特許第6961569号(P6961569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6961569-水分補給用剤 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961569
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】水分補給用剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20211025BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20211025BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20211025BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20211025BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20211025BHJP
   A23L 2/66 20060101ALI20211025BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20211025BHJP
【FI】
   A23L2/00 F
   A23L33/19
   A23L33/16
   A23L33/125
   A23L33/105
   A23L2/00 J
   A23L2/38 P
   A23L2/66
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-501755(P2018-501755)
(86)(22)【出願日】2017年2月23日
(86)【国際出願番号】JP2017006803
(87)【国際公開番号】WO2017146141
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2020年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-32302(P2016-32302)
(32)【優先日】2016年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健太郎
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/111357(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/111356(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/085059(WO,A1)
【文献】 特表2013−513398(JP,A)
【文献】 特開2004−137268(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/037719(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/133442(WO,A1)
【文献】 JAMES L.J. et al.,Effect of milk protein addition to a carbohydrate-electrolyte rehydration solution ingested after exercise in the heat,British Journal of Nutrition,2011年,105,pp. 393-399,要約,Table 1,Figs.1-2
【文献】 伊藤健太郎 他,乳たんぱく質強化乳飲料の体水分保持効果,体力科学,Vol. 62, No. 6,2013年,p.536,右上欄、222
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/52
A23L 33/19
A23L 33/16
A23L 33/125
A23L 33/105
A23L 2/66
A23L 2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳タンパク質、ナトリウム、糖質、0.2〜1.2質量%の大豆多糖類、0.1〜0.5質量%のHMペクチン、および0.01〜0.1質量%の繊維状の不溶性セルロースを有効成分として含有し、乳タンパク質濃度が、2〜7重量%であり、乳タンパク質が、カゼインタンパク質を含み、かつ酸性である、水分補給用剤。
【請求項2】
水分補給保持用である、請求項1に記載の水分補給用剤。
【請求項3】
ナトリウム濃度が、0.005〜0.1重量%である、請求項1または2に記載の水分補給用剤。
【請求項4】
糖質濃度が、0.1〜10重量%である、請求項1〜のいずれか一項記載の水分補給用剤。
【請求項5】
糖質が、トレハロース、スクロース、イソマルツロース、マルトース、ラクトース、グルコース、およびデキストリンからなる群から選択される一種以上含まれる、請求項1〜のいずれか一項記載の水分補給用剤。
【請求項6】
水分補給用剤のpHが3〜6である、請求項1〜のいずれか一項記載の水分補給用剤。
【請求項7】
乳タンパク質、ナトリウム、糖質、0.2〜1.2質量%の大豆多糖類、0.1〜0.5質量%のHMペクチン、および0.01〜0.1質量%の繊維状の不溶性セルロースを有効成分として含有し、乳タンパク質濃度が、2〜7重量%であり、乳タンパク質が、カゼインタンパク質を含み、かつ酸性である、水分補給用乳飲食品。
【請求項8】
乳飲料である、請求項に記載の水分補給用乳飲食品。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載の水分補給用剤または請求項またはに記載の水分補給用乳飲食品を、対象に摂取させることを含んでなる、水分補給方法。
【請求項10】
水分を補給するための飲食品または医薬品の製造のための使用であって、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、0.2〜1.2質量%の大豆多糖類、0.1〜0.5質量%のHMペクチン、および0.01〜0.1質量%の繊維状の不溶性セルロースを有効成分として含有し、乳タンパク質濃度が、2〜7重量%であり、乳タンパク質が、カゼインタンパク質を含み、かつ酸性である飲食品または医薬品の製造のための使用。
【請求項11】
水分を補給するための、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、0.2〜1.2質量%の大豆多糖類、0.1〜0.5質量%のHMペクチン、および0.01〜0.1質量%の繊維状の不溶性セルロースを有効成分として含有し、乳タンパク質濃度が、2〜7重量%であり、乳タンパク質が、カゼインタンパク質を含み、かつ酸性である飲食品または医薬品。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願特許出願は、2016年2月23日に出願された日本出願特願2016−32302号に基づく優先権の主張を伴うものであり、この日本出願の全開示内容は、引用することにより本願発明の開示の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である水分補給用剤に関する。
【背景技術】
【0003】
運動時や炎天下での作業時だけでなく、高温多湿の環境下では、睡眠などの室内の日常活動であっても、脱水症や熱中症が起こりやすい。特に、体液量(水と電解質を含む体内の総水分量)が減少し、かつ水分の摂取に重要な食事量も低下しがちな高齢者や、温度の影響を受けやすい小児(0〜15歳)では、脱水症状が起きていることに気づきにくく、徐々に脱水症となっている、いわゆる、かくれ脱水からの熱中症が深刻な問題となっている。
【0004】
熱中症の対策のためには、運動、作業、日常活動などにより発生した熱を、体外に効率的に放出(放熱)し、体温を調節する必要がある。そして、この放熱には、外気への熱伝導による熱放散を目的とした皮膚の血液流量の増加、および汗の蒸発による熱放散を目的とした発汗量の増加を伴うこととなる。そこで、熱中症の対策(予防および緩和)のためには、体内に水分を速やかに補給し、保持する必要がある。
【0005】
牛乳は、摂取した水分を保持する能力に優れているが、牛乳中の成分であるカゼインが胃内で固形化するため、水やスポーツドリンクよりも胃排出が遅く、体内への水分吸収が遅いとの問題があった。
【0006】
一方、運動で消費される糖質、および発汗によって失われる電解質の補給を目的として、糖質・電解質配合スポーツドリンクがよく用いられており、これまで水分補給に関する有効性が報告されている(例えば、非特許文献1および2参照)。しかしながら、これらのスポーツドリンクは、水分を体内で長く保持するとういう観点からは必ずしも十分ではなく、牛乳に劣ることが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0007】
経口補水液(Oral Rehydration Solution:ORS)は、ナトリウムを大量に喪失する下痢を起こすコレラにおける脱水症を治療するために、開発された飲料である。ナトリウムを多く含む飲料であり、体液よりも浸透圧が低い、ハイポトニック(低張液)となるように調整されているものが多い。しかしながら、嘔吐や下痢を伴うような病的な脱水症の治療のために設計された経口補水液を、健常者の運動、作業、日常活動における水分補給に用いると、場合によって、高ナトリウム血症を誘発し、長期的には、高血圧を誘発することがある。
【0008】
特許文献1には、ゲル状組成物を有効成分とする血漿量増加促進剤が開示されているが、該ゲル状組成物はカルシウムを含有するものであり、本発明の飲食品とは全く異なるものである。
【0009】
特許文献2には、水性タンパク質分離物から誘導されるタンパク質を含む酸性タンパク質組成物が開示されているが、該組成物にはカゼイネートを本質的に含まれない点で、本発明の飲食品とは全く異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−137268号公報
【特許文献2】特表2014−509525号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Chang, C.Q et al., “Effects of a carbohydrate-electrolyte beverage on blood viscosity after dehydration in healthy adults,” Chin. Med. J., 2010, 123(22), 3220-3225
【非特許文献2】Shirreffs, S.M et al., “Rehydration after exercise in the heat: a comparison of 4 commonly used drinks,” Int. J. Sport Nutr. Exerc. Metab., 2007, 17, 244-258.
【非特許文献3】Shirreffs, S.M et al., “Milk as an effective post-exercise rehydration drink,” Br. J. Nutr., 2007, 98, 173-180.
【発明の概要】
【0012】
本発明は、生体内への水分吸収が速い特性を有する水分補給用剤を提供することを目的とする。
【0013】
本発明者らは、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性とした混合物を水分とともに摂取すると、水がすみやかに生体内に取り込まれることを見出し、この水分補給用剤を開発した。また、この水分補給用剤は、取り込まれた水分が長時間経過しても尿として排出されず、体内に水分を長時間保持できることも予想外にも見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0014】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である、水分補給用剤。
[2]水分補給保持用である、(1)に記載の水分補給用剤。
[3]乳タンパク質濃度が、2〜7重量%である、(1)または(2)に記載の水分補給用剤。
[4]ナトリウム濃度が、0.005〜0.1重量%である、(1)〜(3)のいずれかに記載の水分補給用剤。
[5]糖質濃度が、0.1〜10重量%である、(1)〜(4)のいずれかに記載の水分補給用剤。
[6]糖質が、トレハロース、スクロース、イソマルツロース、マルトース、ラクトース、グルコース、およびデキストリンからなる群から選択される一種以上含まれる、(1)〜(5)のいずれかに記載の水分補給用剤。
[7]安定剤が、0.2〜1.2質量%の大豆多糖類、0.1〜0.5質量%のHMペクチン、および0.01〜0.1質量%の繊維状の不溶性セルロースを含有する、(1)〜(6)のいずれかに記載の水分補給用剤。
[8]水分補給用剤のpHが3〜6である、(1)〜(7)のいずれかに記載の水分補給用剤。
[9]乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である、水分補給用乳飲食品。
[10]乳飲料である、(9)に記載の水分補給用乳飲食品。
[11](1)〜(8)のいずれかに記載の水分補給用剤または(9)または(10)に記載の水分補給用乳飲食品を、対象に摂取させることを含んでなる、水分補給方法。
[12]水分を補給するための飲食品または医薬品の製造のための使用であって、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である飲食品または医薬品の製造のための使用。
[13]水分を補給するための、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である飲食品または医薬品。
[14]水分を補給するための、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である飲食品または医薬品の使用。
【0015】
本発明によれば、生体内への水分吸収が速い特性を有する、水分補給用剤を提供することができる。また、本発明の好ましい態様によれば、生体内への水分吸収が速く、かつ水分が生体内に長く保持される特性を有する水分補給保持用剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、飲料経口投与後の各時点での血漿量変化率(%)を表す。
図2図2は、飲料経口投与後の各時点での累積尿排泄量(mL)を表す。
【発明の具体的説明】
【0017】
本発明の水分補給(用)剤は、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である水分補給用剤である。本発明の水分補給用剤は、生体内への水分吸収が速い特性を有することから、脱水症や、熱中症などをすみやかに緩和し、予防することができる。
【0018】
本発明の水分補給用剤は、後記所定量の水分を含むもののみならず、所定量の水分に満たない量の水分を含むものや、所定量の水分が実質的に除かれたものも包含する。本発明の水分補給用剤のうち、所定量の水分に満たない水分量を含むものや、所定量の水分が実質的に除かれたものを摂取または投与する際には、必要とされる量の水分を当該水分補給用剤と同時または別々に摂取または投与する。
【0019】
本発明の水分補給用剤は、後記所定量の水分を含んでなるものが、摂取または投与の便宜等の観点から好ましい。このような水分補給用剤は、所定量の水分を同時に摂取または投与するものとして、所定量の水分を含む混合物として調整されたものである。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、安定剤、および水を有効成分として含有し、かつ酸性である、水分補給用剤が提供される。
【0020】
本発明において、「有効成分」とは、水分補給効果および/または水分保持効果を奏する上で必要とされる成分のことを意味し、好ましくは体内へ水分を補給および/または体内に水分を保持しにくい環境および/または状態にある対象のための、水分補給効果および/または水分保持効果を奏する上で必要とされる成分のことを意味する。
【0021】
本発明において、「体内へ水分を補給および/または体内に水分を保持しにくい環境および/または状態にある対象」とは、体液、すなわち、体内の水分および/または電解質が減少しやすい対象を意味し、例えば、筋力トレーニングなどの持続的な運動、炎天下などの屋外の作業、および睡眠などの屋内の日常活動、特に高温多湿の環境下の日常活動を行う対象が挙げられる。持続的な運動、屋外の作業または高温多湿の環境下の日常活動時には、脱水が起こりやすい。よって、本発明の水分補給用剤を摂取する対象には、脱水症や熱中症の予備軍(かくれ脱水の者など)および脱水症や熱中症を患う者が包含される。
【0022】
本発明の水分補給用剤を摂取する対象には、体内の水分を補給および/または体内に水分を保持することを必要とする対象であれば、特に制限されないが、ヒトの場合、具体的には、それぞれの対象の体重の1〜9重量%などに相当する水分が喪失し、または喪失することが予測される者である。ここで、発汗などの水分の喪失による体重の減少が1〜2重量%では軽度の脱水症、3〜9重量%では中等度の脱水症、10重量%以上では高度の脱水症と分類される。また、この対象には、ヒト以外の動物(馬、牛などの家畜、犬、猫などの愛玩動物、動物園などで飼育されている鑑賞動物など)も包含される。
【0023】
本発明の水分補給用剤は、所定量の水分と同時または別々に、体内の水分を補給することが必要な対象が摂取すると、すみやかに水分を補給することができる。ここで、「すみやかに」とは、水分を摂取してから、例えば60分以内に、好ましくは30分以内に、より好ましくは15分以内に体内の血漿量を増加させることができる。よって、本発明の好ましい態様によれば、水分即時(急速)(例えば、60分以内)補給用剤が提供される。
【0024】
また、本発明の水分補給用剤は、所定量の水分と同時または別々に、体内に水分を保持することが必要な対象が摂取すると、長時間にわたり、体内の水分を保持することができる。ここで、「長時間」とは、体内の水分を保持しにくい環境および/または状態により適宜変動するが、所望の水分保持効果を奏する時間を意味する。具体的には、「長時間」とは、通常の日常活動時において、好ましくは摂取後から2時間、より好ましくは摂取後から3時間、さらに好ましくは摂取後から4時間、さらに好ましくは摂取後から6時間、さらに好ましくは摂取後から7時間、特に好ましくは摂取後から8時間、本発明の水分補給用剤と、同時または別々に摂取する水分を、体内に保持できること意味する。よって、本発明の好ましい態様によれば、水分補給長期(例えば、2時間以上)保持用剤が提供される。
【0025】
水分補給効果(作用、機能)とは、本発明の水分補給用剤(または、水分補給保持剤)と同時または別々に摂取した水分の大半が、体内の血漿中に存在できることを意味する。また、水分補給作用とは、例えば、ラットによる血漿量の比較試験により確認することができ、具体的には、試験液と蒸留水の摂取後の時間において、試験液の水分と同量の蒸留水を摂取した場合と比較して、試験液を摂取した場合に血漿量が高いと、有意であると判断することができる(例えば、下記試験例1参照)。そして、より具体的には、水分補給作用とは、血漿量変化率(%)から確認することができる。
【0026】
水分保持効果(作用、機能)とは、本発明の水分補給用剤(または、水分補給保持剤)と同時または別々に摂取した水分の大半を、尿として排出せず、体内に長時間保持できることを意味する。また、水分保持作用とは、例えば、ラットの尿排泄量の比較試験により確認することができ、具体的には、試験液と蒸留水の摂取後の時間において、試験液の水分と同量の蒸留水を摂取した場合と比較して、試験液を摂取した場合に尿排泄量が少ないと、有意であると判断することができる(例えば、下記試験例2参照)。ここで、蒸留水を摂取した場合、摂取後から約2時間で、その摂取量の約80%が尿として排出される。そして、より具体的には、水分保持作用とは、水分保持率から確認することができ、水分保持率(%)は、式1:[1−(尿排泄量/摂取量)]×100から算出することができる。
【0027】
本発明の好ましい実施態様によれば、例えば、本発明の水分補給用剤では、摂取後から15分において、血漿量変化率(%)は、例えば、3%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上、さらに好ましくは10%以上である。
【0028】
本発明の好ましい実施態様によれば、例えば、本発明の水分補給用剤(または、水分補給保持剤)では、摂取後から2時間において、水分保持率は65%、好ましくは70%、より好ましくは80%、さらに好ましくは85%、さらに好ましくは90%である。
【0029】
本発明の水分補給用剤(または、水分補給保持剤)は、体内に水分を長時間保持できる。すなわち、本発明の水分補給用剤は、優れた水分保持効果を有するため、体内に十分な水分を摂取(投与)できれば、短時間のうちに何度も摂取する必要がない。したがって、本発明の水分補給用剤を体内に水分を保持することを必要とする対象に摂取させる(投与する)摂取(投与)間隔を、例えば、本発明の水分補給用剤の初回の摂取から次回の摂取までの間隔、または次回の摂取から次々回の摂取までの間隔を、少なくとも0.5時間とすることができる。前記摂取間隔は、好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも2時間、さらに好ましくは少なくとも3時間、さらに好ましくは少なくとも4時間、さらに好ましくは少なくとも5時間、さらに好ましくは少なくとも6時間、特に好ましくは少なくとも7時間、最も好ましくは少なくとも8時間とすることができる。また、本発明の水分補給用剤を、体内に水分を保持することを必要とする対象に摂取させる(投与する)摂取回数は、特に制限されないが、体内に十分な水分を摂取(投与)できる、すなわち、補給できる限り、一回、すなわち、一息(一度)の摂取でよい。ここで、体内にとって十分な水分の摂取量は、体内に水分を保持しにくい環境および/または状態により適宜変動するが、ヒトの場合、50〜1000ml、好ましくは100〜1000ml、より好ましくは150〜1000ml、さらに好ましくは200〜1000ml、特に好ましくは250〜1000mlである。
【0030】
本発明の水分補給用剤を、所定量の水分と同時または別々に、摂取させる方法(あるいは投与する方法)は、経口摂取(あるいは経口投与)、経腸投与、胃ろうなどから、その対象および用途により、適宜選択することができるが、好ましくは経口摂取(あるいは経口投与)である。
【0031】
本発明の水分補給用剤は、所定量の水分と同時または別々に摂取させることで、脱水症の予防および緩和、ひいては、熱中症の予防および緩和を実現することができる。すなわち、本発明の水分補給用剤は、脱水症または熱中症の予防(用)剤および/または治療(用)剤として用いることができる。
【0032】
本発明の水分補給用剤は、水分補給保持用剤であることが好ましい。本発明の水分補給保持(用)剤は、生体内への水分吸収が速く、かつ水分が生体内に長く保持される特性を有するものである。本発明の水分補給保持用剤がこのような特性を有することにより、脱水症や、熱中症などをすみやかに緩和することができ、かつ脱水症や、熱中症などの予防を効果的に行うことができる点で有利である。
【0033】
本発明の水分補給用剤および水分補給保持用剤は、運動前中後、起床時、就寝前、お風呂あがり、お酒を飲んだ後、暑い日などに水分を補給したり、保持したりする際に特に有効である。また、本発明の水分補給用剤および水分補給保持用剤は、運動を行う対象だけでなく、水分補給や保持を必要とする子供、熱中症対策が必要な高齢者、肉体労働者にとっても特に有用である。
【0034】
本発明において、「水分補給」とは、生体内への水分吸収が速い特性に基づくものであり、このことを意味する限りにおいて、他の用語であってもよい。「水分補給用剤」は、例えば、「水分吸収促進用剤」、「水分吸収改良用剤」、「水分急速補給用剤」、「水分補給向上用剤」、「血液量増加促進用剤」、「水分増加促進用剤」、「血漿量増加促進用剤」、「血液量回復促進用剤」、「水分回復促進用剤」、または「血漿量回復促進用剤」などと言い換えても良い。
【0035】
本発明において、「水分補給保持」とは、生体内への水分吸収が速く、かつ水分が生体内に長く保持される特性に基づくものであり、このことを意味する限りにおいて、他の用語であってもよい。「水分補給保持用剤」は、例えば、「水分吸収保持促進用剤」、「水分吸収保持改良用剤」、「水分補給保持向上用剤」、「血液量増加促進保持用剤」、「水分回復促進保持用剤」、または「血漿量増加促進保持用剤」などと言い換えても良い。
【0036】
本発明の水分補給用剤のpHは、酸性であれば特に制限されるものではないが、好ましくは3〜6であり、より好ましくは3〜5であり、さらに好ましくは3.5〜4.5である。本発明の水分補給用剤のpHを3〜6とすることにより、酸味が適度に感じられ、嗜好性の高いさっぱりとした風味を有する点で好ましい。
【0037】
本発明の水分補給用剤に含まれる乳タンパク質は、乳由来のタンパク質であれば特に制限されず、例えば、牛乳、羊乳、山羊乳、水牛乳、めん羊乳、ラクダ乳、クジラ乳、イルカ乳、人乳などの哺乳動物由来の乳の乳タンパク質であってもよい。また、本発明の水分補給用剤に含まれる乳タンパク質は、例えば、ホエイタンパク質、カゼインタンパク質、ホエイタンパク質分解物、カゼインタンパク質分解物、ペプチド、または非タンパク態窒素成分を特定の濃度(含量)で含んでいるものが挙げられる。この「乳タンパク質」は、別々に分離や精製された、ホエイタンパク質、カゼインタンパク質、ホエイタンパク質分解物、カゼインタンパク質分解物、ペプチド、または非タンパク態窒素成分を特定の濃度になるように混合して用いてもよいし、あるいは、別々に分離や精製されていない、ホエイタンパク質、カゼインタンパク質、ホエイタンパク質分解物、カゼインタンパク質分解物、ペプチド、または非タンパク態窒素成分を既に特定の濃度で含んでいる原料(素材)や飲食品などを用いてもよい。このとき、本発明に用いられる「乳タンパク質」では、ホエイタンパク質、カゼインタンパク質、ホエイタンパク質分解物、カゼインタンパク質分解物、ペプチド、非タンパク態窒素成分の分離工程や精製工程を必要とせず、それらの製造費が安価である点で、ホエイタンパク質、カゼインタンパク質、ホエイタンパク質分解物、カゼインタンパク質分解物、またはペプチドおよび非タンパク態窒素成分を既に特定の濃度で含んでいる原料や飲食品などを主要な成分とし、必要に応じて、別々に精製されたホエイタンパク質、カゼインタンパク質、ホエイタンパク質分解物、カゼインタンパク質分解物、またはペプチドおよび非タンパク態窒素成分を特定の濃度になるように混合して用いることが好ましい。
【0038】
本発明の水分補給用剤に含まれる乳タンパク質は、1種の乳を単独で用いてもよいし、2種以上の乳を混合して用いてもよい。そして、この乳タンパク質は、化学品(試薬など)のような高純度の成分を用いてもよいし、分離物や精製物のような混合成分を用いてもよい。ここで、タンパク質含量は、例えば、食品成分表などの公知の情報に基づいて算出してもよく、また、ケルダール法やローリー法などの慣用の方法によって測定して算出してもよい。実際に、ケルダール法の場合には、各種のタンパク質に含まれる窒素を測定し、その値に、窒素−タンパク質換算係数(通常 6.25)を乗じて算出することができる。
【0039】
本発明の水分補給用剤に含まれる乳タンパク質はカゼインを含んでいてもよく、カゼインを含む乳タンパク質とは、カゼインタンパク質とホエイタンパク質で構成されている乳タンパク質のことをいう。ここで、本発明の水分補給用剤における、カゼインタンパク質とホエイタンパク質との重量の割合は、(カゼインタンパク質):(ホエイタンパク質)として、例えば、20:1、15:1、12:1、10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、1:12、1:15、1:20であってもよい。すなわち、本発明の水分補給用剤における、カゼインタンパク質とホエイタンパク質の重量の割合は、(カゼインタンパク質):(ホエイタンパク質)として、例えば、20〜1:1〜20、好ましくは15〜1:1〜15、より好ましくは12〜1:1〜12、さらに好ましくは10〜1:1〜10、さらに好ましくは9〜1:1〜9、さらに好ましくは8〜1:1〜8、さらに好ましくは7〜1:1〜7、さらに好ましくは6〜1:1〜6、さらに好ましくは5〜1:1〜5、さらに好ましくは4〜1:1〜4、さらに好ましくは3〜1:1〜3、さらに好ましくは2〜1:1〜2であってもよい。
【0040】
好ましい態様によれば、本発明の水分補給用剤に含まれる乳タンパク質中のカゼインタンパク質とホエイタンパク質との重量の割合は、(カゼインタンパク質):(ホエイタンパク質)として、例えば、5〜3:2〜0.5であってよく、好ましくは4:1である。
【0041】
本発明の水分補給用剤の粘度(10℃)は、例えば、3〜30mPa・s、好ましくは3.5〜30mPa・s、より好ましくは4〜30mPa・s、さらに好ましくは4.5〜30mPa・s、さらに好ましくは5〜30mPa・s、さらに好ましくは5.5〜29mPa・s、さらに好ましくは6〜28mPa・s、さらに好ましくは6.5〜27mPa・s、さらに好ましくは7〜26mPa・s、さらに好ましくは7.5〜25mPa・s、さらに好ましくは8〜24mPa・s、さらに好ましくは8.5〜23mPa・s、さらに好ましくは9〜22mPa・s、さらに好ましくは9.5〜21mPa・s、さらに好ましくは10〜20mPa・sである。この粘度は、B型回転粘度計により測定された粘度であり、汎用のブルックフィールド粘度計などを用いて測定することができる。本発明の水分補給用剤の粘度(10℃)が3mPa・sを上回ることにより、本発明の水分補給用剤にカゼインタンパク質が含まれる場合、該カゼインタンパク質の不安定化による水分補給用剤の分離及び沈殿の発生を防止できる点で好ましい。また、本発明の水分補給用剤の粘度(10℃)が30mPa・sを下回ることにより、高濃度のカゼインを含む乳タンパク質を含有する水分補給用剤であっても、低粘度で飲みやすい形態ではなくなることを防止できることから好ましい。
【0042】
本発明の水分補給用剤に含まれる乳タンパク質の濃度は、本発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されるものではないが、好ましくは2〜7重量%、より好ましくは3〜5重量%である。
【0043】
本発明の水分補給用剤に含まれるナトリウムの濃度は、本発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されるものではないが、好ましくは0.005〜0.1重量%、より好ましくは0.01〜0.05重量%、さらに好ましくは0.01〜0.02重量%である。ここで、ナトリウム濃度は、例えば、食品成分表などの公知の情報に基づいて算出してもよく、また、慣用の方法によって測定して算出してもよい。本発明の水分補給用剤に含まれるナトリウムは、化学品(試薬など)のような高純度の成分を用いてもよいし、ナトリウムを含んでいる原料や飲食品を用いてもよく、例えば、乳に由来するナトリウムを含んでいる乳原料や乳製品を用いてもよい。
【0044】
本発明の水分補給用剤に含まれる糖質(炭水化物)は、その由来や形態には制限されず、例えば、乳糖、砂糖、果糖、ブドウ糖、マルトース、トレハロース、イソマルツロース(市販品として、例えば、パラチノース(三井製糖株式会社製)が挙げられる)、オリゴ糖、デキストリン、澱粉、食物繊維が挙げられる。そして、この糖質は、長時間にわたる水分保持効果を高める点で、好ましくは、乳糖、砂糖、ブドウ糖、マルトース、トレハロース、イソマルツロース、またはデキストリンである。また、この糖質は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。ここで、糖質濃度は、例えば、食品成分表などの公知の情報に基づいて算出してもよく、また、慣用の方法によって測定して算出してもよい。本発明に用いられる糖質は、化学品(試薬など)のような高純度の成分を用いてもよいし、糖質を含んでいる原料や飲食品を用いてもよく、例えば、乳に由来する糖質(主成分が乳糖である)を含んでいる乳原料や乳製品を用いてもよい。あるいは、この糖質は、糖質として公知の食品添加物を所望の濃度となるように用いてもよい。
【0045】
本発明の水分補給用剤に含まれる糖質は、本発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されるものではないが、例えば、トレハロース、スクロース、イソマルツロース、マルトース、ラクトース、グルコース、およびデキストリンからなる群から選択される一種以上含まれ、好ましくはトレハロースおよび/またはイソマルツロースが含まれ、より好ましくはトレハロースが含まれる。本発明の水分補給用剤にトレハロースを含有させることにより、水分補給用剤の分離及び沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で飲みやすい形態の特徴を更に付与することができる。トレハロースは商業的にも入手可能であり、例えば、トレハ(林原社製)を用いることができる。
【0046】
本発明の水分補給用剤に含まれる糖質の濃度は、本発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されるものではないが、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは1〜6重量%、さらに好ましくは2〜3重量%である。
【0047】
本発明の水分補給用剤に含まれる安定剤は、本発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されるものではないが、好ましくは大豆多糖類、HMペクチン、または繊維状の不溶性セルロースが挙げられ、より好ましくは0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、および0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロースを含有するものである。本発明の別の態様によれば、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチン、および0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロースを有効成分として含有し、かつ酸性である水分補給用剤である。
【0048】
大豆多糖類とは、大豆由来のラムノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、グルコース、ウロン酸の1種もしくは2種以上を含むものであればよいが、大豆のなかでも子葉由来のものが好ましい。本発明の大豆多糖類は、その分子量に特に制限はないが、高分子の分子量であることが好ましく、平均分子量が数千〜数百万、具体的には5千〜100万であるのが好ましい。なお、この大豆多糖類の平均分子量は標準プルラン(昭和電工株式会社)を標準物質として0.1MNaNO溶液中の粘度を測定する極限粘度法で求めた値である。かかる大豆多糖類は商業的に入手可能であり、例えば、SM−700(三栄源エフ・エフ・アイ社製)またはSM−900(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を用いることができる。大豆多糖類は、その側鎖の構造により、飲食品中のカゼインタンパク質同士の酸凝固が原因となる、飲食品の分離及び沈殿を抑制すると言われている。
【0049】
本発明の水分補給用剤に含まれる大豆多糖類の濃度は、例えば、本発明の水分補給用剤に0.1〜0.5重量%のHMペクチン、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロースを含有させる場合には、例えば、0.2〜1.2重量%、好ましくは0.25〜1.15重量%、より好ましくは0.3〜1.1重量%、さらに好ましくは0.35〜1.05重量%、さらに好ましくは0.4〜1重量%、さらに好ましくは0.4〜0.9重量%、さらに好ましくは0.4〜0.6重量%である。本発明の水分補給用剤に含まれる大豆多糖類の濃度が、1.2重量%を下回ることにより、水分補給用剤に大豆独特の風味が感じられるようになることを回避する上で好ましい。また、本発明の水分補給用剤に含まれる大豆多糖類の濃度が0.2重量%を上回ることにより、本発明の水分補給用剤の分離及び沈殿の発生を抑制し、さらには、再分散性も良好にする上で好ましい。
【0050】
HMペクチンとは、野菜や果物に細胞壁成分として存在する、α−D−ガラクツロン酸を主鎖成分とする酸性多糖類である。ペクチンを構成するガラクツロン酸は部分的にメチルエステル化されており、エステル化度によってLMペクチンとHMペクチンに分けられる。HMペクチンは、一般的にエステル化度が50%以上であるものをいう。かかるHMペクチンは商業的に入手可能であり、例えば、SM−478(三栄源エフ・エフ・アイ社製)、SM−666(三栄源エフ・エフ・アイ社製)、AYD5110SB(ユニテックフーズ社製)などがある。HMペクチンは、マイナス荷電を帯びているのが特徴であり、カゼインタンパク質と結合することにより、結合したカゼインタンパク質同士が電荷により反発することで、カゼインタンパク質同士の凝集を防ぐといわれている。
【0051】
本発明の水分補給用剤に含まれるHMペクチンの濃度は、本発明の水分補給用剤に0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.01〜0.1重量%の繊維状の不溶性セルロースを含有させる場合には、例えば、0.1〜0.5重量%、好ましくは0.1〜0.45重量%、より好ましくは0.1〜0.4重量%、さらに好ましくは0.1〜0.35重量%、さらに好ましくは0.1〜0.3重量%、さらに好ましくは0.12〜0.29重量%、さらに好ましくは0.14〜0.28重量%、さらに好ましくは0.16〜0.27重量%、さらに好ましくは0.18〜0.26重量%、さらに好ましくは0.2〜0.25重量%である。本発明の水分補給用剤に含まれるHMペクチンの濃度が0.5重量%を下回ることにより、高濃度のカゼインを含む乳タンパク質を含有する水分補給用剤でありながらも低粘度で飲みやすい形態とする上で好ましい。また、本発明の水分補給用剤に含まれるHMペクチンの濃度が0.1重量%を上回ることにより、水分補給用剤の分離及び沈殿の発生を抑制し、さらには、再分散性も良好にする上で好ましい。
【0052】
繊維状の不溶性セルロースとは、水分補給用剤に含有させることで、その飲食品中に三次元網目構造を構築することができるものであり、沈殿などの不溶性成分の分散性を向上することができる。繊維状の不溶性セルロースは、水分補給用剤の分離及び沈殿を抑制し、再分散性も良好で、低粘度で飲みやすい形態であれば、その由来などには制限がなく、植物由来及び/又は微生物由来のものを使用することができる。微生物由来の繊維状の不溶性セルロースは、例えば、微生物により産生された発酵セルロースを培地から分離処理され、洗浄されて、適宜精製され繊維状としたものである。この繊維状の不溶性セルロースは、例えば、平均直径0.01〜0.1μmまでミクロフィブリル化されている繊維状不溶性セルロース(例えば、特開2005−245217号公報参照)、又は発酵セルロースである。本発明の繊維状の不溶性セルロースは商業的に入手可能であり、例えば、サンアーティストPG(三栄源エフ・エフ・アイ社製)、サンアーティストPN(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を用いることができる。
【0053】
本発明の水分補給用剤に含まれる繊維状の不溶性セルロースの濃度は、本発明の水分補給用剤に0.2〜1.2重量%の大豆多糖類、0.1〜0.5重量%のHMペクチンを含有させる場合には、例えば、0.01〜0.1重量%、好ましくは0.015〜0.09重量%、より好ましくは0.02〜0.08重量%、さらに好ましくは0.025〜0.085重量%、さらに好ましくは0.03〜0.07重量%、さらに好ましくは0.03〜0.065重量%、さらに好ましくは0.03〜0.06重量%、さらに好ましくは0.03〜0.055重量%、さらに好ましくは0.03〜0.05重量%である。本発明の水分補給用剤に含まれる繊維状の不溶性セルロースの濃度が0.1重量%を下回ることにより、高濃度のカゼインを含む乳タンパク質を含有する飲食品が低粘度で飲みやすい形態ではなくなることを回避する上で好ましい。また、本発明の水分補給用剤に含まれる繊維状の不溶性セルロースの濃度が0.01重量%を上回ることにより、水分補給用剤の分離及び沈殿の発生を抑制できず、さらには、再分散性も良好でなくなることを回避する上で好ましい。
【0054】
本発明の水分補給用剤は脂質を含んでいてもよい。この脂質は、その由来や形態は制限されず、その原料として、例えば、生乳、全脂濃縮乳、全脂粉乳、(生)クリーム、バター、植物油脂、魚油、ラード、ヘッド、中鎖トリアシルグリセロール油が挙げられる。そして、この「脂質」は、脂質に由来する甘味や濃厚感が良好となる点で、その原料として、好ましくは、生乳、全脂濃縮乳、全脂粉乳、(生)クリーム、バターであり、すなわち、好ましくは、乳脂肪である。なお、この「脂質」は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。ここで、脂質含量は、例えば、食品成分表などの公知の情報に基づいて算出してもよく、また、慣用の方法によって測定して算出してもよい。本発明に用いられる「脂質」は、脂質を含んでいる原料や飲食品を用いてもよく、例えば、乳に由来する脂質を含んでいる乳原料や乳製品を用いてもよい。あるいは、この「脂質」は、公知の食品添加物を所望の濃度となるように用いてもよい。
【0055】
本発明の水分補給用剤に脂質が含まれる場合のその脂質含量は、所定量の水分を含む混合物として調整した場合、水分補給用剤当たり3.9重量%以下が望ましい。このとき、本発明の水分補給用剤では、脂質を含んでいなくても、その水分補給効果および/または水分保持効果を発揮するが、脂質を含んでいると、脂質に由来する濃厚感を付与できる点で好ましい。そこで、本発明の好ましい態様によれば、本発明の水分補給用剤では、脂質含量は、所定量の水分を含む混合物として調整した場合、好ましくは水分補給用剤当たり0.3〜3.9重量%、より好ましくは0.5〜3.5重量%、さらに好ましくは0.8〜3.0重量%、特に好ましくは1.0〜2.5重量%、最も好ましくは1.2〜2.0重量%である。
【0056】
本発明の一つの実施態様によれば、本発明の水分補給用剤は、脂質を含まなくても、その効果を発揮するため、脂質の摂取量を制限する必要のある対象、例えば、生活習慣病や脂質代謝障害を患う対象に対して効率的な水分保持作用を奏することができる。このとき、本発明の水分補給用剤は、好ましくは、脂質を含まないものであるが、その原料として、乳原料や乳製品を用いる場合、脂質を完全に除去することが困難であるため、本発明の水分補給用剤は、所定量の水分を含む混合物として調整した場合、脂質を少なくとも水分補給用剤当たり0.05重量%程度で含んでなるものである。具体的には、原料として、乳原料や乳製品を用いる場合、本発明の水分補給用剤の脂質含量は、所定量の水分を含む混合物として調整した場合、好ましくは水分補給用剤当たり0.05〜3.7重量%、より好ましくは0.05〜3.5重量%、さらに好ましくは0.05〜3.0重量%、さらに好ましくは0.05〜2.5重量%、さらに好ましくは0.05〜2.0重量%、さらに好ましくは0.05〜1.7重量%、さらに好ましくは0.05〜1.5重量%、特に好ましくは0.05〜1.3重量%、最も好ましくは0.05〜1.0重量%である。
【0057】
本発明の水分補給用剤には水が含まれていてもよく、ここで水とは、体内の水分となるものであればよく、本発明の水分補給用剤と同時または別々に摂取されるものを意味し、例えば、水道水、ミネラルウォーター、井戸水、蒸留水、純水や、炭酸水が挙げられる。本発明の水分補給用剤を所定量の水分を含む混合物として調整した場合、所定量の水分は、水分補給用剤当たり75.1〜99.35重量%が望ましい。
【0058】
本発明の水分補給用剤は、その効果が奏される限り、所定量の水分を含む形態、あるいは所定量の水分に満たない量の水分を含む混合物としての形態(液状形態)であっても、所定量の水分が実質的に除かれた形態(乾燥形態)であってもよく、例えば、固体状(粉末状、顆粒状、カプセル状、ブロック状など)、液状、ゲル状、糊状、ペースト状などの形態をとることができる。本発明の水分補給用剤では、固体状の場合には、水分を別にすることができるため保存性や携帯性を高めることができるが、液状であっても、後記するように耐熱効果があって加工適性が良好であり、その結果として、保存性は高いといえる。
【0059】
本発明の一つの態様によれば、本発明の水分補給用剤では、一食あたり0.07g以上/kg体重となるように摂取されることが望ましく、好ましくは0.1〜4.4g/kg、より好ましくは0.2〜2.7g/kg、さらに好ましくは0.2〜1.8g/kg、特に好ましくは0.2〜0.9g/kgとなるように摂取される。ここで、対象の代表的な体重は、60kgと見積もっている。なお、本発明の水分補給用剤では、その一食摂取量は、水分を含む混合物として調製した場合、例えば、200〜1000ml、好ましくは400〜1000mlとなるように水分含量を適宜調整することができる。
【0060】
本発明の別の態様によれば、例えば、本発明の水分補給用剤は、一食あたりの単位包装形態からなり、該単位包装形態中に、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を含み、一食摂取量として、例えば1〜26gに調整されたものであり、4〜26gに調整したものが望ましく、別の態様としては、好ましくは2〜16g、より好ましくは2〜13g、さらに好ましくは2〜11gに調整してなるものである。ここで、「一食あたりの単位包装形態」からなるとは、一食あたりの摂取量があらかじめ定められた形態のものであり、例えば、特定量を経口摂取し得る飲食品として、一般食品のみならず、飲料(ドリンク剤など)、健康補助食品、保健機能食品、サプリメントなどの形態を意味する。「一食あたりの単位包装形態」では、例えば、液状の飲料、ゲル状、糊状、若しくはペースト状のゼリー、粉末状、顆粒状、カプセル状、若しくはブロック状の固体状の食品などの場合には、金属缶、ガラスビン(ボトルなど)、プラスティック容器(ペットボトルなど)、パック、パウチ、フィルム容器、紙箱などの包装容器で特定量(用量)を規定できる形態、あるいは、一食あたりの摂取量(用法、用量)を包装容器やホームページなどに表示することで特定量を規定できる形態が挙げられる。なお、本発明の水分補給用剤では、その一食摂取量は、水分を含む混合物として調製した場合、例えば、200〜1000ml、好ましくは400〜1000mlとなるように水分含量を適宜調整することができる。
【0061】
本発明の別の態様によれば、例えば、本発明の水分補給用剤では、その形態がいわゆる健康ドリンクである場合には、4〜26gの「乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤」が懸濁あるいは溶解された飲料が一食あたり飲み切り容量(用量)で、200〜1000mlとなるように水分含量で調整して、例えば、金属缶、ガラスビン(ボトルなど)、プラスティック容器(ペットボトルなど)の包装容器に入れられている(充填されている)形態が挙げられる。あるいは、4〜26gの「乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤」が懸濁あるいは溶解された飲料が一食あたり摂取量(用法、用量)(例えば、200〜1000ml)を包装容器やホームページなどに表示して、数食分(数回分)を一括した容量で、大容量の包装容器などに入れられている形態が挙げられる。
【0062】
本発明の水分補給用剤は、所定の成分を含むように製造される限り、その製造工程(製造手順)は制限されないが、例えば、牛乳、成分調整牛乳、加工乳、乳飲料などの製造工程に基づいて製造することができる。本発明の水分補給用剤は、例えば、公知の製造方法(製造手法)に従って、生乳(原乳)、殺菌乳、濃縮乳、粉乳、還元乳に対して、乳タンパク質や乳脂肪などの各種成分を配合(調整)することで製造することができるし、あるいは、成分調整牛乳や加工乳(低脂肪乳や無脂肪乳など)に対して、乳タンパク質や乳脂肪などの各種成分を配合(調整)することで製造することもできる。
【0063】
本発明の水分補給用剤は、耐熱性(熱安定性)が高く、耐熱効果を奏する。ここで、耐熱効果を奏するとは、特定の温度で処理しても、タンパク質が熱変性により固化(凝集)しないことを意味し、具体的には、牛乳の一般的な加工処理で用いられる条件や方法にて加熱殺菌しても、タンパク質が熱変性しないことを意味する。すなわち、耐熱効果を奏するとは、本発明の水分補給用剤では、より具体的には、62〜65℃、30分間で加熱殺菌(LTLT処理:低温長時間加熱)するか、あるいは、これと同程度以上の殺菌効果を有する方法として、例えば、120〜150℃、1〜30秒で加熱殺菌(UHT処理:超高温加熱)するか、72℃以上、15秒以上で加熱殺菌(HTST処理:高温短時間加熱)するか、75℃以上、15分以上で加熱殺菌するなどしても、タンパク質が熱変性しにくいことを意味する。このとき、加熱殺菌の方法には、タンクなどを用いて処理液を攪拌しながら加熱保持するバッチ式、プレート式熱交換器やチューブ式熱交換器を用いた間接加熱方式、スチームインジェクション式加熱装置やスチームインフュージョン式加熱装置を用いた直接加熱方式、ジュール加熱装置などを用いた通電加熱方式などの公知の方法を用いることができる。
【0064】
本発明の水分補給用剤は、耐熱効果を奏する。したがって、本発明の水分補給用剤を配合(添加、混合)した組成物では、本発明の水分補給用剤が耐熱効果を奏することから、好ましくは、液状の製品形態として提供することができると共に、ホットベンダーなどを用いた加温販売用の製品形態として提供することができる。
【0065】
また、本発明の水分補給用剤を配合(添加、混合)した組成物の形態は、その効果が奏される限り、本発明の水分補給用剤の所定量の水分を含む混合物としての形態、あるいは所定量の水分に満たない量の水分を含む混合物としての形態(液状形態)であっても、所定量の水分が実質的に除かれた形態(乾燥形態)であってもよく、例えば、固体状(粉末状、顆粒状、カプセル状、ブロック状など)、液状、ゲル状、糊状、ペースト状などの形態をとることができる。本発明の水分補給用剤に含まれる水分が、所定量の水分に満たないものや、実質的に除かれたものを配合して組成物を提供する場合には、本発明の組成物を摂取または投与する際に、必要とされる量の水分を当該組成物と同時にまたは別々に摂取または投与することが望ましい。
【0066】
本発明の別の態様によれば、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である水分補給用乳飲食品が提供される。この本発明の水分補給用乳飲食品は、水分補給用飲食品組成物であってもよい。また、水分補給用乳飲食品は、水分補給保持用乳飲食品であることが好ましい。本発明の飲食品は、本発明の水分補給用剤と同様に、固体状(粉末状、顆粒状、カプセル状、ブロック状など)、液状、ゲル状、糊状、ペースト状などの形態をとることができる。水分補給用乳飲食品は、生体内への水分吸収が速い特性に基づく効果、または生体内への水分吸収が速く、かつ水分が生体内に長く保持される特性に基づく効果が表示された飲食品を包含する。
【0067】
本発明の飲食品とは、乳及び/又は乳製品を含む飲食品をいう。ここで、乳とは、例えば、牛乳、羊乳、山羊乳、水牛乳、めん羊乳、ラクダ乳、クジラ乳、イルカ乳、人乳などの哺乳動物由来の乳などである。また、ここで、乳製品とは、乳を加工したもののであり、公知の液状の原料、例えば、脱脂乳、部分脱脂乳、脱塩脱脂乳、脱塩乳、成分調整乳、ホエイ、濃縮乳、脱脂濃縮乳、部分脱脂濃縮乳、脱塩脱脂濃縮乳、れん乳、クリーム、公知方法により調製した乳原料由来のパーミエイト、公知方法により調製した乳タンパク質濃縮物なども使用でき、公知の加工された原料、例えば、粉乳、バター、濃縮乳、れん乳、乳糖、乳清ミネラルなども使用することができる。
【0068】
また、本発明の飲食品には、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品、病者用の食品、乳幼児用の調整粉乳、妊産婦用もしくは授乳婦用の粉乳、または持続的な水分保持のために用いられる物である旨の表示を付した飲食品のような分類のものも包含される。
【0069】
本発明の乳飲食品は、好ましくは乳飲料である。
【0070】
本発明の乳飲食品のpH、乳タンパク質、乳タンパク質の濃度、ナトリウムの濃度、安定剤等については、本発明の水分補給用剤と同じであってもよい。また、本発明の飲食品の製造方法としては、本発明の水分補給用剤と同じであってもよい。
【0071】
また、本発明の水分補給用剤は「医薬品」(医薬組成物)であってもよい。すなわち、本発明の別の態様によれば、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である、水分補給用(または、水分補給保持用)医薬品(医薬組成物)が提供される。「医薬品」(医薬組成物)とは、製剤化のために許容されうる添加剤を併用して、常法に従って、経口製剤または非経口製剤として調製したものである。医薬品が経口製剤の場合には、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤などの固形製剤、溶液、懸濁液、乳濁液などの液状製剤の形態をとることができる。なお、患者への摂取(投与)の簡易性の点からは、医薬品では、経口製剤であることが好ましい。ここで、製剤化のために許容されうる添加剤には、例えば、賦形剤、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤などが挙げられる。本発明の医薬品(医薬組成物)は、水分を補給または保持することを必要とする疾患であればどのような疾患であっても適用することができ、例えば、脱水症や熱中症の治療または予防に用いることができる。また、本発明の医薬品(医薬組成物)は、体内の水不足に起因する疾患、例えば、便秘、高血圧、動脈硬化、血栓症、脳梗塞、心筋梗塞、痛風、癌などの治療または予防に用いることもできる。
【0072】
本発明の別の態様によれば、水分を補給するための飲食品または医薬品の使用であって、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である飲食品または医薬品の使用が提供される。
【0073】
本発明の別の好ましい態様によれば、水分を補給し、かつ水分を保持するための飲食品または医薬品の使用であって、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である飲食品または医薬品の使用が提供される。
【0074】
本発明の好ましい別の態様によれば、体内へ水分を補給および/または体内に水分を保持しにくい環境および/または状態にある対象へ、水分を補給および/または保持するための飲食品または医薬品の使用であって、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である飲食品または医薬品の使用が提供される。
【0075】
本発明の別の態様によれば、水分を補給するための飲食品または医薬品の製造のための使用であって、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である飲食品または医薬品の製造のための使用が提供される。
【0076】
本発明の別の好ましい態様によれば、水分を補給し、かつ水分を保持するための飲食品または医薬品の製造のための使用であって、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である飲食品または医薬品の製造のための使用が提供される。
【0077】
本発明の好ましい別の態様によれば、体内へ水分を補給および/または保持しにくい環境および/または状態にある対象へ、水分を補給および/または保持するための、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である飲食品または医薬品の製造のための使用が提供される。
【0078】
本発明の別の態様によれば、水分を補給するための、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である飲食品または医薬品の使用が提供される。
【0079】
本発明の別の態様によれば、水分を補給し、かつ水分を保持するための乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である飲食品または医薬品の使用が提供される。
【0080】
本発明の別の態様によれば、水分を補給するための、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である飲食品または医薬品が提供される。
【0081】
本発明の別の態様によれば、水分を補給し、かつ水分を保持するための乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である飲食品または医薬品が提供される。
【0082】
本発明の別の態様によれば、本発明の水分補給用剤または水分補給用乳飲食品を対象に摂取させることを含んでなる、水分補給方法が提供される。この対象は、体内へ水分を補給および/または体内に水分を保持しにくい環境および/または状態にある対象であってもよい。
【0083】
本発明の別の好ましい態様によれば、本発明の水分補給用剤または水分補給用乳飲食品を対象に摂取させることを含んでなる、水分補給方法(ヒトに対する医療行為を除く)が提供される。ここで、「ヒトに対する医療行為」とは、医師等の処方を必要として、ヒトに対して医薬品を摂取させる(投与する)行為などを意味する。本発明の水分保持方法は、本発明の水分保持用剤について、本願明細書に記載された内容に従って実施することができる。
【0084】
本発明の別の態様によれば、本発明の水分補給用剤を、場合によって水と同時または別々に、体内へ水分を補給および/または保持しにくい環境および/または状態にある対象、好ましくは高齢者または小児に摂取させることを含んでなる、脱水症または熱中症の予防および/または治療方法が提供される。本発明の好ましい態様によれば、脱水症または熱中症の予防および/または治療方法はヒトに対する医療行為を除く方法である。本発明の脱水症または熱中症の予防および/または治療方法は、本発明の水分保持方法について、本願明細書に記載された内容に従って実施することができる。
【0085】
本発明の別の態様によれば、乳タンパク質、ナトリウム、糖質、および安定剤を有効成分として含有し、かつ酸性である、脱水症または熱中症の治療用また予防用飲食品(飲食品組成物)または医薬品(医薬組成物)が提供される。
【実施例】
【0086】
以下では、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これにより限定されない。なお、本発明の測定方法及び単位は、特段の記載のない限り、日本工業規格(JIS)の規定に従う。
【0087】
[試験例1]
本発明の乳飲料の調製
乳タンパク質濃縮物(乳タンパク質80重量%、乳糖6.5重量%)4.35kgを40.65kgの水に加熱溶解し、溶液Aとした。大豆多糖類0.45kg、HMペクチン0.2kg、発酵セルロース0.05kg、トレハロース1kg、砂糖3.3kg、スクラロース0.0063kgを39.99kgの水に加温溶解し、溶液Bとした。クエン酸0.64kgを9.36kgの水に溶解し、溶液Cとした。溶液Aと溶液Bを混合後、この混合液を撹拌しながら溶液Cを10回に分けて5分間かけて添加し、殺菌前のベースミックスとした。このベースミックスをプレート殺菌機で15MPaの均質化処理(70〜80℃)をしてから、130℃で2秒間の殺菌をした後に、10℃以下に冷却したものを本発明の乳飲料(乳タンパク質3.5重量%、大豆多糖類0.45重量%、HMペクチン0.2重量%、発酵セルロース0.05重量%、トレハロース1重量%)とし、以下の試験例1および2で用いた。本発明の乳飲料のpH4.1、粘度は10mPa・s(10℃)であった。「飲み口」、「沈殿」、「再分散性」ともに良好であった。なお、ここで使用した乳タンパク質濃縮物は、脱脂乳を膜分離処理(UF処理、MF処理など)して、乳糖や灰分を除去し、カゼインタンパク質とホエイタンパク質とを主体として濃縮した、カゼインタンパク質とホエイタンパク質との混合物であり、その形態は、乾燥粉末である。そして、乳タンパク質濃縮物のタンパク質量比は、生乳(牛乳)と同様に、カゼインタンパク質:ホエイタンパク質=約8:2である(山内邦男および横山健吉編、ミルク総合辞典参照)。
【0088】
血漿量変化率の測定
9週齢の雄性SDラット(日本クレア社製)を購入し、1週間以上馴化させた。ラットに20時間の絶食および4時間の絶水をさせた。続いて、このラットに、試験飲料として、蒸留水、スポーツドリンク(ポカリスエット:大塚製薬株式会社製)、牛乳(明治牛乳:株式会社明治製)、または上記で調製した本発明の乳飲料(水分補給用剤)を20mL/kg経口投与した。経口投与前(0分)および投与後15分、30分、60分、120分、および180分後にイソフルラン麻酔下で頸静脈より部分採血し、自動血液分析装置XT−1800iV(シスメックス株式会社製)でヘマトクリット値および血中ヘモグロビン濃度を測定した。ヘマトクリット値とヘモグロビン濃度から血漿量変化率(%)を求めた。投与されたスポーツドリンク、牛乳、および本発明の乳飲料の組成を下記表1に表す。各群、8匹ずつ用いた。
【0089】
【表1】
【0090】
血漿量変化率の結果
各飲料経口投与後の血漿量変化率を図1に表す。本発明の乳飲料およびスポーツドリンクは、牛乳と比較して15分後の血漿量が有意な高値を示した。本発明の乳飲料は牛乳と比較して、水分の体内への取込みが速いことが分かった。また、本発明の乳飲料の血漿量変化率は、スポーツドリンクに比べて、15分、30分、60分、120分、および180分後のいずれの時点においても上回った。
【0091】
[試験例2]
9週齢の雄性SDラット(日本クレア社製)を購入し、1週間馴化させた。ラットに20時間の絶食および4時間の絶水をさせた。蒸留水、スポーツドリンク(ポカリスエット:大塚製薬株式会社製)、牛乳(明治牛乳:株式会社明治製)、または上記の試験例1で調製した本発明の乳飲料を20mL/kg経口投与し、ラットを尿採取用のケージに移し、4時間後まで尿排泄量を測定した。各群、7匹ずつ用いた。
【0092】
累積尿排泄量の結果
各飲料投与後の累積尿排泄量を図2に示す。本発明の乳飲料は、90分後においてスポーツドリンクと比較して有意な低値を示した(p<0.05)(統計手法はTukey−kramer検定を用いて行った。以下も同様である)。また、本発明の乳飲料は、60〜240分後において蒸留水と比較して有意な低値を示した(p<0.05)。本発明の乳飲料は、スポーツドリンクおよび蒸留水に比べて、累積尿排泄量が低値を示した。また、本発明の乳飲料と、牛乳との累積尿排泄量は同程度であることが分かった。
【0093】
以上の結果から、本発明の乳飲料(水分補給用剤)は牛乳よりも、速やかに生体内へ水分が吸収され、速やかに血漿量を増加させることが分かった。また、本発明の乳飲料(水分補給用剤)の水分保持効果はスポーツドリンクよりも高く、牛乳とほぼ同程度であることが確認された。また、本発明の乳飲料(水分補給用剤)は、スポーツドリンクよりも優れた、生体内への水分吸収が速い特性を有することが分かった。さらに、本発明の乳飲料(水分補給用剤)は、牛乳のもつ優れた水分保持効果も合わせて有することが分かり、牛乳とスポーツドリンクの長所を併せ持った、より効果的な水分補給保持用剤となり得ることが分かった。
また、水分吸収や水分保持だけでなく、乳タンパク質の血漿中へのアミノ酸としての吸収も良いことが確認された。水分補給とタンパク質補給が速やかに行われることから、特に運動後の摂取において有用であることも合わせて確認した。
図1
図2