【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0048】
(1)試験方法
[枝作り酵素]
本実験例では、枝作り酵素の一例として、WO00/58445の方法に則って、精製したRhodothermus obamensis由来の酵素(以下「枝作り酵素」とする)を用いた。
【0049】
なお、枝作り酵素の活性測定は、以下の方法で行った。
基質溶液として、0.1M酢酸緩衝液(pH5.2)にアミロース(Sigma社製,A0512)を0.1質量%溶解したアミロース溶液を用いた。
50μLの基質液に50μLの酵素液を添加し、30℃で30分間反応させた後、ヨウ素-ヨウ化カリウム溶液(0.39mMヨウ素−6mMヨウ化カリウム−3.8mM塩酸混合用液)を2mL加え反応を停止させた。ブランク溶液として、酵素液の代わりに水を添加したものを調製した。反応停止から15分後に660nmの吸光度を測定した。枝作り酵素の酵素活性量1単位は、上記の条件で試験する時、660nmの吸光度を1分間に1%低下させる酵素活性量とした。
【0050】
[DE]
「澱粉糖関連工業分析法」(澱粉糖技術部会編)のレインエイノン法に従って算出した。
【0051】
[澱粉分解物の分子量14000〜80000の画分の含有量]
下記の表1に示す条件で、ゲルろ過クロマトグラフィーにて分析を行った。分子量スタンダードとして、ShodexスタンダードGFC(水系GPC)カラム用Standard P-82(昭和電工株式会社製)を使用し、分子量スタンダードの溶出時間と分子量の相関から算出される検量線に基づいて、澱粉分解物中の分子量14000〜80000の画分の含有量を算出した。
【0052】
【表1】
【0053】
[澱粉分解物中のDP8〜9である分岐鎖又はDP3〜7である分岐鎖の含有量]
a.未処理の澱粉分解物中のDP8〜9又はDP3〜7である糖鎖の含有量の測定
Brix1%に調整した澱粉分解物溶液について、下記表2に示す条件で液体クロマトグラフィーにて分析を行い、保持時間に基づいて、DP8〜9又はDP3〜7の含量を測定した。
【0054】
【表2】
【0055】
b.分岐鎖が切られた状態の澱粉分解物の枝切り酵素処理物中のDP8〜9又はDP3〜7である糖鎖の含有量の測定
Brix5%に調整した澱粉分解物溶液200μLに、1M酢酸緩衝液(pH5.0)を2μL、イソアミラーゼ(Pseudomonas sp.由来、Megazyme製)を固形分(g)当たり125ユニット、プルラナーゼ(Klebsiella planticola由来、Megazyme製)を固形分(g)当たり800ユニット添加し、水で全量400μLになるように調整した。これを40℃で24時間酵素反応させた後、煮沸により反応を停止した。これに600μLの水を加え、12000rpmにて5分間遠心分離を行った。上清900μLを脱塩、フィルター処理後、表2に示す条件で液体クロマトグラフィーにて分析を行い、保持時間に基づいて、DP8〜9又はDP3〜7の含量を測定した。
【0056】
c.澱粉分解物中のDP8〜9又はDP3〜7である分岐鎖の含有量の算出
前記bで求めたDP8〜9の含量から、前記aで求めたDP8〜9の含量を引くことにより、澱粉分解物中のDP8〜9である分岐鎖の含有量を算出した。同様に、前記bで求めたDP3〜7の含量から、前記aで求めたDP3〜7の含量を引くことにより、澱粉分解物中のDP3〜7である分岐鎖の含有量を算出した。
【0057】
[評価方法]
a.揚げ衣又は揚げ皮の歯切れ
下記の表3〜7に示す揚げ物について、油ちょう後3時間経過後の揚げ衣又は揚げ皮の歯切れを10名のパネラーで、下記の評価基準を用いて評価した。パネラーの評価点の平均値を算出した値を評価点とした。
5:非常に良好
4:良好
3:普通
2:やや悪い
1:悪い
【0058】
b.揚げ衣又は揚げ皮の硬さ
下記の表3〜7に示す揚げ物について、油ちょう後3時間経過後の揚げ衣又は揚げ皮の硬さを10名のパネラーで、下記の評価基準を用いて評価した。パネラーの評価点の平均値を算出した値を評価点とした。
5:衣が適度に硬く、非常に食感が良好
4:衣がやや硬く、食感が良好
3:普通
2:衣がやや軟らかい、もしくはやや硬すぎるため、食感がやや悪い
1:衣が軟らかすぎる、もしくは硬すぎるため、非常に食感が悪い
【0059】
(2)澱粉分解物の製造
[澱粉分解物A]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE7になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり600ユニット添加し、65℃で60時間反応させた。更にαアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが10になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Aを得た。
【0060】
[澱粉分解物B]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(スピターゼHK、ナガセケムテックス株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE7になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり400ユニット添加し、65℃で60時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度45質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Bを得た。
【0061】
[澱粉分解物C]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE4まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが8になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット添加し、65℃で45時間反応させた。更にαアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが9になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Cを得た。
【0062】
[澱粉分解物D]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(スピターゼHK、ナガセケムテックス株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE13になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Dを得た。
【0063】
[澱粉分解物E]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した20質量%のワキシーコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE3になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり100ユニット添加し、65℃で5時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度30質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Eを得た。
【0064】
[澱粉分解物F]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した20質量%のワキシーコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE10になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Fを得た。
【0065】
[澱粉分解物G]
クラスターデキストリン(グリコ栄養食品株式会社製)を、澱粉分解物Gとした。
【0066】
[澱粉分解物H]
BLD−8(参松工業株式会社製)を、澱粉分解物Hとした。
【0067】
[澱粉分解物I]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(スピターゼHK、ナガセケムテックス株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE17になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Iを得た。
【0068】
[澱粉分解物J]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE30になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度60質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Jを得た。
【0069】
(3)測定
前記で得られた澱粉分解物A〜Jについて、それぞれ、澱粉分解物中のDE、DP8〜9である分岐鎖の含有量、分子量14000〜80000の画分の含有量、DP3〜7の分岐鎖の含有量を、前述した方法で測定した。結果は、下記の実験例の結果と共に、下記表3に示す。
【0070】
<実験例1>
実験例1では、澱粉分解物の具体的な糖組成が、油ちょう後の揚げ物の衣や皮の歯切れと硬さにどのように影響するかを検討した。
【0071】
具体的には、小麦粉(昭和産業株式会社製「フレンド」、以下同様)99質量部、増粘剤(グァーガム(太陽化学株式会社製「ネオソフトG」、以下同様))1質量部を配合し、参考例用のバッターミックスを製造した。実施例、比較例については、小麦粉のうち15質量部を澱粉分解物A〜Jに置き換えてバッターミックスを製造した。
【0072】
次に、蒸したジャガイモをつぶし、ひき肉とタマネギを炒め、調味料で味付けし、約43g/個、厚さ8mmの小判型に成形したコロッケのパテを作製した。前記で製造したバッターミックス100質量部と水300質量部を混合し、スターラーで均一になるまで撹拌して得たバッター液に、作製したパテを浸漬した後、引き上げ、約14gのバッター液を付着させ、パン粉を付けて冷凍した。冷凍したまま175℃の大豆油(昭和産業株式会社製、以下同様)で5分間油ちょうし、コロッケを製造した。製造後、室温で3時間保存した各コロッケについて、前述した方法で衣の歯切れ及び硬さの官能評価を行った。結果を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
表3に示す通り、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%以上、かつ、分子量14000〜80000の画分の含有量が31〜60質量%範囲内の実施例
2及び3は、比較例1〜7に比べて、衣の歯切れ及び硬さ共に、その評価が高かった。即ち、本発明に係る揚げ衣用又は揚げ皮用組成物を用いれば、従来からの澱粉分解物を用いる場合に比べて、油ちょう後、時間が経過しても、揚げ物の衣の歯切れと硬さを良好に維持することができることが分かった。
【0075】
<実験例2>
実験例2では、揚げ衣用又は揚げ皮用組成物中の前記澱粉分解物の添加量の違いによる効果を検討した。
【0076】
具体的には、前記実験例1と同一の方法でコロッケのパテを作製し、下記表4に示す各ミックス100質量部と水300質量部を混合し、スターラーで均一になるまで撹拌して得たバッター液に浸漬した後、引き上げ、約14gのバッター液を付着させ、パン粉を付けて冷凍した。冷凍したまま175℃の大豆油で5分間油ちょうし、コロッケを製造した。製造後、室温で3時間保存した各コロッケについて、前述した方法で衣の歯切れ及び硬さの官能評価を行った。結果を表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
表4に示す通り、実施例4〜7の全てにおいて、衣の歯切れ及び硬さの評価は良好であったが、特に、組成物(ミックス)全量100質量部中に、前記澱粉分解物を15〜50質量部の範囲で配合した試験例1の実施例3、及び実施例5、6の評価がより高いことが分かった。
【0079】
<実験例3>
実験例3では、揚げ物として、から揚げを製造した際の効果を検討した。
【0080】
具体的には、下記表5に示すミックス原料を混合し、から揚げ用ミックスを製造した。鶏もも肉10切れ(約250g)と、前記で製造したから揚げ用ミックスと水を下記表5に示す比率で混合して得たバッター液100gを揉み込み、鶏もも肉に衣を付けた後、170℃の大豆油で4分間油ちょうし、から揚げを製造した。製造後、室温で3時間保存した各から揚げについて、前述した方法で衣の歯切れ及び硬さの官能評価を行った。結果を表5に示す。なお、表中のコーンスターチは、昭和産業株式会社製を用いた(以下、同様)。
【0081】
【表5】
【0082】
表5に示す通り、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%以上、かつ、分子量14000〜80000の画分の含有量が31〜60質量%範囲内の実施例8〜11は、比較例8及び9に比べて、衣の歯切れ及び硬さ共に、その評価が高かった。
【0083】
<実験例4>
実験例4では、揚げ物として、天ぷらを製造した際の効果を検討した。
【0084】
具体的には、下記表6に示すミックス原料を混合して、天ぷら用ミックスを製造した。この天ぷら用ミックスに下記表6に示す比率で水を混合し、バッター液を調製した。次に、2Lサイズのエビに、前記で製造した天ぷら用ミックスと同一のものを打ち粉として付着させ、各バッター液に浸漬したものを170℃のフライ油中に投入した後、15mlの追い種を行い、2分30秒間油ちょうして天ぷらを製造した。製造後、室温で3時間保存した各天ぷらについて、前述した方法で衣の歯切れ及び硬さの官能評価を行った。結果を表6に示す。なお、表中の膨張剤は、株式会社アイコク製の「アイコクベーキングパウダー赤印」を用いた。
【0085】
【表6】
【0086】
表6に示す通り、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%以上、かつ、分子量14000〜80000の画分の含有量が31〜60質量%範囲内の実施例12〜15は、比較例10〜12に比べて、衣の歯切れ及び硬さ共に、その評価が高かった。
【0087】
<実験例5>
実験例5では、揚げ物として、揚げ春巻きを製造した際の効果を検討した。
【0088】
具体的には、下記表7に示す原料を混合してバッター液を調製し、スターラーで均一になるまで撹拌した。得られたバッター液を150℃でドラム焼成し、厚さ0.5±0.05mm、大きさ190mm×190mmの春巻きの皮を製造した。製造した各春巻きの皮の上に、予め調理した具材を載せ、巻き包んで揚げ用春巻きを調製した。調製した揚げ用春巻きを−40℃の環境下で凍結し、−20℃で冷凍保存した。冷凍した各揚げ用春巻きを、170℃の大豆油で5分間油ちょうし、揚げ春巻きを製造した。製造後、加温什器にて65℃で3時間保存した各揚げ春巻きについて、前述した方法で皮の歯切れ及び硬さの官能評価を行った。結果を表7に示す。なお、表中の小麦粉は、昭和産業株式会社製の「龍舟」を、食用油脂は、昭和産業株式会社製のキャノーラ油を用いた。
【0089】
【表7】
【0090】
表7に示す通り、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%以上、かつ、分子量14000〜80000の画分の含有量が31〜60質量%範囲内の実施例16〜18は、比較例13及び14に比べて、皮の歯切れ及び硬さ共に、その評価が高かった。