特許第6966310号(P6966310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6966310生体電極組成物、生体電極、生体電極の製造方法、及び高分子化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6966310
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】生体電極組成物、生体電極、生体電極の製造方法、及び高分子化合物
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/268 20210101AFI20211028BHJP
   C08F 12/30 20060101ALI20211028BHJP
   C08F 230/08 20060101ALI20211028BHJP
   C08F 220/38 20060101ALI20211028BHJP
   C08F 290/06 20060101ALN20211028BHJP
【FI】
   A61B5/268
   C08F12/30
   C08F230/08
   C08F220/38
   !C08F290/06
【請求項の数】15
【全頁数】67
(21)【出願番号】特願2017-237749(P2017-237749)
(22)【出願日】2017年12月12日
(65)【公開番号】特開2018-126496(P2018-126496A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2019年12月19日
(31)【優先権主張番号】特願2017-19884(P2017-19884)
(32)【優先日】2017年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】畠山 潤
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 修
(72)【発明者】
【氏名】藤原 敬之
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 元亮
(72)【発明者】
【氏名】黒田 泰嘉
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0190641(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/073673(WO,A1)
【文献】 特開平08−155040(JP,A)
【文献】 特開2015−100673(JP,A)
【文献】 特開2015−019806(JP,A)
【文献】 Ma, Zhonghua et al.,Preparation and Water Tolerance Study of SiO2-supported Perfluorobutylsulfonylimide,ACTA CHIMICA SINICA,2012年,vol.70, no.3,pp.311-317
【文献】 Qiu-Hong Yang et al.,Mesoporous silica supported water-stable perfluorobutylsulfonylimideand its catalytic applications in esterification,Microporous and Mesoporous Materials,2013年,vol.172,pp.51-60
【文献】 Sahika Inal et al.,Organic Electrochemical Transistors Based on PEDOTwith Different Anionic Polyelectrolyte Dopants,JOURNAL OF POLYMER SCIENCE, PART B: POLYMER PHYSICS,2016年,vol.54,pp.147-151,doi:10.1002/polb.23938
【文献】 Daniele Mantione et al.,Poly(3,4-ethylenedioxythiophene) (PEDOT)Derivatives: Innovative Conductive Polymersfor Bioelectronics,Polymers,2017年,vol.9, no.354,pp.1-21,doi:10.3390/polym9080354
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/263 − 5/27
C08F 12/30
C08F 230/08
C08F 220/38
C08F 290/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)イオン性材料、及び(B)前記(A)成分以外の樹脂を含有する生体電極組成物であって、
前記(A)成分が、下記一般式(2)で示される繰り返し単位a1及びb1を有する高分子化合物であることを特徴とする生体電極組成物。
【化1】
(式中、Rは単結合であるか、ヘテロ原子で置換されていてもよく、ヘテロ原子が介在していてもよい、炭素数1〜40の直鎖状、分岐状、又は環状の二価炭化水素基である。Rfは炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又はフェニル基であり、1つ以上のフッ素原子又はトリフルオロメチル基を有する。Mはナトリウムイオン、カリウムイオン、及びアンモニウムイオンのいずれかである。R、Rは水素原子又はメチル基である。Xは単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、及びアミド基のいずれかである。Xは炭素数6〜12のアリーレン基、−C(=O)−O−R−基、及び−C(=O)−NH−R−基のいずれかである。Rは単結合、炭素数2〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキレン基、及びフェニレン基のいずれかであり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、及びアミド基から選ばれる1種以上を有していてもよい。R、R、Rは炭素数1〜6の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基であり、シロキサン結合、珪素原子、及びハロゲン原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。RとR、RとRとRは結合して環又は三次元構造を形成してもよい。a1、b1は0<a1<1.0、0<b1<1.0を満たす数である。)
【請求項2】
前記一般式(2)の珪素を有する繰り返し単位b1は末端にトリメチルシリル基を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の生体電極組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、前記繰り返し単位a1、b1に加えて、下記一般式(2)’で示される繰り返し単位dを有する高分子化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生体電極組成物。
【化2】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Xは単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、エステル基を有するフェニレン基、及びアミド基のいずれかであり、Rは炭素数1〜40の直鎖状、分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のエーテル基を有する。dは0<d<1.0を満たす数である。)
【請求項4】
前記(A)成分が、前記Mとして、下記一般式(3)で示されるアンモニウムイオンを含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の生体電極組成物。
【化3】
(式中、R101d、R101e、R101f、R101gはそれぞれ水素原子、炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、炭素数2〜12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルケニル基又はアルキニル基、あるいは炭素数4〜20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。R101dとR101e、R101dとR101eとR101fはこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101dとR101e及びR101dとR101eとR101fは炭素数3〜10のアルキレン基であるか、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を形成する。)
【請求項5】
前記(B)成分が、RSiO(4−x)/2単位(Rは炭素数1〜10の置換又は非置換の一価炭化水素基、xは2.5〜3.5の範囲である。)及びSiO単位を有するシリコーン樹脂、アルケニル基を有するジオルガノシロキサン、並びにSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の生体電極組成物。
【請求項6】
前記生体電極組成物が、更に有機溶剤を含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の生体電極組成物。
【請求項7】
前記生体電極組成物が、更にカーボン材料を含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の生体電極組成物。
【請求項8】
前記カーボン材料が、カーボンブラック及びカーボンナノチューブのいずれか又は両方であることを特徴とする請求項7に記載の生体電極組成物。
【請求項9】
導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極であって、
前記生体接触層が、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の生体電極組成物の硬化物であることを特徴とする生体電極。
【請求項10】
前記導電性基材が、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、及び炭素から選ばれる1種以上を含むものであることを特徴とする請求項9に記載の生体電極。
【請求項11】
導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極の製造方法であって、
前記導電性基材上に、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の生体電極組成物を塗布し、硬化させることで前記生体接触層を形成することを特徴とする生体電極の製造方法。
【請求項12】
前記導電性基材として、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、及び炭素から選ばれる1種以上を含むものを用いることを特徴とする請求項11に記載の生体電極の製造方法。
【請求項13】
生体電極組成物に用いられる高分子化合物であって、下記一般式(2)で示される繰り返し単位a1及びb1を有することを特徴とする高分子化合物。
【化4】
(式中、Rは単結合であるか、ヘテロ原子で置換されていてもよく、ヘテロ原子が介在していてもよい、炭素数1〜40の直鎖状、分岐状、又は環状の二価炭化水素基である。Rfは炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又はフェニル基であり、1つ以上のフッ素原子又はトリフルオロメチル基を有する。Mはナトリウムイオン、カリウムイオン、及びアンモニウムイオンのいずれかである。R、Rは水素原子又はメチル基である。Xは単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、及びアミド基のいずれかである。Xは炭素数6〜12のアリーレン基、−C(=O)−O−R−基、及び−C(=O)−NH−R−基のいずれかである。Rは単結合、炭素数2〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキレン基、及びフェニレン基のいずれかであり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、及びアミド基から選ばれる1種以上を有していてもよい。R、R、Rは炭素数1〜6の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基であり、シロキサン結合、珪素原子、及びハロゲン原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。RとR、RとRとRは結合して環又は三次元構造を形成してもよい。a1、b1は0<a1<1.0、0<b1<1.0を満たす数である。)
【請求項14】
前記一般式(2)の珪素を有する繰り返し単位b1は末端にトリメチルシリル基を有するものであることを特徴とする請求項13に記載の高分子化合物。
【請求項15】
前記繰り返し単位a1、b1に加えて、下記一般式(2)’で示される繰り返し単位dを有することを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の高分子化合物。
【化5】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Xは単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、エステル基を有するフェニレン基、及びアミド基のいずれかであり、Rは炭素数1〜40の直鎖状、分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のエーテル基を有する。dは0<d<1.0を満たす数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の皮膚に接触し、皮膚からの電気信号によって心拍数等の体の状態を検知することができる生体電極、及びその製造方法、並びに生体電極に好適に用いられる生体電極組成物、該生体電極組成物に好適に用いられる高分子化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT(Internet of Things)の普及と共にウェアラブルデバイスの開発が進んでいる。インターネットに接続できる時計や眼鏡がその代表例である。また、医療分野やスポーツ分野においても、体の状態を常時モニタリングできるウェアラブルデバイスが必要とされており、今後の成長分野である。
【0003】
医療分野では、例えば電気信号によって心臓の動きを感知する心電図測定のように、微弱電流のセンシングによって体の臓器の状態をモニタリングするウェアラブルデバイスが検討されている。心電図の測定では、導電ペーストを塗った電極を体に装着して測定を行うが、これは1回だけの短時間の測定である。これに対し、上記のような医療用のウェアラブルデバイスの開発が目指すのは、数週間連続して常時健康状態をモニターするデバイスの開発である。従って、医療用ウェアラブルデバイスに使用される生体電極には、長時間使用した場合にも導電性の変化がないことや肌アレルギーがないことが求められる。また、これらに加えて、軽量であること、低コストで製造できることも求められている。
【0004】
医療用ウェアラブルデバイスとしては、体に貼り付けるタイプと、衣服に組み込むタイプがあり、体に貼り付けるタイプとしては、上記の導電ペーストの材料である水と電解質を含む水溶性ゲルを用いた生体電極が提案されている(特許文献1)。水溶性ゲルは、水を保持するための水溶性ポリマー中に、電解質としてナトリウム、カリウム、カルシウムを含んでおり、肌からのイオン濃度の変化を電気に変換する。一方、衣服に組み込むタイプとしては、PEDOT−PSS(Poly−3,4−ethylenedioxythiophene−Polystyrenesulfonate)のような導電性ポリマーや銀ペーストを繊維に組み込んだ布を電極に使う方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、上記の水と電解質を含む水溶性ゲルを使用した場合には、乾燥によって水がなくなると導電性がなくなってしまうという問題があった。一方、銅等のイオン化傾向の高い金属を使用した場合には、人によっては肌アレルギーを引き起こすリスクがあるという問題があり、PEDOT−PSSのような導電性ポリマーを使用した場合にも、導電性ポリマーの酸性が強いために肌アレルギーを引き起こすリスクがあるという問題があった。
【0006】
また、優れた導電性を有することから、金属ナノワイヤー、カーボンブラック、及びカーボンナノチューブ等を電極材料として使用することも検討されている(特許文献3、4、5)。金属ナノワイヤーはワイヤー同士の接触確率が高くなるため、少ない添加量で通電することができる。しかしながら、金属ナノワイヤーは先端が尖った細い材料であるため、肌アレルギー発生の原因となる。また、カーボンナノチューブも同様の理由で生体への刺激性がある。カーボンブラックはカーボンナノチューブほどの毒性はないものの、肌に対する刺激性が若干ある。このように、そのもの自体がアレルギー反応を起こさなくても、材料の形状や刺激性によって生体適合性が悪化する場合があり、導電性と生体適合性を両立させることは困難であった。
【0007】
金属膜は導電性が非常に高いために優れた生体電極として機能すると思われるが、必ずしもそうではない。心臓の鼓動によって肌から放出されるのは微弱電流ではなく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンである。このためイオンの濃度変化を電流に変える必要があるが、イオン化しづらい貴金属は肌からのイオンを電流に変える効率が悪い。よって貴金属を使った生体電極はインピーダンスが高く、肌との通電は高抵抗である。
【0008】
一方で、イオン性液体を添加したバッテリーが検討されている(特許文献6)。イオン性液体は熱的、化学的安定性が高く、導電性に優れる特徴を有しており、バッテリー用途への応用が広がっている。しかしながら、特許文献6に示されるような分子量が小さなイオン性液体は水に溶解するため、これが添加された生体電極を用いると、イオン性液体が肌からの汗によって抽出されることから、導電性が低下するだけでなく、これが肌に浸透して肌荒れの原因にもなる。
【0009】
また、ポリマー型スルホンイミドのリチウム塩を用いたバッテリーも検討されている(非特許文献1)。しかしながら、リチウムはイオン移動性が高いためにバッテリーへ応用されているが、これは生体適合性が高い材料ではない。
【0010】
また、生体電極は肌から離れると体からの情報を得ることができなくなる。更に、接触面積が変化しただけでも通電する電気量に変動が生じ、心電図(電気信号)のベースラインが変動する。従って、身体から安定した電気信号を得るために、生体電極には、常に肌に接触しており、その接触面積も変化しないことが必要である。そのためには、生体電極が粘着性を有していることが好ましい。また、肌の伸縮や屈曲変化に追随できる伸縮性やフレキシブル性も必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第WO2013−039151号パンフレット
【特許文献2】特開2015−100673号公報
【特許文献3】特開平5−095924号公報
【特許文献4】特開2003−225217号公報
【特許文献5】特開2015−019806号公報
【特許文献6】特表2004−527902公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J.Mater.Chem.A,2016,4,p10038−10069
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物、該生体電極組成物で生体接触層を形成した生体電極、その製造方法、及び生体電極組成物に好適に用いられる高分子化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を達成するために、本発明では、(A)イオン性材料、及び(B)前記(A)成分以外の樹脂を含有する生体電極組成物であって、前記(A)成分が、下記一般式(1)で示される部分構造を有するスルホンイミドのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩の繰り返し単位aと、珪素を有する繰り返し単位bの両方を有するものである生体電極組成物を提供する。
−R−SO−N−SO−Rf (1)
(式中、Rは単結合であるか、ヘテロ原子で置換されていてもよく、ヘテロ原子が介在していてもよい、炭素数1〜40の直鎖状、分岐状、又は環状の二価炭化水素基である。Rfは炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又はフェニル基であり、1つ以上のフッ素原子又はトリフルオロメチル基を有する。Mはナトリウムイオン、カリウムイオン、及びアンモニウムイオンのいずれかである。)
【0015】
このような生体電極組成物であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物となる。
【0016】
また、前記(A)成分が、前記繰り返し単位a及びbとして、下記一般式(2)で示される繰り返し単位a1及びb1を有する高分子化合物であることが好ましい。
【化1】
(式中、R、Rf、Mは前記と同様である。R、Rは水素原子又はメチル基である。Xは単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、及びアミド基のいずれかである。Xは炭素数6〜12のアリーレン基、−C(=O)−O−R−基、及び−C(=O)−NH−R−基のいずれかである。Rは単結合、炭素数2〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキレン基、及びフェニレン基のいずれかであり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、及びアミド基から選ばれる1種以上を有していてもよい。R、R、Rは炭素数1〜6の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基であり、シロキサン結合、珪素原子、及びハロゲン原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。RとR、RとRとRは結合して環又は三次元構造を形成してもよい。a1、b1は0<a1<1.0、0<b1<1.0を満たす数である。)
【0017】
このような(A)成分を含有するものであれば、導電性及び生体適合性に更に優れた生体接触層を形成できるものとなる。また、珪素を含有する繰り返し単位b1を共重合させることによって撥水性が高まり、この高分子化合物を含有するドライ電極膜として肌に接触させたときに、汗や水分の影響を受けづらくなる。
【0018】
また、前記(A)成分が、前記繰り返し単位a、bに加えて、下記一般式(2)’で示される繰り返し単位dを有する高分子化合物であることが好ましい。
【化2】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Xは単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、エステル基を有するフェニレン基、及びアミド基のいずれかであり、Rは炭素数1〜40の直鎖状、分岐状のアルキ基であり、少なくとも1つ以上のエーテル基を有する。dは0d<1.0を満たす数である。)
【0019】
(A)成分がこのような繰り返し単位dを有するものであれば、エーテル鎖を有するためイオン導電性が高まり、より高精度な生体電極膜とすることができる。
【0020】
また、前記(A)成分が、前記Mとして、下記一般式(3)で示されるアンモニウムイオンを含有するものであることが好ましい。
【化3】
(式中、R101d、R101e、R101f、R101gはそれぞれ水素原子、炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、炭素数2〜12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルケニル基又はアルキニル基、あるいは炭素数4〜20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。R101dとR101e、R101dとR101eとR101fはこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101dとR101e及びR101dとR101eとR101fは炭素数3〜10のアルキレン基であるか、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を形成する。)
【0021】
このような(A)成分を含有するものであれば、導電性及び生体適合性に更に優れた生体接触層を形成できるものとなる。
【0022】
また、前記(B)成分が、RSiO(4−x)/2単位(Rは炭素数1〜10の置換又は非置換の一価炭化水素基、xは2.5〜3.5の範囲である。)及びSiO単位を有するシリコーン樹脂、アルケニル基を有するジオルガノシロキサン、並びにSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有するものであることが好ましい。
【0023】
このような(B)成分を含有するものであれば、特に、(A)成分と(B)成分の相溶性、導電性基材に対する接着性、肌に対する粘着性、伸縮性、撥水性などが良好な生体接触層を形成できるものとなる。
【0024】
また、前記生体電極組成物が、更に有機溶剤を含有するものであることが好ましい。
【0025】
このようなものであれば、生体電極組成物の塗布性が更に良好なものとなる。
【0026】
また、前記生体電極組成物が、更にカーボン材料を含有するものであることが好ましい。
【0027】
このようなものであれば、導電性が更に良好な生体接触層を形成できるものとなる。
【0028】
また、前記カーボン材料が、カーボンブラック及びカーボンナノチューブのいずれか又は両方であることが好ましい。
【0029】
本発明の生体電極組成物では、このようなカーボン材料を特に好適に用いることができる。
【0030】
また、本発明では、導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極であって、前記生体接触層が、上記の生体電極組成物の硬化物である生体電極を提供する。
【0031】
このような生体電極であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体接触層が形成された生体電極となる。
【0032】
また、前記導電性基材が、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、及び炭素から選ばれる1種以上を含むものであることが好ましい。
【0033】
本発明の生体電極では、このような導電性基材を特に好適に用いることができる。
【0034】
また、本発明では、導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極の製造方法であって、前記導電性基材上に、上記の生体電極組成物を塗布し、硬化させることで前記生体接触層を形成する生体電極の製造方法を提供する。
【0035】
このような製造方法であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体接触層が形成された生体電極を、低コストで容易に製造することができる。
【0036】
また、前記導電性基材として、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、及び炭素から選ばれる1種以上を含むものを用いることが好ましい。
【0037】
本発明の生体電極の製造方法では、このような導電性基材を特に好適に用いることができる。
【0038】
また、本発明では、下記一般式(2)で示される繰り返し単位a1及びb1を有する高分子化合物を提供する。
【化4】
(式中、Rは単結合であるか、ヘテロ原子で置換されていてもよく、ヘテロ原子が介在していてもよい、炭素数1〜40の直鎖状、分岐状、又は環状の二価炭化水素基である。Rfは炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又はフェニル基であり、1つ以上のフッ素原子又はトリフルオロメチル基を有する。Mはナトリウムイオン、カリウムイオン、及びアンモニウムイオンのいずれかである。R、Rは水素原子又はメチル基である。Xは単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、及びアミド基のいずれかである。Xは炭素数6〜12のアリーレン基、−C(=O)−O−R−基、及び−C(=O)−NH−R−基のいずれかである。Rは単結合、炭素数2〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキレン基、及びフェニレン基のいずれかであり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、及びアミド基から選ばれる1種以上を有していてもよい。R、R、Rは炭素数1〜6の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基であり、シロキサン結合、珪素原子、及びハロゲン原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。RとR、RとRとRは結合して環又は三次元構造を形成してもよい。a1、b1は0<a1<1.0、0<b1<1.0を満たす数である。)
【0039】
このような高分子化合物であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物に好適に用いられる高分子化合物となる。
【0040】
前記繰り返し単位a1、b1に加えて、下記一般式(2)’で示される繰り返し単位dを有することが好ましい。
【化5】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Xは単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、エステル基を有するフェニレン基、及びアミド基のいずれかであり、Rは炭素数1〜40の直鎖状、分岐状のアルキ基であり、少なくとも1つ以上のエーテル基を有する。dは0d<1.0を満たす数である。)
【0041】
(A)成分がこのような繰り返し単位dを有するものであれば、エーテル鎖を有するためイオン導電性が高まり、より高精度な生体電極膜とすることができる。
【発明の効果】
【0042】
以上のように、本発明の生体電極組成物であれば、肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができ(即ち、導電性に優れ)、長期間肌に装着してもアレルギーを起こす恐れがなく(即ち、生体適合性に優れ)、軽量であり、低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成することができる生体電極組成物となる。また、カーボン材料を添加することによって一層導電性を向上させることができ、粘着性と伸縮性を有する樹脂と組み合わせることによって特に高粘着力で伸縮性が高い生体電極を製造することができる。更に、添加剤等により肌に対する伸縮性や粘着性を向上させることができ、樹脂の組成や生体接触層の厚さを適宜調節することで、伸縮性や粘着性を調整することもできる。従って、このような本発明の生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した本発明の生体電極であれば、医療用ウェアラブルデバイスに用いられる生体電極として、特に好適である。また、本発明の生体電極の製造方法であれば、このような生体電極を低コストで容易に製造することができる。更に、本発明の高分子化合物であれば、上述のような生体電極組成物に好適に用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の生体電極の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の生体電極を生体に装着した場合の一例を示す概略断面図である。
図3】本発明の実施例で作製した生体電極を(a)生体接触層側から見た概略図及び(b)導電性基材側から見た概略図である。
図4】本発明の実施例で作製した生体電極を用いて、肌表面でのインピーダンスを測定している写真である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
上述のように、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物、該生体電極組成物で生体接触層を形成した生体電極、その製造方法、及び生体電極組成物に好適に用いられる高分子化合物の開発が求められていた。
【0045】
本発明者らは、生体電極用の生体接触層を形成するための生体電極組成物に配合するイオン性材料(導電性材料)として、イオン性液体に着目した。イオン性液体は熱的、化学的安定性が高く、導電性に優れる特徴を有しており、バッテリー用途への応用が広がっている。また、イオン性液体としては、スルホニウム、ホスホニウム、アンモニウム、モルホリニウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、イミダゾリウムの塩酸塩、臭酸塩、ヨウ素酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、ノナフルオロブタンスルホン酸塩、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸塩、ヘキサフルオロホスファート塩、テトラフルオロボラート塩等が知られている。しかしながら、一般的にこれらの塩(特に分子量の小さいもの)は水和性が高いため、これらの塩を添加した生体電極組成物で生体接触層を形成した生体電極は、汗や洗濯によって塩が抽出され、導電性が低下する欠点があった。また、テトラフルオロボラート塩は毒性が高く、他の塩は水溶性が高いために肌の中に容易に浸透してしまい肌荒れが生じる(つまり、肌に対する刺激性が強い)という問題があった。
【0046】
中和塩を形成する酸の酸性度が高いとイオンが強く分極し、イオン導電性が向上する。リチウムイオン電池として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸やトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド酸のリチウム塩が高いイオン導電性を示すのはこのためである。一方、酸強度が高くなればなるほど、この塩は生体刺激性が強いという問題がある。つまり、イオン導電性と生体刺激性はトレードオフの関係である。しかしながら、生体電極に適用する塩では、高イオン導電特性と低生体刺激性が両立されなければならない。
【0047】
そこで、本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ね、窒素原子の片側にフルオロスルホン基、もう片側にスルホン基又はスルホン酸エステル基が結合したスルホンイミドのナトリウム塩、カリウム塩、又はアンモニウム塩であれば、このスルホンイミドの両側にフルオロアルキル基が結合したビススルホンイミドのナトリウム塩、カリウム塩、又はアンモニウム塩に比べて酸性度が低いために生体刺激性が低く、窒素原子の片側にフルオロスルホン基、もう片側にアルキル基が結合したスルホンアミドのナトリウム塩、カリウム塩、又はアンモニウム塩よりも酸性度が高いために高イオン導電性でもあることを見出した。また、イオン化合物の分子量が大きくなればなるほど肌への浸透性が低下し、肌への刺激性が低下することから、イオン化合物は高分子量のポリマー型が好ましい。そこで、本発明者らは、このイオン化合物を重合性二重結合を有する形態にして、珪素を含有するモノマーと共重合したポリマーを合成することに想到した。更に、本発明者らは、この塩を、例えばシリコーン系、アクリル系、ウレタン系の粘着剤(樹脂)に混合したものを用いて生体接触層を形成することによって、導電性及び生体適合性を両立でき、水に濡れたり乾燥したりした場合にも導電性が大幅に低下しないだけでなく、常に肌に密着し、長時間安定的な電気信号を得ることができる生体電極として機能することを見出し、本発明を完成させた。
【0048】
即ち、本発明は、(A)イオン性材料、及び(B)前記(A)成分以外の樹脂を含有する生体電極組成物であって、前記(A)成分が、下記一般式(1)で示される部分構造を有するスルホンイミドのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩の繰り返し単位aと、珪素を有する繰り返し単位bの両方を有するものである生体電極組成物である。
−R−SO−N−SO−Rf (1)
(式中、Rは単結合であるか、ヘテロ原子で置換されていてもよく、ヘテロ原子が介在していてもよい、炭素数1〜40の直鎖状、分岐状、又は環状の二価炭化水素基である。Rfは炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又はフェニル基であり、1つ以上のフッ素原子又はトリフルオロメチル基を有する。Mはナトリウムイオン、カリウムイオン、及びアンモニウムイオンのいずれかである。)
【0049】
また、本発明は、下記一般式(2)で示される繰り返し単位a1及びb1を有する高分子化合物である。
【化6】
(式中、Rは単結合であるか、ヘテロ原子で置換されていてもよく、ヘテロ原子が介在していてもよい、炭素数1〜40の直鎖状、分岐状、又は環状の二価炭化水素基である。Rfは炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又はフェニル基であり、1つ以上のフッ素原子又はトリフルオロメチル基を有する。Mはナトリウムイオン、カリウムイオン、及びアンモニウムイオンのいずれかである。R、Rは水素原子又はメチル基である。Xは単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、及びアミド基のいずれかである。Xは炭素数6〜12のアリーレン基、−C(=O)−O−R−基、及び−C(=O)−NH−R−基のいずれかである。Rは単結合、炭素数2〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキレン基、及びフェニレン基のいずれかであり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、及びアミド基から選ばれる1種以上を有していてもよい。R、R、Rは炭素数1〜6の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基であり、シロキサン結合、珪素原子、及びハロゲン原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。RとR、RとRとRは結合して環又は三次元構造を形成してもよい。a1、b1は0<a1<1.0、0<b1<1.0を満たす数である。)
【0050】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
<生体電極組成物>
本発明の生体電極組成物は、(A)イオン性材料及び(B)樹脂を含有するものである。以下、各成分について、更に詳細に説明する。
【0052】
[(A)イオン性材料(塩)]
本発明の生体電極組成物に(A)イオン性材料(導電性材料)として配合される塩は、下記一般式(1)で示される、窒素原子の片側にフルオロスルホン基、もう片側にスルホン基又はスルホン酸エステル基が結合した部分構造を有するスルホンイミドのナトリウム塩、カリウム塩、又はアンモニウム塩を有する繰り返し単位aと、珪素を有する繰り返し単位bの両方を含有する高分子化合物である。
−R−SO−N−SO−Rf (1)
(式中、Rは単結合であるか、ヘテロ原子で置換されていてもよく、ヘテロ原子が介在していてもよい、炭素数1〜40の直鎖状、分岐状、又は環状の二価炭化水素基である。Rfは炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又はフェニル基であり、1つ以上のフッ素原子又はトリフルオロメチル基を有する。Mはナトリウムイオン、カリウムイオン、及びアンモニウムイオンのいずれかである。)
【0053】
また、本発明の生体電極組成物に(A)イオン性材料として配合されるポリマー型の塩は、上記の繰り返し単位a及びbとして、下記一般式(2)で示される繰り返し単位a1及びb1を有する、本発明の高分子化合物であることが好ましい。
【化7】
(式中、R、Rf、Mは前記と同様である。R、Rは水素原子又はメチル基である。Xは単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、及びアミド基のいずれかである。Xは炭素数6〜12のアリーレン基、−C(=O)−O−R−基、及び−C(=O)−NH−R−基のいずれかである。Rは単結合、炭素数2〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキレン基、及びフェニレン基のいずれかであり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、及びアミド基から選ばれる1種以上を有していてもよい。R、R、Rは炭素数1〜6の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基であり、シロキサン結合、珪素原子、及びハロゲン原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。RとR、RとRとRは結合して環又は三次元構造を形成してもよい。a1、b1は0<a1<1.0、0<b1<1.0を満たす数である。)
【0054】
(繰り返し単位a)
本発明の生体電極組成物の(A)成分は、上記一般式(1)で示される部分構造を有するスルホンイミドのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩の繰り返し単位aを有する。繰り返し単位aは、好ましくは、上記一般式(2)中の繰り返し単位a1である。
【0055】
上記一般式(2)中の繰り返し単位a1を得るためのスルホンイミドのモノマーは、下記一般式(4)で示されるものである。
【化8】
(式中、R、R、X、Rf、Mは上記と同様である。)
【0056】
上記一般式(4)で示されるモノマーとして、具体的には、以下のものを例示することができる。
【化9】
【0057】
【化10】
【0058】
【化11】
【0059】
【化12】
【0060】
【化13】
【0061】
【化14】
(式中、R、Mは上記と同様である。)
【0062】
上記一般式(4)で示される繰り返し単位を得るためのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩のモノマーの合成方法としては、例えば、下記式で表されるように有機溶剤中で、重合性基とスルホ基を有する化合物と、フルオロアルカンスルホンアミドを塩化チオニル存在下反応させることによって得る方法を挙げることができる。なお、本発明において、モノマーの合成方法はこれに限定されない。
【化15】
(式中、R、R、X、Rf、Mは上記と同様である。Mは塩基を示す。)
【0063】
フルオロアルカンスルホンアミドは市販のものを用いることができ、また対応するフルオロアルカンスルホニルハライド又はフルオロアルカンスルホン酸無水物に対しアンモニアを反応させることで合成することもできる。
【0064】
塩基Mは特に限定されないが、例えば炭酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水素化ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、水素化カリウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、ルチジン、コリジン、N,N−ジメチルアミノピリジン等を挙げることができる。塩基の使用量としてはフルオロアルカンスルホンアミド1モルに対し1.0〜4.0モルが好ましい。Mがナトリウムイオンの場合は上述のナトリウム系の塩基を、Mがカリウムイオンの場合は上述のカリウム系の塩基を、Mが3級又は4級アンモニウムイオンの場合は対応する3級アミン又は4級アミン塩を使用することでそれぞれ合成することができる。又、Mがアンモニウムイオンの場合は、ナトリウムイオン又はカリウムイオンの単量体に対してカチオン交換を行うことでも合成が可能である。
【0065】
反応溶媒としては、例えばアセトニトリル、塩化メチレン、ジクロロエタン、アセトン、2−ブタノン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、クロロベンゼン等を単独又は混合して用いることができ、無溶媒で反応を行うこともできる。反応温度は、好ましくは−10℃〜溶媒の沸点程度であり、より好ましくは0℃〜溶媒の沸点である。反応時間は、通常30分〜40時間程度である。
【0066】
なお、上記式においてフルオロアルカンスルホンアミドの代わりに対応するスルホンアミド塩、例えばトリフルオロメタンスルホンアミドカリウム塩等を使用しても同様の反応を行うことができる。
【0067】
また、(A)成分は、繰り返し単位a(繰り返し単位a1)中のMとして、下記一般式(3)で示されるアンモニウムイオン(アンモニウムカチオン)を含有するものであることが好ましい。
【化16】
(式中、R101d、R101e、R101f、R101gはそれぞれ水素原子、炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、炭素数2〜12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルケニル基又はアルキニル基、あるいは炭素数4〜20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。R101dとR101e、R101dとR101eとR101fはこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101dとR101e及びR101dとR101eとR101fは炭素数3〜10のアルキレン基であるか、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を形成する。)
【0068】
上記一般式(3)で示されるアンモニウムイオンとして、具体的には、以下のものを例示することができる。
【0069】
【化17】
【0070】
【化18】
【0071】
【化19】
【0072】
【化20】
【0073】
【化21】
【0074】
【化22】
【0075】
【化23】
【0076】
【化24】
【0077】
【化25】
【0078】
【化26】
【0079】
【化27】
【0080】
【化28】
【0081】
【化29】
【0082】
【化30】
【0083】
【化31】
【0084】
上記一般式(3)で示されるアンモニウムイオンとしては、3級又は4級のアンモニウムイオンが特に好ましい。
【0085】
(繰り返し単位b)
本発明の生体電極組成物の(A)成分は、上記の繰り返し単位aに加えて、珪素を有する繰り返し単位bを有する。繰り返し単位bは、好ましくは、上記一般式(2)中の繰り返し単位b1である。
【0086】
一般式(2)中の繰り返し単位b1を得るためのモノマーは、下記一般式(5)で示されるものである。
【化32】
(式中、R〜R、Xは上記と同様である。)
【0087】
上記一般式(5)で示されるモノマーとして、具体的には、以下のものを例示することができる。
【化33】
(式中、nは0〜100の整数である。)
【0088】
【化34】
【0089】
(繰り返し単位c)
本発明の生体電極組成物の(A)成分には、上記の繰り返し単位a、bに加えて、分子内に2つの重合性二重結合を有するモノマーを共重合することもできる(繰り返し単位c)。このような繰り返し単位cを含むことで、(A)成分の架橋性を向上させることができる。
【0090】
繰り返し単位cを得るためのモノマーとして、具体的には、以下のものを例示することができる。
【0091】
【化35】
(式中、nは0〜100の整数である。)
【0092】
(繰り返し単位d)
本発明の生体電極組成物の(A)成分には、上記の繰り返し単位a、bに加えて、オキシメチレン構造、オキシエチレン構造(グライム鎖)、又はオキシプロピレン構造を有するモノマーを共重合することもできる(繰り返し単位d)。このような繰り返し単位dを含むことで、(A)成分の導電性を向上させることができる。
【0093】
繰り返し単位dを得るためのモノマーとしては、下記一般式(2)’’で示すものを挙げることが出来る。
【0094】
【化36】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Xは単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、エステル基を有するフェニレン基、及びアミド基のいずれかであり、Rは炭素数1〜40の直鎖状、分岐状のアルキ基であり、少なくとも1つ以上のエーテル基を有する。)
【0095】
繰り返し単位dを得るためのモノマーとしては、具体的には、以下のものを例示することができる。
【0096】
【化37】
【0097】
【化38】
【0098】
【化39】
【0099】
【化40】
【0100】
【化41】
【0101】
(A)成分の高分子化合物を合成する方法の1つとして、繰り返し単位a、b、c、dを与えるモノマーのうち所望のモノマーを、有機溶剤中、ラジカル重合開始剤を加えて加熱重合し、共重合体の高分子化合物を得る方法を挙げることができる。
【0102】
重合時に使用する有機溶剤としては、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等が例示できる。重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等が例示できる。加熱温度は、好ましくは50〜80℃であり、反応時間は、好ましくは2〜100時間、より好ましくは5〜20時間である。
【0103】
ここで、繰り返し単位a、b、c、dの割合は、0<a<1.0、0<b<1.0、0≦c<1.0、0≦d<1.0であり、好ましくは0.1≦a≦0.9、0.1≦b≦0.9、0≦c≦0.6、0≦d≦0.6であり、より好ましくは0.2≦a≦0.8、0.2≦b≦0.8、0≦c≦0.5、0≦d≦0.5である。また、0<a+b+c+d≦1である。なお、繰り返し単位a、bの割合は、そのまま繰り返し単位a1、b1の割合として適用できる。
【0104】
なお、例えば、a+b+c+d=1とは、繰り返し単位a、b、c、dを含む高分子化合物において、繰り返し単位a、b、c、dの合計量が全繰り返し単位の合計量に対して100モル%であることを示し、a+b+c+d<1とは、繰り返し単位a、b、c、dの合計量が全繰り返し単位の合計量に対して100モル%未満でa、b、c、d以外に他の繰り返し単位を有していることを示す。
【0105】
(A)成分の分子量は、重量平均分子量として500以上が好ましく、より好ましくは1,000以上、1,000,000以下であり、更に好ましくは2,000以上、500,000以下である。また、重合後に(A)成分に組み込まれていないイオン性モノマー(残存モノマー)が少量であれば、生体適合試験でこれが肌に染みこんでアレルギーを引き起こす恐れがなくなるため、残存モノマーの量は減らすのが好ましい。残存モノマーの量は、(A)成分全体100質量部に対し、10質量部以下であることが好ましい。
【0106】
本発明の生体電極組成物において、(A)成分の配合量は、(B)成分100質量部に対して0.1〜300質量部とすることが好ましく、1〜200質量部とすることがより好ましい。また、(A)成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合で使用してもよい。
【0107】
[(B)樹脂]
本発明の生体電極組成物に配合される(B)樹脂は、上記の(A)イオン性材料(塩)と相溶して塩の溶出を防ぎ、カーボン等の導電性向上剤を保持し、粘着性を発現させるための成分である。なお、樹脂は、上述の(A)成分以外の樹脂であればよく、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれか、又はこれらの両方であることが好ましく、特には、シリコーン系、アクリル系、及びウレタン系の樹脂から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0108】
粘着性のシリコーン系の樹脂としては、付加反応硬化型又はラジカル架橋反応硬化型のものが挙げられる。付加反応硬化型としては、例えば、特開2015−193803号公報に記載の、アルケニル基を有するジオルガノシロキサン、RSiO0.5及びSiO単位を有するMQレジン、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、白金触媒、付加反応制御剤、及び有機溶剤を含有するものを用いることができる。また、ラジカル架橋反応硬化型としては、例えば、特開2015−193803号公報に記載の、アルケニル基を有していてもいなくてもよいジオルガノポリシロキサン、RSiO0.5及びSiO単位を有するMQレジン、有機過酸化物、及び有機溶剤を含有するものを用いることができる。ここでRは炭素数1〜10の置換又は非置換の一価の炭化水素基である。
【0109】
また、ポリマー末端や側鎖にシラノールを有するポリシロキサンと、MQレジンを縮合反応させて形成したポリシロキサン・レジン一体型化合物を用いることもできる。MQレジンはシラノールを多く含有するためにこれを添加することによって粘着力が向上するが、架橋性がないためにポリシロキサンと分子的に結合していない。上記のようにポリシロキサンとレジンを一体型とすることによって、粘着力を増大させることができる。
【0110】
また、シリコーン系の樹脂には、アミノ基、オキシラン基、オキセタン基、ポリエーテル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、メタクリル基、アクリル基、フェノール基、シラノール基、カルボン酸無水物基、アリール基、アラルキル基、アミド基、エステル基、ラクトン環から選ばれる基を有する変性シロキサンを添加することもできる。変性シロキサンを添加することによって、(A)成分のシリコーン樹脂中での分散性が向上する。変性シロキサンはシロキサンの片末端、両末端、側鎖のいずれが変性されたものでも構わない。
【0111】
粘着性のアクリル系の樹脂としては、例えば、特開2016−011338号公報に記載の、親水性(メタ)アクリル酸エステル、長鎖疎水性(メタ)アクリル酸エステルを繰り返し単位として有するものを用いることができる。場合によっては、官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルやシロキサン結合を有する(メタ)アクリル酸エステルを共重合してもよい。
【0112】
粘着性のウレタン系の樹脂としては、例えば、特開2016−065238号公報に記載の、ウレタン結合と、ポリエーテルやポリエステル結合、ポリカーボネート結合、シロキサン結合を有するものを用いることができる。
【0113】
また、生体接触層から(A)成分が溶出することによる導電性の低下を防止するために、本発明の生体電極組成物において、(B)樹脂は上述の(A)成分との相溶性が高いものであることが好ましい。また、導電性基材からの生体接触層の剥離を防止するために、本発明の生体電極組成物において、(B)樹脂は導電性基材に対する接着性が高いものであることが好ましい。樹脂を、導電性基材や塩との相溶性が高いものとするためには、極性が高い樹脂を用いることが効果的である。このような樹脂としては、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、チオウレタン結合、及びチオール基から選ばれる1つ以上を有する樹脂、あるいはポリアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリチオウレタン樹脂等が挙げられる。また、一方で、生体接触層は生体に接触するため、生体からの汗の影響を受けやすい。従って、本発明の生体電極組成物において、(B)樹脂は撥水性が高く、加水分解しづらいものであることが好ましい。樹脂を、撥水性が高く、加水分解しづらいものとするためには、珪素を含有する樹脂を用いることが効果的である。
【0114】
珪素原子を含有するポリアクリル樹脂としては、シリコーンを主鎖に有するポリマーと珪素原子を側鎖に有するポリマーとがあるが、どちらも好適に用いることができる。シリコーンを主鎖に有するポリマーとしては、(メタ)アクリルプロピル基を有するシロキサンあるいはシルセスキオキサン等を用いることができる。この場合は、光ラジカル発生剤を添加することで(メタ)アクリル部分を重合させて硬化させることができる。
【0115】
珪素原子を含有するポリアミド樹脂としては、例えば、特開2011−079946号公報、米国特許5981680号公報に記載のポリアミドシリコーン樹脂等を好適に用いることができる。このようなポリアミドシリコーン樹脂は、例えば、両末端にアミノ基を有するシリコーン又は両末端にアミノ基を有する非シリコーン化合物と、両末端にカルボキシル基を有する非シリコーン又は両末端にカルボキシル基を有するシリコーンを組み合わせて合成することができる。
【0116】
また、カルボン酸無水物とアミンを反応させて得られる、環化する前のポリアミド酸を用いてもよい。ポリアミド酸のカルボキシル基の架橋には、エポキシ系やオキセタン系の架橋剤を用いてもよいし、カルボキシル基とヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル化反応を行って、(メタ)アクリレート部分の光ラジカル架橋を行ってもよい。
【0117】
珪素原子を含有するポリイミド樹脂としては、例えば、特開2002−332305号公報に記載のポリイミドシリコーン樹脂等を好適に用いることができる。ポリイミド樹脂は粘性が非常に高いが、(メタ)アクリル系モノマーを溶剤かつ架橋剤として配合することによって低粘性にすることができる。
【0118】
珪素原子を含有するポリウレタン樹脂としては、ポリウレタンシリコーン樹脂を挙げることができ、このようなポリウレタンシリコーン樹脂では、両末端にイソシアネート基を有する化合物と末端にヒドロキシ基を有する化合物をブレンドして加熱することによってウレタン結合による架橋を行うことができる。なお、この場合、両末端にイソシアネート基を有する化合物か、末端にヒドロキシ基を有する化合物のいずれかあるいは両方に珪素原子(シロキサン結合)を含有する必要がある。あるいは、特開2005−320418号公報に記載されるように、ポリシロキサンにウレタン(メタ)アクリレートモノマーをブレンドして光架橋させることもできる。また、シロキサン結合とウレタン結合の両方を有し、末端に(メタ)アクリレート基を有するポリマーを光架橋させることもできる。
【0119】
珪素原子を含有するポリチオウレタン樹脂は、チオール基を有する化合物とイソシアネート基を有する化合物の反応によって得ることができ、これらのうちいずれかが珪素原子を含有していればよい。また、末端に(メタ)アクリレート基を有していれば、光硬化させることも可能である。
【0120】
シリコーン系の樹脂において、上述のアルケニル基を有するジオルガノシロキサン、RSiO0.5及びSiO単位を有するMQレジン、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンに加えて、アミノ基、オキシラン基、オキセタン基、ポリエーテル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、メタクリル基、アクリル基、フェノール基、シラノール基、カルボン酸無水物基、アリール基、アラルキル基、アミド基、エステル基、ラクトン環から選ばれる基を有する変性シロキサンを添加することによって上述の塩との相溶性が高まる。
【0121】
なお、後述のように、生体接触層は生体電極組成物の硬化物である。硬化させることによって、肌と導電性基材の両方に対する生体接触層の接着性が良好なものとなる。なお、硬化手段としては、特に限定されず、一般的な手段を用いることができ、例えば、熱及び光のいずれか、又はその両方、あるいは酸又は塩基触媒による架橋反応等を用いることができる。架橋反応については、例えば、架橋反応ハンドブック 中山雍晴 丸善出版(2013年)第二章p51〜p371に記載の方法を適宜選択して行うことができる。
【0122】
アルケニル基を有するジオルガノシロキサンと、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、白金触媒による付加反応によって架橋させることができる。
【0123】
白金触媒としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物、白金−オレフィン錯体、白金−ビニル基含有シロキサン錯体等の白金系触媒、ロジウム錯体及びルテニウム錯体等の白金族金属系触媒などが挙げられる。また、これらの触媒をアルコール系、炭化水素系、シロキサン系溶剤に溶解・分散させたものを用いてもよい。
【0124】
なお、白金触媒の添加量は、樹脂100質量部に対して5〜2,000ppm、特には10〜500ppmの範囲とすることが好ましい。
【0125】
また、付加硬化型のシリコーン樹脂を用いる場合には、付加反応制御剤を添加してもよい。この付加反応制御剤は、溶液中及び塗膜形成後の加熱硬化前の低温環境下で、白金触媒が作用しないようにするためのクエンチャーとして添加するものである。具体的には、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサノール、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ブチン、3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ペンチン、3,5−ジメチル−3−トリメチルシロキシ−1−ヘキシン、1−エチニル−1−トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2−ジメチル−3−ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン等が挙げられる。
【0126】
付加反応制御剤の添加量は、樹脂100質量部に対して0〜10質量部、特に0.05〜3質量部の範囲とすることが好ましい。
【0127】
光硬化を行う方法としては、(メタ)アクリレート末端やオレフィン末端を有している樹脂を用いるか、末端が(メタ)アクリレート、オレフィンやチオール基になっている架橋剤を添加するとともに、光によってラジカルを発生させる光ラジカル発生剤を添加する方法や、オキシラン基、オキセタン基、ビニルエーテル基を有している樹脂や架橋剤を用い、光によって酸を発生させる光酸発生剤を添加する方法が挙げられる。
【0128】
光ラジカル発生剤としては、アセトフェノン、4,4’−ジメトキシベンジル、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、2−ベンゾイル安息香酸、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、4−ベンゾイル安息香酸、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2−ベンゾイル安息香酸メチル、2−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−ベンジル−2−(ジメチルアミノ)−4’−モルホリノブチロフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン、ジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(BAPO)、1,4−ジベンゾイルベンゼン、2−エチルアントラキノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2−ヒドロキシ−4’−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルプロピオフェノン、2−イソニトロソプロピオフェノン、2−フェニル−2−(p−トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノンを挙げることができる。
【0129】
熱分解型のラジカル発生剤を添加することによって硬化させることもできる。熱ラジカル発生剤としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレン酸)、2,2’−アゾビス(メチルプロピオンアミジン)塩酸、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]塩酸、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、ジメチル−2,2’−アゾビス(イソブチレート)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ベンゾイルパーオキシド、tert−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、ジ−tert−アミルパーオキシド、ジ−n−ブチルパーオキシド、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロプロネート)、ジクミルパーオキシド等を挙げることができる。
【0130】
光酸発生剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニルジアゾメタン、N−スルホニルオキシイミド、オキシム−O−スルホネート型酸発生剤等を挙げることができる。光酸発生剤の具体例としては、例えば、特開2008−111103号公報の段落[0122]〜[0142]、特開2009−080474号公報に記載されているものが挙げられる。
【0131】
なお、ラジカル発生剤や光酸発生剤の添加量は、樹脂100質量部に対して0.1〜50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0132】
これらの中でも、(B)成分の樹脂としては、RSiO(4−x)/2単位(Rは炭素数1〜10の置換又は非置換の一価炭化水素基、xは2.5〜3.5の範囲である。)及びSiO単位を有するシリコーン樹脂、アルケニル基を有するジオルガノシロキサン、並びにSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有するものが特に好ましい。
【0133】
[粘着性付与剤]
また、本発明の生体電極組成物には、生体に対する粘着性を付与するために、粘着性付与剤を添加してもよい。このような粘着性付与剤としては、例えば、シリコーンレジンや非架橋性のシロキサン、非架橋性のポリ(メタ)アクリレート、非架橋性のポリエーテル等を挙げることができる。
【0134】
[有機溶剤]
また、本発明の生体電極組成物には、有機溶剤を添加することができる。有機溶剤としては、具体的には、トルエン、キシレン、クメン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、スチレン、αメチルスチレン、ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、シメン、ジエチルベンゼン、2−エチル−p−キシレン、2−プロピルトルエン、3−プロピルトルエン、4−プロピルトルエン、1,2,3,5−テトラメチルトルエン、1,2,4,5−テトラメチルトルエン、テトラヒドロナフタレン、4−フェニル−1−ブテン、tert−アミルベンゼン、アミルベンゼン、2−tert−ブチルトルエン、3−tert−ブチルトルエン、4−tert−ブチルトルエン、5−イソプロピル−m−キシレン、3−メチルエチルベンゼン、tert−ブチル−3−エチルベンゼン、4−tert−ブチル−o−キシレン、5−tert−ブチル−m−キシレン、tert−ブチル−p−キシレン、1,2−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ジイソプロピルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、ジプロピルベンゼン、3,9−ドデカジイン、ペンタメチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、1,3,5−トリエチルベンゼン等の芳香族系炭化水素系溶剤、n−ヘプタン、イソヘプタン、3−メチルヘキサン、2,3−ジメチルペンタン、3−エチルペンタン、1,6−ヘプタジエン、5−メチル−1−ヘキシン、ノルボルナン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1−メチル−1,4−シクロヘキサジエン、1−ヘプチン、2−ヘプチン、シクロヘプタン、シクロヘプテン、1,3−ジメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、1−メチル−1−シクロヘキセン、3−メチル−1−シクロヘキセン、メチレンシクロヘキサン、4−メチル−1−シクロヘキセン、2−メチル−1−ヘキセン、2−メチル−2−ヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、n−オクタン、2,2−ジメチルヘキサン、2,3−ジメチルヘキサン、2,4−ジメチルヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン、3,3−ジメチルヘキサン、3,4−ジメチルヘキサン、3−エチル−2−メチルペンタン、3−エチル−3−メチルペンタン、2−メチルヘプタン、3−メチルヘプタン、4−メチルヘプタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2,2,4−トリメチルペンタン、シクロオクタン、シクロオクテン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、イソプロピルシクロペンタン、2,2−ジメチル−3−ヘキセン、2,4−ジメチル−1−ヘキセン、2,5−ジメチル−1−ヘキセン、2,5−ジメチル−2−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、2−エチル−1−ヘキセン、2−メチル−1−ヘプテン、1−オクテン、2−オクテン、3−オクテン、4−オクテン、1,7−オクタジエン、1−オクチン、2−オクチン、3−オクチン、4−オクチン、n−ノナン、2,3−ジメチルヘプタン、2,4−ジメチルヘプタン、2,5−ジメチルヘプタン、3,3−ジメチルヘプタン、3,4−ジメチルヘプタン、3,5−ジメチルヘプタン、4−エチルヘプタン、2−メチルオクタン、3−メチルオクタン、4−メチルオクタン、2,2,4,4−テトラメチルペンタン、2,2,4−トリメチルヘキサン、2,2,5−トリメチルヘキサン、2,2−ジメチル−3−ヘプテン、2,3−ジメチル−3−ヘプテン、2,4−ジメチル−1−ヘプテン、2,6−ジメチル−1−ヘプテン、2,6−ジメチル−3−ヘプテン、3,5−ジメチル−3−ヘプテン、2,4,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,5,5−トリメチル−1−ヘキセン、1−エチル−2−メチルシクロヘキサン、1−エチル−3−メチルシクロヘキサン、1−エチル−4−メチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、1,1,3−トリメチルシクロヘキサン、1,1,4−トリメチルシクロヘキサン、1,2,3−トリメチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルシクロヘキサン、アリルシクロヘキサン、ヒドリンダン、1,8−ノナジエン、1−ノニン、2−ノニン、3−ノニン、4−ノニン、1−ノネン、2−ノネン、3−ノネン、4―ノネン、n−デカン、3,3−ジメチルオクタン、3,5−ジメチルオクタン、4,4−ジメチルオクタン、3−エチル−3−メチルヘプタン、2−メチルノナン、3−メチルノナン、4−メチルノナン、tert−ブチルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、4−イソプロピル−1−メチルシクロヘキサン、ペンチルシクロペンタン、1,1,3,5−テトラメチルシクロヘキサン、シクロドデカン、1−デセン、2−デセン、3−デセン、4−デセン、5−デセン、1,9−デカジエン、デカヒドロナフタレン、1−デシン、2−デシン、3−デシン、4−デシン、5−デシン、1,5,9−デカトリエン、2,6−ジメチル−2,4,6−オクタトリエン、リモネン、ミルセン、1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエン、α−フェランドレン、ピネン、テルピネン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、5,6−ジヒドロジシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、1,4−デカジイン、1,5−デカジイン、1,9−デカジイン、2,8−デカジイン、4,6−デカジイン、n−ウンデカン、アミルシクロヘキサン、1−ウンデセン、1,10−ウンデカジエン、1−ウンデシン、3−ウンデシン、5−ウンデシン、トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデカ−4−エン、n−ドデカン、2−メチルウンデカン、3−メチルウンデカン、4−メチルウンデカン、5−メチルウンデカン、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン、1,3−ジメチルアダマンタン、1−エチルアダマンタン、1,5,9−シクロドデカトリエン、1,2,4−トリビニルシクロヘキサン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素系溶剤、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、メチルn−ペンチルケトン等のケトン系溶剤、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール等のアルコール系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジ−n−ペンチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジ−secブチルエーテル、ジ−sec−ペンチルエーテル、ジ−tert−アミルエーテル、ジ−n−ヘキシルエーテル、アニソール等のエーテル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert−ブチル、プロピオン酸tert−ブチル、プロピレングリコールモノtert−ブチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶剤などを挙げることができる。
【0135】
なお、有機溶剤の添加量は、樹脂100質量部に対して10〜50,000質量部の範囲とすることが好ましい。
【0136】
[カーボン材料]
本発明の生体電極組成物には、導電性を更に高めるために、導電性向上剤として、カーボン材料を添加することができる。カーボン材料としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維等を挙げることができる。カーボンナノチューブは単層、多層のいずれであってもよく、表面が有機基で修飾されていても構わない。カーボン材料の添加量は、樹脂100質量部に対して1〜50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0137】
[カーボン材料以外の導電性向上剤]
また、本発明の生体電極組成物には、カーボン材料以外の導電性向上剤を添加することもできる。具体的には、樹脂を金、銀、白金等の貴金属でコートした粒子や繊維、ナノワイヤー、あるいは、金、銀、白金等のナノ粒子、インジウムスズの酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、スズ酸化物、亜鉛酸化物等の金属酸化物の粒子などを挙げることができる。
【0138】
以上のように、本発明の生体電極組成物であれば、肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができ(即ち、導電性に優れ)、長期間肌に装着してもアレルギーを起こす恐れがなく(即ち、生体適合性に優れ)、軽量であり、低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極用の生体接触層を形成することができる生体電極組成物となる。また、カーボン材料を添加することによって一層導電性を向上させることができ、粘着性と伸縮性を有する樹脂と組み合わせることによって特に高粘着力で伸縮性が高い生体電極を製造することができる。更に、添加剤等により肌に対する伸縮性や粘着性を向上させることができ、樹脂の組成や生体接触層の厚さを適宜調節することで、伸縮性や粘着性を調整することもできる。
【0139】
<生体電極>
また、本発明では、導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極であって、前記生体接触層が、上述の本発明の生体電極組成物の硬化物である生体電極を提供する。
【0140】
以下、本発明の生体電極について、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0141】
図1は、本発明の生体電極の一例を示す概略断面図である。図1の生体電極1は、導電性基材2と該導電性基材2上に形成された生体接触層3とを有するものである。生体接触層3は、イオン性ポリマー(イオン性材料)4とカーボン材料5が樹脂6中に分散された層である。
【0142】
このような図1の生体電極1を使用する場合には、図2に示されるように、生体接触層3(即ち、イオン性ポリマー4とカーボン材料5が樹脂6中に分散された層)を生体7と接触させ、イオン性ポリマー4とカーボン材料5によって生体7から電気信号を取り出し、これを導電性基材2を介して、センサーデバイス等(不図示)まで伝導させる。このように、本発明の生体電極であれば、上述のイオン性ポリマー(イオン性材料)によって導電性及び生体適合性を両立でき、更に必要に応じてカーボン材料等の導電性向上剤を添加することで導電性を更に向上させることができ、粘着性も有しているために肌との接触面積が一定で、肌からの電気信号を安定的に高感度で得ることができる。
【0143】
以下、本発明の生体電極の各構成材料について、更に詳しく説明する。
【0144】
[導電性基材]
本発明の生体電極は、導電性基材を有するものである。この導電性基材は、通常、センサーデバイス等と電気的に接続されており、生体から生体接触層を介して取り出した電気信号をセンサーデバイス等まで伝導させる。
【0145】
導電性基材としては、導電性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、及び炭素から選ばれる1種以上を含むものとすることが好ましい。
【0146】
また、導電性基材は、特に限定されず、硬質な導電性基板等であってもよいし、フレキシブル性を有する導電性フィルムや導電性ペーストを表面にコーティングした布地や導電性ポリマーを練り込んだ布地であってもよい。導電性基材は平坦でも凹凸があっても金属線を織ったメッシュ状であってもよく、生体電極の用途等に応じて適宜選択すればよい。
【0147】
[生体接触層]
本発明の生体電極は、導電性基材上に形成された生体接触層を有するものである。この生体接触層は、生体電極を使用する際に、実際に生体と接触する部分であり、導電性及び粘着性を有する。生体接触層は、上述の本発明の生体電極組成物の硬化物であり、即ち、上述の(A)イオン性材料(塩)及び(B)樹脂、更には必要に応じてカーボン材料等の添加剤を含有する粘着性の樹脂層である。
【0148】
なお、生体接触層の粘着力としては、0.5N/25mm以上20N/25mm以下の範囲が好ましい。粘着力の測定方法は、JIS Z 0237に示される方法が一般的であり、基材としてはSUS(ステンレス鋼)のような金属基板やPET(ポリエチレンテレフタラート)基板を用いることができるが、人の肌を用いて測定することもできる。人の肌の表面エネルギーは、金属や各種プラスチックより低く、テフロン(登録商標)に近い低エネルギーであり、粘着しにくい性質である。
【0149】
生体電極の生体接触層の厚さは、1μm以上5mm以下が好ましく、2μm以上3mm以下がより好ましい。生体接触層が薄くなるほど粘着力は低下するが、フレキシブル性は向上し、軽くなって肌へのなじみが良くなる。粘着性や肌への風合いとの兼ね合いで生体接触層の厚さを選択することができる。
【0150】
また、本発明の生体電極では、従来の生体電極(例えば、特開2004−033468号公報に記載の生体電極)と同様、使用時に生体から生体電極が剥がれるのを防止するために、生体接触層上に別途粘着膜を設けてもよい。別途粘着膜を設ける場合には、アクリル型、ウレタン型、シリコーン型等の粘着膜材料を用いて粘着膜を形成すればよく、特にシリコーン型は酸素透過性が高いためこれを貼り付けたままの皮膚呼吸が可能であり、撥水性も高いため汗による粘着性の低下が少なく、更に、肌への刺激性が低いことから好適である。なお、本発明の生体電極では、上記のように、生体電極組成物に粘着性付与剤を添加したり、生体への粘着性が良好な樹脂を用いたりすることで、生体からの剥がれを防止することができるため、上記の別途設ける粘着膜は必ずしも設ける必要はない。
【0151】
本発明の生体電極をウェアラブルデバイスとして使用する際の、生体電極とセンサーデバイスの配線や、その他の部材については、特に限定されるものではなく、例えば、特開2004−033468号公報に記載のものを適用することができる。
【0152】
以上のように、本発明の生体電極であれば、上述の本発明の生体電極組成物の硬化物で生体接触層が形成されるため、肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができ(即ち、導電性に優れ)、長期間肌に装着してもアレルギーを起こす恐れがなく(即ち、生体適合性に優れ)、軽量であり、低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極となる。また、カーボン材料を添加することによって一層導電性を向上させることができ、粘着性と伸縮性を有する樹脂と組み合わせることによって特に高粘着力で伸縮性が高い生体電極を製造することができる。更に、添加剤等により肌に対する伸縮性や粘着性を向上させることができ、樹脂の組成や生体接触層の厚さを適宜調節することで、伸縮性や粘着性を調整することもできる。従って、このような本発明の生体電極であれば、医療用ウェアラブルデバイスに用いられる生体電極として、特に好適である。
【0153】
<生体電極の製造方法>
また、本発明では、導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極の製造方法であって、前記導電性基材上に、上述の本発明の生体電極組成物を塗布し、硬化させることで前記生体接触層を形成する生体電極の製造方法を提供する。
【0154】
なお、本発明の生体電極の製造方法に使用される導電性基材、生体電極組成物等は、上述のものと同様でよい。
【0155】
導電性基材上に生体電極組成物を塗布する方法は、特に限定されないが、例えばディップコート、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、フローコート、ドクターコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等の方法が好適である。
【0156】
樹脂の硬化方法は、特に限定されず、生体電極組成物に使用する(B)樹脂の種類によって適宜選択すればよいが、例えば、熱及び光のいずれか、又はこれらの両方で硬化させることが好ましい。また、上記の生体電極組成物に酸や塩基を発生させる触媒を添加しておいて、これによって架橋反応を発生させ、硬化させることもできる。
【0157】
なお、加熱する場合の温度は、特に限定されず、生体電極組成物に使用する(B)樹脂の種類によって適宜選択すればよいが、例えば50〜250℃程度が好ましい。
【0158】
また、加熱と光照射を組み合わせる場合は、加熱と光照射を同時に行ってもよいし、光照射後に加熱を行ってもよいし、加熱後に光照射を行ってもよい。また、塗膜後の加熱の前に溶剤を蒸発させる目的で風乾を行ってもよい。
【0159】
以上のように、本発明の生体電極の製造方法であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない本発明の生体電極を、低コストで容易に製造することができる。
【実施例】
【0160】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、「Me」はメチル基、「Vi」はビニル基を示す。
【0161】
生体電極組成物溶液にイオン性材料(導電性材料)として配合したイオン性ポリマー1〜12は、以下のようにして合成した。各モノマーの30質量%PGMEA溶液を反応容器に入れて混合し、反応容器を窒素雰囲気下−70℃まで冷却し、減圧脱気、窒素ブローを3回繰り返した。室温まで昇温後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)をモノマー全体1モルに対して0.01モル加え、60℃まで昇温後、15時間反応させた。得られたポリマーの組成は、溶剤を乾燥後、H−NMRにより確認した。また、得られたポリマーの分子量(Mw)及び分散度(Mw/Mn)は、溶剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により確認した。このようにして合成したイオン性ポリマー1〜12を以下に示す。
【0162】
イオン性ポリマー1
Mw=33,400
Mw/Mn=2.03
【化42】
【0163】
イオン性ポリマー2
Mw=21,700
Mw/Mn=1.91
【化43】
【0164】
イオン性ポリマー3
Mw=46,700
Mw/Mn=1.84
【化44】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0165】
イオン性ポリマー4
Mw=29,600
Mw/Mn=1.88
【化45】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0166】
イオン性ポリマー5
Mw=29,100
Mw/Mn=1.82
【化46】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0167】
イオン性ポリマー6
Mw=78,100
Mw/Mn=4.1
【化47】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0168】
イオン性ポリマー7
Mw=34,300
Mw/Mn=2.16
【化48】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0169】
イオン性ポリマー8
Mw=27,300
Mw/Mn=1.79
【化49】
【0170】
イオン性ポリマー9
Mw=36,300
Mw/Mn=2.10
【化50】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0171】
イオン性ポリマー10
Mw=43,300
Mw/Mn=1.98
【化51】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0172】
イオン性ポリマー11
Mw=43,300
Mw/Mn=1.98
【化52】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0173】
イオン性ポリマー12
Mw=49,800
Mw/Mn=1.88
【化53】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0174】
比較例の生体電極組成物溶液にイオン性材料として配合した比較塩1〜3を以下に示す。
【化54】
【0175】
生体電極組成物溶液にシリコーン系の樹脂として配合したシロキサン化合物1〜4を以下に示す。
(シロキサン化合物1)
30%トルエン溶液での粘度が27,000mPa・sであり、アルケニル基含有量が0.007モル/100gであり、分子鎖末端がSiMeVi基で封鎖されたビニル基含有ポリジメチルシロキサンをシロキサン化合物1とした。
(シロキサン化合物2)
MeSiO0.5単位及びSiO単位からなるMQレジンのポリシロキサン(MeSiO0.5単位/SiO単位=0.8)の60%トルエン溶液をシロキサン化合物2とした。
(シロキサン化合物3)
30%トルエン溶液での粘度が42,000mPa・sであり、アルケニル基含有量が0.007モル/100gであり、分子鎖末端がOHで封鎖されたビニル基含有ポリジメチルシロキサン40質量部、MeSiO0.5単位及びSiO単位からなるMQレジンのポリシロキサン(MeSiO0.5単位/SiO単位=0.8)の60%トルエン溶液100質量部、及びトルエン26.7質量部からなる溶液を乾留させながら4時間加熱後、冷却して、MQレジンにポリジメチルシロキサンを結合させたものをシロキサン化合物3とした。
(シロキサン化合物4)
メチルハイドロジェンシリコーンオイルとして、信越化学工業製 KF−99を用いた。
【0176】
また、シリコーン系の樹脂として、ポリエーテル型シリコーンオイルである側鎖ポリエーテル変性の信越化学工業製 KF−353を用いた。
【0177】
生体電極組成物溶液にアクリル系の樹脂として配合したアクリルポリマー1を以下に示す。
アクリルポリマー1
Mw=108,000
Mw/Mn=2.32
【化55】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0178】
生体電極組成物溶液にシリコーン系、アクリル系、あるいはウレタン系の樹脂として配合したシリコーンウレタンアクリレート1、2を以下に示す。
【化56】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0179】
生体電極組成物溶液に配合した有機溶剤を以下に示す。
PGMEA:プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート
PGME:プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル
【0180】
生体電極組成物溶液に添加剤として配合したラジカル発生剤、白金触媒、導電性向上剤(カーボンブラック、カーボンナノチューブ、金コート粒子、銀コート粒子、ITO粒子)を以下に示す。
ラジカル発生剤:和光純薬工業社製 V−601
白金触媒:信越化学工業製 CAT−PL−50T
カーボンブラック:デンカ社製 デンカブラックHS−100
多層カーボンナノチューブ:Sigma−Aldrich社製 直径110〜170nm、長さ5〜9μmのもの
金コート粒子:積水化学社製 ミクロパールAU(直径100μm)
銀コート粒子:三菱マテリアル社製 銀コート粉(直径30μm)
ITO粒子:三菱マテリアル社製 ITO粉(直径0.03μm)
【0181】
[実施例1〜16、比較例1〜5]
表1及び表2に記載の組成で、イオン性材料(塩)、樹脂、有機溶剤、及び添加剤(ラジカル発生剤、白金触媒、導電性向上剤)をブレンドし、生体電極組成物溶液(生体電極組成物溶液1〜16、比較生体電極組成物溶液1〜5)を調製した。
【0182】
【表1】
【0183】
【表2】
【0184】
(導電性評価)
直径3cm、厚さ0.2mmのアルミニウム製の円板の上にアプリケーターを用いて生体電極組成物溶液を塗布し、室温で6時間風乾した後、オーブンを用いて窒素雰囲気下120℃で30分間ベークして硬化させて、1つの生体電極組成物溶液につき生体電極を4枚作製した。このようにして得られた生体電極は、図3(a)、(b)に示されるように、一方の面には生体接触層3を有し、他方の面には導電性基材としてアルミニウム製の円板8を有するものであった。次に、図3(b)に示されるように、生体接触層で覆われていない側のアルミニウム製の円板8の表面に銅配線9を粘着テープで貼り付けて引き出し電極とし、これをインピーダンス測定装置に接続した。図4に示されるように、人の腕の肌と生体接触層側が接触するように生体電極1’を2枚貼り付けて、その間隔を15cmとした。ソーラトロン社製の交流インピーダンス測定装置SI1260を用い、周波数を変えながら初期インピーダンスを測定した。次に、残りの2枚の生体電極を純水中に1時間浸積し、水を乾燥させた後、上記と同様の方法で肌上のインピーダンスを測定した。周波数1,000Hzにおけるインピーダンスを表3に示す。
【0185】
(粘着性評価)
生体電極組成物溶液を、アプリケーターを用いて厚さ100μmのPEN(ポリエチレンナフタレート)基板上に塗布し、室温で6時間風乾後、オーブンを用いて窒素雰囲気下120℃で30分間ベークして硬化させて、粘着フィルムを作製した。この粘着フィルムから25mm幅のテープを切り取り、これをステンレス版(SUS304)に圧着させ、室温で20時間放置した後、引っ張り試験機を用い角度180度、300mm/分の速度で粘着フィルムから作製したテープをステンレス版から引きはがすのに要する力(N/25mm)を測定した。結果を表3に示す。
【0186】
(生体接触層の厚さ測定)
上記の導電性評価試験で作製した生体電極において、生体接触層の厚さをマイクロメーターを用いて測定した。結果を表3に示す。
【0187】
【表3】
【0188】
表3に示されるように、特定の構造を有する塩(イオン性材料)及び樹脂を配合した本発明の生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した実施例1〜16では、初期インピーダンスが低く、水に浸積し乾燥させた後も、大幅なインピーダンスの変化は起こらなかった。つまり、実施例1〜16では、初期の導電性が高く、水に濡れたり乾燥した場合にも導電性の大幅な低下が起こらない生体電極が得られた。また、このような実施例1〜16の生体電極は、従来の塩及び樹脂を配合した比較例1〜3の生体電極と同程度の良好な粘着力を有し、軽量であり、生体適合性に優れ、低コストで製造可能であった。
【0189】
一方、従来の塩及び樹脂を配合した生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した比較例1〜3では、初期インピーダンスは低いものの、水に浸積し乾燥させた後は、桁が変わるほどの大幅なインピーダンスの増加が起こっていた。つまり、比較例1〜3では、初期の導電性は高いものの、水に濡れたり乾燥した場合には導電性が大幅に低下してしまう生体電極しか得られなかった。
【0190】
また、塩を配合せず樹脂を配合した生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した比較例4では、塩を含まないため、水に浸積し乾燥させた後も、桁が変わるほどの大幅なインピーダンスの増加は起こらなかったが、初期インピーダンスが高かった。つまり、比較例4では、初期の導電性の低い生体電極しか得られなかった。
【0191】
また、樹脂を配合せず塩を配合した生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した比較例5では、実施例と同様の塩を含むため、水に浸積し乾燥させた後も、桁が変わるほどの大幅なインピーダンスの増加は起こらなかったが、粘着性の樹脂を含まないため、粘着力が全くなく、これによって肌とのインピーダンス(初期インピーダンス)が高い結果となった。つまり、比較例5では、初期の導電性の低い生体電極しか得られなかった。
【0192】
以上のことから、本発明の生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した生体電極であれば、導電性、生体適合性、導電性基材に対する接着性に優れ、イオン性材料の保持力に優れるため水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがなく、軽量であり、また低コストで製造できることが明らかとなった。
【0193】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0194】
1、1’…生体電極、 2…導電性基材、 3…生体接触層、
4…イオン性ポリマー(イオン性材料)、 5…カーボン材料、 6…樹脂、
7…生体、 8…アルミニウム製の円板、 9…銅配線。
図1
図2
図3
図4