(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6962932
(24)【登録日】2021年10月18日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】酸味増強剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20211025BHJP
A23C 9/13 20060101ALI20211025BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20211025BHJP
A23L 2/56 20060101ALI20211025BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20211025BHJP
A23L 27/60 20160101ALI20211025BHJP
A23D 9/00 20060101ALN20211025BHJP
【FI】
A23L27/00 D
A23C9/13
A23L2/52 101
A23L2/56
A23L23/00
A23L27/00 Z
A23L27/60 A
!A23D9/00 504
【請求項の数】18
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-559018(P2018-559018)
(86)(22)【出願日】2017年12月13日
(86)【国際出願番号】JP2017044748
(87)【国際公開番号】WO2018123594
(87)【国際公開日】20180705
【審査請求日】2020年10月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-253874(P2016-253874)
(32)【優先日】2016年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J−オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】辻 美咲
(72)【発明者】
【氏名】徳地 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅博
【審査官】
緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2016/084788(WO,A1)
【文献】
特開2015−053880(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/160851(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/077105(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/077019(WO,A1)
【文献】
特開昭64−039962(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/056778(WO,A1)
【文献】
特許第596968(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23L 2/52
A23L 2/56
A23L 27/60
A23L 23/00
A23C 9/13
A23D 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化物価が15〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を有効成分とする、酸味増強剤。
【請求項2】
前記増強剤が、前記酸化油脂を0.001質量%以上100質量%以下含む、請求項1に記載の増強剤。
【請求項3】
酸味増強剤の製造方法であって、
10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む原料油脂に、酸素を供給しながら加熱し、過酸化物価が15〜180である酸化油脂を得る工程
を含む、該製造方法。
【請求項4】
前記加熱を65℃以上150℃以下、1時間以上72時間以下でおこなう、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記酸素の供給が、前記原料油脂1kgあたり0.001〜2L/分である、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記乳脂が無水乳脂である、請求項3乃至5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記原料油脂が乳脂を50質量%以上100質量%以下含む、請求項3乃至6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記原料油脂の油脂含量が90質量%以上100質量%以下である、請求項3乃至7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
更に、食用油脂に前記酸化油脂を添加する工程を含む、請求項3乃至8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記食用油脂に対し、前記酸化油脂を0.001質量%以上50質量%以下添加する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の増強剤を含む調味料であって、前記増強剤の添加により酸味が増強された該調味料。
【請求項12】
前記酸化油脂に含まれる乳脂が0.005〜10000ppmとなるように前記増強剤含む、請求項11に記載の調味料。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の増強剤を含む食品であって、前記増強剤の添加により酸味が増強された該食品。
【請求項14】
前記酸化油脂に含まれる乳脂が0.005〜10000ppmとなるように前記増強剤含む、請求項13に記載の食品。
【請求項15】
過酸化物価が15〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を調味料に添加することを特徴とする、調味料の酸味を増強させる方法。
【請求項16】
過酸化物価が15〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を食品に添加することを特徴とする、食品の酸味を増強させる方法。
【請求項17】
過酸化物価が15〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を調味料に添加することを特徴とする、調味料の酸味の発現を調整する方法。
【請求項18】
過酸化物価が15〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を食品に添加することを特徴とする、食品の酸味の発現を調整する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調味料、食品等に適用される酸味増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸やクエン酸等の酸味を有する成分が含まれる食品や調味料は多く存在し、例えば、食酢、マヨネーズ、ドレッシング、ヨーグルトなどがある。従来、このような酸味を有する食品等に対し、その酸味を抑制することを課題として、例えば、特許文献1(特開平7−46967)では、マヨネーズ様食品において、所定量のアラニン及び炭酸水素ナトリウムを含有せしめることで、酸味の抑制されたマヨネーズ様食品が得られることが開示されている。
【0003】
また、特許文献2(特開2016−67354)には、加工したレシチンが酸味を抑制できることが開示されている。
【0004】
一方、特許文献3(特許5976968)には、特定の酸化処理した乳脂を含む油脂が、乳風味を増強することが開示されている。しかしながら、酸味に関する効果については開示されていない。
【0005】
このように、従来、食品等の酸味を抑制するための方法は開示されているが、酸味を増強することについて、ほとんど着目されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−46967号公報
【特許文献2】特開2016−67354号公報
【特許文献3】特許5976968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、調味料、食品等に添加することで、酸味を増強することができる、酸味増強剤、並びに酸味を増強する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、所定量の乳脂を含む酸化油脂に、酸味を増強する効果があることを発見し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、過酸化物価が15〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を有効成分とする、酸味増強剤である。
【0010】
本発明による酸味増強剤にあっては、前記増強剤が、前記酸化油脂を0.001質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。
【0011】
また、本発明は、酸味増強剤の製造方法であって、
10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む原料油脂に、酸素を供給しながら加熱し、過酸化物価が15〜180である酸化油脂を得る工程
を含む、該製造方法である。
【0012】
本発明による酸味増強剤の製造方法にあっては、前記加熱を65℃以上150℃以下、1時間以上72時間以下でおこなうことが好ましい。
【0013】
また、上記製造方法にあっては、前記酸素の供給が、前記原料油脂1kgあたり0.001〜2L/分であることが好ましい。
【0014】
また、上記製造方法にあっては、前記乳脂が無水乳脂であることが好ましい。
【0015】
また、上記製造方法にあっては、前記原料油脂が乳脂を50質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。
【0016】
また、上記製造方法にあっては、前記原料油脂の油脂含量が90質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0017】
また、上記製造方法にあっては、更に、食用油脂に前記酸化油脂を添加する工程を含むことが好ましい。
【0018】
また、上記製造方法にあっては、前記食用油脂に対し、前記酸化油脂を0.001質量%以上50質量%以下添加することが好ましい。
【0019】
また、本発明は、過酸化物価が15〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を有効成分とする、酸味増強剤を含む調味料であって、前記増強剤の添加により酸味が増強された該調味料である。
【0020】
本発明による調味料にあっては、前記酸化油脂に含まれる乳脂が0.005〜10000ppmとなるように前記増強剤含むことが好ましい。
【0021】
また、本発明は、過酸化物価が15〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を有効成分とする、酸味増強剤を含む食品であって、前記増強剤の添加により酸味が増強された該食品である。
【0022】
本発明による食品にあっては、前記酸化油脂に含まれる乳脂が0.005〜10000ppmとなるように前記増強剤含むことが好ましい。
【0023】
また、本発明は、過酸化物価が15〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を調味料に添加することを特徴とする、調味料の酸味を増強させる方法である。
【0024】
また、本発明は、過酸化物価が15〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を食品に添加することを特徴とする、食品の酸味を増強させる方法である。
【0025】
また、本発明は、過酸化物価が15〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を調味料に添加することを特徴とする、調味料の酸味の発現を調整する方法である。
【0026】
また、本発明は、過酸化物価が15〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を食品に添加することを特徴とする、食品の酸味の発現を調整する方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、所定量の乳脂を含む酸化油脂を、調味料、食品等に添加することで、酸味を増強することができ、特に、食したときの中味や後味の酸味の発現を強くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明においては、酸味増強のための有効成分として、過酸化物価が15〜180であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を用いる。
【0029】
乳脂とは、生乳、牛乳又は特別牛乳から得られる油脂含量が95質量%以上100質量%以下のものをいう。例えば、無水乳脂、澄ましバター等が挙げられる。無水乳脂は、牛乳等から乳脂肪以外のほとんどすべての成分を除去したものをいい、AMF(Anhydrous Milk Fat、バターオイル)等と表記される場合もある。澄ましバターはバターの脂肪分を分取したものである。本発明で使用する乳脂は、好ましくは無水乳脂または澄ましバターであり、より好ましくは無水乳脂である。また、乳脂の油脂含量は、好ましくは98質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下である。
【0030】
本発明で使用する酸化油脂の乳脂含量は、10質量%以上100質量%以下であり、20質量%以上100質量%以下であることが好ましく、50質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、65質量%以上100質量%以下であることがさらにより好ましく、95質量%以上100質量%以下であることが特に好ましく、100質量%(すなわち、乳脂単独)であることが最も好ましい。また、酸化油脂の油脂含量は、好ましくは90質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは95質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは98質量%以上100質量%以下であり、よりさらに好ましくは99質量%以上100質量%以下である。
【0031】
また、前記酸化油脂は、乳脂以外の食用油脂を含んでいてもよい。乳脂以外の食用油脂としては、特に限定されないが、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油、菜種油、コーン油、パーム油及びパーム分別油のいずれか一種または二種以上が好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油及び菜種油のいずれか一種または二種以上がより好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリド及び大豆油のいずれか一種または二種がさらに好ましい。前記酸化油脂は、本発明の効果を阻害しない限り、通常油脂に添加できる助剤等を含んでいてもよい。
【0032】
また、本発明では、前記酸化油脂の過酸化物価(以下、「POV」ともいう)は15〜180であり、25〜150であることが好ましく、30〜150であることがより好ましく、35〜140であることがさらに好ましく、40〜140であることがさらにより好ましく、40〜120であることが特に好ましい。
また、先味の酸味を増強する観点から、前記酸化油脂のPOVは、15〜100が好ましく、30〜85がより好ましく、30〜60がさらに好ましく、32〜55がさらにより好ましい。また、中味〜後味の酸味を増強する観点から、前記酸化油脂のPOVは、30〜130が好ましく、40〜125がより好ましく、45〜125がさらに好ましい。またさらに、先味と中味〜後味の酸味のいずれも増強する観点から、前記酸化油脂のPOVは、25〜100が好ましく、34〜83がより好ましく、40〜65がさらに好ましく、40〜60がさらにより好ましい。
【0033】
前記酸化油脂は酸化をすることで、所定範囲のPOVとすることができるが、酸化の方法は特に限定されない。酸化をする際、加熱することが好ましく、加熱する温度は65℃以上150℃以下が好ましく、70℃以上140℃以下がより好ましく、75℃以上140℃以下がさらに好ましい。また、酸化をする時間は、特に限定されないが、好ましくは1時間以上72時間以下であり、より好ましくは3時間以上72時間以下であり、さらに好ましくは5時間以上72時間以下である。
【0034】
また、酸化をする際には、原料油脂に酸素を供給し、酸化をすることが好ましい。酸素の供給源としては、酸素単独でもかまわないし、空気等の酸素を含むものでも良く、好ましくは空気である。酸素の供給量が、原料油脂1kgあたり0.001〜2L/分となるようにすることが好ましく、0.005〜2L/分となるようにすることがより好ましく、0.02〜2L/分となるようにすることがさらに好ましい。例えば、空気の場合は、原料油脂1kgあたり0.005〜10L/分であることが好ましく、0.025〜10L/分であることがより好ましく、0.1〜10L/分であることがさらに好ましく、0.3〜5L/分であることがさらにより好ましい。また、酸化をする場合には、原料油脂を撹拌することが好ましい。
【0035】
前記原料油脂の乳脂含量は、10質量%以上100質量%以下であり、20質量%以上100質量%以下であることが好ましく、50質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、65質量%以上100質量%以下であることがさらにより好ましく、95質量%以上100質量%以下であることが特に好ましく、100質量%(すなわち、乳脂単独)であることが最も好ましい。また、原料油脂の油脂含量は、好ましくは90質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは95質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは98質量%以上100質量%以下であり、よりさらに好ましくは99質量%以上100質量%以下である。
【0036】
また、前記原料油脂は、乳脂以外の食用油脂を含んでいてもよい。乳脂以外の食用油脂としては、特に限定されないが、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油、菜種油、コーン油、パーム油及びパーム分別油のいずれか一種または二種以上が好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油及び菜種油のいずれか一種または二種以上がより好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリド及び大豆油のいずれか一種または二種がさらに好ましい。また、前記原料油脂の水の含有量は、例えば、1質量%未満である。
【0037】
本発明によれば、前記酸化油脂が調味料、食品等に含有するように添加することで、酸味を増強させることができる。また、これにより、好ましくは、酸味の先味、中味及び後味のいずれか一または二以上の発現を調整することができ、より好ましくは酸味の中味及び後味のいずれか一または二の発現を調整することができる。
【0038】
本発明の適用方法は、調味料、食品等に前記酸化油脂を添加する方法であればよく、特に限定されるものではない。例えば、前記酸化油脂を調味料等の原料や製造工程の中間物等へ添加すればよい。また、添加するタイミングも特に限定されず、調味料、食品等の製造のいずれの工程でもよい。あるいは、製造後であって、食する前に添加してもよい。
【0039】
本発明が適用される調味料、食品等は、酸味を有していれば、特に限定されない。例えば、食酢類(穀物、米、果実)、マヨネーズ、ドレッシング、ソース類(ウスター、中濃、チリペッパー等)、ケチャップ、マスタード、ポン酢、ヨーグルト、チーズ、梅干し、コンソメスープ、ジュース類(レモンジュース等)などが例示される。
【0040】
本発明を適用した調味料、食品等において酸味が増強したかどうかは、前記酸化油脂を添加して調製したものと、添加しないで同様に調製したものとを、官能評価試験、好ましくは、母集団に対して嗜好的偏向がないように選出された複数名のパネラーによる官能評価試験等に供することによって、客観的な評価が可能である。
【0041】
本発明が調味料に適用される場合、その調味料における前記酸化油脂の含有量は、その効果に応じて調製すればよいが、例えば、前記酸化油脂に含まれる乳脂が、好ましくは0.005〜10000ppm、より好ましくは0.01〜7000ppm、さらに好ましくは0.1〜5000ppm、さらにより好ましくは0.5〜3000ppm、特に好ましくは1〜2000ppmとなるようにする。
【0042】
本発明が食品に適用される場合、その食品における前記酸化油脂の含有量は、その効果に応じて調製すればよいが、例えば、前記酸化油脂に含まれる乳脂が、好ましくは0.005〜10000ppm、より好ましくは0.01〜7000ppm、さらに好ましくは0.05〜5000ppm、さらにより好ましくは0.08〜3000ppm、特に好ましくは0.08〜2000ppmとなるようにする。
【0043】
また、上述したように、本発明の適用方法は、調味料、食品等に前記酸化油脂を添加する方法であればよい。この場合、食用組成物の形態、すなわち、例えば、調味料やエキス等の形態で食品やその原料に添加するようにしてもよい。
【0044】
本発明が食用組成物の形態で適用される場合、その食用組成物における前記酸化油脂の含有量は、酸味増強の効果を発揮する限り、特に限定されない。典型的には、前記酸化油脂が、好ましくは0.001質量%以上100質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以上50質量%以下、さらにより好ましくは0.01質量%以上10質量%以下となるようにする。
【0045】
本発明が食用組成物の形態で適用される場合、その食用組成物には、前記酸化油脂を希釈するための食用油脂を使用してもよく、前記食用油脂に対し、前記酸化油脂を好ましくは0.001質量%以上50質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以上20質量%以下、さらにより好ましくは0.01質量%以上10質量%以下となるようにする。食用油脂は特に限定されず、例えば、パーム核油、パーム油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂等の植物油脂、ラード等の動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。また、これらの分別油(パーム油の中融点部、パーム油の分別軟質油、パーム油の分別硬質油等)、エステル交換油、水素添加油等の加工した油脂を使用できる。また、これらの食用油脂は、1種又は2種以上を使用することができる。また、本発明の効果を阻害しない限り、通常食用油脂に添加できる助剤等を使用してもよく、粉末状等の形状とするためのコーンシロップ等を使用してもよい。
【0046】
本発明が食用組成物の形態で適用される場合、その形態としては、例えば、調味料等としての使用に適した形態であればよく、具体的には、例えば、粉末状、ペースト状、液体状等の形態であり得る。この場合、前記酸化油脂を粉末化したうえ各種調味料等の原料を混合して調製することもできる。粉末化する際には、賦形剤等の各種公知の補助剤を添加することもできる。さらに、乳化剤を添加して乳化してもよい。粉末化の方法は、例えば、スプレードライ及びフリーズドライなどの当業者に公知の任意の方法で行うことができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨はこれらに限定されるものではない。
【0048】
実施に際しては、以下のものを使用した(いずれも水の含有量は1質量%未満であった)。
【0049】
無水乳脂(製品名:バターオイルCML、丸和油脂株式会社製、油脂含量:99.8質量%)
大豆油(株式会社J−オイルミルズ社製)
菜種油(株式会社J−オイルミルズ社製)
中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)(製品名:MCT アクターM−107FR、理研ビタミン株式会社製)
高オレイン酸低リノレン酸菜種油(HOLL菜種油)(株式会社J−オイルミルズ社製)
【0050】
以下のように、酸化油脂を調製した。
【0051】
(調製例1〜4)
無水乳脂200gをステンレスビーカーに入れ、100℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。5、 5.5、 5.8、 6.5時間後にサンプリングし、酸化油脂を得た。
【0052】
得られた酸化油脂の過酸化物価(POV)を「基準油脂分析試験法 2.5.2 過酸化物価」に準じて、測定した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
(調製例5〜8)
調製例2を菜種油に対し、0.001質量%、0.01質量%、0.1質量%、及び1質量%となるように添加し、調製例5〜8を調製した。
【0055】
(マヨネーズでの評価1)
市販のマヨネーズ(製品名:ピュアセレクトマヨネーズ、クノール食品株式会社製)100質量部に対し、菜種油(対照)または調製例5〜8のいずれかを1質量部加え、泡だて器で攪拌した。得られたマヨネーズを食し、以下のように評価した(評価者3名の合議で決めた)。その結果を表2に示す。
【0056】
<中味〜後味の酸味>
◎:対照に比べて非常に強い
○:対照に比べて強い
△:対照に比べてやや強い
×:対照と同等
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示したように、いずれもマヨネーズの中味〜後味の酸味を増強した。特に喫食時の酸化油脂の含有量が1ppmでその効果が高くなり、100ppmで顕著となった。
【0059】
(マヨネーズでの評価2)
【0060】
(調製例9〜13)
無水乳脂(酸化していないもの、POV 0)、または調製例1〜4のいずれかを菜種油に対し、1質量%となるように添加し、調製例9〜13を調製した。
【0061】
市販のマヨネーズ(同上)100質量部に対し、菜種油(対照)または調製例9〜13のいずれかを1質量部加え、泡だて器で攪拌した。得られたマヨネーズを食し、以下のように評価した(評価者3名の合議で決めた)。その結果を表3に示す。
【0062】
<先味の酸味>
◎:対照に比べて非常に強い
○:対照に比べて強い
△:対照に比べてやや強い
×:対照と同等
<中味〜後味の酸味>
◎:対照に比べて非常に強い
○:対照に比べて強い
△:対照に比べてやや強い
×:対照と同等
【0063】
【表3】
【0064】
表3に示したように、いずれもマヨネーズの先味の酸味と中味〜後味の酸味を増強した。POV 34〜51では、先味の酸味の増強効果が顕著であり、POV 51〜120では中味〜後味の酸味の増強効果が顕著であった。この結果から特定のPOVの酸化油脂を用いることで、先味、中味、後味の酸味の強さ(すなわち、酸味の発現)を調整できることがわかった。
【0065】
(マヨネーズでの評価3)
【0066】
(調製例14、乳脂および乳脂以外の食用油脂を含む酸化油脂)
無水乳脂140gに中鎖脂肪酸トリグリセリド60gを混合し、乳脂を70質量%含む油脂を調製した。調製した油脂200gをステンレスビーカーに入れ、120℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。13時間反応し、POV 58.7の酸化油脂を得た。
【0067】
(調製例15、乳脂および乳脂以外の食用油脂を含む酸化油脂)
調製例14において中鎖脂肪酸トリグリセリドに代えて、大豆油を用いたこと以外、同様に処理し、POV 44.6の酸化油脂を得た。
【0068】
(調製例16、乳脂および乳脂以外の食用油脂を含む酸化油脂)
無水乳脂50質量部にHOLL菜種油50質量部を混合し、乳脂を50質量%含む油脂を調製した。調製した油脂200gをステンレスビーカーに入れ、100℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。36時間反応し、POV 100の酸化油脂を得た。
【0069】
(調製例17、乳脂および乳脂以外の食用油脂を含む酸化油脂)
無水乳脂20質量部にHOLL菜種油80質量部を混合し、乳脂を20質量%含む油脂を調製した。調製した油脂200gをステンレスビーカーに入れ、100℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。30時間反応し、POV 105の酸化油脂を得た。
【0070】
(調製例18〜22)
調製例2、14〜17のいずれかを菜種油に対し、1質量%となるように添加し、調製例18〜22を調製した。
【0071】
市販のマヨネーズ(同上)100質量部に対し、菜種油(対照)または調製例18〜22のいずれかを1質量部加え、泡だて器で攪拌した。得られたマヨネーズを食し、以下のように評価した(評価者3名の合議で決めた)。その結果を表4に示す。
【0072】
<先味の酸味>
◎:対照に比べて非常に強い
○:対照に比べて強い
△:対照に比べてやや強い
×:対照と同等
<中味〜後味の酸味>
◎:対照に比べて非常に強い
○:対照に比べて強い
△:対照に比べてやや強い
×:対照と同等
【0073】
【表4】
【0074】
表4に示したように、酸化油脂に含まれる乳脂の含有量が20質量%以上で中味〜後味の酸味を増強できることがわかった。また、酸化油脂に含まれる乳脂の含有量が20質量%〜50質量%では、先味の酸味が増強されなかった。この結果から酸化油脂に含まれる乳脂の含有量を調整することで中味、後味の酸味のみを増強させることが可能であることがわかった。
このように、本発明による酸味増強剤は、使用する酸化油脂のPOVや乳脂含量を選択することで、酸味の先味、中味、後味の発現の強さを調整することができる。
【0075】
(ヨーグルトでの評価)
【0076】
(調製例23)
調製例2を菜種油に対し、10質量%となるように添加し、調製例23を調製した。
【0077】
市販のヨーグルト(製品名:明治ブルガリアヨーグルト、株式会社明治社製)100質量部に対し、菜種油(対照)または調製例23を0.1質量部加え、泡だて器で攪拌した。得られたヨーグルトを食し、酸味を以下のように評価した(評価者3名の合議で決めた)。その結果を表5に示す。
【0078】
<中味〜後味の酸味>
◎:対照に比べて非常に強い
○:対照に比べて強い
△:対照に比べてやや強い
×:対照と同等
【0079】
【表5】
【0080】
表5に示したように、本発明による酸味増強剤は、ヨーグルトの酸味を増強した。
【0081】
(酢での評価)
水で10%に希釈した食酢(製品名:穀物酢、株式会社ミツカン社製)100質量部に対し、菜種油(対照)、調製例7及び調製例8のいずれかを1質量部加え、ディスパーザーで3000rpm、3分間攪拌した。得られた食酢を食し、酸味を以下のように評価した(評価者3名の合議で決めた)。その結果を表6に示す。
【0082】
<中味〜後味の酸味>
◎:対照に比べて非常に強い
○:対照に比べて強い
△:対照に比べてやや強い
×:対照と同等
【0083】
【表6】
【0084】
表6に示したように、いずれも食酢の中味〜後味の酸味を増強した。
【0085】
(レモンジュースでの評価)
ポッカレモン100(ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社製)を水で10%に希釈して、レモンジュースを調製した。調製したレモンジュース100質量部に対し、菜種油(対照)または調製例7を1質量部加え、ディスパーザーで3000rpm、3分間攪拌した。得られたレモンジュースを食し、酸味を以下のように評価した(評価者3名の合議で決めた)。その結果を表7に示す。
【0086】
<中味〜後味の酸味>
◎:対照に比べて非常に強い
○:対照に比べて強い
△:対照に比べてやや強い
×:対照と同等
【0087】
【表7】
【0088】
表7に示したように、本発明による酸味増強剤は、レモンジュースの中味〜後味の酸味を増強した。
【0089】
(ドレッシングでの評価)
【0090】
(使用したドレッシング)
シーザードレッシング(製品名:シーザーサラダドレッシング、キユーピー株式会社製)
コブドレッシング(製品名:コブサラダドレッシング、キユーピー株式会社製)
【0091】
市販のドレッシング100質量部に対し、菜種油(対照)または調製例8を1質量部加え、泡だて器で攪拌した。得られたドレッシングを食し、酸味を以下のように評価した(評価者3名の合議で決めた)。その結果を表8に示す。
【0092】
<中味〜後味の酸味>
◎:対照に比べて非常に強い
○:対照に比べて強い
△:対照に比べてやや強い
×:対照と同等
【0093】
【表8】
【0094】
表8に示したように、本発明による酸味増強剤は、いずれのドレッシングにおいても、中味〜後味の酸味を増強した。
【0095】
(コンソメスープでの評価)
【0096】
(調製例24)
調製例1と同様の操作で、無水乳脂を酸化し、POV 46の酸化油脂を得た。
【0097】
(調製例25)
パーム核極硬油35質量部、コーンシロップ(水分25質量%)63.36質量部、pH調整剤ミックス(リン酸水素2カリウム、クエン酸3ナトリウム)2.10質量部及び乳化剤ミックス(酸カゼイン、水酸化ナトリウム、ソルビタン脂肪酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルの混合物)5.38質量部、調製例24 10質量部を配合し、混合をした。さらに水84.16質量部添加し、常法に従い、乳化・噴霧し、粉末油脂形態の酸味増強剤を得た。
【0098】
ビーカーに風味調味料(製品名:コンソメ、味の素株式会社製)10.6gと90℃のお湯600gを入れ混合して、コンソメスープを得た。コンソメスープ 149.85gに調製例25を0.15g添加し、攪拌し、試験用スープを得た。試験用スープを食したところ、添加しないものに比べ、先味の酸味、中味〜後味の酸味が増強していることが確認できた。よって、本発明による酸味増強剤は、粉末油脂の形態であっても、その効果が確認できた。
【0099】
酸味増強剤の製造例
無水乳脂200gをステンレスビーカーに入れ、100℃に保温しながら、撹拌し、空気(5mL/分)を供給した。過酸化物価が47になったところで、空気の供給を止め、冷却し、酸化油脂を得た。得られた酸化油脂を酸味増強剤とした。