特許第6963344号(P6963344)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 名古屋工業大学の特許一覧

<>
  • 特許6963344-工具ホルダ 図000002
  • 特許6963344-工具ホルダ 図000003
  • 特許6963344-工具ホルダ 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963344
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】工具ホルダ
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20211025BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20211025BHJP
【FI】
   B23K26/00 Z
   B23K26/064 Z
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2021-506787(P2021-506787)
(86)(22)【出願日】2019年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2019010743
(87)【国際公開番号】WO2020188618
(87)【国際公開日】20200924
【審査請求日】2020年12月11日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成30年度地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」(あいち次世代自動車イノベーション・エコシステム形成事業)委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】糸魚川 文広
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−320471(JP,A)
【文献】 特開2017−042774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
B23K 26/064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸に装着される工具ホルダであって、
前記主軸に装着された状態における該主軸から離れる方向に延びる筒状の本体部と、
前記本体部に内蔵され、光源からの励起光によりレーザ光を出力する光励起レーザと、
前記光励起レーザの出力するレーザ光を前記本体部の先端側から該本体部の延びる方向に沿って出力されるように導く光学系と、
前記本体部の外部から励起光を該光励起レーザまで導く導光路と、
を備える工具ホルダ。
【請求項2】
前記光励起レーザは、マイクロチップレーザである、
請求項1に記載の工具ホルダ。
【請求項3】
前記導光路は、前記本体部の延びる方向と交差する方向に沿って該本体部の外内に至る領域全域にレーザ光の透過性を有する媒体を配置してなる透過経路と、該透過経路から導かれた励起光を前記本体部の内側において前記光励起レーザに向けて屈折させる屈折経路と、を備えている、
請求項1または請求項2に記載の工具ホルダ。
【請求項4】
前記光励起レーザは、励起光を受けて出力するレーザ光の軸線方向が前記本体部において筒状に延びる方向の中心軸と重なる位置関係で配置されており、
前記本体部は、筒状に延びる方向の中心軸が前記主軸の軸線方向と重なる位置関係で配置され、前記中心軸を所定の長さ範囲だけ取り囲む部位が、それ以外の部位から独立して該中心軸を回転中心に回転可能な回転体として設けられており、
前記導光路は、前記回転体に前記透過経路および前記屈折経路が設けられ、該屈折経路が、前記透過経路により導かれた励起光を前記本体部の中心軸に沿って前記光励起レーザ側に屈折させる、
請求項3に記載の工具ホルダ。
【請求項5】
前記導光路は、前記本体部の延びる方向に沿って該本体部の外内に至る領域全域にレーザ光の透過性を有する媒体を配置してなる透過経路からなり、該透過経路により導かれた励起光を前記光励起レーザまで導く、ように構成されている、
請求項1または請求項2に記載の工具ホルダ。
【請求項6】
前記光励起レーザの励起光を出力する光源と、
前記光源から出力される励起光を前記導光路にまで導く光ファイバと、を備える、
請求項1から5のいずれか1項に記載の工具ホルダ。
【請求項7】
前記本体部は、筒状に延びる方向の中心軸が前記主軸の軸線方向と重なる位置関係で配置され、前記中心軸を所定の長さ範囲だけ取り囲む部位が、それ以外の部位から独立して該中心軸を回転中心に回転可能な回転体として設けられており、
前記導光路の一部は、前記回転体に設けられる、
請求項1または請求項2に記載の工具ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械の主軸に装着される工具ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械としては、主軸に工具ホルダを装着し、この工具ホルダの保持する工具により加工対象物を機械加工することに加え、この加工対象物にレーザ光を照射してレーザ加工を施すことのできる工作機械が知られている(特許文献1参照)。また、複数の主軸を備え、各主軸にそれぞれ、工具が保持された工具ホルダが装着され、加工対象物に対向させる主軸を切り替えながら、加工対象物に加工を施す工作機械も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−050983号公報
【特許文献2】特開2011−240432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した工作機械では、従来の工具による機械加工に加えてレーザ加工を施す場合、主軸とは別にレーザ加工のための構成を設ける必要があり、レーザ加工のための位置合わせなどが別途必要となる。
【0005】
より具体的には、レーザ加工のための別の構成を設けているがゆえに、レーザ加工の際に基準となる座標系は、主軸による加工対象物の加工に際しての座標系とは異なる。そのため、主軸による機械加工とレーザ光によるレーザ加工とを切り替えながら加工を施す場合、その都度加工対象物との位置関係を調整する(位置合わせを行う)必要があり、作業効率が落ちるばかりか、位置合わせを繰り返すことによるその誤差の蓄積に起因して加工精度が低下しやすくなるという課題がある。
【0006】
本開示では、工作機械において機械加工に加えてレーザ加工を施す際の作業効率および加工精度を向上させることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一局面の工具ホルダは、工作機械の主軸に装着される工具ホルダであって、前記主軸に装着された状態における該主軸から離れる方向に延びる筒状の本体部と、前記本体部に内蔵され、光源からの励起光によりレーザ光を出力する光励起レーザと、前記光励起レーザの出力するレーザ光を前記本体部の先端側から該本体部の延びる方向に沿って出力されるように導く光学系と、前記本体部の外部から励起光を該光励起レーザまで導く導光路と、を備える工具ホルダ、である。
【0008】
上記構成によれば、工具ホルダに光励起レーザが搭載されているため、工作機械側に主軸とは別の構成を設けることなく、この工具ホルダを既存の主軸に装着させて導光路から励起光を入射させるだけで、レーザ加工を実現できる。
【0009】
このとき、工具ホルダ自体が主軸に装着されるため、光励起レーザからのレーザ光は、主軸の座標系において規定された方向へと出力される。このため、レーザ加工のために別の座標系での位置合わせを行う必要がない。よって、主軸による機械加工とレーザ光によるレーザ加工とを切り替えながら加工を施す場合であっても、同じ座標系で容易に位置合わせを行うことができるようになる。これにより、作業効率が向上することはもちろん、位置合わせに起因する加工精度の低下も抑制することができる。
【0010】
光励起レーザは、本体部に内蔵可能なサイズのものであればよく、その具体的な種類については特に限定されない。
【0011】
例えば、前記光励起レーザは、マイクロチップレーザであってもよい。
【0012】
コンパクトなマイクロチップレーザにより光励起レーザを構成することで、工具ホルダとしての全体構成を小型化することができる。
【0013】
前記導光路は、前記本体部の延びる方向と交差する方向に沿って該本体部の外内に至る領域全域にレーザ光の透過性を有する媒体を配置してなる透過経路と、該透過経路から導かれた励起光を前記本体部の内側において前記光励起レーザに向けて屈折させる屈折経路と、を備えていてもよい。
【0014】
上記構成によれば、本体部の延びる方向と交差する方向から励起光を入射し、これを屈折させて光励起レーザにまで到達させることができる。
【0015】
前記光励起レーザは、励起光を受けて出力するレーザ光の軸線方向が前記本体部において筒状に延びる方向の中心軸と重なる位置関係で配置されており、前記本体部は、筒状に延びる方向の中心軸が前記主軸の軸線方向と重なる位置関係で配置され、前記中心軸を所定の長さ範囲だけ取り囲む部位が、それ以外の部位から独立して該中心軸を回転中心に回転可能な回転体として設けられており、前記導光路は、前記回転体に前記透過経路および前記屈折経路が設けられ、該屈折経路が、前記透過経路により導かれた励起光を前記本体部の中心軸に沿って前記光励起レーザ側に屈折させる。
【0016】
回転体に設けられた導光路の屈折経路によって励起光が主軸の軸線方向に沿って光励起レーザにまで導かれるように構成されているため、主軸の軸線を回転中心として工具ホルダ自体を回転させたとしても、その回転方向と反対方向に回転体を回転させることにより、導光路を通じて光励起レーザへと励起光が適切に入射される状態を維持することができる。さらに、光励起レーザから出力されるレーザ光が同じ主軸の軸線方向に沿って出力されるように構成されているため、主軸の軸線を回転中心として工具ホルダ自体を回転させたとしても、光励起レーザから出力されるレーザ光が主軸の軸線方向に沿って出力される状態が維持される。
【0017】
上記構成によれば、工具ホルダ自体を回転させる場合であっても、その回転に合わせて位置合わせをすることなく、導光路を通じて光励起レーザへと励起光が適切に入射される状態、および、光励起レーザから出力されるレーザ光が主軸の軸線方向に沿って出力される状態を維持することができる。
【0018】
前記導光路は、前記本体部の延びる方向に沿って該本体部の外内に至る領域全域にレーザ光の透過性を有する媒体を配置してなる透過経路からなり、該透過経路により導かれた励起光を前記光励起レーザまで導く、ように構成されていてもよい。
【0019】
この構成によれば、工具ホルダにおける主軸側の端部から励起光を入射し、これを光励起レーザにまで到達させることができる。
【0020】
前記光励起レーザの励起光を出力する光源と、前記光源から出力される励起光を前記導光路にまで導く光ファイバと、を備えていてもよい。
【0021】
この構成によれば、光源からの励起光を光ファイバにより導光路に入射させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本開示における工具ホルダの全体像を示す図
図2】本開示における工具ホルダの内部構造を示す図
図3】別の実施形態における工具ホルダの内部構造を示す図
【符号の説明】
【0023】
1…工具ホルダ、10…被保持部、20…本体部、21…回転体、30…光励起レーザ、40…光学系、41…収束レンズ、50…導光路、51…透過経路、53…屈折経路、55…透過経路、60…光源、70…光ファイバ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本開示の実施形態を図面と共に説明する。
【0025】
工具ホルダ1は、工作機械の主軸に装着され、図1図2に示すように、工作機械の主軸側に保持される被保持部10と、被保持部10から延びる筒状の本体部20と、本体部20に内蔵された光励起レーザ30と、光励起レーザ30の出力するレーザ光を本体部20の先端側から出力されるように導く光学系40と、本体部20の外部から励起光を光励起レーザ30まで導く導光路50と、光励起レーザ30に適した励起光を出力する光源60と、光源60から出力される励起光を導光路50にまで導く光ファイバ70と、を備えている。
【0026】
被保持部10は、第1端(図1図2における上端)に向けて直径が小さくなる円錐台状に形成され、この第1端側が工作機械の主軸側に形成された凹部(図示せず)に保持されることで、工具ホルダ1が工作機械の主軸に装着される。この被保持部10における円錐台は、その高さ方向の中心軸が、主軸における回転中心となる軸線方向と重なる位置関係となるように形成されている。
【0027】
本体部20は、工具ホルダ1が主軸に装着された状態において主軸から離れる方向、つまり被保持部10の第2端(図1図2における下端)から離れる方向へと筒状に延びている。この本体部20は、筒状に延びる方向の中心軸が、主軸の軸線方向と重なる位置関係で配置され、中心軸を所定の長さ範囲だけ取り囲む部位が、それ以外の部位から独立して中心軸を回転中心に回転可能な回転体21として設けられている。
【0028】
光励起レーザ30は、本体部20において、筒状部20aの内側に内蔵され、光源60からの励起光によりレーザ光を出力する。この光励起レーザ30は、本体部20に内蔵可能なサイズのものであればよく、その具体的な種類については特に限定されない。本実施形態では、マイクロチップレーザが採用されている。
【0029】
この光励起レーザ30は、励起光を受けて出力するレーザ光の軸線方向が、本体部20において筒状に延びる方向の中心軸と重なる位置関係で配置されている。
【0030】
光学系40は、光励起レーザ30の出力するレーザ光が本体部20の先端側から本体部20の延びる方向に沿って出力されるようにそのレーザ光を導く。具体的には、光学系40には、1以上の収束レンズ41が配置されており、これら収束レンズ41によって、光励起レーザ30の出力するレーザ光を収束させて本体部20の先端側から出力させる。
【0031】
本実施形態においては、光励起レーザ30からのレーザ光の軸線方向を維持してレーザ光を収束させる位置関係で収束レンズ41が配置されおり、こうして、レーザ光は、その軸線方向が、本体部20の中心軸と重なるように出力される。
【0032】
導光路50は、本体部20の延びる方向と交差する方向に沿って本体部20の外内に至る領域全域にレーザ光の透過性を有する媒体を配置してなる透過経路51と、透過経路51から導かれた励起光を本体部20の内部において光励起レーザ30に向けて屈折させる屈折経路53と、を有している。これら透過経路51および屈折経路53は、本体部20の回転体21に対して固定されていることにより、回転体21の回転に従動して回転するように構成されている。
【0033】
導光路50の透過経路51は、本体部20の外内に至る領域全域にレーザ光の透過性を有する媒体を配置することで、励起光を本体部20外内に透過させる経路である。具体的には、透過経路51としては、本体部20を外内方向に貫通する孔であってもよく、また、本体部20の外内に至る領域全域に光透過性を有する部材を配置した構成であってもよい。本体部20を外内方向に貫通する孔を形成した場合、この孔の領域に存在する気体が、レーザ光の透過性を有する媒体となる。
【0034】
また、屈折経路53は、透過経路51から導かれた励起光の出力方向と、光励起レーザ30へと励起光を入射させる方向とが交差する位置に配置されたミラーとして構成されており、このミラーにより、透過経路51から導かれた励起光を光励起レーザ30に向けて屈折させる。
【0035】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0036】
例えば、上記実施形態においては、導光路50は、透過経路51と屈折経路53とを備えている。しかし、この導光路50は、励起光を光励起レーザ30にまで導くことができればよく、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、導光路50は、図3に示すように、被保持部10および本体部20の端部からそれぞれの外内に光透過性を有する媒体を配置してなる透過経路55を有し、この透過経路55から導かれた励起光を光励起レーザ30まで導くように構成されてもよい。
【0037】
また、上記実施形態においては、レーザ光が、その軸線方向が本体部20の中心軸と重なるように出力される場合を例示した。しかし、レーザ光は、その軸線方向が本体部20の中心軸とずれるように出力されてもよい。例えば、一対のウェッジプリズムにレーザ光を通過させて軸線を変位させるように構成されてもよい。
【0038】
上記実施形態によれば、工具ホルダ1に光励起レーザ30が搭載されているため、工作機械側に主軸とは別の構成を設けることなく、この工具ホルダ1を既存の主軸に装着させて導光路50から励起光を入射させるだけで、レーザ加工を実現できる。
【0039】
このとき、工具ホルダ1自体が主軸に装着されるため、光励起レーザ30からのレーザ光は、主軸の座標系において規定された方向へと出力される。このため、レーザ加工のために別の座標系での位置合わせを行う必要がない。よって、主軸による機械加工とレーザ光によるレーザ加工とを切り替えながら加工を施す場合であっても、同じ座標系で容易に位置合わせを行うことができるようになる。これにより、作業効率が向上することはもちろん、位置合わせに起因する加工精度の低下も抑制することができる。
【0040】
また、上記実施形態によれば、コンパクトなマイクロチップレーザにより光励起レーザ30を構成することで、工具ホルダ1としての全体構成を小型化することができる。
【0041】
また、上記実施形態によれば、導光路50によって、本体部20の延びる方向と交差する方向から励起光を入射し、これを屈折させて光励起レーザ30にまで到達させることができる。
【0042】
また、上記実施形態では、回転体21に設けられた導光路50の屈折経路53によって励起光が主軸の軸線方向に沿って光励起レーザ30にまで導かれるように構成されているため、主軸の軸線を回転中心として工具ホルダ1自体を回転させたとしても、その回転方向と反対方向に回転体21を回転させることにより、導光路50を通じて光励起レーザ30へと励起光が適切に入射される状態を維持することができる。
【0043】
さらに、光励起レーザ30から出力されるレーザ光が同じ主軸の軸線方向に沿って出力されるように構成されているため、主軸の軸線を回転中心として工具ホルダ1自体を回転させたとしても、光励起レーザ30から出力されるレーザ光が主軸の軸線方向に沿って出力される状態が維持される。
【0044】
このように、上記実施形態であれば、工具ホルダ1自体を回転させる場合であっても、その回転に合わせて位置合わせをすることなく、導光路50を通じて光励起レーザ30へと励起光が適切に入射される状態、および、光励起レーザから出力されるレーザ光が主軸の軸線方向に沿って出力される状態を維持することができる。
【0045】
また、上記実施形態であれば、光源60からの励起光を光ファイバ70により導光路50に入射させることができる。
【0046】
また、導光路50が、被保持部10および本体部20の端部側に透過経路55を設けた場合であれば、工具ホルダ1における主軸側の端部から励起光を入射し、これを光励起レーザ30にまで到達させることができる。
図1
図2
図3