、胚性幹(ES)細胞、生殖幹(GS)細胞、又は人工多能性幹(iPS)細胞を使用することができる。体性幹細胞としては、例えば、間葉系幹細胞(MSC)、造血幹細胞、羊膜細胞、臍帯血細胞、骨髄由来細胞、心筋幹細胞、脂肪由来幹細胞、又は神経幹細胞を使用することができる。前駆細胞及び成熟細胞としては、例えば、皮膚、真皮、表皮、筋肉、心筋、神経、骨、軟骨、内皮、脳、上皮、心臓、腎臓、肝臓、膵臓、脾臓、口腔内、角膜、骨髄、臍帯血、羊膜、又は毛に由来する細胞を使用することができる。ヒト由来細胞としては、例えば、ES細胞、iPS細胞、MSC、軟骨細胞、骨芽細胞、骨芽前駆細胞、間充織細胞、筋芽細胞、心筋細胞、心筋芽細胞、神経細胞、肝細胞、ベータ細胞、線維芽細胞、角膜内皮細胞、血管内皮細胞、角膜上皮細胞、羊膜細胞、臍帯血細胞、骨髄由来細胞、又は造血幹細胞を使用することができる。また、細胞の由来は、自家細胞又は他家細胞の何れでも構わない。
【0055】
本発明においては、好ましくは、血管系細胞を使用することができる。本明細書において、血管系細胞とは、血管形成に関連する細胞を意味し、血管および血液を構成する細胞、およびその細胞に分化することができる前駆細胞、体性幹細胞である。ここで、血管系細胞には、ES細胞、GS細胞、又はiPS細胞等の万能細胞や、間葉系幹細胞(MSC)のような血管および血液を構成する細胞に、自然には分化しないものは含まれない。血管系細胞として、好ましくは血管を構成する細胞である。脊椎動物由来細胞(特に、ヒト由来細胞)では、血管を構成する細胞の具体例としては、血管内皮細胞および血管平滑筋細胞を挙げることができる。血管内皮細胞は、静脈内皮細胞および動脈内皮細胞の何れでもよい。血管内皮細胞の前駆細胞としては、血管内皮前駆細胞を使用することができる。好ましくは血管内皮細胞および血管内皮前駆細胞である。血液を構成する細胞としては、血球細胞が使用でき、リンパ球や好中球などの白血球細胞、単球細胞、それらの幹細胞である造血幹細胞を使用できる。
【0056】
本明細書において、非血管系細胞とは、上記の血管系細胞以外の細胞を意味する。例えば、ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞(MSC)、心筋幹細胞、心筋細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、筋芽細胞、肝細胞または神経細胞を使用することができる。好ましくは、MSC、軟骨細胞、筋芽細胞、心筋幹細胞、心筋細胞、肝細胞またはiPS細胞を使用することができる。より好ましくは、MSC、心筋幹細胞、心筋細胞または筋芽細胞である。
【0057】
本発明の細胞構造体は、非血管系細胞を含むものでもよい。また、本発明の細胞構造体を構成する細胞は、非血管系細胞のみでもよい。本発明の細胞構造体としては、二種類以上の細胞を含み、かつ非血管系細胞および血管系細胞の両方を含むものでもよい。
【0058】
(3)細胞構造体
本発明においては、生体親和性高分子ブロックと細胞とを用いて、複数個の細胞間の隙間に複数個の生体親和性高分子ブロックをモザイク状に3次元的に配置させることによって細胞構造体を作製する。生体親和性高分子ブロックと細胞とがモザイク状に3次元に配置されることにより、構造体中で細胞が均一に存在する細胞構造体が形成され、外部から細胞構造体の内部への、培地成分などの栄養の送達を可能となる。
【0059】
本発明で用いる細胞構造体においては、複数個の細胞間の隙間に複数個の生体親和性高分子ブロックが配置されているが、ここで、「細胞間の隙間」とは、構成される細胞により、閉じられた空間である必要はなく、細胞により挟まれていればよい。なお、すべての細胞間に隙間がある必要はなく、細胞同士が接触している箇所があってもよい。生体親和性高分子ブロックを介した細胞間の隙間の距離、即ち、ある細胞とその細胞から最短距離に存在する細胞を選択した際の隙間距離は特に制限されるものではないが、生体親和性高分子ブロックの大きさであることが好ましく、好適な距離も生体親和性高分子ブロックの好適な大きさの範囲である。
【0060】
また、生体親和性高分子ブロックは、細胞により挟まれた構成となるが、すべての生体親和性高分子ブロック間に細胞がある必要はなく、生体親和性高分子ブロック同士が接触している箇所があってもよい。細胞を介した生体親和性高分子ブロック間の距離、即ち、生体親和性高分子ブロックとその生体親和性高分子ブロックから最短距離に存在する生体親和性高分子ブロックを選択した際の距離は特に制限されるものではないが、使用される細胞が1〜数個集まった際の細胞の塊の大きさであることが好ましく、例えば、10μm以上1000μm以下であり、好ましくは10μm以上100μm以下であり、より好ましくは10μm以上50μm以下である。
【0061】
なお、本明細書中、「構造体中で細胞が均一に存在する細胞構造体」等、「均一に存在する」との表現を使用しているが、完全な均一を意味するものではなく、外部から細胞構造体の内部への培地成分などの栄養の送達を可能とすることを意味するものである。
【0062】
細胞構造体の厚さ又は直径は、所望の厚さとすることができるが、下限としては、215μm以上であることが好ましく、400μm以上がさらに好ましく、730μm以上であることが最も好ましい。厚さ又は直径の上限は特に限定されないが、使用上の一般的な範囲としては3cm以下が好ましく、2cm以下がより好ましく、1cm以下であることが更に好ましい。また、細胞構造体の厚さ又は直径の範囲として、好ましくは、400μm以上3cm以下、より好ましくは500μm以上2cm以下、更に好ましくは720μm以上1cm以下である。細胞構造体の厚さ又は直径を上記の範囲内とすることにより、上記細胞構造体を用いた管状構造物の作製が容易になる。
【0063】
細胞構造体においては、好ましくは、生体親和性高分子ブロックからなる領域と細胞からなる領域とがモザイク状に配置されている。尚、本明細書中における「細胞構造体の厚さ又は直径」とは、以下のことを示すものとする。細胞構造体中のある一点Aを選択した際に、その点Aを通る直線の内で、細胞構造体外界からの距離が最短になるように細胞構造体を分断する線分の長さを線分Aとする。細胞構造体中でその線分Aが最長となる点Aを選択し、その際の線分Aの長さのことを「細胞構造体の厚さ又は直径」とする。
【0064】
細胞構造体における細胞と生体親和性高分子ブロックの比率は特に限定されないが、好ましくは細胞1個当りの生体親和性高分子ブロックの比率が0.0000001μg以上1μg以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.000001μg以上0.1μg以下、より好ましくは0.00001μg以上0.01μg以下、最も好ましくは0.00002μg以上0.006μg以下である。細胞と生体親和性高分子ブロックの比率を上記範囲とすることより、細胞をより均一に存在させることができ、また細胞構造体の体積に対する生体親和性高分子ブロックの体積の割合及び細胞構造体の体積に対する細胞の体積の割合を、本発明において規定した範囲内とすることができる。下限を上記範囲とすることにより、上記用途に使用した際に細胞の効果を発揮することができ、上限を上記範囲とすることにより、任意で存在する生体親和性高分子ブロック中の成分を細胞に供給できる。ここで、生体親和性高分子ブロック中の成分は特に制限されないが、後述する培地に含まれる成分が挙げられる。
【0065】
本発明の細胞構造体は、血管新生因子を含んでいてもよい。ここで、血管新生因子としては、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)などを好適に挙げることができる。血管新生因子を含む細胞構造体の製造方法は、特に制限されないが、例えば、血管新生因子を含浸させた生体親和性高分子ブロックを使用することにより、製造することができる。血管新生を促進する観点からは、本発明の細胞構造体は、血管新生因子を含むことが好ましい。
【0066】
(4)細胞構造体の製造方法
細胞構造体は、生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種類の細胞とを混合することによって製造することができる。より具体的には、細胞構造体は、生体親和性高分子ブロックと、細胞とを交互に配置することにより製造できる。製造方法は特に限定されないが、好ましくは生体親和性高分子ブロックを形成したのち、細胞を播種する方法である。具体的には、生体親和性高分子ブロックと細胞含有培養液との混合物をインキュベートすることによって、細胞構造体を製造することができる。例えば、容器中、容器に保持される液体中で、細胞と、予め作製した生体親和性高分子ブロックとをモザイク状に配置する。配置の手段としては、自然凝集、自然落下、遠心、攪拌を用いることで、細胞と生体親和性基材からなるモザイク状の配列形成を促進又は制御することが好ましい。
【0067】
用いられる容器としては、細胞低接着性材料又は細胞非接着性材料からなる容器が好ましく、より好ましくはポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ガラス、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートからなる容器である。容器底面の形状は平底型、U字型、V字型であることが好ましい。
【0068】
(5)管状構造体
本発明の管状構造物の製造方法については後記する。
本発明の管状構造物の典型例の模式図を
図5に示す。
図5においては、管状構造物の内径21、外径22、及び長さ23を示す。本発明の管状構造物は、略円柱状の形状の構造体の内部に略円柱状の空洞を有する構造を有している。但し、断面の形状は厳密な円に限定されるわけではなく、楕円など円に類似する形状であればよい。
【0069】
本発明の管状構造物の大きさは特に限定されず、用途に応じて所望の大きさの管状構造物を設計することができる。
本発明の管状構造物の内径は、人工血管としての用途を考慮した場合には、1mm以上6mm未満が好ましく、1mm以上5mm以下がより好ましく、1mm以上3mm以下がさらに好ましい。
本発明の管状構造物の外径は、人工血管としての用途を考慮した場合には、3mm以上10mm以下が好ましく、3mm以上8mm以下がより好ましく、3mm以上5mm以下がさらに好ましい。
内径と外径の差は、管状構造物の強度などの観点から、1mm以上9mm以下が好ましく、2mm以上5mm以下がより好ましい。
本発明の管状構造物の長さは、人工血管としての用途を考慮した場合には、5mm以上300mm以下が好ましく、5mm以上150mm以下がより好ましい。
ここで、内径及び外径とは、本発明の管状構造物の断面を円に近似した場合の内径及び外径を意味する。
【0070】
(6)管状構造物の用途
本発明の管状構造物は、人工血管、人工尿管、又は人工消化管などとして使用することができ、好ましくは人工血管として使用することができる。具体的には、本発明の細胞構造体は、例えば、人工血管、人工尿管、又は人工消化管の移植が必要な部位に移植の目的で使用できる。
移植方法としては、切開、内視鏡といったものが使用可能である。
【0071】
本発明によれば、管状構造物を、人工血管の移植を必要とする患者に移植する工程を含む移植方法が提供される。本発明の移植方法においては、上記した本発明の管状構造物を用いる。細胞構造体及び管状構造物の好適な範囲は前述と同様である。
【0072】
更に本発明によれば、人工血管の製造のための、本発明の管状構造物の使用が提供される。細胞構造体及び管状構造物の好適な範囲は前述と同様である。
【0073】
[管状構造物の製造方法]
上記(4)細胞構造体の製造方法により得られた細胞構造体(モザイク細胞塊)は、例えば、
(a)細胞構造体(モザイク細胞塊)同士を融合させる、又は
(b)分化培地又は増殖培地下でボリュームアップさせる、
などの方法により、所望の大きさの本発明の管状構造物を製造することができる。融合の方法、ボリュームアップの方法は特に限定されないが、複数の細胞の隙間に生体親和性高分子ブロックが配置された複数個の細胞構造体を、管状構造物を形成するための型を有する装置において培養することにより、細胞構造体を融合させる方法が好ましい。管状構造物を形成するための型を有する装置については後記する。
【0074】
細胞構造体を融合させる場合には、例えば、複数個の生体親和性高分子ブロックと複数個の細胞とを含み、上記複数の細胞により形成される複数個の隙間の一部または全部に、一または複数個の上記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体を複数個融合させることができる。
【0075】
本発明の管状構造物の製造方法にかかる「生体親和性高分子ブロック(種類、大きさ等)」、「細胞」、「細胞間の隙間」、「得られる細胞構造体(大きさ等)」、「細胞と生体親和性高分子ブロックの比率」等の好適な範囲は、本明細書中上記と同様である。
【0076】
上記融合前の各細胞構造体の厚さ又は直径は好ましくは10μm以上1cm以下であり、より好ましくは10μm以上2000μm以下、更に好ましくは15μm以上1500μm以下、最も好ましくは、20μm以上1300μm以下である。融合後の厚さ又は直径は好ましくは400μm以上3cm以下であり、より好ましくは500μm以上2cm以下であり、更に好ましくは720μm以上1cm以下である。
【0077】
[管状構造物を製造するための装置]
本発明は、細胞構造体から構成される管状構造物の外側側面を形成するための円柱形状の中空領域を有する土台部と、上記中空領域の内部に存在する芯受け部と、上記管状構造物の内側側面を形成するための円柱形状の芯部とを有する、上記した本発明の管状構造物を製造するための装置にも関する。
【0078】
本明細書で言う、円柱形状、平面、及び垂直方向とは、それぞれ厳密な円柱、平面、垂直方向を意味するわけではなく、略円柱形状、略平面、及び略垂直方向を含むものとする。略円柱形状とは、円柱状形状が変形されていてもよいことを意味し、上面又は底面が、楕円であるような形状も含む。略平面とは、平面上に小さい凹凸や曲りが存在する場合を含むことを意味する。略垂直方向とは、垂直方向の角度を90度とした場合、±10度、好ましくは±5度、より好ましくは±2度の誤差を含むことを意味する。
【0079】
以下に、
図1〜
図4を参照して、本発明の装置を説明する。
図1及び
図2は、土台部1の構造の例を示す。
図1a及び
図2aは上面図、
図1b及び
図2bは正面図、
図1c及び
図2cは側面図、
図1d及び
図2dは底面図、
図1e及び
図2eは斜視図を示す。
土台部1は、細胞構造体から構成される管状構造物の外側側面を形成するための円柱形状の中空領域2を有する。
土台部1の上面5は平面であり、中空領域2は、土台部の上面5から、土台部の上面の平面に対して垂直方向に設けられている。
【0080】
図1の示す土台部と
図2に示す土台部との相違は、中空領域の直径であり、
図2に示す土台部の中空領域の直径は、
図1に示す土台部の中空領域の直径より大きい。
中空領域の円柱形状の直径は、管状構造物の外径に相当することになる。製造される管状構造物の外径に応じて、中空領域の円柱形状の直径を設定することができる。例えば、中空領域の円柱形状の直径は3mm以上10mm以下とすることができ、好ましくは3mm以上8mm以下とすることができ、さらに好ましくは3mm以上5mm以下とすることができるが、特に限定されない。
【0081】
土台部の全体の大きさは、上記した大きさの中空領域を設けることができる大きさであれば特に限定されず、上面の大きさとしては、例えば、縦の長さが5mm以上300mm以下であり、好ましくは10mm以上200mm以下であり、より好ましくは10mm以上100mm以下であり、横の長さが5mm以上300mm以下であり、好ましくは10mm以上200mm以下であり、より好ましくは10mm以上100mm以下である。土台部の高さも特に限定されないが、例えば、5mm以上300mm以下であり、好ましくは10mm以上300mm以下であり、より好ましくは10mm以上200mm以下である。
【0082】
中空領域の円柱形状の直径は、後記する芯部の円柱形状の直径より大きい。芯部の少なくとも一部は、中空領域内に存在するためである。
図1及び
図2に示す土台部1においては、中空領域2は、土台部の上面5から底面まで貫通している。
【0083】
土台部の底面は、培地を含む容器内に土台部を設置した際に、培地に含まれる培地成分が、後記する芯受け部の貫通領域の底面側入口から、土台部の中空領域の内部に入ることが可能な構造を有している。上記構造の具体例としては、土台部の底面が、土台部を設置面に設置した際に上記設置面に接触する領域8と、上記設置面に接触しない領域9とを有するようになる形状を有している場合を挙げることができる。なお、設置面に接触しない領域とは、接地面との間に空間を有する領域である。
【0084】
図1及び
図2に示す実施形態においては、土台部の底面は、正面から見た場合(
図1b及び
図1cを参照)、凹型形状を有している。底面を凹型形状とすることにより、底面は、設置面に接触する領域8と、設置面に接触しない領域9とを有するようになるが、底面の形状は、設置面に接触する領域8と、設置面に接触しない領域9とを設けることができる限り、凹型形状に限定されるわけではない。
【0085】
図3は、芯受け部3の構造の一例を示す。
図3aは上面図、
図3bは正面図、
図3cは側面図、
図3dは斜視図を示す。
芯受け部3は、土台1の中空領域2の内部に設けられる。
図1と
図2においては、土台1と芯受け部3とを別々に図示するが、芯受け部3、土台1の中空領域2の内部に設けられた状態で、土台1と芯受け部3とは一体として形成されていてもよい。または、土台1と芯受け部3とを別々に作製してから、土台1の中空領域2の内部に、芯受け部3を設置して使用してもよい。
【0086】
芯受け部3は、中空領域2の内部に設けた場合に、芯受け部の上面と、中空領域2の壁面とで囲まれた空間により、管状構造物が形成されることになる。好ましくは、芯受け部3は、中空領域の下端10、又は中空領域の下端10の近傍に設けられる。
【0087】
芯受け部3の形状は、芯部4を保持することができ、かつ土台1の中空領域2の内部に設けられる形状であれば特に限定されない。好ましくは、芯受け部3は、中心部に芯部を保持するための貫通孔6を有し、さらに周辺部に、芯受け部の上面から底面まで貫通する1個以上の貫通領域7を有する円柱形状である。
【0088】
貫通孔6の形状は、芯部を保持するという観点から、芯部の形状と略同一であることが好ましく、好ましくは円柱状である。円柱の直径は、例えば1mm以上6mm未満とすることができ、好ましくは1mm以上5mm以下とすることができ、より好ましくは1mm以上3mm以下とすることができるが、特に限定されない。
また、芯受け部3の全体の大きさ及び形状は、中空領域2の内部に設置できる大きさ及び形状であることが好ましい。
【0089】
図2に示す芯受け部3は、4個の貫通領域7を有しているが、貫通領域7の個数は特に限定されず、1個以上であれば任意の数とすることができ、一般的には1〜8個程度であり、好ましくは2〜6個程度である。上記した貫通領域7を設けることにより、培地を含む容器内に土台部を設置した際に、培地に含まれる培地成分が、芯受け部の貫通領域の底面側入口から、土台部の中空領域の内部に入ることが可能になる。上記目的のためには、好ましくは、芯受け部の貫通領域7の底面側入口は、土台部の底面のうち設置面に接触しない領域9に設けることができる。
【0090】
中心部に芯部を保持するための貫通孔6の直径は、芯部の直径と略同じとすることにより、芯受け部3は、芯部4を保持することが可能になる。
【0091】
図4は、芯部4の構造の一例を示す。
図4aは上面図、
図4bは正面図、
図4cは斜視図を示す。芯部4は、円柱状の形状を有することが好ましい。芯部4は、細胞構造体の管状構造物の空洞(即ち、管状構造物の内壁)を形成するためのものであり、芯部4の形状を円柱状とすることにより、(通常は円柱状の空洞を有する)管状構造物を製造することができる。
【0092】
芯部4は、芯受け3により保持され、芯部4の少なくとも一部は、中空領域2内に、土台部の平面方向に対して垂直方向に、設けられる。
図3と
図4においては、芯受け部3と芯部4を別々に図示するが、芯部4が、芯受け3の貫通孔6に挿入された状態として、芯受け部3と芯部4とは一体として形成されていてもよい。または、芯受け部3と芯部4を別々に作製してから、芯部4を、芯受け部3の貫通孔6に挿入して使用してもよい。
【0093】
上記した通り、土台1と芯受け部3についても一体として形成してもよく、別々に作製してもよい。
従って、本発明の装置の態様としては、以下の態様が挙げられる。
(1)土台部、芯受け部、及び芯部が一体として形成されている態様;
(2)土台部及び芯受け部が一体として形成され、芯部が別に形成され、一体として形成された土台部及び芯受け部における、芯受け部に芯部を保持させて使用する態様
(3)土台部、芯受け部、及び芯部が別々に形成され、上記3個の部材を本明細書中上記した通り組み合わせることにより使用する態様。
(4)その他の態様としては、土台部1を、2以上の部材により構成することも可能である。例えば、
図1e及び
図2eに示す土台部1の斜視図において、土台部の上段部分と下段部分とを別々に形成した後、両者を積層して使用することもできる。
【0094】
中空領域2の円柱形状の直径の中心と、芯部4の円柱形状の直径の中心とは略同じである。
芯部4の円柱形状の直径は、中空領域2の円柱形状の直径より小さい。
芯部の円柱形状の直径は、管状構造物の内径に相当することになる。製造される管状構造物の内径に応じて、芯部の円柱形状の直径を設定することができる。例えば、芯部の円柱形状の直径は1mm以上6mm未満とすることができ、好ましくは1mm以上5mm以下とすることができ、より好ましくは1mm以上3mm以下とすることができるが、特に限定されない。
また、芯部の長さは特に限定されないが、一般的には、10mm以上300mm以下程度であり、好ましくは10mm以上150mm以下である。
【0095】
上記した土台部、芯受け部、及び芯部を含む本発明の装置は、任意の材料で製造することができるが、例えば、シリコン、フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン (PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)(FEP)、テフロン(登録商標)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ガラス、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、金属、ステンレス、アルミニウムなどを用いて製造することができる。上記の中でも、細胞低接着性素材又は細胞非接着性素材が最も好ましい。
【0096】
好ましくは、芯部、及び/又は中空領域を形成する部は、中空メッシュ状とすることができる。芯部、及び/又は中空領域を形成する部には、細胞構造体の管状構造物が接触することになるが、芯部、及び/又は中空領域を形成する部を、中空メッシュ状とすることにより、培地成分を含ませることが可能になり、これにより細胞構造体を培養して管状構造物を製造する際に、培地成分を細胞により供給し易くすることができる。中空メッシュ状の構造としては、例えば、芯部を、中空糸の束で作製した場合などを挙げることができる。
【0097】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0098】
[実施例1]リコンビナントペプチド(リコンビナントゼラチン)
リコンビナントペプチド(リコンビナントゼラチン)として以下のCBE3を用意した(国際公開WO2008/103041号公報に記載)。
CBE3:
分子量:51.6kD
構造: GAP[(GXY)
63]
3G
アミノ酸数:571個
RGD配列:12個
イミノ酸含量:33%
ほぼ100%のアミノ酸がGXYの繰り返し構造である。CBE3のアミノ酸配列には、セリン、スレオニン、アスパラギン、チロシン及びシステインは含まれていない。CBE3はERGD配列を有している。
等電点:9.34
GRAVY値:−0.682
1/IOB値:0.323
【0099】
アミノ酸配列(配列表の配列番号1)(国際公開WO2008/103041号公報の配列番号3と同じ。但し末尾のXは「P」に修正)
GAP(GAPGLQGAPGLQGMPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGAPGLQGMPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGKDGVRGLAGPIGPPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGKDGVRGLAGPIGPPGPAGAPGAPGLQGMPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGKDGVRGLAGPP)3G
【0100】
[実施例2] リコンビナントペプチド多孔質体の作製
[PTFE厚・円筒形容器]
底面厚さ3mm、直径51mm、側面厚さ8mm、高さ25mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製円筒カップ状容器を用意した。PTFE製円筒カップ状容器は、曲面を側面としたとき、側面は8mmのPTFEで閉鎖されており、底面(平板の円形状)も3mmのPTFEで閉鎖されている。一方、上面は開放された形をしている。よって、円筒カップ状容器の内径は43mmになっている。以後、この容器のことをPTFE厚・円筒形容器と呼称する。
【0101】
PTFE厚・円筒形容器にCBE3水溶液を流し込み、真空凍結乾燥機(TF5−85ATNNN:宝製作所社製)内で冷却棚板を用いて底面からCBE3水溶液を冷却した。CBE3水溶液の最終濃度は4質量%であり、水溶液量8mLである。棚板温度の設定は、−10℃になるまで冷却し、−10℃で1時間、その後−20℃で2時間、さらに−40℃で3時間、最後に−50℃で1時間凍結を行った。得られた凍結品はその後、棚板温度を−20℃設定に戻してから−20℃で24時間の真空乾燥を行い、24時間後にそのまま真空乾燥を続けた状態で棚板温度を20℃へ上昇させ、十分に真空度が下がる(1.9×10
5Pa)まで、さらに20℃で48時間の真空乾燥を実施した後に、真空凍結乾燥機から取り出した。上記により多孔質体を得た。
【0102】
多孔質体を作製する際、それぞれの水溶液は、底面から冷却されるため、円中心部の水表面温度が最も冷却されにくい。従って、円中心部の水表面部分が、溶液内で最も温度の高い液温となるため、円中心部の水表面部分の液温を測定した。以下、円中心部の水表面部分の液温のことを内部最高液温と称する。
【0103】
[実施例3]凍結工程での内部最高液温の測定
溶媒を凍結する際の温度プロファイルを
図6に示す。融点以下で未凍結状態を経た後、凝固熱が発生し温度上昇が始まり、この段階で実際に氷形成が始まる。その後、温度は0℃付近を一定時間経過していき、この段階では、水と氷の混合物が存在する状態となっていた。最後0℃から再び温度降下が始まるが、この段階では、液体部分はなくなり氷となる。測定している温度は氷内部の固体温度となり、液温ではなくなる。上記の通り、凝固熱が発生する瞬間の内部最高液温を見れば、内部最高液温が未凍結状態で「溶媒融点−3℃」を経た後に凍結したかどうかが分かる。
【0104】
凝固熱が発生する瞬間の未凍結状態での内部最高液温は、−8.8℃であった。凝固熱が発生する瞬間の内部最高液温を見れば、内部最高液温が未凍結状態で「溶媒融点−3℃」以下であることが分かる。
【0105】
[実施例4] リコンビナントペプチドブロックの作製(多孔質体の粉砕と架橋)
実施例2で得られたCBE3多孔質体をニューパワーミル(大阪ケミカル社製、ニューパワーミルPM−2005)で粉砕した。粉砕は、最大回転数で1分間×5回、計5分間の粉砕で行った。得られた粉砕物について、ステンレス製ふるいでサイズ分けし、25〜53μm、53〜106μm、106μm〜180μmの顆粒形態のCBE3ブロックを得た。その後、窒素下で160℃で熱架橋(架橋時間は8〜48時間)を施して、リコンビナントペプチドブロックを得た。以下、すべて53〜106μmのブロックを用いた。
【0106】
[実施例5] リコンビナントペプチドブロックを用いた細胞構造体の作製(ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC))
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)を増殖培地(タカラバイオ:MSCGM BulletKit(登録商標))にて10万cells/mLに調整し、実施例4で作製したCBE3ブロック(53〜106μm)を0.1mg/mLとなるように加えた。得られた混合物100μLをスミロンセルタイトX96Uプレート(住友ベークライト、底がU字型)に播種し、卓上プレート遠心機で遠心(600g、5分)し、24時間静置し、直径0.75mm大の球状の、CBE3ブロックとhMSC細胞からなる細胞構造体を作製した(細胞1個当たり0.001μgのブロック)。なお、U字型のプレート中で作製したため、本細胞構造体は球状であった。
【0107】
[実施例6] 細胞構造体を用いた管状構造物の作製
実施例5にて作製した細胞構造体を特殊な鋳型装置に入れていくことによって、複数の細胞構造体から成る管状構造物を作製した。
【0108】
図1、
図3及び
図4に示す部材から構成されるシリコン製の鋳型装置A(内径1mm、外径3mm用)、並びに
図2、
図3及び
図4に示す部材から構成されるシリコン製の鋳型装置B(内径3mm、外径5mm用)を作製した。
【0109】
鋳型装置Aの土台部(
図1)の中空領域の直径は3mmである。鋳型装置Aの土台部の上面(
図1a)は、縦15mm、横15mmの正方形である。上記土台部の高さ(
図1bの8の部分の高さ)は13mmであり、
図1bの9の部分の高さは12mmである。
鋳型装置Aの芯受け部(
図3)の上面(
図3a)の形状は、直径3mmの円の中心に直径1mmの円がくり抜かれ、更に直径3mmの円の周辺部に、直径1mmの半円が4箇所でくり抜かれた形状である。芯受け部の高さは、3mmである。
鋳型装置Aの芯部(
図4)は、直径1mm、長さ17mmの円柱である。
【0110】
鋳型装置Bの土台部(
図2)の中空領域の直径は5mmである。鋳型装置Aの土台部の上面(
図1a)は、縦15mm、横15mmの正方形である。上記土台部の高さ(
図1bの8の部分の高さ)は13mmであり、
図1bの9の部分の高さは12mmである。
鋳型装置Bの芯受け部(
図3)の上面(
図3a)の形状は、直径5mmの円の中心に直径3mmの円がくり抜かれ、更に直径5mmの円の周辺部に、直径1mmの半円が4箇所でくり抜かれた形状である。芯受け部の高さは、3mmである。
鋳型装置Bの芯部(
図4)は、直径3mm、長さ17mmの円柱である。
【0111】
鋳型装置は、土台部(
図1及び
図2)、芯受け部(
図3)、芯部(
図4)の三つに分けてシリコンの塊りから切り出し加工で作製し、使用する際にそれらを合体して使用した。特に管状構造物を作製中の液拡散性を高めて細胞の生存を高めておくために、下部土台の芯受けに液抜けの穴が開いている(芯受け部に4箇所のくぼみ)。合体させる際には、土台の下面と、芯受けの下面が同一平面を形成するように芯受けを土台の貫通孔部分に挿入した。さらに、その芯受けの中心部の穴に芯を設置した。これにより、芯受けの上部に、芯、土台の貫通孔の内壁、芯受けの上面によって形成される空間が生まれる。そこに細胞構造体を設置していくことが可能となる。本装置にそれぞれ実施例5にて作製した細胞構造体を、内径1mm外径3mm用の鋳型装置には384個(結果として長さ8mm)、内径3mm外径5mm用の鋳型装置には600個(結果として長さ7mm)セットし、セットが終わった鋳型装置は培地(タカラバイオ:MSCGM BulletKit(登録商標))中に浸した状態で、3日間培養した。
【0112】
その後、鋳型装置の芯と細胞構造体を装置外枠から外してくることで、芯の付いた状態として、細胞構造体から構成される管状構造物(例として内径1mm、外径3mm、長さ8mm、内径3mm、外径5mm、長さ7mm)を得た(
図7参照)。これらの管状構造物を、3週間培養することで、より堅固な管状構造物を得た(
図8参照)。
【0113】
[実施例7] 細胞構造体の管状構造物の壁部の分子透過性能
実施例6にて作製した細胞構造体の管状構造物の壁部の分子透過性を色素の入り具合、抜け具合にて評価した。細胞構造体管状構造物は、管状構造物の壁部が培地中のフェノールレッド(分子量354.38)成分を非常に良く透過させることができるため、培地から取り出した際に管状構造物の壁部が赤い色を呈している(
図8の一段目参照)。更に、PBS等の透明な液中に移すと、瞬時に壁部中のフェノールレッドが拡散し赤色が抜ける(
図8の二段目参照)。これは管状構造物の壁部の分子透過性能が著しく高いことを表している。
【0114】
一方で、細胞だけで同様な管状構造物を作製した場合、管状構造物では、そもそも培地中のフェノールレッドを管状構造物の壁部が透過させないために、壁部が赤色を呈することすらない(
図9の右図)。著しく分子透過性能が低いことを表している。
これらのことから、実施例6にて作製した本発明の細胞構造体管状構造物の壁部は、細胞だけの管状構造物よりも極めて高い分子透過性能を有することが実証された。
【0115】
[比較例1]
リコンビナントペプチドブロックを用いないこと以外は、実施例5及び実施例6と同様にして、細胞のみからなる管状構造物の作製を試みた。その結果、細胞のみの構造体では形状を維持することが非常に困難で、培養過程であっても壊れてしまうことが観察された(
図10参照)
【0116】
[実施例8] 細胞構造体から構成される管状構造物のラットの頚静脈への移植
実施例6にて作製した細胞構造体管状構造物を、ヌードラットの頚静脈に吻合移植を行った。ヌードラット(雄の9週令)を用いて、麻酔処置(イソフルラン)下で処置した。まずラットの頚部を胸側から皮膚を切開し、左右頚静脈を露出させ、その後、癒着組織を剥離し、頚静脈を露出させた。頚静脈を中枢側、及び抹消側の二箇所でクランプし、血流を止め、血流の止まった血管を切断し、血管周囲の外膜を剥離した。マイクロスコープ下にて、実施例6で作製した細胞構造体の管状構造物を切断部血管に10−0縫合糸で縫合移植した。その後、末梢側のクランプを外し、血流再開を確認しながら、中枢側のクランプを外した。出血が止まったところで血管の開存を確認したところ、移植した細胞構造体管状構造物は開存していることが確認できた(
図11)。
【0117】
上記から、驚くべきことに、本発明による細胞構造体の管状構造物は、縫合が可能な強度及び柔軟性を有することが分かった。また、本発明による細胞構造体の管状構造物は、生体由来の血管との吻合が可能で、吻合部からの血液漏洩なく、血液を管状構造物内に流すことも可能であると分かった。
上記の通り、本発明の管状構造物は、生体組織で必要とされている管状構造として機能できることが確認できた。