(54)【発明の名称】セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材、これを用いた成形体及びペレット、これらの製造方法、並びにセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片のリサイクル方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記セルロース繊維が繊維長1mm以上のセルロース繊維を含有し、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材がポリプロピレンを含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリプロピレンの含有量が20質量部以下である、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材の、138℃の熱キシレン溶解質量比をGa(%)、105℃の熱キシレンへ溶解質量比をGb(%)、セルロース有効質量比をGc(%)としたとき、下記式を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
{(Ga−Gb)/(Gb+Gc)}×100≦20
ここで、
Ga={(W0−Wa)/W0}×100
Gb={(W0−Wb)/W0}×100
W0:熱キシレンに浸漬する前の複合材の質量
Wa:138℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Wb:105℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Gc={Wc/W00}×100
Wc:窒素雰囲気中で270℃〜390℃に昇温する間の、乾燥複合材の質量減少量
W00:昇温前(23℃)の乾燥複合材の質量
である。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が、ポリエチレンテレフタレート及びナイロンのいずれか1つ以上を含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリエチレンテレフタレートとナイロンとの総含有量が10質量部以下である、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が、
(a)紙及びポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙、及び/又は
(b)前記ポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料・食品パック
を原料として得られたものである、
セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が無機質材を含有する、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材の線膨張係数が1×10−4以下である、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が25質量部以上50質量部未満であり、前記複合材を成形したときの成形体の引張強度が20MPa以上である、請求項2〜9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上15質量部未満であり、前記複合材を成形したときの成形体の曲げ強度が8〜20MPaである、請求項2〜9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が15質量部以上50質量部未満であり、前記複合材を成形したときの成形体の曲げ強度が15〜40MPaである、請求項2〜9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、請求項1〜13のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
前記複合材がポリプロピレンを含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリプロピレンの含有量が20質量部以下である、請求項1〜3、5〜9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
前記複合材の、138℃の熱キシレン溶解質量比をGa(%)、105℃の熱キシレンへ溶解質量比をGb(%)、セルロース有効質量比をGc(%)としたとき、下記式を満たす、請求項1〜4、6〜9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
{(Ga−Gb)/(Gb+Gc)}×100≦20
ここで、
Ga={(W0−Wa)/W0}×100
Gb={(W0−Wb)/W0}×100
W0:熱キシレンに浸漬する前の複合材の質量
Wa:138℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Wb:105℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Gc={Wc/W00}×100
Wc:窒素雰囲気中で270℃〜390℃に昇温する間の、乾燥複合材の質量減少量
W00:昇温前(23℃)の乾燥複合材の質量
である。
前記複合材がポリエチレンテレフタレート及びナイロンのいずれか1つ以上を含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリエチレンテレフタレートとナイロンとの総含有量が10質量部以下である、請求項1〜5、7〜9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
前記複合材が、23℃の水に20日間浸漬した後の吸水率が0.1〜10%であり、かつ耐衝撃性が、23℃の水に20日間浸漬する前よりも浸漬した後の方が高い、請求項1〜26のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
少なくとも、セルロース繊維が付着してなるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を亜臨界状態の水の存在下で溶融混練し、ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなる複合材を得ることを含む、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法であって、
前記複合材が、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中の前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、
セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
少なくとも、セルロース繊維が付着してなるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を亜臨界状態の水の存在下で溶融混練し、ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなる複合材を得ることを含む、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法であって、
前記複合材が、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中の前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、
セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
前記溶融混練がバッチ式閉鎖型混練装置を用いて行われ、前記薄膜片と水とを該バッチ式閉鎖型混練装置に投入して、該装置の回転軸の外周に突設された撹拌羽根を回転させて撹拌し、この撹拌により装置内の圧力と温度を高めて水を亜臨界状態として行う、請求項32又は33に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
前記セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片が、紙の表面にポリエチレン薄膜が貼着されたポリエチレンラミネート加工紙から紙部分を剥ぎ取り除去して得られる薄膜片であり、水を含んだ状態である、請求項32〜34のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
前記複合材が、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中の前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、請求項33に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
前記複合材が、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中の前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、請求項32に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の技術では、溶融状態での混練を行わずに、単にモウルド成形により包装用トレイを製造するものであり、後述するような亜臨界状態の水の存在下で溶融混練するものではない。そのため、特許文献1では、ポリエチレンを含んだ紙廃棄物を細かく粉砕してモウルド成形を行うが、溶融混練工程がないためセルロースの分布に偏りが生じる。さらにモウルド成形では、材料を加熱融着するに過ぎず、薄膜片同士の融着部分は少なく、セルロース繊維の分散状態を十分に均一化することができず、得られる成形体の融着部の強度が低いという問題がある。また、かかる成形体は、セルロース繊維の多くが樹脂から露出した状態であるため、吸水しやすく乾燥し難い特性を有し、その用途が限定されてしまう。
【0009】
また、特許文献2記載の技術では、ラミネート加工紙から紙部分を剥ぎぎ取らずに0.5mm〜2.5mmの微細な粒径に粉砕してポリプロピレンや変性ポリプロピレンを加え、二軸押出機で混練して紙含有樹脂組成物を得て、さらに、これに流動性向上剤を含有する混合物を加えて射出成形を行っている。すなわち特許文献2記載の技術は、ラミネート加工紙の古紙から得た水分を含むセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を亜臨界状態の水の存在下で溶融混練するものではない。さらに、特許文献2には、針葉樹漂白化学パルプを含有する紙含有樹脂組成物が記載されている。しかし、この組成物に使用する樹脂はポリプロピレンないし変性ポリプロピレン樹脂でありポリエチレンではない。さらに、特許文献2記載の技術では、紙含有樹脂組成物に含まれるセルロースの量が相対的に多く、そのままでは混練時に良好な流動性が得られず、成形体を作製した場合に材料強度のばらつきや十分な強度が得らない部分が生じる問題がある。これを解決すべく特許文献2には、原料として別途にポリプロピレンや流動性向上剤を添加することが記載されているが、ポリエチレンを用いることは記載されていない。
【0010】
また、特許文献3はオフィスから排出される使用済み排出紙であるPPC用紙を含水させた後、脱水し、PET樹脂またはPP樹脂と混合して亜臨界もしくは超臨界処理を行って射出成形用樹脂を製造する製造方法に関する発明である。
特許文献3記載の発明は、単にPPC古紙とPET樹脂等の容器リサイクル樹脂を別々に準備して混合処理してリサイクルするものであり、紙製飲料容器をパルパー処理して紙成分を取り除いて得られる、水を多量に含み、大きさも形状もまちまちで、樹脂にセルロースが不均一に付着した状態の薄膜片をリサイクルするものではない。
特許文献3記載の技術においては、PPC用紙を構成する多数のセルロース繊維が複雑に絡み合っており、これを十分に解繊してバラバラの状態にすることは難しいため、PPC用紙を細かく裁断したものを用いている。
また、PPC用紙は、裁断面からの吸水が優位なため、裁断面の表面積を増加させるため、PPC用紙を細かく裁断して含水、脱水処理を行なわないと、亜臨界もしくは超臨界処理によるセルロース繊維の解繊が十分に進行しない。この裁断を十分に行わない場合、製造した射出成形用樹脂の中に、解繊されていない紙片(セルロース繊維の集塊)が少なからず残存し、これが射出成形用樹脂の強度低下、吸水特性低下の原因になりうる問題がある。
【0011】
さらに、上記特許文献4記載の技術では、熱可塑性樹脂と繊維状セルロースを別々の材料をバッチ式溶融混連装置の攪拌室に投入して、熱可塑性樹脂と繊維状セルロースを溶融混練する際に、繊維状セルロースは溶融せず熱可塑性樹脂は溶融させるものである。すなわち、特許文献4記載の技術では、用いる原料が、目的の樹脂組成物を得るのに適したいわば純品であり、上述のような水を多量に含み、大きさも形状もまちまちで、樹脂にセルロースが不均一に付着した状態の薄膜片をリサイクルするものではない。
また物性の異なる熱可塑性樹脂と繊維状セルロースを別々に投入して混ぜ合わせた場合、熱可塑性樹脂中に繊維状セルロースが十分均一な状態で分散し、一体化した樹脂組成物とすることは難しい。すなわち、繊維状セルロースが凝集した凝集物などが生じやすく、樹脂成形体の強度低下を招く恐れがある。そのため、特許文献4には、アスペクト比が5〜500の繊維状のセルロースを用いることが記載されている。
【0012】
本発明は、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片の再利用技術に関する。
すなわち本発明は、ポリエチレン樹脂中に、特定量のセルロース繊維が十分均一な状態で分散してなり、樹脂製品の原料として有用な、所定のセルロース有効質量比に対して所定の吸水率を有するセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材、この複合材を用いたペレット及び成形体を提供することを課題とする。
また本発明は、紙及びポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料パックないし食品パック等から得られる、セルロース繊維がポリエチレン薄膜片に付着してなるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、簡単な処理工程で一体的に処理し、樹脂製品の原料として有用なセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を製造する方法、この方法を含むリサイクル方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、牛乳パック等の紙製飲料容器を構成しているポリエチレンラミネート加工紙を水中で撹拌し、この撹拌により紙部分を剥ぎ取り除去して、セルロース繊維が付着したポリエチレン薄膜片を得、この薄膜片を、亜臨界状態の水の存在下で溶融混練することにより、ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を十分均一な状態で分散させることができること、さらにこの溶融混練により水分を取り除くことができ、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維とがいわば一体化した複合材を、優れたエネルギー効率で得ることができることを見い出した。
すなわち、上述したように従来は、樹脂原料としての再利用には再利用が困難であった上記ポリエチレン薄膜片を、亜臨界状態の水の存在下で溶融混練することにより、セルロース繊維とポリエチレン樹脂が一体化された、均一性に優れた複合材が得られることを見い出した。
本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0014】
すなわち上記課題は以下の手段により解決された。
〔1〕
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が
25質量部以上50質量部未満であり、吸水率
と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式
[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材
であって、
前記複合材を成形したときの成形体の引張強度が20MPa以上である、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式
B] (吸水率
[%])<(セルロース有効質量比
[%])
2×0.01
〔2〕
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記セルロース繊維が繊維長1mm以上のセルロース繊維を含有し、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
〔3〕
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂の50質量%以上が低密度ポリエチレンであり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
〔4〕
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材がポリプロピレンを含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリプロピレンの含有量が20質量部以下である、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
〔5〕
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材の、138℃の熱キシレン溶解質量比をGa(%)、105℃の熱キシレンへ溶解質量比をGb(%)、セルロース有効質量比をGc(%)としたとき、下記式を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
{(Ga−Gb)/(Gb+Gc)}×100≦20
ここで、
Ga={(W0−Wa)/W0}×100
Gb={(W0−Wb)/W0}×100
W0:熱キシレンに浸漬する前の複合材の質量
Wa:138℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Wb:105℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Gc={Wc/W00}×100
Wc:窒素雰囲気中で270℃〜390℃に昇温する間の、乾燥複合材の質量減少量
W00:昇温前(23℃)の乾燥複合材の質量
である。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
〔6〕
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が、ポリエチレンテレフタレート及びナイロンのいずれか1つ以上を含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリエチレンテレフタレートとナイロンとの総含有量が10質量部以下である、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
〔7〕
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が、
(a)紙及びポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙、及び/又は
(b)前記ポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料・食品パック
を原料として得られたものである、
セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
〔8〕
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が無機質材を含有する、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
〔9〕
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材の線膨張係数が1×10−4以下である、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
〔
10〕
前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が5質量部以上50質量部未満である、
〔2〕〜〔9〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材
。
〔11〕
前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が25質量部以上50質量部未満であり、前記複合材を成形したときの成形体の引張強度が20MPa以上である、
〔2〕〜〔9〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材
。
〔12〕
前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上15質量部未満であり、前記複合材を成形したときの成形体の曲げ強度が8〜20MPaである、
〔2〕〜〔9〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
〔
13〕
前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が15質量部以上50質量部未満であり、前記複合材を成形したときの成形体の曲げ強度が15〜40MPaである、
〔2〕〜〔9〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
〔
14〕
前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、〔1〕〜〔
13〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
〔
15〕
繊維長1mm以上のセルロース繊維を含有する、〔1
〕、〔3〕〜〔9〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
〔
16〕
温度230℃、荷重5kgfにおけるメルトフローレート(MFR)が、0.05〜50.0g/10minである、〔1〕〜〔
15〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
〔
17〕
前記ポリエチレン樹脂が低密度ポリエチレンを含む、〔1
〕、〔2〕、〔4〕〜〔9〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
〔
18〕
前記ポリエチレン樹脂の50質量%以上が低密度ポリエチレンである、
〔17〕に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材
。
〔19〕
前記ポリエチレン樹脂が直鎖状低密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンのいずれか1つ以上を含む、〔1〕〜〔
18〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
〔
20〕
前記複合材がポリプロピレンを含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリプロピレンの含有量が20質量部以下である、〔1〕
〜〔3〕、〔5〕〜〔9〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
〔
21〕
前記複合材の、138℃の熱キシレン溶解質量比をGa(%)、105℃の熱キシレンへ溶解質量比をGb(%)、セルロース有効質量比をGc(%)としたとき、下記式を満たす、〔1〕〜
〔4〕、〔6〕〜〔9〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
{(Ga−Gb)/(Gb+Gc)}×100≦20
ここで、
Ga={(W0−Wa)/W0}×100
Gb={(W0−Wb)/W0}×100
W0:熱キシレンに浸漬する前の複合材の質量
Wa:138℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Wb:105℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Gc={Wc/W00}×100
Wc:窒素雰囲気中で270℃〜390℃に昇温する間の、乾燥複合材の質量減少量
W00:昇温前(23℃)の乾燥複合材の質量
である。
〔
22〕
前記複合材がポリエチレンテレフタレート及びナイロンのいずれか1つ以上を含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリエチレンテレフタレートとナイロンとの総含有量が10質量部以下である、〔1〕〜
〔5〕、〔7〕〜〔9〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
〔
23〕
前記ポリエチレン樹脂及び/又は前記ポリプロピレンの少なくとも一部が再生材に由来する、
〔4〕又は〔20〕に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
〔
24〕
前記複合材が、
(a)紙及びポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙、及び/又は
(b)前記ポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料・食品パック
を原料として得られたものである、〔1〕〜
〔6〕、〔8〕及び〔9〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
〔
25〕
前記複合材が、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を原料として得られる、〔1〕〜〔
24〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材
。
〔26〕
前記複合材が無機質材を含有する、〔1〕〜
〔7〕及び〔9〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
〔
27〕
前記複合材が、23℃の水に20日間浸漬した後の吸水率が0.1〜10%であり、かつ耐衝撃性が、23℃の水に20日間浸漬する前よりも浸漬した後の方が高い、〔1〕〜〔
26〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
〔
28〕
線膨張係数が1×10
−4以下である、〔1〕〜
〔8〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
〔
29〕
含水率が1質量%未満である、〔1〕〜〔
28〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
〔
30〕
〔1〕〜〔29〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を用いたペレット。
〔
31〕
〔1〕〜〔
29〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を用いた成形体
。
〔32〕
少なくとも、セルロース繊維が付着してなるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を亜臨界状態の水の存在下で溶融混練し、ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなる複合材を得ることを含む、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法
であって、
前記複合材が、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中の前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式[式B]を満たす、
セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式B] (吸水率[%])<(セルロース有効質量比[%])2×0.01
〔33〕
少なくとも、セルロース繊維が付着してなるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を亜臨界状態の水の存在下で溶融混練し、ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなる複合材を得ることを含む、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法であって、
前記複合材が、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中の前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、
セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
〔
34〕
前記溶融混練がバッチ式閉鎖型混練装置を用いて行われ、前記薄膜片と水とを該バッチ式閉鎖型混練装置に投入して、該装置の回転軸の外周に突設された撹拌羽根を回転させて撹拌し、この撹拌により装置内の圧力と温度を高めて水を亜臨界状態として行う、
〔32〕又は〔33〕に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法
。
〔35〕
前記セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片が、紙の表面にポリエチレン薄膜が貼着されたポリエチレンラミネート加工紙から紙部分を剥ぎ取り除去して得られる薄膜片であり、水を含んだ状態である、〔
32〕〜〔34〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法
。
〔36〕
前記複合材が、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中の前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率
と熱重量分析(TGA)により求めたセルロース有効質量比が次式
[式B]を満たす、
〔33〕に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法
。
ただし、前記吸水率は、所定の乾燥処理を行ったセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の所定形状のシート状試験片を、23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて[式A]により算出する。
[式A] (吸水率[%])=
(浸漬後重量[g]−浸漬前重量[g])×100/(浸漬前質量[g])
[式
B] (吸水率
[%])<(セルロース有効質量比
[%])
2×0.01
〔
37〕
前記複合材が、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中の前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、
〔32〕に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
〔
38〕
〔32〕〜〔37〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法によりセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を得ることを含む、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片のリサイクル方法。
〔
39〕
〔1〕〜〔
29〕のいずれか1つに記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材又は〔
30〕に記載のペレットと、高密度ポリエチレン及びポリプロピレンのいずれか1つ以上とを混合し、該混合物を成形して成形体を得ることを含む、成形体の製造方法。
【0015】
本発明において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
本発明において、「ポリエチレン」という場合、低密度ポリエチレン及び/又は高密度ポリエチレン(HDPE)を意味する。
上記低密度ポリエチレンは、密度が880kg/m
3以上940kg/m
3未満のポリエチレンを意味する。上記高密度ポリエチレンは、上記低密度ポリエチレンの密度より密度が大きいポリエチレンを意味する。
低密度ポリエチレンは、長鎖分岐を有する、いわゆる「低密度ポリエチレン」及び「超低密度ポリエチレン」といわれるものでもよく、エチレンと少量のα−オレフィンモノマーを共重合させた直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)でもよく、さらには上記密度範囲に包含される「エチレン−α−オレフィン共重合体エラストマー」であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明におけるセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法によれば、使用済み飲料容器などの、紙の表面にポリエチレン薄膜が貼着されたポリエチレンラミネート加工紙から、紙部分を剥ぎ取り除去して得られるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を原料として、ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維が均一な状態で分散し、含水率が低く、吸水率も抑えられたセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を、簡易な工程かつ高エネルギー効率で得ることができる。
【0018】
また、本発明におけるセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材は、ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維が均一な状態で分散しており、さらに含水率が低く、吸水率も低いので、押出成形及び射出成形などへの適応性が高いものである。また本発明におけるセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を成形することにより、曲げ強度や耐衝撃性などに優れた成形体を得ることができる。
【0019】
さらに、本発明の成形体は、本発明におけるセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を用いてなり、樹脂中にセルロース繊維が均一な状態で分散しているため、均質性が高く、形状安定性に優れると共に、曲げ強度や耐衝撃性などに優れており、多目的に利用可能なものである。
【0020】
また、本発明のリサイクル方法によれば、使用済み飲料容器などのポリエチレンラミネート加工紙や、該加工紙から紙部分を剥ぎ取り除去したセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、押出成形及び射出成形などへの適応性が高いセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材に再利用することで、従来は事実上、樹脂としての再利用が困難であったセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を有効利用することができ、廃棄物を大幅に低減することができる。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
[セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法]
本発明の製造方法では、原料として、セルロース繊維が付着してなるポリエチレン薄膜片を用いる。このポリエチレン薄膜片の由来に特に制限はなく、好ましくは、紙及びポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料パック及び/又は食品パックから得られるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片である。このセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を用いた複合材の製造方法について以下に説明する。
【0024】
<セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片>
紙及びポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料パック及び/又は食品パックは、一般に、紙部分の材質として丈夫で見た目の美しい高品質のパルプが使用されており、このようなパルプは主にセルロース繊維によって構成されている。そして、かかる紙部分の表面には、ポリエチレン押出ラミネート加工によってポリエチレン薄膜が貼着されており、紙部分への飲料の浸透を防ぐようにされている。
【0025】
このような飲料パック及び/又は食品パックをリサイクルするには、一般に、パルパーに投入して水中で撹拌することによって、ラミネート加工紙から紙部分を剥ぎ取り除去し、ポリエチレン薄膜部分と紙部分とに分離する。その場合、ポリエチレン薄膜部分は、例えば0.1cm
2〜500cm
2程度の大きさで、不均一な小片に切断されたもの、あるいは飲料容器を展開した大きさに近いものが含まれる。ポリエチレン薄膜部分の、紙部分が剥ぎ取られた側の表面には、除去しきれなかった多数のセルロース繊維が不均一に付着したままの状態にある。このポリエチレン薄膜部分を、本発明においては上述のとおり、「セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片」という。また、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片は、パルパーにより紙部分がある程度除去され、飲料パック及び/又は食品パックそのものよりもセルロース繊維の量が少ない。すなわち、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片の集合体(薄膜片原料全体)として見た場合、乾燥質量において、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中のセルロース繊維の割合は1質量部以上70質量部以下であることが好ましく、5質量部以上70質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上50質量部未満であることがさらに好ましく、25質量部以上50質量部未満であることがさらに好ましい。また、パルパーで処理して得られるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片は、そのセルロース繊維が多量の水を吸収した状態にある。なお、本発明において単に「セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片」という場合、水分を除いた状態(吸水していない状態)の薄膜片を意味する。
パルパーによる一般的な処理では、通常、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片は、当該薄膜片の集合体(薄膜片原料全体)として見た場合、乾燥質量において、ポリエチレン樹脂の量よりもセルロース繊維の量が少量となる。
【0026】
「セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片」において、付着しているセルロース繊維は、繊維同士が相互に接触せずに分散した状態でもよく、繊維同士が絡まって紙の状態を保っていてもよい。「セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片」には、ポリエチレン樹脂、セルロース繊維、紙の白色度を高めるために一般的に含まれる填料(例えばカオリン、タルク)、サイズ剤などが含まれていてもよい。ここで、サイズ剤とは、紙に対してインクなど液体の浸透性を抑え、裏移りや滲みを防ぎ、ある程度の耐水性を与える目的で加えられるものである。疎水性基と親水性基を持ち、疎水性基を外側に向けて紙に疎水性をもたせる。内添方式と表面方式とがあり、いずれにも天然物と合成物とがある。主なものとして、ロジン石鹸、アルキルケテンダイマー(ADK)、アルケニル無水コハク酸(ASA)、ポリビニルアルコール(PVA)などが用いられる。表面サイズ剤には酸化でんぷん、スチレン・アクリル共重合体(コポリマー)、スチレン・メタクリル共重合体などを用いる。その他、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分が含まれていてもよい。例えば、原料のラミネート加工紙に含まれる各種添加剤、インク成分、等が含まれていても良い。セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片中(水分を除いたセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片中)の上記他の成分の含有量は、通常は0〜10質量%であり、0〜3質量%が好ましい。
【0027】
<亜臨界状態の水による作用>
本発明のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法では、上記のセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、亜臨界状態の水の存在下で溶融混練する。すなわち、亜臨界状態の水を作用させながら溶融混練することによって、ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維が分散してなるセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を製造することができる。
ここで、「亜臨界状態の水」とは、水の臨界点(温度374℃・圧力22MPa)までには達しない高温高圧状態の水であり、より詳しくは、温度が水の大気圧の沸点(100℃)以上、かつ水の臨界点以下であり、圧力が少なくとも飽和水蒸気圧付近にある状態である。
亜臨界状態の水は、0℃以上100℃以下で大気圧下の水よりイオン積が大きくなり、セルロースなどの高分子を分解して低分子化する作用が高まると推定される。溶融混練によるせん断力の付加と亜臨界状態での反応が複合的に作用して、セルロース繊維がポリエチレン中に十分均一な状態で分散した樹脂が得られるものと考えられる。このような反応を利用することで、大きさ、形状、セルロース繊維の付着状態が不均一な、セルロース繊維とポリエチレンの複合体としてのセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片から均一な物性のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を製造することが可能になる。
【0028】
セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、亜臨界状態の水の存在下で溶融混練するために、例えば、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片と、水との混合物を、当該水の亜臨界状態で溶融混練することができる。
【0029】
亜臨界状態の水の存在下でセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を溶融混練する方法に特に制限はない。例えば、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片と水とを閉鎖空間内に投入し、かかる閉鎖空間内で薄膜片と水とを激しく混練することにより、空間内の温度と圧力が上昇し、水を亜臨界状態へと変化させることが可能となる。
なお、本発明において「閉鎖」とは、外部から閉ざされた空間であるが、完全な密閉状態ではないことを示す意味で用いている。すなわち、上記のように閉鎖空間内で薄膜片と水とを激しく混練すると温度と圧力が上昇するが、かかる高温高圧下において蒸気が外へと排出される機構を備えた空間を意味する。したがって、閉鎖空間内で、薄膜片と水とを激しく混練することにより、亜臨界状態の水の存在下での溶融混練が達せられる一方、水分は蒸気として外に排出され続けるため、ついには水分を大幅に低減あるいは事実上完全に取り除くことが可能となる。
【0030】
上述した閉鎖空間内における薄膜片と水との溶融混練には、例えばバッチ式閉鎖型混練装置を好適に用いることができる。かかるバッチ式閉鎖型混練装置として、例えば、株式会社エムアンドエフ・テクノロジー製の国際公開2004/076044号公報に記載のバッチ式高速撹拌装置やこれに類似した構造を有するバッチ式高速撹拌装置を使用することができる。このバッチ式閉鎖型混練装置には、円筒形の撹拌室が備えられており、その撹拌室中を貫通して配置された回転軸の外周には、複数枚の撹拌羽根が突設されている。また例えば、これらのバッチ式高速撹拌装置には撹拌室の圧力を保ちながら水蒸気を解放する機構が設けられている。
【0031】
撹拌室内の温度と圧力は、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片と水に、回転する撹拌羽根による高剪断力が加わることで急上昇し、亜臨界状態の水が発生する。このように、亜臨界状態の水によるセルロースの加水分解作用と、高速撹拌による強烈なせん断力とが相俟って、セルロース繊維がポリエチレン樹脂表面に埋め込まれた固着状態ないし熱融着状態から解放される。さらにそれぞれのセルロース繊維がセルロース繊維同士のネットワーク状のからみ合いから解放されて、紙形状から繊維状にセルロースの形状が変化する。よって、セルロース繊維をポリエチレン樹脂中に、均一に分散させることが可能となる。溶融混練によるせん断力と、亜臨界状態の水との反応とが複合的に作用し、大きさ、形状が不均一でセルロース繊維の付着状態も不均一なセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片から、均一な物性のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を得ることが可能になるものと考えられる。
【0032】
上記のバッチ式閉鎖型混練装置には、上述のとおり円筒形の撹拌室が備えられており、その撹拌室中を貫通して配置された回転軸の外周には、複数枚(例えば4〜8枚)の撹拌羽根が突設されている。撹拌羽根が配置された回転軸は、駆動源であるモーターに連結されている。ここで、撹拌室内に取り付けた温度計や圧力計により、温度や圧力を計測し、温度計や圧力計から計測された温度や圧力を用いて、材料の溶融状態を判断して、溶融混練を判断することができる。また、材料の状態を温度や圧力から判断するのではなく、モーターにかかる回転トルクを計測して溶融状態を判断することもできる。例えば、トルクメーターから計測される回転軸の回転トルクの変化を計測し、溶融混練の終了時点を判断することができる。溶融混練においては撹拌羽根を高速回転させる。撹拌羽根の周速(回転速度)は、撹拌羽根の先端(回転軸からの距離が最も遠い先端部分)の周速として、10m/秒以上が好ましく、20〜50m/秒がより好ましい。
【0033】
バッチ式閉鎖型混練装置を用いた溶融混練の終了時点は、得られる複合材の物性を考慮して適宜に調節されるものである。好ましくは、バッチ式閉鎖型混練装置の回転軸の回転トルクが、上昇して最大値に達した後に下降して、トルク変化率が1秒当たり5%以下になった時点から30秒以内に回転軸の回転を停止することが好ましい。こうすることで、得られる複合材のメルトフローレート(MFR:温度=230℃、荷重=5kgf)を、0.05〜50.0g/10minに調整しやすく、物性をより向上させることができる。メルトフローレートが上記範囲内にある複合材は、樹脂中にセルロース繊維が均一に分散しており、押出成形または射出成形に好適で、形状安定性、強度及び耐衝撃性の高い成形体を作製することができるものである。
溶融混練の終了時点を制御することで複合材のメルトフローレートを調整できる理由は、溶融混練中に発生する亜臨界状態の水の作用によって、ポリエチレン樹脂やセルロース繊維の分子の一部が低分子化することが一因と推定される。
本明細書において「トルク変化率が1秒当たり5%以下になる」とは、ある時点におけるトルクT1と、当該時点から1秒後のトルクT2とが下記式(T)を満たすことを意味する。
式(T) 100×(T1−T2)/T1≦5
【0034】
セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を含む原料と水とを、バッチ式閉鎖型混練装置やニーダーに投入する場合には、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、必要に応じて粉砕あるいは減容処理し、自重落下投入等をしやすい、取扱い易い大きさと嵩密度に処理してもよい。
【0035】
ここで、減容処理とは薄膜片を圧縮してかさ容積を減ずる処理で、この際、圧縮により薄膜片に必要以上に付着した水分も絞りとられる。減容処理を施すことにより、必要以上に付着した水分が絞りとられ、複合材を得るまでのエネルギー効率をより改善することができる。
上述したように、例えば、パルパーと呼ばれる装置内でラミネート加工紙を長時間水中(水中又は湯中)で撹拌することにより、ラミネート加工紙から紙部分を剥ぎ取り、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片が得られる。このセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片は通常、含水率が50質量%前後となり、多量の水を吸水した状態にある。かかるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片は、その減容処理により水分が絞られ、例えば含水率が20質量%前後となる。また、この減容処理により、見かけ上の容積を1/2〜1/5程度とすることが好ましい。減容処理に用いる装置は特に制限されないが、2つのスクリュウを有する押出し方式の減容機が好ましい。2つのスクリュウを有する押出し方式の減容機を用いることにより、連続的に処理できるとともに後工程で扱いやすい、個々の大きさが適度に小さい減容物を得ることができる。例えば、二軸式廃プラスチック減容固化機(型式:DP−3N、小熊鉄工所社製)等を用いることができる。
【0036】
また、吸水した状態のセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を粉砕し、この粉砕物を溶融混練することもできる。粉砕処理は、例えば、回転刃を有する粉砕機、回転刃と固定刃を有する粉砕機、摺動刃を有する粉砕機を用いて行うことができる。
【0037】
溶融混練の際に用いる水は、上記のとおりセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片に付着しているセルロース繊維の含浸水や、薄膜片の表面の付着水などをそのまま利用することができるため、必要に応じて加水すれば良い。
なお、溶融混練の際必要な水量は、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片100質量部(乾燥質量)に対して通常は5質量部以上150質量部未満であり、この水量の範囲とすることにより、樹脂中にセルロース繊維が均一に分散しており、含水率が1質量%未満の成形性に優れた複合材を製造しやすい。溶融混練の際の水量は、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片100質量部に対して、より好ましくは5〜120質量部であり、さらに好ましくは5〜100質量部であり、さらに好ましくは5〜80質量部であり、10〜25質量部とすることがさらに好ましい。
【0038】
本発明の製造方法では、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、亜臨界状態の水の存在下で溶融混練するに当たり、さらにセルロース材を混合することができる。
この場合、得られる複合材が、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中、セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下となるようにセルロース材の配合量を調整するのが好ましく、より好ましくは、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中、セルロース繊維の割合が5質量部以上70質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上50質量部未満、特に好ましくは25質量部以上50質量部未満となるようにセルロース材の配合量を調整するのが好ましい。
セルロース材としては、セルロースを主体とするものセルロースを含むものが挙げられ、より具体的には、紙、古紙、紙粉、再生パルプ、ペーパースラッジ、ラミネート加工紙の損紙等が挙げられる。なかでもコストと資源の有効活用の点から古紙及び/又はペーパースラッジを使用することが好ましく、ペーパースラッジを使用することがより好ましい。このペーパースラッジは、セルロース繊維以外に無機質材を含んでいてもよい。複合材の弾性率を高める観点からは、無機質材を含むペーパースラッジが好ましい。また、複合材の衝撃強度を重視する場合は、ペーパースラッジは無機質材を含まないか、無機質材を含むとしてもその含有量の少ないものが好ましい。古紙等の紙を混合する場合は、溶融混練の前に紙は予め水で湿潤されていることが好ましい。水で湿潤された紙を使用することにより、セルロース繊維が樹脂中に均一に分散した複合材が得られやすくなる。
【0039】
前記溶融混練に当たり、さらに低密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンのいずれか1つ以上を混合することができる。この場合、得られる複合材が、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中、セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下となるように低密度ポリエチレン及び/又は高密度ポリエチレンの配合量を調整するのが好ましい。
【0040】
本発明の製造方法では、紙及びポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料パック及び/又は食品パックから得られるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、水の存在下で溶融混練する。この飲料パックや食品パックには、樹脂層としてポリエチレン樹脂を用いたものの他に、ポリエチレン樹脂以外の樹脂層を使用したものもある。また、原料とする飲料パックや食品パックとしては、使用済みのもの、未使用のものが利用可能である。使用済みの飲料パックや食品パックを回収して利用する場合、回収物には、ポリエチレン樹脂以外の樹脂成分が混入する場合がある。特にポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の混入が挙げられる。本発明の製造方法で得られる複合材は、このようなポリエチレン樹脂以外の樹脂を含むことができる。本発明の製造方法で得られる複合材は、例えば、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部に対し、ポリプロピレンを20質量部以下の量で含有することができる。また、例えば、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部に対し、ポリエチレンテレフタレート及び/又はナイロンを総量で10質量部以下含むことができる。
【0041】
本発明の製造方法を実施することにより、紙及びポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料パック及び/又は食品パック、あるいは、これらをパルパーによる処理に付して得られるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、より少ないエネルギー消費量で、簡単な処理工程を経るだけで、リサイクルすることができる。すなわち、上記の飲料パック及び/又は食品パックないしはセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材へと変換し、樹脂製品の樹脂材料としてリサイクルすることができる。
【0042】
[セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材及びその成形体]
本発明のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材(以下、単に「本発明の複合材」とも称す。)は、ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、吸水率が次式を満たす。
[式] (吸水率)<(セルロース有効質量比)
2×0.01
本発明のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材は、上述した本発明のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法により得ることができる。本発明のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材はポリエチレン樹脂中にセルロース繊維が十分均一な状態で分散しており、押出成形及び射出成形などへの適応性が高いものである。
【0043】
本発明の複合材は、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中に占めるセルロース繊維の割合を70質量部以下とする。この割合を70質量部以下とすることにより、この複合材の調製における溶融混練により、セルロース繊維をより均一に分散させることができ、得られる複合材の吸水性をより抑えることが可能となる。吸水性をより抑え、また後述する耐衝撃性をさらに高める観点から、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中に占めるセルロース繊維の割合は、好ましくは50質量部未満である。
ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中に占めるセルロース繊維の割合は、1質量部以上である。この割合を1質量部以上とすることにより、後述する曲げ強度をより向上させることができる。この観点からは、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中に占めるセルロース繊維の割合は5質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることがさらに好ましい。また引張強度をより向上させる点も考慮すれば、当該割合は25質量部以上であることが好ましい。
ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中に占めるセルロース繊維の割合は、5質量部以上50質量部未満が好ましく、25質量部以上50質量部未満がより好ましい。
【0044】
本発明のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材は、その吸水率が次式を満たす。吸水率が高すぎると曲げ強度等の機械特性が低下する。後述するセルロース有効質量比が5〜40%の範囲であれば、より好ましい。なお、「吸水率」(単位:%)は、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を用いて成形した、縦100mm、横100mm、厚さ1mmの成形体を、23℃の水に20日間浸漬した際の吸水率を意味し、後述する実施例に記載の方法で測定される。
[式] (吸水率)<(セルロース有効質量比)
2×0.01
ここで、セルロース有効質量比は、事前に大気雰囲気にて80℃×1時間の乾燥を行って乾燥状態にしたセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材試料を、窒素雰囲気下において+10℃/minの昇温速度で、23℃から400℃まで熱重量分析(TGA)を行い、次式により算出することができる。
(セルロース有効質量比[%])=
(270〜390℃の質量減少[mg])×100/(熱重量分析に付す前の乾燥状態の複合材試料の質量[mg])
【0045】
本発明の複合材は、吸水性の高いセルロース繊維を含有するにもかかわらず、この複合材は吸水率の増大を抑えることができる。この理由は定かではないが、セルロース繊維がポリエチレン樹脂中に均一に分散してなる形態により、セルロース繊維とポリエチレン樹脂がいわば一体化した状態となってセルロース繊維の吸水性がポリエチレン樹脂により効果的にマスクされ、吸水性が抑制されるものと推定される。また、ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を均一分散させるために、亜臨界状態の水の存在下で溶融混練することが好ましい。この溶融混練においてポリエチレン樹脂の一部が低分子化し、その表面に親水基が生成し、この親水基がセルロース繊維表面の親水性基と結合し、結果的に表面の親水性基が減少すること、あるいは溶融混練における亜臨界状態の水の作用でセルロースが分解し、親水性基が減少することなども吸水性抑制の一因と考えられる。
【0046】
本発明の複合材を構成するポリエチレン樹脂は、GPC測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たすことが好ましい。上記関係を満たすことにより、複合材の流動性、射出成形性をより向上させることができ、また耐衝撃性をより高めることができる。本発明の複合材を構成するポリエチレン樹脂は、より好ましくは、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.2の関係を満たし、さらに好ましくは、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.3の関係を満たす。
このようなポリエチレン樹脂の分子量パターンは、上記のとおり、本発明の複合材を調製する際に、水の存在下、ポリエチレン樹脂を含む原料を高速溶融混練することにより実現することができる。すなわち、亜臨界状態の水の存在下、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維とを共存させて溶融混練することにより実現することができる。
上記の分子量パターンの半値幅は、GPCにおける分子量パターンのうち、最大ピークのピークトップ(最大頻度)周辺におけるスペクトルの広がり(分子量分布の度合い)を示す。スペクトル中の強度がピークトップ(最大頻度)の半分となっているところ(それぞれ高分子量側の分子量をMH、低分子量側の分子量をMLとする)でのGPCスペクトル線の幅を半値幅とする。
本発明の複合材は、複合材を構成するポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、最大ピーク値を示す分子量が10000〜1000000の範囲にあり、かつ、質量平均分子量Mwが100000〜300000の範囲にあることが好ましい。最大ピーク値を示す分子量を10000以上とし、また、質量平均分子量を100000以上とすることにより、衝撃特性がより高められる傾向にある。また、最大ピーク値を示す分子量を1000000以下とし、また、質量平均分子量を300000以下とすることにより、流動性がより高められる傾向にある。
【0047】
本発明の複合材に含まれるセルロース繊維は、繊維長1mm以上のものを含むことが好ましい。繊維長1mm以上のセルロース繊維を含むことにより、引張強度、曲強度等の機械強度をより向上させることができる。
【0048】
本発明の複合材は、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中、セルロース繊維の割合が25質量部以上50質量部未満であり、前記複合材を成形したときの成形体の引張強度が20MPa以上であることが好ましい。本発明の複合材はポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中、セルロース繊維の割合が25質量部以上50質量部未満であり、前記複合材を成形したときの成形体の引張強度が25MPa以上であることがより好ましい。特に複合材を構成するポリエチレン樹脂が後述するように低密度ポリエチレンを主成分とし、あるいは、低密度ポリエチレンを80質量%以上含むものであっても、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中、セルロース繊維の割合が25質量部以上50質量部未満であり、引張強度が20MPa以上(さらに好ましくは25MPa以上)であることが好ましい。複合材を構成するポリエチレン樹脂が低密度ポリエチレンを主成分とし、あるいは低密度ポリエチレンを80質量%以上含むものであっても、上記の所望の引張強度を示す複合材を、後述する本発明の製造方法により得ることができる。
上記の引張強度は、複合材を特定形状に成形して測定される。より詳細には、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0049】
本発明の複合材は、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中、セルロース繊維の割合が1質量部以上15質量部未満であり、該セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を成形してなる成形体の曲げ強度が8〜20MPaであることが好ましい。
また、本発明の複合材は、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中、セルロース繊維の割合が15質量部以上50質量部未満であり、該セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を成形してなる成形体の曲げ強度が15〜40MPaであることも好ましい。
上記の曲げ強度は、複合材を特定形状に成形して測定される。より詳細には、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0050】
本発明の複合材は、含水率が1質量%未満であることが好ましい。本発明の複合材は、水の存在下、樹脂を含む原料を溶融混練することにより製造することができる。この方法は、溶融混練しながら、溶融混練中に水を蒸気として効率的に除去することができ、得られるセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の含水率を1質量%未満にまで低減することができる。しかもこの方法は、水分の除去と溶融混練とを別のプロセスで行う場合に比べて、水分除去にかかるエネルギー使用量(消費電力等)を大幅に抑えることができる。
【0051】
本発明の複合材は、23℃の水に20日間浸漬した後の吸水率が0.1〜10%であることが好ましい。複合材の吸水率は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0052】
本発明のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材は、上述のとおり吸水し難い性質を有するが、成形後、少量の水が吸水された場合には、(曲げ強度の顕著な低下をおこさずに)耐衝撃性が高まるという性質を有することが好ましい。したがって、本発明のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を用いた成形体は、屋外での使用にも適している。
耐衝撃性は後述する実施例に記載の方法で測定される。
本発明の複合材は、23℃の水に20日間浸漬した後の吸水率が0.1〜10%であり、かつ耐衝撃性が、23℃の水に20日間浸漬する前よりも浸漬した後の方が高いことが好ましい。
【0053】
また、本発明のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材は、温度230℃、荷重5kgfにおけるメルトフローレート(MFR)が、0.05〜50.0g/10minであることが好ましい。MFRを上記好ましい範囲内とすることにより、より良好な成形性を実現することができ、得られる成形体の耐衝撃性もより高めることができる。さらに好ましくは、0.5〜10.0g/10minである
【0054】
本発明の複合材を、溶融させて任意の形状及び大きさに固化させ、あるいは裁断することで、ペレットとすることができる。例えば、本発明の複合材の粉砕物を、二軸押出機にてストランド状に押出し冷却固化後に裁断することによりペレットを得ることができる。あるいは、本発明の複合材の粉砕物を、ホットカットを備えた二軸押出機にて押出しカットすることによりペレットを得ることができる。これらのペレットの大きさ、形状は適宜選定できるが、例えば、数mmの直径を有する略円柱状あるいは円盤状の粒体などに仕上げることができる。
【0055】
本発明の複合材を構成するポリエチレン樹脂は、低密度ポリエチレンを含むことが好ましく、低密度ポリエチレンが主成分であることがより好ましい。さらに好ましくは本発明の複合材を構成するポリエチレン樹脂の50質量%以上が低密度ポリエチレンであり、よりさらに好ましくは本発明の複合材を構成するポリエチレン樹脂の80質量%以上が低密度ポリエチレンである。
本発明の複合材を構成するポリエチレン樹脂は、直鎖状低密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンのいずれか1つ以上を含むことも好ましい。
【0056】
本発明の複合材は、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片に由来するポリエチレン以外のポリエチレンを含んでもよい。すなわち、上述した本発明の複合材の製造方法において、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片に加えて、別途ポリエチレンを配合してもよい。配合するポリエチレンは低密度ポリエチレンでも良く、直鎖状低密度ポリエチレンでも良く、高密度ポリエチレンでも良く、これらの1種又は2種以上を混合することができる。
【0057】
本発明の複合材は、ポリエチレン樹脂以外の樹脂成分を含有してもよい。例えば、ポリプロピレンを含有してもよい。この場合、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部に対し、ポリプロピレンの含有量が20質量部以下であることが好ましい。
また、本発明の複合材は、例えば、ポリエチレンテレフタレート及び/又はナイロンを含有してもよい。この場合、ポリエチレンテレフタレート及び/又はナイロンを含有し、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部に対し、ポリエチレンテレフタレート及び/又はナイロンの総含有量が10質量部以下であることが好ましい。ここで、「ポリエチレンテレフタレートとナイロンとの総含有量」とは、ポリエチレンテレフタレート及びナイロンのうち1種を含有する場合は、当該1種の含有量を意味し、ポリエチレンテレフタレート及びナイロンの両方を含有する場合はポリエチレンテレフタレート及びナイロンの総含有量を意味する。
【0058】
複合材中に混入しうる樹脂の種類が分かっていれば、ポリエチレン樹脂以外の樹脂の量は、複合材の熱キシレン溶解質量比に基づき決定することができる。
【0059】
−熱キシレン溶解質量比−
本発明において、熱キシレン溶解質量比は次のように決定される。
自動車電線用規格JASOD618の架橋度測定に準拠し、複合材の成形シートから0.1〜1gを切だし試料とし、この試料を400メッシュのステンレスメッシュで包み、所定温度のキシレン100mlに24時間浸漬する。次いで試料を引き上げ、その後試料を80℃の真空中で24時間乾燥させる。試験前後の試料の質量から、次式より熱キシレン溶解質量比G(%)が算出される。
G={(W0−W)/W0}×100
W0:熱キシレン中に浸漬する前の複合材の質量
W:熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
【0060】
例えば、「ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部に対し、ポリプロピレンの含有量が20質量部以下である」とは、複合材の、138℃の熱キシレン溶解質量比をGa(%)、105℃の熱キシレンへ溶解質量比をGb(%)、セルロース有効質量比をGc(%)としたとき、Ga−Gbがポリプロピレンの質量比(%)に、Gbがポリエチレンの質量比(%)に相応する。したがって、本発明の複合材は下記式を満たすことも好ましい。
{(Ga−Gb)/(Gb+Gc)}×100≦20
ここで、
Ga={(W0−Wa)/W0}×100
Gb={(W0−Wb)/W0}×100
W0:熱キシレンに浸漬する前の複合材の質量
Wa:138℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Wb:105℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Gc={Wc/W00}×100
Wc:窒素雰囲気中で270℃〜390℃に昇温する間の、乾燥複合材の質量減少量
W00:上記昇温前(23℃)の乾燥複合材の質量
である。
【0061】
本発明の複合材を構成する上記のポリエチレン樹脂及び/又は前記ポリプロピレンは、少なくとも一部が再生材に由来することが好ましい。この再生材としては、例えば、上記のセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片、紙とポリエチレン薄膜層及を有するポリエチレンラミネート加工紙、紙とポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料パック及び/又は食品パック等が挙げられる。
本発明の複合材は、
(a)紙及びポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙、及び/又は
(b)紙及びポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料・食品パック
を原料として得られるものであることが好ましい。より具体的には、上記のラミネート加工紙及び/又は飲料・食品パックをパルパーで処理して紙部分を剥ぎ取り除去して得られたセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を原料として得られるものであることが好ましい。さらに詳細には、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、水の存在下、後述する溶融混練処理に付して得られるものであることが好ましい。
【0062】
本発明の複合材は、無機質材を含有してもよい。無機質材を含有することにより曲げ弾性、難燃性が向上し得る。曲げ弾性と衝撃特性の観点から、ポリエチレン樹脂100質量部に対する無機質材の好ましい含有量は1〜100質量部である。難燃性を考慮し、また衝撃特性をさらに考慮すると、ポリエチレン樹脂100質量部に対する無機質材の含有量は好ましくは5〜40質量部である。
無機質材としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン等があげられる。なかでも炭酸カルシウムが好ましい。無機質材は、上述したセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片にペーパースラッジ、古紙、ラミネート紙廃材等を加えて水の存在下で混練して複合材を得る場合に、これらのペーパースラッジ、古紙、ラミネート紙廃材に元々含有される填料材等を由来としてもよい。
【0063】
本発明の複合材は、目的に応じて、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、耐候剤、相溶化剤、衝撃改良剤、改質剤等を含んでもよい。
【0064】
難燃剤としては、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、金属水酸化物等があげられる。難燃性向上のためにエチレン酢酸ビニル共重合体、エチルアクリレート共重合体等のエチレン系共重合体等の樹脂を含んでもよい。
リン系難燃剤としては、分子中にリン原子を有する化合物があげられ、例えば、赤燐、三酸化リン、四酸化リン、五酸化リンなどのリン酸化物、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸などのリン酸化合物、モノアンモニウムホスフェート、ジアンモニウムホスフェート、アンモニウムポリホスフェートなどのリン酸アンモニウム塩、メラミンモノホスフェート、メラミンジホスフェート、メラミンポリホスフェートなどのリン酸メラミン塩、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウムなどのリン酸塩類、脂肪族系リン酸エステル類、芳香族系リン酸エステル類が挙げられる。
ハロゲン系難燃剤としては、ヘキサブロモシクロドデカンなどの脂肪族あるいは脂環族炭化水素の臭素化物、ヘキサブロモベンゼン、エチレンビスペンタブロモジフェニル、2,3−ジブロモプロピルペンタブロモフェニルエーテルなどの芳香族化合物の臭素化物、臭素化ビスフェノール類およびその誘導体、臭素化ビスフェノール類誘導体オリゴマー、臭素系芳香族化合物、塩素化パラフィン、塩素化ナフタレン、塩素化芳香族化合物、塩素化脂環状化合物、ヘキサブロモフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテルなどの臭素系難燃剤が挙げられる。
金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等があげられる。これら金属水酸化物に表面処理を施したものでもよく、施していないものでもよい。
【0065】
酸化防止剤、安定剤、耐候剤としては、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、 1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、4,4’−チオビス(3−メチルー6−t−ブチルフェノール)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、ポリメチルプロピル3−オキシ−[4(2,2,6,6テトラメチル)ピペリジニル]シロキサン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとコハク酸とのポリエステル、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]等のヒンダードアミン系化合物等があげられる。
酸化防止剤、安定剤、又は耐候剤の好ましい含有量は、複合材100質量部に対してそれぞれ0.001〜0.3質量部であるが、酸化防止剤、安定剤、又は耐候剤の種類と、複合材の用途により適宜調整されるのが好ましい。
【0066】
相溶化剤、衝撃改良剤、改質剤としては、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン、ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン、オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックポリマー等のスチレン系エラストマー、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の酸変性ポリオレフィン等があげられる。引張強度及び曲げ強度を高める点からはマレイン酸変性ポリエチレンを好適に用いることができる。
【0067】
本発明の複合材は、加工性向上のため、オイル成分や各種の添加剤を含むことができる。パラフィン、変性ポリエチレンワックス、ステアリン酸塩、ヒドロキシステアリン酸塩、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ化ビニリデン系共重合体、有機変性シロキサン等があげられる。
【0068】
本発明の複合材は、カーボンブラック、各種の顔料、染料を含有することができる。
【0069】
本発明の複合材は、導電性カーボンブラック、金属等の導電性付与成分を含むことができる。
本発明の複合材は、金属等の熱伝導性付与成分を含むことができる。
【0070】
本発明の複合材は、発泡体であってもよい。即ち、発泡剤を含有させ発泡させたものであってもよい。発泡剤としては発泡有機系または無機系の化学発泡剤があげられ、具体例としてアゾジカルボンアミドがあげられる。
本発明の複合材は、架橋されていてもよい。架橋剤としては、有機過酸化物等があげられ、具体例としてジクミルパーオキサイドがあげられる。本発明の複合材はシラン架橋法により架橋された形態であってもよい。
【0071】
本発明の複合材の、線膨張係数は1×10
−4以下であることが好ましい。線膨張係数が1×10
−4以下であると寸法安定性に優れる成形体が得られる。
上記の線膨張係数は、複合材を特定形状に成形して測定される。より詳細には、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0072】
本発明の成形体は、本発明のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を用いてなる。本発明の成形体は、ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維が十分均一な状態で分散しているため、均質性が高く、形状安定性に優れると共に、曲げ強度や耐衝撃性などに優れており、多目的な利用が可能なものである。
この成形体は、例えば、本発明の複合材を直接あるいは溶融混練した後、射出成形、押出成形等の成形法により得ることができる。
本発明の成形体は、ペレット状として、成形材料として用いることもできる。本発明のペレットは、上記成形体又はその裁断体からなる。
【0073】
本発明の複合材又はペレットは、さらに高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂と混合し、この混合物を成形することにより成形体とすることができる。この成形体は、例えば、本発明の複合材又はペレットと高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂とを直接あるいは溶融混練した後、上述の成形法により得ることができる。こうして得られる成形体は、高い引張強度や曲げ強度、曲げ弾性率等の優れた機械特性や、低い線膨張係数、高い熱伝導性等の優れた熱特性等を有する。即ち、本発明の複合材又はペレットと、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンとを混練することにより、得られる成形体に、高い引張強度や曲げ強度、曲げ弾性率等の優れた機械特性や、低い線膨張係数、高い熱伝導性等の優れた熱特性等を付与することができる。また。本発明の複合材又はペレットを高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂を混合した成形体は、低い水吸収性等の優れた耐水特性を有する。
このように、本発明の複合材又はペレットは、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂に対して、セルロース繊維を含む改質マスターバッチとして使用することができる。改質マスターバッチとして使用する場合、本発明の複合材又はペレットにおけるセルロース繊維の含有量は、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中、セルロース繊維の割合が25質量部以上であることが好ましく、より好ましくは35質量部以上、さらに好ましくは45質量部以上である。
【0074】
[セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片のリサイクル方法]
本発明のセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片のリサイクル方法は、上述のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法によりセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を得ることを含む。このリサイクル方法は、下記工程(A)及び(B)をこの順で連続して行うことを含むことが好ましい。
(A)水を含んだセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を減容処理に付す工程、
(B)減容処理に付した、前記の水を含んだセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、亜臨界状態の水の存在下で溶融混練してセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を得る工程。
【0075】
上記リサイクル方法は、前記工程(A)を行う前に、さらに下記工程(C)を行うことを含むことが好ましい。工程(C)を含む場合、上記リサイクル方法は、ポリエチレンラミネート加工紙のリサイクル方法となる。
(C)紙の表面にポリエチレン薄膜が貼着されたポリエチレンラミネート加工紙を水中で撹拌することにより紙部分を剥ぎ取り除去して、水を含んだセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を得る工程。
【0076】
上記工程(C)は典型的には上述したように、パルパーと呼ばれる装置内でラミネート加工紙を長時間水中(水中又は湯中)で撹拌することにより、ラミネート加工紙から紙部分を剥ぎ取る工程である。かかる工程は、ポリエチレンラミネート加工紙の再利用における従来公知の工程を採用することができる。
工程(C)で得られるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片は通常、含水率が50質量%前後となり、多量の水を吸水した状態にある。かかるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片は、工程(A)において減容処理に付される。この減容処理により水分が絞られ、通常は含水率が20質量%前後となる。また、この減容処理により、見かけ上の容積を1/2〜1/5程度とすることが好ましい。減容処理に用いる装置は特に制限されず、例えば、二軸式廃プラスチック減容固化機(型式:DP−3N、小熊鉄工所社製)等を用いることができる。
工程(A)を経た、水を含んだセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、亜臨界状態の水の存在下で溶融混練し、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を得る。この水の存在下での溶融混練として、本発明のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法で説明した溶融混練の形態を採用することができ、好ましい形態も同じである。
【0077】
上記の連続的工程によるリサイクル方法により、例えば、ポリエチレンラミネート加工紙から分離した、多量の水を含んで重くなっているセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、わざわざ別の工場まで運搬する必要がなくなるなど、リサイクルのエネルギー効率ないしコストを大きく改善することが可能になる。
かかるリサイクル方法によれば、現在、主に廃棄されるか、燃料として再利用されているに過ぎない、使用済みのポリエチレンラミネート加工紙から分離されたセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、優れたエネルギー効率で、高品質のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材に再利用することができる。
【0078】
本発明のリサイクル方法では、より高機能の該複合材を作製したり、該複合材の利用分野を拡大したりするために、例えば、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片と共に、低密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンあるいは高密度ポリエチレンなどを加えて混練しても良い。
【0079】
[成形体の製造方法]
本発明の成形体の製造方法は、上記セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材又は上記ペレットを用いるものであれば特に限定されない。本発明の成形体の製造方法は、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材又は上記ペレットと、高密度ポリエチレン及びポリプロピレンのいずれか1つ以上とを混合し、該混合物を成形して成形体を得ることを含む。成形方法については、上述した方法を用いることができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例に基づき、本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、本発明における各指標の測定方法、評価方法を説明する。
【0081】
[メルトフローレート(MFR)]
温度=230℃、荷重=5kgfの条件で、JIS−K7210に準じて測定した。MFRの単位は「g/10min」である。
【0082】
[結果物(セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材)の形状]
混練後のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の外観を目視にて評価した。バルク(塊)の状態を合格品(○)とし、粒径2mm以下の粉体状であるもの、あるいは混練後著しく発火したものを不合格品(×)とした。粉体状のものは、かさ比重が小さいために空気中で容易に吸湿するなどの理由でブリッジングや容器壁面への付着を生じ、その後の成形の際に自重落下で成型機に投入することが困難である。
本実施例において、本発明の製造方法で得られる複合材は、上記合格品に該当するものである。
【0083】
[含水率]
複合材の製造後6時間以内に窒素雰囲気下において、23℃から120℃まで、+10℃/minの昇温速度で熱重量分析(TGA)を行った際の質量減少率(質量%)である。
【0084】
[消費電力量]
水を吸収したセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片からセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を連続的に作製した場合に、該複合材1kgを製造するまでに各装置(乾燥機、減容機、混練機)が消費した電力量の合計を求めた。
【0085】
[耐衝撃性]
射出成形で試験片(厚さ4mm、幅10mm、長さ80mm)を作製した。得られた試験片について、JIS−K7110に準じて、ノッチ有りの試験片を用いてアイゾット衝撃強度を測定した。耐衝撃性の単位は「kJ/m
2」である。
【0086】
[曲げ強度]
射出成形で試験片(厚さ4mm、幅10mm、長さ80mm)を作製した。得られた試験片について、支点間距離64mm、支点及び作用点の曲率半径5mm、試験速度2mm/minにて荷重の負荷を行い、JIS−K7171に準じて曲げ強度を算出した。曲げ強度の単位は「MPa」である。
【0087】
[線膨張係数]
線膨張係数は、JIS K 7197に準拠して行った。
射出成形により、厚さ4mm、幅10mm、長さ80mmの成形体を得た。このときの樹脂の射出方向は長さ方向であった。この成形体から奥行き4mm、幅4mm、高さ10mmの四角柱形状の試験片を、長さ方向が高さ方向に合致するように切り出した。
得られた試験片を用いて、株式会社リガク製のTMA 8310によってTMA測定を、−50〜100℃の温度範囲、荷重5g(49mN)、窒素雰囲気にて行った。このときの昇温速度は5℃/minであった。なお、データ採取の前に一度試験片を今回の試験範囲の上限温度である100℃まで昇温し、成形によるひずみを緩和させた。得られたTMA曲線から、10〜30℃の温度領域における平均線膨張係数を求めた。
【0088】
[吸水率]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を23℃の水に20日間浸漬し、浸漬前後の重量の測定値に基づいて、下記〔式A〕により吸水率を算出した(但し、浸漬後の質量を測る際は、表面に付着した水滴等を乾いた布またはフィルター紙で拭き取った。)。合否判定は、算出した吸水率が下記の評価式〔式B〕を満たす場合を合格(○)とし、満たさない場合を不合格(×)とした。
〔式A〕(吸水率[%])=
(浸漬後質量[g]−浸漬前質量[g])×100/(浸漬前質量[g])
〔式B〕(吸水率)<(セルロース有効質量比)
2×0.01
セルロース有効質量比は、事前に大気雰囲気にて80℃×1時間の乾燥を行って乾燥状態にした試料(10mg)を用い、窒素雰囲気下において+10℃/minの昇温速度で、23℃から400℃まで熱重量分析(TGA)を行った結果に基づいて、次式により算出した。測定は5回行いその平均値を求めて、その平均値をセルロース有効質量比とした。
(セルロース有効質量比[%])=
(270〜390℃の質量減少[mg])×100/(試料質量[mg])
【0089】
[吸水後耐衝撃残率]
射出成形で試験片(厚さ4mm、幅10mm、長さ80mm、ノッチ有り)を作製し、この試験片を23℃の水に20日間浸漬し、JIS−K7110に準じて測定した浸漬前後の耐衝撃性の測定値に基づいて、次の計算式で算出した(但し、浸漬後の耐衝撃性を測定する際は、水から取出した後、意図的に乾燥などを行うことなく、6時間以内に測定した。)。
(吸水後耐衝撃残率[%])=
(吸水後の耐衝撃性[kJ/m
2])×100/(吸水前の耐衝撃性[kJ/m
2])
【0090】
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書いた。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS−B0601にて規定、評価長さ40mm)を得た。10本全ての粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ上側に(表面から外側に向けて)凸である山の個数を数えたとき、山の個数が合計20個以上である場合を不合格品(×)とし、山の個数が20個未満である場合を合格品(○)とした。
試料中にセルロース繊維が偏在している場合は局所的に吸水が起こり、その部分の表面が膨張するため、この方法でセルロース繊維の分散性を評価することができる。
【0091】
[分子量パターン]
複合材16mgにGPC測定溶媒(1,2,4−トリクロロベンゼン)5mlを加え、160℃〜170℃で30分間攪拌した。不溶物を0.5μmの金属フィルターでろ過して除去し、得られたろ過後の試料(可溶物)に対して、GPC装置(Polymer Laboratories製PL220、型式:HT−GPC−2)を用い、カラムは、ShodexHT−G(1本)、HT−806M(2本)を用い、カラム温度を145℃に設定し、溶離液として1,2,4−トリクロロベンゼンを用い、流速1.0mL/minで、前記試料0.2mlを注入してGPCを測定した。これより、単分散ポリスチレン(東ソー製)、ジベンジル(東京化成工業製)を標準試料として、検量線を作成し、GPCデータ処理システム(TRC製)でデータ処理を行い分子量パターンを得た。GPC測定で得られた分子量パターンにおいて、下記(A)を満たすものを(○)、満たさないものを(×)とした。
(A)1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0
ここで分子量パターンの半値幅は、GPCにおける分子量パターンのうち、最大ピークのピークトップ(最大頻度)周辺におけるスペクトルの広がり(分子量分布の度合い)を示す。すなわち、スペクトル中の強度がピークトップ(最大頻度)の半分となっているところ(それぞれ高分子量側をMH、低分子量側をMLとする)でのGPCスペクトル線の幅を半値幅とする(
図1参照)。また、複数のピークが観測される場合は、それぞれのピークのうち、最大のものから算出する。
【0092】
[引張強度]
射出成形で試験片を作製し、JIS−K7113に準拠し2号試験片にて引張強度を測定した。単位は「MPa」である。
【0093】
[セルロース繊維長]
複合材の成形シートから0.1〜1gを切だし試料とし、この試料を400メッシュのステンレスメッシュで包み、138℃のキシレン100mlに24時間浸漬する。次いで試料を引き上げ、その後試料を80℃の真空中で24時間乾燥させる。乾燥試料0.1gをエタノール50ml中に良く分散させ、シャーレに滴下し、顕微鏡にて15mm×12mmの範囲を観察した。繊維長1mm以上のセルロース繊維が観察されるものを(○)とし、それ以外を(×)とした。
【0094】
[試験例1]
セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片をバッチ式閉鎖型混練装置によって混練する場合の水量の影響について試験した。
【0095】
使用済みのポリエチレンラミネート加工紙からなる紙製飲料容器から、パルパーによって紙部分を剥ぎ取り除去してセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を得た。かかる薄膜片は、数cm
2〜100cm
2程度のさまざまな形状、大きさの小片に切断されており、紙部分の剥ぎ取り工程において水に浸漬されたことで濡れた状態(水分を多量に吸収した状態)であった。また、かかる薄膜片を構成するポリエチレンと、それに付着しているセルロース繊維の質量比(乾燥後)は、[ポリエチレン]:[セルロース繊維]=56:44であった。
このセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、80℃に設定した乾燥機で48時間乾燥して含水率を1質量%以下とし、その後意図的に水を加えて、表1に示す「実施例1」〜「実施例3」及び「比較例1」の各欄に記載の水の質量部となるように、4種類の試料材料を調製した。
次に、この4種類の試料材料を、別々にバッチ式閉鎖型混練装置(エムアンドエフ・テクノロジー株式会社製、MF式混合溶融装置、型式:MF5000 R/L)に投入し、混合溶融装置の撹拌羽根の先端の周速を40m/秒として高速攪拌して水を亜臨界状態にすると共に試料材料を混練し、4種類のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を作製した。
なお、各試験例において、特に断りの無い限り、バッチ式閉鎖型混練装置による混練終了時点は、バッチ式閉鎖型混練装置の回転軸の回転トルクが上昇して最大値に達した後、下降して、その後トルク変化が小さくなることから、トルク変化率が1秒当たり5%以下になった時点を、トルクが最小値に達した瞬間と定義して、この起点からの経過時間を7秒とした。
各複合材の評価結果は表1に示すとおりである。
【0096】
【表1】
【0097】
表1の「比較例1」より、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片の溶融混練を、水の無い環境下で行った場合には、本発明のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材が得られないことが分かる。
また、「実施例1」より、水量はセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片との質量比で、8:100と少ないにも拘らず、優れた特性を有するセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材が得られることが分かる。また、「実施例3」より、水量はセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片との質量比で、120:100とかなり多いにも拘らず、優れた特性有するセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材が得られており、さらに、含水率も小さくできることが分かる。したがって、亜臨界状態の水の存在下で溶融混練を行う本発明の製造方法では、溶融混練時に水が存在していることが重要であり、水量は多くても少なくても良いことが分かる。エネルギー効率を考慮すると、水量は多すぎない方が良い。
【0098】
[試験例2]
セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片をバッチ式閉鎖型混練装置によって混練して得られる複合材のメルトフローレート(MFR)と他の特性との関係を調べた。
【0099】
上記実施例1と同様にして、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を得た。かかる薄膜片は、実施例1と同じく、数cm
2〜100
2程度の小片に切断されており、濡れた状態であった。また、これらの薄膜片を構成するポリエチレンと、それに付着しているセルロース繊維の質量比(乾燥後)は、「実施例4」が[ポリエチレン]:[セルロース繊維]=52:48であり、「実施例5」が[ポリエチレン]:[セルロース繊維]=56:44であり、「実施例6」及び「実施例7」が[ポリエチレン]:[セルロース繊維]=58:42であった。これらのセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、80℃に設定した乾燥機で48時間乾燥して含水率を1質量%以下とし、その後意図的に水を加えて、セルロース繊維とポリチレンの合計量100質量部に対して水が50質量部となるように調整した。
次に、この4種類のセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、濡れた状態のままで、別々に実施例1と同じバッチ式閉鎖型混練装置に投入し、高速攪拌して水を亜臨界状態にすると共に試料材料を混練し、各試料材料のメルトフローレートがそれぞれ表2に記載された値を示すところで混練を停止し、4種類のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を作製した。
各複合材の評価結果は表2に示すとおりである。
【0100】
【表2】
【0101】
表2の結果から、MFRを変化させても、得られる複合材の特性が良好であることが分かる。ただし、実施例7はMFRが10を超え、耐衝撃強度にやや劣る結果となったが、それでも十分な耐衝撃性を有していた。
【0102】
[試験例3]
セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片をバッチ式閉鎖型混練装置によって混練する時間の影響について試験した。
【0103】
上記実施例1と同様にして、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を得た。かかる薄膜片は、実施例1と同じく、数cm
2〜100cm
2程度の小片に切断されており、濡れた状態であった。また、この薄膜片を構成するポリエチレンと、それに付着しているセルロース繊維の質量比(乾燥後)は、[ポリエチレン]:[セルロース繊維]=56:44であった。この濡れた状態の薄膜片の、セルロース繊維とポリエチレンの合計量100質量部に対する付着水の量は50質量部程であった。
【0104】
次に、このセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、濡れた状態のままで、実施例1と同じバッチ式閉鎖型混練装置に投入し、高速攪拌して水を亜臨界状態にすると共に溶融混練し、混練時間を変更した6種類のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の試料を作製した。
具体的には、バッチ式閉鎖型混練装置の回転軸の回転トルクが上昇して最大値に達した後、下降して、その後トルク変化が小さくなることから、トルク変化率が1秒当たり5%以下になった時点を、トルクが最小値に達した瞬間と定義して、この起点から装置を停止するまでの経過時間(表3中の「時間A」に相当)として、表3に示す時間Aとなるように複合材を作製した。
各試料の評価結果は表3に示すとおりである。
【0105】
【表3】
【0106】
表3に示されるとおり、時間Aを調節することにより得られる複合材のMFRを変化させることができ、異なる特性の複合材が得られることが分かる。ただし、実施例12は時間Aが長いためにMFRが10を超えていることから、耐衝撃強度にやや劣る結果となったが、それでも十分な耐衝撃性を有していた。
【0107】
さらに、
図1には実施例10における分子量パターンの半値幅を示す。
図1において、横軸は分子量(Molecular Weight)、縦軸は単位logM当たりの重量分率(dW/dlogM)を表している(ここでMは分子量、Wは重量を示す)。
図1の結果から、実施例10の分子量パターンは半値幅が1.54であり、本発明の規定を満足する。
【0108】
[試験例4]
セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜のポリエチレンと、かかる薄膜に付着しているセルロース繊維の質量比を変更した場合の影響について試験した。
【0109】
ポリエチレンとセルロース繊維の質量比を表4に示すように変更した、5種類のセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を得た。これらの薄膜片は、いずれも実施例1と同じく、数cm
2〜100cm
2程度の小片に切断されており、濡れた状態であった。このセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、80℃に設定した乾燥機で48時間乾燥して含水率を1質量%以下とし、その後意図的に水を加えた。実施例13についてはセルロース繊維とポリチレンの合量100質量部に対して水が30質量部、実施例14〜16及び比較例2についてはセルロース繊維とポリチレンの合計量100質量部に対して水が50質量部となるように調整した。
次に、このセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、濡れた状態のままで、実施例1と同じバッチ式閉鎖型混練装置に投入し、高速攪拌して水を亜臨界状態にすると共に溶融混練し、5種類のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を作製した。
各複合材の評価結果は表4に示すとおりである。なお、各試験例において、バッチ式閉鎖型混練装置による混練終了時点は、バッチ式閉鎖型混練装置の回転軸の回転トルクが上昇して最大値に達した後、下降して、その後トルク変化が小さくなることから、トルク変化率が1秒当たり5%以下になった時点を、トルクが最小値に達した瞬間と定義して、この起点からの経過時間を7秒とした。
【0110】
【表4】
【0111】
表4の「比較例2」より、セルロース繊維とポリエチレンの合計質量に対しセルロース繊維が本発明の規定よりも多くなると、成形性が悪化して目的の形状の複合材を得ることができなかった。なお、比較例2は紙部分を全く除去しないポリエチレンラミネート加工紙を裁断し、吸水させたものを試料材料として用いた。
【0112】
[試験例5]
セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を混練する方法(装置)の影響について試験した。
【0113】
上記実施例1と同様にして、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を得た。かかる薄膜片は、実施例1と同じく、数cm
2〜100cm
2程度の小片に切断されており、濡れた状態であった。また、かかる薄膜片を構成するポリエチレンと、それに付着しているセルロース繊維の質量比(乾燥後)は、[ポリエチレン]:[セルロース繊維]=63:37であった。この濡れた状態の薄膜片の、セルロース繊維とポリチレンの合計量100質量部に対する付着水の量は50質量部程であった。
この濡れた状態のセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、表5に示すように、上記バッチ式閉鎖型混練装置を用いて亜臨界水の存在下で溶融混練してセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を作製した(実施例17)。なお、実施例17において、バッチ式閉鎖型混練装置による混練終了時点は、バッチ式閉鎖型混練装置の回転軸の回転トルクが上昇して最大値に達した後、下降して、その後トルク変化が小さくなることから、トルク変化率が1秒当たり5%以下になった時点を、トルクが最小値に達した瞬間と定義して、この起点からの経過時間を7秒とした。
また、濡れた状態のセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を乾燥してからニーダーを用いて溶融混練してセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を作製した(比較例3)。
さらに、濡れた状態のセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を直接、モウルド成形してセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を作製した(比較例4)。
これらの複合材を用いて表5に記載の評価を行った。
さらに、容器リサイクル法により回収され再生された市販の再生樹脂(株式会社グリーンループ製PEリッチ品:比較例5)を用いて表5に記載の評価を行った。
各複合材の評価結果は表5に示すとおりである。
【0114】
【表5】
【0115】
表5の実施例17より、実施例1と同じく亜臨界水の存在下で溶融混練して得たセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材は、含水率、耐衝撃性、吸水率、及びセルロース繊維の分散性に優れていることが分かる。また、実施例17はポリエチレンの分子量パターンが本発明における好ましい範囲を満足している。これにより、ポリエチレンとセルロース繊維との相溶性が向上し、ポリエチレンとセルロース繊維との界面の微細な空隙を減らして界面の脆弱性を改善し、耐衝撃性の低下や吸水率の増加を抑制していると考えられる。また、実施例17で得られた複合材については、その断面を顕微鏡で観察すると繊維長1mm以上のセルロース繊維が見られた。実施例で得られた複合材は、線膨張係数が低く、寸法安定性に優れるものであった。
【0116】
他方、乾燥処理した薄膜片を、ニーダーを用いて混練した場合(比較例3)は、乾燥処理が必要なため複合材を得るためのトータルの消費電力は大きい。また、得られた複合材の吸水率は高く、セルロース繊維の分散性にも劣っていた。
濡れた状態の薄膜片を直接モウルド成形したもの(比較例4)では、水分を十分に除去することができなかった。また、得られた複合材は吸水率が高く、セルロース繊維の分散性にも劣っていた。
【0117】
さらに、本発明の製造方法で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂は、市販の再生樹脂(比較例5)と比較して吸水後に耐衝撃性が向上していることが分かる。
【0118】
[試験例6]
セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を混練する前に減容固化を行う影響について試験した。
【0119】
上記実施例1と同様にして、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を得た。かかる薄膜片は、実施例1と同じく、数cm
2〜100cm
2程度の小片に切断されており、濡れた状態であった。また、かかる薄膜片を構成するポリエチレンと、それに付着しているセルロース繊維の質量比(乾燥後)は、[ポリエチレン]:[セルロース繊維]=63:37であった。この濡れた状態の薄膜片の、セルロース繊維とポリチレンの合計量100質量部に対する付着水の量は50質量部程であった。
次に、この薄膜片を、表6に示すとおり、実施例1と同じバッチ式閉鎖型混練装置を用いて、亜臨界水の存在下で溶融混練してセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を作製した(実施例18)。
また、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片をバッチ式閉鎖型混練装置に投入する前に、減容固化機(小熊鉄工所社製、二軸式廃プラスチック減容固化機、型式:DP−3N)を用いて減容して固化し、その後バッチ式閉鎖型混練装置に投入した(実施例19)。減容処理後の付着水の量は12質量部程度であった。
さらに、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、TEX30使用)に投入する前に、80℃に設定した乾燥機で含水率が1質量%未満になるまで乾燥させ、その後二軸押出機に投入した(比較例7)。
各複合材の評価結果は表6に示すとおりである。
【0120】
【表6】
【0121】
表6の実施例18より、バッチ式閉鎖型混練装置を用いて亜臨界水の存在下で溶融混練して得たセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材は、含水率が0.2であるにもかかわらず、その作製に必要な消費電力量が低くエネルギー効率に優れていた。またセルロース分散性に優れ、吸水性も低いことが分かる。また、溶融混練前に減容処理を施した実施例19では、消費電力をさらに大幅に低減できることも分かる。
さらに、実施例18及び19は、ポリエチレンの分子量パターンが上記好ましい範囲を満足していた。
他方、二軸押出機により混練した場合には、得られる複合材の含水率が高く、セルロースの分散性に劣り、吸水性も高かった。二軸押出機により混練法を採用する場合、混練前にセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を乾燥処理に付すことにより、得られる複合材の含水率を0質量%近くとすることができる。しかしこの場合には、消費電力量が数倍に膨れ上がり、エネルギー効率に劣る結果となった。
【0122】
[試験例7]
セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を混練する際に、再生高密度ポリエチレン(再生HDPE)を添加することによる影響について試験した。
【0123】
上記実施例1と同様にして、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を得た。かかる薄膜片は、実施例1と同じく、数cm
2〜100cm
2程度の小片に切断されており、濡れた状態であった。また、かかる薄膜片を構成するポリエチレンと、それに付着しているセルロース繊維の質量比(乾燥後)は、63:37であった。この濡れた状態の薄膜片の、セルロース繊維とポリチレンの合計量100質量部に対する付着水の量は50質量部程であった。
次に、この薄膜片に対し、表7に示す再生HDPEの所定量を添加し、実施例1と同じバッチ式閉鎖型混練装置を用いて亜臨界水の存在下で溶融混練して、実施例20〜22の3種類の複合材を得た。
各複合材の評価結果は表7に示すとおりである。
【0124】
【表7】
【0125】
表7の実施例20〜22より、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を溶融混練する際に、再生HDPEを加えても、物性的に問題が生ずることはないことが分かる。
【0126】
[試験例8]
材料として出所の異なる使用済み飲料容器の回収物を使用して複合材を試作した。
使用済み紙製飲料容器として、出所の異なる回収物を使用した以外は上記実施例1と同様にして、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を得た。この薄膜片は、実施例1と同じく、数cm
2〜100cm
2程度の小片に切断されており、濡れた状態であった。また、この薄膜片の集合物の乾燥後の成分の比率は表に示すとおりであった。この濡れた状態の薄膜片の、セルロース繊維とポリチレンの合量100質量部に対する付着水の量は50質量部であった。
次に、このセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片の集合物を、濡れた状態のままで、実施例1と同じバッチ式閉鎖型混練装置に投入し、高速攪拌して水を亜臨界状態にすると共に溶融混練し、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の試料を作製した。
なお、バッチ式閉鎖型混練装置による混練終了時点は、バッチ式閉鎖型混練装置の回転軸の回転トルクが上昇して最大値に達した後、下降して、その後トルク変化が小さくなることから、トルク変化率が1秒当たり5%以下になった時点を、トルクが最小値に達した瞬間と定義して、この起点からの経過時間を7秒とした。
各複合材の評価結果は表8に示すとおりである。
【表8】
表8より、実施例1と同じく水の存在下で溶融混練して得たセルロース繊維が分散されたポリエチレン樹脂複合材は、含水率、耐衝撃性、吸水率、及びセルロース繊維の分散性に優れていることが分かる。
【0127】
従来、使用済み飲料容器などのポリエチレンラミネート加工紙をパルパー等の処理に付して紙部分を剥ぎ取り除去した後、除去しきれなかった紙成分が不均一にポリエチレン樹脂に付着した状態で、さらに水を多量に吸収した状態のセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片は、樹脂組成物として有効に再利用する技術がなく、いわばゴミ同然に埋め立てられて廃棄処分されるか、又は単に燃料として使用するしかなかった。本発明はかかるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、そのままの状態で(水分調節等を要さずに)処理し、簡単に、樹脂として甦らせる技術に関する発明である。
【0128】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。