【実施例1】
【0032】
図1〜
図3は、それぞれ本発明の半導体基板の作製方法を説明する図である。各図では、半導体基板の上面図およびA−A´線を通り基板に垂直に切った断面図を示している。
図4は、
図1〜
図3の工程を経て作製された半導体基板上に作製した光源をモノリシック集積したIQ変調器の構成を示す図である。後述するようにIQ変調器は、半導体レーザアレイ(LDA:Laser Diode Array)および2つのマッハツェンダ変調器(MZM:Mach-Zehnder Modulator)を組み合わせ単一の基板上にモノリシックに形成されている。本発明の半導体基板の作製方法により、溝内に半導体領域を部分的に成長させてLDAを形成する。LDAは、アレイ化するレーザ数に比例して占有面積が広くなる。例えば、レーザを構成する導波路の幅を2μm、隣接するレーザ同士の間隔を5μmとして、100本のレーザをアレイ化すれば、LDAのための回路領域として700μmもの幅が必要となる。IQ変調器も、他の光デバイスと比較して要求される面積が大きいことが1つの特徴である(非特許文献2)。
【0033】
図1は、本発明の半導体基板の作製方法の工程を説明する図である。
図1の(a)は、多層膜基板上にマスクが構成された最初の状態(Step1)を示す。半導体基板としては、InP基板1上にIn、Al、Ga、AsのIII-V元系材料から形成された500nmの多重量子井戸(MQW:Multi-Quantum Well)構造によるコア層2と、コア層2の上に100nm程度のInPクラッド層3とが成長された多層膜基板を使用した。上述のMQW構造は光通信で重要である1.55μm帯の光に対しては透明である。一方、MQW構造による光導波路では、コア層2に電圧を印加すると量子閉じ込めシュタルク効果によってその屈折率が変化する。MQW構造によるコア層2は、この屈折率変化を利用してMZMとして利用できるようにその組成が調整されている。このような多層膜InP基板は、通常の化合物半導体層の形成方法によって作製をしても良いし、コア層2およびクラッド層3が既に完成された市販の多層膜InP基板を使用しも良い。
【0034】
図1の(a)のStep1では、多層膜基板のクラッド層3の上に、マスク層4を形成する。マスク層4の材料としては、例えばSiO
2を使用できる。マスク材料は、フォトリソグラフィー工程および絶縁膜エッチング工程により開口させて、開口部5aを持つ所定の形状の開口マスクを形成する。
【0035】
図1の(b)のStep2では、開口マスクに加工されたマスク層4を用いて、基板上のInPクラッド層3およびMQWコア層2を半導体エッチング工程により除去して、半導体基板1の上に溝5bを形成する。溝5bは、上面図で長手方向がLDAのレーザ導波路の方向となっている。したがって、断面図における溝5bの幅はアレイ化した多数の導波路の幅方向に対応する。ここで用語「溝」は、ストライプ状や矩形状だけのものに限られず、任意の形状のものであって、半導体の一部がエッチングにより除去されてできた基板最上面より基板面に垂直方向に形成された凹部を言う。
図1の(b)の例では、溝は2つの半導体層2、3を全て除去して、半導体基板のベースとなっている基板1の上面にまで達するものである。また「溝」は、基板面に垂直方向(溝の深さ方向)について、1つ以上の半導体層の途中までをエッチングにより除去したものであっても良い。
【0036】
図2は、
図1から引き続く工程を示しており、
図2の(a)は本発明の半導体基板の作製方法に特徴的な再成長用のマスクを形成する工程(Step3)を示す。従来技術でも述べた通り、半導体成長の際は基板上のマスクとなる絶縁膜面積は小さい方が好ましい。したがって、溝を構成している開口部5aの端面を含む内周から幅GWを残して、マスク層4を除去する。SiO
2マスクをフォトリソグラフィー工程および絶縁膜エッチング工程によりマスク層4を除去して、上述の溝5bの内部の基板面に垂直な側面に連続した側面を持つ枠状マスク6が形成され、
図2の(a)のStep3の状態となる。
【0037】
ここで枠状マスク6の幅GWには、一定の選択幅がある。枠状マスク6の幅GWが広すぎると、従来技術で説明したように、以後の半導体再成長において成長された半導体組成がSiO
2マスク近傍で揺らいだり、再成長で得られた基板の凹凸が大きくなったりする問題が生じる。一方、溝5bを形成後にマスク層4を全て除去してしまうと(すなわちGW=0)、その後の再成長の条件によっては、次に説明する余剰半導体の除去工程が難しくなる可能性がある。上述の条件を考慮すると、枠状マスク6の幅GWは、0の場合も含み、0から概ね20μmの範囲が好ましい。この範囲であれば、誘電体マスクの幅は最大でも20μmに抑えられるため、マスク近傍の半導体組成が揺らいだり、再成長で得られた基板に凹凸を生じたりすることが無い。
【0038】
図2の(b)は引き続く工程を示しており、追加の半導体の再成長の工程(Step4)を示す。Step3で枠状マスク6を形成した後で、LDAを構成するのに適した物性値を持つ追加の半導体を再成長させる。具体的には、In、Al、Ga、AsのIII-V元系材料から形成されたMQWコア層7a、7bと、元の半導体基板の最上面の高さに合わせるために、MQWコア層の上にオーバクラッドとしてのInPクラッド層8a、8bを成長する。このMQWコア層は、電流を注入すると1.5μm帯の光を発光するようにその組成が調整されている。
【0039】
図2の(b)の段階で、溝5bの内部および外部の両方に新たな半導体であるコア層、クラッド層が再成長された基板構造となっている。この半導体基板を実際の具体的な光回路の作製に応用する上で、溝5bの外部のコア層7a、クラッド層8aは例えばLDA用の半導体としては不要であって、余剰半導体である。そこでフォトリソグラフィー工程によって、光回路の作製に必要な再成長した半導体、すなわち溝5b内のコア層7b、クラッド8bを覆うような第2のマスクを形成し、余剰半導体であるコア層7a、クラッド8aを除去するのが好ましい。第2のマスクは、例えばレジストマスクを利用することができる。すなわち、
図2の(b)の状態でレジストをウェハーに塗布して、溝5bだけにレジストが残るようにフォトリソグラフィー工程を実施すれば良い。その後、余剰半導体であるコア層7a、クラッド8aを除去する。
【0040】
前述のように、この除去工程において枠状マスク6の幅GWが0であると、溝5bの外側の半導体、コア層7a、クラッド8aだけを選択的にエッチングするのが難しい場合がある。したがって、枠状マスク6の幅GWが0の場合も含み、幅GWは0から概ね20μmの範囲が好ましい。
【0041】
図3は、引き続く工程を示しており、
図3の(a)は溝の外部の余剰半導体が除去された状態(Step5)を示す。
図3の(a)では、余剰半導体であるコア層7a、クラッド8a、および、この余剰半導体の除去のための第2のマスクが既に除去された後の状態を示している。したがって、枠状マスク6の内側には再成長した追加の半導体によってコア層7b、クラッド8b層が形成されており、基板面に沿ってこれらの2つの層に連続して、当初半導体であるコア層2、クラッド層3が構成された状態となる。
図3の(a)の状態で枠状マスク6を除去すると、溝5bの内部のみにLDA用の再成長した追加の半導体が作製され、溝5bの外は全てMZM用の当初半導体となっている半導体基板が作製された状態になる。
【0042】
上述の
図1〜
図3の各工程では、開口部5aの形状は矩形であって、矩形状の溝5bが構成され、矩形の概形を持つ枠状マスク6が形成されたものとして説明した。追加の半導体を再成長させるための開口部5aの形状としては、他の工程においてデバイス作製上の問題が生じない限り任意の形状を取り得る。しかしながら、正方形、長方形(矩形)、菱形などの形状が、好ましい場合が多い。これは、一般に半導体は作製上の面方位性が強い材料であることに起因する。開口部5aの外周が、所定の面方位に平行であったり、特定の角度を持っていたりする方が、上述の余剰の半導体の除去工程に好都合であるからである。例えば、特に面方位の影響を受けやすい薬液によるウェットエッチングを実施する場合は、開口部5aの外周がその面方位と整合した関係にあれば、
図3の(a)の状態に至るまでの余剰半導体の除去工程をより簡単に実施できる。
【0043】
本発明の半導体基板の作製方法では、特定の光回路を作製するための半導体領域に、マスク幅の制限に起因した従来技術のような制限(10μmから100μm)は無い。したがって、開口部5aの大きさについても、要求仕様に応じてより大きなサイズの任意の光回路が構成可能である。しかしながら、本発明では、単一の基板上に広い面積で異種の半導体に渡って光回路を集積すること考慮すると、正方形、長方形、菱形等の、開口部5aの形状を採用した場合、一辺当たりが100μm以上であるときに、本発明の半導体基板の作製方法の効果が発揮される。本実施例の場合を考えると、従来技術で当初半導体を残すことによって第1の半導体領域で形成していた矩形のLDA部は、マスク幅が最大で100μmに制限されていた。しかしながら、本発明の作製方法により、溝内に再成長させた追加の半導体による第1の半導体領域でLDA部を形成した場合には、マスク幅は100μmを越えることができるのはもちろん、700μmに至るものも作成可能である。
【0044】
図3の(b)は、本発明の半導体基板の作製方法の最後の工程であって、オーバクラッドを形成してデバイス化可能な半導体基板となった状態(Step6)を示す。異なる物性値を持つ2種類の半導体が作製された半導体基板上に、デバイスを構成するために必要な層を作製する。必要に応じてさらにオーバクラッドとしてのInP層9や、図示していない電極とのコンタクトをとるInGaAs等のコンタクト層を成長することで、デバイス化可能な半導体基板となる。
【0045】
したがって本発明は、異なる物性値を有する2つ以上の半導体領域を含む半導体基板の作製方法であって、基板上に形成された当初半導体の一部を加工するマスク層を形成するステップと、前記マスク層に、所定の形状の開口部を形成するステップと、前記開口部を用いてエッチングを実施して、前記当初半導体に所定の形状の溝を形成するステップと、前記開口部の内周から幅GWを残して、前記マスク層を除去して、枠状のマスクを形成するステップと、前記当初半導体の前記溝内に、前記当初半導体とは異なる物性値を持つ半導体を成長させるステップとを備えることを特徴とする方法として実施できる。
【0046】
図4は、上述の
図1〜
図3の工程を経て作製された半導体基板上に作製したIQ変調器の構成を示す図である。基板面を見た上面図と、X−X´線およびY−Y´線を通り基板面に垂直に切った断面図をそれぞれ示している。複数光源をモノリシック集積したIQ変調器20は、LDA部21およびIQM部22からなる。LDA部21は、本発明の基板作製方法によって溝内に形成された再成長の半導体層による第1の半導体領域10(コア層7bおよびクラッド層8b)に作製された複数の半導体レーザアレイ25と合波部27とからなっている。X−X´線を通る断面からわかるように、半導体レーザアレイ25は、オーバクラッド層9のストライプ状の各電極によって規定されるコア層7bの導波路によって構成されている。
【0047】
IQM部22は、第1のMZM23および第2のMZM24を含み、基板の端部から変調光28を出力する。IQMは、本発明の基板作製方法における当初半導体による第2の半導体領域に作製されたアーム導波路を含む干渉回路で構成されている。Y−Y´線を通る断面図からわかるように、各MZMのアーム導波路は、ストライプ状の各電極26a〜26dによって規定されるコア層2によって構成されている。本発明の作製方法によって得られた半導体基板では、溝内に再成長され、LDAに適した物性値を持つ追加の半導体(第2の半導体領域)を利用するとともに、物性値ゆらぎや表面の凸凹の問題を生じること無しに、より広い占有面積のLDAを作製できる。一方で、追加の半導体とは異なる物性値であって、MZMに適した物性値の当初半導体(第1の半導体領域)を利用して、占有面積の広い第2の半導体領域のLDAをモノリシック集積した光回路を実現できる。
【0048】
本発明の基板作製方法によって複数の半導体領域を持つ基板は、
図4のような複数光源をモノリシック集積したIQ変調器の他に、複数の光源(LDアレイ)と合波回路(MMIによるトランスバーサルフィルタ)を組み合わせた光回路等にも適用できる(非特許文献4の
図3)。
【0049】
本発明は、モノリシック集積化された光回路の側面も持っており、異なる物性値を有する2つ以上の半導体領域を含む半導体基板上に作製された光回路であって、基板上に形成された当初半導体上に作製された第1の光回路と、前記当初半導体の一部を除去して形成された溝内に、当初半導体とは異なる物性値を持つ再成長された半導体上に作製された第2の光回路とを備え、前記溝の形状は、1辺の長さが100μm以上の正方形、矩形またはひし形であることを特徴とする光回路としても実施できる。好ましくは、第1の光回路は、2つのマッハツェンダ干渉計を含む光変調器を含み、第2の光回路は複数のレーザをアレイ化したLDAを含む。
【0050】
実施例のような複数光源をモノリシック集積したIQ変調器の他、マッハツェンダ干渉計(MZI)を含む様々な光回路では、基板上に、非常に大きな占有面積の光回路が構成される半導体領域を含む、異なる物性値を持った複数の半導体領域が必要とされる。本発明の半導体基板の作製方法によれば、従来技術のマスク幅の制限を受けず、物性値ゆらぎや表面の凸凹の問題を生じることなしに、より広い面積の光回路要素を構成できる半導体領域を含む、異なる物性値を持つ複数の半導体領域を備えた半導体基板が得られる。この半導体基板上の複数の半導体領域に渡って、様々な機能の回路要素を組み合わせた光回路を構成できる。
【0051】
本発明の半導体基板の作製方法は、特定の光回路の作製のために、新たに再成長させて形成する半導体領域に大面積が必要であって、従来技術の方法によるマスクで形成できる領域にその光回路が収まり切らないような場合に非常に有効である。実施例に沿って言えば、従来技術の半導体基板の作製方法では、ストライプ状のマスクによって当初半導体の一部を残すことによって、LDA部を形成していた。しかしながら、物性値ゆらぎや表面の凸凹問題によるマスク幅の制限のために、LDA部を作製可能な面積は制限されていた。これと対照的に本発明の半導体基板の作製方法は、開口部を持つマスクによって当初半導体内に溝を形成し、その溝内に新たに追加の半導体を再成長させて、サイズの制限の無くLDA部を形成できる。
【0052】
従来技術でも述べたように、半導体基板上で異なる物性値を持つ複数の半導体領域を作製する際の半導体の再成長の順序の観点から、本発明の半導体基板の作製方法の適用がより好ましい例を考えることができる。低温での再成長による半導体上に作製する回路要素に広い面積が必要な場合は、物性値ゆらぎや表面の凸凹の問題のため、従来技術の半導体基板の作製方法を利用するのは困難である。本発明の半導体基板の作製方法は、再成長させる半導体領域に対してサイズの制限が無いため、低温での再成長による半導体上に作製する回路要素に広い面積が必要な場合に適している。また、再成長させる半導体に広い面積の回路要素を作成する必要があり、その再成長にノウハウの必要な特殊工程を必要な場合も、本発明の半導体基板の作製方法が適している。