(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
集電基板と、該集電基板の少なくとも一方の面に形成されたカーボンナノチューブを含むアンダーコート層と、該アンダーコート層の表面上に形成された活物質層とを備え、前記アンダーコート層の前記集電基板の一面あたりの目付量が、0.001g/m2以上0.4g/m2未満であり、前記活物質層が、導電助剤を含まないことを特徴とするエネルギー貯蔵デバイス用電極。
前記活物質層が、活物質として、リン酸鉄リチウム、マンガン酸リチウム、チタン酸リチウム又は酸化チタンを含む請求項1〜3のいずれか1項記載のエネルギー貯蔵デバイス用電極。
前記活物質層が、スチレン−ブタジエンゴムをバインダーとして含み、カルボキシメチルセルロースの塩を増粘剤として含む請求項1〜5のいずれか1項記載のエネルギー貯蔵デバイス用電極。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[エネルギー貯蔵デバイス用電極]
本発明のエネルギー貯蔵デバイス用電極は、集電基板と、該集電基板の少なくとも一方の面に形成されたCNTを含むアンダーコート層と、該アンダーコート層の表面上に形成された活物質層とを備え、活物質層が、導電助剤を含まないものである。
【0016】
本発明におけるエネルギー貯蔵デバイスとしては、例えば、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、プロトンポリマー電池、ニッケル水素電池、電気二重層キャパシタ、アルミ固体コンデンサ、電解コンデンサ、鉛蓄電池等の各種エネルギー貯蔵デバイスが挙げられる。本発明の電極は、特に、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタに好適に用いることができる。
【0017】
[集電基板]
前記集電基板としては、従来、エネルギー貯蔵デバイス電極の集電基板として用いられているものから適宜選択すればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、金、銀及びそれらの合金や、カーボン材料、金属酸化物、導電性ポリマー等の薄膜を用いることができる。これらのうち、導電性、質量、コスト等の点から、アルミニウム、アルミニウム合金等からなる金属箔を用いることが好ましい。前記集電基板の厚みは特に限定されないが、本発明においては1〜100μmが好ましい。
【0018】
[アンダーコート層]
前記アンダーコート層は、CNTを含み、更に必要に応じてCNT分散剤及び/又はマトリックスポリマーを含む。前記アンダーコート層は、CNTと溶媒と、必要に応じてCNT分散剤及び/又はマトリックスポリマーとを含むCNT含有組成物(分散液)を用いて作製することが好ましい。
【0019】
CNTは、一般的に、アーク放電法、化学気相成長法(CVD法)、レーザー・アブレーション法等によって作製されるが、本発明に使用されるCNTはいずれの方法で得られたものでもよい。また、CNTには、1枚の炭素膜(グラフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層CNT(SWCNT)と、2枚のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた2層CNT(DWCNT)と、複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた多層CNT(MWCNT)とがある。本発明においてはいずれも使用することができ、これらを1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
なお、前記方法でSWCNT、DWCNT又はMWCNTを作製する際には、ニッケル、鉄、コバルト、イットリウム等の触媒金属も残存することがあるため、この不純物を除去するための精製を必要とすることがある。不純物の除去には、硝酸、硫酸等による酸処理とともに超音波処理が有効である。しかし、硝酸、硫酸等による酸処理ではCNTを構成するπ共役系が破壊され、CNT本来の特性が損なわれる可能性があるため、適切な条件で精製して使用することが望ましい。
【0021】
CNTの平均繊維径は、特に限定されないが、1〜100nmが好ましく、1〜50nmがより好ましい。
【0022】
本発明で使用可能なCNTの具体例としては、スパーグロス法CNT〔国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構製〕、eDIPS−CNT〔国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構製〕、SWNTシリーズ〔(株)名城ナノカーボン製:商品名〕、VGCFシリーズ〔昭和電工(株)製:商品名〕、FloTubeシリーズ〔CNano Technology社製:商品名〕、AMC〔宇部興産(株)製:商品名〕、NANOCYL NC7000シリーズ〔Nanocyl S.A. 社製:商品名〕、Baytubes〔Bayer社製:商品名〕、GRAPHISTRENGTH〔アルケマ社製:商品名〕、MWNT7〔保土谷化学工業(株)製:商品名〕、ハイペリオンCNT〔Hypeprion Catalysis International社製:商品名〕等が挙げられる。
【0023】
前記溶媒としては、従来、CNT含有組成物の調製に用いられるものであれば特に限定されない。例えば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン(DME)等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等の有機溶媒が挙げられる。これらのうち、CNTの孤立分散の割合を向上させ得るという点から、水、NMP、DMF、THF、メタノール、イソプロパノールが好ましい。これらの溶媒は、1種単独で、又は2種以上混合して用いることができる。
【0024】
前記CNT分散剤は、側鎖にオキサゾリン基を含むポリマーからなるものが好ましい。前記ポリマーとしては、特に限定されないが、2位に重合性炭素−炭素二重結合含有基を含むオキサゾリンモノマーをラジカル重合して得られるものが好ましい。このようなオキサゾリンモノマーとしては、下記式(1)で表されるものが挙げられる。
【0026】
式中、Xは、重合性炭素−炭素二重結合含有基を表し、R
1〜R
4は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜20のアラルキル基を表す。
【0027】
前記重合性炭素−炭素二重結合含有基は、重合性炭素−炭素二重結合を含むものであれば特に限定されないが、重合性炭素−炭素二重結合を含む鎖状炭化水素基が好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基等の炭素数2〜8のアルケニル基等が好ましい。
【0028】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。前記アリール基としては、フェニル基、キシリル基、トリル基、ビフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。前記アラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0029】
式(1)で表されるオキサゾリンモノマーとしては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−エチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−プロピル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−ブチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−エチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−プロピル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−ブチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−エチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−プロピル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−ブチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−プロピル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−ブチル−2−オキサゾリン等が挙げられる。これらのうち、入手容易性等の点から、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが好ましい。
【0030】
前記アンダーコート層は、水系溶媒を含むCNT含有組成物を用いて形成されることが好ましい。そのため、オキサゾリンポリマーは水溶性であることが好ましい。このような水溶性のオキサゾリンポリマーは、式(1)で表されるオキサゾリンモノマーのホモポリマーでもよく、水への溶解性をより高めるため、前記オキサゾリンモノマーと親水性官能基を含む(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとの少なくとも2種のモノマーをラジカル重合させて得られたものでもよい。
【0031】
親水性官能基を含む(メタ)アクリル系モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコールとのモノエステル化物、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル及びその塩、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸アンモニウム、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコールとのモノエステル化物が好適である。
【0032】
また、オキサゾリンポリマーのCNT分散能に悪影響を及ぼさない範囲で、前記オキサゾリンモノマー及び親水性官能基を含む(メタ)アクリル系モノマー以外のその他のモノマーを併用することができる。その他のモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸エステルモノマー;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等のα−オレフィン系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロオレフィン系モノマー;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル系モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマー等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明で用いるオキサゾリンポリマーの製造に用いられるモノマー成分において、オキサゾリンモノマーの含有量は、得られるオキサゾリンポリマーのCNT分散能をより高めるという点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がより一層好ましい。なお、モノマー成分におけるオキサゾリンモノマーの含有量の上限値は100質量%であり、この場合は、オキサゾリンモノマーのホモポリマーが得られる。
【0034】
一方、得られるオキサゾリンポリマーの水溶性をより高めるという点から、モノマー成分における親水性官能基を含む(メタ)アクリル系モノマーの含有量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がより一層好ましく、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がより一層好ましい。
【0035】
また、モノマー成分におけるその他の単量体の含有率は、前述のとおり、得られるオキサゾリンポリマーのCNT分散能に影響を与えない範囲であり、また、その種類によって異なるため一概には規定できないが、好ましくは5〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%の範囲で適宜設定すればよい。
【0036】
オキサゾリンポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、1,000〜2,000,000が好ましく、2,000〜1,000,000がより好ましい。なお、本発明においてMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算測定値である。
【0037】
本発明で使用可能なオキサゾリンポリマーは、前記モノマーを従来公知のラジカル重合にて合成することができるが、市販品として入手することもできる。このような市販品としては、例えば、エポクロス(登録商標)WS-300((株)日本触媒製、固形分濃度10質量%、水溶液)、エポクロスWS-700((株)日本触媒製、固形分濃度25質量%、水溶液)、エポクロスWS-500((株)日本触媒製、固形分濃度39質量%、水/1−メトキシ−2−プロパノール溶液)、Poly(2-ethyl-2-oxazoline)(Aldrich社製)、Poly(2-ethyl-2-oxazoline)(AlfaAesar社製)、Poly(2-ethyl-2-oxazoline)(VWR International社製)等が挙げられる。なお、溶液として市販されている場合、そのまま使用しても、目的とする溶媒に置換してから使用してもよい。
【0038】
本発明で用いるCNT含有組成物におけるCNTと分散剤との混合比率は、質量比で1,000:1〜1:100程度とすることができる。また、CNT含有組成物中の分散剤の濃度は、CNTを溶媒に分散させ得る濃度であれば特に限定されないが、組成物中、0.001〜30質量%程度が好ましく、0.002〜20質量%程度がより好ましい。更に、CNT含有組成物中のCNTの濃度は、目的とするアンダーコート層の目付量や、要求される機械的、電気的、熱的特性等において変化するものであり、また、少なくともCNTの一部が孤立分散してアンダーコート層を作製できる限り任意であるが、組成物中、0.0001〜30質量%程度とすることが好ましく、0.001〜20質量%程度とすることがより好ましく、0.001〜10質量%程度とすることがより一層好ましい。
【0039】
前記マトリックスポリマーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(P(TFE−HFP))、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(P(VDF−HFP))、フッ化ビニリデン−塩化三フッ化エチレン共重合体(P(VDF−CTFE))等のフッ素系樹脂、ポリビニルピロリドン(PVP)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等のポリスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等の(メタ)アクリル樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ乳酸(PLA)、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート/アジペート等のポリエステル樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリビニルアルコール(PVA)樹脂;ポリグルコール酸;変性でんぷん;酢酸セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、三酢酸セルロース;キチン、キトサン;リグニン等の熱可塑性樹脂や、ポリアニリン及びその半酸化体であるエメラルジンベース;ポリチオフェン;ポリピロール;ポリフェニレンビニレン;ポリフェニレン;ポリアセチレン等の導電性ポリマー、更にはエポキシ樹脂;ウレタンアクリレート;フェノール樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;アルキド樹脂等の熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等が挙げられる。本発明のCNT含有組成物は、溶媒として水を用いることが好適であることから、マトリックスポリマーとしては水溶性のもの、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、水溶性セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール等が好ましく、特に、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が好ましい。
【0040】
マトリックスポリマーは、市販品として入手することもでき、そのような市販品としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製、重合度2,700〜7,500)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業(株)製)、アルギン酸ナトリウム(関東化学(株)製、鹿1級)、メトローズ(登録商標)SHシリーズ(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、信越化学工業(株)製)、メトローズSEシリーズ(ヒドロキシエチルメチルセルロース、信越化学工業(株)製)、JC-25(完全ケン化型ポリビニルアルコール、日本酢ビ・ポバール(株)製)、JM-17(中間ケン化型ポリビニルアルコール、日本酢ビ・ポバール(株)製)、JP-03(部分ケン化型ポリビニルアルコール、日本酢ビ・ポバール(株)製)、ポリスチレンスルホン酸(Aldrich社製、固形分濃度18質量%、水溶液)等が挙げられる。
【0041】
マトリックスポリマーの含有量は、特に限定されないが、組成物中、0.0001〜99質量%程度が好ましく、0.001〜90質量%程度がより好ましい。
【0042】
なお、本発明で用いるCNT含有組成物には、用いる分散剤と架橋反応を起こす架橋剤や自己架橋する架橋剤を含んでいてもよい。これらの架橋剤は、使用する溶媒に溶解することが好ましい。オキサゾリンポリマーの架橋剤としては、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、スルフィン酸基、エポキシ基等のオキサゾリン基との反応性を有する官能基を2個以上含む化合物であれば特に限定されないが、カルボキシル基を2個以上含む化合物が好ましい。なお、薄膜形成時の加熱や、酸触媒の存在下で前記官能基が生じて架橋反応を起こす官能基、例えば、カルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩等を含む化合物も架橋剤として用いることができる。
【0043】
オキサゾリン基と架橋反応を起こす化合物の具体例としては、酸触媒の存在下で架橋反応性を発揮する、ポリアクリル酸やそのコポリマー等の合成ポリマー及びCMCやアルギン酸等の天然ポリマーの金属塩、加熱により架橋反応性を発揮する、前記合成ポリマー及び天然ポリマーのアンモニウム塩等が挙げられるが、特に、酸触媒の存在下や加熱条件下で架橋反応性を発揮するポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸アンモニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースリチウム、カルボキシメチルセルロースアンモニウム等が好ましい。
【0044】
このようなオキサゾリン基と架橋反応を起こす化合物は、市販品として入手することもでき、そのような市販品としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製、重合度2,700〜7,500)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業(株)製)、アルギン酸ナトリウム(関東化学(株)製、鹿1級)、アロン(登録商標)A-30(ポリアクリル酸アンモニウム、東亞合成(株)製、固形分濃度32質量%、水溶液)、DN-800H(カルボキシメチルセルロースアンモニウム、ダイセルファインケム(株)製)、アルギン酸アンモニウム((株)キミカ製)等が挙げられる。
【0045】
自己架橋する架橋剤としては、例えば、ヒドロキシ基に対してアルデヒド基、エポキシ基、ビニル基、イソシアネート基、アルコキシ基、カルボキシル基に対してアルデヒド基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基に対してイソシアネート基、アルデヒド基等の、互いに反応する架橋性官能基を同一分子内に含む化合物や、同じ架橋性官能基同士で反応するヒドロキシ基(脱水縮合)、メルカプト基(ジスルフィド結合)、エステル基(クライゼン縮合)、シラノール基(脱水縮合)、ビニル基、アクリル基等を含む化合物等が挙げられる。
【0046】
自己架橋する架橋剤の具体例としては、酸触媒の存在下で架橋反応性を発揮する多官能アクリレート、テトラアルコキシシラン、ブロックイソシアネート基を含むモノマー及びヒドロキシ基、カルボン酸、アミノ基の少なくとも1つを含むモノマーのブロックコポリマー等が挙げられる。
【0047】
このような自己架橋する架橋剤は、市販品として入手することもできる。例えば、多官能アクリレートとしては、A-9300(エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、新中村化学工業(株)製)、A-GLY-9E(Ethoxylated glycerine triacrylate(EO 9 mol)、新中村化学工業(株)製)、A-TMMT(ペンタエリスリトールテトラアクリレート、新中村化学工業(株)製)等が、テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン(東京化成工業(株)製)、テトラエトキシシラン(東横化学(株)製)、ブロックイソシアネート基を含むポリマーとしては、エラストロン(登録商標)シリーズE-37、H-3、H38、BAP、NEW BAP-15、C-52、F-29、W-11P、MF-9、MF-25K(第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
【0048】
これら架橋剤の添加量は、使用する溶媒、使用する基材、要求される粘度、要求される膜形状等により変動するが、分散剤に対して0.001〜80質量%、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.05〜40質量%である。これら架橋剤は、自己縮合による架橋反応を起こすこともあるが、分散剤と架橋反応を起こすものであり、分散剤中に架橋性置換基が存在する場合はそれらの架橋性置換基により架橋反応が促進される。
【0049】
前記CNT含有組成物には架橋反応を促進するための触媒として、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ピリジニウムp−トルエンスルホン酸、サリチル酸、スルホサリチル酸、クエン酸、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、ナフタレンカルボン酸等の酸性化合物、及び/又は2,4,4,6−テトラブロモシクロヘキサジエノン、ベンゾイントシレート、2−ニトロベンジルトシレート、有機スルホン酸アルキルエステル等の熱酸発生剤を添加することができる。触媒の添加量は、CNT分散剤に対して、好ましくは0.0001〜20質量%、より好ましくは0.0005〜10質量%、より一層好ましくは0.001〜3質量%である。
【0050】
前記CNT含有組成物の調製法は、特に限定されず、CNT及び溶媒、並びに必要に応じて用いられる分散剤、マトリックスポリマー及び架橋剤を任意の順序で混合して分散液を調製すればよい。この際、混合物を分散処理することが好ましく、この処理により、CNTの分散割合をより向上させることができる。分散処理としては、機械的処理であるボールミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いる湿式処理や、バス型やプローブ型のソニケータを用いる超音波処理等が挙げられるが、特に、ジェットミルを用いた湿式処理や超音波処理が好適である。分散処理の時間は任意であるが、1分間から10時間程度が好ましく、5分間から5時間程度がより好ましい。この際、必要に応じて加熱処理を施しても構わない。なお、架橋剤及び/又はマトリックスポリマーを用いる場合、これらは、分散剤、CNT及び溶媒からなる混合物を調製した後から加えてもよい。
【0051】
前記CNT含有組成物を集電基板の少なくとも一方の面に塗布し、これを自然又は加熱乾燥することで、アンダーコート層を形成することができる。アンダーコート層は、集電基板面の一部に形成しても全面に形成してもよい。
【0052】
本発明では、集電基板の一面あたりのアンダーコート層の目付量を、通常1.5g/m
2以下とすることが好ましく、目付量が小さくても本発明の効果を達成することができる。そのため、目付量は、より好ましくは0.7g/m
2以下、より一層好ましくは0.5g/m
2以下、更に好ましくは0.4g/m
2未満とすることができる。一方、アンダーコート層の機能を担保して優れた特性の電池を再現性よく得るため、集電基板の一面あたりのアンダーコート層の目付量を好ましくは0.001g/m
2以上、より好ましくは0.005g/m
2以上、より一層好ましくは0.01g/m
2以上とする。
【0053】
アンダーコート層の厚みは、前記目付量を満たす限り特に限定されないが、得られるデバイスの、アンダーコート層の適用による容量低下を抑えることを考慮すると、好ましくは0.01〜10μmである。
【0054】
本発明におけるアンダーコート層の目付量は、アンダーコート層の面積(m
2)に対するアンダーコート層の質量(g)の割合であり、アンダーコート層がパターン状に形成されている場合、当該面積はアンダーコート層のみの面積であり、パターン状に形成されたアンダーコート層の間に露出する集電基板の面積を含まない。
【0055】
アンダーコート層の質量は、例えば、アンダーコート箔から適当な大きさの試験片を切り出し、その質量W
0を測定し、その後、アンダーコート箔からアンダーコート層を剥離し、アンダーコート層を剥離した後の質量W
1を測定し、その差(W
0−W
1)から算出する、あるいは、予め集電基板の質量W
2を測定しておき、その後、アンダーコート層を形成したアンダーコート箔の質量W
3を測定し、その差(W
3−W
2)から算出することができる。アンダーコート層を剥離する方法としては、例えばアンダーコート層が溶解あるいは膨潤する溶剤にアンダーコート層を浸漬させ、布等でアンダーコート層をふき取る等の方法が挙げられる。
【0056】
目付量は、公知の方法で調整することができる。例えば、塗布によりアンダーコート層を形成する場合、アンダーコート層を形成するための塗工液(CNT含有組成物)の固形分濃度、塗布回数、塗工機の塗工液投入口のクリアランス等を変えることで調整できる。目付量を多くしたい場合は、固形分濃度を高くしたり、塗布回数を増やしたり、クリアランスを大きくしたりする。目付量を少なくしたい場合は、固形分濃度を低くしたり、塗布回数を減らしたり、クリアランスを小さくしたりする。
【0057】
CNT含有組成物の塗布方法としては、例えば、スピンコート法、ディップコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、スリットコート法、ロールコート法、フレキソ印刷法、転写印刷法、刷毛塗り、ブレードコート法、エアーナイフコート法等が挙げられるが、作業効率等の点から、インクジェット法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法が好適である。
【0058】
加熱乾燥する場合の温度は任意であるが、50〜200℃程度が好ましく、80〜180℃程度がより好ましい。
【0059】
[活物質層]
本発明のエネルギー貯蔵デバイス用電極は、前記アンダーコート層の表面上に活物質層を備える。前記活物質層は、活物質とバインダーポリマーと、必要に応じて増粘剤や溶媒とを含む電極スラリーを、アンダーコート層上に塗布し、自然又は加熱乾燥して形成することができる。活物質層の形成部位は、用いるデバイスのセル形態等に応じて適宜設定すればよく、アンダーコート層の表面全部でもその一部でもよいが、ラミネートセル等に使用する目的で、金属タブと電極とを超音波溶接等の溶接により接合した電極構造体として用いる場合には、溶接部を残すためアンダーコート層の表面の一部に電極スラリーを塗布して活物質層を形成することが好ましい。特に、ラミネートセル用途では、アンダーコート層の周縁を残したそれ以外の部分に電極スラリーを塗布して活物質層を形成することが好適である。
【0060】
ここで、活物質としては、従来、エネルギー貯蔵デバイス電極に用いられている各種活物質を用いることができる。
正極活物質としては、例えば、リチウムイオンを吸着・離脱可能なカルコゲン化合物又はリチウムイオン含有カルコゲン化合物、ポリアニオン系化合物、硫黄単体及びその化合物等を用いることができる。
このようなリチウムイオンを吸着・離脱可能なカルコゲン化合物としては、例えば、FeS
2、TiS
2、MoS
2、V
2O
6、V
6O
13、MnO
2等が挙げられる。
リチウムイオン含有カルコゲン化合物としては、例えば、LiCoO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiMo
2O
4、LiV
3O
8、LiNiO
2、Li
xNi
yM
1-yO
2(但し、Mは、Co、Mn、Ti、Cr、V、Al、Sn、Pb、及びZnから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を表し、0.05≦x≦1.10、0.5≦y≦1.0)等が挙げられる。
ポリアニオン系化合物としては、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)等が挙げられる。
硫黄化合物としては、例えば、Li
2S、ルベアン酸等が挙げられる。
これらの中でも、本発明で用いる正極活物質としては、LiMn
2O
4、LiFePO
4を含むものを用いることが好ましい。
【0061】
一方、負極電極を構成する負極活物質としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ合金、リチウムイオンを吸蔵・放出する周期表4〜15族の元素から選ばれる少なくとも1種の単体、酸化物、硫化物、窒化物、又はリチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出可能な炭素材料を使用することができる。
アルカリ金属としては、Li、Na、K等が挙げられ、アルカリ金属合金としては、例えば、金属Li、Li−Al、Li−Mg、Li−Al−Ni、Na、Na−Hg、Na−Zn等が挙げられる。
リチウムイオンを吸蔵放出する周期表4〜15族の元素から選ばれる少なくとも1種の元素の単体としては、例えば、ケイ素やスズ、アルミニウム、亜鉛、砒素等が挙げられる。
同じく酸化物としては、例えば、酸化チタン(TiO
4)、スズケイ素酸化物(SnSiO
3)、リチウム酸化ビスマス(Li
3BiO
4)、リチウム酸化亜鉛(Li
2ZnO
2)、チタン酸リチウム(リチウム酸化チタン)(Li
4Ti
5O
12)等が挙げられる。
同じく硫化物としては、リチウム硫化鉄(Li
xFeS
2(0≦x≦3))、リチウム硫化銅(Li
xCuS(0≦x≦3))等が挙げられる。
同じく窒化物としては、リチウム含有遷移金属窒化物が挙げられ、具体的には、Li
xM
yN(M=Co、Ni、Cu、0≦x≦3、0≦y≦0.5)、リチウム鉄窒化物(Li
3FeN
4)等が挙げられる。
リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出可能な炭素材料としては、グラファイト、カーボンブラック、コークス、ガラス状炭素、炭素繊維、CNT、又はこれらの焼結体等が挙げられる。
これらの中でも、前記負極活物質としては、酸化チタン、チタン酸リチウム等のチタン含有酸化物を含むものが好ましく、特に、得られるデバイスの容量や寿命、電圧等の点から、酸化チタンが好ましく、ブロンズ型の結晶構造を有する酸化チタン(TiO
2(B))がより好ましい。
【0062】
前記バインダーポリマーとしては、公知の材料から適宜選択して用いることができ、例えば、PVDF、PVP、PTFE、P(TFE−HFP)、P(VDF−HFP)、P(VDF−CTFE)、PVA、ポリイミド、EPDM、SBR、CMC、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアニリン等の導電性ポリマー等が挙げられる。バインダーポリマーの添加量は、活物質100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。
電極スラリーの粘度が低く、塗工が困難な場合には、必要に応じて増粘剤を用いることができる。増粘剤としては、公知の材料から適宜選択して用いることができ、例えば、CMCのナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらは市販品として入手することもでき、その具体例としては、前記オキサゾリン基と架橋反応を起こす化合物で例示したものと同様のものが挙げられる。増粘剤の添加量は、塗工に適した電極スラリーとなる量を適宜選択すればよいが、活物質100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、0.5〜10質量部がより好ましい。
【0063】
前記溶媒としては、前記CNT含有組成物で例示した溶媒が挙げられ、それらの中からバインダーの種類に応じて適宜選択すればよいが、PVDF等の非水溶性のバインダーの場合はNMPが好適であり、SBR等の水溶性又は水分散性のバインダーの場合は水が好適である。
【0064】
電極スラリーの塗布方法としては、前述したCNT含有組成物の塗布方法と同様の方法が挙げられる。また、加熱乾燥する場合の温度は任意であるが、50〜400℃程度が好ましく、80〜150℃程度がより好ましい。
【0065】
前記活物質層の厚みは、電池の容量と抵抗のバランスを考慮すると、10〜500μmが好ましく、10〜300μmがより好ましく、20〜100μmがより一層好ましい。
【0066】
本発明のエネルギー貯蔵デバイス用電極は、必要に応じてプレスすることができる。プレス法は、一般に採用されている方法を用いることができるが、特に金型プレス法やロールプレス法が好ましい。ロールプレス法でのプレス圧は、特に限定されないが、0.2〜3ton/cmが好ましい。
【0067】
[エネルギー貯蔵デバイス]
本発明のエネルギー貯蔵デバイスは、前記エネルギー貯蔵デバイス用電極を備えるものであり、具体的には、少なくとも一対の正極及び負極と、これら各極間に介在するセパレータと、電解質とを備えて構成される。これら正極及び負極の少なくとも一方に、本発明のエネルギー貯蔵デバイス用電極を用いる。前記エネルギー貯蔵デバイス用電極以外のデバイス構成部材である、セパレータ、電解質等は、公知の材料から適宜選択して用いることができる。
また、正極及び負極のいずれか一方に、公知の電極を用いる場合、そのような電極としては、上述したエネルギー貯蔵デバイス用電極からアンダーコート層を除外した構造のものを用いればよい。
【0068】
セパレータとしては、例えば、セルロース系セパレータ、ポリオレフィン系セパレータ等が挙げられる。
【0069】
電解質としては、液体、固体のいずれでもよく、また水系、非水系のいずれでもよいが、本発明のエネルギー貯蔵デバイス電極は、非水系電解質を用いたデバイスに適用した場合にも実用上十分な性能を発揮させ得る。
【0070】
非水系電解質としては、電解質塩を非水系有機溶媒に溶かしてなる非水系電解液が挙げられる。前記電解質塩としては、四フッ化ホウ酸リチウム、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等のリチウム塩;テトラメチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラプロピルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、メチルトリエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムパークロレート等の4級アンモニウム塩;リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド等のリチウムイミド等が挙げられる。非水系有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート等のアルキレンカーボネート;ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類等が挙げられる。
【0071】
エネルギー貯蔵デバイスの形態は、特に限定されず、円筒型、扁平巻回角型、積層角型、コイン型、扁平巻回ラミネート型、積層ラミネート型等の従来公知の各種形態のセルを採用することができる。
【0072】
コイン型に適用する場合、本発明のエネルギー貯蔵デバイス電極を、所定の円盤状に打ち抜いて用いればよい。例えば、リチウムイオン二次電池は、コインセルのワッシャーとスペーサーが溶接されたフタに、所定形状に打ち抜いたもう一方の電極を設置し、その上に、電解液を含浸させた同形状のセパレータを重ね、更に上から、活物質層を下にして本発明のエネルギー貯蔵デバイス電極を重ね、ケースとガスケットを載せて、コインセルかしめ機で密封して作製することができる。
【0073】
積層ラミネート型に適用する場合、活物質層がアンダーコート層表面の一部又は全面に形成された電極における、活物質層が形成されていない部分(溶接部)で金属タブと溶接して得られた電極構造体を用いればよい。この場合、電極構造体を構成する電極は一枚でも複数枚でもよいが、一般的には、正負極とも複数枚が用いられる。なお、アンダーコート層が形成され、かつ、活物質層が形成されていない部分で溶接する場合、集電基板の一面あたりのアンダーコート層の目付量を0.1g/m
2以下、好ましくは0.09g/m
2以下、より好ましくは0.05g/m
2未満とする。
【0074】
正極を形成するための複数枚の電極は、負極を形成するための複数枚の電極板と、一枚ずつ交互に重ねることが好ましく、その際、正極と負極の間には前述したセパレータを介在させることが好ましい。
【0075】
金属タブは、複数枚の電極の最も外側の電極の溶接部で溶接しても、複数枚の電極のうち、任意の隣接する2枚の電極の溶接部間に金属タブを挟んで溶接してもよい。金属タブの材質は、一般的にエネルギー貯蔵デバイスに使用されるものであれば特に限定されず、例えば、ニッケル、アルミニウム、チタン、銅等の金属;ステンレス、ニッケル合金、アルミニウム合金、チタン合金、銅合金等の合金等が挙げられるが、溶接効率を考慮すると、アルミニウム、銅及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属を含んで構成されるものが好ましい。金属タブの形状は、箔状が好ましく、その厚さは0.05〜1mm程度が好ましい。
【0076】
溶接方法は、金属同士の溶接に用いられる公知の方法を用いることができ、その具体例としては、TIG溶接、スポット溶接、レーザー溶接、超音波溶接等が挙げられるが、アンダーコート層が形成され、かつ、活物質層が形成されていない部分で溶接する場合、本発明のアンダーコート層は、超音波溶接に特に適した目付量でもあるため、超音波溶接にて電極と金属タブとを接合することが好ましい。
【0077】
超音波溶接の手法としては、例えば、複数枚の電極をアンビルとホーンとの間に配置し、溶接部に金属タブを配置して超音波をかけて一括して溶接する手法や、電極同士を先に溶接し、その後、金属タブを溶接する手法等が挙げられる。本発明では、いずれの手法でも、金属タブと電極とが前記溶接部で溶接されるだけでなく、複数枚の電極同士も、互いに超音波溶接されることになる。溶接時の圧力、周波数、出力、処理時間等は、特に限定されず、用いる材料や溶接部におけるアンダーコート層の有無、目付量等を考慮して適宜設定すればよい。
【0078】
以上のようにして作製した電極構造体を、ラミネートパックに収納し、前述した電解液を注入した後、ヒートシールすることでラミネートセルが得られる。
【実施例】
【0079】
以下、調製例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、下記例において、試料の調製及び物性の分析に用いた装置及び条件は、以下の通りである。
【0080】
(1)プローブ型超音波照射装置
装置:Hielscher Ultrasonics社製、UIP1000
(2)ワイヤーバーコーター
装置:(株)エスエムテー製、PM-9050MC
(3)充放電測定装置
装置:東洋システム(株)製、TOSCAT 3100
(4)ホモディスパー
装置:プライミクス(株)製、T.K.ロボミックス(ホモディスパー2.5型(φ32)付き)
(5)薄膜旋回型高速ミキサー
装置:プライミクス(株)製、フィルミクス40型
(6)自転・公転ミキサー
装置:(株)シンキー製、あわとり練太郎ARE-310
(7)ロールプレス機
装置:宝泉(株)製、超小型卓上熱ロールプレス機HSR-60150H
(8)コインセルかしめ機
装置:宝泉(株)製、手動コインカシメ機CR2032
【0081】
[1]アンダーコート箔の製造
[調製例1]
分散剤としてオキサゾリンポリマーを含む水溶液であるエポクロスWS-700((株)日本触媒製、固形分濃度25質量%、Mw=4×10
4、オキサゾリン基量4.5mmol/g)2.0gと、蒸留水47.5gとを混合し、更にそこへMWCNT(Nanocyl社製NC7000、外径10nm)0.5gを混合した。得られた混合物に対して、プローブ型超音波照射装置を用いて室温で30分間超音波処理を行い、沈降物がなくMWCNTが均一に分散した黒色のMWCNT含有分散液を得た。
得られたMWCNT含有分散液50gに、ポリアクリル酸アンモニウムを含む水溶液であるアロンA-30(東亞合成(株)製、固形分濃度31.6質量%)0.7gと、アルギン酸ナトリウム(関東化学(株)製、鹿1級)0.2gと、蒸留水49.1gとを加えて攪拌し、アンダーコート液A1を得た。
得られたアンダーコート液A1を、集電基板であるアルミ箔(厚み15μm)にワイヤーバーコーター(OSP30、ウェット膜厚30μm)で均一に展開後、150℃で20分乾燥してアンダーコート層を形成し、アンダーコート箔B1を作製した。アンダーコート箔を5×10cmに切り出したものを20枚用意し、質量を測定後、0.5mol/Lの塩酸を染み込ませた紙でアンダーコート層を擦り落とした金属箔の質量を測定し、擦り落とす前後の質量差からアンダーコート層の目付量を算出した結果、0.302g/m
2であった。
【0082】
[調製例2]
MWCNTのかわりにアセチレンブラック(AB)(電気化学工業(株)製、デンカブラック)を用いた以外は、調製例1と同様にして、アンダーコート箔B2を作製した。アンダーコート箔B2の目付量を算出したところ、0.329g/m
2であった。
【0083】
[2]リン酸鉄リチウム(LFP)を活物質に用いた電極及びリチウムイオン電池の製造
[実施例1]
活物質としてLFP(TATUNG FINE CHEMICALS CO.)13.9g、バインダーとしてスチレン−ブタジエンゴム(SBR)の水分散液(48.5質量%、JSR(株)製TRD2001)0.550g、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースアンモニウム塩(NH
4CMC、(株)ダイセル製、DN-800H)0.267g及び純水15.3gを、ホモディスパーにて8,000rpmで5分間混合した。次いで、薄膜旋回型高速ミキサーを用いて周速25m/秒で60秒の混合処理をし、更に自転・公転ミキサーにて2,200rpmで30秒脱泡することで、電極スラリー(固形分濃度48質量%、LFP:SBR:NH
4CMC=104:2:2(質量比))を作製した。
得られた電極スラリーを、調製例1で作製したアンダーコート箔B1に均一(ウェット膜厚200μm)に展開後、80℃で30分、次いで120℃で30分乾燥してアンダーコート層上に活物質層を形成し、更にロールプレス機で圧着することで、活物質層の厚み70μm、密度1.86g/cm
3の電極C1を作製した。
【0084】
得られた電極C1を、直径10mmの円盤状に打ち抜き、質量を測定した後、100℃で15時間真空乾燥し、アルゴンで満たされたグローブボックスに移した。
2032型のコインセル(宝泉(株)製)のワッシャーとスペーサーが溶接されたフタに、直径14mmに打ち抜いたリチウム箔(本荘ケミカル(株)製、厚み0.17mm)を6枚重ねたものを設置し、その上に、電解液(キシダ化学(株)製、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1(体積比)、電解質であるリチウムヘキサフルオロホスフェートを1mol/L含む。)を24時間以上染み込ませた、直径16mmに打ち抜いたセパレータ(セルガード(株)製、2400)を一枚重ねた。更に上から、活物質を塗布した面を下にして電極C1を重ねた。電解液を1滴滴下したのち、ケースとガスケットを載せて、コインセルかしめ機で密封した。その後24時間静置し、試験用の二次電池とした。
【0085】
[比較例1]
活物質としてLFP11.1g、バインダーとしてSBRの水分散液(48.5質量%)0.458g、増粘剤としてNH
4CMC0.222g、導電助剤としてAB(電気化学工業(株)製、デンカブラック)0.444g、及び純水17.8gを、ホモディスパーにて8,000rpmで5分間混合した。次いで、薄膜旋回型高速ミキサーを用いて周速25m/秒で60秒の混合処理をし、更に自転・公転ミキサーにて2,200rpmで30秒脱泡することで、電極スラリー(固形分濃度40質量%、LFP:SBR:NH
4CMC:AB=100:2:2:4(質量比))を作製した。
得られた電極スラリーを、無垢のアルミ箔に均一(ウェット膜厚200μm)に展開後、80℃で30分、次いで120℃で30分乾燥してアルミ箔上に活物質層を形成し、更にロールプレス機で圧着することで、活物質層の厚み52μm、密度1.76g/cm
3の電極C2を作製した。
得られた電極C2を用い、実施例1と同様にして試験用の二次電池を作製した。
【0086】
[比較例2]
アンダーコート箔B1のかわりに、調製例2で作製したアンダーコート箔B2を用いた以外は、実施例1と同様にして電極C3を作製し、試験用の二次電池を作製した。電極C3の厚みは71μm、密度1.85g/cm
3であった。
【0087】
[比較例3]
アンダーコート箔B1のかわりに無垢のアルミ箔を用いた以外は、実施例1と同様にして電極C4を作製し、試験用の二次電池を作製した。電極C4の厚みは69μm、密度1.86g/cm
3であった。
【0088】
前記実施例1及び比較例1〜3で作製したリチウムイオン二次電池について、充放電測定装置を用いて電極の物性を下記の条件で評価した。実施例1及び比較例1〜3における電極密度、理論体積容量密度、3C放電時の体積容量密度を表1に示す。
・電流:0.5C定電流充電、3C定電流放電(LFPの容量を170mAh/gとした。)
・カットオフ電圧:4.50V−2.00V
・温度:室温
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示すように、比較例1と比較例3とを比較した場合、活物質層に導電助剤であるABを導入すると、ABのかさ高さのために、電極密度が低下し、結果として理論体積容量密度が下がってしまった。しかしながら、活物質層に導電助剤を含まない場合、無垢のアルミ箔では放電がほとんど進行せず、結果として3C放電時での体積容量密度は、理論体積容量密度とは逆に、下がってしまった。ここで、実施例1に示したように、CNTを含むアンダーコート層を導入すると、活物質層に導電助剤を含まないがために、比較例3と同等の理論体積容量密度を示し、更に、アンダーコート層が存在するために、集電体−活物質層界面の抵抗が低く、3C放電時での体積容量密度でも、活物質層に導電錠剤を含む比較例1よりも高い値となっていることがわかった。更に、比較例2で示した、ABを含むアンダーコート層の場合には、無垢のアルミ箔よりは性能が向上しているものの、3C放電時での体積容量密度では、活物質層に導電錠剤を含む比較例1に及ばなかった。このことから、導電助剤を含まない活物質層を、CNTを含むアンダーコート層と組み合わせることで、最大の体積容量密度をもつ二次電池を作製できることがわかった。
【0091】
[3]TiO
2(B)を活物質に用いた電極及びリチウムイオン電池の製造
[実施例2]
活物質としてJ. Electrochem. Soc., 159(1), A49-A54 (2012)に記載の方法で合成したTiO
2(B)9.53g、バインダーとしてSBRの水分散液(48.5質量%)0.378g、増粘剤としてNH
4CMC0.183g及び純水19.9gを、ホモディスパーにて6,000rpmで5分間混合した。次いで、薄膜旋回型高速ミキサーを用いて周速25m/秒で60秒の混合処理をし、更に自転・公転ミキサーにて2,200rpmで30秒脱泡することで、電極スラリー(固形分濃度33質量%、TiO
2(B):SBR:NH
4CMC=104:2:2(質量比))を作製した。
得られた電極スラリーを、調製例1で作製したアンダーコート箔B1に均一(ウェット膜厚200μm)に展開後、80℃で30分、次いで120℃で30分乾燥してアンダーコート層上に活物質層を形成し、更にロールプレス機で圧着することで、活物質層の厚み45μm、密度1.63g/cm
3の電極C5を作製した。
得られた電極C5を用い、実施例1と同様にして試験用の二次電池を作製した。
【0092】
[比較例4]
アンダーコート箔B1のかわりに無垢のアルミ箔を用いた以外は、実施例2と同様にして電極C6を作製し、試験用の二次電池を作製した。電極C6の厚みは48μm、密度1.56g/cm
3であった。
【0093】
前記実施例2及び比較例4で作製したリチウムイオン二次電池について、充放電測定装置を用いて電極の物性を下記の条件で評価した。実施例2及び比較例4における電極密度、理論体積容量密度、0.5C放電時の体積容量密度を表2に示す。
・電流:0.5C定電流充放電(TiO
2(B)の容量を336mAh/gとした。)
・カットオフ電圧:3.00V−1.00V
・温度:室温
【0094】
【表2】
【0095】
表2に示すように、活物質としてTiO
2(B)を用いた場合にも、導電助剤を含まない活物質層と、CNTを含むアンダーコート層を組み合わせることで、電池の性能が向上することがわかった。
【0096】
[4]チタン酸リチウム(LTO)を活物質に用いた電極及びリチウムイオン電池の製造
[実施例3]
活物質としてLTO((株)豊島製作所製)10.7g、バインダーとしてSBRの水分散液(48.5質量%)0.424g、増粘剤としてNH
4CMC0.206g及び純水18.7gを、ホモディスパーにて6,000rpmで5分間混合した。次いで、薄膜旋回型高速ミキサーを用いて周速25m/秒で60秒の混合処理をし、更に自転・公転ミキサーにて2,200rpmで30秒脱泡することで、電極スラリー(固形分濃度37質量%、LTO:SBR:NH
4CMC=104:2:2(質量比))を作製した。
得られた電極スラリーを、調製例1で作製したアンダーコート箔B1に均一(ウェット膜厚200μm)に展開後、80℃で30分、次いで120℃で30分乾燥してアンダーコート層上に活物質層を形成し、更にロールプレス機で圧着することで、活物質層の厚み44μm、密度1.86g/cm
3の電極C7を作製した。
得られた電極C7を用い、実施例1と同様にして試験用の二次電池を作製した。
【0097】
[比較例5]
アンダーコート箔B1のかわりに無垢のアルミ箔を用いた以外は、実施例3と同様にして電極C8を作製し、試験用の二次電池を作製した。電極C8の厚みは44μm、密度1.85g/cm
3であった。
【0098】
前記実施例3及び比較例5で作製したリチウムイオン二次電池について、充放電測定装置を用いて電極の物性を下記の条件で評価した。実施例3及び比較例5における電極密度、理論体積容量密度、5C放電時の体積容量密度を表3に示す。
・電流:0.5C定電流充電、5C定電流放電(LTOの容量を175mAh/gとした。)
・カットオフ電圧:3.00V−1.00V
・温度:室温
【0099】
【表3】
【0100】
表3に示すように、活物質としてLTOを用いた場合にも、導電助剤を含まない活物質層と、CNTを含むアンダーコート層を組み合わせることで、電池の性能が向上することがわかった。
【0101】
[5]マンガン酸リチウム(LMO)を活物質に用いた電極及びリチウムイオン電池の製造
[実施例4]
活物質としてLMO((株)豊島製作所製)13.9g、バインダーとしてSBRの水分散液(48.5質量%)0.550g、増粘剤としてNH
4CMC0.267g及び純水15.3gを、ホモディスパーにて8,000rpmで5分間混合した。次いで、薄膜旋回型高速ミキサーを用いて周速25m/秒で60秒の混合処理をし、更に自転・公転ミキサーにて2,200rpmで30秒脱泡することで、電極スラリー(固形分濃度48質量%、LMO:SBR:NH
4CMC=104:2:2(質量比))を作製した。
得られた電極スラリーを、調製例1で作製したアンダーコート箔B1に均一(ウェット膜厚100μm)に展開後、80℃で30分、次いで120℃で30分乾燥してアンダーコート層上に活物質層を形成し、更にロールプレス機で圧着することで、活物質層の厚み26μm、密度2.13g/cm
3の電極C9を作製した。
得られた電極C9を用い、実施例1と同様にして試験用の二次電池を作製した。
【0102】
[比較例6]
アンダーコート箔B1のかわりに無垢のアルミ箔を用いた以外は、実施例4と同様にして電極C9を作製し、試験用の二次電池を作製した。電極C9の厚みは25μm、密度2.22g/cm
3であった。
【0103】
前記実施例4及び比較例6で作製したリチウムイオン二次電池について、充放電測定装置を用いて電極の物性を下記の条件で評価した。実施例4及び比較例6における電極密度、理論体積容量密度、5C放電時の体積容量密度を表4に示す。
・電流:0.05C定電流充放電(LMOの容量を148mAh/gとした。)
・カットオフ電圧:4.50V−3.00V
・温度:室温
【0104】
【表4】
【0105】
表4に示すように、活物質としてLMOを用いた場合にも、導電助剤を含まない活物質層と、CNTを含むアンダーコート層を組み合わせることで、電池の性能が向上することがわかった。