(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962833
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】長期保管可能なホワイトソース
(51)【国際特許分類】
A23L 23/00 20160101AFI20211025BHJP
【FI】
A23L23/00
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-28848(P2018-28848)
(22)【出願日】2018年2月21日
(65)【公開番号】特開2019-140978(P2019-140978A)
(43)【公開日】2019年8月29日
【審査請求日】2020年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大関 明日香
(72)【発明者】
【氏名】高野 宏行
【審査官】
安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−142830(JP,A)
【文献】
特開2002−034451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳糖と、乳タンパクと、20℃における固体脂肪含有量が7.0重量%以上、10.5重量%以下の食用油脂とからなるホワイトソース様食品であって、
ホワイトソース様食品全量中、乳糖を6〜9重量%含み、水分活性が0.850aw以下であり、
且つハンター白色度が71%以上であることを特徴とするホワイトソース様食品。
【請求項2】
ホワイトソース様食品全量中、乳糖及び乳タンパクの総量が12重量%未満であることを特徴とする請求項1記載のホワイトソース様食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存性や貯蔵安定性に優れ、長期間保管可能なホワイトソースに関する。
【背景技術】
【0002】
ハヤシライス、ビーフシチュー、カレー等の煮込み料理では、彩りやコクを加えるために、生クリームやココナッツミルク等のホワイトソースをかけることが多い。
【0003】
しかしながら、生クリームやココナッツミルクは水分を多量に含んでいるため、冷蔵保存で2〜3日、冷凍保存でも1ヶ月程度しか保存できないという課題があった。
【0004】
特許文献1には、水分活性を0.9aw以下に抑えることで常温保存を可能にした容器詰のクリームソースが開示されているが、ガアーガムやα化澱粉を冷水溶解性増加剤として機能させるために一定量の水を添加している。このため、水分活性を、病原性細菌の増殖しない水準(0.850aw以下)や、微生物の増殖を完全に抑えることのできる水準(0.600aw以下)まで下げることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−142830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ホワイトソースのような外観を有し、且つ長期保管可能なホワイトソース様食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、乳糖と、乳タンパクと、20℃における固体脂肪含有量が7.0重量%以上の食用油脂とからなるホワイトソース様食品であって、水分活性が0.850aw以下、且つハンター白色度が71%以上であることを特徴とするホワイトソース様食品により本発明の課題を解決し得ることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ホワイトソースのような外観を有し、且つ長期保管可能なホワイトソース様食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、具体的に説明する。
【0010】
本発明は、乳糖と、乳タンパクと、20℃における固体脂肪含有量が7.0重量%以上の食用油脂とからなるホワイトソース様食品であって、水分活性が0.850aw以下、且つハンター白色度が71%以上であるホワイトソース様食品を提供するものである。以下詳細に説明する。
【0011】
なお、以下の記載において、固体脂肪含有量をSFC(= Solid Fat Content)、T℃におけるSFCをSFC(T℃)と記載する場合がある。
【0012】
(1)水分活性
本発明において、ホワイトソース様食品の水分活性は0.850aw以下である必要があり、0.650aw以下であることがより好ましい。水分活性を0.850aw以下にすることで、大腸菌、サルモネラ菌、赤痢菌等のグラム陰性菌の繁殖を抑え、食中毒のリスクを低減することができる。さらに、水分活性を0.650aw以下にすることで、ほぼ全ての微生物の繁殖を抑えることができ、食品の腐敗を防止することができる。
【0013】
(2)原料
本発明のホワイトソース様食品は、乳糖、乳タンパク及び食用油脂を含有することが必要である。以下詳細に説明する。
【0014】
(2−1)乳糖
乳糖は、ホワイトソース食品の風味、特に甘味に寄与する。グルコース等と比較すると甘味度は低いが、ホワイトソースの甘味は乳糖に由来しているため、ホワイトソース様食品においても、甘味を乳糖で調整した方がよりホワイトソースの風味に近づけることができる。また、乳タンパクの供給源である全粉乳や脱脂粉乳には元々乳糖が含まれているため、製造するうえで効率が良い。
【0015】
本発明では、ホワイトソース様食品全量中、乳糖を6〜9重量%含有することが好ましい。乳糖の量か多すぎると、ホワイトソース様食品に分離や沈殿が生じてしまう(貯蔵安定性の低下)。また、乳糖の量が少なすぎると、後述するように白色度が低くなってしまい、ホワイトソースのような外観を実現できない。
【0016】
なお、本発明では乳糖以外のその他の糖を使用することもできるが、風味(主に甘味)が変わってしまうため、最小限度に留めることが好ましい。
【0017】
(2−2)乳タンパク
本発明のホワイトソース様食品は、乳タンパクを含むことが必要である。ホワイトソースには乳由来の乳タンパクが含まれており、乳製品らしい風味を実現するのに寄与している。そこで、本発明においては、乳タンパクを加えることでホワイトソースのような風味を再現している。なお、乳タンパクとは、乳に含まれるカゼイン、ホエイタンパク質等の総称である。
【0018】
乳タンパクを含む材料としては、全粉乳や脱脂粉乳が挙げられる。全粉乳や脱脂粉乳には、乳タンパク以外にも、乳脂や乳糖を含んでいるため、ホワイトソース様食品を製造するうえで効率が良い。
【0019】
本発明では、ホワイトソース様食品全量中、乳タンパクを2〜4重量%含むことが好ましい。上述の通り、乳タンパクの配合量が2重量%未満の場合には乳の風味を充分に付与することができない。また、乳糖の量が少ない場合と同様にホワイトソースのような外観(白色度)を実現できない。一方、配合量が4重量%を超える場合には、乳の風味が強くなりすぎる。
【0020】
(2−3)乳糖及び乳タンパク
本発明では、ホワイトソース様食品全量中、乳糖及び乳タンパクの総配合量を12重量%以下とすることが好ましい。乳糖及び乳タンパクの総配合量が12重量%を超えると貯蔵安定性が低下する。
【0021】
(2−4)食用油脂
本発明のホワイトソース様食品は、食用油脂を含むことが必要である。ホワイトソースの貯蔵安定性や滑らかな食感は水と油脂(ホワイトソースの場合には主に“乳脂”)からなるエマルションによるところが大きいと思われるが、本発明のホワイトソース様食品にはほとんど水が含まれていないため、エマルションを形成することができない。このため、本発明では食用油脂を選定することによって貯蔵安定性等を実現している。
【0022】
本発明における食用油脂とは、SFC(20℃)が7重量%以上の食用油脂である。SFC(20℃)が7重量%未満の場合には、ホワイトソース様食品の粘度が低くなり過ぎてしまい、乳糖や乳タンパクの量に係らず分離沈殿が生じてしまうため、貯蔵安定性が悪い。
【0023】
さらに、本発明では、食用油脂のSFC(20℃)を10.5重量%以下とすることが好ましい。SFC(20℃)が10.5重量%以下の食用油脂を用いることで、流動性が高くハンドリングの良いホワイトソース様食品を製造することができる。
【0024】
(2−5)その他材料
本発明では、乳タンパク質、乳酸、食用油脂、乳糖以外の材料を適宜添加してもよい。具体的には、グルコース、スクロース、オリゴ糖等の乳糖以外の糖類、食塩、にがり等の塩味成分、グルタミン酸やイノシン酸等の旨味成分、及び香辛料などを風味や保存性が低下しない範囲で適宜加えることができる。ただし、その他材料が多すぎるとホワイトソースの風味や外観から外れてしまうため、その他材料の配合量はホワイトソース全量に対して10重量%以下に留めることが好ましい。
【0025】
(3)ハンター白色度
本発明のホワイトソースは、ハンター白色度が71%以上であることが必要である。ハンター白色度が71%を下回るとホワイトソースらしい白さを実現することができない。ハンター白色度の上限値には特に限定はないが、上記材料を組み合わせてホワイトソースを作製した場合に、ハンター白色度を80%以上とするのは極めて困難である。なお、本明細書において単に“白色度”という場合には“ハンター白色度”を指すものとする。
【実施例】
【0026】
(食用油脂)
菜種油、ショートニング及び乳脂の20℃、30℃、35℃における固体脂肪含有量(SFC)は表1の通りである(小数点以下四捨五入)。なお、以下、表中の“%”は、特に断らない限り”重量%”を指すものとする。
【0027】
【表1】
【0028】
(粉乳)
本実施例に使用した粉乳の組成(乳脂、乳糖、乳タンパク及びその他(灰分等))は表2の通りである。
【0029】
【表2】
【0030】
油脂及び粉乳を表3の比率で混合し、ディスパーで10分間撹拌して試作例1〜8を調整した。試作例の組成内訳及びSFCは表4の通りである。
【0031】
【表3】
【0032】
【表4】
【0033】
(評価)
貯蔵安定性、流動性及び白色度を以下の基準で評価した。評価結果は表5の通りである。
【0034】
(貯蔵安定性)
試料60gを容量約70mlのマヨネーズ瓶に入れて蓋をし、20℃で1週間静置後に以下の基準で貯蔵安定性を確認した。
○:分離や沈殿が生じていない。
△:沈殿は生じていないが、分離(透明な上澄部と白色部に分離)が生じている。
×:沈殿が生じている。
【0035】
(流動性)
試料60gを容量約70mlのマヨネーズ瓶に入れて蓋をし、20℃で1日静置後に以下の基準で流動性を確認した。
○:マヨネーズ瓶を反転(蓋が底面、瓶底が天面)させてから3秒以内に試料のほぼ全量(概ね95%以上)が底面側に流れ落ちる。
×: マヨネーズ瓶を反転(蓋が底面、瓶底が天面)させてから3秒経過しても試料のほぼ全量(概ね95%以上)が天面側に留まる。
△:○と×の中間の状態
【0036】
(ハンター白色度、)
試料5.0±0.5gを測定用セル(丸セル)に入れて白色度測定サンプルを調整し、以下の条件でハンター白色度を測定した。
分光色差計:SE6000(日本電色工業社製)
測定モード:反射
反射径:30φ
サンプル温度:20.0±0.5℃
【0037】
(白さ(目視))
ホワイトソース様食品30gをシャーレに注ぎ、上方よりホワイトソース様食品の“白さ”を評価した。この際、10名のパネラーが以下の基準で評価した。
○:試作例3(ポジティブ基準)と同等以上の白さと評価したパネラーが9名以上
×:試作例2(ネガティブ基準)と同等以下の白さと評価したパネラーが9名以上
△:“○”、“×”に該当しないもの
【0038】
【表5】
【0039】
SFC(20℃)が低い場合には貯蔵安定性が悪い傾向だった(試作例1、2)。また、ハンター白色度が71%を下回る場合には、“白さ”が不十分であり、ホワイトソースとはいえない外観だった。なお、試作例2と試作例7(乳糖と乳タンパクの総量はほぼ同じだが、試作例7の方が固体脂肪含有量が高い)を比較すると、試作例7の方が白色度が高い傾向だった。このことから、乳糖と乳タンパクだけでなく、固体脂肪含有量も白色度に影響していると考えられる。