【文献】
ニュースダイジェスト NEWS DIGEST,食品機械装置,第37巻,2000年03月01日,p. 46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記乳酸菌が、ラクトバシルス・ガセリOLL2716(Lactobacillus gasseri OLL2716:FERM BP−6999)である、請求項1に記載の乳酸菌の生残性向上方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
[乳酸菌の生残性向上方法]
本発明は、20℃〜50℃の発酵乳ミックス中で乳酸菌を保持する、乳酸菌の生残性向上方法に関する。乳酸菌を20℃〜50℃の発酵乳ミックス中で保持することにより、当該発酵乳ミックスを発酵して得られる発酵乳中の乳酸菌の生残性を向上できる。
【0015】
〈乳酸菌〉
本発明における乳酸菌は、資化した乳糖に対し、乳酸の産生量が50%以上となるものをいう。その種類は特に制限されるものではないが、プロバイオティクス乳酸菌であることが好ましい。ここで、プロバイオティクス乳酸菌とは、消化管内の細菌叢を改善するなど、宿主に有益な作用をもたらしうる有用な乳酸菌を意味する。
本発明における乳酸菌は、単独あるいは2種以上が組み合わされている場合であってもよい。
本発明において好ましい乳酸菌は、例えば、ラクトバシルス属(Lactobacillus)に属する微生物が例示できる。
【0016】
ラクトバシルス属(Lactobacillus)としては、例えば、ラクトバチルス(Lactobacillus)属の乳酸菌であり、より具体的な例を挙げれば、ラクトバシルス・ガセリ菌(Lactobacillus gasseri)、ラクトバシルス・アミロボラス菌(Lactobacillus amylovorus)、ラクトバシルス・ブルガリカス菌(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバシルス・ラクチス菌(Lactobacillus lactis)、ラクトバシルス・ムコサエ菌(Lactobacillus mucosae)、ラクトバシルス・サリバリウス菌(Lactobacillus salivarius)、ラクトバシルス・アシドフィルス菌(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシルス・カウカシクス菌(Lactobacillus caucasicus)、ラクトバシルス・サーモフィルス菌(Lactobacillus themophilus)、ラクトバシルス・ファーメンタム菌(Lactobacillus fermentum)、ラクトバシルス・クリスパータス菌(Lactobacillus crispatus)、ラクトバシルス・ブレビス菌(Lactobacillus brevis)、ラクトバシルス・カゼイ菌(Lactobacillus casei)、ラクトバシルス・ジェンセニ菌(Lactobacillus jensenii)、ラクトバシルス・オリス菌(Lactobacillus oris)、ラクトバシルス・プランタルム菌(Lactobacillus plantarum)、ラクトバシルス・ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)、ラクトバシルス・ラムノサス菌(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバシルス・ルミニス菌(Lactobacillus ruminis)、ラクトバシルス・ペントーサス菌(Lactobacillus pentosus)等を挙げられる。このうち、好ましい例として、ラクトバシルス・ガセリ菌(Lactobacillus gasseri)が挙げられる。
【0017】
ラクトバシルス・ガセリ菌(Lactobacillus gasseri)としては、例えば、ラクトバシルス・ガセリOLL2716(Lactobacillus gasseri OLL2716:FERM BP−6999)株が好適に用いられる。
【0018】
ラクトバシルス・ガセリOLL2716(Lactobacillus gasseri OLL2716:FERM BP−6999)株の寄託に関する情報は以下の通りである。
【0019】
ラクトバシルス・ガセリOLL2716(Lactobacillus gasseri OLL2716:FERM BP−6999)株
(1)寄託機関名:通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所
(現寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター)
(2)連絡先:〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番3号
電話番号029−861−6029
(現連絡先:〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 120号室
電話番号0438−20−5910)
(3)受託番号:FERM BP−6999
(4)識別のための表示:Lactobacillus gasseri OLL2716
(5)原寄託日:平成11年5月24日
(6)ブタペスト条約に基づく寄託への移管日:平成12年1月14日
【0020】
また、本発明で用いる乳酸菌は、凍結した乳酸菌を用いてもよいし、凍結していない乳酸菌を用いてもよい。凍結した乳酸菌を用いる場合は、凍結乳酸菌を発酵乳ミックス中に添加し、発酵乳ミックス中で当該乳酸菌を解凍しながら保持してもよいし、凍結した乳酸菌をあらかじめ解凍してから、解凍した乳酸菌を発酵乳ミックス中に添加し、発酵乳ミックス中で当該乳酸菌を保持してもよい。
【0021】
本発明における乳酸菌は、乳酸菌を培養して得られた乳酸菌培養物であってよい。乳酸菌を培養する培地は、従来公知の乳酸菌を培養するための培地が挙げられ、培地の種類は特に制限されない。すなわち主炭素源のほか窒素源、無機物その他の栄養素を程良く含有する培地ならばいずれの培地も使用可能である。炭素源としては、例えばラクトース、グルコース、スクロース、フルクトース、澱粉加水分解物、及び廃糖蜜などが使用菌の資化性に応じて使用できる。窒素源としては、例えばカゼインの加水分解物、ホエイタンパク質加水分解物、及び大豆タンパク質加水分解物等の有機窒素含有物が使用できる。ほかに増殖促進剤としては、例えば肉エキス、魚肉エキス、及び酵母エキス等が用いられる。
【0022】
培養は嫌気条件下で行うことが望ましいが、通常用いられる液体静置培養などによる微好気条件下でもよい。嫌気培養には窒素ガス気層下で培養する方法などの公知の手法を適用することができるが、他の方法でもよい。培養温度は一般に30℃〜40℃が好ましいが、菌が生育する温度であれば他の温度条件でもよい。培養中の培地のpHは6.0〜7.0に維持することが好ましいが、菌が生育するpHであれば他のpH条件でもよい。また、バッチ培養条件下で培養することもできる。培養時間は通常10時間〜24時間が好ましいが、菌が生育することができる時間であれば、他の培養時間であってもよい。
【0023】
〈発酵乳ミックス〉
本発明における発酵乳ミックスは、ヨーグルトなどの発酵乳の原料となるもので、乳原料等を用いて調製される。本発明では、公知の発酵乳ミックスを適宜用いることができる。
乳原料は、例えば、生乳(未殺菌乳)、殺菌処理した乳(殺菌乳)、脱脂乳、全脂濃縮乳、脱脂濃縮乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、バター(無塩バター)、バターミルク、クリーム、ホエー蛋白質濃縮物(WPC)、ホエー蛋白質単離物(WPI)、α−ラクトアルブミン(α−La)、及びβ−ラクトグロブリン(β−Lg)などから、実際に製造する発酵乳の種類に応じて、適宜選択することができる。これらは2種以上を組み合わせて用いることができ、例えば、ヨーグルトの場合、エネルギーを低く抑えた状態で、無脂乳固形分を8%以上にするために、生乳及び/又は殺菌処理した乳(殺菌乳)に脱脂乳及び/又は脱脂粉乳を組み合わせることもできる。このとき、乳原料として、風味の良好さなどの観点から、生乳(未殺菌乳)及びその加工物を用いることが好ましい。
【0024】
発酵乳ミックスは、発酵乳の原料を混合した原料調製物であり、前記の乳原料に、必要に応じて、水、砂糖を始めとする糖類や甘味料などの甘味付与剤、及び香料などを添加(配合)し、必要に応じて、加温しながら溶解して調製される。また、必要に応じて、ゼラチン、寒天、カラギーナン、グアガム、低メトキシペクチン及び高メトキシペクチンなどの安定化剤(ゲル化剤)を添加することもできる。発酵乳ミックスには、殺菌前のものも、殺菌後のものも含まれる。
【0025】
本発明において、発酵乳ミックスの温度は20℃〜50℃の範囲内とする。発酵乳ミックスの温度は20℃〜50℃の範囲内であれば、温度が一定であってもよいし、温度が一定ではなく変動しても構わない。20℃〜50℃の範囲内で発酵乳ミックスの温度が一定であるとは、発酵乳ミックスが前記温度範囲内のある一定の温度(例えば、25℃)のまま保持し続けることを指すが、±0.5℃の誤差を含んでもよいものとする。例えば、ある一定温度を25℃に設定する場合は、24.5℃〜25.5℃の範囲をいう。
【0026】
乳酸菌を発酵乳ミックス中で保持する際の発酵乳ミックスの温度は、好ましくは25℃以上であり、より好ましくは30℃以上である。また、好ましくは45℃以下であり、より好ましくは40℃以下である。
【0027】
発酵乳ミックス中で乳酸菌を保持する時間は、特に制限されるものではなく、乳酸菌の菌数や、乳酸菌培養物の体積等に応じて、適宜調整すればよい。また、凍結乳酸菌を用いる場合は、発酵乳ミックス中で乳酸菌が解凍できる時間であればよい。発酵乳ミックス中で乳酸菌を保持する時間は、例えば0.5時間以上、好ましくは0.8時間以上、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは2時間以上、さらに好ましくは3時間以上、特に好ましくは4時間以上である。また、例えば10時間以下、好ましくは8時間以下、より好ましくは6時間以下である。
【0028】
発酵乳ミックスに添加する乳酸菌の量は、発酵乳ミックスあたり、0.01質量%〜0.10質量%であることが好ましく、0.015質量%〜0.07質量%であることがより好ましく、0.02質量%〜0.04質量%であることがさらに好ましい。
【0029】
発酵乳ミックスに添加する乳酸菌の菌数は、例えば、3×10
7cfu/g以上、好ましくは5×10
7cfu/g以上、より好ましくは10×10
7cfu/g以上であることが好ましい。生菌数は常法に従い調整できる。
【0030】
さらに、本発明においては、20℃〜50℃の発酵乳ミックス中で乳酸菌を保持後、前記発酵乳ミックスを0℃〜10℃に冷却する工程を設けることが好ましい。2℃〜8℃に冷却することがより好ましく、4℃〜6℃に冷却することがさらに好ましい。20℃〜50℃の発酵乳ミックス中で乳酸菌を保持後、前記発酵乳ミックスを前記範囲にまで冷却することによって、当該発酵乳ミックスを発酵して得られる発酵乳中の乳酸菌の生残性の低下を抑制できる。
【0031】
また前記発酵乳ミックスを冷却する時間は、特に制限されず、例えば12時間〜36時間、好ましくは18時間〜30時間である。
【0032】
[発酵乳の製造方法]
本発明は、また、
(1)乳原料を用いて発酵乳ミックスを調製する工程
(2)前記発酵乳ミックスに乳酸菌を添加し、20℃〜50℃の発酵乳ミックス中で前記乳酸菌を保持する、保持工程
(3)前記乳酸菌を含有する発酵乳ミックスにスターターを添加して発酵させる、発酵工程
を有する、発酵乳の製造方法を提供する。前記工程を経て発酵乳を製造することにより、得られる発酵乳中の乳酸菌の生残性を向上できる。
【0033】
「発酵乳」とは、ヨーグルト、乳等省令で定義される「発酵乳」、「乳製品乳酸菌飲料」、「乳酸菌飲料」の何れであってもよい。いずれも、発酵乳ミックスを発酵させることで製造される。ヨーグルトとしては、具体的には、セットタイプヨーグルト(固形状発酵乳)、ソフトヨーグルト(糊状発酵乳)又はドリンクヨーグルト(液状発酵乳)などのヨーグルトがあげられる。セットタイプヨーグルトには、プレーンヨーグルトなどが挙げられる。一般に、プレーンヨーグルトは、容器に原料を充填させ、その後に発酵させること(後発酵)により製造される。一方、ソフトヨーグルトやドリンクヨーグルトは、発酵させた発酵乳を微粒化処理や均質化処理した後に、容器に充填させること(前発酵)により製造される。本発明においては、前記のいずれの製造方法にも用いることができる。
【0034】
以下、本発明の製造工程(1)〜(3)を順に説明する。
【0035】
(1)乳原料を用いて発酵乳ミックスを調製する工程
本工程で使用する「乳原料」は、前述したとおりであり、発酵乳の原料として使用される乳製品を意味し、例えば、生乳(未殺菌乳)、殺菌処理した乳(殺菌乳)、脱脂乳、全脂濃縮乳、脱脂濃縮乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、バター(無塩バター)、バターミルク、クリーム、ホエー蛋白質濃縮物(WPC)、ホエー蛋白質単離物(WPI)、α−ラクトアルブミン(α−La)、及びβ−ラクトグロブリン(β−Lg)などから、実際に製造する発酵乳の種類に応じて、適宜選択することができる。これらは2種以上を組み合わせて用いることができ、例えば、ヨーグルトの場合、エネルギーを低く抑えた状態で、無脂乳固形分を8%以上にするために、生乳及び/又は殺菌処理した乳(殺菌乳)に脱脂乳及び/又は脱脂粉乳を組み合わせることもできる。このとき、乳原料として、風味の良好さなどの観点から、生乳(未殺菌乳)及びその加工物を用いることが好ましい。
【0036】
「発酵乳ミックス」は、発酵乳の原料を混合した原料調製物であり、前記の乳原料に、必要に応じて、水、砂糖を始めとする糖類や甘味料などの甘味付与剤、及び香料などを添加(配合)し、必要に応じて、加温しながら溶解して調製される。また、必要に応じて、ゼラチン、寒天、カラギーナン、グアガム、低メトキシペクチン及び高メトキシペクチンなどの安定化剤(ゲル化剤)を添加することもできる。
【0037】
発酵乳ミックスに添加する各原料の割合は、発酵乳の種類に応じて定められている無脂乳固形分の割合(ヨーグルト:8%以上、乳製品乳酸菌飲料:8%未満、乳酸菌飲料:3%未満)を満たしていればよく、その限りにおいて、特に制限されるものではない。ただし、例えばヨーグルトの場合、発酵乳ミックス100質量%中、脂肪分が通常0質量%〜8質量%、好ましくは0.1質量%〜6質量%、より好ましくは0.5質量%〜4質量%となる範囲で、また、無脂乳固形分が通常5質量%〜25質量%、好ましくは6質量%〜20質量%、より好ましくは7質量%〜15質量%となる範囲で、前記乳原料を適宜組み合わせて用いることができる。なお、発酵乳ミックスを発酵させたものが、本発明の対象とする発酵乳であるため、前記の「発酵乳ミックス100質量%中」とは「発酵乳100質量%中」と言い換えることができる。
【0038】
乳原料は、脂肪分や無脂乳固形分が前記の範囲になるように、適宜組み合わせることができるが、例えば、乳原料として生乳(及び/又は殺菌乳など)と脱脂粉乳を用いる場合、生乳(及び/又は殺菌乳など)の配合割合として0質量%〜100質量%、好ましくは10質量%〜90質量%、より好ましくは20質量%〜80質量%、さらに好ましくは40質量%〜80質量%;脱脂粉乳の配合割合として0質量%〜25質量%、好ましくは1質量%〜20質量%、より好ましくは2質量%〜15質量%、さらに好ましくは2質量%〜10質量%を挙げることができる。
【0039】
(2)前記発酵乳ミックスに乳酸菌を添加し、20℃〜50℃の発酵乳ミックス中で前記乳酸菌を保持する、保持工程
【0040】
(2)の工程は、(1)の工程で調製された発酵乳ミックスに乳酸菌を添加し、20℃〜50℃の発酵乳ミックス中で乳酸菌を保持する。20℃〜50℃の発酵乳ミックス中で乳酸菌の保持する方法については、前述の乳酸菌の生残性向上方法で説明した内容を適用できる。ここで、20℃〜50℃の発酵乳ミックスは、前記乳酸菌を添加する前に20℃〜50℃に調整してもよいし、乳酸菌を添加した後に20℃〜50℃に調整してもよい。発酵乳ミックスを20℃〜50℃の温度の範囲内に調整する方法は特に制限されず、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、プレートによる熱交換や、タンクのジャケットに水を入れて温度調整する。
【0041】
なお、(1)の工程で調製された発酵乳ミックスは、本工程で20℃〜50℃の温度の範囲内に調整する前に、加熱殺菌処理に供してもよい。加熱殺菌加熱温度と加熱時間は、目的の殺菌ができる条件であれば特に制限されない。例えば、65℃以上の加熱温度が採用される。好ましくは、少なくとも、発酵乳ミックスそのものの温度が90℃以上、好ましくは90℃〜100℃、より好ましくは95℃程度になる条件であればよく、例えば、発酵乳ミックスを90℃〜100℃にて1分間〜5分間で処理する方法や、90℃〜95℃にて1分間〜3分間で処理する方法などを、制限なく挙げることができる。
【0042】
(3)前記乳酸菌を含有する発酵乳ミックスにスターターを添加して発酵させる、発酵工程
(2)の工程で保持した乳酸菌を含有する発酵乳ミックスは、次いで発酵処理に供される。
【0043】
「スターター」は、発酵乳ミックスを発酵させるために接種する、乳酸菌や酵母などの種菌を意味する。本発明において「スターター」には、公知のスターターを適宜用いることができるが、好ましくは乳酸菌スターターである。乳酸菌スターターには、ラクトバシルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・マケドニス(Streptococcus makedonisu)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、又、ラクトバシルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)の他、発酵乳の製造に一般的に用いられる乳酸菌の中から1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、コーデックス規格でヨーグルトスターターとして規格化されているラクトバシルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)とストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)の混合スターターをベースとする乳酸菌スターターを好適に用いることができる。
【0044】
スターターの添加量は、公知の発酵乳の製造方法において採用されている添加量に従って、適宜設定することができる。また、スターターの接種方法も、特に制限されることなく、発酵乳の製造で慣用されている方法を適宜用いることができる。
【0045】
発酵処理の条件は、発酵乳の種類や所望の風味、使用するスターターの種類などを考慮して、適宜設定することができる。例えば、発酵室内の温度(発酵温度)を30℃〜50℃の範囲に維持し、その発酵室内で静置しながら発酵させる方法を挙げることができる。かかる温度条件であれば、一般に乳酸菌が活動しやすいため、効果的に発酵を進めることができる。発酵温度は、通常では30℃〜50℃程度、好ましくは35℃〜45℃の範囲、より好ましくは37℃〜43℃の範囲を挙げることができる。
【0046】
発酵時間は、発酵乳ミックスの乳酸酸度が所定の割合に到達することを目安に、適宜設定調整することができる。かかる乳酸酸度は、例えば「前発酵タイプ」のヨーグルトの場合、通常0.7%〜1.5%であり、「後発酵タイプ」のヨーグルトの場合、通常0.7%〜0.8%である。発酵時間は、通常1時間〜12時間、好ましくは2時間〜5時間、より好ましくは3時間〜4時間である。
【0047】
「前発酵タイプ」のヨーグルトの場合、乳酸酸度が通常1.5%〜2%、また「後発酵タイプ」のヨーグルトの場合、乳酸酸度が通常0.7%〜0.8%に達した時点で、例えば15℃以下、好ましくは0℃〜10℃、より好ましくは3℃〜7℃に冷却し、発酵を停止する。
【0048】
以上で説明した(1)〜(3)の工程を経ることで、本発明が対象とする発酵乳を製造することができる。
【0049】
さらには、(2)の保持工程と(3)の発酵工程との間に、乳酸菌を含有する発酵乳ミックスを0℃〜10℃に冷却する冷却工程を含むことが好ましい。2℃〜8℃に冷却することがより好ましく、4℃〜6℃に冷却することがさらに好ましい。20℃〜50℃の発酵乳ミックス中で乳酸菌を保持後に、発酵乳ミックスを前記温度範囲にまで冷却することによって、発酵乳中の乳酸菌の生残性の低下を抑制できる。また前記冷却する時間は、特に制限されず、例えば12時間〜36時間、好ましくは18時間〜30時間である。発酵乳ミックスを冷却した場合は、発酵工程に移る前に、一旦発酵乳ミックスを発酵させる温度付近(例えば、30℃〜50℃)に加温することが好ましい。
【0050】
本発明の製造方法で得られる発酵乳は食品衛生上許容できる配合物、例えば、安定化剤、保存料、着色料、香料、ビタミン等の配合物を前記リン酸化多糖類に適宜添加してもよい。また、定法により、錠剤、粒状、顆粒状、粉末状、カプセル状、液状、ゼリー状、クリーム状、飲料等の剤型とすることができる。
【0051】
[乳酸菌を含有する発酵乳]
本発明の乳酸菌を含有する発酵乳は、前述の発酵乳の製造方法で得られるものであり、発酵乳中の乳酸菌の生残性が従来よりも向上したものである。
【0052】
本発明の乳酸菌を含有する発酵乳は、例えば、健康食品、特定保健用食品、栄養補助食品等として使用できる。また、剤型は、定法により、錠剤、粒状、顆粒状、粉末状、カプセル状、液状、ゼリー状、クリーム状、飲料等の食品とすることができる。
【0053】
本発明において「乳酸菌の生残性」とは、生菌乳酸菌を含有する発酵乳を製造して保存後にどの程度生菌が存在しているかを示すものであり、生菌数は常法に従い求めることができる。なお、ここでいう生菌乳酸菌には、発酵工程において発酵乳ミックスに添加されるスターターのうち、乳酸菌スターターは含まないものとする。
乳酸菌の生残性は、例えば、保存に用いた発酵乳を適宜希釈し、BL培地に塗沫して、37℃で72時間嫌気的に培養した後の培地上のコロニーを測定することによって評価することができる。保存に用いた培養液や発酵乳の保存前の生菌数に対する保存後の生菌数の割合によって、生残率を示すことができる。
具体的には、実施例で後述するように、121℃、15分間のオートクレーブ殺菌したBL培地(栄研化学株式会社):380gに馬脱繊維血液(株式会社日本バイオテスト研究所):20gを混釈し平板培地を作製し、そこに、生菌乳酸菌含有培養液を生理食塩水にて10
5倍希釈したサンプル100μmを表面塗抹し、37℃で72時間培養後、出現したラフ型コロニーを生菌乳酸菌として計測できる。
【0054】
乳酸菌の生残率は、例えば、下記式で表すように、飲食品組成物を製造して1日後の乳酸菌生菌数に対する、飲食品組成物を製造してX日後の乳酸菌生菌数の割合を求め評価することができる。
生残率(%)={乳酸菌を含む飲食品組成物の製造X日後の乳酸菌生残数(cfu/g)/乳酸菌を含む飲食品組成物の製造1日後の乳酸菌生残数(cfu/g)}×100
【0055】
前記乳酸菌の生残率(%)は、X=8のとき、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。
前記乳酸菌の生残率(%)は、X=16のとき、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上である。
前記乳酸菌の生残率(%)は、X=25のとき、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
(ヨーグルトの作製)
生乳:610g、脱脂粉乳:20g、砂糖:36g、水道水:107gを混合して、発酵乳ミックスを調製した。調製した発酵乳ミックスを95℃、5分間で加熱・殺菌した後に38℃に冷却した。その後、ラクトバシルス・ガセリOLL2716(FERM BP−6999)凍結濃縮菌を0.24g(発酵乳ミックスの合計の0.03質量%)を15℃にて流水解凍した後、前記で調製した発酵乳ミックスに添加し、38℃で5時間保持した。その後、この発酵乳ミックスを43℃に加温してから、スターター(明治十勝ヨーグルト(商品名)、株式会社明治製から分離した乳酸菌スターター)を24g(発酵乳ミックスの合計の3質量%)接種した後に、紙カップ容器(容量:100g)に分注し、43℃の発酵室に静置して発酵させた。乳酸酸度が0.7%に到達した時点で冷蔵室にて5℃に冷却して発酵を終了し、ヨーグルトが得られた。得られたヨーグルトを5℃の冷蔵庫で保存した。
【0058】
(ヨーグルト中のラクトバシルス・ガセリOLL2716株の生残性の評価)
前述の方法で作製したヨーグルトを5℃で保存し、製造後の保存日数1日、8日、16日、25日の時点でのラクトバシルス・ガセリOLL2716株の菌数を計測した。菌数計測は下記方法で実施した。
【0059】
[菌数計測]
121℃、15分間のオートクレーブ殺菌したBL培地(栄研化学株式会社):380gに馬脱繊維血液(株式会社日本バイオテスト研究所):20gを混釈し平板培地を作製した。そこに、前記作製したヨーグルトを生理食塩水にて10
5倍希釈したサンプル100μLを表面塗抹し、37℃で72時間培養後、出現したラフ型コロニーをラクトバシルス・ガセリOLL2716株として計測した。
【0060】
[生残率]
前記計測したラクトバシルス・ガセリOLL2716株をもとに、下記式で表される生残率を計算した。
生残率(%)={乳酸菌を含む飲食品組成物の製造X日後の乳酸菌生残数(cfu/g)/乳酸菌を含む飲食品組成物の製造1日後の乳酸菌生残数(cfu/g)}×100
上記式において、Xは、8、16、25のいずれかである。
結果を下記表1に示す。
【0061】
[実施例2]
発酵乳ミックスを43℃に加温する代わりに、一旦5℃に冷却して1日冷蔵保管後に43℃に加温したことを除いては実施例1と同様にヨーグルトを作製し、菌数計測及び生残率を計算した。
結果を下記表1に示す。
[実施例3]
発酵乳ミックスを95℃、5分間で加熱(殺菌)した後に30℃で5時間保存し、かつ、発酵乳ミックスに濃縮菌を添加後30℃で5時間保存したことを除いては実施例1と同様にヨーグルトを作製し、菌数計測及び生残率を計算した。
結果を下記表1に示す。
[実施例4]
発酵乳ミックスを43℃に加温する代わりに、一旦5℃に冷却して1日冷蔵保管後に43℃に加温したことを除いては実施例3と同様にヨーグルトを作製し、菌数計測及び生残率を計算した。
結果を下記表1に示す。
[実施例5]
発酵乳ミックスを95℃、5分間で加熱(殺菌)した後に25℃で5時間保存し、かつ、発酵乳ミックスに濃縮菌を添加後25℃で5時間保存したことを除いては実施例1と同様にヨーグルトを作製し、菌数計測及び生残率を計算した。
結果を下記表1に示す。
[実施例6]
発酵乳ミックスを43℃に加温する代わりに、一旦5℃に冷却して1日冷蔵保管後に43℃に加温したことを除いては実施例5と同様にヨーグルトを作製し、菌数計測及び生残率を計算した。
結果を下記表1に示す。
【0062】
[比較例1]
(ヨーグルトの作製)
生乳:610g、脱脂粉乳:20g、砂糖:36g、水道水:107gを混合して、発酵乳ミックスを調製した。調製した発酵乳ミックスを95℃、5分間で加熱・殺菌した後に43℃に冷却した。その後、ラクトバシルス・ガセリOLL2716(FERM BP−6999)凍結濃縮菌を0.24g(発酵乳ミックスの合計の0.03質量%)を15℃にて流水解凍した。解凍した前記乳酸菌とスターター(明治十勝ヨーグルト(商品名)、株式会社明治製から分離した乳酸菌スターター)24g(発酵乳ミックスの合計の3質量%)とを、前記発酵乳ミックスに接種後、紙カップ容器(容量:100g)に分注し、43℃の発酵室に静置して発酵させた。乳酸酸度が0.7%に到達した時点で冷蔵室にて5℃に冷却して発酵を終了し、ヨーグルトが得られた。得られたヨーグルトを5℃の冷蔵庫で保存した。
作製したヨーグルトについて、実施例1と同様に菌数計測及び生残率を計算した。
結果を下記表1に示す。
【表1】
【0063】
上記結果から分かるように、20℃〜50℃の発酵乳ミックス中で乳酸菌を保持することで(実施例1〜6)、保持しない場合(比較例1)と比較して、ヨーグルト中の乳酸菌の生残性が顕著に向上することが分かった。
また、20℃〜50℃の発酵乳ミックス中で乳酸菌を保持後、発酵乳ミックスを5℃にまで冷却することによって(実施例2、4、6)、ヨーグルト中の乳酸菌の生残性の生残性の低下をより抑制できた。