特許第6962734号(P6962734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6962734揚げ衣用又は揚げ皮用組成物、及び揚げ物用改質剤、並びに、前記揚げ衣用又は揚げ皮用組成物或いは前記揚げ物用改質剤を用いた揚げ物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962734
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】揚げ衣用又は揚げ皮用組成物、及び揚げ物用改質剤、並びに、前記揚げ衣用又は揚げ皮用組成物或いは前記揚げ物用改質剤を用いた揚げ物
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/157 20160101AFI20211025BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20211025BHJP
   C08B 30/12 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   A23L7/157
   A23L5/10 E
   C08B30/12
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-149262(P2017-149262)
(22)【出願日】2017年8月1日
(65)【公開番号】特開2019-24436(P2019-24436A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】森 春樹
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 正二郎
(72)【発明者】
【氏名】篠原 大次郎
(72)【発明者】
【氏名】須永 智伸
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−111960(JP,A)
【文献】 特開2016−123341(JP,A)
【文献】 特開2012−085579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーンスターチを、酸又はαアミラーゼで液化した後、枝作り酵素処理した澱粉分解物を含み、
前記澱粉分解物は、下記(1)及び(2)を満たす主鎖と分岐鎖とからなる分岐糖質を含む澱粉分解物であり、
前記澱粉分解物のDEが、7〜9である揚げ衣用又は揚げ皮用組成物。
(1)7≦x;但し、xは、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
(2)31≦y≦60;但し、yは、分子量が14000〜80000である画分の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
【請求項2】
前記xが、下記(1’)を満たす請求項1に記載の揚げ衣用又は揚げ皮用組成物。
(1’)8≦x
【請求項3】
前記yが、下記(2’)を満たす請求項1又は2に記載の揚げ衣用又は揚げ皮用組成物。
(2’)35≦y≦60
【請求項4】
前記澱粉分解物の分子量が14000〜80000である画分に、グルコース重合度(DP)が8〜9である前記分岐鎖を有する分岐糖質の少なくとも一部が含まれる請求項1から3のいずれか一項に記載の揚げ衣用又は揚げ皮用組成物。
【請求項5】
コーンスターチを、酸又はαアミラーゼで液化した後、枝作り酵素処理した澱粉分解物を含む澱粉分解物を有効成分とする揚げ物用改質剤であって、
前記澱粉分解物は、下記(1)及び(2)を満たす主鎖と分岐鎖とからなる分岐糖質を含む澱粉分解物であり、
前記澱粉分解物のDEが、7〜9である揚げ物用改質剤。
(1)7≦x;但し、xは、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
(2)31≦y≦60;但し、yは、分子量が14000〜80000である画分の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載の揚げ衣用又は揚げ皮用組成物、或いは、請求項5記載の揚げ物用改質剤を用いた揚げ物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ衣用又は揚げ皮用組成物に関する。より詳しくは、所定の特性を満たす澱粉分解物を含有する揚げ衣用又は揚げ皮用組成物、及び所定の特性を満たす澱粉分解物を有効成分とする揚げ物用改質剤、並びに、前記揚げ衣用又は揚げ皮用組成物或いは前記揚げ物用改質剤を用いた揚げ物に関する。
【背景技術】
【0002】
揚げ物製品は、油ちょう後、陳列、販売を経て喫食までに時間を要する販売形態が多く、経時による食感の劣化(歯切れ・硬さの悪化)が生じる。このため、従来から、揚げ物製品の油ちょう後における経時的な劣化を抑制するための様々な技術が開発されつつある。例えば、加工澱粉、乳化剤、油脂、ベーキングパウダー、デキストリン等を用いて、歯切れの良化や適度な硬さを維持させる技術が用いられている。
【0003】
具体的には、例えば、特許文献1には、(A)デキストリン及び/又はトレハロース及び/又はソルビトールと、(B)有機酸モノグリセリド及びショ糖脂肪酸エステルと、(C)アルカリ剤とを含有させて、バッター用ミックス粉を調製することにより、油切れがよく、油ちょう直後の衣の食感が良好で、この食感の経時的変化が少なく、冷凍、冷蔵後に再加熱しても衣の食感が良好に維持される技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、HLB値が10以上のショ糖脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリドとを、ショ糖脂肪酸エステル25〜75重量%、有機酸モノグリセリド25〜75重量%となる配合割合で含有してなる乳化剤を用いることで、強度が維持され、かつ焼きムラの少ない春巻皮であり、油ちょう後の経時的な食感低下を抑制して、パリパリした歯切れの良い食感が長時間持続する春巻用の皮が得られる技術が開示されている。
【0005】
特許文献3には、実質的にエーテル化又はアセチル化されていない架橋澱粉を50〜85質量%、及びデキストリンを15〜40質量%含有し、且つ、前記架橋澱粉及びデキストリンの合計の含有量が75質量%以上であることを特徴とするバッターミックスを用いることで、パン粉付けフライ食品が、油ちょう後、加温什器において長時間加温された場合であっても、フライ食品の衣部の食感の劣化を抑制することができる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−57041号公報
【特許文献2】特開2010−178709号公報
【特許文献3】特開2016−111960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の通り、油ちょう後の揚げ物の経時的劣化を抑制する技術は、様々な観点から開発されつつあるが、消費者の嗜好性の変化や、より高品質な食品が好まれるようになり、その技術はまだまだ発展途上にあるのが実情である。
【0008】
そこで、本発明では、油ちょう後、時間が経過しても、揚げ物の衣や皮の歯切れと硬さを良好に維持することができる技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、油ちょう後の揚げ物の経時的劣化を抑制する技術について鋭意研究を行った結果、特定の構造を有する澱粉分解物が、揚げ物の衣や皮において良好な歯切れと硬さの維持に効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明では、コーンスターチを、酸又はαアミラーゼで液化した後、枝作り酵素処理した澱粉分解物を含み、前記澱粉分解物は、下記(1)及び(2)を満たす主鎖と分岐鎖とからなる分岐糖質を含む澱粉分解物であり、前記澱粉分解物のDEが、7〜9である揚げ衣用又は揚げ皮用組成物を提供する。
(1)7≦x;但し、xは、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
(2)31≦y≦60;但し、yは、分子量が14000〜80000である画分の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
本発明に係る揚げ衣用又は揚げ皮用組成物において、前記xは、下記(1’)を満たしていてもよい。
(1’)8≦x
本発明に係る揚げ衣用又は揚げ皮用組成物において、前記yは、下記(2’)を満たしていてもよい。
(2’)35≦y≦60
本発明に係る揚げ衣用又は揚げ皮用組成物に用いる前記澱粉分解物において、分子量が14000〜80000である画分には、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖を有する分岐糖質の少なくとも一部が含まれていてもよい。
【0011】
本発明では、また、コーンスターチを、酸又はαアミラーゼで液化した後、枝作り酵素処理した澱粉分解物を含む澱粉分解物を有効成分とする揚げ物用改質剤であって、前記澱粉分解物は、下記(1)及び(2)を満たす主鎖と分岐鎖とからなる分岐糖質を含む澱粉分解物であり、前記澱粉分解物のDEが、7〜9である揚げ物用改質剤を提供する。
(1)7≦x;但し、xは、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
(2)31≦y≦60;但し、yは、分子量が14000〜80000である画分の澱粉分解物中の含有量(質量%)である。
【0012】
本発明では、更に、前述した揚げ衣用又は揚げ皮用組成物、或いは、前述した揚げ物用改質剤を用いた、揚げ物を提供する。
【0013】
ここで、本技術に関わる技術用語の定義付けを行う。
本技術において、「揚げ物」とは、揚げ衣又は揚げ皮を有する食品を、全て包含する。例えば、揚げ種の全部又は一部を、揚げ衣用組成物(揚げ物用改質剤を含んでもよい、以下同じ)又は揚げ皮用組成物(揚げ物用改質剤を含んでもよい、以下同じ)で覆った状態で油ちょうされたもの、及び揚げ衣用組成物に加水したものを油ちょうしたもの、並びに、揚げ皮組成物を用いた皮を油ちょうしたもの等を包含する。より具体的には、揚げ種に、揚げ衣用組成物をそのまま付着させ、又は揚げ衣用組成物に加水して得られたバッター液を付着させ、必要に応じてパン粉等をまぶして油ちょうしたもの、揚げ種を、揚げ皮用組成物を含有する麺皮等の皮で包んで油ちょうしたもの、揚げ衣用組成物に加水して得られたバッター液等を油ちょうしたもの、揚げ皮用組成物からなる麺皮等の皮を油ちょうしたもの等が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、油ちょう後、時間が経過しても、揚げ物の衣や皮の歯切れと硬さを良好に維持することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0016】
<澱粉分解物>
まず、本発明に用いる澱粉分解物について説明する。本発明に係る揚げ衣用又は揚げ皮用組成物は、以下に説明する澱粉分解物を含有する。また、本発明に係る揚げ物用改質剤は、以下に説明する澱粉分解物を有効成分とする。
【0017】
揚げ物の製造において、以下に説明する澱粉分解物を用いることで、油ちょう後、時間が経過しても、揚げ物の衣や皮の歯切れと硬さを良好に維持することができる。また、以下に説明する澱粉分解物は、従来の澱粉分解物に比べて、所謂、澱粉臭が低減されているため、これを揚げ物に用いた場合に、風味への悪影響がほとんどない。
【0018】
本発明で用いる澱粉分解物は、主鎖と分岐鎖とからなる分岐糖質を含む。そして、この澱粉分解物中のグルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の含有量(質量%)xが、下記(1)を満たすことを特徴とする。
(1)7≦x
【0019】
なお、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)xは、澱粉分解物中に含まれるDP8〜9である糖鎖の含有量と、澱粉分解物をイソアミラーゼやプルラナーゼ等の枝切り酵素で処理することにより分岐鎖が切られた状態でのDP8〜9である糖鎖の含有量とを測定し、枝切り酵素処理によって増加したDP8〜9である糖鎖の量を算出することにより求めることができる。
【0020】
また、本発明で用いる澱粉分解物は、分子量が14000〜80000である画分の含有量(質量%)yが、下記(2)を満たすことを特徴とする。
(2)31≦y≦60
【0021】
本発明で用いる澱粉分解物は、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)xと、分子量が14000〜80000である画分の澱粉分解物中の含有量(質量%)yとが、前記(1)及び(2)の両方を満たすことを特徴とする。後述する実施例で示す通り、これらの2つの条件を同時に満たすことで、油ちょう後、時間が経過しても、揚げ物の衣や皮の歯切れと硬さを良好に維持することができる。
【0022】
本発明で用いる澱粉分解物は、前記(1)及び(2)を満たしていればよいが、前記xは、下記(1’)を満たすことが好ましい。前記xが、下記(1’)を満たすと、油ちょう後、時間が経過しても、揚げ物の衣や皮の歯切れと硬さを更に良好に維持することができる。
(1’)8≦x
【0023】
また、前記yは、下記(2’)を満たすことが好ましい。前記yが、下記(2’)を満たすと、油ちょう後、時間が経過しても、揚げ物の衣や皮の歯切れと硬さを更に良好に維持することができる。
(2’)35≦y≦60
【0024】
本発明で用いる澱粉分解物において、分子量が14000〜80000である画分には、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖を有する分岐糖質の少なくとも一部が含まれていてもよい。即ち、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖を有する分岐糖質の一部又は全部が、分子量が14000〜80000である画分に含まれていてもよく、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖を有する分岐糖質の一部が、分子量が14000〜80000である画分以外の画分に含まれていてもよい。
【0025】
更に、本発明に用いる澱粉分解物において、グルコース重合度(DP)が3〜7である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)zは、下記(3)を満たすことが好ましい。
(3)z≦15
【0026】
グルコース重合度(DP)が3〜7である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)を15質量%以下とすることにより、油ちょう後、時間が経過しても、揚げ物の衣や皮の歯切れと硬さを更に良好に維持することができる。
【0027】
なお、グルコース重合度(DP)が3〜7である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)zは、グルコース重合度(DP)が8〜9である分岐鎖の澱粉分解物中の含有量(質量%)xと同様に、澱粉分解物中に含まれるDP3〜7である糖鎖の含有量と、澱粉分解物をイソアミラーゼやプルラナーゼ等の枝切り酵素で処理することにより分岐鎖が切られた状態でのDP3〜7である糖鎖の含有量とを測定し、枝切り酵素処理によって増加したDP3〜7である糖鎖の量を算出することにより求めることができる。
【0028】
<澱粉分解物の製造方法>
本発明で用いる澱粉分解物は、その組成自体が新規であって、その収得の方法については特に限定されることはない。例えば、澱粉原料を、一般的な酸や酵素を用いた処理や、各種クロマトグラフィー、膜分離、エタノール沈殿等の所定操作を適宜、組み合わせて行うことによって得ることができる。
【0029】
本発明で用いる澱粉分解物を得るために原料となり得る澱粉原料としては、公知の澱粉分解物の原料となり得る澱粉原料を1種又は2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、コーンスターチ、米澱粉、小麦澱粉等の澱粉(地上系澱粉)、馬鈴薯、キャッサバ、甘藷等のような地下茎又は根由来の澱粉(地下系澱粉)を挙げることができる。
【0030】
本発明で用いる澱粉分解物を効率的に得る方法として、澱粉原料を、酸又はαアミラーゼを用いて液化した後、枝作り酵素を作用させる方法がある。酸を用いて液化する場合、本発明で用いる澱粉分解物の製造に用いることができる酸の種類は特に限定されず、澱粉の酸液化が可能な酸であれば、公知の酸を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。例えば、塩酸、シュウ酸等を用いることができる。
【0031】
また、澱粉原料の酸液化の前後や、枝作り酵素を作用させる前後に、他の分解酵素(例えば、αアミラーゼ等)による処理を自由に組み合わせることも可能である。例えば、澱粉原料を、酸を用いて液化した後、枝作り酵素を作用させ、更に、他の分解酵素(例えば、αアミラーゼ等)による処理を行う方法を採用することも可能である。このように、酸液化、枝作り酵素による作用の後に、分解酵素を作用させることで、澱粉分解物の分解度を所望の範囲に調整することが容易になる。
【0032】
また、本発明で用いる澱粉分解物は、澱粉原料の酸液化を行わず、澱粉原料をαアミラーゼ等の分解酵素を用いて液化し、次いで、枝作り酵素を用いた処理を行った後、更に、αアミラーゼ等の分解酵素を用いて分解することによっても、製造することができる。
【0033】
ここで、枝作り酵素(branching enzyme)とは、α−1,4−グルコシド結合でつながった直鎖グルカンに作用し、α−1,4−グルコシド結合を切断してα−1,6−グルコシド結合による枝分かれを形成させる働きを持った酵素の総称である。本発明で用いる澱粉分解物の製造で枝作り酵素を用いる場合、その種類は特に限定されず、公知の枝作り酵素を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。例えば、動物や細菌等から精製したもの、又は、馬鈴薯、イネ種実、トウモロコシ種実等の植物から精製したもの等を用いることができる。
【0034】
以上のように、本発明で用いる澱粉分解物を製造する方法は特に限定されないが、澱粉原料を酸又は酵素で液化した後、枝作り酵素処理を行う方法が好ましい。この方法を用いれば、グルコース重合度(DP)8〜9の分岐鎖の含有量を所望の範囲に調整しやすいため、本発明で用いる澱粉分解物を安価にかつ、工業的に製造する場合に好適である。更に、澱粉原料の液化の前後や、枝作り酵素を作用させる前後に、αアミラーゼ処理を行う方法が好ましい。この方法を用いれば、澱粉分解物の分解度を所望の範囲に調整することが容易になる。
【0035】
また、本発明では、目的の澱粉分解物となるように各種処理を行った後に、活性炭脱色、イオン精製等を行い、不純物を除去することも可能であり、不純物を除去することが好ましい。
【0036】
更に、固形分30〜80%に濃縮して液体状にすることや、真空乾燥や噴霧乾燥により脱水乾燥することで粉末化した状態で揚げ衣用又は揚げ皮用組成物や揚げ物用改質剤に用いることも可能である。
【0037】
<揚げ衣用又は揚げ皮用組成物>
本発明に係る揚げ衣用又は揚げ皮用組成物は、前述した澱粉分解物を含有とすることを特徴とする。また、本発明に係る揚げ衣用又は揚げ皮用組成物は、澱粉分解物特有の不快な風味が非常に少ないため、揚げ種や揚げ物全体の風味への悪影響がほとんどなく、様々な揚げ物製品への応用が可能である。
【0038】
本発明に係る揚げ衣用又は揚げ皮用組成物には、従来からの揚げ衣用又は揚げ皮用組成物に用いられている原材料や添加物を1種又は2種以上、自由に組み合わせて用いることができる。例えば、小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、米粉、大豆粉、オーツ粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、トウモロコシ粉等の穀粉類;澱粉類及び加工澱粉類;大豆蛋白質、小麦グルテン、卵粉末、脱脂粉乳などの蛋白素材;植物性油脂、動物性油脂、加工油脂、粉末油脂等の油脂類;食物繊維;前述した澱粉分解物以外の澱粉分解物、デキストリン、ぶどう糖、ショ糖、オリゴ糖、マルトース等の糖質類;膨張剤、増粘剤、乳化剤、pH調整剤、食塩、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料などを適宜含有させることができる。
【0039】
本発明に係る揚げ衣用又は揚げ皮用組成物中の前記澱粉分解物の含有量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、組成物全量100質量部中に、前記澱粉分解物を0.5〜60質量部含有させることが好ましく、1〜55質量部含有させることがより好ましく、5〜50質量部含有させることが更により好ましい。組成物全量100質量部中に、前記澱粉分解物を0.5質量部以上含有させることで、油ちょう後、時間が経過しても、揚げ物の衣や皮の歯切れと硬さを良好に維持することができる。また、前記澱粉分解物の配合上限値を60質量部以下とすることで、揚げ物の衣や皮に適度な硬さを付与し、歯切れを良好に維持することができる。
【0040】
本発明に係る揚げ衣用又は揚げ皮用組成物は、少なくとも前述した澱粉分解物と、前記原材料や添加物とを混合して得られる揚げ物用ミックスとして流通させる形態を採用することができる。具体的には、天ぷら粉、から揚げ粉、フライ用バッターミックス、打ち粉、揚げ春巻きの皮用ミックス、揚げ餃子の皮用ミックス、揚げ焼売の皮用ミックス、揚げワンタンの皮用ミックス、揚げラビオリの皮用ミックス等が挙げられる。
【0041】
<揚げ物用改質剤>
本発明に係る揚げ物用改質剤は、前述した澱粉分解物を有効成分とすることを特徴とする。また、本発明に係る揚げ物用改質剤は、澱粉分解物特有の不快な風味が非常に少ないため、揚げ種や揚げ物全体の風味への悪影響がほとんどなく、様々な揚げ物製品への応用が可能である。
【0042】
本発明に係る揚げ物用改質剤は、有効成分として前述した澱粉分解物を含んでいれば、前述した澱粉分解物のみで構成されていてもよいし、本発明の効果を損なわない限り、他の成分を1種又は2種以上、自由に選択して含有させることもできる。他の成分としては、例えば、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、乳化剤等の成分を用いることができる。更に、公知の又は将来的に見出される機能を有する成分を、適宜目的に応じて併用することも可能である。前述した澱粉分解物は、食品に分類されるため、当該澱粉分解物以外の成分の選択次第では、本発明に係る揚げ物用改質剤を食品として取り扱うことも可能である。
【0043】
<揚げ物>
本発明に係る揚げ物は、前述した揚げ衣用又は揚げ皮用組成物を、或いは、前述した揚げ物用改質剤を用いた食品である。即ち、前述した揚げ衣用又は揚げ皮用組成物を、揚げ衣又は揚げ皮として有する食品、或いは、前述した揚げ物用改質剤を揚げ衣又は揚げ皮に含有する食品である。
【0044】
具体的には、本発明の揚げ衣用組成物(例えば、粉末状、顆粒状)又は本発明の揚げ物用改質剤を添加した公知の揚げ衣用組成物(例えば、粉末状、顆粒状)を、揚げ種にそのまま付着させて油ちょうしたものや、本発明の揚げ衣用組成物又は本発明の揚げ物用改質剤を添加した公知の揚げ衣用組成物に加水して得られたバッター液を揚げ種に付着させ、必要に応じてパン粉等をまぶして油ちょうしたもの、本発明の揚げ衣用組成物又は本発明の揚げ物用改質剤を添加した公知の揚げ衣用組成物に加水して得られたバッター液を油ちょうしたもの等が挙げられる。また、本発明の揚げ皮用組成物又は本発明の揚げ物用改質剤を添加した公知の揚げ皮用組成物を用いて麺皮等の皮を作製し、この皮で揚げ種を包んで油ちょうしたもの、本発明の揚げ皮用組成物又は本発明の揚げ物用改質剤を添加した公知の揚げ皮用組成物を用いた皮をそのまま油ちょうしたもの等も挙げられる。
【0045】
揚げ種としては、特に限定されず、揚げ物として喫食可能な食品を1種又は2種以上、自由に選択し、必要に応じて調理した上で、揚げ種として用いることができる。例えば、鶏肉、豚肉、牛肉等の畜肉類及び畜肉加工食品類;エビ、イカ、タコ、貝、魚等の魚介類及び水産加工食品類;イモ、ピーマン、タマネギ、ニンジン、カボチャ、レンコン、ニラ、にんにく、ねぎ等の野菜類;チーズ等の乳製品等が挙げられる。また、これらに、調理、加工等を施した食品材料を、揚げ種として用いることも可能である。
【0046】
本発明に係る揚げ物の具体的な例としては、天ぷら、フリッター、揚げ玉(天かす)、から揚げ、コロッケ、各種カツ、各種フライ、揚げ春巻き、揚げ餃子、揚げ焼売、揚げワンタン、揚げラビオリ等を挙げることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0048】
(1)試験方法
[枝作り酵素]
本実験例では、枝作り酵素の一例として、WO00/58445の方法に則って、精製したRhodothermus obamensis由来の酵素(以下「枝作り酵素」とする)を用いた。
【0049】
なお、枝作り酵素の活性測定は、以下の方法で行った。
基質溶液として、0.1M酢酸緩衝液(pH5.2)にアミロース(Sigma社製,A0512)を0.1質量%溶解したアミロース溶液を用いた。
50μLの基質液に50μLの酵素液を添加し、30℃で30分間反応させた後、ヨウ素-ヨウ化カリウム溶液(0.39mMヨウ素−6mMヨウ化カリウム−3.8mM塩酸混合用液)を2mL加え反応を停止させた。ブランク溶液として、酵素液の代わりに水を添加したものを調製した。反応停止から15分後に660nmの吸光度を測定した。枝作り酵素の酵素活性量1単位は、上記の条件で試験する時、660nmの吸光度を1分間に1%低下させる酵素活性量とした。
【0050】
[DE]
「澱粉糖関連工業分析法」(澱粉糖技術部会編)のレインエイノン法に従って算出した。
【0051】
[澱粉分解物の分子量14000〜80000の画分の含有量]
下記の表1に示す条件で、ゲルろ過クロマトグラフィーにて分析を行った。分子量スタンダードとして、ShodexスタンダードGFC(水系GPC)カラム用Standard P-82(昭和電工株式会社製)を使用し、分子量スタンダードの溶出時間と分子量の相関から算出される検量線に基づいて、澱粉分解物中の分子量14000〜80000の画分の含有量を算出した。
【0052】
【表1】
【0053】
[澱粉分解物中のDP8〜9である分岐鎖又はDP3〜7である分岐鎖の含有量]
a.未処理の澱粉分解物中のDP8〜9又はDP3〜7である糖鎖の含有量の測定
Brix1%に調整した澱粉分解物溶液について、下記表2に示す条件で液体クロマトグラフィーにて分析を行い、保持時間に基づいて、DP8〜9又はDP3〜7の含量を測定した。
【0054】
【表2】
【0055】
b.分岐鎖が切られた状態の澱粉分解物の枝切り酵素処理物中のDP8〜9又はDP3〜7である糖鎖の含有量の測定
Brix5%に調整した澱粉分解物溶液200μLに、1M酢酸緩衝液(pH5.0)を2μL、イソアミラーゼ(Pseudomonas sp.由来、Megazyme製)を固形分(g)当たり125ユニット、プルラナーゼ(Klebsiella planticola由来、Megazyme製)を固形分(g)当たり800ユニット添加し、水で全量400μLになるように調整した。これを40℃で24時間酵素反応させた後、煮沸により反応を停止した。これに600μLの水を加え、12000rpmにて5分間遠心分離を行った。上清900μLを脱塩、フィルター処理後、表2に示す条件で液体クロマトグラフィーにて分析を行い、保持時間に基づいて、DP8〜9又はDP3〜7の含量を測定した。
【0056】
c.澱粉分解物中のDP8〜9又はDP3〜7である分岐鎖の含有量の算出
前記bで求めたDP8〜9の含量から、前記aで求めたDP8〜9の含量を引くことにより、澱粉分解物中のDP8〜9である分岐鎖の含有量を算出した。同様に、前記bで求めたDP3〜7の含量から、前記aで求めたDP3〜7の含量を引くことにより、澱粉分解物中のDP3〜7である分岐鎖の含有量を算出した。
【0057】
[評価方法]
a.揚げ衣又は揚げ皮の歯切れ
下記の表3〜7に示す揚げ物について、油ちょう後3時間経過後の揚げ衣又は揚げ皮の歯切れを10名のパネラーで、下記の評価基準を用いて評価した。パネラーの評価点の平均値を算出した値を評価点とした。
5:非常に良好
4:良好
3:普通
2:やや悪い
1:悪い
【0058】
b.揚げ衣又は揚げ皮の硬さ
下記の表3〜7に示す揚げ物について、油ちょう後3時間経過後の揚げ衣又は揚げ皮の硬さを10名のパネラーで、下記の評価基準を用いて評価した。パネラーの評価点の平均値を算出した値を評価点とした。
5:衣が適度に硬く、非常に食感が良好
4:衣がやや硬く、食感が良好
3:普通
2:衣がやや軟らかい、もしくはやや硬すぎるため、食感がやや悪い
1:衣が軟らかすぎる、もしくは硬すぎるため、非常に食感が悪い
【0059】
(2)澱粉分解物の製造
[澱粉分解物A]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE7になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり600ユニット添加し、65℃で60時間反応させた。更にαアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが10になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Aを得た。
【0060】
[澱粉分解物B]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(スピターゼHK、ナガセケムテックス株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE7になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり400ユニット添加し、65℃で60時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度45質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Bを得た。
【0061】
[澱粉分解物C]
10%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE4まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが8になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット添加し、65℃で45時間反応させた。更にαアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが9になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Cを得た。
【0062】
[澱粉分解物D]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(スピターゼHK、ナガセケムテックス株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE13になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Dを得た。
【0063】
[澱粉分解物E]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した20質量%のワキシーコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE3になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり100ユニット添加し、65℃で5時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度30質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Eを得た。
【0064】
[澱粉分解物F]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した20質量%のワキシーコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE10になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Fを得た。
【0065】
[澱粉分解物G]
クラスターデキストリン(グリコ栄養食品株式会社製)を、澱粉分解物Gとした。
【0066】
[澱粉分解物H]
BLD−8(参松工業株式会社製)を、澱粉分解物Hとした。
【0067】
[澱粉分解物I]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(スピターゼHK、ナガセケムテックス株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE17になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Iを得た。
【0068】
[澱粉分解物J]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30質量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE30になった時点で、10%塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度60質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、澱粉分解物Jを得た。
【0069】
(3)測定
前記で得られた澱粉分解物A〜Jについて、それぞれ、澱粉分解物中のDE、DP8〜9である分岐鎖の含有量、分子量14000〜80000の画分の含有量、DP3〜7の分岐鎖の含有量を、前述した方法で測定した。結果は、下記の実験例の結果と共に、下記表3に示す。
【0070】
<実験例1>
実験例1では、澱粉分解物の具体的な糖組成が、油ちょう後の揚げ物の衣や皮の歯切れと硬さにどのように影響するかを検討した。
【0071】
具体的には、小麦粉(昭和産業株式会社製「フレンド」、以下同様)99質量部、増粘剤(グァーガム(太陽化学株式会社製「ネオソフトG」、以下同様))1質量部を配合し、参考例用のバッターミックスを製造した。実施例、比較例については、小麦粉のうち15質量部を澱粉分解物A〜Jに置き換えてバッターミックスを製造した。
【0072】
次に、蒸したジャガイモをつぶし、ひき肉とタマネギを炒め、調味料で味付けし、約43g/個、厚さ8mmの小判型に成形したコロッケのパテを作製した。前記で製造したバッターミックス100質量部と水300質量部を混合し、スターラーで均一になるまで撹拌して得たバッター液に、作製したパテを浸漬した後、引き上げ、約14gのバッター液を付着させ、パン粉を付けて冷凍した。冷凍したまま175℃の大豆油(昭和産業株式会社製、以下同様)で5分間油ちょうし、コロッケを製造した。製造後、室温で3時間保存した各コロッケについて、前述した方法で衣の歯切れ及び硬さの官能評価を行った。結果を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
表3に示す通り、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%以上、かつ、分子量14000〜80000の画分の含有量が31〜60質量%範囲内の実施例2及び3は、比較例1〜7に比べて、衣の歯切れ及び硬さ共に、その評価が高かった。即ち、本発明に係る揚げ衣用又は揚げ皮用組成物を用いれば、従来からの澱粉分解物を用いる場合に比べて、油ちょう後、時間が経過しても、揚げ物の衣の歯切れと硬さを良好に維持することができることが分かった。
【0075】
<実験例2>
実験例2では、揚げ衣用又は揚げ皮用組成物中の前記澱粉分解物の添加量の違いによる効果を検討した。
【0076】
具体的には、前記実験例1と同一の方法でコロッケのパテを作製し、下記表4に示す各ミックス100質量部と水300質量部を混合し、スターラーで均一になるまで撹拌して得たバッター液に浸漬した後、引き上げ、約14gのバッター液を付着させ、パン粉を付けて冷凍した。冷凍したまま175℃の大豆油で5分間油ちょうし、コロッケを製造した。製造後、室温で3時間保存した各コロッケについて、前述した方法で衣の歯切れ及び硬さの官能評価を行った。結果を表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
表4に示す通り、実施例4〜7の全てにおいて、衣の歯切れ及び硬さの評価は良好であったが、特に、組成物(ミックス)全量100質量部中に、前記澱粉分解物を15〜50質量部の範囲で配合した試験例1の実施例3、及び実施例5、6の評価がより高いことが分かった。
【0079】
<実験例3>
実験例3では、揚げ物として、から揚げを製造した際の効果を検討した。
【0080】
具体的には、下記表5に示すミックス原料を混合し、から揚げ用ミックスを製造した。鶏もも肉10切れ(約250g)と、前記で製造したから揚げ用ミックスと水を下記表5に示す比率で混合して得たバッター液100gを揉み込み、鶏もも肉に衣を付けた後、170℃の大豆油で4分間油ちょうし、から揚げを製造した。製造後、室温で3時間保存した各から揚げについて、前述した方法で衣の歯切れ及び硬さの官能評価を行った。結果を表5に示す。なお、表中のコーンスターチは、昭和産業株式会社製を用いた(以下、同様)。
【0081】
【表5】
【0082】
表5に示す通り、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%以上、かつ、分子量14000〜80000の画分の含有量が31〜60質量%範囲内の実施例8〜11は、比較例8及び9に比べて、衣の歯切れ及び硬さ共に、その評価が高かった。
【0083】
<実験例4>
実験例4では、揚げ物として、天ぷらを製造した際の効果を検討した。
【0084】
具体的には、下記表6に示すミックス原料を混合して、天ぷら用ミックスを製造した。この天ぷら用ミックスに下記表6に示す比率で水を混合し、バッター液を調製した。次に、2Lサイズのエビに、前記で製造した天ぷら用ミックスと同一のものを打ち粉として付着させ、各バッター液に浸漬したものを170℃のフライ油中に投入した後、15mlの追い種を行い、2分30秒間油ちょうして天ぷらを製造した。製造後、室温で3時間保存した各天ぷらについて、前述した方法で衣の歯切れ及び硬さの官能評価を行った。結果を表6に示す。なお、表中の膨張剤は、株式会社アイコク製の「アイコクベーキングパウダー赤印」を用いた。
【0085】
【表6】
【0086】
表6に示す通り、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%以上、かつ、分子量14000〜80000の画分の含有量が31〜60質量%範囲内の実施例12〜15は、比較例10〜12に比べて、衣の歯切れ及び硬さ共に、その評価が高かった。
【0087】
<実験例5>
実験例5では、揚げ物として、揚げ春巻きを製造した際の効果を検討した。
【0088】
具体的には、下記表7に示す原料を混合してバッター液を調製し、スターラーで均一になるまで撹拌した。得られたバッター液を150℃でドラム焼成し、厚さ0.5±0.05mm、大きさ190mm×190mmの春巻きの皮を製造した。製造した各春巻きの皮の上に、予め調理した具材を載せ、巻き包んで揚げ用春巻きを調製した。調製した揚げ用春巻きを−40℃の環境下で凍結し、−20℃で冷凍保存した。冷凍した各揚げ用春巻きを、170℃の大豆油で5分間油ちょうし、揚げ春巻きを製造した。製造後、加温什器にて65℃で3時間保存した各揚げ春巻きについて、前述した方法で皮の歯切れ及び硬さの官能評価を行った。結果を表7に示す。なお、表中の小麦粉は、昭和産業株式会社製の「龍舟」を、食用油脂は、昭和産業株式会社製のキャノーラ油を用いた。
【0089】
【表7】
【0090】
表7に示す通り、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%以上、かつ、分子量14000〜80000の画分の含有量が31〜60質量%範囲内の実施例16〜18は、比較例13及び14に比べて、皮の歯切れ及び硬さ共に、その評価が高かった。