特許第6963953号(P6963953)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6963953コンクリート組成物、コンクリート混練物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6963953
(24)【登録日】2021年10月20日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】コンクリート組成物、コンクリート混練物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20211028BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20211028BHJP
   C04B 111/34 20060101ALN20211028BHJP
【FI】
   C04B28/08
   C04B22/14 D
   C04B111:34
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-184985(P2017-184985)
(22)【出願日】2017年9月26日
(65)【公開番号】特開2019-59640(P2019-59640A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2020年7月22日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [発行者名] 一般社団法人 日本建築学会 [刊行物名] 2017年度 日本建築学会大会(中国) 学術講演梗概集 第347〜350頁 [発行年月日] 平成29年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】宮原 健太
(72)【発明者】
【氏名】小田部 裕一
(72)【発明者】
【氏名】石川 伸介
(72)【発明者】
【氏名】安部 弘康
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 好幸
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−070857(JP,A)
【文献】 特開2011−207647(JP,A)
【文献】 特開2006−232625(JP,A)
【文献】 特開2017−193470(JP,A)
【文献】 セメントの違いによる膨張コンクリートの膨張特性の比較,土木学会第63回年次学術講演会,2008年09月,887-888
【文献】 松本健一 他,膨張材によるコンクリートの収縮低減,土木技術資料,53-9,日本,2011年,p36-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉セメントB種からなる結合材と、粗骨材と、細骨材と、膨張材とを材料として用いて構成されるコンクリート組成物であって、
前記粗骨材の熱膨張係数Egは、10×10−6/℃以下であり、
前記コンクリート組成物を構成する材料のうち前記粗骨材以外の材料から構成されるモルタル成分の熱膨張係数Emは、12×10−6/℃を超え15×10−6/℃以下であり、
前記モルタル成分の熱膨張係数Emと前記粗骨材の熱膨張係数Egとの差(Em−Eg)は、5.3×10−6/℃以上11.7×10−6/℃以下であるコンクリート組成物。
【請求項2】
前記コンクリート組成物と水とが混練されて形成されるコンクリート混練物が硬化することで形成されるコンクリート硬化体の膨張量は、0を超え140×10−6以下である請求項1に記載のコンクリート組成物。
【請求項3】
高炉セメントB種からなる結合材と、粗骨材と、細骨材と、膨張材と、水とが混練されて形成されたコンクリート混練物であって、
前記粗骨材の熱膨張係数Egは、10×10−6/℃以下であり、
前記コンクリート混練物を構成する材料のうち前記粗骨材および水以外の材料から構成されるモルタル成分の熱膨張係数Emは、12×10−6/℃を超え15×10−6/℃以下であり、
前記モルタル成分の熱膨張係数Emと前記粗骨材の熱膨張係数Egとの差(Em−Eg)は、5.3×10−6/℃以上11.7×10−6/℃以下であり、
水結合材比は、40%以下であるコンクリート混練物。
【請求項4】
前記コンクリート混練物が硬化することで形成されるコンクリート硬化体の膨張量は、0を超え140×10−6以下である請求項3に記載のコンクリート混練物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉セメントと骨材とを含むコンクリート組成物、及び、高炉セメントと骨材と水とが混練されてなるコンクリート混練物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントを含む結合材、及び、骨材を含むコンクリート組成物と、水とが混練されて形成されるコンクリート混練物は、硬化する過程で発熱し、比較的高い温度状態になることが知られている。例えば、水結合材比が比較的小さいコンクリート混練物(所謂、高強度コンクリート)では、結合材の含有量が比較的多くなっているため、発熱によって比較的高い温度状態になる。
【0003】
また、コンクリート混練物は、硬化する過程や硬化した後において、比較的高温の環境下に置かれる(高温履歴を受ける)場合がある。例えば、蒸気養生を行ったり、打設された環境の温度の影響を受けたりすることで、高温履歴を受ける場合がある。
【0004】
上記のように、コンクリート混練物は、発熱や高温履歴の影響によって、長期的な強度発現が阻害されることが知られている。これは、発熱や高温履歴の影響によって、結合材を構成するセメントやそれに類する成分の反応が加速され、その後の反応を阻害するような物質が形成されるためと考えられる。
【0005】
また、上記のような発熱の影響によって、コンクリート混練物が硬化してなるコンクリート硬化体に温度ひび割れが生じることも知られている。斯かる温度ひび割れは、コンクリート混練物の発熱による温度上昇と、コンクリート硬化体が形成された後の温度低下とによって、コンクリート硬化体に体積変化が生じ、コンクリート硬化体内に応力が蓄積されてひび割れが生じるものである。
【0006】
そこで、反応時の発熱が小さいセメントや結合材成分を使用する方法が提案されている。具体的には、高炉セメント等の混合セメントなどを用いる方法が提案されている(非特許文献1〜3参照)。これらのセメン卜を用いることで、コンクリートが硬化する際の発熱が小さくなるため、コンクリート硬化体の長期的な強度発現が阻害されるのを抑制することが可能になると共に、コンクリート硬化体の温度ひび割れも抑制することが可能になる。
【0007】
温度ひび割れを抑制する他の方法としては、熱膨張係数が小さい粗骨材を使用する方法が知られている(特許文献1参照)。このような粗骨材を使用することで、温度の上昇下降時のコンクリート硬化体の体積変化が抑制されるため、コンクリート硬化体内に蓄積される応力が低減され、温度ひび割れが抑制される。このように熱膨張係数が小さい粗骨材としては、石灰石粗骨材が知られている。該石灰石粗骨材は、収縮低減材料としても機能するため、温度ひび割れを助長する収縮ひずみの低減を図ることも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−057251号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】コンクリート工学年次論文報告集 第12巻第1号(pp913−918,1990年)
【非特許文献2】コンクリート工学年次論文集 第23巻第2号(pp.103−108,2001年)
【非特許文献3】コンクリート工学年次論文集 第29巻第2号(pp.181−186,2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、コンクリート硬化体の強度発現を長期的に継続させ、且つ、温度ひび割れを効果的に抑制することを目的として、高炉セメントと熱膨張係数が小さい粗骨材(例えば、石灰石粗骨材)とを併用する場合がある。しかしながら、このような場合、高炉セメントを含むモルタル成分と粗骨材との熱膨張係数に大きな差があるため、コンクリート硬化体の温度変化によるモルタル成分の体積変化と、粗骨材の体積変化とに大きな差が生じることになる。これにより、上記のような発熱や高温履歴によって、モルタル成分と粗骨材とが剥離し、コンクリート硬化体の強度が大きく低下する虞がある。特に、水結合材比が小さいコンクリート混練物から形成されるコンクリート硬化体(所謂、高強度コンクリート)では、このような剥離による強度低下が生じやすくなる。
【0011】
そこで、本発明は、コンクリート混練物の硬化に伴う発熱やコンクリート硬化体が受ける高温履歴がコンクリート硬化体の強度の発現に影響するのを抑制することができるコンクリート組成物、及び、コンクリート混練物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るコンクリート混練物は、高炉セメントを含む結合材と、粗骨材と、細骨材と、膨張材とを材料として用いて構成されるコンクリート組成物であって、前記コンクリート組成物と水とが混練されて形成されるコンクリート混練物が硬化することで形成されるコンクリート硬化体の膨張量が0を超え140×10−6以下である。
【0013】
斯かる構成によれば、高炉セメントを含む結合材と、粗骨材と、細骨材と、膨張材とを材料として用い、コンクリート硬化体の膨張量が0を超え140×10−6以下である。これにより、コンクリート混練物の硬化に伴う発熱やコンクリート硬化体が受ける高温履歴がコンクリート硬化体の強度発現に影響するのを抑制することができる。
【0014】
前記粗骨材の熱膨張係数は、10×10−6/℃以下であってもよい。
【0015】
前記コンクリート組成物を構成する材料のうち粗骨材以外の材料から構成されるモルタル成分の熱膨張係数は、12×10−6/℃を超え15×10−6/℃以下であってもよい。
【0016】
本発明に係るコンクリート混練物は、高炉セメントを含む結合材と、粗骨材と、細骨材と、膨張材と、水とが混練されて形成されたコンクリート混練物であって、水結合材比は、40%以下であり、前記コンクリート混練物が硬化することで形成されるコンクリート硬化体の膨張量が0を超え140×10−6以下である。
【0017】
斯かる構成によれば、高炉セメントを含む結合材と、粗骨材と、細骨材と、膨張材と、水とが混練されて形成され、水結合材比は、40%以下であり、前記コンクリート混練物が硬化することで形成されるコンクリート硬化体の膨張量が0を超え140×10−6以下である。これにより、コンクリート混練物の硬化に伴う発熱やコンクリート硬化体が受ける高温履歴がコンクリート硬化体の強度発現に影響するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、コンクリート混練物の硬化に伴う発熱やコンクリート硬化体が受ける高温履歴がコンクリート硬化体の強度の発現に影響するのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
本発明に係るコンクリート組成物は、高炉セメントを含む結合材と、粗骨材と、細骨材と、膨張材とを材料として用いて構成される。また、コンクリート組成物は、水と混練されてコンクリート混練物を形成するものであり、該コンクリート混練物が硬化することで、コンクリート硬化物を形成するものである。なお、コンクリート組成物は、該コンクリート組成物を構成する各材料が混合された状態で、水と混練されるものであってもよく、該各材料が混合されていない状態で別々に水に添加されて混練されるものであってもよい。
【0021】
前記高炉セメントとしては、JIS R 5211に規定される各種の高炉セメントを用いることができる。また、前記高炉セメントとしては、高炉セメントA種、B種、及び、C種が挙げられる。
【0022】
コンクリート組成物中の高炉セメントの配合量としては、特に限定されるものではなく、例えば、450kg/m以上750kg/m以下であってもよく、400kg/m以上900kg/m以下であってもよい。
【0023】
前記粗骨材は、5mmのふるい目を通過しないものが85質量%以上となるサイズのものを用いることができる。具体的には、粗骨材としては、砕石、玉砂利(川砂利)、天然軽量粗骨材(パーライト、ヒル石等)、副産軽量粗骨材、人工軽量粗骨材、再生骨材等が挙げられる。コンクリート組成物中の粗骨材の配合量としては、特に限定されるものではなく、例えば、750kg/m以上1000kg/m以下であってもよく、700kg/m以上1200kg/m以下であってもよい。
【0024】
また、前記粗骨材としては、熱膨張係数が10×10−6/℃以下であるものが用いることが好ましく、2×10−6/℃以上9×10−6/℃以下であるものを用いることがより好ましい。なお、粗骨材の熱膨張係数は、下記の実施例に記載の方法で測定されるものである。
【0025】
前記細骨材は、10mmのふるい目をすべて通過し、5mmのふるい目を通過するものが85質量%以上となるサイズのものを用いることができる。具体的には、細骨材としては、山砂、川砂、陸砂、及び、海砂等の天然砂や、砂岩,石灰岩等を人工的に破砕して形成された砕砂(より詳しくは、石灰砕砂等)が挙げられる。
【0026】
コンクリート組成物中の細骨材の配合量としては、特に限定されるものではなく、例えば、600kg/m以上800kg/m以下であってもよく、500kg/m以上900kg/m以下であってもよい。
【0027】
なお、上記の粗骨材及び細骨材のサイズは、JIS A 1102に従う骨材のふるい分け試験方法によって測定されるもので、JIS Z 8801−1の試験用ふるい目を表したものである。
【0028】
また、上記のようなコンクリート組成物を構成する材料のうち、粗骨材以外の材料から構成されるモルタル成分は、熱膨張係数が12×10−6/℃以上15×10−6/℃以下であることが好ましく、13.5×10−6/℃以上14.5×10−6/℃以下であることがより好ましい。なお、モルタル成分の熱膨張係数は、下記の実施例に記載の方法で測定されるものである。
【0029】
前記膨張材は、コンクリート硬化体の膨張量が0を超え140×10−6以下となるように、好ましくは、20×10−6以上140×10−6以下となるように配合される(即ち、配合量が調節される)。コンクリート組成物中の膨張材の配合量としては、特に限定されるものではなく、例えば、10kg/m以上20kg/m以下であってもよく、5kg/m以上30kg/m以下であってもよい。また、膨張材としては、特に限定されるものではなく、例えば、石灰−エトリンガイト複合系等を用いることができる。なお、コンクリート硬化体の膨張量は、下記の実施例に記載の方法で測定されるものである。
【0030】
また、前記コンクリート組成物には、混和材が含有されてもよい。混和材としては、例えば、フライアッシュ、シリカフューム、セメントキルンダスト、高炉フューム、高炉水砕スラグ微粉末、高炉除冷スラグ微粉末、転炉スラグ微粉末、半水石膏、膨張材、石灰石微粉末、生石灰微粉末、ドロマイト微粉末、ナトリウム型ベントナイト、カルシウム型ベントナイト、アタパルジャイト、セピオライト、活性白土、酸性白土、アロフェン、イモゴライト、シラス(火山灰)、シラスバルーン、カオリナイト、メタカオリン(焼成粘土)、合成ゼオライト、人造ゼオライト、人工ゼオライト、モルデナイト、クリノプチロライト等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0031】
また、前記コンクリート組成物には、混和剤が含有されてもよい。混和剤としては、例えば、AE剤、AE減水剤、流動化剤、分離低減剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、急結剤、収縮低減剤、起泡剤、発泡剤、防水剤等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上を使用することができる。
【0032】
以上のようなコンクリート組成物は、水と混練されてコンクリート混練物を形成する。該コンクリート混練物は、水結合材比(結合材としてセメントのみを含む場合には、水セメント比)が40%以下となることが好ましく、25%以上30%以下となることがより好ましい。
【0033】
以上のようなコンクリート組成物及びコンクリート混練物によれば、コンクリート混練物の硬化に伴う発熱やコンクリート硬化体が受ける高温履歴がコンクリート硬化体の強度の発現に影響するのを抑制することができる。
【0034】
即ち、コンクリート硬化体の膨張量が0を超え140×10−6以下であることで、コンクリート混練物の硬化に伴う発熱やコンクリート硬化体が受ける高温履歴がコンクリート硬化体の強度発現に影響するのを抑制することができる。
【0035】
なお、本発明に係るコンクリート組成物及びコンクリート混練物は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、更に、各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0036】
例えば、上記実施形態では、コンクリート組成物と水とが混練されてコンクリート混練物が形成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、セメントと粗骨材と細骨材とが別々に水と混練されてコンクリート混練物が形成されてもよい。
【0037】
また、前記コンクリート組成物及びコンクリート混練物は、結合材として、セメント以外の成分を含有するものであってもよい。例えば、高炉スラグ微粉末,フライアッシュ,シリカフューム等が結合材として含有されてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
<使用材料>
・セメント(BB):高炉セメントB種(住友大阪セメント社製)
・セメント(N):普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製)
・セメント(M):中庸熱ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製)
・水(W):上水道水
・細骨材:山砂(静岡県掛川産)
・粗骨材A:川砂利(富山県庄川産)
・粗骨材B:石灰砕石(栃木県葛生産)
・粗骨材C:石灰砕石(高知県鳥形山産)
・化学混和剤:チューポールHP−11W(竹本油脂社製)
・膨張材:スーパーサクス(住友大阪セメント社製)
【0040】
<モルタル成分の熱膨張係数>
上記の各材料を用いて、粗骨材以外の材料から構成されるモルタル成分を下記表1に記載の配合で水と混練し、モルタル混練物を形成した。そして、該モルタル混練物をφ50×100mmの型枠に充填すると共に、該モルタル混練物にモールドゲージ(東京測器社製、PMFL−60)を埋め込み、モルタル混練物を硬化させてモルタル硬化体を得た。
そして、得られたモルタル硬化体(材齢2日)を20℃から60℃へ温度変化させた際の全ひずみと、60℃から20℃へ温度変化させた際の全ひずみとを測定した。そして温度と全ひずみの関係における傾きからモルタル成分の熱膨張係数を求めた。モルタル成分の熱膨張係数は、下記表2に示す。
【0041】
<粗骨材の熱膨張係数>
上記の各粗骨材に平坦な面を形成する平坦処理を行い、各粗骨材の平坦な面にひずみゲージ(東京測器社製、FLA−5T)を貼付した。そして、20℃から60℃へ温度変化させた際の全ひずみと、60℃から20℃へ温度変化させた際の全ひずみとを測定し、温度と全ひずみの関係における傾きから粗骨材の熱膨張係数を求めた。粗骨材の熱膨張係数は、下記表2に示す。
【0042】
<コンクリート硬化体の膨張量>
上記の各材料を用いて下記表2の配合で作製したコンクリート混練物が硬化することで形成されるコンクリート硬化体について、膨張量の測定を行った。該膨張量は、「JIS A 6202(コンクリート用膨張材)附属書2(参考)(膨張コンクリートの拘束膨張及び収縮試験方法)のA法」に基づいて、材齢7日で測定した。膨張量の測定結果は、下記表2に示す。
【0043】
<コンクリート硬化体の強度>
上記の各材料を用いて下記表2の配合で作製したコンクリート混練物を用い、標準養生したコンクリート硬化体と、高温履歴を与えたコンクリート硬化体とを作製した。各コンクリート硬化体のサイズは、φ100×200mmとした。
標準養生したコンクリート硬化体は、20±3℃の水中での養生したものであって、材齢28日のものである。
高温履歴を与えたコンクリート硬化体は、脱型後ただちに封緘状態で昇温速度2℃/hrで温度上昇させ、70℃を24時間保持し、その後、降温速度0.4℃/hrで温度降下させ、20℃到達後は20℃に保持する温度履歴を与えたものである。
そして、各コンクリート硬化体に対して、JIS A 1108の規定に従って圧縮強度の測定を行った。標準養生したコンクリート硬化体の圧縮強度、高温履歴を与えたコンクリート硬化体の圧縮強度、圧縮強度変化率、及び、圧縮強度変化率の評価は、下記表2に示す。なお、圧縮強度変化率は、大きい値の方が、コンクリート硬化体の強度発現に対する高温履歴の影響が大きいことを意味する。圧縮強度変化率の評価は、各実施例の圧縮強度変化率が比較例の圧縮強度変化率に対してどの程度差があるかを示す割合であり、数値が大きい方が差が少ない(即ち、高温履歴の影響を受けにくい)ことを意味する。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
<まとめ>
表2の参考例1と参考例2とを比較すると、圧縮強度変化率に大きな差が生じないことが認められる。また、参考例3と参考例4とを比較すると、圧縮強度変化率に大きな差が生じないことが認められる。つまり、普通ポルトランドセメント(N)や,中庸熱ポルトランドセメント(M)を使用したセメント組成物においては、膨張量を調節することによる効果(コンクリート硬化体の強度発現に対する高温履歴の影響を抑制すること)を得ることができない。
【0047】
また、W/Cが同一であって粗骨材の種類も同一である実施例と比較例とを比較すると、各実施例の方が圧縮強度変化率が小さいことが認められる。つまり、高炉セメントを用いたコンクリート組成物において、膨張量が所定の範囲である(所定の範囲となるように膨張材の配合量を調節する)ことで、コンクリート硬化体の強度発現に対する高温履歴の影響を抑制することができる。
【0048】
また、実施例3〜8と実施例10〜18とを見ると、粗骨材の種類が同一であって膨張材の使用量が同一である場合、W/Cが小さい方が圧縮強度変化率が大きくなることが認められるが、W/Cが小さい方において、膨張量が大きくなるように膨張材の使用量を調節することで、圧縮強度変化率が小さくなることが認められる。つまり、高炉セメントを用いたコンクリート組成物において、膨張量が所定の範囲である(所定の範囲となるように膨張材の配合量を調節する)ことで、コンクリート硬化体の強度発現に対する高温履歴の影響を抑制することができる。
【0049】
また、W/Cが同一の各比較例を見ると、粗骨材の熱膨張係数が小さくなるに従って、圧縮強度変化率が大きくなるが、膨張材を使用して膨張量を増やすことで、粗骨材の熱膨張係数が大きくなっても圧縮強度変化率が大きくなるのが抑制される。つまり、粗骨材の種類に関わらず、膨張量を調節することで、コンクリート硬化体の強度発現に対する高温履歴の影響を抑制することができる。