特許第6963775号(P6963775)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963775
(24)【登録日】2021年10月20日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】棘突起間インプラント
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/56 20060101AFI20211028BHJP
【FI】
   A61B17/56
【請求項の数】18
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-510242(P2019-510242)
(86)(22)【出願日】2018年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2018013602
(87)【国際公開番号】WO2018181895
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2021年3月1日
(31)【優先権主張番号】特願2017-67842(P2017-67842)
(32)【優先日】2017年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】西田 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】向野 努
【審査官】 宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/118907(WO,A2)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0242823(US,A1)
【文献】 国際公開第2007/111999(WO,A2)
【文献】 国際公開第2011/111301(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/56
A61F 2/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジ形状の外周面を有する略円錐状のスクリュー部と、
前記スクリュー部と同軸の頭部と、
前記スクリュー部と前記頭部との間に形成されたスペーサー部と、
を備える、棘突起間に嵌め込まれる棘突起間インプラントであって、
前記スクリュー部は、
先端側から順に、第1スクリュー部および第2スクリュー部を有し、
前記第1スクリュー部は、ネジ山の頂点を繋いでなる仮想面が、外側に凹んだ先細りの円錐状とされており、
前記第2スクリュー部は、ネジ山の頂点を繋いでなる仮想面が、外側に膨らんだ円錐台状とされている、棘突起間インプラント。
【請求項2】
請求項1に記載の棘突起間インプラントにおいて、
前記第2スクリュー部の前記スペーサー部に隣接するネジ溝が、当該ネジ溝内を棘突起の外縁部が通過できる寸法で形成されている、棘突起間インプラント。
【請求項3】
請求項1または2に記載の棘突起間インプラントにおいて、
前記第1スクリュー部および前記第2スクリュー部が2条ネジとされている、棘突起間インプラント。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の棘突起間インプラントにおいて、
前記第2スクリュー部のネジピッチが、先端側から前記スペーサー部へ向けて、ピッチが大きくなっていく可変ピッチとされている、棘突起間インプラント。
【請求項5】
請求項4に記載の棘突起間インプラントにおいて、
前記スクリュー部のネジピッチが、先端側から前記スペーサー部へ向けて、前記第1スクリュー部ではピッチが小さくなっていく可変ピッチとされている、棘突起間インプラント。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の棘突起間インプラントにおいて、
前記第2スクリュー部のネジ溝の底点を繋いでなる仮想面が略円錐台状である、棘突起間インプラント。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の棘突起間インプラントにおいて、
前記スペーサー部は、側面視でU字形状の対向する2つの嵌合凹部を有している、棘突起間インプラント。
【請求項8】
請求項7に記載の棘突起間インプラントにおいて、
前記第1スクリュー部のネジ溝と前記第2スクリュー部のネジ溝とが滑らかに接続され、且つ、前記第2スクリュー部のネジ溝と前記嵌合凹部とが滑らかに接続されている、棘突起間インプラント。
【請求項9】
請求項7または8に記載の棘突起間インプラントにおいて、
軸方向における前記嵌合凹部の両側に、X線透視で識別可能な識別部材が設けられている、棘突起間インプラント。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の棘突起間インプラントにおいて、
軸心を貫通する貫通孔が当該棘突起間インプラントに設けられている、棘突起間インプラント。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の棘突起間インプラントにおいて、
軸方向に延びるスリットが側面に設けられている、棘突起間インプラント。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の棘突起間インプラントにおいて、
前記頭部の軸心に設けられた貫通孔に雌ネジが形成されており、
前記スクリュー部が右ネジの場合、前記雌ネジは左ネジとされ、前記スクリュー部が左ネジの場合、前記雌ネジは右ネジとされている、棘突起間インプラント。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の棘突起間インプラントにおいて、
前記第1スクリュー部のネジ山の頂点が尖鋭とされている、棘突起間インプラント。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の棘突起間インプラントにおいて、
前記第1スクリュー部の先端部に、先端が尖った金属部材が取り付けられている、棘突起間インプラント。
【請求項15】
請求項1〜6のいずれかに記載の棘突起間インプラントにおいて、
軸心を貫通する貫通孔が当該棘突起間インプラントに設けられており、
砕かれた骨を収容するための、軸方向に延びるとともに前記貫通孔に連通するスリットが、前記頭部から前記スペーサー部を経て前記スクリュー部まで側面に設けられている、棘突起間インプラント。
【請求項16】
請求項15に記載の棘突起間インプラントにおいて、
前記スリットの幅が、2mm以上、且つ10mm以下、とされている、棘突起間インプラント。
【請求項17】
請求項15または16に記載の棘突起間インプラントにおいて、
前記スリットの長さが、当該棘突起間インプラントの全長の1/3以上の長さとされている、棘突起間インプラント。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれかに記載の棘突起間インプラントにおいて、
前記スペーサー部の、軸方向に直交する断面の外形が、略多角形とされており、
略多角形の前記スペーサー部の各辺に、前記スリットが設けられている、棘突起間インプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棘突起間に嵌め込まれるインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、例えば、特許文献1、2に記載のものがある。特許文献1に記載の棘突起間スペーサーは、棘突起間に螺入する略円錐状のスクリュー部と、このスクリュー部の長手方向に形成されたスペーサー部と、適宜工具と係合自在又は適宜連結部材と取付自在の頭部とを備え、スクリュー部とスペーサー部と頭部の軸心に貫通孔を有するインプラントである。
【0003】
上記の棘突起間スペーサーによると、棘突起間にスクリュー部を捩じ込む際に生じる開大力を利用して、無理なく棘突起間を開大し、当該棘突起間にスペーサー部を嵌め込むことができる。これにより、局所麻酔下でも、棘突起間スペーサーを体内へ経皮的に捩じ込んで挿入し、棘突起間に留置することが可能となる。
【0004】
特許文献2に記載の棘突起間インプラントは、特許文献1に記載の棘突起間スペーサーを改良したものであって、あらたな構成として、次の構成を備えている。棘突起間インプラントの全長の1/3以上の長さの複数本のスリット或いは溝が、棘突起間インプラントの軸方向に形成される。これらのスリット或いは溝は、軸心を貫通する貫通孔に到達する深さのスリット或いは溝とされる。また、これらのスリット或いは溝は、軸心を中心として180°未満の略等間隔に設けられる。
【0005】
特許文献2に記載の棘突起間インプラントによると、棘突起間インプラント全体にしなりや弾力性を持たせることができ、棘突起間インプラントの挿入および設置が簡便となる。また、棘突起間インプラントと接触する棘突起に過度なストレスが加わることが防止される。これにより、棘突起間の開大の効果を長時間持続させることができる。換言すれば、棘突起の骨破壊を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4797174号公報
【特許文献2】特許第5272279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の棘突起間スペーサー、および、これを改良した特許文献2に記載の棘突起間インプラントには、さらなる改良すべき課題が残されていた。
【0008】
特許文献1、2に記載の従来のインプラント(棘突起間スペーサー、棘突起間インプラント)のスクリュー部は、その全体が、中途部の膨らんだ略円錐状である。この形状では、インプラントを体内へ経皮的に捩じ込んで挿入する最初期段階で、ネジの径が急激に増大するので、体内の組織にネジが食い込まない段階で、大きな抵抗をインプラントが受けてしまう。
【0009】
皮膚の直下には、コラーゲン線維からなる強靭な筋膜がある。この筋膜は、上記した抵抗の主要な原因となるものである。特許文献1、2に記載の従来のインプラントを用いた手技では、体内へのインプラントの最初期段階の挿入をスムーズに行うため、皮膚切開に加えて筋膜切開を行う必要があった。
【0010】
また、棘突起間には、隣り合う上下の棘突起を結ぶ、コラーゲン線維を主体とした厚い棘間靱帯がある。特許文献1、2に記載の従来のインプラントを用いた手技では、棘突起間へのスクリュー部の挿入をスムーズに行うため、その通り道としての孔を、予め、棘間靱帯にあける必要があった。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、インプラントを体内へ経皮的に捩じ込んで挿入するに際し、従来よりも容易に捩じ込み挿入することができる、棘突起間インプラントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ネジ形状の外周面を有する略円錐状のスクリュー部と、前記スクリュー部と同軸の頭部と、前記スクリュー部と前記頭部との間に形成されたスペーサー部と、を備える棘突起間に嵌め込まれる棘突起間インプラントである。前記スクリュー部は、先端側から順に、第1スクリュー部および第2スクリュー部を有する。前記第1スクリュー部は、ネジ山の頂点を繋いでなる仮想面が、外側に凹んだ先細りの円錐状とされており、前記第2スクリュー部は、ネジ山の頂点を繋いでなる仮想面が、外側に膨らんだ円錐台状とされている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、本発明の構成要件、特に、スクリュー部のうちの先端側の第1スクリュー部のネジ山の頂点を繋いでなる仮想面が、外側に凹んだ先細りの円錐状とされていることで、スクリュー部の先端からスペーサー部への方向に向けて、第1スクリュー部のネジの径は緩やかに増大する。これにより、スクリュー部は、大きな抵抗を受けることなく、そのネジ山に沿って体内の組織に鋭利に食い込み易くなる。
【0014】
すなわち、本発明の棘突起間インプラントによれば、インプラントを体内へ経皮的に捩じ込んで挿入するに際し、従来よりも容易に捩じ込み挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る棘突起間インプラントの斜視図である。
図2図1に示す棘突起間インプラントの側面図である。
図3図2のA−A断面図である。
図4】スクリュー部のネジの構成について説明するための図である。
図5】豚の棘突起間にガイドピンを挿入している途中の状態のX線透視下における写真である(豚の背中を側方から撮影)。
図6】豚の棘突起間に向けて棘突起間インプラントを挿入している途中の状態のX線透視下における写真である(豚の背中を正面から撮影)。
図7】豚の棘突起間への棘突起間インプラントの嵌め込みが完了した状態のX線透視下における写真である(豚の背中を正面から撮影)。
図8】豚の棘突起間への棘突起間インプラントの嵌め込みが完了した状態のX線透視下における写真である(豚の背中を側方から撮影)。
図9】棘突起間インプラントを棘突起間に嵌め込んでから3ヶ月経った後の豚のCT画像である。
図10】本発明の他の実施形態に係る棘突起間インプラントの側面図である。
図11図10のB−B断面図である。
図12図10、11に示す棘突起間インプラントの一実施例であるインプラントに、水分を含んだ状態の砕かれた骨(人口骨)が充填された状態の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0017】
(棘突起間インプラントの構成)
図1〜4に基づき、本発明の一実施形態に係る棘突起間インプラント100の構成について説明する。棘突起間インプラント100は、棘突起間に嵌め込まれるインプラントであって、全体の概形は、紡錘形である。この棘突起間インプラント100は、インプラント本体6と、インプラント本体6の先端部に取り付けられたフロントインサート7(金属部材)と、インプラント本体6の後端部に取り付けられたリアインサート8(金属部材)と、を主要な構成部品とする。本実施形態のインプラント本体6は、PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)で形成されている。PEEK樹脂以外のインプラント本体6の材料としては、チタン、チタン合金、ステンレスのような金属材料や、セラミックが挙げられる。また、PEEK樹脂以外の樹脂(医療用プラスチック)が、インプラント本体6の材料として用いられてもよい。PEEK樹脂以外の適用し得る樹脂としては、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂などがある。また、本実施形態のフロントインサート7およびリアインサート8は、チタン合金で形成されている。チタン合金以外のフロントインサート7およびリアインサート8の材料としては、タンタル、ステンレスのような金属材料や、セラミックが挙げられる。
【0018】
棘突起間インプラント100の全長は、これに限定されるものではないが、例えば、30mm〜40mmである。
【0019】
ここで、フロントインサート7およびリアインサート8がインプラント本体6に取り付けられてなる棘突起間インプラント100の各部は、ネジ形状の外周面を有する略円錐状(円錐状)のスクリュー部1と、スクリュー部1と同軸の頭部2と、スクリュー部1と頭部2との間に形成されたスペーサー部3と、に大別される。
【0020】
<スクリュー部>
図2などに示すように、スクリュー部1は、全体として、テーパー状のネジとなっており、先端側から順に、第1スクリュー部4および第2スクリュー部5を有する。ここで、第1スクリュー部4は、ネジ山の頂点を繋いでなる仮想面S1が、外側に凹んだ先細りの円錐状とされている。これに対して、第2スクリュー部5は、ネジ山の頂点を繋いでなる仮想面S2が、外側に膨らんだ円錐台状とされている。なお、図2においては、図の見易さを考慮して、仮想面S1、S2を示す曲線は、スクリュー部1から少し離して示されている。符号Pは、変曲点を示す。スクリュー部1の軸方向長さをLとすると、変曲点Pは、スクリュー部1の先端から約0.3Lの位置にあるが、変曲点Pの位置はここに限られることはない。
【0021】
図2、4を参照しつつ、スクリュー部1のネジの詳細な構成について説明する。図4において、符号30を付して示すのは、ネジ溝13(図2参照)が形成される前のインプラント本体6の素材である。本実施形態のスクリュー部1のネジ溝13は、2種の異なるサイズのボールエンドミルを用いて形成される。一つは、先端の球部31の径がφ6のボールエンドミルであり、もう一つは、先端の球部32の径がφ2のボールエンドミルである。φ6ボールエンドミルの球部31の切削軌跡33、およびφ2ボールエンドミルの球部32の切削軌跡34を図4中に示している。φ6ボールエンドミルによるネジ溝加工は、スペーサー部3に設けられた後述する嵌合凹部14から素材30の先端側へ向けて螺旋状になされる。φ2ボールエンドミルによるネジ溝加工は、嵌合凹部14と素材30の先端との間の中途部から、素材30の先端側へ向けて螺旋状になされる。なお、φ2ボールエンドミルによるネジ溝加工に先行して、φ6ボールエンドミルによるネジ溝加工が行われる。すなわち、φ6ボールエンドミルによるネジ溝加工の後に、φ2ボールエンドミルによるネジ溝加工が行われる。
【0022】
ここで、φ6ボールエンドミルおよびφ2ボールエンドミルによる上記したネジ溝加工は、それぞれ、素材30の周方向において、180度位相が異なる2点からなされる。すなわち、スクリュー部1(第1スクリュー部4および第2スクリュー部5)は、2条ネジとされている。
【0023】
φ6ボールエンドミルによるネジ溝加工により、第2スクリュー部5のスペーサー部3に隣接するネジ溝13の底面はR3(半径3mm、以下同じ。)の曲面となり、ネジ溝13は、当該ネジ溝13内を棘突起の外縁部(棘突起の一部)が通過できる寸法となる。また、第2スクリュー部5のスペーサー部3側のネジ山の頂部は、インプラント軸方向に尖鋭とされていない曲面である。なお、第2スクリュー部5のスペーサー部3に隣接するネジ溝13の底面の半径は、第1スクリュー部4のネジ溝13の底面の半径の、例えば、2倍以上、4倍以下とされる。棘突起の外縁部(棘突起の一部)が、溝内に入るように、第2スクリュー部5のスペーサー部3に隣接するネジ溝13の底面の半径は、R3以上とされることが好ましい。
【0024】
φ2ボールエンドミルによるネジ溝加工により、第2スクリュー部5の中途部からは、ネジ溝13の底面はR1(半径1mm、以下同じ。)の曲面となり、ネジ溝13の幅が狭くなる。また、第1スクリュー部4のネジ山の頂点は、図3に示すように、尖鋭とされる。なお、第1スクリュー部4(第2スクリュー部5のうちのR1のネジ溝も含む)のネジ溝13の底面の半径は、R1に限定されるものではない。
【0025】
ここで、スクリュー部1のネジピッチは、先端側から嵌合凹部14(スペーサー部3)へ向けて、半回転毎に1.8mm、1.4mm、2.1mm、2.3mmとされている。このように、スクリュー部1のネジピッチは、先端側からスペーサー部3へ向けて、第1スクリュー部4ではピッチが小さくなっていき、その後の第2スクリュー部5ではピッチが大きくなっていく可変ピッチとされている。
【0026】
まず、第2スクリュー部5のネジピッチを、先端側からスペーサー部3へ向けて、ピッチが大きくなっていく可変ピッチとすることで、スクリュー部1先端側のネジ山の頂点を繋いでなる仮想面S1を、外側に凹んだ先細りの円錐状とし、且つ、スクリュー部1のスペーサー部3側のネジ山の頂点を繋いでなる仮想面S2を、外側に膨らんだ円錐台状とする場合に、第2スクリュー部5のネジ溝13と、スペーサー部3に設けられた後述する嵌合凹部14とを大きな段差なく(滑らかに)接続することができる。その結果、棘突起の外縁部に、スペーサー部3の嵌合凹部14を誘導し易くなる。
【0027】
また、第2スクリュー部5のネジピッチを、先端側からスペーサー部3へ向けて、大きくしていくことに加えて、第1スクリュー部4では、先端側からスペーサー部3へ向けて、ネジピッチを逆に小さくしていくことで、仮想面S1を、外側に凹んだ先細りの円錐状とし、且つ、仮想面S2を、外側に膨らんだ円錐台状とする場合に、第1スクリュー部4のネジ溝13と第2スクリュー部5のネジ溝13とを大きな段差なく(滑らかに)接続し易くなる。第1,2スクリュー部のネジ溝13同士が大きな段差なく(滑らかに)接続されていると、棘突起の外縁部に、第2スクリュー部5のネジ溝13を誘導し易くなる。
【0028】
なお、ネジピッチの数値は、上記したものに限定されることはない。また、可変ピッチに関し、第1スクリュー部4では、例えばネジピッチが一定で、第2スクリュー部5において、そのネジピッチが、先端側からスペーサー部3へ向けて、ピッチが大きくなっていく可変ピッチとされていてもよい。このような可変ピッチによっても、スクリュー部1先端側のネジ山の頂点を繋いでなる仮想面S1を、外側に凹んだ先細りの円錐状とし、且つ、スクリュー部1のスペーサー部3側のネジ山の頂点を繋いでなる仮想面S2を、外側に膨らんだ円錐台状とする場合に、第1スクリュー部4のネジ溝13と第2スクリュー部5のネジ溝13とを大きな段差なく(滑らかに)接続することができる。
【0029】
ここで、本実施形態では、第1スクリュー部4のネジ溝13と第2スクリュー部5のネジ溝13とが滑らかに接続されている。また、第2スクリュー部5のネジ溝13と、スペーサー部3に設けられた後述する嵌合凹部14も滑らかに接続されている。第1スクリュー部4のネジ溝13と第2スクリュー部5のネジ溝13とが滑らかに接続されていることで、棘突起の外縁部に、第2スクリュー部5のネジ溝13を誘導し易くなる。また、第2スクリュー部5のネジ溝13と、スペーサー部3に設けられた後述する嵌合凹部14とが滑らかに接続されていることで、棘突起の外縁部に、スペーサー部3の嵌合凹部14を誘導し易くなる。なお、「滑らかな接続」とは、数学的には、曲面上の点(X0、Y0、Z0)の接平面が、方向によらず一意に定まる面のことをいう。「接平面が、方向によらず一意に定まる」とは、曲面上の点を(X0、Y0、Z)として、Z座標をZ→Z0として求めた接平面も、曲面上の点を(X0、Y、Z0)として、Y座標をY→Y0として求めた接平面も、曲面上の点を(X、Y0、Z0)として、X座標をX→X0として求めた接平面も、一意に定まることをいう。なお、本発明にいう「滑らかに接続」とは、上記のような厳密な意味に限定されるものではない。接平面が、完全に一意に定まる必要はなく、接平面の方程式の係数に6%程度の誤差(好ましくは3%程度の誤差)があってもよい。
【0030】
また、図3に示したように、第2スクリュー部5のネジ溝の底点を繋いでなる仮想面Tは、略円錐台状(外側に膨らんだ円錐台状)とされている。これにより、第2スクリュー部5のネジ山の底面等で棘突起間を徐々に広げつつ、棘突起間にインプラントを捩じ込み挿入していくことができる。
【0031】
一方、インプラント本体6の軸心には、その先端側から順に、フロントインサート7が埋設される孔6a、孔6aよりも大径の孔6bが設けられている。フロントインサート7は、第1スクリュー部4の先端部に取り付けられる金属部材であって、筒形状とされている。フロントインサート7の外径は、例えば、約2.5mmである。フロントインサート7の先端7aは、各種の加工により尖らされている。
【0032】
<スペーサー部>
スペーサー部3は、棘突起間に嵌り込む部分である。図2に示すように、スペーサー部3は、側面視でU字形状の対向する2つの嵌合凹部14(軸方向まわりで180度の位相差の2つの嵌合凹部14)を有している。この嵌合凹部14に棘突起が嵌り込む。嵌合凹部14は、側面視にてR6の曲面とされている。また、図2において、嵌合凹部14の表面部分に曲線の矢印を記載して示すように、インプラントの軸方向に対して直交する断面視では、嵌合凹部14は、両側が中央部よりも低い形状(いわゆる馬具の鞍に類似する形状)の曲面とされている。このように、側面視U字形状の嵌合凹部14を、インプラントの軸方向に対して直交する断面視で、両側が中央部よりも低い形状の曲面(前記した鞍に類似する形状)とすることで、第2スクリュー部5のスペーサー部3に隣接するネジ溝13と、スペーサー部3の嵌合凹部14とを大きな段差なく(滑らかに)接続し易い。なお、側面視における嵌合凹部14の底面の半径は、R6に限定されるものではない。
【0033】
2つの嵌合凹部14が対向して設けられていると、棘突起をスペーサー部3に嵌め込みやすい。また、嵌合凹部14が側面視でU字形状とされていることで、棘突起間インプラント100と接触する棘突起にストレスが過度に加わることが防止される。
【0034】
ここで、第2スクリュー部5のネジ溝13は、嵌合凹部14に繋がる部分13a(図2参照)の溝の深さが、その手前(スクリュー先端側手前)部分の溝の深さよりも浅くされていることが好ましい。このようにすると、棘突起の通過時の負荷は若干増すが、棘突起が部分13aを乗り越えていく感じとなり、嵌合凹部14に棘突起が嵌り込んだ際に、インプラントの逆回転を防止することができる。
【0035】
また、インプラントの軸方向における嵌合凹部14の両側には、X線透視で識別可能な識別部材としてのX線マーカピン9が埋設されている。本実施形態のX線マーカピン9は、チタンで形成されている。チタン以外のX線マーカピン9の材料としては、プラチナ、金、コバルト、ニッケル、クロム、タンタル、ステンレス、およびこれらの合金が挙げられる。チタンを含め、これらの金属は、X線を減衰させる金属であるため、X線マーカピン9は、X線透視で識別可能である。
【0036】
X線マーカピン9は、その長手方向がインプラントの軸中心に向くように、インプラント本体6の側部に埋設されている。対向する2つの嵌合凹部14のそれぞれの両側に1本ずつ、計4本のX線マーカピン9が、インプラント本体6に埋設されている。
【0037】
<頭部>
頭部2は、棘突起間インプラント100を体内に捩じ込み挿入する際などに、捩じ込みトルクが付与される部分である。この頭部2には、リアインサート8が埋設される。リアインサート8とインプラント本体6とは、ピン11で固定される。図3に示すように、リアインサート8の軸心には、先端側から順に、雌ネジが形成された円形の孔8a、および六角形の孔8bが設けられている。六角形の孔8bは、ドライバーなどの工具が挿入される孔であり、リアインサート8が金属製であることで、ドライバーなどの工具を用いて、インプラントに捩じ込みトルクを確実に伝達することができる。ここで、スクリュー部1が右ネジの場合、孔8aに形成された雌ネジは左ネジとされ、スクリュー部1が左ネジの場合、孔8aに形成された雌ネジは右ネジとされる。本実施形態では、スクリュー部1は右ネジであるので、孔8aに形成された雌ネジは左ネジである。スクリュー部1のネジと、孔8aに形成された雌ネジとが、逆方向に捩れるネジとされるのは、棘突起間インプラント100を、体内から抜去する際、体内に挿入する方向とは逆方向にネジを回転させれば、容易に抜去できるためである。
【0038】
また、棘突起間インプラント100には、その軸心を貫通する貫通孔10が設けられている。貫通孔10は、フロントインサート7の孔7b、インプラント本体6の孔6b、および、リアインサート8の孔8a・8bで構成される。この貫通孔10は、ガイドワイヤに通される孔である。軸心を貫通する貫通孔10が設けられていることで、棘突起間に向けて、ガイドワイヤを利用して、棘突起間インプラント100を挿入することができる。
【0039】
ここで、インプラント抜去時にもガイドワイヤが利用される。インプラント本体6の孔6bの先端部は、孔6bが先細りとなるように、円錐状の傾斜面6bfとされている。なお、傾斜面6bfの軸方向に対する傾斜角度αは、45度以下であることが好ましい。傾斜角度αを45度以下にすることで、棘突起間に留置されたインプラント抜去時に、ガイドワイヤをインプラントの貫通孔10に挿入し易くなる。傾斜角度αの下限の角度は、例えば、10度である。
【0040】
また、棘突起間に留置された棘突起間インプラント100の孔8aなどの空洞部には、瘢痕組織が介入することがある。ここで、本実施形態の孔8aの後端部は、先細りの円錐状の傾斜面8arとされている。このようにすることで、インプラント抜去時に、ドライバーの先端部を孔8aに螺合させ易くなるとともに、ガイドワイヤをインプラントに挿入し易くもなる。
【0041】
また、図1〜3に示すように、インプラント本体6の側面には、軸方向に延びるスリット12が、2箇所に設けられている。スリット12は、軸方向まわりで180度の位相差で2本設けられている。さらに詳細には、スペーサー部3の嵌合凹部14を避けて、嵌合凹部14に対して軸方向まわりで90度の位相差で2本設けられている。
【0042】
図1,2に示すように、スリット12は、第2スクリュー部5の中途部から頭部2の中途部まで延ばされており、その両端は、応力集中を避けるため丸くされている。また、図3からわかるように、スリット12は、軸心を貫通する貫通孔10を構成するインプラント本体6の孔6bに連通されている。
【0043】
スリット12により、棘突起間インプラント100に弾力性が付与されるので、棘突起間インプラント100と接触する棘突起にストレスが過度に加わることが防止される。
【0044】
(棘突起間インプラントの使用方法)
棘突起間インプラント100の使用方法について説明する。棘突起間インプラント100は、腰部脊柱管狭窄症に対して低侵襲治療を行うことを主目的に開発されたものである。局所麻酔下で、小さな皮膚切開を介して棘突起間に棘突起間インプラント100を嵌め込むことで、脊柱管狭窄部位が広がり症状の改善が見込まれる。
【0045】
ここで、図5図8に示す写真は、豚で試験を行ったときの様子をX線透視動画撮影し、その動画から抜粋したものである。以下の説明では、図5図8を適宜参照しつつ、人体の棘突起間への棘突起間インプラント100の挿入(嵌め込み)方法について説明する。
【0046】
術者は、まず、人体の背中の皮膚を例えば20〜25mm切開し、X線モニターによる透視下で、切開した部位から棘突起60間へ向けて、ガイドワイヤ50を挿入する(図5参照)。ここで、ガイドワイヤ50は、その先端が椎間関節を超えるまで挿入される。
【0047】
次に、棘突起間インプラント100の貫通孔10を利用して、棘突起間インプラント100をガイドワイヤ50に通し、棘突起間インプラント100をスクリュー部1側から体内に挿入していく。
【0048】
前記したように、皮膚の直下には、強靭なコラーゲン線維からなる筋膜がある。術者は、インプラント後端部のリアインサート8の六角形の孔8bに、ドライバー51を差し込み、当該ドライバー51に回旋力を加えながら、第1スクリュー部4の先端を体内に捩じ込んでいく。ここで、第1スクリュー部4のネジ山の頂点を繋いでなる仮想面S1が、外側に凹んだ先細りの円錐状となっているので、先端から手前(後方)へ向けて、第1スクリュー部4のネジの径は緩やかに増大する。そのため、スクリュー部1の先端部は、大きな抵抗を受けることなく、そのネジ山に沿って体内の組織に鋭利に食い込み易い。実際、豚での試験では、筋膜を切開しなくても支障がなかった。
【0049】
なお、第1スクリュー部4は、1条ネジではなく2条ネジとされているので、1条ネジの場合よりも、体内の組織への食い込みのきっかけが倍となっている。これにより、棘突起間インプラント100は、体内の組織への食い込み性がより高められている。また、第1スクリュー部4の先端部に、先端が尖らされたフロントインサート7が埋設されていること、および、第1スクリュー部4のネジ山の頂点が、図3に示すように、尖鋭とされていることによっても、棘突起間インプラント100は、体内の組織への食い込み性がより高められている。
【0050】
ドライバー51に回旋力を加えながら、棘突起間インプラント100をガイドワイヤ50に沿って体内に捩じ込んでいくと、スペーサー部3の2つの嵌合凹部14の両側に埋設されたX線マーカピン9が回転するのが、X線モニターで観察される(図6参照)。そのため、術者は、棘突起間インプラント100の位置および姿勢を明確に把握することができる。X線マーカピン9は、その長手方向がインプラントの回転軸中心に向くように、インプラント本体6の側部に埋設されているため、回転するのがよくわかる。
【0051】
棘突起間インプラント100を先進させていくと、インプラントの先端部は棘間靱帯に到達する。従来のインプラントを用いた手技では、インプラントの通り道としての孔を、工具を用いて、予め、棘間靱帯にあけていた。一方、本実施形態の棘突起間インプラント100によれば、スクリュー部1の先端部分の食い込み性が大きく改善しているため、インプラントの通り道としての孔を、工具を用いて、棘間靱帯に、予めあけておかなくても、インプラントを棘突起間に捩じ込んでいくことができる。
【0052】
インプラントが棘突起間に捩じ込まれていくと、第1スクリュー部4のネジ溝13と第2スクリュー部5のネジ溝13とが滑らかに接続されていることで、第1スクリュー部4から第2スクリュー部5のネジ溝13へ棘突起60の外縁部(一部)をスムーズに移行させることができる。
【0053】
スクリュー部1の後半部分が棘突起60間付近に到達すると、第2スクリュー部5のスペーサー部3に隣接するネジ溝13が、当該ネジ溝13内を棘突起60の外縁部(一部)が通過できる寸法で形成されているため、棘突起60の外縁部が、ネジ溝13に嵌り込みつつ、インプラントが棘突起60間に捩じ込まれていく。これにより、棘突起60間が過剰に押し広げられることが防止される。また、ネジ溝13で棘突起60を挟むような態様での捩じ込みになるので、ネジ溝13の内壁面で棘突起60が支持される。これらにより、棘突起60の破損が防止される。なお、第2スクリュー部5では、スペーサー部3へ向けてネジ山の径の増加はなだらかであるため、万が一、ネジ溝13から棘突起60が外れようとしても、棘突起60の損傷は抑制される。
【0054】
また、第2スクリュー部5が2条ネジとされているため、軸方向まわりで180度の位相差の位置に相互に対応するネジ溝13が存在する。そのため、棘突起60間への捩じ込みに際し、棘突起60に対してインプラントの2条のネジ溝がガイドとなるため、挿入軸方向から大きく斜めに傾くことはない(棘突起60に対して垂直に近い角度でインプラントを捩じ込んでいくことができる)。
【0055】
スクリュー部1の第2スクリュー部5が、棘突起60間を超えると、スペーサー部3の嵌合凹部14に棘突起60が嵌り込む。なお、インプラントをさらに奥に押し込もうとすると、ネジ溝13のないインプラント頭部2に棘突起60が当たることにより、術者の指に感じる抵抗が大きくなる。術者は、この感じる抵抗と、X線マーカピン9の目視により、スペーサー部3の嵌合凹部14に棘突起60が嵌り込んだことを確認できる。その後、術者は、ドライバー51を操作して、隣り合う棘突起60同士を結ぶ方向と、スペーサー部3の対向する嵌合凹部14同士を結ぶ方向とが一致するよう、且つ、棘突起60に対してインプラントがほぼ垂直となるよう、棘突起間インプラント100の姿勢をX線マーカピン9で確認しつつ微調整する。微調整の完了により、棘突起間インプラント100の嵌め込みが完了する(図7,8参照)。なお、ガイドワイヤ50は、棘突起60間にインプラントがある程度挿入された段階で、体内から抜き取られる。
【0056】
ここで、本実施形態の棘突起間インプラント100、1個を豚の棘突起60間に嵌め込む手術に要した時間を複数例、表1に示す。表1からわかるように、施術に要した時間は、最長で16分、最短で6分、平均で約10分であった。このように、術者は、極めて短い時間で、豚の棘突起60間にインプラントを嵌め込むことができた。すなわち、本実施形態の棘突起間インプラント100によれば、インプラントを体内へ経皮的に捩じ込んで挿入するに際し、当該インプラントを体内へ従来よりも容易に捩じ込み挿入することができる。
【0057】
【表1】
【0058】
図9は、棘突起間インプラント100を棘突起60間に嵌め込んでから3ヶ月経った後の豚のCT画像である。図9(a)は、豚の背中を正面から見たCTスキャン画像であり、図9(b)は、豚の背中を側方から見たCTスキャン画像である。なお、豚を用いた試験において、2個の棘突起間インプラント100を、それぞれ、異なる棘突起60間に嵌め込んだ。
【0059】
図9からわかるように、嵌め込み後3ヶ月経過した段階において、棘突起間インプラント100は、棘突起60間から抜け落ちることなく、術直後と同じ位置および姿勢で、棘突起60間にしっかりと嵌り込んだ状態を維持していた。
【0060】
<棘突起間インプラントの抜去>
棘突起間インプラント100は、体内から容易に抜去できるようにも工夫されている。棘突起間インプラント100を抜去する場合は、インプラント後端部のリアインサート8の雌ネジ(左ネジ)が形成された孔8aに、先端部のみに雄ネジ(左ネジ)が形成された棒状部材(不図示、ドライバー)を螺合させる。この状態で、棒状部材を左回転させながら、棘突起間インプラント100を体内から引き抜く。棘突起間インプラント100は、体内への挿入時とは逆方向に回転しながら、体内から引き抜かれていく。スクリュー部1は右ネジであるので、棘突起間インプラント100は、スムーズに体内から引き抜かれていく。なお、スペーサー部3に隣接するネジ溝13内を棘突起60の外縁部が通過するので、スクリュー部1のネジ山の頂部で、棘突起間が過剰に広げられることは防止される。すなわち、インプラント抜去時にも、棘突起60の破損が防止される。
【0061】
(棘突起間インプラントを椎骨間固定に用いる場合)
棘突起間インプラントを椎骨間固定に用いる場合の実施形態について、図10、11を参照しつつ説明する。
【0062】
前記棘突起間インプラント100は、腰部脊柱管狭窄症に対して低侵襲治療を行うことを主目的に開発されたものである。局所麻酔下で、小さな皮膚切開を介して棘突起間に棘突起間インプラント100を嵌め込むことで、脊柱管狭窄部位が広がり症状の改善が見込まれる。これに対して、図10、11に示す棘突起間インプラント101は、隣接する棘突起から椎弓根へかけて骨癒合を誘導して、椎骨間固定を低侵襲に行うことを主目的に開発されたものである。
【0063】
なお、図10、11において、インプラントのスクリュー部1(第1スクリュー部4、および第2スクリュー部5)のネジ形状(ネジ山、ネジ溝)の図示は、省略している。また、図10、11において、図1〜3に示した棘突起間インプラント100の各部構成と、同様の構成については、同一の符号を付している。
【0064】
また、前記した棘突起間インプラント100の各部構成・各部材料、および前記したその各部の様々な変形例を、以下に説明する棘突起間インプラント101にも適用することは、当然可能である。
【0065】
以下、棘突起間インプラント101に関し、棘突起間インプラント100との違いについて、主に説明する。
【0066】
(棘突起間インプラントの構成)
前記棘突起間インプラント100と同様に、棘突起間インプラント101においても、軸方向に延びるとともに貫通孔10(6b)に連通するスリット15が、頭部2からスペーサー部3を経てスクリュー部1までインプラントの側面に設けられている。
【0067】
このスリット15は、砕かれた骨を収容するためのスリットであり、前記棘突起間インプラント100の側面に設けられたスリット12よりも幅が広くされる。なお、「砕かれた骨」は、移植骨(患者の骨)、人口骨などである。
【0068】
また、図11に示すように、本実施形態では、スペーサー部3の、軸方向に直交する断面の外形が略三角形とされている。なお、略三角形だけではなく、略四角形、略五角形など、略多角形とされてもよい。略多角形とは、角が尖った多角形ではなく、角が丸みを帯びた(R加工された)多角形であって、各辺が、直線、または曲線とされた多角形のことをいう。なお、各辺が曲線とされる場合、外方に凹んだ曲線よりも、外方に膨らんだ曲線とされることが好ましい。
【0069】
スリット15は、この略三角形のスペーサー部3の各辺に設けられ、すなわち、軸方向まわりに複数本、設けられ、その各幅Wは、本実施形態では同一とされている。なお、各幅Wは、同一である必要は必ずしもない。本実施形態では、スリット15は、軸方向まわりに等間隔で、3本、設けられている。略三角形のスペーサー部3の場合、スリット15は、軸方向まわりに等間隔で、2本、または3本設けられることが好ましい。
【0070】
ここで、十分な量の砕かれた骨をスリット15内および貫通孔10(6b)内に収容しておくために、スリット15の幅Wは、2mm以上、または4mm以上とされることが好ましい。また、スペーサー部3のある程度の強度を確保するために、上記幅Wは、10mm以下、または8mm以下とされることが好ましい。
【0071】
また、スリット15の長さは、棘突起間インプラント101の全長の1/3以上の長さとされることが好ましい。これによると、後述する、骨癒合のための母床に対して、棘突起の幅方向において、不足なく砕かれた骨を配置することができる。
【0072】
また、スリット15内および貫通孔10(6b)内に、砕かれた骨をそのまま収容してもよいが、スリット15からの砕かれた骨の落下をより防止するなどのために、水分を含んだ状態の砕かれた骨を、スリット15内および貫通孔10(6b)内に収容しておくことが好ましい。
【0073】
ここで、図12は、図10、11に示す棘突起間インプラント101の一実施例である棘突起間インプラント102に、水分を含んだ状態の人口骨70が充填された状態の写真である。砕かれた骨に水分が付与されると、砕かれた骨は、いわゆる砂だんご状になる。そのため、図12に示すように、スリット15から外方へ一部が溢れる態様で、人口骨70(砕かれた骨)をスリット15に収容することができる。スリット15から外方へ一部が溢れる態様で、人口骨70(砕かれた骨)をスリット15に収容させておくと、棘突起間インプラント102を棘突起間に留置した際、後述する母床(皮質骨が削り取られた海綿骨部分)に、人口骨70(砕かれた骨)をより確実に接触させることができ、その結果、骨癒合をより促進させることができる。
【0074】
(棘突起間インプラントの使用方法)
棘突起間インプラント101の使用方法について説明する。本実施形態の棘突起間インプラント101の使用方法と、前記棘突起間インプラント100の使用方法とは、類似するため、本実施形態の棘突起間インプラント101における特有の使用方法について、主に説明することとする。
【0075】
棘突起間インプラント101は、隣接する棘突起から椎弓根へかけて骨癒合を誘導して、椎骨間固定を低侵襲に行うことに好適な棘突起間インプラントである。
【0076】
術者は、まず、砕かれた骨が充填された棘突起間インプラント101を棘突起間に留置するために、その準備を次のように行う。術者は、人体の背中の皮膚を例えば20〜25mm切開などした後、工具を用いて、棘突起間に下穴を作成する。次いで、その下穴部分において、棘突起から椎弓根へかけて、棘突起および椎弓の皮質骨を削り取り、海綿骨を出して母床を作成する。
【0077】
その後、術者は、砕かれた骨が充填された棘突起間インプラント101を、前記棘突起間インプラント100の使用方法と同様の方法で、棘突起間の上記母床部位に嵌め込んで留置する。なお、砕かれた骨は、そのままの状態で、または水分を含んだ状態で、棘突起間インプラント101のスリット15および貫通孔10(6b)に予め充填される。水分を含んだ状態の砕かれた骨を用いる場合、砕かれた骨への水分の付与は、患者の血液、生理食塩水などが用いられる。
【0078】
棘突起間インプラント101を棘突起間に留置すると、棘突起間インプラント101のスリット15に充填されている砕かれた骨により、やがて、隣接する棘突起から椎弓根へかけて骨癒合する。なお、略三角形のスペーサー部3の各辺のうちのいずれかの辺は、上記母床に対向するので、スペーサー部3の各辺にスリット15が設けられ、このスリット15に、砕かれた骨が充填されていると、砕かれた骨と母床との接触がより確実なものとなり、骨癒合の進行がより促進される。
【0079】
本実施形態の棘突起間インプラント101によると、隣接する棘突起から椎弓根へかけて骨癒合を誘導して、椎骨間固定を低侵襲に行うことができ、且つ、この骨癒合により、スクリューを椎骨に打ってそれを連結する従来の椎骨間固定に比べて、椎骨間固定の長期的な安定化を得ることができる。
【0080】
人口骨70が水分を含んだ状態で充填された図12に示す棘突起間インプラント102、1個を豚の棘突起間に嵌め込む手術に要した時間を複数例、表2に示す。表2からわかるように、施術に要した時間は、最長で12分、最短で4分、平均で7分であった。このように、術者は、極めて短い時間で、豚の棘突起間にインプラントを嵌め込むことができた。すなわち、本実施形態の棘突起間インプラント101によれば、インプラントを体内へ経皮的に捩じ込んで挿入するに際し、砕かれた骨がインプラントに充填された状態であっても、当該インプラントを体内へ容易に捩じ込み挿入することができる。
【0081】
【表2】
【0082】
(変形例)
インプラント本体6を、チタン合金などの金属材料やセラミックで形成する場合、フロントインサート7およびリアインサート8を、インプラント本体6と別部品にせず、インプラント本体6、フロントインサート7、およびリアインサート8を、チタン合金などの金属材料で一体的に形成してもよい。
【0083】
また、インプラント本体6を前記した実施形態のように、PEEK樹脂で形成する場合に、フロントインサート7およびリアインサート8のうちの少なくともいずれか一方を、インプラント本体6と一体的にPEEK樹脂から形成してもよい。
【0084】
棘突起間に嵌り込む部分であるスペーサー部3の、インプラント軸方向に対して直交する断面の外形は、特許文献2(特許第5272279号公報)に記載の棘突起間インプラントのスペーサー部のように、円形、楕円形などであってもよい。
【0085】
以上、本発明の実施形態およびその変形について説明した。なお、その他に、当業者が想定できる範囲で種々の変更を行うことは可能である。
【符号の説明】
【0086】
1:スクリュー部
2:頭部
3:スペーサー部
4:第1スクリュー部
5:第2スクリュー部
7:フロントインサート(金属部材)
8a:孔(頭部の軸心に設けられた貫通孔)
9:X線マーカピン(識別部材)
10:貫通孔
12、15:スリット
13:ネジ溝
14:嵌合凹部
S1、S2:仮想面
T:仮想面
100、101:棘突起間インプラント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12