(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1は、一の実施形態に係る従来のアルカリ水電解槽900を模式的に説明する部分断面図である。ゼロギャップ型電解槽900は、陽極室Aと陰極室Cとを隔てる導電性の隔壁911及びフランジ部912を備える電解エレメント(極室ユニット)910、910、…と、隣接する電解エレメント910、910の間に配置されたイオン透過性の隔膜920と、隔膜920と電解エレメント910のフランジ部912との間に配置され、隔膜920の周縁部を挟み込むガスケット930、930と、一方の極室ユニットの隔壁911から立設された導電性のリブ913、913、…に保持された陽極940と、他方の電解エレメントの隔壁911から立設された導電性のリブ914、914、…に保持された集電体950及び該集電体950に接して配置された導電性の弾性体960に保持された柔軟な陰極970と、を備えている。陰極970の周縁部および導電性の弾性体960の周縁部は、集電体950の周縁部に固定されている。電解槽900においては、導電性の弾性体960が柔軟な陰極970を隔膜920及び陽極940に向けて押し付けることにより、隣接する陰極970及び陽極940の間に隔膜920が挟み込まれている。
【0005】
アルカリ水の電解によって発生したガスは、通常、所定の圧力まで圧縮された状態で商業的に流通される。極室内部の圧力が略常圧である場合、該極室から回収されるガスも略常圧であるので、電解槽から回収されたガスを電解槽の外部で所定の圧力まで圧縮する外部圧縮装置が必要になる。極室内の圧力が常圧よりも高ければ、そのような外部圧縮装置の能力が低くて済むか、又はそのような外部圧縮装置が不要になり、ガスの製造コストを低減できると考えられる。また極室内の圧力を高めれば、極室内で発生したガスが極液中で形成する気泡が小さくなるので、電極間の抵抗が低減され、したがって電流密度が同一でも電解電圧を低減することができ、省エネルギー化が可能になると考えられる。
【0006】
しかしながら、
図1に示す従来の電解槽900において極室内部の圧力を高めると、極室内部の圧力によってガスケット930、930が外周側に向けて押し出されるように変形し、最終的にはガスケット930、930が電解エレメントのフランジ部912、912の間から逸脱するおそれがある。
【0007】
本発明は、極室内部の圧力に対する耐性を高めた電解槽を提供することを課題とする。また、該電解槽を用いたアルカリ水電解方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、次の[1]〜[8]の形態を包含する。
[1] 第1の極室を構成し、外周部に第1のフランジ部を有する、第1の電解エレメントと、
第2の極室を構成し、外周部に第2のフランジ部を有する、第2の電解エレメントと、
前記第1のフランジ部と前記第2のフランジ部との間に挟持された、電気絶縁性を有するガスケットと、
前記第1の極室と前記第2の極室とを隔てる隔膜と
を含み、
前記第1のフランジ部は、前記第2のフランジ部に向かい合い且つ前記ガスケットと接する、第1の端面を有し、
前記第2のフランジ部は、前記第1のフランジ部の前記第1の端面に向かい合い且つ前記ガスケットと接する、第2の端面を有し、
前記ガスケットは、前記第1の端面と前記第2の端面との間に挟持され、
前記第1のフランジ部が、前記ガスケットの外周部に前記ガスケットの外周側から接する、ガスケット押さえ部を備え、
前記ガスケット押さえ部は、前記第1の電解エレメント及び前記第2の電解エレメントの積層方向において、前記第2の電解エレメント側に向けて前記第1の端面よりも突出して延在し、
前記第2のフランジ部は、該第2のフランジ部の外周部において、前記積層方向において前記第1の電解エレメントとは反対側に向けて、前記第2の端面から後退した後退部を有し、
前記後退部は、前記ガスケット押さえ部の少なくとも一部を受け容れることが可能に形成されている、電解槽。
【0009】
[2] 前記第1のフランジ部と前記第2のフランジ部とが接触していない、[1]に記載の電解槽。
【0010】
[3] 前記第1のフランジ部、及び、前記第2のフランジ部が、導電性材料を含み、
前記ガスケット押さえ部と前記第2のフランジ部との間の短絡を防ぐように配置された電気絶縁部材をさらに有する、[1]又は[2]に記載の電解槽。
【0011】
[4] 前記ガスケット押さえ部は、前記電気絶縁部材を介して、前記ガスケットの外周部に前記ガスケットの外周側から接する、[3]に記載の電解槽。
【0012】
[5] 前記第1の電解エレメントと、前記第2の電解エレメントとが、同一の形状を有する、[1]〜[4]のいずれかに記載の電解槽。
【0013】
[6] アルカリ水を電解して水素を製造する方法であって、
(a)[1]〜[5]のいずれかに記載の電解槽を用いてアルカリ水を電解する工程を含み、
前記工程(a)において、前記第1の極室が陽極室であり、前記第2の極室が陰極室であり、前記陰極室の内部の圧力が、大気圧に対して20kPa以上高圧に維持される、アルカリ水電解方法。
【0014】
[7] アルカリ水を電解して水素を製造する方法であって、
(a)[1]〜[5]のいずれかに記載の電解槽を用いてアルカリ水を電解する工程を含み、
前記工程(a)において、前記第1の極室が陰極室であり、前記第2の極室が陽極室であり、前記陰極室の内部の圧力が、大気圧に対して20kPa以上高圧に維持される、アルカリ水電解方法。
【0015】
[8] 前記工程(a)において、前記陽極室の内部の圧力が、大気圧に対して20kPa以上高圧に維持される、[6]又は[7]に記載のアルカリ水電解方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電解槽においては、第1の電解エレメントが備えるガスケット押さえ部が、ガスケットの外周部にガスケットの外周側から接するので、極室内部の圧力に起因するガスケットの変形が抑制される。さらに第2の電解エレメントが後退部を備えるので、第1の電解エレメントと第2の電解エレメントとが電気的に短絡することがない。したがって本発明の電解槽によれば、極室内部の圧力を高めた条件でも、より安全に運転することが可能になる。
【0017】
本発明のアルカリ水電解方法によれば、本発明の電解槽を用いてアルカリ水の電解を行うので、極室内部の圧力を高めた条件でも、より安全に電解を行うことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の上記した作用および利得は、以下に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。なお、図面は必ずしも正確な寸法を反映したものではない。また図では、一部の符号を省略することがある。本明細書においては特に断らない限り、数値A及びBについて「A〜B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。また「又は」及び「若しくは」の語は、特に断りのない限り論理和を意味するものとする。
【0020】
<1.電解槽>
図2は、本発明の一の実施形態に係る電解槽100を模式的に説明する断面図である。電解槽100は、アルカリ水電解用の電解槽である。
図2に示すように、電解槽100は、陽極室A(第1の極室)を構成する第1の電解エレメント10と;陰極室C(第2の極室)を構成する第2の電解エレメント20と;第1の電解エレメント10と第2の電解エレメント20とに挟持された、電気絶縁性を有するガスケット30、30(以下において「ガスケット30」ということがある。)と;ガスケット30に挟持され、陽極室Aと陰極室Cとを区画するイオン透過性の隔膜40と;陽極室A(第1の極室)に配置された陽極(第1の電極)50と;陰極室C(第2の極室)に配置された陰極(第2の電極)60と、を備えている。第1の電解エレメント10は、導電性の背面隔壁11と、背面隔壁11の外周部に設けられた第1のフランジ部12とを有する。第2の電解エレメント20も、導電性の背面隔壁21と、背面隔壁21の外周部に設けられた第2のフランジ部22とを有する。背面隔壁11、21は、隣接する電解セル同士を区画し、かつ、隣接する電解セル同士を電気的に直列に接続する。第1のフランジ部12は、背面隔壁11、隔膜40、及びガスケット30とともに陽極室A(第1の極室)を画定し、第2のフランジ部22は、背面隔壁21、隔膜40、及びガスケット30とともに陰極室C(第2の極室)を画定する。
【0021】
第1の電解エレメント10はさらに、背面隔壁11から突き出すように設けられた導電性リブ13、13、…(以下において「導電性リブ13」ということがある。)を備え、陽極50は導電性リブ13によって保持されている。導電性リブ13は背面隔壁11及び陽極50と電気的に導通している。第2の電解エレメント20はさらに、背面隔壁21から突き出すように設けられた導電性リブ23、23、…(以下において「導電性リブ23」ということがある。)を備え、陰極60は導電性リブ23によって保持されている。導電性リブ23は背面隔壁21及び陰極60と電気的に導通している。なお
図2には示していないが、第1のフランジ部12は陽極室Aに陽極液を供給する陽極液供給流路と、陽極液Aから陽極液および陽極で発生したガスを回収する陽極液回収流路とを備えている。また第2のフランジ22は陰極室Cに陰極液を供給する陰極液供給流路と、陰極室Cから陰極液および陰極で発生したガスを回収する陰極液回収流路とを備えている。
【0022】
第1のフランジ部12は、第2のフランジ部22に向かい合い且つガスケット30と接する、第1の端面12aを有する。第2のフランジ部22は、第1のフランジ部12の第1の端面12aに向かい合い且つガスケット30と接する、第2の端面22bを有する。第1の端面12aと第2の端面22bとの間に、ガスケット30、30が挟持されている。
【0023】
第1のフランジ部12はさらに、ガスケット30の外周部にガスケット30の外周側から接する、ガスケット押さえ部12cを備える。ガスケット押さえ部12cは、第1の電解エレメント10及び第2の電解エレメント20の積層方向X(すなわち
図2の紙面左右方向。)において、第2の電解エレメント20側に向けて第1の端面12aよりも突出して延在している。第2のフランジ部22は、該第2のフランジ部22の外周部において、積層方向Xにおいて第1の電解エレメント10とは反対側に向けて、第2の端面22bから後退した後退部22dを有する。後退部22dは、ガスケット押さえ部12cの少なくとも一部を受け容れることが可能に形成されている。すなわち、第2の端面22bと後退部22dとの間に形成された段差は、ガスケット押さえ部12cの先端側の少なくとも一部を受け容れることができる。第2の端面22bと後退部22dとの間に形成された段差がガスケット押さえ部12cの先端側の少なくとも一部を受け容れているとき、ガスケット押さえ部12cの先端部12eは、積層方向Xにおいて、第2の端面22bよりも後退部22d側に存在する。電解槽100において、第1のフランジ部12と第2のフランジ部22とは接触していないので、第1のフランジ部12と第2のフランジ部とが電気的に短絡することはない。
【0024】
背面隔壁11及び21の材質としては、アルカリ耐性を有する剛性の導電性材料を特に制限なく用いることができ、例えばニッケル、鉄等の単体金属やSUS304、SUS310、SUS310S、SUS316、SUS316L等のステンレス鋼等の金属材料を好ましく採用できる。これら金属材料は、耐食性や導電性を向上させるために、ニッケルめっきを施して用いても良い。第1のフランジ部12及び第2のフランジ部22の材質としては、アルカリ耐性を有する剛性の材料を特に制限なく用いることができ、例えばニッケル、鉄等の単体金属やSUS304、SUS310、SUS310S、SUS316、SUS316L等のステンレス鋼等の金属材料のほか、強化プラスチック等の非金属材料も用いることができる。このうち前記金属材料は、耐食性を向上させるために、ニッケルめっきを施して用いても良い。第1の電解エレメント10の背面隔壁11と第1のフランジ部12とは溶接や接着等で接合されていてもよく、同一の材料で一体に形成されていてもよい。同様に第2の電解エレメント20の背面隔壁21と第2のフランジ部22とは溶接や接着等で接合されていてもよく、同一の材料で一体に形成されていてもよい。ただし、極室内部の圧力に対する耐性を高めることが容易である点で、第1の電解エレメント10の背面隔壁11と第1のフランジ部12とは同一の材料で一体に形成されていることが好ましく、第2の電解エレメント20の背面隔壁21と第2のフランジ部22とは同一の材料で一体に形成されていることが好ましい。
【0025】
ガスケット30としては、アルカリ水電解用の電解槽に使用可能であり、電気絶縁性を有するガスケットを特に制限なく用いることができる。
図2にはガスケット30の断面が表れている。ガスケット30は平坦な形状を有し、隔膜40の周縁部を挟持する一方で、第1のフランジ部12の第1の端面12aと第2のフランジ部22の第2の端面22bとの間に挟持される。ガスケット30は、耐アルカリ性を有するエラストマーによって形成されていることが好ましい。ガスケット30の材料の例としては、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム(SR)、エチレン−プロピレンゴム(EPT)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FR)、イソブチレン−イソプレンゴム(IIR)、ウレタンゴム(UR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)等のエラストマーを挙げることができる。また、アルカリ耐性を有しないガスケット材料を使用する場合、該ガスケット材料の表面に耐アルカリ性を有する材料の層を被覆等して設けて使用しても良い。
【0026】
隔膜40としては、アルカリ水電解用の電解槽に使用可能なイオン透過性の隔膜を特に制限なく用いることができる。隔膜40は、ガス透過性が低く、電気伝導度が小さく、強度が高いことが望ましい。隔膜40の例としては、アスベストや変性アスベストからなる多孔質膜、ポリスルホン系ポリマーを用いた多孔質隔膜、ポリフェニレンスルファイド繊維を用いた布、フッ素系多孔質膜、無機系材料と有機系材料との両方を含むハイブリッド材料を用いた多孔質膜等の多孔質隔膜を挙げることができる。またこれらの多孔質隔膜以外にも、フッ素系等のイオン交換膜を隔膜40として用いることも可能である。
【0027】
陽極(第1の電極)50としては、アルカリ水電解用の電解槽に使用可能な陽極を特に制限なく用いることができる。陽極50は通常、導電性基材と、該基材の表面を被覆する触媒層とを備える。触媒層は多孔質であることが好ましい。陽極50の導電性基材としては、例えば、ニッケル、ニッケル合金、ニッケル鉄、バナジウム、モリブデン、銅、銀、マンガン、白金族元素、黒鉛、若しくはクロム、又はそれらの組み合わせを用いることができる。陽極50においてはニッケルからなる導電性基材を好ましく用いることができる。触媒層は元素としてニッケルを含む。触媒層は、酸化ニッケル、金属ニッケル、若しくは水酸化ニッケル、又はそれらの組み合わせを含むことが好ましく、ニッケルと他の1種以上の金属との合金を含んでもよい。触媒層は金属ニッケルからなることが特に好ましい。なお、触媒層は、クロム、モリブデン、コバルト、タンタル、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛、白金族元素、もしくは希土類元素、またはそれらの組み合わせをさらに含んでもよい。触媒層の表面に、ロジウム、パラジウム、イリジウム、若しくはルテニウム、又はそれらの組み合わせが追加的な触媒としてさらに担持されていてもよい。陽極50の導電性基材は剛性の基材であってもよく、可撓性の基材であってもよい。陽極50を構成する剛性の導電性基材としては、例えばエキスパンドメタル、パンチドメタル等を挙げることができる。また陽極50を構成する可撓性の導電性基材としては、例えば金属ワイヤーで織った(又は編んだ)金網等を挙げることができる。
【0028】
陰極(第2の電極)60としては、アルカリ水電解用の電解槽に使用可能な陰極を特に制限なく用いることができる。陰極60は通常、導電性基材と、該基材の表面を被覆する触媒層とを備える。陰極60の導電性基材としては、例えば、ニッケル、ニッケル合金、ステンレススチール、軟鋼、ニッケル合金、又は、ステンレススチール若しくは軟鋼の表面にニッケルメッキを施したものを好ましく採用できる。陰極60の触媒層としては、貴金属酸化物、ニッケル、コバルト、モリブデン、若しくはマンガン、若しくはそれらの酸化物、又は貴金属酸化物からなる触媒層を好ましく採用できる。陰極60を構成する導電性基材は例えば剛性の基材であってもよく、可撓性の基材であってもよい。陰極60を構成する剛性の導電性基材としては、例えばエキスパンドメタル、パンチドメタル等を挙げることができる。また陰極60を構成する可撓性の導電性基材としては、例えば金属ワイヤーで織った(又は編んだ)金網等を挙げることができる。
【0029】
導電性リブ13及び導電性リブ23としては、アルカリ水電解槽に用いられる公知の導電性リブを特に制限なく用いることができる。電解槽100において、導電性リブ13は第1の電解エレメント10の背面隔壁11から立設されており、導電性リブ23は第2の電解エレメント20の背面隔壁21から立設されている。導電性リブ13が陽極50を第1の電解エレメント10に対して固定および保持できる限りにおいて、導電性リブ13の接続方法、形状、数、及び配置は特に制限されない。また導電性リブ23が陰極60を第2の電解エレメント20に対して固定および保持できる限りにおいて、導電性リブの23の接続方法、形状、数、及び配置も特に制限されない。導電性リブ13及び導電性リブ23の材質としては、アルカリ耐性を有する剛性の導電性材料を特に制限なく用いることができ、例えばニッケル、鉄等の単体金属やSUS304、SUS310、SUS310S、SUS316、SUS316L等のステンレス鋼等の金属材料を好ましく採用できる。これら金属材料は、耐食性や導電性を向上させるために、ニッケルめっきを施して用いても良い。
【0030】
電解槽100によれば、第1の電解エレメント10がガスケット押さえ部12cを備え、ガスケット押さえ部12cが、ガスケット30の外周部にガスケット30の外周側から接するので、極室内部の圧力に起因するガスケット30の変形が抑制される。さらに第2の電解エレメント20が第2のフランジ部22において後退部22dを備えるので、第1の電解エレメント10と第2の電解エレメント20とが電気的に短絡することがない。したがって電解槽100によれば、極室内部の圧力を高めた条件でも、より安全に運転することが可能になる。
【0031】
本発明に関する上記説明では、第1の電解エレメント10が画定する第1の極室に陽極50が配置され、第2の電解エレメント20が画定する第2の極室に陰極60が配置される形態の電解槽100を例に挙げたが、本発明は当該形態に限定されない。例えば、第1の電解エレメントが画定する第1の極室に陰極が配置され、第2の電解エレメントが確定する第2の極室に陽極が配置される形態の電解槽とすることも可能である。かかる形態においては、第1の極室が陰極室であり、第2の極室が陽極室である。
【0032】
図3は、本発明の他の一の実施形態に係る電解槽200を模式的に説明する断面図である。
図3において、
図2に既に表れた要素には
図2における符号と同一の符号を付し、説明を省略することがある。電解槽200は、電解槽100と同様にアルカリ水電解用の電解槽である。電解槽200において、第1のフランジ部12及び第2のフランジ部22は、導電性材料によって構成されている。電解槽200は、第1のフランジ部12のガスケット押さえ部12cと第2のフランジ部22との短絡を防ぐように配設された電気絶縁部材14、24をさらに備える点において、電解槽100と異なっている。
【0033】
電気絶縁部材14は、ガスケット押さえ部12cの先端部12eを覆うように、第1のフランジ部12に接して設けられている。電気絶縁部材24は、第2の端面22bと後退部22dとの間の段差によって生じた、第2の端面22b及び後退部22dの両方に連続する段差面22fを覆うように、第2のフランジ部22に接して設けられている。電気絶縁部材14、24の材質としては、例えばアクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、フッ素ゴム(FKM)、ウレタンゴム(AU)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)等のエラストマー;ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、フェノール樹脂(PF)等の非フッ素系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフロオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂などの電気絶縁性材料を特に制限なく採用できる。電気絶縁部材14及び24を第1のフランジ部12のガスケット押さえ部12c及び第2のフランジ部22の段差面22fに固定するにあたっては、接着、ライニング、溶着等の公知の手法を特に制限なく用いることができる。
【0034】
このような電解槽200によっても、上記説明した電解槽100と同様の効果を得ることが可能である。また電解槽200においては、第1のフランジ部12がガスケット押さえ部12cの先端部12eに電気絶縁部材14を備えるので、第1のフランジ部12のガスケット押さえ部12cと第2のフランジ部22の後退部22dとが直接接触して短絡を生じることがない。また第2のフランジ部22が段差面22fに電気絶縁部材22fを備えるので、仮に第1の電解エレメント10の軸心と第2の電解エレメント20の軸心とがずれたとしても、第1のフランジ部12のガスケット押さえ部12cの内周面12gと第2のフランジ部22の段差面22fとが直接接触して短絡を生じることがない。したがって電解槽200によれば、第1の電解エレメント10において第1のフランジ部12が導電性材料で構成され、第2の電解エレメント20において第2のフランジ部22が導電性材料で構成されている場合においても、第1の電解エレメントと第2の電解エレメントとが電気的に短絡する事態を抑制することが容易になる。
【0035】
本発明に関する上記説明では、電気絶縁部材14、24を備える形態の電解槽200を例に挙げたが、本発明は当該形態に限定されない。
図4は、他の一の実施形態に係る電解槽300を模式的に説明する断面図である。
図4において、
図2〜3に既に表れた要素には
図2〜3における符号と同一の符号を付し、説明を省略することがある。電解槽300は、電気絶縁部材14、24に代えて電気絶縁部材24’を備える点において、電解槽200と異なっている。電気絶縁部材24’は、第2のフランジ部22の段差面22f及び後退部22dを覆うように、第2のフランジ部に接して設けられている。電気絶縁部材24’の材質、および、電気絶縁部材24’を第2のフランジ部22の段差面22f及び後退部22dに固定する手法としては、電解槽200について上記説明した電気絶縁部材14、24と同様の材質および固定方法を採用できる。
【0036】
電解槽300によっても、上記説明した電解槽200と同様の効果を得ることが可能である。電解槽300においては、第2のフランジ部22の後退部22dが電気絶縁部材24’によって覆われているので、第1のフランジ部12のガスケット押さえ部12(の先端部12e)と第2のフランジ部22の後退部22dとが直接に接触して短絡を生じることがない。また第2のフランジ部22の段差面22fが電気絶縁部材24’によって覆われているので、仮に第1の電解エレメント10の軸心と第2の電解エレメント20の軸心とがずれたとしても、第1のフランジ部12のガスケット押さえ部12cの内周面12gと第2のフランジ部22の段差面22fとが直接接触して短絡を生じることがない。
【0037】
本発明に関する上記説明では、電気絶縁部材14、24を備える電解槽200、及び、電気絶縁部材24’を備える電解槽300を例に挙げたが、本発明はこれらの形態に限定されない。
図5は、他の一の実施形態に係る電解槽400を模式的に説明する図である。
図5において、
図2〜4に既に表れた要素には
図2〜4における符号と同一の符号を付し、説明を省略することがある。電解槽400は、電気絶縁部材14、24に代えて電気絶縁部材14’を備える点において、電解槽200(
図3)と異なっている。電気絶縁部材14’は、第1のフランジ部12のガスケット押さえ部12cの先端部12e及び内周面12gを覆うように、第1のフランジ部12に接して設けられている。電解槽400において、第1のフランジ部12のガスケット押さえ部12cは、電気絶縁部材14’を介して、ガスケット30の外周部にガスケット30の外周側から接している。
【0038】
電解槽400によっても、上記説明した電解槽200と同様の効果を得ることが可能である。電解槽400においては、第1のフランジ部12のガスケット押さえ部12cの先端部12eが電気絶縁部材14’によって覆われているので、第1のフランジ部12のガスケット押さえ部12(の先端部12e)と第2のフランジ部22の後退部22dとが直接に接触して短絡を生じることがない。また第1のフランジ部12のガスケット押さえ部12cの内周面12gが電気絶縁部材14’によって覆われているので、仮に第1の電解エレメント10の軸心と第2の電解エレメント20の軸心とがずれたとしても、第1のフランジ部12のガスケット押さえ部12cの内周面12gと第2のフランジ部22の段差面22fとが直接接触して短絡を生じることがない。
【0039】
本発明に関する上記説明では、隔膜40と陽極50とが直接に接触せず、また隔膜40と陰極60とが直接に接触していない形態の電解槽100を例に挙げたが、本発明は当該形態に限定されない。例えば、隔膜と陽極とが直接に接触し、且つ隔膜と陰極とが直接に接触する形態の、いわゆるゼロギャップ型の電解槽とすることも可能である。
図6は、そのような他の一の実施形態に係る電解槽500を模式的に説明する断面図である。
図6において、
図2〜5に既に表れた要素には
図2〜5における符号と同一の符号を付し、説明を省略することがある。電解槽500は、電解槽100と同様にアルカリ水電解用の電解槽である。電解槽500は、陰極室C(第2の極室)に、導電性リブ23に保持された集電体70と、集電体70に保持された導電性の弾性体80とをさらに備え、陰極60が可撓性を有する陰極であって、弾性体80によって陰極60が陽極50に向けて押し付けられることにより、隔膜40と陽極50が直接に接触し且つ隔膜40と陰極60とが直接に接触している点において、電解槽100と異なっている。
【0040】
集電体70としては、アルカリ水電解槽において使用可能な公知の集電体を特に制限なく用いることができ、例えばニッケル、鉄等の単体金属やSUS304、SUS310、SUS310S、SUS316、SUS316L等のステンレス鋼等の耐アルカリ性を有する金属材料や、これにニッケルめっきを施した材料からなる、エキスパンドメタル、パンチドメタル等を好ましく採用できる。集電体70を導電性リブ23に保持するにあたっては、溶接やピン止め、端部の折り返し施工等の公知の手法を特に制限なく採用できる。電解槽500において、導電性リブ23は背面隔壁20及び集電体20と電気的に導通しており、集電体20は導電性リブ23及び導電性の弾性体80と電気的に導通している。
【0041】
導電性の弾性体80としては、アルカリ水電解槽において用いられる公知の導電性弾性体を特に制限なく用いることができ、例えばニッケル、鉄等の単体金属やSUS304、SUS310、SUS310S、SUS316、SUS316L等のステンレス鋼等の耐アルカリ性を有する金属材料や、これにニッケルめっきを施した材料からなる、金属線の集合体からなる弾性マット、コイルばね、板バネ等を好ましく採用できる。弾性体80を集電体70に保持するにあたっては、溶接やピン止め等の公知の手法を特に制限なく採用できる。電解槽500において、導電性の弾性体80は集電体70及び陰極60と電気的に導通している。
【0042】
電解槽500における陰極60としては、電解槽100に関連して上記説明した陰極60のうち、可撓性を有するものを採用できる。陰極60の周縁部は集電体70に保持されている。陰極60を集電体70に保持するにあたっては、溶接やピン止め、端部の折り返し施工等の公知の手法を特に制限なく採用できる。
【0043】
このような電解槽500によっても、上記説明した電解槽100と同様の効果を得ることが可能である。また、ゼロギャップ型電解槽の形態は上記電解槽500(
図6)の形態に限定されるものではなく、本発明は他の形態のゼロギャップ型電解槽にも好ましく適用できる。
【0044】
本発明に関する上記説明では、単一のセルのみを備える電解槽100、200、300、400、及び500を例に挙げたが、本発明はこれらの形態に限定されない。例えば、第1の電解エレメント10及び第2の電解エレメント20の組によって構成された電解セルが複数直列に接続された形態の電解槽とすることも可能である。
図7は、そのような他の一の実施形態に係る電解槽600を模式的に説明する断面図である。
図7において、
図2〜6に既に表れた要素には
図2〜6における符号と同一の符号を付し、説明を省略することがある。電解槽600は、上記説明した電解槽(電解セル)100(
図2)が2つ直接に接続された構造を有している。すなわち電解槽600は、第1の電解セル100aと、第2の電解セル100bとを備え、第1の電解セル100a及び第2の電解セル100bはそれぞれ上記説明した電解槽(電解セル100)と同一の構成を有している。第1の電解セル100aの第1の電解エレメント10の背面隔壁11は陽極端子に接続されている。第1の電解セル100aの第2の電解エレメント20の背面隔壁21は、第2の電解セル100bの第1の電解エレメント10の背面隔壁11と接して配置されている。第2の電解セル100bの第2の電解エレメント20の背面隔壁21は陰極端子に接続されている。
【0045】
本発明に関する上記説明では、2つの電解セルを備える電解槽600を例に挙げたが、本発明は当該形態に限定されない。電解槽が備える電解セルの数は自由に選択できる。
【0046】
本発明に関する上記説明では、第1の電解エレメントと第2の電解エレメントとが異なる形状を有する形態の電解槽100、200、300、400、500、及び600を例に挙げたが、本発明はこれらの形態に限定されない。例えば、少なくとも1つの電解セルにおいて、第1の電解エレメントと第2の電解エレメントとが同一の形状を有していてもよい。
図8は、そのような他の一の実施形態に係る電解槽700を模式的に説明する図である。
図8において、
図2〜7に既に表れた要素には
図2〜7における符号と同一の符号を付し、説明を省略することがある。電解槽700は、陽極端子に接続された陽極エンドエレメント10と;陰極端子に接続された陰極エンドエレメント20と;陽極エンドエレメント10と陰極エンドエレメント20との間に配置された、同一の形状を有する複数の電解エレメント110、210と;それぞれ複数のガスケット30、隔膜40、陽極50、及び陰極60と、を備える。隔膜40は、陽極エンドエレメント10と、これに隣接する電解エレメント110との間、陰極エンドエレメント20と、これに隣接する電解エレメント210との間、及び、電解エレメント110と電解エレメント210との間に配置され、それぞれガスケット30に挟持されている。陽極エンドユニット10と電解エレメント110とによって陽極室A1及び陰極室C1が画定され、電解エレメント110と電解エレメント210とによって陽極室A2及び陰極室C2が画定され、電解エレメント210と陰極エンドユニット20とによって陽極室A3及び陰極室C3が画定されている。陽極室A1、A2、及びA3のそれぞれに陽極50が配置され、陰極室C1、C2、及びC3のそれぞれに陰極60が配置されている。
【0047】
陽極エンドエレメント10及び陰極エンドエレメント20は、それぞれ、上記説明した電解槽100(
図2)における第1の電解エレメント10及び第2の電解エレメント20と同一の構成を有する。陽極エンドエレメント10の背面隔壁11が陽極端子に接続されており、陰極エンドエレメント20の背面隔壁21が陰極端子に接続されている。また陽極エンドエレメント10が画定する陽極室A1において陽極50は導電性リブ13に保持されており、陰極エンドエレメント20が画定する陰極室C3において陰極20は導電性リブ23に保持されている点についても上記同様である。
【0048】
電解エレメント110は、導電性の背面隔壁111と、背面隔壁111の外周部から陰極エンドユニット20側に延在する第1のフランジ部112と、背面隔壁111の外周部から陽極エンドユニット10側に延在する第2のフランジ部122と、を備える。電解エレメント110において、第1のフランジ部112と第2のフランジ部122とは一体に形成されている。電解エレメント110において、背面隔壁111の陽極エンドユニット10側には導電性リブ123が背面隔壁111から突出して設けられている。導電性リブ123は陰極室C1において陰極60を保持しており、陰極室C1に配置された陰極60及び背面隔壁111と電気的に導通している。電解エレメント110において、背面隔壁111の陰極エンドユニット20側には導電性リブ113が背面隔壁111から突出して設けられている。導電性リブ113は陽極室A2において陽極50を保持しており、陽極室A2に配置された陽極50及び電解エレメント110の背面隔壁111と電気的に導通している。背面隔壁111、導電性リブ113、123の構成は、電解槽100(
図2)に関連して上記説明した背面隔壁11、導電性リブ13、23と同様である。第1のフランジ部112及び第2のフランジ部122の構成は、第1のフランジ部112と第2のフランジ部122とが一体に形成されているほかは、電解槽100(
図2)に関連して上記説明した第1のフランジ部12及び第2のフランジ部22と同様である。すなわち電解エレメント110の第1のフランジ部112は、第1の端面112a及びガスケット押さえ部112cを備え、これらはそれぞれ、陽極エンドユニット10の第1の端面12a及びガスケット押さえ部12cと同一の形状を有する。また電解エレメント110の第2のフランジ部122は、第2の端面122b及び後退部122dを備え、これらはそれぞれ、陰極エンドユニット20の第2の端面22b及び後退部22dと同一の形状を有する。
【0049】
同様に、電解エレメント210は、導電性の背面隔壁211と、背面隔壁211の外周部から陰極エンドユニット20側に延在する第1のフランジ部212と、背面隔壁211の外周部から陽極エンドユニット10側に延在する第2のフランジ部222と、を備える。電解エレメント210において、第1のフランジ部212と第2のフランジ部222とは一体に形成されている。電解エレメント210において、背面隔壁211の陽極エンドユニット10側には導電性リブ223が背面隔壁211から突出して設けられている。導電性リブ223は陰極室C2において陰極60を保持しており、陰極室21に配置された陰極60及び背面隔壁211と電気的に導通している。電解エレメント210において、背面隔壁211の陰極エンドユニット20側には導電性リブ213が背面隔壁211から突出して設けられている。導電性リブ213は陽極室A3において陽極50を保持しており、陽極室A3に配置された陽極50及び電解エレメント210の背面隔壁211と電気的に導通している。背面隔壁211、導電性リブ213、223の構成は、電解槽100(
図2)に関連して上記説明した背面隔壁11、導電性リブ13、23と同様である。第1のフランジ部212及び第2のフランジ部222の構成は、第1のフランジ部212と第2のフランジ部222とが一体に形成されているほかは、電解槽100(
図2)に関連して上記説明した第1のフランジ部12及び第2のフランジ部22と同様である。すなわち電解エレメント210の第1のフランジ部212は、第1の端面212a及びガスケット押さえ部212cを備え、これらはそれぞれ、陽極エンドユニット10の第1の端面12a及びガスケット押さえ部12cと同一の形状を有する。また電解エレメント210の第2のフランジ部222は、第2の端面222b及び後退部222dを備え、これらはそれぞれ、陰極エンドユニット20の第2の端面22b及び後退部22dと同一の形状を有する。
【0050】
電解槽700は、陽極室A1及び陰極室C1を備える第1の電解セルと、陽極室A2及び陰極室C2を備える第2の電解セルと、陽極室A3及び陰極室C3を備える第3の電解セルとが、直列に接続された構成を有している。
第1の電解セルについては、陽極エンドユニット10の第1のフランジ部12の第1の端面12aと、電解エレメント110の第2のフランジ部122の第2の端面122bとが向かい合っており、これらの間にガスケット30及び隔膜40の組が挟持されて、陽極室A1及び陰極室C1が画定されている。陽極エンドユニット10の第1のフランジ部12のガスケット押さえ部12cの先端側の少なくとも一部が、電解エレメント110の第2のフランジ部122の第2の端面122bと後退部122dとの間に形成された段差に受け容れられている。陽極エンドユニット10の第1のフランジ部12と電解エレメント110の第2のフランジ部122とは直接に接触していないので、両者が電気的に短絡することはない。第1の電解セルを構成する第1の電解エレメントは陽極エンドユニット10であり、第1の電解セルを構成する第2の電解エレメントは電解エレメント110である。
第2の電解セルについては、電解エレメント110の第1のフランジ部112の第1の端面112aと、電解エレメント210の第2のフランジ部222の第2の端面222bとが向かい合っており、これらの間にガスケット30及び隔膜40の組が挟持されて、陽極室A2及び陰極室C2が画定されている。電解エレメント110の第1のフランジ部112のガスケット押さえ部112cの先端側の少なくとも一部が、電解エレメント210の第2のフランジ部222の第2の端面222bと後退部222dとの間に形成された段差に受け容れられている。電解エレメント110の第1のフランジ部112と電解エレメント210の第2のフランジ部222とは直接に接触していないので、両者が電気的に短絡することはない。第2の電解セルを構成する第1の電解エレメントは電解エレメント110であり、第2の電解セルを構成する第2の電解エレメントは電解エレメント210である。
第3の電解セルについては、電解エレメント210の第1のフランジ部の第1の端面212aと、陰極エンドユニット20の第2のフランジ部22の第2の端面22bとが向かい合っており、これらの間にガスケット30及び隔膜40の組が挟持されて、陽極室A3及び陰極室C3が画定されている。電解エレメント210の第1のフランジ部のガスケット押さえ部212cの先端側の少なくとも一部が、陰極エンドユニット20の第2のフランジ部22の第2の端面22bと後退部22dとの間に形成された段差に受け容れられている。電解エレメント210の第1のフランジ部212と陰極エンドユニット20の第2のフランジ部22とは直接に接触していないので、両者が電気的に短絡することはない。第3の電解セルを構成する第1の電解エレメントは電解エレメント210であり、第3の電解セルを構成する第2の電解エレメントは陰極エンドユニット20である。
【0051】
電解槽700によれば、上記説明した電解槽100(
図2)と同様の効果を得ることができるほか、陽極エンドユニット10、電解エレメント110及び210、並びに陰極エンドユニット20が略インロー構造を有するので、電解槽を組み立てる際の位置決め等の作業性を高めることができる。
【0052】
<2.アルカリ水電解方法>
本発明の第2の態様に係るアルカリ水電解方法は、アルカリ水を電解して水素を製造する方法であって、(a)本発明の電解槽を用いてアルカリ水を電解する工程を含む。工程(a)における電解槽としては、上記説明したいずれの形態の電解槽も用いることができる。アルカリ水としては、アルカリ水電解法による水素の製造に用いられる公知の塩基性水溶液(例えばKOH水溶液、NaOH水溶液等。)を特に制限なく用いることができる。
【0053】
工程(a)は、本発明の電解槽の各第1の極室および各第2の極室に極液(アルカリ水)を供給し、陽極−陰極間に所定の電解電流が流れるように電圧を印加することにより、行うことができる。電解により発生したガスを各極室から極液とともに回収し、気液分離を行うことにより、陰極室から水素ガスを、及び陽極室から酸素ガスを、それぞれ回収することができる。気液分離によりガスから分離された極液は、必要に応じて水を補充しつつ、各極室へ再度供給することができる。
【0054】
工程(a)において、第1の極室が陽極室、第2の極室が陰極室であってもよく、第1の極室が陰極室、第2の極室が陽極室であってもよい。いずれの場合においても、陰極室内部の圧力は大気圧に対して20kPa以上高圧に維持される。陰極室内部の圧力は大気圧に対して400kPa以上高圧であることが好ましく、800kPa以上高圧であることがより好ましい。陰極室内部の圧力の上限は電解槽を構成する部材の強度にもよるが、例えば大気圧+1000kPa未満とすることができる。陰極室内部の圧力が上記下限値以上であることにより、陰極室から水素ガスを回収した後の昇圧工程における圧縮率を低減、または昇圧工程を省略することができるので、設備コストを削減し、設備全体として省スペース化および省エネルギー化を図ることが可能になる。また陰極室内部の圧力が上記下限値以上であることにより、陰極室で発生する気泡のサイズが小さくなるので、陽極−陰極間の抵抗が減少し、したがって電解電圧を低減することが可能になる。
【0055】
工程(a)において、陽極室内部の圧力も、大気圧に対して20kPa以上高圧に維持されることが好ましい。陽極室内部の圧力は大気圧に対して400kPa以上高圧であることが好ましく、800kPa以上高圧であることがより好ましい。陽極室内部の圧力の上限は電解槽を構成する部材の強度にもよるが、例えば大気圧+1000kPa未満とすることができる。陽極室内部の圧力が上記下限値以上であることにより、陽極室から酸素ガスを回収した後の昇圧工程における圧縮率を低減、または昇圧工程を省略することができるので、設備コストをさらに削減し、設備全体としてさらなる省スペース化および省エネルギー化を図ることが可能になる。また陽極室内部の圧力が上記下限値以上であることにより、陽極室で発生する気泡のサイズが小さくなるので、陽極−陰極間の抵抗がさらに減少し、したがって電解電圧をさらに低減することが可能になる。
【0056】
工程(a)において、陰極室内部の圧力と陽極室内部の圧力との差は、例えば5.0kPa未満であることが好ましく、1.0kPa未満であることがより好ましい。陰極室内部の圧力と陽極室内部の圧力との差が上記上限値未満であることにより、陽極室−陰極室間の差圧に起因してガスが隔膜を透過して陽極室から陰極室へ又は陰極室から陽極室へ移動することを抑制すること、及び、隔膜が損傷する事態を抑制することが容易になる。
【0057】
本発明のアルカリ水電解方法によれば、本発明の電解槽を用いてアルカリ水の電解を行うので、極室内部の圧力を高めた条件でも、より安全に電解を行うことが可能である。