(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963547
(24)【登録日】2021年10月19日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】プラスチックシンチレーションファイバ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/00 20060101AFI20211028BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20211028BHJP
G01T 1/203 20060101ALI20211028BHJP
B29C 69/02 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
G01T1/00 A
G01T1/20 B
G01T1/20 L
G01T1/203
B29C69/02
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-524034(P2018-524034)
(86)(22)【出願日】2017年6月16日
(86)【国際出願番号】JP2017022312
(87)【国際公開番号】WO2017221828
(87)【国際公開日】20171228
【審査請求日】2020年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2016-122735(P2016-122735)
(32)【優先日】2016年6月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】新治 修
(72)【発明者】
【氏名】岩川 隆一
【審査官】
山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−046878(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/046512(WO,A1)
【文献】
国際公開第2004/025340(WO,A1)
【文献】
特開昭60−119510(JP,A)
【文献】
特開2005−292180(JP,A)
【文献】
特開昭60−119509(JP,A)
【文献】
特開2002−107551(JP,A)
【文献】
特開2002−071972(JP,A)
【文献】
米国特許第05555525(US,A)
【文献】
米国特許第04788436(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00
G01T 1/20
G01T 1/203
B29C 69/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアの外周面を被覆すると共に、前記コアよりも低い屈折率を有するクラッドと、を備え、
前記コアが、放射線発光性を有する蛍光剤を均一に含有していると共に、前記コアの屈折率が、断面の中心において最大となり、前記中心から外周方向への距離に応じて放物線状に低下する屈折率分布を有し、
前記コアは、いずれも屈折率が異なると共に前記蛍光剤を同一濃度含有する2種以上のラジカル重合性モノマーが重合された共重合体であり、
前記蛍光剤は、前記2種以上のラジカル重合性モノマーの全て及び前記共重合体に可溶な有機系蛍光剤であり、
前記コアにおいて、前記中心から外周方向への距離に応じて、前記2種以上のラジカル重合性モノマーの質量混合比が連続的に変化することによって、前記屈折率分布が形成されている、
プラスチックシンチレーションファイバ。
【請求項2】
前記コアの最外周に、前記コアにおいて最低の屈折率を一定の屈折率で有する層が形成されている、
請求項1に記載のプラスチックシンチレーションファイバ。
【請求項3】
前記蛍光剤が、2−(4−t−ブチルフェニル)−5−(4−ビフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(b−PBD)、2−(4−ビフェニル)−5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、パラターフェニル(PTP)、パラクォーターフェニル、2,5−ジフェニルオキサゾール(PPO)、1−フェニル−3−(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−ピラゾリン(PMP)、3−ヒドロキシフラボン(3HF)、4,4'−ビス−(2,5−ジメチルスチリル)−ジフェニル(BDB)、2,5−ビス−(5−t−ブチル−ベンゾキサゾイル)チオフェン(BBOT)、1,4−ビス−(2−(5−フェニロキサゾリル))ベンゼン(POPOP)、1,4−ビス−(4−メチル−5−フェニル−2−オキサゾリル)ベンゼン(DMPOPOP)、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン(DPB)、1,6−ジフェニル−1,3,5−ヘキサトリエン(DPH)から選ばれるものを少なくとも含む、
請求項1又は2に記載のプラスチックシンチレーションファイバ。
【請求項4】
コアと、前記コアの外周面を被覆するクラッドと、を備えたプラスチックシンチレーションファイバの製造方法であって、
中心軸を水平にして設置された円筒容器を、前記中心軸を軸として回転させながら、前記円筒容器の一端の中心部に設けられた注入口から連続的に屈折率が異なる2種以上のラジカル重合性モノマーの混合物を注入し、遠心力により前記円筒容器の内周面から前記中心軸に向かって順次硬化層を堆積させることにより、屈折率分布を有するプラスチックロッドを製造する工程と、
前記プラスチックロッドの先端を加熱しつつ線引きすることにより、ファイバ状の前記コアを製造する工程と、を備え、
前記プラスチックロッドを製造する際、前記2種以上のラジカル重合性モノマーは、放射線発光性を有する蛍光剤をいずれも同一濃度含有しており、
前記プラスチックロッドの屈折率が、断面の中心において最大となり、前記中心から外周方向への距離に応じて放物線状に低下する屈折率分布を有するように、前記2種以上のラジカル重合性モノマーの質量混合比を連続的に変化させつつ、前記混合物を注入する、
前記蛍光剤は、前記2種以上のラジカル重合性モノマーの全て及び当該2種以上のラジカル重合性モノマーが重合された共重合体に可溶な有機系蛍光剤である、
プラスチックシンチレーションファイバの製造方法。
【請求項5】
前記プラスチックロッドを、前記プラスチックロッドよりも低い屈折率を有するプラスチックパイプの中に挿入する工程を有する、
請求項4に記載のプラスチックシンチレーションファイバの製造方法。
【請求項6】
前記プラスチックロッドを製造する際、前記プラスチックロッドの最外周に、前記プラスチックロッドにおいて最低の屈折率を一定の屈折率で有する層を形成する、
請求項4又は5に記載のプラスチックシンチレーションファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチックシンチレーションファイバ及びその製造方法に関し、特に高線量の放射線検出に好適なプラスチックシンチレーションファイバ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックシンチレーションファイバ(PSF:Plastic Scintillating Fiber)は、シンチレータであるコアの外周面に、コアよりも低屈折率のクラッドが被覆されたプラスチックファイバであり、主に放射線検出に用いられる。通常、コアは、例えばポリスチレンやポリビニルトルエンなどの芳香環を有する基材に、有機系蛍光剤を添加した高分子材から構成される。クラッドは、例えばポリメチルメタクリレートやフッ素含有のポリメチルメタクリレートなどの低屈折率高分子材から構成される。
【0003】
シンチレーションファイバを用いた放射線検出の原理について説明する。放射線(X線、γ線などの高エネルギー電磁波、あるいは中性子線、電子線(β線)、陽子線などの荷電粒子線)がシンチレーションファイバのコアに照射されると、コア基材の芳香環から紫外線が放出される。この紫外線は、コア基材に蛍光剤が添加されていなければ、コア基材に自己吸収され、瞬時に消失する。
【0004】
シンチレーションファイバでは、この紫外線がコア基材に添加された蛍光剤に吸収され、より長波長の光が再放出される。そのため、適切な蛍光剤を選択することにより、コア基材に自己吸収され難い波長の光に変換し、ファイバ内を伝播させることができる。ファイバ内を伝播した光は、一端または両端に接続された検出器において検出される。このように、シンチレーションファイバは、放射線検出と光伝送の2つの機能を兼ね備えている。
【0005】
放射線通過位置の特定法としては、飛行時間差測定法すなわちTOF(Time of Flight)法が知られている(特許文献1〜3参照)。TOF法では、シンチレーションファイバの両端に検出器を設け、放射線により発光した光パルスがファイバの両端に到達するまでの時間差を検知することにより放射線の通過位置を算出する。そのため、放射線による発光から両端の検出器に到達するまでの時間差(時間的分解能)を精度よく測定することが重要となる。
【0006】
有機系蛍光剤は、一般に無機系蛍光剤よりも発光を始めてから光り終わるまでの減衰時間(Decay Time)が短く時間的な分解能が高い。他方、一般に有機系蛍光剤は熱に弱いため、ガラスファイバに適用するのは難しい。
また、放射線検出用のシンチレーションファイバの一般的な寸法は、外径が0.5〜2.0mm程度、長さが数〜数10m程度である。このような寸法のガラスファイバは、剛性が高く、ボビン巻きでの輸送・保管が困難である上、脆くて折れやすく、しかも高コストである。
以上のような観点から、放射線検出用のシンチレーションファイバとしては、有機系蛍光剤を含有したプラスチック製のものが、主に使用されている。
【0007】
従来のプラスチックシンチレーションファイバは、ステップインデックス型であり、透明で一定の高屈折率を有するコアと、コアよりも低屈折率を有するクラッドから形成される。コア内で放出された光はコア/クラッドの界面で全反射を繰り返しながらファイバ内を伝播していく。
【0008】
ここで、ステップインデックス型光ファイバ内の光の伝播モードには、ファイバに平行に直進するモード(直進モードという)と、コア/クラッドの界面で全反射を繰り返して進行するモード(反射モードという)とがある。反射モードにはファイバの中心軸を通る子午光線と、反射を繰り返しながららせんを描いて伝搬するらせん光線とが含まれる。いずれも反射モードの光路長は、直進モードでの光路長よりも長くなるため、蛍光剤から放出されたフォトンの検出器への到達時間にモード分散と呼ばれる広がりを生じることになる。すなわち、従来のステップインデックス型のプラスチックシンチレーションファイバでは、モード分散により、放射線通過位置の特定精度が低いという問題があった。
【0009】
特に、高線量場の場合に問題となるため、
図4、5を参照して具体的に説明する。
図4、5は、従来のステップインデックス型のプラスチックシンチレーションファイバにおける課題を説明するための図である。
図4、5では、コア10とクラッド2とを備えるステップインデックス型のプラスチックシンチレーションファイバに放射線が照射され、コア10内の蛍光剤3からフォトンが放出された様子を示している。
【0010】
高線量場では単位時間における照射頻度が高くなるので、
図4に示すように、一本のプラスチックシンチレーションファイバの別々の点を同時に放射線(
図4では放射線1、2)が通過する頻度が高くなる。このような場合、
図4に示すように、放射線1、2の照射によって放出されたフォトン1、2による信号パルスのパルス幅がモード分散によって広がるため、検出器において両者を分離できない。そのため、放射線通過位置の特定精度が低い。
【0011】
また、高線量場では、
図5に示すように、一本のプラスチックシンチレーションファイバ内の特定の点に複数の放射線(
図5では放射線1〜3)が短時間に連続して到達することも起こり得る。このような場合にも、
図5に示すように、放射線1〜3の照射によってそれぞれ放出されたフォトン1〜3による信号の幅がモード分散によって広がるため、検出器においてそれらの信号が分離できない。そのため、放射線通過位置の特定精度が低い。
なお、低線量場では、一本のプラスチックシンチレーションファイバを通過する放射線の頻度が少ないため、放出されたフォトンによる信号を個別に検出することができる。
【0012】
ステップインデックス型におけるこのような問題を抑制するために、屈折率分布型(グレーデッドインデックス型)とすることが考えられる。
特許文献4には、モノマーの揮発現象を利用した屈折率分布型プラスチックファイバの製法方法が開示されている。
また、特許文献5には、重合速度及び重合前後の比重の異なる2種類以上の重合性材料をアンプル中で回転させながら硬化させ、遠心力で比重の大きい重合体を選択的に外壁に押し付けて屈折率分布を形成させる方法が開示されている。
なお、特許文献4、5に開示された屈折率分布型プラスチックファイバは、蛍光剤を含有しておらず、シンチレーションファイバではない。また、特許文献6については、本発明の実施の形態の説明において言及する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2013/179970号
【特許文献2】特開平5−249247号公報
【特許文献3】特開2014−25833号公報
【特許文献4】特開昭62−108208号公報
【特許文献5】特開昭60−119510号公報
【特許文献6】国際公開第2015/046512号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
発明者らは、シンチレーションファイバに屈折率分布型プラスチックファイバを適用するに当たり、以下の問題点を見出した。
特許文献4に開示された方法において、仮にモノマーに蛍光剤を添加したとしても、蛍光剤とモノマーの揮発性が異なるため、コアにおける蛍光剤の分布が不均一となる。そのため、十分な放射線通過位置の特定精度は得られない。
【0015】
特許文献5に開示された方法において、重合速度及び重合前後の比重の異なる2種類以上の重合性材料に仮に蛍光剤を添加したとしても、重合速度が異なるため、取り込まれる蛍光剤にも濃度分布が発生してしまう。すなわち、コアにおける蛍光剤の分布が不均一となり、十分な放射線通過位置の特定精度は得られない。
【0016】
このように、従来の屈折率分布型プラスチックファイバに仮に蛍光剤を添加したとしても、コアにおける蛍光剤の分布を均一にすることが難しく、十分な放射線通過位置の特定精度を有するプラスチックシンチレーションファイバは得られなかった。
【0017】
本発明は、モード分散を抑制し、放射線通過位置の特定精度を向上させることができるプラスチックシンチレーションファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一態様に係るプラスチックシンチレーションファイバは、
コアと、前記コアの外周面を被覆すると共に、前記コアよりも低い屈折率を有するクラッドと、を備え、
前記コアが、放射線発光性を有する蛍光剤を均一に含有していると共に、前記コアの屈折率が、断面の中心において最大となり、前記中心から外周方向への距離に応じて放物線状に低下する屈折率分布を有するものである。
コアが、放射線発光性を有する蛍光剤を均一に含有していると共に、コアの屈折率が、断面の中心において最大となり、前記中心から外周方向への距離に応じて放物線状に低下する屈折率分布を有している。そのため、モード分散を抑制し、放射線通過位置の特定精度を向上させることができる。
【0019】
前記コアの最外周に、前記コアにおいて最低の屈折率を一定の屈折率で有する層が形成されていることが好ましい。
コアとクラッドとの溶融接着性を高め、気泡の残留を抑制することができる。
【0020】
本発明の一態様に係るプラスチックシンチレーションファイバの製造方法は、
コアと、前記コアの外周面を被覆するクラッドと、を備えたプラスチックシンチレーションファイバの製造方法であって、
中心軸を水平にして設置された円筒容器を、前記中心軸を軸として回転させながら、前記円筒容器の一端の中心部に設けられた注入口から連続的に屈折率が異なる2種以上のラジカル重合性モノマーの混合物を注入し、遠心力により前記円筒容器の内周面から前記中心軸に向かって順次硬化層を堆積させることにより、屈折率分布を有するプラスチックロッドを製造する工程と、
前記プラスチックロッドの先端を加熱しつつ線引きすることにより、ファイバ状のコアを製造する工程と、を備え、
前記プラスチックロッドを製造する際、前記2種以上のラジカル重合性モノマーは、放射線発光性を有する蛍光剤をいずれも同一濃度含有しており、
前記プラスチックロッドの屈折率が、断面の中心において最大となり、前記中心から外周方向への距離に応じて放物線状に低下する屈折率分布を有するように、前記2種以上のラジカル重合性モノマーの質量混合比を連続的に変化させつつ、前記混合物を注入する、ものである。
そのため、コアが、放射線発光性を有する蛍光剤を均一に含有していると共に、コアの屈折率が、断面の中心において最大となり、前記中心から外周方向への距離に応じて放物線状に低下する屈折率分布を有するプラスチックシンチレーションファイバが得られる。従って、モード分散を抑制し、放射線通過位置の特定精度を向上させることができる。
【0021】
前記プラスチックロッドを、前記プラスチックロッドよりも低い屈折率を有するプラスチックパイプの中に挿入する工程を有することが好ましい。効率よく、プラスチックシンチレーションファイバを製造することができる。
【0022】
前記コアを製造する工程を、減圧下において実施することが好ましい。モノマー注入のためにプラスチックロッドの中心に残された空間やプラスチックロッドとプラスチックパイプとの隙間などが気泡として残存するのを抑制することができる。
【0023】
前記プラスチックロッドを製造する際、前記プラスチックロッドの最外周に、前記プラスチックロッドにおいて最低の屈折率を一定の屈折率で有する層を形成することが好ましい。
コアとクラッドとの溶融接着性を高め、気泡の残留を抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、モード分散を抑制し、放射線通過位置の特定精度を向上させることができるプラスチックシンチレーションファイバを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施の形態1に係るプラスチックシンチレーションファイバの縦断面図である。
【
図2】実施の形態1に係るプラスチックシンチレーションファイバの縦断面図である。
【
図3】実施の形態1に係るプラスチックシンチレーションファイバのコア断面での屈折率分布の一例をより詳細に示したグラフである。
【
図4】従来のステップインデックス型プラスチックシンチレーションファイバにおける課題を説明するための図である。
【
図5】従来のステップインデックス型プラスチックシンチレーションファイバにおける課題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1、2は、実施の形態1に係るプラスチックシンチレーションファイバの縦断面図である。
図1、2に示すように、本実施の形態に係るプラスチックシンチレーションファイバは、コア1と、コア1の外周面を被覆するクラッド2と、を備えた屈折率分布型のプラスチックシンチレーションファイバである。
図1、2は、それぞれ
図4、5に対応した図であって、プラスチックシンチレーションファイバに放射線が照射され、コア1内の蛍光剤3からフォトンが放出された様子を示している。
プラスチックシンチレーションファイバの直径は、例えば0.1〜2mmであることが好ましい。
【0027】
コア1は、任意の横断面において、放物線状の屈折率分布を有している。具体的には、
図1、2においてプラスチックシンチレーションファイバの縦断面図の右側に示したように、一点鎖線で示した中心において最大となり、中心から外周方向への距離に応じて放物線状に低下する屈折率分布である。
また、コア1は、放射線発光性を有する蛍光剤を均一に含んでいる。
クラッド2は、コア1よりも低く、かつ、実質的に一定の屈折率を有している。
【0028】
本実施の形態に係るプラスチックシンチレーションファイバは、コア1が放物線状の屈折率分布を有しているため、モード分散を抑制し、放射線通過位置の特定精度を向上させることができる。以下にその原理について説明する。
【0029】
光は屈折率の低い方から高い方に曲がる性質を有している。そのため、放物線状の屈折率分布を有するコア1における光の伝播モードは、最も屈折率の高い中心軸上を直進するモード(直進モードという)と、中心軸を横軸としてサインカーブを描くように屈折しながら進行するモード、また中心軸を通らないがらせんを描いて進行するモード(両者を屈折モードという)となる。
放物線状の屈折率分布を有するコア1内では、進行距離と屈折率との積である光路長が、直進モードと屈折モードとにおいてほぼ等しくなる。そのため、モード分散を抑制することができる。
【0030】
すなわち、本実施の形態に係る屈折率分布型のプラスチックシンチレーションファイバでは、蛍光剤から放出されたフォトンの検出器への到達時間が経路によらず等しくなり、モード分散が抑制される。そのため、ステップインデックス型のプラスチックシンチレーションファイバに比べ、放射線通過位置の特定精度が向上する。
また、従来の屈折率分布型プラスチックファイバでは、コアに蛍光剤を均一に含有させることが難しく、十分な放射線通過位置の特定精度が得られなかった。これに対し、本実施の形態に係るプラスチックシンチレーションファイバでは、コア1に蛍光剤を均一に含有させることができ、十分な放射線通過位置の特定精度が得られる。
【0031】
図1、2を参照して、より具体的に説明する。
高線量場では、
図1に示すように、一本のプラスチックシンチレーションファイバの別々の点を同時に放射線(
図1では放射線1、2)が通過する頻度が高くなる。このような場合であっても、
図1に示すように、放射線1、2の照射によって放出されたフォトン1、2よる信号の幅がモード分散によって広がらず、検出器において両者を分離することができる。そのため、放射線通過位置の特定精度が向上する。
【0032】
また、高線量場では、
図2に示すように、一本のプラスチックシンチレーションファイバ内の特定の点に複数の放射線(
図2では放射線1〜3)が連続して到達することも起こり得る。このような場合でも、
図2に示すように、放射線1〜3の照射によってそれぞれ放出されたフォトン1〜3による信号の幅がモード分散によって広がらず、検出器においてそれらの信号を分離することができる。そのため、放射線通過位置の特定精度が向上する。
【0033】
放物線状の屈折率分布は、具体的には以下の式で表される。
n
(r)=n
o√(1−(g・r)
2)
ここで、各記号は以下のとおりである。
n
(r):中心軸から距離rの位置における屈折率、g:屈折率分布定数、r:中心軸から外周方向への距離、n
o:プラスチックシンチレーションファイバの中心軸における屈折率
【0034】
図3は、実施の形態1に係るプラスチックシンチレーションファイバのコアの横断面における屈折率分布の一例をより詳細に示したグラフである。横軸は中心(つまりプラスチックシンチレーションファイバの中心軸)から外周方向への距離rを示しており、縦軸は屈折率nを示している。横軸での屈折率はクラッドの屈折率を示している。
図3に示すように、屈折率は中心で最大となり、距離rの増加とともに放射線状に減少する。
図3に示した屈折率分布は理想形状であり、当然のことながら放物線類似や疑似放物線程度の製造上のばらつきは許容される。
【0035】
また、
図3に示すように、コアの最外周に、コアを構成する低屈折率モノマーのみからなり、コアにおいて最低の屈折率を一定の屈折率で有する層を厚さtだけ設けてもよい。コアとクラッドとの溶融接着性を高め、気泡の残留を抑制することができる。厚さtは例えば、3〜100μm程度である。
【0036】
本発明のプラスチックシンチレーションファイバの長さは好ましくは5m以上であり、より好ましくは10m以上である。本発明のプラスチックシンチレーションファイバはモード分散が抑制されているため、プラスチックシンチレーションファイバが長い場合でも好適に用いられる。
【0037】
[原材料]
プラスチックシンチレーションファイバに用いられるコア原材料は透明であれば制約はない。中でもメチルメタクリレートに代表されるメタクリル酸エステルモノマー群、メチルアクリレートに代表されるアクリル酸エステルモノマー群及びスチレンに代表されるビニル基を持った芳香族モノマー群のいずれかからなる共重合体が好適である。中でも、ビニル基を持った芳香族モノマーからなる共重合体であることが好ましい。共重合に用いられるモノマー種は2種類以上であれば制限はない。
【0038】
プラスチックシンチレーションファイバのクラッドに用いられる原材料は、コアを形成する最外周の材料より低屈折率であり、透明であれば制約はない。中でもメチルメタクリレートに代表されるメタクリル酸エステルモノマー群及びパーフルオロアルキルメタクリレート等のフッ素化モノマー群、メチルアクリレートに代表されるアクリル酸エステルモノマー群及びパーフルオロアルキルアクリレート等のフッ素化モノマー群のいずれかを原料とする重合体もしくは共重合体が好適である。
【0039】
これらのモノマー群は熱または光照射により容易に重合体または共重合体が得られるため、精密な組成分布を形成でき、かつ取り扱い易いという利点がある。重合にあたっては有機過酸化物またはアゾ化合物を重合開始剤として加えてもよい。代表的な有機過酸化物としては1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等が挙げられるが、熱または光照射によってラジカルを生成するものであれば特に制限はない。
【0040】
また分子量調整のために連鎖移動剤としてメルカプタンを添加してもよい。代表的なメルカプタンとしてはオクチルメルカプタンがあるが、R−SH(ここでRは有機基を表す)の構造を有するものであれば特に制限はない。
【0041】
[蛍光剤]
放射線発光性を有する蛍光剤としては、2−(4−t−ブチルフェニル)−5−(4−ビフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(b−PBD)、2−(4−ビフェニル)−5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、パラターフェニル(PTP)、パラクォーターフェニル、2,5−ジフェニルオキサゾール(PPO)、1−フェニル−3−(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−ピラゾリン(PMP)、3−ヒドロキシフラボン(3HF)、4,4’−ビス−(2,5−ジメチルスチリル)−ジフェニル(BDB)、2,5−ビス−(5−t−ブチル−ベンゾキサゾイル)チオフェン(BBOT)、1,4−ビス−(2−(5−フェニロキサゾリル))ベンゼン(POPOP)、1,4−ビス−(4−メチル−5−フェニル−2−オキサゾリル)ベンゼン(DMPOPOP)、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン(DPB)、1,6−ジフェニル−1,3,5−ヘキサトリエン(DPH)、などが好ましい。これらは単体で使用してもよいし、複数の蛍光剤を混合して使用しても構わない。放射線発光性を有する蛍光剤は、重合性モノマーおよびコアを構成する重合体に可溶であることが好ましい。
【0042】
[製造方法]
本実施の形態に係る屈折率分布型プラスチックシンチレーションファイバは、特許文献6に記載された順次堆積法を用いて製造することが好ましい。
具体的には、まず、中心軸を水平にして設置された円筒容器を、中心軸を軸として回転させながら、円筒容器の一端の中心部に設けられた注入口から連続的に屈折率が異なる2種以上のラジカル重合性モノマーの混合物を注入する。なお、中心軸の水平方向からの不可避的なずれは許容される。
【0043】
ここで、得られるプラスチックロッドの外周側が低屈折率に、中心側が高屈折率になるように、重合性モノマーの質量混合比を変化させながら混合物を注入する。そして、遠心力により円筒容器の内周面に重合性モノマーの混合物を付着させながら、外周側から中心に向かって屈折率の異なる重合硬化層を順次堆積してゆく。このようにして、コアを構成する屈折率分布付きプラスチックロッドを得る。
【0044】
また、円筒容器に注入する混合物を構成する2種以上のラジカル重合性モノマーは、それぞれ放射線発光性を有する蛍光剤を同一濃度含有している。そのため、重合性モノマーの質量混合比を変化させても、混合物における蛍光剤の濃度は一定であるため、得られる屈折率分布付きプラスチックロッドにおいて、蛍光剤を均一に含有させることができる。
【0045】
重合硬化層の屈折率は、混合物を構成する各重合性モノマーの質量混合比と、各重合性モノマーが単独で重合した重合体の屈折率とに基づいて、求めることができる。
横断面における中心と外周との屈折率差を大きくするには、外周で低屈折率モノマー単独、中心で高屈折率モノマー単独となるように、注入する重合性モノマーの質量混合比を外周から中心へ向けて連続的に変化させるのがよい。
【0046】
次に、得られたプラスチックロッドを、クラッドを構成する一定な屈折率を有するプラスチックパイプに挿入し、母材が得られる。その後、減圧下で母材の先端を軟化点以上の温度に加熱して、細く線引きする。減圧により、モノマー注入のためにプラスチックロッドの中心に残された空間やプラスチックロッドとパイプとの隙間などが気泡として残存するのを抑制することができる。減圧は、10kPa以下とするのが好ましい。
以上により、屈折率分布型プラスチックシンチレーションファイバの単線を製造する。
【実施例】
【0047】
以下、本発明に係る実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されない。なお、実施例中に記載する屈折率は20℃または25℃での文献値である。
【0048】
実施例及び比較例に係るプラスチックシンチレーションファイバについて、プラスチックシンチレーションファイバ内を導光した後の光信号の分解時間(モード分散度合)を測定し、比較した。分解時間の測定方法は下記の通りである。
長さ20mのプラスチックシンチレーションファイバを用意し、端面を1500番のサンドペーパーで研磨した後、0.3μmのアルミナ入りの研磨剤で鏡面状に研磨した。
プラスチックシンチレーションファイバの一端に受光器である光電子増倍管を配置し、反対側の端面付近の側面には光源であるLED(波長375nm)を配置した。電圧をパルス状に印加できるパルスジェネレータをLEDに接続し、10nsのパルスを入力した。
【0049】
LEDにパルスが入力されると、プラスチックシンチレーションファイバ内の蛍光剤が光を吸収し波長変換されて450nm中心の光を発光し、受光器に導光される。その信号強度を光電子増倍管で測定し、受光した光信号が立ち上がってから減衰するまでの時間(半値全幅、FWHM)の入力パルスからの増加分を分解時間とした。
【0050】
<実施例>
ベンジルメタクリレートモノマー(単独重合体の屈折率:1.568)とメチルメタクリレートモノマー(単独重合体の屈折率:1.492)を、精密流量制御された一対のマイクロポンプを用いて送液した。
【0051】
この実施例において、上記ベンジルメタクリレートモノマーと上記メチルメタクリレートモノマーとは、それぞれ蛍光剤パラターフェニル(PTP)1質量%及び2,5−ビス−(5−t−ブチル−ベンゾキサゾイル)チオフェン(BBOT)0.02質量%と、重合開始剤1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(PO−O)0.05質量%、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート(PH−V)0.05質量%と、分子量を調整するための連鎖移動剤n−オクチルメルカプタン(n−OM)0.25質量%を含有しているものである。
【0052】
送られたそれぞれのモノマーは合流部を経て、スタティックミキサーにより混合され、注入口へ送られた。回転するガラスアンプルに一対のマイクロポンプの送液量を変化させながら注入し、加熱重合した。この結果、最内周から外周に向かって放物線状に屈折率が低下する屈折率分布付きプラスチックロッドを得た。
このプラスチックロッドと、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート(単独重合体の屈折率:1.417)のパイプとを組み合わせて母材を作製し、2日間真空乾燥した。この母材を減圧下で溶融線引きして外径1mmφの屈折率分布型プラスチックシンチレーションファイバを得た。
【0053】
<比較例>
スチレンモノマー(単独重合体の屈折率:1.590)に蛍光剤パラターフェニル(PTP)1質量%及び2,5−ビス−(5−t−ブチル−ベンゾキサゾイル)チオフェン(BBOT)0.02質量%を添加し、これを内径50mmφのガラスアンプル中にいれ、真空封管したのち70〜120℃に温度調節して熱重合させた。ガラスアンプルを割り、蛍光剤を含んだポリスチレンロッドを得た。
【0054】
メチルメタクリレートモノマーに重合開始剤(PO−O)0.05質量%、重合開始剤(PH−V)0.05質量%と連鎖移動剤(n−OM)0.25質量%を添加した。これを内径70mmφのガラスアンプルに入れ真空封管し、熱媒中で軸方向に回転させながら加熱、重合させて外径70mmφ−内径50mmφのポリメチルメタクリレートのパイプを得た。
前述のポリスチレンロッドと、得られたポリメチルメタクリレートパイプを組み合わせて母材を作製し、2日間真空乾燥した。この母材を減圧下で溶融線引きし、外径1mmφのプラスチックシンチレーションファイバを得た。
【0055】
実施例及び比較例で得られた外径1mmφ,長さ20mのプラスチックシンチレーションファイバについて、フォトンカウンターで分解時間を評価した結果を下記の表1に示す。比較例に係るプラスチックシンチレーションファイバでの分解時間が15.0nsであるのに対して、実施例に係るプラスチックシンチレーションファイバでの分解時間は3.0nsと1/5程度であり、モード分散を劇的に抑制することができた。
【0056】
【表1】
【0057】
本発明は上記実施の形態に限られず、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0058】
この出願は、2016年6月21日に出願された日本出願特願2016−122735を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0059】
1 コア
2 クラッド
3 蛍光剤