(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962223
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】エナメル線の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20211025BHJP
H01B 13/16 20060101ALI20211025BHJP
B05C 1/08 20060101ALI20211025BHJP
B05C 11/02 20060101ALI20211025BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20211025BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20211025BHJP
B05D 7/20 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
H01B13/00 517
H01B13/16 C
B05C1/08
B05C11/02
B05D3/12 Z
B05D7/14 P
B05D7/20
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-18883(P2018-18883)
(22)【出願日】2018年2月6日
(65)【公開番号】特開2019-139836(P2019-139836A)
(43)【公開日】2019年8月22日
【審査請求日】2020年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 巧
(72)【発明者】
【氏名】船山 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】横山 太一
【審査官】
和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭52−024242(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/126375(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0216340(US,A1)
【文献】
特開平06−031821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01B 13/16
B05C 1/08
B05C 11/02
B05D 3/12
B05D 7/14
B05D 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角状の断面を有する導体にエナメル線用塗料を塗装する塗装工程と、
前記塗装する工程の前に、前記導体の進行方向を回転軸とする周方向への前記導体のねじれを緩和するねじれ緩和工程と、を含み、
前記ねじれ緩和工程は、平坦な面を有するねじれ緩和部材が前記導体の前記進行方向に直交する方向に配置されており、前記ねじれ緩和部材の前記平坦な面を前記導体に押し当てることによって前記導体のねじれを緩和する、エナメル線の製造方法。
【請求項2】
前記ねじれ緩和工程は、前記ねじれ緩和部材を前記導体が前記進行方向に直交する方向へ撓むように押し当てることによって前記導体のねじれを緩和する、
請求項1に記載のエナメル線の製造方法。
【請求項3】
前記ねじれ緩和部材は、回転可能な部材からなる、
請求項1又は2に記載のエナメル線の製造方法。
【請求項4】
前記ねじれ緩和工程は、前記ねじれ緩和部材の上流に位置する少なくとも1つの位置調整部材により、前記導体の前記進行方向を含む平面内の位置を調整する工程を含む、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のエナメル線の製造方法。
【請求項5】
前記塗装工程は、前記導体に前記エナメル線用塗料を塗装する塗装部材と、前記塗装部材の下流に位置して、軸方向に対して回転可能に保持され、前記導体に塗装した前記エナメル線用塗料の厚みを調整する塗装ダイスとにより、前記エナメル線用塗料を前記導体に塗装する、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のエナメル線の製造方法。
【請求項6】
平角状の断面を有する導体にエナメル線用塗料を塗装する塗装部と、
前記導体に前記エナメル線を塗装する前に、前記導体の進行方向を回転軸とする周方向への前記導体のねじれを緩和するねじれ緩和部材と、を備え、
前記ねじれ緩和部材は、前記進行方向に直交する方向に配置されており、平坦な面を前記導体に押し当てることによって前記導体のねじれを緩和する、エナメル線の製造装置。
【請求項7】
前記ねじれ緩和部材は、前記導体が前記進行方向に直交する方向へ撓むように押し当てることによって前記導体のねじれを緩和する、
請求項6に記載のエナメル線の製造装置。
【請求項8】
前記ねじれ緩和部材は、回転可能な部材からなる、
請求項6又は7に記載のエナメル線の製造装置。
【請求項9】
前記ねじれ緩和部材の上流に位置する少なくとも1つの位置調整部材をさらに備え、
該位置調整部材により、前記進行方向を含む平面内の位置を調整する、
請求項6〜8のいずれか1項に記載のエナメル線の製造装置。
【請求項10】
前記塗装部は、前記導体に前記エナメル線用塗料を塗装する塗装部材と、前記塗装部材の下流に位置して、軸方向に対して回転可能に保持され、前記導体に塗装した前記エナメル線用塗料の厚みを調整する塗装ダイスとを備える、
請求項6〜9のいずれか1項に記載のエナメル線の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナメル線の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エナメル線の製造方法として、例えば、導体に絶縁塗料を塗装し、この後に、前記導体に塗装される前記絶縁塗料の厚みを調整するために前記導体をベアリング付きダイスの貫通孔に通す工程を経てエナメル線を製造する方法がある(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されたエナメル線の製造方法では、ベアリングによりダイスを導体の進行方向回りに回転できるようにすることによって、導体のねじれの緩和を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−232378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されたエナメル線の製造方法では、導体の進行方向回りの回転によるねじれ(以下、単に「ねじれ」ともいう。)のある導体を絶縁塗料が塗装された状態でダイスの貫通孔に導入する場合、ねじれを緩和する方向の力が絶縁塗料を介してダイスに伝達され、ダイスが進行方向周りに回転する。そのため、ダイスは、導体のねじれを緩和する方向の力に追従して回転するときに遅れが生じることがある。かかるダイスの追従の遅れは、絶縁塗料が導体の表面に不均一に塗装される要因となる。その結果、導体に塗装された絶縁塗料の厚みは、ばらつきが大きくなることがある。また、導体のねじれの度合いが大きい場合では、ダイスの追従の遅れが特に顕著となり、導体に塗装された絶縁塗料の厚みのばらつきがさらに大きくなる虞がある。
【0006】
以上を鑑み、本発明は、導体をダイスに導入する前にねじれを緩和して塗料の厚みのばらつきを抑制することができるエナメル線の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の[1]〜[5]のエナメル線の製造方法、及び[6]〜[10]のエナメル線の製造装置を提供する。
【0008】
[1]導体にエナメル線用塗料を塗装する塗装工程と、前記塗装する工程の前に、前記導体の進行方向を回転軸とする周方向への前記導体のねじれを緩和するねじれ緩和工程と、を含み、前記ねじれ緩和工程は、平坦な面を有するねじれ緩和部材が前記導体の前記進行方向に直交する方向に配置されており、前記ねじれ緩和部材の前記平坦な面を前記導体に押し当てることによって前記導体のねじれを緩和する、エナメル線の製造方法。
[2]前記ねじれ緩和工程は、前記ねじれ緩和部材を前記導体が前記進行方向に直交する方向へ撓むように押し当てることによって前記導体のねじれを緩和する、前記[1]に記載のエナメル線の製造方法。
[3]前記ねじれ緩和部材は、回転可能な部材からなる、前記[1]又は[2]に記載のエナメル線の製造方法。
[4]前記ねじれ緩和工程は、前記ねじれ緩和部材の上流に位置する少なくとも1つの位置調整部材により、前記導体の前記進行方向を含む平面内の位置を調整する工程を含む、前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のエナメル線の製造方法。
[5]前記塗装工程は、前記導体に前記エナメル線用塗料を塗装する塗装部材と、前記塗装部材の下流に位置して、軸方向に対して回転可能に保持され、前記導体に塗装した前記エナメル線用塗料の厚みを調整する塗装ダイスとにより、前記エナメル線用塗料を前記導体に塗装する、前記[1]〜[4]のいずれか1つに記載のエナメル線の製造方法。
[6]導体にエナメル線用塗料を塗装する塗装部と、前記導体に前記エナメル線を塗装する前に、前記導体の進行方向を回転軸とする周方向への前記導体のねじれを緩和するねじれ緩和部材と、を備え、前記ねじれ緩和部材は、前記進行方向に直交する方向に配置されており、平坦な面を前記導体に押し当てることによって前記導体のねじれを緩和する、エナメル線の製造装置。
[7]前記ねじれ緩和部材は、前記導体が前記進行方向に直交する方向へ撓むように押し当てることによって前記導体のねじれを緩和する、前記[6]に記載のエナメル線の製造装置。
[8]前記ねじれ緩和部材は、回転可能な部材からなる、前記[6]又は[7]に記載のエナメル線の製造装置。
[9]前記ねじれ緩和部材の上流に位置する少なくとも1つの位置調整部材をさらに備え、該位置調整部材により、前記進行方向を含む平面内の位置を調整する、前記[6]〜[8]のいずれか1つに記載のエナメル線の製造装置。
[10]前記塗装部は、前記導体に前記エナメル線用塗料を塗装する塗装部材と、前記塗装部材の下流に位置して、軸方向に対して回転可能に保持され、前記導体に塗装した前記エナメル線用塗料の厚みを調整する塗装ダイスとを備える、前記[6]〜[9]のいずれか1つに記載のエナメル線の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエナメル線の製造方法及び製造装置によれば、導体をダイスに導入する前にねじれを緩和して塗料の厚みのばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係るエナメル線の製造装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図1の製造装置の塗料塗装機の一例を示す概略図である。
【
図4】エナメル線の皮膜の厚みのばらつきの一例を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔エナメル線の製造装置〕
図1は、本発明の実施の形態に係るエナメル線の製造装置の一例を示す概略図である。以下では、エナメル線用に供給される心線として、所定の断面形状(例えば、平角状等)を有する導体1を用いる場合を例に挙げて説明する。また、本実施の形態において供給される導体1の素材には、例えば、銅、銅合金等を使用することができる。また、製造装置としては、各設備が横型に配置されたタイプのものを例に挙げて説明する。
【0012】
図1に示されるように、エナメル線の製造装置10は、例えば、塗料塗装機15と、焼付炉16と、所望の位置に適宜設けられた複数のターンプーリ14a,14bと、を備えて構成されている。
【0013】
なお、塗料塗装機15の上流には、互いに対向して配置される圧延ロールを用いて導体1の断面を平角状にする平角圧延機(不図示)や、導体1を焼鈍する焼鈍炉(不図示)等を設けてもよい。
【0014】
塗料塗装機15は、導体1の外周にエナメル線用塗料154を塗装する塗装部151と、導体1の進行方向(すなわち、長手方向)に対して直交する方向に導体1に押し当てられるねじれ緩和部材152と、水平方向(
図1の紙面に垂直な方向)における導体1の位置ズレを抑制する位置調整部材153とを含んで構成されている。塗料塗装機15の詳細については、後述する(
図2、
図3参照)。
【0015】
焼付炉16は、例えば、エナメル線用塗料154中の樹脂の硬化を行う硬化炉を含んで構成されている。また、焼付炉16は、エナメル線用塗料154の乾燥を行う乾燥炉をさらに備えてもよい。なお、乾燥炉及び硬化炉は、一体として設けてもよく、別体として設けてもよい。
【0016】
〔エナメル線の製造方法〕
次に、
図1〜
図3を参照してエナメル線2の製造方法の概略を説明する。平角状の断面を有する導体1は、塗料塗装機15へ導かれる。塗料塗装機15では、導体1に進行方向を回転軸とする周方向の回転によるねじれが生じている場合にこのねじれをねじれ緩和部材152によって緩和するねじれ緩和工程(詳細は後述する)と、導体1の外周に塗装部151によってエナメル線用塗料154を塗装する塗装工程とが施される。
【0017】
次に、塗装したエナメル線用塗料154を焼付することにより、導体1を皮膜で被覆してエナメル線2にする。エナメル線用塗料154の焼付は、例えば、硬化炉を備える焼付炉16を用いて行うことができる。
【0018】
なお、皮膜が焼付された導体1を、下流側のターンプーリ14bを介して上流側のターンプーリ14aに戻し、皮膜が焼付された導体1のねじれの緩和、エナメル線用塗料154の塗装、エナメル線用塗料154の焼付を所望の皮膜の厚みとなるまで繰り返し行う。
【0019】
このようにして、導体1は、塗装されたエナメル線用塗料が乾燥及び硬化されることによって、導体1の外周に所望の厚さからなる皮膜を有するエナメル線2となる。
【0020】
エナメル線用塗料154には、エナメル線2に使用可能なものであれば特に限定されることなく用いることができる。エナメル線用塗料154中の溶剤には、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、クレゾール、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、シクロヘキサノン等を用いることができる。また、エナメル線用塗料154中の樹脂には、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステルイミド等を用いることができる。
【0021】
次に、上述したねじれ緩和工程の詳細について
図2、及び
図3を参照して説明する。
図2は、
図1の製造装置10の塗料塗装機15の一例を示す概略図である。
図3は、
図2の塗料塗装機15の上面図である。前述のように、塗料塗装機15は、塗装部151と、ねじれ緩和部材152と、位置調整部材153とを備えている。
【0022】
図2に示すように、塗装部151は、エナメル線用塗料154を収容する塗料タンク155と、塗料タンク155からエナメル線用塗料154を汲み上げて導体1にエナメル線用塗料154を塗装する塗装部材156と、エナメル線用塗料154の厚みが均一になるように調整する塗装ダイス157とを備えている。
【0023】
塗装部材156は、例えば、コーターロールである。塗装部材156は、
図2の矢印の方向に回転することにより、塗料タンク155に収容されたエナメル線用塗料154を汲み上げ、導体1にエナメル線用塗料154を塗装する。また、塗装部材156は、導体1を
図2の矢印方向(図示右方向)に進行させる。また、塗装部材156は、側面156aを鉛直方向上向き(図示上向き)に導体1に押し当てる。すなわち、塗装部材156を下側から導体1に押し当てる。
【0024】
塗装ダイス157は、塗装部材156の下流に位置して、軸方向に対して回転可能に保持されている。また、塗装ダイス157には、中心軸方向に延在する所定の形状の貫通孔(不図示)が形成されており、この貫通孔に導体1を通すことによって、径方向において貫通孔からはみ出したエナメル線用塗料154が塗装ダイス157の上流側端面157aにより除去されることにより、エナメル線用塗料154が導体1の外周に略均一に塗られるようになっている。すなわち、塗装ダイス157は、エナメル線用塗料154の厚みを調整する。
【0025】
ねじれ緩和部材152は、回転可能な部材からなる。ねじれ緩和部材152には、例えば、平坦な側面を有する平ロールを用いることができる。ねじれ緩和部材152は、矢印の方向に回転が可能な部材であって、ねじれ緩和部材152を回転させて導体1を
図2の矢印方向(図示右方向)に進行させる。また、ねじれ緩和部材152は、側面152aを鉛直方向下向き(図示下向き)に導体1に押し当てる。すなわち、ねじれ緩和部材152を上側から導体1に押し当てる。
【0026】
ねじれ緩和部材152の側面152aは、略平坦な面により構成されている。また、ねじれ緩和部材152の側面152aは、少なくとも導体1の幅以上の幅を有している。また、ねじれ緩和部材152は、上述した塗装部材156よりも上流側に位置している。
【0027】
以上のような構成により、導体1にねじれが生じている場合であっても、ねじれ緩和部材152及び塗装部材156を導体1の進行方向に直交する方向において互いに反対方向から導体1に押し当てることにより、導体1の進行に伴って導体1のねじれの変位を低減することができ、導体1を塗装ダイス157に導入する前にねじれを緩和することができる。
【0028】
好ましくは、ねじれ緩和部材152の側面152aにおける最下点152cと、塗装部材156の側面156aにおける最上点156cは鉛直方向において導体に対して対向した位置としている。このような位置関係になるようにねじれ緩和部材152及び塗装部材156を配置することにより、ねじれ緩和部材152及び塗装部材156は、それぞれ導体1の所定の面積を有する部分と面接触することができる。すなわち、
図2に示すようなねじれ緩和部材152の回転軸152bに直交する断面視において、導体1は、ねじれ緩和部材152の外周のうちの所定の長さの円弧と接触するとともに、塗装部材156の外周のうちの所定の長さの円弧と接触することができる。
【0029】
換言すれば、ねじれ緩和部材152を鉛直方向下向きに導体1に押し当てることにより、導体1を鉛直方向下向きに略凸状になるように撓むようするとともに、塗装部材156を鉛直方向上向きに導体1に押し当てることにより、鉛直方向上向きに略凸状になるように撓むようにすることができる。すなわち、導体1が進行方向に直交する方向へ撓むようにねじれ緩和部材152を導体1に押し当てることができる。好ましくは、導体1の撓む量、例えば、水平面(
図2の一点鎖線参照)と導体1の最下点との距離dは、13mm以上である。
【0030】
このようにすれば、ねじれ緩和部材152及び塗装部材156のそれぞれに押し当てる導体1の面積が、ねじれ緩和部材152及び塗装部材156のそれぞれに単に接しているときよりも大きくなり、導体1をより高い圧力で押し当てることができる。この結果、導体1により大きなねじれが生じている場合であってもねじれを緩和することができる。
【0031】
位置調整部材153には、例えば、縦型のロール(以下、「縦ロール」)を用いることができる。位置調整部材153は、ねじれ緩和部材152の回転軸152bと、塗装部材156の回転軸156bとが平行でない場合に生じ得る、水平方向(
図3の図示上下方向)の位置、すなわち導体1の進行方向を含む平面内の位置を調整するガイドの機能を有している。なお、導体1の水平方向とは、導体1が平角状の場合の導体1の幅方向のことである。
【0032】
位置調整部材153を設けることにより、導体1の水平方向の位置ズレが抑制され、より的確な位置でねじれ緩和部材152及び塗装部材156を導体1に押し当てることができ、これにより、より確実にねじれを緩和することができる。
【0033】
好ましくは、
図3に示すように、位置調整部材153は、導体1を挟んで互いに対向する2か所に設けられている。なお、位置調整部材153を2つ設ける場合、位置調整部材153は、導体1の進行方向における位置が互いに異なるように、すなわち導体1の進行方向において互い違いになるように配置してもよい。また、位置調整部材153を2つ設けることは必須ではなく、
図3に示す位置調整部材153のうちいずれか1つでもよい。また、位置調整部材153を設けることは、必須ではない。
【0034】
また、導体1の断面形状としては、丸線、平角線、異形状の線等が挙げられるが、特に平角線の場合に従来方法に比べてメリットがある。
【0035】
(実験結果)
発明者らは、前述の実施の形態に係るエナメル線2の製造方法で製造したエナメル線2と、比較例に係るエナメル線の製造方法で製造したエナメル線とにおいて、皮膜3の厚みを比較する実験を行った。本実験には、導体1として、縦幅約1.95mm、横幅約3.34mmのサイズを有する平角状の心線を用いた。なお、比較例に係るエナメル線の製造方法には、本実験で用いたエナメル線の製造装置10において、ねじれ緩和部材152をさらに有しない製造装置10を用いる方法を採用した。すなわち、比較例に係るエナメル線の製造方法は、ねじれ緩和部材152及び塗装部材156による導体1のねじれを緩和するねじれ緩和工程を有しないものである。
【0036】
図4は、エナメル線2の皮膜3の厚みのばらつきの一例を模式的に説明する図である。発明者らは、各エナメル線2の幅方向における両端付近の皮膜3の厚さ(a及びb参照)を測定し、その差、すなわちb−a(以下、「膜厚差」ともいう。)を求めた。この結果、比較例に係るエナメル線の製造方法で製造したエナメル線では、膜厚差が6.4μmであったのに対し、本実施の形態に係るエナメル線の製造方法で製造したエナメル線2では、膜厚差は3.0μmであった。両者間を比較した結果、実施例に係るエナメル線の製造方法で製造したエナメル線2の膜厚差は、比較例に係るエナメル線の製造方法で製造したエナメル線の膜厚差と比較して約1/2に低減したことを確認した。
【0037】
〔本発明の実施の形態の効果〕
本発明の実施の形態によれば、エナメル線用塗料154の塗装を行う塗装ダイス157に導入する前に、導体1をねじれ緩和部材152及び塗装部材156を導体1に押し当てることにより、導体1のねじれを緩和することができる。この結果、従来技術のように塗料の塗装の最中に塗装ダイス157の回転のみによってねじれを緩和する場合よりも均一に導体1の外周にエナメル線用塗料154を塗装することができ、この結果、エナメル線用塗料の厚みのばらつきを抑制することができる。
【0038】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず種々に変形実施が可能である。例えば、ねじれ緩和部材152及び位置調整部材153を塗料塗装機15の構成要素として記載したが、必ずしもこの形態に限定されるものではない。これらねじれ緩和部材152及び位置調整部材153は、塗装ダイス157の上流に設けられていればよく、塗料塗装機15外に設けられていてもよい。
【0039】
また、ねじれ緩和部材152を2つ設け、2つのねじれ緩和部材152で導体1を挟むことによりねじれを緩和してもよい。具体的には、例えば、2つのねじれ緩和部材152を導体1を挟んで互いに対向する位置に設け、鉛直方向上下から導体1を挟むようにすることによって導体1のねじれを緩和してもよい。ただし、好ましくは、本実施の形態のように、塗装部材156とこの塗装部材156の上流に設けられた1つのねじれ緩和部材152とを導体1に押し当てる。このようにすることで、塗装ダイス157により近い位置(すなわち、塗装工程の直前)でねじれを緩和することができる。また、エナメル線用塗料154を汲み上げて導体1を塗装する機能を有する塗装部材156を導体1に押し当てる機能を兼ねさせることにより、2つ目のねじれ緩和部材152を設ける必要がなくなるため、設備コストの上昇を招かずにすむことができる。
【0040】
また、塗装ダイス157は、例えば、エナメルの製造装置10、エナメルの製造装置10が設置される床、エナメルの製造装置10が設置させる施設の天井等に固定的に保持されていてもよく、軸方向に対して回転可能に保持されていてもよい。あるいは、塗装ダイス157は、通過する導体1を回転可能にする軸受をさらに備えてもよい。このようにすることにより、塗装ダイス157が導体1のねじれに追従して、より確実に導体1のねじれを解消でき、その結果より均一な膜厚を得ることができる。
【符号の説明】
【0041】
1:導体、2:エナメル線、3:皮膜、14(14a,14b):ターンプーリ、15:塗料塗装機、151:塗装部、152:ねじれ緩和部材、152a:側面、152b:回転軸、152c:最下点、153:位置調整部材、154:エナメル線用塗料、155:塗料タンク、156:塗装部材、156a:側面、156b:回転軸、156c:最上点、157:塗装ダイス、157a:上流側端面、16:焼付炉