(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粉体層に吐出された液滴は、時間経過とともに前記粉体層を浸透し、該液滴が下層の粉体層における造形用液体と交わった時点において、隣接する液滴とは交わっていないことを特徴とする請求項1に記載の造形物の製造方法。
前記吐出工程は、前記粉体層ごとに前記液滴の吐出位置をずらし、直下の粉体層における吐出位置とずらして吐出することを特徴とする請求項1又は2に記載の造形物の製造方法。
前記造形物の解像度と前記粉体層の厚みhとから、前記造形物の造形単位となる造形区画の体積を算出し、前記造形区画の体積から前記造形区画中の造形用粉末の体積を除いた空間体積を必要造形液量として算出する算出工程を有し、
前記吐出工程における一度に吐出する液滴の量が前記必要造形液量以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の造形物の製造方法。
前記吐出工程は、前記同一箇所に吐出する複数の液滴をそれぞれ、1番目、2番目・・・k番目・・・n番目とし、k番目の液滴が前記粉体層を浸透して下層の粉体層における造形用液体と交わるとしたとき、k〜n番目における液滴を吐出する時間間隔が、1〜k−1番目における液滴を吐出する時間間隔よりも小さいことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の造形物の製造方法。
ただし、kは1〜nまでの整数とし、nは2以上の整数とする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る造形物の製造方法及び造形物の製造装置について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0011】
(造形物の製造方法及び造形物の製造装置)
本発明の造形物の製造方法は、造形用粉末を含む粉体層を形成する粉体層形成工程と、吐出手段により造形用液体の液滴を前記粉体層に吐出する吐出工程と、前記粉体層形成工程及び前記吐出工程を繰り返す工程とを有し、前記吐出工程は、前記粉体層の表面の同一箇所に複数の液滴を吐出するとともに、前記粉体層の厚みをhとし、最隣接する液滴における前記粉体層に着弾する中心間距離をLとしたとき、h<Lとなるように吐出することを特徴とする。
【0012】
また、造形物の製造装置は、造形用粉末を含む粉体層を形成する粉体層形成手段と、造形用液体の液滴を前記粉体層に吐出する吐出手段とを有し、前記吐出手段は、前記粉体層の表面の同一箇所に複数の液滴を吐出するとともに、前記粉体層の厚みをhとし、最隣接する液滴における前記粉体層に着弾する中心間距離をLとしたとき、h<Lとなるように吐出することを特徴とする。
【0013】
本発明の造形物の製造方法及び造形物の製造装置の一実施形態を
図1〜
図3を参照して説明する。
図1は本実施形態の造形物の製造装置を模式的に説明するための平面図であり、
図2は同装置を模式的に説明するための側面図である。また、
図3は同装置を模式的に説明するための断面図であり、本実施形態の造形物の製造方法を模式的に説明するための図である。なお、
図3は造形時の一時点を示している。
【0014】
本実施形態の造形物の製造装置は粉体積層造形装置であり、粉体(粉末)が結合された層状造形物である造形層30が形成される造形部1と、造形部1の層状に敷き詰められた粉体層31に対して造形用液体(造形液などとも称する)の液滴10を吐出付与して造形層30を造形する造形ユニット5とを備えている。
【0015】
造形部1は、粉体槽11と、平坦化部材(リコータ)である回転体としての平坦化ローラ12などを備えている。なお、平坦化部材は、回転体に代えて、例えば板状部材(ブレード)とすることもできる。
【0016】
粉体槽11は、造形槽22に供給する粉体20を保持する供給槽21と、造形層30が積層されて立体造形物が造形される造形槽22と、粉体層31を形成するときに平坦化ローラ12によって移送供給される粉体20のうち、粉体層31を形成しないで落下する余剰の粉体20を溜める余剰粉体受け槽29を有している。
【0017】
供給槽21の底部は供給ステージ23として鉛直方向(高さ方向)に昇降自在となっている。同様に、造形槽22の底部は造形ステージ24として鉛直方向(高さ方向)に昇降自在となっている。造形ステージ24上に造形層30が積層された立体造形物が造形される。余剰粉体受け槽29の底面には粉体20を吸引する機構が備えられた構成や、余剰粉体受け槽29が簡単に取り外せるような構成となっている。
また、供給ステージ23は、後述するモータ27によって矢印Z方向(高さ方向)に昇降され、造形ステージ24は、同じく、モータ28によって矢印Z方向に昇降される。
【0018】
平坦化ローラ12は、供給槽21の供給ステージ23上に供給された粉体20を造形槽22に移送して供給し、平坦化手段である平坦化ローラ12によって供給した粉体の層の表面を均して平坦化して、粉体層31を形成する。この平坦化ローラ12は、造形ステージ24のステージ面(粉体20が積載される面)に沿って矢印Y方向に、ステージ面に対して相対的に往復移動可能に配置され、後述する往復移動機構25によって移動される。また、平坦化ローラ12は、後述するモータ26によって回転駆動される。
【0019】
一方、造形ユニット5は、造形ステージ24上の粉体層31に液滴10を吐出する液体吐出ユニット50を備えている。液体吐出ユニット50は、キャリッジ51と、キャリッジ51に搭載された吐出手段である2つ(1又は3つ以上でもよい。)の液体吐出ヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)52a、52bを備えている。
【0020】
キャリッジ51は、ガイド部材54及び55に移動可能に保持されている。ガイド部材54及び55は、両側の側板70に昇降可能に保持されている。このキャリッジ51は、後述するX方向走査機構550を構成するX方向走査モータによってプーリ及びベルトを介して主走査方向である矢印X方向(以下、単に「X方向」という。他のY、Zについても同様とする。)に往復移動される。
【0021】
2つのヘッド52a、52b(以下、区別しないときは「ヘッド52」という。)は、造形液を吐出する複数のノズルを配列したノズル列がそれぞれ2列配置されている。一方のヘッド52aの2つのノズル列は、シアン造形液及びマゼンタ造形液を吐出する。他方のヘッド52bの2つのノズル列は、イエロー造形液及びブラック造形液をそれぞれ吐出する。なお、ヘッド構成はこれらに限るものではない。
これらのシアン造形液、マゼンタ造形液、イエロー造形液、ブラック造形液の各々を収容した複数のタンク60がタンク装着部56に装着され、供給チューブなどを介してヘッド52a、52bに供給される。
【0022】
また、X方向の一方側には、液体吐出ユニット50のヘッド52の維持回復を行うメンテナンス機構61が配置されている。
メンテナンス機構61は、主にキャップ62とワイパ63で構成される。キャップ62をヘッド52のノズル面(ノズルが形成された面)に密着させ、ノズルから造形液を吸引する。ノズルに詰まった粉体の排出や高粘度化した造形液を排出するためである。その後、ノズルのメニスカス形成(ノズル内は負圧状態である)のため、ノズル面をワイパ63でワイピング(払拭)する。また、メンテナンス機構61は、造形液の吐出が行われない場合に、ヘッドのノズル面をキャップ62で覆い、粉体20がノズルに混入することや液滴10が乾燥することを防止する。
【0023】
造形ユニット5は、ベース部材7上に配置されたガイド部材71に移動可能に保持されたスライダ部72を有し、造形ユニット5全体がX方向と直交するY方向(副走査方向)に往復移動可能である。この造形ユニット5は、後述するY方向走査機構552によって全体がY方向に往復移動される。
また、液体吐出ユニット50は、ガイド部材54、55とともに矢印Z方向に昇降可能に配置され、後述するZ方向昇降機構551によってZ方向に昇降される。
【0024】
次に、造形部1の詳細について説明する。造形部1は粉体槽11を有しており、粉体槽11は箱型形状をなし、供給槽21と造形槽22と、余剰粉体受け槽29の3つの上面が開放された槽とを備えている。供給槽21内部には供給ステージ23が、造形槽22内部には造形ステージ24がそれぞれ昇降可能に配置される。
【0025】
供給ステージ23の側面は供給槽21の内側面に接するように配置されている。造形ステージ24の側面は造形槽22の内側面に接するように配置されている。これらの供給ステージ23及び造形ステージ24の上面は水平に保たれている。
【0026】
造形槽22の隣りには、造形槽22外に排出される余剰な粉体を受ける余剰粉体受け部29が配置されている。余剰粉体受け槽29は、ロート形状をなし、底部に粉体20を排出可能な排出口を有していてもよい。
【0027】
余剰粉体受け槽29には、粉体層31を形成するときに平坦化ローラ12によって移送供給される粉体20のうちの余剰の粉体20が落下する。余剰粉体受け槽29に落下した余剰の粉体20は、例えば粉体回収再生装置を経由して、供給槽21に粉体を供給する後述する粉体供給装置554に戻される。
【0028】
粉体供給装置554は供給槽21上に配置される。造形の初期動作時や供給槽21の粉体量が減少した場合に、粉体供給装置554を構成するタンク内の粉体を供給槽21に供給する。粉体供給のための粉体搬送方法としては、スクリューを利用したスクリューコンベア方式や、エアーを利用した空気輸送方式などが挙げられる。
【0029】
平坦化ローラ12は、供給槽21から粉体20を造形槽22へと移送供給して、表面を均すことで平坦化して所定の厚みの層状の粉体である粉体層31を形成する。この平坦化ローラ12は、造形槽22及び供給槽21の内寸(即ち、粉体が供される部分又は仕込まれている部分の幅)よりも長い棒状部材であり、往復移動機構によってステージ面に沿ってY方向(副走査方向)に往復移動される。
【0030】
また、平坦化ローラ12は、往復移動機構のモータによって回転されながら、供給槽21の外側から供給槽21及び造形槽22の上方を通過するようにして水平移動する。これにより、粉体20が造形槽22上へと移送供給され、平坦化ローラ12が造形槽22上を通過しながら粉体20を平坦化することで粉体層31が形成される。
【0031】
また、
図2にも示すように、平坦化ローラ12の周面に接触して、平坦化ローラ12に付着した粉体20を除去するための粉体除去部材である粉体除去板13が配置されている。粉体除去板13は、平坦化ローラ12の周面に接触した状態で、平坦化ローラ12とともに移動する。また、粉体除去板13は、平坦化ローラ12が平坦化を行うときの回転方向のカウンタ方向に配置してもよいし、順方向に配置してもよい。
【0032】
なお、本実施形態では、吐出ユニットが粉体層の面方向に移動する場合について説明しているが、本発明はこれに限られるものではなく、ステージが粉体層の面方向に移動する場合であっても本発明に含まれる。この場合、例えばモータ等の移動手段により、ステージを粉体層の面方向、すなわちXY方向に移動させる。
【0033】
<制御部の概要及び造形の流れ>
次に、本実施形態の造形物の製造装置における制御部の概要について
図4を参照して説明する。
図4は同制御部のブロック図である。
【0034】
制御部500は、この装置全体の制御を司るCPU501と、CPU501に本実施形態の製造方法に係わる制御を含む立体造形動作の制御を実行させるためのプログラム、その他の固定データを格納するROM502と、造形データ等を一時格納するRAM503とを含む主制御部500Aを備えている。
【0035】
制御部500は、装置の電源が遮断されている間もデータを保持するための不揮発性メモリ(NVRAM)504を備えている。また、制御部500は、画像データに対する各種信号処理等を行う画像処理やその他装置全体を制御するための入出力信号を処理するASIC505を備えている。
【0036】
制御部500は、外部の造形データ作成装置600から造形データを受信するときに使用するデータ及び信号の送受を行うためのI/F506を備えている。
【0037】
なお、造形データ作成装置600は、最終形態の造形物(立体造形物)を各造形層ごとにスライスしたスライスデータ等の造形データを作成する装置であり、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置で構成されている。
【0038】
制御部500は、各種センサの検知信号を取り込むためのI/O507を備えている。
制御部500は、液体吐出ユニット50のヘッド52を駆動制御するヘッド駆動制御部508を備えている。
【0039】
制御部500は、液体吐出ユニット50のキャリッジ51をX方向(主走査方向)に移動させるX方向走査機構550を構成するモータを駆動するモータ駆動部510と、造形ユニット5をY方向(副走査方向)に移動させるY方向走査機構552を構成するモータを駆動するモータ駆動部512を備えている。
【0040】
制御部500は、液体吐出ユニット50のキャリッジ51をZ方向に移動(昇降)させるZ方向昇降機構551を構成するモータを駆動するモータ駆動部511を備えている。なお、矢印Z方向への昇降は造形ユニット5全体を昇降させる構成とすることもできる。
【0041】
制御部500は、供給ステージ23を昇降させるモータ27を駆動するモータ駆動部513と、造形ステージ24を昇降させるモータ28を駆動するモータ駆動部514を備えている。
【0042】
制御部500は、平坦化ローラ12を移動させる往復移動機構25のモータ553を駆動するモータ駆動部515と、平坦化ローラ12を回転駆動するモータ26を駆動する516を備えている。
【0043】
制御部500は、供給槽21に粉体20を供給する粉体供給装置554を駆動する供給系駆動部517と、液体吐出ユニット50のメンテナンス機構61を駆動するメンテナンス駆動部518を備えている。
【0044】
制御部500は、粉体後供給部80から粉体20の供給を行わせる後供給駆動部519を備えている。
【0045】
制御部500のI/O507には、装置の環境条件としての温度及び湿度を検出する温湿度センサ560などの検知信号やその他のセンサ類の検知信号が入力される。
【0046】
制御部500には、この装置に必要な情報の入力及び表示を行うための操作パネル522が接続されている。
【0047】
制御部500は、上述したように、造形データ作成装置600から造形データを受領する。造形データは、目的とする立体造形物の形状をスライスしたスライスデータとしての各造形層30の形状データ(造形データ)を含む。
【0048】
そして、主制御部500Aは、造形層30の造形データに基づいてヘッド52からの造形液の吐出を行わせる制御をする。
【0049】
なお、造形データ作成装置600と立体造形装置(粉体積層造形装置)601によって造形装置が構成される。
【0050】
次に、本実施形態の造形物の製造方法について、より詳細に説明する。本実施形態の造形物の製造方法は、造形用粉末を含む粉体層を形成する粉体層形成工程と、吐出手段により造形用液体の液滴を粉体層に吐出する吐出工程と、粉体層形成工程及び吐出工程を繰り返す工程とを有している。また、吐出工程は粉体層の表面の同一箇所に複数の液滴を吐出する。
【0051】
本実施形態の造形物の製造方法における造形の流れについて
図5も参照して説明する。
図5は造形の流れの説明に供する模式的説明図である。ここでは、造形槽の造形ステージ上に、1層目の造形層30が形成されている状態から説明する。1層目の造形層30上に次の造形層を形成するときには、
図5(a)に示すように、供給槽の供給ステージ23を上昇させ、造形槽の造形ステージ24を下降させる。
【0052】
このとき、造形槽22における粉体層31の表面(粉体面)の上面と平坦化ローラ12の下部(下方接線部)との間隔(積層ピッチ)がΔt1となるように造形ステージ24の下降距離を設定する。間隔Δt1は、特に制限されるものではないが、数十〜100μm程度であることが好ましい。
【0053】
本実施形態では、平坦化ローラ12は供給槽21及び造形槽22の上端面に対してギャップが生じるように配置している。したがって、造形槽22に粉体20を移送供給して平坦化するとき、粉体層31の表面(粉体面)は供給槽21及び造形槽22の上端面よりも高い位置になる。
これにより、平坦化ローラ12が供給槽21及び造形槽22の上端面に接触することを確実に防止できて、平坦化ローラ12の損傷が低減する。平坦化ローラ12の表面が損傷すると粉体層31の表面にスジが発生して平坦性が低下しやすくなる。
【0054】
次いで、
図5(b)に示すように、供給槽21の上面レベルよりも上方に位置する粉体20を、平坦化ローラ12を逆方向(矢印方向)に回転しながら造形槽22側に移動することで、粉体20を造形槽22へと移送供給する(粉体供給)。
【0055】
さらに、
図5(c)に示すように、平坦化ローラ12を造形槽22の造形ステージ24のステージ面と平行に移動させ、造形ステージ24の造形層22上で所定の厚さΔt1になる粉体層31を形成する(平坦化)。このとき、粉体層31の形成に使用されなかった余剰の粉体20は余剰粉体受け槽29に落下する。
【0056】
粉体層31を形成後、平坦化ローラ12は、
図5(d)に示すように、供給槽21側に移動されて初期位置(原点位置)に戻される(復帰される)。
ここで、平坦化ローラ12は、造形槽22及び供給槽21の上面レベルとの距離を一定に保って移動できるようになっている。一定に保って移動できることで、平坦化ローラ12で粉体20を造形槽22の上へと搬送させつつ、造形槽22上又は既に形成された造形層30の上に均一厚さh(積層ピッチΔt1に相当)の粉体層31を形成できる。
【0057】
なお、以下、粉体層31の厚みhと積層ピッチΔt1とを区別せずに説明することがあるが、特に断りのない限り、同じ厚みであり、同じ意味である。また、粉体層31の厚みhを実際に測定して求めてもよく、この場合、複数箇所の平均値とすることが好ましい。
【0058】
その後、
図5(e)に示すように、液体吐出ユニット50のヘッド52から造形用液体(造形液)の液滴10を吐出して、次の粉体層31に所望の形状の造形層30を積層形成する(造形)。
【0059】
なお、造形層30は、例えば、ヘッド52から吐出された造形用液体の液滴10が粉体20と混合されることで、粉体20に含まれる接着剤が溶解し、溶解した接着剤同士が結合して粉体が結合されることで形成される。
【0060】
次いで、上述した粉体層形成工程及び吐出工程を繰り返して新たな造形層30を形成する。このとき、新たな造形層30とその下層の造形層30は一体化して造形物(三次元形状造形物、立体造形物などとも称する)の一部を構成する。以後、粉体層形成工程及び吐出工程を繰り返し行い、造形物の造形を完成させる。
【0061】
次に、粉体層形成工程におけるその他の実施形態について
図6も参照して説明する。
図6は造形の流れの説明に供する模式的説明図である。
本実施形態は、平坦化ローラ12が供給槽21から造形槽22へ移動した後に、さらに造形槽22の造形ステージ24を上昇させる点が上記実施形態と異なっている。これにより、粉体搬送時の余剰の粉体20が余剰粉末受け槽29に運ばれる量を低減させることができ、粉体層31の平滑性をより向上させ、粉体密度を高めることができる。以下、
図5と異なる点を主に説明する。
【0062】
図6は
図5と同様に造形槽の造形ステージ上に1層目の造形層30が形成されている状態からの説明である。
図6A(a)に示すように、供給槽21の供給ステージ23を上昇させ、造形槽22の造形ステージ24を下降させる。このとき、造形ステージ24の下降距離は、上記実施形態における粉体層31の厚みhよりも大きくしている。なお、造形ステージ24の下降距離は、厚みhの2倍以下であることが好ましい。
【0063】
次いで、
図6A(b)及び
図6A(c)では、
図5(b)及び
図5(c)と同様に、平坦化ローラ12を造形槽22側に移動させて粉体20を造形槽22へと移送供給する。このとき、粉体層31の形成に使用されなかった余剰の粉体は余剰粉体受け槽29に落下する。
【0064】
図6A(d)は、平坦化ローラ12を造形槽22側に移動させた後の図である。この時点で、造形ステージ24の造形槽22上では厚みhよりも厚い粉体層31が形成されている。以降の工程で、造形層30と平坦化ローラ12の移動線との間隔が厚みhとなるように、造形ステージ24を上昇させ、供給ステージ23を下降させる。
【0065】
そして、
図6B(e)、
図6B(f)に示すように、平坦化ローラ12を供給槽21側へと移動させ、余剰の粉末を供給槽21に戻すことで、造形層30の表面を平坦化する。これにより、粉体搬送時の余剰の粉体20が余剰粉末受け槽29に運ばれる量を低減させることができる。また、平坦化ローラ12は往路と復路で平坦化を行うため、粉体層31の平滑性をより向上させ、粉体密度を高めることができる。
【0066】
その後、
図6B(g)に示すように、
図5(e)及びこれ以降の工程と同様に液体吐出ユニット50のヘッド52から造形用液体の液滴10を吐出して造形物を形成する。
【0067】
<造形用粉末及び造形用液体>
次に、本発明に用いる造形用粉末、造形用液体の一実施形態について説明する。
造形用粉末としては、特に制限されるものではなく、適宜変更することが可能である。例えば、基材と被覆層からなるもの、基材と被覆層と高分子樹脂微粒子からなるもの、基材に高分子樹脂粒子を付着させたもの等が挙げられる。
被覆層に含まれる材料としては、例えば樹脂を用いることができ、被覆層の厚みとしては、例えば平均で5〜500nmであることが好ましい。
【0068】
−樹脂−
前記樹脂としては、造形用液体に溶解し、該造形用液体に含まれる架橋剤の作用により架橋可能な性質を有するものが好ましい。前記樹脂の溶解性としては、例えば、30℃の造形用液体を構成する溶媒100gに前記樹脂を1g混合して撹拌したとき、その90質量%以上が溶解することが好ましい。
【0069】
また、前記樹脂としては、その4質量%(w/w%)溶液の20℃における粘度が、40mPa・s以下が好ましく、1mPa・s以上35mPa・s以下がより好ましく、5mPa・s以上30mPa・s以下が特に好ましい。
前記粘度が、40mPa・s以下であると、造形用粉末材料に造形用液体を付与して形成した造形物の強度が向上し、その後の焼結等の処理乃至取扱い時に型崩れ等の問題が生じ難くなる。また、得られた造形物の寸法精度が向上する傾向にある。前記粘度は、例えば、JIS K7117に準拠して測定することができる。
【0070】
前記樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、取扱い性や環境負荷等の観点から、水溶性であることが好ましく、例えば、水溶性樹脂、水溶性プレポリマーなどが挙げられる。このような水溶性樹脂を採用した造形用粉末材料に対しては、造形用液体の媒体としても水性媒体を用いることができ、また、前記粉末材料を廃棄、リサイクルする際には、水処理により樹脂と基材を分離することも容易である。
【0071】
前記水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル酸樹脂、セルロース樹脂、デンプン、ゼラチン、ビニル樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレングリコール、などが挙げられる。これらは、前記水溶性を示す限りにおいて、ホモポリマー(単独重合体)であってもよいし、ヘテロポリマー(共重合体)であってもよく、また、変性されていてもよいし、公知の官能基が導入されていてもよく、また塩の形態であってもよい。
【0072】
例えば、前記ポリビニルアルコール樹脂であれば、ポリビニルアルコールであってもよいし、アセトアセチル基、アセチル基、シリコーン等による変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アセチル基変性ポリビニルアルコール、シリコーン変性ポリビニルアルコールなど)であってもよく、また、ブタンジオールビニルアルコール共重合体等であってもよい。また、前記ポリアクリル酸樹脂であれば、ポリアクリル酸であってもよいし、ポリアクリル酸ナトリウム等の塩であってもよい。
【0073】
前記セルロース樹脂であれば、例えば、セルロースであってもよいし、カルボキシメチルセルロース(CMC)等であってもよい。また、前記アクリル樹脂であれば、例えば、ポリアクリル酸、アクリル酸・無水マレイン酸共重合体などであってもよい。
【0074】
前記水溶性プレポリマーとしては、例えば、止水剤等に含まれる接着性の水溶性イソシアネートプレポリマー、などが挙げられる。
【0075】
水溶性以外の樹脂、樹脂としては、例えば、アクリル、マレイン酸、シリコーン、ブチラール、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、α−オレフィン/無水マレイン酸系共重合体、α−オレフィン/無水マレイン酸系共重合体のエステル化物、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、α−オレフィン/無水マレイン酸/ビニル基含有モノマー共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリアミド、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂、ロジン又はその誘導体、クマロンインデン樹脂、テルペン樹脂、ポリウレタン樹脂、スチレン/ブタジエンゴム、ポリビニルブチラール、ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレン/プロピレンゴム等の合成ゴム、ニトロセルロースなどが挙げられる。
【0076】
前記樹脂の中でも、架橋性官能基を有するものが好ましい。前記架橋性官能基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミド基、リン酸基、チオール基、アセトアセチル基、エーテル結合、などが挙げられる。前記樹脂が該架橋性官能基を有すると、該樹脂が容易に架橋し造形物を形成し得る点で好ましい。これらの中でも、平均重合度が400以上1,100以下のポリビニルアルコール樹脂が好ましい。
【0077】
前記樹脂としては、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、また、適宜合成したものであってもよいし、市販品であってもよい。
【0078】
前記市販品としては、例えば、ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA−205C、PVA−220C)、ポリアクリル酸(東亞合成社製、ジュリマーAC−10)、ポリアクリル酸ナトリウム(東亞合成社製、ジュリマーAC−103P)、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製、ゴーセネックスZ−300、ゴーセネックスZ−100、ゴーセネックスZ−200、ゴーセネックスZ−205、ゴーセネックスZ−210、ゴーセネックスZ−220)、カルボキシ基変性ポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製、ゴーセネックスT−330、ゴーセネックスT−350、ゴーセネックスT−330T)、ブタンジオールビニルアルコールコポリマー(日本合成化学工業社製、ニチゴーG−ポリマーOKS−8041)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬社製、セロゲン5A、セロゲン6A)、デンプン(三和澱粉工業社製、ハイスタードPSS−5)、ゼラチン(新田ゼラチン社製、ビーマトリックスゼラチン)などが挙げられる。
【0079】
−基材−
前記基材としては、粉末乃至粒子の形態を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記基材の材質としては、例えば、金属、セラミックス、ガラス、カーボン、ポリマー、木材、生体親和材料、砂、磁性材料などが挙げられるが、極めて高強度の立体焼結物が得られる観点から、最終的に焼結処理が可能な金属、セラミックスなどがより好ましい。
【0080】
前記金属としては、材質として金属を含むものであれば特に限定されるものではなく、例えば、Mg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sn、Ta、W、Ndさらにこれらの合金が挙げられる。これらの中でも、ステンレス(SUS)鋼、鉄、銅、銀、チタン、アルミニウム、あるいはこれらの合金などが好適に用いられる。
【0081】
ステンレス(SUS)鋼としては、例えば、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS317、SUS329、SUS410、SUS430、SUS440、SUS630などが挙げられる。
【0082】
一方、前記セラミックスとしては、例えば、酸化物、炭化物、窒化物、水酸化物などが挙げられる。酸化物としては、例えばシリカ(SiO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、ジルコニア(ZrO
2)、チタニア(TiO
2)などが挙げられる。ただし、これらは一例であって、これらに限定されるものではない。これらの材料は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0083】
これらの基材としては、市販されているものを使用することができる。市販品の一例としては、ステンレス鋼は山陽特殊鋼製のPSS316L、シリカはトクヤマ製のエクセリカSE−15、アルミナは大明化学工業製のタイミクロンTM−5D、ジルコニアは東ソー製のTZ−B53などを例示することができる。
【0084】
前記基材は、表面処理を行うことも可能であり、樹脂との接着性の向上やコーティング性の向上に有効な場合がある。表面処理剤は、従来公知のものを使用することが可能である。
【0085】
前記基材の平均粒子径としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。例えば、2〜100μmのものが好ましく、8〜50μmがより好ましい。前記平均粒子径が2μm以上であると、凝集の影響が増加することを防ぎ、基材への樹脂コーティングを行いやすくなり、歩留りの低下や造形物の製造効率の低下、基材の取扱性やハンドリング性の低下を防止することができる。一方、前記平均粒子径が100μm以下であると、粒子同士の接点の減少や空隙の増加を防ぐことができ、造形物さらには焼結物の強度が低下することを防ぐことができる。
【0086】
前記基材の粒度分布としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、粒度分布はよりシャープである方が好ましい。前記基材の平均粒子径は、公知の粒径測定装置を用いて測定することが可能であり、一例としては粒子径分布測定装置マイクロトラックMT3000IIシリーズ(マイクロトラックベル製)などが挙げられる。
【0087】
前記基材は、従来公知の方法を用いて製造することができる。粉末乃至粒子状の基材を製造する方法としては、例えば固体に圧縮、衝撃、摩擦等を加えて細分化する粉砕法、溶湯を噴霧させて急冷粉体を得るアトマイズ法、液体に溶解した成分を沈殿させる析出法、気化させて晶出させる気相反応法等が挙げられる。
【0088】
前記基材としては、製造方法に制限されないが、より好ましい方法としては球状の形状が得られ、粒径のバラツキが少ないアトマイズ法が挙げられる。アトマイズ法としては、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、遠心アトマイズ法、プラズマアトマイズ法などが挙げられるが、いずれも好適に用いられる。
【0089】
−高分子樹脂粒子−
前記高分子樹脂粒子としては、特に制限されるものではなく、適宜変更することができ、公知のものを用いることができる。
高分子樹脂粒子の平均粒径としては、特に制限されないが、0.1〜100μmであることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。
【0090】
高分子樹脂粒子等の有機物粒子(有機物外添剤とも称する)の付着状態は、例えば、日本電子社製電界放出形走査電子顕微鏡JSM−7400Fやキーエンス社製リアルサーフェスビュー顕微鏡VE−7800によって観察することができる。有機物粒子の表面にカーボン蒸着又は金蒸着等のコーティング処理を行った上で、観察倍率10,000〜30,000倍にて、有機物粒子が、例えば10粒子以上凝集した粒子構造又は島状構造を形成しているかいないかで付着状態を判断することができる。
【0091】
−造形用粉末のその他の成分−
前記造形用粉末は、その他の成分を加えることも可能である。その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、フィラー、レベリング剤、焼結助剤などが挙げられる。
【0092】
−−フィラー−−
前記フィラーは、主に造形用粉末の表面に付着させたり、粉末材料間の空隙に充填させたりするのに有効な材料である。効果としては、例えば、造形用粉末の流動性の向上や、粉末材料同士の接点が増え、空隙を低減できることから、造形物の強度や寸法精度を高める効果が得られる場合があり有効である。
【0093】
−−レベリング剤−−
前記レベリング剤は、主に造形用粉末の表面の濡れ性を制御するのに有効な材料である。効果としては、例えば、粉体層への造形用液体の浸透性が高まり、造形物の強度アップやその速度を高めることができ、形状を安定に維持させる上で有効な場合がある。
【0094】
−−焼結助剤−−
前記焼結助剤は、得られた造形物を焼結させる際、焼結効率を高める上で有効な材料である。効果としては、例えば、造形物の強度を向上でき、焼結温度を低温化できたり、焼結時間を短縮できる場合がある。
【0095】
−造形用液体の液体成分−
本実施形態の造形用液体は、常温において液状であることから液体成分が含まれる。前記液体成分としては、適宜変更することが可能であり、水や水溶性溶剤が好適に用いられ、特に水が主成分として用いられる。これにより、前記樹脂の溶解性が高まり、高強度の造形物を製造することが可能になる。
【0096】
造形用液体全体に占める水の割合は、40質量%以上85質量%以下が好ましく、50質量%以上80質量%以下がより好ましい。上記範囲であると、樹脂の溶解性が向上し、造形物の強度が向上する。また、待機時にインクジェットノズルが乾燥することを防ぎ、液詰まりやノズル抜けを抑制できる。
【0097】
前記水溶性溶剤は、特にインクジェットノズルを用いて造形用液体を吐出させる際、水分保持力や吐出安定性を高める上で有効である。これらが低下すると、ノズルが乾燥して、吐出が不安定になったり、液詰まりが発生し、造形物の強度や寸法精度の低下を引き起こす場合がある。これらの水溶性溶剤は、水よりも粘度や沸点が高いものが多く、これらは特に造形用液体の湿潤剤や乾燥防止剤、粘度調整剤としても機能させることができ、有効である。
【0098】
前記水溶性溶剤としては、水溶性を示す液体材料であれば、特に制限されるものではなく、適宜変更することが可能である。例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、エーテル、ケトンなどが挙げられる。具体的には、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2−ペンタンジオール、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,3−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ピロリドン、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ヘキサンジオール、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルピロリジノン、β−ブトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド、β−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクタム、エチレングリコール、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、ジエチレングリコール、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジグリセリン、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジグリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、プロピルプロピレンジグリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル、プロピレングリコール-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを用いることができる。ただし、これは一例であって、これらに限定されるものではない。
【0099】
造形用液体全体に占める前記水溶性溶剤の割合は、5質量%〜60質量%が好ましく、10質量%〜50質量%がより好ましく、15質量%〜40質量%がさらに好ましい。
5質量%以上であると、造形用液体の水分保持力を良好にすることができ、待機時にインクジェットヘッドの乾燥が進んで吐出不良となることを抑制することができる。また、事前に行うチェック時と実際の吐出時の吐出量が異なることを防ぎ、所望の強度や形状を有する造形物が得られやすくなる。60質量%以下であると、造形用液体の粘度が高くなり過ぎることを防ぎ、吐出安定性を向上させることができる。また、造形用粉末中の樹脂の溶解性が低下することを防ぎ、造形物の強度が低下することを防ぐことができる。また、造形物の乾燥に時間がかかることを防ぐことができ、製造効率の低下や造形物の変形を防ぐことができる。
【0100】
−造形用液体のその他の成分−
造形用液体は、その他の成分として、例えば、湿潤剤、乾燥防止剤、粘度調整剤、界面活性剤、浸透剤、架橋剤、消泡剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、着色剤、保存剤、安定化剤など、従来公知の材料を制限なく添加することができる。
【0101】
−−界面活性剤−−
前記界面活性剤は、主に造形用液体の造形用粉末への濡れ性や浸透性、表面張力を制御する目的で使用される。前記界面活性剤は、従来公知の材料を使用することが可能であるが、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤が好適に用いられる。
【0102】
アニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、琥珀酸エステルスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩などが挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなどが挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えばラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。
【0103】
具体例としては、以下に挙げるものが好適に使用されるが、これらに限定されるわけではない。例えば、ラウリルジメチルアミンオキシド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、ステアリルジメチルアミンオキシド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド、ポリオキシエチレンヤシ油アルキルジメチルアミンオキシド、ジメチルアルキル(ヤシ)ベタイン、ジメチルラウリルベタイン等が挙げられる。
【0104】
これらの界面活性剤は、日光ケミカルズ社、日本エマルジョン社、日本触媒社、東邦化学社、花王社、アデカ社、ライオン社、青木油脂社、三洋化成社などの界面活性剤メーカーより入手することができる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどのアセチレングリコール系(例えばエアープロダクツ社(米国)のサーフィノール104、82、465、485あるいはTGなど)を用いることができるが、特にサーフィノール465、104やTGが好ましい。
【0105】
フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー及びこの硫酸エステル塩、フッ素系脂肪族系ポリマーエステルが挙げられる。
このようなフッ素系界面活性剤として市販されているものを挙げると、サーフロンS−111、S−112、S−113、S121、S131、S132、S−141、S−145(旭硝子社製)、フルラードFC−93、FC−95、FC−98、FC−129、FC−135、FC−170C、FC−430、FC−431、FC−4430(住友スリーエム社製)、FT−110、250、251、400S(ネオス社製)、ゾニールFS−62、FSA、FSE、FSJ、FSP、TBS、UR、FSO、FSO−100、FSN N、FSN−100、FS−300、FSK(Dupont社製)、ポリフォックスPF−136A、PF−156A、PF−151N(OMNOVA社製)などがあり、メーカーより入手することができる。
【0106】
界面活性剤は、これらに限定されるものではなく、単独で用いても、複数のものを混合して用いてもよい。単独では造形用液体の中で容易に溶解しない場合であっても、混合することで可溶化され、安定した液体材料が得られる場合がある。
【0107】
造形用液体に対する界面活性剤の含有量は、界面活性剤総量として、0.01質量%〜10質量%が好ましく、0.1質量%〜5質量%がより好ましく、0.5質量%〜3質量%がさらに好ましい。0.01質量%以上であると、造形用液体の造形用粉末への浸透性が低下することを防ぐことができ、造形物の強度が低下することを防ぐことができる。10質量%以下であると、造形用液体の浸透性を適切に制御することができ、得られる造形物の寸法精度を向上させることができる。
【0108】
−−架橋剤−−
前記架橋剤は、造形用粉末の表面にコーティングした樹脂と架橋させることで、得られる造形物の強度をより一層高めることが可能になるため有効である。
架橋剤としては、前記樹脂と架橋するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、金属塩、金属錯体、有機ジルコニウム系化合物や有機チタン系化合物などの多価金属化合物、水溶性有機架橋剤、キレート剤、ブロックイソシアネート、メラミン化合物などが挙げられる。
【0109】
一例としては、酸塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム塩、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、乳酸ジルコニウムアンモニウムなどの有機ジルコニウム系化合物、チタンアシレート、チタンアルコキシド、チタンラクテート、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)などの有機チタン系化合物、塩化第二鉄、高塩基性塩化アルミニウムなどの多価金属化合物、カルボジイミド基含有化合物、ビスビニルスルホン酸化合物などの前記水溶性有機架橋剤、有機チタンキレート、有機ジルコニアキレートなどのキレート剤、メチロール化メラミンなどのメラミン化合物等が挙げられる。また、2価以上の陽イオン金属を水中で電離する金属塩も好適に用いられ、具体例としては、オキシ塩化ジルコニウム八水和物(4価)、水酸化アルミニウム(3価)、水酸化マグネシウム(2価)、チタンラクテートアンモニウム塩(4価)、塩基性酢酸アルミニウム(3価)、炭酸酸化ジルコニウムアンモニウム塩(4価)、チタントリエタノールアミネート(4価)、なども好適に用いられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0110】
これらは市販品を使用することができ、該市販品としては、例えば、オキシ塩化ジルコニウム八水和物(第一稀元素化学工業社製、酸塩化ジルコニウム)、水酸化アルミニウム(和光純薬工業社製、水酸化マグネシウム(和光純薬工業社製)、チタンラクテートアンモニウム塩(マツモトファインケミカル社製、オルガチックスTC−300、TC−310)、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩(マツモトファインケミカル社製、オルガチックスZC−300)、塩基性酢酸アルミニウム(和光純薬工業社製)、ビスビニルスルホン化合物(富士ファインケミカル社製、VS−B(K−FJC))、炭酸酸化ジルコニウムアンモニウム塩(第一稀元素化学工業社製、ジルコゾールAC−7、AC−20)、チタントリエタノールアミネート(マツモトファインケミカル社製、オルガチックスTC−400)、オキシ塩化ジルコニウム(第一稀元素化学工業社製、ジルコゾールZC−20)、オキシ硝酸ジルコニウム(第一稀元素化学工業社製、ジルコゾールZN)、グリオキシル酸塩(Safelink SPM−01、日本合成化学工業社製)、アジピン酸ジヒドラジド(大塚化学社製)などが挙げられる。特に、金属の価数が2以上の金属塩は、架橋強度を向上させることができ、得られる造形物の強度を高める上で好ましい。
【0111】
また、前記陽イオン金属の配位子としては、造形用液体の吐出安定性や経時保存性に優れることから乳酸イオンが好ましく用いられる。前記陽イオン金属の配位子が炭酸イオンの架橋剤、例えば、炭酸ジルコニウムアンモニウムは、水溶液中で自己重合反応を生じるため、架橋剤の性質が変化しやすい。したがって、造形用液体の吐出安定性の観点では、前記陽イオンの配位子が乳酸イオンの架橋剤を用いる方が好ましい。また、グルコン酸やトリエタノールアミン等のキレート剤を添加することにより、炭酸ジルコニウムアンモニウムの水溶液中での自己重合反応を抑制することができ、造形用液体の吐出安定性を向上させることができる。
【0112】
造形用液体における前記架橋剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、造形用粉末に含有される前記樹脂に対する前記架橋剤の好ましい添加量は、0.1質量%〜50質量%、より好ましくは0.5質量%〜30質量%である。上記範囲であると、得られる造形物の強度が不足することを防止でき、造形用液体が増粘、あるいはゲル化することを防止でき、液保存性や粘度安定性が低下することを防ぐことができる。
【0113】
−−消泡剤−−
前記消泡剤は、造形用液体の泡立ちを防止することを主目的として使用される。消泡剤としては、一般的に利用されている消泡剤を使用することが可能である。例えば、シリコーン消泡剤、ポリエーテル消泡剤、脂肪酸エステル消泡剤などが挙げられ、1種と併用しても、2種以上と併用してもよい。
【0114】
前記消泡剤としては、市販品を使用してもよく、例えば信越化学工業社製のシリコーン消泡剤(KS508、KS531、KM72、KM85等)、東レ・ダウ・コーニング社製のシリコーン消泡剤(Q2−3183A、SH5510等)、日本ユニカー社製のシリコーン消泡剤(SAG30等)、旭電化工業社製の消泡剤(アデカネートシリーズ等)、などが挙げられる。
消泡剤の造形用液体に対する好ましい含有量としては、3質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。消泡剤の添加量がこれより多いと、溶解性が低下し、分離析出する場合がある。
【0115】
−−pH調整剤−−
pH調整剤は、造形用液体を所望のpHに調整することを主目的として使用される。pH調整剤としては、造形用液体のpHを制御できるものであれば、如何なる材料をも使用することができる。
【0116】
造形物の製造装置の吐出手段にインクジェット方式を用いる場合、ノズルヘッド部分の腐食や目詰り防止の観点から、5(弱酸性)〜12(塩基性)が好ましく、8〜10(弱塩基性)がより好ましい。pH調整剤の添加により、造形用液体のpHを任意に調整することができる。なお、前記架橋剤の中には、pH調整剤としても機能し得るものもある。
【0117】
pH調整剤の一例としては、塩基性に調整するときにはアミン類、アルカリ金属水酸化物、第四級化合物水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、酸性に調整するときは無機酸、有機酸が挙げられる。具体的には、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属元素の水酸化物、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等が挙げられる。
【0118】
また、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸などの無機酸及び硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウなどの一価の弱カチオンと形成する塩、酢酸、蓚酸、乳酸、サリチル酸、安息香酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、アルギニン酸、システイン、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、リシン、リンゴ酸、クエン酸、グリシン、グルタミン酸、コハク酸、酒石酸、フタル酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ビリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、カルボラン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体などの有機酸が挙げられる。これらのpH調整剤は、上記の化合物に限定されるものではない。
【0119】
これらは造形用液体のpH変動に応じた特性に合わせて、最適の一時解離定数pKaのものを適時利用し、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても、Buffer剤を併用しても構わない。
【0120】
−−防腐防黴剤−−
防腐防黴剤は、造形用液体の防腐防黴を主目的として使用される。造形用液体を保存しておくと、微生物が増殖し、pHの低下や成分の沈降などが発生する場合があり、防腐防黴剤はそれを防止することが可能である。
防腐防黴剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビタン酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、チアベンダゾール、ベンズイミダゾール、2−ピリジンチオール1−オキサイドナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム等が挙げられる。
【0121】
−造形用液体の調整方法−
造形用液体の調製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、前記水や水溶性溶剤などの液体成分に必要に応じて前記その他の成分を添加し、混合撹拌する方法が挙げられる。
【0122】
−造形用粉末と造形用液体の作用の一例−
例えば、上記のような造形用粉末及び造形用液体を用いることにより、基材粒子を被覆、付着する水溶性有機材料が架橋剤含有水の作用により溶解し架橋可能であるため、水溶性有機材料に架橋剤含有水が付与されると、水溶性有機材料は溶解すると共に、架橋剤含有水に含まれる架橋剤の作用により架橋する。これにより、上記造形用粉末を用いて薄層(粉体層)を形成し、粉体層に架橋剤含有水を造形用液体として吐出することで、粉体層においては、溶解した水溶性有機材料が架橋する結果、粉体層が結合硬化して造形層が形成される。
【0123】
<造形用液体の浸透挙動>
次に、造形用液体の浸透挙動について、
図7を用いて説明する。
図7は、造形用液体の液滴10と造形用粉末の粉体20を拡大して模式的に示したものである。
供給槽21から平坦化ローラ12によって造形槽22へと移送供給された粉体20は、その材質や粒度分布にもよるが、かさ密度に近い密度で造形槽22に堆積される。造形槽22に堆積された粉体20は、ヘッド52から吐出された液滴10がxy方向及びz方向に浸透していく際に、液架橋力が粒子間に働き、粉体間に存在していた空気を押し出すようにして粉体間距離が縮まり、造形液塗布部の粉体密度を大きくする。
【0124】
上記のことが
図7に模式的に示されている。
図7(a)は造形用液体の液滴10が粉体層31における粉体20に対して吐出されたときの図であり、
図7(b)は液滴10が粉体層31に着弾したときの図である。図示されるように、液体が持つ表面張力により、造形用液体は理想的に半球ないし楕円半球に近くなるように浸透する。例えば、インクジェットによる造形用液体の吐出を考えた際に、造形用液体の表面張力は例えば20〜40mN/mとなる場合、表面張力が低いほど濡れ広がりやすく、したがって半球や横長の楕円半球になりやすい。
そして、
図7(c)に示されるように、液滴10が浸透していく際に、液架橋により粉体20間距離が縮まり、粉体20が凝集する。
なお、xy方向は粉体層31の面方向を示し、z方向は面方向と垂直の方向を示す。
【0125】
次に、従来技術の造形における造形用液体の浸透挙動について、
図8を用いて説明する。
図8は第k層目の造形の様子を断面で模式的に示した図である。
図8(a)は粉体層31に液滴10を滴下したときの図であり、
図8(b)は液滴10が浸透していくときの図であり、
図8(c)は液滴10が浸透した後を示す図である。厚みhで積層された粉体層31における粉体20の下には、既に第k−1層目で造形を終えた造形物(造形層30、下層の粉体層とも称することがある)が存在している。
【0126】
図8に示されるように、ヘッド52から第k層目の粉体層31に造形用液体の液滴10が所定の解像度で吐出される。すると、造形用液体は粉体20を液架橋力により凝集させながら、xy方向及びz方向に浸透する。
【0127】
従来技術では、造形物内部に欠陥が生じないように、隣接するドットが重なるように液滴を吐出する。したがって、粉体に吐出された造形用液体はすぐさま隣接する造形用液体とxy方向に合一する。
図8に示されるように、粉体層の厚みh’と、最隣接する液滴における粉体層に着弾する中心間距離L’(最隣接するドット間の距離とも称する)との関係がh’≧L’となっている。そのため、第k−1層目への造形用液体の浸透が進む前に、隣接するドット同士が合一してしまう。
【0128】
しかしながら、隣接するドットが着弾後にすぐさま合一してしまうと、インクジェットのような高周波数でインクを塗布した場合には、第k層目のスライスデータに基づいたインク塗布部形状の造形液膜が粉体表面に設置されるに等しい。そうすると、粉体間に存在していた空気は逃げ場を失い、最終的に造形物内に大きな空隙として残るか、造形層を貫く気泡となる(符号101参照)。
【0129】
次に、本実施形態における造形用液体の浸透挙動について、
図9を用いて説明する。
図9は
図8と同様、第k層目の造形の様子を断面で模式的に示した図である。
図9(a)は粉体層31に液滴10を滴下したときの図であり、
図9(b)〜
図9(d)は液滴10が浸透していくときの図である。
【0130】
図9(a)に示されるように、厚さhで積層された粉体層31における粉体20の下には、既に第k−1層目で造形を終えた造形物(造形層30)が存在している。第k層目の粉体20に造形用液体の液滴10を所定の解像度で吐出する。すると、造形液は粉体を液架橋力により凝集させながら、xy方向及びz方向に浸透する。
【0131】
本実施形態では、粉体層31の厚みをhとし、最隣接する液滴10における粉体層31に着弾する中心間距離(最隣接するドット間の距離)をLとしたとき、h<Lとなるように吐出する。
【0132】
図9(a)に示されるように、本実施形態では
図8における従来技術とは異なり、隣接するドット間の距離を広くとっている。すなわち、
図8ではh’≧L’となっているのに対し、
図9ではh<Lとなっている。これにより、吐出された液滴10が第k層目をxy方向及びz方向に浸透していく際に、まず第k−1層目に接し、次に第k層目における隣接する造形用液体(液滴10同士)に交わることとなる。
【0133】
このような浸透挙動により、
図9(b)〜
図9(d)に示されるように、隣接するドットが交わる瞬間まで、押し出される空気は隣接するドット間の粉体から逃げることが可能である。すなわち、造形用液体の液滴10が積層方向に浸透が十分進んでから水平方向に浸透して隣接する造形用液体の液滴10と交わる。隣接するドットが重なるころには、粉体間に存在していた空気は大気中に逃げることができ、粉体間の空間が造形用液体で満たされた状態とすることができる。
【0134】
すなわち、下層へ造形用液体の浸透が到達した際に、隣接するドットが平面方向(粉体層の面方向)に交わらないようにするためである。その後、同じドット位置にさらに造形液を塗布することで、粉体間に存在する空気は造形液滴同士が平面方向に交わる直前まで未浸透の粉体部から逃げることができる。
【0135】
なお、第k層目に液滴10を吐出するとき、第k−1層目は造形を終えているため、造形物の一部、造形層30であるが、造形層30とはせずに、下層の粉体層と称して説明することがある。
【0136】
また、粉体層31に吐出された液滴10は、時間経過とともに粉体層31を浸透し、該液滴10が下層の粉体層31における造形用液体と交わった時点において、隣接する液滴10とは交わっていないこととなる。換言すると、吐出された液滴10は、まずz方向において造形用液体と交わり、次にxy方向に造形用液体と交わる。
【0137】
第k層目に吐出された液滴10は、xy方向及びz方向に粉体層31を浸透し、z方向における下層の造形層30(第k−1層目)の表面に達すると、造形層30の内部に浸透せずに、造形層30の表面を伝うこととなる。これにより、下層の造形層30の表面を吐出された造形用液体がxy方向に伝うことで、気泡抜けを促進させることができる。
【0138】
hとLの関係は、h<Lであればよく、適宜変更が可能であるが、hとLの値の差が大きければ大きいほど、隣接するドットが重なるまでに要する時間が長くなるため、空隙が残りにくくなる。
Lの上限としては、造形用粉末、造形用液体等によって異なるため、一概にはいえないが、例えば、8h以下であることが好ましく、4h以下であることがより好ましい。
【0139】
上述のように、本実施形態によれば、空隙及び空隙のムラが抑制された造形物を得ることができる。なお、得られた造形物の観察方法は幾つか考えられるが、例えば透過X線観察によるコントラスト差で空隙分布を判断できる。コントラスト差がほとんどなく、また、コントラスト差がある場合においても規則的に存在している場合、造形物の空隙及び空隙のムラを抑制できているといえる。
【0140】
上記実施形態では、hとLを用いて説明しているが、吐出された液滴が粉体層を浸透し、下層の粉体層に接した後に隣接する液滴と交わることが重要である。これにより、空隙及び空隙のムラが抑制された造形物を得ることができる。
【0141】
また、吐出手段から吐出される液滴10の液量は、造形用粉末、造形用液体、目的とする造形物等によって異なるため、適宜変更することが可能であるが、例えば以下のようにしてもよい。
造形物の解像度と粉体層の厚みhとから、造形物の造形単位となる造形区画の体積を算出し、前記造形区画の体積から造形区画中の造形用粉末の体積を除いた空間体積を必要造形液量として算出する。そして、吐出工程における一度に吐出する液滴の量を前記必要造形液量以下とする。これにより、必要以上にXY方向に吐出された液滴が浸透することを防ぎ、Z方向に液滴が浸透して下層に到達するまでの時間を確保することができる。
【0142】
次に、造形用液体の浸透挙動の詳細について、
図10を用いて説明する。
図10Aは粉体層31の表面に液滴10を1回吐出する場合の例であり、
図10Bは粉体層31の表面の同一箇所に液滴10を複数回吐出する場合の例である。
【0143】
図10Aに示されるように、液滴10を1回吐出すると、
図7で説明したようにxy方向及びz方向に浸透していく。
一方、粉体層31の表面の同一箇所(造形画像の一区画、画像を形成する1ピクセルなどとも称する)に複数の液滴10を吐出する場合、
図10Bに示されるような浸透挙動となる。同一箇所に液滴10を複数吐出すると、ヘッド52から吐出される液滴10に初速が加わっているため、深さ方向へ浸透しやすくなる。すなわち、
図10Aに示される例に比べてz方向に浸透しやすくなる。これにより、粉体層31における造形層30付近(下層付近)の空気がより大気中に逃げやすくなり、造形物の空隙及び空隙のムラを抑制する効果をさらに向上させることができる。
【0144】
なお、同一箇所に液滴10を吐出する回数は、適宜変更することが可能であるが、吐出する回数が増えるほど、上記の効果がより向上する。
【0145】
次に、本発明における他の実施形態について、
図11を用いて説明する。本実施形態では、
図10Bのように、粉体層31における同一箇所に複数の液滴10を吐出して造形を行っている。
【0146】
図11A及び
図11Bにおける(a)は、複数の液滴10が粉体層31の表面に吐出される場合における斜視図を模式的に示したものであり、(b)は複数の液滴10が粉体層31を浸透していく様子を粉体層31の断面について模式的に示した図である。
図11A(b)及び
図11B(b)に示されるように、本実施形態では
図9に示される例と同様に、粉体層31の厚みhと、最隣接する液滴における粉体層に着弾する中心間距離(最隣接するドット間の距離)Lとの間に、h>Lの関係が成り立つようにhとLの値を決定している。
【0147】
造形画像の一区画に吐出する造形用液体の総量は、hとLによって決定することができるが、造形物の単位体積あたりに塗布される造形用液体の塗布量は一定とすることが好ましい。
例えば、以下のパターンAとパターンBで造形を行う場合を想定する。
パターンA:L=a[μm]、h=b[μm]、a>b
パターンB:L=2a[μm]、h=b[μm]、a>b
このとき、造形物を構成する単位体積(ボクセル)は以下のようになる。
パターンA:a
2b[(μm)
3]
パターンB:4a
2b[(μm)
3]
したがって、パターンAにおける吐出する造形用液体液の総量をV[pL]としたとき、パターンBでは4V[pL]の造形用液体を造形画像の一区画に吐出する必要がある。
【0148】
Lとhによって決定される造形画像の一区画に吐出する造形用液体の総量Vをn滴に分割して吐出する場合、造形時に吐出する1滴の液量vは、適宜変更することが可能である。造形用液体の総量を均等に分割してv=V/nとしてもよい。また、造形用液体の総量を均等に分割せず、v
1+v
2+・・・+v
n−1+v
n=Vとしてもよい。この場合、例えば、v
1のみ大滴で吐出を行い、v
2以降を小滴で吐出することで、分割吐出数を少なくすることができる。
【0149】
図11Aは造形用液体の総量を均等に分割した場合の例である。また、
図11Bは造形用液体の総量を均等に分割しない場合の例であり、v
1のみ大滴で塗布を行い、v
2以降を小滴で吐出している。
図11A(b)及び
図11B(b)に示されるように、粉体層31を浸透する挙動が両者で異なるが、ともに造形物の空隙及び空隙のムラを抑制する効果が得られる。
【0150】
このように、同一箇所にn滴の液滴10を吐出する場合、n滴すべてで同じ液量としてもよいし、異なる液量としてもよい。異なる液量とする場合、どのように変更するかは、特に制限されるものではないが、例えば上述のように1滴目のみを多くしてもよいし、隣接するドットが交わる前の液滴の液量と、隣接するドットが交わった後の液滴の液量とを異ならせてもよい。
【0151】
この場合、同一箇所に吐出する複数の液滴10をそれぞれ、1番目、2番目・・・k番目・・・n番目とし、k番目の液滴10が粉体層31を浸透して下層の粉体層(造形層30)における造形用液体と交わるとしたとき、1〜k−1番目における液滴10の液量と、k〜n番目における液滴10の液量が異なるようにしてもよい(ただし、kは1〜nまでの整数とし、nは2以上の整数とする。)。これにより、造形速度や造形時間を調整することができる。
【0152】
さらにこの場合、1〜k−1番目における液滴10の液量が、k〜n番目における液滴10の液量よりも多いことが好ましい。これにより、総滴数を少なくすることができるため、造形速度をより速くすることができ、造形時間をより短縮することができる。
【0153】
また、同一箇所にn滴の液滴10を吐出する場合、n滴すべてで同じ周波数としてもよいし、n滴それぞれ異なる周波数としてもよい。
この場合、同一箇所に吐出する複数の液滴10をそれぞれ、1番目、2番目・・・k番目・・・n番目とし、k番目の液滴が粉体層31を浸透して下層の粉体層(造形層30)における造形用液体と交わるとしたとき、k〜n番目における液滴を吐出する周波数が、1〜k−1番目における液滴を吐出する周波数よりも高いことが好ましい(ただし、kは1〜nまでの整数とし、nは2以上の整数とする。)。
このように
k〜n番目の周波数が、
1〜k−1番目の周波数よりも高いことで、k〜n番目を吐出する際の吐出機構の操作速度を早くすることができるため、全体としての造形速度を速くすることができ、造形時間を短縮することができる。
【0154】
次に、本発明における他の実施形態について、
図12を用いて説明する。本実施形態では、粉体層ごとに前記液滴の吐出位置をずらし、直下の粉体層における吐出位置とずらしている。
図12は具体的な造形用液体塗布パターン(造形パターンとも称することがある)の例を模式的に示す図である。なお、
図12に示される造形パターン1〜12は、本発明における造形パターンの好適な例であり、本発明ではこれらに限られず、その他のパターンも使用可能である。
【0155】
例えば、造形物における第k層から第k+3層に着目した場合、1種類の造形パターンを用いてこれらすべての層を形成してもよいが、層ごとに造形パターンを変えてもよい。使用する造形パターンは、特に制限されるものではないが、複数パターンを周期的に使用するとより効果的である。
複数パターンの組み合わせ例としては、例えば、パターン1〜4、パターン5〜8、パターン9〜12が挙げられるが、これらに限られるものではなく、適宜変更することが可能である。
【0156】
造形用粉末を含む粉体層を形成する工程と、粉体層に造形用液体の液滴を吐出する工程を繰り返して造形物を製造する場合、粉体層における消失しきれない僅かな空隙が連続してz方向に並んでしまうおそれがある。
これに対し、本実施形態では粉体層ごとに液滴の吐出位置をずらしているため、すなわち複数の造形パターンを用いることで、粉体層における消失しきれない僅かな空隙があったとしても、不連続にz方向に並ばせることが可能となる。このため、僅かに残る可能性のある空隙を、z方向に対して分散させることで造形物の密度差をより緩和できる。
なお、すべての粉体層で直下の粉体層における吐出位置をずらすことがより好ましいが、複数の粉体層のうち、少なくとも1層において吐出位置をずらしていれば上述の効果が得られる。
【実施例】
【0157】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
なお、実施例1〜3、5〜8とあるのは、本発明に含まれない参考例1〜3、5〜8とする。
【0158】
(実施例1)
膜厚100nmの高分子薄膜(ポリビニルアルコール)を被覆した平均粒径8μmの芯材粒子(SUS316L)に対して、平均粒径150nmの有機物外添剤(非架橋ポリアクリル樹脂)0.25質量%を添加し、表面に分散して付着させて造形用粉末(「樹脂被覆SUS316L」と称する)を得た。
造形用液体としては、水を主材料とし、架橋剤(炭酸酸化ジルコニウムアンモニウム塩)を含有した造形用液体を用いた。なお、造形用液体中、水は72質量%とした。
【0159】
上記の造形用粉末及び造形用液体を用いて、
図6に示す製造方法、製造装置により、縦横10mm、高さ3mmの平面プレートを作製した。作製条件としては表1に示すように、粉体層の厚みh(積層ピッチΔt1)を42μmとし、最隣接する液滴における粉体層に着弾する中心間距離L(隣接するドット間距離L)を84μmとした。本実施例では、厚みhと最隣接するドット間距離Lとの関係がh<Lである。また、同一箇所に20pLの液滴を周波数5kHzで8滴吐出(分割吐出回数8回)するようにし、造形パターンを
図12におけるパターン1とした。
上記得られた平面プレートに対して十分に乾燥を行った後、余剰の粉末を除去し、評価用造形物とした。得られた評価用造形物について、透過X線観察によるコントラスト差で内部の空隙分布を観察した。
図13に画像の一部を示す。
【0160】
(実施例2〜8、比較例1〜3)
表1に示す通りに作製条件を変更した以外は実施例1と同様にして評価用造形物を作製した。
なお、実施例4の造形パターンで「パターン1〜4」とあるのは、
図12に示すパターン1〜4を周期的に用いて造形していることを意味する。実施例7についても同様に、
図12に示すパターン1〜12を周期的に用いて造形していることを意味する。
また、実施例8では、実施例1における造形用粉末(「樹脂被覆SUS316L」)に代えて、平均粒径8μmの芯材粒子(SUS316L)に対して、粒径が5μm〜100μmの高分子樹脂(ポリビニルアルコール)0.7質量%を添加して得られた造形用粉末(「樹脂添加SUS316L」と称する)を用いた。
また、比較例3は表1には示していないが、実施例1においてh>Lとした以外は実施例1と同じである。
【0161】
【表1】
【0162】
実施例1は、粉体層の厚みhと中心間距離L(最隣接するドット間距離L)との関係がh<Lであり、8分割で分割吐出を行っている。実施例1では、本発明の狙い通りに空気の逃げ道を確保したまま造形が進み、造形物内の空隙を低減できる。
実施例2は、分割吐出回数を多くすることで、隣接するドットの交わりをより遅くすることができるため、造形物内の空隙をより低減できる。
実施例3は、隣接するドット間の距離Lを長くすることで、隣接するドットの交わりをより遅くすることができるため、造形物内の空隙をより低減できる。
実施例4は、実施例3に加え、塗布する液滴量をコントロールし、分割吐出回数を少なくすることで、造形速度を早めることができる。
実施例5は、実施例3に加え、隣接するドットが交わるまでを高周波数で吐出することで、造形速度を早めることができる。
実施例6は、4層周期で吐出パターンを変化させることで、僅かに残る内部の空隙を周期的に分散することができる。
実施例7は、12層周期で吐出パターンを変化させることで、僅かに残る内部の空隙をより周期的に分散することができる。
実施例8は、造形用粉末と造形用液体との濡れ性が変化した場合においても、適切なh<Lに設定することで、造形物内の空隙を低減できる。
【0163】
なお、ここでいう造形用粉末と造形用液体との濡れ性というのは、以下の方法で測定した値を接触角として扱う。例えば両面テープを貼ったスライドガラスのように、表面に接着成分が付着した平板に造形用粉末を塗る。接着成分に造形用粉末が隙間なく埋め尽くされることで、表層が造形用粉末で覆われた平板が用意される。この平板に造形用液体を6μL滴下する。滴下直後から30秒後の造形用液体の液滴端部と造形用粉末で覆われた平板とが形成する接触角を造形用粉末料と造形用液体との接触角とする。本接触角値が小さい場合には、深さ方向よりも平面方向に造形用液体が浸透しやすくなる。
【0164】
比較例1は、h=Lであり、空気の逃げ道がなく、空気が層間又は層内に空隙として残存する。
比較例2は、h<Lであるが、造形用液体の塗布が1回で行われるため、空気の逃げ道がなく、空気が層間又は層内に空隙として残存する。
比較例3は、造形用液体の塗布が複数回で行われるが、h>Lであり、インクが前層表面まで浸透せず、層間に空隙として残存する。
【0165】
次に、実施例1〜3、比較例1、2で得られた評価用造形物について、透過X線観察により得られた画像を
図13に示す。
実施例1〜3では、コントラスト差がほとんどなく、また、ある場合においても規則的に存在している。造形物の空隙及び空隙のムラを抑制できていることがわかる。
比較例1、2では、コントラスト差がまばらに見られ、色の薄い部分には大きな空隙が存在している。造形物の空隙及び空隙のムラが抑制できていなかった。