特許第6963477号(P6963477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6963477加熱調理用加工液卵及びそれを用いた卵加工品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963477
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】加熱調理用加工液卵及びそれを用いた卵加工品
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20211028BHJP
【FI】
   A23L15/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-231118(P2017-231118)
(22)【出願日】2017年11月30日
(65)【公開番号】特開2019-97468(P2019-97468A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年4月14日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成20年9月14日に出願人が株式会社つぼ八に加熱調理用加工卵液を販売した事実
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松岡 勇人
(72)【発明者】
【氏名】小園 七恵
(72)【発明者】
【氏名】磯部 和宏
【審査官】 澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−224973(JP,A)
【文献】 特開平10−108649(JP,A)
【文献】 特開2004−305057(JP,A)
【文献】 特開2008−043208(JP,A)
【文献】 特開2013−247869(JP,A)
【文献】 カタログ「ピュアホワイト(R)」,キューピータマゴ株式会社,2017年01月,[オンライン], 検索日:2021月 3月 3日, インターネットURL:https://www.kewpie-egg.co.jp/products/pdf/purewhite_20161226.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色差計で測定したa値が−10以上3以下、b値が5以上25以下である加熱調理用加工液卵であって、
pHが6.0以上6.6以下であり、
原料卵の割合が90%以上であり、
増粘剤の含有量が0.04%以上0.1%以下である、
加熱調理用加工液卵。
【請求項2】
請求項記載の加熱調理用加工液卵を用いた、
卵加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理用加工液卵及びそれを用いた卵加工品に関する。具体的には、赤味や黄色味がわずかに残る液卵を用いながらも、色が白く、かつ保型性に優れた半熟状の卵加工品を調製できる加熱調理用加工液卵及びそれを用いた卵加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
玉子焼き、オムレツ等の卵加工品は、卵を加熱で凝固させることにより成形して得られる。
最近では、特に半熟状の卵加工品が消費者に好まれている。
しかし、半熟状に仕上げた場合、凝固が不十分であるため、成型できないことや、輸送や保存によって、形が崩れることがある等、保型性に問題があった。
【0003】
また、最近では鶏の飼料を調整することにより、卵黄の赤味や黄色味を抑えた白色に近い卵が用いられることがある(特許文献1)。
このような白い卵は、完全な白色ではなく、赤味や黄色味がわずかに残っているものであるが、加熱で十分に凝固させることにより、白味が強まり、白い卵加工品を得ることができる。
しかしながら、半熟状の様に、不完全に凝固させた場合は、完全に白くならず、赤味や黄色味が残ってしまうという問題があった。
完全に白い卵を生産することができれば、半熟状の卵加工品を得ることができるが、技術的なハードルが高く、困難であった。
そのため、赤味や黄色味がわずかに残る液卵を用いながらも、白く、かつ保型性に優れた半熟状の卵加工品を調整することは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−103539
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、赤味や黄色味がわずかに残る液卵を用いながらも色が白く、かつ保型性に優れた半熟状の卵加工品を調製できる加熱調理用加工液卵及びそれを用いた卵加工品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、液卵のpHを所定の範囲に調整し、かつ所定量の増粘剤を含有させることで、赤味や黄色味がわずかに残る液卵を用いながらも色が白く、かつ保型性に優れた半熟状の卵加工品が得られることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)色差計で測定したa値が−10以上3以下、b値が5以上25以下である加熱調理用加工液卵であって、
pHが6.0以上6.6以下であり、
増粘剤を含有する、
加熱調理用加工液卵、
(2)(1)記載の加熱調理用加工液卵であって、
増粘剤の含有量が0.04%以上0.5%以下である、
加熱調理用加工液卵、
(3)(1)又は(2)に記載の加熱調理用加工液卵を用いた、
卵加工品、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高度なノウハウや技術を要せず、簡便に、色が白く、かつ保型性に優れた半熟状の卵加工品が得られることから、卵加工品市場の更なる拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0010】
<加熱調理用加工液卵>
本発明の加熱調理用加工液卵は、オムレツ、オムライス、厚焼き卵、卵焼き、スポンジケーキ等の加熱調理された卵加工品に用いる液卵であり、色差計で測定したa値が−10以上3以下、b値が5以上25以、pHが6.0以上6.6以下であり、増粘剤を含有するものである。
【0011】
<色差>
一般的な液卵は、赤味や黄色味が強いため、色差計で測定したa値が5〜10、b値が40〜50程度であるが、本発明の加熱調理用加工液卵は、後述の原料卵を用いることにより、赤味や黄色味が抑制されているため、色差計による測定値において、a値が−10以上3以下、b値が5以上25以下である。
a値は赤色の指標であり、値が大きくなるほど、赤色が強くなることを表す。
b値は黄色の指標であり、値が大きくなるほど、黄色が強くなることを表す。したがって、本発明の加熱調理用加工液卵のa値及びb値が前記範囲であるということは、完全な白色ではないものの、通常の液卵よりは赤味及び黄色味が抑制され白色に近い液卵であることを示している。
【0012】
a値及びb値が前記範囲以上である場合、半熟状に加熱凝固した場合に白い卵加工品を得ることができない場合がある。また、a値及びb値が前記範囲以下である場合、白い半熟状の卵加工品が得られやすいが、そのような色差を示す加工液卵を調製することは難しい。
また、本発明の加熱調理用加工液卵は、白い半熟状の卵加工品が得られやすいため、a値が−10以上0以下であるとよく、さらに−5以上0以下であるとよい。また、b値は10以上25以下であるとよく、15以上20以下であるとよい。
【0013】
a値及びb値は、JIS Z 8730−1995によって規定される色差表示方法によって、Lab系色度座標で表示されることができる。また、a値及びb値は、市販の色差計により測定することができるが、例えば、色差計(商品名「COLOR AND COLOR DIFFERENCE METER MODEL 1001 DP」,日本電色工業株式会社製)に10Φレンズを装着し、ガラスセルに測定試料1g以上を敷き詰めて測定することができる。
【0014】
<原料卵>
また、本発明の加熱調理用加工液卵は、色差の値を前記範囲とするため、原料卵として、トウモロコシ、パプリカ、マリーゴールド等の黄色又は赤色の色素を含む飼料を与えず又はそれらを低減させた飼料により一定期間以上飼育した雌鶏により産卵される卵を用いるとよい。
また、前記原料卵を、加熱等による殺菌処理、ホスフォリパーゼ又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理、及び、上記液卵のスプレードライ又はフリーズドライ等による乾燥処理等の1種又は2種以上の処理を施したものを用いることもできる。
【0015】
前記原料卵の色差は、本発明の加熱調理用加工液卵の色差が前記範囲となるように、色差計で測定したときのb値が5以上25以下であるとよく、10以上25以下であるとよりよく、15以上20以下であるとよい。
また、a値は−10以上3以下であるとよく、−5以上0以下であるとよりよい。
また、本発明の加熱調理用加工液卵に含まれる前記原料卵の割合は、半熟状の白い卵加工品が得られやすいことから、80%以上であるとよく、90%以上であるとよい。
原料卵の配合量の上限は、後述のpH調整や増粘剤の配合量に応じて適宜調整すればよいが、例えば98%以下であるとよく、96%以下であるとよい。
【0016】
<pH>
通常、未調整の液卵のpHは7.6程度であるが、本発明の加熱調理用加工液卵は、20℃におけるpHが6.0以上6.6以下であり、6.3以上6.4以下であるとよい。
pHが前記範囲より低い場合、半熟状の卵加工品を調製した際に、色調は白くなるものの、卵タンパク質の凝集による保型性の低下や、酸味が強くなることによる風味の悪化につながる。
一方、pHが前記範囲より高い場合、色が白く、半熟状の卵加工品が得られない。
また、前記pHを調整する方法は特に限定しないが、クエン酸、乳酸、フィチン酸、リンゴ酸、コハク酸などの有機酸、食酢(黒酢を除く)、柑橘果汁などの酸材を適宜用いることができる。
【0017】
<増粘剤>
本発明の加熱調理用加工液卵は増粘剤を含むものである。増粘剤を含むことにより、pHを低下させた際の酸によるタンパク質の凝集を抑制し、半熟状の卵加工品の保型性を向上させることができる。
本発明に用いる増粘剤としては、特に限定しないが、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉等の澱粉、これらの澱粉にα化、架橋等の処理を施した加工澱粉、及び湿熱処理を施した澱粉等の澱粉類、グアーガム、カラギーナン、ウェランガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、アラビアガム等のガム質、並びに発酵セルロース、結晶セルロース、ペクチン等の1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明の加熱調理用加工液卵中の増粘剤の含有量は、0.01%以上0.5%以下であるとよく、さらに0.04%以上0.1%以下であるとよく、0.04%以上0.06%以下であるとよりよい。
増粘剤の含有量が前記範囲であることにより、保型性に優れた半熟状の卵加工品を調製しやすくなる。
【0019】
その他、本発明の加熱調理用加工液卵は、比重が1.03g/cm3以上1.10g/cm3以下であるとよく、1.05g/cm3以上1.10g/cm3以下であるとよりよい。
比重が前記数値範囲内であることにより、保型性に優れた半熟状の卵加工食品を調製しやすくなる。比重は常法により測定すればよい。
【0020】
<加熱調理用加工液卵の製造方法>
加熱調理用加工液卵の製造方法は特に限定しないが、割卵して得た原料卵に増粘剤を添加した後、撹拌し、均質化する。次いで、クエン酸等を添加し、pHを6.0以上6.6以下に調整後、容器に充填し、得ることができる。また、必要に応じて、濾過、殺菌、凍結等の処理をすることもできる。
【0021】
<その他原料>
本発明の加熱調理用加工液卵は、上述の原料以外に、本発明の効果を損なわない範囲でその他原材料を適宜選択し配合することができる。例えば、砂糖、ショ糖、ぶどう糖、ぶどう糖果糖液糖、水あめ、還元水あめ、オリゴ糖、還元オリゴ糖、はちみつなどの糖類、スクラロース、アスパルテーム、ステビアなどの甘味料、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナンなどの安定材、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、魚油、卵黄油等の動植物油又はこれらの精製油(サラダ油)、あるいはMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的、酵素的処理等を施して得られる油脂などの食用油脂、酸化防止剤、香料などが挙げられる。
【0022】
<卵加工品>
本発明の卵加工品は、本発明の加熱調理用加工液卵を加熱調理して得られたものであれば、特に限定されないが、半熟状に加熱調理した際の保型性に課題が生じやすいことから、オムレツ、オムライス、玉子焼きであるとよい。
【0023】
以下、本発明の加熱調理用加工液卵について、具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0024】
[実施例1]
色差計で測定したa値が−3、b値が17の原料液卵(商品名ピュアホワイト、キユーピー株式会社製)95%、発酵セルロース0.05%を攪拌機で均一に混合した。次に、クエン酸でpHを6.3に調整した後、清水で100%に調整した。60℃×3.5分加熱後、ポリプロピレン製の容器に充填し、実施例1の加熱調理用加工液卵を得た。実施例1の加熱調理用加工液卵の色差計で測定したa値は−3、b値は17であった。比重は1.06であった。
【0025】
[試験例1]
pHの影響が半熟状卵加工品の色調、保型性に与える影響を検討するため、実施例1の製造方法において、クエン酸を添加する量を調整し、pHの異なる実施例2乃至5、比較例1の加熱調理用加工液卵を調整した。a値、b値及び比重は実施例1と同等であった。
次いで、実施例1乃至5、比較例1の加熱調理用加工液卵150gと生クリーム30gを混合した後、フライパンで半熟状のオムレツを調製し、得られた半熟状のオムレツについて、下記評価基準で評価を行った。
【0026】
<評価基準>
半熟状オムレツの色調
○:白く、赤味や黄色味が気にならない。
△:やや赤味や黄色味が感じられるが、問題のない程度である。
×:赤味や黄色味が感じられる。
半熟状オムレツの保型性
○:全体的にまとまりがあり、成型しやすい。
△:ややまとまりが低下しているが、成型できる。
×:崩れやすく、成型が難しい。
【0027】
[表1]
【0028】
表1より、pHが6.0〜6.6(実施例1乃至5)、6.3〜6.4(実施例1及び4)であることにより、色が白く、保型性に優れた半熟状卵加工品が得られることが分かる。
【0029】
[試験例2]
増粘剤の影響が半熟状卵加工品の色調、保型性に与える影響を検討するため、実施例1の製造方法において、発酵セルロースを他の増粘剤に置き換えた実施例6乃至8、増粘剤を添加しなかった比較例2の加熱調理用加工液卵を調整した。a値及びb値は実施例1と同等であった。
次いで、試験例1と同様に半熟状のオムレツを調製し、評価を行った。
【0030】
[表2]
【0031】
表1より、増粘剤の配合によって、保型性に優れた半熟状卵加工品が得られることが分かる。
【0032】
[実施例9]
発酵セルロースの配合量を0.04gとした以外は実施例1と同様の方法で実施例9の加熱調理用加工液卵を調製した。
【0033】
[実施例10]
発酵セルロースの配合量を0.1gとした以外は実施例1と同様の方法で実施例9の加熱調理用加工液卵を調製した。
【0034】
[実施例11]
色差計で測定したa値が0、b値が20の原料液卵を用いた以外は実施例1と同様の方法で実施例11の加熱調理用加工液卵を調製した。
【0035】
[比較例3]
色差計で測定したa値が6、b値が45の一般的な原料液卵を用いた以外は実施例1と同様の方法で比較例3の加熱調理用加工液卵を調製した。
【0036】
得られた実施例9乃至11及び比較例3の加熱調理用加工液卵を試験例1の方法で評価した結果、実施例9乃至11の加熱調理用加工液卵は実施例1と同様に色が白く、保型性に優れた半熟状卵加工品を調製することができた。比較例3の加熱調理用加工液卵を用いて調製した半熟状卵加工品は色が黄色いものであった。