(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記のポリマーb中に含まれる反応性官能基が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基およびトリアルコキシシリル基のうちの少なくとも1種である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
前記基材aが、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂およびアクリル樹脂のうちの少なくとも1種で構成される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
前記医療用潤滑性部材が、医療用チューブ、ガイドワイヤ、内視鏡、手術針、手術用縫合糸、鉗子、人工血管、人工心臓およびコンタクトレンズから選ばれる医療機器の部材として用いられる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
請求項1〜13のいずれか1項に記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料と、該積層材料を構成する前記層b上に配された、親水性ポリマーを含有する層cとを有する、医療用潤滑性部材。
請求項14に記載の医療用潤滑性部材を用いた、医療用チューブ、ガイドワイヤ、内視鏡、手術針、手術用縫合糸、鉗子、人工血管、人工心臓およびコンタクトレンズから選ばれる医療機器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
医療機器が人体組織との接触を伴って使用される場合、医療機器と組織表面との摩擦が大きいと組織が傷ついてしまう。例えば、内視鏡は体腔内を摺動させて用いられるため、体腔内の組織と接触する表面部材の滑り性を高めることが重要である。体腔内は湿潤状態にあるため、医療機器の表面部材は、特に湿潤状態における滑り性を高めることが求められる。
また、医療用チューブを体腔内に挿入し、このチューブ内に水を通しながらカメラ、治具等を挿入して体腔内を観察したり、生検を採取したりする場合がある。この形態においては、湿潤状態におけるチューブ内壁と治具との滑り性を高めることが求められる。
【0005】
本発明は、湿潤状態における滑り性に優れ、繰り返し使用による滑り性の低下も生じにくい医療用潤滑性部材の提供を可能とする積層材料を提供することを課題とする。また本発明は、湿潤状態における滑り性に優れ、繰り返し使用による滑り性の低下も生じにくい医療用潤滑性部材を提供することを課題とする。また、本発明は、上記医療用潤滑性部材を用いた医療機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は以下の手段により解決された。
〔1〕
医療用潤滑性部材を形成するための積層材料であって
上記積層材料は、基材aと、この基材a上に配された、ポリシロキサン構造を含むポリマーを含有する層bとを有し、
上記層bのポリマーは、構成成分としてアクリル酸成分、アクリル酸エステル成分、アクリルアミド成分および/またはスチレン成分(アクリル酸成分、アクリル酸エステル成分、アクリルアミド成分およびスチレン成分のうちの少なくとも1種)を含有し、かつ上記ポリマーは分子中に、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基、オキサゾリン環、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基および/または酸無水物構造(ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基、オキサゾリン環、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基および酸無水物構造のうちの少なくとも1種の反応性官能基)を有
し、
上記医療用潤滑性部材は、上記積層材料と、上記積層材料を構成する層b上に配された、親水性ポリマーを含有する層cとを有してなる、医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
〔2〕
上記層bのポリマーが上記ポリシロキサン構造をグラフト鎖中に有するグラフトポリマーである、〔1〕に記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
〔3〕
上記層bのポリマーが、下記式(1)で表される構造単位を含有し、かつ、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位および/または下記式(4)で表される構造単位(下記式(1)で表される構造単位を含有し、かつ、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位および下記式(4)で表される構造単位のうちの少なくとも1種)を含有する、〔1〕または〔2〕に記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
【化1】
式中、R
1〜R
6は水素原子または有機基を示す。L
1は単結合または2価の連結基を示す。n1は3〜10,000の整数である。
【化2】
式中、R
7およびR
aは水素原子または有機基を示す。
【化3】
式中、R
8、R
b1およびR
b2は水素原子または有機基を示す。
【化4】
式中、R
9は水素原子または有機基を示す。R
c1〜R
c5は水素原子、ハロゲン原子または有機基を示す。
〔4〕
上記R
aが下記式(5)で表される基または含窒素有機基である、〔3〕に記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
【化5】
式中、n2は1〜10,000の整数である。R
10は水素原子または有機基を示す。*は結合手を示す。
〔5〕
上記n1が135〜10,000である、〔3〕または〔4〕に記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
〔6〕
上記層bのポリマーが架橋体であり、この架橋体が下記式(6)で表される構造単位からの架橋剤成分および/または下記式(7)で表される化合物からの架橋剤成分(下記式(6)で表される構造単位からの架橋剤成分および下記式(7)で表される化合物からの架橋剤成分のうちの少なくとも1種)で構成された架橋構造を有する、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
【化6】
式中、R
11は水素原子または有機基を示す。Xはヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基、オキサゾリン環、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシシリル基または酸無水物構造を有する基を示す。
Yはm価の連結基を示し、mは2以上の整数である。R
dmはXと同義である。
〔7〕
上記式(6)で表される構造単位からの架橋剤成分がオキサゾリン環含有ポリマーに由来する、〔6〕に記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
〔8〕
上記の層bの架橋体中、架橋剤成分の割合が30〜90質量%である、〔6〕又は〔7〕に記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
〔9〕
上記のポリマーb中に含まれる反応性官能基が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基およびトリアルコキシシリル基のうちの少なくとも1種である、〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
〔10〕
上記層bの表面が親水化処理されている、〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
〔11〕
上記基材aが、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂および/またはアクリル樹脂(ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂およびアクリル樹脂のうちの少なくとも1種)で構成される、〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
〔12〕
上記基材aがシリコン樹脂である、〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
〔13〕
上記医療用潤滑性部材が、医療用チューブ、ガイドワイヤ、内視鏡、手術針、手術用縫合糸、鉗子、人工血管、人工心臓およびコンタクトレンズから選ばれる医療機器の部材として用いられる、〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料。
〔14〕
〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の医療用潤滑性部材を形成するための積層材料と、この積層材料を構成する上記層b上に配された、親水性ポリマーを含有する層cとを有する、医療用潤滑性部材。
〔15〕
〔14〕に記載の医療用潤滑性部材を用いた、医療用チューブ、ガイドワイヤ、内視鏡、手術針、手術用縫合糸、鉗子、人工血管、人工心臓およびコンタクトレンズから選ばれる医療機器
【0007】
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、特定の符号で表示された置換基、連結基、構造単位等(以下、置換基等という)が複数あるとき、あるいは複数の置換基等を同時もしくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。このことは、置換基等の数の規定についても同様である。また、複数の置換基等が近接(特に隣接)するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を形成していてもよい意味である。
本明細書において、「アクリル酸」、「アクリルアミド」および「スチレン」との用語は通常よりも広義の意味で用いている。
すなわち、「アクリル酸」は、R
A−C(=CR
B2)COOHの構造を有する化合物すべてを包含する意味に用いる(R
AおよびR
Bは各々独立に水素原子または置換基を示す)。
また、「アクリルアミド」はR
C−C(=CR
D2)CONR
E2の構造を有する化合物すべてを包含する意味に用いる(R
C、R
DおよびR
Eは各々独立に水素原子または置換基を示す)。
また、「スチレン」はR
F−C(=CR
G2)C
6R
H6の構造を有する化合物すべてを包含する意味に用いる(R
F、R
GおよびR
Hは各々独立に水素原子または置換基を示す)。
【0008】
本明細書において、ある基の炭素数を規定する場合、この炭素数は、基全体の炭素数を意味する。つまり、この基がさらに置換基を有する形態である場合、この置換基を含めた全体の炭素数を意味する。
【0009】
本明細書において、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、特段の断りがない限り、GPCによってポリスチレン換算の分子量として計測することができる。このとき、GPC装置HLC−8220(東ソー(株)社製)を用い、カラムはG3000HXL+G2000HXLを用い、23℃で流量は1mL/minで、RIで検出することとする。溶離液としては、THF(テトラヒドロフラン)、クロロホルム、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)、m−クレゾール/クロロホルム(湘南和光純薬(株)社製)から選定することができ、溶解するものであればTHFを用いることとする。
親水コート層に用いたポリマーの分子量測定には、溶離液としてはN−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業社製)を用い、カラムとしてはトーソー(TOSOH)株式会社製 TSK−gel Super AWM−H(商品名)を用いる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の医療用潤滑性部材ないし医療機器は、湿潤状態における滑り性に優れ、この滑り性を持続的に維持することができる。また本発明の医療用潤滑性部材に用いる積層材料は、本発明の医療用潤滑性部材の提供を可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の医療用潤滑性部材に用いる積層材料(以下、「本発明の積層材料」ともいう。)について好ましい実施形態を説明する。
【0013】
[本発明の積層材料]
本発明の積層材料は、後述する本発明の医療用潤滑性部材を形成するための材料である。本発明の積層材料は、基材(以下、「基材a」ともいう。)と、この基材a上に配された、後述するポリシロキサン構造を含むポリマーを含有する層(以下、「層b」ともいう。)とを有する積層体である。この積層体の形状に特に制限はなく、
図1に示すように積層材料の表面は平面でもよいし、曲面でもよい。また、積層材料は例えば、管状(チューブ状)であることも好ましく、球状であってもよい。層bは基材a上に直接設けられていることが好ましい。
【0014】
<基材a>
本発明の積層材料を構成する基材aの構成材料は、特に限定されず、医療機器等に用いうる材料を広く採用することができる。例えば、目的に応じてガラス、プラスチック、金属、セラミックス、繊維、布帛、紙、皮革、合成樹脂、それらの組合せを使用することができる。なかでも基材aは樹脂で形成されていることが好ましい。基材aの形状に特に制限はなく、例えば板状でもよいし、曲面を有していてもよい。また、管状(チューブ状)であることも好ましく、球状であってもよい。
【0015】
基材aは、層bが形成される表面における表面自由エネルギーが低くても、本発明に好適に用いることができる。例えば、基材aの、層bが形成される表面における表面自由エネルギーは5〜1500mN/mの範囲内とすることができ、10〜500mN/mの範囲内とすることができる。また、基材aの、層bが形成される表面における表面自由エネルギーは5〜300mN/mであってもよいし、10〜200mN/mであってもよいし、10〜100mN/mであってもよいし、10〜50mN/mであることも好ましい。基材aの、層bが形成される表面における表面自由エネルギーが低くても、層bが後述する特定のポリマーbを含有することにより、基材a上に、層bを、ハジキないしは斑を生じずに形成することができる。
表面自由エネルギーは公知の方法で測定することができる。すなわち、膜の接触角を水およびジヨードメタンの双方で測定し、下記Owensの式に代入することで求めることができる(下記は有機溶媒にジヨードメタン(CH
2I
2)を用いる場合の式である)。
【0016】
Owensの式
1+cosθ
H2O=2(γ
Sd)
1/2(γ
H2Od)
1/2/γ
H2O,V+2(γ
Sh)
1/2(γ
H2Oh)
1/2/γ
H2O,V
1+cosθ
CH2I2=2(γ
Sd)
1/2(γ
CH2I2d)
1/2/γ
CH2I2,V+2(γ
Sh)
1/2(γ
CH2I2h)
1/2/γ
CH2I2,V
【0017】
ここで、γ
H2Od=21.8、γ
CH2I2d=49.5、γ
H2Oh=51.0、γ
CH2I2h=1.3、γ
H2O,
V=72.8、γ
CH2I2,V=50.8であり、θ
H2Oに水の接触角の測定値、θ
CH2I2にジヨードメタンの接触角の測定値を代入すると、表面エネルギーの分散力成分γ
Sd、極性成分γ
Shがそれぞれ求まり、その和γ
SVh=γ
Sd+γ
Shを表面自由エネルギー(mN/m)として求めることができる。
接触角は、液滴容量を純水、ジヨードメタンとも1μLとし、滴下後10秒後に接触角を読み取ることにより測定する。その際、測定雰囲気を温度23℃、相対湿度50%とする。
【0018】
基材aの構成材料として、例えば、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂および/またはアクリル樹脂(ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂およびアクリル樹脂のうちの少なくとも1種)を好適に用いることができ、医療用材料として用いる観点からは、シリコン樹脂を用いることがより好ましい。
【0019】
−ウレタン樹脂−
基材aの構成材料として用いうるウレタン樹脂に特に制限はない。一般にウレタン樹脂はポリイソシアネートとポリオールの付加重合により合成される。例えば、ポリイソシアネート原料として脂肪族イソシアネートを用いた脂肪族ポリウレタン、芳香族イソシアネートを用いた芳香族ポリウレタン、これらの共重合体等を用いることできる。
また、ウレタン樹脂としてパンデックスシリーズ(DIC社製)、ウレタン樹脂塗料のVグラン、Vトップシリーズ及びDNTウレタンスマイルクリーンシリーズ(いずれも大日本塗料社製)、ポリフレックスシリーズ(第一工業製薬社製)、タイプレンシリーズ(タイガースポリマー社製)、Tecoflex(登録商標)シリーズ(Thermedics社製)、ミラクトランシリーズ(日本ミラクトン社製)、ペレセンシリーズ(ダウケミカル社製)等を用いることもできる。
【0020】
−シリコン樹脂−
基材aの構成材料として用いうるシリコン樹脂(シリコーン)に特に制限はなく、シリコン樹脂は硬化剤を用いて硬化させたものであってもよい。硬化反応は通常の反応を適用することができる。例えば、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金触媒を用いることができ、過酸化物架橋させる場合は過酸化物が用いられる。
また、シリコン樹脂としてゴムコンパウンドKEシリーズ(信越化学工業社製)、ELASTOSIL(登録商標)シリーズ(旭化成ワッカーシリコーン社製)、SILASTIC(登録商標)シリーズ(東レ・ダウコーニング社製)、TSEシリーズ(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)等を用いることもできる。
【0021】
−フッ素樹脂−
基材aの構成材料として用いうるフッ素樹脂に特に制限はない。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリトリフルオロエチレンやその共重合体等を用いることできる。
また、フッ素樹脂としてテフロン(登録商標、DUPON社製)、ポリフロン、ネオフロンシリーズ(ダイキン工業社製)、Fluon(登録商標)シリーズ、cytop(登録商標)シリーズ(旭硝子社製)、ダイニオンシリーズ(3M社製)等を用いることもできる。
【0022】
−オレフィン樹脂−
基材aの構成材料として用いうるオレフィン樹脂に特に制限はない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリシクロペンテン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、これらの共重合体、天然ゴム等を用いることできる。また、オレフィン樹脂としてARTON(アートン)(登録商標)シリーズ(JSR社製)、サーフレン(登録商標)シリーズ(三菱化学社製)、ZEONOR(登録商標)シリーズ、ZEONEX(登録商標)(いずれも日本ゼオン社製)等を用いることもできる。
【0023】
−アクリル樹脂−
基材aの構成材料として用いうるアクリル樹脂に特に制限はない。例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチルなどやその共重合体などのアクリル樹脂を用いることできる。
また、アクリル樹脂としてアクリライトシリーズ、アクリペットシリーズ、アクリプレンシリーズ(いずれも三菱レイヨン社製)、コーティング用溶剤型アクリル樹脂アクリディックシリーズ(DIC社製)、アルマテックス(登録商標、三井化学社製)、ヒタロイド(日立化成社製)等を用いることもできる。
【0024】
<層b>
本発明の積層材料において、層bは、ポリシロキサン構造を含むポリマー(以下、「ポリマーb」とも称す。)を含有する。ポリマーbがポリシロキサン構造を有することにより、基材aの表面自由エネルギーが低い場合であっても基材a表面に対するポリマーbの親和性を高めることができ、ハジキないしは斑のない状態で、ポリマーbを含有する層を形成することが可能となる。
ポリマーbはその構成成分としてポリシロキサン構造を有する成分以外にアクリル酸成分、アクリル酸エステル成分、アクリルアミド成分および/またはスチレン成分(アクリル酸成分、アクリル酸エステル成分、アクリルアミド成分およびスチレン成分のうちの少なくとも1種)を含有する。
ポリマーbは、分子中にヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基、オキサゾリン環(オキサゾリル基)、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基および/または酸無水物構造(ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基、オキサゾリン環(オキサゾリル基)、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基および酸無水物構造のうちの少なくとも1種)を有している(以下、これらの基および構造をまとめて「反応性官能基」あるいは単に「反応性基」ともいう。)。これらの反応性官能基が、層b上に適用される後述する親水性ポリマーと相互作用し、あるいはこの親水性ポリマーと反応して、層bと親水性ポリマーとの密着性(密着力)をより高めることができる。
ポリマーb中に含まれる上記反応性官能基は、好ましくはヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基および/またはトリアルコキシシリル基(ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基およびトリアルコキシシリル基のうちの少なくとも1種)である。
反応性官能基は、ポリマーbの構成成分である上記のアクリル酸成分、アクリル酸エステル成分、アクリルアミド成分および/またはスチレン成分(アクリル酸成分、アクリル酸エステル成分、アクリルアミド成分およびスチレン成分のうちの少なくとも1種)中に含まれることが好ましい。
【0025】
ポリマーbは、上記ポリシロキサン構造をグラフト鎖中に有するグラフトポリマーであることが好ましい。このグラフトポリマーは好ましくは、ポリシロキサン構造をグラフト鎖中に有する下記式(1)で表される構造単位を有し、かつ、アクリル酸成分もしくはアクリル酸エステル成分として下記式(2)で表される構造単位、アクリルアミド成分として下記式(3)で表される構造単位および/またはスチレン成分として下記式(4)で表される構造単位を有する構造(下記式(1)で表される構造単位を有し、かつ、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、および下記式(4)で表される構造単位のうちの少なくとも1種を有する構造)である。
【0026】
−ポリシロキサン構造をグラフト鎖中に有する構造単位−
【化7】
【0027】
式(1)中、R
1〜R
6は水素原子または有機基を示す。
R
1〜R
6として採り得る有機基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、ヘテロアリールアミノカルボニル基、およびハロゲン原子が挙げられ、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基またはアリール基が好ましい。
【0028】
R
1〜R
6として採り得るアルキル基の炭素数は、1〜10が好ましく、1〜4がより好ましく、1または2がさらに好ましく、1が特に好ましい。このアルキル基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ヘキシル、n−オクチル、2−エチルへキシルおよびn−デシルが挙げられる。
【0029】
R
1〜R
6として採り得るシクロアルキル基の炭素数は、3〜10が好ましく、5〜10がより好ましく、5または6がさらに好ましい。また、このシクロアルキル基は、3員環、5員環または6員環が好ましく、5員環または6員環がより好ましい。R
1〜R
6として採り得るシクロアルキル基の具体例としては、例えば、シクロプロピル、シクロペンチルおよびシクロへキシルが挙げられる。
【0030】
R
1〜R
6として採り得るアルケニル基は、炭素数が2〜10が好ましく、2〜4がより好ましく、2がさらに好ましい。このアルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル、アリルおよびブテニルが挙げられる。
【0031】
R
1〜R
6として採り得るアリール基は、炭素数が6〜12が好ましく、6〜10がより好ましく、6〜8がさらに好ましい。このアリール基の具体例としては、例えば、フェニル、トリルおよびナフチルが挙げられる。
【0032】
R
1〜R
6として採り得るヘテロアリール基は、少なくとも1つの酸素原子、硫黄原子、窒素原子を有する5員環または6員環のヘテロアリール基がより好ましい。このヘテロアリール基の具体例としては、例えば、2−ピリジル、2−チエニル、2−フラニル、3−ピリジル、4−ピリジル、2−イミダゾリル、2−ベンゾイミダゾリル、2−チアゾリル、2−ベンゾチアゾリルおよび2−オキサゾリルを挙げることができる。
【0033】
R
1〜R
6として採り得るアリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基、アリールオキシカルボニル基およびアリールアミノカルボニル基を構成するアリール基の好ましい形態は、R
1〜R
6として採り得るアリール基の形態と同じである。
【0034】
R
1〜R
6として採り得るヘテロアリールオキシ基、ヘテロアリールチオ基、ヘテロアリールアミノ基、ヘテロアリールオキシカルボニル基およびヘテロアリールアミノカルボニル基を構成するヘテロアリール基の好ましい形態は、R
1〜R
6として採り得るヘテロアリール基の形態と同じである。
【0035】
R
1〜R
6として採り得るアルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルアミノ基、アルキルオキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基を構成するアルキル基の好ましい形態は、R
1〜R
6として採り得るアルキル基の形態と同じである。
【0036】
R
1〜R
6として採り得るハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子または臭素原子が好ましい。
【0037】
R
1〜R
6が有機基の場合、置換基を有した形態であってもよい。
【0038】
R
1〜R
6は、アルキル基、アルケニル基またはアリール基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。なかでもR
1〜R
5はメチル基が好ましく、R
6はブチル基が好ましい。
【0039】
式(1)中、L
1は単結合または2価の連結基を示す。
L
1として採り得る2価の連結基としては、本発明の効果を奏する限り特に制限されない。L
1が2価の連結基の場合、L
1の分子量は10〜200が好ましく、20〜100がより好ましく、30〜70がさらに好ましい。
【0040】
L
1が2価の連結基の場合、例えば、アルキレン基、アリーレン基、−C(=O)−、−O−および−NR
L−から選ばれる2価の基を2つ以上組み合わせてなる2価の連結基が好ましい。R
Lは水素原子または置換基を示す。R
Lが置換基の場合、この置換基としては、アルキル基が好ましい。このアルキル基の炭素数は1〜6が好ましく、1〜4がより好ましく、メチルまたはエチルがさらに好ましい。
L
1を構成しうる上記アルキレン基は直鎖でも分岐を有してもよい。このアルキレン基の炭素数は1〜10が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。
また、L
1を構成しうる上記アリーレン基は、その炭素数が6〜20が好ましく、6〜15がさらに好ましく。6〜12がさらに好ましく、さらに好ましくはフェニレン基である。
L
1は、アルキレン基、−C(=O)−、−O−および−NR
L−から選ばれる2価の基の2つ以上を組み合わせてなる2価の連結基であることが好ましい。
【0041】
式(1)中、n1は3〜10,000の整数である。式(1)の構造単位がシロキサン結合の繰り返しを一定量含むことにより、層bを形成する基材a表面の表面自由エネルギーが低い場合でも、基材aと層bとの密着性を十分に高めることができる。n1は135〜10,000の整数が好ましく、150〜5000の整数がより好ましく、200〜1000の整数がさらに好ましい。
【0042】
ポリマーb中、式(1)で表される構造単位の含有量は、1〜70質量%が好ましく、5〜60質量%がより好ましく、10〜50質量%がさらに好ましい。
【0043】
式(1)で表される構造単位は、原料として特定構造のマクロモノマーを用いることにより、ポリマーb中に導入することができる。このマクロモノマーは常法により合成することができ、また市販品を用いることもできる。この市販品として、例えば、X−22−174ASX、X−22−174BX、KF−2012、X−22−2426、X−22−2404(いずれも商品名、信越化学工業社製)、AK−5、AK−30、AK−32(いずれも商品名、東亜合成社製)、MCR−M07、MCR−M11、MCR−M17、MCR−M22(いずれも商品名、Gelest社製)等を用いることができる。
【0044】
−アクリル酸成分またはアクリル酸エステル成分−
【化8】
【0045】
式(2)中、R
7およびR
aは水素原子または有機基を示す。
R
7として採り得る有機基の形態としては、上記式(1)におけるR
1として採り得る有機基の形態が挙げられる。なかでもR
7は水素原子またはアルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は1〜10が好ましく、1〜4がより好ましく、1または2がさらに好ましく、1が特に好ましい。このアルキル基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ヘキシル、n−オクチル、2−エチルへキシルおよびn−デシルが挙げられる。
【0046】
R
aとして採り得る有機基の形態としては、上記式(1)におけるR
1として採り得る有機基の形態が挙げられる。なかでもR
aは、水素原子、アルキル基またはアリール基が好ましい。R
aとして採り得るアルキル基は、炭素数が1〜10が好ましく、1〜6がより好ましい。このアルキル基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ヘキシル、n−オクチル、2−エチルへキシルおよびn−デシルが挙げられる。
R
aとして採り得るアリール基は、炭素数が6〜12が好ましく、6〜10がより好ましく、6〜8がさらに好ましく、6が特に好ましい。このアリール基の具体例としては、例えば、フェニル、トリルおよびナフチルが挙げられる。
【0047】
R
7およびR
aが有機基の場合、置換基を有した形態であってもよい。ポリマーbが式(2)で表される構造単位を有する場合、ポリマーb中の式(2)で表される構造単位のうち少なくとも一部の構造単位は、置換基として上述した反応性官能基を有することが好ましい。
【0048】
また、ポリマーb中に存在する式(2)で表される構造単位が、R
aが置換基を有するアルキル基の形態である場合、かかる構造単位のうち少なくとも一部の構造単位において、R
aは下記式(5)で表される形態であることも好ましい。
【0050】
式(5)中、n2は1〜10,000の整数である。n2は1〜8000の整数が好ましく、1〜5000の整数がより好ましく、1〜3000の整数がより好ましい。
R
10は水素原子または有機基を示す。R
10として採り得る有機基の形態としては、上記式(1)におけるR
1として採り得る有機基の形態が挙げられる。R
10が有機基の場合、置換基を有した形態であってもよい。R
10は好ましくは水素原子またはアルキル基である。このアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ヘキシル、n−オクチル、2−エチルへキシルおよびn−デシルが挙げられる。
*は式(2)中の酸素原子(−O−)との結合部位を示す。
【0051】
また、ポリマーb中に存在する式(2)で表される構造単位のうち、少なくとも一部の構造単位は、R
aが含窒素有機基であることも好ましい。含窒素有機基は、その分子量が10〜200が好ましく、20〜100がより好ましい。含窒素有機基はアミノ基(置換アミノ基を含む)が好ましい。含窒素有機基の好ましい例として、例えばアルキルアミノ基、アルキルアミノアルキル基、アリールアミノ基、アリールアミノアルキル基、ヘテロアリールアミノ基、およびヘテロアリールアミノアルキル基を挙げることができる。
【0053】
式(3)中、R
8、R
b1およびR
b2は水素原子または有機基を示す。
R
8として採り得る有機基としては、上記式(1)におけるR
1として採り得る有機基の形態が挙げられる。R
8は、水素原子またはアルキル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。このアルキル基の炭素数は1〜10が好ましく、1〜4がより好ましく、1または2がさらに好ましく、1が特に好ましい。アルキル基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ヘキシル、n−オクチル、2−エチルへキシルおよびn−デシルが挙げられる。
【0054】
R
b1およびR
b2として採り得る有機基としては、上記式(1)におけるR
1として採り得る有機基が挙げられる。なかでもR
b1およびR
b2は、水素原子、アルキル基またはアリール基が好ましい。このアリール基の炭素数は6〜12が好ましく、6〜10がより好ましく、6〜8がさらに好ましく、6が特に好ましい。アリール基の具体例としては、例えば、フェニル、トリルおよびナフチルが挙げられる。
【0055】
R
8、R
b1およびR
b2が有機基の場合、置換基を有した形態であってもよい。ポリマーbが式(3)で表される構造単位を有する場合、ポリマーb中の式(3)で表される構造単位のうち少なくとも一部の構造単位は、置換基として上述した反応性官能基を有することが好ましい。
【0057】
式(4)中、R
9は水素原子または有機基を示す。R
c1〜R
c5は水素原子、ハロゲン原子または有機基を示す。
R
9として採り得る有機基としては、上記式(1)におけるR
1として採り得る有機基の形態が挙げられる。なかでもR
9は、水素原子が好ましい。
【0058】
R
c1〜R
c5として採り得る有機基としては、上記式(1)におけるR
1として採り得る有機基の形態が挙げられる。R
c1〜R
c5として採り得るハロゲン原子に特に制限はなく、フッ素原子または臭素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。R
c1〜R
c5は、水素原子、アルキル基またはハロゲン原子が好ましい。このアルキル基の炭素数は1〜10が好ましく、1〜4がより好ましく、1または2がさらに好ましく、1が特に好ましい。アルキル基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ヘキシル、n−オクチル、2−エチルへキシルおよびn−デシルが挙げられる。
【0059】
R
9およびR
c1〜R
c5が有機基の場合、置換基を有した形態であってもよい。ポリマーbが式(4)で表される構造単位を有する場合、ポリマーb中の式(4)で表される構造単位のうち少なくとも一部の構造単位は、置換基として上述した反応性官能基を有することが好ましい。
【0060】
ポリマーbが上記式(2)〜(4)のいずれかの式で表される構造単位を有する場合、ポリマーb中、それらの構造単位の総量は、10〜90質量%が好ましく、15〜80質量%がより好ましく、20〜70質量%がさらに好ましい。
また、ポリマーbが上記式(2)〜(4)のいずれかの式で表され、かつ上記反応性官能基を有する構造単位を有する場合、かかる構造単位のポリマーb中の含有量は5〜70質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましく、15〜30質量%がさらに好ましい。
【0061】
ポリマーbは、常法により合成することができ、例えば、所望の構造単位を導くモノマーと、重合開始剤とを常法により反応させることで得られる。重合反応はアニオン重合、カチオン重合およびラジカル重合のいずれでもよいが、ラジカル重合が好ましい。
【0062】
層bは、ポリマーbを溶解した溶液(層b形成用塗布液)を調製し、この溶液を基材a上に塗布し、乾燥させることにより形成することができる。また、この溶液中には目的に応じて後述する架橋剤を含有させてもよい。層b形成用塗布液に用いる溶媒としては、例えばジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,3,5−トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトール等のエーテル溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、及びジメチルシクロヘキサノン等のケトン溶媒、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n−ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン醸エチル、酢酸n−ペンチル、及びγ−ブチロラクトン等のエステル溶媒、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、及びシクロヘキサノール等のアルコール溶媒、キシレン、及びトルエン等の芳香族炭化水素、メチレンクロライド、クロロホルム、及び1,1−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素溶媒、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、及びN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒、アセトニトリル等のニトリル溶媒、2−メトキシ酢酸メチル、2−エトキシ酢酸メチル、2−エトキシ酢酸エチル、2−エトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシエタノール、2−プロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1,2−ジアセトキシアセトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、アセト酢酸メチル、N−メチルピロリドン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、及びアセト酢酸エチル等の2種類以上の官能基を有する有機溶媒を挙げることができる。
【0063】
ポリマーbは、架橋剤を介した架橋構造を有することも好ましい。この場合、架橋剤は下記式(6)で表される構造単位を有する架橋剤(ポリマー状架橋剤)および/または下記式(7)で表される架橋剤(下記式(6)で表される構造単位を有する架橋剤および下記式(7)で表される架橋剤のうちの少なくとも1種)であることが好ましい。これらの架橋剤を用いて架橋構造を形成することにより、層bを硬化して機械強度をより高めることができる。これらの架橋剤は通常、上述した各構造単位が有する反応性官能基と相互作用し、あるいは反応し、ポリマーbに架橋構造が形成される。架橋反応は、架橋反応に寄与する基の種類に応じて、常法により行うことができる。
【0065】
式(6)中、R
11は水素原子または有機基を示す。R
11が有機基の場合、置換基を有した形態であってもよい。R
11は好ましくは水素原子又はアルキル基(好ましくは炭素数1〜5、より好ましくは炭素数1〜3のアルキル基)である。Xはヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基、オキサゾリン環、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基または酸無水物構造を有する基を示す。Xは、置換基を有した形態であってもよい。
式(6)で表される架橋剤として、例えば、オキサゾリン環含有ポリマー(商品名:エポクロス(登録商標)、日本触媒社製)を挙げることができる。オキサゾリン環含有ポリマーは、例えば下記構造単位で構成されるポリマーである。本明細書においてMeはメチルを意味する。
なお、架橋剤がポリマーであり、その構成成分としてアクリル酸成分、アクリル酸エステル成分、アクリルアミド成分またはスチレン成分を含む場合、これらの成分はそれぞれ、本発明で規定するアクリル酸成分、アクリル酸エステル成分、アクリルアミド成分またはスチレン成分に含まれるものとする。
【0067】
式(7)中、Yはm価の連結基を示す。Yは好ましくは炭素数が2〜20の整数、好ましくは炭素数が2〜15の整数である炭化水素基が好ましい。この炭化水素基は、その炭化水素鎖中にヘテロ原子を有してもよい。ヘテロ原子としては、O、S,N、及びTi等を挙げることができる。mは2以上の整数であり、2〜8が好ましく、2〜4がより好ましい。R
dmは式(6)中のXと同義である。
式(7)で表される架橋剤として、ポリイソシアネート化合物(好ましくはジイソシアネート化合物)、シランカップリング剤およびチタンカップリング剤等を挙げることができる。式(7)で表される架橋剤の一例を以下に示す。
【0069】
ポリマーbが架橋剤を介した架橋構造を有する場合、架橋構造を有するポリマーb中、架橋剤成分(架橋剤由来成分)の割合が30〜90質量%であることが好ましく、40〜70質量%であることがより好ましい。
【0070】
ポリマーbの重量平均分子量は(ポリマーbが架橋剤を介した架橋構造を有する場合には、架橋前の状態のポリマーbの重量平均分子量)は、10,000〜300,000が好ましく、30,000〜150,000がより好ましく、40,000〜120,000がさらに好ましい。
【0071】
層bは、ポリマーbを1種含有する形態でもよいし、2種以上含有する形態でもよい。また、層b中のポリマーbの含有量は5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、層b中のポリマーbの含有量は40質量%以上であることも好ましく、60質量%以上であることも好ましく、80質量%以上であることも好ましい。層bがポリマーb以外の成分を含有する場合、ポリマーb以外の成分としては、例えば、高分子バインダー、界面活性剤、高分子微粒子、無機微粒子を挙げることができる。
【0072】
層bの表面は、親水化処理されていることが好ましい。本発明において「層bの表面」とは、基材aと接する面とは反対側の面を意味する。
親水化処理の方法は、層b表面(層b表面に存在するポリマーb)に親水性基を付与できれば特に制限はない。例えば、酸性溶液浸漬、アルカリ性溶液浸漬、過酸化物溶液浸漬、プラズマ処理、および電子線照射を行うことにより、層bの表面を親水化処理することができる。
【0073】
層bの厚みは、通常は0.01〜100μmであり、0.05〜50μmが好ましく、0.1〜10μmがさらに好ましい。
【0074】
[医療用潤滑性部材]
本発明の積層材料を構成する層bの表面に、親水性ポリマーを含有してなる層cを形成することにより、本発明の医療用潤滑性部材が提供される。すなわち、本発明の医療用潤滑性部材は、
図2に示すように(
図2は、
図1の形態の積層材料を用いて医療用潤滑性部材を製造した場合の形態の一例である)、本発明の積層材料と、この積層材料を構成する層b上(層bの表面)に配された、親水性ポリマーを含有してなる層cとを有する。親水性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルピロリドン、ビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、ポリエチレングルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドおよびヒアルロン酸が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。親水性ポリマーはポリビニルピロリドン、ビニルエーテル−無水マレイン酸および/またはポリエチレングリコール(ポリビニルピロリドン、ビニルエーテル−無水マレイン酸およびポリエチレングリコールのうちの少なくとも1種)が好ましい。
層c中の親水性ポリマーの含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。層cが親水性ポリマー以外の成分を含有する場合、親水性ポリマー以外の成分としては、例えば、高分子バインダー、界面活性剤、高分子微粒子、無機微粒子、および架橋剤を挙げることができる。
【0075】
層cは、親水性ポリマーを溶解した溶液(層c形成用塗布液)を調製し、この溶液を層b上に塗布し、乾燥させることにより形成することができる。また、この溶液中には目的に応じて架橋剤を含有させてもよい。層c形成用塗布液に用いる溶媒としては、例えばジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,3,5−トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトール等のエーテル溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、及びジメチルシクロヘキサノン等のケトン溶媒、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n−ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン醸エチル、酢酸n−ペンチル、及びγ−ブチロラクトン等のエステル溶媒、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、及びシクロヘキサノール等のアルコール溶媒、キシレン、及びトルエン等の芳香族炭化水素、メチレンクロライド、クロロホルム、及び1,1−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素溶媒、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、及びN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒、アセトニトリル等のニトリル溶媒、2−メトキシ酢酸メチル、2−エトキシ酢酸メチル、2−エトキシ酢酸エチル、2−エトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシエタノール、2−プロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1,2−ジアセトキシアセトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、アセト酢酸メチル、N−メチルピロリドン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、及びアセト酢酸エチル等の2種類以上の官能基を有する有機溶媒等を挙げることができる。
【0076】
層c形成用塗布液中に含ませる架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物(好ましくはジイソシアネート化合物)、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ポリエポキシ化合物、ポリアミン化合物、およびメラミン化合物を挙げることができる。
層cの厚さは0.1〜100μmが好ましく、0.5〜50μmがより好ましく、1〜10μmがさらに好ましい。
【0077】
本発明の医療用潤滑性部材は、医療機器の部材として用いられることが好ましい。本発明の医療用潤滑性部材は、通常は、層cが医療機器の最表面(管状の医療機器においては菅の内側表面および/または菅の外側表面(菅の内側表面および菅の外側表面のうちの少なくとも一方の面)を構成するように用いられる。
本発明において医療機器に特に制限はなく、例えば、医療用チューブ、ガイドワイヤ、内視鏡、手術針、手術用縫合糸、鉗子、人工血管、人工心臓およびコンタクトレンズが挙げられる。なかでも本発明の医療用潤滑性部材が適用される医療機器は、本発明の医療用潤滑性部材の湿潤状態における滑り特性を効果的に利用する観点から、内視鏡、ガイドワイヤ、医療用チューブまたは手術針であることが好ましい。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例に基づき本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。
【0079】
<1.ポリマー溶液の作製>
[合成例1]
還流塔を装着した攪拌可能な反応装置に、シリコーンマクロマーAK−32(商品名、東亞合成社製、数平均分子量20,000)16.0g、ヒドロキシエチルメタクリレート(東京化成工業社製)4.0g、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(以下、MPEGAと表記する)(Aldrich社製、数平均分子量5,000)10.0g、メチルメタクリレート(東京化成工業社製)10.0g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬工業社製)0.03gおよびメチルエチルケトン(MEK)(和光純薬社製)60gを加え、80℃、20時間の条件で撹拌し、重合反応を行った。得られた反応液をポリマー溶液1として用いた。このポリマー溶液1中のポリマーの重量平均分子量は20,000であった。
【0080】
【化15】
【0081】
[合成例2]
上記合成例1において、ヒドロキシエチルメタクリレート(東京化成工業社製)4.0gに代えてアクリル酸(東京化成工業社製)4.0gを用いた以外は合成例1と同様にして、ポリマー溶液2を調製した。このポリマー溶液2中のポリマーの重量平均分子量は30,000であった。
【0082】
【化16】
【0083】
[合成例3]
上記合成例1において、ヒドロキシエチルメタクリレート(東京化成工業社製)4.0gに代えてメタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業社製)4.0gを用いた以外は合成例1と同様にして、ポリマー溶液3を調製した。このポリマー溶液3中のポリマーの重量平均分子量は18,000であった。
【0084】
【化17】
【0085】
[合成例4]
上記合成例1において、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(Aldrich社製、数平均分子量5,000)を使用せず、メチルメタクリレート(東京化成工業社製)10.0gを20.0gに代えた以外は合成例1と同様にして、ポリマー溶液4を調製した。このポリマー溶液4中のポリマーの重量平均分子量は26,000であった。
【0086】
【化18】
【0087】
[合成例5]
合成例1のシリコーンマクロマーをX−22−2426(商品名、信越化学工業社製、数平均分子量12,000)に変更した以外は、合成例1と同様にしてポリマー溶液5を調製した。このポリマー溶液5中のポリマーの重量平均分子量は30,000であった。
【0088】
[合成例6]
合成例1のシリコーンマクロマーをX−24−8201(商品名、信越化学工業社製、数平均分子量2,100)に変更した以外は、合成例1と同様にしてポリマー溶液6を調製した。このポリマー溶液6中のポリマーの重量平均分子量は45,000であった。
【0089】
下記表1に、各ポリマー溶液の原料の仕込み比をまとめて記載した。表中、配合量はg単位であり、「−」はその成分を含有しないことを意味する。
【0090】
【表1】
【0091】
<表の注>
シリコーンマクロマーAK−32:東亞合成社製、数平均分子量20,000 式(1)の構造
X−22−2426:信越化学工業社製、数平均分子量12,000、式(1)の構造(シリコーンマクロマーAK−32とはシロキサン結合の繰り返し数が異なる。)
X−24−8201:信越化学工業社製、数平均分子量2,100、式(1)の構造(シリコーンマクロマーAK−32とはシロキサン結合の繰り返し数が異なる。)
MPEGA:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、Aldrich社製、数平均分子量5,000
【0092】
<2.下塗り層(層b)の調製>
下記表2記載の配合比で、ポリマー溶液、架橋剤を溶媒に溶解させ、下塗り液1〜10を調製した。表中、配合量はg単位であり、「−」はその成分を含有しないことを意味する。
【0093】
【表2】
【0094】
<表の注>
ポリマー溶液1〜6:上記で作製したポリマー溶液、いずれも固形分40質量%
アクリット8BS−9000:熱硬化型シリコーンアクリルポリマー、大成ファインケミカル社製、ポリシロキサン結合を有する構造単位1.0mol%、固形分40質量%、アクリット8BS−9000は少なくとも下記の構造単位を有する。
【0095】
【化19】
【0096】
エポクロスWS−500:オキサゾリン基含有ポリマー、日本触媒社製、オキサゾリン基含有量4.5mmol/g、固形分40質量%
コロネートHX:ポリイソシアネート、東ソー社製、イソシアネート基含有量20.5〜22.0質量%
【0097】
<3.親水コート液の調製>
(1)親水コート液1
ポリビニルピロリドン(K−90 和光純薬製)2.0gと4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)(東京化成製)0.25gとをクロロホルム100gに溶解させ、親水コート液1を調製した。
(2)親水コート液2
ポリ無水マレイン酸ビニルエーテル共重合体(数平均分子量311,000、Aldrich社製)2.0gをクロロホルム100gに溶解させ、親水コート液2を調製した。
【0098】
<4.親水性潤滑コート層(層c)付きシートの作製>
[実施例1]
厚さ500μm、幅50mm、長さ50mmのシリコーンゴムシート(商品名:KE−880−U、硬度80A、信越化学工業社製、表面自由エネルギー:22mN/m)を、下塗り液1に3分間浸漬した後、150℃で30分間加熱乾燥させた。この乾燥後のシートを、10%塩酸水溶液に12時間以上浸漬させた後に、メタノールで洗浄し、室温で1時間風乾させた。この風乾後のシートを、親水コート液1に3分間浸漬させた後、60℃で30分間、次いで135℃で30分間、加熱乾燥させ、親水性潤滑コートを形成し、親水性潤滑コート層付きシート(以下、「親水コート層付きシート」と称す。)を作製した。
[実施例2〜9]
実施例1の下塗り液1に代えて下塗り液2〜9を使用した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜9の親水コート層付きシートを作製した。
[実施例10]
実施例1の10%塩酸水溶液に代えて10%過酸化水素水を使用した以外は実施例1と同様にして、実施例10の親水コート層付きシートを作製した。
[実施例11]
実施例1の親水コート液1に代えて親水コート液2を使用した以外は実施例1と同様にして、実施例11の親水コート層付きシートを作製した。
[実施例12]
実施例1のシリコーンゴムシートに代えてウレタンゴムシート(商品名:07−007−01、表面自由エネルギー:38mN/m)、ハギテック社製)を使用した以外は実施例1と同様にして、実施例12の親水コート層付きシートを作製した。
[比較例1]
実施例1の下塗り液1に代えて下塗り液10を使用した以外は実施例1と同様にして、比較例1の親水コート層付きシートを作製した。
【0099】
<試験>
上記で作製した親水コート層付きシートについて、以下の試験を行った。試験結果を下記表3にまとめて記載する。
【0100】
[試験例]滑り性および耐久性
湿潤時の滑り性および耐久性は連続加重式引掻強度試験機 TYPE:18type(HEIDON 製)にて評価した。実施例で作製したシートの親水性潤滑コート層側に対し、テトラフルオロエチレン製圧子を用い、水浸漬下、荷重500gで50往復の摩擦を加え、1回目と50回目の動摩擦係数(μk)を計測した。
「滑り性」は、1回目の動摩擦係数を下記評価基準により評価した。また、「耐久性」は、50回目の動摩擦係数を下記評価基準により評価した。いずれにおいても、「A」および「B」が本試験における合格レベルである。
<滑り性の評価基準>
A:μk<0.03
B:0.03<μk<0.06
C:0.06<μk<0.1
D:0.1<μk
<耐久性の評価基準>
A:μk<0.03
B:0.03<μk<0.06
C:0.06<μk<0.1
D:0.1<μk
【0101】
【表3】
【0102】
<表の注>
PVP:ポリビニルピロリドン(重量平均分子量:600,000)
MDI:ジフェニルメタンジイソシアネート
無水マレイン酸−ビニルエーテル共重合体:重量平均分子量:1080,000、共重合比は無水マレイン酸/ビニルエーテル=50/50(モル比)
*1:質量%
【0103】
表3に示されるように、下塗り層(層b)の形成に用いるポリマーが反応性官能基を有しない場合には、下塗り層と親水コート層との密着性に劣り、摺動を繰り返すことにより滑り性が悪化した(比較例1)。また、下塗り層を設けずに親水コート層を形成した場合には、滑り性に劣る結果となった(比較例2)。
これに対し、本発明の規定を満たす実施例1〜12の形態では、滑り性に優れ、この滑り性は摺動を繰り返して十分に維持されていた。
【0104】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0105】
本願は、2017年1月13日に日本国で特許出願された特願2017−003843に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。