(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(ボーラス)
本発明のボーラスは、放射線治療を受ける患者に適用するためのボーラスであって、
水と、ポリマーと、鉱物とを含むハイドロゲルで構成されており、有機溶媒及びホスホン酸化合物の少なくともいずれかを含むことが好ましく、更に必要に応じて、その他の成分を含む。
前記ボーラスは、前記ポリマーと、前記鉱物とが複合化して形成された三次元網目構造の中に前記水が包含されているハイドロゲルを含むことが好ましい。
【0011】
<ポリマー>
前記ポリマーとしては、例えば、アミド基、アミノ基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などを有するポリマーが挙げられ、水溶性であることが好ましい。
前記ポリマーは、ホモポリマー(単独重合体)であってもよいし、ヘテロポリマー(共重合体)であってもよく、また、変性されていてもよいし、公知の官能基が導入されていてもよく、また塩の形態であってもよいが、ホモポリマーが好ましい。
本発明において、前記ポリマーの水溶性とは、例えば、30℃の水100gに該ポリマーを1g混合して撹拌したとき、その90質量%以上が溶解するものを意味する。
【0012】
前記ポリマーは、重合性モノマーを重合させることにより得られる。前記重合性モノマーについては、後述するボーラスの製造方法において説明する。
【0013】
<水>
前記水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。
前記水には、保湿性付与、抗菌性付与、導電性付与、硬度調整などの目的に応じて有機溶媒等のその他の成分を溶解乃至分散させてもよい。
【0014】
<鉱物>
前記鉱物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、層状粘土鉱物などが挙げられる。
前記層状粘土鉱物は、
図1の上図に示すように、単位格子を結晶内に持つ二次元円盤状の結晶が積み重なった状態を呈しており、前記層状粘土鉱物を水中に分散させると、
図1の下図に示すように、各単一層状態で分離して円盤状の結晶となる。
【0015】
前記層状粘土鉱物としては、例えば、スメクタイト、雲母などが挙げられる。より具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含むヘクトライト、モンモリナイト、サポナイト、合成雲母などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、高弾性のボーラスが得られる点から、ヘクトライトが好ましい。
前記ヘクトライトは、適宜合成したものであってもよいし、市販品であってもよい。前記市販品としては、例えば、合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)、SWN(Coop Chemical Ltd.製)、フッ素化ヘクトライトSWF(Coop Chemical Ltd.製)などが挙げられる。これらの中でも、ボーラスの弾性率の点から、合成ヘクトライトが好ましい。
【0016】
前記鉱物の含有量は、ボーラスの弾性率及び硬度の点から、ボーラスの全量に対して、1質量%以上40質量%以下が好ましく、1質量%以上25質量%以下がより好ましい。
【0017】
<有機溶媒>
前記有機溶媒は、ボーラスの保湿性を高めるために含有される。
前記有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトンアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルコールエーテル類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、保湿性の点から、多価アルコールが好ましく、グリセリン、プロピレングリコールがより好ましい。
前記有機溶媒の含有量は、ボーラスの全量に対して、10質量%以上50質量%以下が好ましい。前記含有量が、10質量%以上であると、乾燥防止の効果が十分に得られる。また、50質量%以下であると、層状粘土鉱物が均一に分散される。
前記有機溶媒の含有量が、10質量%以上50質量%以下であると、人体の組成からのずれが小さく、ボーラスとしての良好な機能が得られる。
【0018】
<ホスホン酸化合物>
前記ホスホン酸化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸などが挙げられる。
【0019】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、安定化剤、表面処理剤、重合開始剤、着色剤、粘度調整剤、接着性付与剤、酸化防止剤、老化防止剤、架橋促進剤、紫外線吸収剤、可塑剤、防腐剤、分散剤などが挙げられる。
【0020】
<皮膜>
前記ボーラスの表面には、下記3つの目的から皮膜を設けることが有効である。
(1)ボーラスの形状を維持する。
(2)ボーラスの保存性(耐乾燥性、防腐性)を向上する。
(3)ボーラスの外観性を改善する。
【0021】
前記ボーラスの形状を維持するためには、前記ボーラスの自重による崩壊を防ぐため、皮膜に弾性力をもたせることが好ましい。前記皮膜の有無におけるボーラスのヤング率の差が0.01MPa以上であることが好ましい。
前記皮膜の形成材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、セロハン、アセテート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリイミド、フッ素樹脂、パラフィンワックスなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、前記皮膜の形成材料としては、市販品を用いることができ、前記市販品として、例えば、プラスティコート#100(大京化学株式会社製)などが挙げられる。
前記皮膜の膜厚としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100μm以下が好ましく、10μm以上50μm以下がより好ましい。前記膜厚が100μm以下であると、ボーラスを構成するハイドロゲルの質感を保つことができる。
【0022】
前記ボーラスの表面に皮膜を形成することで、ボーラスの外観性を改善することができる。例えば、ボーラスの表面に傷や表面荒れが存在する場合には皮膜により外観性を補うことができる。また、表面の皮膜が犠牲層となることで、内部のボーラスを保護することができる。
また、前記ボーラスの表面はマーキングなどの記入を行うことができないので、ボーラスの表面に皮膜を形成することにより、放射線治療時の手順や、患者名などを書き込むことができるため、ボーラスとしての機能性を付与することができる。
【0023】
前記皮膜の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記皮膜の形成材料を溶媒に溶解して、ボーラスの表面に塗布する方法などが挙げられる。前記塗布方法としては、例えば、刷毛、スプレー、浸漬塗工などが挙げられる。
また、前記皮膜形成材料として熱収縮フィルムを用い、ハイドロゲル構造体の表面にラミネート形成する方法が挙げられる。
また、前記皮膜形成材料を溶剤に溶解して、ボーラス形成用液体材料を用いて前記三次元プリンターでボーラスを造形する際に同時に皮膜を形成してもよい。
いずれの場合も、皮膚への密着性が重要であるため、被治療者個人の放射線照射対象となる体表面の三次元データに基づき作製したボーラス表面形状を損ねることの無い皮膜を形成することが肝要である。
【0024】
前記ボーラスの保存性を向上させるには、耐乾燥性及び防腐性を向上させる必要がある。
前記耐乾燥性を向上させるには皮膜の水蒸気透過度や酸素透過度を低減することが効果的である。具体的には、水蒸気透過度(JIS K7129)は、500g/m
2・d以下であることが好ましい。また、酸素透過度(JIS Z1702)は、100,000cc/m
2/hr/atm以下であることが好ましい。
前記防腐性を向上させるためには、前記皮膜に防腐剤を含有することが好ましい。前記防腐剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、デヒドロ酢酸塩、ソルビン酸塩、安息香酸塩、ぺンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、2,4−ジメチル−6−アセトキシ−m−ジオキサン、1,2−ベンズチアゾリン−3−オンなどが挙げられる。
【0025】
一般に、実用に値するボーラスは、(1)人体組織と等価な物質であること、(2)均質なものであること、(3)可塑性に優れ、適当に弾力性を有しており、生体への形状適合性、密着性がよいこと、(4)毒性がないこと、(5)エネルギー変化などがないこと、(6)厚みが均一であること、(7)空気の混入がないこと、(8)透明性が高いこと、(9)消毒の容易性があること、などの特性及び機能を満たすことが好ましい。
【0026】
本発明のボーラスは、放射線治療を受ける患者に適用するためのボーラスであって、前記患者の放射線照射対象となる体表面に沿った形状を有することが好ましい。
ここで、前記体表面に沿った形状を有するとは、患者個人の放射線照射対象となる体表面における、身体の凹部又は凸部のそれぞれに対して凸部又は凹部となるような一定の形状を保持していることを意味する。これにより、患者の皮膚にピッタリとフィットしたボーラスが形成できる。
【0027】
本発明のボーラスは、放射線治療を受ける患者に適用するためのボーラスであって、前記患者の患部に対応した放射線の透過率分布を有することが好ましい。
ここで、放射線の透過率分布を有する場合の利点について説明する。例えば、X線照射による治療の場合、以下の欠点がある。
・癌細胞以外の体表部は、癌細胞よりも多くの放射線の影響を受け、癌細胞より後ろにある細胞にも影響がある。
・形を加工することができない。
・心臓や肺などの障害が発生すると致命的な臓器を避けて、照射する必要がある。
【0028】
ここで、
図2は、患者の患部32にX線40を照射する様子を示す概略図である。患部32の皮膚表面31にボーラス30を配置して、その表面からX線40を照射する。
図3に示すように、従来のボーラス33を使用した場合には、ボーラス33の組成は均質なため、X線の照射深さのコントロールはできるが、均質にコントロールされる。このため、深さ方向及び周囲の面積に対しても、入射されたX線40のピークを均質にコントロールするのみ働く。これが前述の形を加工することができないという点である。このため、癌細胞以外の細胞や体表部は、放射線(X線)の影響を強く受けてしまうものである。なお、
図3中34は、ボーラスを透過したX線(均質)を示す。
これに対し、ボーラスにX線透過率分布を付与した場合を
図4に示す。この場合、ボーラス35の組成を変え、組成分布を設ける。これにより、X線透過率を変更し、X線透過率分布を設けることが可能になる。
図4では厚みは一定で、組成だけ変更した様子を示しているが、膜厚も同時に変更することができ、両者を組み合わせることで、癌細胞にフォーカスしたX線40を照射することが可能になる。これにより、癌細胞以外への悪影響を低減することが可能になる。なお、
図4中36は、ボーラスを透過したX線(分布を有する)を示す。
X線の透過率分布を形成するためには、次に示す通り、ボーラスの組成分布を設ける場合と、形状によりコントロールする場合の2通り、あるいは両者の組み合わせがある。
【0029】
−組成分布−
上記のようにX線の透過率分布をボーラスに形成するために、ボーラスを構成する組成分布を付与する方法がある。
図5は、組成分布を付与したボーラス35を上部から見た状態と、X線40の透過率分布を表した図である。ボーラスの黒い部分がX線40を減衰する割合が多い組成であり、白い部分が透過する割合が多い部分である。このようなボーラスを通過したX線40は、中心部の強度が高く、癌細胞などにフォーカスして照射することができる。
組成分布の形成方法として例えば、インクジェット方式の三次元プリンターを用い、複数のボーラス形成用液体材料を用いることで達成可能である。特に本発明で用いられるハイドロゲルは、組成(水分量)とX線透過率の関係が一義的に決まり、透過率のコントロールが容易である。
【0030】
−形状制御−
X線の透過率分布を付与するためには、形状制御による方法もある。
例えば、
図6に示すような形状にすることにより、癌細胞周辺部への照射量を低減することが可能になる。
このように、ボーラス組成分布、膜厚の任意なコントロール、及び両者の組み合わせは、従来の工法(型造形)では成し得ないことである。このような画期的手段を生み出せるのが三次元プリンターによる造形方法である。
【0031】
前記ボーラスは、その形状、大きさ、構造などについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記ボーラスとしては、平板形状のものがあり、人体の表面に密着させる場合には、これを皮膚に押し当てて使用するか、あるいはこれを適当な大きさに切り、繋ぎ合わせて使用される。
【0032】
本発明のボーラスは、コンピュータ断層撮影法で測定したCT値(HU)は、−100以上100以下が実使用できる範囲であり、0以上100以下であることが好ましく、0以上70以下がより好ましい。
前記CT値とは、コンピュータ断層撮影装置で骨1,000、水0、空気−1,000としてキャリブレーションされた値である。
本発明のボーラスは放射線治療に供されるものであり、体組成に近いことが望ましい。体組成と言っても部位によりCT値は異なる。筋肉では35〜50程度、内臓も部位により異なり、肝臓は45〜75程度、膵臓では25〜55程度であることが知られている。また、脂肪は−50〜−100程度、血液は10〜30程度の値を有する。
このため、照射する部位にもよるが、概ね前記CT値が、−100以上100以下であると、放射線の吸収、又は散乱について実質的な人体組織と同じ性質を示すボーラスが得られる。より好ましくは0以上100以下であり、更に好ましくは0以上70以下であると、非常に近い性質であると言える。
【0033】
本発明で用いるハイドロゲルは、ポリマーと水を主成分として構成されることから、そもそも人体の組成に近いため、CT値は人体の値に近い。
更に、ハイドロゲルを構成する材料の組成比(水に対するポリマーや鉱物の存在比率、水と有機溶媒の混合比)をある程度任意に変えることが可能である。これに伴い、CT値を変化させることができるため、放射線治療する部位に応じてCT値のコントロールがある程度可能になる。
先に述べたように、ハイドロゲルから構成されるボーラスは、ボーラスに必要な物性や特性を兼ね備えたものであり、ボーラスを構成する材料としてハイドロゲルは最も優れた材料の一つとして挙げられる。
【0034】
(ボーラスの製造方法)
本発明のボーラスの製造方法は、水、鉱物、及び重合性モノマーを含有するボーラス形成用液体材料を用いてボーラスを製造するものである。
【0035】
<ボーラス形成用液体材料>
前記ボーラス形成用液体材料は、水、鉱物、及び重合性モノマーを含有し、有機溶媒及びホスホン酸化合物の少なくともいずれかを含有することが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
前記水、前記鉱物、前記有機溶媒、前記ホスホン酸化合物、及び前記その他の成分としては、前記ボーラスと同様のものを用いることができる。
【0036】
−重合性モノマー−
前記重合性モノマーは、不飽和炭素−炭素結合を1つ以上有する化合物であり、例えば、単官能モノマー、多官能モノマーなどが挙げられる。更に、前記多官能モノマーとして、2官能モノマー、3官能モノマー、4官能以上のモノマーなどが挙げられる。
【0037】
前記単官能モノマーは、不飽和炭素−炭素結合を1つ有する化合物であり、例えば、アクリルアミド、N−置換アクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換アクリルアミド誘導体、N−置換メタクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換メタクリルアミド誘導体、その他の単官能モノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
前記N−置換アクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換アクリルアミド誘導体、N−置換メタクリルアミド誘導体、又はN,N−ジ置換メタクリルアミド誘導体としては、例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)、N−イソプロピルアクリルアミドなどが挙げられる。
【0039】
前記その他の単官能モノマーとしては、例えば、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート(EHA)、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート(HPA)、アクリロイルモルホリン(ACMO)、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェノール(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
前記単官能モノマーを重合させることにより、アミド基、アミノ基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などを有する水溶性有機ポリマーが得られる。
前記アミド基、アミノ基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などを有する水溶性有機ポリマーは、ボーラスの強度を保つために有利な構成成分である。
【0041】
前記単官能モノマーの含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ボーラス形成用液体材料の全量に対して、1質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。前記含有量が、1質量%以上10質量%以下の範囲であると、ボーラス形成用液体材料中の層状粘土鉱物の分散安定性が保たれ、かつボーラスの延伸性を向上させるという利点がある。前記延伸性とは、ボーラスを引っ張った際に伸び、破断しない特性のことを言う。
【0042】
前記2官能モノマーとしては、例えば、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート(MANDA)、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート(HPNDA)、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート(BGDA)、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート(BUDA)、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート(HDDA)、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(DEGDA)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート(NPGDA)、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(TPGDA)、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール200ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール400ジ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
前記3官能モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTA)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート(PETA)、トリアリルイソシアネート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
前記4官能以上のモノマーとしては、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタ(メタ)アクリレートエステル、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート(DPHA)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
前記多官能モノマーの含有量は、ボーラス形成用液体材料の全量に対して、0.001質量%以上1質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。前記含有量が、0.001質量%以上1質量%以下であると、得られるボーラスの弾性率や硬度を適正な範囲に調整することができる。
【0046】
前記ボーラス形成用液体材料は、重合開始剤を用いて硬化させることが好ましい。前記重合開始剤は、ボーラス形成用液体材料中に添加して使用される。
【0047】
−重合開始剤−
前記重合開始剤としては、熱重合開始剤、光重合開始剤が挙げられる。
前記熱重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アゾ系開始剤、過酸化物開始剤、過硫酸塩開始剤、レドックス(酸化還元)開始剤などが挙げられる。
前記アゾ系開始剤としては、例えば、VA−044、VA−46B、V−50、VA−057、VA−061、VA−067、VA−086、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(VAZO 33)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(VAZO 50)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(VAZO 52)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(VAZO 64)、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル(VAZO 67)、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)(VAZO 88)(いずれもDuPont Chemical社から入手可能)、2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(メチルイソブチレ−ト)(V−601)(和光純薬工業株式会社より入手可能)などが挙げられる。
【0048】
前記過酸化物開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化デカノイル、ジセチルパーオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(Perkadox 16S)(Akzo Nobel社から入手可能)、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート(Lupersol 11)(Elf Atochem社から入手可能)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(Trigonox 21−C50)(Akzo Nobel社から入手可能)、過酸化ジクミルなどが挙げられる。
【0049】
前記過硫酸塩開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記レドックス(酸化還元)開始剤としては、例えば、前記過硫酸塩開始剤とメタ亜硫酸水素ナトリウム及び亜硫酸水素ナトリウムのような還元剤との組み合わせ、前記有機過酸化物と第3級アミンに基づく系(例えば、過酸化ベンゾイルとジメチルアニリンに基づく系)、有機ヒドロパーオキシドと遷移金属に基づく系(例えば、クメンヒドロパーオキシドとコバルトナフテートに基づく系)などが挙げられる。
【0050】
前記光重合開始剤としては、光(特に波長220nm〜400nmの紫外線)の照射によりラジカルを生成する任意の物質を用いることができる。
前記光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p’−ジクロロベンゾフェノン、p,p−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンジルメチルケタール、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、メチルベンゾイルフォーメート、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、テトラメチルエチレンジアミンは、アクリルアミドをポリアクリルアミドゲルとする重合・ゲル化反応の開始剤として用いられる。
【0051】
本発明のボーラスの製造方法としては、大きく分けて、型を用いて形成する方法と、三次元プリンターを用いて直接形成する方法との2つの方法がある。
【0052】
<型を用いて形成する方法>
前記型を用いて形成する方法は、前記ボーラス形成用液体材料を型に流し込み、硬化させる方法である。
前記型を被治療者の治療すべき部位の皮膚表面に固定して、前記ボーラス形成用液体材料を前記型に流し込み、硬化させることが好ましい。これにより、被治療者の放射線照射対象となる体表面(治療すべき部位;患部)に沿った形状のボーラスを作製することができる。
【0053】
所望の形状のボーラスを作製するために、狙いの形状の型を準備する。例えば、
図7に示されるような四角形状の型110、又は
図8に示されるような円環状の型112などが挙げられる。
図7に示す四角形状の型110に前記ボーラス形成用液体材料を注入する。
熱重合開始剤を用いて硬化する場合には、開始剤の種類に応じて反応温度を制御する。ボーラス形成用液体材料を注入し、密閉して空気(酸素)を遮断した後、室温もしくは所定温度に加温して重合反応を進行させる。
重合が完了した後、ボーラス111を四角形状の型110から取り出すことにより、
図9に示すボーラス111が形成される。
光重合開始剤を用いて硬化する場合には、硬化手段として、紫外線等のエネルギー線をボーラス形成用液体材料に照射する必要がある。このため、使用する型はエネルギー線に対して透明な材質で構成される。このような型に注入し、密閉して空気(酸素)を遮断した後、型の外側からエネルギー線を照射する。このようにして重合が完了した後、型から取り出すことにより、ボーラスが形成される。
【0054】
前記型は、三次元プリンターを用いて作製することが好ましい。
前記三次元プリンターとしては、特に方式を限定するものではないが、ボーラス形成用液体材料を注入して硬化させるものであるから、ボーラス形成用液体材料の漏れの無いような材質や方式で形成することが好ましく、インクジェット(マテリアルジェット)方式、光造形方式、レーザー焼結方式などが好適に用いられる。
【0055】
前記ボーラス形成用液体材料を、患者の皮膚表面の形状データに基づき、三次元プリンターにて作製した型に流し込み、硬化させて形成することが好ましい。
ここで、前記体表面に沿った形状を有するとは、被治療者個人の放射線照射対象となる体表面における、身体の凹部又は凸部のそれぞれに対して凸部又は凹部となるような一定の形状を保持していることを意味する。これにより、被治療者の皮膚にピッタリとフィットしたボーラスが形成される。
例えば、乳房形状に合わせた型を作製する場合、被治療者(患者)の乳房のCTデータを取得し、これを元にオスメスの型を作製できるように三次元(3D)データに変換する。この三次元(3D)データを基に、三次元プリンターにより、
図11に示す患者の乳房用三次元ボーラスを形成するためのオス型121を作製する。患者個人データを用い三次元プリンターにより、
図12に示す乳房用三次元ボーラスを形成するためのメス型122を作製する。
図13に示すように、作製したオス型121とメス型122とを組み合わせることにより、両者の間に隙間123が形成される。この隙間123に本発明のボーラス形成用液体材料を注入し、硬化させることにより、
図14に示す乳房用三次元ボーラス124を形成することができる。
【0056】
<三次元プリンターを用いて、直接形成する方法>
前記三次元プリンターを用いた造形は、前記ボーラス形成用液体材料を用い、三次元プリンターにて直接造形するものである。
前記三次元プリンターが、インクジェット方式の三次元プリンター、又は光造形方式の三次元プリンターであることが好ましい。これらの方法を用いると、患者個人の治療部位の状態に合わせて、組成分布や形状制御を行うことができ、放射線透過率の分布を持たせたボーラスを形成することができる。
【0057】
例えば、被治療者(患者)の個人データを用い、放射線照射対象となる体表面に沿った形状を有することは勿論、必要に応じて放射線の透過率分布を設けることができる。
この場合も患者個人のデータを基に作製する。
例えば、乳房形状に合わせた型を作製する場合、乳房のCTデータを取得し、これを元にオスメスの型を作製できるように三次元(3D)データに変換する。この3Dデータを基に、三次元プリンターにて直接ボーラスを作製する。
前記三次元プリンターは、ボーラスの材料を印字できる方式が好ましく、インクジェット(マテリアルジェット)方式、あるいはディスペンサー方式にてインクを吐出し、UV光により硬化する方式が有効に用いられる。こちらの方法の場合、ボーラスを形成する材料を複数用いることができるため、ボーラス全体を同一組成ではなく、組成に分布を設けることが可能になる。特に、患者の治療すべき患部に合わせ、X線の透過率をコントロールできるような組成分布を設けることができる。これは、癌細胞以外の正常細胞に極力ダメージを与えないなど、有効な手法である。
【0058】
例えば、
図15に示すようなインクジェット(IJ)方式の三次元プリンター10は、インクジェットヘッドを配列したヘッドユニットを用いて、造形体用液体材料噴射ヘッドユニット11からボーラス形成用液体材料を、支持体用液体材料噴射ヘッドユニット12、12から支持体形成用液体材料を噴射し、隣接した紫外線照射機13、13でボーラス形成用液体材料及び支持体形成用液体材料を硬化しながら積層する。
液体材料噴射ヘッドユニット11、12及び紫外線照射機13と、造形体(ボーラス)17及び支持体18とのギャップを一定に保つため、積層回数に合わせて、ステージ15を下げながら積層する。
前記三次元プリンター10では、紫外線照射機13、13は矢印A及び矢印Bのいずれの方向に移動する際も使用し、その紫外線照射に伴って発生する熱により、積層された支持体形成用液体材料表面が平滑化され、結果としてボーラスの寸法安定性が向上する。
造形終了後、
図16に示すようにボーラス17と支持体18を水平方向に引っ張り剥離したところ、支持体18は一体として剥離され、ボーラス17を容易に取り出すことができる。
【0059】
また、
図17に示すように、光造形方式の三次元プリンターでは、ボーラス形成用液体材料を液槽24に溜め、液槽24の表面27にレーザー光源21により出射された紫外線レーザー光23をレーザースキャナー22から照射して、造形ステージ26上に硬化物を作製する。造形ステージ26はピストン25の作動により降下し、これを順次繰り返すことにより、ボーラスが得られる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
<ボーラスの作製>
−ボーラス形成用液体材料の調製−
まず、純水400質量部を攪拌させながら、鉱物として[Mg
5.34Li
0.66Si
8O
20(OH)
4]Na
−0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)30質量部を少しずつ添加し、更に1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸1.6質量部を添加し、攪拌して分散液を調製した。
次に、得られた分散液に、重合性モノマーとして、活性アルミナのカラムを通過させ重合禁止剤を除去したN,N−ジメチルアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)40質量部、及びライトアクリレート9EG−A(共栄社化学株式会社製)2質量部を添加した。
次に、氷浴で冷却しながら、ペルオキソ2硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)の純水2質量%水溶液を30質量部添加し、更に、テトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業株式会社製)を2質量部添加して、攪拌混合の後、減圧脱気を10分間実施した。続いて、ろ過を行い、不純物等を除去し、均質なボーラス形成用液体材料を得た。
【0062】
−ボーラスの作製−
得られたボーラス形成用液体材料を
図7に示す四角形状の型110に流し込み、蓋をして密閉状態として、室温(25℃)で6時間硬化反応を行った。硬化後、四角形状の型110から取り出し水洗して、
図9に示すような、縦200mm×横200mm×厚み10mmのボーラス111を得た。
【0063】
(実施例2)
−ボーラスの作製−
実施例1において、純水400質量部のうち、100質量部をグリセリンに置き換えた以外は、実施例1と同様にして、ボーラスを作製した。
【0064】
(実施例3)
−ボーラスの作製−
実施例1において、純水400質量部のうち、100質量部をプロピレングリコールに置き換えた以外は、実施例1と同様にして、ボーラスを作製した。
【0065】
(実施例4)
−ボーラスの作製−
実施例2において、重合性モノマーとして、N,N−ジメチルアクリルアミド40質量部のうち、20質量部をアクリロイルモルホリンに置き換えた以外は、実施例2と同様にして、ボーラスを作製した。
【0066】
(実施例5)
−ボーラスの作製−
実施例4において、合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)の添加量を30質量部から20質量部に変更した以外は、実施例4と同様にして、ボーラスを作製した。
【0067】
(実施例6)
−ボーラスの作製−
実施例1で作製したボーラス表面に、プラスティコート#100(大京化学株式会社製)を浸漬塗工法により塗布し、平均厚み30μmの皮膜を形成した。
【0068】
(実施例7)
−ボーラスの作製−
実施例1で作製したボーラス表面に、ポリビニルアルコール(ポバール205、株式会社クラレ製)を浸漬塗工法により塗布し、平均厚み30μmの皮膜を形成した。
【0069】
<評価>
実施例1〜7で作製した各ボーラスについて、放射線治療の際に必要な特性及び条件をすべて兼ね備え、かつ取り扱い性に優れているかを確認するため、以下の試験項目を評価した。結果を表1に示した。
【0070】
(1)外観性
[評価基準]
○:透明性が高く、気泡の混入もない
×:透明性が低い
【0071】
(2)寸法性
[評価基準]
○:厚み、長さが均一である
×:厚み、長さが不均一である
【0072】
(3)弾性
[評価基準]
○:適度な弾性を有し、180度まで折り曲げても裂けるなどの変化はない
×:弾性が低く、180度まで折り曲げると裂ける
【0073】
(4)耐熱性
各ボーラスを60℃の熱水中で30分間加熱した後、形状及び物性を測定し、下記基準で評価した。
[評価基準]
○:形状及び物性に変化なし
×:形状及び物性が劣化する
【0074】
(5)耐溶剤性
各ボーラスを、エタノールを用いて洗浄した後、形状及び物性を測定し、下記基準で評価した。
[評価基準]
○:形状及び物性に変化なし
×:形状及び物性が劣化する
【0075】
(6)CT値
X線試験装置:Aquilion PRIME Beyond(東芝メディカル株式会社製)を用いて各ボーラスのCT値を測定し、下記基準で評価した。
[評価基準]
○:CT値が0以上100以下であり、人体の組成に近い値を示す
×:CT値が100超であり、人体の組成からずれている
【0076】
(7)保存性
各ボーラスを密閉した状態(25℃、50%RH)で7日間保存した後、形状及び物性を測定し、下記基準で評価した。
[評価基準]
○:形状及び物性の変化なし
×:形状及び物性が劣化する
【0077】
(8)総合評価
[評価基準]
○:ボーラスとしての機能を有し、非常に優れたものである
×:ボーラスとしての機能を有しておらず、不良である
【0078】
【表1】
【0079】
実施例1〜7のボーラスは、型から取り出した状態でも、狙いの形状を維持しており、均質な構造であった。また、透明性が高いため、皮膚への密着性を確認しやすかった。また、ボーラスのサイズを整えるため、ハサミなどで切断しても、必要以上に裂けるなどの変化はなかった。
また、実施例2及び3のように、イオン交換水の一部を多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコール)に置き換えたボーラスは、保湿性に優れていた。
また、実施例6及び7のように、表面に皮膜を設けたボーラスは、更に保湿性に優れていた。
【0080】
(実施例8)
−ボーラス形成用液体材料の調製−
まず、純水400質量部を攪拌させながら、鉱物として[Mg
5.34Li
0.66Si
8O
20(OH)
4]Na
−0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)30質量部を少しずつ添加し、更に1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸0.8質量部を添加し、攪拌して分散液を作製した。
次に、得られた分散液に、重合性モノマーとして、活性アルミナのカラムを通過させ重合禁止剤を除去したN,N−ジメチルアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)40質量部、及びライトアクリレート9EG−A(共栄社化学株式会社製)2質量部を添加した。
次に、氷浴で冷却しながら、ペルオキソ2硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)の純水2質量%水溶液を30質量部添加し、更にテトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業株式会社製)を2質量部、コハク酸(和光純薬工業株式会社製)2質量部を添加して、攪拌混合の後、減圧脱気を10分間実施した。続いて、ろ過を行い、不純物等を除去し、均質なボーラス形成用液体材料を得た。
【0081】
−ボーラスの作製及び評価−
図10に示すように、胸部表面に合わせた型114を被験者の胸部113の皮膚表面に固定して、得られたボーラス形成用液体材料を胸部表面に合わせた型114に流し込み、室温(25℃)で5分間硬化反応を行った。硬化後、型を外して、被験者の胸部に乳房用三次元(3D)ボーラスを直接形成した。
被験者の皮膚上に直接形成した乳房用三次元(3D)ボーラスは、密着性も良く、均質な構造であった。
したがって、被験者に苦痛を与えることなく、簡便にボーラスを作製することができた。
【0082】
(比較例1)
−ボーラス形成用液体材料の作製−
特開平11−221293号公報の実施例に準じてボーラス形成用液体材料を作製した。即ち、反応性ビニル基を有する主剤であるポリシロキサン(25℃における粘度1,200mPa・s)398.4質量部、水素−珪素結合を有する架橋剤であるメチルハイドロジエンポリシロキサン(25℃における粘度20mPa・s)1.6質量部、硬化触媒である1質量%塩化白金酸アルコール溶液0.06質量部を混合し、撹拌したのち室温で完全に脱泡して付加反応型であるシリコーンゲルからなるボーラス形成用液体材料を作製した。
【0083】
−ボーラスの作製及び評価−
得られたボーラス形成用液体材料を用いて、実施例8と同様にして、ボーラスを形成することを試みたが、この液体材料は非常に粘度が高く、型に注入することができず、ボーラスの形成ができなかった。
【0084】
(比較例2)
−ボーラス形成用液体材料の調製−
特開平6−47030号公報の実施例1に準じてボーラス形成用液体材料を作製した。即ち、平均重合度約2,000、けん化度89モル%のポリビニルアルコールをNaClが0.9質量%含有する水に溶解させた。この際、ポリビニルアルコールを溶解させるため、60℃まで加熱して溶解させてボーラス形成用液体材料を調製した。
【0085】
−ボーラスの作製及び評価−
得られたボーラス形成用液体材料を用いて、実施例8と同様にして、ボーラスを形成することを試みたが、加温した状態では人体に熱すぎて型に注入できず、冷やした状態ではゲル化してしまうため、型に注入できず、ボーラスの形成ができなかった。
【0086】
(比較例3)
−ボーラス形成用液体材料の調製−
特許第2999184号公報の実施例に準じてボーラス形成用液体材料を作製した。即ち、カラギーナン4.0g、ローカストビーンガム3.0g、キサンタンガム3.0gを加え、撹拌しながら80℃で10分間加熱溶解し、ボーラス形成用液体材料を調製した。
【0087】
−ボーラスの作製及び評価−
得られたボーラス形成用液体材料を用いて、実施例8と同様にして、ボーラスを形成することを試みたが、加温した状態では人体に熱すぎて型に注入できず、冷やした状態ではゲル化してしまうため、型に注入できず、ボーラスの形成ができなかった。
【0088】
(実施例9)
−型の作製−
患者(被治療者)の乳房表面のCTデータを用い、これを元に三次元(3D)プリント用のデータに変換した。このデータを基に、インクジェット光造形装置としての株式会社キーエンス製アジリスタを用い、
図11及び
図12に示すような乳房用三次元ボーラス用のオス型121及びメス型122を作製した。
【0089】
−ボーラス形成用液体材料の調製−
まず、純水200質量部を攪拌させながら、層状粘土鉱物として[Mg
5.34Li
0.66Si
8O
20(OH)
4]Na
−0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)14質量部を少しずつ添加し、更に1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸0.7質量部を添加し、攪拌して分散液を作製した。
次に、得られた分散液に、重合性モノマーとして、活性アルミナのカラムを通過させ重合禁止剤を除去したアクリロイルモルホリン(KJケミカルズ株式会社製)を18質量部、ライトアクリレート9EG−A(共栄社化学株式会社製)1質量部を添加した。
次に、氷浴で冷却しながら、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)の純水2質量%水溶液を14質量部添加し、更にテトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業株式会社製)を1質量部添加して、攪拌混合の後、減圧脱気を10分間実施した。続いて、ろ過を行い、不純物等を除去し、均質なボーラス形成用液体材料を得た。
【0090】
−乳房用三次元ボーラスの作製−
先に作製したオス型121及びメス型122を
図13に示すように組み合わせて、両者の間に隙間123を形成する。この隙間123に前記ボーラス形成用液体材料を隙間123に流し込み、蓋をして密閉状態として、室温で6時間硬化反応を行った。硬化後、型から取り出し水洗して、乳房用三次元ボーラス124を得た。
【0091】
(実施例10)
実施例9において、純水200質量部のうち、50質量部をグリセリンに置き換えた以外は、実施例9と同様にして、乳房用三次元ボーラスを作製した。
【0092】
(実施例11)
実施例10において、重合性モノマーとして、アクリロイルモルホリン18質量部のうち、10質量部を,N−ジメチルアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)に置き換えた以外は、実施例10と同様にして、乳房用三次元ボーラスを作製した。
【0093】
(実施例12)
実施例9で作製したボーラス表面に、プラスティコート#100(大京化学株式会社製)を浸漬塗工法により塗布し、厚み30μmの皮膜を形成した。
【0094】
(比較例4)
特開平6−47030号公報の実施例1に準じてボーラス形成用液体材料を作製した。即ち、平均重合度約2,000、けん化度89モル%のポリビニルアルコールをNaClが0.9%質量含有する水に溶解させた。この際、ポリビニルアルコールを溶解させるため、60℃まで加熱して溶解させた。この液体材料を、実施例9と同様にして型に注入し造形し、9回の凍結・解凍を施してボーラスを形成した。
【0095】
(比較例5)
特許第2999184号公報の実施例に準じてボーラス形成用液体材料を作製した。即ち、カラギーナン4.0g、ローカストビーンガム3.0g、及びキサンタンガム3.0gを加え、撹拌しながら80℃で10分間加熱溶解した。この液体材料を、実施例9と同様にして型に注入し造形し、冷却してボーラスを形成した。
【0096】
<評価>
実施例9〜12及び比較例4〜5で作製した乳房用三次元ボーラスについて、以下の試験項目を評価した。結果を表2に示した。
【0097】
(1)外観性
[評価基準]
○:透明性が高く、気泡の混入もない
△:透明性がやや低い
×:透明性が低い
【0098】
(2)寸法性
[評価基準]
○:厚み及び長さが均一である
×:厚み及び長さが不均一である
【0099】
(3)弾性
[評価基準]
◎:適度な弾性を有し、180度まで折り曲げても裂けるなどの変化はない
○:適度な弾性を有する
×:弾性が低く、180度まで折り曲げると裂ける
【0100】
(4)耐熱性
各ボーラスを60℃の熱水中で30分間加熱した後、形状及び物性を測定し、下記基準で評価した。
[評価基準]
○:形状及び物性に変化なし
×:形状及び物性が劣化する
【0101】
(5)耐溶剤性
各ボーラスを、エタノールを用いて洗浄した後、形状及び物性を測定し、下記基準で評価した。
[評価基準]
○:形状及び物性に変化なし
△:やや膨潤する
×:形状及び物性が劣化する
【0102】
(6)CT値
X線試験装置:Aquilion PRIME Beyond(東芝メディカル株式会社製)を用いて各ボーラスのCT値を測定し、下記基準で評価した。
[評価基準]
○:CT値が0以上100以下であり、人体の組成に近い値を示す
×:CT値が100超であり、人体の組成からずれている
【0103】
(7)保存性
各ボーラスを密閉した状態(25℃、50%RH)で7日間保存した後、形状及び物性を測定し、下記基準で評価した。
[評価基準]
◎:形状及び物性の変化なし
○:形状変化はなし、ごくわずかに乾燥(重量変化率3%以内)
×:形状及び物性が劣化する
【0104】
【表2】
【0105】
(実施例13)
−ボーラス形成用液体材料の調製−
まず、純水165質量部を攪拌させながら、層状粘土鉱物として[Mg
5.34Li
0.66Si
8O
20(OH)
4]Na
−0.66の組成を有する合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)17質量部を少しずつ添加し、3時間攪拌して分散液を作製した。その後、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(東京化成株式会社製)を0.7質量部添加し、更に1時間攪拌を行った。その後、グリセリン(坂本薬品工業株式会社製)30質量部を添加し、攪拌を10分間行った。
次に、得られた分散液に、重合性モノマーとして、活性アルミナのカラムを通過させ重合禁止剤を除去したアクロイルモルフォリン(KJケミカルズ株式会社製)を17質量部、N,N−ジメチルアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)を4質量部、ライトアクリレート9EG−A(共栄社化学株式会社製)を1質量部添加した。更に、界面活性剤としてエマルゲンSLS−106(花王株式会社製)を1質量部添加して混合した。
次に、氷浴で冷却しながら、光重合開始剤(イルガキュア184、BASF社製)のメタノール4質量%溶液を2.4質量部添加し、攪拌混合の後、減圧脱気を20分間実施した。続いて、ろ過を行い、不純物等を除去し、ボーラス形成用液体材料を得た。
【0106】
−支持体形成用液体材料の調製−
ウレタンアクリレート(三菱レイヨン株式会社製、商品名:ダイヤビームUK6038)10質量部、重合性モノマーとしてネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート(日本化薬株式会社製、商品名:KAYARAD MANDA)90質量部、重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製、商品名:イルガキュア184)3質量部を、ホモジナイザー(日立工機株式会社製、HG30)を用いて、回転数2,000rpmで均質な混合物が得られるまで分散した。続いてろ過を行い、不純物等を除去し、最後に真空脱気を10分間実施し、均質な支持体形成用液体材料を得た。
【0107】
−三次元(3D)ボーラスの形成−
図15に示すようなインクジェット方式の三次元プリンター10に、前記ボーラス形成用液体材料、及び支持体形成用液体材料を充填し、インクジェットヘッド(リコーインダストリー株式会社製、GEN4)2個に充填し、噴射させ、製膜を行った。
造形は、実施例9と同様にして、患者(被治療者)の乳房表面のCTデータを用い、これを元に3Dプリント用のデータに変換した。このデータを基に、ボーラスを造形した。
紫外線照射機(ウシオ電機株式会社製、SPOT CURE SP5−250DB)で350mJ/cm
2の光量を照射して前記ボーラス形成用液体材料、及び前記支持体形成用液体材料を硬化させながら、ボーラス及び支持体の形成を行った。
造形後、
図16に示すようにボーラス17と支持体18を水平方向に引っ張り剥離したところ、支持体18は一体として剥離され、ボーラス17を容易に取り出すことができた。このようにして、乳房用三次元ボーラスを形成した。
【0108】
(実施例14)
実施例13において、ボーラス形成用液体材料におけるライトアクリレート9EG−A(共栄社化学株式会社製)1質量部のうち、0.5質量部をN,N−メチレンビスアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製)に置き換えた以外は、実施例13と同様にして、乳房用三次元ボーラスを作製した。
【0109】
(実施例15)
実施例13で作製した乳房用三次元ボーラス表面に、ポバール205(株式会社クラレ製)を浸漬塗工法により塗布し、厚み30μmの皮膜を形成した。
【0110】
(実施例16)
実施例13で使用したボーラス形成用液体材料を用い、
図17に示す光造形方式の三次元プリンターにて、レーザー(COHERENT社製、波長375nm)により、350mJ/cm
2の光量を照射して、前記ボーラス形成用液体材料を硬化させることにより、乳房用三次元ボーラスを形成した。
【0111】
<評価>
実施例13〜16で作製した各ボーラスについて、実施例9と同様にして、諸特性を評価した。結果を表3に示した。
【0112】
【表3】
【0113】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 放射線治療を受ける患者に適用するためのボーラスであって、
水と、ポリマーと、鉱物とを含むハイドロゲルで構成されていることを特徴とするボーラスである。
<2> 前記患者の放射線照射対象となる体表面に沿った形状を有する前記<1>に記載のボーラスである。
<3> 前記患者の患部に対応した放射線の透過率分布を有する前記<1>に記載のボーラスである。
<4> 表面に皮膜を有する前記<1>から<3>のいずれかに記載のボーラスである。
<5> 更に、有機溶媒を含有する前記<1>から<4>のいずれかに記載のボーラスである。
<6> 前記有機溶媒が、多価アルコールである前記<5>に記載のボーラスである。
<7> 前記多価アルコールが、グリセリン及びプロピレングリコールの少なくともいずれかである前記<6>に記載のボーラスである。
<8> 前記有機溶媒の含有量が、ボーラスの全量に対して、10質量%以上50質量%以下である前記<5>から<7>のいずれかに記載のボーラスである。
<9> 前記鉱物が、層状粘土鉱物である前記<1>から<8>のいずれかに記載のボーラスである。
<10> 前記層状粘土鉱物が、ヘクトライトである前記<9>に記載のボーラスである。
<11> 前記ポリマーと、前記鉱物とが複合化して形成された三次元網目構造中に前記水が包含されているハイドロゲルを含む前記<1>から<10>のいずれかに記載のボーラスである。
<12> 水、鉱物、及び重合性モノマーを含有するボーラス形成用液体材料を用いてボーラスを製造することを特徴とするボーラスの製造方法である。
<13> 前記ボーラス形成用液体材料が、重合開始剤を含有する前記<12>に記載のボーラスの製造方法である。
<14> 前記重合開始剤が、熱重合開始剤及び光重合開始剤のいずれかである前記<13>に記載のボーラスの製造方法である。
<15> 前記ボーラス形成用液体材料が、ホスホン酸化合物を含有する前記<12>に記載のボーラスの製造方法である。
<16> 前記ボーラス形成用液体材料を型に流し込み、硬化させて形成する前記<12>から<15>のいずれかに記載のボーラスの製造方法である。
<17> 前記型を患者の患部の皮膚表面に固定して、前記ボーラス形成用液体材料を前記型に流し込み、硬化させる前記<16>に記載のボーラスの製造方法である。
<18> 前記型を、三次元プリンターを用いて作製する前記<16>から<17>のいずれかに記載のボーラスの製造方法である。
<19> 前記ボーラス形成用液体材料を用い、三次元プリンターにてボーラスを直接造形する前記<12>から<15>のいずれかに記載のボーラスの製造方法である。
<20> 前記三次元プリンターが、インクジェット方式の三次元プリンター、及び光造形方式の三次元プリンターのいずれかである前記<19>に記載のボーラスの製造方法である。
【0114】
前記<1>から<11>のいずれかに記載のボーラス、及び前記<12>から<20>のいずれかに記載のボーラスの製造方法によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。