特許第6963478号(P6963478)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963478
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】サラダの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20211028BHJP
   A23L 19/12 20160101ALI20211028BHJP
【FI】
   A23L15/00 Z
   A23L19/12 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-231197(P2017-231197)
(22)【出願日】2017年11月30日
(65)【公開番号】特開2019-97470(P2019-97470A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小島 聡暁
(72)【発明者】
【氏名】梶 聡美
【審査官】 澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−143444(JP,A)
【文献】 レシピサイト「cookpad」に掲載されたレシピ「変わりポテトサラダ」, レシピID :2200924,2013年 4月23日,[オンライン], 検索日:2021年 3月 3日,URL,https://cookpad.com/recipe/2200924
【文献】 レシピサイト「cookpad」に掲載されたレシピ「まろやかポテトサラダ」, レシピID :1122758,2010年10月12日,[オンライン], 検索日:2021年 3月 3日,URL,https://cookpad.com/recipe/1122758
【文献】 レシピサイト「cookpad」に掲載されたレシピ「サンドイッチ(卵サンド)」, レシピID :4344073,2017年 6月 2日,[オンライン], 検索日:2021年 3月 3日,URL,https://cookpad.com/recipe/4344073
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
Google,cookpad
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
具材以外の食酢含有水中油型乳化調味料を35℃以上60℃以下に加熱する第一加熱工程と、
前記加熱済み調味料と具材とを混合する混合工程と、
前記混合物を60℃以上に加熱する第二加熱工程を含む、
卵サラダ又はポテトサラダの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
具材が加熱凝固卵である、
卵サラダ又はポテトサラダの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の製造方法であって、
混合工程終了時のサラダの温度が55℃以上である、
卵サラダ又はポテトサラダの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素材の風味を活かしたサラダの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年スーパーマーケットやコンビニエンスストアの惣菜等の中食の需要が高まっている。
惣菜の中でも、卵サラダやポテトサラダ等のサラダは人気商品である。そのため、家庭の味に近い美味しさを提供するためにこれまでも様々な検討が行われてきた。
【0003】
例えば、卵黄油を含有し、pHを6.3〜7.0の範囲にすることで保存後も卵風味に優れた卵サラダが記載されている(特許文献1)。また蒸煮したじゃがいもに対しオリゴ糖を含有する調味液を含浸させ、次いで熱い状態の含浸済みジャガイモ破砕物を、真空冷却処理により水分調整し、その真空冷却処理済みじゃがいも破砕物と乳化状調味料とを和えることで、冷蔵保存後においてもクリーミーな食味を有するポテトサラダの製造方法が記載されている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、上記のような技術を用いても、まだ素材の風味が弱く、満足出来る品位のサラダを作ることが出来なかった。そのため、市販のサラダでも家庭で手作りしたような、素材の風味が活かされたサラダが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−333742号公報
【特許文献2】特開2014−103871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
<背景技術の課題>
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、素材の風味を活かしたサラダの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、食酢含有水中油型乳化調味料部を35℃以上に加熱することで、意外にも、素材の風味を活かしたサラダが得られることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。
【0008】
<請求項の内容>
すなわち、本発明は、
(1) 具材以外の食酢含有水中油型乳化調味料を35℃以上に加熱する第一加熱工程と、前記加熱済み調味料と具材とを混合する混合工程と、前記混合物を60℃以上に加熱する第二加熱工程を含む、
サラダの製造方法、
(2) (1)に記載の製造方法であって、具材が加熱凝固卵である、
サラダの製造方法、
(3) (1)又は(2)に記載の製造方法であって、混合工程終了時のサラダの温度が55℃以上である、
サラダの製造方法。
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、素材の風味を活かしたサラダの製造方法を提供することができる。したがって、中食市場の更なる発展が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0011】
<本発明の特徴>
本発明のサラダの製造方法は、食酢含有水中油型乳化調味料部を35℃以上に加熱することで、素材の風味を活かしたサラダを作ることが出来る。
【0012】
<サラダ>
本発明のサラダとは、具材の截断物と食酢含有水中油型調味料とを混合した食品である。このような本発明のサラダとしては、そのまま惣菜として食す以外にも、使用用途に特に制限はなく、食パンに等に塗り広げて使用するスプレッド、サンドイッチ等のフィリング、コロッケ等の具、各種料理のトッピング等、各種用途に用いられているものが含まれる。
【0013】
<具材>
本発明のサラダに用いる具材としては、特に限定されないが、例えば、殻を剥いた茹卵や、割卵したホール生卵を略板状に加熱凝固させたもの、液卵に原料を加えて略板状に加熱凝固させたもの等の加熱凝固卵の裁断物、加熱したじゃがいも、さつまいも、カボチャ等の野菜の裁断物、マカロニやパスタ等が挙げられる。特に具材に加熱凝固卵の裁断物を用いた場合、本発明の効果が得られやすい。
【0014】
本発明のサラダに用いる具材の含有量は特に限定されず、例えば、50〜90%、より好ましくは60〜80%である。前記の範囲であれば、より優れた風味のサラダを作ることが出来る。
【0015】
<加熱凝固卵>
本発明のサラダの製造方法は、具材が加熱凝固卵であるとより素材の風味が引き立ったサラダを作ることが出来る。本発明の加熱凝固卵に用いる卵の種類としては、鶏卵、ウズラ卵、アヒル卵等が挙げられる。それらの加熱凝固卵としては、穀付きのまま茹でて穀を剥いたもの、割卵した液卵を加熱して凝固させたもの、あるいはスクランブルエッグや目玉焼きのように焼成したものを用いることができる。また、卵黄と卵白を別々に加熱凝固させたものや、卵黄や卵白に増粘剤や多糖類等を添加して加熱凝固したもの等も用いるこ
とができる。加熱方法としては、茹でる、蒸す、通電加熱する、焼成する、マイクロ波加熱する等、卵が凝固する方法であればいずれでもよい。
【0016】
<食酢含有水中油型調味料>
本発明のサラダに用いる食酢含有水中油型調味料は、特に限定されないが、例えば、マヨネーズ、サラダクリーム等の半固体状ドレッシング、サウザンドレッシング、フレンチドレッシング等の乳化液状ドレッシング等が挙げられる。
【0017】
本発明のサラダに用いる食酢含有水中油型調味料の含有量は特に限定されず、例えば、10〜70%、より好ましくは10〜50%、さらに好ましくは10〜40%である。前記の範囲であれば、より優れた風味のサラダを作ることが出来る。
【0018】
<食酢含有水中油型調味料の加熱工程:第一加熱工程>
食酢含有水中油型調味料の第一加熱工程とは、本発明のサラダに用いる食酢含有水中油型調味料を中心品温が35℃以上になるまで加熱する工程のことであり、これにより食酢含有水中油型調味料の風味が全体的にまとまり、サラダにしたとき、素材の風味を引き立てることが出来る。さらに好ましくは中心品温38〜85℃であると良い。
【0019】
前記食酢含有水中油型調味料の加熱方法は特に限定されないが、例えば密封容器に食酢含有水中油型調味料を入れ、温蔵庫でその密封容器ごと蒸す方法や、通電加熱による方法等が挙げられる。
【0020】
前記加熱済み食酢含有水中油型調味料は、次の混合工程までの間、保温しても良い。35℃以上を保つことが出来れば保温方法は特に限定されないが、例えば充填設備につながるホッパーに保温ヒーターを取り付ける方法等が挙げられる。
【0021】
<混合工程>
混合工程とは、本発明のサラダの具材、食酢含有水中油型調味料及び必要に応じてその他原料を混合する工程である。混合する方法は特に限定されないが、例えば、ミキサー等で混合すればよい。前記混合工程は非密封状態であると本発明の効果が得られやすい。更には、混合工程終了時のサラダの品温が25℃以上であるとよく、55℃以上であるとよりよい。従って、混合工程に用いる具材は50℃以上であるとよく、80℃以上であるとよりよく、また、食酢含有水中油型調味料の温度は35℃以上であるとよく、38℃以上であるとよりよい。なお、本発明における非密封状態とは、気体程度が通る以上の隙間が空いている状態のことを言う。従って、異物等が入らないように蓋をする状態は非密封状態に含まれる。
混合時間としては、全体が均一に混ぜ合わさればよく、例えば1〜10秒程度でも良い。また、設備にもよるが、サラダとして具材感を残すには5分以内が良い。
【0022】
<その他>
本発明のサラダには必要に応じて、その他の原料を含んでいてもよい。その他原料としては、例えば、食塩、砂糖、醤油、グルタミン酸ナトリウム、動植物等のエキス類、アミノ酸等の調味料類、卵黄油、菜種油、コーン油、綿実油、大豆油、パーム油、魚油等の動植物油又はこれらの精製油、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油等のような化学的あるいは酵素的処理等を施して得られる油脂、コレステロール、フィトステロール、各種脂肪酸等の油脂類、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、リン脂質、リゾリン脂質等の乳化材、ホエー、カゼインナトリウム、ラクトアルブミン等の乳蛋白、魚肉蛋白、畜肉蛋白、血清蛋白、小麦蛋白、ゼラチン等の蛋白質類、鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、銅、セレン、マンガン、コバルト、ヨウ素等のミネラル類、あるいはこれらミネラル類を高度に含有した酵母、スクラロース、ステビア、マルチトール、アセスルファムカリウム等の甘味料、からし粉、胡椒等の香辛料、酢酸ソーダ、グリシン、ポリリジン、卵白リゾチーム、プロタミン等の静菌剤、β‐カロチン、クチナシ、アナトー色素等の着色成分、デキストリン、オリゴ糖、糖アルコール、水飴等の糖類、食物繊維、ビタミン類、キレート剤、野菜の截断物等が挙げられる。第二の層とは別に、適宜、卵黄、卵黄レシチン等の卵黄成分を添加してもよい。
【0023】
<第二加熱工程>
本発明のサラダの第二加熱工程は、混合工程によって得られたサラダを60℃以上で加熱する工程である。上限温度は特に限定されないが、生産性を考慮し、90℃以下が良い。
加熱方法は60℃以上に加熱できれば特に限定されないが、例えば、密封容器にサラダを入れ、その密封容器ごと蒸す方法が挙げられる。また、前記混合後のサラダの温度を60℃以上にすることにより、素材の風味を活かしたサラダを得ることができるだけでなく、混合工程と第二加熱工程を同時に行うこともできるため、第二加熱処理を別途実施する必要がなくなる。
【0024】
<サラダの製造工程 一例>
本発明のサラダの代表的な製造方法を以下に示す。
卵サラダの場合、まず、加熱凝固卵、食酢含有水中油型乳化調味料、更に必要に応じて、清水、調味料、香辛料、保存料、その他の食品原料や食材を用意する。加熱凝固卵として茹卵を使用する場合には、殻付生卵を公知の方法で加熱し、冷却した後、殻を剥き、茹卵を得る。次に、茹卵をカッターで5mm角に細断して、サラダ用茹卵とする。茹卵の製造工程と同時に、準備した食酢含有水中油型乳化調味料をポリ袋等に充填し包装した後、40℃まで保温庫で加熱し、加熱済み食酢含有水中油型乳化調味料を得る。前記加熱済み食酢含有水中油型乳化調味料をポリ袋から、保温ヒーター付きのホッパーに移し替える。次にカット済みサラダ用茹卵をポリ袋に入れ、公知の方法で品温が80℃になるまで加温する。最後に、混合釜に加熱済み食酢含有水中油型乳化調味料(40℃)と加熱済みサラダ用茹卵(80℃)とその他必要な原料を投入し、約30秒間均一になる程度にミキサーで混合し、前記混合物をすぐにポリ袋等に充填し本発明の卵サラダを得る。
【実施例】
【0025】
以下、本発明について、本発明の実施例、比較例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【0026】
<実施例1 卵サラダ>
配合表1に基づき、実施例1の卵スプレッドを以下に説明するように製造した。
【0027】
1.食酢含有水中油型乳化調味料の調製
下記配合表1に従って、食酢含有水中油型乳化調味料を製した。
まず、全卵、食酢、食塩、アミノ酸、清水をミキサーで均一に混合し水相原料液を調製した後、当該水相原料液を撹拌させながら食用油を徐々に注加して粗乳化物を製した。次いで、得られた粗乳化物をコロイドミルで仕上げ乳化したことにより食酢含有水中油型乳化調味料を製した。完成した前記食酢含有水中油型乳化調味料をポリ袋に充填し、保温庫で40℃になるまで加熱した。
【0028】
2.加熱凝固卵の製造
加熱凝固卵白部と加熱凝固卵黄部を下記の配合表2、3に従って調製した。
まず、加熱凝固卵白部は、卵白を溶いて液状にし、その液卵白を120℃に熱したフライパンで加熱して凝固させた。加熱凝固卵黄部は配合表3に記載されている原料をミキサーで混合し、卵黄部スラリーを用意しておき、卵白部と同様に120℃に熱したフライパンで加熱して凝固させた。そして、加熱凝固卵白部と加熱凝固卵黄部は完成直後に5mm×5mm×5mmのダイス状にカットした。この時の加熱凝固卵の温度は90℃であった。
【0029】
3.卵サラダの製造
上記加熱済み食酢含有水中油型乳化調味料300g(40℃)、加熱凝固卵(加熱凝固卵白部450g及び加熱凝固卵黄250g)700g(80℃)を10秒程度混合した。混合終了時の卵サラダの品温は62℃であった。また、混合終了時の卵サラダの温度が60℃以上であったため、第二加熱工程を別途実施することは省略した。
【0030】
<配合表1 食酢含有水中油型調味料>
全卵 10%
食酢 10%
食油 73%
食塩 1%
ゼラチン 2%
清水 残余
――――――――――――――
合計 100%
【0031】
<配合表2 加熱凝固卵白部>
卵白 100%
【0032】
<配合表3 加熱凝固卵黄部>
卵黄 40%
食油 10%
澱粉 15%
食塩 1%
清水 残余
――――――――――――――
合計 100%
【0033】
<試験例1 食酢含有水中油型乳化調味料の加熱温度の影響>
食酢含有水中油型乳化調味料の加熱温度の違いによる風味への影響を確認するため、実施例2〜5及び比較例1を調製した。実施例2〜5及び比較例1は、実施例1から食酢含有水中油型乳化調味料の加熱温度を下記表1に記載の温度に変更し、加熱凝固卵は冷えた状態(15℃)で用いた。そして、実施例2〜5は混合後ポリ袋に充填し、70℃で第二加熱処理を行い、比較例1は第二加熱処理を行わなかった。前記変更点以外は実施例1と同様にして卵サラダを製した。
【0034】
<表1>
【0035】
<試験例1の評価基準>
◎:非常に素材の風味が強い。
○:素材の風味が強い。
△:やや素材の風味が強い。
×:素材の風味が弱い。
【0036】
表1に示される通り、食酢含有水中油型乳化調味料を35℃以上に加熱し、混合物を60℃以上に加熱すると、素材の風味が活かされた卵サラダを作ることが出来ると分かる(実施例1〜5)。更に、混合工程終了時の温度が55℃以上であると、非常に素材の風味が強く感じられる卵サラダが出来ると分かる(実施例1)。
【0037】
<実施例2 ポテトサラダ>
皮を剥き芽取り済みのじゃがいも1.2kgを100℃で60分間蒸煮し、目開き30mmのメッシュに押圧して破砕し1〜4cmの破砕物を得た。そして、前記じゃがいもの破砕物をただちに20℃に真空冷却した。また、1cm大の薄切りの人参と薄切りの玉ねぎを80℃×20分間ボイルし、その後冷却した(20℃)。
次に、加熱済みのじゃがいも破砕物700gとボイルした人参60g、薄切りの玉ねぎ30g、及び実施例1と同様の加熱済み食酢含有水中油型乳化物(品温40℃)150gをミキサーに投入し、塊状物が壊れないように混合した。混合の時の品温は29℃であった。最後に混合物をナイロンポリ袋に充填し、65℃で第二加熱処理をし、本発明のポテトサラダを得た。
完成したポテトサラダを試食したところ、素材の風味が感じられ、美味しいポテトサラダが出来た。