特許第6961709号(P6961709)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6961709音響整合層用樹脂組成物、硬化物、音響整合シート、音響波プローブ、音響波測定装置、音響波プローブの製造方法、及び音響整合層用材料セット
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  • 特許6961709-音響整合層用樹脂組成物、硬化物、音響整合シート、音響波プローブ、音響波測定装置、音響波プローブの製造方法、及び音響整合層用材料セット 図000019
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961709
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】音響整合層用樹脂組成物、硬化物、音響整合シート、音響波プローブ、音響波測定装置、音響波プローブの製造方法、及び音響整合層用材料セット
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20211025BHJP
   A61B 8/00 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   H04R17/00 330J
   A61B8/00
【請求項の数】20
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2019-550439(P2019-550439)
(86)(22)【出願日】2018年10月31日
(86)【国際出願番号】JP2018040439
(87)【国際公開番号】WO2019088146
(87)【国際公開日】20190509
【審査請求日】2020年4月14日
(31)【優先権主張番号】特願2017-212210(P2017-212210)
(32)【優先日】2017年11月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100202898
【弁理士】
【氏名又は名称】植松 拓己
(72)【発明者】
【氏名】中井 義博
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 和博
【審査官】 堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−363746(JP,A)
【文献】 特開2017−082124(JP,A)
【文献】 特開昭59−049748(JP,A)
【文献】 特開2009−267528(JP,A)
【文献】 特開2015−188121(JP,A)
【文献】 特開2008−118212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/00
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子(A)と、エポキシ樹脂(B)と、ポリチオール化合物(C)と、硬化を促進する化合物(D)とを有する音響整合層用樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(B)が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂のうちの少なくとも1種のエポキシ樹脂を含み、
前記ポリチオール化合物(C)が、下記一般式(1)で表される部分構造を3〜10個、又は、下記一般式(2)で表される部分構造を3〜10個有する化合物を含む、音響整合層用樹脂組成物。
ただし、前記音響整合層用樹脂組成物は酸無水物を含まない。
【化1】
一般式(1)中、R〜Rのうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、mは0〜2の整数を示す。mが2のとき、2つのR及び2つのRはそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
一般式(2)中、R〜R10のうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、nは0〜2の整数を示す。nが2のとき、2つのR及び2つのR10はそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
【請求項2】
金属粒子(A)と、エポキシ樹脂(B)と、硬化成分とを含有する音響整合層用樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(B)が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂のうちの少なくとも1種のエポキシ樹脂を含み、
前記硬化成分が、ポリチオール化合物(C)及び硬化を促進する化合物(D)であり、
前記ポリチオール化合物(C)が、下記一般式(1)で表される部分構造を3〜10個、又は、下記一般式(2)で表される部分構造を3〜10個有する化合物を含み、
前記硬化を促進する化合物(D)が、アミン化合物、グアニジン化合物、イミダゾール化合物及びホスホニウム化合物の少なくとも1種である、音響整合層用樹脂組成物。
【化2】
一般式(1)中、R〜Rのうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、mは0〜2の整数を示す。mが2のとき、2つのR及び2つのRはそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
一般式(2)中、R〜R10のうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、nは0〜2の整数を示す。nが2のとき、2つのR及び2つのR10はそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
【請求項3】
前記ポリチオール化合物(C)が、下記一般式(3)で表される部分構造を少なくとも2つ有するポリチオール化合物である、請求項1又は2に記載の音響整合層用樹脂組成物。
【化3】
一般式(3)中、R11及びR12は、各々独立して水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を示し、sは0〜2の整数を示す。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
【請求項4】
前記一般式(3)において、R11及びR12のうちの少なくとも1つが炭素数1〜10のアルキル基を示す、請求項に記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリチオール化合物(C)が、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチラート)、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチラート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオナート)、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオナート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオナート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオナート)及びトリス[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)エチル]イソシアヌレートのうちの少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリチオール化合物(C)が、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチラート)、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン及びトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチラート)のうちの少なくとも1種である、請求項1〜のいずれか1項に記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項7】
前記金属粒子(A)が周期表第4〜12族の遷移金属を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項8】
前記金属粒子(A)が周期表第4周期の遷移金属を含む、請求項に記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項9】
前記金属粒子(A)の含有量100質量部に対して、前記エポキシ樹脂(B)の含有量が5〜80質量部であり、前記ポリチオール化合物(C)の含有量が3〜50質量部であり、前記硬化を促進する化合物(D)の含有量が0.05〜5質量部である、請求項1〜のいずれか1項に記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項10】
前記音響整合層用樹脂組成物中、前記金属粒子(A)、前記エポキシ樹脂(B)、前記ポリチオール化合物(C)及び前記硬化を促進する化合物(D)の含有量が合計で90質量%以上である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項11】
前記ポリチオール化合物(C)の分子量が200〜1,000である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の音響整合層用樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の音響整合層用樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項13】
請求項12に記載の硬化物からなる音響整合シート。
【請求項14】
請求項13に記載の音響整合シートを音響整合層として有する音響波プローブ。
【請求項15】
請求項14に記載の音響波プローブを備える音響波測定装置。
【請求項16】
前記音響波測定装置が超音波診断装置である、請求項15に記載の音響波測定装置。
【請求項17】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の音響整合層用樹脂組成物を用いて音響整合層を形成することを含む、音響波プローブの製造方法。
【請求項18】
金属粒子(A)とエポキシ樹脂(B)とを含む樹脂組成物からなる主剤と、
ポリチオール化合物(C)と硬化を促進する化合物(D)とを含む硬化剤とを含む、音響整合層用材料セットであって、
前記ポリチオール化合物(C)が、下記一般式(1)で表される部分構造を3〜10個、又は、下記一般式(2)で表される部分構造を3〜10個有する化合物を含む、音響整合層用材料セット
ただし、前記硬化剤は酸無水物を含まない。
【化4】
一般式(1)中、R〜Rのうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、mは0〜2の整数を示す。mが2のとき、2つのR及び2つのRはそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
一般式(2)中、R〜R10のうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、nは0〜2の整数を示す。nが2のとき、2つのR及び2つのR10はそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
【請求項19】
金属粒子(A)とエポキシ樹脂(B)とを含む樹脂組成物からなる主剤と、
硬化成分を含む硬化剤とを含む、音響整合層用材料セットであって、
前記硬化成分が、ポリチオール化合物(C)及び硬化を促進する化合物(D)であり、
前記ポリチオール化合物(C)が、下記一般式(1)で表される部分構造を3〜10個、又は、下記一般式(2)で表される部分構造を3〜10個有する化合物を含み、
前記硬化を促進する化合物(D)が、アミン化合物、グアニジン化合物、イミダゾール化合物及びホスホニウム化合物の少なくとも1種である、音響整合層用材料セット。
【化5】
一般式(1)中、R〜Rのうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、mは0〜2の整数を示す。mが2のとき、2つのR及び2つのRはそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
一般式(2)中、R〜R10のうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、nは0〜2の整数を示す。nが2のとき、2つのR及び2つのR10はそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
【請求項20】
前記ポリチオール化合物(C)の分子量が200〜1,000である、請求項18又は19に記載の音響整合層用材料セット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響整合層用樹脂組成物、硬化物、音響整合シート、音響波プローブ、音響波測定装置、音響波プローブの製造方法、及び音響整合層用材料セットに関する。
【背景技術】
【0002】
音響波測定装置には、音響波を生体等の被検対象に照射し、その反射波(エコー)を受信して信号を出力する音響波プローブが用いられる。この音響波プローブにより受信した反射波は電気信号に変換され、画像として表示される。したがって、音響波プローブを用いることにより、被検対象内部を映像化して観察することができる。
【0003】
音響波としては、超音波、光音響波などが、被検対象に応じて、また測定条件に応じて適宜に選択される。
例えば、音響波測定装置の1種である超音波診断装置は、被検対象内部に向けて超音波を送信し、被検対象内部の組織で反射された超音波を受信し、画像として表示する。
また、光音響波測定装置は、光音響効果によって被検対象内部から放射される音響波を受信し、画像として表示する。光音響効果とは、可視光、近赤外光又はマイクロ波等の電磁波パルスを被検対象に照射したときに、被検対象が電磁波を吸収して発熱し、熱膨張することにより音響波(典型的には超音波)が発生する現象である。
【0004】
音響波測定装置は、被検対象との間で音響波の送受信を行うため、音響波プローブには被検対象との音響インピーダンスの整合性が要求される。この要求を満たすために、音響波プローブには音響整合層が設けられる。このことを音響波プローブの1種である超音波診断装置用探触子(超音波プローブとも称される)を例に説明する。
超音波プローブは、超音波を送受信する圧電素子と、生体に接触する音響レンズとを備え、圧電素子と音響レンズとの間には音響整合層が配されている。圧電素子から発振される超音波は音響整合層を透過し、さらに音響レンズを透過して生体に入射される。音響レンズと生体との間の音響インピーダンス(密度×音速)には通常は差がある。この差が大きいと、超音波が生体表面で反射されやすく、超音波の生体内への入射効率が低下してしまう。そのため、音響レンズには生体に近い音響インピーダンス特性が求められる。
他方、圧電素子と生体との間の音響インピーダンスの差は一般に大きい。それゆえ、圧電素子と音響レンズとの間の音響インピーダンスの差も通常は大きなものとなる。したがって、圧電素子と音響レンズとの積層構造とした場合には、圧電素子から発せられた超音波は音響レンズ表面で反射し、超音波の生体への入射効率は低下する。この超音波の反射を抑制するために、圧電素子と音響レンズとの間には上記の音響整合層が設けられる。音響整合層の音響インピーダンスは生体又は音響レンズの音響インピーダンスと圧電素子の音響インピーダンスとの間にあり、これにより圧電素子から生体への超音波の伝番が効率化する。また、音響整合層を複層構造として、圧電素子側から音響レンズ側に向けて音響インピーダンスに傾斜を設けることにより、超音波の伝播をより効率化することも知られている。
【0005】
上記音響整合層の例として、アモルファス炭素と、上記アモルファス炭素よりも高い密度を有し、上記アモルファス炭素中に均一に分散した粒子とを含む音響整合層が挙げられる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−082764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
音響波プローブには上述した音響特性に加え、十分な機械強度も求められる。すなわち、音響波プローブは生体にこすり付け、ときには押圧して使用されるものであるため、機械強度は音響波プローブの製品寿命に直接影響する。また、音響整合層についてみると、特に音響整合層を上述した複層構造とする場合には、1層の厚みを100〜数百μmと薄くすることが求められる。この場合、音響整合層を形成する材料には、切削加工等により薄膜化しても割れが生じにくい特性が求められる。
【0008】
また、近年、医療機器の需要の高まりを受け、高い生産性が求められる様になってきた。その一環として、音響波プローブの構成要素である音響整合層を形成するための組成物には、ハンドリング性の向上のために長い可使時間が求められ、また、硬化反応開始後は、劣化防止、製造コスト低減等の観点から穏やかな条件でも比較的すばやく硬化する挙動が求められるようになってきた。
しかし、特許文献1に記載された音響整合層は、音響整合層用樹脂組成物を長時間高温(例えば、1000℃3時間)に曝す工程を経て形成される。
【0009】
そこで本発明は、十分なポットライフを保持しながらも、硬化反応開始後には、穏やかな条件下におけるすばやい硬化反応も実現することができ、これを所望のシート状に成形又は加工することにより、所望の密度を有し、機械強度に優れる音響整合層を形成することができる音響整合層用樹脂組成物、及びこの組成物の調製に好適な音響整合層用材料セットを提供することを課題とする。
また本発明は、十分な密度を有し機械強度に優れる音響整合シート、及びこれに用いる硬化物を提供することを課題とする。
また本発明は、上記音響整合シートを音響整合層として有する音響波プローブ、及びこれを用いた音響波測定装置を提供することを課題とする。
また本発明は、上記音響整合シートを音響整合層として有する音響波プローブを得ることができる音響波プローブの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、音響整合層を形成するための組成物として、金属粒子と、特定のエポキシ樹脂とその硬化剤として特定のポリチオール化合物と、硬化を促進する化合物とを含む組成物が十分なポットライフを保持し、硬化反応開始後には、穏やかな条件下で迅速な硬化反応を実現することができ、この組成物を用いて形成したシートは所望の密度へと調整することができ、機械強度にも優れることを見い出した。本発明はこの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明の上記課題は下記の手段により解決された。
<1>
金属粒子(A)と、エポキシ樹脂(B)と、ポリチオール化合物(C)と、硬化を促進する化合物(D)とを有する音響整合層用樹脂組成物であって、
上記エポキシ樹脂(B)が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂のうちの少なくとも1種のエポキシ樹脂を含み、
上記ポリチオール化合物(C)が、下記一般式(1)で表される部分構造を3〜10個、又は、下記一般式(2)で表される部分構造を3〜10個有する化合物を含む、音響整合層用樹脂組成物。
ただし、上記音響整合層用樹脂組成物は酸無水物を含まない。
【化1】
一般式(1)中、R〜Rのうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、mは0〜2の整数を示す。mが2のとき、2つのR及び2つのRはそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
一般式(2)中、R〜R10のうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、nは0〜2の整数を示す。nが2のとき、2つのR及び2つのR10はそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
<2>
金属粒子(A)と、エポキシ樹脂(B)と、硬化成分とを含有する音響整合層用樹脂組成物であって、
上記エポキシ樹脂(B)が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂のうちの少なくとも1種のエポキシ樹脂を含み、
上記硬化成分が、ポリチオール化合物(C)及び硬化を促進する化合物(D)であり、
上記ポリチオール化合物(C)が、下記一般式(1)で表される部分構造を3〜10個、又は、下記一般式(2)で表される部分構造を3〜10個有する化合物を含み、
前記硬化を促進する化合物(D)が、アミン化合物、グアニジン化合物、イミダゾール化合物及びホスホニウム化合物の少なくとも1種である、音響整合層用樹脂組成物。
【化2】
一般式(1)中、R〜Rのうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、mは0〜2の整数を示す。mが2のとき、2つのR及び2つのRはそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
一般式(2)中、R〜R10のうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、nは0〜2の整数を示す。nが2のとき、2つのR及び2つのR10はそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。

【0012】
<3>
上記ポリチオール化合物(C)が、下記一般式(3)で表される部分構造を少なくとも2つ有するポリチオール化合物である、<1>又は<2>に記載の音響整合層用樹脂組成物。
【化3】
一般式(3)中、R11及びR12は、各々独立して水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を示し、sは0〜2の整数を示す。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。

【0013】
<4>
上記一般式(3)において、R11及びR12のうちの少なくとも1つ(R11及び/又はR12)が炭素数1〜10のアルキル基を示す、<>に記載の音響整合層用樹脂組成物。
<5>
上記ポリチオール化合物(C)が、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチラート)、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチラート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオナート)、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオナート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオナート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオナート)及びトリス[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)エチル]イソシアヌレートのうちの少なくとも1種である、<1>のいずれか1つに記載の音響整合層用樹脂組成物。
<6>
上記ポリチオール化合物(C)が、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチラート)、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン及びトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチラート)のうちの少なくとも1種である、<1>〜<>のいずれか1つに記載の音響整合層用樹脂組成物。
<7>
上記金属粒子(A)が周期表第4〜12族の遷移金属を含む、<1>〜<>のいずれか1つに記載の音響整合層用樹脂組成物。
<8>
上記金属粒子(A)が周期表第4周期の遷移金属を含む、<>に記載の音響整合層用樹脂組成物。
<9>
上記金属粒子(A)の含有量100質量部に対して、上記エポキシ樹脂(B)の含有量が5〜80質量部であり、上記ポリチオール化合物(C)の含有量が3〜50質量部であり、上記硬化を促進する化合物(D)の含有量が0.05〜5質量部である、<1>〜<>のいずれか1つに記載の音響整合層用樹脂組成物。
<10>
上記音響整合層用樹脂組成物中、上記金属粒子(A)、上記エポキシ樹脂(B)、上記ポリチオール化合物(C)及び上記硬化を促進する化合物(D)の含有量が合計で90質量%以上である、<1>〜<9>のいずれか1つに記載の音響整合層用樹脂組成物。
<11>
上記ポリチオール化合物(C)の分子量が200〜1,000である、<1>〜<10>のいずれか1つに記載の音響整合層用樹脂組成物。

【0014】
<12>
<1>〜<11>のいずれか1つに記載の音響整合層用樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
<13>
12>に記載の硬化物からなる音響整合シート。
<14>
13>に記載の音響整合シートを音響整合層として有する音響波プローブ。
<15>
14>に記載の音響波プローブを備える音響波測定装置。
<16>
上記音響波測定装置が超音波診断装置である、<15>に記載の音響波測定装置。
<17>
<1>〜<11>のいずれか1つに記載の音響整合層用樹脂組成物を用いて音響整合層を形成することを含む、音響波プローブの製造方法。
<18>
金属粒子(A)とエポキシ樹脂(B)とを含む樹脂組成物からなる主剤と、
ポリチオール化合物(C)と硬化を促進する化合物(D)とを含む硬化剤とを含む、音響整合層用材料セットであって、
上記ポリチオール化合物(C)が、下記一般式(1)で表される部分構造を3〜10個、又は、下記一般式(2)で表される部分構造を3〜10個有する化合物を含む、音響整合層用材料セット。
ただし、前記硬化剤は酸無水物を含まない。
【化4】
一般式(1)中、R〜Rのうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、mは0〜2の整数を示す。mが2のとき、2つのR及び2つのRはそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
一般式(2)中、R〜R10のうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、nは0〜2の整数を示す。nが2のとき、2つのR及び2つのR10はそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
<19>
金属粒子(A)とエポキシ樹脂(B)とを含む樹脂組成物からなる主剤と、
硬化成分を含む硬化剤とを含む、音響整合層用材料セットであって、
上記硬化成分が、ポリチオール化合物(C)及び硬化を促進する化合物(D)であり、
上記ポリチオール化合物(C)が、下記一般式(1)で表される部分構造を3〜10個、又は、下記一般式(2)で表される部分構造を3〜10個有する化合物を含み、
上記硬化を促進する化合物(D)が、アミン化合物、グアニジン化合物、イミダゾール化合物及びホスホニウム化合物の少なくとも1種である、音響整合層用材料セット。
【化5】
一般式(1)中、R〜Rのうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、mは0〜2の整数を示す。mが2のとき、2つのR及び2つのRはそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
一般式(2)中、R〜R10のうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、nは0〜2の整数を示す。nが2のとき、2つのR及び2つのR10はそれぞれ互いに同じでもよく、異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
<20>
上記ポリチオール化合物(C)の分子量が200〜1,000である、<18>又は<19>に記載の音響整合層用材料セット。

【0015】
本発明の説明において「〜」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本発明の説明において、ある基の炭素数を規定する場合、この炭素数は、基全体の炭素数を意味する。つまり、この基がさらに置換基を有する形態である場合、この置換基を含めた全体の炭素数を意味する。
本発明の説明において、特定の符号で示された置換基、連結基等(以下、置換基等という)が複数あるとき、又は複数の置換基等を同時若しくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。また、特に断らない場合であっても、複数の置換基等が隣接するときにはそれらが互いに連結又は縮環して環を形成していてもよい意味である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の音響整合層用樹脂組成物及び音響整合層用材料セットは、十分なポットライフを保持し、さらにその後、穏やかな条件下で迅速な硬化反応も実現することができ、これを所望のシート状に形成又は加工することにより、所望の密度を有し、機械強度に優れる音響整合シートを得ることができる。
また本発明の音響整合シートは、所望の密度を有し機械強度に優れる。また本発明の硬化物は、本発明の音響整合層の構成材料として好適である。
また本発明の音響波プローブ、及びこれを用いた音響波測定装置は、上記音響整合シートを音響整合層として有する。
また本発明の音響波プローブの製造方法によれば、上記音響波プローブを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、音響波プローブの一態様であるコンベックス型超音波プローブの一例を示す斜視透過図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[音響整合層用樹脂組成物]
本発明の音響整合層用樹脂組成物(以下、単に「本発明の組成物」とも称す。)は、金属粒子(A)と、エポキシ樹脂(B)と、ポリチオール化合物(C)と、硬化を促進する化合物(D)とを含む。本発明の組成物に含まれるエポキシ樹脂(B)と、ポリチオール化合物(C)と硬化を促進する化合物(D)は、金属粒子(A)間の隙間を埋めるものであり、金属粒子(A)の分散媒体として機能する。また、ポリチオール化合物(C)と、硬化を促進する化合物(D)は、硬化成分(エポキシ樹脂(B)に作用して硬化させる成分ないしこの硬化を促進させる成分)である。
本発明の組成物が上記構成を有することにより、適度に長いポットライフを有する一方、塗布後は低温でも迅速に硬化する特性を有する。さらに、この組成物から形成される音響整合シートが機械強度に優れる。この理由は定かではないが以下のように推定される。
ポリチオール化合物(C)及び硬化を促進する化合物(D)を硬化成分として併用することにより、硬化の開始反応がマイルドとなり本発明の組成物のポットライフを確保することできると考えられる。また、硬化を促進する化合物(D)が触媒的にはたらき硬化の成長反応速度を高めることが、本発明の組成物が低温で迅速に硬化する一因と考えられる。また、本発明の組成物が金属粒子(A)を含有することで、音響整合シートを所望の密度へと調整することができる。さらには、金属粒子(A)とポリチオール化合物(C)との親和性が優れることからシートの機械強度が向上すると考えられる。
【0019】
<金属粒子(A)>
本発明の組成物は金属粒子(A)を含有する。この金属粒子(A)の含有量を調整することにより、組成物の密度を調整することができ、得られる音響整合層の音響インピーダンスを所望のレベルに調整することが可能になる。金属粒子(A)は表面処理されていてもよい。
【0020】
金属粒子の表面処理に特に制限はなく、通常の表面処理技術を適用することができる。例えば、炭化水素油、エステル油、ラノリン等による油剤処理、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等によるシリコーン処理、パーフルオロアルキル基含有エステル、パーフルオロアルキルシラン、パーフルオロポリエーテル及びパーフルオロアルキル基を有する重合体等によるフッ素化合物処理、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等によるシランカップリング剤処理、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート等によるチタンカップリング剤処理、金属石鹸処理、アシルグルタミン酸等によるアミノ酸処理、水添卵黄レシチン等によるレシチン処理、コーラーゲン処理、ポリエチレン処理、保湿性処理、無機化合物処理、メカノケミカル処理等の処理方法が挙げられる。
【0021】
金属粒子(A)を構成する金属は特に制限されない。金属原子単独でもく、金属原子の炭化物、窒化物、酸化物、又はホウ素化物でもよい。また合金を形成していてもよい。合金の種類としては高張力鋼(Fe−C)、クロムモリブデン鋼(Fe−Cr−Mo)、マンガンモリブデン鋼(Fe−Mn−Mo)、ステンレス鋼(Fe−Ni−Cr)、42アロイ、インバー(Fe−Ni)、バーメンデュール(Fe−Co)、ケイ素鋼(Fe−Si)、丹銅、トムバック(Cu−Zn)、洋白(Cu−Zn−Ni)、青銅(Cu−Sn)、白銅(Cu−Ni)、赤銅(Cu−Au)、コンスタンタン(Cu−Ni)、ジェラルミン(Al−Cu)、ハステロイ(Ni−Mo−Cr−Fe)、モネル(Ni−Cu)、インコネル(Ni−Cr−Fe)、ニクロム(Ni−Cr)、フェロマンガン(Mn−Fe)、超硬合金(WC/Co)などが挙げられる。
【0022】
金属粒子(A)を構成する金属原子はエポキシ樹脂(B)及びポリチオール化合物(C)との親和性の観点から、周期表第4〜12族の金属原子の少なくとも1種を含むことが好ましい。
また、周期表第4〜12族の金属原子は、周期表第4周期の金属原子であることが好ましい。周期表第4周期の金属を用いることにより金属粒子(A)と硬化させたエポキシ樹脂(B)との親和性が高められ、得られるシートの機械強度の向上にも効果的に寄与する。
【0023】
本発明に用いる金属粒子(A)の粒径は、破断エネルギーと音響減衰の観点から0.01〜100μmが好ましく、1〜10μmがより好ましい。ここで、金属粒子(A)の「粒径」は平均一次粒子径を意味する。
ここで、平均一次粒子径とは、体積平均粒子径を意味する。この体積平均粒子径は、次のように決定される。
メタノールに金属粒子(A)を、0.5質量%となるように添加し、10分間超音波にかけることにより、金属粒子(A)を分散させる。このように処理した金属粒子(A)の粒度分布を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名:LA950V2)により測定し、その体積基準メジアン径を体積平均粒子径とする。なお、メジアン径とは粒径分布を累積分布として表したときの累積50%に相当する。
【0024】
本発明の組成物中、金属粒子(A)とエポキシ樹脂(B)とポリチオール化合物(C)と硬化を促進する化合物(D)の各含有量は、目的の音響インピーダンス等に応じて適宜に調整される。例えば、音響整合層を複層とする場合、圧電素子側の音響整合層に用いる組成物中の金属粒子(A)の含有量は相対的に多くし、音響レンズ側の音響整合層に用いる組成物中の金属粒子(A)の含有量は相対的に少なくすることができる。こうすることにより、圧電素子側から音響レンズ側に向けて、音響インピーダンスに傾斜を持たせることができ、音響波の伝播をより効率化することができる。
【0025】
本発明の組成物中のエポキシ樹脂(B)とポリチオール化合物(C)と硬化を促進する化合物(D)と金属粒子(A)の各含有量は、例えば、金属粒子(A)100質量部に対して、エポキシ樹脂(B)5〜80質量部(好ましくは10〜40質量部、より好ましくは15〜30質量部、さらに好ましくは15〜25質量部)、ポリチオール化合物(C)3〜50質量部(好ましくは5〜30質量部、より好ましくは10〜20質量部)、硬化を促進する化合物(D)0.05〜5質量部(好ましくは0.15〜1質量部、より好ましくは0.2〜0.6質量部、さらに好ましくは0.2〜0.5質量部)とすることができる。
【0026】
<エポキシ樹脂(B)>
本発明に用いられるエポキシ樹脂(B)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂のうちの少なくとも1種のエポキシ樹脂を含む。
【0027】
本発明に用いられるビスフェノールA型エポキシ樹脂は特に制限されず、エポキシ系接着剤の主剤として一般的に用いられるものを広く用いることができる。好ましい具体例として、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(jER825、jER828及びjER834(いずれも商品名)、三菱化学社製)及びビスフェノールAプロポキシレートジグリシジルエーテル(シグマアルドリッチ社製)が挙げられる。
【0028】
本発明に用いられるビスフェノールF型エポキシ樹脂は特に制限されず、エポキシ系接着剤の主剤として一般的に用いられるものを広く用いることができる。好ましい具体例として、ビスフェノールFジグリシジルエーテル(商品名:EPICLON830、DIC社製)及び4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)が挙げられる。
【0029】
本発明に用いられるフェノールノボラック型エポキシ樹脂は特に制限されず、エポキシ系接着剤の主剤として一般的に用いられるものを広く用いることができる。このようなフェノールノボラック型エポキシ樹脂は、例えば、シグマアルドリッチ社から製品番号406775として販売されている。
【0030】
エポキシ樹脂(B)は、上記のエポキシ樹脂からなるものでもよいし、上記エポキシ樹脂以外に、本発明の効果を損なわない範囲内で、他のエポキシ樹脂(例えば、脂肪族型エポキシ樹脂)を含んでいてもよい。エポキシ樹脂(B)中の上記3種のエポキシ樹脂の含有量(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂の総含有量)は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0031】
(ポリチオール化合物(C))
本発明に用いられるポリチオール化合物(C)は、下記一般式(1)で表される部分構造を少なくとも2つ、又は、下記一般式(2)で表される部分構造を少なくとも2つ有する化合物である。本発明に用いられるポリチオール化合物(C)が、下記一般式(1)で表される部分構造を3〜10個(好ましくは3〜6個、より好ましくは4〜6個)、又は、下記一般式(2)で表される部分構造を3〜10個(好ましくは3〜6個、より好ましくは4〜6個)有する構造は、硬化物の架橋密度が高まり、機械特性、特に破断エネルギーがより向上する観点から好ましい。
【0032】
【化3】
【0033】
一般式(1)中、R〜Rのうちの1つはスルファニル基(チオール基)を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、mは0〜2の整数を示す。mが2のとき、2つのRは互いに同じでも異なってもよく、2つのRは互いに同じでも異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
一般式(2)中、R〜R10のうちの1つはスルファニル基を示し、他は各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示し、nは0〜2の整数を示す。nが2のとき、2つのRは互いに同じでも異なってもよく、2つのR10は互いに同じでも異なってもよい。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
【0034】
上記炭素数1〜10のアルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、例えば、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、ブチル、i−ブチル、t−ブチル、ヘキシル及びオクチルがげられる。これらの中でも、メチル又はエチルが好ましい。
【0035】
炭素数6〜14のアリール基の具体例としてフェニル及びナフチルが挙げられる。
【0036】
mは0又は1が好ましい。
nは0又は1が好ましい。
【0037】
上記一般式(1)で表される部分構造は、下記一般式(3)で表される部分構造であることが好ましい。
【化4】
一般式(3)中、R11及びR12は、各々独立して水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を示し、sは0〜2の整数を示す。*はポリチオール化合物(C)中における結合部を示す。
【0038】
11及びR12のうちの少なくとも1つは、炭素数1〜10のアルキル基を示すことが好ましい。
11及びR12で示される炭素数1〜10のアルキル基は、一般式(1)におけるRとして採り得る上記アルキル基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0039】
sは0又は1が好ましく、1がより好ましい。
【0040】
ポリチオール化合物(C)は、下記一般式(4)で表される化合物と、多官能アルコールとのエステルであることが好ましい。
【0041】
【化5】
【0042】
一般式(4)中、R〜R及びmは、上記一般式(1)中のR〜R及びmとそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0043】
一般式(4)で表される化合物は、下記一般式(5)で表される化合物であることが好ましい。
【0044】
【化6】
【0045】
一般式(5)中、R11、R12及びsは、上記一般式(3)中のR11、R12及びsとそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0046】
上記一般式(4)で表される化合物の具体例としては、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトブタン酸、2−メルカプトイソブタン酸、3−メルカプト−3−フェニルプロピオン酸、3−メルカプトイソ酪酸、2−メルカプト−3−メチル酪酸、3−メルカプト−3−メチル酪酸、3−メルカプト吉草酸及び3−メルカプト−4−メチル吉草酸が挙げられる。
【0047】
多官能アルコールは、2〜10官能のアルコール(ヒドロキシ基を2〜10つ有するポリオール)が好ましく、2〜8官能がより好ましく、2〜6官能が特に好ましい。
多官能アルコールの具体例として、アルキレングリコール(アルキレン基の炭素数は2〜10が好ましく、アルキレン基は直鎖でもよく、枝分かれしていてもよい。)、ジエチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0048】
アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−プロパングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、テトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0049】
多官能アルコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパングリコール、1,2−ブタンジオール等のアルキレン主鎖の炭素数が2のアルキレングリコール、及びトリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールが好ましい。
【0050】
以下、ポリチオール化合物(C)の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0051】
具体例としては、フタル酸ビス(1−メルカプトエチル)、フタル酸ビス(2−メルカプトプロピル)、フタル酸ビス(3−メルカプトブチル)、フタル酸ビス(3−メルカプトイソブチル)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオナート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトブチラート)、プロピレングリコールビス(3−メルカプトブチラート)、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトブチラート)、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオナート)、ブタンジオールビス(3−メルカプトブチラート)、オクタンジオールビス(3−メルカプトブチラート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチラート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオナート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオナート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチラート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトブチラート)、エチレングリコールビス(2−メルカプトプロピオナート)、プロピレングリコールビス(2−メルカプトプロピオナート)、ジエチレングリコールビス(2−メルカプトプロピオナート)、ブタンジオールビス(2−メルカプトプロピオナート)、オクタンジオールビス(2−メルカプトプロピオナート)、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトプロピオナート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトプロピオナート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(2−メルカプトプロピオナート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトイソブチラート)、プロピレングリコールビス(3−メルカプトイソブチラート)、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトイソブチラート)、ブタンジオールビス(3−メルカプトイソブチラート)、オクタンジオールビス(3−メルカプトイソブチラート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトイソブチラート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトイソブチラート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトイソブチラート)、エチレングリコールビス(2−メルカプトイソブチラート)、プロピレングリコールビス(2−メルカプトイソブチラート)、ジエチレングリコールビス(2−メルカプトイソブチラート)、ブタンジオールビス(2−メルカプトイソブチラート)、オクタンジオールビス(2−メルカプトイソブチラート)、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトイソブチラート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトイソブチラート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(2−メルカプトイソブチラート)、エチレングリコールビス(4−メルカプトバレレート)、プロピレングリコールビス(4−メルカプトイソバレレート)、ジエチレングリコールビス(4−メルカプトバレレート)、ブタンジオールビス(4−メルカプトバレレート)、オクタンジオールビス(4−メルカプトバレレート)、トリメチロールプロパントリス(4−メルカプトバレレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(4−メルカプトバレレート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(4−メルカプトバレレート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトバレレート)、プロピレングリコールビス(3−メルカプトバレレート)、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトバレレート)、ブタンジオールビス(3−メルカプトバレレート)、オクタンジオールビス(3−メルカプトバレレート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトバレレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトバレレート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトバレレート)、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン及びトリス[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)エチル]イソシアヌレートが挙げられる。
【0052】
臭気が少なく、所望の程度の粘度を有し、エポキシ樹脂(B)との混合性が良好であり、金属粒子(A)とエポキシ樹脂(B)と硬化成分とを混合して得られる混合物の取り扱い性の観点から、ポリチオール化合物(C)が、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチラート)、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチラート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオナート)、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオナート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオナート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオナート)及びトリス[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)エチル]イソシアヌレートのうちの少なくとも1種であることが好ましく、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチラート)、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン及びトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチラート)のうちの少なくとも少なくとも1種が好ましい。
【0053】
ポリチオール化合物(C)の分子量は特に限定されないが、本発明の接着剤のエポキシ樹脂(B)と混合が容易でかつ再分離し難く、また主剤と硬化剤とを混合して得られる混合物のタレやムラが起き難い等の取り扱い性の観点から、200〜1,000であることが好ましく、300〜800であることがより好ましい。
【0054】
本発明において、ポリチオール化合物(C)は、市販品を用いることができ、具体例として、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン(商品名:カレンズMT BD1、昭和電工社製)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチラート)(商品名:カレンズMT PE1、昭和電工社製)、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(商品名:カレンズMT NR1、昭和電工社製)及びトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチラート)(商品名TPMB、昭和電工社製)が挙げられる。
【0055】
本発明において、ポリチオール化合物(C)は1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0056】
ポリチオール化合物(C)は、上記のポリチオール化合物からなるものでもよいし、上記ポリチオール化合物以外に、本発明の効果を損なわない範囲内で、他のポリチオール化合物を含んでいてもよい。ポリチオール化合物(C)中の上記ポリチオール化合物の含有量(一般式(1)で表される部分構造を少なくとも2つ有する化合物及び一般式(2)で表される部分構造を少なくとも2つ有する化合物の総含有量)は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0057】
[硬化を促進する化合物(D)]
本発明に用いられる硬化を促進する化合物(D)は、反応活性開始温度が−20〜23℃の低温にあり、エポキシ樹脂(B)の硬化を促進する。
【0058】
本発明に用いられる硬化を促進する化合物(D)は特に限定されないが、アミン化合物、グアニジン化合物、イミダゾール化合物、ホスホニウム化合物等が挙げられ、硬化速度が速まり硬化度が高くなるため、アミン化合物及びイミダゾール化合物が好ましい。
【0059】
アミン化合物としては、特に限定されないが、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のトリアルキルアミン、4−ジメチルアミノピリジン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6,−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−ノネン(DBN)等のアミン化合物等が挙げられる。
【0060】
グアニジン化合物としては、特に限定されないが、ジシアンジアミド、1−メチルグアニジン、1−エチルグアニジン、1−シクロヘキシルグアニジン、1−フェニルグアニジン、1−(o−トリル)グアニジン、1,1−ジメチルグアニジン、1,3−ジフェニルグアニジン、1,2,3−トリメチルグアニジン、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン、1,1,2,3,3−ペンタメチルグアニジン、1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン、7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン、1−メチルビグアニド、1−エチルビグアニド、1−n−ブチルビグアニド、1−n−オクタデシルビグアニド、1,1−ジメチルビグアニド、1,1−ジエチルビグアニド、1−シクロヘキシルビグアニド、1−アリルビグアニド、1−フェニルビグアニド、1−(o−トリル)ビグアニド等が挙げられる。
【0061】
イミダゾール化合物としては、特に限定されないが、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、4−メチル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−ウンデシルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−(2−シアノエチル)−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2−(2’−メチル−1’−イミダゾリル)エチル]−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2−(2’−ウンデシル−1’−イミダゾリル]エチル]−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2−(2’−エチル−4’−メチル−1’−イミダゾリル)エチル]−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2−(2’−メチル−1’−イミダゾリル)エチル]−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、4,5−ビス(ヒドロキシメチル)−2−フェニルイミダゾール、5−ヒドロキシメチル−4−メチル−2−フェニルイミダゾール、2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2−a]ベンズイミダゾール、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシ)プロピル−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物及びイミダゾール化合物とエポキシ樹脂とのアダクト体が挙げられる。
【0062】
ホスホニウム化合物としては、特に限定されないが、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムブロマイド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムイオダイド、テトラブチルホスホニウムイオダイド、ブチルトリフェニルホスホニウムイオダイド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、ブチルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラブチルボレート、テトラブチルホスホニウムテトラブチルボレート、ブチルトリフェニルホスホニウムテトラブチルボレート、テトラフェニルホスホニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムアセテート、ブチルトリフェニルホスホニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムテトラフルオロボレート、テトラブチルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、メチルトリブチルホスホニウムジメチルホスフェート、テトラブチルホスホニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムクロリド等が挙げられる。これらの中でも、反応性と透明性の観点から、テトラブチルホスホニウムブロマイド、メチルトリブチルホスホニウムジメチルホスフェート、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムイオダイド、テトラブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムイオダイド及びテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートが好ましく、メチルトリブチルホスホニウムジメチルホスフェート及びテトラブチルホスホニウムブロマイドがより好ましい。
【0063】
本発明において、硬化を促進する化合物(D)は1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0064】
本発明の組成物中において、経時的にエポキシ樹脂(B)の硬化反応が進む場合がある。したがって、この組成物の性状は経時的に変化し、安定ではない場合がある。しかし、例えば、上記組成物を−10℃以下の温度で保存することにより、硬化反応を生じずに又は十分に抑制して各成分が安定に維持された状態の組成物とすることができる。
また、エポキシ樹脂(B)と金属粒子(A)とを含む樹脂組成物を主剤とし、この主剤と硬化成分(ポリチオール化合物(C)と硬化を促進する化合物(D))を含む硬化剤とを別々により分けた音響整合層用材料セットの形態とすることも好ましい。音響整合層の形成に当たり、主剤と硬化剤とを混合して本発明の組成物を調製し、この組成物を用いて層を形成することにより、音響整合層を形成することができる。
本発明の組成物中、エポキシ樹脂(B)と硬化成分の質量比は、例えば、エポキシ樹脂(B)/硬化成分=99/1〜20/80とすることができ、90/10〜40/60が好ましい。また、エポキシ樹脂(B)/硬化成分=80/20〜40/60としてもよく、70/30〜40/60としてもよい。なお、ポリチオール化合物(C)と硬化を促進する化合物(D)の質量比は、ポリチオール化合物(C)/硬化を促進する化合物(D)=99.9/0.1〜90/10が好ましい。また、ポリチオール化合物(C)/硬化を促進する化合物(D)=99.9/0.1〜94/6としてもよい。
また、上記の音響整合層用材料セットを用いて、層形成時に主剤と硬化剤とを混合して本発明の組成物を調製する場合においては、エポキシ樹脂(B)と硬化成分との質量比がエポキシ樹脂(B)/硬化成分=99/1〜20/80となるように主剤と硬化剤とを混合して用いる形態とすることが好ましく、90/10〜40/60となるように主剤と硬化剤とを混合して用いる形態とすることがより好ましい。また、エポキシ樹脂(B)/硬化成分=80/20〜40/60となるように主剤と硬化剤とを混合して用いる形態としてもよく、70/30〜40/60となるように主剤と硬化剤とを混合して用いる形態としてもよい。なお、ポリチオール化合物(C)と硬化を促進する化合物(D)の質量比は、ポリチオール化合物(C)/硬化を促進する化合物(D)=99.9/0.1〜90/10となるように主剤と硬化剤とを混合して用いる形態とすることが好ましい。また、ポリチオール化合物(C)/硬化を促進する化合物(D)=99.9/0.1〜94/6となるように主剤と硬化剤とを混合して用いる形態としてもよい。
【0065】
本発明の組成物は、エポキシ樹脂(B)と硬化成分と金属粒子(A)から構成されていてもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、これら以外の成分を含有していてもよい。エポキシ樹脂(B)と硬化成分以外で金属粒子(A)以外の成分としては、例えば、硬化遅延剤、溶媒、分散剤、顔料、染料、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤又は熱伝導性向上剤等を適宜配合することができる。
本発明の組成物中、エポキシ樹脂(B)と硬化成分と金属粒子(A)の各含有量の合計は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0066】
<音響整合層用樹脂組成物の調製>
本発明の音響整合層用樹脂組成物は、例えば、音響整合層用樹脂組成物を構成する成分を、ニーダー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー(連続ニーダー)、2本ロールの混練装置等を用いて混練りすることにより得ることができる。これにより、エポキシ樹脂(B)と硬化成分中に金属粒子(A)が分散してなる音響整合層用樹脂組成物を得ることができる。
【0067】
また、エポキシ樹脂(B)と金属粒子(A)とを含む樹脂組成物からなる主剤と、硬化成分を含む硬化剤とを含む音響整合層用材料セットとする場合には、エポキシ樹脂(B)と金属粒子(A)とを混練りすることにより主剤を得ることができる。音響整合層の作製時に、この主剤と硬化剤とを混合することにより本発明の組成物を得る。この組成物を成形しながら硬化することにより、音響整合層又はその前駆体シートを形成することができる。
【0068】
[音響整合シート(音響整合層)]
本発明の組成物は、これをシート状に成形し、必要により所望の厚さ又は形状へと切削、ダイシング等することにより、音響整合シートを得ることができる。この音響整合シートは音響波プローブの音響整合層として用いられる。音響整合層を含む音響波プローブの構成については後述する。
シートの作製においては、硬化反応を生じない、あるいは硬化速度の遅い低温域で所望のシート状に成形し、次いで必要により加熱等することにより成形物を硬化させて音響整合シート又はその前駆体シートとする。つまり、本発明の音響整合シートは、本発明の組成物を硬化して三次元網状構造を形成させた硬化物である。
【0069】
[音響波プローブ]
本発明の音響波プローブは、本発明の組成物を用いて形成した音響整合シートを音響整合層として有する。
本発明の音響波プローブの構成について、その一例を図1に示す。図1に示す音響波プローブは、超音波診断装置における超音波プローブである。なお、超音波プローブとは、音響波プローブにおける音響波として、特に超音波を使用するプローブである。そのため、超音波プローブの基本的な構造は音響波プローブにそのまま適用することができる。
【0070】
<超音波プローブ>
超音波プローブ10は、超音波診断装置の主要構成部品であって、超音波を発生するとともに、超音波ビームを送受信する機能を有するものである。超音波プローブ10の構成は、図1に示すように、先端(被検対象である生体に接する面)部分から音響レンズ1、音響整合層2、圧電素子層3、バッキング材4の順に設けられている。なお、近年、高次高調波を受信することを目的に、送信用超音波振動子(圧電素子)と、受信用超音波振動子(圧電素子)を異なる材料で構成し、積層構造としたものも提案されている。
【0071】
(圧電素子層)
圧電素子層3は、超音波を発生する部分であって、圧電素子の両側に電極が貼り付けられており、電圧を加えると圧電素子が伸縮と膨張を繰り返し振動することにより、超音波が発生する。
【0072】
圧電素子を構成する材料としては、水晶、LiNbO、LiTaO及びKNbOなどの単結晶、ZnO及びAlNなどの薄膜並びにPb(Zr,Ti)O系などの焼結体を分極処理した、いわゆるセラミックスの無機圧電体が広く利用されている。一般的には、変換効率のよいPZT:チタン酸ジルコン酸鉛等の圧電セラミックスが使用されている。
また、高周波側の受信波を検知する圧電素子には、より広い帯域幅の感度が必要である。このため、高周波、広帯域に適した圧電素子として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの有機系高分子物質を利用した有機圧電体が使用されている。
さらに、特開2011−071842号公報等には、優れた短パルス特性及び広帯域特性を示し、量産性に優れ、特性ばらつきの少ないアレイ構造が得られる、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用したcMUTが記載されている。
本発明においては、いずれの圧電素子材料も好ましく用いることができる。
【0073】
(バッキング材)
バッキング材4は、圧電素子層3の背面に設けられており、余分な振動を抑制することにより超音波のパルス幅を短くし、超音波診断画像における距離分解能の向上に寄与する。
【0074】
(音響整合層)
音響整合層2は、圧電素子層3と被検対象間での音響インピーダンスの差を小さくし、超音波を効率よく送受信するために設けられる。
【0075】
(音響レンズ)
音響レンズ1は、屈折を利用して超音波をスライス方向に集束し、分解能を向上させるために設けられる。また、被検対象である生体と密着し、超音波を生体の音響インピーダンス(人体では、1.4〜1.7×10kg/m/sec)と整合させること、及び、音響レンズ1自体の超音波減衰量が小さいことが求められている。
すなわち、音響レンズ1の材料としては、音速が人体の音速よりも十分小さく、超音波の減衰が少なく、また、音響インピーダンスが人体の皮膚の値に近い材料を使用することで、超音波の送受信感度が高められる。
【0076】
このような構成の超音波プローブ10の動作を説明する。圧電素子の両側に設けられた電極に電圧を印加して圧電素子層3を共振させ、超音波信号を音響レンズから被検対象に送信する。受信時には、被検対象からの反射信号(エコー信号)によって圧電素子層3を振動させ、この振動を電気的に変換して信号とし、画像を得る。
【0077】
[音響波プローブの製造方法]
本発明の音響波プローブは、本発明の音響整合層用樹脂組成物を用いること以外は、常法により作製することができる。すなわち、本発明の音響波プローブの製造方法は、圧電素子上に、本発明の音響整合層用樹脂組成物を用いて音響整合層を形成することを含む。圧電素子はバッキング材上に常法により設けることができる。
また、音響整合層上には、音響レンズの形成材料を用いて常法により音響レンズが形成される。
【0078】
[音響波測定装置]
本発明の音響波測定装置は、本発明の音響波プローブを有する。音響波測定装置は、音響波プローブで受信した信号の信号強度を表示したり、この信号を画像化したりする機能を備える。
本発明の音響波測定装置は、超音波プローブを用いた超音波測定装置であることも好ましい。
【実施例】
【0079】
以下に本発明を、音響波として超音波を用いた実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、本発明は超音波に限定されるものではなく、被検対象及び測定条件等に応じて適切な周波数を選択してさえいれば、可聴周波数の音響波を用いてもよい。なお、「室温」は25℃を意味する。
【0080】
(実施例1の音響整合層用樹脂組成物の調製例)
下記表1に示す配合量で、金属粒子(A−1)とエポキシ樹脂(B−1)、ポリチオール化合物(C−1)、硬化を促進する化合物(D−1)とを混合した。具体的には、金属粒子(A)とエポキシ樹脂(B)とを撹拌機(商品名:泡とり練太郎 ARV−310、シンキー社製)を用いて、室温下、1.0Paに減圧した状態で、1800rpmで撹拌しながら4分間脱泡した。そこにポリチオール化合物(C−1)および硬化を促進する化合物(D−1)を加え、同条件で再度撹拌して脱泡した。こうして、実施例1の音響整合層用樹脂組成物を得た。
【0081】
下記表1に記載の組成に変えたこと以外は、実施例1の音響整合層用樹脂組成物と同様にして、下記表1に記載の実施例1以外の音響整合層用樹脂組成物を調製した。
【0082】
[ポットライフ]
上記で調製した音響整合層用樹脂組成物について、示差走査熱量計(DSC)を用いて23℃における発熱開始時間を求めた。結果を表1に示す。A〜Cが本試験の合格である。
−評価基準−
A:30分以上で発熱が開始しなかった。
B:15分を超え、30分以内で発熱開始を確認した。
C:1分を超え、15分以内で発熱開始を確認した。
D:混合時に既に硬化していた。
【0083】
[低温硬化性]
上記で調製した音響整合層用樹脂組成物について、示差走査熱量計(DSC)により、10℃における発熱ピーク(極大)の確認を行い、以下の評価基準に従って低温での硬化性を評価した。結果を表1に示す。A〜Cが本試験の合格である。
−評価基準−
A:4時間以内に発熱ピークを確認した。
B:4時間を超え8時間以内に発熱ピークを確認した。
C:8時間を超え12時間以内に発熱ピークを確認した。
D:12時間以内に発熱ピークが確認されなかった。
【0084】
[密度]
上記で調製した音響整合層用樹脂組成物を、ミニテストプレス(東洋精機社製)により、80℃で18時間硬化させ、その後150℃で1時間硬化させて、縦60mm×横60mm×厚さ2mmの音響整合シートを得た。
得られたシートについて、25℃におけるシートの密度をJIS K7112(1999)に記載のA法(水中置換法)の密度測定方法に準拠して、電子比重計(アルファミラージュ社製、商品名「SD−200L」)を用いて測定した。
【0085】
[破断エネルギー]
上記で調製した音響整合層用樹脂組成物から、上記と同様にして縦50mm×横50mm×厚さ0.4mmの音響整合シートを得た。これより、縦40mm×横5mm×厚さ0.4mmの短冊状に打ち抜き試験片とした。これを引張試験機(オートグラフAGS−X/20N、島津製作所製)を用いて引張速度30mm/分で引張試験を行い、以下の評価基準に従って破断エネルギーを評価した。結果を表1に示す。A〜Cが本試験の合格である。
【0086】
−評価基準−
A:50J以上
B:40J以上、50J未満
C:30J以上、40J未満
D:30J未満
結果を下表に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】

【0089】
【表3】
【0090】
上記表に記載の各成分について、詳細を以下に記載する。
【0091】
[金属粒子(A)]
(A−1)Fe(平均粒子径4.1μm)
(A−2)Zn(平均粒子径6.3μm)
(A−3)Ti(平均粒子径5.1μm)
(A−4)Cu(平均粒子径3.6μm)
(A−5)Ni(平均粒子径2.6μm)
(A−6)Zr(平均粒子径6.1μm)
(A−7)Mo(平均粒子径4.4μm)
(A−8)Ag(平均粒子径5.6μm)
(A−9)Pt(平均粒子径6.8μm)
(A−10)Au(平均粒子径3.0μm)
【0092】
[エポキシ樹脂(B)]
(B−1)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱化学社製「jER825」(商品名)、エポキシ当量170)
(B−2)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱化学社製「jER828」(商品名)、エポキシ当量190)
(B−3)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱化学社製「jER834」(商品名)、エポキシ当量230)
(B−4)ビスフェノールFジグリシジルエーテル(DIC社製「EPICLON830」(商品名)、エポキシ当量170)
(B−5)エポキシノボラック樹脂(シグマアルドリッチ社製、製品番号406775、エポキシ当量170)
(B−6)ビスフェノールAプロポキシレートジグリシジルエーテル(シグマアルドリッチ社製、エポキシ当量228)
(B−7)4,4'−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)(東京化成工業社製、エポキシ当量106)
【0093】
[ポリチオール化合物(C)]
(C−1)ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチラート)(昭和電工社製、商品名「カレンズMT PE1」)
(C−2)1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン(昭和電工社製、商品名「カレンズMT BD1」)
(C−3)1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(昭和電工社製、商品名「カレンズMT NR1」)
(C−4)トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチラート)(昭和電工社製、商品名「TPMB」)
(C−5)エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオナート)(和光純薬工業社製試薬)
(C−6)テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオナート)(堺化学工業社製、商品名「EGMP−4」)
(C−7)トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート)(堺化学工業社製、商品名「TMMP」)
(C−8)ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオナート)(堺化学工業社製、商品名「PEMP」)
(C−9)ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオナート)(堺化学工業社製、商品名「DPMP」)
(C−10)トリス[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)エチル]イソシアヌレート(堺化学工業社製、商品名「TEMPIC」)
【0094】
[硬化を促進する化合物(D)]
(D−1)2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(ナカライテスク社製、商品名「ルベアックDMP−30」)
(D−2)2−エチル−4−メチルイミダゾール(東京化成工業製試薬)
(D−3)テトラフェニルホスホニウムブロマイド(北興化学工業社製、商品名「TPP−PB」)
【0095】
[その他硬化剤](比較のため、ポリオール化合物(C)の行に記載している。)
(E−1)ポリアミドアミン(DIC社製、商品名「ラッカマイドEA−330」)
(E−2)トリエチレンテトラミン(東京化成工業製試薬)
【0096】
上記表1に示されるように、本発明の規定を満たさない音響整合用樹脂組成物は少なくとも低温硬化性が不合格であった(比較例1〜3)。比較例3の音響整合用樹脂組成物は、硬化成分として(E−2)トリエチレンテトラミン及び(D−1)2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを含むがポットライフも不合格であった。これは硬化を促進する化合物(D)の作用により、組成物調製後、硬化反応が開始するまでの時間が短縮されたことによるものと考えられる。
これに対し、本発明の音響整合用樹脂組成物は、ポットライフ及び低温硬化性がいずれも合格レベルにあり、本発明の音響整合用樹脂組成物から作製した音響整合シートは破断エネルギーにも優れたものであった(実施例1〜16、18、19及び22〜34)。この結果は、実施例1〜16、18、19及び22〜34の音響整合用樹脂組成物において、硬化促進剤により組成物調製後、硬化反応開始までの時間の短縮よりも硬化反応開始後の反応時間が短縮されたためと考えられる。

【0097】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0098】
本願は、2017年11月1日に日本国で特許出願された特願2017−212210に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0099】
1 音響レンズ
2 音響整合層(音響整合シート)
3 圧電素子層
4 バッキング材
7 筐体
9 コード
10 超音波探触子(プローブ)
図1