特許第6962708号(P6962708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962708
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】皮革様シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/00 20060101AFI20211025BHJP
【FI】
   D06N3/00
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-101205(P2017-101205)
(22)【出願日】2017年5月22日
(65)【公開番号】特開2018-193659(P2018-193659A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2019年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100189991
【弁理士】
【氏名又は名称】古川 通子
(72)【発明者】
【氏名】脇本 芳明
(72)【発明者】
【氏名】割田 真人
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−500263(JP,A)
【文献】 特開2017−082355(JP,A)
【文献】 特開平01−068553(JP,A)
【文献】 特開2016−044362(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/104106(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00− 7/06
D06M 13/00−15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維布帛と前記繊維布帛に含浸付与された高分子弾性体とを含む繊維基材を含み、前記繊維基材に、加脂剤を含まないカルナバワックス単体が0.5〜5質量%さらに含浸付与されていることを特徴とする皮革様シート。
【請求項2】
前記繊維布帛は極細繊維を含む不織布である請求項1に記載の皮革様シート。
【請求項3】
前記繊維基材の少なくとも一面が立毛処理されている請求項2に記載の皮革様シート。
【請求項4】
請求項1に記載の皮革様シートを製造するための皮革様シートの製造方法であって、
繊維布帛と前記繊維布帛に含浸付与された高分子弾性体とを含む繊維基材を準備する工程と、
前記繊維基材の全体に、加脂剤を含まないカルナバワックス分散液を含浸する工程と、
前記繊維基材に含浸された前記カルナバワックス分散液を乾燥することにより、前記繊維基材の内部の繊維又は前記高分子弾性体にカルナバワックスを被着させる工程と、
を備えることを特徴とする皮革様シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性に優れた皮革様シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人工皮革や合成皮革のような皮革様シートが知られている。例えば、下記特許文献1には、極細繊維を含む不織布と、前記不織布の内部に含浸された高分子弾性体とを含む皮革様シートであって、ロジン系樹脂とカルナバワックスとを含む液を塗布することにより、表層にロジン系樹脂とカルナバワックスとを含む層を形成された皮革様シートが開示されており、皮革様シートの表層にロジン系樹脂とカルナバワックスを含むことにより、皮革様シートに優れた通気性を維持させながら、天然皮革のタック感に似たタック感が付与されることが記載されている。
【0003】
また、例えば、下記特許文献2は、弾性高分子物質を含有する繊維集合体からなる基体層及びその一面に繊維立毛層が形成された立毛シートであって、立毛層の表面はロウにより覆われているが該基体層の内部にはロウが実質的に侵入していない立毛シートが開示されており、ロウとしてカルナバワックスが例示されている。そしてこのような立毛シートは、表面に付与されたロウによって染色摩擦性が向上することが記載されている。
【0004】
さらに、例えば、下記特許文献3は、繊維基材にポリウレタンからなる表層を積層してなるヌバック調シート状物が開示されており、表層にヌメリ感を付与するための触感向上剤としてカルナバワックスが例示されている。そしてこのような触感向上剤を表層に添加することにより、表層にヌメリ感が付与されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−11038号公報
【特許文献2】特開昭60−252778号公報
【特許文献3】特許3043049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、皮革様シートの用途として、他の物体表面に摩擦されるようなグローブの素材としての用途が知られている。皮革様シートをこのような用途に用いた場合、使用時に摩擦されることにより皮革様シートが部分的に擦り切れて穴が開いたり、部分的に薄くなったりするようなことがあった。
【0007】
本発明は、他の物体表面に摩擦されるような用途に用いた場合に、摩耗しにくい皮革様シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面は、繊維布帛と繊維布帛に含浸付与された高分子弾性体とを含む繊維基材を含み、繊維基材に、加脂剤を含まないカルナバワックス単体がさらに含浸付与されている皮革様シートである。繊維基材にカルナバワックス単体を含浸付与してその内部に含有させることにより、繊維布帛を形成する繊維の表面に耐摩耗性を与え、その結果、耐摩耗性に優れた皮革様シートが得られる。
【0009】
また、繊維基材は、カルナバワックスを単体で0.5〜5質量%含有することにより、皮革様シートを固くして風合いを低下させずに耐摩耗性を向上させることができる。
【0010】
また、繊維布帛は極細繊維を含む不織布であることが、充実感やしなやかな風合いの皮革様シートが得られる点から好ましい。
【0011】
また、皮革様シートは、繊維基材の少なくとも一面が立毛処理されている場合には、表層にカルナバワックスを偏在させるように付与した場合に生じるように立毛面の毛羽感が低下することを抑制できる点から好ましい。
【0012】
また、本発明の他の一局面は、繊維布帛と繊維布帛に含浸付与された高分子弾性体とを含む繊維基材を準備する工程と、繊維基材の全体に、カルナバワックス分散液を含浸する工程と、繊維基材に含浸されたカルナバワックス分散液を乾燥することにより、繊維基材の内部の繊維又は高分子弾性体にカルナバワックスを被着させる工程と、を備える皮革様シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、他の物体表面に摩擦されるような用途に用いた場合に、摩耗しにくい皮革様シートが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の皮革様シートは、繊維布帛と繊維布帛に含浸付与された高分子弾性体とを含む繊維基材を含み、繊維基材にカルナバワックス単体がさらに含浸付与されている皮革様シートである。
【0015】
繊維布帛を形成する繊維に用いられる樹脂は特に限定されない。その具体例としては、例えば、ナイロン6,ナイロン66,ナイロン10,ナイロン11,ナイロン12,ナイロン6−12等のナイロン;ポリエチレンテレフタレート(PET),イソフタル酸変性PET,スルホイソフタル酸変性PET,ポリブチレンテレフタレート,ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリ乳酸,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネートアジペート,ポリヒドロキシブチレート−ポリヒドロキシバリレート樹脂等の脂肪族ポリエステル;ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリブテン,ポリメチルペンテン,塩素系ポリオレフィンなどのポリオレフィン等が挙げられる。これらの中では、ナイロンまたは芳香族ポリエステル、とくには、ナイロン6が耐摩耗性にとくに優れた人工皮革が得られる点から好ましい。
【0016】
繊維布帛としては、不織布、織編物等が挙げられる。また、繊維布帛を形成する繊維の平均繊度は特に限定されず、2dtexを超えるようなレギュラー繊維であっても、2dtex以下のような極細繊維であってもよいが、天然皮革に似た充実感と柔軟性を兼ね備えた風合いが得られる点から極細繊維の不織布が特に好ましい。極細繊維の平均繊度としては、0.001〜2dtex、さらには0.002〜0.3dtexであることが好ましい。また、極細繊維の場合、極細繊維発生型繊維に由来する極細繊維の繊維束を形成していることが耐摩耗性にとくに優れる点から好ましい。
【0017】
高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン、(メタ)アクリル系高分子弾性体、アクリロニトリル系高分子弾性体、オレフィン系高分子弾性体、ポリエステル系弾性体、などが挙げられる。これらの中では、ポリウレタンが耐摩耗性に優れる点からとくに好ましい。このような高分子弾性体は、エマルジョンや溶液の状態で、繊維布帛に含浸されたのち、乾燥させたり、貧溶媒を用いて湿式凝固させたりすることにより付与される。
【0018】
繊維布帛と高分子弾性体との質量比(繊維布帛/高分子弾性体)は、90/10〜55/45、さらには90/10〜60/40であることが好ましい。高分子弾性体の含有割合が高すぎる場合にはゴムライクな風合いになり、少なすぎる場合には形態安定性が低下する傾向がある。
【0019】
繊維基材の厚さは特に限定されないが、具体的には、例えば、0.2〜2.0mm、さらには、0.3〜1.7mmであることが好ましい。
【0020】
本実施形態の繊維基材にカルナバワックス単体を含浸付与する方法は、特に限定されない。例えば、上述したような繊維基材を準備し、繊維基材の全体に、カルナバワックス分散液を含浸した後、カルナバワックス分散液を乾燥することにより、繊維基材の内部の繊維又は高分子弾性体にカルナバワックスを被着させるような方法が挙げられる
【0021】
カルナバワックスは分散液の状態で繊維基材に含浸した後、乾燥して付与することがとくに好ましい。このような方法によれば、繊維基材の全体にカルナバワックスを単体で付与することができる。カルナバワックスの分散液は、カルナバワックスのエマルジョンを、所定の濃度、例えば、カルナバワックスの固形分として、5〜30%程度になるように水を混合して調製することが好ましい。
【0022】
カルナバワックスの分散液を繊維基材に含浸させる方法は特に限定されないが、繊維基材をカルナバワックスの分散液を貯留した槽に浸漬して吸収させた後、所定の吸収率(ピックアップ率)になるように絞るような、所謂ディップ・ニップ法を用いることが、カルナバワックスを表層に偏在させることなく、繊維基材の全体に付与することができる点から好ましい。なお、その他の方法を排除するものではないが、グラビアロール等のロールコーター、ナイフコーター、スプレー、刷毛を用いたような、コーティング法によれば表層のみに付着するために好ましくない。また、分散液の乾燥としては、通常の、熱風乾燥機や赤外乾燥機を用いた方法が特に限定されなく用いられる。
【0023】
繊維基材に含浸付与されたカルナバワックスの含有割合は0.5〜5質量%である。カルナバワックスの含有割合が高すぎる場合には、皮革様シートが硬くなってしなやかな風合いを損なう傾向がある。また、カルナバワックスの含有割合が低すぎる場合には、耐摩耗性の向上効果が低くなる傾向がある。
【0024】
以上のようにして、本実施形態の皮革様シートが得られる。本実施形態の皮革様シートには、さらに必要に応じて、各種後加工を施してもよい。具体的には、カルナバワックスを含浸付与された繊維基材は必要に応じて表面処理してもよい。表面処理としては、繊維布帛の少なくとも一面を立毛処理することにより、スエード調の表面を形成する処理や、繊維布帛の少なくとも一面に銀面調の樹脂層を形成するような処理が挙げられる。本実施形態の皮革様シートにおいては、スエード調の表面を形成する立毛処理により仕上げられたものであることが好ましい。本実施形態の皮革様シートにおいては、スエード調の表面を有する場合であっても、カルナバワックスが表層に偏在することなく繊維基材の全体に含有されているために、立毛を固めて立毛の長さを短くしすぎてスエード調の風合いを損なわない。
【0025】
本実施形態の皮革様シートは、耐摩耗性に優れるために、作業用手袋、野球グローブ、ゴルフグローブ、ドライバーグローブ等のグローブの素材として好ましく用いられる。
【実施例】
【0026】
次に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例の内容により、何ら限定されるものではない。
【0027】
[実施例1]
6−ナイロンとポリエチレンとをそれぞれ1軸押出機で溶融させ、島成分が6−ナイロン、海成分が高流動性低密度ポリエチレンで、海成分/島成分比率=50/50である300島の海島型複合繊維を複合紡糸ノズルで溶融紡糸した。そして、得られた糸を延伸、クリンプ、カットして、3.5dtex、カット長51mmのステープルを得た。得られたステープルをカードに通し、クロスラッパー方式によりウェブとし、積層した。次に980パンチ/cm2の針刺し密度でニードルパンチすることにより、目付530g/m2の不織布を得た。
【0028】
そして、得られた不織布を加熱した後、プレスすることによりポリエチレン成分を溶融固着させて不織布表面を平滑にした。そして、表面を平滑にされた不織布にポリエステル系ポリウレタンの13%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を含浸させた後、DMF水溶液中に浸漬してポリウレタンをスポンジ状に凝固させた。そして、海島型複合繊維の海成分のポリエチレンを95℃のトルエンで抽出除去した後、乾燥することにより繊維基材を得た。
【0029】
次に、得られた繊維基材にカルナバワックスを含浸付与した。具体的には、カルナバワックスのエマルジョン(濃度30質量%)を希釈してカルナバワックス5質量%を含有するカルナバワックス分散液を調製した。そして、繊維基材をカルナバワックス分散液を貯留する槽に浸漬し、ピックアップ率60%を目標として、ディップ・ニップ処理により繊維基材にカルナバワックス分散液を含浸させた。そして、カルナバワックス分散液を含有する繊維基材を120℃,20分間の条件で熱風乾燥機により乾燥することにより、カルナバワックスを含浸付与された繊維基材を得た。
【0030】
そして、カルナバワックスを含浸付与された繊維基材の両面を♯600番手のサンドペーパーを用いてバフィングすることにより表面を立毛させて、皮革様シートである、スエード調の人工皮革を得た。得られた人工皮革は、0.01dtexの6−ナイロンの極細繊維の不織布と不織布に含浸付与されたポリウレタン及びカルナバワックスを含むスエード調の人工皮革であった。また、スエード調の人工皮革である皮革様シート中のカルナバワックスの含有割合は0.8質量%、ポリウレタンの含有割合は40質量%であった。また、厚さ0.5mm、見掛け密度0.354g/cm3、目付177g/m2であった。そして、得られた皮革様シートの耐摩耗性、風合い、表面毛羽感を次のようにして評価した。
【0031】
〈耐摩耗性〉
テーバーアブレージョンテスター(TABER INSTRUMENT Corp製)を用いて、2個の摩耗輪(H−22、荷重500g)を用い、次のようにして耐摩耗性を評価した。はじめに、2個の摩耗輪の表面をディスクペーパー ♯150で50回転分研磨した。そして、テーバーアブレージョンテスターのターンテーブルに得られた皮革様シートをセットし、60rpmの条件で2個の摩耗輪を皮革様シートの表面で転がし続けた。そして、皮革様シートに穴が開いたときの回転数を穴あき回数とした。なお、測定においては、200回転数ごとに摩耗輪の表面をナイロンブラシで掃除した。結果を表1に示す。
【0032】
〈風合い〉
皮革様シートの原反を両手で握り、折れ曲がりを作った際の状態を、以下の基準で級数判定を行った。
3級:ドレープ性が高く非常に柔軟な風合いであった。
2級:ドレープ性が低くやや柔軟な風合いであった。
1級:ドレープ性が悪く硬い風合いであった。
【0033】
〈毛羽感〉
皮革様シートの表面の立毛面を目視で観察し、以下の基準で級数判定を行った。
3級:ライティング効果の高い長毛であった。
2級:ライティング効果の弱い短毛であった。
1級:ライティング効果が殆ど無くヌバック調であった。
【0034】
【表1】
【0035】
[実施例2〜3]
表1に記載のようにカルナバワックスの含有割合を変更した以外は実施例1と同様にして皮革様シートを作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0036】
[比較例1]
カルナバワックスを含浸付与しなかった以外は実施例1と同様にして皮革様シートを作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0037】
[比較例2〜4]
カルナバワックスのエマルジョンの代わりに、パラフィンワックスのエマルジョンを用い、表1に記載のようにカルナバワックスの代わりにパラフィンワックスを含浸付与した以外は実施例1と同様にして皮革様シートを作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0038】
[比較例5〜7]
カルナバワックスのエマルジョンの代わりに、ポリウレタンのエマルジョンを用い、表1に記載のようにカルナバワックスの代わりにポリウレタンを含浸付与した以外は実施例1と同様にして皮革様シートを作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0039】
[比較例8〜10]
カルナバワックスのエマルジョンの代わりに、アクリル弾性体のエマルジョンを用い、表1に記載のようにカルナバワックスの代わりにアクリル弾性体を含浸付与した以外は実施例1と同様にして皮革様シートを作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0040】
[比較例11]
実施例1と同様にして繊維基材を得た。そして、得られた繊維基材の表層にカルナバワックスを付与した。具体的には、カルナバワックスのエマルジョンをグラビアロール(150メッシュ)でライン速度 5m/分の条件で塗布し、表面から120℃の熱風を吹き付けて乾燥することにより、カルナバワックスを表層に付与した繊維基材を得た。そして、カルナバワックスを表層に付与した繊維基材の両面を#600番手のサンドペーパーを用いてバフィングすることにより、表面を起毛してスエード調の人工皮革を得た。スエード調の人工皮革である皮革様シート中のカルナバワックスの含有割合は0.8質量%であった。そして、得られた皮革様シートを実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0041】
[実施例4]
海成分である水溶性PVAと、島成分である、6モル%のイソフタル酸で変性されたPETとを、海成分/島成分が25/75(質量比)となるように260℃の溶融複合紡糸用口金(島数:25島/繊維)から吐出した。そして、紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力(引き取り風圧)を調整し、平均繊度2.1デシテックスの海島型複合繊維をネット上に堆積したスパンボンドシートを得た。そして、表面温度42℃の金属ロールでネット上のスパンボンドシートを軽く押さえることにより表面の毛羽立ちを抑えた。そしてスパンボンドシートをネットから剥離した。次に、表面温度55℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間で200N/mmの線圧でスパンボンドシートを熱プレスして、目付31g/m2の長繊維からなる繊維ウェブを得た。
【0042】
次に、得られた繊維ウェブをクロスラッピングにより12枚重ねて総目付が372g/m2の重ね合わせウェブを作製し、さらに針折れ防止油剤をスプレーした。そして、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、重ね合わせウェブを針深度8.3mmで両面から交互に3300パンチ/cm2でニードルパンチすることにより繊維絡合体を得た。
【0043】
そして、得られた繊維絡合体に対して、ポリウレタンエマルジョンを含浸し、表面側から120℃の熱風を吹き付けて乾燥させることにより不織布にポリウレタンを含浸付与した。そして、繊維絡合体を70℃の熱水中に28秒間浸漬することによる収縮処理を行った。そして、95℃の熱水中でディップ・ニップ処理を繰り返すことにより海成分ポリマーである変性PVAを溶解除去した。変性PVAを溶解除去することにより、平均繊度0.2デシテックスの25本の極細繊維からなる繊維束が3次元的に交絡した不織布を得た。次に、バフィングにより不織布の厚みを0.5mmに調整した。このようにして繊維基材を製造した。
【0044】
次に、得られた繊維基材にカルナバワックスを含浸付与した。具体的には、カルナバワックスのエマルジョン(濃度30質量%)を希釈してカルナバワックス5質量%を含有するカルナバワックス分散液を調製した。そして、繊維基材をカルナバワックス分散液を貯留する槽に浸漬し、ピックアップ率60%を目標として、ディップ・ニップ処理により繊維基材にカルナバワックス分散液を含浸させた。そして、カルナバワックス分散液を含有する繊維基材を120℃,20分間の条件で熱風乾燥機により乾燥することにより、カルナバワックスを含浸付与された繊維基材を得た。
【0045】
そして、カルナバワックスを含浸付与された繊維基材の両面を♯600番手のサンドペーパーを用いてバフィングすることにより表面を立毛させて、皮革様シートである、スエード調の人工皮革を得た。得られた人工皮革は、0.1dtexのPETの極細繊維の不織布と不織布に含浸付与されたポリウレタン及びカルナバワックスを含むスエード調の人工皮革であった。また、スエード調の人工皮革である皮革様シート中のカルナバワックスの含有割合は0.8質量%、ポリウレタンの含有割合は12質量%であった。また、厚さ0.5mm、見掛け密度0.513g/cm3、目付236g/m2であった。そして、得られた皮革様シートの耐摩耗性、風合い、表面毛羽感を実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
[実施例5〜6]
表1に記載のようにカルナバワックスの含浸付与の割合を変更した以外は実施例1と同様にして皮革様シートを作成し、評価した。結果を表2に示す。
【0048】
[比較例12]
カルナバワックスを含浸付与しなかった以外は実施例4と同様にして皮革様シートを作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0049】
表1の結果から、次のことがわかる。6−ナイロンの極細繊維の不織布を含む皮革様シートについて、実施例1〜3の皮革様シートは、カルナバワックスを含浸付与しなかった比較例1、カルナバワックスの代わりにパラフィンワックスを含浸付与した比較例2〜4、カルナバワックスの代わりにポリウレタンやアクリル弾性体を含浸付与した比較例5〜10の皮革様シートに比べて、著しく穴が空くまでの回転数が同等以上で、耐摩耗性に優れ、また、風合いや毛羽感も優れていることが分かる。また、カルナバワックスを繊維基材に含浸付与する代わりに表層にカルナバワックスを塗布した比較例11の皮革様シートに比べて、著しく穴が空くまでの回転数が多く、著しく耐摩耗性が向上していることが分かる。
【0050】
また、表2の結果から、PETの極細繊維の不織布を含む皮革様シートについても同様に、カルナバワックスを含浸付与しなかった比較例12の皮革様シートに比べて、著しく穴が空くまでの回転数が多く、著しく耐摩耗性が向上していることが分かる。