特許第6965305号(P6965305)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965305
(24)【登録日】2021年10月22日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】両面研磨装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/005 20120101AFI20211028BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20211028BHJP
   B24B 37/08 20120101ALI20211028BHJP
   B24B 37/12 20120101ALI20211028BHJP
   B24B 37/14 20120101ALI20211028BHJP
【FI】
   B24B37/005 B
   H01L21/304 621A
   H01L21/304 622K
   H01L21/304 622M
   B24B37/08
   B24B37/12 B
   B24B37/12 D
   B24B37/14
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-75648(P2019-75648)
(22)【出願日】2019年4月11日
(65)【公開番号】特開2020-171997(P2020-171997A)
(43)【公開日】2020年10月22日
【審査請求日】2020年11月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236687
【氏名又は名称】不二越機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑宜
(72)【発明者】
【氏名】丸田 将史
【審査官】 山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−217456(JP,A)
【文献】 特開平07−290356(JP,A)
【文献】 特開2000−225563(JP,A)
【文献】 特開平09−309064(JP,A)
【文献】 特開2004−216492(JP,A)
【文献】 特開2006−150507(JP,A)
【文献】 特開2010−221348(JP,A)
【文献】 特開2001−071245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 − 37/34
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転可能に設けられ、上面に研磨パッドが貼り付けられた下定盤と、前記下定盤の上方に上下動可能、かつ前記回転軸を中心に回転可能に設けられ、下面に研磨パッドが貼り付けられた上定盤と、前記上定盤の上方に設けられる吊り天板とを具備する両面研磨装置において、
前記吊り天板と前記上定盤とを連結する、吊り支柱からなる連結部と、
前記吊り天板と前記上定盤との間であって前記連結部と異なる位置に独立して設けられ、上定盤形状を変形可能なアクチュエータとを具備することを特徴とする両面研磨装置。
【請求項2】
前記連結部は、前記上定盤の半径方向の同一円周上に配置される複数個の吊り支柱からなり、前記アクチュエータは、前記上定盤の半径方向の同一円周上であって前記複数個の吊り支柱とは異なる位置に1個以上配置されることを特徴とする請求項1に記載の両面研磨装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは、前記複数個の吊り支柱を支点にして前記上定盤形状を変形させるものであることを特徴とする請求項2に記載の両面研磨装置。
【請求項4】
前記アクチュエータと前記上定盤とを連結するフローティングジョイントをさらに具備し、
前記アクチュエータは、前記吊り天板に固定されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の両面研磨装置。
【請求項5】
前記上定盤は、線熱膨張係数が6×10−6/K以下の低熱膨張材からなることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の両面研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り下げ形態の両面研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
低熱膨張材を定盤に採用した両面研磨装置は研磨の加工熱による定盤変形を抑止できることから、研磨中の定盤形状精度、結果としてウェーハの加工精度の安定性に優れていた(特許文献1参照)。しかし、定盤に貼り付けられる研磨パッド(クロス)が定盤の形状精度の影響を受けながらドレス及び研磨により摩耗されて形状が変わってしまうために、研磨バッチを重ねていくといった長期的な視点では、上記両面研磨装置でもウェーハの加工精度を一定に保つことができていなかった。
【0003】
例えば、図5は、定盤形状精度の影響を受けて平行でなくなった研磨パッドの例を示し、図6は、そのパッドが偏摩耗を引き起こしている例を示す。
【0004】
図5及び図6において、101は、下定盤、102は、上定盤、103及び104は、研磨パッド、105は、サンギア、106は、インターナルギア、107は、キャリアである。これらの図に示すように、研磨パッド103、104は、下定盤101と上定盤102の精度低下に起因して平行でない状態となる。この状態で、キャリア107が下定盤101と上定盤102との間に配置されると、キャリア107と研磨パッド103、104との接触が均等でないために偏摩耗を引き起こし、ウェーハの加工精度が一定に保てなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−79756号公報
【特許文献2】特開2008−44098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、上記のような研磨パッドの偏摩耗を抑制するために、該研磨パッドの形状(定盤形状精度やすでに偏摩耗した状態など)に応じて、定盤形状を変形させることが想起される。しかし、既存技術では、定盤形状を変形させるために定盤を保持する金属製のディスクが必要であり、該ディスクの熱変形が定盤に伝わってしまい、定盤に低熱膨張材を使用した場合の長所を十分に活かすことができていなかった(特許文献2)。
【0007】
例えば、図7は、定盤の可動機構を備えた従来の両面研磨装置の例を示す。
同図において、102は、上定盤、108は、吊り天板、109は、ディスクであり、エアーの入力圧INでディスク109を動かす力Pを発生させることにより、ディスク109の傾き、すなわち、上定盤形状を変化させる。しかし、ディスク109が金属製であるために、該ディスク109が熱変形し易く、かつこの熱変形が上定盤102に伝わることで、上定盤102も変形し易くなっていた。また、同図の例では、上定盤形状が一方向のみに変形可能であるため、様々な種類のパッド形状に対応できなかった。
【0008】
このようなことから、低熱膨張材の定盤を前提とした吊り下げ形態の両面研磨装置に適用可能であって、該低熱膨張材の定盤の長所を害せず、かつ様々な種類のパッド形状に応じて定盤形状を様々な形に変形可能である定盤の可動機構が求められていた。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、吊り下げ形態の両面研磨装置において、定盤の熱変形を助長せず、かつ定盤形状を様々な形に変形可能な定盤の可動機構を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明では、回転軸を中心に回転可能に設けられ、上面に研磨パッドが貼り付けられた下定盤と、前記下定盤の上方に上下動可能、かつ前記回転軸を中心に回転可能に設けられ、下面に研磨パッドが貼り付けられた上定盤と、前記上定盤の上方に設けられる吊り天板とを具備する両面研磨装置において、前記吊り天板と前記上定盤とを連結する連結部と、前記吊り天板と前記上定盤との間であって前記連結部と異なる位置に設けられ、上定盤形状を変形可能なアクチュエータとを具備することを特徴とする両面研磨装置を提供する。
【0011】
このような両面研磨装置によれば、連結部により上定盤と吊り天板とが連結され、該連結部と異なる位置に設けられたアクチュエータにより上定盤形状が変形される。すなわち、連結部とアクチュエータとが互いに独立であるため、既存技術で使用される金属製のディスクが不要である。また、アクチュエータにより上定盤形状を様々な形に変形可能である。従って、定盤の熱変形を助長せず、かつ定盤形状を様々な形に変形可能な定盤の可動機構を備えた吊り下げ形態の両面研磨装置を提供できる。
【0012】
また、仮に、定盤の形状精度の影響を受けながらドレス及び研磨が繰り返されることにより、研磨パッドが偏摩耗されてしまったとしても、パッド形状に応じて定盤形状を変形させることが可能となるため、研磨バッチを重ねていくといった長期的な視点において、ウェーハの加工精度を一定に保つことが可能となる。
【0013】
前記連結部は、前記上定盤の半径方向の同一円周上に配置される複数個の吊り支柱からなり、前記アクチュエータは、前記上定盤の半径方向の同一円周上であって前記複数個の吊り支柱とは異なる位置に1個以上配置されることが好ましい。
【0014】
このように、回転軸を中心とした場合に、複数個の吊り支柱(の中心点)が描く円のPCD(ピッチ円直径)とは異なるPCDの円周上にアクチュエータを配置することで、上定盤形状を様々な形に変形可能な可動機構を提供できる。
【0015】
前記アクチュエータは、前記複数個の吊り支柱を支点にして前記上定盤形状を変形させるものであることが好ましい。
【0016】
このように、吊り支柱を支点にすることで、シーソーの原理により、少なくとも1つのアクチュエータを動作させ、吊り天板と上定盤との間で反発力を生み出すことで、該上定盤の傾斜(上定盤形状)を容易に制御することができる。
【0017】
前記アクチュエータと前記上定盤とを連結するフローティングジョイントをさらに具備し、前記アクチュエータは、前記吊り天板に固定されることが好ましい。
【0018】
このように、アクチュエータと上定盤とをフローティングジョイントで連結することにより、該アクチュエータと該上定盤との間に発生する偏心及び偏角を吸収することができ、両者の高精度での軸合わせが不要となる。
【0019】
前記上定盤は、線熱膨張係数が6×10−6/K以下の低熱膨張材からなることが好ましい。
【0020】
このように、上定盤が低熱膨張材であれば、該上定盤が熱変形し難いという吊り下げ形態の長所を生かすことができる。すなわち、上定盤は、連結部(例えば、吊り支柱)で支持されるため、該連結部を最小限の数、かつ最小限のサイズにすることで、連結部の熱変形が上定盤に伝わらなくなり、低熱膨張材の本来の機能(ウェーハと研磨パッドとの摩擦熱により変形し難い)を発揮することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、吊り下げ形態の両面研磨装置において、定盤の熱変形を助長せず、かつ定盤形状を様々な形に変形可能な定盤の可動機構を提供することができる。従って、該両面研磨装置を用いてウェーハの両面を研磨する場合に、ウェーハ形状を長期的に安定化させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の両面研磨装置の概略を示す部分拡大図である。
図2】本発明の両面研磨装置の詳細を示す図である。
図3】アクチュエータの構造例を示す図である。
図4】実施例と比較例とについてクロスライフとGBIRとの関係を示す図である。
図5】定盤形状精度の影響を受けて平行でなくなった研磨パッドの例を示す図である。
図6】研磨パッドが偏摩耗を引き起こしている例を示す図である。
図7】定盤の可動機構を備えた従来の両面研磨装置の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上記のとおり、従来は、長期的な視点においてウェーハの加工精度を一定に保つため、定盤の形状精度の影響を受けながらドレス及び研磨が繰り返されることで発生する研磨パッドの偏摩耗に対しては、パッド形状に応じて定盤形状を変形させることで対応していた。しかし、既存技術では、定盤を保持する金属製のディスクの熱変形が該定盤に伝わってしまう、定盤形状を一方向のみにしか変形できない、といった問題があった。
【0024】
本発明者らは、上記問題について鋭意検討を重ねた結果、吊り天板と上定盤とを連結する連結部とは別に、吊り天板と上定盤との間であって連結部と異なる位置にアクチュエータを設け、該アクチュエータにより上定盤形状を変形することで、定盤の熱変形を助長せず、かつ定盤形状を様々な形に変形可能となることを見出した。すなわち、連結部は、吊り天板と上定盤とを連結すればよいため、最小限の数、かつ最小限のサイズで連結部を構成すれば、該連結部の熱変形が上定盤に影響を与えることがない、一方、上定盤形状は、連結部とは独立に設けられたアクチュエータにより変形させれば、該上定盤形状を様々な形に変形できる、といったことを本発明者らは見出し、本発明を完成させた。
【0025】
すなわち、本発明は、回転軸を中心に回転可能に設けられ、上面に研磨パッドが貼り付けられた下定盤と、前記下定盤の上方に上下動可能、かつ前記回転軸を中心に回転可能に設けられ、下面に研磨パッドが貼り付けられた上定盤と、前記上定盤の上方に設けられる吊り天板とを具備する両面研磨装置において、前記吊り天板と前記上定盤とを連結する連結部と、前記吊り天板と前記上定盤との間であって前記連結部と異なる位置に設けられ、上定盤形状を変形可能なアクチュエータとを具備することを特徴とする両面研磨装置である。
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、添付した図面に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0027】
図1は、本発明の両面研磨装置の概略を示す。
下定盤1は、回転軸AXを中心に回転可能に設けられ、上面に研磨パッド7bが貼り付けられている。上定盤2は、下定盤1の上方に上下動可能、かつ回転軸AXを中心に回転可能に設けられ、下面に研磨パッド7aが貼り付けられている。ウェーハを保持するキャリア(ドレス時には、例えば、ドレッサに変更される)8は、下定盤1と上定盤2との間に配置される。
【0028】
吊り天板3は、上定盤2の上方に設けられ、支柱6により保持される。連結部4は、吊り天板3と上定盤2とを連結する。従って、吊り天板3を上下動させることにより、これに連動して上定盤2を上下動させることができる。
【0029】
アクチュエータ5は、吊り天板3と上定盤2との間であって連結部4と異なる位置に設けられ、上定盤2の傾き(上定盤形状)を変形させることができる。本例では、アクチュエータ5の数は、2個であるが、1個以上であればよい。また、アクチュエータ5の位置も、連結部4と異なる位置であれば、特に限定されることはない。
【0030】
本例では、2個のアクチュエータ5は、回転軸AXに垂直となる半径方向に並んで配置される。この場合、半径方向における上定盤2の傾きを2個のアクチュエータ5のいずれか一方を駆動させることで変形させることが可能となる。
【0031】
例えば、2個のアクチュエータ5が駆動されていない状態(上下方向に伸縮可能な状態で吊り天板3と上定盤2との間に単に接続されている状態)において、下定盤1の上面と上定盤2の下面が平行である場合に、内側(回転軸AXに近い側)のアクチュエータ5が、伸びる、すなわち、吊り天板3と上定盤2との距離を広げる方向に駆動されると、シーソーの原理により、外側(回転軸AXに遠い側)のアクチュエータ5が、吊り天板3と上定盤2との距離を狭める方向に縮む。その結果、上定盤2は、半径方向の内側が外側よりも低い状態に傾くことになる。
【0032】
一方、内側のアクチュエータ5が、縮む、すなわち、吊り天板3と上定盤2との距離を狭める方向に駆動されると、シーソーの原理により、外側のアクチュエータ5が、吊り天板3と上定盤2との距離を広げる方向に伸びる。その結果、上定盤2は、半径方向の内側が外側よりも高い状態に傾くことになる。
【0033】
なお、上定盤形状、すなわち、上定盤2の傾きは、アクチュエータ5の位置を変えることにより、又は吊り天板3と上定盤2との間に複数個のアクチュエータ5を設け、かつ所定のアクチュエータ5を駆動させることにより、様々な形に変形させることができる。
【0034】
従って、下定盤1及び上定盤2の形状精度の影響を受けながらドレス及び研磨が繰り返されることにより、研磨パッド7a、7bが偏摩耗されてしまったとしても、パッド形状に応じて上定盤形状を変形させることが可能となるため、研磨バッチを重ねていくといった長期的な視点において、ウェーハの加工精度を一定に保つことが可能となる。
【0035】
また、連結部4は、吊り天板3と上定盤とを連結すればよいため、最小限の数、かつ最小限のサイズで連結部4を構成すればよい。このため、連結部4の熱変形が上定盤2に影響を与えることがなくなる。
【0036】
図2は、本発明の両面研磨装置の詳細を示す。同図(a)は、上定盤2と、連結部4及びアクチュエータ5との位置関係を示す平面図であり、同図(b)は、両面研磨装置の断面図である。図3は、アクチュエータの構造例を示す。
【0037】
以下に説明する両面研磨装置は、例えば、下定盤1、上定盤2、サンギア、及びインターナルギアの各駆動部を有する4ウェイ式を前提とする。但し、説明を簡単にするため、サンギア及びインターナルギア(図5及び図6参照)については、ここでは省略する。
【0038】
下定盤1、上定盤2、吊り天板3、連結部4、アクチュエータ5、支柱6、及び研磨パッド7a、7bは、それぞれ、図1の下定盤1、上定盤2、吊り天板3、連結部4、アクチュエータ5、支柱6、及び研磨パッド7a、7bに対応する。吊り天板3は、回転軸AXを中心とする円板状であり、上定盤2は、回転軸AXを中心とするリング状である。下定盤1は、図示しないサンギアとインターナルギアとの間に配置され、サンギア(回転軸AX)を中心として自転が可能な円板状を有する。
【0039】
連結部4は、上定盤2の半径方向の同一円周C0上に配置される複数個の吊り支柱からなる。本例では、連結部4は、同一円周C0上に配置される6個の吊り支柱からなるが、該吊り支柱の数は、これに限定されることはない。但し、連結部4は、上定盤2を支えることが目的の一つであるため、安定して上定盤2を支えるために同一円周C0上に3個以上配置することが好ましい。
【0040】
連結部4の材質は、特に限定されることはないが、例えば、金属製である。但し、連結部4の熱変形が上定盤2に影響しないように、連結部は、最小限の数、かつ最小限のサイズに設定することが好ましい。
【0041】
連結部4は、後述するアクチュエータ5が駆動されるときに、シーソーの原理により上定盤形状を変形させるときの支点として機能する。従って、連結部4は、該支点として機能するように、例えば、円柱状であることが好ましい。
【0042】
アクチュエータ5は、上定盤2の半径方向の同一円周C1、C2上であって、連結部2としての複数個の吊り支柱が配置される同一円周C0上とは異なる位置に配置される。本例では、アクチュエータ5が配置される同一円周C1、C2を2つにしているが、該同一円周は、1つ、例えば、C1及びC2のいずれか一方のみであってもよい。また、アクチュエータ5の数は、1個以上であればよいが、3個以上であることが好ましい。
【0043】
本例では、同一円周C1上に配置されるアクチュエータ5の数を10個とし、同一円周C2上に配置されるアクチュエータ5の数も10個としている。このように、アクチュエータ5が配置される同一円周C1、C2を2つとした場合、連結部4の内側の同一円周C1上に配置されるアクチュエータ5の数と、連結部4の外側の同一円周C2上に配置されるアクチュエータ5の数とは、同じに設定することができる。但し、両者の数は、互いに異なっていてもよい。
【0044】
このように、回転軸AXを中心とした場合に、連結部4としての吊り支柱(の中心点)が描く円のPCDとは異なるPCDの円周上にアクチュエータ5を配置することで、上定盤形状を様々な形に変形可能な可動機構を提供できる。
【0045】
具体的には、アクチュエータ5は、連結部4としての吊り支柱を支点にして上定盤形状を変形させる。すなわち、アクチュエータ5が駆動されていない状態では、下定盤1の上面と上定盤2の下面とは互いに平行である。この状態において、アクチュエータ5のうちの少なくとも1つが吊り天板3と上定盤2との距離を広げる又は狭める方向に駆動されると、連結部4を支点としたシーソーの原理により上定盤2が傾き、下定盤1の上面と上定盤2の下面とが互いに平行でなくなる。
【0046】
ここで、アクチュエータ5の構造例を説明する。
アクチュエータ5は、吊り天板3と上定盤2との距離(上下方向の間隔)を局所的に変更できる機構であれば、その動力源が特に限定されることはない。例えば、アクチュエータ5の動力源は、空気圧などの気体の圧力、油圧などの液体の圧力、電動力などを利用することができる。また、アクチュエータ5への動力供給は、両面研磨装置の外部から行うこともできるし、又は両面研磨装置の内部、例えば、ロータリーコネクタを用いて定盤回転軸経由で行うこともできる。
【0047】
以下では、動力源として空気圧を用いるエアーシリンダをアクチュエータ5とする例を説明する。
図3に示すように、アクチュエータ5は、エアーシリンダであり、シリンダチューブ9と、シリンダチューブ9内において上下方向に可動であるピストン10とを備える。シリンダチューブ9の上面は、吊り天板3の下面に固定される。ピストン10は、フローティングジョイント11を介して、上定盤2に結合される。
【0048】
そして、シリンダチューブ9内の空気12の圧力が高くなると、ピストン10は、下方向に移動するため、上定盤2を下方向に押す力を発生させる。また、シリンダチューブ9内の空気12の圧力が低くなると、ピストン10は、上方向に移動するため、上定盤2を上方向に引く力を発生させる。この時、フローティングジョイント11は、ピストン10の軸が中心軸Xからずれた場合の偏心や、ピストン10の軸が中心軸Xから傾いた場合の偏角などを吸収する。
【0049】
このように、エアーシリンダをアクチュエータ5とすることで、上定盤形状、すなわち、上定盤2の傾きを制御できる。
【0050】
なお、上定盤2は、線熱膨張係数が6×10−6/K以下の低熱膨張材(例えば、金属材料)からなることが好ましい。この場合、連結部4を最小限の数、かつ最小限のサイズにすることで、連結部4の熱変形が上定盤に伝わらなくなり、低熱膨張材の本来の機能(ウェーハと研磨パッドとの摩擦熱により変形し難い)を発揮することができるからである。
【0051】
以上の両面研磨装置によれば、吊り下げ形態の両面研磨装置に適用可能であり、定盤の熱変形を助長せず、かつ定盤形状を様々な形に変形可能な定盤の可動機構を提供することができる。従って、該両面研磨装置を用いてウェーハの両面を研磨する場合に、ウェーハ形状を長期的に安定化させることが可能となる。
【実施例】
【0052】
以下に本発明の実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、これらは、本発明を限定するものではない。
【0053】
(実施例)
以下に示す両面研磨装置を用いて、所定のGBIR(Global Backside Ideal Range)を実現可能なクロスライフ(研磨パッドの寿命)を検証した。ここで、GBIRとは、ウェーハの平坦度を表す指標の一つであり、裏面基準平面からウェーハ表面までの距離の最大値と最小値との差のことである。
【0054】
・両面研磨装置の詳細
下定盤、上定盤、サンギア、インターナルギアの各駆動部を有する4ウェイ式で20Bサイズの両面研磨装置を用いた。上定盤と吊り天板とは、同一円周上に配置される6個の吊り支柱で連結し、各吊り支柱の材料は、SUS(ステンレス鋼材)とした。下定盤及び上定盤の材料は、常温付近で熱膨張係数が小さいインバー(熱膨張係数=1.5×10−6/K〜4.0×10−6/K)とした。
【0055】
6個の吊り支柱が配置される同一円周のPCDに対して、それよりも300mm小さいPCDを有する同一円周上、すなわち、6個の吊り支柱が配置される同一円周から内側に150mm離れた同一円周上に、10個のアクチュエータを配置した。また、6個の吊り支柱が配置される同一円周のPCDに対して、それよりも300mm大きいPCDを有する同一円周上、すなわち、6個の吊り支柱が配置される同一円周から外側に150mm離れた同一円周上に、10個のアクチュエータを配置した。
【0056】
アクチュエータは、圧縮空気を駆動源としたエアーシリンダとし、上定盤の傾斜を調整する際には、両面研磨装置の外部の供給源から該両面研磨装置内のアクチュエータに圧縮空気を供給してアクチュエータを動作させた。
【0057】
そして、ウェーハの研磨及びドレスを繰り返し行うに当たって、上定盤形状、すなわち、上定盤の傾きをパッド形状に応じて変形させた。但し、下定盤と上定盤の傾斜度は、それぞれ測定した半径プロファイルから算出し、下定盤の傾斜度と上定盤の傾斜度との差が0.020μm/mm以下となるように調整した。
【0058】
・実験内容
ウェーハの加工(研磨)及び測定条件は、以下の通りである。
ウェーハは、直径300mmのP型シリコン単結晶ウェーハを用いた。
研磨パッドは、ショアA硬度85の発泡ポリウレタンパッドを用いた。
キャリアは、チタン基板に、インサートとしてガラス繊維にエポキシ樹脂を含浸したFRPを用いた。キャリアは、5枚を1セットとして上記両面研磨装置にセットし、ウェーハは、キャリア1枚毎に1枚をセットした。
スラリーは、シリカ砥粒含有、平均粒径35nm、砥粒濃度1.0wt%、pH10.5、KOHベースを用いた。
【0059】
加工荷重は、180gf/cmに設定した。
加工時間は、ウェーハの中心厚みのバッチ平均値が775±0.5μmに収まるように、研磨レートから逆算して設定した。
各駆動部の回転速度は、上定盤:−13.4rpm、下定盤:35rpm、サンギア:25rpm、及びインターナルギア:7rpmに設定した。
研磨パッドのドレッシングは、ダイヤ砥粒が電着されたドレスプレートを120gf/cmで純水を流しながら上下の各研磨パッドに摺接させることで行った。摺接時間は、5minとし、頻度は、5バッチ毎に実施した。
加工後のウェーハに対しては、SC−1洗浄を条件(NHOH:H:HO=1:1:15)で行った。
【0060】
・GBIRの算出
以上の実験内容の下で、ウェーハの研磨及びドレスを繰り返し行い、洗浄後のウェーハについてそのフラットネスを測定し、かつGBIRを算出した。なお、フラットネスは、洗浄後のウェーハをKLA TencorのWaferSightを用いて測定した。GBIRは、ウェーハのエッジから2mmの領域を除外して算出した。
【0061】
(比較例)
・両面研磨装置の詳細
比較例では、上記実施例の両面研磨装置において、アクチュエータ(エアーシリンダ)を有しないものを用いた。すなわち、上定盤形状を変形させることなく、下定盤の上面と上定盤の下面が常に平行な状態の両面研磨装置を用いた。
・実験内容
ウェーハの加工及び測定条件は、上記実施例の実験内容と同じ条件とした。
・GBIRの算出
上記実施例と同じ算出方法によりGBIRの算出を行った。
【0062】
(検証結果)
図4は、実施例と比較例とについてクロスライフとGBIRとの関係を示す。
同図において、横軸は、クロスライフを示し、バッチ処理数(積算値)に対応する。縦軸は、GBIRを示す。なお、実施例及び比較例ともに、1プロットは、1バッチ5枚の平均値である。
【0063】
ここで、GBIR及びクロスライフともに、比較例を基準に規格化することで、実施例における効果が明確化されるようにした。すなわち、GBIRは、バッチ処理数(積算値)が増えるに従い、次第に増加していく。そこで、比較例において、ウェーハのGBIRが所定値に達した時点を規格値1とし、かつGBIRが規格値1であるときのバッチ処理数(積算値)をクロスライフ(平均寿命)の規格値1とした。
【0064】
そして、実施例において、GBIRが規格値1に達した時点でのバッチ処理数(積算値)を実施例におけるクロスライフ(平均寿命)とし、実施例におけるクロスライフがどの位になるかを検証した。
【0065】
同図から明らかなように、GBIRのモニタリング推移は、実施例及び比較例ともに、バッチ処理数(積算値)が少ない段階では0.4近傍である。しかし、比較例のクロスライフ(規格値1)に対して、実施例のクロスライフは、約1.4となった。すなわち、実施例では、比較例に対して、GBIRの規格値1以下に収まるクロスライフが約1.4倍に向上することが確認された。
【0066】
以上の結果から分かるように、実施例では、両面研磨装置を用いてウェーハの両面を研磨する場合に、ウェーハ形状を長期的に安定化させることが可能であることが立証された。
【0067】
以上、説明してきたように、本発明によれば、吊り下げ形態の両面研磨装置において、定盤の熱変形を助長せず、かつ定盤形状を様々な形に変形可能な定盤の可動機構を提供することができる。従って、該両面研磨装置を用いてウェーハの両面を研磨する場合に、ウェーハ形状を長期的に安定化させることが可能となる。
【0068】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0069】
1…下定盤、 2…上定盤、 3…吊り天板、 4…連結部、 5…アクチュエータ、 6…支柱、 7a、7b…研磨パッド、 8…キャリア、 9…シリンダチューブ、 10…ピストン、 11…フローティングジョイント、 12…空気。
図1
図2
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図4
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図7