特許第6962322号(P6962322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962322
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】近赤外線カットフィルタガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 4/08 20060101AFI20211025BHJP
   C03C 3/247 20060101ALI20211025BHJP
   C03C 3/23 20060101ALI20211025BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   C03C4/08
   C03C3/247
   C03C3/23
   G02B5/22
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-529869(P2018-529869)
(86)(22)【出願日】2017年7月24日
(86)【国際出願番号】JP2017026641
(87)【国際公開番号】WO2018021223
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2020年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-150156(P2016-150156)
(32)【優先日】2016年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 信夫
(72)【発明者】
【氏名】坂上 貴尋
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−202644(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/058185(WO,A1)
【文献】 特開2014−012630(JP,A)
【文献】 特開2014−101255(JP,A)
【文献】 特表2015−522500(JP,A)
【文献】 特開平05−105865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン成分としてP及びCuを必須で含有し、
アニオン成分としてCl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記Cuの含有量はカチオン%で0.5〜25%であり、かつ
結晶を含有し、
酸化物基準の質量%表示で
:35〜75%
Al:5〜15%
O:3〜30%(但し、ROはLiO、NaO及びKOの合量を表す。)
R’O:3〜35%(但し、R’OはMgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOの合量を表す。)
CuO:0.5〜20%
を含有することを特徴とする近赤外線カットフィルタガラス。
【請求項2】
カチオン成分としてP及びCuを必須で含有し、
アニオン成分としてCl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記Cuの含有量はカチオン%で0.5〜25%であり、かつ
結晶を含有し、
カチオン%で
5+:20〜50%
Al3+:5〜20%
:15〜40%(但し、RはLi、Na、及びKの合量を表す。)
R’2+:5〜30%(但し、R’2+はMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、及びZn2+の合量を表す。)
Cu2+とCuの合量:0.5〜25%
アニオン%で
:10〜70%
を含有することを特徴とする近赤外線カットフィルタガラス。
【請求項3】
前記Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種の含有量が、アニオン%で0.01〜20%であることを特徴とする請求項1または2に記載の近赤外線カットフィルタガラス。
【請求項4】
前記結晶は、CuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種の結晶を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタガラス。
【請求項5】
カチオン成分としてAgを含有し、
前記Agの含有量がカチオン%で0.01〜5%であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項記載の近赤外線カットフィルタガラス。
【請求項6】
波長450nmの光の透過率が、80%以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルスチルカメラやカラービデオカメラなどの色補正フィルタに使用され、特に可視域の光の透過性に優れた近赤外線カットフィルタガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ等に使用されるCCDやCMOSなどの固体撮像素子は、可視領域から1200nm付近の近赤外領域にわたる分光感度を有している。したがって、そのままでは良好な色再現性を得ることができないので、赤外線を吸収する特定の物質が添加された近赤外線カットフィルタガラスを用いて視感度を補正している。この近赤外線カットフィルタガラスは、近赤外域の波長を選択的に吸収し、かつ高い耐候性を有するように、フツリン酸塩系ガラスにCuOを添加した光学ガラスが開発され使用されている。これらガラスとしては、特許文献1〜特許文献4に組成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−219037号公報
【特許文献2】特開2004−83290号公報
【特許文献3】特開2004−137100号公報
【特許文献4】国際公開第2015/156163号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固体撮像素子を用いたカメラ等は、小型化・薄型化が進展している。それに伴い撮像デバイス及びその搭載機器も同様に小型化・薄型化が求められている。フツリン酸塩系ガラスにCuOを添加した近赤外線カットフィルタガラスを薄板化する場合、光学特性に影響を与えるCu成分の濃度を高める必要がある。しかしながら、ガラス中のCu成分の濃度を高めると、近赤外線側の光学特性は所望となるものの、可視域の光の透過率が低下してしまうという問題があった。
【0005】
Cu成分の中でも、Cu2+は近赤外線カットの効果を有しているが、Cuは青色の強度を弱める(可視光の中で、青色の波長の光のみを選択的に吸収する)作用がある。撮像素子の用途に用いる場合、可視光のうち特定の波長のみ透過率が低いと撮像画像への影響が大きく好ましくない。特許文献4では、Cuの量を抑制する方法を検討しているが、溶融ガラスの酸化還元を厳密に制御したとしても、Cuの量を完全に抑制することは難しかった。
【0006】
本発明は、近赤外線カット用のフィルタガラスにおいて、フィルタガラスの薄板化に伴いフィルタガラス中のCu成分の濃度が高くなっても、可視域の光の透過率が高い近赤外線カットフィルタガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、P及びCuを必須成分として含有するフィルタガラス中にCl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含有し、該フィルタガラスが結晶を含有することで、耐失透性及び光学特性が従来より優れた近赤外線カットフィルタガラスが得られることを見出した。
【0008】
本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、カチオン成分としてP及びCuを必須で含有し、アニオン成分としてCl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含有し、前記Cuの含有量はカチオン%で0.5〜25%であり、かつ結晶を含有することを特徴とする。
【0009】
本発明の近赤外線カットフィルタガラスにおいては、前記Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種の含有量が、アニオン%で0.01〜20%であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の近赤外線カットフィルタガラスにおいては、前記結晶は、CuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種の結晶を含むことが好ましい。
【0011】
また、本発明の近赤外線カットフィルタガラスにおいては、カチオン成分としてAgを含有し、前記Agの含有量がカチオン%で0.01〜5%であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の近赤外線カットフィルタガラスにおいては、酸化物基準の質量%表示で
:35〜75%
Al:5〜15%
O:3〜30%(但し、ROはLiO、NaO及びKOの合量を表す。)
R’O:3〜35%(但し、R’OはMgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOの合量を表す。)
CuO:0.5〜20%
を含有することが好ましい。
【0013】
また、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、
カチオン%で
5+:20〜50%
Al3+:5〜20%
:15〜40%(但し、RはLi、Na、及びKの合量を表す。)
R’2+:5〜30%(但し、R’2+はMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、及びZn2+の合量を表す。)
Cu2+とCuの合量:0.5〜25%
アニオン%で
:10〜70%
を含有することが好ましい。
【0014】
また、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、波長450nmの光の透過率が、80%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可視域の光の透過率が高く近赤外の光の透過率が低い光学特性に優れた近赤外線カットフィルタガラスを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の近赤外線カットフィルタガラス(以下、単に「フィルタガラス」ともいう。)は、カチオン成分としてP及びCuを必須で含有し、アニオン成分としてCl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含有し、前記Cuをカチオン%で0.5〜25%含有するフィルタガラスであって、前記フィルタガラス中に結晶を含有することを特徴とする。
【0017】
すなわち、本発明のフィルタガラスは、ガラスと結晶からなる。本発明のフィルタガラスにおいて、ガラスは非晶質成分であり、フィルタガラスを主体として構成する。また、結晶はガラス中の含有成分が結晶としてガラス中に析出した結晶が好ましい。本明細書において、各成分の含有量はフィルタガラス中の含有量を示す。また、以下の説明において、単に「ガラス」という場合は、フィルタガラス中の非晶質成分としてのガラスを意味する。
【0018】
Pは、ガラスを形成する主成分(ガラス形成酸化物)であり、フィルタガラスの近赤外領域のカット性を高めるための必須成分である。Pはガラス中に、例えばP5+として含有される。
【0019】
また、Cuは、近赤外線カットための必須成分である。Cuはガラス中に、例えばCu2+、Cu+として含有される。フィルタガラス中のCuの含有量が0.5%未満であるとフィルタガラスの肉厚を薄くした際にその効果が十分に得られず、25%を超えると可視域透過率が低下するため好ましくない。Cuの含有量は、好ましくは0.5〜19%、より好ましくは0.6〜18%、さらに好ましくは0.7〜17%である。なお、Cuの含有量とは、ガラス中のCu2+、Cu、および結晶中のCu成分の合計量をいうものである。
【0020】
本発明のフィルタガラスは、アニオン成分としてCl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含有する。Cl、Br及びIは組み合わせて2種類以上含有してもよい。Cl、Br及びIは、ガラス中に、それぞれCl、Br、及びIとして含有される。フィルタガラス中のCl、Br及びIの含有量は、アニオン%の合量で、0.01〜20%であることが好ましい。Cl、Br及びIの含有量が0.01%未満では結晶が析出しにくく、20%を超えると、揮発性が高くなり、ガラス中の脈理が増加するおそれがあるため好ましくない。フィルタガラス中のCl、Br及びIの含有量は合量で、0.01〜15%がより好ましく、0.02〜10%がさらに好ましい。
【0021】
Cl、Br、Iは、ガラス中のCuと反応し、ClはCuCl、BrはCuBr、IはCuIを形成する。これらの成分により、得られるフィルタガラスにおいて、近紫外域の光をシャープにカットすることが可能となる。Cl、Br、Iは近紫外域の光をシャープにカットしたい波長に合わせて、適宜選択できる。
【0022】
本発明のフィルタガラスが含有する結晶は、CuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種の結晶を含むことが好ましい。すなわち、フィルタガラスが含有するCuCl、CuBr、CuIは、結晶として析出していることが好ましい。CuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種が結晶の状態で析出していることで、紫外域の光のシャープカット性を高めることができる。
【0023】
本発明のフィルタガラスは、カチオン成分として、Agを含有することが好ましい。Agは、Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種と結びつき、ハロゲン化銀(例えばAgCl)を析出する。この場合、AgClは、結晶核として作用し、CuClの結晶を析出しやすくする作用がある。フィルタガラス中のAgの含有量は、カチオン%として0.01〜5%であることが好ましい。0.01%未満であると、結晶を析出する作用が十分に得られない。また、5%を超えると、Agコロイドが形成され、可視光の透過率が低下するため好ましくない。
【0024】
また、フィルタガラス中にハロゲン化銀以外の結晶核となる成分を析出もしくは導入して、CuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種の結晶を析出させてもよい。
【0025】
なお、本発明のフィルタガラスにおける結晶成分は、主としてCuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種からなり、AgとCl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種が結合した結晶核やそれ以外の結晶核を含んでいてもよい。
【0026】
次に、本発明のフィルタガラスについて、2つの実施形態のフィルタガラス、すなわちリン酸ガラスと結晶からなる実施形態1のフィルタガラス及びフツリン酸ガラスと結晶からなる実施形態2のフィルタガラスを例に説明する。
【0027】
<実施形態1のフィルタガラス>
本発明の実施形態1のフィルタガラスは、酸化物基準の質量%表示で
:35〜75%
Al:5〜15%
O:3〜30%(但し、ROはLiO、NaO及びKOの合量を表す。)
R’O:3〜35%(但し、R’OはMgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOの合量を表す。)
CuO:0.5〜20%
を含有する。
【0028】
実施形態1のフィルタガラスは、Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含有する。実施形態1のフィルタガラスにおけるCl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種の含有量及び含有形態は上記のとおりである。本発明の実施形態1のフィルタガラスを構成する各成分の含有量を上記のように限定した理由を以下に説明する。以下の説明において、実施形態1のフィルタガラスの含有成分の含有量「%」は、特に断りのない限り酸化物基準の質量%である。
【0029】
は、ガラスを形成する主成分(ガラス形成酸化物)であり、フィルタガラスの近赤外領域のカット性を高めるための必須成分であるが、35%未満ではその効果が十分得られず、75%を超えるとガラスが不安定になり、耐候性が低下し、また光学ガラス中のCl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種の残存量が低下し、結晶が十分に析出しないため好ましくない。Pの含有量は、好ましくは38〜73%、より好ましくは40〜72%である。
【0030】
Alは、ガラスを形成する主成分(ガラス形成酸化物)であり、耐候性を高めるなどのための必須成分であるが、5%未満ではその効果が十分得られず、15%を超えるとガラスが不安定になり、またフィルタガラスの近赤外線カット性が低下するため好ましくない。Alの含有量は、好ましくは5.5〜12%、より好ましくは6〜10%である。
【0031】
O(但し、ROはLiO、NaO及びKOの合量を表す。)は、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分であるが、3%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが不安定になるため好ましくない。ROの含有量は、好ましくは5〜28%、より好ましくは6〜25%である。なお、ROはLiO、NaO及びKOの合量、つまり、LiO+NaO+KOであることをいう。また、ROは、LiO、NaO及びKOから選ばれる1種または2種以上であり、2種以上の場合いかなる組合せであってもよい。
【0032】
LiOは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。LiOを含有する場合、15%を超えるとガラスが不安定になるため好ましくない。LiOの含有量は、好ましくは、0〜10%、より好ましくは、0〜8%である。
【0033】
NaOは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。NaOを含有する場合25%を超えるとガラスが不安定になるため好ましくない。NaOの含有量は、好ましくは0〜22%、より好ましくは0〜20%である。
【0034】
Oは、必須成分ではないが、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、などのための成分である。KOを含有する場合25%を超えるとガラスが不安定になる、熱膨張率が著しく大きくなるため好ましくない。KOの含有量は、好ましくは0〜20%、より好ましくは0〜15%である。
【0035】
R’O(但し、R’OはMgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOの合量を表す。)は、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させる、ガラスの強度を高めるなどのための必須成分である。3%未満ではその効果が十分得られず、35%を超えるとガラスが不安定になる、フィルタガラスの近赤外線カット性が低下する、ガラスの強度が低下するなどのため好ましくない。R’Oの含有量は、好ましくは3.5〜32%、より好ましくは4〜30%、である。なお、R’OはMgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOの合量、つまり、R’OはMgO+CaO+SrO+BaO+ZnOであることをいう。また、R’Oは、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選ばれる1種または2種以上であり、2種以上の場合いかなる組合せであってもよい。
【0036】
MgOは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスの強度を高めるなどのための成分である。しかし、MgOはガラスを不安定にし、失透しやすくする傾向があり、特にCuの含有量を高く設定する必要がある場合には含有しないことが好ましい。MgOを含有する場合、5%を超えるとガラスが極端に不安定になる、フィルタガラスの近赤外線カット性が低下するため好ましくない。MgOの含有量は、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜2%である。
【0037】
CaOは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させる、ガラスの強度を高めるなどのための成分である。CaOを含有する場合、10%を超えるとガラスが不安定となり失透しやすくなる、フィルタガラスの近赤外線カット性が低下するため好ましくない。CaOの含有量は好ましくは0〜7%、より好ましくは0〜5%である。
【0038】
SrOは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。SrOを含有する場合、15%を超えるとガラスが不安定となり失透しやすくなる、フィルタガラスの近赤外線カット性が低下するため好ましくない。SrOの含有量は、好ましくは0〜12%、より好ましくは0〜10%である。
【0039】
BaOは、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。BaOを含有する場合、30%を超えるとガラスが不安定となり失透しやすくなる、フィルタガラスの近赤外線カット性が低下するため好ましくない。BaOの含有量は、好ましくは0〜27%、より好ましくは0〜25%である。
【0040】
ZnOは、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスの化学的耐久性を高めるなどの効果がある。ZnOを含有する場合10%を超えるとガラスが不安定となり失透しやすくなる、ガラスの溶解性が悪化するため好ましくない。ZnOの含有量は好ましくは0〜8%、より好ましくは0〜5%である。
【0041】
CuOは、近赤外線カットための必須成分である。フィルタガラス中のCuOの含有量が0.5%未満であるとフィルタガラスの肉厚を薄くした際にその効果が十分に得られず、20%を超えるとフィルタガラスの可視域透過率が低下するため好ましくない。CuOの含有量は、好ましくは0.8〜19%、より好ましくは1.0〜18%である。
【0042】
なお、実施形態1のフィルタガラスにおけるCuのカチオン%での含有量は、上記のとおり0.5〜25%であり、好ましい含有量も上記のとおりである。また、上記Cl、Br、Iが、それぞれCuCl、CuBr、CuIを形成している場合、フィルタガラス中のCuのカチオン%は、該ハロゲン化銅におけるCu成分とその他のCu成分の合計含有量である。
【0043】
実施形態1のフィルタガラスは、任意成分としてSbを0〜3%含有してもよい。Sbは、必須成分ではないものの、フィルタガラスの可視域透過率を高める効果がある。Sbを含有する場合、3%を超えるとガラスの安定性が低下するため好ましくない。Sbの含有量は、好ましくは0〜2.5%、より好ましくは0〜2%である。
【0044】
実施形態1のフィルタガラスは、さらに、任意成分としてSiO、SO、B等のリン酸ガラスが通常含有するその他の成分を本発明の効果を損なわない範囲で含有できる。これらの成分の含有量は合計で3%以下が好ましい。
【0045】
また、実施形態1のフィルタガラスは、上記のとおり結晶を含有し、好ましくは、CuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種の結晶を含有するものである。なお、実施形態1のフィルタガラスにおける結晶成分の含有量は、フィルタガラスの結晶化度として上記と同様の範囲が好ましい。
【0046】
実施形態1のフィルタガラスは、さらに、任意成分としてAgを含有してもよい。実施形態1のフィルタガラスにおけるAgの含有量及び含有形態は上記のとおりである。
【0047】
<実施形態2のフィルタガラス>
実施形態2のフィルタガラスは、
カチオン%で
5+:20〜50%
Al3+:5〜20%
:15〜40%(但し、RはLi、Na、及びKの合量を表す。)
R’2+:5〜30%(但し、R’2+はMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、及びZn2+の合量を表す。)
Cu2+とCuの合量:0.5〜25%
アニオン%で
:10〜70%
を含有することを特徴とする。
【0048】
本明細書において、「カチオン%」および「アニオン%」とは、以下のとおりの単位である。まず、フィルタガラスの構成成分をカチオン成分とアニオン成分とに分ける。そして、「カチオン%」とは、フィルタガラス中に含まれる全カチオン成分の合計含有量を100モル%としたときに、各カチオン成分の含有量を百分率で表記した単位である。「アニオン%」とは、フィルタガラス中に含まれる全アニオン成分の合計含有量を100モル%としたときに、各アニオン成分の含有量を百分率で表記した単位である。
【0049】
実施形態2のフィルタガラスは、F以外にアニオン成分として、O2−を含有し、Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種を含有する。実施形態2のフィルタガラスにおける、O2−の含有量は以下のとおりであり、Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種の含有量及び含有形態は上記のとおりである。
【0050】
本発明の実施形態2のフィルタガラスを構成する各成分の含有量(カチオン%、アニオン%表示)を上記のように限定した理由を以下に説明する。以下の説明において、実施形態2のフィルタガラスの含有成分の含有量「%」は、特に断りのない限りカチオン成分についてはカチオン%であり、アニオン成分についてはアニオン%である。
【0051】
(カチオン成分)
5+は、ガラスを形成する主成分(ガラス形成酸化物)であり、フィルタガラスの近赤外領域のカット性を高めるための必須成分であるが、20%未満ではその効果が十分得られず、50%を超えるとガラスが不安定になり、耐候性が低下するため好ましくない。P5+の含有量は、好ましくは20〜48%、より好ましくは21〜46%、さらに好ましくは22〜44%である。
【0052】
Al3+は、ガラスを形成する主成分(ガラス形成酸化物)であり、耐候性を高めるなどのための必須成分であるが、5%未満ではその効果が十分得られず、20%を超えるとガラスが不安定になり、またフィルタガラスの近赤外線カット性が低下するため好ましくない。Al3+の含有量は、好ましくは6〜18%、より好ましくは6.5〜15%、さらに好ましくは7〜13%である。
【0053】
(但し、RはLi、Na及びKの合量を表す。)は、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための必須成分であるが、15%未満ではその効果が十分得られず、40%を超えるとガラスが不安定になるため好ましくない。Rの含有量は、好ましくは15〜38%、より好ましくは16〜37%、さらに好ましくは17〜36%である。なお、Rは、Li、Na、及びKの合量、つまり、Li+Na+Kであることをいう。また、Rは、Li、Na及びKから選ばれる1種または2種以上であり、2種以上の場合いかなる組合せであってもよい。
【0054】
Liは、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための必須成分である。5%未満ではその効果が十分得られず、40%を超えるとガラスが不安定になるため好ましくない。Liの含有量は、好ましくは、8〜38%、より好ましくは、10〜35%、さらに好ましくは15〜30%である。
【0055】
Naは、必須成分ではないが、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。Naを含有する場合、5%未満ではその効果が十分得られず、40%を超えるとガラスが不安定になるため好ましくない。Naの含有量は、好ましくは5〜35%、より好ましくは6〜30%である。
【0056】
は、必須成分ではないが、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、などのための成分である。Kを含有する場合、0.1%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが不安定になるため好ましくない。Kの含有量は、好ましくは0.5〜25%、より好ましくは0.5〜20%である。
【0057】
R’2+(但し、但し、R’2+はMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、及びZn2+の合量を表す。)は、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させる、ガラスの強度を高めるなどのための必須成分である。5%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが不安定になる、フィルタガラスの近赤外線カット性が低下する、ガラスの強度が低下するなどのため好ましくない。R’2+の含有量は、好ましくは5〜28%、より好ましくは7〜25%、さらに好ましくは9〜23%である。なお、R’2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、及びZn2+の合量、つまり、Mg2++Ca2++Sr2++Ba2++Zn2+であることをいう。また、R’2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+及びZn2+から選ばれる1種または2種以上であり、2種以上の場合いかなる組合せであってもよい。
【0058】
Mg2+は、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスの強度を高めるなどのための成分である。しかし、Mg2+はガラスを不安定にし、失透しやすくする傾向があり、Mg2+を含有する場合、1%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが極端に不安定になる、ガラスの溶解温度が上がるなどのため好ましくない。Mg2+の含有量は、好ましくは1〜25%、より好ましくは1〜20%である。
【0059】
Ca2+は、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させる、ガラスの強度を高めるなどのための成分である。Ca2+を含有する場合、1%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが不安定となり失透しやすくなるため好ましくない。Ca2+の含有量は、好ましくは1〜25%、より好ましくは1〜20%である。
【0060】
Sr2+は、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。Sr2+を含有する場合、1%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが不安定となり失透しやすくなる、ガラスの強度が低下するため好ましくない。Sr2+の含有量は、好ましくは1〜25%、より好ましくは1〜20%である。
【0061】
Ba2+は、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。Ba2+を含有する場合、0.1%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが不安定となり失透しやすくなる、ガラスの強度が低下するため好ましくない。Ba2+の含有量は、好ましくは1〜25%、より好ましくは1〜20%である。
【0062】
Zn2+は、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスの化学的耐久性を高めるなどの効果がある。Zn2+を含有する場合、1%未満ではその効果が十分得られず、30%を超えるとガラスが不安定となり失透しやすくなる、ガラスの溶解性が悪化するため好ましくない。Zn2+の含有量は、好ましくは1〜25%、より好ましくは1〜20%である。
【0063】
実施形態2のフィルタガラスにおけるカチオン成分としてのCuの含有量、すなわちCu2+とCuの合計の含有量は、上記ハロゲン化銅におけるCu成分と、その他のCu成分の合計量である。具体的には、Cuの含有量は、上記のとおり0.5〜25%であり、好ましい含有量も上記のとおりである。
【0064】
Cu2+は、近赤外線カットための必須成分であり、含有量は0.1%以上25%未満が好ましい。該含有量が0.1%未満であるとフィルタガラスの肉厚を薄くした際にその効果が十分に得られず、25%以上であるとフィルタガラスの可視域透過率が低下するため、またCuを含有できないため好ましくない。Cu2+の含有量は、好ましくは0.2〜24%、より好ましくは0.3〜23%、さらに好ましくは0.4〜22%である。
【0065】
Cuは、Cl、Br、Iと反応しハロゲン化銅結晶として析出することで、フィルタガラスに紫外線をシャープカットする効果を付与することができる。Cuの含有量は0.1〜15%が好ましい。該含有量が0.1%未満であるとその効果が十分に得られず、15%を超えるとフィルタガラスの青色の強度を弱めるため好ましくない。Cuの含有量は、好ましくは0.2〜13%、より好ましくは0.3〜12%、さらに好ましくは0.4〜11%である。
【0066】
実施形態2のフィルタガラスは、任意のカチオン成分としてSb3+を0〜1%含有してもよい。Sb3+は、必須成分ではないものの、フィルタガラスの可視域透過率を高める効果がある。Sb3+を含有する場合、1%を超えるとガラスの安定性が低下するため好ましくない。Sb3+の含有量は、好ましくは0.01〜0.8%、より好ましくは0.05〜0.5%、さらに好ましくは、0.1〜0.3%である。
【0067】
実施形態2のフィルタガラスは、さらに任意のカチオン成分として、Si、B等のフツリン酸ガラスが通常含有するその他の成分を本発明の効果を損なわない範囲で含有できる。これらの成分の含有量は合計で5%以下が好ましい。
【0068】
(アニオン成分)
2−は、ガラスを安定化させるため、フィルタガラスの可視域透過率を高めるため、強度や硬度や弾性率といった機械的特性を高めるため、紫外線透過率を低下させるための必須成分であり、含有量は30〜90%が好ましい。O2−の含有量が、30%未満であるとその効果が十分得られず、90%を超えるとガラスが不安定となるため、耐候性が低下するため好ましくない。O2−の含有量は、より好ましくは30〜80%、さらに好ましくは30〜75%である。
【0069】
は、ガラスを安定化させるため、耐候性を向上させるための必須成分であるが、10%未満であるとその効果が十分得られず、70%を超えるとフィルタガラスの可視域透過率が低下する、強度や硬度や弾性率といった機械的特性が低下する、揮発性が高くなり脈理が増加するなどのおそれがあるため好ましくない。Fの含有量は、好ましくは10〜50%、より好ましくは13〜40%である。
【0070】
本発明の実施形態2のフィルタガラスは、F成分を必須含有するため、耐候性に優れている。具体的には、雰囲気中の水分との反応によるフィルタガラス表面の変質や透過率の減少を抑制することができる。耐候性の評価は、例えば高温高湿槽を用いて、光学研磨したフィルタガラスサンプルを65℃、相対温度90%の高温高湿槽中に1000時間保持する。そして、フィルタガラス表面のヤケ状態を目視観察して評価することができる。また、高温高湿槽に投入する前のフィルタガラスの透過率と高温高湿槽中に1000時間保持した後のフィルタガラスの透過率とを比較して評価することもできる。
【0071】
実施形態2のフィルタガラスは、さらに任意のアニオン成分として、S等のフツリン酸ガラスが通常含有するその他の成分を本発明の効果を損なわない範囲で含有できる。これらの成分の含有量は合計で5%以下が好ましい。
【0072】
また、実施形態2のフィルタガラスは、上記のとおり結晶を含有し、好ましくは、CuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種の結晶を含有するものである。なお、実施形態2のフィルタガラスにおける結晶成分の含有量は、フィルタガラスの結晶化度として上記と同様の範囲が好ましい。
【0073】
実施形態2のフィルタガラスは、さらに、任意のカチオン成分としてAgを含有してもよい。実施形態2のフィルタガラスにおけるAgの含有量及び含有形態は上記のとおりである。
【0074】
次いで、本発明の実施形態1のフィルタガラス及び実施形態2のフィルタガラスに共通する、上記各成分以外の任意成分であるその他成分の含有量について説明する。なお、本明細書において、実質的に含有しない、とは、原料として意図して用いないことを意味しており、原料成分や製造工程から混入する不可避不純物については含有していないとみなす。
【0075】
本発明のフィルタガラスは、PbO、As、V、YbF、及びGdFのいずれも実質的に含有しないことが好ましい。PbOは、ガラスの粘度を下げ、製造作業性を向上させる成分である。また、Asは、幅広い温度域で清澄ガスを発生できる優れた清澄剤として作用する成分である。しかし、PbO及びAsは、環境負荷物質であるため、できるだけ含有しないことが望ましい。Vは、可視領域に吸収をもつため、可視域透過率が高いことが要求される固体撮像素子用近赤外線カットフィルタガラスにおいては、できるだけ含有しないことが望ましい。YbF、GdFは、ガラスを安定化させる成分であるものの、原料が比較的高価であり、コストアップにつながるので、できるだけ含有しないことが望ましい。
【0076】
本発明のフィルタガラスは、ガラスを形成する陽イオンをもった硝酸塩化合物や硫酸塩化合物を、酸化剤あるいは清澄剤として添加することができる。酸化剤は、フィルタガラス中のCu全量におけるCu2+イオンの割合を増加させることで近赤外線のカット性を向上させる効果がある。硝酸塩化合物や硫酸塩化合物の添加量は、原料混合物に対し外割添加で0.5〜10質量%が好ましい。添加量が0.5質量%未満では透過率改善の効果が出にくく、10質量%を超えるとガラスの形成が困難になりやすい。より好ましくは1〜8質量%であり、一層好ましくは3〜6質量%である。
【0077】
硝酸塩化合物としては、Al(NO、LiNO、NaNO、KNO、Mg(NO、Ca(NO、Sr(NO、Ba(NO、Zn(NO、Cu(NO等がある。硫酸塩化合物としては、Al(SO・16HO、LiSO、NaSO、KSO、MgSO、CaSO、SrSO、BaSO、ZnSO、CuSO等がある。
【0078】
また、本発明のフィルタガラスは、肉厚0.03〜0.3mmにした場合の、波長450〜600nmの光の平均透過率が80%以上であることが好ましい。80%以上にすることで、可視域の光を十分に透過することができ、撮像装置に用いた際に明瞭な画像を表示することが可能となる。
【0079】
また、本発明のフィルタガラスは肉厚0.03〜0.3mmにした場合、透過率50%となる波長が600〜650nmであることが好ましい。このような条件とすることで、薄型が要求されるセンサーにおいて所望の光学特性を実現することが可能となる。さらに、肉厚0.03〜0.3mmにした場合、波長450nmの光の透過率が80%とすることで、より優れた光学特性を有した近赤外線カットフィルタとなる。
【0080】
透過率の値は、肉厚0.03〜0.3mmの場合の値となるように換算を行った。透過率の換算は、以下の式1を用いて行った。なお、Ti1は、測定サンプルの内部透過率(表裏面の反射ロスを除いたデータ)、tは、測定サンプルの肉厚(mm)、Ti2は、換算値の透過率、tは、換算する肉厚(本発明の場合0.03〜0.3mm)を指す。
【0081】
【数1】
【0082】
なお、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、撮像デバイスやその搭載機器の小型化・薄型化に対応するため、フィルタガラスの肉厚が薄い状態であっても良好な分光特性が得られる。フィルタガラスの肉厚としては、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.8mm以下、さらに好ましくは0.6mm以下、最も好ましくは0.4mm以下である。またフィルタガラスの肉厚の下限値は特に限定はされないが、フィルタガラス製造時や撮像装置に組み込む際の搬送において破損しがたい強度を考慮すると、好ましくは0.03mm以上、より好ましくは0.05mm以上、さらに好ましくは0.07mm以上、最も好ましくは0.1mm以上である。
【0083】
本発明のフィルタガラスは、所定の形状に成形された後、フィルタガラス表面に反射防止膜や赤外線カット膜、紫外線及び赤外線カット膜などの光学薄膜を設けてもよい。これらの光学薄膜は、単層膜や多層膜よりなるものであって、蒸着法やスパッタリング法などの公知の方法により形成することができる。
【0084】
本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、次のようにして作製することができる。まず得られるフィルタガラスが上記組成範囲になるように原料を秤量、混合する(混合工程)。この原料混合物を白金ルツボに収容し、電気炉内において700〜1300℃の温度で加熱溶解する(溶解工程)。十分に撹拌・清澄した後、金型内に鋳込み、結晶を析出させる工程(結晶析出工程)を行った後、切断・研磨して所定の肉厚の平板状に成形する(成形工程)。
【0085】
上記製造方法の溶解工程において、フツリン酸ガラスと結晶からなるフィルタガラス、例えば実施形態2のフィルタガラスにおいてはガラス溶解中のガラスの最も高い温度を950℃以下に、リン酸ガラスと結晶からなるフィルタガラス、例えば実施形態1のフィルタガラスにおいては1280℃以下にすることが好ましい。ガラス溶解中のガラスの最も高い温度が上記温度を超えると、透過率特性が悪化する、及びフツリン酸ガラスにおいてはフッ素の揮散が促進されガラスが不安定になるためである。上記温度は、フツリン酸ガラスにおいてより好ましくは900℃以下、さらに好ましくは850℃以下である。リン酸ガラスにおいてより好ましくは1250℃以下、さらに好ましくは1200℃以下である。
【0086】
また、上記溶解工程における温度は低くなりすぎると、溶解中に失透が発生する、溶け落ちに時間がかかるなどの問題が生じるため、フツリン酸ガラスにおいて好ましくは700℃以上、より好ましくは750℃以上である。リン酸ガラスにおいてより好ましくは800℃以上、さらに好ましくは850℃以上である。上記フィルタガラスの製造方法においては、以下の結晶析出工程より前にガラス成分が結晶化しないことが好ましく、そのために溶解工程における温度は上記の範囲とすることが好ましい。
【0087】
上記溶解工程に引き続いて行われる結晶析出工程は、徐冷又は、徐冷及び熱処理によって行うことが好ましい。徐冷は、フツリン酸ガラスにおいては0.1〜2℃/分の速度で200〜250℃になるまで行うことが好ましい。リン酸ガラスにおいては0.1〜2℃/分の速度で200〜250℃になるまでで行うことが好ましい。
【0088】
また、結晶析出工程を徐冷及び熱処理により行う場合は、上記徐冷の条件と同様の徐冷を行った後、フツリン酸ガラスにおいては徐冷後の温度から、400〜600℃にまで昇温させる熱処理を行うことが好ましい。同様にリン酸ガラスにおいては上記徐冷の条件と同様の徐冷を行った後、徐冷後の温度から、350〜600℃にまで昇温させる熱処理を行うことが好ましい。
【0089】
上記フィルタガラスの製造方法では、このような結晶析出工程においてガラス中に結晶が析出する。得られる本発明のフィルタガラスは、非晶質(ガラス)部分と結晶部分からなるフィルタガラスである。なお、結晶析出工程では、ガラス中にCuCl、CuBr及びCuIから選ばれる少なくとも1種の結晶を析出させることが好ましい。CuCl、CuBr、CuIの結晶を析出することで、得られるフィルタガラスにおいて結晶部分を除く非晶質(ガラス)部分のCuの量を減らすことができ、且つ紫外線のシャープカット効果を付与することもできるため好ましい。
【実施例】
【0090】
本発明の実施例と比較例とを表1〜表3に示す。表1はリン酸ガラスに係るフィルタガラスに関する例であり、例1−1、例1−2は本発明の実施例であり、例1−3は本発明の比較例である。表2、表3はフツリン酸ガラスに係るフィルタガラスに関する例であり、例2−1、例2−4〜例2−8は本発明の実施例であり、例2−2、例2−3は本発明の比較例である。
【0091】
[フィルタガラスの作製]
表1に示す組成(酸化物基準の質量%表示)及び表2、表3に示す組成(カチオン%、アニオン%)となるよう原料を秤量・混合し、内容積約400ccの白金ルツボ内に入れて、800〜1300℃の温度で2時間溶融、清澄、撹拌後、およそ300〜500℃に予熱した縦50mm×横50mm×高さ20mmの長方形のモールドに鋳込んだ。
【0092】
本発明の実施例(例1−1、例1−2、例2−1、例2−4〜例2−8)については、長方形のモールドに鋳込んだ後、徐冷、又は、徐冷及び熱処理(例1−1・例1−2:460℃で1時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却、次いで480℃で1時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却、例2−1:360℃で1時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却、例2−4、例2−6〜例2−8:360℃で1時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却、次いで410℃で2時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却、例2−5:410℃で1時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却)を行った。比較例(例1−3、例2−2、例2−3)については、徐冷(例1−3:460℃で1時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却、例2−2、例2−3:360℃で1時間保持した後、1℃/分で室温まで冷却)とした。各例において縦50mm×横50mm×厚さ20mmのブロック状のフィルタガラスを得た。このフィルタガラスを研削した後、所望の厚さになるまで研磨したガラス板を評価に用いた。
【0093】
なお、各フィルタガラスの原料は、P5+の場合はHPO及び/またはAl(POを、Al3+の場合はAlF、Al(PO及び/またはAlを、Liの場合はLiF、LiNO、LiCO及び/またはLiPOを、Mg2+の場合はMgF及び/またはMgO及び/またはMg(POを、Sr2+の場合はSrF、SrCO及び/またはSr(POを、Ba2+の場合はBaF、BaCO及び/またはBa(POを、NaはNaCl及び/またはNaBr及び/またはNaI及び/またはNaF及び/またはNa(PO)を、K、Ca2+、Zn2+の場合はフッ化物、炭酸塩 及び/またはメタリン酸塩を、Sb3+の場合はSbを、Cu2+、Cuの場合はCuO、CuCl、CuBrを、それぞれ使用した。Agの場合はAgNOを使用した。
【0094】
[評価]
各例で得られたガラス板について、結晶析出の有無は、粉末X線回折装置、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)等により確認することができる。さらに、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製、V570)により波長450〜600nmの光の透過率を測定した。例1−1〜例1−3については、肉厚0.3mmに換算した透過率(ガラス板の表面反射ありで算出)を得た。例2−1〜例2−8については、肉厚0.05mm(ガラス板の表面反射ありで算出)に換算した透過率を得た。表1、2、3に、結晶の有無、波長450〜600nmの光の平均透過率および450nmの光の透過率を示す。また、表1にはCu(Cu2+,Cuの合計)のカチオン%での含有量、およびCl+Br+Iのアニオン%での含有量を示す。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
本発明の実施例において、結晶析出した例1−1、例1−2、例2−1及び例2−4〜例2−8は比較例に比べ、高い透過率を実現することができている。また、450nmにおける透過率も80%を超えているため、撮像装置等に用いた場合に紫外域に近い可視域側も、十分に透過することができるため好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、薄板化に伴いCu成分の含有量が多い場合であっても、可視域の光の透過率が高いため、小型化・薄型化する撮像デバイスの近赤外線カットフィルタ用途に極めて有用である。