特許第6962296号(P6962296)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6962296正帯電型疎水性球状シリカ粒子、その製造方法及びそれを用いた正帯電トナー組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962296
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】正帯電型疎水性球状シリカ粒子、その製造方法及びそれを用いた正帯電トナー組成物
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20211025BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20211025BHJP
   C09C 1/28 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   C01B33/18 C
   G03G9/097 375
   C09C1/28
   G03G9/097 371
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-160743(P2018-160743)
(22)【出願日】2018年8月29日
(65)【公開番号】特開2020-33224(P2020-33224A)
(43)【公開日】2020年3月5日
【審査請求日】2020年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】松村 和之
(72)【発明者】
【氏名】坂詰 功晃
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−114175(JP,A)
【文献】 特開2008−225310(JP,A)
【文献】 特表2008−521980(JP,A)
【文献】 特開平05−035082(JP,A)
【文献】 特開2006−124676(JP,A)
【文献】 特開2006−321978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/18
G03G 9/097
C09C 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(A3)及び(A4)を含む、体積基準の粒度分布における1次粒子のメジアン径(D50)が5〜250nmであり、D90/D10比が3以下であり、かつ平均円形度が0.8〜1であるシリカ粒子の表面に、下式(I)で表される第4級塩型シラン化合物が結合した正帯電型疎水性球状シリカ粒子の製造方法。

工程(A3):球状シリカ粒子分散体に、下式(IV)で表されるシラザン化合物、下式(V)で表される1官能性シラン化合物又はこれらの混合物を添加し、該シリカ粒子の表面のシラノール基と反応させることによりR83SiO1/2単位を導入し、疎水性球状シリカ粒子を得る工程
83SiNHSiR83 (IV)
83SiX (V)
(式中、R8は、同一または異なる置換または非置換の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表し、Xは水酸基または加水分解性基を表す。)

工程(A4):工程(A3)で得られた疎水性球状シリカ粒子に下式(I)で表される第4級塩型シラン化合物を添加し、該疎水性球状シリカ粒子表面に残存するシラノール基の少なくとも一部と該第4級塩型シラン化合物を反応させる工程
【化1】
(式中、R1、R2及びR3は、独立に、炭素原子数1〜30の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を表す。R4及びR5は、独立に、水素原子、又は、炭素原子数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基を表し、nは1〜8の整数、pは0、1又は2を表す。X-はアニオン、Y+はカチオンを表す。)
【請求項2】
式(I)におけるX-がCl-であり、Y+がP+又はN+である請求項に記載の正帯電型疎水性球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
球状シリカ粒子分散体が、下記工程(A1)により製造される親水性球状シリカ粒子分散体である請求項1又は2に記載の正帯電型疎水性球状シリカ粒子の製造方法。

工程(A1):下式(II)で表される4官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合物またはこれらの混合物を、塩基性物質の存在下、親水性溶媒及び水を含む混合液中で加水分解、縮合することによって親水性球状シリカ粒子分散体を得る工程
Si(OR64 (II)
(式中、R6は、同一または異なる炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表す。)
【請求項4】
球状シリカ粒子分散体が、工程(A1)を経た後、更に下記工程(A2)を経ることにより製造される表面処理球状シリカ粒子分散体である請求項に記載の正帯電型疎水性球状シリカ粒子の製造方法。

工程(A2):工程(A1)で得られた親水性球状シリカ粒子分散体に、下式(III)で表される3官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合物またはこれらの混合物を添加し、該親水性球状シリカ粒子の表面にR7SiO3/2単位を導入し、表面処理球状シリカ粒子分散体を得る工程
7SiX3 (III)
(式中、R7は、同一または異なる置換または非置換の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表し、Xは水酸基または加水分解性基を表す。)
【請求項5】
工程(A2)と工程(A3)の間に、更に工程(A2)で得られた表面処理球状シリカ粒子分散体の分散媒をケトン系溶媒に置換する工程を有する請求項に記載の正帯電型疎水性球状シリカ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正帯電型疎水性球状シリカ粒子、その製造方法及びそれを用いた正帯電トナー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真現像法において、静電潜像を可視化して又は静電潜像を反転現像により可視化して高品質な画像を得ている。電子写真現像法に好適なトナーは、バインダーとしての熱可塑性樹脂に、着色剤としての染料又は顔料、帯電制御剤、離型剤としてのワックス及び磁性材料を混合して混練、粉砕、分級を行い、トナー粒子としたものである。また、トナー粒子に流動性を付与したり、クリーニング性を向上させたりするために、シリカや酸化チタン、あるいはアルミナ等の無機微粉末からなる外添剤をトナー粒子に添加するのが一般的である。
しかしながら、これらの無機微粉末は、一般的に親水性に富んでおり、トナーの流動性や帯電立ち上がり性が、周囲の環境条件(湿度)に影響されて変化する場合がある。
【0003】
そこで、このような環境条件の影響を防ぐため、これらの無機微粉末の表面を疎水化剤で処理したり、無機微粉末の表面に帯電極性基を導入したりする方法が行われている。
それら方法の中で、特に正帯電トナー用外添剤として、シリカ微粉末等の金属酸化物をアミノシランカップリング剤等で表面処理したものを用いる方法が、特許文献1(特開昭52−135739号公報)及び特許文献2(特開昭56−123550号公報)に開示されている。このシラン処理方法によると、アミノシランカップリング剤の末端アミノ基により、強い正帯電性を示す現像剤が得られる。
【0004】
また、疎水性シリカ粒子に対して、正帯電制御剤と、疎水化剤との両方で表面処理し、それを現像剤の外添剤として用いる方法が、特許文献3(特開昭58−216252号公報)に開示されており、ケイ酸微粉末に対して、所定量の含窒素シランカップリング剤と、窒素原子を有するシリコーンオイルとで処理し、それを現像剤の外添剤として用いる方法が、特許文献4(特開昭63−73271号公報)及び特許文献5(特開昭63−73272号公報)に開示されている。これらの方法によると、正帯電制御剤の働きにより、強い正帯電性を示す現像剤が得られる。
【0005】
また、負帯電性極性基と正帯電性極性基との両方の極性基を表面に結合した無機粒子を非磁性一成分現像用トナーの外添剤として用いる方法が、例えば特許文献6(特開平2−66564号公報)に開示されている。
この方法によると、帯電レベルの向上性、帯電立ち上がり性、流動性にそれぞれ優れた非磁性一成分現像用トナーが得られる。
【0006】
また、特許文献7(特開平11−160907号公報)には、帯電の立ち上がり、耐久性の向上、および環境安定性を得るために、正帯電極性基と疎水性基とを有する乾式シリカ微粉末と、正帯電極性基を導入しシリコーンオイルで疎水化処理した湿式シリカ微粉末との併用が有効であることが開示されている。
さらに、特許文献8(特開平11−143111号公報)には、帯電の立ち上がり、耐久性の向上、および環境安定性を得るために、正帯電極性基および疎水性基を有する乾式シリカ微粉末と、正帯電極性基およびフッ素含有極性基を含有する湿式シリカ微粉末との併用が有効であることが開示されている。
さらに特許文献9(特開2007−108801公報)には、低印字率の印刷を実施した場合でも良好な画像濃度及びカブリ耐性を長期間にわたって得るために、正帯電極性基および疎水性基を有する乾式シリカ微粉末と、フッ素含有負帯電極性基を有し第4級アンモニウム塩型シラン化合物により表面処理された湿式シリカ微粉末とを外添剤として含有する正帯電トナーが有効であることが開示されている。
【0007】
一方、トナー用途ではないが、特許文献10(特許第5602996号公報)には、シリカ粒子、アルコキシシラン、ホスホニウム塩系シラン、及び反応溶媒を含む混合液中で、酸又はアルカリ触媒によりシリカ粒子表面をホスホニウム塩シランで処理したシリカコンポジット粒子が帯電防止剤及び抗菌剤用途に有用として開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭52−135739号公報
【特許文献2】特開昭56−123550号公報
【特許文献3】特開昭58−216252号公報
【特許文献4】特開昭63−73271号公報
【特許文献5】特開昭63−73272号公報
【特許文献6】特開平2−66564号公報
【特許文献7】特開平11−160907号公報
【特許文献8】特開平11−143111号公報
【特許文献9】特開2007−108801号公報
【特許文献10】特許第5602996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来技術は、次のような問題点(1)〜(5)を有していた。
(1)特許文献1等に開示されたアミノシランカップリング剤で処理した金属酸化物を用いた現像剤は、アミノシランカップリング剤が親水性であるために、高温高湿環境において、トナー流動性や帯電性が不安定になるという問題が見られた。また、アミノシランカップリング剤では経時で正帯電性が低下するという問題もあった。
(2)特許文献3等に開示された疎水性シリカ粒子に対して、正帯電制御剤と、疎水化剤との両方で表面処理した現像剤は、トナーの流動性に乏しく、また、帯電性の立ち上がりが遅く、さらには、帯電性が不安定になりやすいという問題が見られた。
(3)特許文献6等に開示された負帯電性極性基と正帯電性極性基の両方の基が表面に結合した無機粒子を含有する現像剤は、高温高湿環境下における帯電安定性やトナー流動性が乏しい、また帯電維持性も良くないという問題が見られた。
(4)特許文献7等に開示された、正帯電性の乾式シリカ微粉末と、正帯電極性基およびフッ素含有極性基を含有する湿式シリカ微粉末と、を併用したトナーでは、トナーが低印字率で使用された場合に、画像濃度とカブリの安定性が不十分になるという問題が見られた。
(5)特許文献9に開示された、正帯電性の乾式シリカと、湿式シリカ微粉末とを併用し、湿式シリカ微粉末に、フッ素含有負帯電極性基と正帯電極性基として第4級アンモニウム塩型シラン化合物により表面処理したトナーは、カブリ性及び画像濃度が若干改善される傾向にあるが、まだ正帯電付与性が劣るという問題点が見られた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
斯かる実情に鑑み本発明者は鋭意研究を行った結果、次の正帯電型疎水性球状シリカ粒子が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、下記の正帯電型疎水性球状シリカ粒子、該シリカ粒子の製造方法及び該シリカ粒子を含む正帯電トナー組成物を提供するものである。
【0012】
[1]
体積基準の粒度分布における1次粒子のメジアン径(D50)が5〜250nmであり、D90/D10比が3以下であり、かつ平均円形度が0.8〜1であるシリカ粒子の表面に、下式(I)で表される第4級塩型シラン化合物が結合した正帯電型疎水性球状シリカ粒子。
【化1】
(式中、R1、R2及びR3は、独立に、炭素原子数1〜30の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を表す。R4及びR5は、独立に、水素原子、又は、炭素原子数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基を表し、nは1〜8の整数、pは0、1又は2を表す。X-はアニオン、Y+はカチオンを表す。)
【0013】
[2]
式(I)におけるX-がCl-であり、Y+がP+又はN+である[1]に記載の正帯電型疎水性球状シリカ粒子。
【0014】
[3]
更に、下式(IV)で表されるシラザン化合物、下式(V)で表される1官能性シラン化合物又はこれらの混合物で表面処理された、[1]又は[2]に記載の正帯電型疎水性球状シリカ粒子。
83SiNHSiR83 (IV)
83SiX (V)
(式中、R8は、同一または異なる置換または非置換の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表し、Xは水酸基または加水分解性基を表す。)
【0015】
[4]
下記工程(A3)及び(A4)を含む[1]〜[3]のいずれかに記載の正帯電型疎水性球状シリカ粒子の製造方法。

工程(A3):球状シリカ粒子分散体に、下式(IV)で表されるシラザン化合物、下式(V)で表される1官能性シラン化合物又はこれらの混合物を添加し、該シリカ粒子の表面のシラノール基と反応させることによりR83SiO1/2単位を導入し、疎水性球状シリカ粒子を得る工程

83SiNHSiR83 (IV)
83SiX (V)

(式中、R8は、同一または異なる置換または非置換の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表し、Xは水酸基または加水分解性基を表す。)

工程(A4):工程(A3)で得られた疎水性球状シリカ粒子に下式(I)で表される第4級塩型シラン化合物を添加し、該疎水性球状シリカ粒子表面に残存するシラノール基の少なくとも一部と該第4級塩型シラン化合物を反応させる工程
【化2】
(式中、R1、R2及びR3は、独立に、炭素原子数1〜30の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を表す。R4及びR5は、独立に、水素原子、又は、炭素原子数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基を表し、nは1〜8の整数、pは0、1又は2を表す。X-はアニオン、Y+はカチオンを表す。)
【0016】
[5]
式(I)におけるX-がCl-であり、Y+がP+又はN+である[4]に記載の正帯電型疎水性球状シリカ粒子の製造方法。
【0017】
[6]
球状シリカ粒子分散体が、下記工程(A1)により製造される親水性球状シリカ粒子分散体である[4]又は[5]に記載の正帯電型疎水性球状シリカ粒子の製造方法。

工程(A1):下式(II)で表される4官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合物またはこれらの混合物を、塩基性物質の存在下、親水性溶媒及び水を含む混合液中で加水分解、縮合することによって親水性球状シリカ粒子分散体を得る工程
Si(OR64 (II)
(式中、R6は、同一または異なる炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表す。)
【0018】
[7]
球状シリカ粒子分散体が、工程(A1)を経た後、更に下記工程(A2)を経ることにより製造される表面処理球状シリカ粒子分散体である[6]に記載の正帯電型疎水性球状シリカ粒子の製造方法。

工程(A2):工程(A1)で得られた親水性球状シリカ粒子分散体に、下式(III)で表される3官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合物またはこれらの混合物を添加し、該親水性球状シリカ粒子の表面にR7SiO3/2単位を導入し、表面処理球状シリカ粒子分散体を得る工程
7SiX3 (III)
(式中、R7は、同一または異なる置換または非置換の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表し、Xは水酸基または加水分解性基を表す。)
【0019】
[8]
工程(A2)と工程(A3)の間に、更に工程(A2)で得られた表面処理球状シリカ粒子分散体の分散媒をケトン系溶媒に置換する工程を有する[7]に記載の正帯電型疎水性球状シリカ粒子の製造方法。
【0020】
[9]
[1]〜[3]のいずれかに記載の正帯電型疎水性球状シリカ粒子を含む正帯電トナー組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明の正帯電型疎水性球状シリカ粒子は、帯電の立ち上がりが早く、経時の正帯電維持性にも優れている。また、本発明の正帯電型疎水性球状シリカ粒子を含むトナー組成物は、流動性、印刷特性に優れ、さらにこれらの特性は周囲の環境条件の変化による影響も少ない。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の正帯電型疎水性球状シリカ粒子について詳細に説明する。
本発明の正帯電型疎水性球状シリカ粒子は、体積基準の粒度分布における1次粒子のメジアン径(D50)が5〜250nmであり、D90/D10比が3以下であり、かつ平均円形度が0.8〜1であるシリカ粒子の表面に、下式(I)で表される第4級塩型シラン化合物が結合した正帯電型疎水性球状シリカ粒子である。
【化3】
(式中、R1、R2及びR3は、独立に、炭素原子数1〜30の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を表す。R4及びR5は、独立に、水素原子、又は、炭素原子数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基を表し、nは1〜8の整数、pは0、1又は2を表す。X-はアニオン、Y+はカチオンを表す。)
【0023】
1、R2及びR3は、独立に、炭素原子数1〜30の直鎖状のアルキル基、炭素原子数3〜30の分岐状のアルキル基又は炭素原子数3〜30の環状のアルキル基を表す。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基等が例示される。これらの中でも、炭素原子数1〜18の直鎖状アルキル基が好ましく、R1、R2及びR3のうち少なくとも1つが炭素原子数4〜18の直鎖状アルキル基であることがより好ましい。
【0024】
4及びR5は、独立に、水素原子、又は、炭素原子数1〜10の直鎖状のアルキル基、炭素原子数3〜10の分岐状のアルキル基もしくは炭素原子数3〜10の環状のアルキル基を表す。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が例示される。これらの中でも、水素原子及び立体障害の小さいメチル基がシリカ表面との反応を阻害しないために特に好ましい。
【0025】
上式(I)におけるX-はアニオンを表し、アニオンとしては、F+(フッ素イオン)、Cl-(塩素イオン)、Br-(臭素イオン)、I-(ヨウ素イオン)、BF4-、PF6-、N(SO2CF32-、PO2(OMe)3-、PS2(OEt)2-、(CO2Me)2PhSO3-等のアニオンが挙げられ、好ましくはCl-である。上式(I)におけるY+はカチオンを表し、好ましくはP+又はN+である。
【0026】
式(I)で表される第4級塩型シラン化合物の好ましい例としては、n−オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、トリ−n−ブチル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライド等が挙げられる。
【0027】
式(I)で表される第4級塩型シラン化合物で処理されるシリカ粒子は、体積基準の粒度分布における1次粒子のメジアン径(D50:粒径の小さい側から累積50%となる粒子径)が5〜250nmであり、好ましくは10〜200nmである。D50が5nmよりも小さいと粒子の凝集が激しく、全体のゲル化や製造装置内部への付着を引き起こし、うまく取り出せない場合がある。またD50が250nmよりも大きいと良好な正帯電性を付与できない場合があり好ましくない。
【0028】
式(I)で表される第4級塩型シラン化合物で処理されるシリカ粒子は、体積基準の粒度分布において、粒径の小さい側から累積10%となる粒子径をD10、累積90%となる粒子径をD90としたとき、D90/D10比が3以下であることから、その粒度分布が狭いことを特徴とするものである。このような粒度分布が狭い粒子であると、流動性を制御することが容易になる点で好ましい。D90/D10比は2.9以下であることがより好ましい。
なお、本発明において、体積基準の粒度分布はレーザー光を用いた動的光散乱法によって測定したものである。
【0029】
また、本発明において、円形度とは、(粒子面積と等しい円の周囲長)/(粒子周囲長)を指し、具体的には電子顕微鏡(倍率:10万倍)によって得られた形状を基に算出し、シリカ粒子10個の円形度を平均したものを「平均円形度」とする。
式(I)で表される第4級塩型シラン化合物で処理されるシリカ粒子の平均円形度は0.8〜1であり、特に0.92〜1が好ましい。また、本発明において「球状」とは、真球だけでなく、若干歪んだ球も含む。なおこのような粒子の形状は、粒子を二次元に投影した時の円形度で評価する。
【0030】
本発明の正帯電型疎水性球状シリカ粒子は、更に、下式(IV)で表されるシラザン化合物、下式(V)で表される1官能性シラン化合物又はこれらの混合物で表面処理されたものであることが好ましい。
83SiNHSiR83 (IV)
83SiX (V)
(式中、R8は、同一または異なる置換または非置換の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表し、Xは水酸基または加水分解性基を表す。)
【0031】
上式(IV)および(V)中、R8は、好ましくは炭素原子数1〜4、特に好ましくは炭素原子数1〜2の1価炭化水素基である。R8で表される1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基及びプロピル基であり、特に好ましくは、メチル基及びエチル基である。また、これらの1価炭化水素基の水素原子の一部または全部が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、好ましくは、フッ素原子で置換されていてもよい。
【0032】
Xで表される加水分解性基としては、例えば、ヒドロキシ基、塩素原子、アルコキシ基、アミノ基及びアシルオキシ基等が挙げられ、好ましくは、アルコキシ基及びアミノ基であり、より好ましくはアルコキシ基であり、メトキシ基及びエトキシ基が特に好ましい。
【0033】
上式(IV)で表されるシラザン化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン等が挙げられ、好ましくはヘキサメチルジシラザンである。上式(V)で表される1官能性シラン化合物としては、例えば、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール等のモノシラノール化合物;トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン等のモノクロロシラン;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン;トリメチルシリルジメチルアミン、トリメチルシリルジエチルアミン等のモノアミノシラン;トリメチルアセトキシシラン等のモノアシルオキシシラン等が挙げられ、好ましくは、トリメチルシラノール、トリメチルメトキシシラン及びトリメチルシリルジエチルアミンであり、特に好ましくは、トリメチルシラノール及びトリメチルメトキシシランである。
【0034】
本発明の正帯電型疎水性球状シリカ粒子の疎水性の評価手法としては、特に限定されるものではないが、例えば、疎水化度(メタノールウェッタビリティー)を好適に用いることができる。本発明の正帯電型疎水性球状シリカ粒子は、下記の手順で測定した場合の疎水化度が60%以上のものが好ましく、65%以上のものがより好ましい。この値が60%以上であると、得られるシリカ粒子に良好な耐環境性を付与でき、該シリカ粒子を静電荷現像用トナーとして応用する場合、良好な帯電安定性が得られる。
【0035】
ここで、疎水化度は、下記の手順で求めることができる。
1)試料0.2gを200mlビーカーに秤取し純水50mlを加える。
2)電磁攪拌しながら、液面下へメタノールを加える。
3)液面上に試料が認められなくなった点を終点とする。
4)要したメタノール量から次式により疎水化度を算出する。

疎水化度(%)=[x/(50+x)]×100
x:メタノール量(ml)
【0036】
次に、本発明の正帯電型疎水性球状シリカ粒子の製造方法について詳細に説明する。
【0037】
本発明の疎水性球状シリカ粒子は、例えば、次の工程(A3)及び(A4)を経ることによって得られる。また、工程(A3)の原料である球状シリカ粒子分散体は、例えば、工程(A1)、必要により更に工程(A2)により得ることができる。
工程(A1):親水性球状シリカ粒子分散体を得る合成工程
工程(A2):3官能性シラン化合物による表面処理工程
工程(A3):1官能性シラン化合物による表面処理工程
工程(A4):第4級塩型シラン化合物による表面処理工程
以下、各工程を順に追って説明する。
【0038】
工程(A1):親水性球状シリカ粒子分散体を得る合成工程
本工程は、下式(II)で表される4官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合物またはこれらの混合物を、塩基性物質の存在下、親水性溶媒及び水を含む混合液中で加水分解、縮合することによって親水性球状シリカ粒子分散体を得る工程である。
Si(OR64 (II)
(式中、R6は、同一または異なる炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表す。)
【0039】
上式(II)中、R6は、炭素原子数1〜6の1価炭化水素基であるが、炭素原子数1〜4のものが好ましく、特に炭素原子数1〜2のものが好ましい。R6で表される1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基であり、特に好ましくは、メチル基及びエチル基である。
【0040】
上式(II)で表される4官能性シラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン及びテトラフェノキシシラン等が挙げられ、好ましくは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン及びテトラブトキシシランであり、特に好ましくは、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランである。また、上式(II)で表される4官能性シラン化合物の加水分解縮合物としては、例えば、メチルシリケート、エチルシリケート等が挙げられる。
【0041】
塩基性物質としては、例えばアンモニア、ジメチルアミン、ジエチルアミン等が挙げられ、好ましくは、アンモニア及びジエチルアミンであり、特に好ましくはアンモニアである。これらの塩基性物質は、所要量を水に溶解したものが使用できる。
【0042】
親水性溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、t−ブタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。
【0043】
本工程において使用される水の量は、一般式(II)で表される4官能性シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物のヒドロカルビルオキシ基の合計1モルに対して0.5〜5モルであることが好ましく、0.6〜2モルであることがより好ましく、0.7〜1モルであることが特に好ましい。
水に対する親水性溶媒の比率は、疎水化された球状シリカ粒子と混合溶媒との親和性および製造の容易性の点から、質量比で0.5〜10であることが好ましく、3〜9であることがより好ましく、5〜8であることが特に好ましい。
塩基性物質の量は、一般式(II)で表される4官能性シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合生成物のヒドロカルビルオキシ基の合計1モルに対して0.01〜2モルであることが好ましく、0.02〜0.5モルであることがより好ましく、0.04〜0.12モルであることが特に好ましい。
【0044】
本工程における加水分解縮合の反応条件は、反応温度20〜120℃、反応時間1〜8時間が好ましく、反応温度20〜100℃、反応時間1〜6時間がより好ましい。
【0045】
工程(A1)で得られる親水性球状シリカ粒子分散体中のシリカ粒子の濃度は2〜20質量%が好ましく、特に3〜10質量%が好ましい。
【0046】
工程(A2):3官能性シラン化合物による表面処理工程
本工程は、工程(A1)で得られた親水性球状シリカ粒子分散体に、下式(III)で表される3官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合物またはこれらの混合物を添加し、該親水性球状シリカ粒子の表面にR7SiO3/2単位を導入する工程である。

7SiX3 (III)
(式中、R7は同一または異なる置換または非置換の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表し、Xは水酸基または加水分解性基を表す。)
【0047】
上式(III)中、R7は、好ましくは炭素原子数1〜4、特に好ましくは炭素原子数1〜2の1価炭化水素基である。R7で表される1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基及びプロピル基であり、特に好ましくは、メチル基及びエチル基である。また、これらの1価炭化水素基の水素原子の一部または全部が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、好ましくは、フッ素原子で置換されていてもよい。
【0048】
Xで表される加水分解性基としては、例えば、ヒドロキシ基、塩素原子、アルコキシ基、アミノ基及びアシルオキシ基等が挙げられ、好ましくは、アルコキシ基及びアミノ基であり、より好ましくはアルコキシ基であり、メトキシ基及びエトキシ基が特に好ましい。
【0049】
上式(III)で表される3官能性シラン化合物としては、例えば、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン等のトリクロロシラン;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン等が挙げられ、好ましくは、メチルトリメトキシシラン及びメチルトリエトキシシランである。
【0050】
上式(III)で表される3官能性シラン化合物の使用量は、親水性球状シリカ粒子のSi原子(上式(II)由来のSi原子)1モルに対して好ましくは0.01〜0.1モル、より好ましくは0.03〜0.08モルである。
【0051】
本工程(A2)では、工程(A1)で得られた親水性球状シリカ粒子分散体に、上式(III)で表される3官能性シラン化合物を添加し、次の反応条件で3官能性シラン化合物による表面処理反応を行う。本工程(A2)における3官能性シラン化合物による表面処理の反応条件は、反応温度40〜60℃、反応時間1〜10時間が好ましく、反応温度50〜60℃、反応時間2〜8時間がより好ましい。
【0052】
工程(A3):1官能性シラン化合物による表面処理工程
本工程は、球状シリカ粒子分散体に、下式(IV)で表されるシラザン化合物、下式(V)で表される1官能性シラン化合物又はこれらの混合物を添加し、該シリカ粒子の表面のシラノール基と反応させることによりR83SiO1/2単位を導入し、疎水性球状シリカ粒子を得る工程である。

83SiNHSiR83 (IV)
83SiX (V)

(式中、R8は同一または異なって置換または非置換の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基を表し、Xは水酸基または加水分解性基を表す。)
【0053】
工程(A3)の原料である球状シリカ粒子分散体としては、例えば以下の球状シリカ粒子分散体を用いることができる。
・上記工程(A1)により得られる親水性球状シリカ粒子分散体
・上記工程(A1)を経た後、更に上記工程(A2)を経ることにより得られる表面処理球状シリカ粒子分散体
・市販されている親水性球状シリカ粒子分散体
市販されている親水性球状シリカ粒子分散体としては、親水性球状シリカ粒子が上述したアルコール類等の親水性溶媒に分散している親水性球状シリカ粒子分散体を用いることができる。市販品を用いる場合は、(A3)工程に付す際に、適当なシリカ粒子濃度となるように、親水性溶媒の添加又は留去を行ない、市販の親水性球状シリカ粒子分散体を希釈又は濃縮して用いてもよい。この場合のシリカ粒子濃度としては、上述した工程(A1)で得られる親水性球状シリカ粒子分散体中のシリカ粒子濃度と同様、2〜20質量%が好ましい。
【0054】
上式(IV)および(V)中、R8は、好ましくは炭素原子数1〜4、特に好ましくは炭素原子数1〜2の1価炭化水素基である。R8で表される1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基及びプロピル基であり、特に好ましくは、メチル基及びエチル基である。また、これらの1価炭化水素基の水素原子の一部または全部が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、好ましくは、フッ素原子で置換されていてもよい。
【0055】
Xで表される加水分解性基としては、上記式(III)におけるXと同様のものが挙げられる。
【0056】
上式(IV)で表されるシラザン化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン等が挙げられ、好ましくはヘキサメチルジシラザンである。上式(V)で表される1官能性シラン化合物としては、例えば、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール等のモノシラノール化合物;トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン等のモノクロロシラン;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン;トリメチルシリルジメチルアミン、トリメチルシリルジエチルアミン等のモノアミノシラン;トリメチルアセトキシシラン等のモノアシルオキシシラン等が挙げられ、好ましくは、トリメチルシラノール、トリメチルメトキシシラン及びトリメチルシリルジエチルアミンであり、特に好ましくは、トリメチルシラノール及びトリメチルメトキシシランである。
【0057】
上式(IV)および(V)で表される化合物の使用量は、球状シリカ粒子のSi原子1モルに対して、好ましくは0.1〜1.5モル、より好ましくは0.2〜1.2モル、特に好ましくは0.3〜1.1モルである。
【0058】
本工程(A3)では、球状シリカ粒子分散体に、上式(IV)で表されるシラザン化合物、上式(V)で表される1官能性シラン化合物又はこれらの混合物を添加し、次の反応条件で1官能性シラン化合物による表面処理反応を行う。本工程(A3)における表面処理の反応条件は、反応温度40〜130℃、反応時間1〜15時間が好ましく、反応温度60〜120℃、反応時間2〜10時間がより好ましい。
【0059】
上記疎水性球状シリカ粒子は、工程(A3)後の疎水性球状シリカ粒子分散体から、常圧乾燥、減圧乾燥等の常法によって粉体として得られる。
【0060】
本工程で得られる疎水性球状シリカ粒子は、体積基準の粒度分布における1次粒子のメジアン径(D50)が5〜250nmであり、D90/D10比が3以下であり、かつ平均円形度が0.8〜1であることが好ましい。
【0061】
なお、上記工程(A2)と上記工程(A3)の間に、疎水性球状シリカ粒子分散体の分散媒をケトン系溶媒に置換する工程を有していてもよい。
本工程は、工程(A2)で得られた表面処理球状シリカ粒子分散体中の水、親水性有機溶媒および縮合によって生じたアルコール等の揮発性副生成物等から構成される分散媒をケトン系溶媒に置換する工程である。
【0062】
ケトン系溶媒の具体例としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等が挙げられ、好ましくはメチルイソブチルケトンである。
【0063】
ケトン系溶媒の添加量は、シリカ粒子の凝集抑制、次工程の表面処理における反応系の濃度の観点から、工程(A2)で得られた表面処理球状シリカ粒子に対して好ましくは重量比で0.5〜5倍量、より好ましくは1〜2倍量用いるのがよい。
【0064】
表面処理球状シリカ粒子分散体中の親水性有機溶媒、水、および縮合によって生じたアルコール等の揮発性副生成物をケトン系溶媒に置換する方法としては、濃縮(大気圧または減圧)、フィルターを用いた限外ろ過などの方法が挙げられる。親水性有機溶媒および水よりも沸点の高いケトン系溶媒を添加し、濃縮する方法が好ましい。
【0065】
工程(A4):第4級塩型シラン化合物による表面処理工程
本工程は、工程(A3)で得られた疎水性球状シリカ粒子に下式(I)で表される第4級塩型シラン化合物を添加し、該疎水性シリカ粒子表面に残存するシラノール基の少なくとも一部と該第4級塩型シラン化合物を反応させる工程である。
【0066】
【化4】
(式中、R1、R2及びR3は、独立に、炭素原子数1〜30の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を表す。R4及びR5は、独立に、水素原子、又は、炭素原子数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基を表し、nは1〜8の整数、pは0、1又は2を表す。X-はアニオン、Y+はカチオンを表す。)
【0067】
上式(I)で表される第4級塩型シラン化合物は上記で挙げられたものと同様のものが使用できる。
【0068】
工程(A4)の表面処理工程は、まず溶媒中に疎水性球状シリカ粒子を分散させる。このとき、溶媒に対する疎水性球状シリカ粒子の添加量は、特に制限されないが、表面処理反応に要する時間と分散性との観点から、好ましくは溶媒100質量部に対して1〜80質量部、特に好ましくは5〜50質量部である。
【0069】
本工程で用いる溶媒は、疎水性球状シリカ粒子が分散し更に第4級塩型シラン化合物が溶解するものが用いられる。例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが挙げられ、この中で、メタノール、エタノールが好ましい。
【0070】
次に、疎水性球状シリカ粒子が溶媒中に分散している中に第4級塩型シラン化合物を添加する。このとき、第4級塩型シラン化合物はそのまま添加してもよいし、上記溶媒に希釈した形で添加してもよい。
【0071】
第4級塩型シラン化合物の添加量は、疎水性球状シリカ粒子100質量部に対して好ましくは1〜50質量部であり、より好ましくは5〜30質量部である。
【0072】
第4級塩型シラン化合物を添加後、次の反応条件で第4級塩型シラン化合物による表面処理反応を行なう。本工程における反応条件は、反応温度20〜80℃、反応時間1〜8時間が好ましく、反応温度20〜60℃、反応時間2〜6時間がより好ましい。
【0073】
反応後は反応溶液から溶媒を適宜除去することにより目的とする正帯電型疎水性球状シリカ粒子を得ることができる。
【0074】
次に、本発明の正帯電トナー組成物について詳細に説明する。
本発明の正帯電トナー組成物は、上述した本発明の正帯電型疎水性球状シリカ粒子をトナー外添剤として含む。この正帯電型疎水性球状シリカ粒子をトナー外添剤として使用する場合の配合量は、トナー100質量部に対して、0.1〜3質量部が好ましく、さらに好ましくは0.3〜2質量部である。このような範囲であれば、トナーへ安定的に正帯電性を付与できる。
【0075】
本発明の正帯電トナー組成物に含まれるトナー粒子としては、結着樹脂と着色剤を主成分として構成される公知のものが使用できる。また、必要に応じて他の外添剤が添加されていてもよい。
【0076】
本発明の正帯電トナー組成物は、トナー組成物の一般的な製造方法により製造することができる。例えば、結着樹脂、着色剤及びその他の添加剤を溶融混合し、粉砕し、分級することにより得られたトナー粒子に、本発明の正帯電型疎水性球状シリカ粒子を混合する方法が挙げられる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、下記の実施例は、本発明を何ら制限するものではない。各合成例および比較合成例で得られたシリカの粒度分布測定および粒子の形状観察は下記の条件で行い、結果を表1に示した。
【0078】
[粒度分布]
シリカ粒子が0.5質量%となるようにシリカ粒子分散体をメタノールで希釈し、超音波を10分間照射した際の粒度分布を、動的光散乱法/レーザードップラー法ナノトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製、UPA−EX150)により測定し、得られた体積基準の粒度分布を基に、メジアン径およびD90/D10比を算出した。
【0079】
[粒子の形状]
電子顕微鏡(日立製作所製、S−4700型、倍率:10万倍)を用いてシリカ粒子の観察を行い、形状を確認した。粒子を二次元に投影した時の円形度を(粒子面積と等しい円の周囲長)/(粒子周囲長)として求め、シリカ粒子10個の円形度の平均値を平均円形度とした。
【0080】
[合成例1]
・工程(A1):親水性球状シリカ粒子の合成工程
攪拌機、滴下ロート及び温度計を備えた3リットルのガラス製反応器に、メタノール989.5g、水135.5g及び28%アンモニア水66.5gを入れて混合した。この溶液を35℃となるように調整し、攪拌しながらテトラメトキシシラン436.5g(2.87モル)を6時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに0.5時間攪拌を継続して加水分解縮合を行うことにより、親水性球状シリカ粒子の分散体を得た。
【0081】
・工程(A2):3官能性シラン化合物による表面処理工程
前記工程(A1)で得られた親水性球状シリカ粒子の分散体に、25℃でメチルトリメトキシシラン4.4g(0.03モル)を0.5時間かけて滴下し、滴下終了後12時間攪拌を継続し、シリカ粒子表面の処理を行った。
【0082】
・工程(A3):1官能性シラン化合物による表面処理工程
ガラス製反応器にエステルアダプターと冷却管とを取り付け、前記工程(A2)で得られた表面処理球状シリカ粒子分散体を60〜70℃に加熱し、分散体中のシリカ粒子含有量が28質量%になるまでメタノールと水の混合物(1,021g)を留去した。ここに、25℃において、ヘキサメチルジシラザン138.4g(0.86モル)を添加した後、50〜60℃に加熱し、9時間反応させることにより、分散体中のシリカ粒子をトリメチルシリル化した。次いで、この分散体中の溶媒を130℃、減圧下(6,650Pa)で留去することにより、疎水性球状シリカ粒子186gを得た。
【0083】
[合成例2]
合成例1の工程(A1)において、メタノールの量を1045.7g、水の量を112.6g、28%アンモニア水の量を33.2gにそれぞれ変更した以外は、合成例1と同様の手順で、疎水性球状シリカ粒子188gを得た。
【0084】
[合成例3]
・工程(A1):親水性球状シリカ粒子の合成工程
撹拌機、滴下ロート及び温度計を備えた3リットルのガラス製反応器に、メタノール623.7g、水41.4g及び28%アンモニア水49.8gを添加して混合した。この溶液を35℃に調整し、撹拌しながらテトラメトキシシラン1,163.7g(7.64モル)および5.4%アンモニア水418.1gを同時に添加開始し、前者は6時間、後者は4時間かけて滴下した。テトラメトキシシラン滴下終了後、0.5時間撹拌を続け加水分解縮合を行いシリカ粒子の分散体を得た。
【0085】
・工程(A2):3官能性シラン化合物による表面処理工程
前記工程(A1)で得られた分散体に25℃でメチルトリメトキシシラン11.6g(0.09モル)を0.5時間かけて滴下し、滴下終了後12時間撹拌しシリカ粒子表面の処理を行った。
【0086】
・分散媒置換工程:
ガラス製反応器にエステルアダプターと冷却管とを取り付け、前記工程(A2)で得られた表面処理シリカ分散体にメチルイソブチルケトン1,440gを添加した後、80〜110℃に加熱しメタノールおよび水を7時間かけて留去した。
【0087】
・工程(A3):前記分散媒置換工程で得られた表面処理シリカのメチルイソブチルケトン分散体に25℃でヘキサメチルジシラザン357.6gを添加し、120℃に加熱し3時間反応させ、シリカ粒子表面をトリメチルシリル化した。その後溶媒を減圧下で留去して疎水性球状シリカ粒子472gを得た。
【0088】
[合成例4]
前記合成例3の工程(A1)において、反応温度を35℃から45℃に変更した以外は合成例3と同様の手順で疎水性球状シリカ粒子469gを得た。
【0089】
[合成例5]
親水性球状シリカ粒子分散体として市販の親水性球状シリカ粒子分散体(日産化学社製IPA−ST−L、粒子径45nm、30質量%イソプロピルアルコール分散体)を340g(シリカ含有量102g(1.7モル))及びイソプロピルアルコール340gを攪拌機、滴下ロート及び温度計を備えた3リットルのガラス製反応器に入れ、25℃でヘキサメチルジシラザン55g(0.34モル)を添加混合した。この溶液を60℃に加熱し8時間反応させ、シリカ表面の疎水化を行った。その後溶媒を常圧下で留去して疎水性球状シリカ粒子110gを得た。
【0090】
[比較合成例1]
攪拌機及び温度計を備えた0.3リットルのガラス製反応器に、爆燃法で製造されたシリカ(商品名:SO−C1、アドマテックス社製)100gを仕込み、純水1gを攪拌下で添加し、密閉後、さらに60℃で10時間攪拌した。次いで、25℃まで冷却した後、ヘキサメチルジシラザン2gを攪拌下で添加し、密閉後、さらに24時間攪拌した。120℃に昇温し、窒素ガスを通気しながら残存原料および生成したアンモニアを除去し、疎水性球状シリカ粒子100gを得た。
【0091】
[比較合成例2]
攪拌機及び温度計を備えた0.3リットルのガラス製反応器に爆燃法で製造されたシリカ(商品名:SO−C1、アドマテックス社製)100gを仕込み、純水1gを攪拌下で添加し、密閉後、さらに60℃で10時間攪拌した。次いで、25℃まで冷却した後、メチルトリメトキシシラン1gを攪拌下で添加し、密閉後、さらに24時間攪拌した。次にヘキサメチルジシラザン2gを攪拌下で添加し、密閉後、さらに24時間攪拌した。120℃に昇温し、窒素ガスを通気しながら残存原料および生成したアンモニアを除去し、疎水性球状シリカ粒子101gを得た。
【0092】
[合成例6]トリ−n−ブチル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライドの合成
窒素置換した300mlフラスコに、トリブチルホスフィン50.78g(0.245モル)を仕込み、125℃まで昇温し、3−クロロプロピルトリメトキシシラン52.16g(0.249モル)を80分間で滴下した。滴下終了後、約130℃で10時間反応を行った。反応の終了は、トリブチルホスフィンと二硫化炭素との呈色反応で確認した。反応終了後、n−ヘキサンで3回洗浄を行った後、溶媒等の低沸不純物の除去のために70℃で2時間、最大5Torrで濃縮を行った。その結果、94.93gの油状物を得た。このものを60MHz1H−NMR、IR(KBr)及びGC−MS(FAB)の各測定により構造解析を行ったところ、トリ−n−ブチル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライドであることを確認した。
【0093】
[合成例7]トリ−n−ヘキシル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライドの合成
窒素置換した300mlフラスコに、トリヘキシルホスフィン58.93g(0.193モル)を仕込み、150℃まで昇温し、3−クロロプロピルトリメトキシシラン42.92g(0.205モル)を80分で滴下した。滴下終了後、約155℃で10時間反応を行った。反応の終了は、トリヘキシルホスフィンと二硫化炭素との呈色反応で確認した。反応終了後、n−ヘキサンで3回洗浄を行った後、溶媒等の低沸不純物の除去のために70℃で2時間、最大5Torrで濃縮を行った。その結果、90.10gの油状物を得た。このものを60MHz1H−NMR、IR(KBr)及びGC−MS(FAB)の各測定により構造解析を行ったところ、トリ−n−ヘキシル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライドであることを確認した。
【0094】
[合成例8]トリ−n−オクチル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライドの合成
窒素置換した300mlフラスコに、トリオクチルホスフィン71.41g(0.179モル)を仕込み、185℃まで昇温し、3−クロロプロピルトリメトキシシラン39.33g(0.188モル)を約80分で滴下した。滴下終了後、190℃で10時間反応を行った。反応の終了は、トリオクチルホスフィンと二硫化炭素との呈色反応で確認した。反応終了後、n−ヘキサンで3回洗浄を行った後、溶媒等の低沸不純物の除去のために70℃で2時間、最大5Torrで濃縮を行った。その結果、92.61gの油状物を得た。このものを60MHz1H−NMR、IR(KBr)及びGC−MS(FAB)の各測定により構造解析を行ったところ、トリ−n−オクチル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライドであることを確認した。
【0095】
[実施例1]
攪拌機、滴下ロート及び温度計を備えた1リットルのガラス製反応器に、メタノール400g及び前記合成例1で得られた疎水性球状シリカ粒子100gを添加し、25℃で攪拌しながらn−オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド(50wt%メタノール溶液、富士フイルム和光純薬(株)製)20gを30分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに6時間攪拌を継続した。その後溶媒を常圧下で留去して正帯電型疎水性球状シリカ粒子106gを得た。
【0096】
[実施例2]
実施例1において、疎水性球状シリカ粒子を前記合成例2で得られたものに変えたこと以外は同様にして、正帯電型疎水性球状シリカ粒子107gを得た。
【0097】
[実施例3]
実施例1において、疎水性球状シリカ粒子を前記合成例3で得られたものに変えたこと以外は同様にして、正帯電型疎水性球状シリカ粒子106gを得た。
【0098】
[実施例4]
実施例3において、n−オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド(50wt%メタノール溶液)20gを60gに変えたこと以外は同様にして、正帯電型疎水性球状シリカ粒子128gを得た。
【0099】
[実施例5]
実施例1において、疎水性球状シリカ粒子を前記合成例4で得られたものに変えたこと以外は同様にして、正帯電型疎水性球状シリカ粒子108gを得た。
【0100】
[実施例6]
実施例1において、n−オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド(50wt%メタノール溶液)20gを合成例6で得られたトリ−n−ブチル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライド10gに変えたこと以外は同様にして、正帯電型疎水性球状シリカ粒子109gを得た。
【0101】
[実施例7]
実施例3において、n−オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド(50wt%メタノール溶液)20gを合成例6で得られたトリ−n−ブチル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライド10gに変えたこと以外は同様にして、正帯電型疎水性球状シリカ粒子109gを得た。
【0102】
[実施例8]
攪拌機、滴下ロート及び温度計を備えた1リットルのガラス製反応器に、メタノール400g及び前記合成例5で得られた疎水性球状シリカ粒子100gを添加し、25℃で攪拌しながら合成例6で得られたトリ−n−ブチル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライド10gを30分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに6時間攪拌を継続した。その後溶媒を常圧下で留去して正帯電型疎水性球状シリカ粒子108gを得た。
【0103】
[実施例9]
実施例1において、n−オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド(50wt%メタノール溶液)20gを合成例7で得られたトリ−n−ヘキシル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライド10gに変えたこと以外は同様にして、正帯電型疎水性球状シリカ粒子108gを得た。
【0104】
[実施例10]
実施例1において、n−オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド(50wt%メタノール溶液)20gを合成例8で得られたトリ−n−オクチル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライド10gに変えたこと以外は同様にして、正帯電型疎水性球状シリカ粒子109gを得た。
【0105】
[比較例1]
実施例1において、疎水性球状シリカ粒子を前記比較合成例1で得られたものに変えたこと以外は同様にして、正帯電型疎水性球状シリカ粒子105gを得た。
【0106】
[比較例2]
比較例1において、n−オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド(50wt%メタノール溶液)20gをトリ−n−ブチル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライド10gに変えたこと以外は同様にして、正帯電型疎水性球状シリカ粒子108gを得た。
【0107】
[比較例3]
実施例1において、疎水性球状シリカ粒子を前記比較合成例2で得られたものに変えたこと以外は同様にして、正帯電型疎水性球状シリカ粒子106gを得た。
【0108】
[比較例4]
比較例3において、n−オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド(50wt%メタノール溶液)20gをトリ−n−ブチル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライド10gに変えたこと以外は同様にして、正帯電型疎水性球状シリカ粒子109gを得た。
【0109】
[比較例5]
攪拌機、滴下ロート及び温度計を備えた1リットルのガラス製反応器に、メタノール400mlを入れ、次いで前記合成例6で得られたトリ−n−ブチル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライド4g、メタノールシリカゾル(日産化学工業(株)製、SiO230質量%、メジアン径11nm、D90/D10比3.30、平均円形度0.80)66.6g(SiO2含有量20g)、及びテトラエトキシシラン(信越化学工業(株)製)10mlを入れ攪拌混合した。次いで、十分に攪拌混合しながら25℃で25質量%アンモニア水20mlを添加した。次に25℃で5時間攪拌し反応を行って透明な反応液を得た。反応終了後、反応液を減圧下に50℃で蒸留し溶媒を除去し、残渣として正帯電型疎水性球状シリカ粒子23gを得た。
【0110】
[比較例6]
攪拌機、滴下ロート及び温度計を備えた1リットルのガラス製反応器に、トルエン100ml、n−オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド(50wt%メタノール溶液、富士フイルム和光純薬(株)製)20g及び3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)5gを入れ撹拌し溶解させた後、コロイダルシリカ(NipsilE−200;日本シリカ社製、メジアン径300nm、D90/D10比2.98、平均円形度0.84)100gを浸漬させた。この混合物を撹拌した後、120℃で加熱、乾燥を行い、さらにピンミルを用いて解砕し、正帯電型疎水性球状シリカ粒子111gを得た。
【0111】
[比較例7]
比較例6において、n−オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド(50wt%メタノール溶液)20gをトリ−n−ブチル[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]ホスホニウムクロライド10gに変えたこと以外は同様にして、正帯電型疎水性球状シリカ粒子113gを得た。
【0112】
[比較例8]
攪拌機、滴下ロート及び温度計を備えた1リットルのガラス製反応器に、メタノール400g及び前記合成例1で得られた疎水性球状シリカ粒子100gを添加し、25℃で攪拌しながら3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、商品名KBM−903)10gを10分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに6時間攪拌を継続した。その後溶媒を常圧下で留去して正帯電型疎水性球状シリカ粒子105gを得た。
【0113】
【表1】
【0114】
上記実施例及び比較例で合成したシリカ粒子を用いてトナーを作製し、トナー帯電量の測定、画像特性及び像流れ(カブリ性)の評価を行った。
[トナー帯電量]
スチレン/アクリル樹脂を粉砕分級して得た平均粒径8.2μmのモデルトナー1g及び標準キャリアP-01(日本画像学会配布)19gを量り込んだ100mLポリエチレン瓶に、実施例1〜7及び比較例1〜7で作製した正帯電型疎水性球状シリカ粒子をそれぞれ0.01g量りとった。このようにして調製されたサンプルを、日本画像学会標準のトナーの帯電量測定基準(日本画像学会誌、37、461(1998))にしたがって調湿、混合を行い、混合時間を変えた時のトナー帯電量を測定した。なお、混合にはペイントコンディショナー(東洋精機製)を用い、トナー帯電量測定にはブローオフ帯電量測定装置(東芝ケミカル製、商品名:TB203)を用いた。測定は、温度20℃〜26℃、湿度45%RH〜55%RHの条件で行った。結果を表2に示す。
【0115】
また、以下の配合組成となるように、スチレン/アクリル樹脂と、磁性粉と、電荷制御剤と、ワックスとを、二軸押出機にて溶融混練した。これを冷却した後、粉砕および分級を行い、平均粒子径が8μmのトナー粒子を得た。
トナーの配合組成
スチレン/アクリル樹脂 100質量部
磁性粉(BL−200;チタン工業(株)製) 75質量部
電荷制御剤(TP−415;保土ヶ谷化学(株)製) 4質量部
ワックス(ビスコールTS−200;三洋化成工業(株)製) 4質量部
また、得られたトナー粒子の粒度分布を測定し、5〜13μmの粒子径の範囲内に、全体の80重量%以上が分布していることを確認した。
このトナー100質量部に対し、上記正帯電型疎水性球状シリカ粒子(実施例1〜7、比較例1〜7)0.5質量部を外添して正帯電トナーを作製した。そして、京セラ製ページプリンタ(FS−3750)を用い、正帯電トナーの画像特性および像流れ(カブリ性)を評価した。なお、耐刷印字パターンとしては、2%印字原稿を使用した。結果を表3に示す。
【0116】
[画像特性]
得られた正帯電トナーを用いて、京セラ製ページプリンタ(FS−3750)により20万枚実印字し、以下の基準から、初期画像特性、印刷後の画像特性、および高温高湿条件での画像特性の評価を行った。
初期画像特性(表3において「初期」と表記)は、通常環境(20℃、65%RH)にて、画像評価パターンを印字して初期画像とし、画像評価パターンであるソリッド画像濃度を、マクベス反射濃度計を用いて測定し評価した。
また、印刷後の画像特性(表3において「20万枚」と表記)は、通常環境(20℃、65%RH)にて、20万枚印刷後の画像特性を初期画像特性と同様に測定して、評価した。
さらに、高温高湿条件での画像特性(表3において「高温高湿」と表記)は、高温高湿条件(33℃、85%RH)にて、画像評価パターンを印字し、画像特性を初期画像特性と同様に測定して、評価した。

評価基準
◎:画像濃度が、1.35以上の値である。
○:画像濃度が、1.3 以上1.35未満の値である。
△:画像濃度が、1.2 以上1.3 未満の値である。
×:画像濃度が、1.2 未満の値である。
【0117】
[カブリ性]
得られた正帯電トナーを用いて、画像特性の評価と同様に、京セラ製ページプリンタ(FS−3750)により20万枚実印字し、以下の基準から、初期カブリ性、印刷後のカブリ性、および高温高湿条件でのカブリ性(地肌カブリ)の評価を行った。

評価基準
○:カブリを全く生じていない。
△:ややカブリを生じている。
×:顕著なカブリを生じている。
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【0120】
以上の結果から、本発明の正帯電型疎水性球状シリカ粒子を用いることにより、トナーに所望の正帯電極性と帯電量を付与し、これを長期にわたって安定維持できることがわかった。