【文献】
旭硝子(株),“アモルファスフッ素樹脂「サイトップ:CYTOP」”,ポリファイル,2004年09月10日,第41巻,第9号,p.44-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基台と、前記基台上にフリップチップ実装された窒化物半導体紫外線発光素子と、前記窒化物半導体紫外線発光素子を封止して当該窒化物半導体紫外線発光素子から出射される光を集束または拡散させるレンズと、を備えてなる紫外線発光装置であって、
前記レンズは、重合体または共重合体の構造単位が、含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ、末端官能基がパーフルオロアルキル基である非晶質フッ素樹脂で構成され、当該非晶質フッ素樹脂の密度が2.11g/cm3よりも大きいことを特徴とする紫外線発光装置。
前記窒化物半導体紫外線発光素子の発光中心波長が200nm以上かつ365nm以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の紫外線発光装置。
基台にフリップチップ実装された窒化物半導体紫外線発光素子を封止して当該窒化物半導体紫外線発光素子から出射される光を集束または拡散させるレンズを形成する第1工程を備え、
前記レンズは、重合体または共重合体の構造単位が、含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ、末端官能基がパーフルオロアルキル基である非晶質フッ素樹脂で構成され、
前記第1工程またはその後の工程において、前記レンズを構成する前記非晶質フッ素樹脂をガラス転移温度以上まで加熱するとともに35MPa以上の圧力を加え、当該圧力を加えた状態で前記ガラス転移温度より30℃以上低い温度まで冷却することで、当該非晶質フッ素樹脂を高密度化処理することを特徴とする紫外線発光装置の製造方法。
前記第1工程において、複数の前記基台が一体化されてなる基台板上にフリップチップ実装された複数の前記窒化物半導体紫外線発光素子のそれぞれを封止する前記レンズを同時に形成し、
前記レンズを構成する前記非晶質フッ素樹脂の前記高密度化処理後に、前記レンズで封止された前記窒化物半導体紫外線発光素子が1つ以上含まれるように、前記基台板を分割する第2工程を、さらに備えることを特徴とする請求項5に記載の紫外線発光装置の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、窒化物半導体紫外線発光素子を非晶質フッ素樹脂で封止するとともに、当該非晶質フッ素樹脂の表面を球面に成形することでレンズを構成してもよい旨が記載されている。また、非晶質フッ素樹脂として、重合体または共重合体を構成する構造単位が含フッ素脂肪族環構造を有し、末端官能基がパーフルオロアルキル基である非結合性の非晶質フッ素樹脂を用いてもよい旨が記載されている。このような非晶質フッ素樹脂は、紫外線に曝露されても劣化し難く、紫外線を良好に透過するため(例えば、紫外線の透過率が90%以上)、窒化物半導体紫外線発光素子の封止に適している。
【0006】
しかしながら、非晶質フッ素樹脂は、従来から広く用いられているシリコーン樹脂と比較すると、屈折率が低くレンズ性能が低いという問題がある。例えば、特許文献2では、ピーク発光波長が265nmの窒化物半導体紫外線発光素子を封止する場合において、シリコーン樹脂の屈折率は1.4程度であるが、非晶質フッ素樹脂の屈折率は1.35程度であると報告されている(特許文献2の明細書の段落[0019]及び[0053]参照)。
【0007】
両者の差は僅かなようにも見えるが、屈折率がレンズ性能に与える影響は非常に大きい。例えば、封止されていない窒化物半導体紫外線発光素子の光取出効率を100%とするとき、外形が半球状であるシリコーン樹脂で当該窒化物半導体紫外線発光素子を封止して光取出効率を198%まで増大させることができたとしても、当該シリコーン樹脂と同じ大きさ及び同じ形状の非晶質フッ素樹脂で当該窒化物半導体紫外線発光素子を封止した場合、光取出効率を150%までしか増大させることができない。
【0008】
ただし、シリコーン樹脂は、紫外線及びその周辺波長の光に曝露されると急速に劣化するため、現実的に製品として出荷する紫外線発光装置に使用することはできない。したがって、現実的に製品として出荷する紫外線発光装置には、シリコーン樹脂よりも屈折率が小さくレンズ性能は劣るが、紫外線及びその周辺波長の光に曝露されても劣化し難い非晶質フッ素樹脂を使用せざるを得ない。
【0009】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、レンズ性能を向上させた非晶質フッ素樹脂で構成されたレンズで窒化物半導体紫外線発光素子を封止した紫外線発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、基台と、前記基台上にフリップチップ実装された窒化物半導体紫外線発光素子と、前記窒化物半導体紫外線発光素子を封止して当該窒化物半導体紫外線発光素子から出射される光を集束または拡散させるレンズと、を備えてなる紫外線発光装置であって、前記レンズは、重合体または共重合体の構造単位が、含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ、末端官能基がパーフルオロアルキル基である非晶質フッ素樹脂で構成され、当該非晶質フッ素樹脂の密度が2.11g/cm
3よりも大きいことを特徴とする紫外線発光装置を提供する。
【0011】
この紫外線発光装置によれば、標準状態の非晶質フッ素樹脂よりもシリコーン樹脂に近い屈折率を有する非晶質フッ素樹脂で構成したレンズで、窒化物半導体紫外線発光素子を封止することができる。即ち、標準状態の非晶質フッ素樹脂よりもシリコーン樹脂のレンズ性能に近い非晶質フッ素樹脂で構成したレンズで、窒化物半導体紫外線発光素子を封止することができる。なお、標準状態の非晶質フッ素樹脂とは、密度を調整していない非晶質フッ素樹脂であって、室温(23℃)での密度が2.030g/cm
3である非晶質フッ素樹脂である。
【0012】
なお、本発明において、AlGaN系半導体は、一般式AlxGa1−xN(xはAlNモル分率、0≦x≦1)で表わされる3元(または2元)
化合物を基本とし、そのバンドギャップエネルギがGaN(x=0)のバンドギャップエネルギ(約3.4eV)以上の3族窒化物半導体であり、当該バンドギャップエネルギに関する条件を満たす限りにおいて、微量のIn、P、As等が含有されている場合も含まれる。
【0013】
また、上記特徴の紫外線発光装置において、前記レンズを構成する前記非晶質フッ素樹脂の密度が2.21g/cm
3よりも大きくてもよい。
【0014】
この紫外線発光装置によれば、シリコーン樹脂よりも大きい屈折率を有する非晶質フッ素樹脂で構成されたレンズで、窒化物半導体紫外線発光素子を封止することができる。即ち、シリコーン樹脂よりも良いレンズ性能を有する非晶質フッ素樹脂で構成されたレンズで、窒化物半導体紫外線発光素子を封止することができる。
【0015】
また、上記特徴の紫外線発光装置において、前記レンズの表面の一部が、球面または凸状の曲面であってもよい。また、上記特徴の紫外線発光装置において、前記窒化物半導体紫外線発光素子の発光中心波長が200nm以上かつ365nm以下の範囲内にあってもよい。
【0016】
また、本発明は、基台にフリップチップ実装された窒化物半導体紫外線発光素子を封止して当該窒化物半導体紫外線発光素子から出射される光を集束または拡散させるレンズを形成する第1工程を備え、前記レンズは、重合体または共重合体の構造単位が、含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ、末端官能基がパーフルオロアルキル基である非晶質フッ素樹脂で構成され、前記第1工程またはその後の工程において、前記レンズを構成する前記非晶質フッ素樹脂をガラス転移温度以上まで加熱するとともに35MPa以上の圧力を加え、当該圧力を加えた状態で前記ガラス転移温度より30℃以上低い温度まで冷却することで、当該非晶質フッ素樹脂を高密度化処理することを特徴とする紫外線発光装置の製造方法を提供する。
【0017】
この紫外線発光装置の製造方法によれば、標準状態の非晶質フッ素樹脂よりもシリコーン樹脂に近い屈折率を有する非晶質フッ素樹脂で構成したレンズで、窒化物半導体紫外線発光素子を封止した、紫外線発光装置を得ることができる。即ち、標準状態の非晶質フッ素樹脂よりもシリコーン樹脂に近いレンズ性能を有する非晶質フッ素樹脂で窒化物半導体紫外線発光素子を封止した、紫外線発光装置を得ることができる。
【0018】
また、上記特徴の紫外線発光装置の製造方法において、前記第1工程において、複数の前記基台が一体化されてなる基台板上にフリップチップ実装された複数の前記窒化物半導体紫外線発光素子のそれぞれを封止する前記レンズを同時に形成し、前記レンズを構成する前記非晶質フッ素樹脂の前記高密度化処理後に、前記レンズで封止された前記窒化物半導体紫外線発光素子が1つ以上含まれるように、前記基台板を分割する第2工程を、さらに備えてもよい。
【0019】
この紫外線発光装置の製造方法によれば、複数の紫外線発光装置における非晶質フッ素樹脂が同時に形成されるため、紫外線発光装置を効率良く製造することができる。
【0020】
また、本発明は、基台にフリップチップ実装されるとともにレンズで封止された窒化物半導体紫外線発光素子を有する1または複数の紫外線発光装置を、被実装部に実装する第3工程と、前記第3工程の後に、前記非晶質フッ素樹脂を高密度化処理する第4工程と、を備え、前記レンズは、重合体または共重合体の構造単位が、含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ、末端官能基がパーフルオロアルキル基である非晶質フッ素樹脂で構成され、
前記第4工程において、前記レンズを構成する前記非晶質フッ素樹脂をガラス転移温度以上まで加熱するとともに35MPa以上の圧力を加え、当該圧力を加えた状態で前記ガラス転移温度より30℃以上低い温度まで冷却することを特徴とする紫外線発光モジュールの製造方法を提供する。
【0021】
この紫外線発光モジュールの製造方法によれば、標準状態の非晶質フッ素樹脂よりもシリコーン樹脂に近い屈折率を有する非晶質フッ素樹脂で窒化物半導体紫外線発光素子を封止した、紫外線発光モジュールを得ることができる。即ち、標準状態の非晶質フッ素樹脂よりもシリコーン樹脂に近いレンズ性能を有する非晶質フッ素樹脂で窒化物半導体紫外線発光素子を封止した、紫外線発光モジュールを得ることができる。
【0022】
さらに、この紫外線発光モジュールの製造方法によれば、紫外線発光装置の実装後に非晶質フッ素樹脂の高密度化処理が行われる。この場合、紫外線発光装置の実装が完了するまで、高温処理(非晶質フッ素樹脂のガラス転移温度以上の処理であって、非晶質フッ素樹脂が高密度化されていたとすればその密度を元に戻してしまうような温度になる処理)を実行することが可能になる。例えば、紫外線発光装置の実装時に、はんだリフローを実行することが可能になる。
【発明の効果】
【0023】
上記特徴の紫外線発光装置によれば、標準状態の非晶質フッ素樹脂よりもシリコーン樹脂のレンズ性能に近くなるまでレンズ性能を向上させた非晶質フッ素樹脂で構成されたレンズで、窒化物半導体紫外線発光素子を封止することができる。
【0024】
また、一般的に、ベンゼン環を付加するなどの分子構造の変更や、無機材料などの添加によって、樹脂の屈折率を増大させるという方法が知られている。しかし、窒化物半導体紫外線発光素子を非晶質フッ素樹脂で封止する場合、非晶質フッ素樹脂の分子構造を変更すれば光の吸収波長が長波長化して紫外線の吸収量が増大するため、光取出効率が低下してしまう。また、末端官能基がパーフルオロアルキル基である非晶質フッ素樹脂は、無機材料などの添加物との親和性が低いため、添加物が均一に分散せず光の透過率が減少して光取出効率が低下してしまう。これらに対して、高密度化することで屈折率を高める方法であれば、分子構造は変更されず添加物も使用されないため、光取出効率の低下を防止することができる。したがって、高密度化することで屈折率を高めた非晶質フッ素樹脂で構成されたレンズで窒化物半導体紫外線発光素子を封止することで、光取出効率の低下を抑制しつつレンズ性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る紫外線発光装置について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において参照する図面は、説明の理解を容易にするために、一部において要部を強調して模式的に示しているため、各部の寸法比が必ずしも実際の素子及び使用する部品と同じ寸法比であるとは限らない。また、以下では、本発明の実施形態に係る紫外線発光装置が備える窒化物半導体紫外線発光素子が、発光ダイオードである場合を例に挙げて説明する。
【0027】
<窒化物半導体紫外線発光素子>
まず、本発明の実施形態に係る紫外線発光装置が備える窒化物半導体紫外線発光素子の一例について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る紫外線発光装置が備える窒化物半導体紫外線発光素子の素子構造の一例を模式的に示す断面図であり、
図2は、
図1に示す窒化物半導体紫外線発光素子の平面視形状を模式的に示す平面図である。
【0028】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る紫外線発光装置が備える窒化物半導体紫外線発光素子10は、サファイア基板11の主面上に、複数のAlGaN系半導体層からなる半導体積層部12、n電極13、及び、p電極14を備える。なお、窒化物半導体紫外線発光素子10は、後述の
図3に示すようにフリップチップ実装され、半導体積層部12からの発光は、サファイア基板11の裏面側から外部に取り出されることが予め想定されている。
【0029】
半導体積層部12は、一例として、サファイア基板11側から順番に、AlN層20、AlGaN層21、n型AlGaNからなるn型クラッド層22、活性層23、p型AlGaNの電子ブロック層24、p型AlGaNのp型クラッド層25、p型GaNのp型コンタクト層26を積層して構成される。n型クラッド層22からp型コンタクト層26により発光ダイオード構造が形成される。サファイア基板11とAlN層20とAlGaN層21は、その上に発光ダイオード構造を形成するためにテンプレートとして機能する。n型クラッド層22より上部の活性層23、電子ブロック層24、p型クラッド層25、及び、p型コンタクト層26の一部が、n型クラッド層22の一部表面が露出するまで反応性イオンエッチング等により除去されている。当該除去後のn型クラッド層22の露出面より上部の活性層23からp型コンタクト層26まで半導体層を、便宜的に、「メサ部分」と称する。活性層23は、一例として、n型AlGaNのバリア層とAlGaNまたはGaNの井戸層からなる単層の量子井戸構造となっている。活性層23は、下側層と上側層にAlNモル分率の大きいn型及びp型AlGaN層で挟持されるダブルヘテロジャンクション構造であればよく、また、上記単層の量子井戸構造を多層化した多重量子井戸構造であってもよい。
【0030】
各AlGaN層は、有機金属化合物気相成長(MOVPE)法、あるいは、分子線エピタキシ(MBE)法等の周知のエピタキシャル成長法により形成されており、n型層のドナー不純物として例えばSiを使用し、p型層のアクセプタ不純物として例えばMgを使用する。
【0031】
n型クラッド層22の露出した表面に、例えば、Ti/Al/Ti/Auのn電極13が形成されている。また、p型コンタクト層26の表面に、例えば、Ni/Auのp電極14が形成されている。なお、n電極13及びp電極14を構成する金属層の層数、材質は、上記例示した層数、材質に限定されるものではない。
【0032】
また、
図2に示すように、窒化物半導体紫外線発光素子10の平面視のチップ形状は正方形で、チップの外周部分において、中央に位置する平面視櫛形形状の上記メサ部分を取り囲むように、n型クラッド層22の表面が露出している。さらに、n電極13が上記メサ部分を取り囲むように環状にn型クラッド層22の露出表面上に形成され、p電極14が上記メサ部分の頂部に形成されている構成例を想定する。
図2において、ハッチングを施した部分が、それぞれ、n電極13及びp電極14である。また、メサ部分とn型クラッド層22の露出表面の境界線BLを参照用に示している。
【0033】
本例の窒化物半導体紫外線発光素子10では、
図2に示すように、チップの4隅においてn電極13の露出面積が広くなっており、フリップチップ実装において、当該4隅において、n電極13がサブマウント上の対応する電極パッドとの間でボンディング材料を介して物理的かつ電気的に接続する構成例を想定する。なお、窒化物半導体紫外線発光素子10の平面視のチップ形状、メサ部分の平面視形状、n電極13及びp電極14の個数及び形成位置は、
図2に例示した形状、個数、形成位置に限定されるものではない。また、本例の窒化物半導体紫外線発光素子では、チップサイズとして、1辺が0.8mm〜1.5mm程度を想定するが、チップサイズは当該範囲内に限定されるものではない。
【0034】
窒化物半導体紫外線発光素子10は、サファイア基板11の表面側に形成される半導体積層部12、n電極13、及び、p電極14は、上記に例示した構成及び構造に限定されるものではなく、種々の公知の構成及び構造を採用し得る。また、窒化物半導体紫外線発光素子10は、半導体積層部12、n電極13、及び、p電極14以外の構成要素、例えば、保護膜等を備えていてもよい。よって、各AlGaN層20〜26、各電極13,14の膜厚等の詳細な説明は割愛する。
【0035】
後述するように、本発明の実施形態に係る紫外線発光装置は、サブマウント等の基台に窒化物半導体紫外線発光素子10がフリップチップ実装されるとともに非晶質フッ素樹脂で封止されている構成において、紫外線発光装置の出荷後における非晶質フッ素樹脂の形状変化を防止する構成に特徴がある。よって、サファイア基板11の表面上に形成される半導体積層部12、n電極13、及び、p電極14については、本発明の本旨ではなく、また、具体的な素子構造として種々の変形例が考えられ、周知の製造方法により製造可能であるので、窒化物半導体紫外線発光素子10の製造方法についての詳細な説明は割愛する。
【0036】
<紫外線発光装置>
次に、本発明の実施形態に係る紫外線発光装置について、
図3及び
図4を参照して説明する。
図3は、本発明の実施形態に係る紫外線発光装置の一例を模式的に示す断面図である。
図4は、
図3に示す紫外線発光装置で使用されるサブマウントの平面視形状と断面形状を模式的に示す平面図と断面図である。
【0037】
図3に示すように、窒化物半導体紫外線発光素子10は、サファイア基板11の主面側がサブマウント30に載置されるように実装される(フリップチップ実装される)。なお、
図3を参照した以下の説明では、サブマウント30の載置面を基準として窒化物半導体紫外線発光素子10側の方向を上方向とする。
【0038】
図4において、(A)はサブマウント30の平面視形状を示す平面図であり、(B)は当該平面図(A)におけるサブマウント30の中心を通過するサブマウント30の表面に垂直な断面での断面形状を示す断面図である。サブマウント30の一辺の長さは、窒化物半導体紫外線発光素子10を搭載して、その周囲に窒化物半導体紫外線発光素子10を封止するための樹脂を形成できる余裕があれば、特定の値に限定されるものではない。一例として、平面視正方形のサブマウント30の一辺の長さは、例えば、搭載する同じく平面視正方形の窒化物半導体紫外線発光素子10のチップサイズ(一辺の長さ)の1.5〜2倍程度以上が好ましい。なお、サブマウント30の平面視形状は正方形に限定されるものではない。
【0039】
サブマウント30は、絶縁性セラミックス等の絶縁材料からなる平板状の基材31を備え、基材31の表面側に、アノード側の第1金属電極配線32とカソード側の第2金属電極配線33がそれぞれ形成されてなり、基材31の裏面側にリード端子34,35が形成されている。基材31の表面側の第1及び第2金属電極配線32,33は、上記基材31に設けられた貫通電極(図示せず)を介して、基材31の裏面側のリード端子34,35と、各別に接続している。サブマウント30を別の配線基板等の上に載置する場合に、当該配線基板上の金属配線とリード端子34,35との間で電気的な接続が形成される。また、リード端子34,35は、基材31の裏面の略全面を覆い、ヒートシン
クの機能を果たしている。
【0040】
第1及び第2金属電極配線32,33は、
図4に示すように、基材31の中央部分の窒化物半導体紫外線発光素子10が搭載される箇所及びその周囲に形成され、互いに離間して配置され、電気的に分離している。第1金属電極配線32は、第1電極パッド320とそれに接続する第1配線部321で構成される。また、第2金属電極配線33は、4つの第2電極パッド330とそれらに接続する第2配線部331で構成される。第1電極パッド320は、窒化物半導体紫外線発光素子10のp電極14の櫛形の平面視形状の外枠(櫛形の凹部にもメサ部分があると仮定した場合の形状の外周)より僅かに大きい平面視形状を有し、基材31の中央部分の中心に位置している。第2電極パッド330の平面視形状、個数、及び配置は、窒化物半導体紫外線発光素子10のp電極14が第1電極パッド320と対面するように窒化物半導体紫外線発光素子10を配置した場合に、n電極13のチップの4隅の露出面積が広くなっている部分が第2電極パッド330とそれぞれ対面するように設定されている。
図4(A)において、第1電極パッド320と第2電極パッド330にそれぞれハッチングを付している。なお、第1及び第2金属電極配線32,33の平面視形状は、
図4(A)に示す形状に限定されるものではなく、p電極14が第1電極パッド320と対面し、n電極13の4隅が第2電極パッド330と対面できる平面視形状であれば、種々の変形が可能である。
【0041】
サブマウント30の基材31は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)等の紫外線被曝によって劣化しない絶縁材料で形成される。なお、基材31は、放熱性の点でAlNが好ましいが、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(SiN)、または、窒化ホウ素(BN)であっても良く、また、アルミナ(Al
2O
3)等のセラミックスであってもよい。また、基材31は、上記絶縁材料の無垢材に限らず、シリカガラスをバインダーとして上記絶縁材料の粒子を密に結合させた焼結体でも良く、さらに、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜、工業用ダイヤモンド薄膜等でもよい。
【0042】
なお、サブマウント30が、基材31の裏面側にリード端子34,35を設けない構成の場合、基材31は、絶縁材料だけで構成するのではなく、金属膜(例えば、Cu、Al等)と上述の絶縁材料からなる絶縁層の積層構造としてもよい。
【0043】
第1及び第2金属電極配線32,33は、一例として、銅の厚膜メッキ膜と、当該厚膜メッキ膜の表面(上面及び側壁面)を被覆する1層または多層の表面金属膜で構成される。当該表面金属膜の最外層は、厚膜メッキ膜を構成する銅よりイオン化傾向の小さい金属(例えば、金(Au)または白金族金属(Ru,Rh,Pd,Os,Ir,Pt、または、これらの内の2以上の合金)または金と白金族金属の合金)で構成される。
【0044】
図3に示すように、窒化物半導体紫外線発光素子10は、n電極13とp電極14を下向きにして、p電極14と第1電極パッド320、n電極13の4隅と4つの第2電極パッド330が、それぞれ対向してAuSnはんだや金バンプ等のボンディング材料B1を介して電気的及び物理的に接続して、基材31の中央部分上に載置され固定されている。なお、ボンディング材料B1をAuSnはんだ等のはんだ材料で構成する場合において、p電極14とn電極13の各頂面(
図3中の下面)が同一平面となるように高さを揃えて形成し、はんだリフロー等の周知のはんだ付け方法で、p電極14と第1金属電極配線32、n電極13と第2金属電極配線33を、物理的かつ電気的に接続してもよい。さらに、この場合、p電極14とn電極13の各頂面が同一平面となるように高さを揃える方法として、例えば、p電極14と電気的に接続し、絶縁保護膜を介して、上記メサ部分の頂面(
図3中の下面)及び側面を覆うようにp側のメッキ電極を形成し、当該p側のメッキ電極から離間して、n電極13と電気的に接続するn側のメッキ電極を、p側のメッキ電極と同じ高さに、電解メッキ法等により形成する方法が考えられる。当該メッキ電極の詳細については、国際公開第2016/157518号の明細書等の記載が参考になる。
【0045】
また、
図3に示すように、サブマウント30上に実装された窒化物半導体紫外線発光素子10は、被覆樹脂40及びレンズ41によって封止されている。具体的には、窒化物半導体紫外線発光素子10の上面と側面、及び、サブマウント30の上面(第1及び第2金属電極配線32,33の上面及び側面、第1及び第2金属電極配線32,33間に露出した基材31の表面)が、被覆樹脂40によって被覆され、サブマウント30と窒化物半導体紫外線発光素子10の間の間隙部に被覆樹脂40が充填されている。そして、表面に被覆樹脂40が形成されている窒化物半導体紫外線発光素子10の裏面及び側面を覆って封止するように、レンズ41が設けられている。なお、レンズ41は、窒化物半導体紫外線発光素子10から出射される光を少なくとも集束または拡散させるレンズ形状であり、その形状は紫外線発光装置1の目的に応じて適宜設計される。
【0046】
被覆樹脂40及びレンズ41は、耐熱性、紫外線耐性、及び、紫外線透過性に優れた非晶質フッ素樹脂で構成される。非晶質フッ素樹脂としては、結晶性ポリマーのフッ素樹脂を共重合化してポリマーアロイとして非晶質化させたものや、パーフルオロジオキソールの共重合体(デュポン社製の商品名テフロンAF(登録商標))やパーフルオロブテニルビニルエーテルの環化重合体(旭硝子社製の商品名サイトップ(登録商標))が挙げられる。
【0047】
非晶質フッ素樹脂は、金属に対して結合性を呈する反応性の末端官能基を有している結合性の非晶質フッ素樹脂と、当該反応性の末端官能基を有していない非結合性の非晶質フッ素樹脂とに大別される。当該反応性の末端官能基は、一例として、カルボキシル基(COOH)またはエステル基(COOR)である。ただし、Rはアルキル基を表す。
【0048】
電極の周囲に形成される被覆樹脂40は、電極を構成する金属のマイグレーションの要因となり得る反応性の末端官能基を有していない非結合性の非晶質フッ素樹脂で構成すると、当該マイグレーションによる短絡を防止することができる。具体的に、被覆樹脂40は、重合体または共重合体を構成する構造単位が含フッ素脂肪族環構造を有し、末端官能基が金属等に対して難結合性を呈するCF
3等のパーフルオロアルキル基である非結合性の非晶質フッ素樹脂で構成されている。また、本発明の実施形態に係る紫外線発光装置1では、レンズ41が、被覆樹脂40と同様の非結合性の非晶質フッ素樹脂で構成されている。なお、以下において、本発明の実施形態に係る紫外線発光装置1が備える被覆樹脂40及びレンズ41を構成する非結合性の非晶質フッ素樹脂を、説明の簡略化のために単に「非晶質フッ素樹脂」と称する場合がある。また、
図3では、被覆樹脂40とレンズ41が異なる部材であって区別可能であるかのように図示しているが、両者が一体化しており区別不可能であってもよい。
【0049】
含フッ素脂肪族環構造を有する構造単位としては、環状含フッ素単量体に基づく単位(以下、「単位A」)、または、ジエン系含フッ素単量体の環化重合により形成される単位(以下、「単位B」)が好ましい。なお、当該単位A及び単位Bに関しては、本願と同じ出願人による国際公開第2014/178288号(特許文献1)の段落[0031]〜[0058]に詳細に説明されているので、参照されたい。
【0050】
なお、上記単量体の環化重合方法、単独重合方法及び共重合方法としては、例えば特開平4−189880号公報等に開示された公知の方法を適用できる。そして、上記単量体の重合(環化重合、単独重合、共重合)時における上記単量体の濃度の調整、開始剤の濃度の調整、添加移動剤の添加等の方法により、所望の重量平均分子量である非晶質フッ素樹脂が得られる。また、以下では、非晶質フッ素樹脂を構成する重合体または共重合体の重量平均分子量を、単に非晶質フッ素樹脂の重量平均分子量として説明している。
【0051】
また、重合処理後の非晶質フッ素樹脂の末端官能基には、上述の反応性の末端官能基やその他不安定な官能基が形成されている可能性がある。そのため、末端官能基がCF
3である非結合性の非晶質フッ素樹脂を得る場合は、例えば、特開平11−152310号公報等に開示された公知の方法を用いて、フッ素ガスを当該重合処理後の非晶質フッ素樹脂と接触させることで、これらの反応性の末端官能基や不安定な末端官能基を非反応性の末端官能基であるCF
3に置換する。
【0052】
非結合性の非晶質フッ素樹脂の市販品の一例として、サイトップ(旭硝子社製)等が挙げられる。なお、末端官能基がCF
3であるサイトップは、下記の化1に示す上記単位Bの重合体である。
【0054】
<紫外線発光装置の製造方法>
次に、本発明の実施形態に係る紫外線発光装置の製造方法について説明する。
【0055】
まず、ダイシングされた窒化物半導体紫外線発光素子10のベアチップを、サブマウント30の第1及び第2金属電極配線32,33上に、周知のフリップチップ実装により固定する。具体的には、p電極14と第1金属電極配線32が、AuSnはんだや金バンプ等のボンディング材料B1を介して、物理的かつ電気的に接続し、n電極13と第2金属電極配線33が、ボンディング材料B1を介して、物理的かつ電気的に接続する。
【0056】
引き続き、非結合性の非晶質フッ素樹脂を、含フッ素溶媒、好ましくは、非プロトン性含フッ素溶媒に溶解した塗工液を準備する。
【0057】
引き続き、準備した塗工液をサブマウント30及び窒化物半導体紫外線発光素子10上に、剥離性の良いテフロンニードル等を用いて注入した後、塗工液を徐々に加熱しながら溶媒を蒸発させて、窒化物半導体紫外線発光素子10の上面と側面、サブマウント30の上面(第1及び第2金属電極配線32,33の上面及び側面、第1及び第2金属電極配線32,33間に露出した基材31の表面)、及び、サブマウント30と窒化物半導体紫外線発光素子10の間の間隙部に、非結合性の非晶質フッ素樹脂である被覆樹脂40が形成される。なお、溶媒の蒸発に当たっては、被覆樹脂40内に気泡が残らないように、溶媒の沸点以下の低温域(例えば、室温付近)から溶媒の沸点以上の高温域(例えば、200℃付近)まで徐々に加熱して、溶媒を蒸発させる。
【0058】
引き続き、非結合性の非晶質フッ素樹脂の分解が開始する温度(約350℃)以下の温度範囲、例えば、150℃〜300℃、より好ましくは、200℃〜300℃の温度範囲で、被覆樹脂40を加熱して軟化させ、窒化物半導体紫外線発光素子10の上面の被覆樹脂40を窒化物半導体紫外線発光素子10側に向けて押圧する。
【0059】
引き続き、被覆樹脂40の上部に、被覆樹脂40と同じ非結合性の非晶質フッ素樹脂製のレンズ41を、例えば圧縮成形、トランスファー成形等の周知の成形方法により、窒化物半導体紫外線発光素子10を覆うように形成する。ただし、この非晶質フッ素樹脂のレンズ41の成形時と同時または成形後に、非晶質フッ素樹脂を高密度化する処理を行う。詳細については後述する<非晶質フッ素樹脂の高密度化>において説明するが、非晶質フッ素樹脂を高密度化することで屈折率を大きくすることが可能になり、レンズ41のレンズ性能を高めることができる。
【0060】
<紫外線発光モジュール>
次に、本発明の実施形態に係る紫外線発光装置1を備えた紫外線発光モジュールの一例について図面を参照して説明する。
図5は、本発明の実施形態に係る紫外線発光モジュールの一例を模式的に示す断面図である。
【0061】
図5に示すように、紫外線発光モジュール(例えば、紫外線殺菌装置)50は、紫外線発光装置1を備えている。例えば、Auバンプ等のボンディング材料B2を介して、被実装部51におけるランド511と紫外線発光装置1におけるリード端子34とが物理的かつ電気的に接続されるとともに、被実装部51におけるランド512と紫外線発光装置1におけるリード端子35が物理的かつ電気的に接続されている。
【0062】
このとき、実装しようとする紫外線発光装置1が備える非晶質フッ素樹脂のレンズ41が既に高密度化されている場合、高温(例えば、ガラス転移温度以上)に曝すことで分子が動き易くなり、密度が低下するおそれがある。そこで、高密度化されている非晶質フッ素樹脂のレンズ41を備えた紫外線発光装置1を被実装部51に実装する場合、例えば、超音波振動によるボンディングなどの低温(例えば、ガラス転移温度より低い温度)でも実施可能な実装方法を用いると、好ましい。
【0063】
<非晶質フッ素樹脂の高密度化>
本発明の実施形態に係る窒化物半導体紫外線発光素子10が備えるレンズ41を構成する非晶質フッ素樹脂の高密度化について、以下図面を参照して説明する。
【0064】
図6は、非晶質フッ素樹脂の密度と屈折率の関係を示したグラフである。なお、
図6に示すグラフにおいて、横軸は密度(g/cm
3)、縦軸は紫外線(波長265nm)に対する屈折率である。
【0065】
図6に示すグラフは、下記式(1)及び(2)より得られる。下記式(1)は、ローレンツ・ローレンス式であり、nは屈折率、Nは数密度、αは分極率、ρは密度、Mは分子量、[R]は分子屈折である。下記式(1)において、Mは278、[R]はD線(波長589.29nm)の値が28.12であり、それぞれ既知である。この2つの値を下記式(1)に代入するとともに、任意の密度ρの値を下記式(1)に代入することで、当該密度である非晶質フッ素樹脂のD線の屈折率nが求められる。
【0067】
上記式(1)に基づいて算出される、任意密度である非晶質フッ素樹脂のD線の屈折率を下記式(2)に代入することで、当該任意密度である非晶質フッ素樹脂の紫外線の屈折率を算出することができる。なお、下記式(2)において、n
S,Dは標準状態である非晶質フッ素樹脂のD線の屈折率(1.333)、n
A,Dは任意密度である非晶質フッ素樹脂のD線の屈折率、n
S,UVは標準状態である非晶質フッ素樹脂の紫外線の屈折率(1.365)、n
A,UVは上記任意密度である非晶質フッ素樹脂の紫外線の屈折率である。なお、標準状態の非晶質フッ素樹脂とは、密度を調整していない非晶質フッ素樹脂であって、室温(23℃、以下同じ)での密度ρは2.030g/cm
3である。なお、以下では、非晶質フッ素樹脂の紫外線の屈折率を、単に「屈折率」と称する。
【0069】
図6に示すように、非晶質フッ素樹脂の密度を大きくすることで、非晶質フッ素樹脂の屈折率を大きくすることが可能である。特に、非晶質フッ素樹脂の密度を2.11g/cm
3よりも大きくすることで、標準状態である非晶質フッ素樹脂の屈折率(1.365)とシリコーン樹脂の屈折率(1.4)との平均値1.38よりも屈折率を大きくすることができる。したがって、標準状態である非晶質フッ素樹脂よりもシリコーン樹脂に近い屈折率を有する非晶質フッ素樹脂で構成されたレンズ41で、窒化物半導体紫外線発光素子10を封止することができる。即ち、標準状態である非晶質フッ素樹脂よりもシリコーン樹脂のレンズ性能に近い非晶質フッ素樹脂で構成されたレンズ41で、窒化物半導体紫外線発光素子10を封止することができる。
【0070】
さらに、非晶質フッ素樹脂の密度を2.21g/cm
3よりも大きくすることで、シリコーン樹脂よりも屈折率を大きくすることができる。したがって、シリコーン樹脂よりも大きい屈折率を有する非晶質フッ素樹脂で構成されたレンズ41で、窒化物半導体紫外線発光素子10を封止することができる。即ち、シリコーン樹脂よりも良いレンズ性能を有する非晶質フッ素樹脂で構成されたレンズ41で、窒化物半導体紫外線発光素子10を封止することができる。
【0071】
以上のように、本発明の実施形態に係る紫外線発光装置1は、標準状態である非晶質フッ素樹脂よりも屈折率を大きくすることでレンズ性能を向上させた非晶質フッ素樹脂で構成されたレンズ41で、窒化物半導体紫外線発光素子10を封止することができる。
【0072】
また、一般的に、ベンゼン環を付加するなどの分子構造の変更や、無機材料などの添加によって、樹脂の屈折率を増大させるという方法が知られている。しかし、窒化物半導体紫外線発光素子10を非晶質フッ素樹脂で封止する場合、非晶質フッ素樹脂の分子構造を変更すれば光の吸収波長が長波長化して紫外線の吸収量が増大するため、光取出効率が低下してしまう。また、末端官能基がパーフルオロアルキル基である非晶質フッ素樹脂は、無機材料などの添加物との親和性が低いため、添加物が均一に分散せず光の透過率が減少して光取出効率が低下してしまう。これらの方法に対して、密度を大きくすることで屈折率を高める方法であれば、分子構造は変更されず添加物も使用されないため、光取出効率の低下を防止することができる。したがって、高密度化することで屈折率を高めた非晶質フッ素樹脂で構成されたレンズ41で窒化物半導体紫外線発光素子10を封止することで、光取出効率の低下を抑制しつつレンズ性能を向上させることができる。
【0073】
非晶質フッ素樹脂を高密度化させる1つの方法として、例えば、レンズ41の成形時と同時または成形後に、非晶質フッ素樹脂に圧力を加えるという方法が挙げられる。具体的には、非晶質フッ素樹脂をガラス転移温度(108℃)以上まで加熱した状態で圧力を加えて高密度化し、当該圧力を加えた状態のままガラス転移温度より30℃以上低い温度まで冷却して、高密度化した状態を固定化するという方法である。
【0074】
上記の方法で非晶質フッ素樹脂を高密度化させる場合について、図面を参照して説明する。
図7は、非晶質フッ素樹脂に0MPa〜100MPaの圧力(ゲージ圧、以下同じ)を加えた場合における温度と比容積の関係を示したグラフである。
図8は、140℃におけるlog圧力とlog比容積の関係を示したグラフである。
図9は、室温における非晶質フッ素樹脂の圧力と密度の関係を示したグラフである。なお、
図7に示すグラフにおいて、横軸は温度(℃)、縦軸は比容積(m
3/kg)である。また、
図8に示すグラフにおいて、横軸はlog圧力、縦軸はlog比容積である。また、
図9に示すグラフにおいて、横軸はガラス転移温度以上の温度からガラス転移温度より30℃以上低い温度に至るまで非晶質フッ素樹脂に加え続けた圧力(MPa)、縦軸は室温における密度(g/cm
3)である。
【0075】
図7に示すように、ガラス転移温度(108℃)以上の温度において、非晶質フッ素樹脂に加える圧力を大きくするほど、比容積が小さくなる(密度が大きくなる)。ここで、
図7において、特定の温度における圧力及び比容積をそれぞれ読みとることで、特定の温度における圧力と比容積の関係を求めることができる。
図8に示すグラフは、
図7の140℃における圧力及び比容積の関係を示したものであり、30MPa〜100MPaの圧力及び比容積の関係を示している。
【0076】
図8に示す近似直線は、
図7の140℃における30MPa〜100MPaの圧力及び比容積のそれぞれの常用対数値を、線形近似して得られたものである。この近似直線は、log圧力をX、log比容積をYとすると、下記式(3)のように表せられる。なお、この近似直線の寄与率R
2は0.99であるから、log圧力及びlog比容積には非常に強い線形相関があると言える。
【0077】
Y=−0.0395X−0.24247・・・(3)
【0078】
ただし、上記式(3)は、140℃におけるlog圧力とlog比容積の関係を表したものである。そのため、圧力を加えたままガラス転移温度以上の温度からガラス転移温度より30℃以上低い温度まで冷却して高密度化状態を固定化した非晶質フッ素樹脂の室温における密度を算出するためには、例えば下記式(4)の計算を行う。なお、下記式(4)において、v
140,0は140℃において非晶質フッ素樹脂に0MPaの圧力を加えた場合の比容積(0.516m
3/kg)、v
140,Aは140℃において非晶質フッ素樹脂に任意圧力を加えた場合の比容積、ρ
R,0は0MPaの圧力を加えたまま140℃からガラス転移温度より30℃以上低い温度まで冷却した非晶質フッ素樹脂の室温における密度(2.030g/cm
3)、ρ
R,Aは上記任意圧力を加えたまま140℃からガラス転移温度より30℃以上低い温度まで冷却して高密度化状態を固定化した非晶質フッ素樹脂の室温における密度である。
【0080】
図9に示すグラフは、上記式(3)及び(4)に基づいて算出されたものである。なお、比容積の変化率を算出するための温度は、ガラス転移温度以上であれば140℃に限られない。
【0081】
図9に示すように、標準状態である非晶質フッ素樹脂よりもシリコーン樹脂に近い屈折率を得るために必要な非晶質フッ素樹脂の密度である2.11g/cm
3は、35MPa以上の圧力を加えることで達成可能である。また、シリコーン樹脂よりも大きい屈折率を得るために必要な非晶質フッ素樹脂の密度である2.21g/cm
3は、125MPaの圧力を加えることで達成可能である。
【0082】
次に、上述した非晶質フッ素樹脂の高密度化を実現するための高密度化装置の具体例について、図面を参照して説明する。
図10は、高密度化装置の一例を模式的に示す断面図である。なお、
図10に例示する高密度化装置60は、レンズ41の成形と同時に非晶質フッ素樹脂を高密度化する装置であり、
図10(a)がレンズ41の成形前の状態、
図10(b)がレンズ41の成形中の状態を示している。また、
図10及び
図10を参照する以下の説明では、紫外線発光装置1の構成を簡略化して、窒化物半導体紫外線発光素子10と、レンズ41と、複数の基台が一体化されてなる基台板30Xだけ図示して説明する。また、
図10及び
図10を参照する以下の説明では、複数の窒化物半導体紫外線発光素子10と、この複数の窒化物半導体紫外線発光素子10がフリップチップ実装されている基台板30Xとの組み合わせを、「対象物T1」と称する。
【0083】
図10に示す高密度化装置60は、非晶質フッ素樹脂Rを図中の上下方向から挟んで成形する圧縮成形機である。この高密度化装置60は、
図10において上下方向に駆動する上部61と、対象物T1を上面で保持する下部62とを備える。なお、
図10では、上部61を駆動するための駆動機構の図示を省略しているが、周知の圧縮成形機の駆動機構を適用可能である。また、
図10に示す高密度化装置60は、複数の窒化物半導体紫外線発光素子10のそれぞれを封止する複数のレンズ41を同時に成形及び高密度化することが可能な装置である。
【0084】
上部61は、シート状の非晶質フッ素樹脂Rをレンズ41の形状に成形するための型であるレンズ型611と、成形時に非晶質フッ素樹脂Rを加熱するためのヒータ612と、成形時に非晶質フッ素樹脂Rの漏出を防止するための凸部613とを備える。また、下部62は、成形時に非晶質フッ素樹脂Rを加熱するためのヒータ621と、成形時に上部61の凸部613と嵌合する凹部622とを備える。
【0085】
上述のように、高密度の非晶質フッ素樹脂は、非晶質フッ素樹脂をガラス転移温度以上まで加熱した状態で圧力を加えて高密度化し、当該圧力を加えた状態のままガラス転移温度より30℃以上低い温度まで冷却することで得られる。そこで、高密度化装置60では、
図10(b)に示すようにシート状の非晶質フッ素樹脂Rをレンズ41の形状に圧縮成形する時に、所望の圧力がレンズ41に加えられるように、非晶質フッ素樹脂の重さ(体積)を計量するとともに、レンズ41の温度がガラス転移温度以上(例えば、140℃)になるようにヒータ62,63を制御する。そして、少なくとも数分間(例えば、5分以上)維持して成形が完了した後は、非晶質フッ素樹脂の温度がガラス転移温度より30℃以上低くなる(例えば、80℃以下になる)まで、
図10(b)に示す状態を維持してレンズ41に圧力を加え続ける。その後、高密度の非晶質フッ素樹脂で構成されたレンズ41で封止された窒化物半導体紫外線発光素子10が少なくとも1つは含まれるように、基台板30Xを分断することで、複数の紫外線発光装置1が得られる。
【0086】
図10に示す高密度化装置60を用いることで、複数の紫外線発光装置1のそれぞれが備えるレンズ41を同時に形成及び高密度化することができるため、紫外線発光装置1を効率良く製造することが可能になる。
【0087】
なお、
図10に示す高密度化装置60は、レンズ41の成形と同時に非晶質フッ素樹脂を高密度化するものであるが、レンズ41の成形後に非晶質フッ素樹脂を高密度化してもよい。ここで、レンズ41の成形後に高密度化する高密度化装置について、図面を参照して説明する。
図11は、高密度化装置の別例を模式的に示す断面図である。なお、
図11及び
図11を参照する以下の説明では、紫外線発光装置1の構成を簡略化して、窒化物半導体紫外線発光素子10と、レンズ41と、基台板30Xだけ図示して説明する。また、
図11及び
図11を参照する以下の説明では、複数の窒化物半導体紫外線発光素子10と、この複数の窒化物半導体紫外線発光素子10がフリップチップ実装されている基台板30Xと、この複数の窒化物半導体紫外線発光素子10のそれぞれを封止するレンズ41との組み合わせを、「対象物T2」と称する。
【0088】
図11に示すように、高密度化装置70は、対象物T2を内側に収容する筐体71と、レンズ41を高密度化する際に加熱するヒータ72と、筐体71の内側を満たす液体Lを図中の下方に押すように駆動することでレンズ41に圧力を加える加圧板73とを備える。なお、
図11では、加圧板73を駆動するための駆動機構の図示を省略しているが、周知の加圧機の駆動機構を適用可能である。また、
図11に示す高密度化装置70は、複数の窒化物半導体紫外線発光素子10のそれぞれを封止する複数のレンズ41を同時に高密度化することが可能な装置である。
【0089】
対象物T2は、液体Lに直接触れないように、パックPで封止されている。液体Lは、例えば有機溶媒や機械油であり、パックPはゴムなどの柔軟性がある材料(液体Lに加えられた圧力をレンズ4
1に伝達可能な材料)で構成される。なお、対象物Tと直接接触可能な液体L(例えば、有機溶媒)を用いる場合、パックPを用いなくてもよい。
【0090】
図11に示す高密度化装置70は、加圧板73を押し下げて液体Lを介してレンズ41に圧力を加えるとともに、レンズ41の温度がガラス転移温度以上(例えば、140℃)になるようにヒータ72を制御する。そして、少なくとも数分間(例えば、5分以上)維持して高密度化が完了した後は、非晶質フッ素樹脂の温度がガラス転移温度より30℃以上低くなる(例えば、80℃以下になる)まで、
図11に示す状態を維持してレンズ41に圧力を加え続ける。その後、高密度の非晶質フッ素樹脂で構成されたレンズ41で封止された窒化物半導体紫外線発光素子10が少なくとも1つは含まれるように、基台板30Xを分断することで、複数の紫外線発光装置1が得られる。
【0091】
図11に示す高密度化装置70を用いることで、複数の紫外線発光装置1のそれぞれが備えるレンズ41を同時に高密度化することができるため、紫外線発光装置1を効率良く製造することが可能になる。
【0092】
<変形等>
図10では、高密度化装置60が、複数の紫外線発光装置1のそれぞれが備える複数のレンズ41を同時に成形及び高密度化する場合について例示しているが、1つの紫外線発光装置1が備えるレンズ41だけを成形及び高密度化してもよい。同様に、
図11では、高密度化装置70が、複数の紫外線発光装置1のそれぞれが備える複数のレンズ41を同時に高密度化する場合について例示しているが、1つの紫外線発光装置1が備えるレンズ41だけを高密度化してもよい。
【0093】
また、
図10では、高密度化装置60が、圧縮成形によってレンズ41を成形及び高密度化する場合について例示しているが、圧縮成形に限らず、トランスファー成形などの他の成形方法を用いて、レンズ41を成形及び高密度化してもよい。
【0094】
図3,
図5,
図10(b)及び
図11では、レンズ41が半球状である場合について例示しているが、レンズの形状は半球状に限られない。例えば、レンズを用いて光を収束する場合、レンズの表面の一部が球面または凸状の曲面(非球面)であればよく、レンズの表面の一部が平坦または平坦に近い曲面になっていてもよい。具体的に例えば、本発明の実施形態に係る紫外線発光装置1では、レンズ41を構成する非晶質フッ素樹脂を高密度化するために、レンズの成形時またはその後でレンズ41に対して圧力を加えるが、当該圧力を加えることによってレンズの頂面が平坦または平坦に近い曲面になっていてもよい。
【0095】
上述の実施形態では、紫外線発光装置1においてレンズ41を形成する時点またはその後で、レンズ41を構成する非晶質フッ素樹脂を高密度化すると説明したが、紫外線発光装置1を被実装部51に実装した後に(
図5参照)、非晶質フッ素樹脂を高密度化してもよい。この場合、例えば、紫外線発光モジュール5
0から被実装部51を取り外し、
図11に示すような高密度化装置70を用いて、レンズ41を構成する非晶質フッ素樹脂を高密度化すればよい。
【0096】
このように、紫外線発光装置1を実装してからレンズ41を構成する非晶質フッ素樹脂を高密度化する場合、紫外線発光装置1の実装が完了するまで、高温処理(非晶質フッ素樹脂のガラス転移温度以上の処理であって、非晶質フッ素樹脂が高密度化されていたとすればその密度を元に戻してしまうような温度になる処理)を実行することが可能になる。例えば、紫外線発光装置の実装時に、はんだリフローを実行することが可能になる。