(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加圧雰囲気の圧力はゲージ圧で100〜700kPaであり、かつ、前記液体室内の繊維処理液体の温度が120℃〜250℃である、請求項11に記載の延伸繊維の製造方法。
前記加圧雰囲気の圧力はゲージ圧で170〜500kPaであり、かつ、前記液体室内の繊維処理液体の温度が130℃〜230℃である、請求項12に記載の延伸繊維の製造方法。
前記加圧雰囲気の圧力はゲージ圧で270〜450kPaであり、かつ、前記液体室内の繊維処理液体の温度が150℃〜200℃である請求項13に記載の延伸繊維の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、加圧雰囲気下で、繊維処理液体中に繊維を通過させて、繊維を延伸する繊維延伸装置に関する。以下に本発明について、図面を参照して説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。図面において、同じ機能を有する部材には同一の符号を付し、また、紙面上方が鉛直上方と一致する。
【0014】
[加圧室]
繊維延伸装置は、加圧雰囲気を収容する加圧室7を含む。加圧室は、加圧室繊維入口16と、加圧室繊維出口17と、気体入口18とを備える。加圧室繊維入口16は、加圧室に繊維を導入する開口である。加圧室繊維出口17は、加圧室から繊維を排出する開口である。気体入口18は、加圧室に加圧気体を供給する開口である。
【0015】
加圧室には、気体供給路から、気体入口18を経て、加圧気体が供給される。加圧気体は、加圧室内に加圧雰囲気を形成する。気体供給路は、気体供給管3によって形成される。気体供給管は、適宜の配管によって形成できる。図示していないが、気体供給管には、適宜、加圧気体を気体供給管に送るための機器を接続することができる。その機器の例は、気体を昇圧するための昇圧装置(例えばコンプレッサー)、加圧気体を収容する圧力容器、加圧気体の発生装置(例えば水蒸気を発生するボイラ)である。
【0016】
加圧室は、適宜の容器(以下において「加圧室形成容器」ということがある)によって形成することができる。加圧室形成容器内部へのアクセスを容易にする観点から、加圧室形成容器が、一つの容器を上下に二分割可能な構造を有することが好ましい。
【0017】
図1〜4に示す形態では、加圧室形成容器が、一つの容器を上下に二分割した構造を有する。容器上部1と容器下部2とによって、一つの加圧室形成容器が形成される。
【0018】
図1〜4に示す形態においては、加圧室形成容器の中に、連続した単一の空間として、加圧雰囲気が形成される。
【0019】
[シール室]
加圧室繊維入口16および加圧室繊維出口17のそれぞれに、ラビリンスシール、特には気体用のラビリンスシールが備わる。加圧室繊維入口16および加圧室繊維出口17から、加圧室内の気体が漏出するが、気体用ラビリンスシールによって加圧室内が加圧状態に保たれる。
【0020】
ラビリンスシールは、流体の流路に極端な狭化構造と広化構造を繰り返し設けることにより流体に圧力損失を生じさせ、この圧力損失により流れを抑制するものである。ラビリンスシールの流路の狭小部は、例えば、ピンホールなどのような円形でもよい。またラビリンスシールの流路断面は、
図8に示すような矩形であってもよい。なお、
図8には液体用ラビリンスシールを示すが、流路の構造は気体用ラビリンスシールと共通する(ただし、気体用の場合、脱気用の溝34は不要である)。
【0021】
本発明では、気体入口と加圧室のシール構造を分離し、加圧室からの排気箇所にラビリンスシールを用いる。これによって当該箇所に圧力損失を持たせることができ、加圧室から排出される気体の流量を削減することができる。
【0022】
図1〜4に示す形態では、加圧室繊維入口16および加圧室繊維出口17にそれぞれシール室13が接続される。シール室は、気体用ラビリンスシール8と、気体用ラビリンスシールを収容するケーシングとを含む。ケーシングは適宜の断面形状を持つ筒状部材によって形成することができる。加圧室形成容器と同様、このケーシングも上下に二分割可能であってもよい。ここではケーシング上部21とケーシング下部22によって、ケーシングが構成される。ケーシング上部21が容器上部1と一体化され、ケーシング下部22が容器下部2と一体化されることができる。
【0023】
気体用ラビリンスシールは、気体用ラビリンスシールの気体流路が、繊維Fの糸道(走行位置)に一致するように配される。つまり、気体用ラビリンスシール内を、繊維Fが通過する。
【0024】
なお、ここに示す繊維延伸装置は横型である。したがって、繊維Fの糸道は、略水平である(
図1の形態において、最初のロールRによって繊維走行方向が斜め下方に変更され、次のロールRによって繊維走行方向が斜め上方に変更されている部分を除く)。繊維延伸装置を通過する繊維Fの糸道は屈曲が少ない方が装置との摩擦による損傷を避けられるため好ましく、実質的に直線であることが更に好ましい。
【0025】
[液体室]
繊維延伸装置は、繊維処理液体を受け入れる液体室12を含む。液体室は、加圧室7内に配される。また液体室は、その内部に繊維Fの糸道、特には糸道の一部を含む。したがって、繊維Fが通過する位置に液体室内の繊維処理液体が位置する。これにより、加圧雰囲気によって液体を加圧状態に保ち、その液体中で繊維を延伸することができる。
【0026】
繊維延伸装置は、加圧室7の外から、液体室12に繊維処理液体Lを供給する液体供給路を有する。また、繊維延伸装置は、液体室12から、加圧室7の外に繊維処理液体を排出する液体排出路を有する。
【0027】
連続して液体室を通過する繊維を均一に延伸するためには、繊維が通過する液体の温度および液体室滞在量が常に一定の範囲内にあるように、液体室内の液体を入れ替えることが好ましい。繊維処理液体を、液体供給路から液体室を経て液体排出路に流すことによって、このような液体の入れ替えを行うことができる。
【0028】
加圧室内に繊維処理液体を送り込むために、液体供給路に供給する液体の圧力を、加圧雰囲気の圧力よりも高くすることができる。
【0029】
図1〜4に示す形態は、液体室に関する構成が互いに異なっており、他の部分については同様である。以下、これらの形態における液体室まわりの構成について説明する。
【0030】
・
図1の形態
図1に示す形態では、液体室を形成する容器として、天面が開口した液体容器20が加圧室7内に設けられる。ラビリンスシール8(加圧室入口側)および加圧室繊維入口16を経て加圧室内に導入された繊維Fは、ロールR(ガイドでもよい)によって繊維の走行方向が変更されつつ、液体室12に存在する繊維処理液体の中に浸漬され、液体から抜き出され、加圧室繊維出口17およびラビリンスシール8(加圧室出口側)を経て、加圧室外に排出される。つまり、繊維Fは、液体容器20の天面の開口を通じて、液体室に出入りする。ラビリンスシール8(加圧室の入口側および出口側)の少なくとも1つは、加圧室の外に位置することができる。
図1に示す形態では、加圧室入口側においても加圧室出口側においても、ラビリンスシール8は、加圧室7の外に位置する。
【0031】
液体供給管4が、容器の壁(特には、容器下部2の底部の壁)を貫通して加圧室内に挿入され、液体容器(特にはその底部壁)に設けられた開口、すなわち液体室液体入口24に接続される。したがって、液体供給管4によって液体供給路が形成され、液体供給路は液体室に接続される。図示しないが、液体供給管には、液体を加圧するポンプや、液体を加熱する加熱器を、適宜接続することができる。すなわち、液体供給管に加圧および加熱された繊維処理液体を供給することができる。
【0032】
液体供給管4によって加圧室外から液体室に供給された繊維処理液体は、液体容器20の天面から溢れ出て、重力によって加圧室内の空間を流下し(液体容器の壁を伝って流下してもよいし、壁を伝わずに空間を自由落下してもよい)、加圧室の底部(特には、容器下部2の底部)に達する。容器下部2の底部に設けられた開口、すなわち加圧室液体出口23に液体排出管5が接続されており、加圧室底部に達した繊維処理液体は、液体排出管5を通って、加圧室外に排出される。液体排出管5には、トラップ9を設けることができるが、これについては後述する。したがって、上記液体排出路は、液体容器20の天面の縁を起点とし、加圧室内の空間を経て、液体排出管5に至る。このようにして、液体供給路、液体室および液体排出路をこの順に通して、繊維処理液体を連続的に流すことができる。液体排出管5に排出される繊維処理液体は、適宜昇圧して液体供給管4に戻し、再利用することが好ましい。この場合、繊維処理液体を外気に曝すことなく、加圧室12から排出し、加圧室12に戻すことができる。
【0033】
特に、液体排出管5が加圧室底部に接続され、液体室から液体排出管に至るまでの液体排出路が下方に向かって延在する。これにより、加圧室の気体が液体にほとんど混入することなく、重力によって液体を液体室から液体排出管まで移送することができる。
【0034】
加圧雰囲気の圧力を計測するために、加圧室に圧力計Pを設けることができる。また、繊維処理液体の温度を計測するために、液体室に温度計Tを設けることができる。
【0035】
・
図2の形態
図1に示す形態では、繊維がロールによって走行方向を変えつつ、繊維が液体容器20の頂部の開口を通じて液体室内に出入りする。同時に、この開口を通じて液体が液体室から排出される。
【0036】
これに対し、
図2〜4に示す形態では、加圧室内にガイドロールは設けない。つまり、加圧室繊維入口側の気体用ラビリンスシール8から繊維延伸装置に入り、加圧室繊維出口側の気体用ラビリンスシール8から繊維延伸装置外に排出されるまで、繊維Fの走行方向は変更されない。そのため、繊維が繊維処理液体中を通過できるように、液体室の側部(頂部および底部以外の壁)に、したがって液体容器20の側部に、液体室繊維入口10および液体室繊維出口11を設ける。ここで、液体室繊維入口10は、液体室内に繊維を導入する開口である。液体室繊維出口11は、液体室から繊維を排出する開口である。
【0037】
液体室繊維入口10および液体室繊維出口11はいずれも、液体排出路と連通する。つまり、液体室12内の繊維処理液体が、液体室繊維入口10および液体室繊維出口11を通して液体室から排出される。液体室を出た液体は、その後、重力によって加圧室内の空間を流下するが、これ以降は
図1の形態と同様である。
【0038】
なお、
図2の形態では液体容器20の天面が開口しており、場合によっては、天面から液体が溢れ出てもよい。
【0039】
・
図3の形態
図3に示す形態では、液体容器20の天面が蓋15で閉じられている。つまり液体容器20の天面が開口していない。この点以外は、
図2の形態と同様である。この形態では、液体供給路に連通する開口(液体室液体入口)24および液体室繊維入口10および液体室繊維出口11以外には、液体室が開口を持たない。すなわち、この液体容器は、これらの開口(24、10、11)を有すること以外は、密閉されている。したがって、加圧雰囲気が持つ圧力に加えて、液体室に供給する繊維処理液体が持つ圧力によっても、液体室内の液体を加圧することができる。なお、
図1や
図2に示す形態では、加圧雰囲気の圧力と、液体室内の液体の圧力が実質的に同じになる。なお、
図3および4に示す形態では液体室中の繊維処理液体の圧力を計測するために、圧力計(図示しない)を設けても良い。
【0040】
・
図4の形態
図4に示す形態では、
図3の形態の液体室繊維入口10および液体室繊維出口11にそれぞれ、液体用ラビリンスシール6が接続されている。この点以外は、
図4の形態は、
図3の形態と同様である。液体用ラビリンスシールについては後に詳述する。
【0041】
繊維は液体室12において繊維処理液体中で延伸されるが、液体室の上流側および下流側の液体用ラビリンスシール6内にも液体が存在するため、液体用ラビリンスシール内でも液体中で延伸されてよい。
【0042】
この形態では、液体室12から繊維処理液体が排出される箇所に液体用ラビリンスシール6を用いているので、
図3の形態と比較して、液体室12からの繊維処理液体の排出流量を抑制することが可能である。
【0043】
・
図5の形態
図1〜4の形態では、連続した単一の空間によって、加圧雰囲気が形成される。これとは異なり、
図5に示す形態においては、加圧室形成容器(容器上部1および容器上部2)の中に、二つの空間、すなわち第1の空間7aおよび第2の空間7bとして、加圧雰囲気が形成される。これら二つの空間の間に、一つの液体室12が位置する。つまり、これら二つの空間は、一つの液体室12によって分断されている。
【0044】
このように、加圧室形成容器の中に、n個の液体室(nは正の整数)によって分断され繊維の走行方向に沿って配置されたn+1個の空間として、加圧雰囲気を形成することができる。
【0045】
気体供給管3を分岐して、n+1個の分岐路を形成し(
図5では第1の空間用の気体供給管3aおよび第2の空間用の気体供給管3bによって形成される二つの分岐路)、n+1個の空間にそれぞれ加圧気体を供給することができる。このとき、それぞれの分岐路に適宜の(図示しない)圧力調整器を設けることにより、n+1個の空間の加圧雰囲気に、互いに異なる圧力を持たせることもできる。
【0046】
図1〜4の形態では、加圧室形成容器(容器上部1および容器上部2)とは別に、液体室12を形成する液体容器20が設けられる。これとは異なり、
図5の形態では、加圧室形成容器の壁と、加圧室形成容器内に設けられた二対の液体用ラビリンスシール6とに囲まれた領域に、液体室12が形成される。二対の液体用ラビリンスシールは、加圧室形成容器内に、繊維走行方向上流側と下流側とに互いに離間して設けられる。この離間した領域が液体室であり、二対の液体用ラビリンスシールの間に、繊維処理液体が保持される。液体室12と二対の液体用ラビリンスシール6によって、繊維走行方向に加圧雰囲気が分断されて、第1および第2の空間7aおよび7bが形成される。
【0047】
図1〜4の形態と同様、加圧室繊維入口16および加圧室繊維出口17にはそれぞれシール室13が接続され、各シール室はラビリンスシール(気体用)8とそのケーシング(ケーシング上部21およびケーシング下部22)を有する。
【0048】
第1および第2の空間7aおよび7bにはそれぞれ気体入口18aおよび18bが設けられる。気体供給管3から、第1および第2の空間用の気体供給管3aおよび3bを経て、さらに気体入口18aおよび18bを経て、第1および第2の空間7aおよび7bに加圧気体が供給される。
【0049】
液体室12に繊維処理液体Lを供給するために、液体室に液体供給路が接続される。このために、加圧室形成容器(特には容器下部2)の液体室12を形成する部分の壁に設けられた開口、すなわち液体室液体入口24に、液体供給管4が接続される。
【0050】
二つの液体用ラビリンスシール6の端部(液体室とは反対側の端部)から、第1および第2の空間7aおよび7bに繊維処理液体が漏出する。漏出した液体は、重力によって、第1および第2の空間の内部を経て、これら空間にそれぞれ接続された液体排出路から排出される。このために、加圧室形成容器(特には容器下部2)の第1および第2の空間7aおよび7bを形成する部分の壁に、開口(加圧室液体出口)23aおよび23bが設けられ、これら開口にそれぞれ液体排出管5aおよび5bが接続される。これら液体排出管にはそれぞれトラップ9aおよび9bが設けられる。
【0051】
繊維Fは、紙面左側のシール室13(特には気体用ラビリンスシール8)から繊維延伸装置に供給され、加圧室繊維入口16から加圧室の第1の空間7a、紙面左側の液体用ラビリンスシール6、液体室12、紙面右側の液体用ラビリンスシール6、加圧室の第2の空間7b、加圧室繊維出口17および紙面右側のシール室13(特には気体用ラビリンスシール8)をこの順に通って、繊維延伸装置から排出される。本形態においても、液体室12内だけでなく、液体用ラビリンスシール内でも、繊維が液体で延伸されてよい。
【0052】
液体室12には温度計が設置され、第1および第2の空間7aおよび7bにはそれぞれ圧力計が設置される。
【0053】
なお、液体室12と、液体室を形成する部材(液体用ラビリンスシール、および液体用ラビリンスシールを取り囲む容器の壁)とだけに注目すると、
図5に示す形態は、
図4に示す形態と同様であると言うこともできる。
【0054】
図5の形態の装置は、省スペース化の観点から好ましい。また加圧雰囲気を複数の空間に分け、それぞれの空間に互いに異なる圧力を持たせることも可能である。
【0055】
[相異なる気体を用いて加圧雰囲気を形成する形態]
液体室によって分断された複数の空間に加圧雰囲気が形成されている場合、これらの空間に、相異なる加圧気体を供給することもできる。相異なる加圧気体とは、種類、温度および圧力のうちの少なくとも一つが相異なる加圧気体を意味する。このような場合、例えば
図7または8に示す形態を採用することができる。ただし、種類が同じで、温度および/または圧力が相異なる加圧気体を用いる場合、
図5に示す装置の分岐管(第1および第2の空間用の気体供給管3aおよび3b)の少なくとも一方に温度調節手段および/または圧力調節手段を設けて、温度および/または圧力を調節してもよい。
【0056】
・
図6の形態
図6の形態の装置は、
図5の形態の装置から気体供給管3を取り除き、第1および第2の空間用の気体供給管3aおよび3bに相異なる加圧気体を供給できるようにした構成を有する。例えば、第1の空間(2つの空間のうちの繊維走行方向上流側の空間)7aに第1の気体を供給し、第2の空間(2つの空間のうちの繊維走行方向下流側の空間)7bに第2の気体を供給することができる。このとき第1の気体が、加圧室繊維入口16から、ラビリンスシール8(加圧室入口側)を経て、外気に流出する。また第2の気体が、加圧室繊維出口17から、ラビリンスシール8(加圧室出口側)を経て、外気に流出する。これらの点以外は、この形態は
図5の形態と同様である。
【0057】
・
図7の形態
図7の形態の装置は、
図4の形態の装置に、加圧室内部(加圧雰囲気)を区画するための隔壁70を追加した構成を有する。加圧雰囲気を形成する第1および第2の空間7aおよび7bが、液体室12によって、さらに隔壁70によって、繊維走行方向に分断されている。これらの空間7aおよび7bに相異なる気体(第1および第2の気体)を供給することによって、
図6の形態と同様に繊維の延伸を行うことができる。
【0058】
例えば、第1の気体として冷空気(大気を加圧だけした空気)を用い、第2の気体として熱空気(大気を加圧および加熱した空気)を用いることができる。この場合、両方の気体として冷空気を用いる場合と比較すれば、液体室から排出された繊維処理液体で濡れた繊維を、熱空気を用いてより迅速に乾かすことでき、繊維延伸装置の下流で延伸繊維を乾燥させる乾燥ロールを省くことが可能となる。また、両方の気体として熱空気を用いる場合と比較すれば、第1の気体中での繊維延伸を抑制することが容易であり、また、第1の気体を加熱するためのエネルギーが不要である。
【0059】
あるいは、第1の気体としてスチームを用い、第2の気体として空気を用いることができる。この場合、両方の気体としてスチームを用いる場合と比較すれば、繊維処理液体で濡れた繊維を乾かすことが容易である。繊維を迅速に乾燥させる観点からは、第2の気体として熱空気を用いることが好ましい。
【0060】
あるいは、第1の気体として冷空気を用い、第2の気体としてスチームを用いることができる。この場合、両方の気体としてスチームを用いる場合と比較すれば、第1の気体中での繊維延伸を抑制することが容易であり、また、第1の気体として用いるスチームを発生させるためのエネルギーが不要である。
【0061】
[繊維処理液体]
本発明は、加圧雰囲気下で液体内に繊維を通過させる操作を伴う繊維延伸に適用できる。繊維処理液体は、繊維延伸において、繊維と直接接触させて処理を行う液体(延伸媒体)である。例えば本発明による繊維延伸装置の外に設けた複数のロールを用いて、繊維延伸装置への繊維の導入速度よりも、繊維延伸装置からの繊維の導出速度を速くすることによって、繊維を延伸することができる。
【0062】
繊維処理液体の種類は、水や、エタノールなどのアルコールおよびエチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが利用でき、その中でも特に水がコストや環境面で好ましい。繊維処理液体の粘度は、低い方が走行する繊維との摩擦の負荷が小さく繊維がダメージを負いにくいため好ましい。また、温度による粘度の変化率も小さい方が生産における安定性の観点から好ましい。これらの理由より、特に水が好適である。
【0063】
本発明によれば、加圧雰囲気の圧力で繊維処理液体を加圧し、繊維処理液体の温度を大気圧での沸点以上に上げて、連続的かつ安定的に繊維を延伸できる。繊維処理液体の温度が上がることにより、繊維をより高倍率で延伸することなどの利点がもたらされる。
【0064】
繊維処理液体の温度は、110〜300℃であることが好ましい。110℃以上であることで延伸性が飛躍的に向上する。この温度は、前記理由より、この温度は、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは130℃以上、最も好ましくは150℃以上である。また、300℃以下であることで繊維にダメージを与えることなく延伸することが容易となる。前記理由より、この温度は、250℃以下であることがより好ましく、230℃以下であることがさらに好ましく、200℃以下であることが最も好ましい。
【0065】
[加圧気体]
加圧室内の気体の種類は、使用する繊維、繊維処理液体などに応じて適宜決めることができる。例えば、スチーム、空気、窒素ガスまたはアルゴンガスが好適である。
【0066】
加圧室内の圧力はゲージ圧で50〜900kPaであることが好ましい。50kPa以上であることで液体を安定的に加圧できる。前記理由より、この圧力は、より好ましくは100kPa以上、さらに好ましくは170kPa以上、最も好ましくは270kPa以上である。また、900kPa以下であることで装置への負荷を軽減できる。前記理由より、この圧力は、より好ましくは700kPa以下、さらに好ましくは500kPa以下、最も好ましくは450kPa以下である。
【0067】
[加圧室内の繊維処理液体の液量制御に関して]
液体供給路から供給する繊維処理液体の供給量と、液体排出路から排出する繊維処理液体の排出量とのバランスを制御することによって、加圧室(特には液体室)内に存在する繊維処理液体の量を一定に保つことができる。例えば、液体供給路からの供給量を、液体排出路からの排出量と繊維に付着して加圧室繊維出口から排出される排出量の合計と同じにすることによって、液体室内の繊維処理液体の液面を一定に保つことができる。あるいは、液体室液体入口24を開閉するフロート弁等を液体室12に設置して、液体室内の液体量が低下した時のみ、液体室に液体を供給することも可能である。
【0068】
[トラップ]
液体排出路からの繊維処理液体の排出量制御には、トラップを用いることが好ましい。バルブ等でなくトラップを使用することで、加圧室の圧力を保持したまま液体を排出することができる。トラップとしては、ドレン排出量範囲の仕様が、希望する繊維処理液体排出量に適合していれば、公知のスチームトラップを適宜用いることができる。なお、安定して繊維処理液体を排出する観点から、オリフィス式のスチームトラップを使用することがより好ましい。フロート式のスチームトラップを使用することもできるが、その場合は、均圧管を別途設置することが推奨される。
【0069】
[液体用ラビリンスシール、脱気孔]
図4〜7に示す形態において、液体室繊維入口10および液体室繊維出口11に液体用ラビリンスシールが用いられる。液体用ラビリンスシールの原理および構造は、気体用ラビリンスシールと同様である。ただし、液体用ラビリンスシールの少なくとも1つには、脱気孔を設けることが好ましい。特に、液体室繊維入口10の液体用ラビリンスシールの上部、および液体室繊維出口11の液体用ラビリンスシールの上部に、脱気孔を設けることが好ましい。
【0070】
脱気孔は、例えば上下一対の液体用ラビリンスシールの間に繊維処理液体が満たされた後に、繊維によって持ち込まれラビリンスシールの上部に溜まった気体を、取り除くための孔である。気体を除去することにより、ラビリンスシールの上部まで繊維処理液体を満たし、その結果、走行する繊維をより均一に液中延伸することが可能となる。
【0071】
繊維延伸装置のスタートアップ時に、気体が液体用ラビリンスシール内に残留することがある。また、液体用ラビリンスシール内に繊維を連続的に導入する際にも、繊維と一緒に少量の気体が液体用ラビリンスシール内に混入することがある。一般に気体は液体よりも密度が低いため、ラビリンスシール内の上部に溜まりやすい。したがって、脱気孔は液体用ラビリンスシールの上部に設けられていることが好ましい。
【0072】
図8に液体用ラビリンスシールの構成例を示す。同図(a)は繊維走行方向に直交する方向から見た図(側面図)であり、同図(b)は繊維走行方向に沿って見た図(正面図)である。上下一対のラビリンスシール6が互いに離間して向かい合わせに配置され、その離間した空間が繊維Fの走行通路となる。さらに、上側のラビリンスシールの上に、スペーサー31が載置される。
【0073】
各ラビリンスシールの、繊維走行通路側には凹凸が繰り返して設けられる。流体流路の断面(繊維走行方向に直交する断面)は、凹部においても凸部においても、矩形である。また、上側のラビリンスシールの上部には、特に、各凹部の頂部には、ラビリンスシールを上下方向に貫通する貫通孔32が設けられる。スペーサー31の、貫通孔32に連通する位置に、貫通孔33が設けられる。スペーサーの上面には、このようにして設けられた複数の貫通孔33に連通する溝34が、繊維走行方向に延在する。スペーサーは、溝34と貫通孔33を有する平板状部材である。貫通孔32、貫通孔33および溝34は脱気孔であり、これらを通って、液体用ラビリンスシールの内部、特にはその凹部に溜まった気体を、液体用ラビリンスシールから排出することができる。すなわち、凹部にまで液体を充満させることが容易である。ここに示したように、スペーサーも含めて脱気孔を設けることは、クリアランス(対向するラビリンスシール同士の間の距離)を適宜変更したい場合などに大変有用である。
【0074】
脱気孔の形状に特に制限はない。例えば加工する際の簡便さなどから丸形状などでもよいし、あるいは
図8に示したように、複数の凹部のそれぞれに設けた脱気孔を一連につなげて気体を排出する構造とする場合は、その精度の合わせやすさなどから、四角形状が比較的都合が良い。
【0075】
[脱気孔の断面積]
脱気孔の断面積(流体流通方向に直交する断面の面積)は0.008〜20mm
2であることが好ましい。0.008mm
2以上であることで、効率良く気体を排出できる。また、20mm
2以下であることで、脱気孔からの繊維処理液体の余分な排出を防ぎ、液体のシール性を確保することができる。なお、脱気孔の長さと装置内の圧力に応じて0.008〜20mm
2の範囲で好適な断面積を採用することができる。
【0076】
[繊維]
繊維処理液体によって延伸する繊維の材料には特に制限はなく、例えばポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ビスコースレーヨン、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等が例示できる。
【0077】
本発明によれば、少量の気体によって、加圧室を高圧にすることができ、高圧液体中での繊維の延伸を、連続的かつ安定的に行うことができる。
【0078】
[中空糸膜]
製造する延伸繊維が中空糸膜である場合、つまり、中空糸膜を繊維処理液体中で延伸する場合、本発明によれば、繊維処理液体中の延伸に際して中空糸膜が潰れないようにすることが容易である。そのメカニズムは以下のように考えられる。まず、繊維延伸装置に供給された中空糸膜は、液体室12に入る前に、加圧室7(もしくは第1の空間7a)中の加圧雰囲気を通過する。このとき、加圧雰囲気を形成する気体が中空糸膜の壁を通って中空部に入り、中空部の気体圧力が、加圧雰囲気と同程度になる。その後、中空糸膜が液体室12内で液中延伸される。本発明によれば、加圧室7(もしくは第1の空間7a)中の加圧雰囲気の圧力と、液体室12内の繊維処理液体の圧力とを同程度にすることが容易である。したがって、繊維処理液体中での延伸の際に、中空糸膜の内外の圧力差を小さくすることが容易である。そのため、中空糸膜内外の圧力差によって中空糸膜が潰れることを防止することが容易である。このとき、予め冷延伸などによって多孔質にした中空糸膜を繊維延伸装置に供給することが好ましい。また、例えば繊維処理液体として水(熱水)を用い、中空糸膜の材料が疎水性である場合は特に、繊維処理液体中での延伸の際に、中空糸膜の壁を液体が通過しにくい(中空糸膜内外の圧力差による潰れが生じやすい)ので、本発明が効果的である。冷延伸を行う工程では、冷延伸機を用いて、中空繊維(多孔質でなくてよい)を大気中で(大気圧、大気温度の下で)延伸することによって、中空糸膜(多孔質)とすることができる。
【0079】
中空糸膜を延伸する場合、
図2〜7に示すような、繊維Fの走行方向を変更しない(加圧室内にガイドロールを設けない)繊維延伸装置を用いることが好ましい。ガイドロールとの接触によって中空糸膜が潰れることを容易に防止できるからである。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明をより具体的にするが、本発明はこれらに限定されない。
【0081】
[製造例1]
アクリロニトリル(AN)、メチルアクリレート(MA)、及びメタクリル酸(MAA)をモル比AN/MA/MAA=96/2/2で共重合させ、ポリアクリロニトリル系重合体を得た。この重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させて紡糸原液(ポリマー濃度20質量%、粘度50Pa・s、温度60℃)を調製した。この紡糸原液をホール数3000の紡糸口金を通して、濃度が70質量%、液温が35℃のDMAc水溶液中に吐出し、水洗し、熱水浴中で3倍に延伸し、135℃で乾燥して、緻密化した単繊維繊度が3.0dtexの糸条を得た。
【0082】
[実施例1]
製造条件1より得た糸条を、
図5に示される構造を有する装置を用いて、表1に記載の条件で延伸した。糸条の繊維加工装置への導入速度は30m/minで一定とし、導出速度を変更することにより延伸破断倍率を確認し、延伸性の評価を行った。なお、圧力単位における「G」は、ゲージ圧を意味する。また、表1中、「液体容積」は液体用ラビリンスシール6の最外部(
図5における左側の液体用ラビリンスシール6の左端と、右側のラビリンスシール6の右端)に挟まれる領域(繊維処理液体で満たされた領域。ただし、液体排出管5の内部の領域は除く。)の容積を意味する。また、「加圧気体容積」は、装置全体(加圧雰囲気が形成された領域。気体供給管3、第1および第2の空間用の気体供給管3aおよび3bの内部の領域は含まない。)の容積から液体容積を差し引いた容積を意味する。
【0083】
延伸破断倍率は3.5倍であり延伸性は良好であった。また、工程通過性も良好であった。
【0084】
[実施例2]
表1に記載のように条件を変更したこと以外は実施例1と同様にして、製造例1から得た糸条を延伸し、延伸性の評価を行った。
【0085】
延伸破断倍率は4.0倍であり延伸性は良好であった。また、工程通過性も良好であった。
【0086】
[実施例3]
表1に記載のように条件を変更したこと以外は実施例1と同様にして、製造例1から得た糸条を延伸し、延伸性の評価を行った。
【0087】
延伸破断倍率は4.3倍であり延伸性は良好であった。また、工程通過性も良好であった。
【0088】
[比較例1]
表1に記載のように条件を変更したこと以外は実施例1と同様にして、製造例1から得た糸条を延伸し、延伸性の評価を行った。なお、本例では気体による加圧は行わず、繊維処理液体は100℃、0kPa−Gの水(沸騰水)であった。
【0089】
延伸破断倍率は2.0倍であり延伸性は不良であった。また、繊維には毛羽の発生が確認され、工程通過性は実施例1や実施例2と比較してやや劣った。
【0090】
[比較例2]
表1に記載のように条件を変更したこと以外は実施例1と同様にして、製造例1から得た糸条を延伸し、延伸性の評価を行った。なお、本例では繊維処理液体は使用せず、空気中で糸条を延伸した。
【0091】
延伸破断倍率は1.1倍であり延伸性は不良であった。また、毛羽の発生が多発し、工程通過性は劣悪であった。
【0092】
[実施例4]
高密度ポリエチレン((株)プライムポリマー製、商品名「Hizex2200J」、MFR=5.2g/10min、密度=0.964g/cm
3)を、二重円筒型中空繊維製造用ノズルを用いて温度113℃で紡糸し、巻き取った状態で8時間アニール処理をすることで、直径(外径)が470μm、膜厚が65μmである中空繊維を用意した。
【0093】
次に、
図9に示す中空糸膜製造装置を用いてボビンスタンド91からポリエチレン中空繊維を繊維Fとして送り出し、第1のネルソンロール92を経て、冷延伸機93で冷延伸し、第2のネルソンロール94を経て、
図5に示す構成を有する繊維延伸装置(ここでは加圧熱水延伸装置)95で延伸し、第3のネルソンロール96を経て、ワインダー97に巻き取り、中空糸膜を得た。冷延伸機93は、第1のロール93aおよび第2のロール93bを備えていた。
【0094】
このとき、各ロールの条件は次のとおりとした。
第1のネルソンロール92および第1のロール93aの周速度:2.4m/分、
第2のロール93bおよび第2のネルソンロール94の周速度:3.7m/分、
第3のネルソンロール96の周速度:12.8m/分。
【0095】
冷延伸機93においては、繊維Fが第1のロール93aから離れてロール93bに触れるまでの距離(延伸距離)を30mmとして、温度20℃の環境(大気中)で、1.5倍延伸した。
【0096】
加圧熱水延伸装置95においては、第1および第2の空間7aおよび7bの圧力がいずれも60kPa−Gとなるように空気(20℃)を気体供給管3に導入した。また、熱交換器(不図示)により110℃に加熱した加圧熱水(70kPa−G)を加圧熱水延伸装置95の下部に配された液体供給管4から液体室12に導入した。加圧熱水中での延伸倍率は3.5倍であった。
【0097】
ワインダー97から採取した中空糸膜の断面及び表面の電子顕微鏡(SEM)写真を、
図10(a)および(b)に示す。多孔質な中空形状を保った繊維(多孔質中空糸膜)を得ることができた。