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特許6965892液式鉛蓄電池、液式鉛蓄電池の充放電方法、及び電源システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965892
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】液式鉛蓄電池、液式鉛蓄電池の充放電方法、及び電源システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/12 20060101AFI20211028BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20211028BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20211028BHJP
【FI】
   H01M10/12 K
   H01M50/44
   H01M50/46
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-554803(P2018-554803)
(86)(22)【出願日】2017年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2017005721
(87)【国際公開番号】WO2018105134
(87)【国際公開日】20180614
【審査請求日】2020年1月17日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/086395
(32)【優先日】2016年12月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】原田 素子
(72)【発明者】
【氏名】荒城 真吾
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 富生
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆之
(72)【発明者】
【氏名】大越 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】本田 光利
(72)【発明者】
【氏名】春名 博史
(72)【発明者】
【氏名】高松 大郊
【審査官】 小川 進
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/157311(WO,A1)
【文献】 特開平06−333549(JP,A)
【文献】 特開2003−077445(JP,A)
【文献】 特開2005−108538(JP,A)
【文献】 特開2016−177872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/12
H01M 50/44
H01M 50/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、
負極板と、
前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、
前記負極板と前記セパレータとの間に配置された膜体と、
電解液と、
前記正極板、前記負極板、前記セパレータ、前記膜体及び前記電解液を収容する電槽と、を備え、
前記膜体は、平均細孔径が15μm以下の細孔を有し、繊維として無機繊維のみを含む無機不織布であり、
満充電容量に対する残容量の割合が90%以下となるように用いられる、液式鉛蓄電池。
【請求項2】
前記セパレータが袋状のセパレータであり、前記負極板及び前記膜体が前記セパレータ内に収容されている、請求項1に記載の液式鉛蓄電池。
【請求項3】
前記膜体が、0.3mm以下の厚さ、20%以上の空孔率及び30g/m〜50g/mの目付けを有する、請求項1又は2に記載の液式鉛蓄電池。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の液式鉛蓄電池を、満充電容量に対する残容量の割合が90%以下となるように充放電する、液式鉛蓄電池の充放電方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の液式鉛蓄電池と、
前記液式鉛蓄電池の充放電を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記液式鉛蓄電池の満充電容量に対する残容量の割合が90%以下となるように充放電を制御する、電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液式鉛蓄電池、液式鉛蓄電池の充放電方法、及び電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、産業用に広く用いられており、例えば自動車のバッテリー、バックアップ用電源、及び電動車の主電源に用いられる。近年の自動車では、炭酸ガス排出規制対策、低燃費化等を目的として、発電制御、信号待ち等の際にエンジンを停止するアイドリングストップアンドスタートシステム(以下、「ISS」と称する。)が採用されるようになっている。
【0003】
アイドリングストップ中はオルタネータによる発電が行われないため、電動装備への電力は全て鉛蓄電池から供給され、鉛蓄電池では従来よりも深い放電が行われる。また、走行中もオルタネータの発電が制御されるため、充電不足の状態となる。
【0004】
鉛蓄電池において深い放電と充電不足とが繰り返される場合、電解液の成層化が、鉛蓄電池の短寿命化の要因として顕在化してきている。ここで、成層化とは、充放電の繰り返しにより、電解液中の硫酸イオン(SO2−)及び硫酸水素イオン(HSO)(以下、これらを「硫酸イオン」と総称する)が沈降して、電槽の上下で電解液の比重に差が生じる現象をいう。この成層化は、鉛蓄電池の満充電容量に対する残容量の割合(以下、単に「残容量」ともいう)が小さくなるにつれて顕著になる。したがって、電解液の撹拌効果が得られにくい中間充電状態で使用されるISS車用鉛蓄電池では、成層化の抑制が重要な課題であり、特に欧州向けのISS車用鉛蓄電池のように残容量が小さい条件で使用される場合は、より高度な成層化抑制技術が求められる。
【0005】
このような課題に対し、特許文献1には、電極表面にブチルゴム等を含む多孔質樹脂層を形成することにより、保液性を確保し、鉛蓄電池の長寿命化等が可能な液式鉛蓄電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−223890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されたような鉛蓄電池では、特に残容量が小さい条件で用いられる場合に、電解液の成層化の抑制の点で未だ改善の余地がある。
【0008】
そこで、本発明は、所定の残容量で用いられる液式鉛蓄電池において、電解液の成層化を抑制し、寿命を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの検討によれば、正極近傍では、放電時に発生した水が電解液の混合を促進するため、成層化の影響は小さい一方、負極近傍では、そのような作用がないために、成層化が起こりやすい。また、成層化は、鉛蓄電池の残容量が小さいほど顕著に生じる。そこで、本発明者らは、更なる検討を重ねた結果、所定の残容量で用いられる液式鉛蓄電池において、平均細孔径が15μm以下である細孔を有する膜体を負極とセパレータとの間に設けた場合に、電解液の成層化を抑制し、耐久性を向上させることが可能になることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、一態様において、正極板と、負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、負極板とセパレータとの間に配置された膜体と、電解液と、正極板、負極板、セパレータ、膜体及び電解液を収容する電槽と、を備え、膜体は、平均細孔径が15μm以下の細孔を有し、満充電容量に対する残容量の割合が90%以下となるように用いられる、液式鉛蓄電池である。
【0011】
一態様において、膜体は、無機繊維を含む不織布、又は、有機繊維及び無機繊維を含む不織布を備える。
【0012】
一態様において、セパレータは袋状のセパレータであり、負極板及び膜体がセパレータ内に収容されている。
【0013】
一態様において、膜体は、0.3mm以下の厚さ、20%以上の空孔率及び30g/m〜50g/mの目付けを有する。
【0014】
本発明は、他の一態様において、上記の液式鉛蓄電池を、満充電容量に対する残容量の割合が90%以下となるように充放電する、液式鉛蓄電池の充放電方法である。
【0015】
本発明は、他の一態様において、上記の液式鉛蓄電池と、液式鉛蓄電池の充放電を制御する制御部と、を備え、制御部は、液式鉛蓄電池の満充電容量に対する残容量の割合が90%以下となるように充放電を制御する、電源システムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所定の残容量で用いられる液式鉛蓄電池において、電解液の成層化を抑制し、寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態に係る鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。
図2】一実施形態に係る鉛蓄電池の電極群を示す斜視図である。
図3図2におけるI−I線に沿った矢視断面を示す模式断面図である。
図4】一実施形態に係るオルタネータ回生車両の構成要素を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、一実施形態に係る液式鉛蓄電池(以下、単に「鉛蓄電池」ともいう)の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。図1に示すように、本実施形態に係る鉛蓄電池1は、上面が開口している電槽2と、電槽2の開口を閉じる蓋3とを備えている。電槽2及び蓋3は、例えばポリプロピレンで形成されている。蓋3には、負極端子4と、正極端子5と、蓋3に設けられた注液口を閉塞する液口栓6とが設けられている。
【0020】
電槽2の内部には、電極群7と、電極群7を負極端子4に接続する負極柱8と、電極群7を正極端子5に接続する正極柱(図示せず)と、希硫酸等の電解液とが収容されている。
【0021】
鉛蓄電池1は、一実施形態において、JIS D5301において規定される区分でD以上の幅寸法を有していてよい。鉛蓄電池1の幅寸法は、例えば、JIS D5301において規定される区分でD、E、F、G又はHであってよい。
【0022】
鉛蓄電池1は、一実施形態において、EN 50342−2において規定される区分でLBN0以上又はLN0以上の幅寸法を有していてよい。鉛蓄電池1の幅寸法は、例えば、EN 50342−2において規定される区分でLBN0〜6又はLN0〜6であってよい。
【0023】
鉛蓄電池1は、一実施形態において、170mm以上の幅寸法を有していてよい。鉛蓄電池1の幅寸法は、例えば、175mm以上又は180mm以上であってもよく、280mm以下又は225mm以下であってもよい。
【0024】
図2は、電極群7を示す斜視図である。図2に示すように、電極群7は、金属鉛(Pb)を活物質として含む板状の負極板9と、二酸化鉛(PbO)を活物質として含む板状の正極板10と、負極板9と正極板10との間に配置されたセパレータ11とを備えている。電極群7は、複数の負極板9と正極板10とが、セパレータ11を介して、電槽2の開口面と略平行方向に交互に積層された構造を有している。すなわち、負極板9及び正極板10は、それらの主面が電槽2の開口面と垂直方向に広がるように配置されている。
【0025】
複数の負極板9の耳部9a同士は、負極側ストラップ12で集合溶接されている。同様に、複数の正極板10の耳部10a同士は、正極側ストラップ13で集合溶接されている。そして、負極側ストラップ12及び正極側ストラップ13のが、それぞれ負極柱8及び正極柱を介して負極端子4及び正極端子5に接続される。
【0026】
図3は、図2におけるI−I線に沿った矢視断面を示す模式断面図である。図3に示すように、負極板9とセパレータ11との間には膜体14が設けられている。
【0027】
セパレータ11は、例えば袋状に形成されており、負極板9及び膜体14は、セパレータ11内に収容されている。セパレータ11を形成する材料の例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。セパレータ11は、これらの材料で形成された織布、不織布、多孔質膜等にSiO、Al等の無機系粒子を付着させたものであってよい。
【0028】
セパレータ11の厚さは、好ましくは0.1mm〜0.5mm、より好ましくは0.2mm〜0.3mmである。セパレータ11の厚さが0.1mm以上であると、セパレータの強度を確保できる。セパレータ11の厚さが0.5mm以下であると、電池の内部抵抗の上昇を抑制できる。
【0029】
セパレータ11の平均孔径は、好ましくは10nm〜500nm、より好ましくは30nm〜200nmである。セパレータ11の平均孔径が10nm以上であると、硫酸イオンを好適に通過させ、硫酸イオンの拡散速度を確保できる。セパレータ11の平均孔径が500nm以下であると、鉛のデンドライトの成長が抑制され、短絡が生じにくくなる。
【0030】
本実施形態では、膜体14は、負極板9の表面を覆うように負極板9に密着した状態で設けられている。膜体14は、例えばシート状又は袋状であってよい。膜体14がシート状である場合、膜体14は負極板9に巻きつけられるようにして負極板9の表面を覆っている。膜体14が袋状である場合、負極板9は膜体14内に収容されている。
【0031】
膜体14は、例えば不織布を備えており、好ましくは無機繊維を含む不織布を備えている。無機繊維を含む不織布は、繊維として無機繊維のみを含む無機不織布、又は、繊維として有機繊維及び無機繊維を含む有機・無機混合不織布であってよい。無機繊維としては、SiOの繊維(ガラス繊維)等が挙げられる。有機繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、アラミド等の合成繊維が挙げられる。有機・無機混合不織布は、SiO等で形成された無機粉体を更に含んでいてもよい。
【0032】
以上説明したような細孔を有する膜体14では、電解液の成層化を抑制する観点から、平均細孔径が15μm以下である。膜体14の平均細孔径は、電解液の成層化を更に抑制する観点から、好ましくは、14μm以下、13μm以下、12μm以下、11μm以下又は10μm以下である。膜体14の平均細孔径は、電池の出力を向上させる観点から、好ましくは、0.1μm以上、1μm以上、2μm以上又は3μmである。
【0033】
膜体の平均細孔径は、水銀圧入法により測定される積算細孔径分布において、分布曲線のY軸(細孔容積又は細孔比表面積)における最小値と最大値との中間値に対応するX軸(細孔径)の値であるメディアン径として算出される。膜体の平均細孔径は、例えば、株式会社島津製作所製、オートポアIV 9500で測定できる。
【0034】
上述のような膜体14を負極板9とセパレータ11との間に設けることにより、電槽2下部における硫酸イオンの蓄積を抑制し、電解液の成層化を抑制することができる。言い換えると、膜体14を設けることにより、電槽2内部の硫酸イオンの濃度を均一に保持することができ、電池反応が偏在することを抑制できるため、鉛蓄電池1の寿命の向上が可能となる。このような膜体14をセパレータ11とは別にセパレータ11よりも負極板9の近傍に設けることにより、例えばセパレータ11に成層化抑制のための処理を施した場合に比べて、より高い成層化の抑制効果が得られる。
【0035】
膜体14を設けることにより電解液の成層化が抑制される理由を、本発明者らは以下のように考えている。すなわち、充電反応で生成した硫酸イオンの集合体は膜体14の細孔に衝突し、拡散しながら高濃度粒子となってゆっくりと電解液中を沈降する。特定の平均細孔径を有する膜体14を設ける場合、膜体14を設けない場合に比べて、硫酸イオンの沈降速度が低減されるため、成層化の抑制が可能となる。鉛蓄電池1の残容量が小さい場合、硫酸イオンの量が特に多くなるため、このような傾向が顕著にみられる。
【0036】
ISS車用途のように大電流で充電する際には、電極板から硫酸イオンが大量に放出されるため、膜体14の硫酸イオンの保持能力は高いほど好ましい。膜体14が不織布を備える場合、不織布を構成する繊維の繊維径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。繊維径が10μm以下であると、膜体14の比表面積が大きくなると共に、硫酸イオンを保持する空間を増やすことが可能となるため、膜体14の硫酸イオンの保持能力を更に向上させることができる。繊維径は、繊維の切れ、膜体の破れ等を抑制し、耐久性を確保する観点から、好ましくは1μm以上である。
【0037】
膜体14の厚さは、内部抵抗の上昇を抑制する観点から、好ましくは0.3mm以下、より好ましくは0.25mm以下、更に好ましくは0.2mm以下、特に好ましくは0.15mm以下である。膜体14の厚さは、硫酸イオンの沈降の防止能力、電池反応への影響、強度等の観点から、例えば0.03mm以上である。膜体14が不織布を備える場合には、不織布を構成する繊維の太さ等に応じて膜体14の厚さが決定される。
【0038】
膜体14の空孔率は、硫酸イオンの拡散性を確保すると共に、硫酸イオンを保持する空間を大きくする観点から、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、更に好ましくは60%以上、特に好ましくは80%以上である。膜体14の空孔率は、例えば95%以下であってよい。膜体の空孔率は、膜体から適当な大きさの直方体状に切り取った試料について、下記式(1)〜(3)に従い実際の体積と見かけの体積とから算出される。
空孔率(%)={1−(実際の体積/見かけの体積)}×100 …(1)
実際の体積(cm)=重量の実測値(g)/密度(g/cm) …(2)
見かけの体積(cm)=縦(cm)×横(cm)×厚さ(cm) …(3)
なお、見かけの体積を算出する際の試料の縦、横及び厚さはいずれも実測値を用いる。
【0039】
膜体14の目付けは、成層化抑制と内部抵抗上昇の抑制との両立の観点から、好ましくは30g/m〜50g/m、より好ましくは35g/m〜50g/m、更に好ましくは40g/m〜50g/mである。目付けは、膜体14の単位面積あたりの質量として算出される。
【0040】
上記実施形態では、膜体14は負極板9の主面(セパレータ11に対向する面)、側面及び底面のすべてを覆い、それらの表面に接触するように(密着した状態で)設けられていたが、他の実施形態では、膜体は、負極板9から離間するように、負極板9とセパレータ11との間に設けられていてもよい。この場合、膜体14は、例えばセパレータ11の負極側の面上に設けられていてよい。電解液の成層化をより抑制する観点からは、膜体14は、負極板9の表面に接触するように(密着した状態で)設けられていることが好ましい。
【0041】
上記実施形態では、膜体14は負極板9の主面(セパレータ11に対向する面)、側面及び底面のすべてを覆っていたが、他の実施形態では、膜体は、負極板9の主面(セパレータ11に対向する面)のみを覆うように設けられていてもよい。
【0042】
以上説明した鉛蓄電池は、満充電容量に対する残容量の割合(残容量/満充電容量)が90%以下となるように用いられる。当該割合(残容量/満充電容量)は、85%以下又は80%以下であってもよく、50%以上、55%以上又は60%以上であってもよい。なお、鉛蓄電池は、満充電容量に対する残容量の割合が定常的に上記の範囲内になるように用いられる必要はなく、少なくとも一時的に(すなわち、満充電容量に対する残容量の割合の最小値が)上記の範囲内となるように用いられればよい。
【0043】
次に、上述した液式鉛蓄電池を備えた電源システムの実施形態について説明する。電源システムは、一実施形態において、オルタネータ回生車両(μHEV)のエンジンルームに搭載される。ただし、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。なお、μHEVとは、ISS機能を有し、オルタネータから供給される回生電力を受け入れ可能かつ放電負荷に放電可能な蓄電デバイスを備えたガソリン車又はディーゼル車をいう。
【0044】
図4は、一実施形態に係るオルタネータ回生車両の構成要素を示す図である。図4に示すように、オルタネータ回生車両21は、車両制御部(ECU)22と、オルタネータ23と、放電負荷24と、電源システム25とを備えている。
【0045】
車両制御部22は、オルタネータ回生車両21全体の動作を制御する。車両制御部22は、イグニッションスイッチが、OFF位置、ON/ACC位置及びSTART位置のいずれに位置しているかを把握すると共に、アクセル、ブレーキ、エンジン等の作動状態、速度、加速度などの車両状態を把握し、把握した状態に応じた走行制御を行う。
【0046】
車両制御部22は、電源システム25の制御部(詳細は後述する)と通信可能となっており、電源システム25を構成する鉛蓄電池の状態に関する情報を受信すると共に、電源システム25の制御部に車両の状態情報(イグニッションスイッチの位置情報、オルタネータの作動情報等)を送信する。
【0047】
オルタネータ23は、車両制御部22によって制御されており、オルタネータ回生車両21の制動時、アクセルオフ時等に、エンジンの回転力を(回生)電力に変換する。オルタネータ23は、ステータ及びロータで構成される発電部と、発電部で発電された交流電力を直流電力に変換する整流部と、整流部で変換された直流電力の電圧を一定とするためのボルテージレギュレータとを備えている。オルタネータ23の出力電圧は、例えば14Vに設定されている。
【0048】
放電負荷24は、スタータ(セルモータ)及び補機を備えている。補機としては、例えば、ランプ(ライト)、エンジンポンプ(スパークプラグ)、エアコン、ファン、ラジオ、テレビ、CDプレーヤー、カーナビゲーション等が挙げられる。補機には、作動するための最低電圧(例えば8V)が電源システム25(鉛蓄電池1)から供給される。また、オルタネータ回生車両21のエンジン始動時には、イグニッションスイッチがSTART位置となり、電源システム25(鉛蓄電池1)からスタータへ電力が供給されてスタータが回転し、エンジンの回転軸にクラッチ機構を介してスタータの回転駆動力が伝達されエンジンが始動する。
【0049】
電源システム25は、上述した鉛蓄電池1と、セレクタ26と、電池コントローラ27と、電流センサ28と、制御部29とを備えており、例えば14V系電源システムを構成している。鉛蓄電池1は、オルタネータ23から供給される回生電力を受け入れ可能かつ放電負荷24に放電可能となっている。
【0050】
セレクタ26は、オルタネータ23からの回生電力を鉛蓄電池1に供給すると共に、鉛蓄電池1からの電力を放電負荷24に放電する。セレクタ26は、電源システム25が鉛蓄電池1以外の第二の蓄電池(図示せず)を更に備える場合には、オルタネータ23から供給される回生電力を蓄電デバイスで受け入れる際に、オルタネータ23から鉛蓄電池1及び第二の蓄電池のいずれか一方に接続するスイッチの役割を果たすと共に、蓄電デバイスから放電負荷24に放電する際に、鉛蓄電池1及び第二の蓄電池のいずれか一方から放電負荷24に接続するスイッチの役割を果たす。
【0051】
電池コントローラ27は、充放電中(車両走行中及び車両走行前)に鉛蓄電池1の温度、電圧、電流等の電池状態を検出する。具体的には、鉛蓄電池1に取り付けられた温度センサが電池コントローラ27に接続されており、電池コントローラ27は、所定時間(例えば10ms)毎に温度センサの電圧をサンプリングし、サンプリング結果をRAMに格納する。電池コントローラ27は、鉛蓄電池1の正極端子及び負極端子に接続されており、鉛蓄電池1の電圧を検出する。セレクタ26と鉛蓄電池1の正極端子間には、ホール素子、シャント抵抗等の電流センサ28が配置されており、電池コントローラ27は、電流センサ28を介して鉛蓄電池1に流れる電流を所定時間(例えば2ms)毎にサンプリングし、サンプリング結果をRAMに格納する。また、電池コントローラ27は、充放電休止時(車両駐車時)には、鉛蓄電池1の開回路電圧及び温度を検出する。
【0052】
電池コントローラ27は、制御部29に接続されており、充放電時に、RAMに格納した鉛蓄電池1の温度、電圧及び電流に関する情報を制御部29に送信し、充放電休止時に、鉛蓄電池1の開回路電圧及び温度に関する情報を制御部29に送信する。
【0053】
制御部29は、マイクロコントローラ、通信IC、I/O、入力ポート、出力ポート等を備えるマイクロプロセッサとして構成されており、図4では、制御部29の役割を明確にするために機能別に細部を表している。
【0054】
マイクロコントローラは、例えば、鉛蓄電池1の電池状態を把握(演算)するCPU、基本制御プログラム、テーブル等のプログラムデータを記憶したROM、CPUのワークエリアとして働くと共に種々のデータを一時的に記憶するRAM、及びこれらを接続する内部バスで構成されている。内部バスは、外部バスに接続されており、外部バスは入力ポートを介して電池コントローラ27に接続されている。外部バスには、セレクタ26に信号を出力するための出力ポート、I/O、及び車両制御部22と通信するための通信ICが接続されている。
【0055】
したがって、制御部29のマイクロコントローラ及び入力ポートが図4の状態把握部30に、マイクロコントローラ及び出力ポートが図4のセレクタ制御部に、通信IC及びI/Oが図4の通信部6Cにそれぞれ対応する。
【0056】
状態把握部30は、電池コントローラ27から送信された検出データをマイクロコントローラのRAMに一旦格納し、鉛蓄電池1の電池状態等を演算(推定)する。セレクタ制御部31は、車両制御部22から受信したオルタネータ23の作動情報及び状態把握部30で演算した鉛蓄電池1の電池状態に応じて、セレクタ26を制御する。通信部32は、状態把握部30が演算した鉛蓄電池1の電池状態を所定時間(例えば2ms)毎に車両制御部22に送信すると共に、車両制御部22から車両の状態情報(イグニッションスイッチの位置情報、オルタネータ23の作動情報)を受信する。
【0057】
制御部29は、鉛蓄電池1の満充電容量に対する残容量の割合(残容量/満充電容量)が90%以下となるように、鉛蓄電池1の充放電を制御する。制御部29は、当該割合(残容量/満充電容量)が、85%以下又は80%以下となるように鉛蓄電池1の充放電を制御してもよく、50%以上、55%以上又は60%以上となるように鉛蓄電池1の充放電を制御してもよい。なお、制御部29は、鉛蓄電池1の満充電容量に対する残容量の割合が定常的に上記の範囲内になるように制御する必要はなく、少なくとも一時的に(すなわち、満充電容量に対する残容量の割合の最小値が)上記の範囲内となるように制御すればよい。このように、本発明の一実施形態は、鉛蓄電池1を、満充電容量に対する残容量の割合が上記の範囲内となるように充放電する、鉛蓄電池1の充放電方法であるともいえる。
【実施例】
【0058】
<実施例1>
一酸化鉛を主成分とする鉛粉を希硫酸で練って調製したペーストを鉛合金格子に充填したペースト式極板を用いた。その後、熟成と乾燥工程とを経て未化成極板が得られた。なお、未化成の正極板及び負極板は、いずれも2価の鉛化合物である一酸化鉛(PbO)、三塩基性希硫酸鉛(3PbO・PbSO・HO)等の混合物で構成されている。化成により、正極板の未化成物質は二酸化鉛(PbO)に酸化され、負極板の未化成物質は海綿状鉛(Pb)に還元され、既化極板(正極板、負極板)が得られた。
【0059】
膜体として表1に示すとおりの無機不織布(主成分:SiO)を用い、負極板上に配置した。セパレータとしては、厚さが0.25mm、平均孔径が30nm〜200nmである袋状のポリエチレン製セパレータを用い、負極板及び膜体をセパレータ内に収容した。電解液としては希硫酸を用いて、成層化抑制が困難なDサイズ(JIS D5301。幅:173mm、箱高さ:204mm。負極板の幅:145mm、負極板の高さ(上枠部込み):113mm。)の定格容量60Ahの鉛蓄電池を作製した。
【0060】
(平均細孔径の算出)
膜体の平均細孔径は、株式会社島津製作所製、オートポアIV 9500で測定した。膜体の平均細孔径は、水銀圧入法により測定された積算細孔径分布において、分布曲線のY軸(細孔容積又は細孔比表面積)における最小値と最大値との中間値に対応するX軸(細孔径)の値であるメディアン径として算出した。
【0061】
(内部抵抗の評価)
予め初充電が完了した鉛蓄電池の内部抵抗を、1kHz交流mΩメータを用いて評価した。具体的な評価基準は、膜体を設けない場合(比較例1)の鉛蓄電池の内部抵抗を100としたときの内部抵抗の値で示した。内部抵抗の値は、好ましくは125未満であり、より好ましくは120未満であり、更に好ましくは110未満である。結果を表1に示す。
【0062】
(寿命試験(耐久性))
実施例1では、満充電容量に対する残容量の割合が50%となるように用いられた場合の鉛蓄電池の寿命性能を、次のように測定した。まず、充電が完了した満充電状態の鉛蓄電池を、湯浴温度が40±2℃に設定された水槽中に配置した。次に、以下のサイクルユニット(a)(b)を順に繰り返した。なお、60Ahの鉛蓄電池では、20時間率電流は3Aである。また、この試験は、ISS車での鉛蓄電池の使われ方を模擬したサイクル試験であり、鉛蓄電池の電圧が10.0Vを下回った時点で寿命に達したと判断した。結果を表1に示す。
(a)15A(20時間率電流の5倍に相当)で2時間放電。
(b)15A(20時間率電流の5倍に相当)を限度に5時間充電。その際の充電上限電圧は15.6±0.1Vであった。
【0063】
(成層化抑制効果の評価)
電解液の成層化を抑制する効果を評価した。寿命試験と同様に充放電を繰り返し、20サイクル目における電槽内の上部と下部での電解液の上下比重差を成層化の指標とした。具体的には、電極群の上端(セパレータの上端)から1cm上までの領域を電槽内の上部とし、電極群の下端から1cm下までの領域を電槽内の下部とした。なお、電極群の高さ(電極群の下端からセパレータの上端までの長さ)は、116mmであった。そして、膜体を設けない場合(比較例1)の上下比重差を100として、上下比重差を算出した。上下比重差は、好ましくは70未満であり、より好ましくは50未満である。上下比重差が70未満であれば、成層化が抑制されたと判断した。
【0064】
<実施例2〜5>
寿命試験及び成層化抑制効果の評価において、満充電容量に対する残容量の割合を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池の作製及び評価を行った。
【0065】
<実施例6,7>
膜体として表1に示すとおりの無機不織布を用いた以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池の作製及び評価を行った。
【0066】
<実施例8,9>
膜体として、無機不織布に代えて有機・無機混合不織布(多孔シート。パルプ、ガラス繊維及びシリカ粉末を含む混合繊維から構成される不織布)を用いた以外は、それぞれ実施例3,4と同様にして鉛蓄電池の作製及び評価を行った。
【0067】
<実施例10>
鉛蓄電池のサイズを欧州で一般的なLN1サイズ(EN 50342−2。幅:175mm、箱高さ:190mm。負極板の幅:143mm、負極板の高さ(上枠部込み):100mm。)に変更した以外は、実施例4と同様にして鉛蓄電池の作製及び評価を行った。
【0068】
<比較例1>
負極板上に膜体を設けなかった以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池の作製及び評価を行った。
【0069】
<比較例2>
負極板上に膜体を設けず、かつ負極板に代えて正極板をセパレータ内に収容した以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池の作製及び評価を行った。
【0070】
<比較例3>
負極板上に膜体を設けずに正極板上に膜体を設け、かつ負極板に代えて正極板及び膜体をセパレータ内に収容した以外は、実施例1と同様にして鉛蓄電池の作製及び評価を行った。
【0071】
<比較例4>
膜体として表1に示すとおりの無機不織布を用いた以外は、実施例4と同様にして鉛蓄電池の作製及び評価を行った。
【0072】
<参考例1,2>
寿命試験及び成層化抑制効果の評価において、満充電容量に対する残容量の割合を表1に示すとおりに変更した以外は、それぞれ実施例4,比較例4と同様にして鉛蓄電池の作製及び評価を行った。
【0073】
【表1】
【0074】
以上の結果から、満充電容量に対する残容量の割合が90%以下となるように用いられる鉛蓄電池において、負極とセパレータとの間に膜体を設けた実施例では成層化が抑制されているのに対し、膜体を設けていない比較例1,2、及び、正極とセパレータとの間に膜体を設けた比較例3では成層化が抑制されないことが分かった。一方、満充電容量に対する残容量の割合が90%を超えるように用いられる鉛蓄電池(参考例1,2)においては、膜体の平均細孔径による成層化抑制の程度に差は見られなかった。
【0075】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例を含む。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0076】
1…鉛蓄電池、2…電槽、9…負極板、10…正極板、11…セパレータ、14…膜体、25…電源システム、29…制御部。
図1
図2
図3
図4