(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡は、試料表面にプローブを接触させて、その試料表面をプローブで間欠的に走査する、いわゆる間欠的測定方法を用いた走査型プローブ顕微鏡である。
以下、本発明の一実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡を、図面を用いて説明する。なお、図面において、同一又は類似の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省く場合がある。また、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために誇張されることがある。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Aの概略構成の一例を示す図である。
図1に示すように、走査型プローブ顕微鏡Aは、カンチレバー2、試料台4、移動駆動部5、変位検出部6、及び制御装置7を備えている。
【0019】
カンチレバー2は、先端にプローブ2aを備える。カンチレバー2は、その基端が固定され、先端が自由端となっている。カンチレバー2は、小さいバネ定数Kを備える弾性レバー部材であり、先端のプローブ2aと試料Sの表面(以下、「試料表面」という。)とが接触すると、先端のプローブ2aが試料表面を押圧する押し付け力に応じたたわみが生じる。
【0020】
また、カンチレバー2は、先端のプローブ2aと試料表面とが接触した場合に、その試料表面に傾きがある場合には、その試料表面の傾きと、先端のプローブ2a及び試料表面の接触点である支点の支点反力と、に応じたねじれやたわみが生じる。
【0021】
移動駆動部5は、プローブ2aと試料Sとを、3次元方向に対して相対的に移動させる。移動駆動部5は、Z方向駆動装置51(駆動部)及びXYスキャナー52(スキャナー部)を備える。
【0022】
Z方向駆動装置51上には、試料台4が載置されている。この試料台4には、カンチレバー2のプローブ2aに対向配置するように試料Sが載置されている。
Z方向駆動装置51は、試料台4を水平面に垂直な方向(Z方向)に移動させる。例えば、Z方向駆動装置51は、圧電素子である。
【0023】
Z方向駆動装置51は、制御装置7からの制御により、試料台4をZ方向に移動させることで、試料表面をプローブ2aに接近させる接近動作、又はプローブ2aから試料Sを引き離す方向に動作させる引離し動作を行う。
【0024】
XYスキャナー52は、制御装置7からの制御により、プローブ2aと試料Sとを、XY方向に対して相対的に移動させる。なお、
図1において試料台4の表面に平行な面は水平面であり、ここでは直交の2軸X,YによりXY平面と定義される。例えば、XYスキャナー52は、圧電素子である。
なお、Z方向駆動装置51及びXYスキャナー52は、相対的に3次元形状観察の走査が可能な構成であれば、配置関係は問わない。
【0025】
変位検出部6は、カンチレバー2のたわみ量とねじれ量とを検出する。第1の実施形態では、変位検出部6は、光てこ式を用いてカンチレバー2のたわみ量とねじれ量とを検出する場合について説明する。
【0026】
変位検出部6は、光照射部61、及び光検出部62を備える。
光照射部61は、カンチレバー2の裏面に形成された図示しない反射面に対してレーザ光L1を照射する。
【0027】
光検出部62は、上記反射面で反射されたレーザ光L2を受光する。光検出部62は、当該背面で反射されたレーザ光L2を受光する4分割の受光面27を備えた光検出器である。すなわち、カンチレバー2の背面で反射されたレーザ光L2は、光検出部62の4分割された複数の受光面27に入射されるように光路を(通常は、受光面27の中心付近に)調整する。
以下に、第1の実施形態に係るカンチレバー2のたわみ量とねじれ量との検出方法について、
図1及び
図2を用いて、説明する。
図2は、斜面を有する試料Sと、カンチレバー2との斜視図である。
【0028】
カンチレバー2は、プローブ2aと試料表面とが接触した場合にZ方向とY方向のいずれか一方、又は両方に変位が生じる。第1の実施形態において、Z方向に生じるカンチレバー2の変位をたわみ量と称し、Y方向に生じるカンチレバー2の変位をねじれ量と称する。例えば、初期条件では、プローブ2aに力が加わっていない状態で反射されたレーザ光L2の光検出部62の受光面27における入射スポット位置を、受光面27の中心位置とする。なお、プローブ2aに力が加わっていない状態とは、例えば、プローブ2aと試料表面とが接触していないカンチレバーが無変形な状態(以下、「フリー状態」という。)である。
【0029】
コンタクトモードにおいて、プローブ2aと試料表面とが接触すると、プローブ2aに力が加わることで、カンチレバー2にたわみ量やねじれ量が生じる。したがって、たわみ量やねじれ量が生じたカンチレバー2の背面で反射されたレーザ光L2の反射スポット位置は、その中心位置から変位する。そのため、走査型プローブ顕微鏡Aは、光検出部62の受光面27における当該スポット位置の移動方向を捉えることによってプローブ2aに加わった力の大きさと方向を検出可能となる。
【0030】
例えば、
図1において、カンチレバー2にねじれ量が発生した場合には、光検出部62の受光面27においてα方向のスポット位置の変化を捉えることができる。また、カンチレバー2にたわみ量が発生した場合には、受光面27でβ方向のスポット位置の変化を捉えることができる。
ここで、中心位置からのスポット位置の変化量は、ねじれ量やたわみ量に依存する。具体的には、カンチレバー2が+Z方向にたわんだ場合には、光検出部62の受光面27におけるレーザ光L2の反射スポットは、+β方向に変化する。また、カンチレバー2が−Z方向にたわんだ場合には、光検出部62の受光面27におけるレーザ光L2の反射スポットは、−β方向に変化する。一方、カンチレバー2が+Y方向にねじれ量が発生した場合には、光検出部62の受光面27におけるレーザ光L2の反射スポット位置は、+α方向に変化する。また、カンチレバー2が−Y方向にねじれ量が発生した場合には、光検出部62の受光面27におけるレーザ光L2の反射スポットは、−α方向に変化する。
【0031】
光検出部62は、受光面27の±Z方向におけるレーザ光L2の反射スポット位置に応じた第1検出信号を制御装置7に出力する。すなわち、第1検出信号は、カンチレバー2のたわみ量に応じたDIF信号(たわみ信号)である。また、光検出部62は、受光面27の±Y方向におけるレーザ光L2の反射スポット位置に応じた第2検出信号を制御装置7に出力する。すなわち、第2検出信号は、カンチレバー2のねじれ量に応じたFFM信号(ねじれ信号)である。
【0032】
次に、第1の実施形態に係る制御装置7について、説明する。
図1に示すように、制御装置7は、判定部42、駆動制御部43、及び測定部44を備える。
【0033】
判定部42は、光検出部62から出力される第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、プローブ2aが試料表面に接触したか否かを判定する。なお、以下の説明において、プローブ2aが試料表面に接触したか否かを判定する処理を「接触判定処理」と称する。
【0034】
また、判定部42は、光検出部62から出力される第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、プローブ2aが試料表面に対して離間したか否かを判定する。なお、以下の説明において、プローブ2aが試料表面に対して離間したか否かを判定する処理を「離間判定処理」と称する。
【0035】
駆動制御部43は、移動駆動部5によるプローブ2aと試料Sとの相対的な移動量を制御する。ここで、本発明の一実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Aは、試料表面における、予め設定された複数の測定点のみにおいて、プローブ2aを接触させることで、試料表面を間欠的に走査する間欠的測定方法を用いる。したがって、駆動制御部43は、プローブ2aを測定位置に接近させる接近動作と、プローブ2aと試料Sとを引き離す引離し動作と、プローブ2aを次の測定位置の上空まで移動させる移動動作と、のそれぞれの動作を制御する。
【0036】
具体的には、駆動制御部43は、プローブ2aと試料表面とを接触させるため接触動作信号をZ方向駆動装置51に出力し、試料Sを上昇させる。これにより、駆動制御部43は、プローブ2aと試料表面とを接近させる。
【0037】
駆動制御部43は、接触判定処理によりプローブ2aが試料表面に接触したと判定された場合には、Z方向駆動装置51に対する接触動作信号の出力を停止することで、試料Sを上昇させる接近動作を停止させる。
【0038】
駆動制御部43は、プローブ2aから試料表面を引き離すため引離し動作信号をZ方向駆動装置51に出力し、試料Sを下降させる。これにより、駆動制御部43は、試料表面をプローブ2aから引き離す方向に動作させる。すなわち、駆動制御部43は、試料表面がプローブ2aに接触している状態から退避させる。
【0039】
ここで、第1の実施形態の特徴の一つは、駆動制御部43は、引離し動作において、カンチレバー2の応答速度を超えた速度で、試料Sをプローブ2aから引き離す方向に動作させることである。ここで、応答速度とは、カンチレバー2の共振周波数と、その共振周波数で安定して動作可能な振幅とに基づいて算出される平均移動速度である。このように、第1の実施形態に係る引離し動作とは、プローブ2aが試料表面に接触している状態から、カンチレバー2の応答速度を超えた速度で、試料Sをプローブ2aから引き離す方向に動作させる動作である。
【0040】
駆動制御部43は、離間判定処理によりプローブ2aが試料表面に対して離間したと判定した場合には、Z方向駆動装置51に対する引離し動作信号の出力を停止することで、試料Sを下降させる引離し動作を停止させる。
【0041】
駆動制御部43は、XYスキャナー52に駆動信号を出力することで、次の測定位置の直上に位置する測定下降位置にプローブ2aを移動させる。
【0042】
測定部44は、プローブ2aと試料表面とが接触している状態で、試料表面の凸凹形状を測定する。例えば、測定部44は、接触判定処理によりプローブ2aが試料表面に接触したと判定された場合には、接近動作において試料Sがプローブ2aに対して相対的に移動した距離(以下、単に「相対距離」という。)を測定することで、試料表面の凸凹形状を測定する。例えば、測定部44は、プローブ2aと試料表面とが接触している状態における駆動信号の電圧値に基づいて相対距離を算出してもよい。また、測定部44は、試料台4の変位をセンサー(不図示)により直接計測してもよいし、試料台4の高さをセンサー(不図示)により直接計測してもよい。
【0043】
次に、第1の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Aの間欠的測定方法の流れについて、
図3を用いて説明する。なお、初期条件として、所定の測定点における測定下降位置にプローブ2aが位置している場合とする。
【0044】
駆動制御部43は、接触動作信号をZ方向駆動装置51に出力し、試料台4を上昇させることでプローブ2aを試料表面に接近させる接近動作を開始する(ステップS101)。
【0045】
判定部42は、接近動作が開始された場合には、光検出部62から出力される第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、プローブ2aが試料表面に接触したか否かを判定する接触判定処理を実行する(ステップS102)。
【0046】
判定部42は、接触判定処理により、プローブ2aが試料表面に接触したと判定した場合には、上記接近動作を停止する(ステップS103)。この場合には、プローブ2aが試料表面に接触しているため、カンチレバーに一定以上のねじれやたわみが生じている。
【0047】
測定部44は、プローブ2aと試料表面とが接触したと判定された場合には、相対距離を測定することで、試料表面の凸凹形状を測定する(ステップS104)。
【0048】
駆動制御部43は、測定部44による相対距離の測定が完了した場合には、カンチレバー2の応答速度を超えた速度で、試料Sをプローブ2aから引き離す方向に動作させる引離し動作を開始する(ステップS105)。
【0049】
判定部42は、引離し動作が開始された場合には、検出部33から出力される第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、プローブ2aが試料表面に対して離間したか否かを判定する離間判定処理を実行する(ステップS106)。
【0050】
駆動制御部43は、離間判定処理により、プローブ2aが試料表面に対して離間したと判定された場合には、上記引離し動作を停止する(ステップS107)。そして、駆動制御部43は、XYスキャナー52に駆動信号を出力することで、次の測定位置の直上に位置する測定下降位置にプローブ2aを移動させる(ステップS108)。そして、駆動制御部43は、その測定下降位置からカンチレバー2を下降させ、次の測定位置においてプローブ2aを接触させ、再度測定部44による相対距離の測定が開始される。このように、走査型プローブ顕微鏡Aは、試料Sの各測定点に対応して、ステップS101からステップS108の動作を行うことで、試料表面を間欠的に走査する。
【0051】
以下に、第1の実施形態に係る接触判定処理について説明する。
判定部42は、光検出部62から出力される第1検出信号が示すたわみ量が、第1の範囲を超えた場合に、プローブ2aが試料表面に接触したと判定する。
【0052】
判定部42は、光検出部62から出力される第2検出信号が示すねじれ量が、第2の範囲を超えた場合に、プローブ2aが試料表面に接触したと判定する。
【0053】
このように、判定部42は、光検出部62から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲を超える第1条件と、光検出部62から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲を超える第2条件と、のうち少なくともいずれか一方が成立した場合に、プローブ2aが試料表面に接触したと判定する。なお、上記では、第1検出信号と第2検出信号が、独立して判定される例であるが、判定部42内で、「第1検出信号の2乗」と「第2検出信号の2乗」を足し合わせ、その和の平方根の正の数が、一定以上となった場合に接したと判定する等、特性に応じた設定値により判定してもよい。
【0054】
以下に、本実施形態における第1の範囲及び第2の範囲について、
図4を用いて説明する。
図4に示すように、第1の範囲は、たわみ上限閾値とたわみ下限閾値との間の範囲である。たわみ上限値は、プローブ2aと試料Sとの表面が接触することで+Z方向にたわんだカンチレバー2のたわみ量である。一方、たわみ下限値は、プローブ2aと試料Sとの表面が接触することで−Z方向にたわんだカンチレバー2のたわみ量である。したがって、判定部42は、光検出部62から出力される第1検出信号が示すたわみ量が、たわみ上限値を超えた場合、又は第1検出信号が示すたわみ量が、たわみ下限値を下回った場合、プローブ2aが試料表面に接触したと判定する。
【0055】
第2の範囲は、ねじれ上限閾値とねじれ下限閾値との間の範囲である。ねじれ上限値は、プローブ2aと試料Sとの表面が接触することで+Y方向にねじれたカンチレバー2のねじれ量である。一方、ねじれ下限値は、プローブ2aと試料表面とが接触することで−Y方向にねじれたカンチレバー2のねじれ量である。したがって、判定部42は、光検出部62から出力される第2検出信号が示すねじれ量が、ねじれ上限値を超えた場合、又は第2検出信号が示すねじれ量が、ねじれ下限値を下回った場合、プローブ2aが試料表面に接触したと判定する。このように、
図4に示すたわみ量とねじれ量との2次元座標において、第1検出信号が示すたわみ量と、第2検出信号が示すねじれ量と、が示す位置が、斜線で示された範囲の外に位置された場合にプローブ2aが試料表面に接触したと判定されることになる。
【0056】
次に、第1の実施形態に係る離間判定処理について説明する。
判定部42は、引離し動作中において、所定の振幅におけるカンチレバー2の振動を、当該カンチレバーの共振周波数で検出した場合に、プローブ2aが試料表面に対して離間したと判定する。なお、所定の振幅とは、カンチレバー2のフリー状態の位置を基準として、プローブ2aが試料表面に接触している状態におけるカンチレバー2の変位よりも小さい範囲である。
【0057】
例えば、離間判定処理とは、カンチレバー2の応答速度を超えた速度で試料Sをプローブ2aから引き離す方向に動作させた場合において、カンチレバー2の共振周波数近傍での、たわみ方向の振幅の変化率が所定値以上であるか否かを判定する処理である。ここで、たわみ方向の振幅の変化率が所定値以上である場合とは、たわみ方向の振幅が急激に増加する場合を示す。なお、離間判定処理とは、カンチレバー2の応答速度を超えた速度で試料Sをプローブ2aから引き離す方向に動作させた場合において、所定の振幅におけるカンチレバー2の振動の周波数が当該カンチレバーの共振周波数であるか否かを判定する処理としてもよい。
【0058】
判定部42は、カンチレバー2の応答速度を超えた速度で試料Sをプローブ2aから引き離す方向に動作させた場合において、カンチレバー2の振動周波数が当該カンチレバーの共振周波数であり、且つカンチレバー2の振幅の変化率が所定値以上であると判定した場合には、プローブ2aが試料表面に対して離間したと判定する。一方、判定部42は、カンチレバー2の応答速度を超えた速度で試料Sをプローブ2aから引き離す方向に動作させた場合において、カンチレバー2の振動の周波数が当該カンチレバーの共振周波数ではない、又はカンチレバー2の振幅の変化率が所定値未満であると判定した場合には、プローブ2aと試料表面とが接触している(離間していない)と判定する。
【0059】
以下に、第1の実施形態に係る離間判定処理の作用効果について、
図5,
図6を用いて説明する。
図5は、通常の速度で、試料Sをプローブ2aから引き離す方向に動作させた場合における、カンチレバー2の様子を示す図である。
図6は、第1の実施形態に係る引離し動作(カンチレバー2の応答速度を超えた速度で試料Sをプローブ2aから引き離す方向に動作させた場合)における、カンチレバー2の様子を示す図である。
図5(a),
図6(a)は、−Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図5(b),
図6(b)は、−X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
【0060】
判定部42は、上述の接触判定処理において、カンチレバー2のたわみ量とねじれ量との少なくともいずれか一方が所定の範囲外である場合に、プローブ2aが試料表面に接触したと判定する。したがって、対偶で考えれば、カンチレバー2のたわみ量とねじれ量とのそれぞれが所定の範囲内であれば、プローブ2aが試料表面に接触していない、すなわちプローブ2aと試料表面とが離間したことになる。
【0061】
しかしながら、プローブ2aと試料表面との間には、吸着力が存在する場合がある。そのため、
図5に示すように、通常の速度で、試料Sをプローブ2aから引き離した場合には、カンチレバー2のたわみ量とねじれ量とのそれぞれが所定の範囲内になったとしても、上記吸着力により、プローブ2aと試料表面とが接触している場合がある。また、プローブ2aと試料Sとの間の吸着力は、各測定点で異なる場合がある。したがって、プローブ2aと試料表面とが離間するときの、たわみ量とねじれ量のそれぞれの閾値を一意に設定することができない。
【0062】
一方、
図6に示すように、第1の実施形態では、駆動制御部43は、カンチレバー2の応答速度を超えた速度で試料Sをプローブ2aから引き離す。ここで、プローブ2aは、カンチレバー2の応答速度より速く移動することができない。したがって、カンチレバー2の応答速度を超えた速度で試料Sをプローブ2aから引き離すと、プローブ2aと試料表面との間には、吸着力が存在する場合であっても、プローブ2aは、試料表面とが接触している状態から即座に離間する。
【0063】
したがって、プローブ2aと試料表面とが接触している状態、すなわち、プローブ2aが上方に押し上げられている状態から、フリー状態までの振幅で、カンチレバー2は共振する。換言すれば、カンチレバー2の共振周波数における、たわみ方向の振幅が急激に増加する。したがって、第1の実施形態に係る判定部42は、引離し動作中において、たわみ方向の振幅におけるカンチレバー2の振動を、当該カンチレバー2の共振周波数(高次の周波数を含む)で検出した場合には、プローブ2aが試料表面に対して離間したと判定する。これにより、プローブ2aと試料表面との間に吸着力が存在する場合であっても、プローブ2aが試料表面に対して離間したことを確実に検出することができる。
【0064】
なお、カンチレバー2の応答速度を越えた速度で引き離しを行う場合において、プローブ2aと試料表面との間に吸着力が存在しない場合には、カンチレバー2のたわんだ状態を起点とした振動がたわみ方向の共振周波数で発生する。
【0065】
以下に、第1の実施形態に係る離間判定処理の流れについて、
図7を用いて説明する。
【0066】
判定部42は、光検出部62から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲内か否かを判定する(ステップS201)。判定部42は、光検出部62から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲内であると判定した場合には、光検出部62から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲内か否かを判定する(ステップS202)。一方、判定部42は、光検出部62から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲外であると判定された場合には、プローブ2aが試料表面に対して離間していないを判定する(ステップS206)。
【0067】
判定部42は、光検出部62から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲内であると判定した場合に、第1検出信号の周波数がカンチレバー2の共振周波数であるか否かを判定する(ステップS203)。一方、判定部42は、光検出部62から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲外であると判定した場合に、プローブ2aが試料表面に対して離間していないを判定する(ステップS206)。
【0068】
判定部42は、第1検出信号の周波数がカンチレバー2の共振周波数であると判定した場合には、その第1検出信号が示すたわみ量の変化率が所定値を超えるか否かを判定する(ステップS204)。一方、判定部42は、第1検出信号の周波数がカンチレバー2の共振周波数ではないと判定した場合には、プローブ2aが試料表面に対して離間していないを判定する(ステップS206)。
【0069】
判定部42は、第1検出信号が示すたわみ量の変化が所定値を超える場合には、プローブ2aが試料表面に対して離間したと判定する(ステップS205)。一方、判定部42は、第1検出信号が示すたわみ量の変化が所定値未満である場合には、プローブ2aが試料表面に対して離間していないと判定する(ステップS206)。
【0070】
なお、
図7において、ステップS201の処理の後に、ステップS202の処理を実行したが、これに限定されない。本実施形態における判定部42は、ステップS202の処理の後に、ステップS201の処理を行ってもよいし、ステップS201の処理と、ステップS202の処理とを並列に実行してもよい。同様に、判定部42は、ステップS203の処理の後に、ステップS204の処理を実行してもよいし、ステップS203の処理と、ステップS204の処理とを並列に実行してもよい。
【0071】
上述したように、第1の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Aは、カンチレバー2の応答速度を超えた速度で試料Sをプローブ2aから引き離す引離し動作中において、所定の振幅におけるカンチレバー2の振動を、当該カンチレバー2の(高次の周波数を含む)共振周波数で検出した場合に、プローブ2aが試料表面に対して離間したと判定する。そして、走査型プローブ顕微鏡Aは、プローブ2aが試料表面に対して離間したと判定した時点でZ方向駆動装置51による引離し動作を中止させ、プローブ2aが試料Sの次の測定点の直上に位置するように、そのプローブ2aと試料とを相対的に移動させる。
【0072】
これにより、走査型プローブ顕微鏡Aでは、試料Sの各測定点で、最適な引離し距離で動作するので、試料表面における凸凹形状の測定を、最短の時間で達成することができる。したがって、走査型プローブ顕微鏡Aは、試料表面における凸凹形状の測定効率を向上させることができる。
【0073】
ここで、たわみ量を示す第1検出信号が、温度変化等によりドリフトする場合がある。したがって、従来では、このドリフトの影響も考慮して、引離し距離を決める必要があり、事前に最適化できない場合がある。
一方、第1の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Aは、第1検出信号がドリフトした場合であっても、逐次、プローブ2aが試料表面に対して離間したか否かを判定する。そのため、走査型プローブ顕微鏡Aは、ドリフトの影響を受けずに、最適な引離し距離で動作することができる。
【0074】
なお、上述の実施形態において、Z方向駆動装置51は、振動を発生せずに高速でプローブ2aから試料Sを引き離す方向に動作させる引離し動作を行う必要がある。そのために、Z方向駆動装置51は、積層圧電素子510を用いる構成としてもよい。例えば、
図8に示すように、Z方向駆動装置51は、積層圧電素子510、バネ定数が同じ板バネ511,512、板バネ511,512のそれぞれを固定する支持板521,522、及び台530を備える。
積層圧電素子510の一端には、板バネ511を介して試料台4及び試料Sが設けられている。また、積層圧電素子510の他端には、板バネ512を介して台530が設けられている。この台530の重さは、試料台4及び試料Sの重さに相当する。
そして、Z方向駆動装置51を固定する場合には、支持板521,522のそれぞれの重心で固定する。したがって、Z方向駆動装置51は、引離し動作中であっても、周囲に振動を伝わらないようにすることができる。
【0075】
(第2の実施形態)
以下に、第2の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Bについて、図面を用いて説明する。第2の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Bは、第1の実施形態に係る「離間判定処理」とは異なり、カンチレバー2のたわみ方向の速度変化に基づいて離間判定処理を行う。なお、第2の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Bの「接触判定処理」は、第1の実施形態に係る「接触判定処理」と同様の処理を行う。
【0076】
図9は、第2の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Bの概略構成の一例を示す図である。
図9に示すように、走査型プローブ顕微鏡Bは、カンチレバー2、試料台4、移動駆動部5、変位検出部6、及び制御装置7Bを備えている。
【0077】
制御装置7Bは、判定部42B、駆動制御部43B、及び測定部44を備える。
【0078】
判定部42Bは、光検出部62から出力される第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、プローブ2aが試料表面に接触したか否かを判定する接触判定処理を行う。この判定部42Bにおける接触判定処理は、第1の実施形態に係る接触判定処理と同様である。
【0079】
また、判定部42Bは、光検出部62から出力される第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、プローブ2aが試料表面に対して離間したか否かを判定する離間判定処理を行う。具体的には、判定部42Bにおける離間判定処理は、引離し動作中において、カンチレバー2のたわみ方向の速度変化に基づいて、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定することである。
【0080】
駆動制御部43Bは、引離し動作において、カンチレバー2の応答速度以下の速度で、試料Sをプローブ2aから引き離す方向に動作させる。すなわち、引離し動作において、第1の実施形態では、カンチレバー2の応答速度を超えた速度で、試料Sをプローブ2aから引き離す方向に動作させるが、第2の実施形態では、カンチレバー2の応答速度以下の速度で、試料Sをプローブ2aから引き離す方向に動作させる。なお、上記引離し動作以外の駆動制御部43Bに関する動作は、駆動制御部43と同様である。
【0081】
以下に、第2の実施形態に係る離間判定処理について説明する。
【0082】
判定部42Bは、カンチレバー2の応答速度以下の速度で試料Sをプローブ2aから引き離す引離し動作中において、カンチレバー2のたわみ方向の速度変化に基づいて、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定する。
ここで、判定部42Bは、カンチレバー2のたわみ量Vdと試料Sをプローブ2aから引き離した距離Hとの比(Vd/H)から、カンチレバー2のたわみ方向の速度変化を算出することができる。また、判定部42Bは、カンチレバー2のたわみ量Vdを微分することでカンチレバー2のたわみ方向の速度変化を算出することができる。
【0083】
判定部42Bは、カンチレバー2の応答速度以下の速度で試料Sをプローブ2aから引き離す引離し動作中において、カンチレバー2のたわみ方向の速度が所定値以下になる場合には、プローブ2aが試料表面から離間したと判定する。
また、判定部42Bは、カンチレバー2の応答速度以下の速度で試料Sをプローブ2aから引き離す引離し動作中において、カンチレバー2の速度方向が反転した場合に、プローブ2aが試料表面から離間したと判定する。
【0084】
以下に、第2の実施形態に係る離間判定処理の作用効果について、図面を用いて説明する。
【0085】
図10は、第2の実施形態に係る引離し動作において、カンチレバー2のたわみ方向の速度変化を示すグラフである。
図10(a)は、プローブ2aと試料Sとの間の吸着力が存在しない場合のカンチレバー2のたわみ方向の速度変化のグラフである。
図10(b)は、プローブ2aと試料Sとの間の吸着力が存在する場合のカンチレバー2のたわみ方向の速度変化のグラフである。
図11は、第2の実施形態に係る引離し動作(カンチレバー2の応答速度以下の速度で試料Sをプローブ2aから引き離す方向に動作させた場合)における、カンチレバー2の様子を示す図である。
図11(a)は、−Y方向から見たカンチレバー2の側面図を示し、
図11(b)は、−X方向から見たカンチレバー2の側面図を示す。
【0086】
引離し動作中において、プローブ2aと試料表面とが接触している場合には、カンチレバー2のたわみ方向の速度は、一定値となる。
ここで、
図10(a)に示すように、プローブ2aと試料Sとの間の吸着力が存在しない場合には、プローブ2aと試料表面とが離間すると、カンチレバー2のたわみ量の変化、すなわちカンチレバー2の速度は、フリー状態でほぼ0となる。そのため、判定部42Bは、カンチレバー2の応答速度以下の速度で試料Sをプローブ2aから引き離す引離し動作中において、カンチレバー2のたわみ方向の速度が所定値以下になる場合には、プローブ2aが試料表面から離間したと判定する。これにより、判定部42Bは、プローブ2aと試料Sとの間の吸着力が存在しない場合において、プローブ2aと試料Sとの離間を確実に検出することができる。なお、この所定値は、プローブ2aと試料表面とが接触している場合における、カンチレバー2のたわみ方向の速度未満の値である。
【0087】
一方、
図10(b),
図11に示すように、プローブ2aと試料Sとの間に吸着力が存在する場合には、プローブ2aと試料表面とが離間すると、その吸着力によるたわみ分が戻るため、Vd/Hの値の符号が反転する。すなわち、プローブ2aと試料表面とが離間すると、カンチレバー2の速度方向が反転する。そのため、判定部42Bは、引離し動作中において、カンチレバー2の速度方向が反転した場合に、プローブ2aが試料表面から離間したと判定する。これにより、判定部42Bは、プローブ2aと試料Sとの間の吸着力が存在する場合においても、プローブ2aと試料Sとの離間を確実に検出することができる。
【0088】
以下に、第2の実施形態に係る離間判定処理の流れについて、
図12を用いて説明する。
【0089】
判定部42Bは、光検出部62から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲内か否かを判定する(ステップS301)。判定部42Bは、光検出部62から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲内であると判定した場合には、光検出部62から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲内か否かを判定する(ステップS302)。一方、判定部42Bは、光検出部62から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲外であると判定された場合には、プローブ2aが試料表面に対して離間していないを判定する(ステップS306)。
【0090】
判定部42Bは、光検出部62から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲内であると判定した場合に、第1検出信号に基づいて算出したカンチレバー2の速度が、所定値以下であるか否かを判定する(ステップS303)。一方、判定部42Bは、光検出部62から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲外であると判定した場合に、プローブ2aが試料表面に対して離間していないを判定する(ステップS306)。
【0091】
判定部42Bは、カンチレバー2の速度が所定値以下であると判定した場合には、プローブ2aが試料表面に対して離間したと判定する(ステップS305)一方、判定部42Bは、カンチレバー2の速度が所定値を超えていると判定した場合には、カンチレバー2の速度方向が反転したか否かを判定する(ステップS304)。
【0092】
判定部42Bは、カンチレバー2の速度方向が反転したと判定した場合には、プローブ2aが試料表面に対して離間したと判定する(ステップS305)。一方、判定部42Bは、カンチレバー2の速度方向が反転していないと判定した場合には、プローブ2aが試料表面に対して離間していないを判定する(ステップS306)。
【0093】
なお、
図12において、ステップS301の処理の後に、ステップS302の処理を実行したが、これに限定されない。本実施形態における判定部42Bは、ステップS302の処理の後に、ステップS301の処理を行ってもよいし、ステップS301の処理と、ステップS302の処理とを並列に実行してもよい。同様に、判定部42Bは、ステップS303の処理の後に、ステップS304の処理を実行してもよいし、ステップS303の処理と、ステップS304の処理とを並列に実行してもよい。
【0094】
上述したように、第2の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Bは、カンチレバー2の応答速度を超えない速度で試料Sをプローブ2aから引き離す引離し動作中において、カンチレバー2のたわみ方向の速度変化に基づいて、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定する。
【0095】
例えば、判定部42Bは、カンチレバー2のたわみ方向の速度が所定値以下になった場合に、プローブ2aが試料表面から離間したと判定する。また、判定部42Bは、カンチレバー2の速度方向が反転した場合に、プローブ2aが試料表面から離間したと判定する。
【0096】
これにより、走査型プローブ顕微鏡Bでは、プローブ2aと試料Sとの間の吸着力が存在する場合であっても、試料Sの各測定点で、最適な引離し距離で動作するので、試料表面における凸凹形状の測定が最短の時間で達成することができる。したがって、走査型プローブ顕微鏡Bは、試料表面における凸凹形状の測定効率を向上させることができる。
【0097】
なお、第2の実施形態では、引離し動作において、試料Sを下降させることで、試料とプローブ2aとを引き離したが、これに限定されない。駆動制御部43Bは、引離し動作において、プローブ2aを上昇させることで、試料Sとプローブ2aとを引き離してもよい。
【0098】
(第3の実施形態)
以下に、第3の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Cについて、図面を用いて説明する。第3の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Cは、第1の実施形態に係る「離間判定処理」と異なり、カンチレバー2における振動の振幅の増加又はその振動の振動周波数の変化に基づいて離間判定処理を行う。なお、第3の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Cの「接触判定処理」は、第1の実施形態に係る「接触判定処理」と同様の処理を行う。
【0099】
図13は、第3の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Cの概略構成の一例を示す図である。
図13に示すように、走査型プローブ顕微鏡Cは、カンチレバー2、試料台4、移動駆動部5、変位検出部6、及び制御装置7Cを備えている。
【0100】
制御装置7Cは、判定部42C、駆動制御部43B、及び測定部44を備える。
【0101】
判定部42Cは、光検出部62から出力される第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、プローブ2aが試料表面に接触したか否かを判定する接触判定処理を行う。この判定部42Cにおける接触判定処理は、第1の実施形態に係る接触判定処理と同様である。
【0102】
判定部42Cは、光検出部62から出力される第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、プローブ2aが試料表面に対して離間したか否かを判定する離間判定処理を行う。
【0103】
以下に、第3の実施形態に係る離間判定処理について、
図14を参照して説明する。
【0104】
第3の実施形態に係る離間判定処理には、大別して「カンチレバーの熱振動によるたわみ又はねじれ振幅の変化を検出する方法」、「カンチレバーの熱振動によるたわみ又はねじれ共振周波数の変化を検出」の2通りの方法がある。
【0105】
(カンチレバーの熱振動によるたわみ又はねじれ振幅の変化を検出する方法)
カンチレバー2は、基端が固定さており、先端(プローブ2a)が自由端となっている。そのため、プローブ2aが試料表面に接触していない場合、すなわち離間している場合には、カンチレバー2は、熱振動により大きな振幅で共振することとなる。以下において、基端が固定端であり、先端(プローブ2a)が自由端であるカンチレバー2の状態を、片持ちの状態と称する。
【0106】
一方、プローブ2aが試料表面に接触している場合には、プローブ2aが試料表面により固定されていることになる。すなわち、カンチレバー2は、基端及び先端がともに固定端となる。そのため、熱振動による共振の振幅は、片持ちの状態と比較して小さな振幅となる。以下、基端及び先端がともに固定端であるカンチレバー2の状態を、両持ちの状態と称する。
【0107】
したがって、プローブ2aが試料表面に接触している状態から、プローブ2aが試料表面に対して離間した状態に移行した場合には、カンチレバー2の振動の振幅が増加することになる。そこで、判定部42Cは、引離し動作中において、カンチレバー2における振動の振幅の増加に基づいて、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定する。例えば、判定部42Cは、引離し動作中において、カンチレバー2における振動の振幅が所定値以上になった場合には、プローブ2aと試料表面とが離間したと判定する。なお、カンチレバー2における振動の振幅とは、たわみ振幅及びねじれ振幅の少なくともいずれか一方である。また、この所定値は、両持ちの状態における、カンチレバー2の振動の振幅に基づいて設定される。
【0108】
(レバーの熱振動によるたわみ又はねじれ共振周波数の変化を検出)
熱振動により共振するカンチレバー2の共振周波数は、片持ちの状態と両持ちの状態とで異なる。したがって、プローブ2aが試料表面に接触している状態から、プローブ2aが試料表面に対して離間した状態に移行した場合には、カンチレバー2の共振周波数が変化することになる。以下、片持ちの状態であるカンチレバー2の共振周波数を片持ち共振周波数と称する。一方、両持ちの状態であるカンチレバー2の共振周波数を両持ち共振周波数と称する。
【0109】
そこで、判定部42Cは、引離し動作中において、カンチレバー2における振動の共振周波数の変化に基づいて、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定する。例えば、判定部42Cは、引離し動作中において、カンチレバー2の振動周波数の変化が所定値以上になった場合には、プローブ2aと試料表面とが離間したと判定する。なお、カンチレバー2における振動周波数とは、たわみ方向及びねじれ方向の少なくともいずれか一方方向の振動の周波数である。また、この所定値は、両持ち共振周波数に基づいて設定される。
【0110】
なお、上述の2通りの離間判定処理のいずれにおいても、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定するには、光検出部62から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲内であり、且つ光検出部62から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲内であることが条件となる。
【0111】
上述したように、第3の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Cは、引離し動作中において、カンチレバー2における振動の振幅の増加又はその振動の振動周波数の変化に基づいて、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定する。これにより、走査型プローブ顕微鏡Cは、プローブ2aと試料Sとの間の吸着力が存在する場合であっても、試料Sの各測定点で、最適な引離し距離で動作するので、試料表面における凸凹形状の測定が最短の時間で達成することができる。したがって、走査型プローブ顕微鏡Bは、試料表面における凸凹形状の測定効率を向上させることができる。
【0112】
また、走査型プローブ顕微鏡Cは、熱振動により、プローブ2aと試料表面との離間を検出するため、新規に構造体を設ける必要が無い。
【0113】
(第4の実施形態)
以下に、第4の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Dについて、図面を用いて説明する。第4の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Dは、加振部3を備え、第1の実施形態に係る「離間判定処理」と異なり、カンチレバー2における、たわみ方向又はねじれ方向の所定の周波数における振幅の変化に基づいて離間判定処理を行う。なお、第4の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Cの「接触判定処理」は、第1の実施形態に係る「接触判定処理」と同様の処理を行う。
【0114】
図15は、第4の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Dの概略構成の一例を示す図である。
図15に示すように、走査型プローブ顕微鏡Dは、カンチレバー2、加振部3、試料台4、移動駆動部5、変位検出部6、及び制御装置7Dを備えている。
【0115】
加振部3は、引離し動作中において、試料Sとカンチレバー2とを所定の周波数で相対的に振動させる。例えば、加振部3は、カンチレバー2を加振してもよいし、試料台4を加振してもよい。また、試料Sとカンチレバー2とを所定の周波数で相対的に振動させる方向は、試料台4を水平面に垂直な方向(Z方向)でもよいし、水平方向(Y方向)でもよい。以下の説明において、この所定の周波数を加振周波数と称する。
【0116】
制御装置7Dは、判定部42D、駆動制御部43D、及び測定部44を備える。
判定部42Dは、光検出部62から出力される第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、プローブ2aが試料表面に対して離間したか否かを判定する離間判定処理を行う。具体的には、判定部42Dにおける離間判定処理は、カンチレバー2における、たわみ方向又はねじれ方向の加振周波数における振幅の変化に基づいて、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定することである。
【0117】
駆動制御部43Dは、駆動制御部43Bと同様の機能を有する。また、駆動制御部43Dは、加振部3の動作を制御する。すなわち、駆動制御部43Dは、試料Sとカンチレバー2との相対的な振動を制御する。
【0118】
以下に、第4の実施形態に係る離間判定処理について、
図16,17,18を参照して説明する。
第4の実施形態に係る離間判定処理は、大別して、「カンチレバーにおける、たわみ方向又はねじれ方向の非共振周波数における振幅の減少量を検出する方法」、「カンチレバーにおける、たわみ方向又はねじれ方向の共振周波数における振幅の増加量を検出する方法」、「カンチレバーにおける、たわみ方向又はねじれ方向の共振周波数における振幅の減少量を検出する方法」、の3通りがある。
【0119】
(カンチレバーにおける、たわみ方向又はねじれ方向の非共振周波数における振幅の減少量を検出する方法:
図16)
この方法では、加振周波数は、カンチレバー2の非共振周波数に設定される。そして、加振部3は、引離し動作中において、試料Sとカンチレバー2とを非共振周波で相対的に微小振動させる。この場合において、プローブ2aが試料表面に接触している状態では、プローブ2aを支点としてカンチレバー2の角度が変化する。すなわち、光てこ式を用いた検出方式では、カンチレバー2の角度変化が、カンチレバー2の大きな振幅として検出される。
【0120】
一方、引離し動作中において、プローブ2aと試料表面とが離間した場合には、プローブ2aが試料表面から離れるため、カンチレバー2の角度変化が減少する。そのため、光てこ式を用いた検出方式では、カンチレバー2の小さい振幅として検出される。したがって、プローブ2aが試料表面に接触している状態から、プローブ2aが試料表面に対して離間した状態に移行した場合には、カンチレバー2の振幅が減少することになる。ここで、カンチレバー2の振幅とは、たわみ方向の振幅及びねじれ方向の振幅との少なくともいずれかである。たわみ方向の振幅は、第1検出信号が示すたわみ量である。ねじれ方向の振幅は第2検出信号が示すねじれ量である。
【0121】
そこで、判定部42Dは、引離し動作中において、カンチレバー2における、たわみ方向又はねじれ方向の非共振周波数における振幅の減少量が所定値を超える場合に、プローブ2aが試料表面から離間したと判定する。また、この所定値は、引離し動作中においてプローブ2aが試料表面に接触している状態で検出される、たわみ量又はねじれ量に基づいて設定される。
【0122】
なお、この方法において、カンチレバー2を非共振周波数でたわみ方向に微小に振動させてもよいし、カンチレバー2を水平方向に振動させてもよい。また、第4の実施形態において、試料Sを非共振周波数でたわみ方向に微小に振動させてもよいし、試料Sを水平方向に振動させてもよい。
【0123】
(カンチレバーにおける、たわみ方向又はねじれ方向の共振周波数における振幅の増加量を検出する方法;
図17)
この方法では、加振周波数は、片持ち共振周波数に設定される。そして、加振部3は、引離し動作中において、試料Sとカンチレバー2とを片持ち共振周波数で相対的に微小振動させる。この場合において、プローブ2aが試料表面に接触している状態では、カンチレバー2は両持ちの状態となる。そのため、カンチレバー2は、加振部3により片持ち共振周波数で加振されても、共振することがなく、小さな振幅で振動する。
【0124】
一方、引離し動作中において、プローブ2aと試料表面とが離間した場合には、プローブ2aが試料表面から離れるため、カンチレバー2は片持ちの状態となる。そのため、カンチレバー2は、加振部3により片持ち共振周波数で加振されることで共振し、大きな振幅で振動する。
【0125】
したがって、プローブ2aが試料表面に接触している状態から、プローブ2aが試料表面に対して離間した状態に移行した場合には、片持ち共振周波数におけるカンチレバー2の振動の振幅が増加することになる。そこで、判定部42Dは、引離し動作中において、片持ち共振周波数におけるカンチレバー2における振動の振幅の増加に基づいて、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定する。例えば、判定部42Cは、引離し動作中において、片持ち共振周波数におけるカンチレバー2における振動の振幅の増加量が所定値を超える場合には、プローブ2aと試料表面とが離間したと判定する。なお、カンチレバー2における振動の振幅とは、たわみ振幅及びねじれ振幅の少なくともいずれか一方である。
【0126】
なお、この方法において、カンチレバー2を片持ち共振周波数でたわみ方向に微小に振動させてもよいし、カンチレバー2を片持ち共振周波数で水平方向に振動させてもよい。また、試料Sを片持ち共振周波数でたわみ方向に微小に振動させてもよいし、試料Sを片持ち共振周波数で水平方向に振動させてもよい。
ただし、たわみ方向に微小に振動させる場合には、加振周波数は、たわみ方向における、カンチレバー2の片持ち共振周波数である。一方、水平方向に微小に振動させる場合には、加振周波数は、水平方向における、カンチレバー2の片持ち共振周波数である。
【0127】
(カンチレバーにおける、たわみ方向又はねじれ方向の共振周波数における振幅の減少量を検出する方法;
図18)
この方法では、加振周波数は、両持ち共振周波数に設定される。そして、加振部3は、引離し動作中において、試料Sとカンチレバー2とを両持ち共振周波数で相対的に微小振動させる。この場合において、プローブ2aが試料表面に接触している状態では、カンチレバー2は両持ちの状態となる。そのため、カンチレバー2は、加振部3により両持ち共振周波数で加振されることで共振し、大きな振幅で振動する。
【0128】
一方、引離し動作中において、プローブ2aと試料表面とが離間した場合には、プローブ2aが試料表面から離れるため、カンチレバー2は片持ちの状態となる。そのため、カンチレバー2は、加振部3により両持ち共振周波数で加振されても、共振することがなく、小さな振幅で振動する。
【0129】
したがって、プローブ2aが試料表面に接触している状態から、プローブ2aが試料表面に対して離間した状態に移行した場合には、両持ち共振周波数におけるカンチレバー2の振動の振幅が減少することになる。そこで、判定部42Dは、引離し動作中において、両持ち共振周波数におけるカンチレバー2における振動の振幅の減少に基づいて、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定する。例えば、判定部42Cは、引離し動作中において、両持ち共振周波数におけるカンチレバー2における振動の振幅の減少量が所定値を超える場合には、プローブ2aと試料表面とが離間したと判定する。なお、カンチレバー2における振動の振幅とは、たわみ方向の振幅及びねじれ方向の振幅の少なくともいずれか一方である。
【0130】
なお、この方法において、カンチレバー2を両持ち共振周波数でたわみ方向に微小に振動させてもよいし、カンチレバー2を両持ち共振周波数で水平方向に振動させてもよい。また、試料Sを両持ち共振周波数でたわみ方向に微小に振動させてもよいし、試料Sを両持ち共振周波数で水平方向に振動させてもよい。
ただし、たわみ方向に微小に振動させる場合には、加振周波数は、たわみ方向における、カンチレバー2の両持ち共振周波数である。一方、水平方向に微小に振動させる場合には、加振周波数は、水平方向における、カンチレバー2の両持ち共振周波数である。
【0131】
また、第4の実施形態に係る3通りの離間判定処理のいずれにおいても、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定するには、光検出部62から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲内であり、且つ光検出部62から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲内であることが条件となる。
【0132】
上述したように、第4の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Dは、引離し動作中において、試料Sとカンチレバー2とを所定の周波数で相対的に振動させる加振部3と、その引離し動作中において、カンチレバー2における、たわみ方向又はねじれ方向の所定の周波数における振幅の変化に基づいて、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定する判定部42Dと、を備える。これにより、走査型プローブ顕微鏡Dは、プローブ2aと試料Sとの間の吸着力が存在する場合であっても、試料Sの各測定点で、最適な引離し距離で動作するので、試料表面における凸凹形状の測定が最短の時間で達成することができる。したがって、走査型プローブ顕微鏡Bは、試料表面における凸凹形状の測定効率を向上させることができる。
【0133】
なお、第4の実施形態において、たわみ又はねじれ方向に非共振の周波数で微小に振動させる方法は、プローブ2aが試料表面に対して離間した瞬間に振幅が急激に小さくなり、応答が速く、高速に動作する場合に適している。
一方、微小な振幅を共振周波数(片持ち共振周波数、両持ち共振周波数)で加える方法は、非共振より小さな振幅で検出が可能となるので、凹凸形状の測定への影響が少ない。
【0134】
(第5の実施形態)
以下に、第5の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Eについて、図面を用いて説明する。第5の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Eは、第4の実施形態と同様に加振部3を備え、第1の実施形態に係る「離間判定処理」と異なり、カンチレバー2におけるたわみ方向又はねじれ方向の振動の位相と、加振部3で加振する共振周波数の位相との位相差に基づいて離間判定処理を行う。なお、第5の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Cの「接触判定処理」は、第1の実施形態に係る「接触判定処理」と同様の処理を行う。
【0135】
図19は、第5の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Eの概略構成の一例を示す図である。
図19に示すように、走査型プローブ顕微鏡Eは、カンチレバー2、加振部3、試料台4、移動駆動部5、変位検出部6、及び制御装置7Eを備えている。
【0136】
制御装置7Eは、判定部42E、駆動制御部43D、及び測定部44を備える。
判定部42Eは、光検出部62から出力される第1検出信号及び第2検出信号に基づいて、プローブ2aが試料表面に対して離間したか否かを判定する離間判定処理を行う。具体的には、判定部42Eにおける離間判定処理は、引離し動作中において、カンチレバー2におけるたわみ方向又はねじれ方向の振動の位相と、加振部3で加振する共振周波数の位相との位相差に基づいて、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定することである。
【0137】
以下に、第5の実施形態に係る離間判定処理について、
図20を用いて説明する。
この方法では、加振周波数は、片持ち共振周波数に設定される。そして、加振部3は、引離し動作中において、試料Sとカンチレバー2とを片持ち共振周波数で相対的に微小振動させる。この場合において、プローブ2aが試料表面に接触している状態では、カンチレバー2は両持ちの状態となる。そのため、カンチレバー2は、加振部3により片持ち共振周波数で加振されても、共振することがなく、非共振で振動する。したがって、カンチレバー2における振動の位相と、加振部3で加振する加振周波数の位相との位相差は小さい。
【0138】
一方、引離し動作中において、プローブ2aと試料表面とが離間した場合には、プローブ2aが試料表面から離れるため、カンチレバー2は片持ちの状態となる。そのため、カンチレバー2は、加振部3により片持ち共振周波数で加振されることで共振する。したがって、カンチレバー2における振動の位相と、加振部3で加振する加振周波数の位相との位相差は、略90度となる。すなわち、カンチレバー2における振動の位相は、加振部3で加振する加振周波数の位相から90°遅れた位相となる。
【0139】
したがって、プローブ2aが試料表面に接触している状態から、プローブ2aが試料表面に対して離間した状態に移行した場合には、カンチレバー2における振動の位相と、加振部3で加振する加振周波数の位相との位相差が増加することになる。そこで、判定部42Eは、引離し動作中において、カンチレバー2におけるたわみ方向又はねじれ方向の振動の位相と、加振部3で加振する共振周波数の位相との位相差に基づいて、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定する。例えば、判定部42Eは、引離し動作中において、カンチレバー2におけるたわみ方向又はねじれ方向の振動の位相と、加振部3で加振する共振周波数の位相との位相差が所定値を超える場合には、プローブ2aと試料表面とが離間したと判定する。
【0140】
なお、この方法において、カンチレバー2を片持ち共振周波数でたわみ方向に微小に振動させてもよいし、カンチレバー2を片持ち共振周波数で水平方向に振動させてもよい。また、試料Sを片持ち共振周波数でたわみ方向に微小に振動させてもよいし、試料Sを片持ち共振周波数で水平方向に振動させてもよい。
ただし、たわみ方向に微小に振動させる場合には、加振周波数は、たわみ方向における、カンチレバー2の片持ち共振周波数である。一方、水平方向に微小に振動させる場合には、加振周波数は、水平方向における、カンチレバー2の片持ち共振周波数である。
【0141】
また、第5の実施形態に係る離間判定処理において、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定するには、光検出部62から出力される第1検出信号が示すたわみ量が第1の範囲内であり、且つ光検出部62から出力される第2検出信号が示すねじれ量が第2の範囲内であることが条件となる。
【0142】
上述したように、第5の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡Eは、引離し動作中において、試料Sとカンチレバー2とを所定の周波数で相対的に振動させる加振部3と、その引離し動作中において、カンチレバー2におけるたわみ方向又はねじれ方向の振動の位相と、加振部3で加振する共振周波数の位相との位相差に基づいて、プローブ2aの試料表面に対する離間を判定する判定部42Eと、を備える。これにより、走査型プローブ顕微鏡Dは、プローブ2aと試料Sとの間の吸着力が存在する場合であっても、試料Sの各測定点で、最適な引離し距離で動作するので、試料表面における凸凹形状の測定が最短の時間で達成することができる。したがって、走査型プローブ顕微鏡Bは、試料表面における凸凹形状の測定効率を向上させることができる。
【0143】
上述したように、本発明の一実施形態における走査型プローブ顕微鏡は、従来のように、予め設定された「引離し距離」だけ試料表面から引き離してプローブ2aと試料表面とが離間しているか否かを判定するのではなく、引離し動作を行いながら、プローブ2aと試料表面とが離間しているか否かを判定し、プローブと試料表面とが離間していると判定した場合に引離し動作を停止する。そして、走査型プローブ顕微鏡は、引離し動作を停止した後に次の測定点の上空まで移動させる。
【0144】
ここで、引離し動作中において、カンチレバー2のたわみ量とねじれ量とのそれぞれが所定の範囲内であれば、プローブ2aが試料表面に接触していない、すなわちプローブ2aと試料表面とが離間したと判定する方法も考えられる。ただし、この方法では、カンチレバー2のたわみ量とねじれ量とのそれぞれが所定の範囲内になったとしても、上記吸着力により、プローブ2aと試料表面とが接触している場合があり、プローブと試料表面とが離間していることを正しく検出することができない。
【0145】
一方、本発明の一実施形態における走査型プローブ顕微鏡は、引離し動作中において、上述の第1の実施形態から第5の実施形態のいずれかの離間判定処理を適用することにより、プローブ2aと試料表面との離間を確実に検出することができる。
【0146】
なお、上述の走査型プローブ顕微鏡は、引離し動作を停止した後の次の測定点の上空までの移動において、上述の第1の実施形態から第5の実施形態のいずれかの離間判定処理を実行することで、プローブ2aが試料に衝突することを回避可能となる。
【0147】
例えば、上述の走査型プローブ顕微鏡は、(1)接近動作を行い、(2)プローブ2aと試料表面とが接触したか否かを判定する。走査型プローブ顕微鏡は、プローブ2aと試料表面とが接触したと判定した場合には、(3)接近動作を停止して相対距離を測定する。そして、走査型プローブ顕微鏡は、相対距離を測定した後に、(4)引離し動作を開始してプローブ2aと試料表面とが離間しているか否かを第1の実施形態から第5の実施形態のいずれかの離間判定処理で判定する。そして、走査型プローブ顕微鏡は、(5)プローブ2aと試料表面とが離間した判定した場合には、引離し動作を停止して、(6)プローブ2aを次の測定点の上空まで移動させる。ここで、走査型プローブ顕微鏡は、プローブ2aを次の測定点の上空まで移動させている間に、プローブ2aと試料表面とが離間しているか否かを第1の実施形態から第5の実施形態のいずれかの離間判定処理で判定する。そして、走査型プローブ顕微鏡は、プローブ2aと試料表面とが離間していると判定されている間は、上記移動を継続し、プローブ2aと試料表面とが離間していないと判定された場合には、上記(5)に戻り、引離し動作を実行して第1の実施形態から第5の実施形態のいずれかの離間判定処理を開始する。
これにより、本発明の一実施形態における走査型プローブ顕微鏡は、次の測定点の上空までの移動においてプローブ2aが試料に衝突することを回避可能となる。
【0148】
上述した実施形態における制御装置7,7B〜7Eをコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0149】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0150】
特許請求の範囲、明細書、及び図面中において示した装置、システム、プログラム、及び方法における動作、手順、ステップ、及び段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、及び図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。