特許第6965999号(P6965999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965999
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】スラリ及び研磨方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20211028BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20211028BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20211028BHJP
   C01F 17/235 20200101ALI20211028BHJP
【FI】
   H01L21/304 622D
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550D
   C01F17/235
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2020-532133(P2020-532133)
(86)(22)【出願日】2018年9月25日
(86)【国際出願番号】JP2018035463
(87)【国際公開番号】WO2020021732
(87)【国際公開日】20200130
【審査請求日】2021年1月5日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/028105
(32)【優先日】2018年7月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴彬
(72)【発明者】
【氏名】岩野 友洋
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智康
(72)【発明者】
【氏名】久木田 友美
【審査官】 中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第02/067309(WO,A1)
【文献】 特開2017−203076(JP,A)
【文献】 特表2011−518098(JP,A)
【文献】 国際公開第97/029510(WO,A1)
【文献】 特開2008−112990(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/143579(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/070542(WO,A1)
【文献】 特開2015−093932(JP,A)
【文献】 特開2017−052858(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/070541(WO,A1)
【文献】 特開2013−141041(JP,A)
【文献】 特開2010−153782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
C01F 17/235
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、液状媒体と、を含有するスラリであって、
前記砥粒が、第1の粒子と、当該第1の粒子に接触した第2の粒子と、を含み、
前記第2の粒子の粒径が第1の粒子の粒径よりも小さく、
前記第1の粒子がセリウム酸化物を含有し、
前記第2の粒子がセリウム化合物を含有し、
前記砥粒の含有量が0.1質量%である場合において遠心加速度1.1×10Gで60分間前記スラリを遠心分離したときに得られる固相のBET比表面積が40m/g以上である、スラリ。
【請求項2】
前記砥粒の含有量が0.1質量%である場合において遠心加速度5.8×10Gで5分間前記スラリを遠心分離したときに得られる液相における波長380nmの光に対する吸光度が0を超える、請求項1に記載のスラリ。
【請求項3】
前記セリウム化合物がセリウム水酸化物を含む、請求項1又は2に記載のスラリ。
【請求項4】
前記砥粒の含有量が0.01〜10質量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスラリ。
【請求項5】
酸化珪素を含む被研磨面を研磨するために使用される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のスラリ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のスラリを用いて被研磨面を研磨する工程を備える、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリ及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体素子の製造工程では、高密度化及び微細化のための加工技術の重要性がますます高まっている。加工技術の一つであるCMP(ケミカル・メカニカル・ポリッシング:化学機械研磨)技術は、半導体素子の製造工程において、シャロートレンチ分離(シャロー・トレンチ・アイソレーション。以下「STI」という。)の形成、プリメタル絶縁材料又は層間絶縁材料の平坦化、プラグ又は埋め込み金属配線の形成等に必須の技術となっている。
【0003】
最も多用されている研磨液としては、例えば、砥粒として、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ等のシリカ(酸化珪素)粒子を含むシリカ系研磨液が挙げられる。シリカ系研磨液は、汎用性が高いことが特徴であり、砥粒含有量、pH、添加剤等を適切に選択することで、絶縁材料及び導電材料を問わず幅広い種類の材料を研磨できる。
【0004】
一方で、主に酸化珪素等の絶縁材料を対象とした研磨液として、セリウム化合物粒子を砥粒として含む研磨液の需要も拡大している。例えば、セリウム酸化物粒子を砥粒として含むセリウム酸化物系研磨液は、シリカ系研磨液よりも低い砥粒含有量でも高速に酸化珪素を研磨できる(例えば、下記特許文献1及び2参照)。
【0005】
近年、半導体素子の製造工程では、更なる配線の微細化を達成することが求められており、研磨時に発生する研磨傷が問題となっている。すなわち、従来のセリウム酸化物系研磨液を用いて研磨を行った際に微小な研磨傷が発生しても、この研磨傷の大きさが従来の配線幅より小さいものであれば問題にならなかったが、更なる配線の微細化を達成しようとする場合には、研磨傷が微小であっても問題となってしまう。
【0006】
この問題に対し、セリウム水酸化物の粒子を用いた研磨液が検討されている(例えば、下記特許文献3〜5参照)。また、セリウム水酸化物の粒子の製造方法についても検討されている(例えば、下記特許文献6及び7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−106994号公報
【特許文献2】特開平08−022970号公報
【特許文献3】国際公開第2002/067309号
【特許文献4】国際公開第2012/070541号
【特許文献5】国際公開第2012/070542号
【特許文献6】特開2006−249129号公報
【特許文献7】国際公開第2012/070544号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年、デバイスのセル部を縦方向に積層させる3D−NANDデバイスが台頭してきている。本技術では、セル形成時の絶縁材料の段差が従来のプレーナ型と比べて数倍高くなっている。それに伴い、デバイス製造のスループットを維持するためには、前記のとおりの高い段差をCMP工程等において素早く解消する必要があり、絶縁材料の研磨速度を向上させる必要がある。
【0009】
本発明は、前記課題を解決しようとするものであり、絶縁材料の研磨速度を向上させることが可能なスラリ、及び、当該スラリを用いた研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面に係るスラリは、砥粒と、液状媒体と、を含有するスラリであって、前記砥粒が、第1の粒子と、当該第1の粒子に接触した第2の粒子と、を含み、前記第2の粒子の粒径が第1の粒子の粒径よりも小さく、前記第1の粒子がセリウム酸化物を含有し、前記第2の粒子がセリウム化合物を含有し、前記砥粒の含有量が0.1質量%である場合において遠心加速度1.1×10Gで60分間前記スラリを遠心分離したときに得られる固相のBET比表面積が40m/g以上である。
【0011】
このようなスラリによれば、絶縁材料の研磨速度を向上させることが可能であり、絶縁材料を高い研磨速度で研磨できる。
【0012】
本発明の他の一側面に係る研磨方法は、前記スラリを用いて被研磨面を研磨する工程を備えている。このような研磨方法によれば、前記スラリを用いることにより、前記スラリと同様の前記効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、絶縁材料(例えば酸化珪素)の研磨速度を向上させることが可能なスラリを提供することができる。本発明によれば、前記スラリを用いた研磨方法を提供することができる。
【0014】
本発明によれば、酸化珪素を含む被研磨面の研磨へのスラリの使用を提供することができる。本発明によれば、半導体素子の製造技術である基体表面の平坦化工程へのスラリの使用を提供することができる。本発明によれば、STI絶縁材料、プリメタル絶縁材料又は層間絶縁材料の平坦化工程へのスラリの使用を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<定義>
本明細書において、「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0017】
後述するように、本実施形態に係るスラリは砥粒(abrasive grain)を含有する。砥粒は、「研磨粒子」(abrasive particle)ともいわれるが、本明細書では「砥粒」という。砥粒は、一般的には固体粒子であって、研磨時に、砥粒が有する機械的作用(物理的作用)、及び、砥粒(主に砥粒の表面)の化学的作用によって、除去対象物が除去(remove)されると考えられるが、これに限定されない。本実施形態に係るスラリを用いた場合の研磨速度は、例えば、砥粒の含有量(粒子の合計量)をスラリの全質量を基準として0.1質量%に調整したときに得られる研磨速度に基づき比較することができる。
【0018】
<スラリ>
本実施形態に係るスラリは、必須成分として砥粒と液状媒体とを含有する。本実施形態に係るスラリは、例えば、研磨液(CMP研磨液)として用いることができる。本明細書において、「研磨液」(polishing liquid、abrasive)とは、研磨時に被研磨面に触れる組成物として定義される。「研磨液」という語句自体は、研磨液に含有される成分を何ら限定しない。
【0019】
砥粒は、第1の粒子と、当該第1の粒子に接触した第2の粒子と、を含む複合粒子を含有する。第2の粒子の粒径は、第1の粒子の粒径よりも小さい。第1の粒子はセリウム酸化物を含有し、第2の粒子はセリウム化合物を含有する。砥粒の含有量が0.1質量%である場合において、本実施形態に係るスラリを遠心加速度1.1×10Gで60分間遠心分離したときに得られる固相のBET比表面積は、40m/g以上である。
【0020】
本実施形態に係るスラリを用いることにより絶縁材料(例えば酸化珪素)の研磨速度を向上させることができる。このようなスラリによれば、砥粒の含有量が少ない場合であっても絶縁材料の高い研磨速度を得ることができる。このように絶縁材料の研磨速度が向上する理由としては、例えば、下記の理由が挙げられる。但し、理由は下記に限定されない。
【0021】
すなわち、絶縁材料の研磨は、研磨に寄与する砥粒の表面と、絶縁材料の表面との機械的作用及び化学的作用によって進行する。
セリウム酸化物を含有すると共に、第2の粒子よりも大きい粒径を有する第1の粒子は、第2の粒子と比較して、絶縁材料に対する機械的作用(メカニカル性)が強い。一方、セリウム化合物を含有すると共に、第1の粒子よりも小さい粒径を有する第2の粒子は、第1の粒子と比較して、絶縁材料に対する機械的作用は小さいものの、粒子全体における比表面積(単位質量当たりの表面積)が大きいため、絶縁材料に対する化学的作用(ケミカル性)が強い。このように、機械的作用が強い第1の粒子と、化学的作用が強い第2の粒子と、を併用することにより研磨速度向上の相乗効果が得られやすい。
さらに、本実施形態では、遠心分離により得られる固相のBET比表面積が40m/g以上である。この場合、固相として回収される砥粒が高い比表面積を有するため、砥粒と絶縁材料との上述の相互作用が強いことから研磨速度が向上しやすい。
以上により、本実施形態に係るスラリを用いることにより絶縁材料の研磨速度を向上させることができると推察される。
【0022】
前記固相のBET比表面積としては、スラリを遠心分離して得られた固相の乾燥後のBET比表面積を用いることができる。前記固相のBET比表面積は、絶縁材料の研磨速度が向上しやすい観点から、41m/g以上が好ましい。前記固相のBET比表面積は、絶縁材料の研磨速度が向上しやすい観点から、70m/g以下が好ましく、60m/g以下がより好ましく、50m/g以下が更に好ましく、45m/g以下が特に好ましく、43m/g以下が極めて好ましく、42m/g以下が非常に好ましい。前記観点から、前記固相のBET比表面積は、40〜70m/gであることがより好ましい。
【0023】
前記固相のBET比表面積は、ガス吸着法を利用し、例えば、Quantachrome社製の比表面積・細孔径分析装置(商品名:QUADRASORB evo)を用いて下記条件で測定することができる。前記固相のBET比表面積としては、2回の測定の平均値を用いることができる。
前処理:真空脱気(100℃、2時間)
測定方式:定容法
吸着ガス:窒素ガス
測定温度:77.35K(−195.8℃)
測定セルサイズ:1.5cm
測定項目:P/Pの値を0〜0.3の範囲で変化させて数点を測定
解析項目:BET多点法による比表面積
測定回数:試料を変えて2回測定
【0024】
BET比表面積を測定する固相は、例えば、下記条件の遠心分離及び真空乾燥によってスラリから回収することができる。
[遠心分離条件]
装置:日立工機株式会社製の遠心分離機(商品名:himac CR7)
分離条件:遠心加速度1.1×10Gで60分
[真空乾燥条件]
装置:ヤマト科学株式会社製の真空乾燥機(商品名:スタンダードタイプADP200)
乾燥条件:室温(25℃)で24時間
【0025】
(砥粒)
本実施形態に係るスラリの砥粒は、上述のとおり、第1の粒子と、当該第1の粒子に接触した第2の粒子と、を含む複合粒子を含有する。第2の粒子の粒径は、第1の粒子の粒径よりも小さい。第1の粒子及び第2の粒子の粒径の大小関係は、複合粒子のSEM画像等から判別することができる。
【0026】
第1の粒子の粒径は、下記の範囲が好ましい。第1の粒子の粒径の下限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、15nm以上が好ましく、25nm以上がより好ましく、35nm以上が更に好ましく、40nm以上が特に好ましく、50nm以上が極めて好ましく、80nm以上が非常に好ましく、100nm以上がより一層好ましい。第1の粒子の粒径の上限は、砥粒の分散性が向上する観点、及び、被研磨面に傷がつくことが抑制されやすい観点から、1000nm以下が好ましく、800nm以下がより好ましく、600nm以下が更に好ましく、400nm以下が特に好ましく、300nm以下が極めて好ましく、200nm以下が非常に好ましく、150nm以下がより一層好ましい。前記観点から、第1の粒子の粒径は、15〜1000nmであることがより好ましい。第1の粒子の平均粒径(平均二次粒径)が上述の範囲であってもよい。
【0027】
第2の粒子の粒径は、下記の範囲が好ましい。第2の粒子の粒径の下限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましく、3nm以上が更に好ましい。第2の粒子の粒径の上限は、砥粒の分散性が向上する観点、及び、被研磨面に傷がつくことが抑制されやすい観点から、50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましく、25nm以下が更に好ましく、20nm以下が特に好ましく、15nm以下が極めて好ましく、10nm以下が非常に好ましい。前記観点から、第2の粒子の粒径は、1〜50nmであることがより好ましい。第2の粒子の平均粒径(平均二次粒径)が上述の範囲であってもよい。
【0028】
スラリ中の砥粒(複合粒子を含む砥粒全体)の平均粒径(平均二次粒径)は、下記の範囲が好ましい。砥粒の平均粒径の下限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、16nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、30nm以上が更に好ましく、40nm以上が特に好ましく、50nm以上が極めて好ましく、100nm以上が非常に好ましく、120nm以上がより一層好ましく、140nm以上が更に好ましい。砥粒の平均粒径の上限は、砥粒の分散性が向上する観点、及び、被研磨面に傷がつくことが抑制されやすい観点から、1050nm以下が好ましく、1000nm以下がより好ましく、800nm以下が更に好ましく、600nm以下が特に好ましく、500nm以下が極めて好ましく、400nm以下が非常に好ましく、300nm以下がより一層好ましく、200nm以下が更に好ましく、160nm以下が特に好ましく、155nm以下が極めて好ましい。前記観点から、砥粒の平均粒径は、16〜1050nmであることがより好ましい。
【0029】
平均粒径は、例えば、光回折散乱式粒度分布計(例えば、ベックマン・コールター株式会社製、商品名:N5、又は、マイクロトラック・ベル株式会社製、商品名:マイクロトラックMT3300EXII)を用いて測定することができる。
【0030】
第1の粒子はセリウム酸化物(例えばセリア)を含有し、第2の粒子はセリウム化合物を含有する。第2の粒子のセリウム化合物としては、セリウム水酸化物、セリウム酸化物等が挙げられる。第2の粒子のセリウム化合物としては、セリウム酸化物とは異なる化合物を用いることができる。セリウム化合物は、セリウム水酸化物を含むことが好ましい。セリウム水酸化物を含む砥粒は、シリカ、セリウム酸化物等からなる粒子と比較して、水酸基の作用によって絶縁材料(例えば酸化珪素)との反応性(化学的作用)が高く、絶縁材料を更に高い研磨速度で研磨することができる。セリウム水酸化物は、例えば、4価セリウム(Ce4+)と、少なくとも1つの水酸化物イオン(OH)とを含む化合物である。セリウム水酸化物は、水酸化物イオン以外の陰イオン(例えば、硝酸イオンNO及び硫酸イオンSO2−)を含んでいてもよい。例えば、セリウム水酸化物は、4価セリウムに結合した陰イオン(例えば、硝酸イオンNO及び硫酸イオンSO2−)を含んでいてもよい。
【0031】
セリウム水酸化物は、セリウム塩とアルカリ源(塩基)とを反応させることにより作製できる。セリウム水酸化物は、セリウム塩とアルカリ液(例えばアルカリ水溶液)とを混合することにより作製されることが好ましい。これにより、粒径が極めて細かい粒子を得ることができ、優れた研磨傷の低減効果を得やすい。このような手法は、例えば、特許文献6及び7に開示されている。セリウム水酸化物は、セリウム塩溶液(例えばセリウム塩水溶液)とアルカリ液とを混合することにより得ることができる。セリウム塩としては、Ce(NO、Ce(SO、Ce(NH(NO、Ce(NH(SO等が挙げられる。
【0032】
セリウム水酸化物の製造条件等に応じて、4価セリウム(Ce4+)、1〜3個の水酸化物イオン(OH)及び1〜3個の陰イオン(Xc−)からなるCe(OH)(式中、a+b×c=4である)を含む粒子が生成すると考えられる(なお、このような粒子もセリウム水酸化物である)。Ce(OH)では、電子吸引性の陰イオン(Xc−)が作用して水酸化物イオンの反応性が向上しており、Ce(OH)の存在量が増加するに伴い研磨速度が向上すると考えられる。陰イオン(Xc−)としては、例えば、NO及びSO2−が挙げられる。セリウム水酸化物を含む粒子は、Ce(OH)だけでなく、Ce(OH)、CeO等も含み得ると考えられる。
【0033】
セリウム水酸化物を含む粒子がCe(OH)を含むことは、粒子を純水でよく洗浄した後に、FT−IR ATR法(Fourier transform Infra Red Spectrometer Attenuated Total Reflection法、フーリエ変換赤外分光光度計全反射測定法)で、陰イオン(Xc−)に該当するピークを検出する方法により確認できる。XPS法(X−ray Photoelectron Spectroscopy、X線光電子分光法)により、陰イオン(Xc−)の存在を確認することもできる。
【0034】
第1の粒子及び第2の粒子を含む複合粒子は、ホモジナイザー、ナノマイザー、ボールミル、ビーズミル、超音波処理機等を用いて第1の粒子と第2の粒子とを接触させること、互いに相反する電荷を有する第1の粒子と第2の粒子とを接触させること、粒子の含有量が少ない状態で第1の粒子と第2の粒子とを接触させることなどにより得ることができる。
【0035】
第1の粒子におけるセリウム酸化物の含有量の下限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、第1の粒子の全体(スラリに含まれる第1の粒子の全体。以下同様)を基準として、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、95質量%以上が特に好ましい。第1の粒子は、実質的にセリウム酸化物からなる態様(実質的に第1の粒子の100質量%がセリウム酸化物である態様)であってもよい。
【0036】
第2の粒子におけるセリウム化合物の含有量の下限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、第2の粒子の全体(スラリに含まれる第2の粒子の全体。以下同様)を基準として、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、95質量%以上が特に好ましい。第2の粒子は、実質的にセリウム化合物からなる態様(実質的に第2の粒子の100質量%がセリウム化合物である態様)であってもよい。
【0037】
スラリに特定の波長の光を透過させた際に分光光度計によって得られる下記式の吸光度の値により第2の粒子の含有量を推定することができる。すなわち、粒子が特定の波長の光を吸収する場合、当該粒子を含む領域の光透過率が減少する。光透過率は、粒子による吸収だけでなく、散乱によっても減少するが、第2の粒子では、散乱の影響が小さい。そのため、本実施形態では、下記式によって算出される吸光度の値により第2の粒子の含有量を推定することができる。
吸光度 =−LOG10(光透過率[%]/100)
【0038】
砥粒における第1の粒子の含有量の下限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、砥粒全体(スラリに含まれる砥粒全体。以下同様)を基準として、50質量%以上が好ましく、50質量%を超えることがより好ましく、60質量%以上が更に好ましく、70質量%以上が特に好ましく、75質量%以上が極めて好ましく、80質量%以上が非常に好ましい。砥粒における第1の粒子の含有量の上限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、砥粒全体を基準として、95質量%以下が好ましく、93質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましく、88質量%以下が特に好ましく、86質量%以下が極めて好ましく、85質量%以下が非常に好ましく、82質量%以下がより一層好ましい。前記観点から、砥粒における第1の粒子の含有量は、砥粒全体を基準として50〜95質量%であることがより好ましい。
【0039】
砥粒における第2の粒子の含有量の下限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、砥粒全体(スラリに含まれる砥粒全体)を基準として、5質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、12質量%以上が特に好ましく、14質量%以上が極めて好ましく、15質量%以上が非常に好ましく、18質量%以上がより一層好ましい。砥粒における第2の粒子の含有量の上限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、砥粒全体を基準として、50質量%以下が好ましく、50質量%未満がより好ましく、40質量%以下が更に好ましく、30質量%以下が特に好ましく、25質量%以下が極めて好ましく、20質量%以下が非常に好ましい。前記観点から、砥粒における第2の粒子の含有量は、砥粒全体を基準として5〜50質量%であることがより好ましい。
【0040】
砥粒におけるセリウム酸化物の含有量の下限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、砥粒全体(スラリに含まれる砥粒全体)を基準として、50質量%以上が好ましく、50質量%を超えることがより好ましく、60質量%以上が更に好ましく、70質量%以上が特に好ましく、75質量%以上が極めて好ましく、80質量%以上が非常に好ましい。砥粒におけるセリウム酸化物の含有量の上限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、砥粒全体を基準として、95質量%以下が好ましく、93質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましく、88質量%以下が特に好ましく、86質量%以下が極めて好ましく、85質量%以下が非常に好ましく、82質量%以下がより一層好ましい。前記観点から、砥粒におけるセリウム酸化物の含有量は、砥粒全体を基準として50〜95質量%であることがより好ましい。
【0041】
砥粒におけるセリウム水酸化物の含有量の下限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、砥粒全体(スラリに含まれる砥粒全体)を基準として、5質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、12質量%以上が特に好ましく、14質量%以上が極めて好ましく、15質量%以上が非常に好ましく、18質量%以上がより一層好ましい。砥粒におけるセリウム水酸化物の含有量の上限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、砥粒全体を基準として、50質量%以下が好ましく、50質量%未満がより好ましく、40質量%以下が更に好ましく、30質量%以下が特に好ましく、25質量%以下が極めて好ましく、20質量%以下が非常に好ましい。前記観点から、砥粒におけるセリウム水酸化物の含有量は、砥粒全体を基準として5〜50質量%であることがより好ましい。
【0042】
第1の粒子の含有量の下限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、第1の粒子及び第2の粒子の合計量を基準として、50質量%以上が好ましく、50質量%を超えることがより好ましく、60質量%以上が更に好ましく、70質量%以上が特に好ましく、75質量%以上が極めて好ましく、80質量%以上が非常に好ましい。第1の粒子の含有量の上限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、第1の粒子及び第2の粒子の合計量を基準として、95質量%以下が好ましく、93質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましく、88質量%以下が特に好ましく、86質量%以下が極めて好ましく、85質量%以下が非常に好ましく、82質量%以下がより一層好ましい。前記観点から、第1の粒子の含有量は、第1の粒子及び第2の粒子の合計量を基準として50〜95質量%であることがより好ましい。
【0043】
第2の粒子の含有量の下限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、第1の粒子及び第2の粒子の合計量を基準として、5質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、12質量%以上が特に好ましく、14質量%以上が極めて好ましく、15質量%以上が非常に好ましく、18質量%以上がより一層好ましい。第2の粒子の含有量の上限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、第1の粒子及び第2の粒子の合計量を基準として、50質量%以下が好ましく、50質量%未満がより好ましく、40質量%以下が更に好ましく、30質量%以下が特に好ましく、25質量%以下が極めて好ましく、20質量%以下が非常に好ましい。前記観点から、第2の粒子の含有量は、第1の粒子及び第2の粒子の合計量を基準として5〜50質量%であることがより好ましい。
【0044】
スラリにおける第1の粒子の含有量の下限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、スラリの全質量を基準として、0.005質量%以上が好ましく、0.008質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましく、0.05質量%以上が特に好ましく、0.07質量%以上が極めて好ましく、0.08質量%以上が非常に好ましい。スラリにおける第1の粒子の含有量の上限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点、及び、スラリの保存安定性を高くする観点から、スラリの全質量を基準として、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が特に好ましく、0.3質量%以下が極めて好ましく、0.2質量%以下が非常に好ましく、0.1質量%以下がより一層好ましい。前記観点から、スラリにおける第1の粒子の含有量は、スラリの全質量を基準として0.005〜5質量%であることがより好ましい。
【0045】
スラリにおける第2の粒子の含有量の下限は、砥粒と被研磨面との化学的な相互作用が更に向上して絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、スラリの全質量を基準として、0.005質量%以上が好ましく、0.008質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましく、0.012質量%以上が特に好ましく、0.015質量%以上が極めて好ましく、0.018質量%以上が非常に好ましく、0.02質量%以上がより一層好ましい。スラリにおける第2の粒子の含有量の上限は、砥粒の凝集を避けることが容易になると共に、砥粒と被研磨面との化学的な相互作用が更に良好となり、砥粒の特性を有効に活用しやすい観点から、スラリの全質量を基準として、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が特に好ましく、0.1質量%以下が極めて好ましく、0.05質量%以下が非常に好ましく、0.04質量%以下がより一層好ましく、0.035質量%以下が更に好ましく、0.03質量%以下が更に好ましい。前記観点から、スラリにおける第2の粒子の含有量は、スラリの全質量を基準として0.005〜5質量%であることがより好ましい。
【0046】
スラリにおけるセリウム酸化物の含有量の下限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、スラリの全質量を基準として、0.005質量%以上が好ましく、0.008質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましく、0.05質量%以上が特に好ましく、0.07質量%以上が極めて好ましく、0.08質量%以上が非常に好ましい。スラリにおけるセリウム酸化物の含有量の上限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点、及び、スラリの保存安定性を高くする観点から、スラリの全質量を基準として、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が特に好ましく、0.3質量%以下が極めて好ましく、0.2質量%以下が非常に好ましく、0.1質量%以下がより一層好ましい。前記観点から、スラリにおけるセリウム酸化物の含有量は、スラリの全質量を基準として0.005〜5質量%であることがより好ましい。
【0047】
スラリにおけるセリウム水酸化物の含有量の下限は、砥粒と被研磨面との化学的な相互作用が更に向上して絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、スラリの全質量を基準として、0.005質量%以上が好ましく、0.008質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましく、0.012質量%以上が特に好ましく、0.015質量%以上が極めて好ましく、0.018質量%以上が非常に好ましく、0.02質量%以上がより一層好ましい。スラリにおけるセリウム水酸化物の含有量の上限は、砥粒の凝集を避けることが容易になると共に、砥粒と被研磨面との化学的な相互作用が更に良好となり、砥粒の特性を有効に活用しやすい観点から、スラリの全質量を基準として、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が特に好ましく、0.1質量%以下が極めて好ましく、0.05質量%以下が非常に好ましく、0.04質量%以下がより一層好ましく、0.035質量%以下が更に好ましく、0.03質量%以下が更に好ましい。前記観点から、スラリにおけるセリウム水酸化物の含有量は、スラリの全質量を基準として、0.005〜5質量%であることがより好ましい。
【0048】
スラリにおける砥粒の含有量の下限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、スラリの全質量を基準として、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.08質量%以上が更に好ましく、0.1質量%以上が特に好ましい。スラリにおける砥粒の含有量の上限は、スラリの保存安定性を高くする観点から、スラリの全質量を基準として、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が特に好ましく、0.1質量%以下が極めて好ましく、0.2質量%以下が非常に好ましく、0.15質量%以下がより一層好ましく、0.135質量%以下が更に好ましく、0.13質量%以下が特に好ましく、0.12質量%以下が極めて好ましい。前記観点から、スラリにおける砥粒の含有量は、スラリの全質量を基準として0.01〜10質量%であることがより好ましい。
【0049】
第1の粒子は、負のゼータ電位を有することができる。第2の粒子は、正のゼータ電位を有することができる。ゼータ電位とは、粒子の表面電位を表す。ゼータ電位は、例えば、動的光散乱式ゼータ電位測定装置(例えば、ベックマン・コールター株式会社製、商品名:DelsaNano C)を用いて測定することができる。粒子のゼータ電位は、添加剤を用いて調整できる。例えば、セリウム酸化物を含有する粒子にモノカルボン酸(例えば酢酸)を接触させることにより、正のゼータ電位を有する粒子を得ることができる。また、セリウム酸化物を含有する粒子に、リン酸二水素アンモニウム、カルボキシル基を有する材料(例えばポリアクリル酸)等を接触させることにより、負のゼータ電位を有する粒子を得ることができる。
【0050】
本実施形態に係るスラリは、前記第1の粒子及び前記第2の粒子を含む複合粒子以外の他の粒子を含有していてもよい。このような他の粒子としては、例えば、前記第2の粒子に接触していない前記第1の粒子;前記第1の粒子に接触していない前記第2の粒子;シリカ、アルミナ、ジルコニア、イットリア等からなる第3の粒子(第1の粒子及び第2の粒子を含まない粒子)が挙げられる。
【0051】
(液状媒体)
液状媒体としては、特に制限はないが、脱イオン水、超純水等の水が好ましい。液状媒体の含有量は、他の構成成分の含有量を除いたスラリの残部でよく、特に限定されない。
【0052】
(任意成分)
本実施形態に係るスラリは、研磨特性を調整する等の目的で、任意の添加剤を更に含有していてもよい。任意の添加剤としては、カルボキシル基を有する材料(ポリオキシアルキレン化合物又は水溶性高分子に該当する化合物を除く)、ポリオキシアルキレン化合物、水溶性高分子、酸化剤(例えば過酸化水素)、分散剤(例えばリン酸系無機塩)等が挙げられる。添加剤のそれぞれは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
任意の添加剤(水溶性高分子等)は、スラリにおける砥粒の分散安定性を高めることができ、絶縁材料(例えば酸化珪素)を更に高速に研磨できる効果がある。また、絶縁材料(例えば酸化珪素)を高速に研磨できることにより、段差解消性が向上し、高い平坦性を得ることもできる。これは、凸部の研磨速度が凹部と比較して大幅に向上するためであると考える。
【0054】
カルボキシル基を有する材料としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等のモノカルボン酸;乳酸、リンゴ酸、クエン酸等のヒドロキシ酸;マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸等のジカルボン酸;ポリアクリル酸、ポリマレイン酸等のポリカルボン酸;アルギニン、ヒスチジン、リシン等のアミノ酸などが挙げられる。
【0055】
ポリオキシアルキレン化合物としては、ポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレン誘導体等が挙げられる。
【0056】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等が挙げられる。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、ポリエチレングリコールがより好ましい。
【0057】
ポリオキシアルキレン誘導体は、例えば、ポリアルキレングリコールに官能基若しくは置換基を導入した化合物、又は、有機化合物にポリアルキレンオキシドを付加した化合物である。前記官能基又は置換基としては、例えば、アルキルエーテル基、アルキルフェニルエーテル基、フェニルエーテル基、スチレン化フェニルエーテル基、グリセリルエーテル基、アルキルアミン基、脂肪酸エステル基、及び、グリコールエステル基が挙げられる。ポリオキシアルキレン誘導体としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンビスフェノールエーテル(例えば、日本乳化剤株式会社製、BAグリコールシリーズ)、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(例えば、花王株式会社製、エマルゲンシリーズ)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、第一工業製薬株式会社製、ノイゲンEAシリーズ)、ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテル(例えば、阪本薬品工業株式会社製、SC−Eシリーズ及びSC−Pシリーズ)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、第一工業製薬株式会社製、ソルゲンTWシリーズ)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(例えば、花王株式会社製、エマノーンシリーズ)、ポリオキシエチレンアルキルアミン(例えば、第一工業製薬株式会社製、アミラヂンD)、並びに、ポリアルキレンオキシドを付加したその他の化合物(例えば、日信化学工業株式会社製、サーフィノール465、及び、日本乳化剤株式会社製、TMPシリーズ)が挙げられる。
【0058】
水溶性高分子は、砥粒の分散安定性、平坦性、面内均一性、窒化珪素に対する酸化珪素の研磨選択性(酸化珪素の研磨速度/窒化珪素の研磨速度)、ポリシリコンに対する酸化珪素の研磨選択性(酸化珪素の研磨速度/ポリシリコンの研磨速度)等の研磨特性を調整する効果がある。ここで、「水溶性高分子」とは、水100gに対して0.1g以上溶解する高分子として定義する。前記ポリオキシアルキレン化合物に該当する高分子は「水溶性高分子」に含まれないものとする。
【0059】
水溶性高分子としては、特に制限はなく、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド等のアクリル系ポリマ;カルボキシメチルセルロース、寒天、カードラン、デキストリン、シクロデキストリン、プルラン等の多糖類;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクロレイン等のビニル系ポリマ;ポリグリセリン、ポリグリセリン誘導体等のグリセリン系ポリマ;ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0060】
水溶性高分子を使用する場合、水溶性高分子の含有量の下限は、砥粒の沈降を抑制しつつ水溶性高分子の添加効果が得られる観点から、スラリの全質量を基準として、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、0.3質量%以上が特に好ましく、0.5質量%以上が極めて好ましい。水溶性高分子の含有量の上限は、砥粒の沈降を抑制しつつ水溶性高分子の添加効果が得られる観点から、スラリの全質量を基準として、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、6質量%以下が更に好ましく、5質量%以下が特に好ましく、3質量%以下が極めて好ましく、1質量%以下が非常に好ましい。
【0061】
(スラリの特性)
砥粒の含有量が0.1質量%である場合において、本実施形態に係るスラリを遠心加速度5.8×10Gで5分間遠心分離したときに得られる液相(上澄み液)における波長380nmの光に対する吸光度は0を超えることが好ましい。これにより、絶縁材料の研磨速度を更に向上させることができる。このように絶縁材料の研磨速度が向上する理由としては、例えば、下記の理由が挙げられる。但し、理由は下記に限定されない。
【0062】
上述の遠心分離では、複合粒子が選択的に除去されやすく、遊離した粒子(以下、「遊離粒子」という。例えば、第1の粒子と接触していない第2の粒子)を固形分として含有する液相を得ることが可能であり、吸光度が0を超える場合、砥粒は、スラリにおいて複合粒子に加えて遊離粒子を含む。遊離粒子は複合粒子と比較して粒径が小さいため、スラリ中における拡散速度が高く、絶縁材料の表面に優先的に吸着して当該表面を被覆する。この場合、複合粒子は、絶縁材料に直接的に作用するだけでなく、絶縁材料に吸着した遊離粒子にも作用して間接的にも絶縁材料に作用することができる(例えば、絶縁材料に吸着した遊離粒子を介して機械的作用を絶縁材料へ伝達することができる)。これにより、絶縁材料の研磨速度が向上する。
【0063】
砥粒の含有量が0.1質量%である場合において、本実施形態に係るスラリを遠心加速度5.8×10Gで5分間遠心分離したときに得られる液相における波長380nmの光に対する吸光度は、下記の範囲が好ましい。前記吸光度は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、0.001以上がより好ましく、0.002以上が更に好ましく、0.003以上が特に好ましく、0.005以上が極めて好ましく、0.01以上が非常に好ましく、0.03以上がより一層好ましく、0.05以上が更に好ましく、0.08以上が特に好ましく、0.09以上が極めて好ましく、0.1以上が非常に好ましく、0.15以上がより一層好ましい。スラリ中の遊離粒子の含有量が多い場合には、絶縁材料に対する遊離粒子の吸着量が増加することから、絶縁材料の研磨速度が更に向上すると推察される。前記吸光度は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましく、0.3以下が更に好ましく、0.25以下が特に好ましく、0.2以下が極めて好ましい。前記観点から、前記吸光度は、0を超え0.5以下であることがより好ましい。砥粒における遊離粒子の含有量を調整することにより前記吸光度を調整できる。例えば、第2の粒子が接触する第1の粒子の表面積を増加させること、第1の粒子と第2の粒子とを接触させる際に不充分な分散状態に調整すること(分散時間を減少させること、第1の粒子及び第2の粒子を含む液の撹拌における回転数を減少させること、粒子間に生じる静電反発力を弱める等)などによって前記吸光度を減少させることができる。
【0064】
本実施形態に係るスラリ(例えば、砥粒の含有量が0.1質量%であるスラリ)を遠心加速度5.8×10Gで5分間遠心分離したときに得られる液相における波長500nmの光に対する光透過率は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、50%/cm以上が好ましく、60%/cm以上がより好ましく、70%/cm以上が更に好ましく、80%/cm以上が特に好ましく、90%/cm以上が極めて好ましく、92%/cm以上が非常に好ましい。光透過率の上限は100%/cmである。
【0065】
本実施形態に係るスラリのpHの下限は、絶縁材料の研磨速度が更に向上する観点から、2.0以上が好ましく、2.5以上がより好ましく、2.8以上が更に好ましく、3.0以上が特に好ましく、3.2以上が極めて好ましく、3.5以上が非常に好ましく、4.0以上がより一層好ましく、4.2以上が更に好ましく、4.3以上が特に好ましい。pHの上限は、スラリの保存安定性が更に向上する観点から、7.0以下が好ましく、6.5以下がより好ましく、6.0以下が更に好ましく、5.0以下が特に好ましく、4.8以下が極めて好ましく、4.7以下が非常に好ましく、4.6以下がより一層好ましく、4.5以下が更に好ましく、4.4以下が特に好ましい。前記観点から、pHは、2.0〜7.0であることがより好ましい。スラリのpHは、液温25℃におけるpHと定義する。
【0066】
スラリのpHは、無機酸、有機酸等の酸成分;アンモニア、水酸化ナトリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、イミダゾール、アルカノールアミン等のアルカリ成分などによって調整できる。pHを安定化させるため、緩衝剤を添加してもよい。緩衝液(緩衝剤を含む液)として緩衝剤を添加してもよい。このような緩衝液としては、酢酸塩緩衝液、フタル酸塩緩衝液等が挙げられる。
【0067】
本実施形態に係るスラリのpHは、pHメータ(例えば、東亜ディーケーケー株式会社製の型番PHL−40)で測定することができる。具体的には例えば、フタル酸塩pH緩衝液(pH:4.01)及び中性リン酸塩pH緩衝液(pH:6.86)を標準緩衝液として用いてpHメータを2点校正した後、pHメータの電極をスラリに入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定する。標準緩衝液及びスラリの液温は、共に25℃とする。
【0068】
本実施形態に係るスラリをCMP研磨液として用いる場合、研磨液の構成成分を一液式研磨液として保存してもよく、砥粒及び液状媒体を含むスラリ(第1の液)と、添加剤及び液状媒体を含む添加液(第2の液)とを混合して前記研磨液となるように前記研磨液の構成成分をスラリと添加液とに分けた複数液式(例えば二液式)の研磨液セットとして保存してもよい。添加液は、例えば酸化剤を含んでいてもよい。前記研磨液の構成成分は、三液以上に分けた研磨液セットとして保存してもよい。
【0069】
前記研磨液セットにおいては、研磨直前又は研磨時に、スラリ及び添加液が混合されて研磨液が作製される。また、一液式研磨液は、液状媒体の含有量を減じた研磨液用貯蔵液として保存されると共に、研磨時に液状媒体で希釈して用いられてもよい。複数液式の研磨液セットは、液状媒体の含有量を減じたスラリ用貯蔵液及び添加液用貯蔵液として保存されると共に、研磨時に液状媒体で希釈して用いられてもよい。
【0070】
<研磨方法>
本実施形態に係る研磨方法(基体の研磨方法等)は、前記スラリを用いて被研磨面(基体の被研磨面等)を研磨する研磨工程を備えている。研磨工程におけるスラリは、前記研磨液セットにおけるスラリと添加液とを混合して得られる研磨液であってもよい。
【0071】
研磨工程では、例えば、被研磨材料を有する基体の当該被研磨材料を研磨定盤の研磨パッド(研磨布)に押圧した状態で、前記スラリを被研磨材料と研磨パッドとの間に供給し、基体と研磨定盤とを相対的に動かして被研磨材料の被研磨面を研磨する。研磨工程では、例えば、被研磨材料の少なくとも一部を研磨により除去する。
【0072】
研磨対象である基体としては、被研磨基板等が挙げられる。被研磨基板としては、例えば、半導体素子製造に係る基板(例えば、STIパターン、ゲートパターン、配線パターン等が形成された半導体基板)上に被研磨材料が形成された基体が挙げられる。被研磨材料としては、酸化珪素等の絶縁材料などが挙げられる。被研磨材料は、単一の材料であってもよく、複数の材料であってもよい。複数の材料が被研磨面に露出している場合、それらを被研磨材料と見なすことができる。被研磨材料は、膜状(被研磨膜)であってもよく、酸化珪素膜等の絶縁膜などであってもよい。
【0073】
このような基板上に形成された被研磨材料(例えば、酸化珪素等の絶縁材料)を前記スラリで研磨し、余分な部分を除去することによって、被研磨材料の表面の凹凸を解消し、被研磨材料の表面全体にわたって平滑な面を得ることができる。
【0074】
本実施形態に係る研磨方法において、研磨装置としては、被研磨面を有する基体を保持可能なホルダーと、研磨パッドを貼り付け可能な研磨定盤とを有する一般的な研磨装置を使用できる。ホルダー及び研磨定盤のそれぞれには、回転数が変更可能なモータ等が取り付けてある。研磨装置としては、例えば、株式会社荏原製作所製の研磨装置:F−REX300、又は、APPLIED MATERIALS社製の研磨装置:MIRRAを使用できる。
【0075】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、発泡体、非発泡体等が使用できる。研磨パッドの材質としては、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリエステル、アクリル−エステル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ4−メチルペンテン、セルロース、セルロースエステル、ポリアミド(例えば、ナイロン(商標名)及びアラミド)、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリシロキサン共重合体、オキシラン化合物、フェノール樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂等の樹脂が使用できる。研磨パッドの材質としては、特に、研磨速度及び平坦性に更に優れる観点から、発泡ポリウレタン及び非発泡ポリウレタンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましい。研磨パッドには、スラリがたまるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0076】
研磨条件に制限はないが、研磨定盤の回転速度の上限は、基体が飛び出さないように200min−1(min−1=rpm)以下が好ましく、基体にかける研磨圧力(加工荷重)の上限は、研磨傷が発生することを抑制しやすい観点から、100kPa以下が好ましい。研磨している間、ポンプ等で連続的にスラリを研磨パッドに供給することが好ましい。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常にスラリで覆われていることが好ましい。
【0077】
本実施形態に係るスラリ及び研磨方法は、酸化珪素を含む被研磨面を研磨するために使用されることが好ましい。本実施形態に係るスラリ及び研磨方法は、STIの形成及び層間絶縁材料の高速研磨に好適に使用できる。絶縁材料(例えば酸化珪素)の研磨速度の下限は、360nm/min以上が好ましく、400nm/min以上がより好ましく、450nm/min以上が更に好ましく、500nm/min以上が特に好ましい。
【0078】
本実施形態は、プリメタル絶縁材料の研磨にも使用できる。プリメタル絶縁材料としては、酸化珪素、リン−シリケートガラス、ボロン−リン−シリケートガラス、シリコンオキシフロリド、フッ化アモルファスカーボン等が挙げられる。
【0079】
本実施形態は、酸化珪素等の絶縁材料以外の材料にも適用できる。このような材料としては、Hf系、Ti系、Ta系酸化物等の高誘電率材料;シリコン、アモルファスシリコン、SiC、SiGe、Ge、GaN、GaP、GaAs、有機半導体等の半導体材料;GeSbTe等の相変化材料;ITO等の無機導電材料;ポリイミド系、ポリベンゾオキサゾール系、アクリル系、エポキシ系、フェノール系等のポリマ樹脂材料などが挙げられる。
【0080】
本実施形態は、膜状の研磨対象だけでなく、ガラス、シリコン、SiC、SiGe、Ge、GaN、GaP、GaAs、サファイヤ、プラスチック等から構成される各種基板にも適用できる。
【0081】
本実施形態は、半導体素子の製造だけでなく、TFT、有機EL等の画像表示装置;フォトマスク、レンズ、プリズム、光ファイバー、単結晶シンチレータ等の光学部品;光スイッチング素子、光導波路等の光学素子;固体レーザ、青色レーザLED等の発光素子;磁気ディスク、磁気ヘッド等の磁気記憶装置などの製造に用いることができる。
【0082】
本実施形態によれば、セリウム酸化物を含有する第1の粒子と、セリウム化合物を含有する第2の粒子と、を接触させる工程を備える砥粒の製造方法を提供することができる。本実施形態によれば、前記砥粒の製造方法により砥粒を得る工程を備える、スラリの製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0084】
<セリウム酸化物スラリの準備>
セリウム酸化物を含む粒子(第1の粒子。以下、「セリウム酸化物粒子」という)と、和光純薬工業株式会社製の商品名:リン酸二水素アンモニウム(分子量:97.99)とを混合して、セリウム酸化物粒子を5.0質量%(固形分含量)含有するセリウム酸化物スラリ(pH:7)を調製した。リン酸二水素アンモニウムの配合量は、セリウム酸化物粒子の全量を基準として1質量%に調整した。
【0085】
マイクロトラック・ベル株式会社製の商品名:マイクロトラックMT3300EXII内にセリウム酸化物スラリを適量投入し、セリウム酸化物粒子の平均粒径を測定した。表示された平均粒径値を平均粒径(平均二次粒径)として得た。セリウム酸化物スラリにおけるセリウム酸化物粒子の平均粒径は145nmであった。
【0086】
ベックマン・コールター株式会社製の商品名:DelsaNano C内に適量のセリウム酸化物スラリを投入し、25℃において測定を2回行った。表示されたゼータ電位の平均値をゼータ電位として得た。セリウム酸化物スラリにおけるセリウム酸化物粒子のゼータ電位は−55mVであった。
【0087】
<セリウム水酸化物スラリの準備>
(セリウム水酸化物の合成)
480gのCe(NH(NO50質量%水溶液(日本化学産業株式会社製、商品名:CAN50液)を7450gの純水と混合して溶液を得た。次いで、この溶液を撹拌しながら、750gのイミダゾール水溶液(10質量%水溶液、1.47mol/L)を5mL/minの混合速度で滴下して、セリウム水酸化物を含む沈殿物を得た。セリウム水酸化物の合成は、温度20℃、撹拌速度500min−1で行った。撹拌は、羽根部全長5cmの3枚羽根ピッチパドルを用いて行った。
【0088】
得られた沈殿物(セリウム水酸化物を含む沈殿物)を遠心分離(4000min−1、5分間)した後にデカンテーションで液相を除去することによって固液分離を施した。固液分離により得られた粒子10gと、水990gと、を混合した後、超音波洗浄機を用いて粒子を水に分散させて、セリウム水酸化物を含む粒子(第2の粒子。以下、「セリウム水酸化物粒子」という)を含有するセリウム水酸化物スラリ(粒子の含有量:1.0質量%)を調製した。
【0089】
(平均粒径の測定)
ベックマン・コールター株式会社製、商品名:N5を用いてセリウム水酸化物スラリにおけるセリウム水酸化物粒子の平均粒径(平均二次粒径)を測定したところ、10nmであった。測定法は次のとおりである。まず、1.0質量%のセリウム水酸化物粒子を含む測定サンプル(セリウム水酸化物スラリ。水分散液)を1cm角のセルに約1mL入れた後、N5内にセルを設置した。N5のソフトの測定サンプル情報の屈折率を1.333、粘度を0.887mPa・sに設定し、25℃において測定を行い、Unimodal Size Meanとして表示される値を読み取った。
【0090】
(ゼータ電位の測定)
ベックマン・コールター株式会社製の商品名:DelsaNano C内に適量のセリウム水酸化物スラリを投入し、25℃において測定を2回行った。表示されたゼータ電位の平均値をゼータ電位として得た。セリウム水酸化物スラリにおけるセリウム水酸化物粒子のゼータ電位は+50mVであった。
【0091】
(セリウム水酸化物粒子の構造分析)
セリウム水酸化物スラリを適量採取し、真空乾燥してセリウム水酸化物粒子を単離した後に、純水で充分に洗浄して試料を得た。得られた試料について、FT−IR ATR法による測定を行ったところ、水酸化物イオン(OH)に基づくピークの他に、硝酸イオン(NO)に基づくピークが観測された。また、同試料について、窒素に対するXPS(N−XPS)測定を行ったところ、NHに基づくピークは観測されず、硝酸イオンに基づくピークが観測された。これらの結果より、セリウム水酸化物粒子は、セリウム元素に結合した硝酸イオンを有する粒子を少なくとも一部含有することが確認された。また、セリウム元素に結合した水酸化物イオンを有する粒子がセリウム水酸化物粒子の少なくとも一部に含有されることから、セリウム水酸化物粒子がセリウム水酸化物を含有することが確認された。これらの結果より、セリウムの水酸化物が、セリウム元素に結合した水酸化物イオンを含むことが確認された。
【0092】
<スラリの調製>
(実施例1)
2枚羽根の撹拌羽根を用いて300rpmの回転数で撹拌しながら、前記セリウム水酸化物スラリ30gと、イオン交換水1930gとを混合して混合液を得た。続いて、前記混合液を撹拌しながら前記セリウム酸化物スラリ40gを前記混合液に混合した後、株式会社エスエヌディ製の超音波洗浄機(装置名:US−105)を用いて超音波を照射しながら撹拌した。これにより、セリウム酸化物粒子と、当該セリウム酸化物粒子に接触したセリウム水酸化物粒子と、を含む複合粒子を含有する試験用スラリ(セリウム酸化物粒子の含有量:0.1質量%、セリウム水酸化物粒子の含有量:0.015質量%、pH:3.9、砥粒の平均粒径:155nm)を調製した。
【0093】
(実施例2)
2枚羽根の撹拌羽根を用いて300rpmの回転数で撹拌しながら、前記セリウム水酸化物スラリ35gと、イオン交換水1925gとを混合して混合液を得た。続いて、前記混合液を撹拌しながら前記セリウム酸化物スラリ40gを前記混合液に混合した後、株式会社エスエヌディ製の超音波洗浄機(装置名:US−105)を用いて超音波を照射しながら撹拌した。これにより、セリウム酸化物粒子と、当該セリウム酸化物粒子に接触したセリウム水酸化物粒子と、を含む複合粒子を含有する試験用スラリ(セリウム酸化物粒子の含有量:0.1質量%、セリウム水酸化物粒子の含有量:0.0175質量%、pH:4.0、砥粒の平均粒径:155nm)を調製した。
【0094】
(実施例3)
2枚羽根の撹拌羽根を用いて300rpmの回転数で撹拌しながら、前記セリウム水酸化物スラリ40gと、イオン交換水1920gとを混合して混合液を得た。続いて、前記混合液を撹拌しながら前記セリウム酸化物スラリ40gを前記混合液に混合した後、株式会社エスエヌディ製の超音波洗浄機(装置名:US−105)を用いて超音波を照射しながら撹拌した。これにより、セリウム酸化物粒子と、当該セリウム酸化物粒子に接触したセリウム水酸化物粒子と、を含む複合粒子を含有する試験用スラリ(セリウム酸化物粒子の含有量:0.1質量%、セリウム水酸化物粒子の含有量:0.02質量%、pH:4.1、砥粒の平均粒径:155nm)を調製した。
【0095】
(実施例4)
2枚羽根の撹拌羽根を用いて300rpmの回転数で撹拌しながら、前記セリウム水酸化物スラリ50gと、イオン交換水1910gとを混合して混合液を得た。続いて、前記混合液を撹拌しながら前記セリウム酸化物スラリ40gを前記混合液に混合した後、株式会社エスエヌディ製の超音波洗浄機(装置名:US−105)を用いて超音波を照射しながら撹拌した。これにより、セリウム酸化物粒子と、当該セリウム酸化物粒子に接触したセリウム水酸化物粒子と、を含む複合粒子を含有する試験用スラリ(セリウム酸化物粒子の含有量:0.1質量%、セリウム水酸化物粒子の含有量:0.025質量%、pH:4.3、砥粒の平均粒径:155nm)を調製した。
【0096】
(実施例5)
2枚羽根の撹拌羽根を用いて300rpmの回転数で撹拌しながら、前記セリウム水酸化物スラリ70gと、イオン交換水1890gとを混合して混合液を得た。続いて、前記混合液を撹拌しながら前記セリウム酸化物スラリ40gを前記混合液に混合した後、株式会社エスエヌディ製の超音波洗浄機(装置名:US−105)を用いて超音波を照射しながら撹拌した。これにより、セリウム酸化物粒子と、当該セリウム酸化物粒子に接触したセリウム水酸化物粒子と、を含む複合粒子を含有する試験用スラリ(セリウム酸化物粒子の含有量:0.1質量%、セリウム水酸化物粒子の含有量:0.035質量%、pH:4.5、砥粒の平均粒径:155nm)を調製した。
【0097】
(実施例6)
1mm径のジルコニア製ビーズが入った円筒形状の容器に前記セリウム水酸化物スラリ20g、イオン交換水60g、及び、前記セリウム酸化物スラリ20gを順次添加して混合液を得た。続いて、前記混合液をアズワン株式会社製のミックスローター(装置名:MR−5)上に設置して100rpmで撹拌した。その後、イオン交換水900gを添加した後に撹拌した。これにより、セリウム酸化物粒子と、当該セリウム酸化物粒子に接触したセリウム水酸化物粒子と、を含む複合粒子を含有する試験用スラリ(セリウム酸化物粒子の含有量:0.1質量%、セリウム水酸化物粒子の含有量:0.02質量%、pH:4.1、砥粒の平均粒径:155nm)を調製した。
【0098】
(実施例7)
1mm径のジルコニア製ビーズが入った円筒形状の容器に前記セリウム水酸化物スラリ25g、イオン交換水55g、及び、前記セリウム酸化物スラリ20gを順次添加して混合液を得た。続いて、前記混合液をアズワン株式会社製のミックスローター(装置名:MR−5)上に設置して100rpmで撹拌した。その後、イオン交換水900gを添加した後に撹拌した。これにより、セリウム酸化物粒子と、当該セリウム酸化物粒子に接触したセリウム水酸化物粒子と、を含む複合粒子を含有する試験用スラリ(セリウム酸化物粒子の含有量:0.1質量%、セリウム水酸化物粒子の含有量:0.025質量%、pH:4.3、砥粒の平均粒径:155nm)を調製した。
【0099】
(実施例8)
1mm径のジルコニア製ビーズが入った円筒形状の容器に前記セリウム水酸化物スラリ30g、イオン交換水50g、及び、前記セリウム酸化物スラリ20gを順次添加して混合液を得た。続いて、前記混合液をアズワン株式会社製のミックスローター(装置名:MR−5)上に設置して100rpmで撹拌した。その後、イオン交換水900gを添加した後に撹拌した。これにより、セリウム酸化物粒子と、当該セリウム酸化物粒子に接触したセリウム水酸化物粒子と、を含む複合粒子を含有する試験用スラリ(セリウム酸化物粒子の含有量:0.1質量%、セリウム水酸化物粒子の含有量:0.035質量%、pH:4.4、砥粒の平均粒径:155nm)を調製した。
【0100】
(比較例1)
2枚羽根の撹拌羽根を用いて300rpmの回転数で撹拌しながら、前記セリウム水酸化物スラリ20gと、イオン交換水1940gとを混合して混合液を得た。続いて、前記混合液を撹拌しながら前記セリウム酸化物スラリ40gを前記混合液に混合した後、株式会社エスエヌディ製の超音波洗浄機(装置名:US−105)を用いて超音波を照射しながら撹拌した。これにより、セリウム酸化物粒子と、当該セリウム酸化物粒子に接触したセリウム水酸化物粒子と、を含む複合粒子を含有する試験用スラリ(セリウム酸化物粒子の含有量:0.1質量%、セリウム水酸化物粒子の含有量:0.01質量%、pH:4.1、砥粒の平均粒径:220nm)を調製した。
【0101】
(比較例2)
2枚羽根の撹拌羽根を用いて300rpmの回転数で撹拌しながら前記セリウム酸化物スラリ40gとイオン交換水1960gとを混合した後、株式会社エスエヌディ製の超音波洗浄機(装置名:US−105)を用いて超音波を照射しながら撹拌した。これにより、セリウム酸化物粒子を含有する試験用スラリ(セリウム酸化物粒子の含有量:0.1質量%、pH:7.0、砥粒の平均粒径:145nm)を調製した。
【0102】
(比較例3)
2枚羽根の撹拌羽根を用いて300rpmの回転数で撹拌しながら前記セリウム水酸化物スラリ200gとイオン交換水1800gとを混合した後、株式会社エスエヌディ製の超音波洗浄機(装置名:US−105)を用いて超音波を照射しながら撹拌した。これにより、セリウム水酸化物粒子を含有する試験用スラリ(セリウム水酸化物粒子の含有量:0.1質量%、pH:4.0、砥粒の平均粒径:10nm)を調製した。
【0103】
<試験用スラリのpH測定>
各試験用スラリの上述のpHは、東亜ディーケーケー株式会社製の型番PHL−40を用いて測定した。
【0104】
<砥粒の平均粒径測定>
マイクロトラック・ベル株式会社製の商品名:マイクロトラックMT3300EXII内に各試験用スラリを適量投入して測定を行うことにより、上述の砥粒の平均粒径を得た。表示された平均粒径値を砥粒の平均粒径(平均二次粒径)として得た。
【0105】
<上澄み液の吸光度及び光透過率の測定>
前記試験用スラリにおける砥粒の含有量(粒子の合計量)を0.1質量%に調整(イオン交換水で希釈)して試験液を調製した。試験液7.5gをベックマン・コールター株式会社製の遠心分離機(商品名:Optima MAX−TL)に入れ、遠心加速度5.8×10G(58148G)、設定温度25℃で5分間処理して上澄み液を得た。
【0106】
前記上澄み液を1cm角の石英製セルに約4mL入れた後、セルを株式会社日立製作所製の分光光度計(装置名:U3310)内に設置した。波長200〜600nmの範囲で吸光度の測定を行い、得られたチャートから波長380nmにおける吸光度の値を読み取った。測定結果を表1に示す。また、実施例1〜8について、得られたチャートから波長500nmにおける光透過率の値を読み取ったところ、92%/cm以上であった。
【0107】
<BET比表面積測定>
前記試験用スラリにおける砥粒の含有量(粒子の合計量)を0.1質量%に調整(イオン交換水で希釈)して試験液を調製した。各試験液に対して下記条件の遠心分離を施すことにより沈殿物を得た後、下記条件で沈殿物を真空乾燥することにより、BET比表面積を測定するための固相を回収した。
[遠心分離条件]
装置:日立工機株式会社製の遠心分離機(商品名:himac CR7)
分離条件:遠心加速度1.1×10Gで60分
[真空乾燥条件]
装置:ヤマト科学株式会社製の真空乾燥機(商品名:スタンダードタイプADP200)
乾燥条件:室温で24時間
【0108】
Quantachrome社製の比表面積・細孔径分析装置(商品名:QUADRASORB evo)を用いて下記条件で前記固相のBET比表面積を測定した。2回の測定の平均値を固相のBET比表面積として得た。測定結果を表1に示す。
前処理:真空脱気(100℃、2時間)
測定方式:定容法
吸着ガス:窒素ガス
測定温度:77.35K(−195.8℃)
測定セルサイズ:1.5cm
測定項目:P/P=0〜0.3の吸着側数点
解析項目:BET多点法による比表面積
測定回数:試料を変えて2回測定
【0109】
<CMP評価>
前記試験用スラリにおける砥粒の含有量(粒子の合計量)を0.1質量%に調整(イオン交換水で希釈)してCMP研磨液を得た。このCMP研磨液を用いて下記研磨条件で被研磨基板を研磨した。CMP研磨液におけるpH及び砥粒の平均粒径の値は、上述の試験用スラリの値と同等であった。
[CMP研磨条件]
研磨装置:MIRRA(APPLIED MATERIALS社製)
CMP研磨液の流量:200mL/min
被研磨基板:パターンが形成されていないブランケットウエハとして、プラズマCVD法で形成された厚さ2μmの酸化珪素膜(TEOS膜)をシリコン基板上に有する被研磨基板を用いた。
研磨パッド:独立気泡を有する発泡ポリウレタン樹脂(ダウ・ケミカル日本株式会社製、型番IC1010)
研磨圧力:13kPa(2.0psi)
被研磨基板及び研磨定盤の回転数:被研磨基板/研磨定盤=93/87rpm
研磨時間:1分(60秒)
ウエハの洗浄:CMP処理後、超音波を印加しながら水で洗浄し、さらに、スピンドライヤで乾燥させた。
【0110】
前記条件で研磨及び洗浄した酸化珪素膜の研磨速度(SiORR)を下記式より求めた。結果を表1に示す。研磨前後における酸化珪素膜の膜厚差は、光干渉式膜厚測定装置(フィルメトリクス株式会社製、商品名:F80)を用いて求めた。
研磨速度(RR)=(研磨前後での酸化珪素膜の膜厚差[nm])/(研磨時間:1[min])
【0111】
【表1】